WO2019058966A1 - 吸湿性アクリロニトリル系繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造体 - Google Patents
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Abstract
共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、カルボキシル基が繊維全体にわたって均一に存在しており、かつ繊維中のカルボキシル基量が0.2~4.5mmol/gであること、及び繊維の20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする。この吸湿性アクリロニトリル系繊維は、架橋構造を導入する工程がなく、かつ十分な繊維物性を有するため、連続的に製造することができる。また、高い吸湿性を持つだけでなく、使用により赤みが増すこともない。さらに、収縮性、易脱捲縮性、嵩高性、撥水性を付与することが容易である。
Description
本発明は、吸湿性アクリロニトリル系繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造体に関する。
近年の快適性に対する意識の高まりから、吸湿性機能を有する素材の開発が求められており、繊維分野においても開発が盛んに行なわれている。例えば、アクリル繊維を化学変性することにより得られる架橋アクリレート系繊維が知られている(特許文献1)。該繊維は架橋構造とカルボキシル基を含有しており、優れた吸湿性能や吸湿発熱性能を有する。しかしながら、架橋アクリレート系繊維には、以下の(i)及び(ii)に示す問題があった。
(i)まず架橋アクリレート系繊維は、該繊維の有するヒドラジン架橋構造により、淡桃色から濃桃色を呈するため、利用分野が制限されるという欠点があった。
かかる問題に関して特許文献2、特許文献3では、ヒドラジン系化合物による架橋処理の後に酸処理Aを行うこと、アルカリによる加水分解処理の後に酸処理Bを行うこと、をそれぞれ開示し、相当に赤みの軽減を為し得ている。
しかし、上述したような方法で白度を改良した架橋アクリレート系繊維においても、経時、加熱、洗濯などにより、赤みが増してしまう場合がある。また、上述の方法では、製造工程が多くなり、製造コストが高いものとなってしまう。このため、依然として、用途展開が進みにくい状況となっている。
従来の架橋アクリレート系繊維において赤みの発生する原因は、シアノ基とヒドラジンが反応することによって形成される架橋構造にある。しかし、架橋アクリレート系繊維は、親水性の高いカルボキシル基を多量に含有するため、架橋構造がなければ、水への膨潤や溶解により繊維物性を維持することが難しいと考えられている。このため、赤みの根本原因である架橋構造を取り去ることは容易なことではなく、これまでほとんど検討されてきていない。
また、アクリロニトリルとメタクリル酸などの共重合体を用いた繊維においては、水膨潤度を抑制しつつ、吸湿性を向上させることは困難であった。
また、(ii)架橋アクリレート系繊維の製造においては、ヒドラジンによる架橋構造を導入する工程およびカルボキシル基を導入するための加水分解工程が必要であるほか、各工程の後には、反応に用いた薬剤の残留物を除去する工程が必要である。しかも、これらのそれぞれ工程では高温、長時間が必要である。このため、該繊維の製造を連続処理で行うことは難しく、従来から生産性の低いバッチ処理で行っていた。従って、従来の架橋アクリレート系繊維は、生産性が低く、その製造コストは高いままであった。また、該繊維は、吸湿によって発熱するため、吸湿量が飽和に近い状態では、さらなる発熱量は期待できなかった。
また、カルボキシル基を有するアクリル繊維という点においては、アクリル酸などのカルボキシル基を有する単量体を共重合成分とするアクリロニトリル系重合体からなるアクリル繊維が知られている。しかし、アクリル酸を多量に共重合させると紡糸が困難となるため、高い吸湿性を発現させることは難しかった。また、染色におけるアルカリソーピングなどのアルカリ条件下で溶出しやすくなるなど、衣料用途向けとする場合には問題となっていた。
上述したように吸湿性を付与した架橋アクリレート系繊維は、製造工程が多く生産性が低いものであったり、あるいは吸湿性を高めることが難しいものであったりした。また、かかる繊維は、その吸湿発熱性に基づき、保温性を求められる衣料品等にも使用されるが、吸湿による発熱のみでは不十分な場合があった。また、かかる繊維は、架橋構造を有していることから、収縮性、易脱捲縮性、嵩高性、撥水性などの機能をさらに付与することが困難であった。
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、従来より簡便な工程で連続生産することができる吸湿性アクリロニトリル系繊維を提供することにある。また、本発明の目的は、赤みがほとんどなく、高い吸湿発熱性だけでなく、必要により収縮性、易脱捲縮性、嵩高性、撥水性などの機能をさらに付与することができるアクリロニトリル系繊維を提供することにある。
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、アクリロニトリル系重合体を溶解した紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することにより、架橋構造を有さないアクリロニトリル系重合体繊維であっても、吸湿性と実用的な繊維物性を両立し、かつ赤みが少なく、連続生産が可能であること、また、必要により繊維に収縮性、易脱捲縮性、嵩高性、撥水性の機能を付与することができることを見出し、本発明の完成に到達した。
即ち、本発明は、以下の(1)~(15)により構成される。
(1)共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、カルボキシル基が繊維全体にわたって均一に存在しており、かつ繊維中のカルボキシル基量が0.2~4.5mmol/gであること、及び繊維の20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(2)共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、カルボキシル基を含有する重合体からなる表層部とアクリロニトリル系重合体からなる中心部とからなる芯鞘構造を有しており、かつ繊維中のカルボキシル基量が0.2~4.5mmol/gであること、及び繊維の20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(3)金属酸化物をさらに0.1~15重量%含有することを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(4)金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする(3)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(5)沸水収縮率が5~50%であることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(6)沸水処理後の捲縮減少係数が0.7以下であることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(7)捲縮率が7%以上であることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(8)撥水剤をさらに含有し、水上に静置してから水没するまでの時間が10分以上であることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維を含有することを特徴とする繊維構造体。
(10)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(11)アクリロニトリル系重合体および金属酸化物を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする(3)又は(4)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(12)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解した後に延伸することを含むことを特徴とする(5)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(13)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解した後に緊張又は延伸状態で熱処理を行い、その後に捲縮を付与させることを含むことを特徴とする(6)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(14)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液(A)、および、紡糸原液(A)に含有されるアクリロニトリル系重合体とは異なるモノマー組成を有するアクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液(B)を複合してノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする(7)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(15)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解し、その後に撥水剤処理を行うことを含むことを特徴とする(8)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(1)共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、カルボキシル基が繊維全体にわたって均一に存在しており、かつ繊維中のカルボキシル基量が0.2~4.5mmol/gであること、及び繊維の20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(2)共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、カルボキシル基を含有する重合体からなる表層部とアクリロニトリル系重合体からなる中心部とからなる芯鞘構造を有しており、かつ繊維中のカルボキシル基量が0.2~4.5mmol/gであること、及び繊維の20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(3)金属酸化物をさらに0.1~15重量%含有することを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(4)金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする(3)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(5)沸水収縮率が5~50%であることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(6)沸水処理後の捲縮減少係数が0.7以下であることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(7)捲縮率が7%以上であることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(8)撥水剤をさらに含有し、水上に静置してから水没するまでの時間が10分以上であることを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維を含有することを特徴とする繊維構造体。
(10)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする(1)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(11)アクリロニトリル系重合体および金属酸化物を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする(3)又は(4)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(12)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解した後に延伸することを含むことを特徴とする(5)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(13)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解した後に緊張又は延伸状態で熱処理を行い、その後に捲縮を付与させることを含むことを特徴とする(6)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(14)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液(A)、および、紡糸原液(A)に含有されるアクリロニトリル系重合体とは異なるモノマー組成を有するアクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液(B)を複合してノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする(7)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(15)アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解し、その後に撥水剤処理を行うことを含むことを特徴とする(8)に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
本発明の吸湿性アクリロニトリル繊維は、共有結合による架橋構造を実質的に有さないものである。従って、ヒドラジン架橋構造を有さないため、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、赤みがほとんどない。また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、製造にあたり架橋導入工程が不要なため、製造工程を大幅に減らすことができ、その結果、通常のアクリル繊維製造設備を利用した連続生産が可能であり、生産性の高いものである。また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、架橋処理を施さずとも実用的な繊維物性を保持しているため、連続生産に適しており、機能面では、吸湿性だけでなく、光熱変換性能、収縮性、易脱捲縮性、嵩高性、及び撥水性を併せ持つことができる。
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、従来の吸湿性アクリロニトリル系繊維とは異なり、共有結合による架橋構造を実質的に有さないことを特徴とするものである。このことにより、架橋導入工程が不要になり、その結果、製造工程を大幅に少なくすることができ、従来よりも簡便な工程で生産することができる。従って、従来の架橋アクリレート系繊維の製造のようなバッチ処理に限らず、連続製造が可能である。また、繊維が赤みを帯びたり、経時などによって赤みが強まったりすることが抑制または防止される。さらに、所望により、本発明の吸湿性アクリロニトリル繊維は、光熱変換性能、収縮性、易脱捲縮性、嵩高性、及び撥水性を併せ持つことができる。なお、本発明において、「共有結合による架橋構造を実質的に有さない」とは、後述する<チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解度>が95%以上であることを指す。
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、赤みの抑制に関して、JISZ8781-4の表示方法において、赤みを示すa*を2以下とすることが可能であり、さらにはa*を0以下とすることも可能である。a*の下限としては、あまりに低いと赤みでない別の色が濃くなってくるので、好ましくは-4、より好ましくは-3である。
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、カルボキシル基を含有するものであり、その含有量としては、後述する方法により求められる値において、0.2~4.5mmol/gであり、好ましくは0.5~4.0mmol/g、より好ましくは0.5~3.5mmol/gである。また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維が芯鞘構造である場合には、好ましくは0.2~2mmol/g、より好ましくは0.5~1.0mmol/gである。カルボキシル基量が上記範囲の下限に満たない場合には、後述する吸湿性能が得られないことがあり、上限を超える場合には、繊維の親水性が高くなりすぎて、後述する水膨潤度を越えて、水に激しく膨潤したり、溶解したりして、取り扱いが困難となる。
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、20℃、相対湿度65%雰囲気下での飽和吸湿率として5重量%以上を有するものであり、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上を有するものであることが望ましい。飽和吸湿率が上記下限値に満たない場合には、各種繊維構造体に適用しても有意な吸湿性能を付与することが難しい。上限については、繊維物性を維持する観点から35重量%以下、さらには30重量%以下であることが望ましい。
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、後述する方法により求められる水膨潤度が10倍以下であり、好ましくは8倍以下、より好ましくは5倍以下であることが望ましい。本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は上述のように共有結合による架橋構造を有していないこともあり、かかる水膨潤度が10倍を超えてしまうと、繊維が脆くなって一部が脱落したり、場合によっては溶解したりして、取り扱いが困難となる。下限については特に制限は無いが、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維が20℃、相対湿度65%雰囲気下での飽和吸湿率として5重量%以上を有する観点から、通常0.05倍以上となると思われる。
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、繊維を構成する重合体の重量に対して、金属酸化物を0.1~15重量%、好ましくは0.2~10重量%含有することができる。十分な光熱変換性を得るためには、繊維中に含有させる金属酸化物量を上記範囲の下限以上にすることが好ましいが、上限を超える場合には繊維物性が低下し、紡績加工や実用に耐えないものとなってしまうことがある。
上述の金属酸化物としては、光熱変換性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、Si、Ti、Zn、Al、Fe、Zr等の酸化物などの化合物であって水に不溶のものが挙げられ、これらの中から選ばれる1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、Si、Ti、Zn、Al、Zrの酸化物は、光熱変換性だけでなく、繊維の白度を向上させる効果も発現できるので好適であり、後述する白度の評価方法において50以下の高白度とすることも可能である。なかでも、酸化チタンは、白度向上効果に加え、安全性や価格の面も踏まえると特に好ましいものである。
また、金属酸化物の粒子径としては、特に限定されないが、平均一次粒子径として1~1000nmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは50~600nmの範囲である。平均一次粒子径が上記範囲の下限未満の場合、繊維を製造する際に、粉塵が多量に舞ったり、凝集により紡糸ノズルが目詰まりしたりするなどの問題を生ずる可能性があり、上限を超える場合には、繊維物性を損なう恐れがある。
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、沸水収縮率が好ましくは5%~50%であり、より好ましくは8%~45%、さらにより好ましくは12%~40%であることができる。各種繊維構造体に適用しても有意な収縮性能を付与するためには、沸水収縮率を上記範囲の下限以上にすることが好ましいが、上限を超える場合には、実用的な繊維物性を維持することが難しくなる。
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、後述する方法により求められる沸水処理後の捲縮減少係数が好ましくは0.7以下であって、より好ましくは0.6以下、さらにより好ましくは0.5以下であることができる。かかる捲縮減少係数はその値が小さいほど捲縮が除去されやすいことを示しており、捲縮減少係数が上記上限値より大きい場合には、各種繊維構造体に適用しても脱捲縮による有意な意匠性を付与することが難しい。一方、下限値については、完全に捲縮を無くすことは難しいことから、通常の場合0.05以上となる。
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の捲縮率は、好ましくは7%以上であり、より好ましくは10%以上であることができる。捲縮率はJIS L1015で規定され、捲縮率が高いほど繊維と繊維が絡み合いやすく、ウェブ、不織布、紡績糸などの繊維集合体としたときに嵩高くなる。かかる捲縮率が上記下限値を下回るとカード工程での繊維同士のつながりが悪くなり、また、繊維集合体としたときの嵩高さが低く、他の繊維と混用した中綿などにおいて、十分な厚みのある形状が得られなくなる。一方、上限値については、あまりに捲縮率が高いと、繊維同士の絡み合いが強くなりすぎて、カード工程での開繊が困難になったり、繊維構造物が締まって嵩高になりにくくなったりすることから、好ましくは40%以下、より好ましくは20%以下である。
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の嵩高性としては、布団や衣類の中綿用に用いる場合、後述する比容積として好ましくは35cm3/g以上、より好ましくは40cm3/g以上、さらに好ましくは45cm3/g以上を有していることが望ましい。一方、上限値については、比容積が大きすぎると、少しの力を加えただけで簡単に型崩れを起こしてしまい、保形性が不足するおそれがあることから、好ましくは100cm3/g以下、より好ましくは80cm3/g以下である。
本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、撥水剤を含有することができ、その場合、水上に置いてから水没するまでの時間が好ましくは10分以上であり、より好ましくは15分以上、さらにより好ましくは20分以上であることができる。完全に水没するまでの時間が10分に満たない場合には十分な撥水性が無く、快適性に問題がでる可能性がある。なお、上限については特に限定はなく、水没するまでの時間が20分以上である場合には、その後も水没することはない状況となる。
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維においては、カルボキシル基が繊維全体にわたって均一に存在していることが望ましい。ここで、繊維全体にわたって均一に存在しているとは、後述する測定方法によって測定される繊維断面におけるマグネシウム元素の含有割合の変動係数CVが50%以下であることを意味する。カルボキシル基が局在化していると、その部分が吸湿・吸水によって脆化しやすくなる。カルボキシル基が繊維全体にわたって存在していることによって、吸湿・吸水しても脆化が抑制され、架橋構造を有さずとも実用に耐えうる繊維物性が得られやすくなる。このような点から上記のCV値としては好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下であることが望ましい。
ただし、求められる物性や用途などによって、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、カルボキシル基が実質的に繊維表面のみに均一に存在している芯鞘構造を採用することができる。この場合は、芯鞘構造は、カルボキシル基を含有する重合体からなる表層部と、アクリロニトリル系重合体からなる中心部とから構成される。このように中心部とそれを包囲する表層部とからなる芯鞘構造を有することにより、中心部で硬い弾力性のある実用的な繊維物性を得ながら、カルボキシル基濃度の高い表層部で吸湿速度を有意に高めることができる。
この芯鞘構造の繊維の横断面における表層部の占める面積は、20~80%が好ましく、30~70%がより好ましい。表層部の占める面積が少ないと、吸湿性等の機能を十分に発揮できないおそれがあり、表層部の占める面積が多いと、中心部が細くなって実用的な繊維物性が得られないおそれがある。
カルボキシル基の状態としては、より高い吸湿性能を求める場合には、対イオンがH以外のカチオンであることが好ましい。より具体的には、対イオンがH以外のカチオンである割合、すなわち、中和度が好ましくは25%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは50%以上であることが望ましい。
カチオンの例としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、Be、Ca、Ba等のアルカリ土類金属、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等の金属、NH4、アミン等の陽イオンなどが挙げられ、複数種類の陽イオンが混在していてもよい。中でも、Li,Na,K,Mg,Ca,Zn等が好適である。
また、上記の場合においては、酢酸、イソ吉草酸等の酸性ガス、ホルムアルデヒド等のアルデヒドに対する優れた消臭性能も発現できる。また、MgやCaイオンであれば難燃性能が高く、AgやCuイオンであれば抗菌性能に関して高い効果を得ることができる。
一方、カルボキシル基の対イオンとしてHを多くすると、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系ガス等の消臭性能や抗ウイルス性能、抗アレルゲン性能を強めることができる。
上述してきた本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は、未乾燥状態のアクリロニトリル系繊維に加水分解処理を施すことによって得ることができる。繊維に収縮性を付与する場合には、加水分解後に延伸処理を施す。また、繊維に易脱捲縮性を付与する場合には、加水分解後に、緊張又は延伸状態で熱処理を施し、その後に捲縮を付与する。以下、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の代表的な製造方法を詳述する。
まず、原料とするアクリロニトリル系繊維であるが、繊維を構成するアクリロニトリル系重合体は重合組成としてアクリロニトリル(以下、ANともいう)を好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上含有するものである。AN系重合体は、AN単独重合体のほかに、ANと他の単量体との共重合体であってもよい。他の単量体としては、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン、(メタ)アクリル酸エステル、メタリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー及びその塩、アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられるが、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。尚、(メタ)の表記は、メタの語の付いたもの及び付かないものの両方を表す。
次に、かかるAN系重合体を用いて、湿式紡糸により繊維化を行うが、溶剤として、ロダン酸ソーダ等の無機塩を用いた場合で説明すれば以下のようになる。まず、上述のAN系重合体を溶剤に溶解し紡糸原液を作製する。この紡糸原液には必要により金属酸化物が添加される。該紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て、延伸後の未乾燥繊維(以下、ゲル状アクリロニトリル系繊維ともいう)の水分率を20~250重量%、好ましくは25~130重量%、より好ましくは30~100重量%とする。
ここで、加水分解処理を施される原料繊維として未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維を使用した場合、前述の様にカルボキシル基を繊維全体にわたって均一に存在させることが可能となる。一方、未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維をさらに熱処理することで緻密化させた繊維や、緻密化後さらに弛緩処理した繊維を原料繊維として加水分解処理を施した場合には、カルボキシル基が繊維表層部に局在化した芯鞘構造とすることができる。
また、嵩高性を付与する目的で捲縮率をより高くするためには、異なるモノマー組成を有する2種以上のアクリロニトリル系重合体を複合した原料繊維とする手段が有効である。例えば、アクリロニトリル重合割合に差がある2種のアクリロニトリル系重合体(a)および(b)を用い、それぞれの重合体を含有する紡糸原液(A)および(B)を作製し、これら2種類の紡糸原液を紡糸口金の同一孔から押し出すことによって、2種のアクリロニトリル系重合体を複合したアクリロニトリル系繊維を原料繊維とする手段が挙げられる。このような方法を採ることで、各アクリロニトリル系重合体の収縮の度合いの差に基づく捲縮が発現されるようになる。
アクリロニトリル系重合体の複合構造は、サイド・バイ・サイドに接合されたものでも、ランダムに混合されてなるものでも構わないが、2種のアクリロニトリル系重合体をサイド・バイ・サイドに接合したものが好ましい。この場合、十分な捲縮率を得るには、2種のアクリロニトリル系重合体のアクリロニトリル重合割合の差を好ましくは1~10%、さらに好ましくは1~5%とし、2種のアクリロニトリル系重合体の複合比率を好ましくは20/80~80/20、さらに好ましくは30/70~70/30とする。
ゲル状アクリロニトリル系繊維を原料繊維とする場合、ゲル状アクリロニトリル系繊維の水分率が20重量%未満の場合には、後述する加水分解処理において薬剤が繊維内部に浸透せず、カルボキシル基を繊維全体にわたって生成させることができなくなる場合がある。250重量%を超える場合には繊維内部に水分を多く含み、繊維強度が低くなりすぎるため、可紡性が低下し好ましくない。繊維強度の高さをより重視する場合には、25~130重量%の範囲内とするのが望ましい。また、ゲル状アクリロニトリル系繊維の水分率を上記範囲内に制御する方法は多数あるが、例えば、凝固浴温度としては-3~15℃、好ましくは-3~10℃、延伸倍率としては5~20倍、好ましくは7~15倍程度が望ましい。
また、ゲル状アクリロニトリル系繊維をさらに熱処理する場合には、例えば、110℃での乾熱処理と60℃での湿熱処理を交互に行うことにより、繊維内部のボイドが消失して緻密化した繊維が得られる。又その後120℃×10分オートクレーブ処理を行うことで、ある程度繊維構造が弛緩した繊維が得られる。これら繊維を原料に用いて後述の加水分解処理を行うと繊維表層部から反応が進行して芯鞘構造のような構造をとりやすくなる。なお、反応が進行するにつれて、水膨潤度が上がりやすくなる傾向があり、得られる繊維の取り扱いが困難となる場合がある。
ゲル状アクリロニトリル系繊維、またはさらに熱処理を施された繊維は、次に加水分解処理を施される。かかる加水分解処理の手段としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液、あるいは、硝酸、硫酸、塩酸等の水溶液を含浸、または浸漬した状態で加熱処理する手段が挙げられる。具体的な処理条件としては、上述したカルボキシル基量の範囲などを勘案し、処理薬剤の濃度、反応温度、反応時間等の諸条件を適宜設定すればよいが、一般的には、0.5~20重量%、好ましくは1.0~15重量%の処理薬剤を含浸、絞った後、湿熱雰囲気下で、温度100~140℃、好ましくは110~135℃で10~60分処理する条件の範囲内で設定することが工業的、繊維物性的にも好ましい。上記範囲内において処理温度が高いほど捲縮率が高くなる傾向がある。なお、湿熱雰囲気とは、飽和水蒸気または過熱水蒸気で満たされた雰囲気のことを言う。該処理により、ゲル状アクリロニトリル系繊維中のニトリル基が加水分解され、カルボキシル基が生成される。
上述のようにして加水分解処理を施された繊維中には、加水分解処理に用いられたアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の種類に応じたアルカリ金属やアンモニウムなどのカチオンを対イオンとする塩型カルボキシル基が生成しているが、引き続き、必要に応じてカルボキシル基の対イオンを変換する処理を行ってもよい。硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩水溶液によるイオン交換処理を行えば、所望の金属イオンを対イオンとする塩型カルボキシル基とすることができる。さらに、水溶液のpHや金属塩濃度・種類を調整することで、異種の対イオンを混在させたり、その割合を調整したりすることも可能である。
上述のようにして加水分解処理を施された繊維やさらにイオン交換処理を施された繊維は続いて延伸処理が施されることにより収縮性が付与されることができる。延伸倍率は通常1.1~2.0倍に設定される。延伸倍率が1.1倍より低いと収縮性が低くなることがあり、逆に2.0倍より大きいと繊維物性が悪くなることがある。また、該延伸処理は加熱下で行われるが、その温度は、上述の加水分解処理の温度よりも低いことが好ましい。加熱手段としてはスチームなどの湿熱であってもよいし、乾熱ローラーなどの乾熱であってもよい。
また、上述のようにして加水分解処理を施された繊維やさらにイオン交換処理を施された繊維は、続いて緊張又は延伸状態で熱処理を施され、次に紡績等の後加工処理を施すために必要な捲縮が付与されることができる。ここで、捲縮の付与には、一般に用いられる機械的捲縮付与方法を採用できる。こうして得られた繊維は沸水処理等の熱処理により脱捲縮することができるようになる。
また、上述のようにして加水分解後処理を施された繊維は撥水剤処理を行うことができるが、その場合、該繊維、すなわち撥水処理前の繊維重量に対して、撥水剤を好ましくは0.2~5.0重量%、より好ましくは0.3~3.0重量%含有させるようにすることが好ましい。繊維中に含有させる撥水剤が上記範囲の下限に満たない場合には十分な撥水性が得られなくなることがあり、上限を超える場合には風合いや紡績工程通過性が悪化することがある。
上述の撥水剤としては、フッ素含有シリコーン、フッ素含有化合物、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン等が挙げられ、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、フッ素含有シリコーンは撥水性の効果が高く特に好ましい。
撥水剤の付与方法については特に限定されないが、例えば撥水剤分散液中に加水分解後の繊維を含浸させた後に絞る方法や加水分解後の繊維にスプレーにより撥水剤分散液を付与する方法などを採用できる。
以上のようにして本発明にかかる吸湿性アクリロニトリル系繊維が得られるが、上述の各処理は既存のアクリル繊維の連続生産設備を流用することで連続的に実施することができる。また、必要に応じて、水洗や乾燥、特定の繊維長に切断するなどの処理を追加してもよい。以上、ロダン酸ソーダ等の無機塩を溶剤に用いた場合について説明してきたが、有機溶剤を用いる場合でも上記条件は同じである。ただし、溶剤の種類が異なっているので、凝固浴温度については、その溶剤に適した温度を選択して、ゲル状アクリロニトリル系繊維の水分率を上記範囲内に制御する。
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造に際しては、紡糸原液中に機能性材料を添加しても構わない。かかる機能性材料としては、酸化チタン、カーボンブラック、顔料、抗菌剤、消臭剤、吸湿剤、制電剤、樹脂ビーズなどを挙げることができる。
ここで、上述の製造方法によって得られる本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維においては未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維を加水分解処理することから、繊維表面から順次加水分解するのではなく、薬剤が繊維内奥部にも浸透し、繊維全体にわたって加水分解するものと考えられる。さらに微視的に見ると、一般にアクリロニトリル系繊維にはAN系重合体が配向している結晶部分と構造が乱れている非晶部分とが混在している。このため、結晶部分はその外側から加水分解されるが、非晶部分は全体的に加水分解されると考えられる。この結果、加水分解後においては、微視的には、結晶部分ではその一部が加水分解を受けないままニトリル基濃度の高い部分として残り、非晶部分はカルボキシル基濃度が高い部分になるものと考えられる。また、繊維表層部が局在的に加水分解されるのではなく、繊維全体にわたって加水分解されることから、金属酸化物を使用する場合、表層部に存在する金属酸化物が加水分解によって脱落してしまうことも抑制され、添加した金属酸化物を無駄なく利用できるものとなる。
さらに、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維が金属酸化物を含有する場合、その光熱変換性能は従来公知の繊維に金属酸化物を含有させる場合よりも、飛躍的に高くなる。そのような報告はこれまでに無く要因は明らかではないが、上述するように本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維においては、繊維全体が比較的粗な構造であるため、光が繊維内奥部まで到達しやすくなり、内奥部に存在する金属酸化物も有効利用されて、光熱変換効果が飛躍的に上がったものと推測される。
以上より、上述の製造方法によって得られる本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の構造は、カルボキシル基濃度が高い部分とニトリル基濃度の高い部分が繊維全体にわたって均一に存在している構造であると推測される。そして、このような構造であるがゆえに、共有結合による架橋構造を有さずとも、吸湿・吸水時の繊維物性の低下が抑制されると考えられる。また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維が、上記のように、未乾燥状態のゲル状アクリロニトリル系繊維をさらに熱処理することで緻密化させた繊維や、緻密化後さらに弛緩処理した繊維を原料繊維として採用することによって、芯鞘構造をとる場合でも、表層部でカルボキシル基が均一に存在しており、中心部は硬い弾力性のある構造であるため、共有結合による架橋構造を得ずとも、同様に繊維物性の低下が少ないと考えられる。
また、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維においては、上述のような構造を有するため、通常のアクリロニトリル系繊維の特性が残っており、さらに、共有結合による架橋構造なども有していないため、加水分解後においても延伸が可能であり、これによって収縮性も付与できるものと考えられる。また、同様の理由により、加水分解後においても緊張又は延伸状態で熱処理を行い、その後に捲縮を付与させることができ、これによって易脱捲縮性も付与できるものと考えられる。
なお、上述したことから分かるように、上述した製造方法においては、ゲル状アクリロニトリル系繊維を加水分解処理することにより上述のような特性を有する繊維が得られている。ゲル状アクリロニトリル系繊維、すなわち延伸後の未乾燥繊維を用いず、乾燥後のアクリロニトリル系繊維に加水分解処理を施した場合には、薬剤が繊維内奥部には浸透せず、繊維表面から順次加水分解することになるため、繊維表層部にカルボキシル基が多く、繊維内奥部にはカルボキシル基が少ない構造が誘導される。このような構造の繊維は、繊維表層部の水への溶出等が起こり、実用に耐えないものとなる。
上述してきた本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維は単独で又は、他の素材と組み合わせることにより多くの用途で有用な繊維構造体として利用できる。該繊維構造物においては、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の含有率を好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上とすることが、本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の効果を得る観点から望ましい。また、他の素材の種類としては特に制限はなく、公用されている天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維が用いられ、さらには無機繊維、ガラス繊維等も用途によっては採用し得る。具体的な例としては、綿、麻、絹、羊毛、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アクリル繊維などを挙げることができる。
該繊維構造体の外観形態としては、糸、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等がある。該構造物内における本発明の繊維の含有形態としては、他素材との混合により、実質的に均一に分布させたもの、複数の層を有する構造の場合には、いずれかの層(単数でも複数でも良い)に集中して存在せしめたものや、夫々の層に特定比率で分布せしめたもの等がある。
上記に例示した繊維構造体の外観形態や含有形態、該繊維構造体を構成する他の素材、および該繊維構造体と組み合わせる他の部材をいかなるものとするかは、最終製品の種類(例えば、衣料品、フィルター、カーテンやカーペット、寝具やクッション、インソールなど)に応じて要求される機能、特性、形状や、かかる機能を発現することへの本発明の吸湿性アクリロニトリル系繊維の寄与の仕方等を勘案して適宜決定される。
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り重量基準で示す。なお、各特性の測定は以下の方法により求めた。
<チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解度>
乾燥した試料約1gを精秤し(W1[g])、100mlの58%チオシアン酸ナトリウム水溶液を加え、80℃で1時間浸漬させた後にろ過、水洗し、乾燥する。乾燥後の試料を精秤し(W2[g])次式によって溶解度を算出する。
溶解度[%]=(1-W2/W1)×100
かかる溶解度が95%以上である場合、共有結合による架橋構造を実質的に有さないと判断する。
乾燥した試料約1gを精秤し(W1[g])、100mlの58%チオシアン酸ナトリウム水溶液を加え、80℃で1時間浸漬させた後にろ過、水洗し、乾燥する。乾燥後の試料を精秤し(W2[g])次式によって溶解度を算出する。
溶解度[%]=(1-W2/W1)×100
かかる溶解度が95%以上である場合、共有結合による架橋構造を実質的に有さないと判断する。
<カルボキシル基量の測定>
試料を約1g秤量し、1mol/l塩酸50mlに30分浸漬後、水洗し浴比1:500で純水に15分間浸漬する。浴pHが4以上となるまで水洗した後、熱風乾燥機にて105℃で5時間乾燥させる。乾燥した試料を約0.2g精秤し(W3[g])、これに100mlの水と0.1mol/l水酸化ナトリウム15ml、塩化ナトリウム0.4gを加えて攪拌する。次いで金網を用いて試料を漉しとり、水洗する。得られたろ液(水洗液も含む)にフェノールフタレイン液を2~3滴を加え、0.1mol/l塩酸で常法に従って滴定を行い消費された塩酸量(V1[ml])を求め、次式により全カルボキシル基量を算出する。
全カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V1)/W3
試料を約1g秤量し、1mol/l塩酸50mlに30分浸漬後、水洗し浴比1:500で純水に15分間浸漬する。浴pHが4以上となるまで水洗した後、熱風乾燥機にて105℃で5時間乾燥させる。乾燥した試料を約0.2g精秤し(W3[g])、これに100mlの水と0.1mol/l水酸化ナトリウム15ml、塩化ナトリウム0.4gを加えて攪拌する。次いで金網を用いて試料を漉しとり、水洗する。得られたろ液(水洗液も含む)にフェノールフタレイン液を2~3滴を加え、0.1mol/l塩酸で常法に従って滴定を行い消費された塩酸量(V1[ml])を求め、次式により全カルボキシル基量を算出する。
全カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V1)/W3
<飽和吸湿率の測定>
試料を熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W4[g])。次に該試料を20℃×65%RHの条件に調節した恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして吸湿させた試料の重量を測定する。(W5[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]=(W5-W4)/W4×100
試料を熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W4[g])。次に該試料を20℃×65%RHの条件に調節した恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして吸湿させた試料の重量を測定する。(W5[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]=(W5-W4)/W4×100
<水膨潤度>
試料を純水中に浸漬した後、卓上遠心脱水機で1200rpmにて5分間脱水する。脱水後の試料の重量を測定(W6[g])後、かかる試料を115℃で3時間乾燥して重量を測定(W7[g])し、次式により水膨潤度を算出する。
水膨潤度[倍]=W6/W7-1
試料を純水中に浸漬した後、卓上遠心脱水機で1200rpmにて5分間脱水する。脱水後の試料の重量を測定(W6[g])後、かかる試料を115℃で3時間乾燥して重量を測定(W7[g])し、次式により水膨潤度を算出する。
水膨潤度[倍]=W6/W7-1
<中和度>
熱風乾燥機にて105℃で5時間乾燥した試料を約0.2g精秤し(W8[g])、これに100mlの水と0.1mol/l水酸化ナトリウム15ml、塩化ナトリウム0.4gを加えて攪拌する。次いで金網を用いて試料を漉しとり、水洗する。得られたろ液(水洗液も含む)にフェノールフタレイン液を2~3滴を加え、0.1mol/l塩酸で常法に従って滴定を行い消費された塩酸量(V2[ml])を求める。次式によって、試料に含まれるH型カルボキシル基量を算出し、その結果と上述の全カルボキシル基量から中和度を求める。
H型カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V2)/W8
中和度[%]=[(全カルボキシル基量-H型カルボキシル基量)/全カルボキシル基量]×100
熱風乾燥機にて105℃で5時間乾燥した試料を約0.2g精秤し(W8[g])、これに100mlの水と0.1mol/l水酸化ナトリウム15ml、塩化ナトリウム0.4gを加えて攪拌する。次いで金網を用いて試料を漉しとり、水洗する。得られたろ液(水洗液も含む)にフェノールフタレイン液を2~3滴を加え、0.1mol/l塩酸で常法に従って滴定を行い消費された塩酸量(V2[ml])を求める。次式によって、試料に含まれるH型カルボキシル基量を算出し、その結果と上述の全カルボキシル基量から中和度を求める。
H型カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V2)/W8
中和度[%]=[(全カルボキシル基量-H型カルボキシル基量)/全カルボキシル基量]×100
<色相a*値>
開繊し熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥した試料0.5gを用いて、コニカミノルタ社製色相色差計CR-300型にて測色した。
開繊し熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥した試料0.5gを用いて、コニカミノルタ社製色相色差計CR-300型にて測色した。
<酸化チタン含有量及び酸化チタン保持率>
蛍光X線分析装置で測定したサンプルのピーク強度から、繊維中に含まれる酸化チタン含有量(C1[%])を測定した。酸化チタン保持率については、該サンプルの製造工程における加水分解処理前のゲル状アクリロニトリル系繊維を乾燥させたものの酸化チタン含有量(C2[%])を前記と同じ装置で測定し、下記の式にて求めた。
酸化チタン保持率(%)=C1/C2×100
蛍光X線分析装置で測定したサンプルのピーク強度から、繊維中に含まれる酸化チタン含有量(C1[%])を測定した。酸化チタン保持率については、該サンプルの製造工程における加水分解処理前のゲル状アクリロニトリル系繊維を乾燥させたものの酸化チタン含有量(C2[%])を前記と同じ装置で測定し、下記の式にて求めた。
酸化チタン保持率(%)=C1/C2×100
<光熱変換性>
綿状のサンプル5gを内径2cmの円筒形の筒に入れて80℃で10分間熱プレスを行い、直径2cm厚さ5mmの測定用サンプルを作成した。25℃の室内にて該測定用サンプルを静置して温度を安定させた後、鉛直上方1mから白熱電灯(SUN CLIP DX-II(AC100V、600W)、ハクバ写真産業製)にて5分間光照射した直後のサンプルの温度(℃)をサーモグラフィーにて測定した。
綿状のサンプル5gを内径2cmの円筒形の筒に入れて80℃で10分間熱プレスを行い、直径2cm厚さ5mmの測定用サンプルを作成した。25℃の室内にて該測定用サンプルを静置して温度を安定させた後、鉛直上方1mから白熱電灯(SUN CLIP DX-II(AC100V、600W)、ハクバ写真産業製)にて5分間光照射した直後のサンプルの温度(℃)をサーモグラフィーにて測定した。
<白度>
日立製U-3000型分光光度計にて酸化アルミニウム(Al2O3)をリファレンスとして、サンプルの595nm,553nm,453nmの反射率(X%、Y%、Z%)を測定し下記式にて白度を求めた。値が小さいほど白度が大きくなる。
白度=0.817×((X-Z)/Y)×100)-3.71
日立製U-3000型分光光度計にて酸化アルミニウム(Al2O3)をリファレンスとして、サンプルの595nm,553nm,453nmの反射率(X%、Y%、Z%)を測定し下記式にて白度を求めた。値が小さいほど白度が大きくなる。
白度=0.817×((X-Z)/Y)×100)-3.71
<沸水収縮率>
試料繊維を20℃×65%RHの雰囲気下で24時間静置することで調湿し、繊維長(L1)を測定する。次いで、該試料繊維を沸騰した水中で30分間収縮させ、収縮後の繊維長(L2)を測定し、次式に従って沸水収縮率を計算する。
沸水収縮率(%)=(L1-L2)/L1×100
試料繊維を20℃×65%RHの雰囲気下で24時間静置することで調湿し、繊維長(L1)を測定する。次いで、該試料繊維を沸騰した水中で30分間収縮させ、収縮後の繊維長(L2)を測定し、次式に従って沸水収縮率を計算する。
沸水収縮率(%)=(L1-L2)/L1×100
<捲縮減少係数>
試料繊維を20℃×65%RHの雰囲気下で24時間静置することで調湿したサンプルについて、JIS L 1015:2010 「8.12.1けん縮数」の方法に準じて、初荷重(0.18mN×繊度(tex))をかけたときの25mm間の山と谷の数(A)を数え、次式にて捲縮数(B)を計算する。
捲縮数(B)=A/2
別途、試料繊維を沸騰した水中で30分間処理して、脱捲縮させた繊維を得る。かかる脱捲縮させた繊維について、上記と同様に調湿、測定することにより捲縮数(C)を求める。以上のようにして得られた捲縮数(B)と捲縮数(C)を用いて、次式に従って捲縮減少係数を計算する。
捲縮減少係数(%)=C/B×100
試料繊維を20℃×65%RHの雰囲気下で24時間静置することで調湿したサンプルについて、JIS L 1015:2010 「8.12.1けん縮数」の方法に準じて、初荷重(0.18mN×繊度(tex))をかけたときの25mm間の山と谷の数(A)を数え、次式にて捲縮数(B)を計算する。
捲縮数(B)=A/2
別途、試料繊維を沸騰した水中で30分間処理して、脱捲縮させた繊維を得る。かかる脱捲縮させた繊維について、上記と同様に調湿、測定することにより捲縮数(C)を求める。以上のようにして得られた捲縮数(B)と捲縮数(C)を用いて、次式に従って捲縮減少係数を計算する。
捲縮減少係数(%)=C/B×100
<捲縮率>
JIS L1015により測定、算出する。
JIS L1015により測定、算出する。
<比容積(嵩高性)>
下記<カード通過性>の項に記載された方法で作製したカードウェブを10cm×10cmの大きさに複数枚切りだし試験片とする。かかる試験片を恒温恒湿機内で20℃×65%RHの雰囲気下で24時間静置し、10.0~10.5gになるように積層する。積層した試験片にアクリル板(サイズ10cm×12cm、重量42g)を載せ、おもり500gを30秒載せ、次にこのおもりを除き30秒間放置する。この操作を3回繰り返し、おもりを除去してから30秒後の積層した試験片の四隅の高さを測定して平均値[cm]を求め、次式により比容積を算出する。
比容積[cm3/g]=10×10×四隅の高さの平均値[cm]/積層した試験片の重量[g]
下記<カード通過性>の項に記載された方法で作製したカードウェブを10cm×10cmの大きさに複数枚切りだし試験片とする。かかる試験片を恒温恒湿機内で20℃×65%RHの雰囲気下で24時間静置し、10.0~10.5gになるように積層する。積層した試験片にアクリル板(サイズ10cm×12cm、重量42g)を載せ、おもり500gを30秒載せ、次にこのおもりを除き30秒間放置する。この操作を3回繰り返し、おもりを除去してから30秒後の積層した試験片の四隅の高さを測定して平均値[cm]を求め、次式により比容積を算出する。
比容積[cm3/g]=10×10×四隅の高さの平均値[cm]/積層した試験片の重量[g]
<カード通過性>
繊維長70mmの試料繊維50gを、温度30±5℃、50±10%RHに調節した室内で大和機工株式会社製サンプルローラーカード機(型番SC-300L)を用いてカードウェブを作成する。得られたウェブ形状について下記の基準で評価する。
○:絡合性が十分であり、斑のないウェブが得られる。
△:絡合性がやや不足し、ウェブに斑ができる。
×:絡合性が著しく不足して繊維同士が繋がらず、ウェブが得られない。
繊維長70mmの試料繊維50gを、温度30±5℃、50±10%RHに調節した室内で大和機工株式会社製サンプルローラーカード機(型番SC-300L)を用いてカードウェブを作成する。得られたウェブ形状について下記の基準で評価する。
○:絡合性が十分であり、斑のないウェブが得られる。
△:絡合性がやや不足し、ウェブに斑ができる。
×:絡合性が著しく不足して繊維同士が繋がらず、ウェブが得られない。
<撥水剤の含有量>
次式に示すように、撥水処理前後における撥水剤分散液の固形分の減少量をもとに繊維に付着した撥水剤量を算出した。なお、撥水剤分散液の固形分割合は次項の方法により、また、撥水処理前の繊維重量は<飽和吸湿率の測定>の項の「W4」と同様の方法により測定した。
繊維中の撥水剤の含有量[%]={(処理前固形分割合[%]×処理前分散液量[g])-(処理後固形分割合[%]×処理後分散液量[g])}/撥水処理前の繊維重量[g]×100
次式に示すように、撥水処理前後における撥水剤分散液の固形分の減少量をもとに繊維に付着した撥水剤量を算出した。なお、撥水剤分散液の固形分割合は次項の方法により、また、撥水処理前の繊維重量は<飽和吸湿率の測定>の項の「W4」と同様の方法により測定した。
繊維中の撥水剤の含有量[%]={(処理前固形分割合[%]×処理前分散液量[g])-(処理後固形分割合[%]×処理後分散液量[g])}/撥水処理前の繊維重量[g]×100
<撥水剤分散液の固形分割合>
熱風乾燥器による120℃×1時間の乾燥前後の重量を測定し、次式にて算出した。
撥水剤分散液の固形分割合[%]=乾燥後重量[g]/乾燥前重量[g]×100
熱風乾燥器による120℃×1時間の乾燥前後の重量を測定し、次式にて算出した。
撥水剤分散液の固形分割合[%]=乾燥後重量[g]/乾燥前重量[g]×100
<繊維の純水への沈降時間>
開繊した試料を20℃×65%RHの条件に調節した恒温恒湿器に24時間入れておく。該試料から1gをサンプリングし、純水上に静置し、静置開始から水中に沈むまでの時間を1分単位で20分まで計測した。
開繊した試料を20℃×65%RHの条件に調節した恒温恒湿器に24時間入れておく。該試料から1gをサンプリングし、純水上に静置し、静置開始から水中に沈むまでの時間を1分単位で20分まで計測した。
<繊維構造内のカルボキシル基の分布状態>
繊維試料を、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸マグネシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施し、水洗、乾燥することにより、カルボキシル基の対イオンをマグネシウムとする。マグネシウム塩型とした繊維試料を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)により繊維断面の外縁から中心にかけて概ね等間隔で10点の測定点を選び、各測定点におけるマグネシウム元素の含有割合を測定する。得られた各測定点の数値から次式により変動係数CV[%]を算出する。
変動係数CV[%]=(標準偏差/平均値)×100
繊維試料を、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸マグネシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施し、水洗、乾燥することにより、カルボキシル基の対イオンをマグネシウムとする。マグネシウム塩型とした繊維試料を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)により繊維断面の外縁から中心にかけて概ね等間隔で10点の測定点を選び、各測定点におけるマグネシウム元素の含有割合を測定する。得られた各測定点の数値から次式により変動係数CV[%]を算出する。
変動係数CV[%]=(標準偏差/平均値)×100
<芯鞘構造の繊維の横断面における表層部の占める面積の割合>
試料繊維を、繊維重量に対して2.5%のカチオン染料(Nichilon Black G 200)および2%の酢酸を含有する染色浴に、浴比1:80となるように浸漬し、30分間煮沸処理した後に、水洗、脱水、乾燥する。得られた染色済みの繊維を、繊維軸に垂直に薄くスライスし、繊維断面を光学顕微鏡で観察する。このとき、アクリロニトリル系重合体からなる中心部は黒く染色され、カルボキシル基が多く有する表層部は染料が十分に固定されず緑色になる。繊維断面における、繊維の直径(D1)、および、緑色から黒色へ変色し始める部分を境界として黒く染色されている中心部の直径(D2)を測定し、以下の式により表層部面積割合を算出する。なお、10サンプルの表層部面積割合の平均値をもって、試料繊維の表層部面積割合とする。
表層部面積割合(%)=[{((D1)/2)2π-((D2)/2)2π}/((D1)/2)2π]×100
試料繊維を、繊維重量に対して2.5%のカチオン染料(Nichilon Black G 200)および2%の酢酸を含有する染色浴に、浴比1:80となるように浸漬し、30分間煮沸処理した後に、水洗、脱水、乾燥する。得られた染色済みの繊維を、繊維軸に垂直に薄くスライスし、繊維断面を光学顕微鏡で観察する。このとき、アクリロニトリル系重合体からなる中心部は黒く染色され、カルボキシル基が多く有する表層部は染料が十分に固定されず緑色になる。繊維断面における、繊維の直径(D1)、および、緑色から黒色へ変色し始める部分を境界として黒く染色されている中心部の直径(D2)を測定し、以下の式により表層部面積割合を算出する。なお、10サンプルの表層部面積割合の平均値をもって、試料繊維の表層部面積割合とする。
表層部面積割合(%)=[{((D1)/2)2π-((D2)/2)2π}/((D1)/2)2π]×100
<延伸後の未乾燥繊維の水分率の測定>
延伸後の未乾燥繊維を純水中に浸漬した後、遠心脱水機(国産遠心機(株)社製TYPE H-770A)で遠心加速度1100G(Gは重力加速度を示す)にて2分間脱水する。脱水後重量を測定(W8[g]とする)後、該未乾燥繊維を120℃で15分間乾燥して重量を測定(W9[g]とする)し、次式により計算する。
延伸後の未乾燥繊維の水分率(%)=(W8-W9)/W8×100
延伸後の未乾燥繊維を純水中に浸漬した後、遠心脱水機(国産遠心機(株)社製TYPE H-770A)で遠心加速度1100G(Gは重力加速度を示す)にて2分間脱水する。脱水後重量を測定(W8[g]とする)後、該未乾燥繊維を120℃で15分間乾燥して重量を測定(W9[g]とする)し、次式により計算する。
延伸後の未乾燥繊維の水分率(%)=(W8-W9)/W8×100
<実施例1A>
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を2.5%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥して、実施例1Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を2.5%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥して、実施例1Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
<実施例2A~5A>
実施例1Aの処方において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、実施例2Aでは7.5%、実施例3Aでは10%、実施例4Aでは15%、実施例5Aでは20%に変更すること以外は同様にして、実施例2A~5Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
実施例1Aの処方において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、実施例2Aでは7.5%、実施例3Aでは10%、実施例4Aでは15%、実施例5Aでは20%に変更すること以外は同様にして、実施例2A~5Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
<実施例6A>
実施例3Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した。次いで、水洗、乾燥を行い、実施例6Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
実施例3Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した。次いで、水洗、乾燥を行い、実施例6Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
<実施例7A>
実施例6Aの処方において、実施例3Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維の代わりに、実施例5Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を用いること以外は同様にして、実施例7Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
実施例6Aの処方において、実施例3Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維の代わりに、実施例5Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を用いること以外は同様にして、実施例7Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
<比較例1A>
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥して原料繊維を得た。該原料繊維を、表1に示した条件で35%ヒドラジン水溶液中で100℃3時間処理し、次いで5%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃2時間処理した後、脱水、水洗、乾燥を行い、架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥して原料繊維を得た。該原料繊維を、表1に示した条件で35%ヒドラジン水溶液中で100℃3時間処理し、次いで5%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃2時間処理した後、脱水、水洗、乾燥を行い、架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
<比較例2A>
AN88%及びメタクリル酸12%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
AN88%及びメタクリル酸12%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
<比較例3A>
比較例2Aのアクリル繊維をソーダ灰1g/l水溶液にて90℃で30分加熱処理した後、水洗、乾燥して、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
比較例2Aのアクリル繊維をソーダ灰1g/l水溶液にて90℃で30分加熱処理した後、水洗、乾燥して、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
<比較例4A>
比較例3Aの処方において、ソーダ灰1g/l水溶液での処理温度を100℃に変更すること以外は同様にして、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
比較例3Aの処方において、ソーダ灰1g/l水溶液での処理温度を100℃に変更すること以外は同様にして、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1A~7Aの吸湿性アクリロニトリル系繊維は、共有結合による架橋構造を有さないものであるにもかかわらず、20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5%以上であることと水膨潤度が10倍以下であることを両立するものである。さらに、これらの繊維はa*が-4~2の範囲内であり、赤みの抑制されたものであった。
これに対して、比較例1Aの従来の架橋アクリレート系繊維は、架橋構造を有しているため、飽和吸湿率と水膨潤度については良好な特性を示すものの、赤みが強いものであった。比較例2Aのアクリル繊維については、カルボキシル基が中和されていないため、飽和吸湿率の低いものとなった。比較例3Aの繊維は比較例2Aのアクリル繊維を中和したものであるが、飽和吸湿率の向上は不十分である一方で、水膨潤度が大きく増加した。比較例4Aでは、中和反応条件を強めたため、飽和吸湿率は向上したが、水膨潤度が高くなりすぎて繊維がゲル化してしまった。
<実施例1B>
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した後、酸化チタン0.25重量部を加えた紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を2.5%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥して、実施例1Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した後、酸化チタン0.25重量部を加えた紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を2.5%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥して、実施例1Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例2B~4B>
実施例1Bの処方において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、実施例2Bでは7.5%、実施例3Bでは10%、実施例4Bでは20%に変更すること以外は同様にして、実施例2B~4Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Bの処方において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、実施例2Bでは7.5%、実施例3Bでは10%、実施例4Bでは20%に変更すること以外は同様にして、実施例2B~4Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例5B>
実施例3Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した。次いで、水洗、乾燥を行い、実施例5Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例3Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した。次いで、水洗、乾燥を行い、実施例5Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例6B>
実施例4Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した。次いで、水洗、乾燥を行い、実施例6Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例4Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した。次いで、水洗、乾燥を行い、実施例6Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例7B>
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を0.05重量部に変更すること以外は同様にして、実施例7Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を0.05重量部に変更すること以外は同様にして、実施例7Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例8B>
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を0.05重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例8Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を0.05重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例8Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例9B>
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を0.5重量部に変更すること以外は同様にして、実施例9Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を0.5重量部に変更すること以外は同様にして、実施例9Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例10B>
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を0.5重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例10Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を0.5重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例10Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例11B>
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を1重量部に変更すること以外は同様にして、実施例11Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を1重量部に変更すること以外は同様にして、実施例11Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例12B>
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を1重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例12Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Bの処方において、酸化チタンの添加量を1重量部に変更し、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20%に変更すること以外は同様にして、実施例12Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<比較例1B>
実施例4Bの処方において、酸化チタンを加えずに行ったこと以外は同様にして、比較例1Bの金属酸化物を含有しない吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例4Bの処方において、酸化チタンを加えずに行ったこと以外は同様にして、比較例1Bの金属酸化物を含有しない吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<比較例2B>
実施例6Bの処方において、酸化チタンを加えずに行ったこと以外は同様にして、比較例2Bの金属酸化物を含有しない吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例6Bの処方において、酸化チタンを加えずに行ったこと以外は同様にして、比較例2Bの金属酸化物を含有しない吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<比較例3B>
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した後、酸化チタン0.25重量部を加えた紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥して原料繊維を得た。該原料繊維を35%ヒドラジン水溶液中で100℃3時間処理し、次いで2.5%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃2時間処理した後、脱水、水洗、乾燥を行い、架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した後、酸化チタン0.25重量部を加えた紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥して原料繊維を得た。該原料繊維を35%ヒドラジン水溶液中で100℃3時間処理し、次いで2.5%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃2時間処理した後、脱水、水洗、乾燥を行い、架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。
<比較例4B>
比較例3Bにおいて水酸化ナトリウム水溶液濃度を5%にした以外は同様にして、比較例4Bの架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。
比較例3Bにおいて水酸化ナトリウム水溶液濃度を5%にした以外は同様にして、比較例4Bの架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。
<比較例5B>
AN88%及びメタクリル酸12%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
AN88%及びメタクリル酸12%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
<比較例6B>
比較例2Bのアクリル繊維をソーダ灰1g/l水溶液にて90℃で30分加熱処理した後、水洗、乾燥して、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
比較例2Bのアクリル繊維をソーダ灰1g/l水溶液にて90℃で30分加熱処理した後、水洗、乾燥して、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
<比較例7B>
比較例6Bの処方において、ソーダ灰1g/l水溶液での処理温度を100℃に変更すること以外は同様にして、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
比較例6Bの処方において、ソーダ灰1g/l水溶液での処理温度を100℃に変更すること以外は同様にして、中和されたカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。
<比較例8B>
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を湿熱雰囲気中で、123℃×25分間熱処理を行い、水洗、乾燥して、比較例8Bのアクリル繊維を得た。
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体10部を44%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を湿熱雰囲気中で、123℃×25分間熱処理を行い、水洗、乾燥して、比較例8Bのアクリル繊維を得た。
<比較例9B>
比較例8Bの処方において、紡糸原液に0.25重量部の酸化チタンを加えた以外は同様にして、比較例9Bのアクリル繊維を得た。
比較例8Bの処方において、紡糸原液に0.25重量部の酸化チタンを加えた以外は同様にして、比較例9Bのアクリル繊維を得た。
上述の実施例、比較例において得られた繊維の評価結果を表2に示す。
表2に示すように、実施例1B~12Bの吸湿性アクリロニトリル系繊維は、共有結合による架橋構造を有さないものであるにもかかわらず、20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5%以上であることと水膨潤度が10倍以下であることを両立するものである。また、これらの繊維は光熱変換よる温度上昇が大きいものである。さらに、これらの繊維は金属酸化物として酸化チタンを用いていることから、白度が高いものである。
一方、比較例1Bおよび2Bの繊維は、金属酸化物を含まないため、金属酸化物による光熱変換機能は得られない。また、白度についても、酸化チタンを含有する各実施例に比べて低位なものである。
比較例3B,4Bの従来の架橋アクリレート系繊維は、架橋構造を有しているため、飽和吸湿率と水膨潤度については良好な特性を示すものの、金属酸化物の保持率が低く、製造工程での脱落の問題が大きい。さらに前述の通り工程が煩雑で、それぞれ工程では高温、長時間が必要である。このため、該繊維の製造を連続処理で行うことは難しく、生産性の低いバッチ処理で行わざるを得ない。
比較例5Bのアクリル繊維については、カルボキシル基が中和されていないため、飽和吸湿率の低いものとなった。比較例6Bの繊維は比較例5Bのアクリル繊維を中和したものであるが、飽和吸湿率の向上は不十分である一方で、水膨潤度が大きく増加した。比較例7Bでは、中和反応条件を強めたため、飽和吸湿率は向上したが、水膨潤度が高くなりすぎて繊維がゲル化してしまった。
比較例9Bのアクリル繊維は酸化チタンを含有しているため比較例8Bと比較して光照射後の温度が高くなっているが、実施例1B~12Bは光照射後の温度がさらに高くなっており、本願発明においては飛躍的な光熱変換効果があることが分かる。
<実施例1C>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を6.0%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、繊維重量に対する吸液量が100%になるように絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥した後、105℃のスチームで湿熱状態において1.5倍延伸をかけて実施例1Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を6.0%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、繊維重量に対する吸液量が100%になるように絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥した後、105℃のスチームで湿熱状態において1.5倍延伸をかけて実施例1Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
<実施例2C~8C>
表3に記載の水酸化ナトリウム水溶液の濃度と延伸倍率で実験を行った以外は実施例1Cと同様にして、実施例2C~8Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
表3に記載の水酸化ナトリウム水溶液の濃度と延伸倍率で実験を行った以外は実施例1Cと同様にして、実施例2C~8Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
<実施例9C>
加水分解処理後、室温で30分6%の硝酸水溶液での処理を加えた以外は実施例6Cと同様にして、実施例9Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
加水分解処理後、室温で30分6%の硝酸水溶液での処理を加えた以外は実施例6Cと同様にして、実施例9Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
<実施例10C>
実施例3Cにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例10Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
実施例3Cにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例10Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
<実施例11C>
実施例10Cにおいて、緻密化繊維の代わりに、該繊維に対して、さらに120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例11Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
実施例10Cにおいて、緻密化繊維の代わりに、該繊維に対して、さらに120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例11Cの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
<比較例1C>
加水分解後の延伸処理を省略したこと以外は実施例2Cと同様にして、収縮性が無い吸湿アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
加水分解後の延伸処理を省略したこと以外は実施例2Cと同様にして、収縮性が無い吸湿アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表3に示す。
表3に示すように、実施例1C~11Cの収縮性吸湿アクリロニトリル系繊維は、0.2~4.0mmol/gのカルボキシル基を含有し、20℃×65%RHでの飽和吸湿率が3重量%以上であり、沸水収縮率が5%~50%であり、かつ水膨潤度が10倍以下であるという特徴を有するものである。
<実施例1D>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を6.0%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、繊維重量に対する吸液量が100%になるように絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥した後、延伸をかけて熱処理を行い、捲縮工程を経て実施例1Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を6.0%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、繊維重量に対する吸液量が100%になるように絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥した後、延伸をかけて熱処理を行い、捲縮工程を経て実施例1Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
<実施例2D~5D>
実施例1Dにおいて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を表4に記載の数値に変更すること以外は同様にして、実施例2D~5Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
実施例1Dにおいて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を表4に記載の数値に変更すること以外は同様にして、実施例2D~5Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
<実施例6D>
加水分解処理後、室温で30分6%の硝酸水溶液での処理を加えた以外は実施例3Dと同様にして、実施例6Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
加水分解処理後、室温で30分6%の硝酸水溶液での処理を加えた以外は実施例3Dと同様にして、実施例6Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
<実施例7D>
実施例3Dにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例7Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
実施例3Dにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例7Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
<実施例8D>
実施例2Dにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って緻密化させ、次に120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用すること以外は同様にして、実施例8Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
実施例2Dにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って緻密化させ、次に120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用すること以外は同様にして、実施例8Dの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
<比較例1D>
実施例2Dにおいて、加水分解後の乾熱延伸処理を省略したこと以外は同様にして、易脱捲縮性が無い比較例1Dの吸湿アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
実施例2Dにおいて、加水分解後の乾熱延伸処理を省略したこと以外は同様にして、易脱捲縮性が無い比較例1Dの吸湿アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表4に示す。
表4に示すように、実施例1D~8Dの易脱捲縮性吸湿アクリロニトリル系繊維は、0.2~4.0mmol/gのカルボキシル基を含有し、20℃×65%RHでの飽和吸湿率が3重量%以上であり、脱捲縮係数が0.7以下であり、かつ水膨潤度が10倍以下であるという特徴を有するものである。
<実施例1E>
アクリロニトリル90重量%、アクリル酸メチルエステル10重量%のアクリロニトリル系重合体(a)(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.5)、アクリロニトリル88重量%、酢酸ビニル12重量%のアクリロニトリル系重合体(b)([η]=1.5)をそれぞれ48重量%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。特公昭39-24301号による複合紡糸装置に(a)/(b)の複合比率が1/1となるようにそれぞれの紡糸原液を導き、常法に従って紡糸、水洗、延伸をして、水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を6.0%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、繊維重量に対する吸液量が100%になるように絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥後、機械捲縮を付与して実施例1Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
アクリロニトリル90重量%、アクリル酸メチルエステル10重量%のアクリロニトリル系重合体(a)(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.5)、アクリロニトリル88重量%、酢酸ビニル12重量%のアクリロニトリル系重合体(b)([η]=1.5)をそれぞれ48重量%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。特公昭39-24301号による複合紡糸装置に(a)/(b)の複合比率が1/1となるようにそれぞれの紡糸原液を導き、常法に従って紡糸、水洗、延伸をして、水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を6.0%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、繊維重量に対する吸液量が100%になるように絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥後、機械捲縮を付与して実施例1Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<実施例2E~5E>
実施例1Eにおいて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を表5に記載の濃度に変更したこと以外は同様にして、実施例2E~5Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例1Eにおいて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を表5に記載の濃度に変更したこと以外は同様にして、実施例2E~5Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<実施例6E>
実施例3Eにおいて、加水分解処理後に6%硝酸水溶液により室温で30分間処理する工程を加えたこと以外は同様にして、実施例6Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例3Eにおいて、加水分解処理後に6%硝酸水溶液により室温で30分間処理する工程を加えたこと以外は同様にして、実施例6Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<実施例7E>
実施例3Eにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例7Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例3Eにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例7Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<実施例8E>
実施例2Eにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って緻密化させ、次に120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用すること以外は同様にして、実施例8Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例2Eにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って緻密化させ、次に120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用すること以外は同様にして、実施例8Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<実施例9E~11E>
実施例2Eにおいて、加水分解処理温度を表5に示す温度に変更したこと以外は同様にして、実施例9E~11Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例2Eにおいて、加水分解処理温度を表5に示す温度に変更したこと以外は同様にして、実施例9E~11Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<実施例12E、13E>
実施例2Eにおいて、アクリロニトリル系重合体(a)/(b)の複合比率を表5に示す比率に変更すること以外は同様にして実施例12Eおよび13Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例2Eにおいて、アクリロニトリル系重合体(a)/(b)の複合比率を表5に示す比率に変更すること以外は同様にして実施例12Eおよび13Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<実施例14E>
実施例2Eにおいて、加水分解処理後、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸カルシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理する工程を加えたこと以外は同様にして、実施例14Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例2Eにおいて、加水分解処理後、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸カルシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理する工程を加えたこと以外は同様にして、実施例14Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<実施例15E>
実施例14Eにおいて、硝酸カルシウムの代わりに硝酸マグネシウムを使用したこと以外は同様にして、実施例15Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例14Eにおいて、硝酸カルシウムの代わりに硝酸マグネシウムを使用したこと以外は同様にして、実施例15Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<比較例1Eおよび2E>
実施例1Eおよび2Eのそれぞれにおいて、紡糸原液として、アクリロニトリル系重合体(a)を48重量%のロダンソーダ水溶液で溶解した紡糸原液のみを用い、通常の紡糸口金を用いたこと、および実施例1Eにおいて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.0%に変更したこと以外は同様にして、比較例1Eおよび2Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
実施例1Eおよび2Eのそれぞれにおいて、紡糸原液として、アクリロニトリル系重合体(a)を48重量%のロダンソーダ水溶液で溶解した紡糸原液のみを用い、通常の紡糸口金を用いたこと、および実施例1Eにおいて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.0%に変更したこと以外は同様にして、比較例1Eおよび2Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<比較例3Eおよび4E>
比較例1Eおよび2Eのそれぞれにおいて、加水分解処理後、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸カルシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理する工程を加えたこと以外は同様にして、比較例3Eおよび4Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
比較例1Eおよび2Eのそれぞれにおいて、加水分解処理後、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸カルシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理する工程を加えたこと以外は同様にして、比較例3Eおよび4Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
<比較例5E>
比較例4Eにおいて、硝酸カルシウムの代わりに硝酸マグネシウムを使用したこと以外は同様にして、比較例5Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
比較例4Eにおいて、硝酸カルシウムの代わりに硝酸マグネシウムを使用したこと以外は同様にして、比較例5Eの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表5に示す。
表5からわかるように、実施例1E~15Eは吸湿性と捲縮性を両立しているので、嵩高性が高くカード加工性も良好である。これに対して比較例1E~5Eにおいては同等の吸湿率であるが捲縮性や嵩高性が低く、カード加工性が不良であり、また、カードウェブが得られなかったため比容積の測定は実施できなかった。
<実施例1F>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を7.5%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗した。次いで、撥水剤分散液(NKガードS-09:日華化学製)中に浸漬し、余分な液を絞った後、乾燥することにより、表6に示した撥水剤含有量を有する実施例1Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、-2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%のゲル状アクリロニトリル系繊維を得た。該繊維を7.5%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗した。次いで、撥水剤分散液(NKガードS-09:日華化学製)中に浸漬し、余分な液を絞った後、乾燥することにより、表6に示した撥水剤含有量を有する実施例1Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例2F及び3F>
実施例1Fにおいて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、実施例2Fでは10%、実施例3Fでは20%に変更すること以外は同様にして、実施例2F及び3Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Fにおいて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、実施例2Fでは10%、実施例3Fでは20%に変更すること以外は同様にして、実施例2F及び3Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例4F>
実施例3Fにおいて、加水分解、水洗後の繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した後に、水洗工程を追加したこと以外は同様に処理を行い、実施例4Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例3Fにおいて、加水分解、水洗後の繊維を硝酸水溶液に浸漬し、浴pH5.0に調整し、60℃で30分間加熱した後に、水洗工程を追加したこと以外は同様に処理を行い、実施例4Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例5F>
実施例3Fにおいて、撥水剤含有量を減少させたこと以外は同様にして、実施例5Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例3Fにおいて、撥水剤含有量を減少させたこと以外は同様にして、実施例5Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例6Fおよび7F>
実施例2Fにおいて、撥水剤含有量を増加させたこと以外は同様にして、実施例6Fおよび7Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。なお、実施例7Fの繊維については、撥水剤含有量が多いため、他の実施例の繊維に比べて硬い風合いとなった。
実施例2Fにおいて、撥水剤含有量を増加させたこと以外は同様にして、実施例6Fおよび7Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。なお、実施例7Fの繊維については、撥水剤含有量が多いため、他の実施例の繊維に比べて硬い風合いとなった。
<実施例8F~10F>
実施例5Fにおいて、撥水剤の種類を実施例8FではアサヒガードAG-E082(旭硝子製)、実施例9FではKF-8012(信越化学製)、実施例10FではX-22-9002(信越シリコーン製)に変更したこと以外は同様にして、実施例8F~10Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例5Fにおいて、撥水剤の種類を実施例8FではアサヒガードAG-E082(旭硝子製)、実施例9FではKF-8012(信越化学製)、実施例10FではX-22-9002(信越シリコーン製)に変更したこと以外は同様にして、実施例8F~10Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例11F>
実施例1Fにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例11Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Fにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って得た緻密化繊維を使用したこと以外は同様にして、実施例11Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<実施例12F>
実施例1Fにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って緻密化させ、次に120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用すること以外は同様にして、実施例12Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
実施例1Fにおいて、ゲル状アクリロニトリル系繊維の代わりに、該繊維に対して、110℃×2.5分間の乾熱処理と60℃×2.5分間の湿熱処理を交互に2回行って緻密化させ、次に120℃×10分間のオートクレーブ処理行うことで弛緩させた弛緩繊維を使用すること以外は同様にして、実施例12Fの吸湿性アクリロニトリル系繊維を得た。
<比較例1F>
実施例1Fにおいて、撥水剤処理を省略したこと、および水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.5%に変更したこと以外は同様にして、比較例1Fの繊維を得た。
実施例1Fにおいて、撥水剤処理を省略したこと、および水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.5%に変更したこと以外は同様にして、比較例1Fの繊維を得た。
<比較例2F>
実施例1Fにおいて、撥水剤含有量を減少させたこと、および水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.5%に変更したこと以外は同様にして、比較例2Fの繊維を得た。
実施例1Fにおいて、撥水剤含有量を減少させたこと、および水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.5%に変更したこと以外は同様にして、比較例2Fの繊維を得た。
<比較例3F>
アクリロニトリル88%及びメタクリル酸12%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。その後ソーダ灰1g/l水溶液にて90℃で30分中和処理を行ったが膨潤度が高くなり、その後の撥水剤処理を行うことはできなかった。
アクリロニトリル88%及びメタクリル酸12%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。その後ソーダ灰1g/l水溶液にて90℃で30分中和処理を行ったが膨潤度が高くなり、その後の撥水剤処理を行うことはできなかった。
上述の実施例、比較例において得られた繊維の評価結果を表6に示す。
表6に示すように、実施例1F~12Fの撥水性吸湿アクリロニトリル系繊維は、共有結合による架橋構造を有さないものであるにもかかわらず、20℃×65%RHでの飽和吸湿率が3%以上であり、なおかつ水への沈降時間が10分以上という優れた撥水性を有することが分かる。
一方、比較例1Fおよび2Fの繊維は、撥水性能が低く各実施例に比べて劣位なものである。また、比較例3Fのアクリル繊維については、水膨潤度が大きく増加しその後の撥水剤処理を行うことはできなかった。
Claims (15)
- 共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、カルボキシル基が繊維全体にわたって均一に存在しており、かつ繊維中のカルボキシル基量が0.2~4.5mmol/gであること、及び繊維の20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする吸湿性アクリロニトリル系繊維。
- 共有結合による架橋構造を実質的に有さない重合体で構成されている吸湿性アクリロニトリル系繊維であって、カルボキシル基を含有する重合体からなる表層部とアクリロニトリル系重合体からなる中心部とからなる芯鞘構造を有しており、かつ繊維中のカルボキシル基量が0.2~4.5mmol/gであること、及び繊維の20℃×65%RHでの飽和吸湿率が5重量%以上であり、かつ水膨潤度が10倍以下であることを特徴とする吸湿性アクリロニトリル系繊維。
- 金属酸化物をさらに0.1~15重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
- 金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする請求項3に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
- 沸水収縮率が5~50%であることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
- 沸水処理後の捲縮減少係数が0.7以下であることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
- 捲縮率が7%以上であることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
- 撥水剤をさらに含有し、水上に静置してから水没するまでの時間が10分以上であることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維。
- 請求項1~8のいずれかに記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維を含有することを特徴とする繊維構造体。
- アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする請求項1に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
- アクリロニトリル系重合体および金属酸化物を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
- アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解した後に延伸することを含むことを特徴とする請求項5に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
- アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解した後に緊張又は延伸状態で熱処理を行い、その後に捲縮を付与させることを含むことを特徴とする請求項6に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
- アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液(A)、および、紡糸原液(A)に含有されるアクリロニトリル系重合体とは異なるモノマー組成を有するアクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液(B)を複合してノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することを含むことを特徴とする請求項7に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
- アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解し、その後に撥水剤処理を行うことを含むことを特徴とする請求項8に記載の吸湿性アクリロニトリル系繊維の製造方法。
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