JP4178578B2 - 圧電体素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドや不揮発性半導体記憶装置、薄膜コンデンサ、センサ、表面弾性波光学導波管、光学記憶装置、空間光変調器等に用いられる圧電体素子に係り、特に、圧電体素子の結晶における配向特性を特定の条件に設定することで特性向上させたものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、圧電体素子に用いられる圧電体層としてジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等を用いることが一般的であった。これら化学式RMX3で表される物質はペロブスカイト(perovskite)構造を示すことが知られており、この結晶構造は電気機械変換作用を有する。例えばこの結晶構造を備えた圧電体素子の例が、特開平3−69512号公報、Applied Physics Letters, 1991, Vol. 58, No. 11, pp1161-1163に開示されている。
【0003】
また特開平6−116095号公報には特性のよい圧電体素子を形成するための方法について記載されている。この公報によれば、基板面が(111)面方位に配向した白金基板上にチタン酸ジルコン酸鉛またはランタン含有チタン酸ジルコン酸鉛の前駆体溶液を塗布し所定の熱処理を施すことで、圧電体素子の結晶を特定の方向に配向させることができる旨記載されている。
【0004】
結晶の配向は面方位によって特定する場合が多い。結晶はいくつかの晶系に分けられるが、いずれの晶系であっても基準となる結晶軸によって晶系の頂点を含む面が特定される。結晶はその結晶に設定可能な面のうちいずれかの面の法線方向に配向する。この法線ベクトルを、この法線に対応する面を特定するための結晶軸の数値によって特定する。この方向性を面方位という。圧電体素子を構成するペロブスカイト結晶についてもいずれかの面方位に結晶が配向していると考えられる。
【0005】
上記圧電体素子を用いたインクジェット式記録ヘッドの従来例は、例えば米国出願5,265,315号明細書が存在する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の文献では圧電体素子を構成する結晶がどのような構造をしていればよいのかについて具体的に記載されておらず、圧電体素子として優れた結晶構造を特定することが不可能であった。
【0007】
本願発明者はこのことに鑑み優れた圧電体素子が備えるべき結晶構造を面方位から測定して一定の結論を得るに到った。
【0008】
すなわち本発明の第1の課題は、優れた特性を示す結晶構造を明らかにし、その結晶構造を備えることにより、優れた圧電特性を示す圧電体素子を提供することである。
【0009】
また、本発明の第2の課題は、優れた特性を示す結晶構造を備えた圧電体素子により、少ない電力で多くのインクを吐出可能なインクジェット式記録ヘッドを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の圧電体素子は、ペロブスカイト結晶構造を持つ強誘電体を備えた圧電体層と前記圧電体層を挟んで配置される上電極および下電極とを備えた圧電体素子において、圧電体層のペロブスカイト結晶構造は正方晶系をであって、(001)面方位と(111)面方位とが混在しており、全面方位に対する(111)面方位の割合が(001)面方位の割合より大きく設定されている。
【0011】
例えばこの圧電体素子は、全面方位に対する(001)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率βと全面方位に対する(111)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率αとの間に、α<βの関係が成り立つように設定されている。
【0012】
またこの圧電体素子は、全面方位に対する(111)面方位の占める割合が当該圧電体素子の厚みの増加に伴い減少する傾向に設定されている。
【0013】
さらにこの圧電体素子は、全面方位に対する(111)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率αが、−1<α<0の範囲、好ましくは−0.3に設定されている。
【0014】
さらにまたこの圧電体素子は、全面方位に対する(001)面方位の占める割合が当該圧電体素子の厚みの増加に伴い増加する傾向に設定されている。
【0015】
またこの圧電体素子は、全面方位に対する(001)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率βが、0<β<1の範囲、好ましくは0.2に設定されている。
【0016】
さらにこの圧電体素子は、当該圧電体素子の厚みが、0.2μm乃至4.0μmの範囲に設定されている。
【0017】
この圧電体素子は、圧電体層がジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3:PZT)、((Pb,La)ZrO3:PLZT)またはマグネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Mg、Nb)(Zr、Ti)O3:PMN−PZT)のうちいずれかの物質を含む。
【0018】
本発明によれば、圧電体素子は圧電体層がゾルゲル法により形成されたものである。
【0019】
本発明によれば、圧電体素子は圧電体層が、
1)酢酸鉛・三水和物、ジルコニウムアセチルアセトナートおよび酢酸マグネシウム・三水和物を、酢酸を溶媒として攪拌し、
2)さらにチタニウムテトライソプロポキシドおよびペンタエトキシニオブを加えて攪拌し、
3)さらにブトキシエタノールを加えて攪拌し、
4)さらに塩酸アルコールを加えて攪拌し、
5)さらにアセチレアセトンアセトンを加えて攪拌し、
6)さらにポリエチレングリコールを加えて攪拌
する工程により生成される酢酸系溶媒を塗布して形成されたものである。
【0020】
本発明によれば、圧電体素子は圧電体層が、
1)チタニウムテトライソプロポキシドおよびペンタエトキンイオブを、ブトキシエタノールを溶媒として攪拌し、
2)さらにジエタノールアミンを加えた攪拌し、
3)さらに酢酸鉛・三水和物、ジルコニウムアセチルアセトナートおよび酢酸マグネシウム・三水和物を加えた攪拌し、
4)さらにポリエチレングリコールを加えて攪拌
する工程により生成されるアルコールアミン系溶媒を塗布して形成されたものである。
【0021】
本発明のインクジェット式記録ヘッドは、上記本発明の圧電体素子を、インクが充填される圧力室基板の圧力室に対応させて当該圧力室を加圧可能な位置に形成した。
【0022】
【発明の実施の形態】
次に、本発明における最良の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0023】
(実施形態1)
本実施形態は本発明の圧電体素子をインクジェット式記録ヘッドの圧電体素子に適用したものである。特にゾルゲル法により強誘電体PZTを形成する。
【0024】
(構成)
図2に本形態のインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図を示す。図3にインクジェット式記録ヘッドの主要部一部断面図を示す。図2に示すように、本インクジェット式記録ヘッド1は、ノズル板10、圧力室基板20、振動板30および筐体25を備えて構成されている。
【0025】
図3に示すように、圧力室基板2は、キャビティ21、側壁22、リザーバ23および供給口24を備えている。キャビティ21は、圧力室であってシリコン等の基板をエッチングすることにより形成されるものである。側壁22は、キャビティ21間を仕切るよう構成され、リザーバ23は、各キャビティ21にインク充填時にインクを供給可能な共通の流路として構成されている。供給口24は、各キャビティ21にインクを導入可能に構成されている。
【0026】
振動板30は圧力室基板20の一方の面に貼り合わせ可能に構成されている。振動板30には本発明の圧電体素子40が設けられている。圧電体素子40は、ペロブスカイト構造を持つ強誘電体の結晶であり、振動板30上に所定の形状で形成されて構成されている。
【0027】
ノズル板10は、圧力室基板20に複数設けられたキャビティ(圧力室)21の各々に対応する位置にそのノズル穴11が配置されるよう、圧力室基板20に貼り合わせられている。ノズル板10を貼り合わせた圧力室基板20は、さらに図1に示すように筐体25に填められて、インクジェット式記録ヘッド1を構成している。
【0028】
図1に圧電体素子40の層構造を説明する断面図を示す。図1に示すように、振動板30は絶縁膜31および下部電極32を積層して構成され、圧電体素子40は圧電体層41および上部電極42を積層して構成されている。下部電極32、圧電体層41および上部電極42によって圧電体素子として機能させることができる。
【0029】
絶縁膜31は、導電性のない材料、例えばシリコン基板を熱酸化等して形成された二酸化珪素により構成され、圧電体層の体積変化により変形し、キャビティ21の内部の圧力を瞬間的に高めることが可能に構成されている。
【0030】
下部電極32は、圧電体層に電圧を印加するための上部電極42と対になる電極であり、導電性を有する材料、例えば、チタン(Ti)層、白金(Pt)層、チタン(Ti)層を積層して構成されている。このように複数の層を積層して下部電極を構成するのは、白金層と圧電体層、白金層と絶縁膜との密着性を高めるためである。
【0031】
圧電体層41は、ニオブ(Nb)が添加された強誘電体により構成されている。この強誘電体の組成としては、ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3:PZT)、((Pb,La)ZrO3:PLZT)またはマグネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Mg、Nb)(Zr、Ti)O3:PMN−PZT)のうちいずれかであることが好ましい。例えば、マグネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛であれば、
Pb(Mg1/3Nb2/3)0.1Zr0.504Ti0.396O3
という組成が好適である。
【0032】
なお、圧電体層はあまりに厚くすると、層全体の厚みが厚くなり、高い駆動電圧が必要となり、あまりに薄くすると、膜厚を均一にできずエッチング後に分離された各圧電体素子の特性がばらついたり、製造工数が多くなり、妥当なコストで製造できなくなったりする。したがって圧電体層41の厚みは500nm〜2000nm程度が好ましい。
【0033】
上部電極膜42は、圧電体層に電圧を印加するための一方の電極となり、導電性を有する材料、例えば膜厚0.1μmの白金(Pt)で構成されている。
【0034】
(作用)
図11に、上記組成の強誘電体において見られるペロブスカイト結晶構造の説明図を示す。この構造図は前記したようにABO3という化学式で表される。例えば強誘電体がPZTで構成される場合、AはPb2+、BはZr4+またはTi4+、OはO2−が配置される。強誘電体がPMN−PZTで構成される場合には、PZTにおけるBに相当する原子としてMg2+またはNb5+が置換される。ここで図11のa,bおよびcのように結晶軸を規定する。
【0035】
本願発明者は、後の実施例で示すように優れた圧電特性を示す強誘電体として、以下の条件が必要であることを発見した。面方位は結晶軸方向の原子間距離を単位ベクトルとしてベクトル(a,b,c)を法線方向とする面によって規定する。
【0036】
▲1▼ 正方晶系であること。
【0037】
▲2▼ (001)面方位と(111)面方位とが混在していること。
【0038】
▲3▼ 全面方位に対する(111)面方位の割合が(001)面方位の割合より大きく設定されていること。
【0039】
さらに具体的には、
▲4▼ 全面方位に対する前記(001)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率βと全面方位に対する(111)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率αとの間に、α<βの関係が成り立つこと。
【0040】
▲5▼ 全面方位に対する(111)面方位の占める割合が当該圧電体素子の厚みの増加に伴い減少する傾向に設定されていること。具体的には、全面方位に対する(111)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率αが、−1<α<0の範囲(好ましくは−0.3)に設定されていること。
【0041】
▲6▼ 全面方位に対する前記(001)面方位の占める割合が当該圧電体素子の厚みの増加に伴い増加する傾向に設定されていること。具体的には、全面方位に対する(001)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率βが、0<β<1の範囲(好ましくは0.2)に設定されていること。
【0042】
なお上記各条件は、当該圧電体素子の厚みが、0.2μm乃至4.0μmの範囲で有効であり、圧電体層はこの範囲の厚みに設定されていることを要する。(001)面方位および(111)面方位は図11の斜線で示す面の各法線方向となる。
【0043】
(製造方法)
上記条件を満たす圧電体素子およびインクジェット式記録ヘッドの製造方法について図4乃至図6を参照して説明する。本実施形態では酢酸系溶媒からPZTを強誘電体とした圧電体素子を製造する。
【0044】
酢酸系溶媒(圧電体前駆体)製造工程(図4): まず酢酸鉛・三水和物(Pb(CH3COO)2・3H2O)、ジルコニウムアセチルアセトナート(Zr(CH3COCHCOCH3)4)および酢酸マグネシウム・三水和物(Mg(CH3COO)2・3H2O)を、酢酸を溶媒として攪拌する(S1)。初期は室温で攪拌し、次いで100℃程度の雰囲気下で10分から20分間程度攪拌し、室温下で冷却する。次いでチタニウムテトライソプロポキシド(Ti(O−i−C3H7)4)およびペンタエトキシニオブ(Nb(OC2H5)5)を加えて攪拌する(S2)。さらにブトキシエタノール(C4H9OC2H4OH)を加えて室温下で5分間程度攪拌する(S3)。3%塩酸アルコールを加えて室温下で5分間程度攪拌する(S4)。さらにアセチルアセトン(CH3COCH2COCH3)を加えて室温にて60分間程度攪拌する(S5)。最後に、ポリエチレングリコール(HO(C2H4)nH)を加えて室温下で5分間程度攪拌する(S6)。以上の工程によって酢酸系溶媒が完成する。
【0045】
絶縁膜形成工程(図5(a)): 上記酢酸系溶媒の製造と並行して、圧力室基板の基礎となるシリコン基板20に絶縁膜31を形成する。シリコン基板20は、例えば200μm程度、絶縁膜31は、1μm程度の厚みに形成する。絶縁膜の製造には、公知の熱酸化法等を用いる。
【0046】
下部電極膜形成工程(同図5(b)): 次いで絶縁膜31の上に下部電極32を形成する。下部電極32は、例えば、チタン層、酸化チタン層、チタン層、白金層、チタン層を0.01μm、0.01μm、0.005μm,0.5μm、0.005μmの厚みで積層する。これら層の製造は、公知の直流スパッタ法等を用いる。
【0047】
圧電体層形成工程(同図(c)): 次いで上記酢酸系溶媒を用いて下部電極32上に圧電体層41を形成する。この酢酸系溶媒を一定の厚みに塗布する。例えば、公知のスピンコート法を用いる場合には、毎分500回転で30秒、毎分1500回転で30秒、最後に毎分500回転で10秒間塗布する。塗布後、一定温度(例えば180度)で一定時間(例えば10分程度)乾燥させる。乾燥により溶媒であるブトキシエタノールが蒸発する。乾燥後、さらに大気雰囲気下において所定の高温(例えば400度)で一定時間(30分間)脱脂する。脱脂により金属に配位している有機の配位子が熱分解され、金属が酸化されて金属酸化物となる。この塗布→乾燥→脱脂の各工程を所定回数、例えば8回繰り返して8層のセラミックス層を積層する。これらの乾燥や脱脂により、溶液中の金属アルコキシドが加水分解や重縮合され金属−酸素−金属のネットワークが形成される。
【0048】
酢酸系溶媒を4層重ねた後と8層重ね塗りした後には、さらに圧電体層の結晶化を促進し圧電体としての特性を向上させるために、所定の雰囲気下で熱処理する。例えば、4層積層後、酸素雰囲気下において、高速熱処理(RTA)で、600度で5分間、さらに725度で1分間加熱する。8層積層後、酸素雰囲気下において、RTAで、650度で5分間、さらに900度で1分間加熱する。この熱処理によりアモルファス状態の溶媒からペロブスカイト結晶構造が形成される。この結晶化の際に、上記したような条件に合致する結晶構造になる。上記処理により圧電体層41が所定の厚み、例えば0.8μm程度で形成される。
【0049】
上部電極形成工程(同図(d)): 圧電体層41の上に、さらに電子ビーム蒸着法、スパッタ法等の技術を用いて、上部電極42を形成する。上部電極の材料は、白金(Pt)等を用いる。厚みは100nm程度にする。
【0050】
エッチング工程(図6(a)): 各層を形成後、振動板膜30(31,32)上の積層構造(41および42)を、各キャビティ21に合わせた形状になるようマスクし、その周囲をエッチングする。不要な部分の圧電体層41および上部電極42を取り除く。エッチングのために、まずスピンナー法、スプレー法等の方法を用いて均一な厚さのレジスト材料を塗布する。次いでマスクを圧電体素子の形状に形成してから露光し現像して、成形されたレジストが上部電極42上に形成される。これに通常用いるイオンミリング、あるいはドライエッチング法等を適用して、不要な層構造部分を除去する。
【0051】
圧力室形成工程(同図(b)): 圧電体素子40が形成された圧力室基板20の他方の面をエッチングしてキャビティ21を形成する。例えば、異方性エッチング、平行平板型反応性イオンエッチング等の活性気体を用いた異方性エッチングを用いて、キャビティ21空間のエッチングを行う。エッチングされずに残された部分が側壁22になる。
【0052】
ノズル板貼り合わせ工程(同図(c)): エッチング後のシリコン基板20にノズル板10を、樹脂等を用いて貼り合わせる。このとき、各ノズル穴11がキャビティ21各々の空間に配置されるよう位置合せする。ノズル板10の貼り合わせられた圧力室基板20を筐体25に取り付け(図2参照)、インクジェット式記録ヘッド1が完成する。なお、ノズル板10を貼り合わせる代わりに、ノズル板と圧力室基板を一体的にエッチングして形成してもよい。ノズル穴はエッチングに設ける。
【0053】
上記実施形態1によれば、上記条件を満たす結晶構造を備えた圧電体素子は優れた圧電特性を示し、良好な電気機械変換効率を有する。この圧電体素子をインクジェット式記録ヘッドに用いれば、少ない電力でより多くのインクを吐出させることができるようになる。
【0054】
またこの圧電体素子は電気機械変換特性から判断すると残留歪みが少ないことが予想され、製造段階においてクラック等の障害が発生するおそれが小さい。このため製造工程における歩留まりも向上できる。
【0055】
(実施形態2)
本発明の実施形態2は、実施形態1と同様の結晶構造の圧電体素子を他の溶媒から製造するものである。特に有機金属熱分解法により強誘電体PMN−PZTを製造する。
【0056】
実施形態2の圧電体素子およびインクジェット式記録ヘッドは上記実施形態1と同様の構成および結晶構造を備えるのでその説明を省略する。
【0057】
次に本実施形態2の圧電体素子およびインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する。本製造方法では上記実施形態1の酢酸系溶媒の代わりに、アルコールアミン系溶媒を用いる。溶媒生成以外の工程(図5および図6)については上記実施形態1と同様なので、説明を省略する。
【0058】
図7に本実施形態におけるアルコールアミン系溶媒の製造方法を示す。まずチタニウムテトライソプロポキシド(Ti(O−i−C3H7)4)およびペンタエトキシニオブ(Nb(OC2H5)5)を溶媒としてブトキシエタノール(C4H9OC2H4OH)を加えて室温下で10分間程度攪拌する(S1)。さらにジエタノールアミンを加えて室温で10分間程度攪拌する(S2)。次いで酢酸鉛・三水和物(Pb(CH3COO)2・3H2O)、ジルコニウムアセチルアセトナート(Zr(CH3COCHCOCH3)4)および酢酸マグネシウム・三水和物(Mg(CH3COO)2・3H2O)を加えて攪拌する(S3)。前半は75℃程度の温度で30分間程度攪拌し、後半は室温にて10分程度冷却する。最後に、ポリエチレングリコール(HO(C2H4)nH)を加えて室温下で10分間程度攪拌する(S4)。以上の工程によってアルコールアミン系溶媒が完成する。
【0059】
上記アルコールアミン系溶媒は、上記実施形態1と同様に圧電体層形成工程で同様に塗布される(図5(c))。この工程で熱処理をする前はアルコールアミン系溶媒中の各金属は金属キレートとして単独で分散しているが、熱処理によって有機物が熱分解し酸化金属を形成する。さらに高い熱処理工程によって各酸化金属同士が拡散固相反応することにより結晶となる。熱処理後、溶媒はPMN−PZTの結晶となる。
【0060】
上記実施形態2によれば、上記実施形態1と異なる溶媒の生成方法によって、PMN−PZTを形成することができる。その作用効果は上記実施形態1と同様である。
【0061】
(その他の変形例)
本発明は、上記各実施形態によらず種々に変形して適応することが可能である。例えば、本発明の圧電体素子は、上記同一の結晶の条件を満たすものであれば、他の製造方法によって製造されるものであってもよい。上記条件を満たせば、良好な圧電特性を示す圧電体素子およびインクジェット式記録ヘッドを製造できる。
【0062】
また、本発明の圧電体素子は、上記インクジェットプリンタヘッドのみならず、不揮発性半導体記憶装置、薄膜コンデンサ、パイロ電気検出器、センサ、表面弾性波光学導波管、光学記憶装置、空間光変調器、ダイオードレーザ用周波数二倍器等のような強誘電体装置、誘電体装置、パイロ電気装置、圧電装置、および電気光学装置の製造に適応することができる。すなわち、本発明の圧電体素子は高い誘電率を備えるために、誘電率の高さによりその性能が定められるような媒体に適用する薄膜として最適だからである。
【0063】
【実施例】
上記実施形態にしたがって強誘電体としてマグネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(PMN−PZT)を製造しその特性をX線回折広角法により測定した。この強誘電体は、Pb(Mg1/3Nb2/3)0.1Zr0.504Ti0.396O3という組成である。この強誘電体結晶は、正方晶系である。
【0064】
図8に圧電体層の厚みに対する(001)面方位および(111)面方位の回折強度およびその割合を示す。図9に圧電体層の厚みに対する(001)面方位および(111)面方位の配向割合の関係を示す。図10に圧電体層の厚みに対する(001)面方位および(111)面方位の配向の回折強度、並びに全回折強度の関係を示す。
【0065】
配向の割合P(xxx)は、全回折強度ΣI(hkl)に対するその配向の回折強度I(xxx)の比である。全回折強度ΣI(hkl)は、X線回折広角法でCuKα線を用いたときの2θが10度から90度の範囲にある回折強度の和を示す。
【0066】
P(xxx)=I(xxx)/ΣI(hkl)
回折強度の大きさはその配向の大きさを示す。図10から判るように、(001)面方位の配向と(111)面方位の配向とが混在している。図8乃至図10において配向の割合を比べると判るように、全面方位に対する(001)面方位の割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率βが(111)面方位の割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率αより大きくなっている。すなわち両者の間に、α<βの関係が成り立つことが判る。
【0067】
さらに全面方位に対する(111)面方位の占める割合が当該圧電体素子の厚みの増加に伴い減少する傾向であり、その比αは膜厚0.2μmから4μmの範囲で、−1<α<0の範囲に収まっている。また全面方位に対する(001)面方位の占める割合が当該圧電体素子の厚みの増加に伴い増加する傾向であり、その比βは膜厚0.2μmから4μmの範囲で、0<β<1の範囲に収まっている。特に全面方位に対する(001)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率βは0.2程度、全方位に対する(111)面方位の占める割合の当該圧電体素子の厚みに対する増加率αは−0.3程度になっている。
【0068】
このように製造した圧電体素子は好適な圧電特性を示している。
【0069】
【発明の効果】
本発明によれば、圧電体素子が特定の結晶構造を備えたので、優れた圧電特性を示すことができる。
【0070】
また、本発明によれば、特定の結晶構造を有する圧電体素子を備えたので、少ない電力で多くのインクを吐出可能なインクジェット式記録ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の圧電体素子の積層構造を説明する断面図である。
【図2】本発明のインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図3】本発明のインクジェット式記録ヘッドの斜視図一部断面図である。
【図4】実施形態1の酢酸系溶媒を製造するための工程図である。
【図5】本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する製造工程断面図である。
【図6】本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する製造工程断面図である。
【図7】実施形態2のアルコールアミン系溶媒を製造するための工程図である。
【図8】圧電体層の厚みに対する(001)面方位および(111)面方位の回折強度およびその割合を示す表である。
【図9】圧電体層の厚みに対する(001)面方位および(111)面方位の配向割合の関係を示す特性図である。
【図10】圧電体層の厚みに対する(001)面方位および(111)面方位の配向の回折強度、並びに全回折強度の関係を示す特性図である。
【図11】ペロブスカイト結晶構造と面方位を説明する図である。
【符号の説明】
1…インクジェット式記録ヘッド
10…ノズル板
20…圧力室基板
21…圧力室(キャビティ)
30…振動板
32…下部電極
40…圧電体素子
41…圧電体層
42…上部電極
Claims (2)
- ペロブスカイト結晶構造を持つ強誘電体を備えた圧電体層と前記圧電体層を挟んで配置される上電極および下電極とを備えた圧電体素子の製造方法において、
基板上に下部電極膜を形成する工程と、
該下部電極膜上に、
1)酢酸鉛・三水和物、ジルコニウムアセチルアセトナートおよび酢酸マグネシウム・三水和物を、酢酸を溶媒として攪拌し、
2)さらにチタニウムテトライソプロポキシドおよびペンタエトキシニオブを加えて攪拌し、
3)さらにブトキシエタノールを加えて攪拌し、
4)さらに塩酸アルコールを加えて攪拌し、
5)さらにアセチルアセトンを加えて攪拌し、
6)さらにポリエチレングリコールを加えて攪拌する
工程により生成される酢酸系溶媒を塗布する塗布工程と、
溶媒を蒸発させる乾燥工程と、
金属が酸化されて金属酸化物となる脱脂工程と、
該脱脂工程で得られたアモルファスを酸素雰囲気下で600度で5分間と725度で1分間熱処理した後に、熱処理された膜の上にアモルファスを形成し、当該アモルファスを酸素雰囲気下で650度で5分間と900度で1分間熱処理して結晶化させる結晶工程と、によって圧電体層を形成する工程と、
当該圧電体層上に、上部電極膜を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする圧電体素子の製造方法。 - ペロブスカイト結晶構造を持つ強誘電体を備えた圧電体層と前記圧電体層を挟んで配置される上電極および下電極とを備えた圧電体素子の製造方法において、
基板上に下部電極膜を形成する工程と、
該下部電極膜上に、
1)チタニウムテトライソプロポキシドおよびペンタエトキシニオブを、ブトキシエタノールを溶媒として攪拌し、
2)さらにジエタノールアミンを加えて攪拌し、
3)さらに酢酸鉛・三水和物、ジルコニウムアセチルアセトナートおよび酢酸マグネシウム・三水和物を加えた攪拌し、
4)さらにポリエチレングリコールを加えて攪拌する
工程により生成されるアルコールアミン系溶媒を塗布する塗布工程と、
溶媒を蒸発させる乾燥工程と、
金属が酸化されて金属酸化物となる脱脂工程と、
該脱脂工程で得られたアモルファスを酸素雰囲気下で600度で5分間と725度で1分間熱処理した後に、熱処理された膜の上にアモルファスを形成し、当該アモルファスを酸素雰囲気下で650度で5分間と900度で1分間熱処理して結晶化させる結晶工程と、によって圧電体層を形成する工程と、
当該圧電体層上に、上部電極膜を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする圧電体素子の製造方法。
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