明 細 書
高強度鋼板およびその製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、自動車用鋼板に代表される高プレス成形性が求められる高強度鋼板、 特に伸びおよび伸びフランジ性を兼ね備えた高強度鋼板とその製造方法に関する。 背景技術
[0002] 一般にプレス成形されて使用される高強度鋼板は、自動車、電機装置および産業 用機械等の工業製品に使用されている。高強度鋼板は工業製品を軽量ィ匕するため に用いられるため、高強度であることが勿論必要であるが、製品の様々な形状を形成 可能であることも必要である。そのため高強度鋼板はプレス成形性が優れて 、ること が要求される。この要求に答えるために、プレス成形性向上に必要な伸びおよび伸 びフランジ性が優れた高強度鋼板が必要である。
[0003] これらの各特性を兼ね備えた鋼として、例えば特許文献 1に記載されて ヽるように、 金属組織がフェライト相とマルテンサイト相力もなる複合組織鋼 (Dual phase鋼: DP 鋼)が知られている。前記 DP鋼は軟質なフ ライトにより延性 (伸び)を確保すると共 に硬質なマルテンサイトにより強度を確保することができるので、強度と伸び (特に、 均一伸び)を兼備するものである。しかし、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトが 共存するため、変形時には両相の界面にひずみ (応力)が集中して、界面が破壊の 起点となり易くなり、伸びフランジ性 (局部伸び)が確保し難いという欠点がある。
[0004] また、 DP鋼よりも更に高 、延性 (特に、均一伸び)が期待できる鋼板として、例えば 、特許文献 2に記載されているように、 TRIP (Transformation Induced Plastici ty:変態誘起塑性)現象を活用した TRIP鋼が知られている。この TRIP鋼は、変形中 に残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させること (加工誘起変態)により、均一 伸びを高めた鋼板である。しかし、 TRIP鋼の残留オーステナイトが加工中に変態し たマルテンサイトは極めて硬質であるため、破壊の起点となり易ぐ鋼板の伸びフラン ジ性が劣ることになる。
[0005] 一方、高強度鋼板の伸びフランジ性を向上させるために、金属組織を単相組織とし
、金属糸且織内の加工性を均一化することにより、加工ひずみの局在化を抑制する方 法ゃ複相の金属組織の軟質相と硬質相の強度差を低減する方法が知られている。 マルテンサイト単相組織鋼板は均一組織であるため、強度と伸びフランジ性を両立 させる鋼板として知られている。しかし、マルテンサイト単相組織鋼板は延性に劣り、 伸びが不十分であるという問題がある。
[0006] 特許文献 3では、鋼板の組成および熱処理条件を適正化することにより、マルテン サイト単相組織にし、引張強度が 880〜1170MPaの高張力冷延鋼板を開示してい る。すなわち、特許文献 3の高張力冷延鋼板は、所定の組成範囲の鋼板を、工業的 に通常達成可能な温度である 850°Cに加熱 '保持してオーステナイトィ匕した後に、マ ルテンサイト単相組織とされるものである。この発明によって、製造されるマルテンサ イト単相組織の鋼板は、引張強度が 880〜1170MPaであり、伸びフランジ性には優 れる。しかし、伸び EL (%)が 8%未満であり延性が劣る。特許文献 3の発明の高強度 鋼板において、延性を向上させれば、プレス成形性をさらに良くすることができる。
[0007] また、特許文献 4では、マルテンサイト相等と残留オーステナイト相からなる低温変 態相の体積比率が全体の金属組織中 90%以上を占める鋼板を、フェライト相とォー ステナイト相の 2相域に加熱 ·保持することにより、低温変態相のラスを継承した微細 なフェライト相とオーステナイト相の金属組織にし、その後の冷却によって最終的にフ ライトと低温変態相がラス状に細力べ分散した金属組織にする高張力鋼板の製造 方法を開示している。
[0008] し力しながら、特許文献 4に開示されている製鋼方法により製造される鋼板は、製鋼 工程での冷却停止温度が比較的高 、ために、ベイナイトが多量に析出するが残留ォ ーステナイトも多量に残存し、延性は優れるが伸びフランジ性は不十分である。特許 文献 4の製鋼方法では、伸びおよび伸びフランジ性がともに優れた鋼板を製造するこ とはできない。
特許文献 1:日本国公開特許公報:昭 55 - 122820
特許文献 2 :日本国公開特許公報:昭 60— 43425
特許文献 3 :日本国特許公報:第 3729108
特許文献 4:日本国公開特許公報: 2005 - 272954
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0009] 上記のとおり、 DP鋼板、 TRIP鋼板、およびマルテンサイト単相組織鋼板は、それ ぞれ一長一短があるため、高強度と共に優れた伸びおよび伸びフランジ性を兼備し た鋼板が求められている。本発明はカゝかる課題を解決するためになされたものであり
、優れた伸びおよび伸びフランジ性を兼ね備えた高強度鋼板およびその製造方法を 提供することを目的とする。
[0010] さらに、本発明は、引張強度が 780MPa以上の高強度鋼板において、伸びおよび 伸びフランジ性をともに向上させた高強度鋼板およびその製造方法を提供することを 課題とする。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明の高強度鋼板は、質量%で、 C : 0. 05-0. 3%、 Si : 3%以下 (0%を含ま ない。)、 Mn: 0. 5〜3. 0%、 A1: 0. 01〜0. 1%を含み、残部が鉄および不可避的 不純物から構成される高強度鋼板であって、金属組織の主体となるマルテンサイト相 の占積率が 50%以上であり、引張強度が 590MPa以上であることを特徴とする。
[0012] ここで本発明者らは、高強度を確保しつつ、伸び、および特に伸びフランジ性を改 善する組織を種々検討した。その結果、初期組織として微細なラス状組織であるべィ ナイトをフェライト +オーステナイトの二相温度域で焼鈍 (以下、「二相域焼鈍」という 。)することによって、基地中に生成した微細な焼鈍べイナイトがオーステナイトの成 長を抑制するように作用し、その後の焼き入れ、焼戻しによりオーステナイトから微細 な焼戻しマルテンサイトが生じ、組織全体力 Sこれらの微細組織によって形成されるた め、伸びおよび伸びフランジ性が改善されることを知見し、これにより本発明を完成 するに至った。
[0013] すなわち、本発明の高強度鋼板は、焼戻しマルテンサイトと微細分散した焼鈍べィ ナイトを主体とする組織を有し、前記焼戻しマルテンサイトの占積率が 50〜95%で、 前記焼鈍べイナイトの占積率が 5〜30%であり、前記焼戻しマルテンサイトの平均粒 径が円相当直径で 10 m以下とされたものである。前記円相当直径とは、焼戻しマ ルテンサイトの粒と面積が等しい円を想定し、その円の直径を意味するもので、組織
写真を画像解析することによって求められる。また、占積率とは体積%を意味し、組 織観察試験片をナイタール腐食し、光学顕微鏡観察(1000倍)し、観察された組織 写真を画像解析することによって求められる。また、焼鈍べイナイトは、結晶構造とし ては体心立方構造として観察される。
[0014] また、本発明にかかる、伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度鋼板の製造方 法は、全金属組織に占めるベイナイトの占積率が 90%以上の鋼板を素材鋼板とし、 (Ac点 100°C)以上、 Ac点以下の温度で 0〜2400秒間(0秒を含む)、加熱保
3 3
持した後、 10°CZ秒以上の平均冷却速度でマルテンサイトの変態開始温度 Ms点以 下まで冷却し、引き続き 300〜550°Cの温度で 60〜1200秒間、加熱保持し、本発 明の高強度鋼板を製造するものである。前記素材鋼板は、前記化学成分の鋼片を 熱間圧延あるいはさらに冷間圧延を行うことにより製造することができる。
ここで、 Ac点は昇温工程においてオーステナイト相とフェライト相からなる 2相領域
3
力 高温で安定なオーステナイト単相領域へ変態する温度である。
[0015] また本発明の発明者らは、残留オーステナイト相の体積比率を伸びフランジ性に影 響を与えない 3%以下に抑え、かつ金属組織の大部分を微細なマルテンサイト相が 占める金属組織を有する高強度鋼板を発明した。
すなわち、本発明の高強度鋼板は、金属組織の主体となるマルテンサイト相の占積 率が 80%以上であって、そのマルテンサイト相の平均粒径が円相当直径で 10 μ m 以下であり、且つ、そのマルテンサイト相のうち粒径が円相当直径で 10 m以上の マルテンサイト相の占積率が 15%以下であり、更には、前記金属組織中の残留ォー ステナイト相の占積率が 3%以下である。
[0016] ここで占積率とは、鋼材中の金属組織を構成する各相の全金属組織に対する体積 比率のことであり、鋼材をレペラ腐食し、光学顕微鏡および SEM ( 1000倍)で観察 後、画像解析することにより、マルテンサイト相およびフェライト相の占積率を求めた。 残留オーステナイト相の占積率は、飽和磁化法 (熱処理, Vol. 136, (1996)参照) により測定した。また、マルテンサイト相の平均粒径は、マルテンサイト相の結晶粒径 の平均値であり、本発明においてはステップ間隔 lOOnmによる FEZSEM—EBSP による組織解析によって求めた。
[0017] 前記高強度鋼板の金属組織にお!、て平均粒径 10 μ m以下の微細な焼戻しマル テンサイト相の占積率が 80%以上になるため、 780MPa以上の引張強度と優れた 延性が確保される。また、残留オーステナイト相の占積率が高い場合、伸びフランジ 性が低下するが、本発明では残留オーステナイト相の占積率が 3%以内に抑えられ て!、るため伸びフランジ'性が低下しな!、。
[0018] また、前記高強度鋼板にお!、て、前記マルテンサイト相が焼戻しマルテンサイト相 であり、そのマルテンサイト相および前記残留オーステナイト相以外の金属糸且織とし て焼鈍マルテンサイト相を含み、その焼鈍マルテンサイト相の占積率は 3〜20%であ ることが好ましい。
力かる特徴によれば、微細に分散した焼鈍マルテンサイト相によってオーステナイト 相の結晶粒同士の合体および成長を抑制する。その結果、最終組織が微細になり、 高強度鋼板の加工性が確保される。
[0019] また、本発明にかかる高強度鋼板の製造方法は、全金属組織に占めるマルテンサ イト相および Z又は残留オーステナイト相の合計の占積率が 90%以上の鋼板を素 材鋼板とし、 (Ac点— 100°C)以上、 Ac点以下の温度で 30〜1200秒間、加熱保
3 3
持した後、 10°CZ秒以上の平均冷却速度でマルテンサイトの変態開始温度 Ms点以 下まで冷却し、更に、 300〜500°Cの温度で 60〜1200秒間、加熱保持する熱処理 をすることにより、本発明の高強度鋼板を製造するものである。
[0020] また、本発明の高強度鋼板は、金属組織の主体となる組織がマルテンサイト相とフ エライト相であって、前記マルテンサイト相の占積率は 50〜95% (「体積%」の意味、 組織については以下同じ)であり、前記フ ライト相の占積率が 5〜30%であり、かつ 、前記マルテンサイト相の平均粒径が円相当直径で 10 m以下である。
[0021] 前記フェライト相は焼鈍マルテンサイトであることが好ま 、。
[0022] また、本発明に力かる高強度鋼板の製造方法は、全金属組織に占めるマルテンサ イト相および Z又はべイナイト相の合計の占積率が 90%以上であると共に、旧ォー ステナイト粒径が円相当直径で 20 μ m以下である鋼板を素材鋼板とし、 (Ac点― 1
3
00°C)以上、 Ac点以下の温度で 1〜2400秒間、加熱保持した後、 10°CZ秒以上
3
の平均冷却速度でマルテンサイトの変態開始温度 Ms点以下まで冷却し、引き続き 3
00〜550°Cの温度で 60〜1200秒間、加熱保持する熱処理をすることによって、本 発明の高強度鋼板を製造するものである。
[0023] また、本発明にかかる高強度鋼板は、上記基本成分に加えて、下記の (a)〜(e)に記 載した元素群の 、ずれか、あるいは複数群力 選択された 1種又は 2種以上の元素 を、各元素群に規定した範囲内で含むことができる。
(a) Ti、 Nb、 V、 Zrから選択される元素を合計で 0. 01〜1質量%
(b) Niおよび Zまたは Cuを合計で 1質量%以下
(c) Cr: 2質量%以下および Zまたは Mo: 1質量%以下
(d) Bを 0. 0001〜0. 005質量0 /0
(e) Caおよび Zまたは REMを合計で 0. 003質量%以下
発明の効果
[0024] 本発明では、特に焼戻しマルテンサイトと微細分散した焼鈍べイナイトとを主体とす る組織とし、それぞれの占積率を所定量に規定すると共に焼戻しマルテンサイトの平 均粒径を 10 m以下に規定した。このことにより、 590MPa以上の高強度を有しな がら、優れた伸びおよび伸びフランジ性を兼備し、ひいては優れたプレス成形性を備 えた高強度鋼板を提供することができる。
[0025] また、本発明によれば、残留オーステナイト相の占積率が 3%以下で、微細なマル テンサイト相占積率が 80%以上の高強度鋼板を、比較的簡単な熱処理工程によつ て提供することができる。この高強度鋼板は、引張強度が 780MPa以上であり、さら に伸びおよび伸びフランジ性に優れるものであるため、プレス成形性に優れる。
[0026] また、本発明によれば、特にフェライト相とマルテンサイトを主体とする複合組織鋼 板を対象とし、鋼板全体としては高強度を確保しつつ、特にフェライト相とマルテンサ イトの占積率およびこれらの平均粒径を適切に制御することによって、優れた伸びお よび伸びフランジ性を兼備した高強度鋼板が実現できた。
発明を実施するための最良の形態
[0027] (1)
以下、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
本発明の一実施形態における高強度鋼板は、焼戻しマルテンサイト中に焼鈍べィ
ナイトが微細分散した組織を主体とし、前記焼戻しマルテンサイトの占積率が 50〜9 5%、前記焼鈍べイナイトの占積率が 5〜30%であり、前記焼戻しマルテンサイトの 平均粒径が円相当直径で 10 m以下であり、引張強度が 590MPa以上とされたも のである。以下、組織の限定理由を説明する。
[0028] 前記焼鈍べイナイトの占積率が 5%未満では、オーステナイトの成長を抑制するピ ンユング効果が弱ぐオーステナイト粒が成長して、ひいてはマルテンサイトが大粒と なって、良好な伸びを確保することが困難になる。一方、 30%を超えると、伸びフラン ジ性が低下するようになる。このため、焼鈍べイナイトの下限を 5%、好ましくは 7%と し、その上限を 30%、好ましくは 25%とする。
[0029] また、焼戻しマルテンサイトの占積率が 50%未満では強度が低下すると共に、伸び フランジ性が低下し、一方 95%を超えると硬くなり過ぎて伸びが低下するようになる。 このため、焼戻しマルテンサイト相の下限を 50%、好ましくは 70%とし、その上限を 9 5%、好ましくは 85%とする。
[0030] また、前記焼戻しマルテンサイトの平均粒径は、微細分散した焼鈍べイナイトの量 によって左右される力 相当円直径で 10 mを超えると伸びおよび伸びフランジ性 が低下するようになる。このため、上限を 10 /z mとする。
[0031] 前記焼戻しマルテンサイトと焼鈍べイナイトとの共存組織は、本発明の高強度鋼板 の組織主体を構成する。ここで、主体とは 90%以上、好ましくは 95%以上を意味し、 他の組織が 10%程度未満含まれても、伸び、特に伸びフランジ性に対する影響が少 ないので許容される。他の組織としては、フェライト、パーライト、残留オーステナイト などがある。勿論、これらの組織は少ない方がよい。
[0032] 次に、本発明にカゝかる鋼板の組織、強度を得るのに好適な化学成分 (単位は質量 %)について説明する。このようなィ匕学成分として、 C : 0. 05〜0. 3%、 Si: 0. 01〜3 . 0%、Mn: 0. 5〜3. 0%、A1: 0. 01〜0. 1%を含み、残部 Feおよび不可避的不 純物からなるものを示すことができる。以下、成分限定理由について説明する。
[0033] [C : 0. 05〜0. 3%]
Cはマルテンサイトを生成させ、鋼板の強度を高める上で重要な元素である。 0. 05 %未満ではかかる効果が過少となり、一方、高強度化の観点からは C量が多いほど
好ましいが、 0. 3%を超えると残留オーステナイトが多量に生成して伸びフランジ性 が低下するようになる。また、溶接性も劣化するようになる。このため、 C量の下限を 0 . 05%、好ましくは 0. 07%とし、その上限を 0. 3%、好ましくは 0. 25%とする。
[0034] [Si: 0. 01〜3. 0%]
Siは鋼を溶製する際に脱酸元素として作用し、また鋼の延性を劣化させることなく 強度を高めるのに有効な元素で、さらに伸びフランジ性を劣化させる粗大な炭化物 の析出を抑える作用を有している。 0. 01%未満ではこれらの作用が過少であり、 3. 0%程度を超えて添カ卩しても効果が飽和する。このため、 Si量の下限を 0. 01%、好 ましくは 0. 1%とし、その上限を 3. 0%、好ましくは 2. 5%とする。
[0035] [Mn: 0. 5〜3%]
Mnは鋼の焼入れ性を高めて高強度を確保する上で有用な元素であり、 0. 5%未 満ではこうした作用が過少となる。一方、 3%を超えると延性を低下させて加工性に 悪影響を及ぼす。このため、 Mn量の下限を 0. 5%、好ましくは 0. 7%とし、その上限 を 3%、好ましくは 2. 5%とする。
[0036] [A1: 0. 01〜0. 1%]
A1は脱酸作用を有する元素であり、そのためには 0. 01%以上添加する必要があ る。一方、 0. 1%超添加しても脱酸効果は飽和し、また非金属系介在物源となって 物性や表面性状を劣化させる。このため、 A1量の下限を 0. 01%、好ましくは 0. 03 %とし、その上限を 0. 1%、好ましくは 0. 08%とする。
[0037] 本発明鋼板の好適な化学成分は、上記基本成分のほか、残部 Feおよび製造上不 可避的に混入する不純物、例えば P、 S、 N、 O力もなる。もっとも、鋼板の機械的特 性を向上させるために下記 (a)〜(e)に記載した補助元素群のいずれか、あるいは 複数群力も選択された元素の 1種又は 2種以上を、各群の添加許容範囲内で添加す ることがでさる。
(a) Ti、 Nb、 V、 Zr力も選択される 1種以上の元素を合計量で 0. 01〜1%
(b) Niおよび Cuから選択される 1種以上の元素を合計量で 1%以下
(c) Cr: 2%以下、 Mo : 1%以下のうち 1種以上の元素
(d) B^O. 0001〜0. 005%
(e) Caおよび REM力 選択される 1種以上の元素を合計量で 0. 003%以下
[0038] [Ti、 Nb、 V、 Zrの 1種以上:合計量で 0. 01〜1%]
これらの元素は Cや Nと炭化物、窒化物、炭窒化物などの析出物を形成し、強度向 上に寄与するほか、熱延時に結晶粒を微細化して伸びおよび伸びフランジ性を高め る作用を有する。合計添加量が 0. 01%では力かる作用が過少となる。一方、 1%を 超えると伸び、伸びフランジ性が却って低下するようになる。このため、これらの元素 の 1種又は 2種以上の合計量の下限を 0. 01%、好ましくは 0. 03%とし、その上限を 1. 0%、好ましくは 0. 7%とする。
[0039] [Ni、Cuの 1種以上:合計量で 1%以下]
これらの元素は、強度-延性バランスを高く維持したまま、高強度化を実現するの に有効な元素である。こうした効果を有効に発揮させるには 0. 05%以上添加するこ とが好ましい。一方、これらの元素の含有量が増加するに従って前記効果も増大する 力 これらの元素の 1種又は 2種以上の合計量が 1%を超えると、力かる効果が飽和 するようになり、また熱延時に割れが生じるおそれが生じる。このため、合計量の上限 を 1. 0%、好ましくは 0. 7%とする。
[0040] [Cr: 2%以下、 Mo : 1%以下の 1種又は 2種]
これらの元素は、いずれもオーステナイト相を安定ィ匕し、冷却過程でベイナイトの生 成を容易にするのに有効な元素である。その効果は、含有量が増加するほど増大す る力 過剰に含有されると延性が却って劣化する。このため、 Crは 2. 0%以下、より 好ましくは 1. 5%以下とし、 Moは 1. 0%以下、より好ましくは 0. 7%以下とする。
[0041] [B: 0. 0001〜0. 005%]
Bは焼き入れ性を向上し、微量で鋼板の強度を高めるのに有効な元素である。こう した効果を発揮させるためには 0. 0001%以上含有させることが好ましい。しかし、 B の含有が過剰となり、 0. 005%を超えると、結晶粒界が脆ィ匕して圧延時に割れが生 じるおそれがある。このため、上限を 0. 005%とする。
[0042] [Ca、REMの 1種以上:合計量で 0. 003%以下]
これらの元素は、鋼中の硫ィ匕物の形態を制御し、加工性の向上に有効な元素であ る。こうした効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、過剰に含有されると
、上記効果が飽和するので、これらの元素の 1種又は 2種以上の合計量の上限を 0. 003%とする。
[0043] 次に、本発明の実施形態に力かる高強度鋼板の製造方法について説明する。まず 、上記化学成分を有し、全組織に対するべイナイトの占積率が 90%以上である素材 鋼板を準備する。次に、この素材鋼板に (Ac点— 100) °C以上、 Ac以下の温度で
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Osec以上、 2400sec以下の時間を保持した後、 10°C/sec以上の平均冷却速度で マルテンサイト変態開始温度 Ms点以下まで冷却する焼鈍熱処理を施す。引き続い て 300°C以上、 550°C以下で 60sec以上、 1200sec以下の時間を保持する焼戻し 熱処理を施すことによって、引張強度が 590MPa以上の前記焼戻しマルテンサイトと 焼鈍べイナイトを主体とする微細組織の鋼板が得られる。
[0044] 前記素材鋼板は、以下の工程によって製造することができる。まず、上記化学成分 の鋼を溶製し、その鋼スラブを用いて、仕上温度が Ar
3点以上となるようにして熱間圧 延を終了し、その後、 10°C/sec以上の平均冷却速度でベイナイト変態温度(350〜4 50°C程度)まで冷却し、同温度にて巻き取る。仕上温度が Ar点未満あるいは熱間
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圧延後の冷却速度が 10°C/sec未満では、熱延鋼板にフェライト相が生成しやすくな つて、素材鋼板のベイナイトの占積率が 90%を下回るようになる。また、素材鋼板とし ては、熱間圧延後に酸洗処理、冷間圧延を施して、冷延鋼板としたものでもよい。な お、 Ti、 Nb、 V、 Zrを含む鋼種では、熱延前に生成した前記元素を含む析出物を再 固溶させるため、熱延の際に鋼片を高めの温度に加熱保持することが好ましい。
[0045] 前記素材鋼板は、上記熱間圧延条件、冷却条件を満足しな!、熱延鋼板に対して、 下記予備焼鈍を施すことによつても、ベイナイトの占積率を 90%以上にすることがで きる。この予備焼鈍は、熱延鋼板を Ac点以上の温度域に 5秒程度以上保持した後
3
、 10°C/sec以上の平均冷却速度でベイナイト変態温度まで冷却する熱処理ある。保 持温度が Ac点未満では、鋼板にフェライト相が生成しやすくなつて、ベイナイトの占
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積率が低下し、また Ac点以上の温度に保持する場合でも 5秒程度未満ではオース
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テナイトィ匕が不十分であるため、やはり占積率が 90%を下回るようになる。前記予備 焼鈍を施した場合も、その後に冷間圧延を施して冷延鋼板とし、これを素材鋼板とし て用いてもよい。
[0046] 前記素材鋼板を準備した後、次に前記素材鋼板に (Ac点 100) °C以上、 Ac以
3 3 下の温度で Osec以上(Osecを含む。)、 2400sec以下の時間を保持した後、 10°C/ sec以上の平均冷却速度でマルテンサイト変態開始温度 Ms点以下まで冷却する二 相域焼鈍を施し、さらに焼戻しを行う。力かる熱処理により、本発明にかかる高強度 鋼板の組織が得られる。以下、まず二相域焼鈍の条件について説明する。
[0047] 二相域焼鈍の焼鈍温度を (Ac点 100) °C以上、 Ac以下とする理由は以下のと
3 3
おりである。焼鈍温度をオーステナイト単相が安定な Ac点よりも高い温度域に設定
3
すると、素材鋼板においてオーステナイトの結晶粒が成長し、相互に合体して粗大化 すると共に微細に分散した焼鈍べイナイトによるオーステナイトの成長抑制効果 (ピニ ング効果)が得られないようになる。このため、微細な複合組織鋼板を得ることができ ず、高強度鋼板の伸びフランジ性が低下するようになる。一方、(Ac点— 100)でよ
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りも低い温度で焼鈍すると、オーステナイト化が十分に進まず、熱処理後のマルテン サイトの占積率が 50%未満となって、鋼板の伸びフランジ性が低下するようになる。
[0048] また、焼鈍時間 (加熱保持時間)は、焼鈍温度に昇温するだけでも占積率が 50% 程度以上のオーステナイト引いてはマルテンサイトが得られる力 好ましくは lsec以 上、より好ましくは 5秒以上とするのがよい。一方、必要以上に長時間保持するとォー ステナイト粒が粗大化し、微細なマルテンサイトが得られないようになるので、 2400se c以下、好ましくは 1200sec以下に止めるのがよい。
[0049] 加熱保持後の平均冷却速度が 10°C/sec未満である場合や、冷却停止温度がマル テンサイト変態開始温度 Ms点より高い場合には、残留オーステナイト相、パーライト 相、フェライト相が生成し、またセメンタイト相が析出し、オーステナイトからマルテンサ イト以外の組織が多く形成されるため、伸びおよび伸びフランジ性が低下するように なる。
[0050] 前記二相域焼鈍後、焼戻し (再加熱処理)が行われるが、これは硬質マルテンサイ トを軟化させ、また加工誘起変態してマルテンサイトを生成させる残留オーステナイト を分解することにより、伸び、伸びフランジ性を向上させるための処理である。焼戻し 条件は、 300°C以上、 550°C以下の温度で、 60sec以上、 1200sec以下の時間を 保持する。保持後の冷却速度は特に制限されない。
[0051] 焼戻し温度が 300°C未満では、マルテンサイトの軟質ィヒが十分でなぐ鋼板の伸び および伸びフランジ性が低下する。一方、 550°Cよりも高くなると、粗大なセメンタイト 相が析出して、鋼板の伸びフランジ性が低下する。このため、 300°C以上、 550°C以 下の温度で焼戻しを行う。
[0052] また焼戻しの保持時間が 60sec未満では、マルテンサイトの軟質ィ匕が十分でぐま た 1200secよりも長くなると、マルテンサイトが軟質ィ匕し過ぎて強度の確保が困難に なり、またセメンタイトの析出により、鋼板の伸びフランジ性が低下するようになる。こ のため、焼戻しの際の保持時間は、下限を 60sec、好ましくは 90sec以上、より好ま しくは 120secとし、上限を 1200sec、好ましくは 900sec、より好ましくは 600secとす る。
[0053] 以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例 によって限定的に解釈されるものではない。
[0054] (実施例 1)
下記表 1に示す化学組成を有する鋼スラブを溶製し、各鋼スラブを 1000〜1100 °C程度に加熱し、下記表 2の条件で熱間圧延あるいはさらに予備焼鈍を行い、素材 鋼板を製作した。熱延後の平均冷却速度は 50°C/secとした。各素材鋼板から組織 観察試験片を採取し、顕微鏡により組織構成を観察すると共にナイタール腐食後の 顕微鏡組織写真を画像解析することによってべイナイトの占積率を測定した。表 1〖こ は成分力 公知の計算式により算出した Ac点、 Ms点の値も参考として示した。また
3
、組織観察結果を表 2に併せて示した。そして、得られた各素材鋼板について、下記 表 3に示した条件で最終焼鈍 (二相域焼鈍)および焼戻しを行い、試料鋼板を製作し た。
[0055] [表 1]
ffiSf 口 化 学 成 分 (質量%) 変態温度 (°c)
備 考 c Si Mn P s Al その他 Ac3 Ms
A 0.1 1 1.21 1.62 0.01 1 0.001 0.044 ― 873 448 発明成分
B 0.18 1 .54 2.06 0.120 0.002 0.048 ― 934 406 発明成分
C 0.01 0.88 1.56 0.012 0.002 0.044 ― 908 487 比較成分
D 0.08 1.86 2.29 0.016 0.001 0.039 ― 894 433 発明成分
E 0.25 1.55 2.01 0.020 0.002 0.034 ― 845 382 発明成分
F 0.35 1 .51 2.01 0.012 0.002 0.033 ― 819 346 比較成分
G 0.18 0.05 2.05 0.009 0.001 0.031 ― 783 406 発明成分
H 0.16 2.63 1.22 0.009 0.002 0.034 ― 930 446 発明成分
I 0.21 3.52 1 .99 0.01 1 0.001 0.038 ― 938 398 比較成分
J 0.14 1.54 0.38 0.009 0.003 0.039 ― 913 486 比較成分
K 0.13 1.56 0.62 0.009 0.001 0.038 ― 909 480 発明成分 し 0.21 1.24 2.78 0.006 0.002 0.033 Zr:0.021 806 367 発明成分
M 0.19 1.53 3.49 0.013 0.001 0.033 ― 808 346 比較成分
N 0.17 1.38 2.02 0.015 0.002 0.005 V:0.018 842 409 発明成分
O 0.19 1.32 1.97 0.01 1 0.003 0.089 ― 865 407 発明成分
P 0.17 1 .42 2.06 0.012 0.001 0.167 ― 903 413 比較成分
Q 0.17 1.39 2.00 0.009 0.002 0.019 Ni:0.2 842 41 1 発明成分
R 0.16 1 .56 1.93 0.010 0.001 0.031 Cu:0.1 860 418 発明成分
S 0.17 1.33 2.19 0.012 0.002 0.042 Cr:0.35 841 397 発明成分
T 0.16 1.27 2.03 0.015 0.003 0.042 Mo:0.1 855 414 発明成分 u 0.18 1 .36 1.93 0.016 0.003 0.045 B:0.0002 856 41 1 発明成分
V 0.17 1.40 1.97 0.014 0.002 0.039 Ca+REM:0.001 855 413 発明成分
(注)残部成分は Feおよび不可避的不純物 ]
試料 鋼 最終焼鈍条件 焼戻し条件
備 考
No. 記 加熱温度保持時間冷却速度冷却停止温度加熱温度 保持時間
°C sec 。C s 。C 。C sec
1 A 850 180 500 20 400 180 発明条件
2 B 850 180 500 20 400 120 発明条件
3 C 850 200 100 20 500 180 比較条件
4 D 870 180 200 20 500 180 発明条件
5 E 815 80 300 20 520 120 発明条件
6 F 810 220 300 20 350 180 比較条件
7 G 750 120 300 100 400 120 発明条件
8 H 910 350 300 50 500 180 発明条件
9 I 870 100 200 20 350 120 比較条件
10 J 800 100 200 20 450 180 比較条件
1 1 K 850 180 500 20 520 180 発明条件
12 し 770 120 300 20 500 180 発明条件
13 770 180 200 20 400 180 比較条件
14 N 820 120 500 20 500 180 発明条件
15 0 850 180 300 20 500 180 発明条件
16 P 880 120 1 00 20 400 120 比較条件
1 7 Q 825 180 500 20 500 120 発明条件
1 8 R 830 120 500 20 500 180 発明条件
19 S 810 120 300 20 500 180 発明条件
20 T 850 60 300 20 500 180 発明条件
21 u 820 180 500 20 500 180 発明条件
22 V 830 120 500 20 500 180 発明条件
23 B 880 180 300 20 450 180 発明条件
24 B 900 120 300 20 500 120 発明条件
25 A 850 180 300 20 450 180 発明条件
26 B 850 180 300 20 500 180 発明条件
27 A 800 120 500 20 500 180 発明条件 各試料鋼板の組織 (焼鈍べイナイトの占積率、焼戻しマルテンサイト占積率および 平均粒径)、および機械的特性(引張強さ TS、伸び ELおよび伸びフランジ性)を以 下の要領で測定した。
試料鋼板から組織観察試験片を採取し、ナイタール腐食後の顕微鏡組織写真を 画像解析することによって焼鈍べイナイト、焼戻しマルテンサイトの占積率を求めた。 また、焼戻しマルテンサイトの平均粒径は、 FEZSEM— EBSPによる組織解析によ つて各粒の面積を測定し、それぞれの粒に相当する円の直径を求め、それらの平均
を取ることによって求められた。
また、機械的性質のうち、引張強さおよび伸びは、インストロン杜製の万能引張試 験機を使用し、 JIS5号引張試験片を用いて測定した。伸びフランジ性は、東京衡機 社製の 20トン穴拡げ試験機を使用し、鉄鋼連盟規格 CFFST1001— 1996)に準拠 して穴拡げ率(λ )を求め、これにより評価した。これらの測定結果を表 4に併せて示 す。表 4中、「評価」については、引張強さ(TS)が 590MPa以上、伸び (EL)が 10% 以上、穴拡げ率(λ )が 80%以上をそれぞれ優れた特性と評価し、 3特性のいずれも 優れるものを〇、 3特性中、 2特性が優れるものを△、 3特性中、 1特性のみが優れる ものを Xで表示した。
[表 4]
耗 1織パラメータ 機械的性質 試料 焼鈍 B 焼戻し M 焼戻し M TS Eし λ
_鋼。 評価
No. 備 考 記 占積率 占積率 平均粒径
% % IX m MPa % %
1 A 12 86 7.4 984 13.5 127.0 〇 発明例
2 B 29 70 8.3 689 32.1 80.8 〇 発明例
3 C 19 80 8.1 554 31.9 81.5 △ 比較例
4 D 12 86 7.3 992 1 1.9 1 1 4.2 〇 発明例
5 E 13 84 7.8 1 108 12.1 107.9 〇 発明例
6 F 10 89 8.3 1388 6.7 53.2 X 比較例
7 G 16 83 8.9 782 18.1 106.8 ο 発明例
8 H 12 86 7.9 1022 12.9 104.0 〇 発明例
9 I 25 76 9.1 1382 5.8 27.4 X 比較例
10 J 35 65 8.8 588 28.8 64.9 X 比較例
1 1 K 22 75 8.2 603 28.3 86.3 〇 発明例
12 し 14 85 7.9 1 109 12.5 100.5 〇 発明例
13 M 12 85 8.1 1299 8.1 58.7 X 比較例
14 N 1 1 88 7.3 1031 13.9 124.0 〇 発明例
15 O 10 89 7.2 1017 14.7 127.9 〇 発明例
16 P 13 86 8.1 1031 10.3 61.1 Δ 比較例
17 Q 10 89 8.0 1022 14.3 1 22.8 Ο 発明例
18 R 13 86 7.9 1098 12.9 121.4 〇 発明例
1 9 S 12 86 8.5 1 1 39 10.9 1 14.9 〇 発明例
20 T 7 92 8.8 1222 10.フ 98.7 〇 発明例
21 u 12 87 8.1 1 154 1 1.1 104.8 〇 発明例
22 V 1 2 86 7.9 1095 1 1 .9 106.3 〇 発明例
23 B 1 3 86 7.9 989 13.2 1 12.8 〇 発明例
24 B 12 87 7.7 981 14.3 127.3 〇 発明例
25 A 1 2 86 7.5 789 17.5 1 17.7 〇 発明例
26 B 24 75 8.7 708 19.8 103.2 ο 発明例
27 A 19 80 8.3 737 18.9 128.3 〇 発明例
(注) Β :ベイナイト、 Μ :マルテンサイト 表 4より、化学成分、素材鋼板組織、最終焼鈍条件および焼戻し条件のいずれも本 発明条件を満足する試料 No. 1, 2, 4, 5, 7, 8, 11, 12, 14, 15, 17〜27の試料 鋼板 (発明例)は、いずれも引張強さが 590MPa以上の高強度、 10%以上の伸び、 さらに穴拡げ率が 80%以上の伸びフランジ性を有していることがわかる。すなわち、 高強度でありながら、伸びおよび伸びフランジ性に優れ、優れたプレス成形性を備え
ていることがわ力る。
[0061] (2)
以下に、本発明の他の実施形態を詳細に説明する。
まず、本実施形態の高強度鋼板素材の成分組成について説明する。本実施形態 の高強度鋼板の成分組成を構成する元素は、 C、 Si、 Mn、 Al、 Cr、 Mo、 Nb、 Tiお よび Vであり、残りは Feと不可避的不純物である。これらの構成元素のうち、 Cr、 Mo 、 Nb、 Tiおよび Vは、必ずしも必要な成分元素ではなぐ本発明の効果をより一層高 めるために添加される元素である。以下それぞれの元素の作用につ 、て説明する。 以下の説明では、組成範囲の割合は質量%を表すものとする。
[0062] 前記した構成元素のうち、 Cはその組成範囲が 0. 05%力ら 0. 3%の範囲に限定さ れる。 Cは、焼戻しマルテンサイト相を生成させ、鋼板素材の強度を高める上で有効 な元素である。下限値である 0. 05%は、所定の強度を得るのに最低限必要な量で ある。上限値の 0. 3%は、次のような理由により規定される。上限値の 0. 3%より多い Cが添加される場合、焼戻しマルテンサイト相および残留オーステナイト相の C濃度 が高くなりこれらの相の強度が上がる。これらの相と C濃度の低いフェライト相の強度 差が大きくなる。これら強度差のある複数の相の界面で破壊が起きやすいため、伸び フランジ性が低下する。また鋼板中の C濃度が上がると溶接性を著しく劣化させる。
[0063] Siはその組成範囲力 0%より大きく 3%以下の範囲に限定される。 Siは伸びフラン ジ性を低下させる比較的粗大な炭化物の生成を抑制し、また、延性を向上させる作 用がある。しかし、この延性を向上させる作用は、 Siの添カ卩量が 3%程度で飽和して しまう。また、 Siは焼戻しマルテンサイト相の焼戻しによる軟ィ匕を遅らせる作用がある ため、 Si含有量が多い場合、焼戻しマルテンサイト相が十分に焼戻されず強度が高 いまま保持され、フェライト相との強度差が大きくなり、伸びフランジ性が低下する。そ のため、 Siの添加量は 3%が上限である。
[0064] Mnはその組成範囲力 0. 5%以上 3%以下の範囲に限定される。 Mnは、固溶強 化によって鋼板の引張強度を高くするとともに、鋼板の焼入れ性を向上させ、マルテ ンサイト相の生成を促進する効果を有する。このような Mnの作用は、 Mn含有量が 0 . 5%以上の鋼で認められる。好ましくは Mn含有量が 1%以上である。一方、 Mn含
有量が 3%を超える場合、铸片割れが生じる等の悪影響がある。 Mnの含有量は、好 ましくは 2. 5%以下である。
[0065] A1はその組成範囲力 0. 01%以上 0. 1%以下の範囲に限定される。 A1は、製鋼 工程にお ヽて鋼の脱酸のために使用される。鋼の金属組織中に固溶された A1が存 在しない場合、鋼の脱酸が完了していない可能性がある。鋼中に酸素が残存する場 合、残存する酸素は Siや Mnと結合する力 これらの Siや Mnの酸化生成物は溶鋼 力も分離 '浮上しやすいため、鋼の組成が不均一になり加工性が低下する。また、鋼 の金属組織中に固溶された A1が 0. 1%を超える場合、脱酸生成物を A1が再び還元 し、金属状 A1が生成するようになる。この金属状 A1は比較的大きな介在物となり、材 質的な欠陥あるいは表面疵となる。そこで上限値を 0. 1%とする。
[0066] Crおよび Moは、実施形態の高強度鋼板に必須の元素ではないが添加することに より、有効に作用する。 Crおよび Moは鋼板の金属組織中において、伸びフランジ性 を低下させる炭化物の生成を抑制し、マルテンサイト相の生成を促進する作用を有 するので、必要に応じて添加することができる。 Crおよび Moの組成範囲は、 Crおよ び Moから選択される少なくとも 1種以上の元素を含み、これらの元素の合計の組成 比率が 0. 5%以下である。 Crおよび Moの作用を有効に発揮させるには、 Crおよび Moの組成比率がそれぞれ 0. 05%以上(より好ましくは 0. 1%以上)であることが推 奨される。ただし、 Crおよび Moは、これらカゝら選択される 1種類あるいは両者の合計 で 0. 5%を超えて添加しても、前記した作用は飽和してしまい、含有量に見合う作用 が得られない。
[0067] Nb、 Tiおよび Vも、本実施形態の高強度鋼板に必須の元素ではな!/、が、添加する ことにより有効に作用する。 Nb、 Tiおよび Vは鋼板の金属組織中において、炭窒化 物を形成し、析出強化によって鋼の引張強度を高める作用および結晶粒を微細化 する作用を有する。そのため、これらの元素は必要に応じて添加される。 Nb、 Tiおよ び V力 選ばれる 1種または 2種以上の添加量が合計で 0. 01%未満では、前記した Nb、 Tiおよび Vの作用は有効ではない。一方、前記した添加量が合計で 0. 1%を 超えると、析出物が多くなりすぎるため、伸びフランジ性が著しく低下してしまう。した がって、前記した添加量の合計は、上限が 0. 1%である。
[0068] 本実施形態の高強度鋼板は、 Cr、 Mo、 Nb、 Tiおよび Vの代わりに、 Niまたは Cu を 1質量%以下含む組成でもよい。また、 Bを 0. 0001質量%以上で、 0. 0010質量 %以下を含む組成でもよい。さらに、 Caおよび Zまたは REMを合計で 0. 003質量 %以下含む組成でもよい。
[0069] 本実施形態の高強度鋼板の素材の組成は、以上の成分以外は Feと不可避的不 純物からなるものである。なお、不可避的不純物として Pおよび Sがある力 Pが 0. 05 %以下(0%を含まない)かつ Sが 0. 02%以下(0%を含む)であれば、本実施形態 の高強度鋼板の特性に悪影響を及ぼさない。鋼板の加工性は、 Pおよび S含有量が 少ない方がよい。特に Sの含有量が多い場合、鋼中の介在物となる MnSが増加し、 鋼板の伸びフランジ性を著しく低下する。
[0070] 次に、本実施形態の高強度鋼板の金属組織について説明する。本実施形態の高 強度鋼板の金属組織は、占積率が 80%以上の焼戻しマルテンサイト相と占積率が 3 %以下の残留オーステナイト相を含み、残りは主としてフェライト相からなる。
これらの構成相のうち、焼戻しマルテンサイト相についてまず説明する。焼戻しマル テンサイト相の占積率が 80%以上ある場合、後記する実施形態の高強度鋼板の製 造方法で採用する焼鈍工程後に前記フ ライト相の一部に微細に残存する焼鈍マ ルテンサイト相によって、オーステナイト結晶粒同士の合体および成長を抑制できる 。焼戻しマルテンサイト相の占積率が 80%未満の場合、焼戻しマルテンサイト相がフ エライト相に分断されるため、伸びフランジ性が低下する。一方、焼戻しマルテンサイ ト相の占積率が 100%の実質上焼戻しマルテンサイト単相組織になると、延性が低 下するので 100%の占積率の場合は本発明には含まれな!/、。
[0071] 本実施形態の高強度鋼板の焼戻しマルテンサイト相において、平均粒径が 10 /z m 以下であり粒径が 10 mより大きい焼戻しマルテンサイト相の占積率が 15%以下で ある。平均粒径が 10 mより大きい場合または粒径が 10 mより大きい焼戻しマル テンサイト相の占積率が 15%を超える場合、破壊の起点となる焼戻しマルテンサイト 相の界面が偏在化するので十分な伸びフランジ性が得られない。
[0072] 本実施形態の高強度鋼板の金属組織にお!、ては、残留オーステナイト相の占積率 力 S3%以下である。残留オーステナイト相は、加工時に焼戻しマルテンサイト相に変
化する誘起変態を起こす。そのため残留オーステナイト相は、伸びフランジ性を低下 させる。したがって、伸びフランジ性を向上させるために残留オーステナイト相の占積 率は低く抑えなければならない。残留オーステナイト相の占積率は、好ましくは 2%以 下、より好ましくは 1%以下である。
[0073] 以上説明したような実施形態の高強度鋼板は、微細な焼戻しマルテンサイト相が形 成され、残留オーステナイト相の占積率が十分に低いため、引張強度が高いだけで なぐ伸びおよび伸びフランジ性がともに高い優れた特性を有するものである。
[0074] 次に、本実施形態の高強度鋼板の製造方法について説明する。
まず、本実施形態の高強度鋼板の素材について説明する。本実施形態の高強度 鋼板は、所定の条件を満たす鋼板素材に、所定の焼鈍工程および焼戻し工程から なる熱処理をすることによって得られる。
本実施形態の高強度鋼板の鋼板素材は、前記した成分組成の条件を満たすこと に加えて次のような金属組織の条件を満たす必要がある。本実施形態の高強度鋼板 の鋼板素材は、マルテンサイト相および残留オーステナイト相の占積率が 90%以上 である必要がある。好ましくは、マルテンサイト相および残留オーステナイト相の占積 率が 95%以上である。これらの構成相の占積率が 90%未満の場合、後記する焼鈍 工程においてフェライト相とオーステナイト相の 2相域に加熱した際に、粗大なオース テナイト相が生成するため、前記した微細な焼戻しマルテンサイト相を得ることができ ない。そのため、伸びフランジ性を向上させることができないことになる。
[0075] マルテンサイト相および残留オーステナイト相の占積率が 90%以上である本実施 形態の高強度鋼板の鋼板素材は、次のようにして製造される。
本実施形態の高強度鋼板の鋼板素材 (以下、「鋼板素材」という)は、前記した高強 度鋼板素材の成分組成を満足するように調整された鋼スラブを、仕上げ圧延温度が Ac点以上の温度で熱間圧延を行なう。その後、この熱間圧延された鋼板を、 10°C
3
Z秒以上の冷却速度で、オーステナイト相がマルテンサイト相に変態を開始する温 度である。 Ms点よりも低 、温度(おおよそ 350°C以下)の冷却停止温度まで冷却した 後、巻き取ることにより、鋼板素材は製造される。仕上げ圧延温度が Ac点以下また
3 は熱間圧延後の冷却速度が 10°CZ秒以下では、熱間圧延後の冷却時にフ ライト
相が生成しやすぐ熱間圧延後の低温変態相の占積率が 90%以上とならない。
[0076] また、鋼板素材の成分組成を満足するように調整された鋼スラブから、前記した熱 間圧延および冷却速度の条件を満たさな!/ヽ条件で製造された鋼板であっても、次の ような予備焼鈍を行うことによって、低温変態相の占積率が 90%以上である鋼板素 材に調整することができる。この予備焼鈍は、熱延鋼板を Ac点以上の温度域に 5秒
3
以上保持した後、 10°CZ秒以上の冷却速度で 350°C以下の冷却停止温度まで冷 却する熱処理である。前記した鋼板を Ac点以下の温度域に保持した場合、フェライ
3
ト相が生成し、占積率が 90%以上とならない。また、前記した鋼板を Ac点以上の温
3
度域に保持する場合でも、保持時間が 5秒未満では金属組織のオーステナイトィ匕が 不十分なため、占積率が 90%以上とならない。この予備焼鈍の条件を満たす限り、 焼鈍温度、保持時間、冷却速度の上限および冷却停止温度の下限は特に定めない
[0077] 次に、本実施形態の高強度鋼板の熱処理工程について説明する。本実施形態の 高強度鋼板は、鋼板素材を所定の焼鈍工程および焼戻し工程力 なる熱処理をす ることによって得られる。この焼鈍工程は、前記鋼板素材を Ac点以下 Ac点 50°C
3 3 以上の温度に 30秒以上 1200秒以下の時間、加熱保持した後、 10°CZ秒以上の冷 却速度で Ms点以下まで冷却する熱処理である。この焼鈍工程を経ることによって、 前記した占積率が 80%以上のマルテンサイト相が形成される。また、鋼板素材を Ac
3 点以下 Ac点— 50°C以上の温度に加熱 '保持した際に生成するオーステナイト結晶
3
粒のサイズは、実施形態の高強度鋼板の焼戻しマルテンサイト相の結晶粒径に影響 を及ぼす。すなわち、本実施形態の高強度鋼板のように、平均粒径が 10 /z m以下で あり粒径が 10 mより大きい焼戻しマルテンサイト相の占積率が 15%以下である、微 細な焼戻しマルテンサイト相を得るには、鋼板素材を Ac点以下 Ac点 50°C以上
3 3
の温度に加熱'保持することが必要である。このような微細な焼戻しマルテンサイト相 が形成された金属組織の鋼板は、高強度かつ高延性の特性を有する。
この焼鈍工程において、オーステナイト単相が安定な Ac点より高い温度域で鋼板
3
素材を保持すると、オーステナイトの結晶粒が成長して互いに合体して粗大化するた め、本実施形態の高強度鋼板のような微細な焼戻しマルテンサイト相を有する金属
組織にすることができない。その結果、高強度鋼板の伸びフランジ性が低くなる。また
、 Ac点 50°Cよりも低い温度で鋼板素材を保持すると、オーステナイト化が十分に
3
進まず、熱処理後の高強度鋼板の焼戻しマルテンサイト相の占積率は、本実施形態 の高強度鋼板よりも低くなる。その結果、高強度鋼板の伸びフランジ性が低くなる。し たがって、前記保持温度は、 Ac点以下 Ac点— 50°C以上とした。
3 3
[0078] この焼鈍工程において保持時間が 30秒未満の場合、オーステナイト相が十分に生 成しないため、この焼鈍工程後に微細なマルテンサイト相を得ることができない。保 持時間が 1200秒より長い場合、生成するオーステナイト結晶粒が粗大化してしまう ので、前記した微細な焼戻しマルテンサイト相を得ることができない。そのため、保持 時間は、 30秒以上 1200秒以下の範囲であることが必要であり、好ましくは 120秒以 上 600秒以下の範囲である。
[0079] また、この焼鈍工程にぉ 、て、冷却速度が 10°CZ秒未満、または、冷却停止温度 がオーステナイト相から焼戻しマルテンサイト相への変態が開始する Ms点より高い 場合、ベイナイト相、残留オーステナイト相、パーライト相、フェライト相の生成ゃセメ ンタイト相の析出が起こり、マルテンサイト相以外の相が多く形成されるため、マルテ ンサイト相の占積率を上げることができな 、。そのため鋼板の伸びフランジ性が低く なる。冷却速度は速ければ速いほど、冷却停止温度は低ければ低いほど、焼戻しマ ルテンサイト相の占積率を上げることができる。
[0080] 次に焼戻し工程について説明する。前記焼鈍工程を経た前記鋼板素材は、 300°C 以上 550°Cの温度に 60秒から 1200秒保持される。前記焼鈍工程を経た前記鋼板 素材の金属組織には、微細なマルテンサイト相が形成されている。このマルテンサイ ト相を焼戻すことにより前記鋼板素材を軟化させて、焼鈍マルテンサイト相やフェライ ト相の硬度差を低減することにより、延性とともに優れた伸びフランジ性を得ることが できる。
[0081] この焼戻し工程での保持温度が 300°C未満では、焼戻しマルテンサイト相の硬度 が高すぎるため、鋼板の伸びフランジ性が低下する。一方、保持温度が 550°Cより高 V、場合、残留オーステナイト相の分解によって生成したセメンタイト相が粗大化して、 鋼板の伸びフランジ性が低下する。
また、この焼戻し工程での保持時間が 60秒未満の場合、焼戻しマルテンサイト相の 硬度が高すぎるため、鋼板の伸びおよび伸びフランジ性が低下する。一方、保持時 間が 1200秒より長い場合、セメンタイト相が粗大化し、鋼板の伸びフランジ性が低下 する。この焼戻し工程での保持時間は、 60秒以上 1200秒以下である力 好ましくは 90秒以上 900秒以下であり、より好ましくは 120秒以上 600秒以下である。
[0082] 前記焼鈍工程およびこの焼戻し工程を経た鋼板素材は本実施形態の高強度鋼板 となり、高引張強度および高延性の特性に加え、伸びフランジ性が高い特性も有す る。そのため、この高強度鋼板は、優れたプレス成形性を備えた鋼板として自動車を 始めとする様々な工業製品に使用されるものである。
[0083] (実施例 2)
以下、本実施形態の高強度鋼板およびその製造方法の作用'効果について、実施 例を用いて説明する。
まず、本実施例で試験した試験鋼板の作製方法について説明する。本実施例にお V、て、表 5に示す成分組成を有する鋼記号 A〜Yで表される成分組成の鋼スラブに ついて試験を実施した。これらの A〜Yの成分組成の鋼スラブから、表 6および 7に示 すように、熱延条件、予備焼鈍条件、焼鈍工程および焼戻し工程を変化させた 56種 類の試験鋼板を作製し、それらの引張強度、延性、伸びフランジ性等の特性を測定 した。 A〜Yの成分組成の鋼スラブのうち、 B、 C、 E, F、 I、 J、 L、 N〜Yが実施形態の 実施例に該当する成分組成の鋼スラブである。他の成分組成の鋼スラブは、本実施 形態の成分組成に該当しないものであり、表 6および 7からわ力るように、これらの鋼 スラブ力 作製された試験鋼板は比較例となる。これらの A〜Yの各成分組成の鋼ス ラブを 850°Cの仕上温度で熱間圧延し 3mmの厚さの 56種類の試験鋼板(No. 1〜 56)にし、表 6に示す所定の温度で巻き取った。さらに、 No. 1〜45の各試験鋼板を 酸洗してスケールを除去し、冷間圧延により 1. 2mmの厚さにした。その後、試験鋼 板 2と 11を除く各試験鋼板を表 6に示す所定の条件で予備焼鈍した。この後、 No. 1 〜56の各試験鋼板を表 7に示す所定の条件の焼鈍工程および焼戻し工程の熱処 理をして、それぞれ測定用の試験鋼板とした。
[0084] [表 5]
化学成分 (質 s%) 変態温度 (°c)
備考 c Si Mn P S Al Mo Cr Ti Nb V その他 Ac3 Ms
A 0.02 1.52 1.90 0.012 0.002 0.027 91 1 489 比較例
B 0.06 1.51 1.93 0.003 0.001 0.026 882 469 実施例
C 0.22 1.51 2.05 0.006 0.002 0,031 837 389 実施例
D 0.35 1.49 1.98 0.005 0.002 0.032 813 330 比較例
E 0.18 0.05 2.03 0.008 0.001 0.029 782 409 実施例
F 0.16 2.88 2.05 0.008 0.002 0.033 915 418 実施例
G 0.21 3.25 2.08 0.018 0.001 0.028 924 393 比較例
H 0.19 1.51 0.41 0.009 0.003 0.026 893 457 比較例
I 0.20 1.49 0.56 0.009 0.001 0.028 887 448 実施例
J 0.22 1.48 2.95 0.004 0.002 0.031 80S 359 実施例
K 0.19 1.50 3.25 0.007 0.001 0.033 809 364 比較例 し 0.21 1.48 1.94 0.016 0.002 0.088 871 397 実施例
M 0.20 1.49 1.98 0.009 0.003 0.110 & 77 401 比較例
N 0.18 1.50 2.08 0.015 0.001 0.031 0.20 858 403 実施例
O 0.19 1.52 1.92 0.012 0.002 0.026 0.10 0.20 852 402 実施例
P 0.22 1.51 2.95 0.005 0.002 0.027 0.05 828 359 実施例
Q 0.21 1.51 2.05 0.006 0.002 0.028 0.025 838 394 実施例
R 0.20 1.48 1.90 0.006 0.001 0,031 0.10 855 404 実施例
S 0.19 1.52 2.10 0.008 0.001 0.031 0.05 0.05 870 402 実施例
T 0,20 1.47 2.04 0.015 0.003 0.027 0.024 0.05 850 399 実施例 u 0.18 1.49 1.99 0.009 0.002 0.048 856 409 実施例
V 0,17 1.43 2.03 0.011 0.003 0.051 Ni: 0.2 854 408
I 実施例 w 0.16 1.52 1.96 0.012 0.003 0.047 863 416 実施例
X 0.17 1.49 2.11 0.008 0.002 0.040 B: 0.003 851 408 実施例
Y 0.18 1.38 1.89 0.01 1 0.003 0 45 Ca+REM: 0.001 855 413 実施例
注) 残部成分は Feおよび不可避的不«物である。
表 6からわ力るように、実施例に該当する鋼板は、すべて低温変態相の占積率が 9%以上であり、鋼板素材の条件に該当するものである。
6]
熱延条件 予備焼鈍条件 焼鈍前組緣
試験鋼板 鋼記号 仕上温度 加熱温度保持時間冷却速度冷却停止 M+残留 r 備考
相構成
No. (。c) c°o (°C) (秒) (°cz秒) 温度(°c) 占積率 (%)
1 A 850 500 930 120 600 20 100 比較例
2 B 850 300 一 - 一 ― a -hM 85 比較例
3 B 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
4 C 850 500 800 120 600 20 +Μ 80 比較例
5 C 850 500 930 120 600 20 100 実施例
6 C 850 500 930 2 600 20 a -hM 80 比較例
7 C 850 500 930 10 600 20 Qf +M 90 実施例
8 C 850 500 930 600 600 20 M 100 実施例
9 C 850 500 930 120 5 20 a +M 70 比較例
10 C 850 500 930 120 600 500 B 0 比較例
11 C 850 300 - - 一 ― a +M 95 実施例
12 D 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
13 E 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
14 F 850 500 930 120 600 20 100 実施例
15 G 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
16 H 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
17 I 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
18 J 850 500 930 120 600 20 100 実施例
19 K 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
20 し 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
21 M 850 500 930 120 600 20 100 比較例
22 N 850 500 930 120 600 20 100 比較例
23 N 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
24 N 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
25 N 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
26 N 850 500 930 120 600 20 100 比較例
27 N 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
28 N 850 500 930 120 600 20 100 実施例
29 N 850 500 930 120 600 20 100 比較例
30 N 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
31 N 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
32 N 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
33 N 850 500 930 120 600 20 100 実施例
34 N 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
35 N 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
36 N 850 500 930 120 600 20 M 100 比較例
37 N 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
38 N 850 500 930 120 600 20 100 実施例
39 N 850 500 930 120 600 20 100 比較例
40 O 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
41 P 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
42 Q 850 500 930 120 600 20 100 実施例
43 R 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
44 S 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
45 T 850 500 930 120 600 20 M 100 実施例
46 u 900 500 930 180 700 20 M 100 実施例
47 V 900 500 930 120 700 20 100 実施例
48 w 900 500 930 120 700 20 M 100 実施例
49 X 900 500 930 180 700 20 100 実施例
50 Y 900 500 930 240 700 20 100 実施例
51 u 900 250 - - 一 - M 100 実施例
52 u 950 300 一 - - - M 100 実施例
53 u 900 200 ― - 一 - M 100 実施例
54 V 920 280 一 - - - M 100 実施例
55 w 920 300 ― - 一 ― M 100 実施例
56 X 920 300 ― ― 一 M 100 実施例
注) M:マルテンサイト相、 α :フェライト相、 B :ベイナイト相、残留 残留オーステナイト相 表 7に示すように、作製した 56種類の試験鋼板のうち、 33種類が本実施形態に 当する実施例に該当するものであり、他は比較例である。
[表 7]
このような工程により作製された 56種類の各試験鋼板につき、引張強度試験およ び伸びフランジ試験を行った。
引張強度試験は、各試験鋼板の圧延方向の垂直方向が試験時の引張方向となる ように、各試験鋼板から採取し^ JIS5号試験片を用いて、 JISZ2241に準拠して実 施した。本試験により、降伏強度 YS、引張強度 TSおよび伸び ELを測定した。
伸びフランジ試験は、鉄鋼連盟規格 (JFST1001— 1996)に準拠して実施し、穴 拡げ率えを測定した。
[0088] 56種類の各試験鋼板の特性測定結果を表 8および表 9に示す。表 8および表 9〖こ おいて、 AMは焼鈍マルテンサイト相を、 TMは焼戻しマルテンサイト相、残留 γは残 留オーステナイト相を示す。残留オーステナイト相の占積率は、検出限界以下の場 合 0%とした。
本試験結果において、引張強度が 780MPa以上の場合、実用上十分な強度特性 であり、本発明の引張強度の条件を満たす。また、伸び (延性)および伸びフランジ 性については、それぞれ 10%以上および 80%以上の場合に、優れた特性であると みなす。伸びフランジ性に関しては、 100%以上の場合、特に優れた特性であると判 定する。
また、引張強度: TS≥780MPa、伸び: EL≥10%、穴拡げ率: λ≥80%のすベ ての条件を満たす試験鋼板を本発明にかかる高強度鋼板に該当するものとする。こ れら 3つの条件のすべてを満たし、かつ、穴拡げ率が特に優れる(λ≥100%)試験 鋼板を:◎、全条件を満たす試験鋼板 :〇、 3条件中、 2条件を満たす試験鋼板:△、 3条件中、 1条件以下しか満たさない試験鋼板を: Xと判定した。
[0089] [表 8]
金属組織パラメータ 力学特性
試験鋼板 ΤΜの TMの 残留 の 10 m以
鋼記号 YS TS EL λ 判定 備考
No. 平均粒径 占積率 占積率 上の TMの
(%) (%) 占積率 (%) ( Pa) (MPa) (%) (%)
1 A 6.8 89 0 8 365 608 32.2 70.1 X 比較例
2 B 8.8 87 0 18 523 752 28.7 82.7 Δ 比較例
3 B 7.0 89 0 7 598 801 26.5 122.2 ◎ 実施例
4 C 9.2 88 0 18 961 101 1 8.5 61.2 X 比較例
5 C 6.2 88 0 1 1 953 1052 1 1.6 105.2 ◎ 実施例
6 C 1 1.4 88 0 20 81 1 1084 フ.6 45.4 X 比較例
7 C 9.7 88 0 12 862 1098 12.1 83.4 〇 実施例
8 C 7.0 88 0 10 873 1065 12.7 103.8 ◎ 実施例
9 C 9.8 88 0 18 795 1035 8.9 65.2 X 比較例
10 C 1 1 .0 88 0 20 888 1069 8.6 75.8 X 比較例
1 1 C 8.4 88 0 12 996 1 127 12 98.9 〇 実施例
\2 D 6.6 89 0 7 887 1220 1 Ί.2 76.2 Δ 比較例
13 E 7.6 89 0 1 1 778 967 13.9 90.5 Ο 実施例
14 F 6.6 89 0 8 898 1263 15.8 1 14.2 ◎ 実施例
15 G 8.0 87 0 8 1091 1318 10.3 67.7 厶 比較例
16 H 7.2 87 6 11 932 101 1 8.3 46.2 X 比較例
17 I 6.2 88 3 6 963 1081 10.3 89.1 〇 実施例
18 J 7.4 90 0 8 101 1 1 122 1 1.3 81.1 〇 実施例
19 κ 6.8 90 0 1 1 1 194 1271 7.3 48.3 X 比較例
20 し 7.6 91 0 7 785 823 34.7 106.4 ® 実施例
21 Μ 8.2 フ 8 0 10 763 845 36.2 65.4 厶 比較例
22 Ν 12.7 100 0 62 1 120 1265 8.1 81.7 Δ 比較例
23 Ν 7.0 92 0 13 996 1063 12.2 88.3 〇 実施例
24 Ν 8.6 88 0 11 902 1003 15.7 86.9 Ο 実施例
25 Ν 8.4 72 0 12 855 980 1 7.8 58.7 厶 比較例
26 ISI 7.0 62 0 9 913 969 15.2 61.7 厶 比較例
27 Ν 8.0 81 0 10 909 1029 12.2 91.5 〇 実施例
28 Ν 9.4 88 0 13 1056 1 101 10.4 85.4 〇 実施例
29 Ν 1 1.7 88 0 24 1 101 1248 7.2 96.0 Δ 比較例
30 Ν 8.0 72 0 7 678 758 16.7 80.2 Δ 比較例
31 Ν 8.2 23 8 10 798 866 20.2 34.4 厶 比較例
32 Ν 7.2 88 6 5 1229 1499 8.2 39.3 X 比較例
33 Ν 7.4 88 2 6 1 129 1225 10.2 83.8 〇 実施例
34 Ν 7.2 88 0 12 1078 1 158 1 1.4 89.2 〇 実施例
35 Ν 9.6 88 0 16 597 778 16.7 45.0 厶 比較例
36 Ν フ.0 88 7 6 826 1205 12.3 40.6 Δ 比較例
37 Ν 6.9 88 3 7 972 1258 10.3 85.6 〇 実施例
38 Ν 7.2 88 0 7 1023 1 181 1 1.5 91.3 〇 実施例
39 Ν 10.2 88 0 17 606 798 16.5 51.6 Δ 比較例
40 Ο 6.2 89 0 7 1014 1 150 12.3 86.5 〇 実施例
41 Ρ 6.4 90 0 6 987 1097 1 1.9 82.2 〇 実施例
42 Q 6.2 88 0 6 960 983 10.3 98.3 〇 実施例
43 R 6.4 88 0 8 936 952 10.9 96.2 〇 実施例
44 S 6.6 92 0 8 1023 1095 10.4 88.5 〇 実施例
45 τ 6.3 89 0 7 1008 1 109 ί 3.3 83.4 〇 実施例 ]
金属組織パラメータ 力学持性
試験鋼板 AMの TMの TMの 残留 の l OjU m以
鋼記号 TS EL λ 判定 備考
No. 占積率 平均粒径 占積率 占積率 上の TMの
(%) (%) ( ) 占積率 (%) (MPa) (%) (%)
46 a 1 1 8.3 89 0 10 813 31.5 108.3 ® 実施例
47 b 10 8.5 90 0 9 837 30.8 98.9 〇 実施例
48 c 10 8.6 90 0 8 870 28.3 92.1 〇 実施例
49 d 15 7.2 85 0 12 860 28.3 93.7 〇 実施例
50 e 16 7.4 84 0 1 1 887 21.9 97.5 〇 実施例
51 a 1 1 8.3 89 0 9 844 28.9 92.4 〇 実施例
52 a 15 7.4 85 0 13 825 30.1 89.3 〇 実施例
53 a 16 7.6 84 0 13 838 26.9 96.6 〇 実施例
54 b 9 8.1 91 0 7 913 17.3 1 15.0 ◎ 実施例
55 c 10 8.4 90 0 8 942 15.3 109.3 ◎ 実施例
56 d 14 7.5 86 0 1 1 933 14.9 107.4 ◎ 実施例
[0091] 以下表 8の試験鋼板の特性測定結果について説明する。
試験鋼板 No. 3, 5, 7, 8, 11, 13, 14, 17, 18, 20, 23, 24, 27, 28, 33, 34, 37, 38, 40〜45は、いずれも本実施形態の高強度鋼板の成分組成に該当する鋼 スラブ(表 5の B, C, E, F, I, J, L, N〜T)力も作製されたものである。また、表 6およ び表 7からわ力るように、これらの試験鋼板の焼鈍工程前の金属組織のマルテンサイ ト相および残留オーステナイト相の占積率並びに焼鈍工程および焼戻し工程は、本 実施形態の高強度鋼板の条件に該当するものである。これらの試験鋼板はすべて本 発明の引張強度、伸びおよび伸びフランジ性の条件を満たす。
[0092] 表 9の各試験鋼板 (No. 46〜56)はすべて本発明の引張強度、伸びおよび伸びフ ランジ性の条件を満たす。
[0093] 実施形態の高強度鋼板に該当する試験鋼板のうち、 No. 3, 5, 8, 14, 20は伸び フランジ性が特に優れる。これらの試験鋼板の残留オーステナイト相の占積率は 0% であり、その焼戻しマルテンサイト相は平均粒径が比較的小さぐ 10 m以上の結晶 粒サイズの焼戻しマルテンサイト相の占積率が比較的低 、。
[0094] 比較例の試験鋼板にっ 、て、本発明に力かる高強度鋼板の条件を満たさな力 た 理由について説明する。
試験鋼板 No. 1は、 C量が少ない鋼スラブ Aから作製されたため、引張強度が低い 試験鋼板 No. 2は、焼鈍工程前の状態での金属組織におけるマルテンサイト相お よび残留オーステナイト相の占積率が低力つたため、焼戻しマルテンサイト相の結晶 粒が粗大化して、強度および伸びフランジ性が低下した。
試験鋼板 No. 4は、予備焼鈍の温度が Ac点より低力つたため、焼鈍工程前の状
3
態での金属組織において、低温変態相の占積率が低くなり、焼戻しマルテンサイト相 の結晶粒が粗大化したために、延性および伸びフランジ性が低!、。
[0095] 試験鋼板 No. 6は、予備焼鈍における保持時間が短力つたため、焼鈍工程前の状 態での金属組織におけるマルテンサイト相および残留オーステナイト相の占積率が 低くなり、焼戻しマルテンサイト相の結晶粒が粗大化した。その結果、伸びおよび伸 びフランジ性が低い。
試験鋼板 No. 9は、予備焼鈍後の冷却が遅力つたために、焼鈍工程前の状態での 金属組織におけるマルテンサイト相および残留オーステナイト相の占積率が低くなり 、焼戻しマルテンサイト相が粗大化した。その結果、伸びおよび伸びフランジ性が低 い。
試験鋼板 No. 10は、予備焼鈍後の冷却停止温度が高力つたため、焼鈍工程前の 状態での金属組織におけるマルテンサイト相および残留オーステナイト相の占積率 が低くなり、焼戻しマルテンサイト相が粗大化した。その結果、伸びおよび伸びフラン ジ'性が低い。
試験鋼板 No. 12は、焼戻し工程後の金属組織は実施形態の高強度鋼板のものに 該当するものである力 本試験鋼板は C量が多 、鋼スラブ D力も作製されたものであ るため、フェライト相の一部である焼鈍マルテンサイト相と焼戻しマルテンサイト相の 強度差を十分に低減されていない。その結果、伸びフランジ性が低くなつた。
[0096] 試験鋼板 No. 15は、焼戻し工程後の金属組織は実施形態の高強度鋼板のものに 該当するものである力 本試験鋼板は Si量が多 、鋼スラブ G力 作製されたものであ る。そのため、焼戻しマルテンサイト相が十分に焼戻されず、フェライト相の一部であ る焼鈍マルテンサイト相と焼戻しマルテンサイト相の強度差が十分に低減されていな
い。その結果、伸びフランジ性が低くなつた。
試験鋼板 No. 16は、 Mn量の少ない鋼スラブ H力 作製されたため、焼入れ性が 十分でないため、焼鈍工程後に残留オーステナイト量が多く残存した。その結果、伸 びおよび伸びフランジ性が低くなつた。
試験鋼板 No. 19は、 Mn量の多い鋼スラブ Kカゝら作製されたため、焼戻し工程後 の金属組織中のマルテンサイト相および残留オーステナイト相の占積率やサイズは、 実施形態の高強度鋼板のものに該当するが、 Mnの偏祈が発生した。その結果、伸 びおよび伸びフランジ性が低くなつた。
試験鋼板 No. 21は、 A1添カ卩量が多い鋼スラブ Mカゝら作製された。そのため、鋼材 表面の表面疵が多くなつた。その結果、伸びフランジ性が低くなつた。
[0097] 試験鋼板 No. 22は、焼鈍工程において Ac点以上に加熱したため、オーステナイ
3
ト相の結晶粒が粗大化した。その結果、延性が低下した。
試験鋼板 No. 25は、焼鈍工程における加熱 ·保持温度が Ac点 50°Cより低かつ
3
たため、オーステナイト相が十分に生成しな力つた。その結果、焼戻しマルテンサイト 相の占積率が低くなり、伸びフランジ性が低くなつた。
試験鋼板 No. 26は、焼鈍工程における Ac点以下 Ac点 50°C以上での保持時
3 3
間が短すぎたため、オーステナイト相が十分に生成しな力つた。その結果、マルテン サイト相の占積率が低くなり、伸びフランジ性が低くなつた。
試験鋼板 No. 29は、焼鈍工程における Ac点以下 Ac点 50°C以上での保持時
3 3
間が長すぎたため、オーステナイト相の結晶粒が粗大化した。その結果、マルテンサ イト相の結晶粒径が粗大化し、延性が低くなつた。
[0098] 試験鋼板 No. 30は、焼鈍工程後の冷却が遅すぎたため、焼戻しマルテンサイト相 以外の相が生成され、焼戻しマルテンサイト相の生成が十分に起きな力つた。その結 果、引張強度が低くなつた。
試験鋼板 No. 31は、焼鈍工程後の冷却停止温度が Ms点より高力つたため、マル テンサイト相生成が不十分だった。その結果、焼戻しマルテンサイト相の占積率が低 くなり、伸びフランジ性が低くなつた。
試験鋼板 No. 32は、焼戻し工程における加熱'保持温度が下限値より低力 たた
め、焼戻しマルテンサイト相の転位密度が低下せず、ひずみが十分に緩和されなか つた。その結果、伸びおよび伸びフランジ性が低くなつた。
[0099] 試験鋼板 No. 35は、焼戻し工程における焼戻し工程の加熱 ·保持温度が上限値 よりも高力 たため、セメンタイトが析出した。その結果、伸びフランジ性が低くなつた 試験鋼板 No. 36は、焼戻し工程における加熱 ·保持時間が短すぎたため、残留ォ ーステナイト相の占積率が十分低下しなかった。また、焼戻しマルテンサイト相の転 位密度が低下せず、ひずみが十分に緩和されな力つた。その結果、伸びフランジ性 が低くなつた。
試験鋼板 No. 39は、焼戻し工程における加熱 ·保持時間が長すぎたため、セメン タイトが析出した。その結果、伸びフランジ性が低くなつた。
[0100] (3)
また、以下に、本発明のさらに他の実施形態を詳細に説明する。
本発明者らは、フェライト相とマルテンサイトの複合組織鋼板 (DP鋼板)を用いるこ とを前提とし、この DP鋼板の特徴である強度と伸びの両立だけでなぐ伸びフランジ 性をも良好にするための要件について様々な角度力 検討した。その結果、本発明 者らは、素材鋼板として(すなわち、初期組織として)、微細なラス状組織 (マルテンサ イトおよび Zまたはべイナイト)を有する鋼板に対して、 2相域 (フェライト +オーステナ イト領域)での焼鈍 (以下、「2相域焼鈍」と呼ぶ)を施すことによって、非常に微細なフ エライト +マルテンサイトの複合組織が得られることを見出した。また、本発明者らは、 このような組織の鋼板では、伸びおよび伸びフランジ性が良好になることを見出した。
[oioi] 上記のような微細なラス状組織 (マルテンサイトおよび Zまたはべイナイト)を有する 鋼板では、 2相域焼鈍によって生成するフ ライトが微細分散し、そのピニング効果 によって 2相域焼鈍中のオーステナイトの成長を抑制するため、焼入れ後の組織は 非常に微細なフェライト +マルテンサイト組織となる。また化学成分として鋼板中に Ti , Nb, V, Zr等の結晶粒微細化元素を含有させることによって、組織の一層の微細 化が図れるものとなる。このようにして、得られる複合組織鋼板では、伸びおよび伸び フランジ性が更に向上したものとなるのである。
[0102] 本発明の高強度鋼板は、フェライト相およびマルテンサイトを主体とする複合組織 鋼板である力 上記目的を達成するためには、これらの相のそれぞれの全組織に対 する占積率も適切に調整されている必要がある。すなわち、本発明の高強度鋼板で は、フェライト相およびマルテンサイトの占積率は、それぞれ 5〜30%、 50〜95%で ある。
[0103] フェライト相の占積率が 5%未満では、良好な伸びを確保することができなくなる他 、オーステナイトの成長を抑制するピユング効果が希薄になり、 30%を超えると、伸 びフランジ性が劣化する。フェライト相の好ましい占積率は、 7%以上、 25%以下で ある。
[0104] マルテンサイトの占積率が 50%未満では伸びフランジ性が低下し、 95%を超えると 伸びが低下する。マルテンサイト相の好ましい占積率は 70%以上、 85%以下である
[0105] なお、上記占積率とは、鋼材中の金属組織を構成する各相の全組織に対する比率
(体積%)の意味であり、鋼材をナイタール腐食し、光学顕微鏡(1000倍)で観察後 、画像解析することによってフェライト相およびマルテンサイトの占積率を求めることが できる。
[0106] 本発明の高強度鋼板では、上記フェライト相の平均粒径が円相当直径で 以 下であると共に、前記マルテンサイト相の平均粒径が円相当直径で 6 m以下である ことが好ましい。これらの大きさが大きくなると、伸びおよび伸びフランジ性が低下す る。なお、これらの相の「平均粒径」とは、例えば、光学顕微鏡や FEZSEM— EBSP による組織観察により、 20個の粒径を求め、それらを平均化して求めたものである。
[0107] 本発明にカゝかる複合組織鋼板は、主たる組織がフェライト相とマルテンサイトからな るものであるが、これらの相だけで必ずしも 100%となっている必要はなぐ主体とす るという趣旨力もして少なくともその総和が占積率で 70%以上、好ましくは 80%以上 であり、残部組織 (若しくは相)としてべイナイト、パーライト、残留オーステナイト等を 含むことも許容している。但し、これらの組織は、伸びフランジ性を低下させないという 観点からできるだけ少な 、方が好ま 、。
[0108] 本発明の鋼板では、組織が上記のように制御されることによって、良好な伸びおよ
び伸びフランジ性を示すものとなる力 強度(引張強度 TSで 590MPa以上)等の点 を考慮した好ましい成分組成は、 C : 0. 05〜0. 3%、 Si: 0. 01〜3%、 Mn: 0. 5〜 3. 0%、 A1: 0. 01〜0. 1%をそれぞれ含む他、 Ti、Nb, Vおよび Zrよりなる群から 選ばれる少なくとも 1種の元素を合計で 0. 01〜1%含み、残部が鉄および不可避的 不純物であるものが挙げられる。これらの好ましい範囲の規定理由は次の通りである
[0109] [C : 0. 05〜0. 3%]
Cは、マルテンサイトを生成させて鋼板の強度を高める上で重要な元素である。こう した効果を発揮させるためには、 Cの含有量は 0. 05%以上とすることが好ましい。高 強度化の観点力 すると C含有量は多いほど好ましいが、多過ぎると伸びフランジ性 を劣化させる残留オーステナイトが多量に生成してしまう他、溶接性にも悪影響を及 ぼす様になるので、 0. 3%以下とすることが好ましい。 C含有量のより好ましい下限は 0. 07%であり、より好ましい上限は 0. 25%である。
[0110] [Si: 0. 01〜3%]
Siは、鋼を溶製する際に脱酸性元素として有効に作用する他、鋼の延性を劣化さ せることなく強度を高める有効な元素であり、更には伸びフランジ性を劣化させる粗 大な炭化物の析出を抑える作用も有している。これらの効果を有効に発揮させるには
0. 01%以上の含有させることが好ましい。し力しながら、 Siによる添加効果は約 3% で飽和するので、好ましい上限を 3%と定めた。 Si含有量のより好ましい下限は 0. 1 %であり、より好ましい上限は 2. 5%である。
[0111] [Mn: 0. 5〜3. 0%]
Mnは鋼板の焼入れ性を高めて高強度を確保するうえで有用な元素であり、こうし た効果を発揮させるためには 0. 5%以上含有させることが好ましい。し力しながら、 M n含有量が過剰になると、延性を低下させて加工性に悪影響を及ぼす様になるので 、 3. 0%を上限とする。より好ましい Mn含有量は 0. 7%以上、 2. 5%以下である。
[0112] [A1: 0. 01〜0. 1%]
A1は脱酸作用を有する元素であり、 A1脱酸を行う場合は 0. 01%以上の A1を添カロ する必要がある。しかし A1含有量が多過ぎると、上記効果が飽和するばかりか、非金
属系介在物源となって物性や表面性状を劣化させるので、 0. 1%を上限とする。 A1 のより好ましい含有量は 0. 03%以上、 0. 08%以下である。
[0113] [Ti、 Nb, Vおよび Zrよりなる群力も選ばれる 1種または 2種以上を合計で 0. 01〜1 %]
これらの元素は、 Cや Nと炭化物、窒化物、炭窒化物などの析出物を形成し、強度 向上に寄与する他、熱延時における結晶粒を微細化して伸びおよび伸びフランジ性 を高める作用も有している。こうした効果は、これらの合計(1種または 2種以上)で 0. 01%以上含有させることによって有効に発揮される。より好ましい含有量は 0. 03% 以上である。しかし、多過ぎると伸びおよび伸びフランジ性を却って劣化させるので、 1%以下、より好ましくは 0. 7%以下に抑えるべきである。
[0114] 本発明の複合組織鋼板における好ましい基本成分は上記の通りであり、残部は鉄 および不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、鋼原料もしくはその 製造工程で混入し得る P, S, N, Oなどが挙げられる。
[0115] 本発明の鋼板には、必要に応じて、(a) Niおよび Zまたは Cuを合計で 1%以下 (0 %を含まな 、)、 (b) Cr: 2%以下(0%を含まな 、)および Zまたは Mo: 1%以下(0 %を含まない)、 (c) B : 0. 0001〜0. 005%、(d) Caおよび/または REMを合計で 0. 003%以下 (0%を含まない)、等を含有させることも有用であり、含有される成分 の種類に応じて鋼板の特性が更に改善される。これらの元素を含有させるときの範囲 設定理由は以下の通りである。
[0116] [Niおよび Zまたは Cuを合計で 1%以下 (0%を含まない)]
これらの元素は、強度-延性バランスを高く維持したまま、高強度化を実現するの に有効な元素である。こうした効果はそれらの含有量が増加するにつれて増大する 力 合計(1種または 2種)で 1%を超えて含有させても上記効果が飽和してしまう他、 熱延時に割れが生じる恐れがある。なお、これらの含有量のより好ましい下限は 0. 0 5%であり、より好ましい上限は 0. 7%である。
[0117] [Cr: 2%以下(0%を含まな 、)および Zまたは Mo: 1%以下(0%を含まな 、) ]
Crと Moは、いずれもオーステナイト相を安定ィ匕し、冷却過程での低温変態相の生 成を容易にするのに有効な元素であり、その効果は、含有量が増加するにつれて増
大するが、過剰に含有されると延性が劣化するので、 Crは 2%以下 (より好ましくは 1 . 5%以下)、 Moは 1%以下(より好ましくは 0. 7%以下)に抑えるべきである。
[0118] [B: 0. 0001〜0. 005%]
Bは焼入れ性を向上し、微量で鋼板の強度を高めるのに有効な元素である。こうし た効果を発揮させるためには、 0. 0001%以上含有させることが好ましい。しかしな がら、 Bの含有量が過剰になって 0. 005%を超えると、結晶粒界が脆化して圧延時 に割れが生じるおそれがある。
[0119] [Caおよび Zまたは REMを合計で 0. 003%以下(0%を含まない)]
Caおよび REM (希土類元素)は、鋼中の硫化物の形態を制御し、加工性向上に有 効な元素である。こうした効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、過剰 に含有されると、上記効果が飽和するので 0. 003%以下とすべきである。
[0120] 次に、上記のような組織を有する高強度鋼板を製造する方法について説明する。
上記のような高強度鋼板を製造するには、全組織に占めるマルテンサイトおよび Zま たはべイナイト (以下、これらの両相を「低温変態相」と呼ぶことがある)の合計の占積 率が 90%以上であると共に、旧オーステナイト粒径が円相当直径で 20 μ m以下であ る鋼板を用いて、所定の熱処理を施す必要がある。
[0121] 本発明で用いる素材鋼板は、低温変態相の占積率が 90%以上のものである。この 低温変態相は、マルテンサイトまたはべイナイトのみ力 構成されていてもよい。低温 変態相の占積率が 90%未満の場合、後述する焼鈍工程 (最終焼鈍工程)において フェライト相とオーステナイト相の 2相域に加熱(2相域焼鈍)した場合に、粗大なフエ ライト相およびオーステナイト相が生成するため、最終組織にぉ ヽて前記した微細な フェライト相およびマルテンサイトを得ることができない。その結果、伸びフランジ性を 向上させることができなくなる。
[0122] 低温変態相の占積率を 90%以上であるような素材鋼板は、次のような工程によつ て製造することができる。まず上記のような化学成分組成を満足するように調整され た鋼スラブを用い、仕上げ圧延温度が Ac点以上となるように熱間圧延を行い、その
3
後、 10°CZ秒以上の平均冷却速度で、マルテンサイト変態開始温度 Ms点 (オース テナイト相がマルテンサイトに変態を開始する温度)よりも低い温度まで冷却した後、
巻き取ることによって、マルテンサイトの占積率が 90%以上であるような素材鋼板が 得られる。また、熱間圧延後、 10°CZ秒以上の平均冷却速度で、ベイナイト変態温 度まで冷却し、巻き取ることによって、ベイナイトを主体とする低温変態相の占積率が 90%以上の素材鋼板が得られる。仕上げ圧延温度が Ac点以下または熱間圧延後
3
の冷却速度が 10°CZ秒未満では、熱間圧延後の冷却時にフ ライト相が生成しや すくなって、熱間圧延後の低温変態相の占積率が 90%以上とはならない。
[0123] 上記熱間圧延工程にぉ 、ては、組織の微細化と!/、う観点から、所定の加熱温度、 およびその加熱温度で保持する時間(保持時間)も適切に調整するのがよい。本発 明では、マイクロアロイ (Ti, Nb, V, Zr等)を微細析出させることによるピユング効果 を活用し、オーステナイト粒径を微細化させるものである力 そのためには熱延前ェ 程で生成した粗大なマイクロアロイの析出を再固溶させる必要がある。そのため、カロ 熱温度およびその保持時間は、マイクロアロイ (Ti, Nb, V, Zr等)の固溶という効果 を発揮させるためには、 1000°C以上、 600秒以上であることが好ましい。加熱温度 およびその保持時間が 1400°C以上、および 1000秒よりも長くなると、オーステナイト 粒径が粗大になるので好ましくな!/、。
[0124] 本発明で用いる素材鋼板は、旧オーステナイト粒径を 20 m以下とする必要があ るが、これは組織微細化による伸びおよび伸びフランジ性の向上と!/、う観点からであ る。すなわち、旧オーステナイト粒径が 20 m以下の素地鋼板に対して最終焼鈍ェ 程および焼戻し工程を施すことにより、粒径が 20 mよりも大きい場合と比べて、最 終組織が微細になり、伸びおよび伸びフランジ性が著しく向上するのである。
[0125] また、上記したような化学成分を満たすように調整された鋼スラブから、前記したよう な熱間圧延および冷却速度を満たさな!/ヽ条件で製造された鋼板であっても、次のよ うな予備焼鈍を行うことによって、低温変態相の占積率を 90%以上とすることができ る(後記表 14の実験 No. 5、 6)。
[0126] こうした予備焼鈍は、上記鋼板を Ac点以上の温度域に 5秒以上保持した後、 10
3
°CZ秒以上の平均冷却速度で Ms点以下またはべイナイト変態温度域まで冷却後保 持する処理である。上記鋼板の保持温度が Ac点未満では、フェライト相が生成しや
3
すくなって、低温変態相の占積率が 90%以上とはならない。また、 Ac点以上の温
度域に鋼板を保持する場合であっても、その保持時間が 5秒未満では、金属組織の オーステナイトィ匕が不十分であるため、占積率が 90%以上とはならない。
[0127] 上記のようにして組織や旧オーステナイト粒径が調整された素材鋼板に対して、下 記のような熱処理 (最終焼鈍工程および焼戻し工程)を施すことによって、フェライト 相およびマルテンサイトの占積率や粒径が適切に調整された高強度鋼板が得られる のである。この際、熱間圧延工程と下記熱処理工程の間に予備焼鈍工程のみだけで なぐ酸洗や冷間圧延工程等が施される場合も、本発明の範囲内である。このときの 熱処理条件における作用効果は次の通りである。
[0128] まず素材鋼板を (Ac点— 100°C)以上、 Ac点以下の温度範囲に 1秒以上、 2400
3 3
秒以下の時間、加熱保持した後、 10°CZ秒以上の冷却速度で Ms点以下 (冷却停 止温度)まで冷却する熱処理を施す。こうした焼鈍工程を経ることによって、前記した 組織 (フ ライトの占積率: 5〜30%、マルテンサイトの占積率: 50〜95%)を有する 鋼板が得られる。また、素材鋼板を (Ac点 100°C)以上、 Ac点以下の温度範囲
3 3
に加熱保持した際に生成するフェライト相およびオーステナイト結晶粒のサイズによ つて、最終的に得られる高強度鋼板におけるフェライト相およびマルテンサイトの平 均結晶粒径が決定されることになる。すなわち、フェライト相の平均粒径が 3 m以下 、マルテンサイトの平均粒径が 6 m以下であるような微細複合組織鋼板を得るため には、素材鋼板を (Ac点— 100°C)以上、 Ac点以下の温度範囲に加熱保持する
3 3
必要がある。
[0129] この焼鈍工程において、オーステナイト単相が安定な Ac点よりも高い温度域で素
3
材鋼板を加熱保持すると、オーステナイトの結晶粒が成長して相互に合体して粗大 化すると共に、微細フェライトによるピユング効果が得られず、微細な複合組織鋼板 を得ることができない。その結果、高強度鋼板の伸びフランジ性が低下することにな る。
[0130] 上記「ピニング効果」とは、以下のようなものである。素地鋼板はマイクロアロイの微 細化効果により、非常に微細化されたラス状の低温変態相を主体とする組織形態を 有しており、このような鋼板を 2相域の高温側に加熱すると、占積率が低く且つ微細 分散したフェライト相が生成する。本発明における「フェライト相」とは、マルテンサイト
またはべイナイトが高温(2相域)で焼鈍される際に生じる焼鈍マルテンサイトまたは 焼鈍べイナイトを指す。こうしたフェライト相が、オーステナイト相の成長、合体を抑制 するため、その後の焼入れ、焼戻し工程で得られる最終組織は、非常に微細なフェラ イト相とマルテンサイトを主体とする組織になるのである。また素材鋼板を (Ac点— 1
3 oo°c)よりも低い温度で加熱保持すると、オーステナイトィ匕が十分に進まず、熱処理 後のマルテンサイトの占積率が 50%未満となって、鋼板の伸びフランジ性が低下す ることになる。
[0131] この焼鈍工程において、加熱保持時間が 1秒未満の場合には、オーステナイト相の 生成が不十分であるので、この焼鈍工程後に占積率で 50%以上のマルテンサイトを 得ることができない。加熱保持時間が 2400秒よりも長い場合には、生成するオース テナイト結晶粒が粗大化してしまうので、前記した微細な複合組織を得ることができな い。こうした観点から、最終焼鈍時の加熱保持時間は、 1秒以上、 2400秒以下の範 囲とする必要がある。好ましくは、 5秒以上、 1200秒未満である。
[0132] 加熱保持後の冷却速度が 10°CZ秒未満であったり、冷却停止温度が Ms点よりも 高くなつたりすると、ベイナイト、残留オーステナイト相、パーライトの生成やフェライト 相の必要以上の生成、およびセメンタイト相の析出が起こり、マルテンサイト以外の組 織が多く形成されるため、マルテンサイトの占積率が低下したり、フェライト相の占積 率や平均結晶粒径が過大になり、伸びや伸びフランジ性の低下につながる。このとき の冷却速度は速ければ速いほど、冷却停止温度は低ければ低いほど、マルテンサイ トの占積率が高くなり易いが、上記 2相域焼鈍の温度と時間を適切に制御しているた め、 95%超にはならない。
[0133] 上記のような焼鈍工程を施した後は、 300〜550°Cの温度範囲に 60秒以上、 120 0秒以下保持するような焼戻し (再加熱処理)を行う必要がある。上記のような焼鈍ェ 程を経た鋼板では、その金属組織には微細な (フェライト相 +マルテンサイト)が形成 されているのであるが、焼鈍ままのマルテンサイトは非常に硬質であり、伸びの低下 につながる。また、マルテンサイトが硬質であるために、軟質なフェライトとの硬度差が 大きぐ伸びフランジ性の低下にもつながる。優れた伸びおよび伸びフランジ性を得 るためには、マルテンサイトを焼鈍ままの硬度よりも軟ィ匕させる必要があり、焼戻しェ
程を施すのである。
[0134] この焼戻し工程での保持温度が 300°C未満では、マルテンサイトの軟質ィ匕が十分 でないので、鋼板の伸びおよび伸びフランジ性が低下することになる。一方、保持温 度が 550°Cよりも高くなると、粗大なセメンタイト相が析出して、鋼板の伸びフランジ性 が低下することになる。
[0135] また焼戻し工程の保持時間が 60秒未満では、マルテンサイトの軟質ィ匕が十分でな いので、鋼板の伸びおよび伸びフランジ性が低下することになる。一方、保持時間が 1200秒よりも長くなると、マルテンサイトが軟質ィ匕し過ぎて強度の確保が困難になつ たり、セメンタイトの析出により、鋼板の伸びフランジ性が低下したりすることになる。こ の保持時間は好ましくは 90秒以上、 900秒以下であり、より好ましくは 120秒以上、 6 00秒以下である。
[0136] 上記のような素材鋼板に対して、上記のような焼鈍 (最終焼鈍)および焼戻しを施す ことによって、フェライト相およびマルテンサイトの占積率および粒径が適切に調整さ れた鋼板が得られ、引張強度が 590MPaの高強度を有し、伸びおよび伸びフランジ 性に優れたものとなる。こうした高強度鋼板は、優れたプレス成形性を備えた鋼板とし て自動車を始めとする様々な鋼製品の素材として使用できるものである。
[0137] (実施例 3)
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はもとより下記 実施例によって制限を受けるものではない。前 ·後記の趣旨に適合し得る範囲で適 当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術 的範囲に含まれる。
[0138] 下記表 10、 11に示す化学成分組成の鋼スラブを準備し、各鋼スラブにっ ヽて下記 表 12、 13に示す熱間圧延条件、予備焼鈍条件にて素材鋼板を作成した。尚、表 10 、 11には、各鋼種について、下記(1)式および(2)式によって求めた Ac点 (Ac変
3 3 態点)およびマルテンサイト変態開始温度 Ms点をも示した。
Ac (。C) = 910— 203 [C]— 15. 2· [Νί] +44. 7· [Si] + 104· [V] + 31. 5 ·
3
[Mo] + 13. 1 · [W]— 330 · [Mn] + 11 · [Cr] + 20 · [Cu]— 720 · [P]— 400 [Al] - 120· [As] -400· [Ti] · ·· (!)
Ms (°C) = 550— 361 · [C]— 39 · [Mn]— 35 · [V]— 20 · [Cr]— 17· [Ni] -10· [Cu] - 5 - [Mo] - 5 [W] + 15 · [Co] + 30 - [Al] ·'·(2)
但し、 [C], [Ni], [Si], [V], [Mo], [W], [Mn], [Cr], [Cu], [P], [Al], [A s], [Ti]および [Co]は、それぞれ C, Ni, Si, V, Mo, W, Mn, Cr, Cu, P, Al, As
, Tiおよび Coの含有量 (質量%)を示す。
[表 10]
*残部:鉄、および P, S以外の不可避的不純物
[0140] [表 11]
*残部:鉄、および P, s以外の不可避的不純物
[0143] 得られた各素材鋼板について、下記表 14、 15に条件を示す最終焼鈍および再加 熱 (焼戻し)を行って試験鋼板を作成し、各試験鋼板の組織 (フ ライト OCの占積率、 フ ライト αの平均粒径、マルテンサイト Μの占積率、マルテンサイト Μの平均粒径) 、および機械的特性(引張強度 TS、伸び EL、穴拡げ率 λ )を下記の方法によって測 定した。尚、下記表 14、 15には、最終焼鈍前の組織 [相構成、低温変態相占積率、 旧オーステナイト( γ )粒径]につ 、ても示した。
[0144] [試験鋼板の組織の測定方法]
フェライト aおよびマルテンサイト Mの占積率については、ナイタール腐食後の組 織写真を画像解析することによって測定し、フェライト aおよびマルテンサイト Mの平 均粒径は、 FEZSEM— EBSPによる組織解析によって測定し、前記「円相当直径」 に換算してその平均値を求めた。
[0145] [試験鋼板の機械的特性の測定方法]
(a)引張試験:インストロン社製の万能引張試験機を使用し、 JIS5号引張試験片を 用いて引張強度 (TS)と伸び (全伸び率: EL)を求めた。
(b)穴拡げ試験:東京衡機社製の 20トン穴拡げ試験機を使用し、鉄鋼連盟規格 CF FST1001— 1996)に準拠して穴拡げ率( λ )を求めて伸びフランジ性を評価した。
[0146] [表 14]
*M:マルテンサイト、ひ:フェライト、: T:オース亍ナイト
l0 90/L00Zd /lDd 09 S8..00/800Z OAV
*M:マルテンサイト、ひ:フェライト、 オーステナイト
[0148] 各試験鋼板の組織 (フェライト αの占積率、フェライト αの平均粒径、マルテンサイト Μの占積率、 Μの平均粒径)、および機械的特性(引張強度 TS、伸び EL、穴拡げ 率え)の測定結果を下記表 16、 17に示す。なお、機械的特性の評価については、 引張強度 (TS)が 590MPa以上、伸び (EL)が 10%以上、穴拡げ率(λ )が 80%以 上を優れた特性と評価し、 3特性のすべてにおいて優れたものを〇、 3特性中、 2特 性に優れたものを△、 3特性中、 1つの特性しか優れた特性を示さな力つたものを X とし、〇のみを合格とした。
[0149] [表 16]
*Μ:マルテンサイト、ひ:フェライト
*Μ:マメレテンサイ卜、ひ:フェライ卜
[0151] これらの結果力も次の様に考察することができる。まず、実験 No. 4, 5, 7, 8, 11,
12, 14, 15, 19〜32のものは、本発明で規定する要件をいずれも満足しているた め、 、ずれも優れた特性が得られて 、る。
[0152] これらに対し No. 1〜3, 6, 9, 10, 13, 16〜18, 33〜36のものは、ィ匕学成分糸且 成や製造条件の少なくともいずれかの要件が本発明で規定する範囲を外れているた め、以下の様に満足の 、く特性が得られて ヽな 、。
[0153] 実験 No. 1, 2のものでは、 Ti, Nb, V, Zr等が含有されていないため、素材鋼板( 最終焼鈍前の鋼板)における旧 γ粒径が粗大化してしまい、希望する伸びおよび伸 びフランジ性が得られて 、な 、。
[0154] 実験 No. 3のものでは、 C含有量が本発明で規定する好ましい範囲に満たないの で、引張強度 TSが低くなつている。実験 No. 6のものでは、 C含有量が本発明で規 定する好ましい範囲よりも多過ぎるため、強度が必要以上に高くなつて延性が低下し
、伸び特性が悪くなつている。
[0155] 実験 No. 9のものでは、 Si含有量が本発明で規定する好ましい範囲よりも多過ぎる ため延性が低下し、伸びおよび伸びフランジ性が悪くなつて 、る。
[0156] 実験 No. 10のものでは、 Mn含有量が本発明で規定する好ましい範囲に満たない ため、フェライトの占積率が増加し、引張強度および伸びフランジ性が悪くなつている
[0157] 実験 No. 13のものでは、 Mn含有量が本発明で規定する好ましい範囲よりも多過 ぎるため延性が低下し、伸びおよび伸びフランジ性が悪くなつて 、る。
[0158] No. 16のものでは、 A1量が本発明で規定する好ましい範囲よりも多過ぎるため鋼 材表面の疵が多くなり、傷材延性が低下し、伸びフランジ性が悪くなつている。
[0159] 実験 No. 17, 18のものでは、 Ti, Nb, V, Zr等の含有量が少ないため、微細化が 十分になされず、希望する伸びフランジ性が得られて 、な 、。
[0160] 実験 No. 33, 34のものでは、 Ti, Nb, V, Zr等の含有量が多過ぎるため、所定の 熱処理条件によっても粗大な炭化物が残存してしま!/ヽ、伸びおよび伸びフランジ性 が悪ィ匕している。
[0161] 実験 No. 35のものでは、最終焼鈍時の加熱温度が本発明で規定する範囲よりも
低過ぎるため、最終組織におけるフェライト占積率および平均粒径、マルテンサイト の占積率および平均粒径が本発明で規定する範囲を外れ、希望する引張強度およ び伸びフランジ性が得られて ヽな 、。
[0162] 実験 No. 36のものでは、最終焼鈍時の加熱温度が本発明で規定する範囲よりも 高過ぎるため、最終組織がマルテンサイトの単相組織となり、フェライト占積率、マル テンサイトの占積率および平均粒径が本発明で規定する範囲を外れ、希望する伸び および伸びフランジ性が得られて 、な 、。
[0163] 本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範 囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明 らかである。本出願は 2006年 7月 14日出願の日本特許出願 (特願 2006— 19405 6)、 2007年 5月 31曰出願の曰本特許出願(特願 2007— 144466)、 2007年 5月 3 1日出願の日本特許出願 (特願 2007— 144705)、 2007年 5月 31日出願の日本特 許出願 (特願 2007— 145987)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り 込まれる。
産業上の利用可能性
[0164] 本発明にかかる高強度鋼板は優れた伸びおよび伸びフランジ性を兼備し、ひいて は優れたプレス成形性を有するものである。したがって、本発明にかかる高強度鋼板 は、プレス成形により加工され、自動車等の様々な工業製品、特に軽量ィ匕が必要な 工業製品に用いることができる。