以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2(a)は、インクジェット式記録ヘッドの断面図であり、図2(b)は、図2(a)のX−X′拡大断面図である。
図示するように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。また、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、圧電体層70の2つの電極に挟持された領域で、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を活性部320という。本実施形態では、第1電極60を各圧力発生室12毎に設けることで、圧電素子300の個別電極とし、第2電極80を複数の圧力発生室12に亘って設けることで共通電極としている。すなわち、圧電体層70の第1電極60及び第2電極80に挟まれて実質的に駆動する領域を活性部320とし、圧電体層70の一方の電極60、80又は両方の電極が設けられておらず、実質的に駆動しない領域を非活性部330としている。また、ここでは、変位可能な圧電素子300を有する装置をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
ここで、圧電素子300の構成について図3及び図4を参照して詳細に説明する。
図3及び図4に示すように、圧電素子300を構成する第1電極60は、各圧力発生室12に対応して独立して設けられている。ここで、第1電極60が各圧力発生室12に対応して独立して設けられているとは、第1電極60が圧力発生室12の並設方向において不連続となるように切り分けられていることを言う。本実施形態では、第1電極60を圧力発生室12の短手方向の幅(圧力発生室12の並設方向における幅)よりも幅狭に設けることで、第1電極60を各圧力発生室12に対応して独立して設けるようにした。
また、このような圧力発生室12毎に独立して設けられた第1電極60同士は、電気的に導通されないようにすることで、圧電素子300の個別電極として機能する。
さらに、圧力発生室12の長手方向において、第1電極60のインク供給路14とは反対側の端部には、圧電体層70の端部よりも外側まで延設された延設部65が設けられている。この延設部65の端部は、圧電体層70によって覆われずに露出されることで、詳しくは後述する駆動回路120と電気的に接続される接続端子となっている。すなわち、第1電極60は、圧電素子300から引き出されて駆動回路120が接続される引き出し配線としても機能する。もちろん、第1電極60とは異なる導電性を有する配線を引き出し配線として別途設けるようにしてもよい。
圧電体層70は、圧力発生室12の短手方向(圧力発生室12の並設方向)において、第1電極60よりも幅広で、且つ圧力発生室12の短手方向の幅よりも幅狭に設けられており、圧電体層70は第1電極60の幅方向の端面を覆っている。
また、圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向(圧力発生室12の並設方向と交差する方向)において、圧力発生室12よりも長く設けられている。本実施形態では、圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向において第1電極60のインク供給路14側の端部を覆う大きさで設けられている。
さらに、圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向において、第1電極60の連通部13とは反対側の端部よりも短く設けられており、第1電極60の引き出し配線の一部を露出している。この露出された第1電極60の端部に駆動回路120が電気的に接続される。
なお、圧電体層70は、電気機械変換作用を示す圧電材料、例えば、ペロブスカイト構造を有し金属としてZrやTiを含む強誘電体材料、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等からなる。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又はマグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等が挙げられる。
圧電体層70の厚さについては、特に限定されないが、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成すればよい。例えば、圧電体層70を0.2〜5μm前後の厚さで形成することで、所望の結晶構造を得ることが容易となる。本実施形態においては、最適な圧電特性を得るため、圧電体層70の膜厚を1.2μmとした。
また、圧電体層70の製造方法は特に限定されず、例えば、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成することができる。もちろん、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法等を用いてもよい。
なお、本実施形態では、圧電体層70を圧力発生室12毎に独立して設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電体層70を複数の圧力発生室12に亘って連続するように設けてもよい。本実施形態では、圧電体層70を圧力発生室12毎に切り分けて独立して設けることで、圧電体層70が圧電素子300の変位を阻害することがない。
第2電極80は、複数の圧力発生室12の並設方向に亘って連続して設けられている。ここで、第2電極80が複数の圧力発生室12に連続して設けられているとは、図3(a)に示すように、隣り合う圧力発生室12の間で連続しているものも、また、隣り合う圧力発生室12の間で一部切り分けられているものも含む。
また、第2電極80は、圧力発生室12の長手方向(圧力発生室12の並設方向と交差する方向)において、圧力発生室12に相対向する領域内に設けられている。すなわち、第2電極80の長手方向(圧力発生室12の長手方向)の端部は、圧力発生室12の領域内に位置するように設けられている。
また、第2電極80は、第1電極60の延設部65側で、第1電極60よりも内側(圧力発生室12の中央側)、すなわち、第1電極60よりも圧力発生室12側が端部となるように設けられており、第2電極80が圧電体層70の活性部320の長手方向の端部を規定している。
このような第1電極60、圧電体層70及び第2電極80で構成される圧電素子300では、第1電極60の幅方向(圧力発生室12の短手方向であって並設方向のこと)の端部によって、圧電体層70の実質的な駆動部である活性部320の短手方向(幅)の端部が規定され、第2電極80の長さ方向(圧力発生室12の長手方向)の端部によって、活性部320の長手方向の端部(長さ)が規定されている。そして、それ以外の圧電体層70の領域、すなわち、第1電極60及び第2電極80の何れか一方又は両方が設けられていない領域を非活性部330としている。したがって、活性部320と非活性部330との境界は、第1電極60と第2電極80とによって規定されている。ここで、本実施形態では、圧力発生室12の長手方向における活性部320と非活性部330との境界について、インク供給路14側を境界A、インク供給路14とは反対側(延設部65側)を境界Bとしている。
このような圧電素子300の第1電極60の上方、すなわち、第2電極80側には、低誘電体層200が設けられている。
低誘電体層200は、圧力発生室12の並設方向と交差する方向(圧力発生室12の長手方向)において、活性部320と非活性部330との境界A、Bの一方の境界Aの活性部320側に設けられたものであり、本実施形態では、活性部320と非活性部330とに亘って、すなわち、境界Aを跨って連続して設けられている。
このような低誘電体層200は、本実施形態では、第1電極60の直上、すなわち、第1電極60と圧電体層70との間に設けられている。また、本実施形態では、低誘電体層200を圧電体層70の幅(圧電素子300の並設方向)に亘って設けるようにした。
なお、低誘電体層200は、活性部320の中央部の圧電体層70よりも低い誘電率を有する材料である。具体的には、低誘電体層200としてセラミックス材料を使用することができ、セラミックス材料としては、例えば、TiO3、ZrO3、PbTiO3、SiO3、BaTiO3、SrTiO3、LaFeO3、BiFeO3等が挙げられる。また、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛を用いた場合には、低誘電体層200として、圧電体層70と同じ材料で且つ圧電体層70よりも誘電率の低いPbTiO3や、PbZrTiO3等を用いるのが好ましい。このように、圧電体層70よりも誘電率の低いチタン酸ジルコン酸鉛は、圧電体層70よりもチタン(Ti)を多く含有するようにすればよい。ちなみに、低誘電体層200を圧電体層70と同じ材料で且つ圧電体層70よりも誘電率が低いものを用いることで、圧電体層70と低誘電体層200との剛性やヤング率等の特性に大きな差が生じることがなく、圧電素子300全体の変位特性を低下させることがなく、また、低誘電体層200と圧電体層70や第1電極60等との層間剥離を発生し難くすることができる。
また、本実施形態では、圧力発生室12の長手方向におけるインク供給路14とは反対側の活性部320と非活性部330との境界Bにも、活性部320側の第1電極60と第2電極80との間に低誘電体層200が設けられている。本実施形態では、境界Bにおいても、境界A側の低誘電体層200と同様に、活性部320と非活性部330とに亘って、すなわち、境界Bを跨って低誘電体層200を設けるようにした。
ここで、第1電極60のインク供給路14とは反対側には、上述のように圧電体層70の外部まで延設された延設部65が設けられている。この延設部65は、活性部320の第1電極60に連続して、圧力発生室12の外側まで延設されており、延設部65の延設された端部に後述する駆動回路120の接続配線121が接続される。
このように、第1電極60の上方に活性部320と非活性部330とに亘って低誘電体層200を設けることによって、低誘電体層200が設けられた活性部320の端部(境界A)近傍では、圧電体層70に印加される電界が減少する。ここで圧電体層70は、電界強度に応じて変位量が変化するため、第1電極60と第2電極80との間に低誘電体層200が設けられた境界Aを跨った領域では、活性部320の中央部(圧電体層70のみで構成される領域)に比べて変位量が低下する。ちなみに、非活性部330では、圧電体層70に電界は印加されない。このように、圧力発生室12の長手方向において、圧電体層70には、電界が印加される領域(活性部320)と、電界が印加されない領域(非活性部330)とが存在し、このうち、電界が印加される領域(活性部320)では、大きく変位する中央側(低誘電体層200が設けられていない領域)と、活性部320と非活性部330との境界領域(境界A及びその近傍)で中央よりも変位量を小さくする領域とが存在する。ちなみに、低誘電体層200が設けられていない圧電素子300に電圧を印加して変形させると、図4の点線で示す変形が行われて、活性部320と非活性部330との境界Aに応力集中が発生する。これは、第2電極80が設けられた活性部320と、第2電極80が設けられていない非活性部330との境界Aで第2電極80の有無による剛性差が生じているからである。また、境界Aの応力集中は、活性部320には電界が印加されて変形し、非活性部330には電界が印加されずに自発的に変形しない(活性部320の変形によって追随する変形は行われる)ことからも発生する。
しかしながら、本実施形態では、低誘電体層200を設けることで、活性部320の非活性部330側の端部(境界A)側の圧電体層70に活性部320の中央側よりも低い電界を印加することができ、活性部320の非活性部330側の端部の変位量を減少させることができる。これにより、図4に示すように、圧電素子300が変位した際の境界A及びその近傍の傾斜角度を緩やかにすることができ、圧電体層70の境界A及びその近傍に応力が集中するのを低減して、クラック等の破壊が発生するのを抑制することができる。
また、本実施形態では、低誘電体層200を活性部320と非活性部330とに境界Aを跨って設けるようにした。すなわち、低誘電体層200は、非活性部330の活性部320側の端部(境界A側)にも設けられている。もちろん、低誘電体層200は、活性部320側に設けられていれば、非活性部330に設けないようにしてもよい。
また、本実施形態では、延設部65側の活性部320と非活性部330との境界Bにも、第1電極60上に活性部320と非活性部330とに亘って連続する低誘電体層200を設けるようにしたため、上述した境界A側の低誘電体層200と同様に、境界B側の低誘電体層200によっても圧電体層70の境界B側の境界部分の応力集中を低減して、クラック等の破壊が発生するのを抑制することができる。
なお、活性部320と非活性部330との境界A側では、非活性部330には、第1電極60が設けられているが、第1電極60は、圧力発生室12の長手方向の端部よりも内側が端部となるように設けられている。これに対して、活性部320と非活性部330との境界B側の非活性部330では、圧力発生室12の端部の外側まで第1電極60(延設部65)が設けられている。このため、境界Bの近傍に比べて境界Aの近傍では、圧力発生室12に相対向する領域内で、非活性部330の剛性と活性部320との剛性に大きな差が生じる。したがって、低誘電体層200は、少なくとも境界Aに設けるのが好適である。
また、本実施形態では、低誘電体層200をインク供給路14側と、延設部65側の両方の境界A、Bに設けるようにした。このため、これら2つの低誘電体層200は、活性部320となる領域において、長手方向に対称とすることができる。
また、低誘電体層200として、圧電体層70とは結晶性の異なるものを用いることで、第1電極60上に形成される圧電体層70と、低誘電体層200上に形成される圧電体層70との結晶性を変化させることができる。具体的には、低誘電体層200上に圧電体層70をエピタキシャル成長によって結晶成長させると、下地である低誘電体層200の結晶性の影響によって、第1電極60上に形成した圧電体層70に比べて低い結晶性を有する圧電体層70が形成される。これにより、低誘電体層200上に形成された圧電体層70は、その他の領域に比べて低い圧電特性を有することになり、これによっても低誘電体層200上の圧電体層70の変位量を低下させて、活性部320と非活性部330との境界A、B及びその近傍の応力集中を低減することができる。
なお、本実施形態では、低誘電体層200を第1電極60と圧電体層70との間に設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電体層70の厚さ方向の途中や、圧電体層70と第2電極80との間などに設けるようにしてもよい。ただし、上述のように、低誘電体層200を、低誘電体層200上に圧電体層70が存在する位置、すなわち、圧電体層70の厚さ方向の途中や、第1電極60と圧電体層70との間に設け、低誘電体層200の上に圧電体層70を薄膜成膜法(例えば、スパッタリングやCVD法、ゾル−ゲル法等)により設けることで、圧電体層70を第1電極60上に形成した結晶構造と、低誘電体層200上に形成した結晶構造とを異なる構造とすることができ、低誘電体層200上の圧電体層70の結晶性を活性部320の中央部の圧電体層70の結晶性よりも低下させて変位し難くすることで、応力集中をさらに効果的に低減できる。
また、本実施形態では、延設部65が設けられた境界Bに低誘電体層200を設けることで、境界Bの応力集中を抑制することができるが、低誘電体層200は、第1電極60上に設けられているに過ぎないため、低誘電体層200が第1電極60(延設部65)の電気抵抗を上げることなく、圧電素子300に印加する電圧が低下することがない。ちなみに、第1電極60の境界B近傍の幅を狭めたり、開口を設けることでも圧電体層70に印加する電界を低減することができるが、第1電極60の幅を狭めたり、開口を設けると第1電極の抵抗が高くなり、圧電素子300に印加する電圧が低下してしまう。本実施形態では、第1電極60を変形することがないため、第1電極60の電気抵抗が上がることがない。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60及び絶縁体膜55上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールドと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120と第1電極60及び第2電極80とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
このとき、第1電極60の延設部65とは反対側の活性部320と非活性部330との境界Aに、活性部320と非活性部330とに亘って境界Aを跨る低誘電体層200を設けることで、活性部320と非活性部330との境界Aへの応力集中が抑制される。同様に、延設部65側の境界Bにも低誘電体層200を設けることで、延設部65側の活性部320と非活性部330との境界Bへの応力集中が抑制される。
以下、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図5〜図9は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
まず、図5(a)に示すように、シリコンウェハーであり流路形成基板10が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成する。この酸化膜51の形成方法は、特に限定されないが、例えば、流路形成基板用ウェハー110を拡散炉等で熱酸化することにより形成すればよい。次に、図5(b)に示すように、弾性膜50(酸化膜51)上に、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55を形成する。
次いで、図5(c)に示すように、例えば、白金及びイリジウムからなる第1電極60を絶縁体膜55の全面に亘って形成する。第1電極60は、例えば、スパッタリング法などにより形成することができる。
次いで、図6(a)に示すように、第1電極60上にチタン(Ti)からなる結晶種層61を形成する。この結晶種層61は、3.5〜5.5nmの厚さで形成する。なお、結晶種層61の厚さは、4.0nmが好ましい。本実施形態では、結晶種層61を4.0nmの厚さで形成した。なお、本実施形態では、結晶種層61として、チタン(Ti)を用いるようにしたが、結晶種層61は、後の工程で圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の結晶の核となるものであれば、特にこれに限定されず、例えば、結晶種層61として、酸化チタン(TiO2)を用いてもよい。
次いで、図6(b)に示すように、低誘電体層200を形成する領域、本実施形態では、境界Aを跨った領域と、境界Bを跨った領域(図示なし)とに、チタン(Ti)からなる低誘電体層形成層62を形成する。本実施形態では、低誘電体層形成層62を20nmの厚さで形成した。これら結晶種層61及び低誘電体層形成層62は、それぞれスパッタリング法により形成することができる。この低誘電体層形成層62のチタンが、後述する圧電体膜72に拡散することで酸化を起こし、PbTiO3やTiO2などの低誘電体層200が形成される。
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。また、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法等を用いてもよい。
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図6(c)に示すように、結晶種層61及び低誘電体層形成層62上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、結晶種層61及び低誘電体層形成層62が形成された流路形成基板10上に金属有機化合物を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。次に、図6(d)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程の加熱によって、結晶種層61及び低誘電体層形成層62のチタンは、圧電体膜72の膜中に拡散する。このとき、低誘電体層形成層62が設けられた領域の圧電体膜72は、その他の領域(低誘電体層形成層62が形成されていない領域)に比べて、チタンが多く拡散されるため、低誘電体層形成層62上には他の領域よりもチタンリッチなPZTが形成される。そして、他の領域に比べてチタンが多く含有したチタンリッチなPZTは、モノクリニック構造を有する他の領域とは結晶性が異なるテトラゴナル構造となり、誘電率が低くなることから低誘電体層200として用いることができる。ちなみに、結晶種層61や低誘電体層形成層62等は圧電体膜72に拡散するものであるが、圧電体膜72と第1電極60との界面に残留していてもよい。
なお、このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
そして、図7(a)に示すように、第1電極60上に圧電体膜72の1層目を形成した段階で、第1電極60及び1層目の圧電体膜72をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。
このように、1層目の圧電体膜72を形成した後に第1電極60と同時にパターニングすれば、1層目の圧電体膜72は2層目以降の圧電体膜72を良好に結晶成長させる種(シード)としても性質が強く、たとえパターニングで表層に極薄い変質層が形成されていても2層目以降の圧電体膜72の結晶成長に大きな影響を与えない。
そして、パターニングした後、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことで、図7(b)に示すような複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。このように複数層の圧電体膜72を形成した際に、上述のように低誘電体層200上に形成された圧電体膜72は、その他の圧電体膜72に比べて結晶性が低く、変位特性を低下させることができる。
次に、図8(a)に示すように、圧電体層70上にイリジウム(Ir)からなる第2電極80を形成する。
次に、図8(b)に示すように、圧電体層70及び第2電極80を、それぞれ各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
次に、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合する。なお、この保護基板用ウェハー130は、例えば、数百μm程度の厚さを有するため、保護基板用ウェハー130を接合することによって流路形成基板用ウェハー110の剛性は著しく向上することになる。そして、図9(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さとする。
次いで、図9(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
(実施形態2)
図10は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図10に示すように、実施形態2の圧電素子300Aは、第1電極60、低誘電体層200A、圧電体層70及び第2電極80を有する。
低誘電体層200Aは、圧力発生室12の長手方向(並設方向と交差する方向)における活性部320と非活性部330とのインク供給路14側の境界Aに、活性部320と非活性部330とに亘って境界Aを跨いで連続して設けられている。
また、低誘電体層200Aは、活性部320側から境界Aに向かって第1電極60を覆う幅が漸大するように設けられている。言い換えると、低誘電体層200Aは、第1電極60を第2電極80側から平面視した際に、前記第1電極60に重なる幅が、活性部320から境界Aに向かって漸大するように設けられている。
本実施形態では、低誘電体層200Aの活性部320側に、第1電極60の境界A側の端部を境界Aに向かって徐々に露出する三角形状に切り欠いた開口であるテーパー部201を設けるようにした。また、本実施形態のテーパー部201は、活性部320と非活性部330とに亘って境界Aを跨いで連続して設けられることで、テーパー部201は、活性部320と非活性部330とに亘って第1電極60の表面を覆う幅が漸大するようになっている。
このようなテーパー部201の内側面の角度θは、第1電極60の側面に対して45度以下で形成されている。すなわち、テーパー部201の境界A側の先端の角度は90度以下となっている。このようにテーパー部201の角度を規定することにより、活性部320と非活性部330との境界に向かって圧電体層70に大きな電界を印加する面積の漸小率を好適な値に設定でき、活性部320と非活性部330との境界部分への応力集中を確実に低減して、応力集中によるクラックの発生を抑制することができる。
また、テーパー部201の第1電極60を覆う境界Aの幅w1は、第1電極60の幅w0に対して50%以下が好ましく、25%〜50%が好適である。このように、境界Aの幅w1を規定することで、境界のテーパー部201による応力の分散を確実に行うことができる。
このように本実施形態の圧電素子300Aには、境界Aにテーパー部201を有する低誘電体層200Aが設けられているため、活性部320の圧電体層70に大きな電界が印加される面積が、境界Aに向かって徐々に漸減する。言い換えると、活性部320の非活性部330側の圧電体層70には、低誘電体層200Aによって電界が遮蔽されて弱い電界が印加される領域が、境界Aに向かって徐々に漸大する。ここで上述のように、圧電体層70は、電界が印加される面積に対応して変位量が変化するため、テーパー部201が設けられた領域では、活性部320と非活性部330との境界Aに向かって変位量が漸減する。この結果、圧電素子300が変位した際の境界部分の傾斜角度がさらに緩やかになり、境界部分の応力集中を低減することができる。したがって、圧電体層70の境界A及びその近傍にクラック等の破壊が発生するのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上述した実施形態1と同様に、インク供給路14とは反対側の活性部320と非活性部330との境界Bに、活性部320から境界Bに向かって第1電極60を覆う幅が漸大するテーパー部201を有する低誘電体層200Aを設けるようにした。このように、第1電極60の延設部65側の境界Bにも、テーパー部201を有する低誘電体層200Aを設けることによって、延設部65側の活性部320と非活性部330との境界Bの応力集中を抑制して、クラック等の破壊が発生するのを低減することができる。
なお、本実施形態では、境界B側に低誘電体層200Aを1つだけ設けるようにしたが、特にこれに限定されない。ここでその他の例を図11に示す。なお、図11は、本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
図11に示すように、第1電極60の境界B側には、低誘電体層200Aを活性部320側と非活性部330との両方にそれぞれ1つずつ設け、活性部320側の低誘電体層200Aと非活性部330側の低誘電体層200Aとを境界Bで連続するようにした。また、各低誘電体層200Aのテーパー部201は、境界Bにおいて連続して開口するようにした。
このように境界Bに2つの低誘電体層200Aを設け、且つ各テーパー部201を境界Bに向かって開口率が漸大するようにしても、境界Bにおける応力集中を緩和することができる。
また、本実施形態では、低誘電体層200Aの位置について説明していないが、低誘電体層200Aは、上述した実施形態1と同様に、第1電極60と圧電体層70との間であっても、圧電体層70の厚さ方向の途中であっても、圧電体層70と第2電極80との間であってもよい。ちなみに、低誘電体層200Aの第2電極80側に圧電体層70が存在し、且つ圧電体層70を薄膜成膜法により形成することで、低誘電体層200A上の圧電体層70の結晶性を低下させて、さらに境界A、Bへの応力集中を低減することができる。
(実施形態3)
図12は、本発明の実施形態3に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図12に示すように、実施形態3の圧電素子300Bは、第1電極60、低誘電体層200B、圧電体層70及び第2電極80を具備する。
低誘電体層200Bは、圧力発生室12の長手方向(並設方向と交差する方向)における活性部320と非活性部330とのインク供給路14側の境界Aに、活性部320と非活性部330とに亘って境界Aを跨いで連続して設けられた複数の短冊状の第1低誘電部202を有する。これらの第1低誘電部202は、第1電極60に相対向する領域に、第1電極60の幅方向(圧電素子300の並設方向)に沿って複数、本実施形態では、4個並設されている。
このような低誘電体層200Bによっても、上述した実施形態1と同様に、境界Aの応力集中を低減して、圧電体層70にクラック等の破壊が発生するのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上述した実施形態1と同様に、インク供給路14とは反対側の活性部320と非活性部330との境界Bにも低誘電体層200Bを設けるようにした。このように、第1電極60の延設部65側の境界Bにも低誘電体層200Bを設けることによって、延設部65側の活性部320と非活性部330との境界Bの応力集中を抑制して、クラック等の破壊が発生するのを低減することができる。
また、本実施形態では、低誘電体層200Bの位置について説明していないが、低誘電体層200Bは、上述した実施形態1と同様に、第1電極60と圧電体層70との間であっても、圧電体層70の厚さ方向の途中であっても、圧電体層70と第2電極80との間であってもよい。ちなみに、低誘電体層200Bの第2電極80側に圧電体層70が存在し、且つ圧電体層70を薄膜成膜法により形成することで、低誘電体層200B上の圧電体層70の結晶性を低下させて、さらに境界A、Bへの応力集中を低減することができる。
(実施形態4)
図13は、本発明の実施形態4に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図13に示すように、実施形態3の圧電素子300Cは、第1電極60、低誘電体層200C、圧電体層70及び第2電極80を具備する。
低誘電体層200Cは、圧力発生室12の長手方向(並設方向と交差する方向)における活性部320と非活性部330とのインク供給路14側の境界Aに、活性部320と非活性部330とに亘って境界Aを跨いで不連続となるように設けられた複数の第2低誘電部203を有する。これらの第2低誘電部203は、第1電極60に相対向する領域に、第1電極60の長手方向(圧電素子300の並設方向と交差する方向)に沿って複数設けられた列が、第1電極60の幅方向に3列並設されている。
本実施形態では、第2低誘電部203を矩形状とし、単体では活性部320と非活性部330とに亘って連続して設けられていないが、複数の第2低誘電部203が境界Aの両側(活性部320及び非活性部330)に設けられることで、複数の第2低誘電部203により構成される低誘電体層200Cが、活性部320と非活性部330とに亘って設けられていることになる。
また、低誘電体層200Cは、第1電極60を覆う幅が活性部320から非活性部330に向かって徐々に大きくなる。本実施形態では、低誘電体層200Cとして、上述のように活性部320から非活性部330に向かって並設された第2低誘電部203の列が3列設けられており、このうちの中心の1列において、活性部320の中央側の第2低誘電部203の面積を小さくし、非活性部330側の第2低誘電部203の面積を大きくするようにした。また、第2低誘電部203の並設されたその他の2列については、同じ開口面積となるようにした。これにより、低誘電体層200Cは、活性部320から非活性部330に向かって、第1電極60を覆う面積が徐々に漸大する。この結果、圧電素子300が変位した際の境界部分の傾斜角度がさらに緩やかになり、境界部分の応力集中を低減することができる。したがって、圧電体層70の境界A及びその近傍にクラック等の破壊が発生するのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上述した実施形態1と同様に、インク供給路14とは反対側の活性部320と非活性部330との境界Bに、活性部320から境界Bに向かって第1電極60を覆う幅が漸大する第2低誘電部203を有する低誘電体層200Cを設けるようにした。このように、第1電極60の延設部65側の境界Bにも、低誘電体層200Cを設けることによって、延設部65側の活性部320と非活性部330との境界Bの応力集中を抑制して、クラック等の破壊が発生するのを低減することができる。
もちろん、本実施形態においても、上述した実施形態2の図11に示す例のように、低誘電体層200Cを境界Bの両側の活性部320及び非活性部330のそれぞれに設けるようにしてもよい。
また、本実施形態では、低誘電体層200Cの位置について説明していないが、低誘電体層200Cは、上述した実施形態1と同様に、第1電極60と圧電体層70との間であっても、圧電体層70の厚さ方向の途中であっても、圧電体層70と第2電極80との間であってもよい。ちなみに、低誘電体層200Cの第2電極80側に圧電体層70が存在し、且つ圧電体層70を薄膜成膜法により形成することで、低誘電体層200C上の圧電体層70の結晶性を低下させて、さらに境界A、Bへの応力集中を低減することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1〜4では、インク供給路14とは反対側の活性部320の端部(境界B)にも、低誘電体層200〜200Cを設けるようにしたが、延設部65側の低誘電体層200〜200Cは、それとは反対側であるインク供給路14側の低誘電体層200〜200Cとは異なる組み合わせとしてもよい。
また、上述した例では、低誘電体層200〜200Cを第1電極60の直上に設けるようにしたが、上述したように、低誘電体層200〜200Cの位置はこれに限定されるものではない。ここで、低誘電体層200〜200Cの位置を変更した例を図14に示す。なお、図14は、他の実施形態に係る変形例を示す断面図である。図14(a)に示すように、低誘電体層200は、圧電体層70の厚さ方向の途中に設けられていてもよい。また、図14(b)に示すように、低誘電体層200は、圧電体層70と第2電極80との間に設けられていてもよい。
さらに、上述した例では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
また、上述した例では、圧電素子300〜300Cの上に耐湿度性を有する保護膜を設けなくても、第1電極60の圧力発生室12の長手方向における一端部は、圧電体層70によって覆われているため、第1電極60と第2電極80との間で電流がリークすることがなく、圧電素子300〜300Cの破壊を抑制することができる。なお、第1電極60の圧力発生室12の長手方向の他端部は圧電体層70に覆われていないが、第1電極60と第2電極80との間に距離があるため、特に影響が無い。もちろん、上述した例の圧電素子300〜300Cに耐湿度性を有する保護膜を設けることで、圧電素子300〜300Cをさらに確実に保護することができるが、上述した例の圧電素子300〜300Cのように保護膜を設けないようにすることで、保護膜が圧電素子300〜300Cの変位を阻害することがなく、大きな変位量を得ることができる。
さらに、上述した例では、圧電体層70を各圧力発生室12毎に切り分けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧力発生室12の並設方向に亘って連続する圧電体層70を設けるようにしてもよい。この場合には、例えば、低誘電体層200〜200Cを圧電素子300〜300Cの並設方向に亘って連続して設けるようにしてもよい。
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図15は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
図15に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。