明 細 書
水素発酵装置及び水素の製造方法
技術分野
[0001] 本発明は水素発酵により有機物力 水素を生成させる水素発酵装置及び水素の 製造方法に関する。
背景技術
[0002] 従来、生ゴミ等の食品廃棄物や農林畜産廃棄物の処分が社会問題となっており、 バイオマス処理技術の開発が求められている。
[0003] このような状況下、嫌気性発酵による有機性廃棄物の処理技術の開発が進められ ている。ここで、従来の嫌気性発酵は有機物の分解によるメタン生成を目的とするも のが主であり、炭水化物、タンパク質、脂質などの有機物を加水分解して有機酸を生 成する酸生成段階と、有機酸をメタン、二酸化炭素、水に分解するメタン発酵段階の 二段階からなる (例えば、特許文献 1〜3を参照。 )0
[0004] ここで、上記酸生成工程は、有機物を分解するときに水素が発生するため水素発 酵工程とも呼ばれる力 従来の嫌気性発酵においてはこの水素に着目しておらず、 生成した水素はメタン菌による利用、他の細菌の電子受容体の還元やエネルギーの 獲得などに消費されていた。
[0005] そこで、近年、クリーンエネルギーである水素の有効利用の観点から、有機物の分 解による水素生成を目的とする水素発酵が注目されて 、る (例えば、特許文献 4〜6 を参照)。
[0006] 特許文献 1 :特開 2001— 149983号公報
特許文献 2:特開 2005 - 66420号公報
特許文献 3 :特開 2005— 125149号公報
特許文献 4:特開 2003— 251312号公報
特許文献 5 :特開 2005— 13045号公報
特許文献 6:特開 2005 - 193122号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0007] ところで、上記特許文献 1〜6では、生物処理槽の形式として微生物を槽内の被処 理液中に懸濁した状態で運転する完全混合型が採用されているが、生物処理の分 野では、槽内の微生物濃度を高めて汚濁物除去速度を向上させることを目的として 、微生物を担体に固定ィ匕して用いる技術が広く知られている。このような担体を用い た処理方法には、微生物が固定化された担体を槽内の所定位置に固定して処理を 行う固定床法、微生物が固定化された担体を槽内に投入して流動させる流動床法な どがある。
[0008] し力しながら、上記の固定床法又は流動床法のいずれであっても、水素発酵に適 用した場合には以下のような問題があり、実用化に供するには未だ改善の余地があ る。
[0009] すなわち、固定床法の場合、担体が固定されていることにより微生物の世代交代が 進行しにくぐ微生物の死骸が担体表面に残存することにより有機物と担体との接触 面積が減少し、処理効率が低下してしまう。また、水素発酵に供される被処理液に固 形分が含まれる場合、不要な固形分の担体表面への付着あるいは目詰まり (Pluggi ng、 Clogging、 Jamming)なども処理効率の低下の原因となり、逆洗などのメインテ ナンスを強いられることになる。
[0010] 一方、流動床法の場合は、担体の流動に伴い担体同士が接触して微生物が適度 に剥がれるため、被処理液と担体との接触面積の低下を抑制することができ、処理効 率の点では固定床法よりも適していると考えられる。しかし、本発明者らの検討によれ ば、流動床法の場合、固形分の濃度変化や被処理液の性状'比重の変化に対して 流動性を均一に維持しにくぐ十分な処理効率を達成することは必ずしも容易ではな い。特に被処理液が固形分を高濃度で含有する場合には、被処理液中に浮遊する 担体と、被処理液の下部に沈積する固形分とを接触させることが困難となり、水素発 酵の処理効率が低下してしまう。さらに、流動化させた担体の被処理液からの分離が 困難であり、また、被処理液が固形分を含む場合には水素生成菌が固形分に付着し て水素発酵槽の外部に流出しやす ヽと 、つた問題もある。
[0011] 本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水素発酵に
より有機物から水素を生成させるに際し、被処理液が固形分を含む場合であっても 効率よく且つ安定的に処理することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部への 流出を十分に抑制することができる水素発酵装置及び水素の製造方法を提供するこ とを目的とする。
課題を解決するための手段
[0012] 上記課題を解決するために、本発明は、水素発酵により有機物を分解して水素を 生成させる水素発酵装置であって、有機物を含む被処理液が収容される水素発酵 槽と、該水素発酵槽内において被処理液と接触するように配置されており、水素生成 菌が固定化された紐状担体とを備えることを特徴とする水素発酵装置を提供する。
[0013] なお、本発明でいう「水素生成菌」とは、水素生成能力を有する微生物を意味する
[0014] 本発明の水素発酵装置においては、水素生成菌の固定化担体として紐状担体を 用いることによって、水素生成菌及び被処理液中の有機物が担体に十分に且つ安 定的に保持され、また、被処理液中の有機物との接触効率が高められるので、水素 生成菌による水素発酵を有効に実施することができる。また、紐状担体は柔軟性を有 しているため、被処理液の槽内への導入又は槽外への排出、更には水素発酵処理 時の撹拌や循環などによって生じる被処理液の流れにより、紐状担体に付着した不 要な固形分及び水素生成菌の死骸などの分離、更には紐状担体の繊維深くで生じ た水素ガスの分離を効率よく且つ確実に行うことができる。
[0015] また、被処理液が高濃度の固形分を含む場合、例えば、被処理液の固形分濃度が 250mgZL以上である場合には、従来の水素発酵装置は水素発生量及び固形分 の減量率のいずれも不十分であった力 本発明の水素発酵装置によれば、十分な 量の水素を発生させることができると共に、被処理液中の固形分を十分に減量ィ匕す ることがでさる。
[0016] さらに、本発明の水素発酵装置においては、水素生成菌は紐状担体に固定ィ匕され て 、るため、従来の流動床法のように担体と被処理液とを分離する手段を必要とせ ず、また、水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制することができる。
[0017] したがって、本発明の水素発酵装置によれば、被処理液が固形分を含む場合であ
つても、被処理液と紐状担体に固定化された水素生成菌との接触に優れ、水素発酵 を効率よく且つ安定的に実施することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部へ の流出を十分に抑制することができる。
[0018] 本発明の水素発酵装置による上述の効果は、比較的緩慢な水素発酵においては 水素生成菌と有機物とを十分に且つ安定的に接触させることが極めて重要であり、 従来の水素発酵装置はこの点で不十分であったという本発明者らの知見に基づくも のである。そして、固定床法に分類される紐状担体を用いる処理方法を水素発酵に 敢えて適用することで、水素生成菌及び有機物を担体に十分に且つ安定的に保持 することができ、更には水素発酵の進行に伴い生じる付着物及び水素ガスを固定ィ匕 担体力 効率よく分離することができるという本発明による効果は、水素発酵には処 理効率の点で流動床法が適して 、ると考えられて 、た従来の技術水準力 みて極め て予想外の効果といえる。なお、本発明でいう「固定床」(「固定層」ともいう。)とは、 粒子などを含有する反応装置内に流体を通じた場合、低流量では粒子は静止して おり、流体が粒子間隙を通過するような反応層の様式を意味する (バイオリアクター、 アトキンソン著、福井三郎、山根恒夫訳、「管型発酵槽」を参照。 ) oまた、本発明でい う「流動床」(「流動層」ともいう。)とは、以下のような反応層の様式を意味する。すな わち、粒子などを含有する反応装置内に流体を通じて、流体の供給速度を増してい くと、ある流速で粒子に作用する流動抵抗が粒子の重量と等しくなり、これ以上の流 速域では粒子が動的にサスペンドされた浮遊状態となる。粒子層は反応装置内で膨 張し、定位置には留まらず運動する。また、粒子層全体としても流動しやすぐあたか も一つの流体層のような振る舞いを示す。このような粒子層の状態を流動床あるいは 流動層という (化学工学便覧、化学工学会編、「流動層及び噴流層」を参照。 ) o
[0019] 本発明の水素発酵装置が備える紐状担体は、複数の小さなループ状の繊維をモ ール状に形成した組み紐構造を有することが好まし 、。力かる組み紐構造を有する 紐状担体を用いることで、紐状担体に水素生成菌を大量に固定ィ匕することができ、ま た、有機物の紐状担体への保持のしゃすさ並びに紐状担体からの付着物及び水素 ガスの分離のしゃすさを向上させることができる。
[0020] また、本発明の水素発酵装置は、紐状担体の両端を固定して紐状担体を延伸した
状態で保持するホルダを更に備えることが好ましい。これにより、有機物の紐状担体 への保持のしゃすさを十分に確保しつつ、紐状担体を所望の配置とすることができ、 装置の設計の自由度が大きくなる。また、水素発酵装置が複数本の紐状担体を備え る場合には、被処理液の流れを生じさせたときに紐状担体同士が絡み合う現象を防 止することができる。なお、紐状担体の一端のみを固定してもよいが、この場合には、 紐状担体同士の絡み合い、更には紐状担体同士のこすれ合いが起こりやすくなる。 そのため、比較的緩慢な発酵である水素発酵にあっては、有機物の紐状担体への 保持のしゃすさが損なわれて処理効率が低下するおそれがある。
[0021] また、上記ホルダは、相互に対向配置されており且つ網目構造を有する 2つの端面 と、該 2つの端面を所定間隔をもって保持するフレームとを有し、紐状担体の両端部 それぞれはホルダの 2つの端面それぞれに固定されていることが好ましい。これによ り、紐状担体の延伸方向に沿った被処理液の流れが生じた場合であっても、被処理 液はホルダの端面の網目を通過するため、紐状担体に固定化された水素生成菌と 有機物との接触効率の低下を十分に抑制することができる。
[0022] また、本発明の水素発酵装置は、水素発酵槽内の被処理液を撹拌する撹拌手段 を更に備えることが好ましぐ該撹拌手段は、紐状担体の延伸方向に沿った回転軸を 中心として回転する撹拌子を有することが好ましい。力かる撹拌手段により水素発酵 槽内の被処理液を撹拌することによって、被処理液の流れを紐状担体の繊維深くま で到達させることができるため、有機物の固定ィ匕担体への保持のしゃすさと固定ィ匕 担体からの付着物及び水素ガスの分離のしゃすさの双方を一層向上させることがで き、極めて高水準の処理効率を達成することができる。
[0023] また、本発明の水素発酵装置の撹拌手段は、水素発酵槽に連結されており、一端 から水素発酵槽内の被処理液を抜き出し、他端からその被処理液を水素発酵槽内 に導入することにより、水素発酵槽内に被処理液の流れを生じさせる循環ラインを有 することが好ま U、。力かる循環ラインによって水素発酵槽内の被処理液を循環すれ ば、極めて高水準の処理効率を達成できる。またこの場合、撹拌子はあってもなくて もよいが、撹拌子がなくても循環ラインが撹拌手段として有効に機能し得るため、水 素発酵装置の大型化にも容易に対応できる。さらに、循環ラインを有し、撹拌子を有
さない撹拌手段では、撹拌子による剪断力の影響がないため、その生育に剪断力の 影響を受けやすい水素生成菌を使用する場合であっても、好適に水素発酵を実現 できる。
[0024] さらに本発明は、水素発酵により有機物を分解して水素を生成させる方法であって 、水素発酵槽内において、有機物を含む被処理液と、水素生成菌が固定化された紐 状担体とを接触させることを特徴とする、水素の製造方法を提供する。
[0025] 本発明の水素の製造方法においては、水素生成菌の固定化担体として紐状担体 を用いることによって、水素生成菌及び被処理液中の有機物を担体に十分に且つ安 定的に保持することができ、水素生成菌による水素の産生を有効に実現することがで きる。
[0026] また、本発明の水素の製造方法によれば、被処理液が固形分を含む場合であって も水素発酵を効率よく且つ安定的に実施することができ、且つ水素生成菌の水素発 酵槽外部への流出を十分に抑制することができる。
[0027] 本発明の水素の製造方法で使用する紐状担体は、繊維をモール状に形成した組 み紐構造を有することが好まし 、。力かる組み紐構造を有する紐状担体を用いること で、紐状担体に水素生成菌を大量に固定ィ匕することができ、また、有機物の紐状担 体への保持のしゃすさ並びに紐状担体からの付着物及び水素ガスの分離のしゃす さを向上させることができる。
[0028] また、本発明の水素の製造方法においては、紐状担体が、両端を固定して延伸し た状態でホルダに保持されていることが好ましい。これにより、有機物の紐状担体へ の保持のしゃすさを十分に確保しつつ、紐状担体を所望の配置とすることができ、装 置の設計の自由度が大きくなる。また、複数本の紐状担体を備える場合には、被処 理液の流れを生じさせたときに紐状担体同士が絡み合う現象を防止することができる
[0029] また、上記ホルダは、相互に対向配置されており且つ網目構造を有する 2つの端面 と、該 2つの端面を所定間隔をもって保持するフレームとを有することが好ましい。こ れにより、紐状担体の延伸方向に沿った被処理液の流れが生じた場合であっても、 被処理液はホルダの端面の網目を通過するため、紐状担体に固定化された水素生
成菌と有機物との接触効率の低下を十分に抑制することができる。
[0030] また、本発明の水素の製造方法においては、紐状担体の延伸方向に沿った回転 軸を中心として回転する撹拌子を有する撹拌手段を設け、該撹拌手段により水素発 酵槽内の被処理液を撹拌して水素発酵を行うことが好ましい。カゝかる撹拌手段により 水素発酵槽内の被処理液を撹拌することによって、被処理液の流れを紐状担体の繊 維深くまで到達させることができるため、有機物の固定ィ匕担体への保持のしゃすさと 固定ィヒ担体からの付着物及び水素ガスの分離のしゃすさの双方を一層向上させるこ とができ、極めて高水準の処理効率を達成することができる。
[0031] また、本発明の水素の製造方法においては、水素発酵槽に連結された循環ライン であって、一端力 水素発酵槽内の被処理液を抜き出し、他端から被処理液を水素 発酵槽内に導入することにより、水素発酵槽内に被処理液の流れを生じさせる循環 ラインを有する撹拌手段を設け、該撹拌手段により水素発酵槽内の被処理液を撹拌 して水素発酵を行うことが好ま U、。力かる循環ラインによって水素発酵槽内の被処 理液を循環すれば、極めて高水準の処理効率を達成できる。さらに、循環ラインを有 し、撹拌子を有さない撹拌手段では、撹拌子による剪断力の影響がないため、その 生育に剪断力の影響を受けやすい水素生成菌を使用する場合であっても、好適に 水素生成菌による水素の産生が実現できる。
発明の効果
[0032] 以上の通り、本発明の水素発酵装置によれば、水素発酵により有機物から水素を 生成させるに際し、被処理液が固形分を含む場合であっても効率よく且つ安定的に 処理することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制す ることができるよう〖こなる。特に、被処理液が高濃度の固形分を含む場合には、本発 明による上述の効果が最大限に発揮され、十分な量の水素を発生させることができる と共に、被処理液中の固形分を十分に減量することができる。
[0033] さらに、本発明の水素の製造方法によれば、水素生成菌の固定ィ匕担体として紐状 担体を用いることによって、水素生成菌及び被処理液中の有機物を担体に十分に且 つ安定的に保持することができ、水素生成菌による有機固形分の可溶ィ匕及び水素 の生成を有効に実現することができる。
図面の簡単な説明
[0034] [図 1]本発明の水素発酵装置の好適な第一実施形態を示すブロック構成図である。
[図 2]本発明で用いられる紐状担体及びホルダの一例を示す斜視図である。
[図 3]本発明の水素発酵装置の好適な第二実施形態を示すブロック構成図である。
[図 4]実施例 1の水素発酵試験における発酵ガス生成量と運転時間との関係を示す グラフである。
[図 5]実施例 1の水素発酵試験における原料液供給量に対する水素発生量と運転時 間との関係を示すグラフである。
[図 6]実施例 2の水素発酵試験における発酵ガス生成量と運転時間との関係を示す グラフである。
[図 7]実施例 2の水素発酵試験における原料液供給量に対する水素発生量と運転時 間との関係を示すグラフである。
符号の説明
[0035] 1· ··原料槽、 2· ··水素発酵槽、 3、 10· ··撹拌子、 4、 11· ··モータ、 5、 12、 16、 19· ·· ポンプ、 6· ··紐状担体、 7· ··ホルダ、 8a、 8b…端面、 9· ··フレーム、 13· ··温度計測器 、 14· ··ρΗ計測器、 15· ··アルカリ供給装置、 17· ··タンクジャケット、 18· ··温度制御装 置、 100…被処理液、 L3、 L8—循環ライン。
発明を実施するための最良の形態
[0036] 以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、 図面中、同一要素には同一符号を付することとし、重複する説明は省略する。また、 図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
[0037] 図 1は本発明の水素発酵装置の好適な第一実施形態を示すブロック構成図である 。第一実施形態に係る水素発酵装置は、図 1に示したように、原料槽 1と水素発酵槽 2とを含んで構成されている。そして、後述するように、水素発酵槽 2内には、水素生 成菌が固定ィ匕された紐状担体 6が、被処理液 100に浸漬するように配置されている。
[0038] 原料槽 1には、原料液である有機物を含む被処理液 100を槽内に導入する導入ラ イン L1が接続されている。また、原料槽 1は攪拌子 3及びモータ 4で構成される撹拌 機を備えており、被処理液 100を原料槽 1から水素発酵槽 2に供給する前に、原料
槽 1内に貯留した被処理液 100を撹拌することにより固形分を液中に均一に分散さ せることが可能となって 、る。
[0039] 被処理液 100としては、水素生成菌により水素発酵させることが可能な有機物を含 んでいれば特に制限されない。具体的には、家庭、レストラン、食品工場等から排出 される食品残滓や排水などの有機性廃液が挙げられる。第一実施形態は、かかる有 機性廃液の中でも、再生可能有機性資源力 のエネルギーガスの獲得を目的とした 、有機質廃棄物や有機性廃水などのバイオマスの処理に対して有用であり、特に、 ビール製造廃水や製パン廃棄物、製糖廃棄物 (サトウキビ粕)、デンプン製造廃棄物 (キヤッサバ粕)などの処理に好ましく適用される。
[0040] また、原料槽 1は移送ライン L2を介して水素発酵槽 2と接続されており、移送ライン L2には被処理液 100を原料槽 1から水素発酵槽 2に供給するための移送ポンプ 5が 配設されている。なお、移送ポンプ 5を用いる代わりに、原料槽 1と水素発酵槽 2との 水位差を利用して原料槽 1から水素発酵槽 2に被処理液 100を供給してもよい。
[0041] 水素発酵槽 2内においては、水素生成菌が固定化された複数の紐状担体 6が、そ の両端がホルダ 7に固定されることにより、被処理液 100の深さ方向に延伸した状態 で配置されている。
[0042] 紐状担体 6は、水素生成菌を固定ィヒできるものであれば特に制限されないが、柔 軟性を有するものが好ましぐ中でも図 2に示すように、複数の小さなループ状の繊 維をモール状に形成した組み紐構造を有するものが特に好まし 、。力かる組み紐構 造の紐状担体 6は、例えば合成樹脂からなる線材で形成された中心紐体と、この中 心紐体力 放射状に伸びる多数のループ状の線材又は紐体とで構成することができ る。力かる組み紐構造を有する紐状担体 6を用いることで、紐状担体 6に水素生成菌 を大量に固定ィ匕することができ、また、有機物の紐状担体 6への保持のしゃすさ並び に紐状担体 6からの過剰な付着物及び水素ガスの分離のしゃすさを向上させること ができる。なお、紐状担体 6が組み紐構造を有する場合、紐状担体 6はモール状の 繊維が潰れて空隙を失わな 、程度の剛性を有して 、ることが好ま 、。紐状担体 6を 構成する繊維としては、耐久性を有する榭脂が好ましぐ中でも、ポリプロピレン、ポリ アミド(ナイロン)、ポリビュルアルコール(ビニロン)、ポリ塩化ビ-リデン、あるいはこ
れらの 2種以上を組み合わせた繊維が特に好ましい。
[0043] 紐状担体 6の単位長さ当たりの比表面積は、 0. 3〜4. 0m2Zmが好ましぐ 1. 0〜 3. 0m2Zmがより好ましい。
[0044] また、紐状担体 6の長さは水素発酵槽 2の大きさや被処理液 100の処理量に応じて 適宜選定できるが、延伸した状態の紐状担体 6全体が被処理液 100に浸漬するよう な長さであることが処理効率の点で好ましい。例えば、図 1に示したように、紐状担体 6を被処理液 100の深さ方向に延伸するように配置する場合、紐状担体 6の長さを被 処理液 100の深さよりも短くすることが好ま 、。
[0045] また、紐状担体 6の本数は特に制限されず、水素発酵槽 2の大きさや紐状担体 6の 太さなどに応じて適宜選定することができる。なお、水素発酵槽 2が複数本の紐状担 体 6を備える場合、被処理液 100が紐状担体 6の間を延伸方向に沿って通過できる ように、紐状担体 6同士を離隔して配置することが好ましい。また、紐状担体 6のサイ ズに対して水素発酵槽 2の内容績が小さい場合には、紐状担体 6をホルダ 7により延 伸した状態で固定する代わりに、水素発酵槽 2の内周面に沿って紐状担体 6を螺旋 状に配置してもよい。紐状担体 6を螺旋状に配置すると、より長い紐状担体 6を水素 発酵槽 2内に収容できるため、好ましい。
[0046] また、ホルダ 7は、図 2に示すように、相互に対向配置されており且つ網目構造を有 する 2つの端面 8a、 8bと、端面 8a、 8bを所定間隔をもって保持するフレーム 9とで構 成されており、紐状担体 6のそれぞれは、両端部が端面 8a、 8bそれぞれに固定され ることにより、延伸した状態で保持されている。このようなホルダ 7を用いて紐状担体 6 を延伸した状態で保持することによって、水素発酵槽 2内における被処理液 100の 流れがどのような向きであっても、被処理液 100中の有機物と紐状担体 6に固定ィ匕さ れた水素生成菌との接触、紐状担体 6の表面に付着した不要な固形分及び水素生 成菌の死骸などの分離、更には紐状担体 6の繊維深くで生じた水素ガスの分離を効 率よく且つ確実に行うことができる。例えば、紐状担体 6の延伸方向に沿った被処理 液 100の流れが生じた場合には、被処理液 100はホルダ 7の端面 8a又は 8bの網目 を通過するため、上述の効果を有効に得ることができる。
[0047] また、紐状担体 6に固定化される水素生成菌としては、水素生成能力を有する限り
特に制限されない力 例えば、 Clostridia^ Thermoanaerobacteriales、 Methylotrophs 、 Methanogens^ RumenBactena、 Archaebacteria等の 性微生物、 Escherichia coll 、 Enterobacter等の通性嫌気性微生物、 Alcaligenes、 Bacillus等の好気性微生物、光 合成細菌、 Cyanobacteriaなどが挙げられる。水素生成菌は、単離された微生物によ つて行ってもよ!、し、水素生産に適した混合微生物群 (ミクロフローラ)を用いてもよ ヽ 。これらの水素生成菌による水素発酵を行うと、水素 (H )及び二酸化炭素 (CO )を
2 2 主成分とする発酵ガス (バイオガス)が発生すると共に、酢酸、酪酸、乳酸などの有機 酸とが生成する。例えばグルコースは、水素生成菌の作用により、下記式(1)に基づ いて酢酸 (CH COOH)と水素と二酸ィ匕炭素に分解する。
3
C H O + 2H 0→2CH COOH + 2CO +4H (1)
6 12 6 2 3 2 2
[0048] なお、水素生成菌は、被処理液 100を水素発酵槽 2に導入する前に予め紐状担体 6に固定ィ匕しておくことが好ましいが、水素生成菌を所定量の被処理液 100と共に水 素発酵槽 2に導入して紐状担体 6に固定化させてもよい。なお、水素生成菌を被処 理液 100と共に水素発酵槽 2に導入する場合には、水素発酵が安定するまで装置の 慣らし運転を行った後で連続発酵に切り替えることが好ましい。
[0049] 図 1に戻り、水素発酵槽 2は、回転軸が紐状担体 6の延伸方向と略平行となるように 配置された撹拌子 10と、撹拌子 10を回転させるモータ 11とで構成される撹拌装置を 備えている。この撹拌装置により水素発酵槽 2内の被処理液 100を撹拌することによ つて、被処理液 100の流れを紐状担体 6の繊維深くまで到達させることができるため 、有機物の紐状担体 6への保持のしゃすさと紐状担体 6からの付着物及び水素ガス の分離のしゃすさの双方を一層向上させることができ、極めて高水準の処理効率を 達成することができる。
[0050] また、水素発酵槽 2には、ポンプ 12、温度計測器 13及び pH計測器 14を備える循 環ライン L3が設けられている。更に、この循環ライン L3の pH計測器 14よりも下流側 には、水素発酵の進行に伴う酸の生成により被処理液 100の pHが低下した場合に アルカリ水溶液 (NaOH水溶液など)を被処理液 100に添加するためのアルカリ供給 装置 15が、ポンプ 16を備えるライン L4を介して接続されている。また、水素発酵槽 2 の外周面にはタンクジャケット 17が配置されており、このタンクジャケット 17には、温
度制御装置 18により所定温度に制御された熱媒体 (例えば温水)をポンプ 19により タンクジャケット 17に循環供給する循環ライン L5が接続されている。そして、温度計 測器 13と温度制御装置 18、 pH計測器 14とアルカリ供給装置 15はそれぞれ連動し ており、ポンプ 12により循環ライン L3に引き出された被処理液 100の液温及び pHに 基づいて水素発酵槽 2内の被処理液 100の温度及び pHを制御することが可能とな つている。嫌気性の微生物群による水素発酵を行う際の処理条件としては、 pH5. 0 〜7. 5程度、温度 20〜70°C程度とすることが好ましい。
[0051] また、第一実施形態に係る水素発酵装置においては、図 1に示したように、循環ラ イン L3の水素発酵槽 2からの引出口(抜き出し口)が水素発酵槽 2への返送口(導入 口)よりも上方に配置されている。これにより、水素発酵槽 2内の被処理液 100に上向 きの流れ (更には対流)を生じさせることができ、被処理液 100に含まれる固形分の 水素発酵槽 2底部への沈積を抑制することができる。その結果、被処理液 100中の 有機物の紐状担体 6への保持のしゃすさ、並びに紐状担体 6からの付着物(不要な 固形分や水素生成菌の死骸など)及び水素ガスの分離のしゃすさの双方を一層向 上させることができる。
[0052] このように、水素生成菌の固定ィ匕担体として紐状担体 6を用いることによって、被処 理液 100中の有機物を担体に十分に且つ安定的に保持することができ、水素生成 菌による水素発酵を有効に実施することができる。また、紐状担体 6は柔軟性を有し ているため、被処理液 100の水素発酵槽 2内への導入又は槽外への排出、撹拌装 置による撹拌、循環ライン L3による循環などによって生じる被処理液 100の流れによ り、紐状担体 6の表面に付着した不要な固形分及び水素生成菌の死骸などの分離、 更には紐状担体 6の繊維深くで生じた水素ガスの分離を効率よく且つ確実に行うこと ができる。さらに、水素生成菌は紐状担体 6に固定ィ匕されているため、従来の流動床 法のように担体と被処理液 100とを分離する手段を必要とせず、また、水素生成菌の 水素発酵槽 2外部への流出を十分に抑制することができる。したがって、被処理液 1 00が固形分を含む場合であっても水素発酵を効率よく且つ安定的に実施することが でき、且つ水素生成菌の水素発酵槽 2外部への流出を十分に抑制することができる 水素発酵装置が実現可能となる。
[0053] また、被処理液 100が高濃度の固形分を含む場合には、上述の効果が最大限に 発揮され、十分な量の水素を発生させることができると共に、被処理液 100中の固形 分を十分に減量することができる。
[0054] 水素発酵により発生した水素ガスは水素発酵槽 2の上部に設けられたガス回収ライ ン L6から回収される。一方、水素発酵後の被処理液 100 (発酵液)は排出ライン L7 カも槽外に排出される。なお、排出ライン L7と水素発酵槽 2との接続位置は特に制 限されないが、当該接続位置を紐状担体 6の上端よりも上方とすることで、発酵液へ の固形分の混入を抑制することができる。また、発酵液の排出方法は特に制限され ず、オーバーフロー又はポンプによる強制排出の 、ずれであってもよ!/、。
[0055] また、紐状担体 6はその性能を長期間維持できるものであるが、紐状担体 6の性能 低下が認められた場合には、水素発酵槽 2の上部の蓋を外して開放し、紐状担体 6 を水素発酵槽 2から取り出して交換することができる。
[0056] 図 3は本発明の水素発酵装置の好適な第二実施形態を示すブロック構成図である 。第二実施形態に係る水素発酵装置は、第一実施形態と同様に、原料槽 1と水素発 酵槽 2とを含んで構成され、水素発酵槽 2内には、水素生成菌が固定化された紐状 担体 6が、被処理液 100に浸漬するように配置されている。以下に、撹拌手段として の循環ライン L8につ 、て詳述する。
[0057] 循環ライン L8は、その一端が水素発酵槽 2の底部に、他端が水素発酵槽 2の側部 にそれぞれ連結されている。ここで、水素発酵槽 2の底部と循環ライン L8との連結部 は、被処理液 100の引出口であり、水素発酵槽 2の側部と循環ライン L8との連結部 は、被処理液 100の水素発酵槽 2への返送口である。すなわち、引出口から水素発 酵槽 2内の被処理液 100を循環ライン L8に抜き出し、返送口から被処理液 100を水 素発酵槽 2内に導入することにより、水素発酵槽 2内に被処理液 100の流れが生じ、 水素発酵槽 2内の被処理液 100が撹拌される。
[0058] 循環ライン L8と水素発酵槽 2との連結部位は、循環ライン L8によって水素発酵槽 2 内の被処理液 100を循環させ、撹拌子 10を用いなくとも被処理液 100の流れを紐状 担体 6の繊維深くまで到達させることができればよい。
[0059] 引出口及び返送口の配置の好ましい態様としては、例えば、引出口がホルダ 7の
上端よりも上方に位置し、且つ、返送口がホルダ 7の下端よりも下方に位置するように 、水素発酵槽 2と循環ライン L8とを連結する態様が挙げられる。これにより、水素発酵 槽 2内において紐状担体 6の延伸方向に沿った被処理液 100の流れを生じさせるこ とができ、紐状担体 6と被処理液 100との接触効率を向上させることができる。
[0060] さらに、引出口がホルダ 7の下端よりも下方に位置し、且つ、返送口がホルダ 7の上 端よりも上方に位置する場合は以下の利点があり、例えば、被処理液 100が固形分 を高濃度で含む場合に好適である。すなわち、被処理液 100に含まれる固形分が水 素発酵槽 2の底部に沈降したとしても、沈降した固形分は被処理液 100と共に引出 ロカ 循環ライン L8に抜き出され、ホルダ 7の上端よりも上方に設けられた返送口か ら水素発酵槽 2内に戻されるため、紐状担体 6と接触し得る固形分の有効量を高水 準に維持することができる。また、引出口がホルダ 7の上端よりも上方に位置し、且つ 、返送口がホルダ 7の下端よりも下方に位置する場合、沈降した固形分を被処理液 1 00中に浮遊させるためには返送ロカ 被処理液 100により固形分を吹き上げる必要 があるため、循環流速を増大させる必要がある。これに対して、引出口がホルダ 7の 下端よりも下方に位置し、且つ、返送口がホルダ 7の上端よりも上方に位置する場合 は比較的低い循環流速で同様の効果を得ることができる。
[0061] なお、第二実施形態のように撹拌機を設けずに循環ライン L8のみで被処理液 100 の撹拌を行う場合には、水素発酵槽 2内において循環ライン L8の引出口と返送口と を結ぶ線に沿った対流が生じるため、被処理液の流れを紐状担体の繊維深くまで到 達させる観点から、紐状担体 6を略水平に配置することが好ま 、。
[0062] また、本発明は第一実施形態及び第二実施形態に限定されるものではない。例え ば、水素発酵槽 2内の被処理液 100を撹拌する手段として、第一実施形態で示した 撹拌機 (撹拌子 10及びモータ 11)のみを有し、循環ライン L3、 L8を有していなくても 、撹拌子 10により被処理液 10の流れを紐状担体 6の繊維に到達できるような撹拌が 実現できればよい。この場合の紐状担体 6の配置は第一実施形態と同様とすることが 好ましい。
[0063] また、第一実施形態及び第二実施形態では、紐状担体 6の両端をホルダ 7に固定 した例を示したが、被処理液 100中で延伸した状態に保持することができ且つ紐状
担体 6同士の絡み合いを防止できる場合には、紐状担体 6の一端のみを固定しても よい。さらに、水素発酵槽 2内の被処理液 100の温度を制御する手段として、タンクジ ャケット 17の代わりにコイル、熱交換器などを用いてもよぐ温水などの熱媒体自体を 被処理液 100と混合することにより温度制御を行ってもよい。
実施例
[0064] 以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は 以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[0065] [実施例 1]
先ず、複数の小さなループ状の繊維 (ナイロン +ポリプロピレン)をモール状に形成 した組み紐構造を有する紐状担体 (長さ: 0. 3m、単位長さ当たりの比面積: 1. 02m Vm)を 100本用意し、紐状担体の両端を図 2に示す構造を有する SUS製ホルダに 固定した。このようにして延伸した状態でホルダに保持された紐状担体を延伸方向が 鉛直方向となるように、図 1に示した水素発酵装置の水素発酵槽(内容積: 900L)内 に配置した。また、本実施例においては、水素生成菌 Thermoanaerobacterium therm osaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集を、予め種菌培養槽にて増殖 させ、水素発酵処理に供した。
[0066] 次に、上記の水素発酵装置の原料槽に水及び廃棄パンを投入して原料液を調製 した。原料液の廃棄パン濃度は、廃棄パン 33kgに対して原料液体積が lm3となるよ うに調製した。このようにして得られた原料液 490Lと、上記の水素生産微生物群集 1 0Lとを水素発酵装置の水素発酵槽に投入し、 50°Cで 72時間撹拌しながら水素生 産菌の増殖及び紐状担体への固定ィ匕操作を行った。その後、水素発酵槽に原料液 を 250LZ日の速度で連続供給した。発酵槽内液量は 500Lとし、発酵液の滞留時 間を 48時間とした。発酵液の温度は 50°C、 pHは 6に設定した。攪拌機は回転数を 8 Orpmに設定し、発酵槽内で攪拌されながら所定時間滞留した発酵液を、処理液とし て連続的に排出ロカ 槽外に排出した。
[0067] 上記の水素発酵試験における発酵ガス生成量と運転時間との関係を図 4に示す。
被処理液の供給量に対して発酵ガス発生量は、試験中安定して推移した。発酵ガス 中の水素濃度は約 55%を占め、また、第二成分として二酸化炭素の発生が確認さ
れた。
[0068] また、上記の水素発酵試験における原料液供給量に対する水素発生量と運転時 間との関係を図 5に示す。本試験においては、原料液 1L供給に対して 3〜4Lの水 素が発生し、この比率は試験中安定して推移した。
[0069] また、試験開始カゝら所定時間経過時に、水素発酵槽 2に導入される前の被処理液 ( 原料液)及び水素発酵槽 2から排出される被処理液 (発酵排液)に含まれる固形分( SSの大きさ以上)の重量を測定した結果を表 1に示す。表 1に示したように、本試験 においては、被処理液中の固形分を平均重量比で 74%減量することができた。
[0070] [表 1]
[0071] [実施例 2]
複数の小さなループ状の繊維(ナイロン +ポリプロピレン)をモール状に形成した組 み紐構造を有する紐状担体 (長さ: 0. 5m、単位長さ当たりの比面積: 1. 02m m) を 40本用意し、紐状担体の両端を図 2に示す構造を有する SUS製ホルダ 2個に各 2 0本ずつ固定した。このようにして延伸した状態でホルダに保持された紐状担体を延 伸方向が鉛直方向となるように、図 3に示した水素発酵装置の水素発酵槽(内容積: 220L)内に配置した。本実施例においては、水素生成菌 Thermoanaerobacterium th ermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集を、予め種菌培養槽にて増 殖させ、水素発酵処理に供した。
[0072] 上記の水素生産微生物群集 200Lを本水素発酵装置に投入し、その後水素発酵
槽に lOOLZ日の速度で原料液を連続供給した。発酵槽内液量は 200Lとし、発酵 液の滞留時間を 48時間とした。供給する原料液は廃棄パンを水で希釈したものを用 い、廃棄パンの濃度は、紐状担体に十分な量の微生物群集が保持されるまでの 15 日間は 25kg/m3とし、その後は 33kg/m3とした。発酵液の温度は 60°C、 pHは 6 に設定し、循環ライン L8を用いて流速 3000LZhにて水素発酵槽内の循環(下向き 循環)を行いながら、所定時間滞留した発酵液を処理液として連続的に排出口から 槽外に排出した。
[0073] 上記の水素発酵試験における発酵ガス生成量と運転時間との関係を図 6に示す。
被処理液の供給量に対して発酵ガス発生量は、試験中安定して推移した。発酵ガス 中の水素濃度は約 55%を占め、また、第二成分として二酸化炭素の発生が確認さ れた。
[0074] また、上記の水素発酵試験における原料液供給量に対する水素発生量と運転時 間との関係を図 7に示す。本試験においては、原料液 1L供給に対して 4. 5〜5. 5L の水素が発生し、この比率は試験中安定して推移した。
[0075] [実施例 3]
1L容微生物培養装置 (BMJ— 01PI 1L、エイブル (株)製)に実施例 1と同様の紐 状担体 (長さ: 0. 25m) 1本を装置の内周面に沿って螺旋状に設置し、この装置を水 素発酵槽として以下の水素発酵試験を実施した。
[0076] 先ず、紐状担体を設置した微生物培養装置を窒素にて置換した後、水素生成菌 T hermoanaerobactenum thermosaccharolyticum近縁種 3 水 生産微生物群集 d OOmLとビール製造廃水 200mLを投入し、 50。C、 pH6. 0〜6. 5、撹拌数 125rpm にて水素発酵させた。なお、ビール製造廃水は、サッポロビール (株)静岡工場より採 取したビール製造廃水を、 200メッシュ篩にて篩過した後で試験に供した。篩過後の ビール製造廃水の性状は、 pH4、 COD15000〜60000mL、全糖(グルコース換算 値;) 5000〜16000mgZL、マル卜ース 3000〜4000mgZL、乳酸 2500〜9000m g/ 酢酸 100〜300mgZLであった。
[0077] 次に、水素発酵が安定したことを確認した後、 250mLの培地 (ビール製造廃水)を 連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続培養を行った。本
試験における水素発生量は 1日当たり最大で 61 lmLであった。また、培地 (ビール 製造廃水)の供給量に対する水素発生量は最大で 2. 4mL-H ZmLであった。
2
[0078] [比較例 1]
2L容微生物培養装置 (MBF、東京理化器械 (株)製)を窒素にて置換した後、水 素生成 isfThermoanaerobactenum thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産 生物群集 50mLと、実施例 3と同様のビール製造廃水 700mLとを投入し、 50°C、 p H6. 0〜6. 5、撹拌数 125rpmにて水素発酵させた。
[0079] 次に、水素発酵が安定したことを確認した後、 2000mLの培地 (ビール製造廃水) を連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続培養を行った。 本試験における水素発生量は 1日当たり最大で 2500mLであった。また、培地 (ビー ル製造廃水)の供給量に対する水素発生量は最大で 1. 25mL-H ZmL
2 であった
[0080] [比較例 2]
2L容微生物培養装置 (MBF、東京理化器械 (株)製)を窒素にて置換した後、殺 菌したケイソゥ土焼成粒担体 (昭和化学工業 (株)製) 600ml (嵩体積)と、水素生成 rhermoanaerobactenum tnermosaccnarolyticum近縁種を a'む水 生産微生物群 集 lOOmLと、実施例 3と同様のビール製造廃水 900mLとを投入し、 50°C、 pH6. 0 〜6. 5、撹拌数 125rpmにて水素発酵させた。
[0081] 次に、水素発酵が安定したことを確認した後、培養液量を 500mL減らし、 500mL の培地 (ビール製造廃水)を連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排 出する連続培養を行った。本試験における水素発生量は 1日当たり最大で 300mL であった。また、培地 (ビール製造廃水)の供給量に対する水素発生量は最大で 0. 6mL-H ZmLであった。なお、本試験においては、底部付近に多くの微生物と培
2
地中の固形分などが沈積しているのが確認され、培地成分の対流状態が活発でな ヽためガス発生量が低迷したことが示唆された。
[0082] [比較例 3]
5L容微生物培養装置 (BMS— PI 5L、エイブル (株)製)を窒素にて置換した後、 殺菌したキトサンビーズ担体 (キトパール、富士紡績 (株)製) 500ml (嵩体積)と、馴
養した水素発酵好熱菌群集 lOOmLと、実施例 3と同様のビール製造廃水 1900mL とを投入し、 50°C、 pH6. 0〜6. 5、撹拌数 200rpmにて水素発酵させた。
[0083] 次に、水素発酵が安定したことを確認した後、 500mLの培地 (ビール製造廃水)を 連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続培養を行った。本 試験における水素発生量は 1日当たり最大で lOOmLであった。また、培地 (ビール 製造廃水)の供給量に対する水素発生量は最大で 0. 2mL-H ZmLであった。な
2
お、本試験においては、キトサンビーズ担体への微生物保持が進行し、水素ガスの 発生が旺盛になるに従って担体粒子の大部分が液面に浮上する現象が観察され、 培地成分との接触機会が非常に低いためガス発生量が低迷したことが示唆された。
[0084] 実施例 3及び比較例 1〜3の水素発酵装置の性能を比較するために、上記試験に おける希釈率、水素生成量 Z原料液供給量、水素生産量 Z全反応体積を表 2に示 す。ここで、「希釈率」とは、発酵槽の実液量に対する原料液の平均滞留時間の逆数 を意味し、下記式 (A) :
D = F/V (A)
[式中、 Dは希釈率 (次元: T_1 (T:時間)を示し、 Fは供給流量を示し、 Vは実液量を 示す。]
で表すことができる。また、「全反応体積」とは、発酵槽の実液量と固定化担体の体積 との和を意味する。
[0085] [表 2]
[0086] [実施例 4]
紐状担体の水素発酵に及ぼす影響を調べるために、材質又は比表面積の異なる 3 種類の組み紐構造を有する紐状担体 (長さ: 0. 2m)を各 2本ずつ 30L容の水素発酵 装置 (HMF - 30F01 - 30L培養槽、日立製作所 (株)製)の水素発酵槽内に延伸 方向が鉛直方向となるように設置し、連続発酵により各紐状担体に付着した菌体重
量を測定した。
[0087] まず、上記の水素発酵装置の原料槽に水及び廃棄パンを投入して原料液を調製 した。原料液の廃棄パン濃度は、廃棄パン 33gに対して原料液体積が 1Lとなるように 調整した。次に、こうして得られた原料液 14. 5Lと、予め 1L容の発酵槽にて増殖さ せ 7こ水素生成 iMThermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素 生産微生物群集 0. 5Lとを 30L容の水素発酵槽に投入し、 50°Cで 72時間撹拌しな 力 水素生産菌の増殖及び紐状担体への固定ィ匕操作を行った。その後、水素発酵 槽に原料液を 7. 5LZ日の速度で連続供給した。発酵槽内液量は 15. 0Lとし、発酵 液の滞留時間を 48時間とした。発酵液の温度は 50°C、 pHは 6に設定した。攪拌機 は回転数を lOOrpmに設定し、発酵槽内で攪拌されながら所定時間滞留した発酵液 を、処理液として連続的に排出ロカも槽外に排出した。
[0088] 9ヶ月間連続発酵を行なった後、水素発酵槽内から各紐状担体を取り出し、各紐状 担体に付着した付着菌体重量を測定した。表 3中の菌体重量は、各紐状担体に付 着した単位長さ当たりの付着菌体重量を意味する。
[0089] [表 3]
[0090] [実施例 5]
5L容微生物培養装置 (BMS— 05PI 5L、エイブル (株)製)に実施例 1と同様の 紐状担体 (長さ: 0. 15m) 6本を延伸方向が鉛直方向となるように設置し、この装置を 水素発酵槽として以下の水素発酵試験を実施した。
[0091] 先ず、キヤッサバ粕(キヤッサバからデンプンを製造した後の残渣) 500g (湿重量) 及び酵母エキス 40gを水で希釈して 5Lとした後、 121°C、 20分の条件で滅菌処理を 行い、これを原料 Ϊ夜とし 7こ。次に、水素生成菌 Thermoanaerobacterium thermosaccha
rolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集 0. 5Lと原料液 2Lとを上記水素発酵槽 に投入し、 55度、 pH5. 5〜6. 0、攪拌数 150rpmにて、水素発酵させた。
[0092] 次に、水素発酵が安定したことを確認した後、約 0. 3〜0. 9Lの原料液を連続的に 供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続発酵を行った。本試験にお ける水素発生量は 1日当たり最大で 1. 5Lであった。また、キヤッサバ粕の供給量に 対する水素発生量は最大で 20L— H Zkgであった。
2
[0093] [実施例 6]
5L容微生物培養装置 (BMS— 05PI 5L、エイブル (株)製)に実施例 1と同様の 紐状担体 (長さ: 0. 15m) 6本を延伸方向が鉛直方向となるように設置し、この装置を 水素発酵槽として以下の水素発酵試験を実施した。
[0094] 先ず、紐状担体を設置した微生物培養装置を窒素にて置換し、水素生成菌 Therm oanaerobacterium thermosaccharolyticum近 fe種を含む水素生産微生物群集 2. 5L を投入した後、廃棄パンを希釈した液を連続供給し、等量の培養液を連続的に排出 する連続培養を行った。培養の条件は 55°C、 pH5. 5〜6. 0、攪拌数 150rpmとし、 廃棄パン希釈液の濃度は 33gZL、 1日あたりの供給量は 0. 5Lとした。同条件にて 水素発酵が安定したことを確認した後、キヤッサバ粕を酵素処理したものを原料とし て、水素発酵を行った。
[0095] キヤッサバ粕の酵素処理の手順は以下の通りである。キヤッサバ粕 100g (湿重量) をホモジナイズした後、イオン交換水にて 700gとした。次に、苛性ソーダにて pH4. 0 に調整した。次に、スミチーム PMAC (新日本ィ匕学工業 (株)製) 0. lgを添加し、 60 。C、 24時間の条件で振とうしながら酵素処理を行った。これに、酵母エキス 6gを 50m Lの水に溶解させて 121°C、 20分の条件で滅菌処理を行ったものを別途添加して原 料液とした。
[0096] 24時間に 1回 0. 7Lの原料液を一度に供給し、 1日あたり 0. 7Lの一定流量で連続 的に排出する連続発酵を行った。発酵の条件は 55°C、 pH5. 5〜6. 0、攪拌数 150 rpmとし、原料液を投入した直後の 10分間のみ攪拌数を 250rpmとした。本試験に おける水素発生量は 1日当たり最大で 3. 8Lであった。また、キヤッサバ粕の供給量 に対する水素発生量は最大で 37L— H Zkgであった。
産業上の利用可能性
本発明の水素発酵装置によれば、水素発酵により有機物力 水素を生成させるに 際し、被処理液が固形分を含む場合であっても効率よく且つ安定的に処理すること ができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制することができる 。特に、被処理液が高濃度の固形分を含む場合には、本発明による上述の効果が 最大限に発揮され、十分な量の水素を発生させることができると共に、被処理液中の 固形分を十分に減量することができる。