JP2012199445A - 圧電素子の製造方法、圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧電体層のクラックを抑制することができる圧電素子の製造方法、圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】絶縁体膜55上に第1電極60を形成する工程と、第1電極60上に圧電体前駆体膜を形成し、圧電体前駆体膜を焼成することで結晶化した圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って、複数層の圧電体膜からなる圧電体層70を形成する工程と、を具備し、第1電極60上に1層目の圧電体膜72を形成した後、第1電極60と圧電体膜72とをパターニングすることにより、第1電極60及び圧電体膜72の側面を傾斜させる工程と、絶縁体膜55上、第1電極60及び1層目の圧電体膜72の側面上、及び1層目の圧電体膜72上に島状のランタンニッケル酸化物200を形成する工程と、を具備する。
【選択図】図6
【解決手段】絶縁体膜55上に第1電極60を形成する工程と、第1電極60上に圧電体前駆体膜を形成し、圧電体前駆体膜を焼成することで結晶化した圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って、複数層の圧電体膜からなる圧電体層70を形成する工程と、を具備し、第1電極60上に1層目の圧電体膜72を形成した後、第1電極60と圧電体膜72とをパターニングすることにより、第1電極60及び圧電体膜72の側面を傾斜させる工程と、絶縁体膜55上、第1電極60及び1層目の圧電体膜72の側面上、及び1層目の圧電体膜72上に島状のランタンニッケル酸化物200を形成する工程と、を具備する。
【選択図】図6
Description
本発明は、第1電極、圧電体層及び第2電極を有する圧電素子の製造方法、圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、例えば、電気的機械変換機能を呈する圧電材料を2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
この種のインクジェット式記録ヘッドの一種として、圧力発生室が形成された流路形成基板の一方面側に酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜、第1電極、圧電体層及び第2電極を有する圧電素子を配設したものがある。ここで、圧電体層としては鉛、ジルコニウム及びチタンを含んだ、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等を用いたものが汎用されている。
しかしながら、酸化ジルコニウムの絶縁体膜上に圧電体層(PZT)を成膜すると1μmを超える粒径を持つ結晶の圧電体層が形成されてしまい、圧電素子に電圧を印加した際に破損の起点となり易いという問題がある。
このため、絶縁体膜上にチタンを設けることで、圧電体層の大粒径化を抑制したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1では、絶縁体膜上の全面に亘って第1電極を形成した後、第1電極上に1層目の圧電体膜を形成し、第1電極及び1層目の圧電体膜をパターニングした後、絶縁体膜上と1層目の圧電体膜上とに亘って核となるチタンを設け、このチタンの上に2層目以降の圧電体膜を形成している。
しかしながら、特許文献1のようにチタンを設けた場合であっても、第1電極と絶縁体膜との境界部分に小穴が発生し、圧電素子に電圧を印加した際に、この小穴を起点として圧電体層にクラックが発生してしまうという問題がある。
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。また、液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限定されず、他のデバイスに搭載される圧電素子においても同様に存在する。
本発明はこのような事情に鑑み、圧電体層のクラックを抑制することができる圧電素子の製造方法、圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の態様は、絶縁体膜と、該絶縁体膜上に設けられた第1電極と、該第1電極上に設けられて、鉛、ジルコニウム及びチタンを含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に設けられた第2電極と、を具備する圧電素子の製造方法であって、前記絶縁体膜上に前記第1電極を形成する工程と、該第1電極上に圧電体前駆体膜を形成し、該圧電体前駆体膜を焼成することで結晶化した圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って、複数層の前記圧電体膜からなる前記圧電体層を形成する工程と、を具備し、前記第1電極上に1層目の前記圧電体膜を形成した後、当該第1電極と前記圧電体膜とをパターニングすることにより、前記第1電極及び前記圧電体膜の側面を傾斜させる工程と、前記絶縁体膜上、前記第1電極及び1層目の前記圧電体膜の側面上、及び1層目の前記圧電体膜上に島状のランタンニッケル酸化物を形成する工程と、を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、絶縁体膜上にランタンニッケル酸化物を設けることで、絶縁体膜上に結晶が微小粒径の圧電体層を形成することができると共に、圧電体層の絶縁体膜と第1電極との境界に小穴が形成されるのを抑制することができ、小穴を起点としたクラックの発生を抑制することができる。また、ランタンニッケル酸化物によって圧電体層の結晶配向を制御することができ、圧電特性に優れた圧電体層を有する圧電素子を製造することができる。さらに、ランタンニッケル酸化物を島状に形成することで、ランタンニッケル酸化物が電極として機能するのを抑制して、圧電素子の実質的な駆動部となる圧電体能動部を第1電極によって規定することができる。
かかる態様では、絶縁体膜上にランタンニッケル酸化物を設けることで、絶縁体膜上に結晶が微小粒径の圧電体層を形成することができると共に、圧電体層の絶縁体膜と第1電極との境界に小穴が形成されるのを抑制することができ、小穴を起点としたクラックの発生を抑制することができる。また、ランタンニッケル酸化物によって圧電体層の結晶配向を制御することができ、圧電特性に優れた圧電体層を有する圧電素子を製造することができる。さらに、ランタンニッケル酸化物を島状に形成することで、ランタンニッケル酸化物が電極として機能するのを抑制して、圧電素子の実質的な駆動部となる圧電体能動部を第1電極によって規定することができる。
ここで、前記ランタンニッケル酸化物を形成する工程では、4mm以上、20mm以下の厚さで形成することが好ましい。これによれば、圧電体層に小穴が発生するのを確実に抑制することができると共に、ランタンニッケル酸化物が電極として機能するのを抑制して、圧電素子の実質的な駆動部となる圧電体能動部を第1電極によって規定することができる。
また、前記第1電極が、独立して複数設けられていると共に、前記第2電極が複数に独立して設けられた第1電極に亘って連続して設けられていることが好ましい。これによれば、圧電体層を覆う絶縁材料の保護膜が不要となると共に、島状のランタンニッケル酸化物によって独立した第1電極同士が導通するのを抑制することができる。
また、前記ランタンニッケル酸化物は、スパッタリング法により形成することが好ましい。これによれば、島状のランタンニッケル酸化物を容易に形成することができる。
さらに、本発明の他の態様は、絶縁体膜と、該絶縁体膜上に設けられた第1電極と、該第1電極上に設けられて、鉛、ジルコニウム及びチタンを含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に設けられた第2電極と、を具備する圧電アクチュエーターと、を具備し、前記圧電体層が複数層の圧電体膜が積層されて構成されており、前記絶縁体膜上と、前記第1電極の側面上と、前記圧電体膜の1層目の側面上と、1層目の前記圧電体膜上とには、島状のランタンニッケル酸化物が形成されていることを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、結晶性に優れた圧電体層を有すると共に、圧電体層の破壊を抑制した圧電素子を実現できる。
かかる態様では、結晶性に優れた圧電体層を有すると共に、圧電体層の破壊を抑制した圧電素子を実現できる。
また、本発明の他の態様は、上記態様の圧電素子を、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として具備することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、液体噴射特性に優れ、圧電体層の破壊を抑制して信頼性を向上した液体噴射ヘッドを実現できる。
かかる態様では、液体噴射特性に優れ、圧電体層の破壊を抑制して信頼性を向上した液体噴射ヘッドを実現できる。
また、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、液体噴射特性に優れ、圧電体層の破壊を抑制して信頼性を向上した液体噴射装置を実現できる。
かかる態様では、液体噴射特性に優れ、圧電体層の破壊を抑制して信頼性を向上した液体噴射装置を実現できる。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの圧力発生室の第2の方向の断面図であり、図3は、図2のA−A′線断面図及びその要部を拡大した断面図である。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの圧力発生室の第2の方向の断面図であり、図3は、図2のA−A′線断面図及びその要部を拡大した断面図である。
図示するように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向と称する。また、流路形成基板10の圧力発生室12の第1の方向と直交する第2の方向の外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅(第1の方向)で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。絶縁体膜55としては、例えば、酸化ジルコニウムや、酸化ジルコニウムに酸化イットリウムを添加した、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などを用いることができる。
また、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが積層形成されている。ここで、本実施形態では、絶縁体膜55、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分を圧電素子300と言う。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、圧電体層70の2つの電極に挟持された領域で、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極60を各圧力発生室12毎に設けることで、圧電素子300の個別電極とし、第2電極80を複数の圧力発生室12に亘って設けることで共通電極としている。すなわち、第1電極60を複数に切り分けて独立して設けて個別電極とし、第2電極80を複数の第1電極60に相対向する領域に亘って電気的に連続して設けることで共通電極としている。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。
ここで、圧電素子300の構成について図2及び図3を参照して詳細に説明する。
図示するように、圧電素子300を構成する第1電極60は、各圧力発生室12に対応して独立して設けられている。ここで、第1電極60が各圧力発生室12に対応して独立して設けられているとは、第1電極60が圧力発生室12の並設方向において不連続となるように切り分けられていることを言う。本実施形態では、第1電極60を圧力発生室12の第1の方向の幅(圧力発生室12の並設方向における幅)よりも幅狭に設けることで、第1電極60を各圧力発生室12に対応して独立して設けるようにした。
また、このような圧力発生室12毎に独立して設けられた第1電極60同士は、電気的に導通されないようにすることで、圧電素子300の個別電極として機能する。
さらに、圧力発生室12の第2の方向において、第1電極60のインク供給路14とは反対側の端部には、圧電体層70の端部よりも外側まで延設された延設部65が設けられている。この延設部65の端部は、圧電体層70によって覆われずに露出されることで、詳しくは後述する駆動回路120と電気的に接続される接続端子となっている。すなわち、第1電極60は、圧電素子300から引き出されて駆動回路120が接続される引き出し配線としても機能する。もちろん、第1電極60とは異なる導電性を有する配線を引き出し配線として別途設けるようにしてもよい。
このような第1電極60は、少なくとも圧力発生室12の並設方向(第1の方向)の両側の側面が傾斜して設けられている。第1電極60の側面の傾斜は、第1電極の面積が流路形成基板10側ほど広くなるように傾斜されている。
圧電体層70は、本実施形態では、圧力発生室12に対応して独立して設けられている。すなわち、圧力発生室12毎に設けられた圧電体層70は、圧力発生室12の並設方向において不連続となるように圧力発生室12毎に切り分けられて設けられていることを言う。
圧電体層70は、圧力発生室12の第1の方向(圧力発生室12の並設方向)において、第1電極60よりも幅広で、且つ圧力発生室12の第1の方向の幅よりも幅狭に設けられており、圧電体層70は第1電極60の幅方向の端面を覆っている。
また、圧電体層70は、圧力発生室12の第2の方向(圧力発生室12の並設方向と交差する方向)において、圧力発生室12よりも長く設けられている。本実施形態では、圧電体層70は、圧力発生室12の第2の方向において第1電極60のインク供給路14側の端部を覆う大きさで設けられている。
さらに、圧電体層70は、圧力発生室12の第2の方向において、第1電極60の連通部13とは反対側の端部よりも短く設けられており、第1電極60の引き出し配線の一部を露出している。この露出された第1電極60の延設部65に駆動回路120が電気的に接続される。
なお、圧電体層70は、電気機械変換作用を示す圧電材料、例えば、ペロブスカイト構造を有し、金属としてZrやTiを含む強誘電体材料、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化マグネシウム及び酸化ランタン等の金属酸化物を添加したもの等からなる。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又はマグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等が挙げられる。
また、圧電体層70は、結晶が(100)面に優先配向しており、その結晶構造は、単斜晶系(monoclinic)となっている。なお、本発明で「結晶が(100)面に優先配向している」とは、全ての結晶が(100)面に配向している場合と、ほとんどの結晶(例えば、90%以上)が(100)面に配向している場合と、を含むものである。また、本発明で「結晶構造が、単斜晶系(monoclinic)となっている」とは、全ての結晶が単斜晶系である場合と、ほとんど全ての結晶(例えば、90%以上)が単斜晶系であり、単斜晶系ではない残りの結晶が正方晶系(tetragonal)等である場合と、を含むものである。
さらに、圧電体層70は、分極方向が膜面垂直方向(圧電体層70の厚さ方向)に対して所定角度傾いているエンジニアード・ドメイン配置であることが望ましい。
圧電体層70の厚さについては、特に限定されないが、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成すればよい。例えば、圧電体層70を0.2〜5μm前後の厚さで形成することで、所望の結晶構造を得ることが容易となる。本実施形態においては、最適な圧電特性を得るため、圧電体層70の膜厚を1.2μmとした。
また、圧電体層70の製造方法は特に限定されず、例えば、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成することができる。もちろん、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等のいわゆる薄膜形成方法を採用することができる。
さらに、本実施形態の圧電体層70は、詳しくは後述する製造方法によって、圧電体膜72を積層することで形成されている。このように、圧電体膜72を積層することによって、膜厚の比較的厚い圧電体層70を良好な結晶状態で形成することができる。
なお、本実施形態では、圧電体層70を圧力発生室12毎に独立して設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電体層70を複数の圧力発生室12に亘って連続するように設けてもよい。本実施形態では、圧電体層70を圧力発生室12毎に切り分けて独立して設けることで、圧電体層70が圧電素子300の変位を阻害することがない。また、例えば、圧電体層70を圧力発生室12の並設方向に連続して設ける場合には、圧力発生室12を画成する隔壁11上の圧電体層70に貫通孔を設けることで、圧電素子300の変位を阻害するのを抑制するようにしてもよい。
第2電極80は、複数の圧力発生室12の並設方向に亘って連続して設けられている。ここで、第2電極80が複数の圧力発生室12に連続して設けられているとは、図3(a)に示すように、隣り合う圧力発生室12の間で連続しているものを含む。もちろん、第2電極80は、隣り合う圧力発生室12を画成する隔壁11上で不連続となるようにしてもよい。
また、第2電極80は、圧力発生室12の第2の方向(圧力発生室12の並設方向と交差する方向)において、圧力発生室12に相対向する領域内に設けられている。すなわち、第2電極80の第2の方向(圧力発生室12の第2の方向)の端部は、圧力発生室12の領域内に位置するように設けられている。
また、第2電極80は、圧力発生室12の第2の方向において、第1電極60の端部よりも内側(圧力発生室12の中央側)、すなわち、第1電極60よりも圧力発生室12側が端部となるように設けられており、第2電極80が圧電体層70の圧電体能動部320の第2の方向の両端部を規定している。
このような第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を有する圧電素子300では、第1電極60の幅方向(圧力発生室12の第1の方向であって並設方向のこと)の端部によって、圧電体層70の実質的な駆動部である圧電体能動部320の第1の方向(幅)の端部が規定され、第2電極80の第2の方向(圧力発生室12の第2の方向)の端部によって、圧電体能動部320の第2の方向の端部(長さ)が規定されている。
また、図3(b)に示すように、本実施形態の圧電素子300は、絶縁体膜55上(流路形成基板10とは反対面側)と、第1電極60の側面上と、1層目の圧電体膜72の側面上と、1層目の圧電体膜72上(流路形成基板10とは反対面側)とに亘って、島状のランタンニッケル酸化物(LNO)200が設けられている。すなわち、ランタンニッケル酸化物200が島状に設けられているとは、絶縁体膜55上と、第1電極60の側面上と、1層目の圧電体膜72の側面上と、1層目の圧電体膜72上とに亘って連続して設けられておらず、島状に分断されて複数設けられていることを言う。また、ランタンニッケル酸化物200は、下地(絶縁体膜55、第1電極60の側面、1層目の圧電体膜72の側面及び上面)の上に均一に点在しているのが好ましい。ここで、ランタンニッケル酸化物200が均一に点在しているとは、ランタンニッケル酸化物200の下地の単位面積当たりの個数が、何れの領域でも略同じであることを言う。これにより、ランタンニッケル酸化物200上に圧電体層70を結晶化させた際に、ランタンニッケル酸化物200の下地の違いによって結晶状態が異なる状態となるのを抑制して、均一な結晶状態で圧電体層70を形成することができる。
なお、ここで言う1層目の圧電体膜72とは、圧電体層70を構成する複数層の圧電体膜72の内、第1電極60側のものを言う。この1層目の圧電体膜72は、詳しくは後述する製造方法によって、第1電極60と同時にパターニングされ、その側面は、第1電極60と連続して傾斜している。
このランタンニッケル酸化物は、二次元方向に異方性があるランタン(La)の層状化合物であるため、(001)面に優先配向(自然配向)すると考えられる。したがって、ランタンニッケル酸化物200上に圧電体層70を形成することで、圧電体層70の結晶成長が促進され、圧電体層70を(100)面に優先配向させることができると共に、50〜200nm程度の微小粒径で形成することができる。なお、ランタンニッケル酸化物の配向方向は、c軸(層状構造の面に垂直な方向)にとる慣例があるため(001)面と表記しているが、圧電体層70は、擬キュービック構造であるため、(100)面と表記しているものである。
本実施形態では、ランタンニッケル酸化物200を絶縁体膜55上、第1電極60の側面、1層目の圧電体膜72の側面、及び1層目の圧電体膜72上に設けるようにしたため、絶縁体膜55上から1層目の圧電体膜72上に亘って連続する圧電体層70(2層目以降の圧電体膜72で構成されるもの)は、(100)面に優先配向し、且つ微小粒径で形成することができる。また、絶縁体膜55と第1電極60の側面との境界部分に小穴が形成されることがなく、圧電素子300に電圧を印加した際に、圧電体層70に小穴を起点としたクラックが入るのを抑制することができる。なお、この小穴は、圧電体層70内に実際に小さな空隙が形成されているとも、低誘電材料が形成された部分であるとも言えるが、現地点では存在は確認できるものの、空隙であるか低誘電材料であるか特定されていない。ただし、ここで言う小穴が起点となって圧電体層70にクラックが発生してしまう。
また、ランタンニッケル酸化物は導電性を有するため、ランタンニッケル酸化物200を島状に形成することで、隣り合う圧電素子300の個別電極である第1電極60同士が導通するのを抑制することができる。ちなみに、隣り合う圧電素子300でランタンニッケル酸化物を連続させた層状に形成すると、隣り合う圧電素子300の個別電極が導通してしまうため、圧電素子300を選択的に駆動することができなくなってしまう。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60及び絶縁体膜55上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールドと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120と第1電極60及び第2電極80とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4〜図9を参照して説明する。なお、図4〜図9は、圧力発生室の第1の方向の断面図である。
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜51を熱酸化等で形成する。
次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。絶縁体膜55は、ジルコニウムをスパッタリング法等により形成後、加熱することで熱酸化して形成してもよく、酸化ジルコニウムを反応性スパッタリング法により形成するようにしてもよい。
次いで、図5(a)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
次いで、図5(b)に示すように、第1電極60上にチタン(Ti)からなる結晶種層61を形成する。このように第1電極60の上に結晶種層61を設けることにより、後の工程で第1電極60上に結晶種層61を介して圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の優先配向方位を(100)に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。なお、結晶種層61は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成後には圧電体層70内に拡散するものである。また、本実施形態では、結晶種層61として、チタン(Ti)を用いるようにしたが、結晶種層61は、後の工程で圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の結晶の核となるものであれば、特にこれに限定されず、例えば、結晶種層61として、酸化チタン(TiO2)を用いてもよい。もちろん、第1電極60と圧電体層70との間に結晶種層61が残留するようにしてもよい。また、結晶種層61は、層状であっても島状であってもよい。
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、金属錯体を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図5(c)に示すように、結晶種層61上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、第1電極60(結晶種層61)が形成された流路形成基板用ウェハー110上に金属錯体を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を170〜180℃で8〜30分間保持することで乾燥することができる。
次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を300〜400℃程度の温度に加熱して約10〜30分保持することで脱脂した。なお、ここでいう脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。
次に、図5(d)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程では、圧電体前駆体膜71を700℃以上に加熱するのが好ましい。なお、焼成工程では、昇温レートを50℃/sec以上とするのが好ましい。これにより優れた特性の圧電体膜72を得ることができる。
また、第1電極60上に形成された結晶種層61は、圧電体膜72内に拡散する。もちろん、結晶種層61は、第1電極60と圧電体膜72との間にチタンとして残留してもよいし、酸化チタンとして残留してもよい。
なお、このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
次に、図5(e)に示すように、第1電極60上に1層目の圧電体膜72を形成した段階で、第1電極60及び1層目の圧電体膜72をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。なお、第1電極60及び1層目の圧電体膜72のパターニングは、例えば、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。
ここで、例えば、第1電極60をパターニングしてから1層目の圧電体膜72を形成する場合、フォト工程・イオンミリング・アッシングして第1電極60をパターニングするため、第1電極60の表面や、表面に設けた図示しないチタン等の結晶種層などが変質してしまう。そうすると変質した面上に圧電体膜72を形成しても当該圧電体膜72の結晶性が良好なものではなくなり、2層目以降の圧電体膜72も1層目の圧電体膜72の結晶状態に影響して結晶成長するため、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができない。
それに比べ、1層目の圧電体膜72を形成した後に第1電極60と同時にパターニングすれば、1層目の圧電体膜72はチタン等の結晶種に比べて2層目以降の圧電体膜72を良好に結晶成長させる種(シード)としても性質が強く、たとえパターニングで表層に極薄い変質層が形成されていても2層目以降の圧電体膜72の結晶成長に大きな影響を与えない。
次に、図6(a)に示すように、1層目の圧電体膜72と第1電極60とをパターニングした後は、絶縁体膜55上、第1電極60の側面、1層目の圧電体膜72の側面及び圧電体膜72上に亘って島状のランタンニッケル酸化物200を形成する。上述したように、ランタンニッケル酸化物200は、下地上に亘って均一に点在して設けるのが好ましい。ランタンニッケル酸化物200の形成方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法によって形成することができる。
次に、図6(b)に示すように、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことにより複数層の圧電体膜72からなる圧電体層70を形成する。ここで、2層目以降の圧電体膜72は、絶縁体膜55上、第1電極60及び1層目の圧電体膜72の側面上、及び1層目の圧電体膜72上に亘って連続して形成される。この2層目以降の圧電体膜72が形成される領域には、島状のランタンニッケル酸化物200が形成されているため、このランタンニッケル酸化物200によって2層目以降の圧電体膜72の優先配向を(100)に制御することができると共に微小粒径で形成することができる。また、ランタンニッケル酸化物200を設けることで、絶縁体膜55と第1電極60の側面との境界部分に小穴が形成されるのを抑制することができる。なお、ランタンニッケル酸化物200は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成後には、一部が圧電体層70に拡散する。
次に、図7(a)に示すように、圧電体層70を各圧力発生室12に対向する領域にパターニングする。本実施形態では、圧電体層70上に所定形状に形成したマスクを設け、このマスクを介して圧電体層70をエッチングする、いわゆるフォトリソグラフィーによってパターニングした。なお、圧電体層70のパターニングとしては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
次に、図7(b)に示すように、圧電体層70上及び絶縁体膜55上に亘って、例えば、イリジウム(Ir)からなる第2電極80を形成し、所定形状にパターニングして圧電素子300を形成する。
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35(図2参照)を介して接合した後、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。
次いで、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
(実施例)
上述した実施形態と同様の製造方法によってランタンニッケル酸化物の厚さを変更したものを実施例の圧電素子とした。
上述した実施形態と同様の製造方法によってランタンニッケル酸化物の厚さを変更したものを実施例の圧電素子とした。
(比較例)
比較のため、ランタンニッケル酸化物の代わりにチタン(Ti)を4nmで形成したものを比較例の圧電素子とした。
比較のため、ランタンニッケル酸化物の代わりにチタン(Ti)を4nmで形成したものを比較例の圧電素子とした。
(試験例)
これら各実施例及び比較例の圧電素子について、絶縁体膜上の圧電体層70の結晶が大粒径化しているか測定した。また、絶縁体膜と第1電極60の境界部分での小穴の発生状況を測定した。さらに、圧電素子に電圧を印加して圧電素子のクラックの発生率を測定した。これらの結果を下記表1に示す。なお、結晶の大粒径化及び小穴の発生状況の測定は、SEM画像により測定した。また、圧電素子のクラック発生率は、10個の流路形成基板について、各流路形成基板上に設けられた180個の圧電素子に60Vの電圧を25分間印加した際に、クラックが発生した圧電素子の数を測定した。
これら各実施例及び比較例の圧電素子について、絶縁体膜上の圧電体層70の結晶が大粒径化しているか測定した。また、絶縁体膜と第1電極60の境界部分での小穴の発生状況を測定した。さらに、圧電素子に電圧を印加して圧電素子のクラックの発生率を測定した。これらの結果を下記表1に示す。なお、結晶の大粒径化及び小穴の発生状況の測定は、SEM画像により測定した。また、圧電素子のクラック発生率は、10個の流路形成基板について、各流路形成基板上に設けられた180個の圧電素子に60Vの電圧を25分間印加した際に、クラックが発生した圧電素子の数を測定した。
表1に示すように、実施例の圧電素子の内、ランタンニッケル酸化物を4nm〜20nmの厚さで設けた圧電素子は、絶縁体膜上の圧電体層の結晶が大粒径化せず、小穴も発生しておらず、比較例のチタンを設けた圧電素子に比べて、圧電素子のクラック発生率を低く抑えることができる。
これに対して、実施例の圧電素子の内、厚さが2nmのランタンニッケル酸化物を設けた圧電素子は、クラック発生率が高くなることが分かる。これは、ランタンニッケル酸化物が薄すぎると、絶縁体膜上の圧電体層の結晶が大粒径化してしまうと共に、小穴が発生してしまうことから、ランタンニッケル酸化物が、この上に形成される圧電体層の配向を制御する機能を発揮できないからであると考えられる。
また、実施例の圧電素子の内、厚さが30nmのランタンニッケル酸化物を設けた圧電素子は、第1電極が隣の圧電素子と導通してしまい、クラックの発生率を測定することができなかった。これは、ランタンニッケル酸化物が厚すぎると、点在する島状ではなく、連続する層状に設けられて、隣り合う第1電極同士を導通して個別電極として機能させることができないためである。なお、ランタンニッケル酸化物は、連続する層状に設けられておらず、島状に設けられていれば、厚さが30nmであっても、圧電素子のクラックの発生率を定価することができるものと考えられる。
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、第1電極を複数の圧電素子の個別電極とし、第2電極を複数の圧電素子に共通する共通電極としたが、特にこれに限定されず、例えば、第1電極を共通電極、第2電極を個別電極としてもよい。この場合、ランタンニッケル酸化物を島状ではなく、層状に設けることも考えられるが、ランタンニッケル酸化物は、導電性を有するため、ランタンニッケル酸化物を層状で設けると、第1電極によって圧電体能動部の端部を規定することができず、圧電体能動部が、圧力発生室12の外側まで形成されてしまう。本実施形態では、ランタンニッケル酸化物を島状に設けることで、圧電体能動部の端部を第1電極によって規定することができ、圧電体能動部を圧力発生室12に相対向する領域内に設けて、変位特性を確保することができる。また、ランタンニッケル酸化物を層状に設けると、振動板の剛性が高くなり、圧電素子の変位低下も招く虞があるが、ランタンニッケル酸化物を島状に設けることで、振動板の剛性が高くなるのを抑えて、圧電素子の変位低下を抑制することができる。
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、第1電極を複数の圧電素子の個別電極とし、第2電極を複数の圧電素子に共通する共通電極としたが、特にこれに限定されず、例えば、第1電極を共通電極、第2電極を個別電極としてもよい。この場合、ランタンニッケル酸化物を島状ではなく、層状に設けることも考えられるが、ランタンニッケル酸化物は、導電性を有するため、ランタンニッケル酸化物を層状で設けると、第1電極によって圧電体能動部の端部を規定することができず、圧電体能動部が、圧力発生室12の外側まで形成されてしまう。本実施形態では、ランタンニッケル酸化物を島状に設けることで、圧電体能動部の端部を第1電極によって規定することができ、圧電体能動部を圧力発生室12に相対向する領域内に設けて、変位特性を確保することができる。また、ランタンニッケル酸化物を層状に設けると、振動板の剛性が高くなり、圧電素子の変位低下も招く虞があるが、ランタンニッケル酸化物を島状に設けることで、振動板の剛性が高くなるのを抑えて、圧電素子の変位低下を抑制することができる。
また、上述した例では、圧電素子300上に耐湿度性を有する保護膜を設けなくても、第1電極60の所定の端部は、圧電体層70によって覆われているため、第1電極60と第2電極80との間で電流がリークすることがなく、圧電素子300の破壊を抑制することができる。なお、第1電極60の一端部は圧電体層70の外側まで引き出されているため、圧電体層70に覆われていない部分も存在するが、第1電極60と第2電極80との間に距離があるため、特に影響が無い。もちろん、上述した例の圧電素子300に耐湿度性を有する保護膜を設けることで、圧電素子300をさらに確実に保護することができるが、上述した例の圧電素子300のように保護膜を設けないようにすることで、保護膜が圧電素子300の変位を阻害することがなく、大きな変位量を得ることができる。
さらに、上述した例では、圧電体層70を各圧力発生室12毎に切り分けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧力発生室12の並設方向に亘って連続する圧電体層70を設けるようにしてもよい。
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図10は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
図10に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明は、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子に限定されず、その他のデバイスにも用いることができる。その他のデバイスとしては、例えば、超音波発信器等の超音波デバイス、超音波モーター、圧電トランス等が挙げられる。また、センサーとして用いられる圧電素子にも本発明は適用可能である。圧電素子が用いられるセンサーとしては、例えば、赤外線センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー及び焦電センサー等が挙げられる。
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 200 ランタンニッケル酸化物、 300 圧電素子、 320 圧電体能動部
ここで、前記ランタンニッケル酸化物を形成する工程では、4nm以上、20nm以下の厚さで形成することが好ましい。これによれば、圧電体層に小穴が発生するのを確実に抑制することができると共に、ランタンニッケル酸化物が電極として機能するのを抑制して、圧電素子の実質的な駆動部となる圧電体能動部を第1電極によって規定することができる。
Claims (7)
- 絶縁体膜と、
該絶縁体膜上に設けられた第1電極と、
該第1電極上に設けられて、鉛、ジルコニウム及びチタンを含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる圧電体層と、
該圧電体層の前記第1電極とは反対側に設けられた第2電極と、を具備する圧電素子の製造方法であって、
前記絶縁体膜上に前記第1電極を形成する工程と、
該第1電極上に圧電体前駆体膜を形成し、該圧電体前駆体膜を焼成することで結晶化した圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って、複数層の前記圧電体膜からなる前記圧電体層を形成する工程と、を具備し、
前記第1電極上に1層目の前記圧電体膜を形成した後、当該第1電極と前記圧電体膜とをパターニングすることにより、前記第1電極及び前記圧電体膜の側面を傾斜させる工程と、
前記絶縁体膜上、前記第1電極及び1層目の前記圧電体膜の側面上、及び1層目の前記圧電体膜上に島状のランタンニッケル酸化物を形成する工程と、を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法。 - 前記ランタンニッケル酸化物を形成する工程では、4mm以上、20mm以下の厚さで形成することを特徴とする請求項1記載の圧電素子の製造方法。
- 前記第1電極が、独立して複数設けられていると共に、前記第2電極が複数に独立して設けられた第1電極に亘って連続して設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の圧電素子の製造方法。
- 前記ランタンニッケル酸化物は、スパッタリング法により形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電素子の製造方法。
- 絶縁体膜と、
該絶縁体膜上に設けられた第1電極と、
該第1電極上に設けられて、鉛、ジルコニウム及びチタンを含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる圧電体層と、
該圧電体層の前記第1電極とは反対側に設けられた第2電極と、を具備する圧電アクチュエーターと、を具備し、
前記圧電体層が複数層の圧電体膜が積層されて構成されており、
前記絶縁体膜上と、前記第1電極の側面上と、前記圧電体膜の1層目の側面上と、1層目の前記圧電体膜上とには、島状のランタンニッケル酸化物が形成されていることを特徴とする圧電素子。 - 請求項5に記載の圧電素子を、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として具備することを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項6に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
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