JP5152461B2 - 圧電素子及びその製造方法並びに液体噴射ヘッド及び液体噴射装置 - Google Patents

圧電素子及びその製造方法並びに液体噴射ヘッド及び液体噴射装置 Download PDF

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Description

本発明は、基板上に変位可能に設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子及びその製造方法並びに液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
アクチュエータ装置に用いられる圧電素子としては、電気機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層を、下電極と上電極との2つの電極で挟んで構成されたものがある。このようなアクチュエータ装置は、一般的に、撓み振動モードのアクチュエータ装置と呼ばれ、例えば、液体噴射ヘッド等に搭載されて使用されている。なお、液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド等がある。また、インクジェット式記録ヘッドに搭載されるアクチュエータ装置としては、例えば、振動板の表面全体に亘って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある。
このような圧電素子としては、基板上に設けられた下電極と、下電極上に設けられた圧電体層と、圧電体層上に設けられた上電極とで構成され、圧電体層が下電極側に設けられた第1の層と、第1の層よりも膜厚が大きい第2の層とで構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
また、圧電体層の材料として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にニオブ(Nb)をドーピングしたPb(ZrTiNb)O(PZTN)で、Ti組成がZr組成よりも高く、且つ人工的に結晶系を菱面体晶に変化させたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開2003−174211号公報(第5頁、第3図) 特開2005−101512号公報(第10〜13頁)
しかしながら、圧電素子の圧電体層として、チタンリッチ組成のPZT系圧電体層を用いた場合、変位特性を向上することができるものの、耐久性が低下してしまい繰り返し駆動を行うことができないという問題がある。
これに対して、圧電素子の圧電体層として、ジルコニウムリッチ組成となるPZT系圧電体層を用いた場合、変位特性が低下してしまうという問題がある。
また、特許文献2のように、圧電体層として、チタンリッチのPZTN系圧電体層を用いることで、圧電体層の耐久性の低下を防止することができるが、ニオブをドープしなくてはならず製造工程が煩雑になると共にコストが増加してしまうという問題がある。
本発明はこのような事情に鑑み、圧電特性を向上すると共に耐久性の低下を防止した圧電素子及びその製造方法並びに液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の態様は、下電極と、該下電極上に形成され、Pb、Zr、Tiを有する圧電体層と、該圧電体層上に設けられた上電極と、からなる圧電素子であって、前記圧電体層が、前記下電極側の第1圧電体層と、該第1圧電体層上に設けられた導電性酸化金属と、該導電性酸化金属上に設けられた第2圧電体層と、を備え、前記第1圧電体層と第2圧電体層とが導電性酸化金属により、結晶が連続しない分断された段構造であり、前記第1圧電体層のZrに対するTiの割合が、前記第2圧電体層のZrに対するTiの割合に対して高いことを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、圧電体層として、圧電特性の良好な第1圧電体層と、耐久性の良好な第2圧電体層とを積層した構成とすることで、圧電体層全体の圧電特性を向上すると共に耐久性が低下するのを防止することができる。
また、前記導電性酸化金属は、酸化チタンであってもよい。
また、前記第1圧電体層の格子定数が、前記第2圧電体層の格子定数に比べて小さいことが好ましい。これによれば、第1圧電体層と第2圧電体層とでジルコニウムに対するチタンの割合を異なったものとすることができる。
また、前記第1圧電体層の格子定数が、前記第2圧電体層の格子定数よりも0.1〜0.5%小さいことが好ましい。これによれば、第1圧電体層及び第2圧電体層のジルコニウムに対するチタンの割合の差を付けることができる。
また、前記第1圧電体層の厚さが、前記第2圧電体層の厚さに比べて薄いことが好ましい。これによれば、圧電体層全体で圧電特性を向上すると共に耐久性が低下するのを防止することができる。
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の圧電素子を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、液体噴射特性を向上して信頼性を向上した液体噴射ヘッドを実現できる。
また、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
また、本発明の他の態様は、基板上に下電極を形成する工程と、該下電極上にPb、Zr、Tiを含むゾルを塗布して圧電体前駆体膜を形成すると共に前記圧電体前駆体膜を焼成して結晶化して圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行ってPb、Zr、Tiを有する複数の圧電体膜で構成される圧電体層を形成する工程と、該圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、前記圧電体層を形成する工程では、前記下電極側の第1圧電体層と、前記上電極側の第2圧電体層とからなる当該圧電体層を形成すると共に、前記第1圧電体層を形成するゾルとして、Zrに対するTi濃度が、前記第2圧電体層を形成するゾルのZrに対するTi濃度に比べて高いものを用いると共に、前記第1圧電体層を形成した後、当該第1圧電体層上に導電性酸化金属を形成し、その後、該導電性酸化金属上に前記第2圧電体層を形成することで、前記第1圧電体層のZrに対するTiの割合が、前記第2圧電体層のZrにおけるTiの割合に対して高くなるように形成すると共に、前記第1圧電体層と前記第2圧電体層との間で結晶が分断されて間に界面が存在する段構造とすることを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、ジルコニウムに対するチタンの割合を容易に且つ高精度に制御して圧電体層を形成することができる。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図であり、図3は、図2の要部拡大断面図である。
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化によって二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路14(液体供給路)と連通路15とが隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられている。
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、本実施形態では、インク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、このように、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、インク供給路14の圧力発生室12とは反対側に連通し、インク供給路14の幅方向(短手方向)より大きい断面積を有する。本実施形態では、連通路15を圧力発生室12と同じ断面積で形成した。
すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12と、圧力発生室12の短手方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の短手方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが複数の隔壁11により区画されて設けられている。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
圧電体層70は、下電極膜60上に形成される分極構造を有する酸化物の圧電材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を1〜2μm前後の厚さで形成した。また、本実施形態の圧電体層70は、菱面体晶系(rhombohedral)の結晶構造を有するものである。すなわち、圧電体層70は、図4に示す菱面体晶系の結晶構造を有するRの領域の格子定数を有するものである。なお、図4は、ジルコニアに対するチタンの割合と格子定数との関係を示すグラフである。
このようなPZTからなる圧電体層70は、ゾル−ゲル法又はMOD法により形成されたものであり、且つ厚さ方向で結晶が分断された構造となっている。具体的には、本実施形態の圧電体層70は、下電極膜60側に設けられた第1圧電体層71と、上電極膜80側に設けられた第2圧電体層72とで構成され、第1圧電体層71と第2圧電体層72との間で結晶が分断された2段構造となっている。すなわち、第1圧電体層71と第2圧電体層72との間で結晶が連続していない不連続な状態となっている。
第1圧電体層71は、ジルコニウム(Zr)に対するチタン(Ti)の割合、すなわちZr/Ti(モル比)におけるチタンの割合が、第2圧電体層72のジルコニウムに対するチタンの割合に対して高くなっている。すなわち、第2圧電体層72は、ジルコニウムに対するチタンの割合が、第1圧電体層71に比べて低くなっている。
また、第1圧電体層71の厚さは、第2圧電体層72の厚さに比べて薄いことが好ましい。これによれば、圧電体層70全体の耐久性が低下するのを防止することができる。
なお、本実施形態の圧電体層70は、詳しくは後述する製造方法によって第1圧電体層71を形成した段階で、その表面をX線回折広角法によって(100)面の回折ピークを測定したところ2θ=21.965°であり、これを格子定数に換算すると4.046Åであった。これに対して、第1圧電体層71上に第2圧電体層72を形成した後、第2圧電体層72の表面をX線回折広角法によって(100)面の回折ピークを測定したところ、2θ=21.910°であり、これを格子定数に換算すると4.058Åであった。以上のことから、本実施形態の第1圧電体層71の格子定数は、第2圧電体層72の格子定数に比べて0.3%小さいことが分かった。なお、チタン酸ジルコン酸鉛では、図4に示すように、ジルコニウムに対するチタンの割合が高くなると格子定数が小さくなり、ジルコニウムに対するチタンの割合が低くなると格子定数が大きくなるものである。そして、本実施形態では、第1圧電体層71及び第2圧電体層72は、それぞれ菱面体晶系の結晶構造を有するものであるため、図4に示すRの領域の格子定数となっている。ちなみに、第1圧電体層71の格子定数は、第2圧電体層72に比べて0.1〜0.5%小さいことが好ましい。これは、例えば、第1圧電体層71の格子定数が、第2圧電体層72の格子定数に比べて0.1%より小さいと、第1圧電体層71と第2圧電体層72との間でジルコニウムに対するチタンの割合の差がほとんどなくなってしまい所望の効果を得られないからである。また、例えば、第2圧電体層72の格子定数が第1圧電体層71の格子定数に比べて0.5%よりも大きいと、図4に示すように、第1圧電体層71の格子定数が小さくなり、第1圧電体層71が菱面体晶系の結晶構造とはならず、正方晶系(tetragonal)の結晶構造となってしまう虞が高いからである。
このように、圧電体層70を第1圧電体層71と、第2圧電体層72とで結晶が分断された段構造で構成し、第1圧電体層71のジルコニウムに対するチタンの割合が、第2圧電体層72に比べて高くなるようにすることで、第1圧電体層71によって圧電体層70全体での圧電特性を向上することができると共に、第2圧電体層72によって圧電体層70を繰り返し駆動した際の耐久性が低下するのを防止することができる。
さらに、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図5〜図10を参照して説明する。なお、図5〜図10は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。まず、図5(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。
次いで、図5(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
次いで、図5(c)に示すように、白金(Pt)の単層又は、この白金(Pt)層にイリジウム(Ir)層を積層、合金化した下電極膜60を形成する。
次いで、図6(a)に示すように、下電極膜60上にチタン(Ti)からなる種チタン層61を形成する。この種チタン層61は、3.5〜5.5nmの厚さで形成する。なお、種チタン層61は非晶質であることが好ましい。具体的には、種チタン層61のX線回折強度、特に、(002)面のX線回折強度(XRD強度)が実質的に零となっていることが好ましい。このように種チタン層61が非晶質であると、種チタン層61の膜密度が高まり表層に形成される酸化層の厚みが薄く抑えられ、その結果、圧電体層70の結晶をさらに良好に成長させることができるからである。
このように下電極膜60の上に種チタン層61を設けることにより、後の工程で下電極膜60上に種チタン層61を介して圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の優先配向方位を(100)または(111)に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。なお、種チタン層61は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成後には圧電体層70内に拡散するものである。
なお、このような下電極膜60及び種チタン層61は、例えば、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成することができる。
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、MOD(Metal-Organic Decomposition)法を用いてもよい。
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図6(b)に示すように、下電極膜60(種チタン層61)上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜73を成膜する。すなわち、下電極膜60が形成された流路形成基板10上にチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及び鉛(Pb)を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜73を150〜170℃で5〜10分間保持することで乾燥することができる。
次に、乾燥した圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜73を300〜400℃程度の温度に加熱して約5〜10分間保持することで脱脂した。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜73に含まれる有機成分を、例えば、NO、CO、HO等として離脱させることである。また、脱脂工程では、昇温レートを15℃/sec以上とするのが好ましい。
次に、図6(c)に示すように、圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜74を形成する(焼成工程)。本実施形態では、1層目の圧電体膜74が、第1圧電体層71となる。この焼成工程では、圧電体前駆体膜73を680〜900℃に加熱するのが好ましく、本実施形態では、700℃で5分間加熱を行って圧電体前駆体膜73を焼成して圧電体膜74を形成した。また、焼成工程では、昇温レートを90〜110℃/secとするのが好ましい。これにより優れた特性の圧電体膜74を得ることができる。
このような第1圧電体層71を形成する際に用いるゾルは、ジルコニウムに対するチタンの割合が、後の工程で第2圧電体層72を形成する際に用いるゾルに比べて高いものを用いている。そして、種チタン層61のチタンは第1圧電体層71(1層目の圧電体膜74)を焼成する際に、第1圧電体層71内に拡散させているため、焼成後の第1圧電体層71のジルコニウムに対するチタンの割合は、ゾルの組成比と種チタン層61の拡散量とで規定される。本実施形態では、ゾルの組成比と種チタン層61の拡散した量とを適宜規定することにより、第1圧電体層71をその表面の格子定数が4.046Å(X線回折広角法によって測定した(100)面の回折ピークが2θ=21.965°)となるように形成した。
なお、このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
次に、図7(a)に示すように、下電極膜60上に第1圧電体層71を形成した段階で、下電極膜60及び第1圧電体層71をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。なお、下電極膜60及び第1圧電体層71のパターニングは、例えば、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。
ここで、例えば、下電極膜60の上に種チタン層61を形成した後にパターニングしてから1層目の圧電体膜74を形成する場合、フォト工程・イオンミリング・アッシングして下電極膜60をパターニングするために種チタン層61が変質してしまい、変質した種チタン層61上に圧電体膜74を形成しても当該圧電体膜74の結晶性が良好なものではなくなり、1層目の圧電体膜74の上に形成される2層目以降の圧電体膜74も、1層目の圧電体膜74の結晶状態に影響して結晶成長するため、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができない。また、下電極膜60をパターニングしてから1層目の圧電体膜74を焼成する際に、下地として下電極膜60が存在する領域と存在しない領域とが混在し、下地の違いから1層目の圧電体膜74の加熱を面内で均一化することができず、結晶性にばらつきが生じてしまうという。
それに比べて、下電極膜60上に1層目の圧電体膜74を形成してから、同時にパターニングすれば、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができる。
次に、図7(b)に示すように、第1圧電体層71上を含む流路形成基板用ウェハ110の全面に、再び結晶種62を形成後、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことにより、図7(c)に示すように複数層の圧電体膜74を形成する。この第1圧電体層71上に形成された複数の圧電体膜74が第2圧電体層72となる。
第2圧電体層72を形成する際のゾルは、ジルコニウムに対するチタンの割合が、第1圧電体層71を形成する際に用いるゾルに比べて、低いものを用いている。
なお、結晶種62としては、種チタン層61と同様にチタン(Ti)を用いてもよく、また、酸化チタン(TiO)等の導電性酸化金属を用いるようにしてもよい。例えば、結晶種62として、チタンを用いた場合には、結晶種62は第2圧電体層72を焼成した際に内部に拡散する。しかしながら、第2圧電体層72を形成するゾルとして、ジルコニウムに対するチタンの割合が第1圧電体層71を形成する際に用いるゾルに比べて低いものを用いているため、結晶種62が第2圧電体層72に拡散したとしても、第2圧電体層72のジルコニウムに対するチタンの割合は、第1圧電体層に比べて低くなる。また、第2圧電体層72を第1圧電体層71の膜厚よりも厚く形成することで、第2圧電体層72内にチタンからなる結晶種62が拡散しても、第2圧電体層72全体でのジルコニウムに対するチタンの割合は、第1圧電体層71に比べて低くなる。
そして、結晶種62としてチタンを用いた場合には、焼成後の第2圧電体層72のジルコニウムに対するチタンの割合は、ゾルの組成比と結晶種62の拡散した量とで規定される。本実施形態では、ゾルの組成比と結晶種62の拡散した量とを適宜規定することにより、第2圧電体層72をその表面の格子定数が4.058Å(X線回折広角法によって(100)面の回折ピークが2θ=21.910°)となるように形成した。
このように形成された第2圧電体層72は、第1圧電体層71の結晶性を引き継ぎながらも結晶種62を挟んで成長しているため、第1圧電体層71とは結晶が分断された段構造となる。
これにより、第1圧電体層71と第2圧電体層72とで構成された圧電体層70を形成することができると共に、第1圧電体層71のジルコニウムに対するチタンの割合が、第2圧電体層72に比べて高い圧電体層70を形成することができる。
なお、結晶種62として、酸化チタン(TiO)等の導電性酸化金属を用いた場合には、結晶種62が第2圧電体層72に拡散することがないため、圧電体層70は、第1圧電体層71と第2圧電体層72との間に結晶種62が介在した状態で形成される。そして、本実施形態では、第1圧電体層71と第2圧電体層72との間に結晶種62が介在する場合も、第1圧電体層71と第2圧電体層72との間で結晶が連続しない不連続な、結晶が分断された段構造という。
また、本実施形態では、第1圧電体層71として、1層の圧電体膜74を形成し、第2圧電体層72として、9層の圧電体膜74を形成するようにした。ここで、例えば、ゾルの1回あたりの膜厚が0.1μmの場合には、圧電体層70の全体での膜厚は、約1.1μm程度となる。
次に、図8(a)に示すように、圧電体層70上に亘って、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80を形成する。
次に、図8(b)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。圧電体層70及び上電極膜80のパターニングとしては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
次に、図9(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ130を接合する。
次に、図9(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みに薄くする。
次いで、図10(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図10(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
このように、本実施形態では、圧電体層70を結晶が分断した段構造となる第1圧電体層71と第2圧電体層72とで構成し、第1圧電体層71のジルコニウムに対するチタンの割合を、第2圧電体層72よりも高くすることで、圧電体層70全体での圧電特性を向上することができると共に、圧電体層70の繰り返し駆動による耐久性が低下するのを防止することができる。これにより、インク吐出特性(液体噴射特性)を向上すると共に信頼性を向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
ここで、上述した実施形態と同様の下電極膜60上にZr/Ti(モル比)の異なる2種類のゾルをそれぞれ用いて圧電体層70を形成した。圧電体層70は、10層の圧電体膜74を形成することにより形成し、その膜厚が約1.1μmとなるようにした。そして、各ゾルで形成した圧電体層70の表面をX線回折広角法により測定して回折強度のピーク2θを求めた。なお、一方のゾルは、Zr/Ti(モル比)が0.516/0.484となる組成比のものを用いた。他方のゾルは、Zr/Ti(モル比)が0.460/0.540となる組成比のものを用いた。すなわち、他方のゾルは、一方のゾルに比べてジルコニウムに対するチタンの割合が高く、且つジルコニウムに対してチタンリッチとなるものを用いた。
また、各ゾルで形成した圧電体層70上に上述した実施形態と同様の上電極膜80を形成し、初期変位量を測定した。この結果を下記表1に示す。
Figure 0005152461
表1に示す結果から、圧電体層70は、ジルコニウムに対するチタンの割合が高い方が圧電特性が向上する傾向があることが分かる。このため、第1圧電体層71のジルコニウムに対するチタンの割合を第2圧電体層72に比べて高くすることで、第1圧電体層71と第2圧電体層72とで結晶が不連続となることによる圧電特性の低下を補って、圧電体層70全体で圧電特性を向上することができる。ちなみに、圧電体層70全体でジルコニウムに対するチタンの割合を高くすると、圧電体層70を繰り返し駆動した際の耐久性が劣ってしまうが、本実施形態のように、第2圧電体層72のジルコニウムに対するチタンの割合を、第1圧電体層71に比べて低くすることで、圧電体層70全体での繰り返し駆動による耐久性を維持することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、圧電体前駆体膜73を塗布、乾燥及び脱脂した後、焼成して圧電体膜74を形成するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電体前駆体膜73を塗布、乾燥及び脱脂する工程を複数回、例えば、2回繰り返し行った後、焼成することで圧電体膜74を形成するようにしてもよい。すなわち、第1圧電体層71は、複数層の圧電体膜74によって構成されるようにしてもよい。
また、上述した実施形態1では、流路形成基板10として、結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
また、上述した実施形態1では、第1圧電体層71と第2圧電体層72とを形成する際に用いるゾルとして、ジルコニウムに対するチタンの割合が異なるものを用いるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、ジルコニウムに対するチタンの割合が同一のゾルを用いて第1圧電体層71及び第2圧電体層72を形成するようにしてもよい。このような場合であっても、第1圧電体層71には、種チタン層61のチタンが拡散するため、第1圧電体層71のジルコニウムに対するチタンの割合は、第2圧電体層72に比べて高くすることができる。ちなみに、第1圧電体層71の表面にチタンからなる結晶種62を設けた場合には、第2圧電体層72にもチタンが拡散するものの、第2圧電体層72の膜厚を第1圧電体層71よりも厚くすることで第2圧電体層72の全体でのジルコニウムに対するチタンの割合は、第1圧電体層71に比べて低くなる。
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子及びその製造方法並びにその駆動方法に限られず、他の装置に搭載される圧電素子及びその製造方法並びにその駆動方法にも適用することができる。
実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの要部拡大断面図である。 実施形態1に係るチタンの割合と格子定数との関係を示すグラフである。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
符号の説明
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバ部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60 下電極膜、 61 種チタン層、 62 結晶種、 70 圧電体層、 71 第1圧電体層、 72 第2圧電体層、 74 圧電体膜、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 120 駆動回路、 121 接続配線、 300 圧電素子

Claims (7)

  1. 下電極と、該下電極上に形成され、Pb、Zr、Tiを有する圧電体層と、該圧電体層上に設けられた上電極と、からなる圧電素子であって、
    前記圧電体層が、前記下電極側の第1圧電体層と、該第1圧電体層上に設けられた導電性酸化金属と、該導電性酸化金属上に設けられた第2圧電体層と、を備え、
    前記第1圧電体層と第2圧電体層とが導電性酸化金属により、結晶が連続しない分断された段構造であり、
    前記第1圧電体層のZrに対するTiの割合が、前記第2圧電体層のZrに対するTiの割合に対して高いことを特徴とする圧電素子。
  2. 前記導電性酸化金属は、酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
  3. 前記第1圧電体層の格子定数が、前記第2圧電体層の格子定数よりも0.1〜0.5%小さいことを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の圧電素子
  4. 前記第1圧電体層の厚さが、前記第2圧電体層の厚さに比べて薄いことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電素子
  5. 請求項1〜4の何れか一項に記載の圧電素子を具備することを特徴とする液体噴射ヘッド
  6. 請求項5に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
  7. 基板上に下電極を形成する工程と、該下電極上にPb、Zr、Tiを含むゾルを塗布して圧電体前駆体膜を形成すると共に前記圧電体前駆体膜を焼成して結晶化して圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行ってPb、Zr、Tiを有する複数の圧電体膜で構成される圧電体層を形成する工程と、該圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、
    前記圧電体層を形成する工程では、前記下電極側の第1圧電体層と、前記上電極側の第2圧電体層とからなる当該圧電体層を形成すると共に、前記第1圧電体層を形成するゾルとして、Zrに対するTi濃度が、前記第2圧電体層を形成するゾルのZrに対するTi濃度に比べて高いものを用いると共に、前記第1圧電体層を形成した後、当該第1圧電体層上に導電性酸化金属を形成し、その後、該導電性酸化金属上に前記第2圧電体層を形成することで、前記第1圧電体層のZrに対するTiの割合が、前記第2圧電体層のZrにおけるTiの割合に対して高くなるように形成すると共に、
    前記第1圧電体層と前記第2圧電体層との間で結晶が分断されて間に界面が存在する段構造とすることを特徴とする圧電素子の製造方法。
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