以下、本発明に係る第1の実施の形態について図1、図2に基づき説明する。
図1は、第1の実施の形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法の流れを示す説明図であり、図2は、第1の実施の形態に係る液体吐出ヘッドの製造工程における状態を表す断面図である。
最初に、図1のステップS202(S202)のプレート形成工程において、液体吐出ヘッドを構成する各プレートを形成する。具体的には、ノズル基板、振動板、液室基板等のプレートを作製する。ノズル基板には、ステンレスや合成樹脂の基板が用いられる。また、振動板には鉄やクロムといった元素を含むステンレス(SUS)が用いられ、その厚みは10μm程度(例えば、7μm〜15μm)である。液室基板には、ステンレス、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属基板が用いられる。本実施の形態においては、液室基板は、厚さ50μmで所定の形状に作製された耐熱SUSが用いられる。耐熱SUS材料とは、Cr含有量が18〔wt%〕以上で、かつ、Al含有量が2〔wt%〕以上であるSUS素材である。耐熱SUSを金属基板として用いることにより、圧電体アニール時に圧力室側にAl2O3(酸化アルミ)及びCr2O3(酸化クロム)の酸化皮膜を形成し、圧力室側のノズル基板との密着性の低下及び振動板の機械的特性の変化を防止する。金属基板以外にも、ガラス粉末をアクリル系樹脂などのバインダに分散させシート形成したグリーンシートを用いてもよい。なお、グリーンシートに含まれるガラス組成は、後述するアニール処理時の熱処理条件においても軟化しないものが選択される。
ステップ204(S204)の積層工程において、3枚の耐熱SUSからなる液室基板と、振動板とを位置合わせした後、積層し積層体を作製する。
この後、図2(a)に示すように振動板101と圧力室側壁102とを接合する。
接合工程は、図1のステップ206(S206)の拡散接合工程において、真空もしくは窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中で、積層体の再結晶温度以上に加熱しつつ、数時間圧力をかけて圧縮し接合する。圧力室側壁102は、3枚の耐熱SUSからなる液室基板を接合することにより形成される。
この後、図2(b)に示すように振動板101の圧力室側壁102の形成されていない面に、拡散防止層103を形成する。
具体的には、図1のステップ208(S208)の拡散防止層成膜工程において、振動板101の圧力室側壁102が形成されていない面の全体に拡散防止層103を形成する。拡散防止層103は、Al、Ti、Cr、Zr、Si、SiCの酸化物、窒化物、酸窒化物であってアモルファス状態の膜からなるものである。拡散防止層103の成膜には、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法などの成膜方法がある。
ゾルゲル法は、拡散防止層103を形成可能なゾル組成物をスピンコート、ディップコート、ロールコート、バーコートスクリーン印刷、スプレー噴霧等によって振動板101の全面に塗布し、75℃〜200℃の温度で5分程度乾燥させる方法である。塗布と乾燥を複数回繰り返すことで拡散防止層103の膜厚を厚くすることができる。
イオンプレーティング法は、イオン化された金属酸化物あるいは金属窒化物等の蒸気とガスを振動板101表面に数十ボルトの電圧で引き付けながら、拡散防止層103を成膜する方法である。イオンプレーティング法は、電気エネルギーを併用することによって500℃以下の低温で密着強度の高い拡散防止層103の成膜が可能である。
スパッタリング法は、イオン化されたAr等の不活性ガスを金属酸化物あるいは金属窒化物等からなるターゲットに衝突させ、ターゲットから飛び出してきたスパッタ粒子により、拡散防止層103を成膜する方法である。スパッタ粒子のエネルギーが強いため、常温で付着力の強いアモルファス膜を成膜することができる。
CVD法は、拡散防止層103を構成する金属の有機金属材料と酸素や窒素或いはこれを含む材料とを振動板101表面近傍で化学反応させ金属酸化物あるいは金属窒化物等からなる拡散防止層103を形成する方法である。
本実施の形態では、アモルファス状態の拡散防止層103を形成する方法として、CVD法の一つであるプラズマCVD法によりSiCN(炭窒化シリコン)膜を成膜する方法について説明する。
プラズマCVD装置の真空チャンバー内に、ステップ206まで作製したものを振動板101の所定の面が成膜されるよう設置した後、排気する。真空チャンバー内を所定の圧力まで排気した後、真空チャンバー内にSiH4(シラン)、NH3(アンモニア)、CH4(メタン)の混合ガスを導入する。この後、RF電界を印加しプラズマを発生させる。このときに印加するRFパワーは500Wであり、振動板101は350℃に加熱されている。真空チャンバー内に導入されたSiH4(シラン)、NH3(アンモニア)、CH4(メタン)の混合ガスは、プラズマ中で反応し、これにより生じたSiCNが膜として振動板101上に形成される。この時の真空チャンバー内の圧力は67Paである。この成膜法で成膜されたSiCN膜は緻密なアモルファス膜となる。
尚、拡散防止層103は、FeやCrの拡散を防止するため、50nm以上であることが好ましいが、あまりに厚くなりすぎると振動板101の振動を阻害し、液体の吐出に悪影響を与えるため、10μm以下であることが好ましい。本実施の形態においては、約500nm成膜した。
次に、図2(c)に示すように振動板101上に拡散防止層103を形成したものの上に、下部電極層104、圧電体層105、上部電極層106、レジスト層107を積層形成する。
具体的には、図1のステップ210(S210)の下部電極層成膜工程において、拡散防止層103上の一面全面にわたり下部電極層104としてTi/Ir等からなる金属薄膜を成膜する。下部電極層104に用いられる金属としては、これ以外にPt、Au等がある。成膜方法としては、AD法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、スパッタ法、CVD法、スクリーン印刷法などの方法がある。なお、本実施の形態においては、下部電極層104は拡散防止層103上の一面の全面にわたって形成し各圧電素子の共通の電極としているが、各圧電素子に対応した領域に個別に下部電極層104を形成してもよい。
この後、ステップ212(S212)の圧電体層成膜工程において、AD法若しくはスクリーン印刷法により下部電極層104上に圧電体層105を下部電極層104の全面にわたって成膜する。
圧電体層105を構成する材料は、PZT(Pb(Zr・Ti)O3 、チタン酸ジルコン酸鉛)などのセラミック系圧電体材料等を用い、厚さは約10μm(振動板101の厚さと略同一)である。
この後、ステップ214(S214)の熱処理工程において、600℃〜1200℃の温度条件で熱処理(アニール処理)を行い、成膜した圧電体を焼成する。この焼成により、圧電体層105の結晶性が向上し、これに伴い比誘電率等の物性値が変化し、所望の圧電素子としての機能を有するものとなる。
尚、振動板101上に緻密なアモルファス状態の拡散防止層103が形成されているため、拡散防止層103においては結晶粒界が存在せず、ステップ214の熱処理工程における600℃〜1200℃の熱処理では、振動板101に含まれる鉄やクロムが拡散防止層103を介して圧電体層105に拡散することはなく、圧電体の圧電d定数(電気−機械変換定数)の低下や、絶縁抵抗の低下、絶縁耐圧の低下といった圧電体の性能劣化、絶縁耐圧低下による阻止破壊を防ぐことができる。また、この熱処理温度では、拡散防止層103は、アモルファス状態を保ったままである。
この後、ステップ216(S216)の上部電極層成膜工程において、IrO2/Ni/Auからなる上部電極層106をスパッタリングにより成膜する。成膜方法は、この他、AD法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、CVD法、スクリーン印刷法などの成膜方法がある。
この後、ステップ218(S218)のレジスト層形成工程において、圧電体層105と上部電極層106を圧力室毎に分離するため、後述の上部電極、圧電素子が形成される領域にレジスト層107を形成する。具体的には、上部電極層106の上に、レジストを塗布し、プリベークした後、露光、現像を行うことによりレジスト層107を形成する。
この後、図1のステップ220(S220)のドライエッチング工程において、レジスト層107が形成されている面についてRIE等によるドライエッチングを行う。ドライエッチング工程では、圧電体層105を分離した時点、即ち、下部電極層104が露出したところで、ドライエッチングを停止するのが好ましい。
この後、レジストを有機溶剤等により除去することにより、図2(d)に示すように、共通電極である下部電極層104上に圧力室毎に圧電素子108と上部電極109を形成したものが作製される。
この後、ステップS222(S222)の分極工程において、フレキシブル基板などの配線部材を下部電極層104及び上部電極109に接続し、下部電極層104と上部電極109との間に所定の電圧を印加して圧電素子108の分極処理を行う。本実施の形態における分極工程では、圧電素子108の厚み方向(振動板101の面に対して略垂直方向)に分極処理が施される。分極処理時の印加電圧は、圧電素子108を駆動する際の駆動電圧よりも高い電圧が適用される。
ステップS222に示す分極工程を経て、圧電素子108の上部電極109を形成した部分に所定の駆動振動を印加するとたわみ変形を生じる圧電活性部となり、各圧電活性部に対応する圧力室内のインクに吐出力を与える圧電素子として機能する。
ステップS224(S224)の組立工程では、以上の工程を経て形成したものにノズルプレート110を接合する。これにより、図3に示す液体吐出ヘッドが完成する。
図1に示す製造工程はあくまでも一例であり、下部電極層成膜工程や圧電体層成膜工程、上部電極層成膜工程に適用される成膜方法に応じて、熱処理工程、加圧工程などの工程を適宜行う。
次に、上記製造工程を経て作製された液体吐出ヘッドについて図3に基づき説明する。
図3は、上記製造工程により作製された本実施の形態に係る液体吐出ヘッドの断面図である。各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、振動板101、圧力室側壁102、ノズルプレート110により囲まれて構成されており、その平面形状は概略正方形となっている。各圧力室52は不図示の供給口を介して不図示の共通液室と連通し、さらに共通液室は不図示のインク供給タンクと連通しており、インク供給タンクから供給されるインクは共通液室を介して各圧力室52に分配供給される。
振動板101(基板)の圧力室52の形成される面の反対面の拡散防止層103上には、Ti/Irからなる下部電極層104、圧電素子108及び上部電極109が形成されている。
本実施の形態においては、下部電極層104は、拡散防止層103の略全面にわたって形成され、複数の圧電素子108の共通電極となっている。また、各圧力室52に対応して個別の圧電素子108が形成され、圧電素子108に対応した個別の上部電極(個別電極)109が形成されている。
圧電素子108の両側の上部電極109と下部電極層104との間に所定の駆動電圧を印加することによって圧電素子108にたわみ変形が生じ、このたわみ変形に応じて振動板101が変形してノズル51からインクが吐出される。ノズル51からインクが吐出されると共通液室から供給口を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
図4は、本発明に係るインクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)を備えた画像形成装置としてのインクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
図4に示すように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数の印字ヘッド(液体吐出ヘッド)12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送するベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排出する排紙部26とを備えている。
図4では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図4のように、裁断用のカッター28が設けられており、前記カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、前記固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、ベルト搬送部22へと送られる。ベルト搬送部22は、ローラー31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト搬送部22は、特に限定されるものではなく、ベルト面に設けられた吸引孔より空気を吸引して負圧により記録紙16をベルト33に吸着させて搬送する真空吸着搬送でもよいし、静電吸着による方法でもよい。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、上に述べた真空吸着搬送の場合には、ベルト面には図示を省略した多数の吸引孔が形成されている。図1に示したとおり、ローラー31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー34が設けられており、この吸着チャンバー34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラー31、32の少なくとも一方にモータ(図示省略)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図4において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図4の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラー線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、ベルト搬送部22に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラーが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
図5は、インクジェット記録装置10の印字部12周辺を示す要部平面図である。
図5に示すように、印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている。
各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図1の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の副走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが紙搬送方向と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
なお、ここで主走査方向及び副走査方向とは、次に言うような意味で用いている。すなわち、記録紙の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時、(1)全ノズルを同時に駆動するか、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動するか、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動するか、等のいずれかのノズルの駆動が行われ、用紙の幅方向(記録紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字をするようなノズルの駆動を主走査と定義する。そして、この主走査によって記録される1ライン(帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向という。
一方、上述したフルラインヘッドと記録紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。そして、副走査を行う方向を副走査方向という。結局、記録紙の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。
また本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
図4に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、前記イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が2次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぎ画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラー45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(図示省略)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
次に、ヘッドの構造について説明する。色別の各ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
図6(a)はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図6(b) はその一部の拡大図である。また、図6(c) はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図である。
記録紙16上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図6(a)〜(c) に示したように、インク滴の吐出孔であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室(液室)52、供給口54からなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
紙送り方向と略直交する主走査方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図6(a)の構成に代えて、図6(c)に示すように、複数のノズル51が2次元状に配列された短尺のヘッドブロック50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
なお、本例では圧力室52の平面形状が略正方形である態様を示したが、圧力室52の平面形状は略正方形に限定されず、略円形状、略楕円形状、略平行四辺形(ひし形)など様々な形状を適用することができる。また、ノズル51や供給口54の配置も図6(a)〜(c)に示す配置に限定されず、圧力室52の略中央部にノズル51を配置してもよい。
図6(b)に示すように、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd×cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造や、2列の千鳥配置されたノズル列を有する構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
なお、本実施形態ではフルラインヘッドを例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、記録紙16の幅よりも短い長さのノズル列を有する短尺のヘッドを記録紙16の幅方向に走査させながら、記録紙16の幅方向の印字を行うシリアル型ヘッドにも適用可能である。
〔制御系の説明〕
図7は、インクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インクタンク60は印字ヘッド50にインクを供給するための基タンクであり、図4で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インクタンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、補充口(図示省略)からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を替える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じて吐出制御を行うことが好ましい。なお、図7のインクタンク60は、先に記載した図4のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図7に示すように、インクタンク60と印字ヘッド50を繋ぐ管路の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは印字ヘッド50のノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
なお、図には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10には、ノズルの乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面50Aの清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。
これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、図示を省略した移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動されるようになっている。
キャップ64は、図示しない昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。昇降機構は、電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aのノズル領域をキャップ64で覆うようになっている。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示を省略したブレード移動機構により印字ヘッド50のインク吐出面(ノズル面50A)に摺動可能である。ノズル面50Aにインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル面50Aに摺動させることでノズル面50Aを拭き取り、ノズル面50Aを清浄化するようになっている。
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、そのノズル51近傍のインク粘度が上昇した場合、粘度が上昇して劣化したインクを排出すべく、キャップ64に向かって予備吐出が行われる。
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室52内のインク)に気泡が混入した場合、印字ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも行われ、粘度が上昇して固化した劣化インクが吸い出され除去される。
すなわち、印字ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用のアクチュエータ(積層圧電素子58)が動作してもノズル51からインクが吐出しなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(積層圧電素子58の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かって積層圧電素子58を動作させ、粘度が上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているクリーニングブレード66等のワイパーによってノズル面50Aの汚れを清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
また、ノズル51や圧力室52内に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記予備吐出ではインクを吐出できなくなるため、以下に述べる吸引動作を行う。
すなわち、ノズル51や圧力室52のインク内に気泡が混入した場合、或いはノズル51内のインク粘度があるレベル以上に上昇した場合には、積層圧電素子58を動作させてもノズル51からインクを吐出できなくなる。このような場合、印字ヘッド50のノズル面50Aに、キャップ64を当てて圧力室52内の気泡が混入したインク又は増粘インクをポンプ67で吸引する動作が行われる。
ただし、上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きい。したがって、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。なお、図7で説明したキャップ64は、吸引手段として機能するとともに、予備吐出のインク受けとしても機能し得る。
また、好ましくは、キャップ64の内側が仕切壁によってノズル列に対応した複数のエリアに分割されており、これら仕切られた各エリアをセレクタ等によって選択的に吸引できる構成とする。
図8はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal serial bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42(図4に図示)等のヒータ89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御(打滴制御)が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色のヘッド12K,12C,12M,12Yの圧電素子58を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
プログラム格納部90には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部90はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。また、外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらのものを複数備えてもよい。なお、プログラム格納部90は動作パラメータ等の記憶手段(不図示)と兼用してもよい。
印字検出部24は、図4で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。
なお、システムコントローラ72及びプリント制御部80は、1つのプロセッサから構成されていてもよいし、システムコントローラ72とモータドライバ76及びヒータドライバ78とを一体に構成したデバイスや、プリント制御部80とヘッドドライバとを一体に構成したデバイスを用いてもよい。
次に、本発明に係る第2の実施の形態について説明する。
図9は、第2の実施の形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法の流れを示す説明図であり、図10は、第2の実施の形態に係る液体吐出ヘッドの製造工程における状態を表す断面図である。
最初に、図9のステップS302(S302)のプレート形成工程において、液体吐出ヘッドを構成する各プレートを形成する。具体的には、ノズル基板、振動板、液室基板等のプレートを作製する。ノズル基板には、ステンレスや合成樹脂の基板が用いられる。また、振動板には鉄やクロムといった元素を含むステンレス(SUS)が用いられ、その厚みは10μm程度(例えば、7μm〜15μm)である。液室基板には、ステンレス、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属基板が用いられる。本実施の形態においては、液室基板は、厚さ50μmで所定の形状に作製された耐熱SUSが用いられる。耐熱SUS材料とは、Cr含有量が18〔wt%〕以上で、かつ、Al含有量が2〔wt%〕以上であるSUS素材である。耐熱SUSを金属基板として用いることにより、圧電体アニール時に圧力室側にAl2O3(酸化アルミ)及びCr2O3(酸化クロム)の酸化皮膜を形成し、圧力室側のノズル基板との密着性の低下及び振動板の機械的特性の変化を防止する。金属基板以外にも、ガラス粉末をアクリル系樹脂などのバインダに分散させシート形成したグリーンシートを用いてもよい。なお、グリーンシートに含まれるガラス組成は、後述するアニール処理時の熱処理条件においても軟化しないものを選択する。
ステップ304(S304)の積層工程において、3枚の耐熱SUSからなる液室基板と、振動板とを位置合わせした後、積層し積層体を作製する。
この後、図10(a)に示すように振動板121と圧力室側壁122とを接合する。
接合工程は、図9のステップ306(S306)の拡散接合工程において、真空もしくは窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中で、積層体の再結晶温度以上に加熱しつつ、数時間圧力をかけて圧縮し接合する。圧力室側壁122は、3枚の耐熱SUSからなる液室基板を接合することにより形成される。
この後、図10(b)に示すような振動板121の圧力室側壁122の形成されていない面に、拡散防止層123を形成する。
具体的には、図1のステップ308(S308)の拡散防止層成膜工程において、振動板121の圧力室側壁122が形成されていない面の全体に拡散防止層123を形成する。拡散防止層123は、Al、Ti、Cr、Zr、Si、SiCの酸化物、窒化物、酸窒化物であってアモルファス状態の膜からなるものである。拡散防止層123の成膜には、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法などの成膜方法がある。
本実施の形態では、アモルファス状態の拡散防止層123を形成する方法として、スパッタリングの方法の一つであるリアクティブスパッタによりSiN(窒化シリコン)膜を成膜する方法について説明する。
スパッタリング装置の真空チャンバー内に、ステップ306まで作製したものを振動板121の所定の面が成膜されるよう設置した後、排気する。真空チャンバー内には、ターゲットとしてSiターゲットが取り付けられている。真空チャンバー内を所定の圧力まで排気した後、真空チャンバー内にArと窒素の混合ガスを導入する。この後、ターゲットにRF電界を印加することによりターゲット上のプラズマが生じ、スパッタガスによりSiターゲットからたたき出されたSi粒子が窒素と反応し、振動板121上にSiN膜が形成される。振動板は加熱することなく常温に保たれており、この成膜法で成膜されたSiN膜は緻密なアモルファス膜となる。
尚、拡散防止層123は、FeやCrの拡散を防止するため、50nm以上であることが好ましいが、あまりに厚くなりすぎると振動板121の振動を阻害し、液体の吐出に悪影響を与えるため、10μm以下であることが好ましい。本実施の形態では、約500nm成膜した。
次に、図10(c)に示すように振動板121に拡散防止層123を形成したものの上に、下部電極層124、レジスト層127、圧電体層125を積層形成する。
具体的には、図9のステップ310(S310)の下部電極層成膜工程において、拡散防止層123上の一面全面にわたり下部電極層124としてTi/Ir等からなる金属薄膜を成膜する。下部電極層124に用いられる金属としては、これ以外にPt、Au等がある。成膜方法としては、AD法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、スパッタ法、CVD法、スクリーン印刷法などの方法がある。なお、本実施の形態においては、下部電極層124は振動板121の一面の全面にわたって形成され各圧電素子の共通の電極としているが、各圧電素子に対応した領域に個別に下部電極層124を形成してもよい。
この後、ステップ312(S312)のレジスト層形成工程において、圧電体層125を圧力室毎に分離するため、圧電素子が形成されない部分にレジスト層127を形成する。具体的には、ステップ310の下部電極層124が形成したものの上に、レジストを塗布し、プリベークした後、露光、現像を行うことによりレジスト層127を形成する。
尚、レジスト層127は圧電体層が効率よくリフトオフされるよう、十分厚く形成する必要があり、圧電体層125の膜厚と同じかそれ以上の膜厚を形成するのが好ましい。本実施の形態では、10μmの厚さのレジストをスピンコートにより塗布した。
この後、ステップ314(S314)の圧電体層成膜工程において、AD法により下部電極層124とレジスト層127の形成された面の略全面にわたり圧電体層125を成膜する。
圧電体層125を構成する材料は、PZT(Pb(Zr・Ti)O3 、チタン酸ジルコン酸鉛)などのセラミック系圧電体材料等を用い、厚さは約10μm(振動板121の厚さと略同一)である。
この後、ステップ316(S316)のリフトオフ工程で、レジスト層127上の圧電体層125が除去され、所望の領域のみ圧電素子が形成される。リフトオフ工程は、具体的には、ステップ314まで作製されたものを有機溶剤等に浸すことにより、レジスト層127上の圧電体層125がレジスト層127ともに除去するものである。
この後、図10(d)に示すように、共通電極である下部電極層124上に圧力室毎に圧電素子128と上部電極129が形成したものを作製する。
具体的には、ステップ318(S318)の熱処理工程において、600℃〜1200℃の温度条件で熱処理(アニール処理)を行い、成膜された圧電素子128を焼成する。この焼成により、圧電素子128の結晶性が向上し、これに伴い比誘電率等の物性値が変化し、所望の圧電素子128としての機能を有するものとなる。
尚、振動板121上に緻密なアモルファス状態の拡散防止層123が形成されているため拡散防止層103には結晶粒界が存在せず、ステップ318の熱処理工程における600℃〜1200℃の熱処理では、振動板121に含まれる鉄やクロムが拡散防止層123を介して圧電素子128に拡散することはなく、圧電体の圧電d定数(電気−機械変換定数)の低下や、絶縁抵抗の低下、絶縁耐圧の低下といった圧電体の性能劣化、絶縁耐圧低下による阻止破壊を防ぐことができる。また、この熱処理温度では、拡散防止層123は、アモルファス状態を保ったままである。
この後、ステップ320(S320)の上部電極層成膜工程において、IrO2/Ni/Auからなる上部電極129をスパッタリングにより成膜する。成膜方法は、この他、AD法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、CVD法、スクリーン印刷法などの成膜方法がある。上部電極129は所望の領域のみ形成されるよう、メタルマスク等を用いて成膜する。
以上の工程により、図10(d)に示すものを作製した後、ステップS322(S322)の分極工程において、フレキシブル基板などの配線部材を下部電極層124及び上部電極129に接続し、下部電極層124と上部電極129との間に所定の電圧を印加して圧電素子128の分極処理を行う。本実施の形態における分極工程では、圧電素子128の厚み方向(振動板121の面に対して略垂直方向)に分極処理が施される。分極処理時の印加電圧は、圧電素子128を駆動する際の駆動電圧よりも高い電圧が適用される。
ステップS322に示す分極工程を経て、圧電素子128の上部電極129を形成した部分に所定の駆動振動を印加するとたわみ変形を生じる圧電活性部となり、各圧電活性部に対応する圧力室内のインクに吐出力を与える圧電素子として機能する。
ステップS324(S324)の組立工程では、以上の工程を経て形成したものにノズルプレートを接合する。これにより、図3に示す液体吐出ヘッドと構造的に同じものが完成する。
次に、本発明に係る第3の実施の形態について説明する。
第3の実施の形態は、第1の実施の形態と同様に、図1に示すフローチャートに基づき、拡散防止層が、振動板と圧力室側壁の全面に形成されたものである。本実施の形態について、図1、図11に基づき説明する。
図11は、第3の実施の形態に係る液体吐出ヘッドの製造工程における状態を示す説明図である。
最初に、図1のステップS202(S202)のプレート形成工程において、液体吐出ヘッドを構成する各プレートを形成する。具体的には、ノズル基板、振動板、液室基板等のプレートが作製する。ノズル基板には、ステンレスや合成樹脂の基板が用いられる。また、振動板には鉄やクロムといった元素を含むステンレス(SUS)が用いられ、その厚みは10μm程度(例えば、7μm〜15μm)である。液室基板には、ステンレス、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属基板が用いられる。本実施の形態においては、液室基板は、厚さ50μmで所定の形状に作製されたSUS430が用いられる。SUS430は材料が安価であり、加工性に優れていることから、高精度のパターンが形成された前記プレートを安価に大量生産することができるため、本実施の形態において用いた。金属基板以外にも、ガラス粉末をアクリル系樹脂などのバインダに分散させシート形成したグリーンシートを用いてもよい。なお、グリーンシートに含まれるガラス組成は、後述するアニール処理時の熱処理条件においても軟化しないものが選択される。
ステップ204(S204)の積層工程において、3枚のSUS430からなる液室基板と、振動板とを位置合わせした後、積層し積層体を作製する。
この後、図11(a)に示すように振動板141と圧力室側壁142とを接合する。
接合工程は、図1のステップ206(S206)の拡散接合工程において、真空もしくは窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中で、積層体の再結晶温度以上に加熱しつつ、数時間圧力をかけて圧縮し接合する。圧力室側壁142は、3枚のSUS430からなる液室基板を接合することにより形成される。
この後、図1のステップ208(S208)の拡散防止層成膜工程において、図11(b)に示すように振動板141の圧力室側壁142の露出している面全面にわたり、拡散防止層143を形成する。SUS430の表面に拡散防止膜143を形成することにより、大気中の酸素との接触を防ぐことができ、圧電体のアニール時にSUS430の表面酸化によるタブ剤との密着性の低下及び機械的特性の低下を防ぐ働きも有している。そのため振動板141の圧力室側壁142の露出している面全面にわたって拡散防止層143を形成することで圧電体アニール時に基板であるSUS430の表面を酸化させ、密着性及び機械的特性の低下を防ぐことができる。
具体的には、拡散防止層143は、Al、Ti、Cr、Zr、Si、SiCの酸化物、窒化物、酸窒化物であってアモルファス状態の膜からなるものである。拡散防止層143の成膜には、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法などの成膜方法がある。
本実施の形態では、アモルファス状態の拡散防止層143を形成する方法として、CVD法の一つであるプラズマCVD法によりSiCN(炭窒化シリコン)膜を成膜する方法について説明する。
プラズマCVD装置の真空チャンバー内に、ステップ206まで作製したものを振動板141、圧力室側壁142の略全面が成膜されるよう設置した後、排気する。真空チャンバー内を所定の圧力まで排気した後、真空チャンバー内にSiH4(シラン)、NH3(アンモニア)、CH4(メタン)の混合ガスを導入する。この後、RF電界を印加しプラズマを発生させる。このときに印加するRFパワーは500Wであり、振動板141は350℃に加熱されている。真空チャンバー内に導入されたSiH4(シラン)、NH3(アンモニア)、CH4(メタン)の混合ガスは、プラズマ中で反応し、これにより生じたSiCNが膜として振動板141上に成膜される。このときの真空チャンバー内の圧力は67Paである。この成膜法で成膜されたSiCN膜は緻密なアモルファス膜となる。
尚、拡散防止層143は、FeやCrの拡散を防止するため、50nm以上であることが好ましいが、あまりに厚くなりすぎると振動板141の振動を阻害し、液体の吐出に悪影響を与えるため、10μm以下であることが好ましい。本実施の形態においては、約500nm成膜した。この厚さは、振動板141から鉄やクロムの拡散を完全に防止することができ、かつ、振動板141の振動を殆ど阻害することのない厚さである。
次に、図11(c)に示すように振動板141の圧力室側壁142が形成されている面の反対側の面の拡散防止層143上に、下部電極層144、圧電体層145、上部電極層146、レジスト層147を積層形成する。
具体的には、図1のステップ210(S210)の下部電極層成膜工程において、振動板141の圧力室側壁142が形成されている面の反対側の面の拡散防止層143上の略全面にわたり下部電極層144としてTi/Ir等からなる金属薄膜を成膜する。下部電極層144に用いられる金属としては、これ以外にPt、Au等がある。下部電極層成膜工程における成膜方法としては、AD法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、スパッタ法、CVD法、スクリーン印刷法などの方法がある。なお、本実施の形態においては、下部電極層144は拡散防止層143の一面の略全面にわたって形成し各圧電素子の共通の電極としているが、各圧電素子に対応した領域に個別に下部電極層144を形成してもよい。
この後、ステップ212(S212)の圧電体層成膜工程において、下部電極層144上に圧電体層145を成膜する。この圧電体層成膜工程にはAD法が用いられ、振動板141の一面の全体にわたって形成する。
圧電体層145を構成する材料は、PZT(Pb(Zr・Ti)O3 、チタン酸ジルコン酸鉛)などのセラミック系圧電体材料等を用い、厚さは10μm程度(振動板141の厚さと略同一)である。
この後、ステップ214(S214)の熱処理工程において、600℃〜1200℃の温度条件で熱処理(アニール処理)を行い、成膜した圧電体を焼成する。この焼成により、圧電体層145の結晶性が向上し、これに伴い比誘電率等の物性値が変化し、所望の圧電素子としての機能を有するものとなる。
尚、振動板141上に緻密なアモルファス状態の拡散防止層143が形成されているため、ステップ214の熱処理工程における600℃〜1200℃の熱処理では、振動板121に含まれる鉄やクロムが拡散防止層143を介して圧電体層145に拡散することはなく、圧電体の圧電d定数(電気−機械変換定数)の低下や、絶縁抵抗の低下、絶縁耐圧の低下といった圧電体の性能劣化、絶縁耐圧低下による阻止破壊を防ぐことができるとともに、熱処理による圧力室側壁142表面の酸化を防止することができ、後述するノズルプレートの接合の信頼性を向上させることができる。また、この熱処理温度では、拡散防止層143は、アモルファス状態を保ったままである。
この後、ステップ216(S216)の上部電極層成膜工程において、IrO2/Ni/Auからなる上部電極層146をスパッタリングにより成膜する。成膜方法は、この他、AD法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、CVD法、スクリーン印刷法などの成膜方法がある。
この後、ステップ218(S218)のレジスト層形成工程において、圧電体層145と上部電極層146を圧力室毎に分離するため、後述の上部電極、圧電素子が形成される領域にレジスト層147を形成する。具体的には、ステップ216の上部電極層146が形成されたものの上に、レジストを塗布し、プリベークした後、露光、現像を行うことによりレジスト層147を形成する。
この後、図1のステップ220(S220)のドライエッチング工程により、圧電体層145、上部電極層146上のレジスト層147が形成されている面について、RIE等によるドライエッチングを行う。ドライエッチング工程では、圧電体層145を分離したところ、即ち、下部電極層144が露出した時点で、ドライエッチングを停止するのが好ましい。
この後、レジストを有機溶剤等により除去することにより、図11(d)に示すように、共通電極である下部電極層144上に圧力室毎に圧電素子148と上部電極149を形成したものが作製される。
この後、ステップS222(S222)の分極工程において、フレキシブル基板などの配線部材を下部電極層144及び上部電極149に接続し、下部電極層144と上部電極149との間に所定の電圧を印加して圧電素子148の分極処理を行う。本実施の形態における分極工程では、圧電素子148の厚み方向(振動板141の面に対して略垂直方向)に分極処理が施される。分極処理時の印加電圧は、圧電素子148を駆動する際の駆動電圧よりも高い電圧が適用される。
ステップS222に示す分極工程を経て、圧電素子148の上部電極149を形成した部分に所定の駆動振動を印加するとたわみ変形を生じる圧電活性部となり、各圧電活性部に対応する圧力室内のインクに吐出力を与える圧電素子として機能する。
ステップS224(S224)の組立工程では、以上の工程を経て形成したものにノズルプレート150を接合する。これにより、図12に示す液体吐出ヘッドが完成する。
図1に示す製造工程はあくまでも一例であり、下部電極層成膜工程や圧電体層成膜工程、上部電極層成膜工程に適用される成膜方法に応じて、熱処理工程、加圧工程などの工程を適宜行う。
次に、上記製造工程を経て作製された第3の実施の形態における液体吐出ヘッドについて図12に基づき説明する。
図12は、上記製造工程により作製された本実施の形態に係る液体吐出ヘッドの断面図である。各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、振動板141、圧力室側壁142、ノズルプレート150により囲まれて構成されており、その平面形状は概略正方形となっている。各圧力室52は不図示の供給口を介して不図示の共通液室と連通し、さらに共通液室は不図示のインク供給タンクと連通しており、インク供給タンクから供給されるインクは前記共通液室を介して各圧力室52に分配供給される。
振動板141(基板)の圧力室52の形成される面の反対面の拡散防止層143上には、Ti/Irからなる下部電極層144、圧電素子148及び上部電極149が形成されている。
本実施の形態においては、下部電極層144は、拡散防止層143の一面の略全面にわたって形成され、複数の圧電素子148の共通電極となっている。また、各圧力室52に対応して個別の圧電素子148が形成され、圧電素子148に対応した個別の上部電極(個別電極)149を形成されている。
圧電素子148の両側の上部電極149と下部電極層144との間に所定の駆動電圧を印加することによって圧電素子148にたわみ変形が生じ、このたわみ変形に応じて振動板141が変形してノズル51からインクが吐出される。ノズル51からインクが吐出されると共通液室から供給口を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
なお、本実施の形態では、成膜の関係等から、振動板141と圧力室側壁142の全面にわたり拡散防止層143を形成したが、圧電体層への鉄やクロムの拡散を防止するためには、振動板141の圧電体層が形成される面のみに拡散防止層143を形成すればよい。
以上、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法ついて詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形をおこなうことは可能である。
101…振動板、102…圧力室側壁、103…拡散防止層、104…下部電極層、105…圧電体層、106…上部電極層、107…レジスト層、108…圧電素子、109…上部電極、110…ノズルプレート