JP2000174351A - 圧電体素子、インクジェット式記録ヘッドおよびそれらの製造方法 - Google Patents

圧電体素子、インクジェット式記録ヘッドおよびそれらの製造方法

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JP2000174351A
JP2000174351A JP34157198A JP34157198A JP2000174351A JP 2000174351 A JP2000174351 A JP 2000174351A JP 34157198 A JP34157198 A JP 34157198A JP 34157198 A JP34157198 A JP 34157198A JP 2000174351 A JP2000174351 A JP 2000174351A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 クラックを生じない圧電体素子の結晶構造と
製造方法を提供する。 【解決手段】 圧電体薄膜層(41)をゾルから形成する際
に、キレート剤としてモノエタノールアミンを使用す
る。これにより金属アルコキシドの加水分解が抑制さ
れ、微結晶粒(44)が多数生じる。微結晶粒が存在すると
熱処理時に発生する応力が緩和されるために、クラック
を発生すること無く柱状結晶(43)が成長し、厚い圧電体
薄膜層(41)を形成可能である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インクジェット式
記録ヘッド等に用いられる圧電体素子に係り、特に、金
属アルコキシド溶液からなるゾルを出発原料とし、この
出発原料から成膜される圧電体薄膜における結晶の特徴
を明らかにし圧電特性のよい圧電体素子を提供するもの
である。
【0002】
【従来の技術】圧電体素子は、電気機械変換機能を呈す
る素子であり、強誘電性あるいは常誘電性の結晶化した
圧電性セラミックスにより構成されている。特開平3−
69512号公報や米国特許第4,830,996号等
には、圧電性セラミックス材料を溶媒に溶解させて金属
アルコキシド溶液を製造し、ゾル・ゲル法によりこの溶
液を塗布し熱処理を加えることによって圧電体素子を製
造する技術が開示されている。金属アルコキシド溶液が
結晶化するとペロブスカイト結晶構造が形成されるが、
その結晶面の配向性によって圧電体素子の特性が変わ
る。結晶面の配向性は様々な要因によって決定される。
【0003】全体的な結晶の成長としては、結晶時に下
部電極にある核から結晶が成長し、成長した結晶粒同士
が接すると粒界を形成しその後はその厚み方向に柱状に
成長していくことになる。このため、従来品の圧電体素
子は、ペロブスカイト結晶で構成された柱状結晶の束か
らなる均一な結晶構造をしていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来品
の圧電体素子の製造方法では、厚みを厚くしすぎると、
製造時の応力により圧電体薄膜にクラックが容易に発生
するという問題があった。
【0005】本願発明者は上記事情に鑑み、金属アルコ
キシド溶液における溶媒の条件について実験を繰り返し
たところ、特定の溶媒を使用し特定の条件で結晶化させ
ると、応力によるクラックが発生しにくいことを発見し
た。
【0006】そこで、本発明は、厚膜化が可能な結晶構
造を備えた圧電体素子を提供することを第1の課題とす
る。
【0007】本発明は、厚膜化が可能な結晶構造を備え
た圧電体素子を利用したインクジェット式記録ヘッドを
提供することを第2の課題とする。
【0008】本発明は、製造時にクラックが発生しにく
い圧電体素子の製造方法を提供することを第3の課題と
する。
【0009】本発明は、製造時に圧電体素子にクラック
を発生させないインクジェット式記録ヘッドの製造方法
を提供することを第4の課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記第1の課題を解決す
る発明は、下部電極および上部電極に挟持された圧電体
薄膜を備える圧電体素子において、圧電体薄膜は、微結
晶粒を包含する柱状結晶により構成されていることを特
徴とする圧電体素子である。なお圧電体素子は圧電アク
チュエータともいう。
【0011】ここで例えば柱状結晶の径は、0.1乃至
0.5μmの範囲である。さらに微結晶粒の平均粒径
は、50nm以下の範囲である。また微結晶粒と微結晶
粒以外の部分とは同一の組成である。
【0012】また例えば圧電体薄膜を構成する金属は、
ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3
PZT)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La)TiO
3)、ジルコニウム酸鉛ランタン((Pb,La)Zr
3)、ジルコニウム酸チタン酸鉛ランタン((Pb,
La)(Zr,Ti)O3:PLZT)またはマグネシ
ウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Mg、
Nb)(Zr、Ti)O3:PMN−PZT)により構
成される群から選ばれる一種の圧電性セラミックスを含
む。
【0013】その結果圧電体薄膜は、薄膜全体が1.0
μm以上の厚みで形成されている。
【0014】上記第2の課題を解決する発明は、本発明
の圧電体素子を備えたインクジェット式記録ヘッドにお
いて、圧力室が形成された圧力室基板と、圧力室の一方
の面を閉鎖する振動板と、振動板の圧力室に対応する位
置に設けられ、当該圧力室に体積変化を及ぼすことが可
能に構成された圧電体素子と、を備えたことを特徴とす
るインクジェット式記録ヘッドである。
【0015】上記第3の課題を解決する発明は、下部電
極および上部電極の間に、電気機械変換作用を示す圧電
体薄膜を挟持させた圧電体素子の製造方法において、下
部電極上に、金属アルコキシド溶液に、キレート剤とし
てモノエタノールアミンを含むゾルを使用して圧電体薄
膜を形成することを特徴とする圧電体素子の製造方法で
ある。圧電体薄膜の形成方法としては、ゾルゲル(sol-
gel)法やMOD(Metal-Organic Deposition)法が使
用可能である。
【0016】ここで上記金属アルコキシド溶液を構成す
る金属の種類単位にその金属のモル数にその金属の電荷
数を乗じた値をゾルを形成する総ての金属について加算
した総和に対し、モノエタノールアミンのモル数を、5
0%以上100%以下となるように調整してゾルを形成
することが好ましい。すなわち、モノエタノールアミン
のモル数を[MEA]とし、アルコキシド金属をMeとし、
nをこのアルコキシド金属に配位する基の数(電荷数)
とし、iをアルコキシド金属を特定する序数とすると、
以下の式が成り立つことを意味する。
【0017】 0.5 ≦ [MEA]/Σ[Me(OR)n]i×ni ≦ 1 また脱脂温度を400℃以上で500℃以下の温度に設
定して圧電体薄膜の脱脂を行うことが好ましい。
【0018】また金属アルコキシド溶液として、ジルコ
ニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3:PZ
T)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La)Ti
3)、ジルコニウム酸鉛ランタン((Pb,La)Z
rO3)、ジルコニウム酸チタン酸鉛ランタン((P
b,La)(Zr,Ti)O3:PLZT)またはマグ
ネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(M
g、Nb)(Zr、Ti)O3:PMN−PZT)によ
り構成される群から選ばれる一種の圧電性セラミックス
の出発原料となる有機金属を含む溶液を用いる。
【0019】上記第4の課題を解決する発明は、本発明
の圧電体素子の製造方法で製造した圧電体素子を備える
インクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、基板
の一面に振動板を形成する工程と、振動板に圧電体素子
を製造する工程と、圧電体素子が設けられた振動板が圧
力室の一面を形成するような配置で基板をエッチングし
圧力室を形成する工程と、を備えたインクジェット式記
録ヘッドの製造方法である。
【0020】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施の形態を、図面
を参照して説明する。本実施形態は本発明の製造方法を
使用して圧電体素子およびインクジェット式記録ヘッド
を製造するものである。 (インクジェット式記録ヘッドおよび圧電体素子の構
造)まず、インクジェット式記録ヘッドの構造を説明す
る。図2に本形態のインクジェット式記録ヘッドの分解
斜視図を示す。図3にインクジェット式記録ヘッドの主
要部一部断面図を示す。本インクジェット式記録ヘッド
1は、図2に示すようにノズル板10、圧力室基板2
0、振動板30および筐体25を備えて構成されてい
る。本発明に係る圧電体素子は、図2において振動板3
0の裏側に設けられている。
【0021】圧力室基板20は、図2および図3に示す
ようにキャビティ21、側壁(隔壁)22、リザーバ2
3および供給口24を備えている。キャビティ21は、
圧力室であってシリコン等の基板をエッチングすること
により形成されたインクなどを吐出するために貯蔵する
空間となっている。側壁22はキャビティ21間を仕切
るよう形成されている。リザーバ23は、インクを共通
して各キャビティ21に充たすための流路となってい
る。供給口24は、リザーバ23から各キャビティ21
にインクを導入可能に形成されている。
【0022】ノズル板10は、圧力室基板20に設けら
れたキャビティ21の各々に対応する位置にそのノズル
穴11が配置されるよう、圧力室基板20の一方の面に
貼り合わせられている。ノズル板10を貼り合わせた圧
力室基板20は、さらに図2に示すように筐体25に填
められて、インクジェット式記録ヘッド1を構成してい
る。
【0023】振動板30は圧力室基板20の他方の面に
形成されている。振動板30には本発明の圧電体素子4
0が設けられている。圧電体素子40は、ペロブスカイ
ト構造を持つ圧電性セラミックスの結晶であり、振動板
30上に所定の形状で形成されて構成されている。
【0024】図1に、本発明の圧電体素子40の層構造
を説明する断面図を示す。圧電体素子40は、図1にお
いて下部電極32、圧電体薄膜層41および上部電極4
2により構成され、当該圧電体素子のみを独立して製造
し使用することが可能である。本実施形態ではインクジ
ェット式記録ヘッドのアクチュエータとして使用するた
めに、インクジェット式記録ヘッド1の振動板30上に
圧電体素子40が設けられている。
【0025】振動板30は、図1に示すように絶縁膜3
1および下部電極32を積層して構成されている。下部
電極32が絶縁膜31と同じく全面に形成される形態の
他、圧電体素子の領域にのみ下部電極が形成されている
形態も採用可能である。絶縁膜31は、導電性のない材
料、例えばシリコン基板を熱酸化等して形成された二酸
化珪素により構成され、圧電体層のひずみにより変形
し、キャビティ21の内部の圧力を瞬間的に高めること
が可能に構成されている。下部電極32は、圧電体層に
電圧を印加するための上部電極42と対になる電極であ
り、導電性を有する材料、例えば白金(Pt)で構成さ
れている。また圧電体素子の密着性を高めるために複数
積層構造、例えば、チタン(Ti)層、白金(Pt)
層、チタン(Ti)層の積層構造で下部電極を形成して
もよい。上部電極膜42は、圧電体層に電圧を印加する
ための他方の電極となり、導電性を有する材料、例えば
膜厚0.1μmの白金(Pt)で構成されている。
【0026】圧電体薄膜層41は、電気機械変換作用を
示す誘電性セラミックスの結晶であり、具体的には、微
結晶粒44を包含する柱状結晶43の束により構成され
ている。柱状結晶43の径は、例えば0.1μm〜0.
5μmの範囲である。微結晶粒44の平均粒径は、50
nm以下の範囲にある。微結晶粒44の密度(圧電体薄
膜の断面をSEMやTEM等で観察した場合に観察され
る微結晶粒の単位面積当たりの個数)は、1×108
/cm2以上である。圧電体薄膜層41において、微結
晶粒44と微結晶粒以外の部分とは同一の組成である。
すなわち、圧電体薄膜層は、金属アルコキシド溶液を結
晶化することにより形成される。その組成は、ジルコニ
ウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3:PZ
T)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La)Ti
3)、ジルコニウム酸鉛ランタン((Pb,La)Z
rO3)、ジルコニウム酸チタン酸鉛ランタン((P
b,La)(Zr,Ti)O3:PLZT)またはマグ
ネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(M
g、Nb)(Zr、Ti)O3:PMN−PZT)によ
り構成される群から選ばれる一種の圧電性セラミックス
の出発原料となる有機金属を含む。
【0027】本発明の圧電体薄膜が微結晶粒を含む点は
重要である。微結晶粒が存在するために結晶に生ずる応
力が随所で分断され、全体として発生する応力が一部に
集中しにくい構造になっている。このために圧電体薄膜
層を熱処理により金属アルコキシド溶液が結晶化する際
に生ずる応力が緩和され、クラックを生ずることなく厚
い圧電体薄膜層が形成されるのである。その結果として
圧電体薄膜を1.0μm以上の厚みで形成することが可
能である。
【0028】なお圧電体薄膜層の具体的な組成として代
表的なものは、 0.8PbZr0.5Ti0.53−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3…(1) という組成比からなるPMN−PZTである。
【0029】上記インクジェット式記録ヘッドの構成に
おけるインク滴吐出の原理を説明する。圧電体素子40
の下部電極32と上部電極42との間に電圧が印加され
ていない場合、圧電体薄膜層41にはひずみを生じな
い。この電圧が印加されていない圧電体素子40が設け
られているキャビティ21には、圧力変化が生じず、そ
のノズル穴11からインク滴は吐出されない。
【0030】一方、圧電体素子40の下部電極32と上
部電極42との間に一定電圧が印加された場合、圧電体
薄膜層41に電界の強さに応じたひずみを生じる。電圧
が印加された圧電体素子40が設けられているキャビテ
ィ21ではその振動板30が大きくたわむ。このためキ
ャビティ21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル穴11
からインク滴が吐出される。
【0031】(製造方法の説明)次に本発明のインクジ
ェット式記録ヘッドの製造方法を、圧電体素子の製造方
法と併せて説明する。まず圧電体薄膜層の原料となる圧
電性セラミックスのゾルを製造する。 (ステップ1):圧電体薄膜層の溶質の基本溶媒とし
て、2−n−ブトキシエタノール中に、チタニウムテト
ライソプロポキシド(Ti(OC374)、ペンタエ
トキシニオブ(Nb(OC255)を加えて攪拌しこ
れらを溶解させる。
【0032】(ステップ2):次いでモノエタノールア
ミンをこの溶液に加えて攪拌する。モノエタノールアミ
ンの作用としては、これら金属アルコキシドが加水分解
を起さない様に前記2種の金属アルコキシドを化学的に
安定させるキレート剤としての作用である。加えるモノ
エタノールアミンのモル数は以下のように調整する。
【0033】すなわち、上記金属アルコキシド溶液を構
成する金属の種類単位にその金属のモル数にその金属の
電荷数を乗じた値をゾルを形成する総ての金属について
加算した総和をN1とし、モノエタノールアミンのモル
数をN2とおくと、 N2=α・N1 …(2) 0.5 ≦ α ≦ 1.0 …(3) が成り立つように調整する。ここでN1は、 N1 = [Ti(OC374]×4 + [Nb(OC
255]×5 と表される。[Ti(OC374]はチタニウムテトラ
イソプロポキシド、[Nb(OC255]は ペンタエト
キシニオブのモル数である。式(3)において、通常
は、αが0.7程度となるように調整するとよい。
【0034】(ステップ3):酢酸鉛3水和物と酢酸マ
グネシウム5水和物、ジルコニウムアセチルアセトナー
トとを加え、80℃に加温する。加温した状態で30分
間〜60分間攪拌し、その後室温になるまで自然冷却す
る。
【0035】(ステップ4):さらに高分子有機材料と
して、平均分子量400〜800のポリエチレングリコ
ール(PEG)を加えてゾルを完成させる。ポリエチレ
ングリコールの添加量は、鉛(Pb)1モルに対して
0.1モルから0.5モル程度、好適には0.25モル
程度加える。完成したゾルの溶質濃度(全金属のモル濃
度)は、0.3〜1.0M(モル/リットル)とする。
好適には0.5M(モル/リットル)となるように設定
する。
【0036】次に、上記製造方法によって製造されたゾ
ルを用いた本実施形態の圧電体素子およびインクジェッ
ト式記録ヘッドの製造方法を、図4および図5の製造工
程断面図に基づいて説明する。この中で圧電体素子の製
造方法は下部電極形成工程、圧電体薄膜層形成工程およ
び上部電極形成工程により構成されている。
【0037】絶縁膜形成工程(図4(a)): 絶縁膜
形成工程は、シリコン基板20に絶縁膜31を形成する
工程である。シリコン基板20は、例えば200μm程
度、絶縁膜31は1μm程度の厚みに形成する。絶縁膜
の製造には、公知の熱酸化法等を用いる。
【0038】下部電極形成工程(図4(b)): 下部電
極形成工程では、絶縁膜31の上に下部電極32を形成
する工程である。下部電極32は、例えば絶縁膜側から
順にチタン層、白金層、チタン層を20nm、200n
m、5nmの厚みで積層する。これら層の製造は公知の
直流スパッタ法等を用いる。
【0039】圧電体薄膜層形成工程(図4(c)、図4
(d)): 圧電体薄膜層形成工程は、前記ゾルを使用
してゾルゲル法により圧電体薄膜層41を形成する工程
である。まず上記ゾルを下部電極32上に一定の厚みに
塗布する。例えば公知のスピンコート法を用いる場合に
は、毎分500回転で30秒、毎分1500回転で30
秒、最後に毎分500回転で10秒間塗布する。塗布し
た段階では、圧電体薄膜層を構成する各金属原子は有機
金属錯体として分散している。塗布後、一定温度(例え
ば180度)で一定時間(例えば10分程度)乾燥させ
る。乾燥により溶媒であるブトキシエタノールが蒸発す
る。乾燥後、さらに大気雰囲気下において一定の脱脂温
度で一定時間(30分間)脱脂する。この脱脂温度は、
400℃以上で500℃以下の範囲がよく、好ましくは
450℃程度にする。脱脂により金属に配位している有
機物が金属から解離してから酸化燃焼反応を生じ、大気
中に飛散する。
【0040】上記したゾルの塗布→乾燥→脱脂の各工程
を所定回数n、例えば12回繰り返して12層の薄膜層
45nを積層する。薄い層を多層積層するのはクラック
の発生を確実に防止しながら、厚みのある圧電体薄膜層
を形成するためである。高速熱処理前の厚みで圧電体薄
膜層の前駆体膜全体の厚みが1.6μmとなるようにす
る。
【0041】圧電体薄膜層41の前駆体膜45を形成し
た後に、一定の温度下で高速熱処理(RTA)する。例
えば酸素雰囲気下において、650度で5分間、さらに
900度で1分間加熱する。この高速熱処理によりアモ
ルファス状態のゲルからペロブスカイト結晶構造が形成
される。モノエタノールアミンが金属アルコキシドの加
水分解を生じ難く作用するために、結晶化の過程で多く
の微結晶粒が柱状結晶中に残された状態で結晶する。高
速熱処理を経た後、圧電体薄膜の厚みは、多少厚みが減
るが、1.2μm以上の厚みにすることが可能である。
圧電体薄膜層の前駆体膜45は結晶化して圧電体薄膜層
41になる。
【0042】上部電極形成工程(図4(e)): 圧電体
薄膜層41の上に、さらに電子ビーム蒸着法、スパッタ
法等の技術を用いて、上部電極42を形成する。上部電
極の材料は、白金(Pt)等を用いる。厚みは100n
m程度にする。
【0043】エッチング工程(図5(a)): エッチン
グ工程は、上記圧電体薄膜層41および上部電極42を
各キャビティ21に合わせた形状になるようマスクし、
その周囲をエッチングし圧電体素子40にする工程であ
る。具体的には、まずスピンナー法、スプレー法等の方
法を用いて均一な厚さのレジスト材料を塗布する。次い
でマスクを圧電体素子の形状に形成してから露光し現像
して、レジストパターンを上部電極42上に形成する。
これに通常用いるイオンミリング、あるいはドライエッ
チング法等を適用して、上部電極42および圧電体薄膜
層41以外の部分をエッチングし除去する。以上で圧電
体素子40が形成できる。この圧電体素子を上部電極お
よび下部電極間に電圧を印加可能に構成すれば、独立し
た電気機械変換素子として機能させることが可能であ
る。本実施形態ではさらにインクジェット式記録ヘッド
を製造する。
【0044】圧力室形成工程(図5(b)): 圧力室
形成工程は、圧電体素子40が形成された圧力室基板2
0の他方の面をエッチングしてキャビティ21を形成す
る工程である。圧電体素子40を形成した面と反対側か
ら、例えば異方性エッチング、平行平板型反応性イオン
エッチング等の活性気体を用いた異方性エッチングを用
いて、キャビティ21空間のエッチングを行う。エッチ
ングされずに残された部分が側壁22になる。
【0045】ノズル板貼り合わせ工程(図5(c)):
ノズル板貼り合わせ工程は、エッチング後のシリコン
基板20にノズル板10を接着剤で貼り合わせる工程で
ある。貼り合わせのときに各ノズル穴11がキャビティ
21各々の空間に配置されるよう位置合せする。ノズル
板10が貼り合わせられた圧力室基板20を筐体25に
取り付け(図3参照)、インクジェット式記録ヘッド1
を完成させる。なおノズル板と圧力室基板を一体的にエ
ッチングして形成する場合には、ノズル板の貼り合わせ
工程は不要である。すなわち、ノズル板と圧力室基板と
を併せたような形状に圧力室基板をエッチングし、最後
にキャビティに相当する位置にノズル穴を設ける場合で
ある。
【0046】(実施例)上記実施形態の実施例を以下に
説明する。表1にモノエタノールアミンをキレート剤と
して使用した実施例と、アミンを使用しない従来の方法
で結晶化して製造された比較例との特性を示す。
【0047】
【表1】
【0048】前駆体の限界膜厚とは、結晶化するための
高速熱処理直前においてクラックが発生せずに積層可能
であった最大の膜厚である。結晶化膜の限界膜厚とは、
高速熱処理後にもクラックが発生せずに結晶化できた場
合の最大膜厚である。
【0049】図6に、モノエタノールアミンを用いた実
施例の結晶化後の圧電体薄膜層を、透過型電子顕微鏡
(TEM)で観察した様子を示す。図6(a)はそのT
EM写真、図6(b)は写真の模写図である。この図か
ら判るように、圧電体薄膜層中にははっきりと微結晶粒
が存在していることが確認できる。このようにモノエタ
ノールアミンを用いることで微結晶粒が生じ、応力を緩
和し、クラックが発生しにくくなっていることが確認さ
れた。
【0050】なおアミンには、モノエタノールアミンの
他に、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N
−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノール
アミン、ジイソプロパノールアミンなど各種存在する
が、実験の結果モノエタノールアミンが最も厚膜化に貢
献することが確認された。
【0051】(その他の変形例)本発明は、上記各実施
形態によらず種々に変形して適応することが可能であ
る。例えば、上記実施形態ではPMN−PZTについて
説明していたが、他の強誘電性の圧電性セラミックスに
ついても同様に考えることができる。
【0052】また上記製造方法では、ゾルゲル法により
結晶化を行っていたが、他の方法、例えばMOD法など
によって圧電体セラミックスの結晶化を行ってもよい。
モノエタノールアミンを使用する限り、熱処理過程にお
ける加水分解が抑制され微結晶粒が発生し、応力を緩和
することが期待される。
【0053】また本発明で製造した圧電体素子は上記イ
ンクジェット式記録ヘッドの圧電体素子のみならず、不
揮発性半導体記憶装置、薄膜コンデンサ、パイロ電気検
出器、センサ、表面弾性波光学導波管、光学記憶装置、
空間光変調器、ダイオードレーザ用周波数二倍器等のよ
うな強誘電体装置、誘電体装置、パイロ電気装置、圧電
装置、および電気光学装置の製造に適応することができ
る。すなわち、本発明の圧電体素子は厚膜化が可能であ
り良好な圧電特性を備えるために、あらゆる用途に適す
る。
【0054】
【発明の効果】本発明によれば、モノエタノールアミン
をキレート剤として使用したことにより、微結晶粒が生
じ、応力によるクラックが発生しにくい構造の圧電体素
子を形成することが可能である。したがって、本発明に
より、厚膜化が可能な結晶構造を備えた圧電体素子を提
供することができる。また厚膜化が可能な結晶構造を備
えた圧電体素子を利用したインクジェット式記録ヘッド
を提供することができる。
【0055】また本発明によれば、モノエタノールアミ
ンをキレート剤とするゾルを形成することにより、製造
時にクラックが発生しにくい圧電体素子の製造方法を提
供することができる。また製造時に圧電体素子にクラッ
クを発生させないインクジェット式記録ヘッドの製造方
法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の圧電体素子の層構造を説明する断面図
である。
【図2】本発明のインクジェット式記録ヘッドの分解斜
視図である。
【図3】本発明のインクジェット式記録ヘッドの斜視図
一部断面図である。
【図4】本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方
法を説明する製造工程断面図である(その1)。
【図5】本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方
法を説明する製造工程断面図である(その2)。
【図6】モノエタノールアミンを使用した実施例の圧電
体薄膜層の透過型電子顕微鏡(TEM)写真と模写図で
ある。
【符号の説明】
10…ノズル板 20…圧力室基板 30…振動板 31…絶縁膜 32…下部電極 40…圧電体素子 41…圧電体薄膜層 42…上部電極 43…柱状結晶 44…結晶粒 45…圧電体薄膜層の前駆体膜 21…キャビティ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) H01L 41/22

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下部電極および上部電極に挟持された圧
    電体薄膜を備える圧電体素子において、 前記圧電体薄膜は、微結晶粒を包含する柱状結晶により
    構成されていることを特徴とする圧電体素子。
  2. 【請求項2】 前記柱状結晶の径は、0.1乃至0.5
    μmの範囲である請求項1に記載の圧電体素子。
  3. 【請求項3】 前記微結晶粒の平均粒径は、50nm以
    下の範囲である請求項1に記載の圧電体素子。
  4. 【請求項4】 前記微結晶粒と微結晶粒以外の部分とは
    同一の組成である請求項1に記載の圧電体素子。
  5. 【請求項5】 前記圧電体薄膜を構成する金属は、ジル
    コニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3:PZ
    T)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La)Ti
    3)、ジルコニウム酸鉛ランタン((Pb,La)Z
    rO3)、ジルコニウム酸チタン酸鉛ランタン((P
    b,La)(Zr,Ti)O3:PLZT)またはマグ
    ネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(M
    g、Nb)(Zr、Ti)O3:PMN−PZT)によ
    り構成される群から選ばれる一種の圧電性セラミックス
    を含む請求項1に記載の圧電体素子。
  6. 【請求項6】 前記圧電体薄膜は、薄膜全体が1.0μ
    m以上の厚みで形成されている請求項1に記載の圧電体
    素子。
  7. 【請求項7】 請求項1乃至請求項6に記載の圧電体素
    子を備えたインクジェット式記録ヘッドにおいて、 圧力室が形成された圧力室基板と、 前記圧力室の一方の面を閉鎖する振動板と、 前記振動板の前記圧力室に対応する位置に設けられ、当
    該圧力室に体積変化を及ぼすことが可能に構成された前
    記圧電体素子と、を備えたことを特徴とするインクジェ
    ット式記録ヘッド。
  8. 【請求項8】 下部電極および上部電極の間に、電気機
    械変換作用を示す圧電体薄膜を挟持させた圧電体素子の
    製造方法において、 前記下部電極上に、金属アルコキシド溶液に、キレート
    剤としてモノエタノールアミンを含むゾルを使用して前
    記圧電体薄膜を形成することを特徴とする圧電体素子の
    製造方法。
  9. 【請求項9】 前記金属アルコキシド溶液を構成する金
    属の種類単位にその金属のモル数にその金属の電荷数を
    乗じた値をゾルを形成する総ての金属について加算した
    総和に対し、前記モノエタノールアミンのモル数を、5
    0%以上100%以下となるように調整してゾルを形成
    する請求項8に記載の圧電体素子の製造方法。
  10. 【請求項10】 脱脂温度を400℃以上で500℃以
    下の温度に設定して前記圧電体薄膜の脱脂を行う請求項
    8に記載の圧電体素子の製造方法。
  11. 【請求項11】 前記金属アルコキシド溶液として、ジ
    ルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3:P
    ZT)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La)Ti
    3)、ジルコニウム酸鉛ランタン((Pb,La)Z
    rO3)、ジルコニウム酸チタン酸鉛ランタン((P
    b,La)(Zr,Ti)O3:PLZT)またはマグ
    ネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(M
    g、Nb)(Zr、Ti)O3:PMN−PZT)によ
    り構成される群から選ばれる一種の圧電性セラミックス
    の出発原料となる有機金属を含む溶液を用いることを特
    徴とする請求項8に記載の圧電体素子の製造方法。
  12. 【請求項12】 請求項8乃至請求項11のいずれかに
    記載の製造方法で製造した圧電体素子を備えるインクジ
    ェット式記録ヘッドの製造方法であって、 基板の一面に振動板を形成する工程と、 前記振動板に前記圧電体素子を製造する工程と、 前記圧電体素子が設けられた振動板が前記圧力室の一面
    を形成するような配置で前記基板をエッチングし前記圧
    力室を形成する工程と、を備えたインクジェット式記録
    ヘッドの製造方法。
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