JPWO2007060791A1 - 水素発酵装置及び水素の製造方法 - Google Patents

水素発酵装置及び水素の製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明の水素発酵装置は、水素発酵により有機物を分解して水素を生成させる水素発酵装置であって、有機物を含む被処理液が収容される水素発酵槽と、該水素発酵槽内において被処理液に浸漬するように配置されており、水素生成菌が固定化された紐状担体とを備えることを特徴とする。

Description

本発明は水素発酵により有機物から水素を生成させる水素発酵装置及び水素の製造方法に関する。
従来、生ゴミ等の食品廃棄物や農林畜産廃棄物の処分が社会問題となっており、バイオマス処理技術の開発が求められている。
このような状況下、嫌気性発酵による有機性廃棄物の処理技術の開発が進められている。ここで、従来の嫌気性発酵は有機物の分解によるメタン生成を目的とするものが主であり、炭水化物、タンパク質、脂質などの有機物を加水分解して有機酸を生成する酸生成段階と、有機酸をメタン、二酸化炭素、水に分解するメタン発酵段階の二段階からなる(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
ここで、上記酸生成工程は、有機物を分解するときに水素が発生するため水素発酵工程とも呼ばれるが、従来の嫌気性発酵においてはこの水素に着目しておらず、生成した水素はメタン菌による利用、他の細菌の電子受容体の還元やエネルギーの獲得などに消費されていた。
そこで、近年、クリーンエネルギーである水素の有効利用の観点から、有機物の分解による水素生成を目的とする水素発酵が注目されている(例えば、特許文献4〜6を参照)。
特開2001−149983号公報 特開2005−66420号公報 特開2005−125149号公報 特開2003−251312号公報 特開2005−13045号公報 特開2005−193122号公報
ところで、上記特許文献1〜6では、生物処理槽の形式として微生物を槽内の被処理液中に懸濁した状態で運転する完全混合型が採用されているが、生物処理の分野では、槽内の微生物濃度を高めて汚濁物除去速度を向上させることを目的として、微生物を担体に固定化して用いる技術が広く知られている。このような担体を用いた処理方法には、微生物が固定化された担体を槽内の所定位置に固定して処理を行う固定床法、微生物が固定化された担体を槽内に投入して流動させる流動床法などがある。
しかしながら、上記の固定床法又は流動床法のいずれであっても、水素発酵に適用した場合には以下のような問題があり、実用化に供するには未だ改善の余地がある。
すなわち、固定床法の場合、担体が固定されていることにより微生物の世代交代が進行しにくく、微生物の死骸が担体表面に残存することにより有機物と担体との接触面積が減少し、処理効率が低下してしまう。また、水素発酵に供される被処理液に固形分が含まれる場合、不要な固形分の担体表面への付着あるいは目詰まり(Plugging、Clogging、Jamming)なども処理効率の低下の原因となり、逆洗などのメインテナンスを強いられることになる。
一方、流動床法の場合は、担体の流動に伴い担体同士が接触して微生物が適度に剥がれるため、被処理液と担体との接触面積の低下を抑制することができ、処理効率の点では固定床法よりも適していると考えられる。しかし、本発明者らの検討によれば、流動床法の場合、固形分の濃度変化や被処理液の性状・比重の変化に対して流動性を均一に維持しにくく、十分な処理効率を達成することは必ずしも容易ではない。特に被処理液が固形分を高濃度で含有する場合には、被処理液中に浮遊する担体と、被処理液の下部に沈積する固形分とを接触させることが困難となり、水素発酵の処理効率が低下してしまう。さらに、流動化させた担体の被処理液からの分離が困難であり、また、被処理液が固形分を含む場合には水素生成菌が固形分に付着して水素発酵槽の外部に流出しやすいといった問題もある。
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水素発酵により有機物から水素を生成させるに際し、被処理液が固形分を含む場合であっても効率よく且つ安定的に処理することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制することができる水素発酵装置及び水素の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、水素発酵により有機物を分解して水素を生成させる水素発酵装置であって、有機物を含む被処理液が収容される水素発酵槽と、該水素発酵槽内において被処理液と接触するように配置されており、水素生成菌が固定化された紐状担体とを備えることを特徴とする水素発酵装置を提供する。
なお、本発明でいう「水素生成菌」とは、水素生成能力を有する微生物を意味する。
本発明の水素発酵装置においては、水素生成菌の固定化担体として紐状担体を用いることによって、水素生成菌及び被処理液中の有機物が担体に十分に且つ安定的に保持され、また、被処理液中の有機物との接触効率が高められるので、水素生成菌による水素発酵を有効に実施することができる。また、紐状担体は柔軟性を有しているため、被処理液の槽内への導入又は槽外への排出、更には水素発酵処理時の撹拌や循環などによって生じる被処理液の流れにより、紐状担体に付着した不要な固形分及び水素生成菌の死骸などの分離、更には紐状担体の繊維深くで生じた水素ガスの分離を効率よく且つ確実に行うことができる。
また、被処理液が高濃度の固形分を含む場合、例えば、被処理液の固形分濃度が250mg/L以上である場合には、従来の水素発酵装置は水素発生量及び固形分の減量率のいずれも不十分であったが、本発明の水素発酵装置によれば、十分な量の水素を発生させることができると共に、被処理液中の固形分を十分に減量化することができる。
さらに、本発明の水素発酵装置においては、水素生成菌は紐状担体に固定化されているため、従来の流動床法のように担体と被処理液とを分離する手段を必要とせず、また、水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制することができる。
したがって、本発明の水素発酵装置によれば、被処理液が固形分を含む場合であっても、被処理液と紐状担体に固定化された水素生成菌との接触に優れ、水素発酵を効率よく且つ安定的に実施することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制することができる。
本発明の水素発酵装置による上述の効果は、比較的緩慢な水素発酵においては水素生成菌と有機物とを十分に且つ安定的に接触させることが極めて重要であり、従来の水素発酵装置はこの点で不十分であったという本発明者らの知見に基づくものである。そして、固定床法に分類される紐状担体を用いる処理方法を水素発酵に敢えて適用することで、水素生成菌及び有機物を担体に十分に且つ安定的に保持することができ、更には水素発酵の進行に伴い生じる付着物及び水素ガスを固定化担体から効率よく分離することができるという本発明による効果は、水素発酵には処理効率の点で流動床法が適していると考えられていた従来の技術水準からみて極めて予想外の効果といえる。なお、本発明でいう「固定床」(「固定層」ともいう。)とは、粒子などを含有する反応装置内に流体を通じた場合、低流量では粒子は静止しており、流体が粒子間隙を通過するような反応層の様式を意味する(バイオリアクター、アトキンソン著、福井三郎、山根恒夫訳、「管型発酵槽」を参照。)。また、本発明でいう「流動床」(「流動層」ともいう。)とは、以下のような反応層の様式を意味する。すなわち、粒子などを含有する反応装置内に流体を通じて、流体の供給速度を増していくと、ある流速で粒子に作用する流動抵抗が粒子の重量と等しくなり、これ以上の流速域では粒子が動的にサスペンドされた浮遊状態となる。粒子層は反応装置内で膨張し、定位置には留まらず運動する。また、粒子層全体としても流動しやすく、あたかも一つの流体層のような振る舞いを示す。このような粒子層の状態を流動床あるいは流動層という(化学工学便覧、化学工学会編、「流動層及び噴流層」を参照。)。
本発明の水素発酵装置が備える紐状担体は、複数の小さなループ状の繊維をモール状に形成した組み紐構造を有することが好ましい。かかる組み紐構造を有する紐状担体を用いることで、紐状担体に水素生成菌を大量に固定化することができ、また、有機物の紐状担体への保持のしやすさ並びに紐状担体からの付着物及び水素ガスの分離のしやすさを向上させることができる。
また、本発明の水素発酵装置は、紐状担体の両端を固定して紐状担体を延伸した状態で保持するホルダを更に備えることが好ましい。これにより、有機物の紐状担体への保持のしやすさを十分に確保しつつ、紐状担体を所望の配置とすることができ、装置の設計の自由度が大きくなる。また、水素発酵装置が複数本の紐状担体を備える場合には、被処理液の流れを生じさせたときに紐状担体同士が絡み合う現象を防止することができる。なお、紐状担体の一端のみを固定してもよいが、この場合には、紐状担体同士の絡み合い、更には紐状担体同士のこすれ合いが起こりやすくなる。そのため、比較的緩慢な発酵である水素発酵にあっては、有機物の紐状担体への保持のしやすさが損なわれて処理効率が低下するおそれがある。
また、上記ホルダは、相互に対向配置されており且つ網目構造を有する2つの端面と、該2つの端面を所定間隔をもって保持するフレームとを有し、紐状担体の両端部それぞれはホルダの2つの端面それぞれに固定されていることが好ましい。これにより、紐状担体の延伸方向に沿った被処理液の流れが生じた場合であっても、被処理液はホルダの端面の網目を通過するため、紐状担体に固定化された水素生成菌と有機物との接触効率の低下を十分に抑制することができる。
また、本発明の水素発酵装置は、水素発酵槽内の被処理液を撹拌する撹拌手段を更に備えることが好ましく、該撹拌手段は、紐状担体の延伸方向に沿った回転軸を中心として回転する撹拌子を有することが好ましい。かかる撹拌手段により水素発酵槽内の被処理液を撹拌することによって、被処理液の流れを紐状担体の繊維深くまで到達させることができるため、有機物の固定化担体への保持のしやすさと固定化担体からの付着物及び水素ガスの分離のしやすさの双方を一層向上させることができ、極めて高水準の処理効率を達成することができる。
また、本発明の水素発酵装置の撹拌手段は、水素発酵槽に連結されており、一端から水素発酵槽内の被処理液を抜き出し、他端からその被処理液を水素発酵槽内に導入することにより、水素発酵槽内に被処理液の流れを生じさせる循環ラインを有することが好ましい。かかる循環ラインによって水素発酵槽内の被処理液を循環すれば、極めて高水準の処理効率を達成できる。またこの場合、撹拌子はあってもなくてもよいが、撹拌子がなくても循環ラインが撹拌手段として有効に機能し得るため、水素発酵装置の大型化にも容易に対応できる。さらに、循環ラインを有し、撹拌子を有さない撹拌手段では、撹拌子による剪断力の影響がないため、その生育に剪断力の影響を受けやすい水素生成菌を使用する場合であっても、好適に水素発酵を実現できる。
さらに本発明は、水素発酵により有機物を分解して水素を生成させる方法であって、水素発酵槽内において、有機物を含む被処理液と、水素生成菌が固定化された紐状担体とを接触させることを特徴とする、水素の製造方法を提供する。
本発明の水素の製造方法においては、水素生成菌の固定化担体として紐状担体を用いることによって、水素生成菌及び被処理液中の有機物を担体に十分に且つ安定的に保持することができ、水素生成菌による水素の産生を有効に実現することができる。
また、本発明の水素の製造方法によれば、被処理液が固形分を含む場合であっても水素発酵を効率よく且つ安定的に実施することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制することができる。
本発明の水素の製造方法で使用する紐状担体は、繊維をモール状に形成した組み紐構造を有することが好ましい。かかる組み紐構造を有する紐状担体を用いることで、紐状担体に水素生成菌を大量に固定化することができ、また、有機物の紐状担体への保持のしやすさ並びに紐状担体からの付着物及び水素ガスの分離のしやすさを向上させることができる。
また、本発明の水素の製造方法においては、紐状担体が、両端を固定して延伸した状態でホルダに保持されていることが好ましい。これにより、有機物の紐状担体への保持のしやすさを十分に確保しつつ、紐状担体を所望の配置とすることができ、装置の設計の自由度が大きくなる。また、複数本の紐状担体を備える場合には、被処理液の流れを生じさせたときに紐状担体同士が絡み合う現象を防止することができる。
また、上記ホルダは、相互に対向配置されており且つ網目構造を有する2つの端面と、該2つの端面を所定間隔をもって保持するフレームとを有することが好ましい。これにより、紐状担体の延伸方向に沿った被処理液の流れが生じた場合であっても、被処理液はホルダの端面の網目を通過するため、紐状担体に固定化された水素生成菌と有機物との接触効率の低下を十分に抑制することができる。
また、本発明の水素の製造方法においては、紐状担体の延伸方向に沿った回転軸を中心として回転する撹拌子を有する撹拌手段を設け、該撹拌手段により水素発酵槽内の被処理液を撹拌して水素発酵を行うことが好ましい。かかる撹拌手段により水素発酵槽内の被処理液を撹拌することによって、被処理液の流れを紐状担体の繊維深くまで到達させることができるため、有機物の固定化担体への保持のしやすさと固定化担体からの付着物及び水素ガスの分離のしやすさの双方を一層向上させることができ、極めて高水準の処理効率を達成することができる。
また、本発明の水素の製造方法においては、水素発酵槽に連結された循環ラインであって、一端から水素発酵槽内の被処理液を抜き出し、他端から被処理液を水素発酵槽内に導入することにより、水素発酵槽内に被処理液の流れを生じさせる循環ラインを有する撹拌手段を設け、該撹拌手段により水素発酵槽内の被処理液を撹拌して水素発酵を行うことが好ましい。かかる循環ラインによって水素発酵槽内の被処理液を循環すれば、極めて高水準の処理効率を達成できる。さらに、循環ラインを有し、撹拌子を有さない撹拌手段では、撹拌子による剪断力の影響がないため、その生育に剪断力の影響を受けやすい水素生成菌を使用する場合であっても、好適に水素生成菌による水素の産生が実現できる。
以上の通り、本発明の水素発酵装置によれば、水素発酵により有機物から水素を生成させるに際し、被処理液が固形分を含む場合であっても効率よく且つ安定的に処理することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制することができるようになる。特に、被処理液が高濃度の固形分を含む場合には、本発明による上述の効果が最大限に発揮され、十分な量の水素を発生させることができると共に、被処理液中の固形分を十分に減量することができる。
さらに、本発明の水素の製造方法によれば、水素生成菌の固定化担体として紐状担体を用いることによって、水素生成菌及び被処理液中の有機物を担体に十分に且つ安定的に保持することができ、水素生成菌による有機固形分の可溶化及び水素の生成を有効に実現することができる。
本発明の水素発酵装置の好適な第一実施形態を示すブロック構成図である。 本発明で用いられる紐状担体及びホルダの一例を示す斜視図である。 本発明の水素発酵装置の好適な第二実施形態を示すブロック構成図である。 実施例1の水素発酵試験における発酵ガス生成量と運転時間との関係を示すグラフである。 実施例1の水素発酵試験における原料液供給量に対する水素発生量と運転時間との関係を示すグラフである。 実施例2の水素発酵試験における発酵ガス生成量と運転時間との関係を示すグラフである。 実施例2の水素発酵試験における原料液供給量に対する水素発生量と運転時間との関係を示すグラフである。
符号の説明
1…原料槽、2…水素発酵槽、3、10…撹拌子、4、11…モータ、5、12、16、19…ポンプ、6…紐状担体、7…ホルダ、8a、8b…端面、9…フレーム、13…温度計測器、14…pH計測器、15…アルカリ供給装置、17…タンクジャケット、18…温度制御装置、100…被処理液、L3、L8…循環ライン。
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付することとし、重複する説明は省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
図1は本発明の水素発酵装置の好適な第一実施形態を示すブロック構成図である。第一実施形態に係る水素発酵装置は、図1に示したように、原料槽1と水素発酵槽2とを含んで構成されている。そして、後述するように、水素発酵槽2内には、水素生成菌が固定化された紐状担体6が、被処理液100に浸漬するように配置されている。
原料槽1には、原料液である有機物を含む被処理液100を槽内に導入する導入ラインL1が接続されている。また、原料槽1は攪拌子3及びモータ4で構成される撹拌機を備えており、被処理液100を原料槽1から水素発酵槽2に供給する前に、原料槽1内に貯留した被処理液100を撹拌することにより固形分を液中に均一に分散させることが可能となっている。
被処理液100としては、水素生成菌により水素発酵させることが可能な有機物を含んでいれば特に制限されない。具体的には、家庭、レストラン、食品工場等から排出される食品残滓や排水などの有機性廃液が挙げられる。第一実施形態は、かかる有機性廃液の中でも、再生可能有機性資源からのエネルギーガスの獲得を目的とした、有機質廃棄物や有機性廃水などのバイオマスの処理に対して有用であり、特に、ビール製造廃水や製パン廃棄物、製糖廃棄物(サトウキビ粕)、デンプン製造廃棄物(キャッサバ粕)などの処理に好ましく適用される。
また、原料槽1は移送ラインL2を介して水素発酵槽2と接続されており、移送ラインL2には被処理液100を原料槽1から水素発酵槽2に供給するための移送ポンプ5が配設されている。なお、移送ポンプ5を用いる代わりに、原料槽1と水素発酵槽2との水位差を利用して原料槽1から水素発酵槽2に被処理液100を供給してもよい。
水素発酵槽2内においては、水素生成菌が固定化された複数の紐状担体6が、その両端がホルダ7に固定されることにより、被処理液100の深さ方向に延伸した状態で配置されている。
紐状担体6は、水素生成菌を固定化できるものであれば特に制限されないが、柔軟性を有するものが好ましく、中でも図2に示すように、複数の小さなループ状の繊維をモール状に形成した組み紐構造を有するものが特に好ましい。かかる組み紐構造の紐状担体6は、例えば合成樹脂からなる線材で形成された中心紐体と、この中心紐体から放射状に伸びる多数のループ状の線材又は紐体とで構成することができる。かかる組み紐構造を有する紐状担体6を用いることで、紐状担体6に水素生成菌を大量に固定化することができ、また、有機物の紐状担体6への保持のしやすさ並びに紐状担体6からの過剰な付着物及び水素ガスの分離のしやすさを向上させることができる。なお、紐状担体6が組み紐構造を有する場合、紐状担体6はモール状の繊維が潰れて空隙を失わない程度の剛性を有していることが好ましい。紐状担体6を構成する繊維としては、耐久性を有する樹脂が好ましく、中でも、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリビニルアルコール(ビニロン)、ポリ塩化ビニリデン、あるいはこれらの2種以上を組み合わせた繊維が特に好ましい。
紐状担体6の単位長さ当たりの比表面積は、0.3〜4.0m/mが好ましく、1.0〜3.0m/mがより好ましい。
また、紐状担体6の長さは水素発酵槽2の大きさや被処理液100の処理量に応じて適宜選定できるが、延伸した状態の紐状担体6全体が被処理液100に浸漬するような長さであることが処理効率の点で好ましい。例えば、図1に示したように、紐状担体6を被処理液100の深さ方向に延伸するように配置する場合、紐状担体6の長さを被処理液100の深さよりも短くすることが好ましい。
また、紐状担体6の本数は特に制限されず、水素発酵槽2の大きさや紐状担体6の太さなどに応じて適宜選定することができる。なお、水素発酵槽2が複数本の紐状担体6を備える場合、被処理液100が紐状担体6の間を延伸方向に沿って通過できるように、紐状担体6同士を離隔して配置することが好ましい。また、紐状担体6のサイズに対して水素発酵槽2の内容績が小さい場合には、紐状担体6をホルダ7により延伸した状態で固定する代わりに、水素発酵槽2の内周面に沿って紐状担体6を螺旋状に配置してもよい。紐状担体6を螺旋状に配置すると、より長い紐状担体6を水素発酵槽2内に収容できるため、好ましい。
また、ホルダ7は、図2に示すように、相互に対向配置されており且つ網目構造を有する2つの端面8a、8bと、端面8a、8bを所定間隔をもって保持するフレーム9とで構成されており、紐状担体6のそれぞれは、両端部が端面8a、8bそれぞれに固定されることにより、延伸した状態で保持されている。このようなホルダ7を用いて紐状担体6を延伸した状態で保持することによって、水素発酵槽2内における被処理液100の流れがどのような向きであっても、被処理液100中の有機物と紐状担体6に固定化された水素生成菌との接触、紐状担体6の表面に付着した不要な固形分及び水素生成菌の死骸などの分離、更には紐状担体6の繊維深くで生じた水素ガスの分離を効率よく且つ確実に行うことができる。例えば、紐状担体6の延伸方向に沿った被処理液100の流れが生じた場合には、被処理液100はホルダ7の端面8a又は8bの網目を通過するため、上述の効果を有効に得ることができる。
また、紐状担体6に固定化される水素生成菌としては、水素生成能力を有する限り特に制限されないが、例えば、Clostridia、Thermoanaerobacteriales、Methylotrophs、Methanogens、RumenBacteria、Archaebacteria等の嫌気性微生物、Escherichia coli、Enterobacter等の通性嫌気性微生物、Alcaligenes、Bacillus等の好気性微生物、光合成細菌、Cyanobacteriaなどが挙げられる。水素生成菌は、単離された微生物によって行ってもよいし、水素生産に適した混合微生物群(ミクロフローラ)を用いてもよい。これらの水素生成菌による水素発酵を行うと、水素(H)及び二酸化炭素(CO)を主成分とする発酵ガス(バイオガス)が発生すると共に、酢酸、酪酸、乳酸などの有機酸とが生成する。例えばグルコースは、水素生成菌の作用により、下記式(1)に基づいて酢酸(CHCOOH)と水素と二酸化炭素に分解する。
12+2HO→2CHCOOH+2CO+4H (1)
なお、水素生成菌は、被処理液100を水素発酵槽2に導入する前に予め紐状担体6に固定化しておくことが好ましいが、水素生成菌を所定量の被処理液100と共に水素発酵槽2に導入して紐状担体6に固定化させてもよい。なお、水素生成菌を被処理液100と共に水素発酵槽2に導入する場合には、水素発酵が安定するまで装置の慣らし運転を行った後で連続発酵に切り替えることが好ましい。
図1に戻り、水素発酵槽2は、回転軸が紐状担体6の延伸方向と略平行となるように配置された撹拌子10と、撹拌子10を回転させるモータ11とで構成される撹拌装置を備えている。この撹拌装置により水素発酵槽2内の被処理液100を撹拌することによって、被処理液100の流れを紐状担体6の繊維深くまで到達させることができるため、有機物の紐状担体6への保持のしやすさと紐状担体6からの付着物及び水素ガスの分離のしやすさの双方を一層向上させることができ、極めて高水準の処理効率を達成することができる。
また、水素発酵槽2には、ポンプ12、温度計測器13及びpH計測器14を備える循環ラインL3が設けられている。更に、この循環ラインL3のpH計測器14よりも下流側には、水素発酵の進行に伴う酸の生成により被処理液100のpHが低下した場合にアルカリ水溶液(NaOH水溶液など)を被処理液100に添加するためのアルカリ供給装置15が、ポンプ16を備えるラインL4を介して接続されている。また、水素発酵槽2の外周面にはタンクジャケット17が配置されており、このタンクジャケット17には、温度制御装置18により所定温度に制御された熱媒体(例えば温水)をポンプ19によりタンクジャケット17に循環供給する循環ラインL5が接続されている。そして、温度計測器13と温度制御装置18、pH計測器14とアルカリ供給装置15はそれぞれ連動しており、ポンプ12により循環ラインL3に引き出された被処理液100の液温及びpHに基づいて水素発酵槽2内の被処理液100の温度及びpHを制御することが可能となっている。嫌気性の微生物群による水素発酵を行う際の処理条件としては、pH5.0〜7.5程度、温度20〜70℃程度とすることが好ましい。
また、第一実施形態に係る水素発酵装置においては、図1に示したように、循環ラインL3の水素発酵槽2からの引出口(抜き出し口)が水素発酵槽2への返送口(導入口)よりも上方に配置されている。これにより、水素発酵槽2内の被処理液100に上向きの流れ(更には対流)を生じさせることができ、被処理液100に含まれる固形分の水素発酵槽2底部への沈積を抑制することができる。その結果、被処理液100中の有機物の紐状担体6への保持のしやすさ、並びに紐状担体6からの付着物(不要な固形分や水素生成菌の死骸など)及び水素ガスの分離のしやすさの双方を一層向上させることができる。
このように、水素生成菌の固定化担体として紐状担体6を用いることによって、被処理液100中の有機物を担体に十分に且つ安定的に保持することができ、水素生成菌による水素発酵を有効に実施することができる。また、紐状担体6は柔軟性を有しているため、被処理液100の水素発酵槽2内への導入又は槽外への排出、撹拌装置による撹拌、循環ラインL3による循環などによって生じる被処理液100の流れにより、紐状担体6の表面に付着した不要な固形分及び水素生成菌の死骸などの分離、更には紐状担体6の繊維深くで生じた水素ガスの分離を効率よく且つ確実に行うことができる。さらに、水素生成菌は紐状担体6に固定化されているため、従来の流動床法のように担体と被処理液100とを分離する手段を必要とせず、また、水素生成菌の水素発酵槽2外部への流出を十分に抑制することができる。したがって、被処理液100が固形分を含む場合であっても水素発酵を効率よく且つ安定的に実施することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽2外部への流出を十分に抑制することができる水素発酵装置が実現可能となる。
また、被処理液100が高濃度の固形分を含む場合には、上述の効果が最大限に発揮され、十分な量の水素を発生させることができると共に、被処理液100中の固形分を十分に減量することができる。
水素発酵により発生した水素ガスは水素発酵槽2の上部に設けられたガス回収ラインL6から回収される。一方、水素発酵後の被処理液100(発酵液)は排出ラインL7から槽外に排出される。なお、排出ラインL7と水素発酵槽2との接続位置は特に制限されないが、当該接続位置を紐状担体6の上端よりも上方とすることで、発酵液への固形分の混入を抑制することができる。また、発酵液の排出方法は特に制限されず、オーバーフロー又はポンプによる強制排出のいずれであってもよい。
また、紐状担体6はその性能を長期間維持できるものであるが、紐状担体6の性能低下が認められた場合には、水素発酵槽2の上部の蓋を外して開放し、紐状担体6を水素発酵槽2から取り出して交換することができる。
図3は本発明の水素発酵装置の好適な第二実施形態を示すブロック構成図である。第二実施形態に係る水素発酵装置は、第一実施形態と同様に、原料槽1と水素発酵槽2とを含んで構成され、水素発酵槽2内には、水素生成菌が固定化された紐状担体6が、被処理液100に浸漬するように配置されている。以下に、撹拌手段としての循環ラインL8について詳述する。
循環ラインL8は、その一端が水素発酵槽2の底部に、他端が水素発酵槽2の側部にそれぞれ連結されている。ここで、水素発酵槽2の底部と循環ラインL8との連結部は、被処理液100の引出口であり、水素発酵槽2の側部と循環ラインL8との連結部は、被処理液100の水素発酵槽2への返送口である。すなわち、引出口から水素発酵槽2内の被処理液100を循環ラインL8に抜き出し、返送口から被処理液100を水素発酵槽2内に導入することにより、水素発酵槽2内に被処理液100の流れが生じ、水素発酵槽2内の被処理液100が撹拌される。
循環ラインL8と水素発酵槽2との連結部位は、循環ラインL8によって水素発酵槽2内の被処理液100を循環させ、撹拌子10を用いなくとも被処理液100の流れを紐状担体6の繊維深くまで到達させることができればよい。
引出口及び返送口の配置の好ましい態様としては、例えば、引出口がホルダ7の上端よりも上方に位置し、且つ、返送口がホルダ7の下端よりも下方に位置するように、水素発酵槽2と循環ラインL8とを連結する態様が挙げられる。これにより、水素発酵槽2内において紐状担体6の延伸方向に沿った被処理液100の流れを生じさせることができ、紐状担体6と被処理液100との接触効率を向上させることができる。
さらに、引出口がホルダ7の下端よりも下方に位置し、且つ、返送口がホルダ7の上端よりも上方に位置する場合は以下の利点があり、例えば、被処理液100が固形分を高濃度で含む場合に好適である。すなわち、被処理液100に含まれる固形分が水素発酵槽2の底部に沈降したとしても、沈降した固形分は被処理液100と共に引出口から循環ラインL8に抜き出され、ホルダ7の上端よりも上方に設けられた返送口から水素発酵槽2内に戻されるため、紐状担体6と接触し得る固形分の有効量を高水準に維持することができる。また、引出口がホルダ7の上端よりも上方に位置し、且つ、返送口がホルダ7の下端よりも下方に位置する場合、沈降した固形分を被処理液100中に浮遊させるためには返送口から被処理液100により固形分を吹き上げる必要があるため、循環流速を増大させる必要がある。これに対して、引出口がホルダ7の下端よりも下方に位置し、且つ、返送口がホルダ7の上端よりも上方に位置する場合は比較的低い循環流速で同様の効果を得ることができる。
なお、第二実施形態のように撹拌機を設けずに循環ラインL8のみで被処理液100の撹拌を行う場合には、水素発酵槽2内において循環ラインL8の引出口と返送口とを結ぶ線に沿った対流が生じるため、被処理液の流れを紐状担体の繊維深くまで到達させる観点から、紐状担体6を略水平に配置することが好ましい。
また、本発明は第一実施形態及び第二実施形態に限定されるものではない。例えば、水素発酵槽2内の被処理液100を撹拌する手段として、第一実施形態で示した撹拌機(撹拌子10及びモータ11)のみを有し、循環ラインL3、L8を有していなくても、撹拌子10により被処理液10の流れを紐状担体6の繊維に到達できるような撹拌が実現できればよい。この場合の紐状担体6の配置は第一実施形態と同様とすることが好ましい。
また、第一実施形態及び第二実施形態では、紐状担体6の両端をホルダ7に固定した例を示したが、被処理液100中で延伸した状態に保持することができ且つ紐状担体6同士の絡み合いを防止できる場合には、紐状担体6の一端のみを固定してもよい。さらに、水素発酵槽2内の被処理液100の温度を制御する手段として、タンクジャケット17の代わりにコイル、熱交換器などを用いてもよく、温水などの熱媒体自体を被処理液100と混合することにより温度制御を行ってもよい。
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
先ず、複数の小さなループ状の繊維(ナイロン+ポリプロピレン)をモール状に形成した組み紐構造を有する紐状担体(長さ:0.3m、単位長さ当たりの比面積:1.02m/m)を100本用意し、紐状担体の両端を図2に示す構造を有するSUS製ホルダに固定した。このようにして延伸した状態でホルダに保持された紐状担体を延伸方向が鉛直方向となるように、図1に示した水素発酵装置の水素発酵槽(内容積:900L)内に配置した。また、本実施例においては、水素生成菌Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集を、予め種菌培養槽にて増殖させ、水素発酵処理に供した。
次に、上記の水素発酵装置の原料槽に水及び廃棄パンを投入して原料液を調製した。原料液の廃棄パン濃度は、廃棄パン33kgに対して原料液体積が1mとなるように調製した。このようにして得られた原料液490Lと、上記の水素生産微生物群集10Lとを水素発酵装置の水素発酵槽に投入し、50℃で72時間撹拌しながら水素生産菌の増殖及び紐状担体への固定化操作を行った。その後、水素発酵槽に原料液を250L/日の速度で連続供給した。発酵槽内液量は500Lとし、発酵液の滞留時間を48時間とした。発酵液の温度は50℃、pHは6に設定した。攪拌機は回転数を80rpmに設定し、発酵槽内で攪拌されながら所定時間滞留した発酵液を、処理液として連続的に排出口から槽外に排出した。
上記の水素発酵試験における発酵ガス生成量と運転時間との関係を図4に示す。被処理液の供給量に対して発酵ガス発生量は、試験中安定して推移した。発酵ガス中の水素濃度は約55%を占め、また、第二成分として二酸化炭素の発生が確認された。
また、上記の水素発酵試験における原料液供給量に対する水素発生量と運転時間との関係を図5に示す。本試験においては、原料液1L供給に対して3〜4Lの水素が発生し、この比率は試験中安定して推移した。
また、試験開始から所定時間経過時に、水素発酵槽2に導入される前の被処理液(原料液)及び水素発酵槽2から排出される被処理液(発酵排液)に含まれる固形分(SSの大きさ以上)の重量を測定した結果を表1に示す。表1に示したように、本試験においては、被処理液中の固形分を平均重量比で74%減量することができた。
Figure 2007060791
[実施例2]
複数の小さなループ状の繊維(ナイロン+ポリプロピレン)をモール状に形成した組み紐構造を有する紐状担体(長さ:0.5m、単位長さ当たりの比面積:1.02m/m)を40本用意し、紐状担体の両端を図2に示す構造を有するSUS製ホルダ2個に各20本ずつ固定した。このようにして延伸した状態でホルダに保持された紐状担体を延伸方向が鉛直方向となるように、図3に示した水素発酵装置の水素発酵槽(内容積:220L)内に配置した。本実施例においては、水素生成菌Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集を、予め種菌培養槽にて増殖させ、水素発酵処理に供した。
上記の水素生産微生物群集200Lを本水素発酵装置に投入し、その後水素発酵槽に100L/日の速度で原料液を連続供給した。発酵槽内液量は200Lとし、発酵液の滞留時間を48時間とした。供給する原料液は廃棄パンを水で希釈したものを用い、廃棄パンの濃度は、紐状担体に十分な量の微生物群集が保持されるまでの15日間は25kg/mとし、その後は33kg/mとした。発酵液の温度は60℃、pHは6に設定し、循環ラインL8を用いて流速3000L/hにて水素発酵槽内の循環(下向き循環)を行いながら、所定時間滞留した発酵液を処理液として連続的に排出口から槽外に排出した。
上記の水素発酵試験における発酵ガス生成量と運転時間との関係を図6に示す。被処理液の供給量に対して発酵ガス発生量は、試験中安定して推移した。発酵ガス中の水素濃度は約55%を占め、また、第二成分として二酸化炭素の発生が確認された。
また、上記の水素発酵試験における原料液供給量に対する水素発生量と運転時間との関係を図7に示す。本試験においては、原料液1L供給に対して4.5〜5.5Lの水素が発生し、この比率は試験中安定して推移した。
[実施例3]
1L容微生物培養装置(BMJ−01PI 1L、エイブル(株)製)に実施例1と同様の紐状担体(長さ:0.25m)1本を装置の内周面に沿って螺旋状に設置し、この装置を水素発酵槽として以下の水素発酵試験を実施した。
先ず、紐状担体を設置した微生物培養装置を窒素にて置換した後、水素生成菌Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集300mLとビール製造廃水200mLを投入し、50℃、pH6.0〜6.5、撹拌数125rpmにて水素発酵させた。なお、ビール製造廃水は、サッポロビール(株)静岡工場より採取したビール製造廃水を、200メッシュ篩にて篩過した後で試験に供した。篩過後のビール製造廃水の性状は、pH4、COD15000〜60000mL、全糖(グルコース換算値)5000〜16000mg/L、マルトース3000〜4000mg/L、乳酸2500〜9000mg/L、酢酸100〜300mg/Lであった。
次に、水素発酵が安定したことを確認した後、250mLの培地(ビール製造廃水)を連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続培養を行った。本試験における水素発生量は1日当たり最大で611mLであった。また、培地(ビール製造廃水)の供給量に対する水素発生量は最大で2.4mL−H/mLであった。
[比較例1]
2L容微生物培養装置(MBF、東京理化器械(株)製)を窒素にて置換した後、水素生成菌Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集50mLと、実施例3と同様のビール製造廃水700mLとを投入し、50℃、pH6.0〜6.5、撹拌数125rpmにて水素発酵させた。
次に、水素発酵が安定したことを確認した後、2000mLの培地(ビール製造廃水)を連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続培養を行った。本試験における水素発生量は1日当たり最大で2500mLであった。また、培地(ビール製造廃水)の供給量に対する水素発生量は最大で1.25mL−H/mLであった。
[比較例2]
2L容微生物培養装置(MBF、東京理化器械(株)製)を窒素にて置換した後、殺菌したケイソウ土焼成粒担体(昭和化学工業(株)製)600ml(嵩体積)と、水素生成菌Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集100mLと、実施例3と同様のビール製造廃水900mLとを投入し、50℃、pH6.0〜6.5、撹拌数125rpmにて水素発酵させた。
次に、水素発酵が安定したことを確認した後、培養液量を500mL減らし、500mLの培地(ビール製造廃水)を連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続培養を行った。本試験における水素発生量は1日当たり最大で300mLであった。また、培地(ビール製造廃水)の供給量に対する水素発生量は最大で0.6mL−H/mLであった。なお、本試験においては、底部付近に多くの微生物と培地中の固形分などが沈積しているのが確認され、培地成分の対流状態が活発でないためガス発生量が低迷したことが示唆された。
[比較例3]
5L容微生物培養装置(BMS−PI 5L、エイブル(株)製)を窒素にて置換した後、殺菌したキトサンビーズ担体(キトパール、富士紡績(株)製)500ml(嵩体積)と、馴養した水素発酵好熱菌群集100mLと、実施例3と同様のビール製造廃水1900mLとを投入し、50℃、pH6.0〜6.5、撹拌数200rpmにて水素発酵させた。
次に、水素発酵が安定したことを確認した後、500mLの培地(ビール製造廃水)を連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続培養を行った。本試験における水素発生量は1日当たり最大で100mLであった。また、培地(ビール製造廃水)の供給量に対する水素発生量は最大で0.2mL−H/mLであった。なお、本試験においては、キトサンビーズ担体への微生物保持が進行し、水素ガスの発生が旺盛になるに従って担体粒子の大部分が液面に浮上する現象が観察され、培地成分との接触機会が非常に低いためガス発生量が低迷したことが示唆された。
実施例3及び比較例1〜3の水素発酵装置の性能を比較するために、上記試験における希釈率、水素生成量/原料液供給量、水素生産量/全反応体積を表2に示す。ここで、「希釈率」とは、発酵槽の実液量に対する原料液の平均滞留時間の逆数を意味し、下記式(A):
D=F/V (A)
[式中、Dは希釈率(次元:T−1(T:時間)を示し、Fは供給流量を示し、Vは実液量を示す。]
で表すことができる。また、「全反応体積」とは、発酵槽の実液量と固定化担体の体積との和を意味する。
Figure 2007060791
[実施例4]
紐状担体の水素発酵に及ぼす影響を調べるために、材質又は比表面積の異なる3種類の組み紐構造を有する紐状担体(長さ:0.2m)を各2本ずつ30L容の水素発酵装置(HMF−30F01−30L培養槽、日立製作所(株)製)の水素発酵槽内に延伸方向が鉛直方向となるように設置し、連続発酵により各紐状担体に付着した菌体重量を測定した。
まず、上記の水素発酵装置の原料槽に水及び廃棄パンを投入して原料液を調製した。原料液の廃棄パン濃度は、廃棄パン33gに対して原料液体積が1Lとなるように調整した。次に、こうして得られた原料液14.5Lと、予め1L容の発酵槽にて増殖させた水素生成菌Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集0.5Lとを30L容の水素発酵槽に投入し、50℃で72時間撹拌しながら水素生産菌の増殖及び紐状担体への固定化操作を行った。その後、水素発酵槽に原料液を7.5L/日の速度で連続供給した。発酵槽内液量は15.0Lとし、発酵液の滞留時間を48時間とした。発酵液の温度は50℃、pHは6に設定した。攪拌機は回転数を100rpmに設定し、発酵槽内で攪拌されながら所定時間滞留した発酵液を、処理液として連続的に排出口から槽外に排出した。
9ヶ月間連続発酵を行なった後、水素発酵槽内から各紐状担体を取り出し、各紐状担体に付着した付着菌体重量を測定した。表3中の菌体重量は、各紐状担体に付着した単位長さ当たりの付着菌体重量を意味する。
Figure 2007060791
[実施例5]
5L容微生物培養装置(BMS−05PI 5L、エイブル(株)製)に実施例1と同様の紐状担体(長さ:0.15m)6本を延伸方向が鉛直方向となるように設置し、この装置を水素発酵槽として以下の水素発酵試験を実施した。
先ず、キャッサバ粕(キャッサバからデンプンを製造した後の残渣)500g(湿重量)及び酵母エキス40gを水で希釈して5Lとした後、121℃、20分の条件で滅菌処理を行い、これを原料液とした。次に、水素生成菌Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集0.5Lと原料液2Lとを上記水素発酵槽に投入し、55度、pH5.5〜6.0、攪拌数150rpmにて、水素発酵させた。
次に、水素発酵が安定したことを確認した後、約0.3〜0.9Lの原料液を連続的に供給すると共に、同量の培養液を連続的に排出する連続発酵を行った。本試験における水素発生量は1日当たり最大で1.5Lであった。また、キャッサバ粕の供給量に対する水素発生量は最大で20L−H/kgであった。
[実施例6]
5L容微生物培養装置(BMS−05PI 5L、エイブル(株)製)に実施例1と同様の紐状担体(長さ:0.15m)6本を延伸方向が鉛直方向となるように設置し、この装置を水素発酵槽として以下の水素発酵試験を実施した。
先ず、紐状担体を設置した微生物培養装置を窒素にて置換し、水素生成菌Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum近縁種を含む水素生産微生物群集2.5Lを投入した後、廃棄パンを希釈した液を連続供給し、等量の培養液を連続的に排出する連続培養を行った。培養の条件は55℃、pH5.5〜6.0、攪拌数150rpmとし、廃棄パン希釈液の濃度は33g/L、1日あたりの供給量は0.5Lとした。同条件にて水素発酵が安定したことを確認した後、キャッサバ粕を酵素処理したものを原料として、水素発酵を行った。
キャッサバ粕の酵素処理の手順は以下の通りである。キャッサバ粕100g(湿重量)をホモジナイズした後、イオン交換水にて700gとした。次に、苛性ソーダにてpH4.0に調整した。次に、スミチームPMAC(新日本化学工業(株)製)0.1gを添加し、60℃、24時間の条件で振とうしながら酵素処理を行った。これに、酵母エキス6gを50mLの水に溶解させて121℃、20分の条件で滅菌処理を行ったものを別途添加して原料液とした。
24時間に1回0.7Lの原料液を一度に供給し、1日あたり0.7Lの一定流量で連続的に排出する連続発酵を行った。発酵の条件は55℃、pH5.5〜6.0、攪拌数150rpmとし、原料液を投入した直後の10分間のみ攪拌数を250rpmとした。本試験における水素発生量は1日当たり最大で3.8Lであった。また、キャッサバ粕の供給量に対する水素発生量は最大で37L−H/kgであった。
本発明の水素発酵装置によれば、水素発酵により有機物から水素を生成させるに際し、被処理液が固形分を含む場合であっても効率よく且つ安定的に処理することができ、且つ水素生成菌の水素発酵槽外部への流出を十分に抑制することができる。特に、被処理液が高濃度の固形分を含む場合には、本発明による上述の効果が最大限に発揮され、十分な量の水素を発生させることができると共に、被処理液中の固形分を十分に減量することができる。

Claims (12)

  1. 水素発酵により有機物を分解して水素を生成させる水素発酵装置であって、
    有機物を含む被処理液が収容される水素発酵槽と、
    該水素発酵槽内において前記被処理液と接触するように配置されており、水素生成菌が固定化された紐状担体と
    を備えることを特徴とする水素発酵装置。
  2. 前記紐状担体が繊維をモール状に形成した組み紐構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の水素発酵装置。
  3. 前記紐状担体の両端を固定して前記紐状担体を延伸した状態で保持するホルダを更に備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水素発酵装置。
  4. 前記ホルダは、相互に対向配置されており且つ網目構造を有する2つの端面と、該2つの端面を所定間隔をもって保持するフレームとを有し、
    前記紐状担体の両端部それぞれは前記ホルダの2つの端面それぞれに固定されていることを特徴とする、請求項4に記載の水素発酵装置。
  5. 前記水素発酵槽内の前記被処理液を撹拌する撹拌手段を更に備え、
    該撹拌手段は、前記紐状担体の延伸方向に沿った回転軸を中心として回転する撹拌子を有することを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の水素発酵装置。
  6. 前記水素発酵槽内の前記被処理液を撹拌する撹拌手段を更に備え、
    該撹拌手段は、前記水素発酵槽に連結されており、一端から前記水素発酵槽内の前記被処理液を抜き出し、他端から前記被処理液を前記水素発酵槽内に導入することにより、前記水素発酵槽内に前記被処理液の流れを生じさせる循環ラインを有することを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の水素発酵装置。
  7. 水素発酵により有機物を分解して水素を生成させる方法であって、
    水素発酵槽内において、有機物を含む被処理液と、水素生成菌が固定化された紐状担体とを接触させることを特徴とする、水素の製造方法。
  8. 前記紐状担体が、繊維をモール状に形成した組み紐構造を有することを特徴とする、請求項7に記載の水素の製造方法。
  9. 前記紐状担体が、両端を固定して延伸した状態でホルダに保持されていることを特徴とする、請求項7又は8に記載の水素の製造方法。
  10. 前記ホルダは、相互に対向配置されており且つ網目構造を有する2つの端面と、該2つの端面を所定間隔をもって保持するフレームとを有することを特徴とする、請求項9に記載の水素の製造方法。
  11. 前記紐状担体の延伸方向に沿った回転軸を中心として回転する撹拌子を有する撹拌手段を設け、該撹拌手段により前記水素発酵槽内の前記被処理液を撹拌して水素発酵を行うことを特徴とする、請求項7〜10のうちのいずれか一項に記載の水素の製造方法。
  12. 前記水素発酵槽に連結された循環ラインであって、一端から前記水素発酵槽内の前記被処理液を抜き出し、他端から前記被処理液を前記水素発酵槽内に導入することにより、前記水素発酵槽内に前記被処理液の流れを生じさせる循環ラインを有する撹拌手段を設け、該撹拌手段により前記水素発酵槽内の前記被処理液を撹拌して水素発酵を行うことを特徴とする、請求項7〜10のうちのいずれか一項に記載の水素の製造方法。
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