以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る衝突回避支援装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る衝突回避支援装置の構成を示すブロック図である。
衝突回避支援装置は、車両に搭載され、車両の前方に検出される前方物体との衝突を回避するために車両の制動を制御する装置である。
なお、以下では、先行車両など前方物体との衝突を回避する場合について説明するが、前方物体との衝突による車両の被害を軽減する場合についても同様に説明することができる。
図1に示すように、車両に搭載される衝突回避支援装置は、物体検出センサ11、速度センサ12、加速度センサ13、制動ユニット20、制御ユニット30を備えている。物体検出センサ11、速度センサ12、加速度センサ13は、制御ユニット30にそれぞれ接続され、制御ユニット30は、制動ユニット20に接続されている。
物体検出センサ11は、車両と前方物体との相対速度Vrを検出する検出部として機能する。物体検出センサ11としては、レーダセンサ、カメラセンサなどが用いられる。物体検出センサ11は、相対速度Vrとともに前方物体との距離も検出する。物体検出センサ11は、その検出値を制御ユニット30に供給する。
速度センサ12は、車両の速度V0を検出する。速度センサ12としては、車輪速センサなどが用いられる。加速度センサ13は、車両の加速度aまたは減速度dを検出する。加速度センサ13としては、半導体ゲージ型、静電容量型などのセンサが用いられる。速度センサ12と加速度センサ13は、それぞれの検出値を制御ユニット30に供給する。
制動ユニット20と制御ユニット30は、車両に搭載されるECU(Electronic Control Unit)である。これらのECUは、CPU、ROM、RAMなどを備え、CPUは、ROMなどからプログラムを読み出してRAM上で実行することにより、制動ユニット20または制御ユニット30として機能する。
制動ユニット20は、前方物体との衝突を回避するように車両を制動する制動部として機能する。制動ユニット20は、制御ユニット30からの制御信号に基づいて車輪ブレーキなどの主ブレーキを作動させることにより、走行中の車両を制動する。なお、制動ユニット20は、例えば、エンジンブレーキ、エンジンリターダなどの補助ブレーキを作動させてもよい。なお、図1では、1つのユニットにより車両を制動する場合を示しているが、2つ以上のユニットにより制動してもよい。
制御ユニット30は、制動ユニット20による車両の制動を制御する制御部として機能する。制御ユニット30は、車両の制動能力から定まる減速度(以下、設定減速度ddと称する。)に基づいて、車両と前方物体との相対速度Vrが実質的に0になるまでに要する制動時間(以下、設定制動時間tbdと称する。)を設定する。そして、制御ユニット30は、設定制動時間tbdに亘って制動を継続するように、つまり設定制動時間tbdが経過するまでは衝突回避の支援を解除しないように制動ユニット20を制御する。
ここで、設定減速度ddは、車両の制動能力から定まる減速値d、つまり車両が発揮しうる最大の減速度dまたはその近似値として設定される。設定減速度ddは、車両の特性に基づいて既定値として設定されてもよく、走行路の状況、積載物重量などの制動条件を考慮して可変値として設定されてもよい。
設定制動時間tbdは、車両が発揮しうる設定減速度ddでの制動により車両と先方物体との相対速度Vrが実質的に0になるまでに要する時間またはその近似値として設定される。つまり、設定制動時間tbdは、前方物体との衝突を回避するまでに要する最短時間またはその近似値として設定される。設定制動時間tbdは、例えば、相対速度Vrを設定減速度ddで除して設定される(tbd=Vr/dd)。なお、設定制動時間tbdは、実際の減速度dが制動条件に応じて変化するので、あくまでも衝突回避に要する最短時間として設定される。
つぎに、図2を参照して、衝突回避支援装置の動作について説明する。図2は、衝突回避支援装置の動作を示すフロー図である。衝突回避支援装置は、車両の走行中、図2に示す処理を所定周期で繰り返し実行する。
図2に示すように、制御ユニット30は、前方物体との衝突余裕時間(TTC:Time To Collision)を求める(ステップS11)。衝突余裕時間は、前方物体との距離と、前方物体と車両との相対速度Vrに基づいて求められる。なお、衝突余裕時間は、さらに、前方物体の検出状況(加速度など)、車両の走行状況(加速度a、減速度dなど)、走行路の状況(路面の摩擦係数など)などを考慮して求められてもよい。
制御ユニット30は、衝突余裕時間が警告制動閾値未満であるか否かを判定する(S12)。警告制動閾値は、衝突の可能性があることを示す衝突余裕時間に相当する時間として予め設定されている。さらに、警告制動閾値未満であると判定した場合、制御ユニット30は、衝突余裕時間が警告制動閾値より短い本制動閾値未満であるか否かを判定する(S13)。本制動閾値は、衝突が差し迫っていることを示す衝突余裕時間に相当する時間として予め設定されている。
ここで、衝突余裕時間が警告制動閾値未満であるが本制動閾値未満でない場合(S12で「Yes」、S13で「No」の場合)、制御ユニット30は、制動ユニット20を制御して警告制動を行う(S14)。警告制動は、衝突の可能性があるが本制動による衝突回避の支援を要するほど衝突が差し迫っていない場合、運転者に操舵操作、ブレーキ操作を促すために行われる。警告制動では、設定減速度ddに匹敵する最大出力による制動が行われてもよく、設定減速度dd未満の減速度dでの制動が行われてもよい。
なお、衝突余裕時間が警告制動閾値未満でない場合(S12で「No」の場合)、制御ユニット30は、当該周期の処理を終了する。
一方、S13にて衝突余裕時間が本制動閾値未満であると判定した場合、制御ユニット30は、以下で示すように本制動による衝突回避の支援を実行する。
衝突回避の支援に際して、制御ユニット30は、設定制動時間tbdが設定されているか否かを判定する(S15)。なお、設定制動時間tbdは、支援の開始前に初期化されており、支援の開始時に新たに設定される。本実施形態では、設定制動時間tbdは、支援の開始から終了まで一定の値として処理される。
ここで、設定制動時間tbdが設定されていると判定しなかった場合、制御ユニット30は、車両と前方物体との相対速度Vrと車両の設定減速度ddに基づいて、設定制動時間tbdを設定する(S16)。
相対速度Vrは、物体検出センサ11の検出結果から得られ、設定減速度ddは、既定値または可変値として設定される。本実施形態では、設定制動時間tbdは、支援の開始時の相対速度Vrを設定減速度ddで除して設定される。これは、支援を実行中つまり衝突の直前には、車両が先方物体に接近しすぎてしまい相対速度Vrを十分な精度で検出できない場合があるためである。
支援を実行中、制御ユニット30は、制動ユニット20を制御して本制動を行う(S17)。つまり、制動ユニット20は、設定減速度ddに匹敵する減速度dでの制動を発揮するように、主ブレーキを作動させるとともに、必要に応じて補助ブレーキも作動させる。
支援を実行中、制御ユニット30は、本制動の継続時間tbが設定制動時間tbdに達しているか、つまり衝突回避の支援が少なくとも設定制動時間tbdに亘って実行されているか否かを判定する(S18)。
そして、本制動の継続時間tbが設定制動時間tbdに達していると判定した場合、制御ユニット30は、相対速度Vrが実質的に0以下まで低下したか否か(つまり前方物体との間隔が開き、または開き始めたか否か)、または車両の速度が実質的に0まで低下したか否か(つまり車両が停止し、またはほぼ停止したか否か)を判定する(S19)。本実施形態では、相対速度Vrの変化は、支援の開始時に検出された相対速度Vrに基づいて、本制動の継続中に検出される減速度dを考慮して求められる。
そして、相対速度Vrが実質的に0以下まで低下し、または速度が実質的に0まで低下したと判定した場合、制御ユニット30は、制動ユニット20を制御して本制動を終了し、つまり本制動による衝突回避の支援を解除する(S20)。
一方、S18にて本制動の継続時間tbが設定制動時間tbdに達していると判定しなかった場合、またはS19にて相対速度Vrが実質的に0以下まで低下し、または速度が実質的に0まで低下したと判定しなかった場合、制御ユニット30は、S11に復帰する。そして、制御ユニット30は、衝突余裕時間を求め、必要に応じて、本制動を継続したり、本制動に代えて警告制動を実行したりする。
つぎに、図3と図4を参照して、従来の衝突回避支援処理と対比しながら本発明の衝突回避支援処理について説明する。図3と図4は、従来の衝突回避支援処理の一例と本発明の衝突回避支援処理の一例をそれぞれに示す図である。
図3と図4には、車両の速度V0、先行車両の速度V1、要求減速度drの時間変化が示されており、図4には、さらに制動の継続時間tbが示されている。なお、要求減速度drとは、所定の制動を達成するのに要求される減速度dを意味する。
従来の衝突回避支援処理では、以下で説明するように、車両と先行車両との相対速度Vrに基づいて、衝突回避の支援が解除される。
図3に示すように、先行車両に接近中の車両では、時刻t1で衝突余裕時間が警告制動閾値未満になると警告制動が開始され、さらに時刻t2で本制動閾値未満になると本制動による衝突回避の支援が実行される。警告制動中または本制動中は、車両の速度V0が先行車両の速度V1を上回っているので、要求減速度drが警告制動の開始時から次第に増加し、本制動中に最大値に達してそのまま維持されている。なお、要求減速度drの最大値は、車両が発揮しうる設定減速度dd以下の値となる。
ここで、例えば走行路の状況などにより車輪がロックし、時刻t3で車両の速度V0が先行車両の速度V1以下として検出される場合を想定する。この場合、実際には車両の速度V0が先行車両の速度V1を上回っているにもかかわらず、車両と先行車両との間隔が開き始めて衝突の可能性がなくなったと誤判定され、本制動による衝突回避の支援が解除されてしまう。そして、要求減速度drが次第に低下して時刻t4で減速が中止される。結果として、運転者に違和感を与えてしまうことがある。
一方、本発明の衝突回避支援処理では、以下で説明するように、相対速度Vrと設定減速度ddから設定される設定制動時間tbdに基づいて、衝突回避の支援が解除される。
図4に示すように、先行車両に接近中の車両では、時刻t1からの警告制動に続いて時刻t2から本制動による衝突回避の支援が実行される。ここで、支援を開始する時刻t2では、車両と先行車両との相対速度Vr(=V0-V1)が求められ、この相対速度Vrと車両の設定減速度ddに基づいて、設定制動時間tbdが設定される。警告制動中、所定の期間(=t2-t1)に亘って制動が継続され、支援の開始とともに時刻t2で本制動による制動が新たに開始されて継続される。
そして、本発明の処理では、支援を実行中、本制動の継続時間tbが設定制動時間tbdに達しているか否か、つまり衝突回避の支援が設定制動時間tbdに亘って継続されているか否かが判定される。
ここで、時刻t3で車両の速度V0が先行車両の速度V1以下として検出される場合を想定する。従来の処理では、この時点で本制動による衝突回避の支援が解除されていた。しかし、本発明の処理では、この時点では、まだ本制動の継続時間tb(=t3-t2)が設定制動時間tbdに達していないと判定される。このため、車両の速度V0が先行車両の速度V1以下として検出された後も本制動が継続される。
本制動が継続されると、時刻t5で本制動の継続時間tb(=t5-t2)が設定制動時間tbdに達する。さらに時刻t6で相対速度Vrが実質的に0以下まで低下すると、支援が解除され、要求減速度drが次第に低下して減速が中止される。結果として、車両は、先行車両の速度V1を下回るまで十分な制動を行うことができる。
以上説明したように、本発明の実施形態に係る衝突回避支援装置によれば、車両の制動能力から定まる設定減速度ddに基づいて、相対速度Vrが0になるまでに要する設定制動時間tbdに亘って制動が継続される。ここで、設定制動時間tbdは、車両が発揮しうる設定減速度ddでの制動により車両と先方物体との相対速度Vrが実質的に0になるまでに要する時間、つまり前方物体との衝突を回避するまでに要する最短時間として設定される。特に、設定制動時間ddは、車両が発揮しうる最大の減速度ddに基づいて相対速度Vrが0になるまでに要する最短制動時間tbdとして設定されることが好ましい。これにより、少なくとも設定制動時間tbdに亘って制動が継続されるので、十分な制動を行うことができる。
また、設定制動時間tbdに亘って制動が継続され、かつ相対速度Vrが実質的に0となりまたは車両の速度V0が実質的に0となる場合、制動を停止するように制動ユニット20を制御してもよい。これにより、相対速度Vrが実質的に0となりまたは速度V0が実質的に0となるまで、少なくとも設定制動時間tbdに亘って制動が継続されるので、過不足のない制動を行うことができる。
また、制御ユニット30は、制動を開始する際に検出される相対速度Vrに基づいて設定制動時間tbdを設定してもよい。これにより、制動を実行中に検出される相対速度Vrに基づいて設定する場合と比べて、相対速度Vrを精度良く検出し、設定制動時間tbdを適切に設定できる。
なお、前述した実施形態は、本発明に係る衝突回避支援装置の最良な実施形態を説明したものであり、本発明に係る衝突回避支援装置は、本実施形態に記載したものに限定されるものではない。本発明に係る衝突回避支援装置は、各請求項に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲で本実施形態に係る衝突回避支援装置を変形し、または他のものに適用したものであってもよい。
また、本発明は、前述した方法に従って、設定制動時間tbdに亘って制動による衝突回避の支援を継続するためのプログラム、または当該プログラムを記憶しているコンピュータ読取可能な記録媒体にも同様に適用することができる。
例えば、上記説明では、衝突回避の支援を開始する際に検出される相対速度Vrに基づいて設定制動時間tbdを設定し、支援を実行中に設定制動時間tbdを一定の値として処理する場合について説明した。しかし、支援の実行中に相対速度Vrを所望の精度で検出できる場合、支援の実行中に検出される相対速度Vrに基づいて設定制動時間tbdを更新してもよい。これにより、さらに過不足のない適切な制動が可能となる。