JP3750413B2 - 圧電体素子の製造方法及びインクジェット式記録ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はインクジェット式記録ヘッドに用いられる圧電体素子に係わり、特に、電極の製造方法を改良することにより、圧電体素子やインクジェット式記録ヘッドの信頼性を向上させる製造方法の発明に関する。
【0002】
【従来の技術】
入力される印字データに応じて選択的にインク滴を記録用紙に吐出して文字、或いは所望の画像を得るインクジェットプリンタに用いられるインクジェット式記録ヘッドは、インク吐出の駆動源として機能する圧電体素子を備えている。圧電体素子は、上部電極と下部電極に挟まれる圧電体薄膜を備えている。
【0003】
従来、圧電体素子の製造方法として幾つかの方法が発案され実施されていたが、電極の製造方法に関しては特に考察がされていなかった。
【0004】
従来の電極の製造方法としては、高出力・高温下でのスパッタ法が一般的に用いられていた。例えば、スパッタ出力は1000W前後であり、蒸着温度は250℃程度に設定されていた。例えば米国特許第005691752号の公報には、このような電極の形成方法を含めた圧電体素子の製造方法一般について記載されている。
【0005】
従来の条件で電極が蒸着されることにより、一定の結晶粒径を備えた緻密な金属薄膜を形成することができていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
圧電体素子の信頼性という観点からは、電極が硬いことが好ましい。電極が柔らかいと塑性変形し易いからである。従来品では、圧電体薄膜があまりに強く変形した場合には、電極の塑性変形の限界点である降伏点を容易に超えてしまい、場合によっては電極が容易に破壊されてしまっていた。これでは、この圧電体素子を駆動手段として組み込んでいるインクジェット式記録ヘッドやプリンタの信頼性が低下する。
【0007】
また従来品の圧電体素子では、素子ごとにバラツキがあった。これは電極が均質に製造できないことに一つの原因があるものと考えられる。
【0008】
この点に鑑み、本願発明は、強い変形があっても破壊しにくく、かつ、バラツキの少ない、信頼性の高い圧電体素子およびこの圧電体素子を適用した製品を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、圧電体薄膜に電圧を印加するための電極と該電極上に形成される該圧電体薄膜とを備える、電気機械変換作用を示す圧電体素子の製造方法において、白金、イリジウムおよびルテニウムで構成される群のうちから選択される一つの元素からなる電極材料を、100℃以下の蒸着温度で、出力200W以下でスパッタ法により蒸着し、柱状結晶の長軸方向が基板面に対して垂直な方向であり、該柱状結晶の短軸方向の平均結晶粒径が30nm以下の電極を形成することを特徴とする圧電体素子の製造方法である。
【0011】
上記下部電極は、白金、イリジウムおよびルテニウムで構成される群のうちから選択される一つの元素を含んで構成されている。
【0012】
本願発明は、本発明の圧電体素子を圧電アクチュエータとして備えるインクジェット式記録ヘッドおよびプリンタである。
【0016】
本願発明は、本発明の圧電体素子の製造方法で基板上に圧電体素子を形成する工程と、前記圧電体素子をエッチングして圧電アクチュエータの形状に形成する工程と、前記基板をエッチングして前記圧電アクチュエータの作用により圧力室内のインクを吐出可能な構造を形成する工程と、を備えたことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しながら説明する。
本発明の実施形態は、下部電極の硬度を上げる圧電体素子の製法とその製造方法で製造される圧電体素子、インクジェット式記録ヘッドおよびプリンタの構造に関する。
【0018】
図1に、本実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電体素子部分の構造を明らかにする断面図を示す。本実施形態の圧電体素子40は、設置面を形成する振動板30上に、密着層401、本発明に関する下部電極402、圧電体薄膜403および上部電極404を積層して構成されている。
【0019】
密着層401は、圧電体素子の設置面と当該圧電体素子の下部電極402との密着力を高める材料で構成されている。密着層401は、チタンまたはクロムのうちから選択される一つの元素を主成分としている。密着層401は10nm〜50nm程度の厚み、例えば20nmに形成されている。この密着層401は、必須の構成ではなく、下部電極402と下地となる設置面(振動板30)との密着性を確保できる場合にはこの密着層は不要である。
【0020】
下部電極402は、上部電極404と対向して形成されており、電圧を両電極間に印加することによって圧電体薄膜403に電気機械変換作用を生じさせることが可能なようになっている。下部電極402は、密着層401の上部に導電性を有する材料で形成されている。導電性を有する材料としては、白金、イリジウムおよびルテニウムなどが挙げられる。下部電極の厚みは、0.1μm〜0.5μm程度(例えば0.4μm)程度に形成されている。
【0021】
特にこの下部電極402は後述する製造方法で製造されることにより、柱状結晶構造の平均結晶粒径d1が30nm以下に形成されている点に特徴がある。従来品より微細な結晶粒径で構成されていることにより、下部電極402は塑性変形しにくくなっている。
【0022】
圧電体素子に電界を印加すると、圧電体薄膜が変形する。圧電体薄膜が変形することにより下部電極に応力が加えられる。図4に、下部電極に加えられる応力σとそれによりもたらされる歪(変形)εとの関係図を示す。実線が本発明の電極の塑性変形特性であり、破線が従来品における塑性変形特性である。印加電界の増加による歪の増加に伴って線形的に応力が増加する領域は、圧電体素子の利用範囲となり得る弾性範囲である。歪が大きくなり弾性の限界に来ると応力の増加が低迷するようになる。この点が降伏点である。さらに印加電界の増加によって歪が増加すると、終には電極が変形に絶えられなくなり破壊に至る。これが破壊点である。
【0023】
本願発明の電極は、図4に示すように、後述する理由により、従来よりも塑性変形しにくく降伏点が高くなっている。このため圧電体素子を利用できる弾性範囲が広くなるとともに、強い圧電体薄膜の変形によっても容易に破壊に至らなくなるのである。
【0024】
圧電体薄膜403は、下部電極402上に形成される電気機械変換作用を示すPZT等の強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜である。当該圧電体薄膜403としては通常の圧電性薄膜としての構成を備えていれば十分である。例えば圧電体薄膜の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。圧電体薄膜403の厚みについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚みを抑え、かつ、十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば圧電体薄膜403を1μm〜2μm前後の厚みにする。
【0025】
上部電極404は、金や白金、イリジウムなどの材料で所定の厚み(0.1μm程度)に形成された導電性膜である。ただし、この上部電極404についても上記下部電極402と同様の製造方法で製造することにより、従来より微細な結晶粒径を備えた本発明の電極膜で構成してもよい。
【0026】
次に上記圧電体素子40を圧電アクチュエータとして備えているインクジェット式記録ヘッドの構造を説明する。インクジェット式記録ヘッド1は、図10の主要部斜視図一部断面図に示すように、ノズルプレート10、基板20および上記圧電体素子40を筐体に収納して構成されている。
【0027】
圧力室基板20は、シリコン基板をエッチングすることにより、圧力室(キャビティ)21、側壁(隔壁)22、リザーバ23および供給口24が形成されている。圧力室21は、インクなどを吐出するために貯蔵する空間となっている。側壁22は、圧力室21間を仕切るよう形成されている。リザーバ23は、インクを共通して各圧力室21に充たすための流路を形成している。供給口24は、リザーバ23から各圧力室21にインクを導入可能に形成されている。
【0028】
振動板30は、圧力室基板20の一方の面に形成されており、振動板30上の圧力室21に対応する位置には上記圧電体素子40が設けられている。振動板30としては弾性、機械的強度および絶縁性を備えることから酸化膜(二酸化珪素膜)が適当である。ただし振動板30としては二酸化珪素膜に限定することなく、酸化ジルコニウム膜、酸化タンタル膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜でもよい。振動板30の一部には、インクタンク入口35が設けられて、図示しないインクタンクから、貯蔵されているインクを圧力室基板20内に導くことが可能になっている。なお、上述した下部電極402と密着層401を振動板30と重ねて圧力室基板20の全面に形成してもよい。
【0029】
ノズルプレート10は、圧力室基板20の振動板30に対向する面に設けられている。ノズルプレート10には、圧力室21の各々に対応する位置にノズル11が配置されている。
【0030】
なお上記インクジェット式記録ヘッドの構成は一例であり、圧電体素子を圧電アクチュエータとして使用可能なあらゆるピエゾジェット式ヘッドに当該圧電体素子40を適用可能である。
【0031】
上記インクジェット式記録ヘッド1の構成において、電極間に電圧が印加されて圧電体素子40が歪むと、その歪みに対応して振動板30が変形する。その変形により圧力室21内のインクが圧力を加えられてノズル11から吐出させられる。
【0032】
図11に、上記インクジェット式記録ヘッド1をインク吐出手段として備えたプリンタの斜視図を示す。本プリンタ100は、図11に示すように、プリンタ本体2に、トレイ3および排出口4などが設けられている。本体2の内部には、本発明のインクジェット式記録ヘッド1が内蔵されている。本体2は、図示しない用紙供給機構によりトレイ3から供給された用紙5に対し、その上を横切るような往復動作が可能なようにインクジェット式記録ヘッド1を配置している。排出口4は、印刷が終了した用紙5を排出可能な出口となっている。
【0033】
(製造方法)
次に本発明の圧電体素子およびインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。以下の図2および図3は、図10のA−A切断面で圧電体素子を切断した場合の製造工程断面図の模式図である。
【0034】
密着層形成工程(S1): 本工程は、振動板30上に、設置面と圧電体素子の下部電極との密着力を高める材料で密着層401を形成する工程である。
【0035】
設置面となる振動板30は、所定の大きさと厚さ(例えば、直径100mm、厚さ200μm)のシリコン単結晶基板20上を熱酸化法により酸化することにより形成される。熱酸化法は、酸素或いは水蒸気を含む酸化性雰囲気中で高温処理するものである。この他CVD法を用いてもよい。この工程により、二酸化珪素からなる振動板30が例えば1μm程度の厚みに形成される。
【0036】
振動板30としては、二酸化珪素膜の代わりに、酸化ジルコニウム膜、酸化タンタル膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜等を用いてもよい。あるいは、二酸化珪素膜上に酸化ジルコニウム膜、酸化タンタル膜、酸化アルミニウム膜等を積層してもよい。
【0037】
圧電体素子が形成される側の振動板30の表面上にスパッタ法により密着層401となるチタンを、例えば20nm程度の厚さで成膜する。密着層401としては、チタンの代わりにクロムを用いることもできる。
【0038】
下部電極形成工程(S2): この工程は、本願発明の特殊条件により密着層401上に電極材料を蒸着して圧電体薄膜に電圧を印加するための下部電極402を形成する工程である。
【0039】
電極材料としては、白金、イリジウムまたはルテニウムを使用する。これら材料に本発明の製造条件を適用すると、微細な柱状結晶が形成され、本願発明の効果を奏するようになるからである。製造方法としては、スパッタ法を適用する。特に本発明では、従来(1000W)よりも遥かに低い出力である200W以下の出力を用い、従来(250℃)よりも遥かに低い温度である100℃以下で電極材料を蒸着する点に特徴がある。
【0040】
スパッタガスとしては、従来通りのもの、例えばアルゴンArを用い、気圧を従来通り、例えば0.45Pa程度に設定する。
【0041】
この条件でスパッタ成膜をすると、平均結晶粒径が30nm以下の微細な柱状結晶を備えた下部電極402が形成される。
【0042】
圧電体素子形成工程(S3): 本工程は、上記下部電極402上に従来の製造方法で圧電体薄膜および上部電極を形成する工程である。
【0043】
まず下部電極402の表面上に圧電体前駆体膜を積層する。例えば、ゾル・ゲル法を使用する場合、チタン酸鉛とジルコン酸鉛のモル混合比が44%:56%であり、マグネシウムとニオブのモル混合比が1:3となるようなPZT−PMN系の圧電体薄膜の前駆体液(ゾル)を使用する。前駆体液を、一定の厚みに塗布する。塗布は、ゾルをスピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法等の慣用技術で行う。例えばスピンコート法で12回コーディングする。
【0044】
塗布した前駆体を所定の温度、例えば180℃程度で所定時間、例えば10分間乾燥させる。
【0045】
次いで乾燥した前駆体を脱脂する。脱脂は、前駆体膜をゲル化し、且つ、膜中から有機物を除去するのに充分な温度(例えば400℃程度)で、十分な時間(例えば30分間)加熱することで行う。この工程で前駆体膜は、残留有機物を実質的に含まない非晶質の金属酸化物からなる多孔質ゲル薄膜になる。
【0046】
これら塗布/乾燥/脱脂からなる工程を、例えば、0.8μm乃至2.0μmの厚みとなるまで所定回数、例えば12回繰り返す。
【0047】
次いで圧電体前駆体膜を結晶化させるために、4層ごとに計3回基板全体を加熱する。例えば、赤外線輻射光源(図示せず)を用いて基板の両面から酸素雰囲気中で適当な温度(650℃程度)で所定時間(5分程度)保持した後、高温(900℃程度)で短時間(1分間程度)加熱し、その後自然降温させる。この工程で圧電体前駆体膜は結晶化し、ペロブスカイト結晶構造を備える圧電体薄膜403が形成される。
【0048】
なお圧電体薄膜403の製造方法としては、上記したゾルゲル法の他、高周波スパッタ成膜法、CVD法、MOD法、レーザアブレーション法等を用いることができる。
【0049】
圧電体薄膜403が結晶化できたら、導電性材料を使用して上部電極404を形成する。導電性材料としては、白金、イリジウムや金等を用い、スパッタ法を適用する。なお上述したように、上部電極の形成においても下部電極と同様の本発明の電極製造方法を提供可能である。
【0050】
以上の工程で圧電体素子40の層構造が完成する。圧電体素子として使用するためには、この層構造を適当な形状にエッチングして成形する。以下では、この層構造を圧電アクチュエータとしての形状に成形し、併せてインクジェット式記録ヘッドに必要な構造を形成していく。
【0051】
ドライエッチング工程(S4): この工程は、圧電体素子40をエッチングして圧電アクチュエータの形状に形成する工程である。
【0052】
基板20の圧力室が形成されるべき位置に合わせて、上部電極404上に均一な膜厚を有するレジストを塗布する。塗布法として、スピンナー法、スプレー法等の適当な方法を利用する。レジスト塗布後に露光・現像して圧電アクチュエータ形状に合わせたレジストを残す。このレジストをマスクとして、上部電極404、圧電体薄膜403、下部電極402および密着層401をドライエッチングし、各圧力室に対応する圧電体素子40を形成する。ドライエッチングは、各層材料に対する選択性のあるガスを適宜選択して行う。
【0053】
ウェットエッチング工程(S5): この工程は、基板20をエッチングして圧電アクチュエータの作用により圧力室内のインクを吐出可能な構造を形成する工程である。
【0054】
圧電体素子40を適当な保護膜で覆う等の措置をしてから、基板20の反対側の面をウェットエッチングする。エッチング液としては、異方性エッチング液、例えば、80℃に保温された濃度10%の水酸化カリウム水溶液を用いる。ただし、ウェットエッチングの代わりに平行平板型イオンエッチング等の活性気体を用いた異方性エッチング方法を用いてもよい。
【0055】
この工程により、圧力室21の部分がエッチングされ、側壁22が形成される。
【0056】
ノズルプレート接合工程(S6): 以上の工程により形成された圧力室基板20の圧力室21に蓋をするように、ノズルプレート10を接合する。接合に用いる接着剤としては、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系等の任意の接着剤を使用可能である。
【0057】
なお圧力室基板20とノズルプレート10からなる形状は、シリコン単結晶基板をエッチングすることで一体成形されるものであってもよい。
【0058】
(考察)
本発明の製造方法を適用すると小さい結晶粒径を備えた電極膜が形成される理由を考察する。本発明の製造方法では、電極形成におけるスパッタの出力と温度が低く抑えられている。この条件では白金などの電極材料の成膜レート、すなわち単位時間当たりに蓄積される膜厚が従来より低くなる。一方で電極材料が蒸着されている周辺には、炭素、窒素や酸素などの残留ガスがとスパッタ用のガス、アルゴンが存在している。成膜レートが低い場合には、これらのガスを構成する原子が相対的に電極材料に与える影響が大きくなっていると考えられる。つまりこれらガスを構成する原子が比較的ゆっくり成長している白金などの電極材料の結晶粒子の成長を妨害することになる。妨害があるとそれ以上の結晶粒子の成長が止る。このことから比較的結晶粒径の小さい柱状結晶で電極膜が形成されることになる。
【0059】
このようにして形成された電極膜は柱状結晶の粒径が従来品より遥かに低い。例えば従来のスパッタ法であると平均結晶粒径が60nm程度であるところ、本願発明の製造方法によれば、平均結晶粒径が30nm以下になる。結晶粒径が小さいと、電極膜内に粒界、すなわち欠陥が多数存在することになる。これら欠陥の存在により、膜内に存在する転位が固定化され、移動しにくくなる。これを巨視的に見れば電極膜の硬度が高くなることになる。
【0060】
また、一般に結晶粒径をLとした場合のこの部材の降伏点(硬さ)Kは、
K ∝ k/L1/2
で表される。ただしkを比例乗数とする。この式から判断しても、結晶粒径が小さくなれば圧電体薄膜における降伏点が高くなると考えられる。
【0061】
(実施例)
以上の製造工程を経て製造された圧電体素子(実施例)と従来の製造方法で製造された圧電体素子(比較例)とを比較した。
【0062】
図5に、圧電体素子の主たる圧電特性を定義付ける厚み方向の圧電d定数を測定した結果を示す。図5から判るように、実施例の圧電体素子と比較例の圧電体素子で特性の相違は見られなかった。
【0063】
図6に比較例の圧電体素子における断面SEM写真を、図7に実施例の圧電体素子における断面SEM写真を示す。両者の写真を比べても、圧電体薄膜などの結晶性に相違は見られなかった。
【0064】
図8に比較例の下部電極表面のSEM写真を、図9に実施例の下部電極表面のSEM写真を示す。両図とも同一の倍率で撮影してある。両図を比べると判るように、比較例の電極における結晶粒径に比べ実施例の電極における結晶粒径が半分以下、(30nm以下)になっていることが観察できた。
【0065】
本実施形態によれば、電極のスパッタ条件を調整することにより、電極の結晶粒径を相対的に小さくすることができた。したがって電極の降伏点が上がった従来品より広い弾性範囲を備える圧電体素子を提供できる。降伏点および破壊点とも従来品よりも高くなっているので、圧電体素子の強い変形に対しても破壊が生ずるおそれの無い信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドおよびプリンタを提供可能である。
また結晶粒子が微細になっているため電極の特性がどの部分でも均一な特性を有するようになり、製品の均質性を担保することも可能である。
【0066】
(その他の変形例)
本発明は、上記各実施形態によらず種々に変形して適応することが可能である。例えば本発明で製造した圧電体素子は上記した製造方法に限定されることなく、他の製造方法にも適用可能である。
圧電体素子の層構造は上記に限定されることなく、工程を複雑化させることにより、複数からなる層構造を備えた圧電体素子を製造することも可能である。
インクジェット式記録ヘッドの構造は、ピエゾジェット式インクジェット方式であれば、上記した構造に限定されず、他の構造であってもよい。
本発明の圧電体素子は、上記実施形態に示したようなインクジェット式記録ヘッドの圧電体素子としてのみならず、不揮発性半導体記憶装置、薄膜コンデンサ、パイロ電気検出器、センサ、表面弾性波光学導波管、光学記憶装置、空間光変調器、ダイオードレーザ用周波数二倍器等のような強誘電体装置、誘電体装置、パイロ電気装置、圧電装置、および電気光学装置の製造に適応することができる。
【0067】
【発明の効果】
本願発明によれば、弾性変形しにくく降伏点の高い電極を備えたので、強い変形があっても破壊しにくく、かつ、バラツキの少ない、信頼性の高い圧電体素子およびこの圧電体素子を適用した製品を提供することができる。
【0068】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態における圧電体素子の断面図。
【図2】実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程図(1)。
【図3】実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程図(2)。
【図4】下部電極膜の応力と歪みとの関係を説明する図。
【図5】実施例と比較例の圧電体素子における圧電特性図。
【図6】比較例の圧電体素子の断面SEM写真。
【図7】実施例の圧電体素子の断面SEM写真。
【図8】比較例の下部電極表面のSEM写真。
【図9】実施例の下部電極表面のSEM写真。
【図10】本発明のインクジェット式記録ヘッドの主要部一部断面図。
【図11】本発明のプリンタの斜視図。
【符号の説明】
20 圧力室基板
30 振動板
40 圧電体素子
401 密着層
402 本発明の下部電極
403 圧電体薄膜
404 上部電極
Claims (2)
- 圧電体薄膜に電圧を印加するための電極と該電極上に形成される該圧電体薄膜とを備える、電気機械変換作用を示す圧電体素子の製造方法において、
白金、イリジウムおよびルテニウムで構成される群のうちから選択される一つの元素からなる電極材料を、100℃以下の蒸着温度で、出力200W以下でスパッタ法により蒸着して、柱状結晶の長軸方向が基板面に対して垂直な方向であり、該柱状結晶の短軸方向の平均結晶粒径が30nm以下の該電極を形成することを特徴とする圧電体素子の製造方法。 - 請求項1に記載の圧電体素子の製造方法で前記基板上に圧電体素子を形成する工程と、
前記圧電体素子をエッチングして圧電アクチュエータの形状に形成する工程と、
前記基板をエッチングして前記圧電アクチュエータの作用により圧力室内のインクを吐出可能な構造を形成する工程と、
を備えたことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
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