明 細 書
成形条件設定方法及び射出成形機の制御方法
技術分野
[0001] 本発明は成形条件設定方法及び成形機の制御方法に係り、特にトグル機構を用 いた型締装置における成形条件設定方法及びトグル機構を用いた型締装置を有す る射出成形機の制御方法に関する。
背景技術
[0002] 射出成形機等の成形機において、加熱シリンダ内で加熱されて溶融させられた樹 脂を高圧で金型装置のキヤビティ空間に射出して充填する。キヤビティ空間に充填さ れた樹脂は冷却され、固化することにより成形品となる。
[0003] 金型装置は、一般的に、固定金型と可動金型とよりなり、型締装置によって可動金 型を固定金型に対して進退させて、型閉、型締及び型開が行なわれる。型締装置は 、固定金型が取り付けられる固定プラテン、可動金型が取り付けられる可動プラテン 、及び可動プラテンを進退させるための移動機構であるトグル機構を備える。すなわ ち、トグル機構を駆動して可動プラテンを固定プラテンに対して接近または離間方向 に移動することで金型装置の型閉、型締及び型開を行なう(例えば、特許文献 1参照
。 )
上述の型締装置において、トグル機構は、可動プラテンを移動して固定金型に接 触させる(型閉)だけでなぐ接触させた後に更に押圧する(型締)ことにより所望の型 締カを発生させる。工場出荷前には、金型装置のサンプルとなる規準金型(いわゆる テストブロック)を型締装置に取り付けて、規準金型に対して所定の型締力が加わる ようにトグル機構の調整が行なわれる。
特許文献 1 :特開 2002— 337184号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0004] 成形機が出荷され、ユーザのもとで実際に稼動する際には、規準金型ではなく実 際の金型装置が取り付けられる。実際の金型装置は、その厚みや剛性において規準
金型とは異なるため、規準金型により発生する所定の型締力がそのまま実際の金型 装置で得られることは少ない。したがって、実際の金型装置を型締装置に取り付けた 際には、トグル機構で所望の型締カを得るために、トグル機構を調整する必要がある
[0005] このようなトグル機構の調整は、通常、トグル機構の原点となるトグルサポートの位 置を適当な位置に変更することで行なわれる。すなわち、規準金型を取り付けた際に 得られる型締力とトグルサポートとの位置関係に基づいて、実際の金型装置の厚み において発生する型締カを算出し、所望の型締力が得られるであろうトグノレサポート の位置を決定する。
[0006] ここで、実際の金型装置の厚みと規準金型の厚みとが異なる場合、その差分だけト グノレサポートの位置を変更することで厚みに関する調整を行なうことはできる。しかし 、実際の金型装置は、規準金型とは剛性が異なり、型締の際の圧縮変形量が異なる 。型締カは金型装置の圧縮変形量によって変化するため、例えば、規準金型よりは るかに低い剛性の金型装置を用いた場合は (すなわち、規準金型より変形しやすい 金型装置を用いた場合は)、規準金型に基づいて算出されたトグノレサポート位置で は、所望の型締力よりはるかに小さな型締力しか発生しないこととなる。
[0007] また、実際の成形工程では金型の温度変化による熱膨張が加わるため、金型装置 に実際に加わる型締カは、規準金型に基づいて算出されたトグルサポート位置とし た場合に発生する型締力から更に異なる強さとなってしまう。
[0008] したがって、実際の金型装置を型締装置に取り付けた際には、まず、規準金型に基 づいて算出されたトグルサポート位置から始め、トグルサポート位置を少しずつ変更 しながら実際に型締を行ない、所望の型締力になるトグルサポート位置を決定すると レ、う作業が必要となる。このように、トグノレサポート位置を少しずつ変更しながら実際 に型締を行なうという従来の調整作業は時間力 Sかかり面倒な作業である。
[0009] また、上述のようにトグル機構の動作を変更した場合、金型の押込量が変更されて 金型タツチ位置が変更されるため、規準金型を基に設定された金型保護位置をその まま採用することができなレヽとレ、う問題もある。
課題を解決するための手段
[0010] 本発明は、上述の問題を解決した新規で有用な成形条件設定方法及び射出成形 機の制御方法を提供することである。
[0011] 本発明のより具体的な目的は、型締力の調整を行なう際に金型保護位置等の成形 条件位置も補正することができる成形条件設定方法を提供することである。
[0012] 本発明の他の目的は、金型を取り付けた際の型締力の調整時間を短縮することが できる射出成形機の制御方法を提供することである。
[0013] 上述の目的を達成するために、本発明の一つの面によれば、トグル機構を用いた 型締装置に適用される成形条件設定方法であって、該型締装置のトグノレサポートの 固定位置を移動して目標型締力に近づくように型締カを調整し、該トグノレサポートの 移動量に応じて成形条件位置を変更することを特徴とする成形条件設定方法が提 供される。
[0014] 上述の成形条件設定方法において、型締力の調整は、規準金型を前記型締装置 に取り付けて得られた、押込量と該押込量に対応する型締力との関係から求められ た第 1の型締カ設定値に基づいて行なわれることが好ましい。また、型締力の調整は 、前記第 1の型締カ設定値を用いて型締を行ない、実際の型締カを検出して得られ た型締カ検出値と前記目標型締力との差に基づいて行なわれることとしてもよい。さ らに、前記型締カ検出値と前記目標型締力との差を第 2の型締カ設定値とし、前記 第 1の型締カ設定値の代わりに該第 2の型締カ設定値を用いて型締力の調整を行 なうこととしてもよレ、。
[0015] 上述の成形条件設定方法において、前記成形条件位置は金型保護位置であるこ ととしてよい。あるいは、前記成形条件位置は取出機の成形品取出位置であることと してもよレ、。さらに、前記成形条件位置はコア設定位置であることとしてもよい。
[0016] また、本発明の他の面によれば、トグル機構を用いた型締装置を有する射出成形 機の制御方法であって、該型締装置のトグルサポートの固定位置を移動して目標型 締力に近づくように型締カを調整し、前記型締装置を駆動して実際の型締カを検出 して型締カ検出値を求め、該型締力検出値と前記目標型締力との差を求め、該差が 所定値を超えている場合は、該差が所定値以下となるまで、該トグルサポート位置を 微小に移動して型締を行ない該型締力検出値を求めて前記目標型締力との差を求
める動作を繰り返し行なうことを特徴とする射出成形機の制御方法が提供される。
[0017] 本発明の他の目的、特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説 明を読むことにより、一層明瞭となるであろう。
発明の効果
[0018] 本発明によれば、トグル機構を調整して型締力の調整を行なう際に金型保護位置 、成形品取出位置あるいはコア設定位置などの成形条件位置も補正することができ 、金型の保護を含む適切な成形動作を達成することができる。また、実際に使用する 金型と規準金型とで、厚みや剛性が大きく異なっていても、実際の金型に用いるべき 締付力設定値に近い設定値を容易に得ることができ、その値から調整を始めるので 、型締力の調整時間を短縮することができる。
図面の簡単な説明
[0019] [図 1]本発明の実施の形態による金型保護設定方法が実行される射出成形機の型 締装置の概略図である。
[図 2]型締モータの出力トルクと可動プラテンの位置との関係を示すグラフである。
[図 3]金型保護設定処理のフローチャートである。
[図 4]図 3に示す処理中の型締カ補正処理 Aのフローチャートである。
[図 5]図 3に示す処理中の型締カ補正処理 Bのフローチャートである。
[図 6]規準金型に基づいて設定した型締カ設定値による可動プラテンの位置を示す 図である。
[図 7]規準金型に基づいて設定した型締カ設定値を実際の型締力と比較して補正す る際のトグルサポートと可動プラテンの位置を示す図である。
[図 8]実際の型締カを所望の型締力に一致させるための補正を行なう際のトグルサボ ートと可動プラテンとの位置を示す図である。
符号の説明
[0020] 10 型締装置
11 金型装置
12 固定プラテン
13 可動プラテン
15 トグルサポート
16 タイバー
18 型締カセンサ
19 制御装置
20 トグル機構
26 型締モータ
27 型開閉位置センサ
31 型厚モータ
32 型締位置センサ
40 成形品取出機
発明を実施するための最良の形態
[0021] 以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、 本発明による金型保護設定方法は、押出成形装置、ラミネータ、トランスファー成形 装置、ダイキャストマシーン、玎封止プレス等の各種の成形機に適用することができる 。本実施の形態においては、説明の都合上、射出成形機に適用した場合について 説明する。
[0022] 図 1は本発明の第 1の実施の形態による金型保護設定方法が実行される射出成形 機の型締装置の概略図である。図 1において、射出成形機の型締装置 10は、フレー ム 17と、フレーム 17に固定された固定金型支持装置としての固定プラテン 12と、固 定プラテン 12との間に所定の距離を置いてフレーム 17に対して移動可能に配設さ れたベースプレートとしてのトグルサポート 15とを具備する。トグルサポート 15はトグ ル式型締装置支持装置として機能する。固定プラテン 12とトグルサポート 15との間 には、複数 (例えば、四本)のガイド手段としてのタイバー 16が延在している。
[0023] 可動プラテン 13は、固定プラテン 12に対向して配設され、タイバー 16に沿って進 退 (図における左右方向に移動)可能に配設された可動金型支持装置として機能す る。金型装置 11は、固定金型 11aと可動金型 l ibとから成る。固定金型 11aは、固定 プラテン 12における可動プラテン 13と対向する金型取付面に取り付けられる。一方、 可動金型 l ibは、可動プラテン 13における固定プラテン 12と対向する金型取付面
に取り付けられる。
[0024] なお、可動プラテン 13の後端(図における左端) には、ェジヱクタピン(図示せず) を移動させるための駆動装置が取り付けられてもよい。
[0025] 可動プラテン 13とトグルサポート 15との間には、トグノレ式型締装置としてのトグル機 構 20が取り付けられる。トグノレサポート 15の後端にはトグル機構 20を作動させる型 締用駆動源としての型締モータ 26が配設される。型締モータ 26は、回転運動を往復 運動に変換するボールねじ機構等力 成る運動方向変換装置(図示せず)を備え、 駆動軸 25を進退(図における左右方向に移動)させることによって、トグル機構 20を 作動させることができる。なお、型締モータ 26は、サーボモータであることが好ましぐ 回転数を検出するエンコーダとしての型開閉位置センサ 27を備える。
[0026] 上述のトグル機構 20は、駆動軸 25に取り付けられたクロスヘッド 24、クロスヘッド 2 4に揺動可能に取り付けられた第 2トグノレレバー 23、トグノレサポート 15に揺動可能に 取り付けられた第 1トグノレレバー 21、及び、可動プラテン 13に揺動可能に取り付けら れたトグノレアーム 22を有する。第 1トグルレバー 21と第 2トグノレレバー 23との間、及び 、第 1トグルレバー 21とトグノレアーム 22との間は、それぞれ、リンク結合される。なお、 トグル機構 20は、いわゆる、内卷五節点ダブルトグル機構であり、上下が対称の構成 を有する。
[0027] 型締モータ 26が駆動して、被駆動部材としてのクロスヘッド 24を進退させることによ つて、トグル機構 20を作動させることができる。この場合、クロスヘッド 24を前進(図に おける右方向に移動)させると、可動プラテン 13が前進させられて型閉が行われる。 そして、型締モータ 26による推進力にトグル倍率を乗じた型締力が発生させられ、そ の型締カによって型締が行われる。
[0028] また、トグルサポート 15の後端(図における左端)には、固定プラテン 12に対するト グノレサポート 15の位置を調整するために、型締位置調整装置 35が配設される。トグ ルサポート 15には、タイバー揷通孔(図示せず)が複数、例えば、四つ形成され、タイ バー 16の図における左端力 それぞれのタイバー揷通孔に揷入される。なお、タイ バー 16の右端は、固定ナット 16aによって固定プラテン 12に固定されている。
[0029] タイバー 16は、図における左端の外周にねじが形成されたねじ部 36を有し、調整
ナット 37がそれぞれのタイバー 16のねじ部 36に螺合される。なお、調整ナット 37は、 トグルサポート 15の後端に回転可能に、かつ、タイバー 16の軸方向に移動不能に取 り付けられる。また、調整ナット 37の外周には被駆動用歯車 37aが取り付けられてい る。
[0030] トグルサポート 15の後端における上方部には、型締位置調整用駆動源としての型 厚モータ 31が配設される。型厚モータ 31の回転軸には、駆動用歯車 33が取り付け られている。調整ナット 37の被駆動用歯車 37a及び駆動用歯車 33の周囲には、チェ ーン、歯付きベルト等の駆動用線状体 34が架け回されている。そのため、型厚モー タ 31を駆動して、駆動用歯車 33を回転させると、それぞれのタイバー 16のねじ部 36 に螺合された調整ナット 37が同期して回転させられる。これにより、型厚モータ 31を 所定の方向に所定の回転数だけ回転させて、トグルサポート 15を所定の距離だけ進 退させることができる。なお、型厚モータ 31は、サーボモータであることが好ましぐ回 転数を検出するエンコーダとしての型締位置センサ 32を備える。
[0031] 型厚モータ 31の回転を調整ナット 37に伝達する手段は、タイバー 16のねじ部 36 に螺合された調整ナット 37を同期して回転させられるものであれば、いかなるもので あってもよレ、。例えば、駆動用線状体 34に代えて、駆動用歯車 33及び駆動用歯車 3 3のすべてに係合する大径の歯車をトグノレサポート 15の後端に回転可能に配設する こととしてもよレ、。
[0032] 本実施の形態では、タイバー 16の一つに型締カセンサ 18が配設される。型締カセ ンサ 18は、タイバー 16の歪み(主に、伸び)を検出するセンサである。タイバー 16に は、型締の際に型締力に対応して引張力が加わり、型締力に比例して僅かではある 力 申長する。したがって、タイバー 16の伸び量を型締カセンサ 18により検出すること で、金型装置 11に実際に印加されてレ、る型締カを知ることができる。
[0033] 上述の型締カセンサ 18、型開閉位置センサ 27、型締モータ 26及び型厚モータ 31 は制御装置 19に接続され、型締カセンサ 18及び型開閉位置センサ 27から出力さ れる検出信号は制御装置 19に送られる。制御装置 19は、検出信号に基づいて型締 モータ 26及び型厚モータ 31の動作を制御する。
[0034] ここで、通常の成形時における動作について説明する。型締モータ 26を正方向に
駆動させると、ボールねじ軸 25が正方向に回転させられ、図 1に示されるように、ボー ルねじ軸 25は前進(図 1における右方向に移動)させられる。それにより、クロスヘッド 24が前進させられ、トグル機構 20が作動させられると、可動プラテン 13が前進させら れる。
[0035] 可動プラテン 13に取り付けられた可動金型 l ibが固定金型 11aに接触すると(型 閉状態)、型締工程に移行する。型締工程では、型締モータ 26を更に正方向に駆動 することで、トグル機構 20によって金型 11に型締力が発生させられる。
[0036] そして、図示されない射出装置に設けられた射出駆動部が駆動されてスクリュが前 進することにより、金型 11内に形成されたキヤビティ空間に溶融樹脂が充填される。 型開きを行なう場合、型締モータ 26を逆方向に駆動すると、ボールねじ軸 25が逆方 向に回転させられる。それに伴って、クロスヘッド 24力 S後退させられ、トグル機構 20 が作動されると、可動プラテン 13が後退させられる。
[0037] 型開工程が完了すると、ェジェクタ駆動部(図示せず)が駆動され、可動プラテンに 取り付けられたェジェクタ装置が作動する。これにより、ェジェクタピンが突き出され、 可動金型 l ib内の成形品は可動金型 l ibより突き出される。また、ェジェクタ駆動部 の駆動と同時に、把持手段としての成形品取出機 40が駆動され、成形品取出機 40 のアーム 40aが固定金型 11aと可動金型 l ibとの間に進入し、成形品取出位置で停 止する。そして、ェジェクタピンの前進により可動金型 l ibから突き出された成形品は 成形品取出機 40のアーム 40aにより把持されて取り出され、射出成形機の外に設け られた搬送手段としてのコンベア装置まで搬送される。
[0038] ところで、一般のトグル機構を利用した型締装置と同様に、トグル機構 20が発生す る型締カは、固定プラテン 12、トグルサポート 15及びタイバー 16を含む型締装置 10 全体のばね定数、すなわち、型締剛性を比例定数として変化する。なお、型締装置 1 0においては、タイバー 16以外の部材は圧縮されるのに対して、タイバー 16には引 張荷重が加わる。さらに、圧縮力が加わる他の部材は、剛性が異なる複数の部材で 構成されているのに対して、タイバー 16は単一の部材で構成されている。したがって 、トグル機構 20が発生する型締カは、タイバー 16の剛性としてのばね定数を比例定 数として、金型装置 10の型閉から型締完了までにトグルサポート 15が固定プラテン 1
2に対して移動する量に比例して変化すると言える。すなわち、固定プラテン 12、トグ ルサポート 15等の部材の剛性が十分に高いので、型締装置 10が発生する型締カは 、実質的に、四本のタイバー 16が弾性変形して伸びることによって発生し、該タイバ 一 16の伸び量に比例すると言える。
[0039] 次に、型締装置を駆動する型締モータ 26が発生するモータトルクと、可動プラテン 13 (すなわち、金型装置 11の可動金型 l ib)の位置との関係について、図 2を参照 しながら説明する。図 2は型締モータ 26のモータトノレクと可動プラテン 13の位置との 関係を示すグラフである。
[0040] 図 2において、型締モータ 26が作動してトグル機構 20に接続された可動プラテン 1 3がトグノレサポート 15側に最も § Iき寄せられた位置が「型開限位置」であり、この位置 で可動金型 1 lbは固定金型 1 lbから最も離れた状態で停止する。
[0041] 「型開限位置」から型締モータ 26を駆動して可動プラテンの前進(固定プラテンに 接近する方向に移動)を開始させると、型締モータ 26のモータトルクは、起動時のト ルク上昇によるピーク状態 Aを経て安定した移動速度に移行してほぼ一定の状態 B になる。
[0042] このトルクが一定の状態 Bにおいて可動プラテン 13が前進し、可動プラテン 13があ る程度固定プラテン 12に接近した時点(すなわち、可動金型 l ibが固定金型 11aに ある程度接近した位置)において、型締モータ 26の出力制限が開始され、型締モー タ 26のトノレクが所定の低トルクの状態 Cとなるように制御される。このモータトルクの制 限開始位置が「低圧型締開始位置」に相当する。モータトルクの制限は、可動金型 1 lbがある程度固定金型 11aに近づいた時点で、低トルク'低速で前進するように設け られる制限である。すなわち、モータトルクの制限は、例えば異物が可動金型 l ibと 固定金型 11aとの間に挟まっていても、金型が損傷しない程度の小さな力で可動金 型 l ibを前進させるために設けられる制限である。
[0043] 可動プラテン 13が「低圧型締開始位置」から更に前進して、可動金型 l ibが固定 金型に接触 (型タツチ)する寸前の位置 (例えば「型タツチ位置」から 0. 1mm手前の 位置)が「昇圧開始位置」となる。 「昇圧開始位置」において、型締モータ 26の出力制 限が解除され、可動プラテン 13は固定プラテン 12に向かって全速で前進する。すな
わち、可動プラテン 13は最大推力で前進することが可能となる。したがって、「昇圧開 始位置」を過ぎるとトルクが急激に上昇しながら(状態 D)可動プラテン 13は「型タツチ 位置」に到達する。 「昇圧開始位置」は、型締カを発生させるためのいわば助走開始 位置に相当し、「型タツチ位置」で出力制限を解除すると型締モータ 26のトルクを迅 速に上昇させることができないため、「型タツチ位置」の僅かに手前からトルク上昇を 開始するための位置である。ただし、「昇圧開始位置」から「型タツチ位置」までの距 離が大き過ぎると、可動金型 l ibが必要以上に加速された状態で固定金型 11aに接 触 (衝突)することとなり、金型装置 11が損傷するおそれがある。そこで、僅かな助走 距離だけを設けることで金型装置を保護している。この意味で、「昇圧開始位置」は「 金型保護位置」とも称される。
[0044] 「型タツチ位置」において可動金型 l ibは固定金型 11aに当接して可動プラテン 13 は前進できなくなるが、型締モータ 26のトノレク制限が解除されているので、トルクはそ のまま上昇を続ける。これにより、型締モータ 26のトルクに応じた型締力が金型装置 11に印加されることとなる。したがって、型締カは「型タツチ位置」から急激に上昇し、 予め設定された設定型締力に到達したところで、型締モータ 26は停止され、設定型 締力が保持される。型締力が設定型締カに到達した位置が「設定型締力の位置」で あり、固定プラテン 13の原点として設定される。
[0045] 一般的に、上述の各位置は、この「設定型締力の位置」を原点とし、原点からの距 離 (例えば、ミリメートル)で表わされる。例えば、原点から「型タツチ位置」まで距離が 3mmであれば、原点から「金型保護位置」までの距離は、例えば 3. 1mmに設定さ れる。
[0046] 次に、上述の型締装置 10で行なわれる金型保護設定方法について説明する。図 3 は本実施の形態による金型保護設定処理のフローチャートである。図 4は図 3に示す 処理中の型締カ補正処理 Aのフローチャートであり、図 5は図 3に示す処理中の型締 力補正処理 Bのフローチャートである。図 6は規準金型に基づいて設定した型締カ 設定値による可動プラテンの位置を示す図である。図 7は規準金型に基づいて設定 した型締カ設定値を実際の型締力と比較して補正する際のトグノレサポートと可動ブラ テンの位置を示す図である。図 8は実際の型締カを所望の型締力に一致させるため
の補正を行なう際のトグノレサポートと可動プラテンとの位置を示す図である。
[0047] 型締装置 10に新たに金型装置 11を取り付けた場合、設定型締力の位置 (原点)に おいて所望の型締カ(目標型締カ Z)が得られるように、図 3に示す金型保護設定処 理を行なって型締装置 10を調整する必要がある。型締装置 10の調整は、取り付けら れた金型装置 11の厚み及び剛性 (圧縮変形量)に基づいて、トグルサポート 15の位 置を変更して行なう。上述のように、トグルサポート 15の固定位置調整は、型厚モー タ 31を駆動してトグルサポート 15を前後に移動させることで行なう。
[0048] 図 3に示す金型保護設定処理において、まず、型締モータ 26を駆動してトグル機 構 20のトグノレを伸ばし、可動プラテン 13を型全閉位置まで移動させる(ステップ S1) 。この際、トグノレサポート 15は、可動金型 l ibが固定金型 11aに接触しないような位 置、すなわち型タツチしなレ、位置まで後退させられてレ、る。
[0049] 次に、規準金型を用いた場合に所定の型締カ(第 1の型締カ設定値 Z1:例えば、 5 0T)が印加される距離 dlだけ型開を行なう(ステップ S2)。すなわち、型締モータ 26 を駆動して型締カ設定値 Z1が印加される距離だけ可動プラテン 13を後退させる。そ して、トグル機構 20の状態をステップ 2の状態に保ったまま、可動金型 l ibが固定金 型 11aに接触するまで、すなわち型タツチするまで、型厚モータ 31を駆動してトグル サポート 15を前進させる(ステップ S3)。このときの型締装置 10の各部の位置関係を 図 6 (A)に示す。図 6 (A)に示す状態は、取り付けられた金型装置 11が規準金型と 同じ厚みと剛性を有する場合において 50Tの締付力を発生させることのできる状態 である(設定が 50Tで補正なしの場合に相当)。
[0050] 続いて、金型装置 11と規準金型との相違に起因してトグルのたたみ込み量を変化 させたことにより生じる型締力の変化を補正するために、図 4に示す型締カ補正処理 Aが行なわれる。
[0051] まず、ステップ S3における図 6 (A)に示す状態から、型締モータ 26を駆動して可動 プラテン 13を型開限位置まで後退させる(ステップ Sl l)。続いて、型締モータ 26を 駆動して可動プラテン 13を設定型締カ位置 (原点)まで前進させ (型全閉)、型締カ の昇圧を完了させる。このときの状態を図 6 (B)に示す。図 6 (B)に示す状態では、図 6 (A)に示す状態から、可動プラテン 13が距離 dlだけ前方に移動していることがわ
かる。金型装置 11が規準金型と同じ厚みで同じ剛性を有している場合、型締カは 50 Tになるはずである。
[0052] 続いて、制御装置 19は、タイバー 16に設けられた締付力センサ 18から供給される 検出信号により、実際に金型装置 11に印加されている締付力を検出する (ステップ S 13)。そして、制御装置 19は、実際の締付力である型締カ検出値 (実績値と称する) が第 1の設定型締カ Z1 (設定値と称する)以上か否かを判定する (ステップ S14)。
[0053] 実績値が設定値以上である場合、制御装置 19は、実績値と設定値との差 Aを取得 し (ステップ S15)、補正後の型締カ設定値 Bを B = Z_Aにより算出する (ステップ S1 6)。例えば、設定値が 50Tであるのに実際に締付力センサ 18により検出した実績値 が 70Tであった場合、差 Aは 70T_ 50T = 20Tとなる。そこで、補正後の型締カ設 定値 Βは 50Τ_ 20Τ= 30Τに設定される。
[0054] 一方、実績値が設定値より小さい場合、制御装置 19は、設定値と実績値との差 Αを 取得し (ステップ S17)、補正後の型締カ設定値 Bを B = Z+Aにより算出する (ステツ プ S18)。例えば、設定値が 50Tであるのに実際に締付力センサ 18により検出した 実績値が 30Tであった場合、差 Aは 50T— 30T= 20Tとなる。そこで、補正後の型 締カ設定値 Βは 50Τ+ 20Τ= 70Τに設定される。
[0055] ステップ S16又はステップ S18において補正後の型締カ設定値 Βが算出された後 、制御装置 19は補正後の型締カ設定値 Βが 0以上か否かを判定する (ステップ S 19 )。補正後の型締カ設定値 Βが 0以上の場合は、補正後の型締カ設定値 Βにより所 望の型締力が得られるかそれに近づくと判断して、補正後の型締カ設定値 Βを第 2 の型締カ設定値 Ζ2として設定する (ステップ S20)。一方、補正後の型締カ設定値 B 力 ¾より小さい場合は、補正後の型締カ設定値 Bでは適切な補正ができないと判断し て、補正後の型締カ設定値 Bは採用せずに、最初の第 1の型締カ設定値 Z1を第 2 の型締カ設定値 Z2として設定する (ステップ S21)。補正後の型締カ設定値 Bが 0よ り小さい場合の例としては、型締カ 0Tと設定した場合が該当する。通常、型締カ設 定値が 0Tの場合でも、金型同士が型タツチした際に、型締装置の慣性力によってタ ツチ圧が発生してしまう。この場合には、補正後の型締カ設定値 Bが 0より小さくなり、 補正後の型締カ設定値 Bでは適切な補正ができないと判断して、補正後の型締め力
設定値 Bは採用しない。
[0056] 次に、型締モータ 26を駆動して可動プラテン 13を「型開限位置」まで移動する (ス テツプ S22)。その後、型厚モータ 31を駆動して、トグノレを型全閉位置(すなわち、「 設定締付力の位置」 )まで伸ばしても型タツチしなレ、位置まで、トグノレサポート 15を後 退させる(ステップ S23)。
[0057] 以上により型締カ補正処理 Aが完了し、金型装置 11の剛性の違いによる型締カ設 定値が補正される。
[0058] 次に、処理は図 3のステップ S5に進み、型締モータ 26を駆動してトグルを伸ばし、 可動プラテン 13を型全閉位置 (すなわち、「設定締付力の位置」)まで移動する。この とき、ステップ S23においてトグルサポート 15を後退させているので、型タツチする手 前で可動プラテン 13は停止する。
[0059] 続いて、ステップ S20又は S21にて設定した第 2の型締カ設定値 Z2に基づいて、 型締モータ 26を駆動して可動プラテン 13を後退させる(ステップ S6)。そして、このと きの可動プラテン 13の位置を「型タツチ位置」として、「金型保護位置」を補正する(ス テツプ S7)。具体的には、ステップ S7における「型タツチ位置」が 4mmであった場合 、「金型保護位置」は 4mm + 0. lmm=4. 1mmとなるように補正する。以上により本 発明による金型保護設定方法による金型保護設定処理が達成される。
[0060] 以上のように、トグル機構を調整して型締力の調整を行なう際に金型保護位置も補 正することで、適切に金型の保護を達成することができる。
[0061] 次に、型厚モータ 31を駆動して、可動金型 l ibが固定金型に接触するまでトグノレ サポート 15を前進させる(ステップ S8)。このときの状態が図 7 (B)に示された状態で ある。図 7 (A)は、規準金型に基づいて得られた第 1の型締カ設定値 Z1による金型 タツチ状態を示す図であり、図 7 (B)に示す状態では、トグルサポートの位置が、第 2 の型締カ設定値 Z2に補正された結果、トグルサポート 15の位置が Δ χだけ変更され ていることがわかる。
[0062] 例えば、金型装置 11で型締カ 50Τを得るために、規準金型に基づく設定値に 20 Τをカ卩えた型締カ設定値の補正を行なった場合、型タツチ位置力 設定型締力の位 置までの距離を、追加した型締カ 20Τに相当する距離 Δ χだけ増やす必要がある。
これを達成するために、トグノレサポート 15の位置は Δ χだけ前進した位置に設定され る。この状態が図 7 (B)に示された状態である。図 7 (C)は、図 7 (B)に示す状態から 補正後の型締カ設定値 Ζ2に基づいて型締を行なレ、、可動プラテン 13が「設定型締 力の位置」まで押し込まれた状態を示している。
[0063] また、成形品取出機 40を用いて成形品を取り出す場合には、固定金型 11aと可動 金型 1 lbとの設定距離が変更されてレ、るため、成形品取出位置にっレ、ても補正を行 なう必要がある。この場合にも、金型保護位置と同様に、型締カ補正処理 Aにより型 締カ補正を行なった後、ステップ S7において、成形品取出位置の補正を行なうこと ができる。
[0064] ここで、成形品取出位置は、可動プラテン 13の位置ではなぐ型開が完了したとき の可動プラテン 13に対する成形品取出機 40のアーム 40aの位置に相当する。すな わち、型締カ調整により図 7 (B)に示すようにトグルサポート 15の位置を Δ χだけ前に 移動した場合、金型装置 11を開いた状態、すなわちトグルを畳み込んで可動プラテ ン 13を後退させた状態において、可動金型 l ibも Δ χだけ前に移動した状態となる。 可動金型 l ibがこの位置になったときに、成形品取出機 40のアーム 40aが可動金型 l ibに向かって移動し、可動金型 l ibに保持されている成形品を把持する。したがつ て、図 7 (D)に示すように、成形品取出機 40のアーム 40aが成形品を把持するため のアーム 40aの位置も、 Δ χだけ前に移動しておく。
[0065] さらに、可動金型内において、キヤビティ空間を形成するコアを前後進駆動すること により、成形品を圧縮させるコア圧縮成形を行なう場合にも、固定金型 11aと可動金 型 l ibとの設定距離が変更されているため、コアの設定条件を補正することが必要と なる。この場合にも、金型保護位置補正と同様に、型締カ補正処理 Aにより型締カ補 正を行なった後、ステップ S7において、コア設定位置の補正を行なうことができる。
[0066] 以上の処理による型締力の補正は、規準金型に基づいて計算した、あるいは規準 金型に基づいて予め作成されたプラテン位置と型締力との関係を記録したテーブル を参照して、型締カ設定値を補正したものである。したがって、実際に金型装置 11で 発生する型締力が、設定したい所望の型締力である目標型締力に正確に一致する とは限らない。そこで、本実施の形態では、図 3のスッテプ S9に示す型締カ補正処
理 Bを行ない、実際の型締力がより一層目標型締力に近づくように補正する。図 4は 型締カ補正処理 Bのフローチャートである。
[0067] 型締カ補正処理 Bでは、まず、型締モータ 26を駆動して可動プラテン 13を「型開 限位置」まで後退させる(ステップ S31)。次に、型締モータ 26を駆動して可動プラテ ン 13を「設定型締めの位置」まで前進させて型全閉を行なレ、、締付力の昇圧を完了 させる (ステップ S32)。このときの状態を図 7 (C)に示す。
[0068] 昇圧が完了したら、型締カセンサ 18の出力信号により実際の型締カを検出する(ス テツプ S33)。そして、型締カ設定値 (すなわち、 目標型締力)と実際の型締力の検出 値との差を確認する(ステップ S34)。
[0069] 設定値から検出値を引いた値 (設定値一検出値)が所定の閾値 C (00)以上であ ると判定されると(ステップ S35)、型厚モータ 31を駆動してトグルサポート 15を、所定 の設定時間あるいは所定の設定距離だけ前進させる (ステップ S36)。例えば、設定 値が 50Tであった場合で実際に検出された型締力の検出値が 49Tであったような場 合には、 50T— 49T= 1Tが閾値 C以上であるかを判定する。例えば閾値 Cが 0. 2Τ に設定されている場合は、(設定値 検出値) = 1Τが閾値 C = 0. 2T以上であり、型 締力が不足していると判断して、ステップ S36においてトグノレサポート 15を、所定の 設定時間(例えば、 1秒)あるいは所定の設定距離 (例えば、 0. 1mm)だけ前進させ る。この際、可動プラテン 13は後退させて金型装置 11が開いている状態でトグノレサ ポート 15を移動する。すなわち、トグルサポートを少しづつ前進させることで、型締カ を少しずつ増大させて、(設定値 検出値)を閾値 Cより小さくする。
[0070] また、検出値力 設定値を引いた値 (検出値-設定値)が所定の閾値 C (C〉0)以 上であると判定されると(ステップ S37)、型厚モータ 31を駆動して可動プラテン 15を 、所定の設定時間あるいは所定の設定距離だけ後退させる (ステップ S38)。例えば 、設定値が 50Tであった場合で実際に検出された型締力の検出値が 51Tであったよ うな場合には、 51T_ 50T= 1Tが閾値 C以上であるかを判定する。例えば閾値 Cが 0. 2Τに設定されている場合は、(検出値—設定値) = 1Τが閾値 C = 0. 2T以上で あり、型締力が大きすぎると判断して、ステップ S38においてトグノレサポート 15を、所 定の設定時間(例えば、 1秒)あるいは所定の設定距離 Δ y (例えば、 0. lmm)だけ
後退させる。このときの状態を図 8 (B)に示す。この際、可動プラテン 13は後退させて 金型装置 11が開いている状態でトグノレサポート 15を移動する。すなわち、トグルサボ ートを少しづつ後退させることで、型締カを少しずつ減少させて、(検出値 設定値) を閾値 Cより小さくする。
[0071] 一方、検出値から設定値を引いた値 (検出値一設定値)又は設定値から検出値を 引いた値 (設定値-検出値)が所定の閾値 Cより小さいと判定された場合は (ステップ S39)、実際の締付力は設定値に十分に近い値である。したがてつて、それ以上の型 締力の補正は必要ないと判断して、トグルサポート 15の移動は行なわない。
[0072] ステップ S36又はステップ S38又はステップ S39の後、型締モータ 26を駆動して可 動プラテン 13を「設定型締力の位置」まで前進させて型全閉を行なって型締力の昇 圧を完了させる (ステップ S41)。昇圧が完了した状態で、(設定値—検出値)又は( 検出値—設定値)が所定の閾値 Cより小さいか否かが判定される。 (設定値—検出値 )又は(検出値 設定値)が所定の閾値 Cより小さい場合は処理を終了する。一方、 ( 設定値-検出値)又は (検出値-設定値)が所定の閾値 C以上であった場合は、ス テツプ S31に戻って再び S31〜S41までの処理を繰り返す。型締カ処理補正 Bのェ 程にて金型保護位置補正を行なう場合には、ステップ S36若しくはステップ S38の処 理が終了した後に行なうこともできる。さらに、成形品取出位置の補正やコア設定位 置の補正についても、金型保護位置補正と同様に、ステップ S36若しくはステップ S3 8の処理が終了した後に行なうこともできる。
[0073] 以上のように、トグル機構を調整して型締力の調整を行なう際に金型保護位置も補 正することで、適切に金型の保護を達成することができる。さらに、成形品取出位置、 コア設定位置等についても、型締カ補正値に対応した補正を行なうことで、適切な成 形条件を設定することができる。また、実際に使用する金型と規準金型とで、厚みや 剛性が大きく異なっていても、実際の金型に用いるべき締付力設定値に近い設定値 を迅速且つ容易に得ることができ、その値力 調整を始めるので、型締力の調整時 間を短縮することができる。
[0074] 本発明は上述の具体的に開示された実施例に限られず、本発明の範囲から逸脱 することなく様々な変形例及び改良例がなされるであろう。
[0075] 本出願は、 2005年 3月 16日出願の日本特許出願第 2005— 075923号に基づく ものであり、その全内容はここに援用される。
産業上の利用可能性
[0076] 本発明は、トグル機構を用いた型締装置及びそのような型締装置を用いた射出成 形機に適用可能である。