WO2011062257A1 - タンデムアンギュラ型玉軸受 - Google Patents

Abstract

　組付時や搬送時に、各玉の転動面に、過度の寿命低下の原因となる損傷の発生を防止し、運転時に過大な振動や騒音の発生がなく、優れた耐久性を確保できるタンデムアンギュラ型玉軸受を提供する。このため、外輪(5b)の内周面のうち、小径側外輪軌道(11)から、外輪(5b)の内径が大きい側の端面(23)との連続部(25a)までの部分全体、内輪(6b)の外周面のうち、大径側内輪軌道(12)から、内輪(6b)の外径が小さい側の端面(14)との連続部(25g)までの部分全体を、断面形状に関して微分不能な角部を有さず、研磨加工された平滑面とする。また、外輪(5c)が、大径側外輪軌道(10)の軸方向片側部分と小径側外輪軌道(11)の軸方向片側部分とのうちの少なくとも一方の部分と、大径側外輪軌道(10)の軸方向他側部分と、小径側外輪軌道(11)の軸方向他側部分とに、それぞれ溝肩部(16a,16b,17a,17b)を設ける。

Description

タンデムアンギュラ型玉軸受

　この発明は、自動車用のデファレンシャルギヤ、トランスファ装置などの回転機械装置に組み込まれて、ラジアル荷重およびスラスト荷重が加わった状態で回転する回転軸を支承するためのタンデムアンギュラ型玉軸受の改良に関する。

　自動車用のデファレンシャルギヤを構成するピニオン軸をデファレンシャルケース内に回転自在に支持するための各種構造については、特許文献１～６に記載されている通り、従来から広く知られている。自動車用のデファレンシャル装置の運転時に、ピニオン軸には、大きなラジアル荷重およびスラスト荷重が同時に加わるため、ピニオン軸を支持するための軸受には、ラジアル、スラスト両方向の負荷容量が十分に大きなものを使用する必要がある。このため、例えば特許文献１に記載されている、接触角の方向が互いに異なる、背面組み合わせ型の１対の円すいころ軸受を用いて、ピニオン軸をデファレンシャルケースの内部に、回転自在に支持している。

　転がり軸受の技術分野では周知であるが、円すいころ軸受は、玉軸受に比べて、負荷容量が大きい代わりに、動トルク（回転抵抗）が大きくなる。このため、近年における自動車の省燃費化の流れにより、デファレンシャルケースに対してピニオン軸を支持するための転がり軸受として、ラジアル、スラスト両方向の荷重を支承可能な、アンギュラ型の玉軸受を使用することが、提案されている。アンギュラ型の玉軸受の動トルクは、円すいころ軸受と比べて小さいため、ピニオン軸支持用の転がり軸受を、円すいころ軸受から玉軸受に変えることにより、デファレンシャルギヤの抵抗を低くすることができる。

　図１４は、特許文献２に記載されている、アンギュラ型の玉軸受により構成した、デファレンシャルギヤ用のピニオン軸の回転支持装置の従来構造の１例を示している。なお、デファレンシャルギヤ全体の構造および作用は従来から周知であり、特許文献１～６にも記載されているため、図示並びに詳しい説明を省略し、以下、回転支持装置部分の構造についてのみ説明する。デファレンシャルケースの内部に１対の玉軸受１、２を、互いに離隔した状態で配置し、これら両玉軸受１、２によりピニオン軸３を支持している。これら両玉軸受１、２は、それぞれ玉に接触角を持たせたアンギュラ型玉軸受であり、これら両玉軸受１、２の接触角の方向を互いに逆向きとしている。従って、ピニオン軸３は、デファレンシャルケースの内部に、ラジアル荷重だけでなく、両方向のスラスト荷重を支承される状態で、回転自在に支持される。

　両玉軸受１、２のうち、比較的大きなラジアル荷重およびスラスト荷重を支承するピニオンギヤ４の側（図１４の左側、以下「ピニオンギヤ側」という）にある玉軸受１として、タンデムアンギュラ型玉軸受を使用している。これに対して、比較的小さなラジアル荷重およびスラスト荷重しか支承しないピニオンギヤ４から反対側（図１４の右側、以下「反ピニオンギヤ側」という）の玉軸受２は、単列アンギュラ型玉軸受を使用している。なお、ピニオンギヤ側だけでなく、反ピニオンギヤ側もタンデムアンギュラ型玉軸受とする構造についても、特許文献２～６に記載されている通り、従来から知られている。ピニオンギヤ側の玉軸受１は、ラジアル荷重に加えて、このピニオンギヤ４と噛合したリングギヤ（図示省略）から離れる方向（図１４の右向き）のスラスト荷重を支承する。これに対して反ピニオンギヤ側の玉軸受２は、ラジアル荷重に加えて、前記リングギヤに近付く方向（図１４の左向き）のスラスト荷重を支承する。

　この例の場合、タンデムアンギュラ型玉軸受である、ピニオンギヤ側の玉軸受１は、外輪５と、内輪６と、複数個の玉７と、１対の保持器８、９とを備える。外輪５は、内周面に、互いに内径が異なる、複列アンギュラ型の外輪軌道１０、１１を設けている。両外輪軌道１０、１１の内径は、ピニオンギヤ側の外輪軌道１０の方が大きく、反ピニオンギヤ側の外輪軌道１１の方が小さい。また、内輪６は、外輪５の内径側に外輪５と同心に配置されており、外周面のうちで両外輪軌道１０、１１に対向する部分に、互いに外径が異なる、複列アンギュラ型の内輪軌道１２、１３を設けている。両内輪軌道１２、１３の外径は、ピニオンギヤ側の内輪軌道１２の方が大きく、反ピニオンギヤ側の外輪軌道１３の方が小さい。さらに、各玉７は、両外輪軌道１０、１１と両内輪軌道１２、１３との間に、それぞれの列毎に複数個ずつ、両列で同じ方向の（並列組み合わせ型の）接触角を付与された状態で、転動自在に設けられている。また、両保持器８、９は、互いに直径が異なり、それぞれが両列の玉７を、転動自在に保持している。なお、これら両列の玉７の直径は、互いに同じである場合も、互いに異なっている場合もある。

　この従来構造の第１例のタンデムアンギュラ型玉軸受１は、円すいころ軸受と異なり、運転時に大きな滑り接触を伴わないので、動トルクを低く抑えられ、デファレンシャルギヤの抵抗を低くできる。また、複列に配置した玉７により、ピニオンギヤ４と前記リングギヤとの噛合部で発生するラジアル荷重およびスラスト荷重を支承するため、これら両方向の荷重に関する負荷容量も十分に確保できる。ただし、この玉軸受１では、タンデムアンギュラ型の構造に起因して、耐久性について十分な信頼性を確保する観点から、次のような改良が必要とされている。

　玉軸受１を構成する外輪５は、デファレンシャルケースの内部に設けられた支持部２１の支持孔２２内に、締り嵌めで内嵌する必要があり、同じく内輪６はピニオン軸３に、締り嵌めで外嵌する必要がある。この理由は、デファレンシャルギヤの運転時に、外輪５および内輪６と相手部材との嵌合部でクリープが発生することを防止して、これら両嵌合部に、摩耗に基づくがたつきが発生することを防止するためである。ただし、玉軸受１の構成各部材を互いに分離しないように組み立てた状態で、外輪５を支持孔２２に、同じく内輪６をピニオン軸３に、それぞれ締り嵌めで嵌合固定することはできない。この理由は、この嵌合固定作業に伴い、両外輪軌道１０、１１と両内輪軌道１２、１３の一部であって、各玉７の転動面が接触している部分に、ブリネル圧痕が形成され、玉軸受１の運転時に、過大な振動や騒音が発生する原因となるだけでなく、耐久性が著しく損なわれるためである。

　このため、玉軸受１を、支持孔２２の内周面とピニオン軸３の外周面との間に組み付ける場合には、例えば特許文献３に記載されているように、予め、すなわち、玉軸受１の構成各部材の組み立てを完了する以前に、支持孔２２に外輪５を締り嵌めで内嵌し、ピニオン軸３に内輪６を締り嵌めで外嵌してから、外輪５と内輪６とを、各玉７を介して組み合わせている。この際、各玉７は、外輪５と内輪６との組み合わせに先立って、これらのうちの一方の軌道輪の周面部分（両外輪軌道１０、１１の内径側部分、または、両内輪軌道１２、１３の外径側部分）に、両保持器８、９に保持された状態で配置しておく。そして、他方の軌道輪を、この他方の軌道輪を嵌合固定した部材と共に、各玉７の内径側部分または外径側部分に進入させる。そして、各玉７の転動面を、それぞれの外輪軌道および内輪軌道に接触させる。

　このような玉軸受１の組立作業の際、外輪５を内嵌固定したデファレンシャルケースと、内輪６を外嵌固定したピニオン軸３との位置決めを十分に精度良く行い、内輪６の中心軸と外輪５との中心軸とが正確に一致した状態のまま、内輪６と外輪５とを軸方向に近付け、外輪５の内径側に内輪６を進入させれば、組立後の玉軸受１の耐久性に、特に問題を生じることはない。ただし、組立装置の精度のばらつきや調整不良などにより、内輪６の中心軸と外輪５の中心軸とが不一致のまま、例えば、これらに傾斜や偏心が存在する状態のまま、あるいは、両列の玉７同士の間に傾斜があるなど、各玉７の配置状態のずれが存在した状態のまま、内輪６と外輪５とを組み合わせると、一方の軌道輪に保持されている各玉７の転動面と、他方の軌道輪の周面とが勢い良く突き当たったり、強く擦れ合ったりする可能性がある。このような可能性は、両保持器８、９により保持した各玉７を、一方の軌道輪の周面部分に配置する場合にも生じ得る。

　一方、外輪５の内周面および内輪６の外周面のうち、両外輪軌道１０、１１および両内輪軌道１２、１３は、平滑な研磨面となっているが、これらの軌道から外れた部分は、粗面であったり、尖った角部が存在したりする。外輪５と内輪６との組み合わせ時に、これら粗面や角部が、各玉７のうちの一部の転動面に勢い良く突き当たったり、強く擦れ合ったりすると、その転動面に傷などの損傷が発生する可能性がある。このような損傷の発生は、玉軸受１を組み込んだデファレンシャルギヤの運転時に、大きな振動や騒音を発生しやすくするばかりか、玉の過度の寿命低下の原因となるため、タンデムアンギュラ型玉軸受の耐久性を損なう可能性がある。

　転がり軸受の技術分野では周知であるが、円すいころ軸受は、玉軸受に比べて、負荷容量が大きい代わりに、動トルク（回転抵抗）が大きい。このため、近年における自動車の省燃費化の流れにより、デファレンシャルケースに対してピニオン軸を支持するための１対の転がり軸受のうちの少なくとも一方の転がり軸受として、ラジアル、スラスト両方向の荷重を支承可能な、タンデムアンギュラ型玉軸受を使用することが、特許文献１に記載されているように、従来から考えられている。タンデムアンギュラ型玉軸受は、運転時に円すいころ軸受の場合のような大きな滑り接触を伴わないので、動トルクを低く抑えられ、デファレンシャルギヤの抵抗を低くできる。

　また、図１５～１７は、特許文献６に記載されている、タンデムアンギュラ型玉軸受の従来構造の別の例を示している。この従来構造の第２例のタンデムアンギュラ型玉軸受も、基本的な構造は、従来構造の第１例と同様である。なお、第１例でも同様であるが、大径側玉列を構成する各玉７と小径側玉列を構成する各玉７とに、互いに同じ向きの（並列組み合わせ型の）接触角が付与されている。これら両列の接触角θ₁、θ₂の大きさは、同じにする（θ₁＝θ₂）こともできるし、異ならせる（θ₁≠θ₂）こともできる。

　この従来構造の第２例においては、外輪５ａは、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の軸方向片側（軸方向に関して「片側」とは、図１５～１７の左側をいう。一方、図１５～１７の右側を、軸方向に関して「他側」という。）に溝肩部を設けておらず、軸方向他側にのみ溝肩部１６ｂ、１７ｂを設けている。これに対して、内輪６ａは、大径側、小径側両内輪軌道１２、１３の軸方向両側に、それぞれ溝肩部１８ａ、１８ｂ、１９ａ、１９ｂを設けている。また、大径側、小径側両保持器８、９は、各ポケット１４、１５内に各玉７を保持した状態で、各玉７が、各ポケット１４、１５内から径方向に抜け出ることを阻止できるように構成されている。

　この従来構造の第２例のタンデムアンギュラ型玉軸受を組み立てる場合、まず、図１６に実線で示すような、内輪側組立品３１を組み立てる。このために、同図に鎖線で示すように、各玉７を、大径側、小径側両保持器８、９の各ポケット１４、１５内に保持する。なお、大径側保持器８の各ポケット１４内に保持されている各玉７を、大径側保持器８を弾性変形させることなく、大径側保持器８の外径側に最も寄せた状態での、これら各玉７の内接円の直径は、少なくとも大径側内輪軌道１２の軸方向両側部分に存在する溝肩部１８ａ、１８ｂの外径よりも小さい。また、小径側保持器９の各ポケット１５内に保持されている各玉７を、小径側保持器９を弾性変形させることなく、小径側保持器９の外径側に最も寄せた状態での、各玉７の内接円の直径は、少なくとも小径側内輪軌道１３の軸方向両側に存在する溝肩部１９ａ、１９ｂの外径よりも小さい。そして、上述のように各玉７を大径側、小径側両保持器８、９の各ポケット１４、１５内に保持したならば、次いで、同図に矢印で示すように、これら大径側、小径側両保持器８、９に保持された各玉７を、内輪６ａの外径側に、内輪６ａの軸方向他側から進入させる。これにより、同図に実線で示すように、大径側、小径側両保持器８、９に保持された各玉７を、大径側、小径側両内輪軌道１２、１３の外径側に組み付ける。この際、大径側、小径側両保持器８、９に保持された各玉７は、大径側、小径側両保持器８、９を弾性変形させて、これら各玉７の内接円の直径を拡げつつ、各溝肩部１８ｂ、１９ａ、１９ｂを通過する。そして、通過後は、大径側、小径側両保持器８、９の弾性的復元により前記各玉７の内接円の直径が縮まり、これら各玉７が大径側、小径側両内輪軌道１２、１３の外径側に組み付けられた状態となる。

　このようにして、内輪側組立品３１を完成させた状態で、大径側、小径側両保持器８、９に保持された各玉７は、大径側、小径側両保持器８、９の各ポケット１４、１５内から外径側に抜け出ることを阻止されており、かつ、大径側、小径側両内輪軌道１２、１３から軸方向に抜け出ることを、各溝肩部１８ａ、１８ｂ、１９ａ、１９ｂによって阻止されている。このため、内輪６ａと大径側、小径側両保持器８、９と各玉７とは、内輪側組立品３１として一体的に取り扱うことが可能となる。この内輪側組立品３１を組み立てたならば、その後、図１７に示すように、内輪側組立品３１を外輪５ａの内径側に、外輪５ａの軸方向片側から挿入する。これにより、図１５に示すように、大径側、小径側両保持器８、９に保持された各玉７を、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の内径側に組み付けることによって、タンデムアンギュラ型玉軸受の組み立てを完了する。なお、この従来構造の第２例の場合、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の軸方向片側部分には、それぞれ溝肩部が存在しないため、上述のような内輪側組立体３１の挿入作業を、円滑に行うことができる。

　従来構造の第２例では、タンデムアンギュラ型玉軸受を、外輪５ａと内輪側組立品３１との、２つの要素に分けて取り扱える。このため、この内輪側組立品３１を軸受メーカーで組み立ててから出荷すれば、デファレンシャル装置などの各種回転機械装置の組立現場で、このタンデムアンギュラ型玉軸受を使用箇所に組み付ける作業を容易に行うことができる。

　このような従来構造の第２例の場合も、従来構造の第１例と同様に、このタンデムアンギュラ型玉軸受を、デファレンシャルケースの内部に設けられた支持部材２１の支持孔２２の内周面とピニオン軸３の外周面との間に組み付ける場合には、外輪５ａを支持孔２２に締り嵌めで内嵌し、内輪６ａをピニオン軸３の先端寄り部分に締り嵌めで外嵌してから、これら外輪５ａと内輪６ａとを、各玉７を介して組み合わせる。

　従来構造の第２例のタンデムアンギュラ型玉軸受を用いる場合には、内輪６ａをピニオン軸３の先端寄り部分に締り嵌めで外嵌する以前から、内輪６ａを大径側、小径側両保持器８、９および各玉７と共に、内輪側組立品３１として一体的に取り扱える。すなわち、内輪側組立品３１を組み立てた状態でも、内輪６ａをピニオン軸３に締り嵌めで外嵌する作業を、内輪６ａの軸方向端面を押圧することによって行えば、この外嵌作業に伴って、大径側、小径側両内輪軌道１２、１３のうち、各玉７の転動面が接触している部分に、圧痕が形成されることはない。このため、タンデムアンギュラ型玉軸受を支持孔２２の内周面とピニオン軸３の外周面との間に、構成部材を損傷せずに組み付ける作業を、容易に行うことができる。

　ところが、この従来構造の第２例のタンデムアンギュラ型玉軸受においても、次のような解決すべき問題がある。

　第１の問題は、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の軸方向片側部分に、それぞれ溝肩部が存在しないことに起因する問題である。例えば、一部のデファレンシャルギヤのように、運転時にのみ軸受に潤滑油が供給される装置に、このタイプのタンデムアンギュラ型玉軸受を組み付けて使用すると、停止時に、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の下端部に潤滑油が溜まったままの状態にならず、これらの大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の下端部の軸方向片側部分を通じて潤滑油が外部に流失する。このため、運転を再開した際の初期潤滑を良好にするのが難しいという問題がある。

　第２の問題は、内輪側組立品３１を組み立てた状態で、この内輪側組立品３１の径方向の最外部に、複数個の玉７が露出した状態となることに起因する問題である。すなわち、タンデムアンギュラ型玉軸受を組み立てる前の、搬送中に、内輪側組立品３１を構成する各玉７が他の物品にぶつかりやすく、これら各玉７の転動面に、傷などの損傷が生じやすいといった問題がある。

　このような問題も、タンデムアンギュラ型玉軸受の耐久性の低下に結び付く問題であるため、その解決が強く望まれている。

　これまでも、動トルクの低減など、タンデムアンギュラ型玉軸受の特性を改善しようとする試みは多くなされている。しかしながら、特許文献１～６を含む公知文献においては、タンデムアンギュラ型玉軸受の組立時に、各玉の転動面が損傷することを防止するための技術については、何ら記載されていないように、上述のような問題については、十分な解決が図られていないのが現状である。

特開平１１－４８８０５号公報 特開２００４－１６９８９０号公報 特開２００４－１８３７４５号公報 特開２００９－１３８７９５号公報 特表２００２－５２３７１０号公報 特開２００４－１２４９９６号公報

　本発明は、上述の様な事情に鑑みて、デファレンシャルケースなどのハウジングの内部に設けられた支持部などの固定部分の内周面と、回転軸の外周面との間に組み付ける際に、各玉の転動面に、過度の寿命低下の原因となる程の、傷などの損傷が発生することを防止して、運転時に過大な振動や騒音が発生することがなく、かつ、優れた耐久性を確保できるタンデムアンギュラ型玉軸受を提供することを目的とする。

　また、本発明は、タンデムアンギュラ型玉軸受において、２つの要素に分けて取り扱えるようにすると共に、その搬送中に複数個の玉が他の物品にぶつかりにくい構造を実現しようとするものである。

　本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受の第１の態様は、従来から知られているタンデムアンギュラ型玉軸受と同様に、外輪と、内輪と、複数個の玉とを備える。前記外輪は、内周面に、互いに内径が異なる、それぞれがアンギュラ型である２列の外輪軌道を設けている。また、前記内輪は、前記外輪の内径側にこの外輪と同心に配置され、外周面に互いに外径が異なる、それぞれがアンギュラ型である２列の内輪軌道を設けている。さらに、前記各玉は、前記両内輪軌道と前記両外輪軌道との間に、それぞれの列毎に複数個ずつ、両列同士の間で同じ方向の接触角を付与された状態で、転動自在に設けられている。
特に、本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受の第１の態様においては、前記外輪の内周面のうちで、内径が小さい外輪軌道から、この外輪の軸方向両端面のうちで内径が大きい側の端面との連続部までの部分全体、および、前記内輪の外周面のうちで、外径が大きい内輪軌道から、この内輪の軸方向両端面のうちで外径が小さい側の端面との連続部までの部分全体が、断面形状に関して微分不能な角部、すなわち、尖った角部を有さず、かつ、研磨加工された平滑面となっている。

　なお、本発明の解釈においては、外輪の内周面は、外輪の表面のうちで径方向内方から見た場合に見得る面全体と定義されるものとする。従って、はっきりと径方向内方に向いた内周面部分だけでなく、この内周面部分と軸方向端面との間に存在する、断面円弧形の連続部に関しても、外輪の内周面に含まれる。なお、この連続部は、前記内周面部分と連続する境界から外周縁部までをいう。同様に、内輪の外周面は、内輪の表面のうちで径方向外方から見た場合に見える面全体と定義され、はっきりと径方向外方を向いた外周面部分だけでなく、この外周面部分と軸方向端面との間に存在する、断面円弧形の連続部に関しても、この連続部の前記外周面部分と連続する境界から内周縁部までが、内輪の外周面に含まれるものとする。

　本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受の第２の態様も、従来から知られているタンデムアンギュラ型玉軸受と同様に、基本的に、内周面の軸方向片側に直径が相対的に大きい大径側外輪軌道を、同じく軸方向他側に直径が相対的に小さい小径側外輪軌道を、それぞれ有する外輪と、外周面の軸方向片側に直径が相対的に大きい大径側内輪軌道を、同じく軸方向他側に直径が相対的に小さい小径側内輪軌道を、それぞれ有する内輪と、円周方向複数箇所にポケットを有する、直径が相対的に大きい円環状の大径側保持器と、円周方向複数箇所にポケットを有する、直径が相対的に小さい円環状の小径側保持器と、前記大径側保持器の各ポケット内に保持された状態で、前記大径側外輪軌道と前記大径側内輪軌道との間に転動自在に設けられた、大径側玉列を構成する複数個の玉と、前記小径側保持器の各ポケット内に保持された状態で、前記小径側外輪軌道と前記小径側内輪軌道との間に転動自在に設けられた、小径側玉列を構成する複数個の玉とを備えている。また、前記大径側玉列を構成する各玉と前記小径側玉列を構成する各玉とに、互いに同じ向きの接触角が付与されている。

　特に、本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受の第２の態様においては、前記外輪は、前記大径側外輪軌道の軸方向片側部分と前記小径側外輪軌道の軸方向片側部分とのうちの少なくとも一方の部分と、前記大径側外輪軌道の軸方向他側部分と、前記小径側外輪軌道の軸方向他側部分とに、それぞれ溝肩部を備えている。

　本発明の第２の態様において、好ましくは、前記外輪が、前記大径側外輪軌道の軸方向両側部分、および、前記小径側外輪軌道の軸方向両側部分に、それぞれ溝肩部を備えるようにする。同時に、前記内輪が、大径側内輪軌道の軸方向片側部分、および、小径側内輪軌道の軸方向片側部分に、それぞれ溝肩部を備えるが、前記大径側内輪軌道の軸方向他側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向他側部分には、それぞれ溝肩部を備えないようにする。さらに、前記大径側、小径側両保持器が、各ポケット内に各玉を保持した状態で、これら各ポケット内からこれら各玉が内径側に抜け出ることを阻止できる形状を備えるようにする。

　代替的に、前記外輪が、前記大径側外輪軌道の軸方向両側部分、および、前記小径側外輪軌道の軸方向他側部分に、それぞれ溝肩部を備えるが、前記小径側外輪軌道の軸方向片側部分に溝肩部を備えないようにする。同時に、内輪が、前記大径側内輪軌道の軸方向片側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向片側部分に、それぞれ溝肩部を備えるが、前記大径側内輪軌道の軸方向他側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向他側部分に、それぞれ溝肩部を備えないようにする。さらに、前記大径側保持器および前記小径側保持器が、各ポケット内に各玉を保持した状態で、これら各ポケット内からこれら各玉が内径側に抜け出ることを阻止でき、かつ、前記外輪と該大径側保持器および該小径側保持器と前記各玉とを玉軸受としての完成状態と同じ位置関係で組み合わせてなる、外輪側組立品を構成した状態で、互いに近い側の端部同士が軸方向に関して対向する形状を備えるようにする。

　さらに代替的に、前記外輪が、前記大径側外輪軌道の軸方向他側部分、および、前記小径側外輪軌道の軸方向両側部分に、それぞれ溝肩部を備えると共に、前記大径側外輪軌道の軸方向片側部分に、溝肩部を備えないようにする。同時に、前記内輪が、前記大径側内輪軌道の軸方向片側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向片側部分に、それぞれ溝肩部を備えると共に、前記大径側内輪軌道の軸方向他側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向他側部分に、それぞれ溝肩部を備えないようにする。さらに、前記大径側保持器および前記小径側保持器を、前記各ポケット内に前記各玉を保持した状態で、該各ポケット内から該各玉が内径側に抜け出ることを阻止でき、かつ、前記外輪と該大径側保持器および該小径側保持器と前記各玉とを玉軸受としての完成状態と同じ位置関係で組み合わせてなる、外輪側組立品を構成した状態で、互いの一部同士が係合し、軸方向に関して互いに離れる方向に変位することを阻止できる形状を備えるようにする。

　なお、本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受は、何れの態様についても、例えば自動車の動力伝達系統に組み込まれる機械装置を構成する回転軸、すなわちデファレンシャル装置やトランスファ装置を構成するピニオン軸などを、回転自在に支持すると共に、この回転軸に作用するラジアル、アキシアル両方向の荷重を支承するための用途に、好適に使用することができる。

　本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受の一態様によれば、デファレンシャルケースのようなハウジングの内部に設けられた支持部などの固定部分の内周面と、回転軸の外周面との間に組み付ける際に、各玉の転動面に、過度の寿命低下の原因となる程の、傷などの損傷が発生することを防止できる。すなわち、本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受では、外輪の内周面および内輪の外周面のうちで、前記固定部分に内嵌固定した外輪と、回転軸に外嵌固定した内輪とを組み合わせる際に、前記玉の転動面が接触する可能性のある部分全体を、尖った角部がなく、しかも平滑面となるようにしている。従って、前記組み付け作業の際に、何れかの玉の転動面が、前記外輪の内周面または前記内輪の外周面の何れの部分に勢い良く突き当たったり、あるいは強く擦れ合ったりした場合でも、当該玉の転動面に、上述のような傷などの損傷が発生することがない。このため、タンデムアンギュラ型玉軸受の運転時に、何れかの玉の転動面の損傷に起因する過大な振動や騒音の発生を防止でき、しかも、タンデムアンギュラ型玉軸受の耐久性を十分に確保することができる。

　本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受の別の態様の場合には、大径側もしくは小径側の両外輪軌道のうちの少なくとも一方の外輪軌道の軸方向両側に溝肩部が設けられている。このため、例えば、一部のデファレンシャルギヤのように、運転時にのみ軸受に潤滑油が供給される装置において、本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受を組み付けて使用すれば、運転の停止時に、両外輪軌道のうち、軸方向両側に溝肩部が存在する外輪軌道の下端部に、潤滑油が溜まったままの状態にできる。従って、運転を再開した際の、両列の初期潤滑を良好にできる。すなわち、両外輪軌道のそれぞれの軸方向両側に溝肩部が存在する場合には、運転の停止時に、これら大径側および小径側の両外輪軌道の下端部に潤滑油が溜まったままの状態になる。このため、運転を再開した際には、これら両下端部に溜まっている潤滑油によって、両列の初期潤滑を良好にできる。また、大径側および小径側の両外輪軌道のうちの何れか一方の外輪軌道にのみ、軸方向両側に溝肩部が設けられている場合には、運転の停止時に、当該一方の外輪軌道の下端部にのみ潤滑油が溜まったままの状態になる。ただし、運転の再開と同時に、当該一方の外輪軌道の下端部に溜まった潤滑油の一部が、当該外輪軌道を転走する玉に押されて外部に溢れ出し、これが他方の外輪軌道に入り込むことで、当該一方の外輪軌道を含む列だけでなく、他方の外輪軌道を含む列に関しても、初期潤滑を良好にすることができる。

　さらに好ましい態様においては、外輪と、大径側および小径側の両保持器と、大径側および小径側の両玉列を構成する各玉とを、タンデムアンギュラ型玉軸受の組み立て完了時と同じ状態に組み合わせることにより、これら各部品を外輪側組立品として一体的に取り扱うことを可能としている。

　この場合、タンデムアンギュラ型玉軸受を、外輪側組立品と内輪との２つの構成要素に分けて取り扱える。このため、この外輪側組立品を軸受メーカーなどで組み立ててから出荷すれば、デファレンシャル装置などの各種回転機械装置の組立現場で、本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受を使用箇所に組み付ける作業を容易に行うことが可能となる。

　特に、本発明の場合、外輪側組立品を組み立てた状態で、複数個の玉は、外輪の内径側に配置される。このため、タンデムアンギュラ型玉軸受を組み立てる前の、搬送中に、各玉が他の物品にぶつかって損傷するといった問題が発生することを回避できる。

図１は、本発明の実施の形態の第１例に係るタンデムアンギュラ型玉軸受を示す半部断面図である。 図２は、第１例において、外輪の内周面および内輪の外周面のうち、断面形状の曲率半径を確保すべき部分を示すための半部断面図である。 図３は、第１例において、外輪の内周面および内輪の外周面のうち、外輪軌道および内輪軌道から外れた部分で表面を平滑にすべき部分を示すための半部断面図である。 図４は、第１例において、外輪を支持部に内嵌するのに先立って、この外輪の内径側に玉を組み付ける状態を示す半部断面図である。 図５は、第１例において、内径側に複数個の玉を組み付けた外輪を支持部に内嵌固定した後、これら各玉の内径側に、予めピニオン軸に外嵌固定した内輪を組み付ける状態を示す半部断面図である。 図６は、本発明の実施の形態の第２例に係るタンデムアンギュラ型玉軸受の第１例を示す断面図である。 図７は、第２例における、玉を保持した保持器の一部を示す断面図である。 図８は、第２例において、外輪側組立品を組み立てる状況を示す断面図である。 図９は、第２例において、外輪側組立品と内輪とを組み合わせてタンデムアンギュラ型玉軸受を完成させる状況を示す断面図である。 図１０は、本発明の実施の形態の第３例に係るタンデムアンギュラ型玉軸受を示す断面図である。 図１１は、第３例において、外輪側組立品を組み立てる状況を示す断面図である。 図１２は、本発明の実施の形態の第４例に係るタンデムアンギュラ型玉軸受を示す断面図である。 図１３は、第４例において、外輪側組立品を組み立てる状況を示す断面図である。 従来構造のタンデムアンギュラ型玉軸受を組み込んでいる、デファレンシャルギヤを構成するピニオン軸の回転支持部の１例を示す半部断面図である。 従来構造のタンデムアンギュラが他玉軸受の別の１例を示す断面図である。 図１５の例において、内輪側組立品を組み立てる状況を示す断面図である。 図１５の例において、外輪と内輪側組立品とを組み合わせてタンデムアンギュラ型玉軸受を完成させる状況を示す断面図である。

　［実施の形態の第１例］
　図１～５は、本発明の第１の態様に係る、実施の形態の第１例を示している。タンデムアンギュラ型玉軸受である本例の玉軸受１ａは、外輪５ｂと、内輪６ｂと、複数個の玉７と、１対の保持器８、９とを備える。外輪５ｂは、内周面に、互いに内径が異なる、それぞれがアンギュラ型である２列の外輪軌道１０、１１を設けている。また、内輪６ｂは、外輪５ｂの内径側に外輪５ｂと同心に配置されており、外周面のうちで両外輪軌道１０、１１に対向する部分に、それぞれがアンギュラ型であって互いに外径が異なる、２列の内輪軌道１２、１３を設けている。運転時には、外輪５ｂと内輪６ｂとの間に、このうちの外輪５ｂを図１の左方に、内輪６ｂを同じく右方に、それぞれ押圧する方向のスラスト荷重が加わる。デファレンシャルギヤに組み込んだ状態では、内輪６ｂのうち外周面が大径である側が入力側となって、内輪６ｂに、図１～３、５で右向きのスラスト荷重が加わる。これに対して、外輪５ｂのうち内周面が小径である側がこのスラスト荷重の出力側となり、このスラスト荷重に対する反力として外輪５ｂに、図１～５で左向きの力が加わる。
両外輪軌道１０、１１の内径は、外輪５ｂに対する前記反力の作用方向前側（図１の左側）の外輪軌道１０の方が大きく、同じく後側（図１の右側）の外輪軌道１１の方が小さい。また、両内輪軌道１２、１３の外径は、内輪６ｂに対する前記スラスト荷重の作用方向後側（図１の左側）の内輪軌道１２の方が大きく、同じく前側（図１の右側）の内輪軌道１３の方が小さい。さらに、各玉７は、両外輪軌道１０、１１と両内輪軌道１２、１３との間に、それぞれの列毎に複数個ずつ、かつ、両列同士の間で同じ方向の接触角α、βを付与された状態で、転動自在に設けられている。すなわち、玉軸受１ａは、並列組合せ型である。なお、接触角α、βは、同じでも、互いに異なっていてもよい。また、両保持器８、９は、互いに直径が異なり、それぞれが両列の玉７を転動自在に保持している。なお、この玉軸受１ａの基本的構成については、図１４に示した従来のタンデムアンギュラ型玉軸受１と同様である。

　特に、本例の玉軸受１ａの場合には、外輪５ｂの内周面のうちで、内径が小さい外輪軌道１１から、外輪５ｂの軸方向両端面のうちで内径が大きい側の端面２３との連続部までの部分全体を、断面形状に関して微分不能な角部がなく、すなわち尖った角部がなく、滑らかに連続させ、かつ、研磨加工された平滑面としている。また、内輪６ｂの外周面のうちで、外径が大きい内輪軌道１２から、内輪６ｂの軸方向両端面のうちで外径が小さい側の端面２４との連続部までの部分全体を、断面形状に関して微分不能な角部がなく滑らかに連続させ、かつ、研磨加工された平滑面としている。なお、両端面２３、２４そのものは、必ずしも平滑面とする必要はないが、平滑面とすることは自由である。ただし、両端面２３、２４と外輪５ｂの内周面または内輪６ｂの外周面との連続部である、角部２５ａ、２５ｇは、何れも平滑面とする。

　上述の点について、図２～３を参照しつつ、さらに詳しく説明する。外輪５ｂの内周面のうちで両外輪軌道１０、１１部分、内輪６ｂの外周面のうちで両内輪軌道１２、１３部分は、従来から回転砥石による研磨加工を施して、平滑面としている。本発明では、この部分のみならず、従来の構造では、特に研磨加工などの特別な加工が施されることなく、粗面や尖った角部がそのまま残されていた、前記両周面のうちで各軌道１０～１３部分以外の部分についても、研磨加工を施して、平滑面としている。

　例えば、図２に破線の丸印で示した、外輪５ｂの内周面のうちの６箇所位置、内輪６ｂの外周面のうちの３箇所位置の、合計９箇所位置の角部２５ａ～２５ｉのうち、各軌道１０、１１、１３の側縁部分に存在する角部２５ｃ、２５ｄ、２５ｆ、２５ｈ、２５ｉに関しては、特別な加工が施されない限り、これら各軌道１０、１１、１３を研磨加工する際に形成されるエッジ形状（断面形状が微分不能な尖端）がそのまま残される。また、残りの角部２５ａ、２５ｂ、２５ｅ、２５ｇに関しても、隣接する面を切削加工する際に形成されるエッジ形状がそのまま残される。要するに、特別な加工が施されない限り、何れの角部２５ａ～２５ｉにおいても、微分不能な形状、すなわち、ある１点に関して単一の接線を設定できない、断面形状の曲率半径がほぼ０である尖った形状がそのまま残されることになる。

　また、図３に鎖線の楕円印により示した、外輪５ｂの内周面、内輪６ｂの外周面の２箇所位置ずつ、合計４箇所位置の傾斜面部２６ａ～２６ｄ、並びに、両外輪軌道１０、１１の大径側から連続する２箇所の円筒面部２７ａ、２７ｂに関しても、特別な加工が施されない限り、切削加工面や熱処理肌がそのまま残される。このような粗面は、玉軸受１の組立時に、玉７の転動面を損傷させる原因となりやすい。

　本例の場合、外輪５ｂの内周面および内輪６ｂの外周面に、両外輪軌道１０、１１部分および両内輪軌道１２、１３以外の部分まで研磨加工を施して、各傾斜面部２６ａ～２６ｄおよび各円筒面部２７ａ、２７ｂを平滑面としている。すなわち、各傾斜面部２６ａ～２６ｄおよび両円筒面部２７ａ、２７ｂにおける表面粗さを、算術平均粗さ（Ｒａ）で約０．４μｍとなる平滑面としている。なお、各傾斜面部２６ａ～２６ｄおよび両円筒面部２７ａ、２７ｂの表面粗さに関しては、後述するように、各軌道１０～１３と同時に研磨することを考慮して、上述のようにＲａ０．４μｍ程度としている。ただし、Ｒａ０．６μｍ程度、さらにはＲａ０．８μｍ程度であっても、玉７の転動面の損傷防止の面では問題がない。表面粗さの値は、小さいほど、玉７の転動面の損傷防止や良質の軌道１０～１３を得る面からは好ましいが、過度に小さくしても、加工コストが嵩むだけになる。加工コストを考慮した場合、表面粗さＲａを０．２μｍよりも小さくすることは現実的ではない。

　各傾斜面部２６ａ～２６ｄおよび両円筒面部２７ａ、２７ｂを上述のような平滑面とすれば、これら各面部２６ａ～２６ｄ、２７ａ、２７ｂと各玉７の転動面とが、多少強く擦れ合ったとしても、これら各玉７の転動面に、過度の寿命低下の原因となる程の損傷が生じることはない。なお、各面部２６ａ～２６ｄ、２７ａ、２７ｂの表面粗さは、後述する超仕上加工前における、各軌道１０～１３の表面粗さと同じとすることが、加工の容易化の面からは好ましい。この理由については後述する。

　さらに、外輪５ｂの内周面のうちで、端面２３から小径側の外輪軌道１１までに存在する各面同士の間部分に存在する角部２５ａ～２５ｆ、並びに、内輪６ｂの外周面のうちで、端面２４から傾斜面部２６ｄまでの間部分に存在する角部２５ｇ～２５ｉに関しては、研磨加工により、断面形状の曲率半径が０．２ｍｍ以上である凸曲面であって、各面部２６ａ～２６ｄ、２７ａ、２７ｂと同等の平滑面としている。各角部２５ａ～２５ｉの断面形状に関する曲率半径の上限値は特に規制されない。この曲率半径が大きい程、各玉７の転動面の損傷を防止する面からは有利になるが、徒に大きくしても、それ以上の損傷防止効果は期待できず、軌道面に隣接する角部２５ｃ、２５ｄ、２５ｆ、２５ｈ、２５ｉに関しては、玉７の保持機能や転走面の幅寸法確保の面から弊害を生じる。従って、前記曲率半径の最大値は、これらの点や、場合によっては保持器８、９の形状や材質などを考慮して、設計的考慮により規制される。デファレンシャルギヤやトランスファ装置のピニオン軸支持用のタンデムアンギュラ型玉軸受の場合、１ｍｍを超える程度まで曲率半径を大きくすることは、好ましくない。なお、各角部２５ａ～２５ｉの断面形状は、単一円弧でも、あるいは、互いに曲率半径の異なる複数の円弧を組み合わせて、滑らかに連続させた複合円弧でもよい。この場合、最も曲率半径が小さな円弧部分の曲率半径を０．２ｍｍ以上とする。

　各角部２５ａ～２５ｉの断面形状の曲率半径を大きくすることも合わせて、外輪５ｂの内周面および内輪６ｂの外周面の形状および性状（表面粗さ）を上述のようにする作業は、それぞれが加工すべき周面の母線形状と一致する母線形状を有する、いわゆる総型の回転砥石により行うことが好ましい。この理由は、当該周面の形状および性状を一挙に加工できて、加工能率を良好にできるだけでなく、当該周面を幅方向に分割して別々の砥石により加工する場合のように、分割部分に尖った段差などが生じる可能性をなくせるためである。このような理由で、総型の回転砥石により前記両周面に仕上げ加工を施すことが好ましいが、総型の回転砥石の場合、全幅にわたって同じ性状とすることが現実的である。このような理由から、各傾斜面２６ａ～２６ｄの表面粗さは、各軌道１０～１３の表面粗さと同じとすることが好ましい。なお、角部２５ｂ、２５ｃ同士の間部分、角部２５ｅ、２５ｆ同士の間部分に存在する円筒面部２７ａ、２７ｂについても、総型の回転砥石による加工を行い、同様の平滑面とする。この理由は、両円筒面部２７ａ、２７ｂに関しても、玉軸受１ａの組み立て時に、各玉７の転動面と擦れ合うからである。

　また、各軌道１０～１２部分は、上述したように、表面粗さＲａを０．４μｍ程度の平滑面とした後、超仕上げ加工を施す。この超仕上げ加工に伴って、また、各軌道１０～１２とこれら各軌道１０～１２に隣接する部分との境目に、断面形状に関して、極く僅かな曲がり部が形成される、すなわち、各軌道１０～１２に隣接する部分の母線が、これら各軌道１０～１２の断面形状の円弧に対し、完全には接線方向に存在しない状態となる可能性がある。ただし、このような曲がり部の曲がり角度、すなわち、前記完全な接線方向に対する前記母線の方向のずれは極めて小さく、前記曲がり部が各玉７の転動面に、過度の寿命低下の原因となる程の、傷などの損傷を与えることはない。従って、このような超仕上げ加工に伴って生じる曲がり部は、本発明の解釈においては、微分不能な角部とは扱われない。

　上述のような、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受１ａを、デファレンシャルケースの内部に設けられた支持部２１ａに設けた支持孔２２ａの内周面と、ピニオン軸３ａの外周面との間（図５参照）に組み付けるには、最初に、図４に示すように、両列の玉７をそれぞれ保持器８、９に保持した状態で、外輪５ｂの内周面に設けた、複列の外輪軌道１０、１１の内径側に組み付ける。両外輪軌道１０、１１に隣接する、両円筒面部２７ａ、２７ｂの内径は、両外輪軌道１０、１１の底部（最も内径が大きくなった部分）の内径よりも、少しだけ小さくなっている。このため、両保持器８、９に保持された各玉７は、これら両保持器８、９を弾性変形させて、各玉７の外接円の直径を縮めつつ、前記大径側の端縁部を通過する。そして、通過後は、これら両保持器８、９の弾性的復元により各玉７の外接円の直径を拡げ、これら各玉７の転動面の一部を、両外輪軌道１０、１１に弾性的に当接させる。この結果、図５の右上部分に示すように、各玉７が外輪５ｂの内径側に、両保持器８、９を介して、不用意に分離しないように組み付けられる。従って、両円筒面部２７ａ、２７ｂの内径は、材質、厚さ、形状、寸法などにより定まる、両保持器８、９の弾性変形量などを考慮して、組み立て容易性と組み立て後の非分離性とを両立させられるように、設計的に定める。

　何れにしても、上述のような組み付け作業の際、各玉７が、外輪５ｂの内周面に存在する角部２５ａ～２５ｆや傾斜部２６ａ、２６ｂに突き当たったり擦れ合ったりする可能性がある。しかしながら、これら各角部２５ａ～２５ｆは、曲率半径が０．２ｍｍ以上の凸曲面であるし、両傾斜部２６ａ、２６ｂおよび両円筒面部２７ａ、２７ｂは平滑面であるから、各玉７の転動面が、過度の寿命低下の原因となる程の損傷を受けることはない。なお、このように、これら各玉７を外輪５ｂの内径側に組み付ける作業は、軸受の製造工場で行う。

　上述のように内径側に各玉７を組み付けた外輪５ｂは、デファレンシャルギヤの組立工場に運ばれ、図５の右上部分に示すように、支持孔２２ａに、締り嵌めで内嵌固定する。この内嵌固定作業は、外輪５ｂの大径側の端面２３を押圧することにより行えるため、各玉７の転動面が両外輪軌道１０、１１に強く押し付けられることはなく、これら両外輪軌道１０、１１にブリネル圧痕が形成されることはない。

　このようにして、支持孔２２ａの内径側に外輪５ｂを内嵌固定したならば、次いで、この外輪５ｂの内径側に保持された各玉７の内径側に、内輪６ｂを挿入する。この内輪６ｂは、この挿入作業に先立って、図５の左下部分に示すように、ピニオン軸３ａに、締り嵌めで外嵌固定しておく。このように各玉７の内径側に内輪６ｂを、図５に太矢印で示すように挿入する際に、これら各玉７が、この内輪６ｂの外周面に存在する角部２５ｇ～２５ｉや傾斜面部２６ｃ、２６ｄに突き当たったり擦れ合ったりする可能性がある。ただし、これら各角部２５ｇ～２５ｉにしても、曲率半径が０．２ｍｍ以上の凸曲面であるし、両傾斜面部２６ｃ、２６ｄにしても平滑面であるから、各玉７の転動面が、過度の寿命低下の原因となる程の損傷を受けることはない。

　これらにより、タンデムアンギュラ型玉軸受である本例の玉軸受１ａを、支持部２１ａとピニオン軸３ａとの間に組み付ける際に、各玉７の転動面に、過度の寿命低下の原因となる程の、傷などの損傷が発生することを防止できる。このため、玉軸受１ａを組み込んだデファレンシャルギヤなどの運転時に、何れかの玉７の転動面の損傷に基づいて、過大な振動や騒音が発生することがなく、しかも、この玉軸受１ａおよびこれを組み込んだデファレンシャルギヤなどの装置の耐久性を十分に確保できる。
［実施の形態の第２例］
　図６～９は、本発明の第２の態様に係る、実施の形態の第２例を示している。本例のタンデムアンギュラ型玉軸受は、外輪５ｃと、内輪６ｃと、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａと、大径側、小径側両玉列を構成する複数個の玉７とを備える。外輪５ｃは、内周面に、互いの内径が異なる、複列アンギュラ型の大径側、小径側両外輪軌道１０、１１を設けている。また、内輪６ｃは、外周面に、互いの外径が異なる、複列アンギュラ型の大径側、小径側両内輪軌道１２、１３を設けている。また、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａは、全体を円環状に構成すると共に、円周方向等間隔の複数箇所にポケット１４ａ、１５ａを有する。また、大径側玉列を構成する各玉７は、大径側保持器８ａの各ポケット１４ａ内に保持された状態で、大径側外輪軌道１０と大径側内輪軌道１２との間に転動自在に設けられている。また、小径側玉列を構成する各玉７は、小径側保持器９ａの各ポケット１５ａ内に保持された状態で、小径側外輪軌道１１と小径側内輪軌道１３との間に転動自在に設けられている。また、この状態で、大径側玉列を構成する各玉７と小径側玉列を構成する各玉７とに、互いに同じ向きの（並列組み合わせ型の）接触角が付与されている。これら両列の接触角θ₁、θ₂の大きさは、同じにする（θ₁＝θ₂）こともできるし、異ならせる（θ₁≠θ₂）こともできる。以上に述べた、タンデムアンギュラ型玉軸受の基本的構成については、従来構造と同様である。

　特に、本例の場合、前記外輪５ｃは、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の軸方向両側に、それぞれ溝肩部１６ａ、１６ｂ、１７ａ、１７ｂを設けている。これに対して、前記内輪６ｃは、大径側、小径側両内輪軌道１２、１３の軸方向片側（軸方向に関して「片側」とは、図６、８～１３の左側をいう。反対に、図６、８～１３の右側を、軸方向に関して「他側」という。）にのみ溝肩部１８ａ、１９ａを設けており、軸方向他側には溝肩部を設けていない。また、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａは、各ポケット１４ａ、１５ａ内に各玉７を保持した状態で、これら各玉７がこれら各ポケット１４ａ、１５ａ内から少なくとも内径側に抜け出ることを阻止できる構成を有している。具体的には、図７に詳示するように、大径側、小径側両保持器８ａ（９ａ）の各ポケット１４ａ（１５ａ）の内径側の開口幅（開口部直径）Ｗを、各玉７の直径Ｄよりも少しだけ小さく（Ｗ＜Ｄ）している。これにより、これら各ポケット１４ａ（１５ａ）の内径側の開口周縁部に、（Ｄ－Ｗ）／２弱（「弱」はポケット隙間による）の幅寸法を有する係り代３２を、全周にわたって設けている。

　上述のように構成するタンデムアンギュラ型玉軸受を組み立てる場合には、まず、図８に実線で示すような、外輪側組立品３３を組み立てる。このために、最初に、同図に鎖線で示すように、各玉７を、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａの各ポケット１４ａ、１５ａ内に保持する。なお、この大径側保持器８ａの各ポケット１４ａ内に保持されている各玉７を、この大径側保持器８ａを弾性変形させることなく、この大径側保持器８ａの内径側に最も寄せた状態での、これら各玉７の外接円の直径は、少なくとも大径側外輪軌道１０の軸方向両側部分に存在する溝肩部１６ａ、１６ｂの内径よりも大きい。また、小径側保持器９ａの各ポケット１５ａ内に保持されている各玉７を、この小径側保持器９ａを弾性変形させることなく、この小径側保持器９ａの内径側に最も寄せた状態での、これら各玉７の外接円の直径は、少なくとも小径側外輪軌道１１の軸方向両側に存在する溝肩部１７ａ、１７ｂの内径よりも大きい。

　何れにしても、上述のように各玉７を大径側、小径側両保持器８ａ、９ａの各ポケット１４ａ、１５ａ内に保持したならば、次いで、同図に矢印で示すように、これら大径側、小径側両保持器８ａ、９ａに保持された各玉７を、外輪５ｃの内径側に、この外輪５ｃの軸方向片側から挿入する。これにより、同図に実線で示すように、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａに保持された各玉７を、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の内径側に組み付ける。この際に、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａに保持された各玉７は、これら大径側、小径側両保持器８ａ、９ａを弾性変形させて、これら各玉７の外接円の直径を縮めつつ、各溝肩部１６ａ、１６ｂ、１７ａを通過する。そして、通過後は、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａの弾性的復元により各玉７の外接円の直径が拡がり、これら各玉７が大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の内径側に組み付けられた状態となる。

　このようにして外輪側組立品３３を完成させた状態で、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａに保持された各玉７は、これら大径側、小径側両保持器８ａ、９ａの各ポケット１４ａ、１５ａ内から内径側に抜け出ることを阻止されており、かつ、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の内側から軸方向に抜け出ることを、各溝肩部１６ａ、１６ｂ、１７ａ、１７ｂによって阻止されている。このため、外輪５ｃと大径側、小径側両保持器８ａ、９ａと各玉７とは、外輪側組立品３３として一体的に取り扱うことが可能となる。このような外輪側組立品３３を組み立てたならば、その後、図９に矢印で示すように、この外輪側組立品３３の内径側に内輪６ｃを、この外輪側組立品３３の軸方向片側から挿入する。これにより、図６に示すように、大径側、小径側両保持器８ａ、９ａに保持された各玉７を、大径側、小径側両内輪軌道１２、１３の外径側に組み付けることによって、タンデムアンギュラ型玉軸受の組み立てを完了する。なお、本例の場合、大径側、小径側両内輪軌道１２、１３の軸方向他側部分には、それぞれ溝肩部が存在しないため、上述のような内輪６ｃの挿入作業は、円滑に行える。

　上述のように構成する本例のタンデムアンギュラ型玉軸受によれば、このタンデムアンギュラ型玉軸受を、外輪側組立品３３と内輪６ｃとの、２つの要素に分けて取り扱える。このため、この外輪側組立品３３を軸受メーカーで組み立ててから出荷すれば、デファレンシャル装置などの各種回転機械装置の組立現場で、前記タンデムアンギュラ型玉軸受を使用箇所に組み付ける作業を容易に行える。

　例えば、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受を、デファレンシャル装置を構成するピニオン軸の先端寄り（ピニオンギヤ寄り）部分を支持する転がり軸受として使用する場合には、外輪側組立品３３を組み立てた状態で、外輪５ｃを、デファレンシャルケース内に設けた支持孔２２に締り嵌めで内嵌すると共に、内輪６ｃを、ピニオン軸３の先端寄り部分に締り嵌めで外嵌する。この場合に、外輪５ｃは、この外輪５ｃの軸方向端面を押圧することによって、前記支持孔２２に締り嵌めで内嵌することができる。このため、この内嵌作業に伴って、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１のうち各玉７が接触している部分に圧痕が形成されることはない。その後、外輪側組立品３３の内径側に内輪６ｃを、前述の図９に示すように挿入することによって、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受を、支持孔２２とピニオン軸３との間に、容易に組み付けることができる。

　また、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受の場合には、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の軸方向両側に、それぞれ溝肩部１６ａ、１６ｂ、１７ａ、１７ｂを設けている。このため、例えば、一部のデファレンシャル装置のように、運転時にのみ軸受に潤滑油が供給される装置に、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受を組み付けて使用する場合には、運転の停止時に、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の下端部に、潤滑油が溜まったままの状態にできる。このため、運転を再開した際に、これら両下端部に溜まった潤滑油によって、両列の初期潤滑を良好にできる。
［実施の形態の第３例］
　図１０～１１は、本発明の第２の態様に係る、本発明の実施の形態の第３例を示している。本例の場合には、外輪５ｄおよび大径側保持器８ｂの一部の形状が、上述した第２例の場合と異なる。すなわち、この外輪５ｄは、大径側外輪軌道１０の軸方向両側部分、および、小径側外輪軌道１１の軸方向他側部分にのみ、それぞれ溝肩部１６ａ、１６ｂ、１７ｂを設けており、小径側外輪軌道１１の軸方向片側部分には、溝肩部を設けていない。また、大径側保持器８ｂは、軸方向他端部に内向フランジ状の鍔部３４を形成し、この鍔部３４の外側面を小径側保持器９ａの軸方向片端面に、軸方向に対向させている。

　上述のような本例のタンデムアンギュラ型玉軸受を組み立てる場合には、まず、図１１に実線で示すような、外輪側組立品３３ａを組み立てる。このために、最初に、同図に鎖線で示すように、各玉７を、大径側、小径側両保持器８ｂ、９ａの各ポケット１４ａ、１５ａ内に保持する。次いで、同図に矢印で示すように、これら大径側、小径側両保持器８ｂ、９ａに保持された各玉７を、外輪５ｄの内径側に、この外輪５ｄの軸方向片側から挿入する。これにより、同図に実線で示すように、大径側、小径側両保持器８ｂ、９ａに保持された各玉７を、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の内径側に組み付ける。この際に、小径側保持器９ａに保持された各玉７は、各溝肩部１６ａ、１６ｂの存在に拘らず、小径側外輪軌道１１の内径側に、円滑に挿入することができる。これに対して、大径側保持器８ｂに保持された各玉７は、この大径側保持器８ｂを弾性変形させて、これら各玉７の外接円の直径を縮めつつ、溝肩部１６ａを通過する。そして、通過後は、大径側保持器８ｂの弾性的復元により各玉７の外接円の直径が拡がり、これら各玉７が大径側外輪軌道１０の内径側に組み付けられた状態となる。

　このようにして外輪側組立品３３ａを完成させた状態で、大径側、小径側両保持器８ｂ、９ａに保持された各玉７は、これら大径側、小径側両保持器８ｂ、９ａの各ポケット１４ａ、１５ａ内から内径側に抜け出ることを阻止される。また、大径側保持器８ｂに保持された各玉７は、大径側外輪軌道１０の内側から軸方向に抜け出ることを、この大径側外輪軌道１０の軸方向両側に存在する溝肩部１６ａ、１６ｂによって阻止される。また、小径側保持器９ａに保持された各玉７は、小径側外輪軌道１１の内側から軸方向片側に抜け出ることを、小径側保持器９ａの軸方向片端面が大径側保持器８ｂの鍔部３４の外側面に当接（係合）することによって阻止されると共に、同じく軸方向他側に抜け出ることを、小径側外輪軌道１１の軸方向他側に存在する溝肩部１７ｂによって阻止される。従って、外輪５ｄと、大径側、小径側両保持器８ｂ、９ａと、各玉７とを、外輪側組立品３３ａとして一体的に取り扱うことができる。このような外輪側組立品３３ａを組み立てたならば、その後、この外輪側組立品３３ａの内径側に内輪６ｃを、この外輪側組立品３３ａの軸方向片側から挿入する。これにより、図１０に示すように、大径側、小径側両保持器８ｂ、９ａに保持された各玉７を、大径側、小径側両内輪軌道１２、１３の外径側に組み付けることによって、タンデムアンギュラ型玉軸受の組み立てを完了する。

　上述のように構成する本例のタンデムアンギュラ型玉軸受の場合も、このタンデムアンギュラ型玉軸受を、外輪側組立品３３ａと内輪６ｃとの、２つの要素に分けて取り扱える。このため、この外輪側組立品３３ａを軸受メーカーで組み立ててから出荷すれば、デファレンシャル装置等の各種回転機械装置の組立現場で、前記タンデムアンギュラ型玉軸受を使用箇所に組み付ける作業を容易に行える。

　また、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受の場合には、大径側外輪軌道１０の軸方向両側に、それぞれ溝肩部１６ａ、１６ｂを設けている。このため、例えば、一部のデファレンシャル装置のように、運転時にのみ軸受に潤滑油が供給される装置に、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受を組み付けて使用する場合には、運転の停止時に、大径側外輪軌道１０の下端部に、潤滑油が溜まったままの状態にできる。従って、運転を再開した際の両列の初期潤滑が良好になる。すなわち、大径側外輪軌道１０を含む列に関しては、この大径側外輪軌道１０の下端部に溜まった潤滑油によって、当該列の初期潤滑を良好にできる。一方、小径側外輪軌道１１を含む列に関しては、運転の再開と同時に、大径側外輪軌道１０の下端部に溜まった潤滑油の一部が、この大径側外輪軌道１０部分を転走する玉７により押されて外部に溢れ出し、これが小径側外輪軌道１１に入り込むことで、当該列の初期潤滑が良好になる。その他の構成および作用は、上述した第２例の場合と同様である。
［実施の形態の第４例］
　図１２～１３は、本発明に第２態様に係る、実施の形態の第４例を示している。本例の場合には、外輪５ｅおよび大径側、小径側両保持器８ｃ、９ｃの一部の形状が、前述の図６～９に示した第２例の場合と異なる。すなわち、外輪５ｅは、大径側外輪軌道１０の軸方向他側部分、および、小径側外輪軌道１１の軸方向両側部分にのみ、それぞれ溝肩部１６ｂ、１７ａ、１７ｂを設けており、大径側外輪軌道１０の軸方向片側部分には、溝肩部を設けていない。また、大径側保持器８ｃは、内周面の軸方向他端部に内向係合部３５を、全周にわたって設けている。また、小径側保持器９ｃは、外周面の軸方向片端部に外向係合部３６を、全周にわたって設けている。そして、この外向係合部３６と内向係合部３５とを、これら両係合部３５、３６の内側面同士が対向する状態で係合させている。

　上述のような本例のタンデムアンギュラ型玉軸受を組み立てる場合には、まず、図１３に実線で示すような、外輪側組立品３３ｂを組み立てる。このために、最初に、同図に鎖線で示すように、大径側保持器８ｃの内向係合部３５と小径側保持器９ｃの外向係合部３６とを係合させた状態で、これら大径側、小径側両保持器８ｃ、９ｃの各ポケット１４ａ、１５ａ内に、各玉７を保持する。次いで、同図に矢印で示すように、これら大径側、小径側両保持器８ｃ、９ｃに保持された各玉７を、外輪５ｅの内径側に、この外輪５ｅの軸方向片側から挿入する。これにより、同図に実線で示すように、大径側、小径側両保持器８ｃ、９ｃに保持された各玉７を、大径側、小径側両外輪軌道１０、１１の内径側に組み付ける。この際に、小径側保持器９ｃに保持された各玉７は、この小径側保持器９ｃを弾性変形させて、これら各玉７の外接円の直径を縮めつつ、溝肩部１７ａを通過する。そして、通過後は、小径側保持器９ｃの弾性的復元により各玉７の外接円の直径が拡がり、これら各玉７が小径側外輪軌道１１の内径側に組み付けられた状態となる。これに対して、大径側保持器８ｃに保持された各玉７は、大径側外輪軌道１０の内径側に、円滑に挿入することができる。

　このようにして外輪側組立品３３ｂを完成させた状態で、大径側、小径側両保持器８ｃ、９ｃに保持された各玉７は、これら大径側、小径側両保持器８ｃ、９ｃの各ポケット１４ａ、１５ａ内から内径側に抜け出ることを阻止される。また、小径側保持器９ｃに保持された各玉７は、小径側外輪軌道１１の内側から軸方向に抜け出ることを、この小径側外輪軌道１１の軸方向両側に存在する溝肩部１７ａ、１７ｂによって阻止される。また、大径側保持器８ｃに保持された各玉７は、大径側外輪軌道１０の内側から軸方向片側に抜け出ることを、大径側保持器８ｃの内向係合部３５と小径側保持器９ｃの外向係合部３６とが係合していることによって阻止されると共に、同じく軸方向他側に抜け出ることを、大径側外輪軌道１０の軸方向他側に存在する溝肩部１６ｂによって阻止される。従って、外輪５ｅと、大径側、小径側両保持器８ｃ、９ｃと、各玉７とを、外輪側組立品３３ｂとして一体的に取り扱うことができる。このような外輪側組立品３３ｂを組み立てたならば、その後、この外輪側組立品３３ｂの内径側に内輪６ａを、この外輪側組立品３３ｂの軸方向片側から挿入する。これにより、図１２に示すように、大径側、小径側両保持器８ｃ、９ｃに保持された各玉７を、大径側、小径側両内輪軌道１０、１１の外径側に組み付けることによって、タンデムアンギュラ型玉軸受の組み立てを完了する。

　上述のように構成する本例のタンデムアンギュラ型玉軸受の場合も、このタンデムアンギュラ型玉軸受を、外輪側組立品３３ｂと内輪６ａとの、２つの要素に分けて取り扱える。このため、この外輪側組立品３３ｂを軸受メーカーで組み立ててから出荷すれば、デファレンシャル装置などの各種回転機械装置の組立現場で、前記タンデムアンギュラ型玉軸受を使用箇所に組み付ける作業を容易に行える。

　また、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受の場合には、小径側外輪軌道１１の軸方向両側に、それぞれ溝肩部１７ａ、１７ｂを設けている。このため、例えば、一部のデファレンシャル装置のように、運転時にのみ軸受に潤滑油が供給される装置に、本例のタンデムアンギュラ型玉軸受を組み付けて使用する場合には、運転の停止時に、小径側外輪軌道１１の下端部に、潤滑油が溜まったままの状態にできる。従って、運転を再開した際の両列の初期潤滑が良好になる。すなわち、小径側外輪軌道１１を含む列に関しては、この小径側外輪軌道１１の下端部に溜まった潤滑油によって、当該列の初期潤滑を良好にできる。一方、大径側外輪軌道１０を含む列に関しては、運転の再開と同時に、小径側外輪軌道１１の下端部に溜まった潤滑油の一部が、この小径側外輪軌道１１を転走する各玉７に押されて外部に溢れ出し、これが大径側外輪軌道１０に入り込むことで、当該列の初期潤滑が良好になる。その他の構成および作用は、前述の図６～９に示した第２例の場合と同様である。

　なお、上述した各実施の形態では、大径側、小径側両保持器として、本体部分、すなわち各玉を保持する部分の形状が円筒状であるものを採用した。ただし、本発明を実施する場合に、大径側、小径側両保持器として、本体部分の形状が非円筒状のもの、例えば、部分円すい筒状のものも採用することができる。

　本発明は、自動車用のデファレンシャルギヤ、トランスファ装置などの自動車用駆動系に組み込まれる装置に限らず、各種回転機械装置に組み込まれて、ラジアル荷重およびスラスト荷重が加わった状態で回転する回転軸を支承するためのタンデムアンギュラ型玉軸受に適用できる。また、組立順序に関しても、特に明示されている場合を除き、図示の例に限らず、前述した特許文献３に記載されているように、各玉および保持器を内輪の外径側に組み付けた状態で、この内輪をピニオン軸などの回転軸に外嵌固定し、その後、ハウジングなどに内嵌固定した外輪を、各玉の周囲に組み付けることもできる。さらには、外輪、内輪などの軌道輪を相手部材に嵌合固定してから、当該軌道輪の内径側または外径側に玉を、保持器と共に組み付けることもできる。

　１、１ａ　玉軸受
　２　　　　玉軸受
　３、３ａ　ピニオン軸
　４　　　　ピニオンギヤ
　５、５ａ～５ｅ　外輪
　６、６ａ～６ｃ　内輪
　７　　　　玉
　８、８ａ～８ｃ　大径側保持器
　９、９ａ、９ｃ　小径側保持器
　１０　　大径側外輪軌道
　　１１　　小径側外輪軌道
　　１２　　大径側内輪軌道
　　１３　　小径側内輪軌道
　　１４、１４ａ　ポケット
　　１５、１５ａ　ポケット
　　１６ａ、１６ｂ　溝肩部
　　１７ａ、１７ｂ　溝肩部
　　１８ａ、１８ｂ　溝肩部
　　１９ａ、１９ｂ　溝肩部
　　２１、２１ａ　　支持部
　　２２、２２ａ　　支持孔
　　２３　　端面
　　２４　　端面
　　２５ａ～２５ｊ　角部
　　２６ａ～２６ｄ　傾斜面部
　　２７ａ、２７ｂ　円筒面部
　　３１　　内輪側組立品
　　３２　　係り代
　　３３、３３ａ、３３ｂ　外輪側組立品
　　３４　　鍔部
　　３５　　内向係合部
　　３６　　外向係合部

Claims (6)

1. 　内周面に互いに内径が異なる２列の外輪軌道を設けた外輪と、該外輪の内径側に該外輪と同心に配置され、外周面に互いに外径が異なる２列の内輪軌道を設けた内輪と、前記両内輪軌道と前記両外輪軌道との間に、それぞれの列毎に複数個ずつ、両列同士の間で同じ方向の接触角を付与された状態で転動自在に設けられた玉とを備えたタンデムアンギュラ型玉軸受において、
   　前記外輪の内周面のうちで、内径が小さい外輪軌道から、該外輪の軸方向両端面のうちで内径が大きい側の端面との連続部までの部分全体、および、前記内輪の外周面のうちで、外径が大きい内輪軌道から、該内輪の軸方向両端面のうちで外径が小さい側の端面との連続部までの部分全体が、断面形状に関して微分不能な角部を有さず、かつ、研磨加工された平滑面となっていることを特徴とする、タンデムアンギュラ型玉軸受。
2. 　内周面の軸方向片側に直径が相対的に大きい大径側外輪軌道を、同じく軸方向他側に直径が相対的に小さい小径側外輪軌道を、それぞれ有する外輪と、外周面の軸方向片側に直径が相対的に大きい大径側内輪軌道を、同じく軸方向他側に直径が相対的に小さい小径側内輪軌道を、それぞれ有する内輪と、円周方向複数箇所にポケットを有する、直径が相対的に大きい円環状の大径側保持器と、円周方向複数箇所にポケットを有する、直径が相対的に小さい円環状の小径側保持器と、前記大径側保持器の各ポケット内に保持された状態で、前記大径側外輪軌道と前記大径側内輪軌道との間に転動自在に設けられた、大径側玉列を構成する複数個の玉と、前記小径側保持器の各ポケット内に保持された状態で、前記小径側外輪軌道と前記小径側内輪軌道との間に転動自在に設けられた、小径側玉列を構成する複数個の玉とを備え、前記大径側玉列を構成する各玉と前記小径側玉列を構成する各玉とに、互いに同じ向きの接触角が付与されているタンデムアンギュラ型玉軸受において、
   　前記外輪が、前記大径側外輪軌道の軸方向片側部分と前記小径側外輪軌道の軸方向片側部分とのうちの少なくとも一方の部分と、前記大径側外輪軌道の軸方向他側部分と、前記小径側外輪軌道の軸方向他側部分とに、それぞれ溝肩部を備えていることを特徴とする、タンデムアンギュラ型玉軸受。
3. 　前記外輪は、前記大径側外輪軌道の軸方向両側部分、および、前記小径側外輪軌道の軸方向両側部分に、それぞれ溝肩部を備えており、前記内輪は、前記大径側内輪軌道の軸方向片側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向片側部分に、それぞれ溝肩部を備えると共に、前記大径側内輪軌道の軸方向他側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向他側部分には、それぞれ溝肩部を備えておらず、前記大径側保持器および前記小径側保持器は、前記各ポケット内に前記各玉を保持した状態で、該各ポケット内から該各玉が内径側に抜け出ることを阻止できる形状を備える、請求項２に記載したタンデムアンギュラ型玉軸受。
4. 　前記外輪は、前記大径側外輪軌道の軸方向両側部分、および、前記小径側外輪軌道の軸方向他側部分に、それぞれ溝肩部を備えると共に、前記小径側外輪軌道の軸方向片側部分に溝肩部を備えておらず、前記内輪は、前記大径側内輪軌道の軸方向片側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向片側部分に、それぞれ溝肩部を備えると共に、前記大径側内輪軌道の軸方向他側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向他側部分に、それぞれ溝肩部を備えておらず、前記大径側保持器および前記小径側保持器は、前記各ポケット内に前記各玉を保持した状態で、該各ポケット内から該各玉が内径側に抜け出ることを阻止でき、かつ、前記外輪と該大径側保持器および該小径側保持器と前記各玉とを玉軸受としての完成状態と同じ位置関係で組み合わせてなる、外輪側組立品を構成した状態で、互いに近い側の端部同士が軸方向に関して対向する形状を備える、請求項２に記載したタンデムアンギュラ型玉軸受。
5. 　前記外輪は、前記大径側外輪軌道の軸方向他側部分、および、前記小径側外輪軌道の軸方向両側部分に、それぞれ溝肩部を備えると共に、前記大径側外輪軌道の軸方向片側部分に、溝肩部を備えておらず、前記内輪は、前記大径側内輪軌道の軸方向片側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向片側部分に、それぞれ溝肩部を備えると共に、前記大径側内輪軌道の軸方向他側部分、および、前記小径側内輪軌道の軸方向他側部分に、それぞれ溝肩部を備えておらず、前記大径側保持器および前記小径側保持器は、前記各ポケット内に前記各玉を保持した状態で、該各ポケット内から該各玉が内径側に抜け出ることを阻止でき、かつ、前記外輪と前記大径側保持器および前記小径側保持器と前記各玉とを玉軸受としての完成状態と同じ位置関係で組み合わせてなる、外輪側組立品を構成した状態で、互いの一部同士が係合し、軸方向に関して互いに離れる方向に変位することを阻止できる形状を備える、請求項２に記載したタンデムアンギュラ型玉軸受。
6. 　自動車の動力伝達系統に組み込まれる機械装置を構成する回転軸を回転自在に支持すると共に、該回転軸に作用するラジアルおよびアキシアル両方向の荷重を支承するために使用される、請求項１～５のうちの何れか１項に記載したタンデムアンギュラ型玉軸受。

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