明 細 書
窒素同位体重成分の濃縮方法
技術分野
[0001] 本発明は、窒素の安定同位体15 Nの濃縮方法に関し、詳しくは、窒素 (N )の低温蒸
2 留と同位体スクランプリングとを組み合わせることによって、存在比が極めて小さな窒 素の安定同位体である15 Nを効率的に高濃度まで濃縮する方法に関する。
本願は、 2006年 3月 23日に出願された特願 2006— 80345号に基づき優先権を 主張し、その内容をここに援用する。
背景技術
[0002] 窒素の安定同位体には14 Nと15 Nとの二種類があり、自然界では前者が 99.635atom %、後者力0.365atOm%を占める。なお、本発明における窒素同位体重成分とは15 N を指す。
大気中の窒素(窒素分子 N )には14 N、 14N15N、および1 の 3種類の同位体分子
2 2 2
が存在し、その存在率は以下の通りである。
14N : 99.635 atom% X 99.635 atom% = 99.271 mol%
2
14N15N : 99.635 atom% X 0.365 atom% X 2 = 0.727 mol%
15N : 0.365 atom% X 0.365 atom% = 0.001 mol%
2
[0003] 現在、窒素の安定同位体15 Nは、主に自然科学や医療の分野でトレーサとして利用 されている。また、近年ではエネルギー分野においても15 Nの利用が検討されている 。し力しながら15 Nは、天然存在比が極めて小さいため、効率的に高濃度まで濃縮す る方法が求められている。
15Nの濃縮方法には、化合物によって同位体の平衡分配濃度が異なる現象を利用 する化学交換法、アンモニアのゼォライトへの吸着挙動の同位体効果による違 、を 利用する気相吸着法、および一酸ィ匕窒素 (NO)を低温蒸留し15 N180を濃縮して15 Nと1 8oとを得る低温蒸留方法などがある。
[0004] 低温蒸留による同位体濃縮の方法には、 15Nおよび 180の濃縮を目的とした前述の 一酸化窒素蒸留の他に、 13cの濃縮を目的とした一酸ィ匕炭素蒸留やメタン蒸留があ
る。また、酸素蒸留と同位体スクランプリングとを組み合わせることによって、 18oを高 濃度に濃縮する方法もある。
特許文献 1:特開平 11― 188240号公報
特許文献 2:特開 2003— 210945号公報
特許文献 3:国際公開第 00Z27509号パンフレット
非特許文献 1 :「大陽日酸技報」 No. 23 (2004) 20〜25頁
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 化学交換法や気相吸着法で15 Nを濃縮する方法は、工業規模の大量生産には向 いていない。また、窒素化合物を介して同位体分離を行うため、最終的に、 N以外の
2 不純物を含まな 、高純度の Nを得ることは容易ではな!/、。
2
一酸ィ匕窒素蒸留も、後工程で酸素原子を分離しなければならないので同様である 。一酸ィ匕窒素は毒性'腐食性があるため、取り扱いが難しいという問題もある。
[0006] 高純度の製品を大量生産するには、窒素の低温蒸留法による濃縮が有望だが、 15Nを 50atom%以上に濃縮する場合、以下に示すような問題がある。
つまり、窒素の同位体分子組成は、 "N: 99.272mol%、 14N15N: 0.727mol%、 15N:
2 2
13.3ppmである。 15Nに比べ豊富に存在する14 N15Nを、仮に 100mol%まで濃縮しても、
2
15N濃縮度は 50atom%にしかならない。これはすなわち、 15N濃縮度を 50atom%以上に するには、極微量しか存在しない15 Nを高濃度に濃縮しなければならないことを意味
2
する。例えば 80atom%の15 Nを得るには、少なくとも15 Nを 60mol%まで濃縮しなければ
2
ならない。このとき必要な原料は、少なくとも製品量の 60mol%Zl3.3ppm=45,000倍 以上となる。
[0007] 15Nを 99atom%に濃縮するためには、 15Nを少なくとも 98mol%に濃縮しなければな
2
らず、少なくとも製品量の 98mol%Zl3.3ppm=73,000倍以上の原料が必要となる。ま たこの場合、製品中に含まれる14 N15Nはわず力 2mol%であり、ほとんどの14 N15Nを廃 棄する。このため、 15Nの収率は 99atom%Z0.365atom%Z73000 = 0.37%以下とな る力 、同位体分離プロセスとしても非効率である。
15Nの収率を 100%とする仮定は非現実的であり、実際には、上述の 10倍以上の
原料が必要となると考えられる。したがって、 15Nの収率は、さらに十分の一以下にな る。
[0008] このように、窒素の 2原子分子である Nの低温蒸留で15 Nを濃縮する場合、製品同
2
位体濃縮度が 50atom%以上力 50atom%以下かによつて困難さが大きく異なる。 5 Oatom%以下でよければ比較的豊富に存在する14 N15Nを濃縮するだけでも可能だが 、 50atom%以上となると、極わず力しか存在しない15 Nを濃縮しなければならず、大
2
量の原料が必要となる。
[0009] また、窒素の低温蒸留により15 Nを濃縮する場合、次のような問題もある。
酸素の低温蒸留により 18oを濃縮するプロセスでは、酸素は空気を原料として深冷 空気分離装置により得られる力 不純物として数千 ppmのアルゴンおよび数十 ppm の炭化水素を含む。これらを、酸素同位体分子と共に蒸気圧順に並べると、アルゴン >16o >18o > >炭化水素、となる。炭化水素は、アルゴンや酸素に比べ蒸気圧が
2 2
はるかに低いため、蒸留による除去が比較的容易である。したがって、複数の蒸留塔 を直列に連結したカスケード (以下、「蒸留カスケード」という。)に原料として酸素を供 給する前に炭化水素を除去しておけば、最も蒸気圧が低い 18oを最終塔塔底で比
2
較的容易に濃縮することが出来た。
[0010] 一方、窒素も空気を原料として深冷空気分離装置により得られるが、不純物として 通常、酸素 0. Olppm〜: LOppm、アルゴン lppm〜: LOOOppmを含む。これらを窒素 同位体分子と共に蒸気圧順に並べると14 N >15N >アルゴン〉酸素となる。この場
2 2
合、蒸留カスケードで15 Nを濃縮しょうとすると、最終塔塔底に、不純物であるアルゴ
2
ンおよび酸素が高濃度に濃縮される。
[0011] 同位体分離プロセスは還流比が非常に大きい。したがって、原料窒素量に対する 製品量の比が、一万分の一である15 N濃縮プロセスの場合、原料窒素に同伴された アルゴンおよび酸素は、蒸留カスケードの最終塔塔底で一万倍に濃縮する。例えば 、原料窒素中にアルゴン 50ppm、酸素 0. lppmが含まれていた場合、蒸留カスケ一 ドの最終塔塔底ではアルゴン 50mol%、酸素 0. lmol%に濃縮する。
一般に、製品窒素中の酸素は、数 ppm以下であることが要求される場合が多い。 15 N濃縮製品中の酸素分を lppm以下にするためには、この例の場合、原料窒素中の
酸素分を 0. lppb以下としなければならない。また、アルゴンは不活性ガスのため不 純物として問題にされることは少ないが、原料窒素中に酸素の数十〜数百倍含まれ るため、最終塔塔底にかなり高濃度に濃縮されてしまう。
[0012] 原料窒素中のアルゴンおよび酸素を、蒸留カスケードに供給する前に除去すること は可能であるが、その場合、原料窒素に含まれる14 N15Nおよび15 N濃度も低下してし
2
まうことが問題である。
[0013] さらに、蒸留カスケードによる従来の同位体濃縮プロセスでは、液体ホールドアップ 量が非常に大きいため、起動時間が数力月から数年と非常に長いという問題があつ た。
[0014] 以上のことから、窒素蒸留法による15 N分離の場合、原料窒素を高純度化して蒸留 カスケードに供給しても、15 N製品へのアルゴンおよび酸素の濃縮が避けられない場 合がある。特に酸素は化学的に活性であるため、多くの場合、酸素の濃縮は不都合 である。また、原料窒素を高純度化することは15 Nを含む同位体分子の濃度を低下さ せてしまうという問題がある。
[0015] 本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、窒素同位体重成分を効率的に 50atom%以上に濃縮する方法であって、窒素同位体重成分が濃縮した窒素を工業 規模で大量生産できる方法を提供することを課題とする。また、アルゴンおよび酸素 などの高沸点成分をほとんど含まない、窒素同位体重成分を濃縮した窒素を、工業 規模で大量生産できる方法を提供することを課題とする。また、従来よりも短い起動 時間で窒素同位体重成分を濃縮する方法を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0016] 上記課題を解決するため、本発明は、窒素同位体重成分15 Nを含む同位体分子で ある14 N15Nおよび/または15 Nを濃縮する窒素同位体重成分の濃縮方法であって、
2
コンデンサおよびリボイラを備えた蒸留塔を複数用い、これら蒸留塔を直列に接続し て窒素 Nを連続的に低温蒸留し、その蒸留工程において、蒸留中の窒素の一部を
2
抜き出して同位体スクランプリングを行い、同位体スクランブル後の窒素を前記蒸留 工程へ戻すことにより、 15N濃縮度が 50atom%以上の窒素 Nを得る窒素同位体重成
2
分 (15N)の濃縮方法を提供する。
[0017] 上記濃縮方法においては、15 Nが濃縮した製品の採取位置を最終塔塔底から 2〜 10m上部の最終塔中間部とすることが好ましい。これにより、酸素、アルゴンなどの高 沸点成分をほとんど含まない15 N濃縮窒素を得ることができる。
この際、最終塔塔底力 抜き出すガスまたは液体の流量は、原料窒素中のアルゴ ン含有量および酸素含有量の合計 100%に対して、 80%〜: LOO%を含む流量とす ることが好ましい。これにより、最終塔塔底の窒素濃度を小さくし、アルゴンおよび酸 素と共に廃棄される15 Nを最小限に抑えると共に、 15N製品中にアルゴンおよび酸素 が濃縮されるのを防ぐことができる。最終塔塔底の窒素濃度を測定し、その値が lmol %以下になるように最終塔塔底力も抜き出す量を調整しても良い。最終塔塔底から 抜き出す量が小さぐ連続的に流量制御することが難しい場合、一定時間ごとに一定 量抜き出すようにすることができる。
[0018] 最終塔塔底から濃縮したアルゴンおよび酸素を抜き出す場合、最終塔塔底のリボ イラに15 Nを溜める必要がない。よって、装置内の15 Nホールドアップ量を大幅に減
2 2
らすことができ、起動時間を大幅に短縮することができる。
[0019] 蒸留中の窒素 (N )を同位体スクランプリングのために抜き出す位置は、 14N15N濃
2
度が最も高 、位置であることが望ま 、。
同位体スクランプリングを行った窒素は、抜き出した箇所に戻しても良いし、それ以 外の箇所に戻しても良い。
[0020] 更に、本発明は、前記同位体分子を濃縮する蒸留工程において、該工程を構成す る最終塔を除く任意の蒸留塔から次段の蒸留塔への Nの供給が、それら二つの蒸
2
留塔の圧力差を推進力として行うものである。このとき、該工程を構成する第 1塔を除 く任意の蒸留塔から、その前段の蒸留塔への Nの返送は、該窒素の液頭圧 (液へッ
2
ド)を推進力として行われる。
[0021] コンデンサにおける冷流体としては、蒸留工程で蒸留する窒素 (N )とは別系統の窒
2
素 (N )を用いることが望ましい。別系統の窒素を用いることで、該コンデンサを備えた
2
蒸留塔の塔頂圧力の制御が容易になり、その前段の蒸留塔力 該コンデンサを備え た蒸留塔へ Nを供給するための推進力となる圧力差を、適切に制御することができ
2
る。
[0022] 窒素同位体の蒸留では、通常の蒸留に比べ、後段の蒸留塔ほど処理量が極端に 少なくなる。そのため前段の蒸留塔へ返送する窒素量も微量になってくる。蒸留温度 が極端に低い窒素同位体の場合、返送する窒素が配管中でガス化することが懸念さ れる。ガス化すると必要な液頭圧が得られなくなり、 Nの返送が行われず、所望の蒸
2
留性能が得られない。よって、必要な液頭圧を確実に得るために、前段の蒸留塔へ Nを返送するための配管を冷却することが望ましい。
2
[0023] この配管の冷却は、冷媒として液体窒素を用いることが好ましぐその液体窒素は、 該当する蒸留塔のコンデンサの冷流体と同系統の窒素を用いるのが良い。コンデン サの冷流体と同系統の窒素を用いることで、過冷却を防止することができる。
[0024] また、原料窒素中のアルゴンおよび Zもしくは酸素含有量は、 lOppm以下であるこ とが望ましい。窒素同位体重成分を含む窒素15 Nは、アルゴンや酸素側に濃縮され
2
やすいからである。とりわけ、同位体スクランプリングの際に高濃度の酸素が存在する と、同位体スクランプリングの方法によっては NOが生成されることも考えられるので、 酸素濃度は低 、ほうが望ま 、。
発明の効果
[0025] 本発明によれば、窒素の低温蒸留法と同位体スクランプリングとを組み合わせること により、 15Nを容易に 50atom%以上に濃縮できる。このため、従来の他の方法よりも 大量生産が可能であり、かつ高濃縮が容易にできる。
従来の N蒸留法は15 Nを高濃縮 (例えば 50atom%以上)できな力つたが、本発明に
2
おいては低温蒸留と同位体スクランブラとを組み合わせることにより収率を大幅に高 めることができるため、現実的にこれが可能となった。
従来の N蒸留法では、アルゴンおよび酸素をほとんど含まない製品を短い起動時
2
間で得るのは容易ではなかったが、本発明においては、低温蒸留と同位体スクラン ブラとを組み合わせ、かつ、蒸留カスケード最終塔塔底にアルゴンおよび酸素を濃 縮させることによって、現実的にこれが可能になった。
図面の簡単な説明
[0026] [図 1]本発明の窒素同位体重成分の濃縮方法を実施できる装置の構成を表した概略 図である。
[図 2]蒸留塔内の窒素同位体組成分布の一例である。
[図 3]蒸留塔内のアルゴンおよび酸素の濃縮挙動の一例である。
符号の説明
[0027] Τ1、Τ2、Τ3、Τ4· · ·蒸留塔
Cl、 C2、 C3、 C4- · 'コンデンサ
R1、R2、 R3、R4—リボイラ
SI—スクランブラ
発明を実施するための最良の形態
[0028] 本発明は、窒素の低温蒸留に同位体スクランプリングを組み合わせることにより、高 純度窒素 (N )を原料にして15 Nを高濃度(50atom%以上)に濃縮する方法である。
2
図 1は、本発明の濃縮方法を実施するための装置の一例を示したものである。 この装置は、第 1塔 T1〜第 4塔 T4の 4つの蒸留塔と、それぞれの蒸留塔に設けられ たリボイラ R1〜R4およびコンデンサ C1〜C4と、同位体スクランブラ S1とから概略構成 されている。実際の装置では、さらに多くの蒸留塔から構成される場合もあるが、発明 の本質を明瞭にするために、ここでは蒸留塔 4塔を備えた装置例で説明する。
[0029] この装置には原料 F (窒素)が供給され、 15Nの同位体純度が高められた窒素の製 品 Pおよび15 Nの同位体純度が低下した窒素の排ガス Wに分離される。
4塔の蒸留塔は、第 1塔 T1の塔底と第 2塔 T2の塔頂、第 2塔 T2の塔底と第 3塔 T3の 塔頂、第 3塔 T3の塔底と第 4塔 T4の塔頂が接続されており、全体として一連の蒸留を 行うようになっている。蒸留塔内の低沸点成分は第 1塔 T1の塔頂へ向力つて濃縮さ れ、高沸点成分は第 4塔 T4塔底へ向かって濃縮される。
[0030] 以下、本発明の濃縮方法を、図 1を用いて詳細に説明する。
原料 Fは、第 1塔 T1の中間部へ供給される。原料 Fは空気を原料に深冷空気分離 装置(図は省略)により製造される。原料 Fは窒素 (N )であり、その純度は 99.9999mol
2
%以上の高純度であることが望ましい。窒素 (N )は、ガスでも液体でもあるいは気液
2
混合物でもよい。ガスで供給する場合は、露点付近まで冷やした状態で供給するの がよい。
第 1塔 T1内では下方から上昇してくる蒸気と、上方力 降下してくる液とが気液接
触しており、その過程で最も低沸点の成分である14 Nはより上方である蒸気側に、最
2
も高沸点の成分である15 Nはより下方の液側に濃縮していく。中間成分である14 N15N
2
はその中間の挙動を示す。
[0031] 各蒸留塔内の気液接触方式は、棚段塔でも充填塔でもどちらでも良いが、起動時 間が短縮されるため、装置全体の液貯留量 (液ホールドアップ)が小さくなる充填塔 が好ましい。
充填物には規則充填物を用いてもよ!ヽし、不規則充填物を用いてもょ ヽ。 蒸留塔内を流下し塔底に溜まった液をリボイラ R1で気化し、塔底に戻すことにより 上昇蒸気を発生させる。蒸留塔内を上昇し塔頂力もでた蒸気をコンデンサ C1で液ィ匕 し、再び塔頂に還流することにより下降液を発生させる。
[0032] 蒸留塔の運転圧力は低いほうが、窒素同位体分子の相対揮発度が大きくなり分離 しゃすくなる。塔頂圧力は負圧にならない範囲でゲージ圧力 150kPa以下とするのが 良い。
塔頂圧力は、コンデンサにおける冷流体の温度と流体との温度差で決まる。本発明 における N蒸留では、コンデンサの冷流体として蒸留とは別系統の Nを用いることも
2 2
できる。
第 2塔ないし第 4塔 T2〜T4の上昇蒸気速度、圧力などの基本的な運転条件は第 1 塔 T1と同様でよい。
[0033] 第 1塔 T1の塔頂に達した蒸気の一部は、 15Νが減損した排ガス Wとして排出される。
この排ガスは液ィ匕して、高純度窒素製品として回収することもできる。排ガス Wの流 量は、物質収支により原料 F力 製品 Ρを差し引いた分として自ずと決定される。実際 には、第 1塔 T1の塔底液面がほぼ一定となるように排ガス Wの量を決定するのがよい
[0034] 同位体重成分の濃度が高められた第 1塔 T1塔底の蒸気の一部は、経路 5によりバ ルブ VF1を経由して、第 2塔フィード F2として、第 2塔 Τ2塔頂に供給される。コンデン サ C2入口の経路 8に合流させても良い。流れの推進力は第 1塔塔底と第 2塔塔頂の 圧力差である。第 2塔フィード F2は、第 2塔 Τ2塔頂の上昇蒸気と共にコンデンサ C2で 液化され、第 2塔 Τ2塔頂に還流される。第 2塔 Τ2内では第 1塔 T1と同様に気液接触
が行われ、塔底に向かって同位体重成分の濃度が高められる。
[0035] 第 2塔フィード F2の流量は、第 2塔フィード F2に対する製品 P (15N)の収率が大きく ても 20%以下になる範囲で、一定の値に設定するのが良い。第 2塔 T2塔頂に還流さ れる液の一部は、経路 6によりバルブ VR1を経由して、第 1塔戻り液 FR1として第 1塔 T 1塔底に戻される。
この第 1塔戻り液 FR1の流量は、物質収支により第 2塔フィード F2から製品 Pを差し 引いた分として自ずと決定される。実際には、第 2塔 T2の塔底液面がほぼ一定になる ように第 1塔戻り液 FR1の量が決定される。
[0036] 第 1塔戻り液 FR1の流れの推進力は、バルブ VR1の一次側に溜まる液頭圧である。
ここで配管への入熱が大きいと、液頭圧が得られないことが懸念される。一般に、極 低温蒸留の場合、配管への入熱を防ぐために真空二重管などを採用する場合があ る。窒素同位体分離の蒸留では、後段の蒸留塔ほど前段の蒸留塔に返送する窒素 の流量が極端に少なくなるという特異性を有しているため、特に入熱の影響が大きく なる。よって、バルブ VR1、 VR2、 VR3 ' · ·の一次側に液体が溜まらなかった場合には 、それらバルブの一次側配管を積極的に冷却することが望ま 、。
[0037] この一次側配管の冷却に用いる流体は、低温窒素であることが望ましい。コンデン サの冷流体の熱交換循環サイクルに用いる冷流体を、この循環サイクル力 分岐し て用いることが望ましい。循環サイクル力も分岐した冷流体は、そのコンデンサが備え られた蒸留塔の塔頂ガスを液化するのに適した温度となっており、一次側配管の冷 却には最適である。
[0038] 第 3塔 T3および第 4塔 T4についても蒸留塔および接続経路の構成は同様である。
これにより第 1塔 T1から第 4塔 T4までが連続的に接続され、全体として一つの蒸留塔 のようにして一連の N蒸留を行う。最も沸点が高い窒素同位体分子15 Nが第 4塔 T4
2 2
塔底に向力つて濃縮し、最も沸点が低い窒素同位体分子14 Nが第 1塔 T1塔頂に向
2
力つて濃縮する。中間成分である14 N15Nはその中間の挙動を示す。
蒸留塔 T1〜T4は極低温で運転されるため、外部からの入熱を最小にするためのコ 一ルドボックス(図示略)内に収められる。
[0039] 第 3塔 Τ3塔底のガスの一部 FSCは、経路 18により同位体スクランブラ S1に送られる
。必要に応じて、ガス FSCを熱交^^などによって常温付近まで加温する。同位体ス クランブルされたガス FRSCは経路 19により第 4塔塔頂に戻される。必要に応じて、ガ ス FRSCを熱交^^などによって冷却する。
[0040] 同位体スクランブラ S1と蒸留塔との接続位置は、図 1に示す位置には限定されない 。つまり経路 18の蒸留塔側接続位置はどの位置でも構わないが、中間成分である14 N15N濃度が最も高くなつている位置が好ましい。また、経路 19の蒸留塔側接続位置 は、目的成分である15 Nの濃度がガス FRSCのそれと近いところが良い。経路 18→ス
2
クランブラ Sl→経路 19の工程でガスの流れの推進力が足りない場合は、経路 18、スク ランブラ S1内部、または経路 19のいずれかにブロワ等の昇圧手段(図示略)を使って も良い。
[0041] 同位体スクランブラ S1は次の機能を持つ。
本発明における同位体スクランブラ S1とは、一連の蒸留により偏りが生じた14 Nと15 Nとの 3種類の組み合わせを再度ランダムにシャッフルするための装置である。言!ヽ 換えると、同位体スクランブラ S1に供給される14 N、 14N15N、および15 Nそれぞれの成
2 2
分の N-N結合を一時的に解離させ、再度ランダムに N-N結合させるための装置で ある。
[0042] 同位体スクランブラと蒸留塔との接続位置を適切に選ぶことにより、一連の蒸留によ り濃縮された14 N15Nの一部を15 Nに変換することができるため、蒸留塔へ供給される
2
正味の1 量を大幅に高めることができる。これにより、同位体スクランブラを使わな
2
い窒素蒸留に比べ、はるかに効率的に15 Nを濃縮することができる。すなわち従来技 術で問題となって 、た、「窒素の低温蒸留で15 Nを 50atom%以上に濃縮するために は15 Nを高濃縮する必要があるため大量の原料が必要となる」という問題を解決でき
2
る。
[0043] 同位体スクランブラ S1に供給されるガス FSC中の14 N、 "N15N、および15 Nのモル
2 2 分率をそれぞれ x、 y、および zとし (0く X, y, z< 1, x+y+z= l)、流量を V[mol/s]と する。 2原子分子である窒素は、後述の同位体スクランブルにより、ー且は 1原子ずつ に分かれる。このときの14 N、 15Nそれぞれの同位体濃度 (原子分率)ひ、 βは以下と なる。
α= x + yXl/2
これが、再度、窒素分子 (2原子分子)に戻ると、 14N、 14N15N、および1 のそれぞ
2 2 れの濃度 x'、 y'、および z'は、二つの N原子がランダムに結合するため、以下のよう になる。
x'= a2 = (x + yXl/2)2
y'= 2X a X j8 = 2X(x + yXl/2)(yXl/2 + z)
したがって、同位体スクランブル前後における14 N、 "N15N、および1 のそれぞれの
2 2
モル分率変化量は
Δ14Ν = χ' - X = (χ + yXl/2)2 x
2
Δ"Ν15Ν = y' - y = (χ + yXl/2)(yXl/2 + z)X2 - y
Δ15Ν =ζ'- z = (yXl/2 + ζ)2 — ζ
2
(Δ14Ν+Δ14Ν15Ν+Δ15Ν = 0)となる。
2 2
同位体スクランブラ SIと蒸留塔とを結ぶ経路 18の蒸留塔側の接続位置は、 Δ 15N
2 が正で、かつ、できるだけ大きくなるような位置を選ぶのが良い。接続位置を誤ると、 かえって15 Nが減少してしまう。
2
同位体スクランブラ S1で新たに生成される15 Nの量は、 Δ15Ν XV[mol/s]となる。
2 2
供給されるガス FSCの流量である Vは、 Δ15Ν XV[mol/s]が製品 Ρに同伴される15 Ν
2 2 量よりも大きくなるように設定するのが良い。
上述の同位体スクランプリングの手段は、 N分子をー且解離させ、最終的に Nに
2 2 戻すものであれば何でも良い。 N単独で同位体スクランプリングさせるものでも良い
2
し、別の物質と反応させた後、再度 N分子に戻す方法でも良い。前者の例としては
2
以下の方法がある。
'触媒反応を利用する。主成分が鉄 (Fe)またはルテニウム (Ru)などである触媒を利用 できる。
•無声放電、高周波放電あるいは電磁誘導によるプラズマ中を通過させる。
'紫外線、 X線、あるいは γ線を照射する。
• 800°C以上で高温熱処理する。
また、後者の例としては以下の方法がある。
•Nをー且 NOxあるいは NHに合成した後、それを Nにもどす。
2 3 2
[0045] 第 1塔〜第 4塔 T1〜T4の一連の蒸留により15 Nが最も濃縮するのは、第 4塔 T4の塔 底である。そこからガスまたは液体を取り出すことにより15 Νが濃縮された製品 Ρを得る ことができる。 15Νの同位体濃縮度は、第 4塔 Τ4塔底力も第 1塔 T1塔頂に向力つて小 さくなつていくが、その途中の任意の位置から15 Νを任意の濃度で含有する第 2の製 品(図示略)を得ることもできる。
[0046] 以下、本発明の窒素同位体の濃縮方法を実施例および比較例を参照して説明す る。
実施例 1
[0047] 図 1に示したプロセスにより15 Νの濃縮シミュレーションを行った。シミュレーションに 用いた蒸留計算プログラムの詳細は、上述の特許文献 3に詳しい。これを窒素同位 体 3成分系に適用した。
原料 F、つまり原料 Nは、表 1の通り、事前に高純度に精製され、アルゴンおよび酸
2
素を含まないとした。各精留塔の仕様および運転条件は表 2の通りとした。
[0048] [表 1]
[0049] [表 2]
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[0050] シミュレーションの結果、表 3に示す組成を有する製品が得られた。
同位体スクランブラ S1で処理した Nの組成などは、表 4に示した通りである。参考と
2
して、 N蒸留塔内の同位体組成分布を図 2に示す。
2
[0051] [表 3]
[0052] [表 4] 入 N 'i
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[0053] 上記結果から、本実施例では天然存在比の N同位体混合物から15 N同位体濃縮
2
度 86. latom%の製品が得られることがわかる。
また、本発明の効果を明らかにするため、以下に、本実施例における収率を検証す る。
[0054] 表 1より、原料 Nに同伴する15 Nは、
2 2
[1.0mol-N /s] X [13 X 10— 6] = 13 X 10— 6 mol-15N /s
2 2
表 3より、製品 Pに同伴する15 Nは、
2
[1.27 X 10— 4moト N /s] X [0.739] = 9.38 X 10— 5 mol-15N /s
2 2
したがって、 15Nの見かけの収率は
2
[9.38X10— 5] ÷[13X10—6] X 100 = 720%
となり、 100%をはるかに超えている。これが N蒸留に同位体スクランプリングを組み
2
合わせた効果である。
[0055] 本実施例では、表 4から解るように、同位体スクランブラによって
[処理量 O.Olmo卜 N /s] X [15N組成変化 0.0092]= 9.2 X 10— 5mo卜15 N /sの15 Nが新たに
2 2 2 2 生成されている。
これを考慮すると、 15Nの
2 収率は
[9.38X10— 5] + [13X10—6 + 9.2X10— 5]X 100 = 89.3%
となり、 15Nはかなりの高収率で回収されており、本プロセスは非常に効率的であるこ
2
と力 s解る。
[0056] 次に本プロセスの15 N収率についても検証する。一般的に同位体分離ではこの同 位体原子基準の収率がプロセス効率の評価の目安となる。
原料 Nに同伴する15 Nは表 1より
2
[1.0mo N/s]X[2mo N/mo N2] X [0.00365]
2
= 7.3X10—3 mol-15N/s
一方、製品 Pに同伴する15 Nは表 3より
[1.27 X 10"4mol-N /s] X [2mol-N/ mol-N ] X [0.861]
2 2
= 2.19X10— 4 mo卜15 N/s
したがって、 15Nの収率は
[2.19 X 10— 4] ÷ [7.3 X 10— 3] X 100 = 3.0%となる。
[0057] (実施例 2)
実施例 1では、事前に高純度に精製し、アルゴンおよび酸素を含まない Nを原料と
2 したが、本実施例ではアルゴン 50ppm、および酸素 0. Ippmが含まれる Nを原料と
2 してシミュレーションを行った。
図 3は蒸留塔内の窒素、アルゴン、酸素の組成をプロットしたものである。 Nについ
2 ては各同位体分子(14N、 14N15N、 15N )を区別せず、 N -Ar-Oの三成分系とし
2 2 2 2
てプロットしている。
[0058] 図 3より、アルゴンおよび酸素は、最終塔塔底付近で急激に濃縮することが解る。本 実施例では、最終塔塔底から 5m上 (第 1塔力もの充填高さ 395m)の位置から15 N濃 縮窒素を、実施例 1と同様に、 1. 27 X 10_4mol/s採取した。これに含有されるアル ゴンは 4. 7ppmであり、そして酸素は 0. 006ppmであり、窒素同位体分子糸且成は表 3と同じである。
[0059] また、アルゴンおよび酸素が装置内で濃縮しつづけることを防ぐため、最終塔塔底か らアルゴン ·酸素濃縮ガスを系外に取り出すとした。
本実施例では、最終塔塔底力 採取するガスの流量を、原料窒素に同伴されるァ ルゴンおよび酸素の量の合計量と同じにした。
[最終塔塔底力も採取する力"ス] =
[原料 lmol/s] X { [アルコ'、ン 50 X 10— 6]+ [酸素 0.1 X 10— 6]}=5.01 X 10— 5mol/s これにより、最終塔塔底力 採取するガスの組成は窒素 0. 3mol%、アルゴン 99. 5%、そして酸素 0. 2mol%となり、含有される15 Nは極僅かになる。
2
[0060] 実際の運転では、窒素の含有量をさらに小さくするため、これよりも流量を数%少な めにした方が良い。たたし、あまり少なくしすぎると、 5m上力も採取する15 N濃縮窒素 製品にアルゴン、酸素が多く入りこむことになるのでよくない。また、最終塔塔底から 採取するガスの量が多すぎるとそこから15 Nがアルゴン、酸素と共に逃げてしまうの
2
でよくない。これらを考慮すると、最終塔塔底から採取するガスの流量は、原料窒素 に同伴されるアルゴンおよび酸素の量の合計量の 80〜100%の範囲が良い。
この方法によれば最終塔塔底リボイラーに溜まる窒素分は極僅かである。このため
、高濃縮された Nをリボイラーに溜める必要がないため、装置の起動時間を大幅に
2
短縮することができる。
[0061] (比較例)
低温蒸留法で同位体スクランブラを使用しな力つた場合、15 N収率が 3%になること はない。
表 3に示す流量,組成の製品を得るために必要な原料 N (天然存在比)量は、 15N
2 2 収率を 100%とした場合でも、最低限、 7. 22 mol-N /s必要である。
2
[1.27 X 10"4mol-N /s] X [0.739] ÷ [13 X 10— 6]
2
= 7.22 mol-N /s
2
これは、実施例の 7. 22倍である。
ここで15 N収率(同位体原子基準の収率)を計算すると、
{ [1.27 X 10— 4mol- N /s] X [2moト N/ mol-N ] X [0.861] }
2 2
÷{[7.22mol-N /s] X [2mol-N/ mol-N ] X [0.00365]} X 100
2 2
= 0.42 %となる。
ここでは15 N収率を 100%としている力 現実的には、収率はせいぜい 10%以下で
2
あるため、実際の15 N収率は 0. 042%以下となる。
産業上の利用可能性
[0062] 本発明の窒素同位体重成分の濃縮方法によれば、窒素同位体重成分を効率的に 50atom%以上に濃縮でき、かつ濃縮した窒素同位体重成分を工業規模で大量生 産できる。