以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの平面図及び断面図であり、図3は、圧電素子の要部拡大断面図である。
本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIを構成する流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には酸化シリコンを主成分とする弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、本実施形態の酸化膜である酸化ジルコニウムを主成分とする絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、チタン又はチタンを主成分とする島状の応力緩和層56と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、が積層形成されて圧電素子300(本実施形態の圧力発生素子)を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
絶縁体膜55上に形成された島状の応力緩和層56は、絶縁体膜55の第1電極60側の面に亘って均一に点在している。すなわち、応力緩和層56が均一に点在しているとは、応力緩和層56が絶縁体膜55の第1電極60側の面に亘って連続して設けられておらず、絶縁体膜55上に、島状に分断されて複数設けられていることを言う。また、応力緩和層56が均一に点在しているとは、絶縁体膜55の単位面積当たりの応力緩和層56の個数が、何れの領域でも略同じであることを言う。
このような応力緩和層56は、絶縁体膜55を形成する酸化ジルコニウム及び第1電極60の絶縁体膜55側の材料(詳しくは後述する白金からなる導電層61)よりもヤング率が低いものである。酸化ジルコニウムのヤング率は、200〜220GPa程度であり、白金のヤング率は160〜180GPa程度である。そして、応力緩和層56は、詳しくは後述するが、絶縁体膜55上の全面に亘って連続する層を形成後、加熱することで連続する層の一部を第1電極60側に拡散させて島状に形成される。したがって、製造方法を考慮すると、応力緩和層56は、加熱により第1電極60に拡散し易い材料であるのが好ましい。なお、ここで言う加熱とは、圧電体層70を焼成して結晶化する際の加熱である。また、応力緩和層56が第1電極60側に拡散するためには、第1電極60の材料の選定も重要である。
このような応力緩和層56の材料としては、チタン又はチタンを主成分とするものが好適である。チタンは、ヤング率が、106〜113GPa程度であり、加熱によって白金からなる導電層61側に容易に拡散するものである。なお、チタンを主成分とするとは、チタン以外の成分を含むものを指すが、例えば、応力緩和層56の全てが酸化チタンや窒化チタンなどのチタン化合物で形成されると、応力緩和層56のヤング率が高くなってしまう。このため、応力緩和層56がチタン化合物を含む場合には、その全てがチタン化合物となっているのではなく、応力緩和層56の一部、例えば、第1電極60側等に含むものであればよい。
このような応力緩和層56は、上記ヤング率及び加熱時の拡散条件を有するものであれば、チタン及びチタンを主成分とするものに限定されるものではない。応力緩和層56のその他の材料としては、加熱による拡散速度が比較的速く、高融点材料、例えば、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)が挙げられる。
このような応力緩和層56は、酸化膜である絶縁体膜55上に第1電極60を形成した際の内部応力を緩和するものであると共に、圧電素子300を駆動させた際の絶縁体膜55と第1電極60との界面の応力を緩和するものである。
ここで、絶縁体膜55と第1電極60とをヤング率の異なる材料で積層すると、絶縁体膜55と第1電極60との界面にヤング率の差異に比例する応力差が生じる。この応力差によって、層間剥離が発生するなどの密着力の低下が生じる。これに対して、本発明のように、絶縁体膜55の第1電極60側の表面に島状の応力緩和層56を均一に点在させることで、応力緩和層56が絶縁体膜55と第1電極60との界面の応力差を吸収し、圧電素子300を変形させた際に、絶縁体膜55及び第1電極60が滑らかに変形する。ちなみに、絶縁体膜55と第1電極60との間に亘って連続する応力緩和層を設けた場合、圧電素子300からの応力伝播が応力緩和層で吸収されてしまい、振動板の変位量が小さくなってしまう。すなわち、絶縁体膜55の第1電極60側の表面に島状の応力緩和層56を均一に点在させることで、絶縁体膜55と第1電極60との界面のヤング率の差異による応力差を吸収して密着性を向上することができると共に、圧電素子300の応力を応力緩和層56が形成されていない領域で第1電極60から絶縁体膜55に伝播させて、振動板に所望の変位を行わせることができる。
なお、応力緩和層56上に形成された第1電極60は、絶縁体膜55側に白金(Pt)からなる導電層61を有する。本実施形態では、第1電極60として、白金からなる導電層61と、導電層61上に形成された拡散防止層62とを設けるようにした。
導電層61は、第1電極60の導電性を確保するものであり、導電性が高い(抵抗が低い)材料を用いることができる。拡散防止層62としては、例えば、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pb)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)及びオスミウム(Os)からなる群から選択される少なくとも一つの元素を主成分とする金属又はこれらの酸化物が挙げられる。本実施形態では、詳しくは後述するが、導電層61上にイリジウムを形成後、圧電体層70を加熱焼成して形成した際に同時に加熱されることで、酸化イリジウム(IrO2)からなる拡散防止層62を設けた。なお、拡散防止層62は、詳しくは後述する圧電体層70を加熱焼成して結晶化させる際に、導電層61に含まれるチタンが圧電体層70に拡散するのを防止すると共に、圧電体層70の成分が第1電極60に拡散するのを防止するためのものである。
圧電体層70は、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物からなる。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。
圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を0.5〜5μm前後の厚さで形成した。
圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、インクカートリッジやインクタンクなどのインク貯留手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
以上説明したように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、酸化膜である絶縁体膜55と第1電極60との間に、島状の応力緩和層56を設けるようにしたため、応力緩和層56によって絶縁体膜55と第1電極60との応力差を吸収させて密着性を向上し、層間剥離を抑制することができる。これにより、長期耐久性に優れた圧電素子300を実現できる。
また、島状の応力緩和層56を絶縁体膜55の第1電極60側の面に亘って均一に点在するようにしたため、絶縁体膜55と第1電極60との間には、応力緩和層56が形成されていない領域が存在する。このため、圧電素子300を変位させた際に、応力緩和層56が設けられていない領域によって圧電素子300の変位を第1電極60から絶縁体膜55に伝播させることができる。これにより、圧電素子300及び振動板の変位特性を向上することができる。
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドIの製造方法について、図4〜図8を参照して説明する。なお、図4〜図8は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。
次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、例えば、スパッタリング法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。
次いで、図4(c)に示すように、絶縁体膜55の流路形成基板用ウェハー110とは反対側の全面に亘って連続するチタン層156を形成する。
チタン層156の厚さとしては、例えば、圧電体層70を焼成により形成する際の温度によってチタン層156の一部のチタンが第1電極60内に拡散する拡散量が変化するため、圧電体層70を構成する圧電体膜の一層目の焼成温度に基づいて適宜決定すればよい。本実施形態では、圧電体前駆体膜71を700℃以上で焼成するため、チタン層156の厚さとしては、2nm〜20nm程度が好適である。ちなみに、チタン層156の厚さが2nmより薄いと、圧電体前駆体膜71を焼成して圧電体膜を形成した際に同時に加熱されることによって、全てのチタン層156が第1電極60内に拡散し、絶縁体膜55と第1電極60との界面に応力緩和層56を形成することができない。また、チタン層156が20nmよりも厚いと、圧電体前駆体膜71を焼成した際にチタン層156が拡散しきれず、応力緩和層56が絶縁体膜55と第1電極60との間に亘って連続して形成されてしまう。
次いで、図5(a)に示すように、チタン層156上に導電層61と拡散防止層62とからなる第1電極60を形成する。具体的には、まず、絶縁体膜55上に、チタン層156上に白金(Pt)からなる導電層61を形成する。次に、導電層61上に拡散防止層62を形成する。これにより、導電層61及び拡散防止層62からなる第1電極60が形成される。なお、拡散防止層62は、後の工程で圧電体前駆体膜71を加熱焼成して圧電体膜を形成する際に、第1電極60の成分が圧電体層70に拡散するのを防止すると共に圧電体層70の成分が第1電極60に拡散するのを防止するためのものである。拡散防止層62としては、リジウム(Ir)、パラジウム(Pb)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)及びオスミウム(Os)からなる群から選択される少なくとも一つの元素を主成分とする金属又はこれらの酸化物が挙げられる。このような拡散防止層62の厚さは、5〜20nmが好ましい。本実施形態では、拡散防止層62として、イリジウム層を設けた。また、拡散防止層62は、圧電体前駆体膜71を加熱焼成する際に同時に加熱されて酸化ジルコニウムとなる。また、第1電極60は、後の工程で圧電体前駆体膜71を加熱焼成する際に同時に加熱されて、チタン層156の一部が拡散される。
このような導電層61及び拡散防止層62は、スパッタリング法により形成することができる。導電層61をスパッタリング法により製造する際の条件としては、圧力が1.0Pa以下で、パワー密度が3kW/m2以下であるのが好適である。ちなみに、導電層61を高圧で且つ高いパワー密度で形成すると、白金からなる導電層61の柱状結晶が乱れてチタン層156の一部の拡散が良好に行われない。本実施形態では、上記製造条件で導電層61を形成することで、後の工程でチタン層156の一部を導電層61を介して第1電極60内に拡散することができる。
次いで、図5(b)に示すように、第1電極60上にチタン(Ti)からなる結晶種層63を形成する。このように第1電極60の上に結晶種層63を設けることにより、後の工程で第1電極60上に結晶種層63を介して圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の優先配向方位を(100)または(111)に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。なお、結晶種層63は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成後には圧電体層70内に拡散するものである。また、本実施形態では、結晶種層63として、チタン(Ti)を用いるようにしたが、結晶種層63は、後の工程で圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の結晶の核となるものであれば、特にこれに限定されず、例えば、結晶種層63として、酸化チタン(TiO2)を用いてもよい。もちろん、第1電極60と圧電体層70との間に結晶種層63が残留するようにしてもよい。
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法等を用いてもよい。
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図5(c)に示すように、結晶種層63上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、第1電極60が形成された流路形成基板10上に有機金属化合物を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を170〜180℃で8〜30分間保持することで乾燥することができる。
次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を300〜400℃程度の温度に加熱して約10〜30分保持することで脱脂した。なお、ここでいう脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。
次に、図6(a)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程では、圧電体前駆体膜71を700℃以上に加熱するのが好ましい。また、焼成工程では、上記温度で10分以上の加熱を行えば、チタン層156の第1電極60への拡散を十分に行わせることができる。なお、焼成工程では、昇温レートを15℃/sec以下とするのが好ましい。これにより優れた特性の圧電体膜72を得ることができる。
なお、このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
また、圧電体前駆体膜71を加熱焼成して圧電体膜72を形成する圧電体膜形成工程を行うことで、チタン層156及び第1電極60も同時に加熱される。このとき、チタン層156のチタンは、第1電極60内に拡散し易い材料からなるため、その一部が第1電極60に拡散する。これにより、絶縁体膜55と第1電極60との界面に亘って均一に点在する島状の応力緩和層56を形成することができる。すなわち、チタン層156は、その全てが第1電極60内に拡散してしまうのではなく、その一部が第1電極60内に拡散することによって、絶縁体膜55と第1電極60との界面に島状に均一に残留する。
このように、チタン層156の一部のチタンを第1電極60内に拡散することによって、絶縁体膜55上に第1電極60を形成することによって発生した内部応力を緩和することができる。すなわち、絶縁体膜55上に第1電極60を形成すると、これらのヤング率の違いから、それぞれの内部応力に差が生じる。この内部応力の差を、チタン層156の一部を第1電極60に拡散することによって緩和することができる。
また、上述したように、イリジウム(Ir)からなる拡散防止層62は、圧電体膜形成工程によって加熱されて酸化され、酸化イリジウム(IrO2)となる。なお、拡散防止層62は、全てが酸化イリジウム(IrO2)となっていなくてもよく、酸化されないイリジウム(Ir)が残留してもよい。
さらに、上述したように、拡散防止層62上に形成された結晶種層63は、圧電体膜72内に拡散する。もちろん、結晶種層63は、第1電極60と圧電体膜72との間にチタンとして残留してもよいし、酸化チタンとして残留してもよい。
次に、図6(b)に示すように、第1電極60上に1層目の圧電体膜72を形成した段階で、第1電極60及び1層目の圧電体膜72をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。なお、第1電極60及び1層目の圧電体膜72のパターニングは、例えば、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。
ここで、例えば、第1電極60の上に結晶種層63を形成した後にパターニングしてから1層目の圧電体膜72を形成する場合、フォト工程・イオンミリング・アッシングして第1電極60をパターニングするために結晶種層63が変質してしまい、変質した結晶種層63上に圧電体膜72を形成しても当該圧電体膜72の結晶性が良好なものではなくなり、2層目以降の圧電体膜72も1層目の圧電体膜72の結晶状態に影響して結晶成長するため、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができない。
それに比べ、1層目の圧電体膜72を形成した後に第1電極60と同時にパターニングすれば、1層目の圧電体膜72は結晶種層63に比べて2層目以降の圧電体膜72を良好に結晶成長させる種(シード)としても性質が強く、たとえパターニングで表層に極薄い変質層が形成されていても2層目以降の圧電体膜72の結晶成長に大きな影響を与えない。
次に、図6(c)に示すように、1層目の圧電体膜72と第1電極60とをパターニングした後は、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことにより複数層の圧電体膜72からなる圧電体層70を形成する。ここで、例えば、2層目以降の圧電体膜72の焼成温度は、1層目の圧電体膜72の焼成温度に比べて低くするのが好ましい。これによれば、1層目の圧電体前駆体膜71の焼成時の加熱によって、主にチタン層156の一部を第1電極60に拡散させて、2層目以降の圧電体前駆体膜71の焼成時にチタン層156の一部が第1電極60に拡散する拡散量を低減させて、チタン層156の拡散量を制御し易くするためである。同じ理由から、2層目以降の圧電体前駆体膜71の焼成時間は、1層目の圧電体前駆体膜71の焼成時間に比べて短くするのが好ましい。ただし、チタン層156の拡散量は、加熱時間よりも加熱温度の方が支配的であるため、温度条件を既定する方が好適である。
次に、図7(a)に示すように、圧電体層70上に亘って、例えば、イリジウム(Ir)からなる第2電極80を形成した後、圧電体層70及び第2電極80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。圧電体層70及び第2電極80のパターニングとしては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
次に、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合する。
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。
次いで、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド2とする。
(実施例)
実施例として、チタン層156を20nmで形成した以外、上述した実施形態1の製造方法と同じ条件で応力緩和層56を形成した。
(比較例)
比較例として、チタン層156を50nmで形成した以外、実施例と同じ条件で応力緩和層を形成した。
そして、これら実施例と比較例との応力緩和層について、厚さ方向の断面を透過型電子顕微鏡で観察すると共に、エネルギー分散型X線分析(EDX測定)を行った。この結果を図9に示す。なお、図9(a)は実施例のTEM画像及びEDX測定結果であり、図9(b)は比較例のTEM画像及びEDX測定結果である。
図9(a)に示すように、実施例の厚さが20nmのチタン層156を用いて形成した応力緩和層56は、島状に点在して形成されるのに対し、図9(b)に示すように、比較例の厚さが50nmのチタン層を用いて形成した応力緩和層は、絶縁体膜55と第1電極60との間に亘って連続して層状に形成された。このことから、拡散前のチタン層156の厚さを、20nm以下とすれば、島状に点在する応力緩和層56を形成することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、圧電体前駆体膜71を塗布、乾燥及び脱脂した後、焼成して圧電体膜72を形成するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電体前駆体膜71を塗布、乾燥及び脱脂する工程を複数回、例えば、2回繰り返し行った後、焼成することで圧電体膜72を形成するようにしてもよい。
また、上述した実施形態1では、導電層61及び拡散防止層62を有する第1電極60を形成した後、圧電体層70を加熱焼成して形成する製造方法を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、第1電極60として、絶縁体膜55側にイリジウムからなるイリジウム層を有するものであってもよい。また、上述した応力緩和層56は、導電性を有するため、第1電極60の一部としても機能する。
さらに、上述した実施形態1では、流路形成基板10として、結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
また、これら上述したインクジェット式記録ヘッドIは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図10は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
図10に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。
また、液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置IIを挙げて説明したが、上述した他の液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置にも用いることが可能である。
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエーター装置の製造方法に限られず、他の装置に搭載されるアクチュエーター装置にも適用することができる。