JP2009191322A - 浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ベイナイトを含有していても、従来の鋼に比して耐粗粒化抵抗に優れたはだ焼鋼からなる鋼材を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.10〜0.35%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.60%未満、P:0.030%以下、S:0.10%以下、Cr:1.5〜3.0%、Al:0.005〜0.050%、O:0.0030%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上である、熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼。
【選択図】 なし
【解決手段】 質量%で、C:0.10〜0.35%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.60%未満、P:0.030%以下、S:0.10%以下、Cr:1.5〜3.0%、Al:0.005〜0.050%、O:0.0030%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上である、熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼。
【選択図】 なし
Description
この発明は、はだ焼鋼から浸炭焼入・焼戻し処理を施して形成する浸炭部品、例えば、自動車、建設機械、工作機械などのギア、CVJやシャフトなどの部品に適用するはだ焼鋼の成分に関する。
従来では、以下に例示するように、結晶粒粗大化の原因となるベイナイトの量を可能な限り少なくすることで、鋼の結晶粒粗大化温度を向上させる技術が開示されている。
従来の技術において、鋼の主組織としてフェライト−パーライト組織を想定し、この主組織の形成への影響が大きいMn量を特に鋼成分として規制した発明が提案されている。一方、この提案の発明では、ベイナイトが混在すると、結晶粒が粗大化し易くなることが指摘されている。さらに、その実施例で開示されているように、熱間鍛造後の冷却速度が0.7℃/sの徐冷であるため、ベイナイトはほとんど生成していない(例えば、特許文献1参照。)。
さらに、結晶粒粗大化抑制に有効なAlNやTi系析出物の量の制御とともに、結晶粒粗大化を生じやすくするベイナイト量について、熱間圧延後のミクロ組織に占めるベイナイト量を30%以下にすることを規定し、ベイナイト量の規制のために熱間圧延後800℃から500℃の範囲を1℃/sec以下で徐冷する発明が提示されている(例えば、特許文献2参照。)。
さらに、結晶粒粗大化抑制に有効なTi系ないしNb系析出物を規定量以上に析出させるとともに、熱間鍛造後から500℃までを2℃/sec以下の冷却速度で冷却することで、熱間鍛造後の組織を5%以下のベイナイト組織と残部のフェライト−パーライト組織からなる鋼が提示されている(例えば、特許文献3参照。)。
本発明が解決しようとする課題は、従来の鋼に比して、ベイナイトを含有していても耐粗粒化抵抗に優れたはだ焼鋼からなる鋼材を提供することである。
従来であれば、はだ焼鋼の耐粗粒化特性の改善のために、熱間鍛造後に焼ならし工程を追加することにより鋼中のベイナイト量を軽減する、あるいは熱間鍛造後の冷却速度を制御することにより、ベイナイト生成を抑制するといった付帯的な処置を取っていた。しかし、鋼材が熱間鍛造後にベイナイト組織を含有していても、なお、耐粗粒化特性に優れた鋼であれば、上記のベイナイト量を抑制するといった付帯的な処置を省略ないし緩和することが可能であり、部品製造の工期短縮やコストダウンを可能とすることができることを見出し、本発明の手段としたものである。すなわち、質量%で、Mn<0.60%、Cr≧1.5%に規制し、さらに質量%比でMn/Cr<0.35とし、ベイナイト組織分率を20%以上に規制することにより、従来鋼よりも耐粗粒化抵抗に優れたすなわち耐粗粒化特性に優れた鋼材を得ることができることを発明者らは見出し、本発明の手段の発明としたものである。
すなわち、上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、質量%で、C:0.10〜0.35%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.60%未満、P:0.030%以下、S:0.10%以下、Cr:1.5〜3.0%、Al:0.005〜0.050%、O:0.0030%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼である。
請求項2の発明では、質量%で、請求項1の手段の化学成分に加えて、Ni:0.30〜4.0%、Mo:0.04〜2.0%のいずれか1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼である。
請求項3の発明では、質量%で、請求項1または請求項2の手段の化学成分に加えて、V:0.02〜0.50%、Nb:0.02〜0.50%のいずれか1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼である。
請求項4の発明では、質量%で、請求項1または請求項2の手段の化学成分に加えて、Ti:0.05〜0.20%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼である。
請求項5の発明では、質量%で、請求項1〜請求項3のいずれか1項の手段の化学成分に加えて、Ti:0.050%未満、B:0.0010〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼である。
請求項6の発明では、質量%で、請求項4の手段の化学成分に加えて、B:0.0010〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼である。
上記の発明の手段における鋼の化学成分を限定し、[Mn/Cr]比およびベイナイト組織分率を限定した理由を以下に説明する。なお、%は質量%で示す。
C:0.10〜0.35%、望ましくは0.10〜0.25%
Cは機械構造用部品として鋼材の浸炭処理後の芯部強度を確保するために必要な元素である。しかし、Cが0.10%未満では、その効果は十分に得られず、0.35%を超えると加工性を低下し、かつ、靱性を低下させる。そこでCは0.10〜0.35%、望ましくは0.10〜0.25%とする。
Cは機械構造用部品として鋼材の浸炭処理後の芯部強度を確保するために必要な元素である。しかし、Cが0.10%未満では、その効果は十分に得られず、0.35%を超えると加工性を低下し、かつ、靱性を低下させる。そこでCは0.10〜0.35%、望ましくは0.10〜0.25%とする。
S1:0.05〜2.0%、望ましくは0.05〜1.0%
Siは脱酸に必要な元素である。しかし、Siが0.05%未満では脱酸が十分に得られず、2.0%を超えると加工性を低下させる。そこでSiは0.05〜2.0%とし、望ましくは0.05〜1.0%とする。
Siは脱酸に必要な元素である。しかし、Siが0.05%未満では脱酸が十分に得られず、2.0%を超えると加工性を低下させる。そこでSiは0.05〜2.0%とし、望ましくは0.05〜1.0%とする。
Mn:0.6%未満
Mnは焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、本発明の主眼であるベイナイト組織を含む鋼を浸炭する場合には、Mnは浸炭初期の結晶粒径分布の不均一をもたらして、耐粗粒化特性を低下させるため、その量を0.6%未満に規制する。
Mnは焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、本発明の主眼であるベイナイト組織を含む鋼を浸炭する場合には、Mnは浸炭初期の結晶粒径分布の不均一をもたらして、耐粗粒化特性を低下させるため、その量を0.6%未満に規制する。
P:≦0.030%
Pはスクラップから含有される不可避な元素である。しかし、Pはオーステナイト粒界に偏析して衝撃強度や曲げ強度などの靱性を低下する。そこでPは0.030%以下とする。
Pはスクラップから含有される不可避な元素である。しかし、Pはオーステナイト粒界に偏析して衝撃強度や曲げ強度などの靱性を低下する。そこでPは0.030%以下とする。
S:≦0.10%
Sは被削性を向上させる元素である。しかし、非金属介在物であるMnSを生成して横方向の靱性および疲労強度を低下する。そこでSは0.10%以下とする。
Sは被削性を向上させる元素である。しかし、非金属介在物であるMnSを生成して横方向の靱性および疲労強度を低下する。そこでSは0.10%以下とする。
Cr:1.5〜3.0%、望ましくは、1.8〜2.5%、さらに望ましくは2.0〜2.5%
Crは焼入性を確保するために必要な元素であるとともに、ベイナイト組織を含む鋼を浸炭する場合に、浸炭初期の結晶粒径分布を均一なものとする作用を有し、耐粗粒化特性を改善する効果がある。この効果を得るためにはCrは、1.5%以上必要である。一方、Crは過剰に添加すると加工性を損ない、また、浸炭性を阻害するので3.0%以下とする。そこで、Crは1.5〜3.0%、望ましくは、1.8〜2.5%、さらに望ましくは2.0〜2.5%とする。
Crは焼入性を確保するために必要な元素であるとともに、ベイナイト組織を含む鋼を浸炭する場合に、浸炭初期の結晶粒径分布を均一なものとする作用を有し、耐粗粒化特性を改善する効果がある。この効果を得るためにはCrは、1.5%以上必要である。一方、Crは過剰に添加すると加工性を損ない、また、浸炭性を阻害するので3.0%以下とする。そこで、Crは1.5〜3.0%、望ましくは、1.8〜2.5%、さらに望ましくは2.0〜2.5%とする。
Ni:0.30〜4.00%
Niは焼入性および靱性を向上させる元素である。しかし、Niは4.0%を超えて含有する加工性を著しく低下させ、かつ、コストアップとなる。そこでNiは4.0%以下とする。
Niは焼入性および靱性を向上させる元素である。しかし、Niは4.0%を超えて含有する加工性を著しく低下させ、かつ、コストアップとなる。そこでNiは4.0%以下とする。
Mo:0.04〜2.0%
Moは焼入性および靱性を向上させる元素である。しかし、Moは2.0%を超えて含有すると加工性を低下させる。そこで、Moは2.0%以下とする。
Moは焼入性および靱性を向上させる元素である。しかし、Moは2.0%を超えて含有すると加工性を低下させる。そこで、Moは2.0%以下とする。
Al:0.005〜0.050%、望ましくは0.015〜0.050%
Alは脱酸材として使用される元素であり、また後述のようにNと結合してAlNとして析出し、結晶粒粗大化抑制効果をもたらす。この効果を得るため、Alは0.005%以上を添加する。一方、Alは0.050%を超えるとアルミナ系酸化物が増加し、疲労特性および加工性を低下する。そこで、Alは0.005〜0.050%とし、望ましくは0.015〜0.050%とする。
Alは脱酸材として使用される元素であり、また後述のようにNと結合してAlNとして析出し、結晶粒粗大化抑制効果をもたらす。この効果を得るため、Alは0.005%以上を添加する。一方、Alは0.050%を超えるとアルミナ系酸化物が増加し、疲労特性および加工性を低下する。そこで、Alは0.005〜0.050%とし、望ましくは0.015〜0.050%とする。
O≦0.0030%、望ましくは≦0.0020%
Oは不可避的に含有される元素である。しかし、Oが0.0030%を超えて含有されると、酸化物の増加による加工性や疲労強度の低下を招く。そこでOは0.0030%以下とし、望ましくは0.0020%以下とする。
Oは不可避的に含有される元素である。しかし、Oが0.0030%を超えて含有されると、酸化物の増加による加工性や疲労強度の低下を招く。そこでOは0.0030%以下とし、望ましくは0.0020%以下とする。
N:0.010〜0.030%、望ましくは0.010〜0.025%
Nは鋼中でAlNやNb窒化物として微細析出し、結晶粒粗大化防止効果を有する。しかし、Nが0.010%未満ではその効果は小さく、0.030%を超えると窒化物が増加し、疲労強度や加工性が低下する。そこで、請求項1〜3の発明では、Nは0.010〜0.030%とし、望ましくは0.010〜0.025%とする。
Nは鋼中でAlNやNb窒化物として微細析出し、結晶粒粗大化防止効果を有する。しかし、Nが0.010%未満ではその効果は小さく、0.030%を超えると窒化物が増加し、疲労強度や加工性が低下する。そこで、請求項1〜3の発明では、Nは0.010〜0.030%とし、望ましくは0.010〜0.025%とする。
N:0.010%未満、望ましくは0.005%以下
請求項4に係る発明の鋼材では、TiNが過剰に生成して加工性や疲労強度を損なう。そこで、請求項4の発明では、Nは0.010%未満、望ましくは0.005%以下とする。また、Bを含有する鋼材では、Nが0.010%以上含有されると、化合物のBNが生成して固溶Bが減少し、焼入性の向上効果が阻害される。そこで、Bを含有する請求項5および請求項6の発明では、Nは0.010%未満とする。
請求項4に係る発明の鋼材では、TiNが過剰に生成して加工性や疲労強度を損なう。そこで、請求項4の発明では、Nは0.010%未満、望ましくは0.005%以下とする。また、Bを含有する鋼材では、Nが0.010%以上含有されると、化合物のBNが生成して固溶Bが減少し、焼入性の向上効果が阻害される。そこで、Bを含有する請求項5および請求項6の発明では、Nは0.010%未満とする。
V:0.02〜0.50%、望ましくは0.05〜0.35%
Vは炭化物を形成し、Ti同様にオーステナイト結晶粒度の粗大化を抑制する効果を有する。特に鋼中に微細に分散したナノオーダーのVCが結晶粒の成長を抑制する。また、Vを含有することにより熱間鍛造後のミクロ組織を微細化するという好ましい効果を有する。Vが0.02%未満ではその効果が得られず、0.50%を超えると析出物の量が過剰となり加工性を低下する。そこで、Vは0.02〜0.50%、望ましくは0.05〜0.35%とする。
Vは炭化物を形成し、Ti同様にオーステナイト結晶粒度の粗大化を抑制する効果を有する。特に鋼中に微細に分散したナノオーダーのVCが結晶粒の成長を抑制する。また、Vを含有することにより熱間鍛造後のミクロ組織を微細化するという好ましい効果を有する。Vが0.02%未満ではその効果が得られず、0.50%を超えると析出物の量が過剰となり加工性を低下する。そこで、Vは0.02〜0.50%、望ましくは0.05〜0.35%とする。
Nb:0.02〜0.50%、望ましくは0.02〜0.20%
Nbは炭化物あるいは窒化物を形成し、Ti同様にオーステナイト結晶粒度の粗大化を抑制する効果を有する。特に鋼中に微細に分散したナノオーダーのNbCが結晶粒の成長を抑制する。また、NbもVと同様に熱間鍛造後のミクロ組織が微細化する効果がある。Nbが0.02%未満ではその効果が得られず、0.50%を超えると析出物の量が過剰となり加工性を低下する。そこで、Nbは0.02〜0.50%、望ましくは0.02〜0.20%とする。
Nbは炭化物あるいは窒化物を形成し、Ti同様にオーステナイト結晶粒度の粗大化を抑制する効果を有する。特に鋼中に微細に分散したナノオーダーのNbCが結晶粒の成長を抑制する。また、NbもVと同様に熱間鍛造後のミクロ組織が微細化する効果がある。Nbが0.02%未満ではその効果が得られず、0.50%を超えると析出物の量が過剰となり加工性を低下する。そこで、Nbは0.02〜0.50%、望ましくは0.02〜0.20%とする。
Ti:0.050〜0.20%、望ましくは0.10〜0.20%
Tiは鋼中のfree−Nを固定し、Bの焼入性の効果を向上させるとともに、Ti炭化物、Tiを含有する複合炭化物、Ti窒化物を微細に析出させることによって、AlNに代って浸炭時のオーステナイト結晶粒度の粗大化を抑制するために必要な元素である。特に、鋼中に微細分散したナノオーダーのTiCが結晶粒の成長を抑制する。また、VやNbと同様に熱間鍛造後のミクロ組織を微細にする効果を有する。Tiが0.050%未満ではこれらの効果は十分でなく、0.10%以上が望ましい。しかし、0.20%を超えると析出物の量が過剰となり加工性を低下する。そこで、請求項4および請求項6に記載の発明ではTiは0.050〜0.20%、望ましくは0.10〜0.20%とする。
Tiは鋼中のfree−Nを固定し、Bの焼入性の効果を向上させるとともに、Ti炭化物、Tiを含有する複合炭化物、Ti窒化物を微細に析出させることによって、AlNに代って浸炭時のオーステナイト結晶粒度の粗大化を抑制するために必要な元素である。特に、鋼中に微細分散したナノオーダーのTiCが結晶粒の成長を抑制する。また、VやNbと同様に熱間鍛造後のミクロ組織を微細にする効果を有する。Tiが0.050%未満ではこれらの効果は十分でなく、0.10%以上が望ましい。しかし、0.20%を超えると析出物の量が過剰となり加工性を低下する。そこで、請求項4および請求項6に記載の発明ではTiは0.050〜0.20%、望ましくは0.10〜0.20%とする。
Ti:0.050%未満
請求項5の発明のようにBを添加する鋼材では、前述した化合物BNの生成にともなう固溶Bの減少によって焼入性が低下することを避けるため、Nを0.010%未満に規制することに加えて、Bよりも優先的にNと化合しやすいTiを添加すると良い。そこで、請求項5の発明では、Tiを0.050%未満添加する。
請求項5の発明のようにBを添加する鋼材では、前述した化合物BNの生成にともなう固溶Bの減少によって焼入性が低下することを避けるため、Nを0.010%未満に規制することに加えて、Bよりも優先的にNと化合しやすいTiを添加すると良い。そこで、請求項5の発明では、Tiを0.050%未満添加する。
B:0.0010〜0.0050%
Bは極少量の含有によって鋼の焼入性を著しく向上させる元素で選択的に含有される。しかし、0.0010%未満では焼入性の向上効果が小さく、0.0050%を超えると強度を低下する。そこで、請求項5および請求項6に記載の発明ではBは0.0010〜0.0050%とする。
Bは極少量の含有によって鋼の焼入性を著しく向上させる元素で選択的に含有される。しかし、0.0010%未満では焼入性の向上効果が小さく、0.0050%を超えると強度を低下する。そこで、請求項5および請求項6に記載の発明ではBは0.0010〜0.0050%とする。
質量%比で[Mn/Cr]<0.35、望ましくは[Mn/Cr]<0.30
本発明において、ベイナイト組織を含む鋼を浸炭する場合には、浸炭温度への昇温中に、より高温でオーステナイトを析出させる必要がある。これにより、オーステナイト化完了後の結晶粒径(浸炭初期の結晶粒径に該当する)が均一なものとなり、耐粗粒化特性が向上する。オーステナイトの析出がより高温で起こるようにするためには、質量%比で[Mn/Cr]<0.35を満足する必要がある。望ましくは[Mn/Cr]<0.30未満を満足することである。一方、[Mn/Cr]が0.35以上の場合、浸炭温度への昇温中にオーステナイトが低温から析出し、かつ、昇温にともなって段階的にオーステナイトが析出するため、オーステナイト化完了後の結晶粒径が不均一なものとなり、その結果、結晶粒粗大化が起こりやすくなる。
本発明において、ベイナイト組織を含む鋼を浸炭する場合には、浸炭温度への昇温中に、より高温でオーステナイトを析出させる必要がある。これにより、オーステナイト化完了後の結晶粒径(浸炭初期の結晶粒径に該当する)が均一なものとなり、耐粗粒化特性が向上する。オーステナイトの析出がより高温で起こるようにするためには、質量%比で[Mn/Cr]<0.35を満足する必要がある。望ましくは[Mn/Cr]<0.30未満を満足することである。一方、[Mn/Cr]が0.35以上の場合、浸炭温度への昇温中にオーステナイトが低温から析出し、かつ、昇温にともなって段階的にオーステナイトが析出するため、オーステナイト化完了後の結晶粒径が不均一なものとなり、その結果、結晶粒粗大化が起こりやすくなる。
ベイナイト含有率を20%以上、望ましくは30%以上、さらに望ましくは35%以上
本発明の化学成分の範囲に規定した鋼は、ベイナイト含有率が高い場合にも耐粗粒化特性に優れている。通常、ベイナイト組織を含む鋼を浸炭する場合には、昇温中の段階的なオーステナイト析出を経由するために、オーステナイト化完了後の結晶粒径が不均一になることを回避しがたい。一方、本発明の鋼はMn量およびCr量、ならびに「Mn/Cr」比の規制により、ベイナイト組織を含む場合であっても、上述のごとく均一なオーステナイト形成が促進される。したがって、従来の発明のように付帯的な処置によりベイナイト生成量を低減しなくとも、浸炭処理時の結晶粒粗大化が抑制できる。従来の発明に対して本発明鋼の優れた効果を得るためには、ベイナイト含有率が少なくとも20%以上とされる必要があり、望ましくは30%以上とされ、さらに望ましくは35%以上とされる。
本発明の化学成分の範囲に規定した鋼は、ベイナイト含有率が高い場合にも耐粗粒化特性に優れている。通常、ベイナイト組織を含む鋼を浸炭する場合には、昇温中の段階的なオーステナイト析出を経由するために、オーステナイト化完了後の結晶粒径が不均一になることを回避しがたい。一方、本発明の鋼はMn量およびCr量、ならびに「Mn/Cr」比の規制により、ベイナイト組織を含む場合であっても、上述のごとく均一なオーステナイト形成が促進される。したがって、従来の発明のように付帯的な処置によりベイナイト生成量を低減しなくとも、浸炭処理時の結晶粒粗大化が抑制できる。従来の発明に対して本発明鋼の優れた効果を得るためには、ベイナイト含有率が少なくとも20%以上とされる必要があり、望ましくは30%以上とされ、さらに望ましくは35%以上とされる。
本発明の効果は、上記の本発明の手段とすることで、ベイナイト組織分率が20%以上でありながら、熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても、より高温度まで結晶粒粗大化を抑制することができる耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼が得られるものである。
本発明を実施するための最良の形態について、表を参照して以下に説明する。表1に示す化学成分の鋼を溶製する。
先ず、100kgVIM(真空誘導溶解)炉で、表1に示す各No.1〜18の発明鋼およびNo.19〜31の比較鋼を溶解した後、インゴットに鋳造した。その後、これらのインゴットを1250℃に5時間加熱する固溶化処理を実施した後、直径65mmの丸棒に鍛伸した。次いで、この直径65mmの丸棒からφ8mmで長さ12mmの加工フォーマスター試験片を割り出して旋削により作製した。この加工フォーマスター試験片を用いて、1200℃で10分間、加熱保持した後、1100℃で加工率70%の熱間据込み加工を実施した。この熱間据込み加工した試験片を冷却速度5℃/sで200℃まで冷却した。これにより、浸炭前のミクロ組織としてベイナイトとマルテンサイトの混合組織が得られた。なお、この浸炭前のミクロ組織の種類は、その後に浸炭する際の浸炭初期の結晶粒径に強く影響を及ぼし、従来は浸炭前のミクロ組織中のベイナイトを抑制することに主眼が置かれていた。
次に、上記の熱間据込みによる加工後の各試験片を850℃で30分間保持した後に水冷し、水冷した試料を研磨および腐食して平均旧オーステナイト粒径を測定し、これらを表2に示した。これらは浸炭初期の平均結晶粒径の指標である。また、熱間鍛造後の試験片を用いて、925℃以上における25℃刻みの任意の温度で、6時間保持する浸炭処理を模擬した熱処理を行った。これらの試料を研磨、腐食して結晶粒粗大化の有無を確認して、結晶粒粗大化温度を同じく表2に示した。この際、観察視野内にJIS G O552に準じた結晶粒度判定において、結晶粒度No.3と同等以上の粗大な旧オーステナイト粒が観察された温度を結晶粒粗大化温度とした。
表2に示すとおり、発明鋼と比較鋼はいずれも熱間加工後にベイナイトを20%以上含有していた。また、発明鋼と比較鋼で浸炭初期の平均結晶粒径には大きな違いが見られないが(表2参照)、発明鋼は比較鋼に比べて結晶粒径の均一性が高かった。結晶粒粗大化はこの浸炭初期の平均結晶粒径が大きいほど、また、結晶粒径の均一性が高いほど起こり難いとされている。ところで発明鋼は特に結晶粒径が比較鋼に比べて均一になる効果によって、結晶粒粗大化がより高温まで発生せず、耐粗粒化特性に優れていることが分かる。この発明の効果は、V、Ti、Nbなど結晶粒の成長抑制に有効な元素の添加に関わらずに得ることができる。
なお、本発明の表に発明鋼で示す実施例は、発明の効果を示す一例であり、ミクロ組織がベイナイト−マルテンサイト組織の場合に限定されるものではなく、フェライト−ベイナイト組織や、フェライト−パーライト−ベイナイト組織など、ベイナイト組織を含むミクロ組織を有している場合に同様の効果が得られるものである。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.10〜0.35%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.60%未満、P:0.030%以下、S:0.10%以下、Cr:1.5〜3.0%、Al:0.005〜0.050%、O:0.0030%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼。
- 質量%で、請求項1に記載の化学成分に加えて、Ni:0.30〜4.0%、Mo:0.04〜2.0%のいずれか1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼。
- 質量%で、請求項1または請求項2に記載の化学成分に加えて、V:0.02〜0.50%、Nb:0.02〜0.50%のいずれか1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼。
- 質量%で、請求項1または請求項2に記載の化学成分に加えて、Ti:0.05〜0.20%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼。
- 質量%で、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の化学成分に加えて、Ti:0.050%未満、B:0.0010〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼。
- 質量%で、請求項4に記載の化学成分に加えて、B:0.0010〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、質量%比で[Mn/Cr]が0.35未満で、ベイナイト組織分率が20%以上であることを特徴とする熱間鍛造後に浸炭熱処理を行っても結晶粒粗大化を抑制することができる浸炭部品用の耐粗粒化特性に優れたはだ焼鋼。
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