JP6196797B2 - 圧電体薄膜積層基板及び圧電体薄膜素子 - Google Patents

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Description

本発明は、圧電体薄膜素子に関し、特に、非鉛系圧電体を用いた圧電体薄膜積層基板に関するものである。
圧電素子は、圧電体の圧電効果を利用する素子であり、圧電体への電圧印加に対して変位や振動を発生するアクチュエータや、圧電体への応力変形に対して電圧を発生する応力センサなどの機能性電子部品として広く利用されている。これまでアクチュエータや応力センサに利用される圧電体としては、大きな圧電特性を有するチタン酸ジルコン酸鉛系のペロブスカイト型強誘電体(組成式:Pb(Zr1-xTix)O3、PZTと呼ばれる)が広く用いられてきた。
PZTは、鉛を含有する特定有害物質であるが、現在のところ圧電材料として代替できる適当な市販品が存在しないため、RoHS指令(電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会及び理事会指令)の適用免除対象となっている。しかしながら、世界的に地球環境保全の要請はますます強まっており、鉛を含有しない圧電体(非鉛系圧電材料)を使用した圧電素子の開発が強く望まれている。
一方、近年における各種電子機器の小型化・高性能化の進展に伴って、圧電素子に対しても小型化と高性能化との両立が強く求められている。ここで、粉末焼結法により作製する従来の圧電素子では、圧電体の厚さが10μm以下になると、圧電体を構成する結晶粒の大きさと同等になるため、結晶粒界が圧電特性に与える影響を無視することができなくなる。具体的には、電極と結晶粒界との位置関係や結晶粒界密度が焼結圧電体毎に大きく異なるために、圧電素子毎の圧電特性のばらつきが顕著になるといった問題が発生する。圧電素子の小型化(薄型化)に関するこのような問題に対して、近年、粉末焼結法に代えて薄膜形成技術を利用した圧電体薄膜素子が報告されている。
非鉛系圧電体を用いた圧電体薄膜素子として、例えば特許文献1(特開2007-19302号公報)には、基板上に、下部電極、圧電薄膜、及び上部電極を有する圧電薄膜素子において、上記圧電薄膜を、一般式(NaxKyLiz)NbO3(0<x<1、0<y<1、0≦z<1、x+y+z=1)で表記されるアルカリニオブ酸化物系のペロブスカイト化合物で構成される誘電体薄膜とし、その圧電薄膜と上記下部電極の間に、バッファ層として、ペロブスカイト型結晶構造を有し、かつ、(001)、(100)、(010)、及び(111)のいずれかの面方位に高い配向度で配向され易い材料の薄膜を設けたことを特徴とする圧電薄膜素子が開示されている。特許文献1によると、鉛フリーのニオブ酸リチウムカリウムナトリウム薄膜を用いた圧電薄膜素子で、十分な圧電特性が得られるという優れた効果を発揮するとされている。
また特許文献2(特開2008-263132号公報)には、基板上に、少なくとも下部電極、一般式(NaxKyLiz)NbO3(0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.05、x+y+z=1)で表される圧電薄膜、及び上部電極を配した圧電薄膜積層体において、前記圧電薄膜が、結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、かつ前記配向している結晶軸のうち少なくとも1つの結晶軸と、前記基板表面の法線との成す角度が、0°〜15°の範囲内である場所が前記圧電薄膜を形成してある場所の90%以上を占めることを特徴とする圧電薄膜積層体が開示されている。特許文献2によれば、圧電材料にニオブ酸リチウムカリウムナトリウム薄膜を用いていながら、優れた圧電特性を有し、かつ圧電特性の面内均一性にも優れた圧電薄膜積層体と、これを用いた圧電薄膜素子を提供することができるとされている。
また特許文献3(特開2009-117785号公報)には、第1の熱膨張係数を有する基板と、第2の熱膨張係数を有して所定の成膜条件で前記基板上方に成膜され、一般式が(K,Na)NbO3であるペロブスカイト構造のニオブ酸カリウムナトリウムの圧電薄膜とを備え、前記圧電薄膜を形成された前記基板は、前記第1の熱膨張係数及び前記第2の熱膨張係数の差に基づいて、室温における反りが10 m以上の曲率半径を有する圧電薄膜付き基板が開示されている。特許文献3によると、鉛フリーの圧電体を有する圧電薄膜付き基板から形成される圧電素子について、長期間、連続的な圧電動作をした後であっても、圧電素子の圧電定数d31の低下を抑制できるとされている。
特開2007‐19302号公報 特開2008‐263132号公報 特開2009‐117785号公報
圧電体薄膜素子においては、薄膜形成技術を用いることから一般的に結晶粒が非常に小さいために、圧電体薄膜中の結晶粒界密度の偏差が小さくなり、結晶粒界の有無に起因する圧電特性のばらつきは小さくなる。一方、結晶粒が小さく結晶数が多いことから、各結晶粒の配向性(圧電体薄膜としての結晶配向度合)が、素子の圧電特性に大きな影響を及ぼす。
圧電体薄膜素子は、比較的新しい技術であり、積層構造制御や製造プロセス制御の観点で未解明な点がまだまだ多く残されているのが現状である。そのため、焼結圧電体とは異なる要因によって、圧電体が本来有する圧電特性が十分得られなかったり、素子毎の圧電特性がばらついたりする問題がある。
したがって本発明の目的は、上記課題を解決し、非鉛系圧電体を用い、高い圧電特性を有しかつ素子毎の圧電特性のばらつきが小さい圧電体薄膜素子を可能とする圧電体薄膜積層基板を提供することにある。
(I)本発明の一態様は、上記目的を達成するため、基板上に密着層と下部電極層と非鉛系圧電体薄膜層とが少なくとも積層された圧電体薄膜積層基板であって、前記非鉛系圧電体薄膜層は、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(組成式(NaxKyLiz)NbO3、0<x<1、0<y<1、0≦z<1、x+y+z=1)からなり、前記密着層は、第4族元素の酸化物または第5族元素の酸化物からなり、前記密着層の厚さが、1 nm以上2 nm以下であることを特徴とする圧電体薄膜積層基板を提供する。なお、本発明において密着層の厚さとは、X線反射率法によって測定される平均膜厚と定義する。
また本発明は、上記の本発明に係る圧電体薄膜積層基板において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記密着層の厚さが、前記下部電極層の厚さの0.5%以上1%以下である。
(ii)前記下部電極層は、(111)面に優先配向している。
(iii)前記密着層の第4族元素は、チタン(Ti)である。
(iv)前記下部電極層は、白金(Pt)もしくはPt合金からなる。
(v)前記下部電極層は、柱状結晶粒で構成された集合組織を有している。
(vi)前記基板は、シリコン(Si)基板、ゲルマニウム(Ge)基板、酸化マグネシウム(MgO)基板、酸化亜鉛(ZnO)基板、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)基板、サファイア(Al2O3)基板、砒化ガリウム(GaAs)基板、窒化ガリウム(GaN)基板、ステンレス鋼基板、ガラス基板、および石英ガラス基板のうちのいずれかである。
(II)本発明の更に他の一態様は、上記の本発明に係る圧電体薄膜積層基板を利用したことを特徴とする圧電体薄膜素子を提供する。
本発明によれば、非鉛系圧電体を用い、高い圧電特性を有しかつ素子毎の圧電特性のばらつきが小さい圧電体薄膜素子を可能とする圧電体薄膜積層基板を提供することができる。また、当該圧電体薄膜積層基板を利用することにより、高い圧電特性を有しかつ素子毎の圧電特性のばらつきが小さい非鉛系圧電体薄膜素子を提供することができる。
本発明に係る圧電体薄膜積層基板の断面模式図である。 本発明に係る圧電体薄膜積層基板における圧電体薄膜層形成後で上部電極層形成前の基板のXRDパターンを示すチャートの一例である。 作製した圧電体薄膜積層基板における密着層の厚さと圧電体薄膜層の(001)面配向度との関係を示すグラフである。 作製した圧電体薄膜素子における密着層の厚さと圧電体薄膜の圧電定数d33(印加電圧2 V)との関係を示すグラフである。 作製した圧電体薄膜素子における密着層の厚さと圧電体薄膜の圧電定数d33(印加電圧30 V)との関係を示すグラフである。 作製した圧電体薄膜素子における密着層の厚さと圧電体薄膜の圧電定数/電圧の変化量との関係を示すグラフである。 作製した圧電体薄膜素子における密着層/下部電極層の厚さ比と圧電体薄膜の圧電定数/電圧の変化量との関係を示すグラフである。
本発明者等は、PZT(Pb(Zr1-xTix)O3)と同等の圧電特性を期待できる非鉛系圧電材料としてLKNN((NaxKyLiz)NbO3)に着目し、圧電体薄膜積層基板における密着層の厚さと圧電体薄膜層の結晶配向度と該圧電体薄膜積層基板から得られる圧電薄膜素子の圧電特性との関係について鋭意調査を行った。その結果、密着層の厚さが薄くなるほど圧電体薄膜層の結晶配向度と圧電薄膜素子の圧電特性とが向上する傾向があり、かつ密着層の厚さを所定の厚さ範囲とすると結晶配向度と圧電特性とのばらつきが小さくなることを見出した。本発明は、該知見に基づいて完成されたものである。
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
図1は、本発明に係る圧電体薄膜積層基板の断面模式図である。図1に示したように、本発明に係る圧電体薄膜積層基板10は、基板1の上に、密着層2、下部電極層3、圧電体薄膜層4及び上部電極層5がこの順に積層された構造を有する。本発明に係る圧電体薄膜素子は、圧電体薄膜積層基板10から所望形状のチップとして切り出すことで得られる。なお、上部電極層5は、圧電体薄膜積層基板10の段階で形成されていてもよいし、所望形状のチップに切り出した後に形成してもよい。
以下、圧電体薄膜積層基板10の製造手順に沿って、具体的に説明する。
はじめに、基板1を用意する。基板1の材料は、特に限定されず、圧電素子の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、シリコン(Si)基板、SOI(Silicon on Insulator)基板、ゲルマニウム(Ge)基板、酸化マグネシウム(MgO)基板、酸化亜鉛(ZnO)基板、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)基板、サファイア(Al2O3)基板、砒化ガリウム(GaAs)基板、窒化ガリウム(GaN)基板、ステンレス鋼基板、ガラス基板、および石英ガラス基板を用いることができる。これらの中でも、Si基板を用いることがコストの面では好ましい。また、基板1が導電性材料からなる場合は、その表面に電気絶縁膜(例えば酸化膜)を有していることが好ましい。酸化膜の形成方法に特段の限定はないが、例えば、熱酸化処理や化学気相成長(Chemical Vapor Deposition、CVD)法を好適に用いることができる。
次に、上記基板1上に密着層2を形成する。密着層2の材料としては、密着性や耐環境性の観点から第4族元素(チタン族元素:チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf))の酸化物または第5族元素(バナジウム属元素:バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta))の酸化物が好ましい。また、密着層2は、アモルファス状態(ガラス状態)の酸化物層であることが好ましい。密着層2がアモルファス状態(ガラス状態)であることにより、表面で特定の面方位を示すことなく、高い表面平坦性を確保することができる。
密着層2の厚さ(平均膜厚)は、1 nm以上2 nm以下が好ましい。当該密着層の厚さ(平均膜厚)は、X線反射率法によるX線反射率プロファイル(反射X線強度プロファイル)の振動周期から測定することが可能である。密着層2の厚さが1 nm未満になると、密着層2を連続層として形成することが困難になり(言い換えると、島状に形成されるようになり)、表面平坦性が劣化する。一方、密着層2の厚さが2 nmを超えると、その上に形成する圧電体薄膜層4の結晶配向度と圧電薄膜素子の圧電特性とのばらつきが大きくなる。ばらつきが大きくなるメカニズムは解明されていないが、その要因の一つとしては、密着層2が厚くなると、アモルファス状態(ガラス状態)の維持が困難になり(言い換えると、一部が結晶化し始めるようになり)、制御されていない面方位が表面に形成されたり、表面平坦性が劣化したりすることが考えられる。
密着層2の形成方法としては、所望の密着層が得られる限り特段の限定はないが、物理気相成長法(例えば、スパッタ法、熱蒸着法、電子ビーム蒸着法)を好適に用いることができる。スパッタ法は製造コストの観点で好ましく、金属ターゲットを用い製膜中に酸素成分を導入してアモルファス酸化物膜を形成する方法が好ましい。金属膜を製膜後に酸化性雰囲気中で(酸素を有する雰囲気中で)ポストベークを行ってアモルファス酸化物膜を形成してもよい。
次に、上記密着層2上に下部電極層3を形成する。下部電極層3の材料としては、特に限定されないが、例えば、白金(Pt)もしくはPt合金(Ptを主成分とする合金)用いることが好ましい。また、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、スズ(Sn)、インジウム(In)もしくはこれらの酸化物を用いることができる。
下部電極層3は、圧電体薄膜層4の下地層となることから圧電体薄膜層4の結晶配向度を向上させるため、(001)面、(110)面および(111)面のうちのいずれかに優先配向していることが好ましい。柱状結晶粒で構成された集合組織を有していることが好ましい。
下部電極層3の形成方法としては、所望の下部電極層が得られる限り特段の限定はないが、物理気相成長法(例えば、スパッタ法、熱蒸着法、電子ビーム蒸着法)を好適に用いることができる。また、下部電極層3は、上記材料からなる層を1回の成膜で形成した単層構造でもよいし、単一材料の成膜を断続的に複数回行って形成した積層構造でもよいし、上記材料の層を組み合わせた積層構造でもよい。
次に、上記下部電極層3上に圧電体薄膜層4を形成する。本発明では、圧電体薄膜層4の材料として、非鉛系圧電体であるニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(組成式(NaxKyLiz)NbO3、0<x<1、0<y<1、0≦z<1、x+y+z=1)(以下LKNNと称する場合がある)を用いることが好ましく、(001)面に優先配向していることが好ましい。LKNNは、(001)面配向した状態が最も高い圧電特性を示す。
圧電体薄膜層4の形成方法としては、所望の圧電体薄膜層が得られる限り特段の限定はないが、所望の組成を有する焼結体ターゲットを用いたスパッタ法や電子ビーム蒸着法やパルスレーザー堆積法を好適に用いることができる。これらの製膜法は、組成制御性や結晶配向制御性に優れる利点がある。
なお、本発明の技術的思想は、圧電体薄膜層4としてLKNNを用いることに限定されるものではなく、非鉛系圧電材料でありペロブスカイト構造を有する他の強誘電体(例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ビスマス層状構造化合物)にも適用可能である。
次に、上記圧電体薄膜層4上に上部電極層5を形成する。上部電極層5の材料に特段の限定はなく、下部電極層3と同じ材料に加えて、アルミニウム(Al)、金(Au)、ニッケル(Ni)を好適に用いることができる。上部電極層5の形成方法にも特段の限定はなく、下部電極層3の場合と同様に、物理気相成長法(例えば、スパッタ法、熱蒸着法、電子ビーム蒸着法)を好適に用いることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(圧電体薄膜積層基板の作製)
基板1、密着層2、下部電極層3、および圧電体薄膜層4からなる圧電体薄膜積層基板(図1に示した圧電体薄膜積層基板10から上部電極層5がない状態のもの)を作製した。基板1としては、熱酸化膜付きSi基板((100)面方位の4インチウェハ、ウェハ厚さ0.525 mm、熱酸化膜厚さ200 nm、基板の表面粗さRa=0.86 nm)を用いた。
以下の製膜工程において、各層(密着層2、下部電極層3、圧電体薄膜層4)の厚さの制御は、予め検証した製膜速度を基にして、製膜時間を制御することにより行った。また、各層の厚さの測定は、X線回折装置(スペクトリス株式会社(PANalytical事業部)製、型式:X’Pert PRO MRD)を用いて、X線反射率法により行った。
はじめに、RFマグネトロンスパッタ法により基板1上に密着層2(厚さ1〜4.9 nm)を形成した。密着層2の製膜条件は、Tiターゲット(純度2N〜4N、直径200 mm)を用い、投入電力を200〜1200 Wとし、基板温度を25〜300℃とし、雰囲気をアルゴン(Ar)と酸素(O2)との混合雰囲気(圧力0.1〜2 Pa)とした。圧電体薄膜積層基板(No.1〜32)のTi膜厚(nm)を後述する表1及び表2に示す。
次に、RFマグネトロンスパッタ法により密着層2上に下部電極層3(厚さ200 nm)を形成した。下部電極層3の製膜条件は、Ptターゲット(純度4N、直径200 mm)を用い、投入電力200 W、基板温度250℃、Ar雰囲気(圧力2.5 Pa)とした。圧電体薄膜積層基板(No.1〜32)のTi膜厚とPt膜厚の比(%)を後述する表1及び表2に併記する。
次に、RFマグネトロンスパッタ法により下部電極層3上に圧電体薄膜層4(厚さ2μm)を形成した。圧電体薄膜層4の製膜条件は、KNN焼結体ターゲット((Na0.5K0.5)NbO3、直径200 mm)を用い、投入電力700 W、基板温度520℃、ArとO2との混合雰囲気(圧力1.3 Pa)とした。
(圧電体薄膜積層基板の分析・評価)
(1)下部電極層および圧電体薄膜層の優先配向性
上記で作製した圧電体薄膜層4形成後の圧電体薄膜積層基板について、X線回折(X-ray Diffraction、XRD)測定を行った。XRD測定には、多機能高分解能X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、型式:D8 DISCOVER with Hi STAR)を用い、測定条件は、X線源Cu-Kα線(線焦点)、出力1.8 kW(45 kV×40 mA)、走査法2θ/θスキャン、スリット幅10 mm×0.1 mmとした。圧電体薄膜積層基板(No.1〜32)のKNN膜の(001)面配向度を後述する表1及び表2に併記する。
図2は、本発明に係る圧電体薄膜積層基板における圧電体薄膜層形成後で上部電極層形成前の基板のXRDパターンを示すチャートの一例である。図2に示したように、下部電極層3のPt膜は、(111)面に優先配向していることが確認された。圧電体薄膜層4のKNN膜は、(001)面、(002)面及び(003)面の回折ピークのみが観察されることから、(001)面に優先配向していることが確認された。なお、高分解能走査型電子顕微鏡を用いて、図2に示した圧電体薄膜積層基板の断面観察を行ったところ、下部電極層3および圧電体薄膜層4は、それぞれ柱状結晶粒で構成された集合組織を有していることが確認された。
(2)密着層の厚さと圧電体薄膜層の(001)面配向度との関係
図2で示したように、本発明に係る圧電体薄膜積層基板の圧電体薄膜層4は、(001)面に優先配向していることが確認された。次に、密着層2の厚さと圧電体薄膜層4の(001)面配向度との関係を調査した。先と同じ多機能高分解能X線回折装置を用いて、圧電体薄膜層4を形成後で上部電極層5を形成前の基板に対してX線回折測定を行った。(001)面配向起因の(101)面回折強度(圧電体薄膜層4の表面を(001)面と見なした時の(101)面の回折強度)をKNN膜の(001)面配向度と定義した。なお、X線回折測定を通して、圧電体薄膜層4のKNN膜は、擬立方晶の多結晶薄膜であることが判った。
図3は、作製した圧電体薄膜積層基板における密着層の厚さと圧電体薄膜層の(001)面配向度との関係を示すグラフである。図3に示したように、密着層2のTi酸化物膜の厚さが減少するとともに圧電体薄膜層4のKNN膜の(001)面配向度が増大することが判った。KNN膜は、(001)面配向度が高くなるにつれて圧電特性の指標の一つである圧電定数d33や-d31が大きくなる傾向がある。すなわち、密着層2の厚さを薄くすることによって、圧電体薄膜素子における圧電特性を向上させることが期待できる。
一方、KNN膜の(001)面配向度のばらつきの観点で見ると、Ti酸化物膜の厚さが3 nm以上では(001)面配向度のばらつきが小さく、Ti酸化物膜の厚さが2 nm超3 nm未満では(001)面配向度のばらつきが大きく、Ti酸化物膜の厚さが2 nm以下では(001)面配向度のばらつきが比較的小さくなることが判った。
(001)面配向度のばらつきがTi酸化物膜の厚さによって変化するメカニズムは解明されていないが、例えば、次のようなメカニズムが考えられる。Ti酸化物膜の厚さが2 nm以下の場合は、当該膜がアモルファス状態となり高い表面平坦性が実現されると考えられ、KNN膜の(001)面配向度が向上したと考えられる。Ti酸化物膜の厚さが2 nmを超えると、アモルファス状態の維持が困難になり(一部が結晶化し始めるようになり)、結晶化した部分と結晶化していない部分とが膜表面で混在するようになったため表面性状のばらつきが大きくなり、KNN膜の(001)面配向度のばらつきが大きくなったと考えられる。そして、Ti酸化物膜の厚さが3 nm以上になると、膜表面のほぼ全領域が結晶化することで表面性状のばらつきは小さくなるが、表面平坦性が劣化するためKNN膜の(001)面配向度が低下したと考えられる。
すなわち、圧電体薄膜層4の(001)面配向度向上の観点および(001)面配向度のばらつきの観点から、密着層2の厚さは、2 nm以下が好ましいと考えられた。
(3)密着層の厚さと圧電体薄膜層の圧電定数(d33)との関係
圧電体薄膜層の圧電定数を測定するにあたり、圧電体薄膜素子を作製した。まず、上記で用意した圧電体薄膜積層基板の圧電体薄膜層4上に、RFマグネトロンスパッタ法により上部電極層5(厚さ200 nm)を形成した。上部電極層5の製膜条件は、下部電極層3の場合と同様に、Ptターゲット(純度4N、直径200 mm)を用い、投入電力200 W、基板温度250℃、Ar雰囲気(圧力2.5 Pa)とした。次に、得られた圧電体薄膜積層基板10にダイシングを行いチップ状の圧電体薄膜素子を作製した。
次に、得られた圧電体薄膜素子に対して強誘電体特性評価システムを用いて圧電定数(d33)を測定した。ここで、本実施例の圧電定数について簡単に説明する。一般的に、圧電定数を求めるためには、圧電体の弾性定数であるヤング率やポアソン比等の物性値が必要である。しかしながら、基板上に形成された圧電体薄膜層のヤング率やポアソン比の真値を求めることは事実上困難である。そこで、本実施例では、現在知られているKNNバルク圧電体のヤング率やポアソン比の値を用いて圧電定数を算出し、相対的な比較を目的として任意単位で表すこととした。圧電体薄膜積層基板(No.1〜32)の圧電定数d33(印加電圧2 V及び30 V)を後述する表1及び表2に併記する。
図4は、作製した圧電体薄膜素子における密着層の厚さと圧電体薄膜の圧電定数d33(印加電圧2 V)との関係を示すグラフである。図4に示したように、密着層2のTi酸化物膜の厚さが減少するとともに圧電体薄膜層4のKNN膜の圧電定数d33が向上することが判る。これは、図3の傾向と合致しており、KNN膜の(001)面配向度の向上が圧電定数d33の向上に寄与したものと考えられる。また、図3におけるKNN膜の(001)面配向度のばらつきと同様に、Ti酸化物膜の厚さが2 nm以下ではKNN膜の圧電定数d33のばらつきが比較的小さくなることが判った。
図5は、作製した圧電体薄膜素子における密着層の厚さと圧電体薄膜の圧電定数d33(印加電圧30 V)との関係を示すグラフである。図5に示したように、密着層2のTi酸化物膜の厚さが減少するとともに圧電体薄膜層4のKNN膜の圧電定数d33が減少することが判った。これは、図4の印加電圧2 Vの場合とは反対の傾向である。
図4,5で反対の傾向が見られた要因は、例えば次のように考えることができる。密着層厚さの減少に従いKNN膜の(001)面配向度が向上する(図3参照)。(001)面配向度の高いKNN膜は、充分に安定な圧電性結晶であり、比較的低い電圧下においても大きく分極が起こるため、圧電変位量や分極量が容易に飽和状態に近づく。それにより、印加電圧を高めても圧電定数d33の変化が少なかったと考えられる。一方、(001)面配向度の低いKNN膜は、大きな分極を得るために高い印加電圧を要したと考えられる。それらの結果、上述のような反対傾向が見られたと考えられる。
(5)圧電体薄膜層の圧電定数/電圧の変化量の評価
電子部品に求められる小型化・高性能化を考慮すると、圧電素子は、低電圧時の圧電定数が大きくかつ電圧変化に伴う圧電定数の変動が小さいことが、動作精度・制御性の観点から望ましい。そのような圧電素子に対しては、電圧変動に対する補正用周辺回路を小型化または簡略化することができ、圧電部品全体としての小型化に貢献できる。そこで、先の実験結果(図4,5)から、本発明における圧電体薄膜層の圧電定数/電圧の変化量を算出した。圧電定数/電圧の変化量は、印加電圧2 V時の圧電定数と印加電圧30 V時の圧電定数との変化量として、下記の式(1)で定義した。
[数1]
圧電定数/電圧の変化量(V-1)= (30 V印加時の圧電定数 −2 V印加時の圧電定数)/28
・・・式(1)
図6Aは、作製した圧電体薄膜素子における密着層の厚さと圧電体薄膜の圧電定数/電圧の変化量との関係を示すグラフである。図6Bは、作製した圧電体薄膜素子における密着層/下部電極層の厚さ比と圧電体薄膜の圧電定数/電圧の変化量との関係を示すグラフである。
図6A,6Bに示したように、密着層2の厚さ(Ti酸化物膜厚)、および密着層2/下部電極層3の厚さ比(Ti酸化物/Pt膜厚比)が減少するにしたがって、圧電定数/電圧の変化量が減少していることが判る。この結果から、密着層2の厚さ、および密着層2/下部電極層3の厚さ比を小さくした圧電体薄膜素子の方が、電子部品の小型化・動作精度・制御性の観点でより好ましいと言える。また、先の実験結果と同様に、Ti酸化物膜厚が2 nm以下、およびTi酸化物/Pt膜厚比が0.5%以上1%以下になると、圧電定数/電圧の変化量のばらつきが小さくなることが確認された。
Figure 0006196797
Figure 0006196797
なお、上述した実施例において、密着層2としてTi酸化物膜に代えてZr酸化物膜を形成した場合、およびHf酸化物膜を形成した場合であっても、Ti酸化物膜の場合と同様の効果が得られることを別途確認した。また、上述した実施例において、圧電体薄膜層4の材料としてKNNに代えてLKNNを用いた場合であっても、KNN圧電体薄膜層と同様の効果が得られることを別途確認した。
以上説明したように、本発明によれば、非鉛系圧電体を用い、高い圧電特性を有しかつ素子毎の圧電特性のばらつきが小さい圧電体薄膜積層基板および圧電体薄膜素子を提供することができる。本発明に係る圧電体薄膜素子を利用することにより、環境負荷を低減させかつ高性能な小型システム装置(例えば、MEMSデバイス)を実現できる。
なお、上述した実施形態および実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
1…基板、2…密着層、3…下部電極層、4…圧電体薄膜層、5…上部電極層、
10…圧電体薄膜積層基板。

Claims (8)

  1. 基板上に少なくとも密着層と下部電極層と非鉛系圧電体薄膜層とが順次積層された圧電体薄膜積層基板であって、
    前記非鉛系圧電体薄膜層は、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(組成式(NaxKyLiz)NbO3、0<x<1、0<y<1、0≦z<1、x+y+z=1)からなり、
    前記密着層は、第4族元素のアモルファス酸化物膜または第5族元素のアモルファス酸化物膜からなり、
    前記密着層の厚さが、1 nm以上1.7 nm以下であり、かつ前記下部電極層の厚さの0.5%以上0.8%以下であることを特徴とする圧電体薄膜積層基板。
  2. 請求項1に記載の圧電体薄膜積層基板において、
    前記下部電極層は、(111)面に優先配向していることを特徴とする圧電体薄膜積層基板。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の圧電体薄膜積層基板において、
    前記密着層の第4族元素は、チタン(Ti)であることを特徴とする圧電体薄膜積層基板。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の圧電体薄膜積層基板において、
    前記下部電極層は、白金(Pt)もしくはPt合金からなることを特徴とする圧電体薄膜積層基板。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の圧電体薄膜積層基板において、
    前記下部電極層は、柱状結晶粒で構成された集合組織を有していることを特徴とする圧電体薄膜積層基板。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の圧電体薄膜積層基板において、
    前記基板は、シリコン(Si)基板、ゲルマニウム(Ge)基板、酸化マグネシウム(MgO)基板、酸化亜鉛(ZnO)基板、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)基板、サファイア(Al2O3)基板、砒化ガリウム(GaAs)基板、窒化ガリウム(GaN)基板、ステンレス鋼基板、ガラス基板、および石英ガラス基板のうちのいずれかであることを特徴とする圧電体薄膜積層基板。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の圧電体薄膜積層基板を利用したことを特徴とする圧電体薄膜素子。
  8. 基板上に少なくとも密着層と下部電極層と非鉛系圧電体薄膜層とが順次積層された圧電体薄膜積層基板を有する圧電体薄膜素子であって、
    前記非鉛系圧電体薄膜層は、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(組成式(NaxKyLiz)NbO3、0<x<1、0<y<1、0≦z<1、x+y+z=1)からなり、
    前記密着層は、第4族元素のアモルファス酸化物膜または第5族元素のアモルファス酸化物膜からなり、
    前記密着層の厚さが、1 nm以上1.7 nm以下であり、かつ前記下部電極層の厚さの0.5%以上0.8%以下であることを特徴とする圧電体薄膜素子。
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