JP2016004932A - 圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電素子の製造方法 - Google Patents

圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電素子の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】変位効率の高い圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電素子の製造方法を提供する。【解決手段】基板に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80が層形成されており、前記圧電体層70の上方には、酸化材料又は窒化材料からなり、前記圧電体層70に対して圧縮応力を付与する応力付与膜200が設けられている。【選択図】 図6

Description

本発明は、基板上に設けられた第1電極、圧電体層及び第2電極を有する圧電素子、圧電素子を具備する液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置、及び圧電素子の製造方法に関する。
圧電素子(圧電アクチュエーター)を変形させて圧力発生室内の液体に圧力変動を生じさせることで、圧力発生室に連通するノズル開口から液滴を噴射させる液体噴射ヘッドが知られている。この液体噴射ヘッドの代表例としては、液滴としてインク滴を噴射させるインクジェット式記録ヘッドがある。
インクジェット式記録ヘッドは、例えば、ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板の一方面側に圧電素子を備え、圧電素子の駆動によって振動板を変形させることで、圧力発生室内のインクに圧力変化を生じさせて、ノズル開口からインク滴を噴射させる。
ここで、圧電素子は、基板上に設けられた第1電極、圧電体層及び第2電極を具備する(例えば、特許文献1及び2参照)。
特開2009−172878号公報 特開2009−196329号公報
近年、低い駆動電圧で大きな変位を得ることができる、所謂、変位効率の高い圧電素子が望まれているものの、圧電素子が初期状態で基板側に大きく撓んでいる場合、圧電素子に電圧を印加して基板側に変形させようとすると、圧電素子の変位量が小さく、変位効率が低くなってしまう。
このような問題は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子に限定されず、他のデバイスに用いられる圧電素子においても同様に存在する。
本発明はこのような事情に鑑み、変位効率の高い圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の態様は、基板に第1電極、圧電体層及び第2電極が層形成されており、前記圧電体層の上方には、酸化材料又は窒化材料からなり、前記圧電体層に対して圧縮応力を付与する応力付与膜が設けられていることを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、圧電素子の上方に当該圧電体層に対して圧縮応力を付与する応力付与膜を設けることで、圧電素子を下方に変形させる応力を低減させることができる。したがって、圧電素子を下方に変形させた際の変形量を向上することができる。
ここで、前記応力付与膜は、前記圧電体層の層形成方向とは交差する面に重なる位置まで延設されていることが好ましい。これによれば、応力付与膜によって圧電素子への応力を効率よく伝えることができる。
また、前記応力付与膜は、導電性を有し、前記第2電極の少なくとも一部を構成していることが好ましい。これによれば、応力付与膜によって第2電極の電気抵抗値を下げることができる。
また、前記応力付与膜は、酸化クロムを主成分とする材料で形成されていることが好ましい。これによれば、酸化クロムは、常温放置によっても酸化が進むため、酸化クロムを容易に十分に酸化することができる。
また、前記第1電極と前記第2電極とが相対向する前記圧電体層の領域である能動部を複数具備し、前記第2電極が、複数の前記能動部に共通する共通電極となっており、前記第1電極が、前記能動部毎に個別に設けられた共通電極となっていることが好ましい。これによれば、圧電体層に引っ張り応力を付与する絶縁膜等を設けることなく、電流のリークを抑制して、破壊を抑制することができる。
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の圧電素子を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、液体噴射特性を向上した液体噴射ヘッドを実現できる。
また、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、液体噴射特性を向上した液体噴射装置を実現できる。
また、本発明の他の態様は、基板上に、第1電極、圧電体層及び第2電極を層形成する工程と、前記第2電極の上方に応力付与材料を設け、該応力付与材料を酸化又は窒化させて体積を膨張させることで、前記圧電体層に対して圧縮応力を付与する応力付与膜を形成する工程と、を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、圧電体層に圧縮応力を付与する応力付与膜を容易に且つ確実に形成することができる。
また、前記応力付与材料を酸化又は窒化させる工程では、前記圧電体層を再加熱処理する際に同時に加熱することで、熱酸化させることが好ましい。これによれば、再加熱と応力付与膜の形成とを同時に行って、コストを低減することができる。
本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの流路形成基板の平面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図及び拡大断面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。 本発明の比較例に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 本発明の試験例の結果を示すグラフである。 本発明の実施形態2に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。 本発明の一実施形態に係る液体噴射装置を示す概略図である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの流路形成基板の平面図であり、図3は図2のA−A′線に準ずる断面図及び拡大断面図であり、図4は図2のB−B′線に準ずる断面図であり、図5は、図3のC−C′線に準ずる断面図である。
図示するように、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドIが備える本実施形態の基板である流路形成基板10には、圧力発生室12が形成されている。そして、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向Xと称する。また、この第1の方向Xと直交する方向を、以降、第2の方向Yと称する。
また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向の一端部側、すなわち第1の方向Xに直交する第2の方向Yの一端部側には、インク供給路13と連通路14とが複数の隔壁11によって区画されている。連通路14の外側(第2の方向Yにおいて圧力発生室12とは反対側)には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるマニホールド100の一部を構成する連通部15が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15からなる液体流路が設けられている。
流路形成基板10の一方面側、すなわち圧力発生室12等の液体流路が開口する面には、各圧力発生室12に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって接合されている。すなわち、ノズルプレート20には、第1の方向Xにノズル開口21が並設されている。
流路形成基板10の他方面側には、振動板50が形成されている。本実施形態に係る振動板50は、流路形成基板10上に形成された弾性膜51と、弾性膜51上に形成された絶縁体膜52とで構成されている。なお、圧力発生室12等の液体流路は、流路形成基板10を一方面から異方性エッチングすることにより形成されており、圧力発生室12等の液体流路の他方面は、振動板50(弾性膜51)で構成されている。
絶縁体膜52上には、厚さが例えば、約0.2μmの第1電極60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの第2電極80とで構成される圧電素子300が形成されている。この基板(流路形成基板10)に設けられた圧電素子300が本実施形態のアクチュエーター装置となる。
以下、アクチュエーター装置を構成する圧電素子300について、図3及び図4を参照してさらに詳細に説明する。
図示するように、圧電素子300を構成する第1電極60は、圧力発生室12毎に切り分けられて、後述する能動部毎に独立する個別電極を構成する。この第1電極60は、圧力発生室の第2の方向Yにおいては、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、圧力発生室12の第1の方向Xにおいて、第1電極60の端部は、圧力発生室12に対抗する領域の内側に位置している。また、第2の方向Yにおいて、第1電極60の両端部は、それぞれ圧力発生室12の外側まで延設されている。なお、第1電極60の材料は、後述する圧電体層70を成膜する際に酸化せず、導電性を維持できる材料が好ましく、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等の貴金属、またはランタンニッケル酸化物(LNO)などに代表される導電性酸化物が好適に用いられる。
また、第1電極60として、前述の導電材料と、振動板50との間に、密着力を確保するための密着層を用いてもよい。本実施形態では、特に図示していないが密着層としてチタンを用いている。なお、密着層としては、ジルコニウム、チタン、酸化チタンなどを用いることができる。すなわち、本実施形態では、チタンからなる密着層と、上述した導電材料から選択される少なくとも一種の導電層とで第1電極60が形成されている。
圧電体層70は、第2の方向Yが所定の幅となるように、第1の方向Xに亘って連続して設けられている。圧電体層70の第2の方向Yの幅は、圧力発生室12の第2の方向Yの長さよりも広い。このため、圧力発生室12の第2の方向Yでは、圧電体層70は圧力発生室12の外側まで設けられている。
圧力発生室12の第2の方向Yにおいて、圧電体層70のインク供給路側の端部は、第1電極60の端部よりも外側に位置している。すなわち、第1電極60の端部は圧電体層70によって覆われている。また、圧電体層70のノズル開口21側の端部は、第1電極60の端部よりも内側(圧力発生室12側)に位置しており、第1電極60のノズル開口21側の端部は、圧電体層70に覆われていない。
圧電体層70は、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜(ペロブスカイト型結晶)である。圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等を用いることができる。また、圧電体層70の材料としては、鉛を含む鉛系の圧電材料に限定されず、鉛を含まない非鉛系の圧電材料を用いることもできる。
圧電体層70は、詳しくは後述するが、ゾル−ゲル法、MOD(Metal-Organic Decomposition)法などの液相法や、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等などのPVD(Physical Vapor Deposition)法(気相法)などで形成することができる。
このような圧電体層70には、各隔壁11に対応する凹部71が形成されている。この凹部71の第1の方向Xの幅は、各隔壁11の第1の方向の幅と略同一、もしくはそれよりも広くなっている。これにより、振動板50の圧力発生室12の第2の方向Yの端部に対抗する部分(いわゆる振動板50の腕部)の剛性が押さえられるため、圧電素子300を良好に変位させることができる。
第2電極80は、圧電体層70の第1電極60とは反対面側に設けられており、複数の能動部310に共通する共通電極を構成する。本実施形態では、第2電極80は、圧電体層70側に設けられた第1層81と、第1層81の圧電体層70とは反対側に設けられた第2層82と、を具備する。
第1層81は、圧電体層70との界面を良好に形成できること、絶縁性及び圧電特性を発揮できる材料が望ましく、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)等の貴金属材料、及びランタンニッケル酸化物(LNO)に代表される導電性酸化物が好適に用いられる。また、第1層81は、複数材料の積層であってもよい。本実施形態では、イリジウムとチタンとの積層電極(イリジウムが圧電体層70と接する)を使用している。そして、第1層81は、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などのPVD(Physical Vapor Deposition)法(気相法)、ゾル−ゲル法、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、メッキ法などの液相法により形成することができる。また、第1層81の形成後に、加熱処理を行うことにより、圧電体層70の特性改善を行うことができる。このような第1層81は、圧電体層70上のみ、すなわち、圧電体層70の流路形成基板10とは反対側の表面上のみに形成されている。
また、第2電極80を構成する第2層82は、導電性を有する材料、例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)等の金属材料を用いることができる。もちろん、第2層82は、上記金属材料の単一材料であっても、複数の材料が混合した複数材料であってもよい。また、第1層81と第2層82との間に、チタン等を設けるようにしてもよい。本実施形態では、第2層82として、イリジウム(Ir)を用いた。
このような第2層82は、本実施形態では、第1層81上と、第1層81が設けられていない圧電体層70の側面上と、第1電極60上と、に亘って連続して設けられている。ちなみに、第1層81上の第2層82と、第1電極60上の第2層82とは、除去部83を介して電気的に切断されている。すなわち、第1層81上の第2層82と、第1電極60上の第2層82とは、同一層からなるが電気的に不連続となるように形成されている。ここで、除去部83は、圧電体層70上のノズル開口21側に設けられており、第2電極80を、すなわち、第1層81及び第2層82を厚さ方向(第1層81と第2層82との積層方向)に貫通して電気的に切断するものである。このような除去部83は、第1の方向Xに亘って連続して第2電極80を厚さ方向に貫通して設けられている。
このような第1電極60、圧電体層70及び第2電極80で構成される圧電素子300は、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加することで変位が生じる。すなわち両電極の間に電圧を印加することで、第1電極60と第2電極80とで挟まれている圧電体層70に圧電歪みが生じる。そして、両電極に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を能動部310と称する。これに対して、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非能動部と称する。また、圧電体層70に圧電歪みが生じる能動部310において、圧力発生室12に対向する部分を可撓部と称し、圧力発生室12の外側の部分を非可撓部と称する。
本実施形態では、第2の方向Yにおいて、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80の全てが圧力発生室12の外側まで連続的に設けられている。すなわち能動部310が圧力発生室12の外側まで連続的に設けられている。このため、能動部310のうち圧電素子300の圧力発生室12に対向する部分が可撓部となり、圧力発生室12の外側の部分が非可撓部となっている。
すなわち、本実施形態では、図3に示すように、能動部310の第2の方向Yの端部は、第2電極80(除去部83)によって規定されている。
また、能動部310の第1の方向Xの端部は、第1電極60によって規定されている。そして、第1電極60の第1の方向Xの端部は、圧力発生室12に相対向する領域内に設けられている。したがって、能動部310の第1の方向Xの端部は、可撓部に設けられていることになり、第1の方向Xにおいて、能動部310と非能動部との境界における応力が振動板の変形によって開放される。このため、能動部310の第1の方向Xの端部における応力集中に起因する焼損やクラック等の破壊を抑制することができる。
このような圧電素子300では、第2電極80が、圧電体層70を覆っているため、第1電極60と第2電極80との間で電流がリークすることがなく、圧電素子300の破壊を抑制することができる。ちなみに、第1電極60と第2電極80とが近接した状態で露出されていると、圧電体層70の表面を電流がリークし、圧電体層70が破壊されてしまう。ちなみに、第1電極60と第2電極80とが露出されていても距離が近くなければ、電流のリークは発生しない。
また、圧電体層70の上方、すなわち、本実施形態では、第2電極80上には、応力付与膜200が設けられている。応力付与膜200は、詳しくは後述するが、酸化材料又は窒化材料であって、酸化されていない状態又は十分に酸化されていない状態や、窒化されていない状態又は十分に窒化されていない状態で第2電極80上に成膜された後、酸化又は十分な酸化や窒化又は十分な窒化が行われることで体積が膨張して圧電素子300に圧縮応力を与えるものである。このような応力付与膜200の酸化材料としては、例えば、酸化イリジウム(IrO)、酸化アルミニウム(AlO)、酸化ガリウム(GaO)、酸化インジウム(InO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化鉄(FeO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化バナジウム(VO)、酸化ニオブ(NbO)、酸化タンタル(TaO)、酸化クロム(CrO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化銅(CuO)、酸化銀(AgO)、酸化パラジウム(PdO)等から選択される少なくとも一種が挙げられる。また、応力付与膜200の窒化材料としては、例えば、窒化イリジウム(IrN)、窒化アルミニウム(Al)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化スズ(SnN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化鉄(FeN)、窒化ニッケル(NiN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(CrN)、窒化モリブデン(MoN)、窒化タングステン(WN)、窒化銅(CuN)、窒化銀(AgN)、窒化パラジウム(PdN)等から選択される少なくとも一種が挙げられる。応力付与膜200は、これらの材料の単層であっても複数を積層した複数層であってもよく、また、材料が混合されていてもよい。なお、応力付与膜200の材料としては、例えば、Li等のアルカリ金属、Be、Pbなどの毒性の強い金属、Pt等の比較的高温で処理しないと酸化しない金属以外の金属材料を用いるのが好ましい。また、応力付与膜200において十分に酸化が行われていない状態とは、例えば、IrO(X<2)、CrO(X<2)等のことであり、十分に酸化された状態とは、IrO、CrO等のことである。同様に、応力付与膜200において十分に窒化が行われていない状態とは、例えば、CrN(X<1)等のことであり、十分に酸化された状態とは、CrN等のことである。
このような応力付与膜200は、本実施形態では、積層方向において、圧電体層70の上方、すなわち、第2電極80上に設けられている。また、図4に示すように、第2電極80は、圧電体層70の積層方向と交差する側面、すなわち、凹部71の内壁面にも延設されており、応力付与膜200は、凹部71の内壁面に設けられた第2電極80上に延設されている。すなわち、応力付与膜200は、圧電体層の積層方向とは交差する側面に重なる位置まで延設されている。また、応力付与膜200は、本実施形態では、凹部71の底面、すなわち、凹部71によって露出された振動板50上の第2層82上に設けられている。つまり、応力付与膜200は、積層方向から平面視した際に、圧電体層70及び凹部71の上面(第2電極80側の面)及び側面(積層方向に交差する面)に重なる位置に形成されている。なお、積層方向とは、第1の方向X及び第2の方向Yの両方に直交する方向のことである。もちろん、応力付与膜200は、凹部71の底面、すなわち、凹部71によって露出された振動板50上の第2層82上に設けないようにしてもよい。これにより、振動板50の可撓部と非可撓部との境界部分における剛性を低下させて、変位特性の低下を抑制することができる。
このような応力付与膜200を設けることで、図6に示すように、圧電素子300には圧縮応力が付与されて、圧電素子300は、電界が印加されていない状態において、流路形成基板10の圧力発生室12内への突出量が低減される。
これに対して、図7に示すように、応力付与膜200が設けられていない場合、又は、圧電素子300に引っ張り応力を付与する膜等を設けた場合、圧電素子300は、電界が印加されていない状態において、流路形成基板10の圧力発生室12内側に向かって大きく凸となるように変形してしまう。
このため、圧電素子300に電界を印加して圧力発生室12内に凸となるように変位させると、図6に示すように応力付与膜200を設けた圧電素子300の方が、図7に示す応力付与膜200を設けていないか、又は引っ張り応力を付与する膜を設けた場合に比べて、同じ電圧で駆動した際に大きな変位量を得ることができる。すなわち、応力付与膜200を設けた方が、低い電圧で大きな変位量を得ることができる、所謂、変位効率が高い圧電素子300とすることができる。なお、本実施形態では、応力付与膜200を設けることで、圧力発生室12内に凸に変形する突出量を小さくすることができるが、振動板50、圧電素子300、応力付与膜200の膜厚や材料等によっては、応力付与膜200を設けることで圧電素子300は圧力発生室12とは反対側に凸となるように変形する場合もあり得る。
なお、応力付与膜200は、本実施形態では、凹部71の内壁面、すなわち、圧電体層70の積層方向と交差する側面に重なる位置に延設するようにした。このため、応力付与膜200によって圧電素子300が流路形成基板10とは反対側に凸となる方向に変形し易くなる。もちろん、応力付与膜200は特にこれに限定されず、圧電体層70の上方のみ、すなわち、第1層81に重なる位置のみに形成するようにしてもよい。
また、応力付与膜200として、導電性材料を用いることで、応力付与膜200が第2電極80の電気抵抗値を下げる役割を有することができる。なお、応力付与膜200として絶縁性材料を用いた場合には、除去部83上に亘って形成してもよい。すなわち、絶縁性材料である応力付与膜200を除去部83に形成しても、共通電極となる第2層82と、第1電極60上の第2層82とを導通することがない。本実施形態では、応力付与膜200は、除去部83以外の領域に設けるようにした。
このような圧電素子300の第1電極60と、第2電極80とには、図3及び図4に示すように、本実施形態の配線層である個別リード電極91と、共通リード電極92とが接続されている。
個別リード電極91及び共通リード電極92(以降、両者を合わせてリード電極90と称する)は、本実施形態では、同一層からなるが、電気的に不連続となるように形成されている。具体的には、リード電極90は、電極(第2電極80の第2層82)側に設けられた密着層191と、密着層191上に設けられた導電層192と、を具備する。
密着層191は、第2層82や絶縁膜200、振動板50等と導電層192との密着性を向上させるためのものであり、その材料としては、例えば、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ニッケルクロム(NiCr)、チタン(Ti)、チタンタングステン(TiW)等を用いることができる。もちろん、密着層191は、上述したものを単一材料として用いたものであってもよく、また、複数の材料が混合した複数材料であってもよく、さらに、異なる材料の複数層を積層したものであってもよい。本実施形態では、密着層191としてニッケルクロム(NiCr)を用いた。
また、導電層192は、比較的導電性の高い材料であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等を用いることができる。本実施形態では、導電層192として金(Au)を用いた。
ここで、個別リード電極91は、圧電体層70の外側に設けられた第1電極60上に設けられている。ちなみに、第1電極60上には、上述したように第2電極80の第2層82と同一層からなるが、第2層82とは不連続となる電極層が設けられている。このため、第1電極60と個別リード電極91とは、この第2層82と同一層で且つ第2層82とは不連続な電極層を介して電気的に接続されている。また、個別リード電極91の一部は、応力付与膜200上に至るまで形成されているが、応力付与膜200は、積層方向から平面視した際に圧電体層70に重なる部分のみに形成されているので、個別リード電極91と第1電極60とは応力付与膜200の外側において電気的に接続されている。なお、応力付与膜200として導電性の材料を用いた場合には、応力付与膜200を第1電極60の上方に亘って形成してもよい。
共通リード電極92は、第2電極80上(圧電体層70の第2電極80上)に設けられた応力付与膜200上に設けられており、応力付与膜200を厚さ方向に貫通するコンタクトホール201を介して第2電極80と電気的に接続されている。なお、応力付与膜200として導電性を有する材料を用いた場合には、応力付与膜200にコンタクトホール201を設けずに、共通リード電極92を応力付与膜200に接続することで、共通リード電極92は応力付与膜200を介して第2電極80と導通することができる。また、図5に示すように、共通リード電極92は、流路形成基板10の第1の方向Xの両端部に、第2の方向Yに連続して振動板50上に引き出されている。
また、共通リード電極92は、第2の方向Yにおいて、圧力発生室12の壁面上に、すなわち、可撓部と非可撓部との境界部分に跨って設けられた延設部93を有する。延設部93は、複数の能動部310の第1の方向Xに亘って連続して設けられており、第1の方向Xの両端部で共通リード電極92に連続する。すなわち、延設部93を有する共通リード電極92は、保護基板30側から平面視した際に、能動部310の周囲を囲むように連続して配置されている。このように、延設部93を設けることで、可撓部と非可撓部との境界における応力集中における圧電体層70の破壊を抑制することができる。また、共通リード電極92が可撓部上には実質的に形成されていないため、能動部310の変位低下を抑えることができる。なお、延設部93についても、応力付与膜200に設けられたコンタクトホール201を介して第2電極80と電気的に接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、図3及び図4に示すように、圧電素子300を保護する保護基板30が接着剤35によって接合されている。保護基板30には、圧電素子300を収容する空間を画成する凹部である圧電素子保持部31が設けられている。また保護基板30には、マニホールド100の一部を構成するマニホールド部32が設けられている。マニホールド部32は、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部15と連通している。また保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。各能動部310の第1電極60に接続されたリード電極90は、この貫通孔33内に露出しており、図示しない駆動回路に接続される接続配線の一端が、この貫通孔33内でリード電極90に接続されている。
保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加する。これにより圧電素子300と共に振動板50がたわみ変形して各圧力発生室12内の圧力が高まり、各ノズル開口21からインク滴が噴射される。
ここで、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図8〜図12は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
まず、図8(a)に示すように、流路形成基板10が複数一体的に形成されるシリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に振動板50を形成する。本実施形態では、流路形成基板用ウェハー110を熱酸化することによって形成した二酸化シリコン(弾性膜51)と、スパッタリング法で成膜後、熱酸化することによって形成した酸化ジルコニウム(絶縁体膜52)との積層からなる振動板50を形成した。
次いで、図8(b)に示すように、絶縁体膜52上の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60の材料は特に限定されないが、例えば、高温でも導電性を失わない白金、イリジウム等の金属や、酸化イリジウム、ランタンニッケル酸化物などの導電性酸化物、及びこれらの材料の積層材料が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)、レーザーアブレーション法などの気相成膜、スピンコート法などの液相成膜などにより形成することができる。また、前述の導電材料と、振動板50との間に、密着力を確保するための密着層を用いてもよい。本実施形態では、特に図示していないが密着層としてチタンを用いている。なお、密着層としては、ジルコニウム、チタン、酸化チタンなどを用いることができる。また、電極表面(圧電体層70の成膜側)に圧電体層70の結晶成長を制御するための制御層を形成してもよい。本実施形態では、圧電体層70(PZT)の結晶制御としてチタンを使用している。チタンは、圧電体層70の成膜時に圧電体層70内に取り込まれるため、圧電体層70形成後には膜として存在していない。結晶制御層としては、ランタンニッケル酸化物などのペロブスカイト型結晶構造の導電性酸化物などを使用してもよい。
次に、本実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、金属錯体を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。すなわち、圧電体層70は液相法、気相法の何れで形成してもよい。本実施形態では、複数層の圧電体膜74を積層することで圧電体層70を形成するようにした。
具体的には、図9(a)に示すように、第1電極60上に1層目の圧電体膜74を形成した段階で、第1電極60及び1層目の圧電体膜74をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。なお、第1電極60及び1層目の圧電体膜74のパターニングは、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。
ここで、例えば、第1電極60をパターニングしてから1層目の圧電体膜74を形成する場合、フォト工程・イオンミリング・アッシングして第1電極60をパターニングするため、第1電極60の表面や、表面に設けた図示しないチタン等の結晶種層などが変質してしまう。そうすると変質した面上に圧電体膜74を形成しても当該圧電体膜74の結晶性が良好なものではなくなり、2層目以降の圧電体膜74も1層目の圧電体膜74の結晶状態に影響して結晶成長するため、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができない。
それに比べ、1層目の圧電体膜74を形成した後に第1電極60と同時にパターニングすれば、1層目の圧電体膜74はチタン等の結晶種に比べて2層目以降の圧電体膜74を良好に結晶成長させる種(シード)としても性質が強く、たとえパターニングで表層に極薄い変質層が形成されていても2層目以降の圧電体膜74の結晶成長に大きな影響を与えない。
なお、2層目の圧電体膜74を成膜する前に露出した振動板50上(本実施形態では、酸化ジルコニウムである絶縁体膜52)に、2層目以降の圧電体膜74を成膜するときに、結晶制御層(中間結晶制御層)を用いてもよい。本実施形態では、中間結晶制御層としてチタンを用いるようにした。このチタンからなる中間結晶制御層は、第1電極60上に形成する結晶制御層のチタンと同様に、圧電体膜74を成膜する際に圧電体膜74に取り込まれる。ちなみに、中間結晶制御層は、中間電極または直列接続されるコンデンサの誘電体となってしまった場合、圧電特性の低下を引き起こす。このため、中間結晶制御層は、圧電体膜74(圧電体層70)に取り込まれ、圧電体層70の成膜後に膜として残らないものが望ましい。
次に、図9(b)に示すように、2層目以降の圧電体膜74を積層することにより、複数層の圧電体膜74からなる圧電体層70を形成する。
ちなみに、2層目以降の圧電体膜74は、絶縁体膜52上、第1電極60及び1層目の圧電体膜74の側面上、及び1層目の圧電体膜74上に亘って連続して形成される。
次に、図9(c)に示すように、圧電体層70上に第2電極80を構成する第1層81を形成する。本実施形態では、特に図示していないが、まず、圧電体層70上にイリジウムを有するイリジウム層と、イリジウム層上にチタンを有するチタン層とを積層する。なお、このイリジウム層及びチタン層は、スパッタリング法やCVD法等によって形成することができる。その後、イリジウム層及びチタン層が形成された圧電体層70をさらに再加熱処理(ポストアニール)する。このように再加熱処理することで、圧電体層70の第2電極80側にイリジウム層等を形成した際のダメージが発生しても、再加熱処理を行うことで、圧電体層70のダメージを回復して、圧電体層70の圧電特性を向上することができる。また、ポストアニールを行うことで、圧電体層70の圧電特性の向上及び圧電特性の均一化を行うことができる。
次に、図10(a)に示すように、第1層81及び圧電体層70を各圧力発生室12に対応してパターニングする。本実施形態では、第1層81上に所定形状に形成したマスク(図示なし)を設け、このマスクを介して第1層81及び圧電体層70をエッチングする、いわゆるフォトリソグラフィーによってパターニングした。なお、圧電体層70のパターニングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。これにより、圧電体層70はパターニングされて凹部71(図2参照)等が形成される。
次に、図10(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の一方面側(圧電体層70が形成された面側)に亘って、すなわち、第1層81上、圧電体層70をパターニングした側面上、絶縁体膜52上、及び第1電極60上等に亘って、例えば、イリジウム(Ir)からなる第2層82を形成することで第2電極80を形成する。
次に、図10(c)に示すように、第2電極80を所定形状にパターニングする。これにより、除去部83等を形成する。
次に、応力付与膜200を形成する。まず、図10(d)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の一方面に亘って応力付与材料210を形成する。
応力付与材料210としては、後の工程で酸化又は窒化されて膨張する材料であって、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、チタン、ジルコニウム、スズ、ハフニウム、鉄、ニッケル、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、銅、銀、パラジウムや、これらの材料において十分に酸化されていない状態のもの又は十分に窒化されていない状態のもの等から選択される少なくとも一種が挙げられる。応力付与材料210は、上記の材料の単層であっても複数を積層した複数層であってもよく、また、材料が混合されていてもよい。
このような応力付与材料210の成膜方法は、特に限定されないが、例えば、反応性スパッタリング法によって形成するのが好ましい。
本実施形態では、応力付与材料210として、十分に酸化されていないCrO(X<2)を反応性スパッタリングによって形成した。
次に、図10(e)に示すように、応力付与材料210を酸化させて応力付与膜200とする。本実施形態では、CrO(X<2)である応力付与材料210を加熱することで十分に酸化させてCrOである応力付与膜200を形成した。このように応力付与材料210を十分に酸化することで形成した応力付与膜200は、応力付与材料210に比べて体積が膨張される。したがって、応力付与膜200は体積膨張によって圧電素子300に圧縮応力を付与する。ちなみに、応力付与膜200である酸化膜を直接圧電素子300上に形成すると、成膜方法にもよるが、酸化膜は圧電素子300に引っ張り応力を付与してしまい、圧電素子300には酸化膜を設けていない場合に比べてさらに流路形成基板用ウェハー130側(後に形成される圧力発生室12内)に凸となる内部応力が付与される。本実施形態では、応力付与材料210を成膜してから酸化して応力付与材膜200とすることで、応力付与膜200によって圧電素子300に圧縮応力を付与して、圧電素子300は流路形成基板用ウェハー130側に凸となる応力を減少させることができる。
なお、本実施形態では、応力付与材料210を酸化して応力付与膜200とする加熱工程は、圧電体層70を再加熱するポストアニールと同時に行うようにしてもよい。なお、応力付与膜200を形成する際に同時にポストアニールを行う場合には、上述した第1層81を形成した後のポストアニールを行わないようにしてもよい。すなわち、第1層81を形成した際の圧電体層70のダメージは、応力付与材料210を形成した後に回復させるようにしてもよい。このように応力付与膜200の形成と、圧電体層70のポストアニールとを同時に行うことで、工程を簡略化してコストを低減することができる。もちろん、ポストアニールを複数回繰り返し行うようにしてもよい。
また、本実施形態では、応力付与材料210を加熱することで酸化させて応力付与膜200とするようにしたが、応力付与材料210の材料にもよるが、応力付与材料210を加熱することなく、常温で放置することによっても応力付与材料210を酸化させて応力付与膜200とすることが可能である。
また、本実施形態では、十分に酸化されていない応力付与材料210を十分に酸化させて応力付与膜200を形成したが、特にこれに限定されず、応力付与材料210として窒化されていない材料又は十分に窒化されていない材料を用いて、応力付与材料210を窒化又は十分に窒化することで応力付与膜200を設けるようにしてもよい。
次に、図11(a)に示すように、応力付与膜200を所定形状にパターニングする。この応力付与膜200のパターニングでは、平面視した際に圧電体層70に重なる位置に応力付与膜200が形成されるように行うと共に、応力付与膜200にコンタクトホール201を形成する。なお、応力付与膜200のパターニングは、応力付与材料210を成膜した直後に行うようにしてもよい。すなわち、パターニングした応力付与材料210を酸化又は窒化させて応力付与膜200として、応力付与膜200のパターニングを行わないようにしてもよい。
次に、図11(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の一方面の全面に亘ってリード電極90を形成する。本実施形態では、密着層191と、導電層192とを積層することでリード電極90を形成した。
次に、図11(c)に示すように、リード電極90を所定形状にパターニングする。リード電極90のパターニングでは、先に導電層192をウェットエッチング等でパターニングした後、密着層191をウェットエッチングによってパターニングすればよい。
次に、図12(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。
次いで、図12(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜53を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図12(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜53を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15等を形成する。これにより、圧電素子300は流路形成基板用ウェハー110(振動板50)の拘束が解除されて、内部応力の影響で図6に示すように変形する。
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
このように、圧電素子300に応力付与材料210を形成してから、応力付与材料210を酸化させて応力付与膜200を設けることで、圧電素子300に容易に圧縮応力を付与することができる。したがって、圧電素子300の変位効率を向上して、低い電圧によって高い変位量を得ることができる。
(実施例1)
上述した実施形態1と同様の圧電素子300に対して、応力付与材料210としてCrO(X<2)を反応性スパッタリング法によって成膜した後、1ヶ月放置したものを実施例1とした。
(実施例2)
上述した実施形態1と同様の圧電素子300に対して、応力付与材料210としてCrO(X<2)を反応性スパッタリング法によって成膜した後、3ヶ月放置したものを実施例2とした。
(比較例)
上述した実施形態1と同様の圧電素子300に対して、応力付与材料210としてCrO(X<2)を反応性スパッタリング法によって成膜した直後のものを比較例とした。
(試験例)
実施例1、2及び比較例の圧電素子の膜厚を測定した。この結果を図13(a)に示す。また、実施例1、2及び比較例の圧電素子の初期たわみ量と、実施例1、2及び比較例の変位量とを測定した。この結果を図13(b)及び(c)に示す。なお、初期たわみ量は、振動板50の圧電素子300が設けられた表面を基準として、圧力発生室12側をマイナス、圧力発生室12とは反対側をプラスとした場合の数値であり、3次元白色光干渉型顕微鏡(BRUKER社製)を用いて行った。また、各圧電素子の変位量の測定は、振幅25V(1kHz、台形波)の電圧を印加し、レーザードップラー振動計(小野測器社製)によって行った。ただし、図13(c)には、各圧電素子の変位量については、比較例の圧電素子の変位量を基準とした相対的な変位量を示している。
図13(a)に示すように、実施例1及び2の応力付与膜は、比較例に比べて膜厚が厚くなっていることが分かる。これは、クロムのようにイオン化傾向が高い材料は、放置することで酸化が進んだからであると考えられる。
また、図13(b)に示すように、実施例1及び2のように酸化が進んだ応力付与膜の設けられた圧電素子は、十分に酸化されていない酸化膜が設けられた比較例の圧電素子に比べて、初期たわみが少ない、すなわち、振動板の表面に近い状態となっている。このため、応力付与膜が酸化されて膨張する、つまり、膜厚が厚くなることで圧電素子に圧縮応力を付与していることが明確である。
そして、図13(c)に示すように、実施例1及び2の応力付与膜が設けられた圧電素子の変位量は、比較例の圧電素子の変位量に比べて大きくなっている。また、この試験によって、初期たわみが圧力発生室12とは反対側に移動することで、圧電素子の変位量は向上することが判明した。
したがって、圧電素子300に酸化材料であって、圧電素子300に圧縮応力を付与する応力付与膜200を設けることで圧電素子300に圧縮応力を付与して、圧電素子300の変位効率を向上することができる。また、この結果から酸化材料だけではなく、窒化材料であっても、酸化材料と同様に窒化によって体積が膨張して膜厚が厚くなると考えられる。したがって、窒化材料であって、圧電素子300に圧縮応力を付与する応力付与膜200を設けることによっても同様に変位効率を向上することができると考えられる。
(実施形態2)
図14は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図示するように、本実施形態の圧電素子300は、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、を具備する。
第2電極80は、第1層81と、第2層82と、を具備する。第2電極80を構成する第2層82は、酸化材料で形成されており、圧電素子300に圧縮応力を付与する応力付与膜として機能する。すなわち、本実施形態では、応力付与膜である第2層82が、圧電素子300の第2電極80の一部を構成するようになっている。
このような構成であっても、第2電極80が酸化されることで体積が膨張し、圧電素子300の特に第2層82よりも下層である圧電体層70等に圧縮応力を付与することによって、圧電素子300の変位効率を向上することができる。
なお、このような第2層82は、第1層81上に、酸化されていない材料、又は十分に酸化されていない材料を形成した後、酸化することで形成すればよい。すなわち、例えば、第1層81上にイリジウム(Ir)を成膜した後、酸化することで、酸化イリジウム(IrO(X<2))からなる第2層82を形成するか、第1層81上に酸化が不十分な酸化イリジウム(IrO(X<2))を成膜した後、十分に酸化することで酸化イリジウム(IrO)からなる第2層82を形成する方法が考えられる。何れの方法であっても、応力付与膜である第2層82を設けることで、圧電素子300に圧縮応力を付与して、変位効率を向上することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態1では、応力付与膜200は、第2電極80の直上に設けられているが、応力付与膜200は、圧電体層70の上方に設けられていればよく、間に他の膜、例えば、実施形態1のように第2電極80が設けられていてもよく、さらに第2電極80と応力付与膜200との間に他の膜が設けられていてもよい。また、応力付与膜200が第2電極80の機能を有する場合には、圧電体層70の直上に応力付与膜200を設けるようにしてもよい。つまり、圧電体層70の上方とは、圧電体層70の直上も、間に他の膜が介在した状態(上方)も含むものである。
また、上述した実施形態1及び2では、応力付与膜200として酸化膜を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、応力付与膜200は、酸化又は窒化によって成膜後に体積が膨張すればよい。したがって、応力付与膜200は、窒化膜であってもよい。
さらに、上述した実施形態1及び2では、各能動部310の圧電体層70が連続的に設けられた構成を例示したが、勿論、圧電体層70は、能動部310毎に独立して設けられていてもよい。
また、上述した実施形態1及び2では、第2電極80を第1層81と第2層82とを積層したものとしたが、特にこれに限定されず、第2電極80は単層であっても3層以上に積層したものであってもよい。
また、上述した実施形態1及び2では、第1電極60を個別電極とし、第2電極80を共通電極としたが、特にこれに限定されず、第1電極60を共通電極とし、第2電極80を個別電極としてもよい。この場合、圧電体層70の側面が露出されてしまう虞があるため、圧電素子300には、絶縁性の保護膜等を設けるようにすればよい。また、保護膜を設けた場合には、保護膜上に応力付与膜200を設けるようにすれば、上述した実施形態1及び2と同様の効果を奏することができる。
また、インクジェット式記録ヘッドIは、例えば、図15に示すように、インクジェット式記録装置IIに搭載される。インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1は、インク供給手段を構成するカートリッジ2が着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動可能に設けられている。この記録ヘッドユニット1は、例えば、ブラックインク組成物及びカラーインク組成物を噴射する。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
そして本発明では、上述のようにインクジェット式記録ヘッドIを構成する圧電素子300の破壊を抑制しつつ噴射特性の均一化を図ることができる。結果として、印刷品質を向上し耐久性を高めたインクジェット式記録装置IIを実現することができる。
なお、上述した例では、インクジェット式記録装置IIとして、インクジェット式記録ヘッドIがキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、その構成は特に限定されるものではない。インクジェット式記録装置IIは、例えば、インクジェット式記録ヘッドIを固定し、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させることで印刷を行う、いわゆるライン式の記録装置であってもよい。
また、上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて本発明を説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッドの他、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧力センサー、焦電センサー等他の装置に搭載される圧電素子にも適用することができる。また、本発明は強誘電体メモリー等の強誘電体素子にも同様に適用することができる。
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板(基板)、 11 隔壁、 12 圧力発生室、 13 インク供給路、 14 連通路、 15 連通部、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 圧電素子保持部、 32 マニホールド部、 33 貫通孔、 35 接着剤、 40 コンプライアンス基板、 41 封止膜、 42 固定板、 43 開口部、 50 振動板、 51 弾性膜、 52 絶縁体膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 71 凹部、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 200 応力付与膜、 201 コンタクトホール、 210 応力付与材料、 300 圧電素子、 310 能動部

Claims (9)

  1. 基板に第1電極、圧電体層及び第2電極が層形成されており、
    前記圧電体層の上方には、酸化材料又は窒化材料からなり、前記圧電体層に対して圧縮応力を付与する応力付与膜が設けられていることを特徴とする圧電素子。
  2. 前記応力付与膜は、前記圧電体層の層形成方向とは交差する面に重なる位置まで延設されていることを特徴とする請求項1記載の圧電素子。
  3. 前記応力付与膜は、導電性を有し、前記第2電極の少なくとも一部を構成していることを特徴とする請求項1又は2記載の圧電素子。
  4. 前記応力付与膜は、酸化クロムを主成分とする材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電素子。
  5. 前記第1電極と前記第2電極とが相対向する前記圧電体層の領域である能動部を複数具備し、
    前記第2電極が、複数の前記能動部に共通する共通電極となっており、
    前記第1電極が、前記能動部毎に個別に設けられた共通電極となっている
    ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の圧電素子。
  6. 請求項1〜5の何れか一項に記載の圧電素子を具備することを特徴とする液体噴射ヘッド。
  7. 請求項6記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
  8. 基板上に、第1電極、圧電体層及び第2電極を層形成する工程と、
    前記第2電極の上方に応力付与材料を設け、該応力付与材料を酸化又は窒化させて体積を膨張させることで、前記圧電体層に対して圧縮応力を付与する応力付与膜を形成する工程と、
    を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法。
  9. 前記応力付与材料を酸化又は窒化させる工程では、前記圧電体層を再加熱処理する際に同時に加熱することで、熱酸化させることを特徴とする請求項8記載の圧電素子の製造方法。
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