明 細 書
着色ポリアミド繊維およびその製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、高濃度で顔料を含有していても、溶融紡糸時にベンディングや断糸が 発生せず、安定に紡糸することができる着色ポリアミド組成物から得られる繊維物性 に優れた着色ポリアミド繊維 (原着ポリアミド繊維)、その製造方法および該着色ポリ アミド繊維力 構成された繊維絡合体を用いてなる人工皮革に関する。
背景技術
[0002] 一般に、極細繊維は通常繊度の繊維に比較して染色性が劣るため、極細繊維から なるスエード素材などを染色し、濃色の色目を出そうとした場合には大量の染料を必 要とし、耐光堅牢度、染色堅牢度等の品質が低下し、コストが増大するなどの問題が ある。これら問題を解決する対策として、極細繊維の原料成分に予め顔料を添加す る方法、いわゆる原料着色(原着)と称される方法が一般的に行われている。
し力 ながら、 0. 9dtex以下、特に 0. ldtex以下のポリアミド極細繊維の発色を充 分にするためには、顔料を多量に添加しなければならず、顔料がポリアミドのアミド結 合や末端基と相互作用し、部分的に顔料濃度が高くなつた溶融物を生じたり、溶融 粘度が上昇し、紡糸時の糸切れ、孔詰まり、フィルター詰まりなどによる紡糸性の悪 ィ匕、繊維物性の低下を余儀なくされている。
[0003] 原着繊維の紡糸性および繊維物性の改良方法としては、脂肪酸アミドを含有させ た原着ポリアミドを用いる方法 (例えば、特許文献 1参照)、ポリアミド樹脂に酸変性ポ リオレフイン、酸変性ポリエステルの微粉末を分散させる方法 (例えば、特許文献 2参 照)、ジブチルフタレート吸油量が 30〜600cm3/l00gであるカーボンブラックを含 有させる方法 (例えば、特許文献 3参照)が提案されている。また、極細原着繊維の 紡糸性および繊維物性の改良方法としては、顔料を含有した状態でのメルトフローレ ートが 3〜7g/10分であるポリアミドを用いる方法 (例えば、特許文献 4参照)が提案 されている。
また、紡糸の記載はないが、顔料を含むポリアミド樹脂の物性、安定性の改良に関
しては、ポリアミドの製造時にカーボンブラックを添加しさらに分散剤を添加する方法
(例えば、特許文献 5参照)、脂肪酸アミドを含有させた着色ポリアミドを用いる方法( 例えば、特許文献 6参照)が提案されている。
[0004] 特許文献 1 :特開平 3— 220313号公報
特許文献 2 :特開平 8— 157713号公報
特許文献 3:特開 2002— 146624号公報
特許文献 4:特開 2001— 279532号公報
特許文献 5:特公昭 54_ 37997号公報
特許文献 6 :特開昭 61— 55146号公報
[0005] し力、しこれらの分散斉 lj、添加剤を含有するマスターバッチを用いたのでは、 0. 9dte
X以下、特に 0. ldtex以下の非常に細い極細繊維を製造する場合、濃色化のため 着色剤含有率を 3%以上にした場合、顔料に粒子径の小さいカーボンブラックを使 用した場合に、紡糸口金からのベンディング (溶融紡糸時、溶融ポリマーの流れが曲 力 ¾現象)や断糸を避けることができず、実用に耐え得る物性を有する繊維が得られ なかった。
発明の開示
[0006] 本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、 高濃度で顔料を含有していても、溶融紡糸時にベンディングや断糸が発生せず、安 定に紡糸することができる着色ポリアミド組成物から製造することができる繊維物性に 優れた着色ポリアミド繊維およびその製造方法を提供することにある。
[0007] 本発明者等は、鋭意研究を進めた結果、顔料を配合したポリアミド樹脂組成物を紡 糸する際、特定の化合物とカップリング剤を併用すると、顔料の濃度を高くしても、ベ ンデイングや断糸が発生せず、紡糸性が良好であり、良好な物性を有する着色ポリア ミド繊維が得られることを見出し、本発明を完成した。
[0008] すなわち、本発明は、ポリアミド樹脂、顔料、カップリング剤および下記一般式 (I):
R' -CO-NH-R-NH-CO -R" (I)
(式中、 Rは炭素数 1〜4のアルキレン基、 R'、 R"はそれぞれ独立して炭素数 9〜 18 の脂肪族炭化水素基を表す)で表される化合物を含有してなる着色ポリアミド繊維に
関する。
本発明は、さらに、上記着色ポリアミド繊維から構成された繊維絡合体を用いてなる 人工皮革、ならびに該人工皮革を起毛処理および染色処理してなる立毛調人工皮 革に関する。
本発明は、さらに、ポリアミド樹脂、顔料、カップリング剤および下記一般式 (I): R' _C〇_NH_R_NH_C〇_R〃 (I)
(式中、 Rは炭素数 1〜4のアルキレン基、 R'、 R〃はそれぞれ独立して炭素数 9〜 18 の脂肪族炭化水素基を表す)で表される化合物を含有する着色ポリアミド組成物を 紡糸する工程を含む着色ポリアミド繊維の製造方法に関する。
発明を実施するための最良の形態
[0009] 以下本発明を詳細に説明する。
本発明の着色ポリアミド繊維は、ポリアミド樹脂、顔料、式 (I)の化合物およびカップ リング剤を少なくとも含む。
前記ポリアミド樹脂は、ナイロン 6、ナイロン 66、ナイロン 12、ナイロン 10、ナイロン 6 10、またはこれらの共重合ポリアミド類から選ぶことができる。また、顔料含有マスタ 一バッチによりポリアミド樹脂を着色する場合、マスターバッチに使用するポリアミド樹 脂は、着色されるポリアミド樹脂と融点がほぼ同一で化学構造的に類似していること が顔料の分散安定性の点で好ましレ、。着色されるポリアミド樹脂の数平均分子量は、 11 , 000〜20, 000の範囲が好ましレ、。数平均分子量が上記範囲であると、繊維物 性が良好となり、紡糸、延伸時の延糸性が良好となり糸切れ、毛羽立ちを防止するこ とができる。特に、極細繊維あるいは極細繊維発生型繊維の場合は糸切れ、毛羽立 ちがより顕著に発生する傾向にあるので、数平均分子量を上記範囲にするのが好ま しい。
[0010] 本発明に使用する顔料としては、ァゾ系、フタロシアニン系、ペリレン系、アンスラキ ノン系などの有機顔料、および、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン、群青など の無機顔料をあげることができる。極細繊維を工業的に得る最も有力な方法として、 極細繊維発生型繊維の一成分を除去もしくは剥離させて極細繊維化する手段が知 られている。一般的にそのような極細化処理工程では有機溶剤を使用するため、有
機顔料はその一部が溶剤中に溶け出す欠点がある。そのため、無機顔料が好ましく 、 0. Oldtex以下の極細繊維を得る場合には、無機顔料のなかでも粒子径の小さい カーボンブラックが紡糸時の糸切れ防止、繊維物性の安定性の点で最適である。
[0011] カーボンブラックには、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サマールブラックな どがあるが、本発明で使用するカーボンブラックはその種類を限定されない。カーボ ンブラックの平均一次粒径は、 8〜: 120nm力好ましく、 15〜30nmであるのがより好 ましレ、。平均一次粒径が上記範囲内であると、カーボンブラック粒子の 2次凝集が阻 止され、得られる着色ポリアミド繊維の強力がより向上する。また、着色ポリアミド繊維 が濃く着色されるので好ましレ、。
[0012] 顔料をマスターバッチ化したときの配合量はポリアミド樹脂 100質量部に対して 10 〜35質量部であるのが経済性とマスターバッチ製造安定性の点で好ましぐ 15〜30 質量部であることがより好ましい。
本発明において、繊維中の顔料の量は、 目的とする繊維の太さにもよる力 着色ポ リアミド繊維中のポリアミド樹脂 100質量部に対して 1〜30質量部の範囲が好ましレヽ 。配合量が上記範囲内であると、十分な濃さに着色することができ、また、着色ポリア ミド繊維が極細繊維であっても、使用に耐える十分な強度を有する。平均繊度が 0. 9dtex以下の着色ポリアミド繊維を得る場合、良好な紡糸性、繊維物性および濃色 感が同時に得られるので、配合量はポリアミド樹脂 100質量部に対して 3〜: 15質量 部であるのがより好ましぐ 5〜: 12質量部であるのが更に好ましぐ 6〜: 11質量部であ るのが特に好ましい。
[0013] 本発明においては、顔料に加えて、下記一般式 (I):
R' _C〇_NH_R_NH_C〇_R〃 (I)
(式中、 Rは炭素数 1〜4のアルキレン基、 R'、 R〃はそれぞれ独立して炭素数 9〜 18 の脂肪族炭化水素基を表す)
で表される化合物をポリアミド樹脂に配合する。
前記一般式 (I)で表される化合物の具体例としては、メチレンビスステアリン酸アミド 、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスラウリン 酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビス
パルミチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスォレイン酸アミド、 エチレンビスォレイン酸アミド、メチレンビスリノール酸アミド、エチレンビスリノール酸 アミド等があげられる。これらの化合物の中で特に好ましいものは、繊維物性および 紡糸性の点でメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドである。 前記一般式 (I)で表される化合物の配合量は、マスターバッチとした場合でポリアミ ド樹脂 100質量部に対して 0. 2〜20質量部であることが好ましい。着色ポリアミド繊 維中の最終的な含有割合はポリアミド樹脂 100質量部に対して 0. 001〜3質量部が 好ましく、 0.:!〜 2. 5質量部がより好ましい。
[0014] カップリング剤を添加することにより、顔料の分散安定性が改善される。本発明で用 レ、ることができるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップ リング斉 lj、アルミニウム系カップリング剤等、従来公知のものが挙げられる。
[0015] 具体的には、シラン系カップリング剤としては、ビュルトリクロロシラン、ビュルトリメト キシシラン、ビュルトリエトキシシラン、ビニルトリス( 一メトキシェトキシ)シラン、 β - (3, 4—エポキシシクロへキシノレ)ェチノレトリメトキシシラン、 γ—グリシドキシプロピノレ トリメトキシシラン、 γ—グリシドキシプロピルメチルジェトキシシラン、 γ—グリシドキシ
ラン、 γ—メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、 Ν— (アミノエチル) ァ ミノプロピルメチルジメトキシシラン、 Ν— (アミノエチル) γーァミノプロピルトリ メトキシシラン、 Ν - β - (アミノエチル) - γ—ァミノプロピルトリエトキシシラン、 γ - ァミノプロピルトリメトキシシラン、 γ—ァミノプロピルトリエトキシシラン、 Ν フエ二ノレ ルカプトプロピルトリメトキシシラン、 y—ウレイドプロピルトリエトキシシラン等があげら れる。
[0016] チタネート系カップリング剤としては、具体的には、イソプロピルトリオクタノィルチタ ァロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロビルト リ(Ν—アミノエチル一アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリ(ジォクチルホスフヱ
ート)チタネート、イソプロピルトリス(ジォクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプ 口ピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリクミノレフエニルチタ ネート、テトライソプロピルビス(ジォクチルホスフアイト)チタネート、テトラオクチルビス (ジトリデシルホスフアイト)チタネート、テトラ(2, 2—ジァリルォキシメチル _ 1—ブチ ノレ)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジォクチルパイロホスフェート)ォ キシアセテートチタネート、ビス(ジォクチルピロホスフェート)エチレンチタネート等が 挙げられる。中でもイソプロピルトリス(ジォクチルパイロホスフェート)チタネートおよ びイソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネートが好ましく使用できる。 上記カップリング剤は、単独でもしくは 2種以上組み合わせて用いることができる。 効果の点で特に好ましいものは、チタネート系カップリング剤である。
[0017] カップリング剤の添カ卩量は、マスターバッチとした時点でポリアミド樹脂 100質量部 に対し、 0. 3〜5質量部であることが好ましい。上記範囲内であると、紡糸性が良好 であり、溶融粘度上昇による紡糸性の低下も生じない。より好ましい添力卩量は 0. 5〜 3重量部である。着色ポリアミド繊維中の最終的な含有割合はポリアミド樹脂 100質 量部に対して 0. 05〜2質量部が好ましぐ 0.:!〜 1質量部がより好ましい。
[0018] 式 (I)の化合物とカップリング剤の併用による相乗効果の理論は解明されてレ、なレヽ 力 本発明者らは、式 (I)の化合物はポリアミド溶融物の流動性を改良すると同時に ポリアミドと相溶することで、顔料の活性化された部分とポリアミド分子との相互作用を 阻害し、かつ、カップリング剤が顔料の活性化された部分と反応してこれをブロックす るためと推定している。
[0019] 上記の相乗効果により、顔料が均一に分散されるため、良好な紡糸性を維持しつ っ高レ、着色濃度が得られ、し力も同じ顔料配合量である従来の極細繊維と比較して より高強度の着色ポリアミド繊維を得ることができるのである。
[0020] なお、着色ポリアミド繊維には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、顔料などの 他に、必要に応じて、防炎剤、制電剤、易染色剤、滑剤、艷消し剤、酸化防止剤、紫 外線吸収剤、減粘剤、増粘剤等の改質剤や、抗菌剤、消臭剤、防黴剤等の機能剤 が添加されていてもよい。
[0021] 本発明の着色ポリアミド繊維は、良好な風合と物性を兼ね備えた布帛が得られるの
で、平均繊度が 0. 9dtex以下の極細繊維であることが好ましい。また、良好な繊維 物性、風合および発色性を兼ね備える点で 0. 0001 -0. 9dtexがより好ましぐ良 好な繊維物性、高い濃色感の着色ポリアミド繊維および風合に優れた人工皮革が得 られるので、 0. 001〜0. ldtexカさらに好ましく、 0. 001〜0. Oldtex力 S特に好まし レ、。
[0022] 次に本発明の着色ポリアミド繊維を製造する方法について説明する。
本発明の着色ポリアミド繊維は、極細繊維発生型繊維を極細繊維化する方法、直 接紡糸方法等公知の方法によって製造することができる。極細繊維発生型繊維は、 2種類以上のポリマー成分が複合化された、海島型、放射型あるいは多層型などの 繊維断面形状を有する繊維である。複合紡糸により得られた極細繊維発生型繊維を 分割あるいはその構成成分のうち少なくとも 1成分を抽出除去することにより着色ポリ アミド極細繊維が得られる。また、混合紡糸により得られた海島型極細繊維発生型繊 維の海成分を抽出除去することによつてもポリアミド極細繊維が得られる。極細繊維 発生型繊維の製造および極細繊維化は従来公知の方法で行えばょレ、。必要に応じ て、従来公知の方法で延伸を行うことができ、例えば、極細繊維発生型繊維を 20〜 100°Cの温水浴中で 1〜 5倍延伸してもょレ、。
[0023] 顔料の配合量を多くした場合、複合紡糸繊維および混合紡糸繊維から少なくとも 1 成分を抽出除去して得られるポリアミド極細繊維は、強度が大きく低下し、紡糸性が 悪化する傾向が特に強い。本発明は、このような複合紡糸繊維および混合紡糸繊維 等で代表される極細繊維発生型繊維からポリアミド極細繊維を製造する場合により顕 著な効果を発揮する。
[0024] 極細化処理後極細繊維となる成分 (極細繊維形成成分)、例えば海島型繊維の島 成分は、前記したポリアミド樹脂、顔料、式 (I)の化合物およびカップリング剤を少なく とも含む着色ポリアミド組成物からなる。抽出除去される成分、例えば海島型繊維の 海成分は、上記の極細繊維形成成分と混合または複合紡糸可能な熱可塑性樹脂で あればよぐ好ましくは、熱トルエン、キシレン等で代表されるハロゲン化炭化水素か ら選ばれた溶剤に可溶な樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプチレン、 ポリスチレン、ポリ塩化ビュル等や水に可溶な樹脂例えばポリビュルアルコール系樹
脂等があげられる。
[0025] 前記したポリアミド樹脂、顔料、式 (I)の化合物およびカップリング剤を少なくとも含 む極細繊維形成成分を有する複合紡糸繊維または混合紡糸繊維を製造する方法と しては、ポリアミド樹脂ペレット、顔料、式 (I)の化合物、カップリング剤を上記した配合 割合で混合した着色ポリアミド組成物を紡糸する方法、あらかじめ所望量の式 (I)の 化合物およびカップリング剤を添加した、顔料を高濃度で含有するポリアミドマスター バッチとポリアミド樹脂ペレットとの混合物を紡糸する方法などがあげられる。製造コス ト、繊維組成変更の容易性、作業性などを総合的に判断した場合、後者のマスター バッチをポリアミド樹脂ペレットと混合し紡糸する方法がより好ましい。着色ポリアミド 組成物およびマスターバッチとポリアミド樹脂ペレットとの混合物の紡糸は、繊維製造 技術分野において公知の方法、公知の紡糸条件で行えばよい。当業者であれば、 紡糸方法、紡糸条件を容易に選択、決定することができるので、その詳細はここでは 省略する。
[0026] マスターバッチとポリアミド樹脂ペレットを溶融混練するためには、ナウターミキサー 、ダブルコーン式ブレンダ一等の回分式混合装置で予めマスターバッチペレットと樹 脂ペレットを混合し、次いで溶融押出機で混練する方法や、マスターバッチペレットと ポリアミド樹脂ペレットを所定の混合率となるよう別々の計量機から連続的に溶融押 出機に供給し混練する方法などを用いることができる。この際、回分式混合装置で溶 融前に混合する場合は、溶融押出機の直上に近レ、位置で混合ペレットを供給するな ど、分級による分散斑を低減する工夫をすることが好ましレヽ。
[0027] 次に、前記したポリアミド樹脂、顔料、式 (I)の化合物およびカップリング剤を少なく とも含む極細繊維形成成分が島、ポリエチレンが海である海島型繊維 (極細繊維発 生型繊維)の短繊維あるいは長繊維から繊維絡合体を形成し、該繊維絡合体を用い て人工皮革を製造する工程を説明する。
[0028] 短繊維ウエッブは、公知の方法、例えば、該海島型繊維をカードで開繊し、ゥェツバ 一を通してランダムウエッブ、クロスラップウエッブにすることにより形成される。長繊維 ウエッブは、公知の方法、例えば溶融紡糸と直結したいわゆるスパンボンド不織布製 造方法によって効率よく製造することができ、得られた繊維ウエッブを所望の重さおよ
び厚さに積層する。該海島型繊維は単独で、又はそれ以外の繊維、例えば通常の 太さを有する非海島型繊維(例えば、単繊維繊度が 0. 5〜2dtexの単一成分からな る繊維)と目的に応じて混合してもよい。
[0029] 次いで、繊維ウエッブを公知の方法でニードルパンチ処理し繊維絡合体とする。繊 維絡合体を加熱、プレスして所望の厚さに調整した後、該繊維絡合体に弾性重合体 を含浸する。含浸する弾性重合体としては従来から人工皮革基体の製造に用いられ ている樹脂が好適に用いられる。例えばポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポ リアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの共重合体、ま たはこれらの混合物が使用出来るが、凝固により均一なスポンジ構造が得られる点、 機械的物性が優れているなどの点からポリウレタン系樹脂が好適に使用される。弾性 重合体に、着色剤、凝固調節剤、安定剤、酸化防止剤等を配合してもよい。弾性重 合体は、有機溶剤溶液または水系ェマルジヨンなどの含浸液として繊維絡合体に含 浸させる。
[0030] 前記含浸液を繊維絡合体の内部に含浸し、次レ、で該弾性重合体の非溶剤で処理 しあるいは感熱ゲル化して、弾性重合体を凝固させ、必要に応じて洗浄し、乾燥して 繊維質基体を得る。弾性重合体の量は、繊維質基体 100質量部に対し固形分として 10〜60質量部が天然皮革様の風合が得られる点で好適である。弾性重合体の量 はそれぞれの用途に応じて変更され、例えばスエード調に仕上げる場合にはソフトな 風合と表面の繊維密度を高くする点で 10〜40質量部が好適な範囲であり、銀面人 ェ皮革に仕上げる場合には表面の平滑性の点で 30〜60質量部が好適な範囲であ る。
[0031] 弾性重合体を含浸凝固させて得た繊維質基体を、海島型繊維中のポリアミド樹脂( 島成分)及び弾性重合体の非溶剤であり且つポリエチレン (海成分)の溶剤または分 解剤である処理液、例えばトルエン、キシレンなどの炭化水素系溶剤で処理すること によりポリエチレンを海島型繊維から抽出除去し、本発明の着色ポリアミド極細繊維 からなる繊維絡合体と弾性重合体とからなる人工皮革を得る。該人工皮革に、公知 の方法により起毛処理を行った後、より好ましくは染色、整毛等の表面仕上処理を施 し、立毛調の人工皮革とする。得られた立毛調人工皮革は一般的な染色処理に比
ベ染料の添加量を減らしても十分に深みのある濃色の表面外観を示す。また、従来 公知の技術において、極細繊維内部に顔料を添加したために生じていた、紡糸不良 による粒状塊 (繊維の融着物)も発生せず、機械物性および各種堅牢性に優れてレヽ る。また、該人工皮革に、公知の方法にて、表面被覆層を形成することによって、銀 面調人工皮革とすることも可能である。本発明の原着極細繊維の特徴を活かすため には、人工皮革または起毛処理した人工皮革の表面に前記含浸樹脂液として用い ることの可能な樹脂をグラビア塗布して表面被覆層を形成し、その表面をエンボス処 理することによって銀面調人工皮革とするのが好ましい。また、該人工皮革に前記樹 脂のフィルムを積層し、さらにエンボス処理することによって、あるいは、表面被覆層 を形成することなく該人工皮革の表面をエンボス処理することにより銀面調人工皮革 とすることちでさる。
[0032] 本発明によれば、高濃度で着色剤を含有しても、溶融紡糸時にベンディングや断 糸が発生せず、紡糸時の工程安定性と繊維物性に優れた着色ポリアミド繊維を提供 すること力 Sできる。また、本発明の製造方法によれば、顔料をポリアミド繊維中に均一 分散させることができるので、高濃度の顔料を含有する着色極細繊維を安定に製造 することが可能である。さらに本発明の着色ポリアミド繊維は、ワイパー、フィルター、 人工皮革などの用途に幅広く用いることができる。特に、本発明の低繊度の着色極 細繊維を用いて得られた人工皮革、とりわけスエード調ゃヌバック調など、表面に極 細繊維立毛を有するいわゆる立毛調人工皮革は、従来にない高い濃度の着色感を 有する。
実施例
[0033] 以下に本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定さ れるものではない。なお、実施例中の部及び%は断わりのない限り質量基準である。 各物性は以下のようにして測定した。
[0034] (1)極細繊維の平均繊度
未延伸海島型繊維束 (海成分:ポリエチレン)を温水浴中、延伸温度 70°Cで 2. 0倍 に延伸した後、繊維束を枠に固定した。 80°Cのトノレェン中で繊維からポリエチレンを 抽出し、乾燥し、極細繊維束とした。得られた極細繊維束を走査型電子顕微鏡で観
察した後、下記式から算出した。
繊維繊度 = D X (R/2) 2 X 106
但し Rは、極細繊維束中の極細繊維の平均直径(cm)であり、 Dは、極細繊維の比重 である。
Rは次のようにして得た。極細繊維束断面を走查型電子顕微鏡で撮影し、無作為 に 10本の極細繊維束を選び出した。各極細繊維束断面から 20本の極細繊維を任 意に、かつ、偏ることなく繊維束断面全体から選び出した。選ばれた極細繊維の直径 を測定し、それらを平均して Rを得た。
[0035] (2)断糸率
1トンの糸を紡糸する間に発生した断糸の回数をカウントし、 100kgあたりの断糸回 数を断糸率とした。
[0036] (3)強度
未延伸海島型繊維束をオートグラフを用いて、チャック間 10cm、ヘッドスピード 20 cm/分の条件で引つ張り、 JIS 1013に準じて強度を測定した。
[0037] (4)伸度
未延伸海島型繊維束をオートグラフを用いて、チャック間 10cm、ヘッドスピード 20 cm/分の条件で引つ張り、 JIS 1013に準じて伸度を測定した。
[0038] 実施例 1
数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 80部に、一次粒子径 20nmのカーボン ブラックを 20部、エチレンビスステアリン酸アミドを 2部、イソプロピルトリイソステアロイ ルチタネートを 0. 5部加え、溶融押出機にて 280°Cで溶融混合し、得られたストラン ドを水冷後カッティングし原着用ポリアミドマスターバッチを得た。
該原着用ポリアミドマスターバッチ 25部、数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 25部と、低密度ポリエチレンチップ 50部をチップブレンダ一で混合し、この混合物を 、紡糸孔数 24個の通常の溶融紡糸装置を用いて紡糸温度 280°Cで紡糸し、ナイ口 ン 6が島でポリエチレンが海となっている繊度が 10. Odtexの未延伸海島型繊維を得 た。このときの紡糸断糸率は、 100kgあたり 0. 15回程度であった。この未延伸海島 型繊維の物性を第 2表に示す。
さらに、得られた未延伸海島型繊維を、温水浴中、延伸温度 70°Cで 2. 0倍に延伸 することにより、 5dtexの延伸海島型繊維を得た。
次いで、この延伸海島型繊維を捲縮、カットし、繊維長さ 5 lmmのステープノレを得 た。このステープルをカージングし、重ね合わせてニードルパンチして目付 500gZ m2の繊維絡合体を作製した。この繊維絡合体にポリエーテル系ポリウレタンの 15% ジメチルホルムアミド溶液を含浸し、次いで、ジメチルホルムアミド水溶液により湿式 凝固した。水洗した後、 90°Cトノレェンにより海成分のポリエチレンを抽出除去し、 目 付 450g/m2、厚み 0. 9mmの人工皮革を得た。得られた人工皮革の片面をサンド ペーパーでバフイングし立毛処理した後、含金属錯塩染料 Irgalan Black 2RL (Chiba Geigy社) 6owf%にて染色し、揉みおよびブラシがけ処理をし立毛調の人工皮革に 仕上げた。得られた立毛調人工皮革は均一な表面を有し十分な黒色に着色されて いた。また引裂強力が高ぐ風合いが柔らカ 、ものであった。このスエードの表面を 検査した結果、紡糸不良にともなう欠点(粒状の塊)は見られなかった。
[0039] 実施例 2
実施例 1に記載の原着用ポリアミドマスターバッチ 30部、数平均分子量 13, 000の ナイロン 6チップ 30部と、低密度ポリエチレンチップ 40部をチップブレンダ一で混合 して得た混合物を使用した以外は実施例 1と同様にして繊度が 15dtexの未延伸海 島型繊維を得た。このときの紡糸断糸率は、 100kgあたり 0. 1回程度であった。この 未延伸海島型繊維の物性を第 2表に示す。
実施例 1と同様にして立毛調人工皮革に仕上げて表面を検査した結果、紡糸不良 にともなう欠点(粒状の塊)は見られなかった。
[0040] 実施例 3
実施例 1に記載の原着用ポリアミドマスターバッチ 21部、数平均分子量 13, 000の ナイロン 6チップ 39部と、低密度ポリエチレンチップ 40部をチップブレンダ一で混合 して得た混合物を使用した以外は実施例 1と同様にして繊度 15. Odtexの未延伸海 島型繊維を得た。このときの紡糸断糸率は、 100kgあたり 0. 1回程度であった。この 未延伸海島型繊維の物性を第 2表に示す。
実施例 1と同様にして立毛調人工皮革に仕上げて表面を検査した結果、紡糸不良
にともなう欠点(粒状の塊)は見られなかった。
[0041] 実施例 4
実施例 1に記載の原着用ポリアミドマスターバッチ 36部、数平均分子量 13, 000の ナイロン 6チップ 24部と、低密度ポリエチレンチップ 40部をチップブレンダ一で混合 して得た混合物を使用した以外は実施例 1と同様にして繊度 15. Odtexの未延伸海 島型繊維を得た。このときの紡糸断糸率は、 100kgあたり 0. 2回程度であった。この 未延伸海島型繊維の物性を第 2表に示す。
実施例 1と同様にして立毛調人工皮革に仕上げて表面を検査した結果、紡糸不良 にともなう欠点(粒状の塊)は見られなかった。
[0042] 実施例 5
数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 80部に、一次粒子径 20nmのカーボン ブラックを 20部、メチレンビスステアリン酸アミドを 2部、イソプロピルトリイソステアロイ ルチタネートを 0. 5部加え、溶融押出機にて実施例 1と同様に溶融混合し、得られた ストランドを水冷後カッティングし原着用ポリアミドマスターバッチを得た。
上記ポリアミドマスターバッチ 30部、数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 30 部と、低密度ポリエチレンチップ 40部をチッププレンダ一で混合して得た混合物を使 用した以外は実施例 1と同様にして繊度 15.2dtexの未延伸海島型繊維を得た。この ときの紡糸断糸率は、 100kgあたり 0. 1回程度であった。この未延伸海島型繊維の 物性を第 2表に示す。
実施例 1と同様にして立毛調人工皮革に仕上げて表面を検査した結果、紡糸不良 にともなう欠点(粒状の塊)は見られなかった。
[0043] 実施例 6
数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 80部に、一次粒子径 20nmのカーボン ブラックを 20部、エチレンビスステアリン酸アミドを 2部、イソプロピルトリ(N—アミノエ チル)チタネートを 0. 5部加え、溶融押出機にて実施例 1と同様に溶融混合し、得ら れたストランドを水冷後カッティングし原着用ポリアミドマスターバッチを得た。
上記ポリアミドマスターバッチ 30部、数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 30 部と、低密度ポリエチレンチップ 40部をチッププレンダ一で混合して得た混合物を使
用した以外は実施例 1と同様にして繊度 14. 8dtexの未延伸海島型繊維を得た。こ のときの紡糸断糸率は、 100kgあたり 0. 25回程度であった。この未延伸海島型繊維 の物性を第 2表に示す。
実施例 1と同様にして立毛調人工皮革に仕上げて表面を検査した結果、紡糸不良 にともなう欠点(粒状の塊)は見られなかった。
[0044] 実施例 7
数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 80部に、一次粒子径 25nmのカーボン ブラックを 20部、エチレンビスステアリン酸アミドを 2部、イソプロピルトリイソステアロイ ルチタネートを 0. 5部加え、溶融押出機にて実施例 1と同様に溶融混合し、得られた ストランドを水冷後カッティングし原着用ポリアミドマスターバッチを得た。
上記ポリアミドマスターバッチ 30部、数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 30 部と、低密度ポリエチレンチップ 40部をチッププレンダ一で混合して得た混合物を使 用した以外は実施例 1と同様にして繊度が 15. ldtexの未延伸海島型繊維を得た。 このときの紡糸断糸率は、 100kgあたり 0. 2回程度であった。この未延伸海島型繊 維の物性を第 2表に示す。
実施例 1と同様にして立毛調人工皮革に仕上げて表面を検査した結果、紡糸不良 にともなう欠点(粒状の塊)は見られなかった。
[0045] 実施例 8
数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 80部に、一次粒子径 20nmのカーボン ブラックを 20部、エチレンビスステアリン酸アミドを 2部、ビニルトリエトキシシランを 0· 5部加え、溶融押出機にて実施例 1と同様に溶融混合し、得られたストランドを水冷 後カッティングし原着用ポリアミドマスターバッチを得た。
上記ポリアミドマスターバッチ 30部、数平均分子量 13, 000のナイロン 6チップ 30 部と、低密度ポリエチレンチップ 40部をチッププレンダ一で混合して得た混合物を使 用した以外は実施例 1と同様にして繊度 15. ldtexの未延伸海島型繊維を得た。こ のときの紡糸断糸率は、 100kgあたり 0. 2回程度であった。この未延伸海島型繊維 の物性を第 2表に示す。
実施例 1と同様にして立毛調人工皮革に仕上げて表面を検査した結果、紡糸不良
にともなう欠点(粒状の塊)は見られなかった。
比較例 1〜3
ビス脂肪酸アミド、カップリング剤を表 1のように変更する以外は、実施例 1と同様の 処理を行って、繊度 10. Odtexの未延伸海島型繊維を作製した。これらの紡糸断糸 率と未延伸海島型繊維の物性を第 2表に示す。
実施例 1と同様にして立毛調人工皮革に仕上げて表面を検査した結果、十分な黒 色に着色されており、風合レ、も柔らかいものであつたが、紡糸不良にともなう欠点(粒 状の塊)が散在していた。
[表 1]
第 1表
[表 2]
第 2表
本発明は、特に低繊度の極細繊維に著しい効果が得られるので、繊細な外観と濃 色感を要求されるヌバックあるいはスエードで代表される立毛調人工皮革の製造に 広く用いることができる。