JP5304976B2 - 積層膜の製造方法及びアクチュエータ装置の製造方法並びに液体噴射ヘッドの製造方法、アクチュエータ装置 - Google Patents

積層膜の製造方法及びアクチュエータ装置の製造方法並びに液体噴射ヘッドの製造方法、アクチュエータ装置 Download PDF

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Description

本発明は、下地層上にエピタキシャル成長可能な材料からなる結晶層を形成する積層膜の製造方法に関し、特に、基板の一方面側に変位可能に設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を具備するアクチュエータ装置の製造方法並びに液体噴射ヘッドの製造方法、アクチュエータ装置に関する。
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料からなる圧電体層を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
このような圧電素子の製造方法としては、基板(流路形成基板)の一方面側に下電極膜をスパッタリング法等により形成後、下電極膜上に溶液を塗布した後、この溶液の乾燥及び脱脂を行うことで圧電体前駆体膜を形成し、この圧電体前駆体膜を加熱焼成することで結晶化した圧電体層を形成する、いわゆるゾル−ゲル法やMOD法が用いられている。
しかしながら、基板の一方面側に下電極膜として、白金(Pt)等の白金族金属をスパッタリング法等により形成すると、下電極膜は自由成長により形成されるため、結晶面方位が(111)に優先配向して形成される。そして、下電極膜上に圧電体層をゾル−ゲル法又はMOD法等により形成すると、圧電体層は、下電極膜の結晶構造を踏襲したエピタキシャル成長により形成されるため、圧電体層の結晶構造は、結晶面方位が(111)に優先配向して形成されてしまい、圧電特性が悪い圧電素子が形成されてしまうという問題がある。
このため、下電極膜上にスパッタリング法等によりチタン結晶を形成し、このチタン結晶上にゾル−ゲル法により圧電体層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これによれば、圧電体層は、下地であるチタンによって下電極膜の影響を受けることなく自由成長し、その結晶面方位が(100)に優先配向した状態で形成される。
特開2001−274472号公報(第5頁)
しかしながら、下電極膜上にチタンを形成して圧電体層を結晶面方位が(100)に優先配向するように形成するためには、厳格な工程管理が要求されるため、製造工程が煩雑となり、製造効率が悪く、製造コストが高くなってしまうという問題がある。
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエータ装置に限定されず、他の装置に搭載されるアクチュエータ装置においても同様に存在する。
本発明はこのような事情に鑑み、結晶配向性の強い膜上に、エピタキシャルな関係を絶って他の膜を自由成長させることができる積層膜の製造方法及びアクチュエータ装置の製造方法並びに液体噴射ヘッドの製造方法、アクチュエータ装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の態様は、少なくとも最上層に結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属を主成分とする層を有する下地層の上に当該下地層の材料とは異なり且つエピタキシャル成長可能な材料からなる結晶層を形成して積層膜を製造するに際し、前記下地層上に前記結晶層となる前駆体層を形成し、該前駆体層上に配向が定まらない状態で界面エネルギー低減層を1〜10nmの厚さで形成した後、該界面エネルギー低減層側から前記下地層側に向けて前記前駆体層を自由成長させて結晶面方位が(100)に優先配向した結晶層を形成し、当該結晶層上にさらに結晶面方位が(100)に優先配向した結晶層をエピタキシャル成長により形成することを特徴とする積層膜の製造方法にある。
かかる態様では、結晶配向性の強い下地層上に前駆体層を形成し、前駆体層上に配向が定まらない状態で界面エネルギー低減層を形成して、界面エネルギー低減層側を起点として前駆体層を結晶成長させて結晶層を形成するため、結晶層は下地層とのエピタキシャルな関係が絶たれて自由成長するので、厳格な工程管理を必要とせずに結晶面が配向した膜となる。つまり、下地層の配向を引き継ぐことなく所望の配向の結晶層を得られる。
また、結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属からなる下地層上に、自由成長により結晶面方位が(100)に優先配向した結晶層を形成することができる。
さらに、界面エネルギー低減層の厚さを規定することで、界面エネルギー低減層を前駆体層上に結晶が定まらない状態で形成することができる。
また、所望の厚さの結晶層を自由成長による結晶構造を踏襲させた所望の結晶構造で形成することができる。
ここで、前記結晶層が、強誘電体材料であると共に、前記界面エネルギー低減層を、ビスマス、ランタン、ニッケル、タングステン、ニオブ、マグネシウム及びバリウムから選択される少なくとも1種を主成分とする材料で形成することが好ましい。
これによれば、界面エネルギー低減層として所定の材料を用いることで、強誘電体材料である結晶層の誘電特性に悪影響を与えることなく、所望の配向の結晶層を得ることができる。
また、前記界面エネルギー低減層をスパッタリング法又は蒸着法により形成することが好ましい。
これによれば、界面エネルギー低減層を前駆体層上に結晶が定まらない状態で形成することができる。
また、前記結晶層を形成する際に、前記前駆体層を焼成して結晶化すると共に、前記前駆体層の加熱を前記界面エネルギー低減層側から前記下地層側に向けて行うことが好ましい。
これによれば、界面エネルギー低減層を下地層よりも先に加熱することができ、界面エネルギー低減層側を起点として前駆体層を自由成長により結晶化させることができる。
さらに、本発明の他の態様は、上記の積層膜の製造方法を用いて、基板の一方面側に変位可能に設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を具備するアクチュエータ装置を製造することを特徴とするアクチュエータ装置の製造方法にある。
かかる態様では、自由成長により所望の配向に優先配向した結晶層を得ることができるため、圧電特性に優れたアクチュエータ装置を製造することができる。
ここで、前記積層膜の製造方法を、結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属を少なくとも最上層に有する前記下電極上に、結晶面方位が(100)に優先配向したチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる前記圧電体層を形成する工程に適用することが好ましい。
これによれば、結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属からなる下電極上に、エピタキシャルな関係を絶って自由成長により結晶面方位が(100)に優先配向した圧電体層を形成することができる。
また、本発明の他の態様は、上記態様のアクチュエータ装置の製造方法によって、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板の一方面に、前記アクチュエータ装置を形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、液体噴射特性を向上した液体噴射ヘッドを安価に製造することができる。
さらに、本発明の他の態様は、基板の一方面側に変位可能に設けられて少なくとも最上層に結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属で構成された下電極と、該下電極上に結晶面方位が(100)に優先配向した圧電体層と、該圧電体層上に設けられた上電極とからなる圧電素子を具備し、前記圧電体層の厚さ方向の間には、厚さが1〜10nmの界面エネルギー低減層を有することを特徴とするアクチュエータ装置にある。
かかる態様では、結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属からなる下電極上に、結晶面方位が(100)に優先配向した圧電体層が形成されているので、圧電特性に優れたアクチュエータ装置が実現できる。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図、そのA−A′断面図及び要部拡大断面図である。
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では板厚方向の結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化によって二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路14と連通路15とが隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられている。
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、本実施形態では、インク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、このように、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、インク供給路14の圧力発生室12とは反対側に連通し、インク供給路14の幅方向(短手方向)より大きい断面積を有する。本実施形態では、連通路15を圧力発生室12と同じ断面積で形成した。
すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12と、圧力発生室12の短手方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の短手方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが複数の隔壁11により区画されて設けられている。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、二酸化シリコンからなり厚さが例えば、約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、酸化ジルコニウム(ZrO2)等からなり厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が積層形成されている。また、この絶縁体膜55上には、厚さが約0.1〜0.5μmの下電極膜60と、圧電体膜の一例であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなり厚さが例えば、約1.1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室12毎に圧電体能動部320が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみを残して下電極膜60を振動板としてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
下電極膜60は、少なくとも圧電体層70側の最上層に白金族金属、すなわち、ルテニウム(Ru)、オスニウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)を主成分とする層を有するものである。本実施形態では、下電極膜60として、白金(Pt)を用いた。このような白金族金属からなる下電極膜60は、スパッタリング法や蒸着法などにより形成すると、自由成長により結晶面方位が(111)に優先配向した状態で形成される。
また、本実施形態の圧電体層70としては、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロヴスカイト構造の結晶膜が挙げられる。圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。本実施形態では、圧電体層70として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた。
また、圧電体層70を構成する圧電体膜72と圧電体膜72との間には、界面エネルギー低減層73が1層設けられている。この界面エネルギー低減層73は、詳しくは後述するが、圧電素子300をゾル−ゲル法又はMOD法等により形成した際に、この界面エネルギー低減層73を起点として、流路形成基板10側に向かって圧電体層70を結晶化させて、圧電体層70を自由成長(ホモエピタキシャルではない)させるためのものである。すなわち、圧電体層70を加熱焼成して形成する際に、圧電体層70を界面エネルギー低減層73側から自由成長により形成することができるため、結晶面方位が(111)に優先配向した下電極膜60の影響を受けずに、下電極膜60との間にエピタキシャルな関係を絶って、結晶面方位が(100)に優先配向した菱面体晶系又は単斜晶系構造の圧電体層70を形成することができる。
なお、界面エネルギー低減層73よりも上電極膜80側に形成された圧電体層70は、界面エネルギー低減層73によって自由成長するか、もしくは、界面エネルギー低減層73よりも流路形成基板10側の圧電体層70の結晶構造を踏襲して、圧電体層70全体の結晶面方位が(100)に優先配向したエピタキシャル構造となる。
なお、界面エネルギー低減層73としては、例えば、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、マグネシウム(Mg)及びバリウム(Ba)から選択される少なくとも1種を主成分とする材料が挙げられる。また、界面エネルギー低減層73の厚さは、1〜10nmの薄膜が好適である。界面エネルギー低減層73として、このような材料を用いて所定の厚さとすることで、界面エネルギー低減層73がPZTからなる圧電体層70の圧電特性に悪影響を与えることがなく、圧電体層70全体で結晶面方位が(100)に優先配向した構造とすることができる。また、界面エネルギー低減層73の厚さを1〜10nmと比較的薄くすることで、界面エネルギー低減層73より上(上電極膜80側)に形成される圧電体層70は、界面エネルギー低減層73より下(下電極膜60側)の圧電体層70の結晶構造による拘束が界面エネルギー低減層73でキャンセルされることがないため、界面エネルギー低減層73より上(上電極膜80側)に形成される圧電体層70は、界面エネルギー低減層73より下(下電極膜60側)の圧電体層70の結晶構造を踏襲したエピタキシャル構造で形成される。また、結晶化した膜中において、界面エネルギー低減層73を構成する金属組成物は、所謂ペロヴスカイト型結晶のAサイト、またはBサイトを形成し、決して異相を形成するものではない。この理由により、適正な膜厚の範囲であれば圧電特性に悪影響を及ぼすものではない。
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上まで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。リザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通の液体室となるリザーバ100を構成している。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。保護基板30は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
さらに、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図7を参照して説明する。なお、図3〜図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50となる二酸化シリコン膜51を形成する。なお、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110として、厚さが約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハを用いている。
次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、ジルコニウム(Zr)層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜55を形成する。
次いで、図3(c)に示すように、絶縁体膜55の全面に亘って、少なくとも最上層に白金族金属、すなわち、ルテニウム(Ru)、オスニウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)を主成分とする層を有する下電極膜60を形成する。本実施形態では、下電極膜60として、白金(Pt)を用いた。また、下電極膜60の形成方法としては、例えば、スパッタリング法又は蒸着法等が挙げられる。このように絶縁体膜55上にスパッタリング法又は蒸着法等により白金族金属からなる下電極膜60を形成すると、下電極膜60はアモルファスの酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜上に形成されるため、自由成長により結晶面方位が(111)に優先配向した状態で形成される。
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛に限定されず、例えば、リラクサ強誘電体(例えば、PMN−PT、PZN-PT、PNN-PT等)の他の圧電材料を用いてもよい。また、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法等を用いてもよい。
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図4(a)に示すように、下電極膜60上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、下電極膜60が形成された流路形成基板10上に金属有機化合物を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を170〜180℃で8〜30分間保持することで乾燥することができる。
次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を300〜400℃程度の温度に加熱して約10〜30分保持することで脱脂した。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO、CO、HO等として離脱させることである。
次に、図4(b)に示すように、脱脂した圧電体前駆体膜71上に配向が定まらない状態で界面エネルギー低減層73を形成する。このような界面エネルギー低減層73としては、例えば、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、マグネシウム(Mg)及びバリウム(Ba)から選択される少なくとも1種を主成分とする金属材料が挙げられる。また、界面エネルギー低減層73は、1〜10nmで形成するのが好ましい。これは、界面エネルギー低減層73が厚すぎると、材料の本来の配向が出現し、界面エネルギー低減層73側を起点として圧電体前駆体膜71を結晶成長させた際に、界面エネルギー低減層73の配向を踏襲した結晶面方位に優先配向した圧電体膜が形成されてしまうからである。また、このような界面エネルギー低減層73は、例えば、スパッタリング法又は蒸着法等により形成することができる。本実施形態では、ビスマス(Bi)からなる厚さが5nmの界面エネルギー低減層73をスパッタリング法により形成した。
なお、本発明において配向が定まらない、又は無配向という状態は、非晶質(アモルファス)の状態や、結晶質であるが配向が定まらない無配向の状態を意味する。すなわち、界面エネルギー低減層73が、結晶質で配向が定まった状態(優先配向した状態)であると、圧電体前駆体膜71を界面エネルギー低減層73側を起点として成長させた際に、結晶化した圧電体膜72は、界面エネルギー低減層73の結晶構造を踏襲したエピタキシャルになってしまうからである。
次に、図4(c)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。
ここで、焼成工程により各膜が設けられた流路形成基板用ウェハ110を加熱すると、界面エネルギー低減層73が空気中に露出されているため、界面エネルギー低減層73は圧電体前駆体膜71の下地層である下電極膜60よりも先に加熱される。これにより、圧電体前駆体膜71は、界面エネルギー低減層73側から先に加熱されて、界面エネルギー低減層73側を起点として結晶化される。そして、界面エネルギー低減層73は配向が定まらない状態で形成されているため、界面エネルギー低減層73側から圧電体前駆体膜71は自由成長により結晶化され、結晶面方位は(100)に優先配向した状態で圧電体膜72を形成することができる。
すなわち、圧電体前駆体膜71は、下地層である下電極膜60側から加熱されると、下電極膜60側を起点として下電極膜60の結晶構造を踏襲したエピタキシャル構造で、結晶面方位が(111)に優先配向した状態で形成されてしまうが、本発明のように、圧電体前駆体膜71を自由成長により結晶化させることで、下電極膜60との間にエピタキシャルな関係を絶って、結晶面方位が(100)に優先配向した菱面体晶系または単斜晶系で形成することができる。
なお、焼成工程では、圧電体前駆体膜71を650〜750℃に加熱するのが好ましく、本実施形態では、700℃で5分加熱するようにした。このように焼成温度及び焼成時間を所定の範囲とすることで優れた特性の圧電体膜72を得ることができる。
また、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置、ホットプレート又は熱拡散炉等が挙げられる。そして、本実施形態では、焼成工程では、上述のように下地層である下電極膜60よりも先に界面エネルギー低減層73を加熱するため、例えば、加熱装置として赤外線を用いた加熱装置を用いる場合には、界面エネルギー低減層73側から赤外線の照射を行い、界面エネルギー低減層73側から加熱するようにするのが好ましい。これにより、界面エネルギー低減層73側から加熱して、圧電体前駆体膜71の結晶成長を界面エネルギー低減層73側が起点となることを確実にすることができる。勿論、昇温レートを高くして、結晶性に優れた圧電体膜72を得るために、流路形成基板用ウェハ110の両面側から赤外線の照射を行って加熱するようにしてもよい。
なお、焼成工程では、圧電体前駆体膜71を680〜900℃に加熱するのが好ましく、本実施形態では、上述した赤外線加熱装置200によって、680℃で5〜30分間加熱を行って圧電体前駆体膜71を焼成して圧電体膜72を形成した。また、焼成工程では、昇温レートを50℃/sec以上とするのが好ましく、100℃/sec以上が好適である。このように圧電体膜72の焼成時の昇温レートを50℃/sec以上とすることで、低温の昇温レートで長時間行うのに比べて、短時間で行うことができると共に、圧電体膜72を比較的粒径が小さく且つ均一な結晶で形成することができる。
そして、図5(a)に示すように、下電極膜60上に圧電体膜72の1層目を形成した段階で、下電極膜60及び1層目の圧電体膜72を同時にパターニングする。なお、下電極膜60及び圧電体膜72のパターニングは、例えば、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。
そして、パターニング後、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことで、図5(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。このとき、2層目以降の圧電体膜72は界面エネルギー低減層73上に形成されるが、界面エネルギー低減層73は、厚さが1〜10nmと薄いため、2層目以降の圧電体膜72は、1層目の圧電体膜72の結晶構造を踏襲したエピタキシャル構造となる。すなわち、圧電体層70全体を結晶面方位が(100)に優先配向した状態で形成することができる。
このように、結晶配向性の強い下地層である下電極膜60の上に、自由成長により結晶性が向上して均一化された結晶層である圧電体層70を積層形成することができる。また、結晶層である圧電体層70を自由成長により形成することができるため、厳格な工程管理を必要とせずに、容易な工程管理で良質な圧電体層70を形成することができる。これにより、製造コストを低減することができる。
なお、例えば、ゾルの1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、例えば、10層の圧電体膜72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.1μm程度となる。
そして、圧電体層70を形成した後は、図6(a)に示すように、例えば、イリジウムからなる上電極膜80を流路形成基板10の全面に形成した後、図6(b)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図6(c)に示すように、流路形成基板10の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
次に、図6(d)に示すように、パターニングされた複数の圧電素子300を保持する保護基板用ウェハ130を、流路形成基板10上に例えば接着剤35によって接合する。なお、保護基板用ウェハ130には、リザーバ部31、圧電素子保持部32等が予め形成されている。また、保護基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するシリコン単結晶基板からなり、保護基板用ウェハ130を接合することで流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
次いで、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。
次に、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハ110の圧力発生室12が開口する面側のマスク膜52を除去し、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。上述した実施形態1では、流路形成基板10及び流路形成基板用ウェハ110として、結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
また、上述した実施形態1では、下電極膜60として、白金(Pt)を用いるようにしたが、特にこれに限定されず、下電極膜60は、少なくとも最上層(圧電体層70側)が白金族金属等の結晶配向性を有する金属で形成されていればよく、例えば、下電極膜60が、チタン(Ti)等の密着層と、密着層上に形成された白金(Pt)等の白金層と、白金層上に形成されたイリジウム等の拡散防止層とで構成されていてもよい。
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明は、このような液体噴射ヘッドに圧力発生手段として搭載されるアクチュエータ装置及びその製造方法だけでなく、あらゆる装置に搭載されるアクチュエータ装置及びその製造方法に適用することができる。例えば、アクチュエータ装置は、上述した液体噴射ヘッドの他に、センサー等が挙げられる。
さらに、本発明は、基板上に変位可能に設けられた圧電素子を具備するアクチュエータ装置及びその製造方法に限定されるものではなく、下地層上に結晶層を形成した積層膜の製造方法に適用できることは言うまでもない。
実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
符号の説明
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバ部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 71 圧電体前駆体膜、 72 圧電体膜、 73 界面エネルギー低減層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 110 流路形成基板用ウェハ、 120 駆動回路、 121 接続配線、 130 保護基板用ウェハ、 300 圧電素子

Claims (8)

  1. 少なくとも最上層に結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属を主成分とする層を有する下地層の上に当該下地層の材料とは異なり且つエピタキシャル成長可能な材料からなる結晶層を形成して積層膜を製造するに際し、
    前記下地層上に前記結晶層となる前駆体層を形成し、該前駆体層上に配向が定まらない状態で界面エネルギー低減層を1〜10nmの厚さで形成した後、該界面エネルギー低減層側から前記下地層側に向けて前記前駆体層を自由成長させて結晶面方位が(100)に優先配向した結晶層を形成し、当該結晶層上にさらに結晶面方位が(100)に優先配向した結晶層をエピタキシャル成長により形成することを特徴とする積層膜の製造方法。
  2. 前記結晶層が、強誘電体材料であると共に、前記界面エネルギー低減層を、ビスマス、ランタン、ニッケル、タングステン、ニオブ、マグネシウム及びバリウムから選択される少なくとも1種を主成分とする材料で形成することを特徴とする請求項1記載の積層膜の製造方法。
  3. 前記界面エネルギー低減層をスパッタリング法又は蒸着法により形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の積層膜の製造方法。
  4. 前記結晶層を形成する際に、前記前駆体層を焼成して結晶化すると共に、前記前駆体層の加熱を前記界面エネルギー低減層側から前記下地層側に向けて行うことを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の積層膜の製造方法。
  5. 請求項1〜の何れかに記載の積層膜の製造方法を用いて、基板の一方面側に変位可能に設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を具備するアクチュエータ装置を製造することを特徴とするアクチュエータ装置の製造方法。
  6. 前記積層膜の製造方法を、結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属を少なくとも最上層に有する前記下電極上に、結晶面方位が(100)に優先配向したチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる前記圧電体層を形成する工程に適用することを特徴とする請求項記載のアクチュエータ装置の製造方法。
  7. 請求項又は記載のアクチュエータ装置の製造方法によって、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板の一方面に、前記アクチュエータ装置を形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
  8. 基板の一方面側に変位可能に設けられて少なくとも最上層に結晶面方位が(111)に優先配向した白金族金属で構成された下電極と、該下電極上に結晶面方位が(100)に優先配向した圧電体層と、該圧電体層上に設けられた上電極とからなる圧電素子を具備し、前記圧電体層の厚さ方向の間には、厚さが1〜10nmの界面エネルギー低減層を有することを特徴とするアクチュエータ装置。
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