糸田 β 回折光学素子及び回折光学素子の製造方法 技術分野
本発明は、 回折光学素子に関し、 特に、 複層型の回折光学素子及びその 製造方法に関する。 背景技術
回折光学素子は、 微小間隔 (約 l mm) 当たり数百本程度の細い等間隔 のスリッ ト状もしくは溝状の格子構造を備えて作られた光学素子であり、 光が入射されると、 スリットや溝のピッチ (間隔) と光の波長とで定まる 方向に回折光束を生じさせる性質を有している。 このような回折光学素子 は種々の光学系に用いられており、 例えば、 最近では、 特定次数の回折光 を一点に集めてレンズとして使用するものなどが知られている。
このような回折光学素子においては、 近年、 複層型と呼ばれる回折光学 素子が提案されている。 このタイプの回折光学素子は、 鋸歯状に形成され た面を持つ複数の回折素子要素を積み重ねてなるものであり、 所望の広波 長領域 (例えば、 可視光領域) のほぼ全域で高い回折効率が保たれる、 す なわち波長特性が良好であるという特徴を有している。
一般に、 複層型の回折光学素子として、 例えば、 互いに異なる材料であ る 2種類の回折素子要素から構成され、同一の回折格子溝で密着している、 いわゆる密着複層型の回折光学素子が知られている (例えば、 特開平 1 1 - 2 7 1 5 1 3号公報を参照) 。
また、 他の例の複層型の回折光学素子として、 図 6に示すように、 互い に異なる材料である第 1の回折素子要素 1 1 0と、 第 2の回折素子要素 1
2 0とから構成され、 各回折格子要素 1 1 0, 1 2 0の対向し合う鋸歯状 の面は空気を挟んで分離された状態で配置されている、 いわゆる分離複層 型の回折光学素子が知られている。分離複層型の回折光学素子においては、 第 1の回折素子要素 1 1 0における回折格子溝の高さ d 1と第 2の回折格 子要素 1 2 0における回折格子溝の高さ d 2とは相異なるため、 それそれ の回折格子溝が形成された金型による成形が行われている。 このような分 離複層型の回折光学素子の場合、 特定の 2波長に対して色消し条件を満足 させるように、 第 1の回折格子要素 1 1 0の回折格子溝の高さ d 1を所定 の値に決定し、 第 2の回折格子要素 1 2 0の回折格子溝の高さ d 2を別の 所定の値に決定する。 これにより、 特定 2波長においては回折効率が 1 . 0となり、 その他の波長においても高い回折効率を得ることができるよう になる。 ここで、 回折効率とは、 透過型の回折格子において、 入射する光 の強度 I。と一次回折光の強度 との割合?? (= ]^ 1。) である。 ところで、 (特許文献 1のような) 密着複層型の回折光学素子において は、 該回折光学素子を構成するどちらかの回折格子要素が、 通常、 材料と してガラスが用いられ回折格子溝が形成された金型による成形、 いわゆる ガラスモールド成形により作製されている。 しかしながら、 このガラスモ 一ルド成形は、 製造時間がかかる上に、 金型の成形方法や要求を満たすガ ラスの製造方法など技術的に難しい点が多かった。
また、 (図 6に示すような) 分離複層型の回折光学素子においては、 第 1の回折素子要素 1 1 0における回折格子溝の高さ d 1と第 2の回折格子 要素 1 2 0における回折格子溝の高さ d 2とは相異なるため、 複数の金型 が必要であるとともに、 (これら金型を用いて) 回折格子要素 1 1 0 , 1 2 0それそれを同じ手順で別々に製造しなければならず、 手間が必要であ つた。 さらに、 最終的には、 両回折素子要素 1 1 0 , 1 2 0を精度良く位 置合わせする必要があるため、 非常に作りづらいものとなっていた。
発明の開示
本発明は、 このような問題点に鑑みてなされたものであり、 製造が容易 な複層型回折素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
このような目的を達成するため、 本発明の回折光学素子は、 互いに異な る材質が同一の回折格子溝で接する回折光学素子であり、 互いに異なる材 質の一方は、 第 1の紫外線硬化樹脂であり、 互いに異なる材質の他方は、 第 1の紫外線硬化樹脂とは異なる第 2の紫外線硬化樹脂であることを特徴 とする。
また、 本発明の回折光学素子は、 第 1の紫外線硬化樹脂の d線での屈折 率を nd lとし、 第 1の紫外線硬化樹脂の分散値をレ d 1としたとき、 式 1. 5 0≤n d 1≤ 1. 60 及び 45 ^レ d l≤ 6 5 の条件を満足 し、 且つ、 第 2の紫外線硬化樹脂の d線での屈折率を nd 2とし、 第 2の 紫外線硬化樹脂の分散値をレ d 2としたとき、式 1. 45≤nd 2≤ l . 5 5 及び リ d 2 ^ 4 5 の条件を満足することを特徴とする。 なお、 上記の分散値は、 ソ d i = (nd i— l ) / (nF i— n C i) である (但 し、 i = 1 , 2 ) 。
また、 本発明の回折光学素子は、 第 1の紫外線硬化樹脂の d線での屈折 率を nd lとし、 第 1の紫外線硬化樹脂の分散値をソ d 1とし、 第 2の紫 外線硬化樹脂の d線での屈折率を nd 2とし、 第 2の紫外線硬化樹脂の分 散値をレ d 2としたとき、 式 0. 000 5^ (nd l— nd 2) Z (レ d 1 - y d 2 ) ≤ 0. 0 3 の条件を満足することを特徴とする。
また、 本発明の回折光学素子は、 回折格子溝の高さを hとしたとき、 式 h≤ 5 Ο zm の条件を満足することを特徴とする。
また、 本発明の回折光学素子は、 回折光学素子の最小ピッチが 80 m 以上であることを特徴とする。
また、 本発明の回折光学素子は、 第 1の紫外線硬化樹脂と第 2の紫外線 硬化樹脂との光軸上の厚さの和が 1◦ 00 m以下であることを特徴とす る o
また、 本発明の回折光学素子は、 第 1の紫外線硬化樹脂及び第 2の紫外 線硬化樹脂は、 いずれも光軸上の厚さが 500〃m以下であることを特徴 とする。
また、 本発明の回折光学素子は、 第 1の紫外線硬化樹脂の中心厚さを t 1とし、 第 2の紫外線硬化樹脂の中心厚さを t 2としたとき、 式 0. 2 < t 1/t 2 < 5. 0 の条件を満足することを特徴とする。
また、 本発明の回折光学素子は、 第 1の紫外線硬化樹脂を有する回折光 学素子を構成する基板の曲率半径を Rとしたとき、 式 0≤ 1/R<0. 1 ( 1/mm) の条件を満足することを特徴とする。
また、 本発明の回折光学素子は、 第 1の紫外線硬化樹脂の d線での屈折 率を nd 1、 C線での屈折率を nC 1及び F線での屈折率を n F 1とし、 第 2の紫外線硬化樹脂の d線での屈折率を nd 2、 C線での屈折率を nC 2及び F線での屈折率を nF 2とし、 And = nd l—nd 2、 Δ (nF — nC) = {(nF l— nC l)— (nF 2— nC 2)}としたとき、式 1 0. 0 <Δ n d/Δ (nF-nC) <- 1. 0 の条件を満足することを 特徴とする。
本発明の回折光学素子の製造方法は、 前記第 1又は前記第 2のいずれか 一方の紫外線硬化樹脂を基板上に滴下し、 回折格子溝を形成した型を用い て型押しする工程と、 前記型押しされた一方の紫外線硬化樹脂に紫外線を 照射し、 前記型押しされた一方の紫外線硬化樹脂を硬化させる工程と、 前 記硬化した一方の紫外線硬化樹脂を前記型から取り外す工程と、 前記取り 外した一方の紫外線硬化樹脂の回折格子溝が形成された面側に、 前記第 1 又は前記第 2の他方の紫外線硬化樹脂を滴下する工程と、 前記滴下された
他方の紫外線硬化樹脂に紫外線を照射する工程とを含むことを特徴とする。 以上説明したように、 本発明に係る回折光学素子によれば、 製造の容易 な複層型の回折光学素子及びその製造方法を提供することが可能になった。 図面の簡単な説明
図 1は、 本発明に係る密着複層型の回折光学素子の模式断面図である。 図 2は、 本発明の回折光学素子の製造工程を (A ) から (H ) の順で示 す図である。
図 3は、 本発明に係る回折光学素子の変形例を示す図であり、 (A ) 及 び(B )は回折格子溝が曲面を有する面に形成された場合を示す図である。 図 4は、 第 1実施例における回折光学素子の各波長に対する回折効率を 示す図である。
図 5は、 第 2実施例における回折光学素子の各波長に対する回折効率を 示す図である。
図 6は、 従来の複層型回折格子の模式断面図である。
図 7は、 本発明に係る密着複層型の回折光学素子を構成する材料を選定 するための (n F— n C ) Z n dマップである。 発明を実施するための最良の形態
以下、 図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。 図 1は、 本発明に係る回折光学素子の概念を示す、 密着複層型回折光学素子 の模式断面図である。 本実施形態における回折光学素子 1は、 互いに異な る紫外線硬化樹脂である第 1の紫外線硬化樹脂 1 0と第 2の紫外線硬化樹 脂 2 0とが、 同一の回折格子溝 3 0で接する形状を有している。 なお、 本 実施形態では、 回折格子溝 3 0は図に示すように鋸歯状に形成されている が、 本発明がこれに限定されるわけではない。
このような形状の回折光学素子 1とすることで、 回折格子溝 30を形成 するために、 一つの金型を用いるだけで製造することが可能になり、 その 結果、 従来行われていた二つの回折格子溝を別々に製造し、 位置合わせを する作業が不要になる。 また、 ここで、 第 1の紫外線硬化樹脂 10及び第 2の紫外線硬化樹脂 20を用いることで、 型に材料を滴下して固めるとい う作業を 2回繰り返すだけで、 製造することができるようになり、 ひいて は量産性が向上する。 また、 第 1の紫外線硬化樹脂 10と第 2の紫外線硬 化樹脂 20とを貼り合わせることで、 回折格子溝 3◦での剥離を防ぐ効果 が大きくなる。
本発明の回折光学素子 1において、第 1の紫外線硬化樹脂 10の材質は、 d線での屈折率を nd 1とし、 第 1の紫外線硬化樹脂 10の分散値をレ d 1としたとき、 以下の式 (1) , (2) を満足し、 且つ、 第 2の紫外線硬 化樹脂 20の材質は、 d線での屈折率を nd 2とし、 第 2の紫外線硬化樹 脂 20の分散値を d 2としたとき、 式 (3) , (4) を満足することが 好ましい,
50≤nd 1≤ 1.
45≤vd l≤65
45≤nd 2≤ 1.
y d 2≤ 45 条件式 ( 1) , (2) , (3) , (4) は、 より良い性能で、 互いに異 なる紫外線硬化樹脂 (ここでは第 1の紫外線硬化樹脂 10と第 2の紫外線 硬化樹脂 20) が共通の回折格子溝 30で接することができる (回折格子 溝 30を形成することができる) ための条件である。 すなわち、 これらの 条件式 ( 1) 〜 (4) に規定された領域を外れると、 本発明の (互いに異
なる材質が同一の回折格子溝で接する) 複層型回折光学素子 1の形状を得 ることが難しくなつてしまう。 特に、 条件式 ( 1) 及び (3) は角度特性 を良好に保っためものであり、 条件式 (2) 及び (4) は全波長領域で良 好な回折効率を得るためのものである。
ここで、 条件式 ( 1)の下限値を 1. 5 5とすることが好ましい。 また、 条件式 ( 1 ) の上限値を 1. 60とすることが好ましい。 条件式 ( 2 ) の 下限値を 47とすることが好ましい。 また、 条件式 (2) の上限値を 55 とすることが好ましい。 条件式 ( 3 ) の下限値を 1. 50とすることが好 ましい。 また、 条件式 (3) の上限値を 1. 54とすることが好ましい。 条件式 (4) の下限値を 30とすることが好ましい。 また、 条件式 (4) の上限値を 45とすることが好ましい。
また、 本発明の回折光学素子 1において、 第 1の紫外線硬化樹脂 10の 材質は、 d線での屈折率を nd 1とし、 第 1の紫外線硬化樹脂 10の分散 値をレ d lと、 第 2の紫外線硬化樹脂 20の材質は、 d線での屈折率を n d 2とし、 第 2の紫外線硬化樹脂 20の分散値をレ d 2としたとき、 次式 (5) を満足することが好ましい。
0. 0005≤ (nd l -nd 2) / (yd l -vd 2) ≤0. 03
… (5) 条件式 ( 5 ) は、 第 1の紫外線硬化樹脂 10及び第 2の紫外線硬化樹脂 20における、 屈折率の差及び分散値の差を規定する条件である。 この条 件式 (5) 及び後述する条件式 (6) の規定された領域を外れると、 本発 明のように互いに異なる材質 (紫外線硬化樹脂) が同一の回折格子溝 30 で接する複層型回折光学素子の形状であっても、 回折格子溝 30の高さ h が高くなつてしまったり、 諸波長に対する回折効率が低下してしまったり
する不都合が生じる。 ここでは、 条件式 ( 5) の下限値を 0. 0 0 1とす ることが好ましい。 また、 条件式 ( 5) の上限値を 0. 005とすること が好ましい。
また、本発明の回折光学素子 1では、回折格子溝の高さを hとしたとき、 次式 ( 6) を満足することが好ましい。 h≤ 5 0 m … ( 6 ) 条件式 ( 6 ) は、 角度特性 (入射光線の入射角の変化に対する回折効率 の低下の度合い) に関する条件であり、 この条件を満足することにより、 従来の複層型回折光学素子と比べて角度特性を向上させることができる。 すなわち、 回折格子溝 30の高さ hを条件式 ( 6 ) の上限値 ( 5 0 /m) 以下にして、 回折格子溝 30の高さを低くすることにより、 光透過時の損 失を小さくして角度特性を向上させることができる。 但し、 高さ hの値を 無制限に小さくすることは厳しい製造精度を満足し得なくなる可能性があ るため、 条件式 ( 6) においては高さ hに下限の値を設けることが好まし い。 ここでは、 上記条件式 (6 ) の上限値を 3 0. 0〃mとすると、 さら に良い結果が得られる。
また、 本発明の回折光学素子 1では、 回折格子溝 3 0のピッチ (最小ピ ツチ) p (図 1参照) を 80〃m以上と大きくすることで、 回折格子溝 3 0の頂角 0 (図 1参照) を緩やかにすることができる。 このように回折格 子溝 3 0の頂角 を緩やかにしておけば、 後述するように、 第 1の金型 5 0を用いて第 1の紫外線硬化樹脂 1 0を成形するときに、 この形状を正確 に転写することができるとともに、 このように転写成形された回折格子溝 30上に滴下した第 2の紫外線硬化樹脂 2 0が、 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0上に形成された (転写された) 回折格子溝 3 0の窪み部分に十分に行き
渡るようになるため、 所定形状の回折格子溝 3 0を容易に形成することが 可能となり、 ひいては本回折格子素子 1の生産性を向上させることができ るようになる。 なお、 回折格子溝 3 0のピッチ (最小ピッチ) pをさらに 大きく 1 0 0 mとすれば、 回折格子溝 3 0の頂角 6>はさらに緩やかにな るので、 回折格子溝 3 0の形成はより一層容易になる。
なお、 紫外線硬化樹脂は、 一般に、 分光透過率特性が余り良くないため、 回折光学素子を構成する紫外線硬化樹脂の光軸上の厚さが厚くなると、 該 光学系全体の透過率が下がることになる。 特に、 その傾向は短波長領域に おいて顕著である。 このため、 本発明の回折光学素子 1は、 第 1の紫外線 硬化樹脂 1 0と第 2の紫外線硬化樹脂 2 0との光軸上の厚さの和が 1 0 0 0〃m以下であることが好ましい。 また、 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0及び 第 2の紫外線硬化樹脂 2 0は、 いずれも光軸上の厚さが 5 0 0〃m以下で あることが好ましい。 このように、 第 1及び第 2の紫外線硬化樹脂 1 0 , 2 0の光軸上の厚さを抑えることにより、 材料として用いる紫外線硬化樹 脂の使用量が従来よりも減るため、 コス トダウンに繋がり好都合である。 また、 本発明の回折光学素子 1では、 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0の中心 厚さを t 1 とし、第 2の紫外線硬化樹脂 2 0の中心厚さを t 2としたとき、 次式 ( 7 ) を満足することが望ましい。 0 . 2 < t l / t 2 < 5 . 0 - ( 7 ) この条件式 ( 7 ) の上限値を上回ると、 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0の光 軸方向の中心厚さ t 1が厚くなり過ぎて、 第 1の紫外線硬化樹脂層の総重 量が増すため、 本回折光学素子 1を構成する基板 (例えば、 ガラス等) か ら剥離しやすくなるという不都合が生じる。 また、 条件式 ( 7 ) の下限値 を下回ると、 第 2の紫外線硬化樹脂 2 0の光軸方向の中心厚さ t 2が厚く
なり過ぎて、 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0に過大なス トレスがかかり、 第 1 の紫外線硬化樹脂層 1 0と第 2の紫外線硬化樹脂層 2 0とが剥離しやすく なるという不都合が生じる。 また、 第 1, 2の紫外線硬化樹脂 1 0 , 2 0 のいずれにおいても、 その層が厚くなり過ぎると、 紫外線を照射して硬化 させるために要する時間も長くなり、 製造コストが上がるおそれがあるた め、 好ましくない。
また、 本発明の回折光学素子 1は、 上記基板 (例えば、 ガラス) の曲率 半径を Rとしたとき、 次式 ( 8 ) を満足することが好ましい。
0≤ 1 /R < 0 . 1 ( 1 /mm) … ( 8 ) この条件式 ( 8 ) の上限値を上回ると、 基板の曲率半径: Rがきつくなり 過ぎてしまい、 第 1の紫外線硬化樹脂層 1 0との密着性が劣化して、 剥が れやすくなるという不都合が生じる。 なお、 本回折光学素子 1において、 基板が平板であると、 該基板の加工がしやすいと同時に、 これに密着させ る第 1の紫外線硬化樹脂 1 0も成形 ·密着がしゃすくなる。 そのため、 基 板の曲率半径: の値に無限大を設定し、 条件式 ( 8 ) の下限値が 0となつ ている。
ここで、 本発明の回折光学素子 1を構成する互いに異なる材質、 すなわ ち第 1光学材料及び第 2光学材料の選定基準について説明する。 なお、 第 1光学材料は高屈折率低分散である材料を、 第 2光学材料は低屈折率高分 散である材料を用いるとする。 また、 光の進行方向の順に、 第 1光学材料、 第 2光学材料が配置されるとする。 ここで、 上記の屈折率及び分散の高低 は相対的なものである。
本発明の回折光学素子 1において、 設計波長を d線とし、 第 1, 2光学 材料の d線に対する屈折率を n d 1 , n d 2とし、 格子高さを hとし、 d
線の波長 Adとしたとき、 次式 ( 9 ) を満足すると仮定する
(n d 1 - n d 2 ) h= λ d ( 9 ) 上記の式 ( 9 ) は、 d線のブレーズ条件の式であり、 このときえ dに対 する回折効率は最大となる。 ここで、 nd l , nd 2及びえ dが与えられ れば、 格子高さ hは一義的に定まり、 次式 ( 1 0) のように表すことがで きる。 h = λ d/ (nd 1 -n d 2 ) ( 1 0) ところで、 本発明の回折光学素子 1が、 特に (白色光など) 広い波長領 域で良好な回折効率を得るために、 d線以外の波長においてもブレーズ条 件を満足することが望ましい。 そこで、 d線以外の波長として C線, F線 を選び、 第 i光学材料 ( i = l, 2 ) の C線, F線に対する屈折率 nC i , nF iとし、 C線, F線の波長をえ C, としたとき、 C線, F線のブ レーズ条件の式である次式 ( 1 1 ) , ( 1 2 ) を満足すると仮定する。
(nC l -nC 2 ) h= C - ( 1 1 )
(nF 1 -nF 2 ) h= AF - ( 1 2 ) 上記の式 ( 1 2 ) から式 ( 1 1 ) を辺々引く と、 次式 ( 1 3 ) が得られ
(nF 1 -nF 2 ) h- (nC 1 -n C 2 ) h- AF - A C
( 1 3 )
上記の式 ( 13) を整理すると、 次式 ( 14) が得られる。
{ (nF 1 -nF 2) 一 (nC 1 -nC 2) } = (AF-AC) /h
… ( 14)
ここで、 上記の式 ( 14) から式 ( 10) を用いて hを消去すると、 次 式 ( 1 5 ) が得られる。 { (nF l -nF 2) - (nC l -nC 2) } = (AF-AC) · (n d 1 _nd 2) /え d ." ( 15) さらに、 上記の式 ( 15) は整理すると、 次式 ( 1 6 ) で表すことがで きる。
(nd 1 -nd 2 ) / { (nF 1 -nF 2 ) 一 (nC 1 -nC 2) }
= λά/ (λ¥- λθ) - ( 16) 上記の式 ( 16 )の右辺に、 人 d =0.587562〃m, え F =0.486133〃 m, え C=0.656273 zmをそれそれ代入すると、 次式 ( 17 ) が得られる。
(nd 1 -nd 2) / { (nF 1 -nF 2) ― (nC 1 -nC 2) } = -3.453403
… ( 17) 上記の式 ( 17) において、 And = nd l -nd 2 , { (nF 一 n
F 2 ) - (nC 1 -nC 2) } = { (nF 1 -nC 1 ) - (nF 2 -nC 2) } =△ (nF-nC) とすると、 次式 ( 18) のように表すことがで
And/Δ (nF-nC) =-3.453403 - ( 18 ) 上記の式 ( 18) の右辺は、 選択した波長 (ここでは、 d線, C線及び F線) によって定まる値 (回折光学素子のアッベ数そのもの) となり、 式 ( 18) の関係に極力近付けるように、 本発明の回折光学素子 1を構成す る第 1光学材料及び第 2光学材料を選択すればよいことを示している。 よ り具体的には、 図 7で示す (nF— nC) Zndマヅプ上において式 ( 1 8) をできるだけ満足するような、 第 1光学材料及び第 2光学材料の組み 合わせを選定すればよい。 このような選択基準に基づいて選択された光学 材料を用いることにより、 本発明の回折光学素子 1は、 広い波長領域で良 好な回折効率を得ることができる。 なお、 後述する第 1及び第 2実施例の 回折光学素子では、 図 7の ( 1) 〜 (3) で示すように、 上記選定基準に 基づいた光学材料が用いられている。 また、 図 7では、 式 ( 18) の関係 を一例として直線 A, Bで示している。
なお、 上記の条件式 ( 18) は、 次式 ( 19) で示す範囲を満足するこ とが好ましい。
- 10. 0<Δηά/Δ (nF-nC) <- 1. 0 - ( 19) この条件式 ( 19) は、 本回折光学素子 1において広い波長領域で回折 効率をより向上させるための条件である。 この条件式 (1 9) を満足する ことにより、 実用的な性能を十分に得ることができる。 一方、 条件式 ( 1
9 ) の上限値を上回ったり或いは下限値を下回ったりすると、 広い波長領 域に亘りフラッ トな回折効率を得られないという不都合が生じ、その結果、 回折光によるフレアの発生が大きくなつて画質を損ねるなどの問題が生じ る。 なお、 本回折光学素子 1において、 より高い効果を得るためには、 条 件式 ( 1 9 ) は一 3 . 0〜一 9 . 0の範囲とすることが好ましい。
なお、 本発明の回折光学素子は、 第 1の紫外線硬化樹脂 (高屈折率低分 散材料) に用いる材料として、 具体的には、 脂肪環を有するァクリレート とチオール化合物とのェン—チオール反応生成物よりなる紫外線硬化樹脂 が挙げられる。 また、 第 2の紫外線硬化樹脂 (低屈折率高分散材料) に用 いる材料として、 具体的には、 分子中にフッ素原子を含むァクリレートと 分子中に複数のベンゼン環骨格を有するァクリレ一トとの混合物からなる 紫外線硬化樹脂が挙げられる。 ここで述べている屈折率及び分散の高低と は相対的なものである。
以下に、 本発明に係る回折光学素子 1 (本実施形態では円盤状とする) の製造手順について説明する。 これにはまず、 所定形状の回折格子溝 3 0 が予め形成されている第 1の金型 5 0と、 所定の面を予め形成してある基 板ガラス 6 0 (但し、後述する紫外線 U Vを透過する材料) とを用意する。 また、 十分に加熱され可塑性を有した第 1の紫外線硬化樹脂 1 0 'を用意 する。 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0 'には、 後述の実施例に示すものが用い られるとよい。
次に、 基板ガラス 6 0上に、 十分に加熱され可塑性を有した上記第 1の 紫外線硬化樹脂 1 0 'を滴下する (図 2 ( A ) 参照) 。 そして、 滴下した 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0 'に回折格子溝 3 0が形成された第 1の金型 5 0を押し当てる (図 2 ( b ) 参照) 。 さらに、 基板ガラス 6 0側から紫外 線 U Vを照射することで、 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0 'を硬化させる (図 2 ( C ) 参照) 。 そして、 硬化させた第 1の紫外線硬化樹脂 1 0 'を第 1
の金型 5 0及び基板ガラス 6 0より取り外す (図 2 ( D ) 参照) 。 これに より、 第 1の金型 5 0に形成されていた回折格子溝 3 0の形状が、 第 1の 紫外線硬化樹脂 1 0 'に転写されて、 第 1の回折光学素子 1 0が形成され る。
続いて、 上記のようにして作製された第 1の回折光学素子 1 0の回折格 子溝 3 0が形成された面上に、 液状の第 2の紫外線硬化樹脂 2 0 'を適量 滴下する (図 2 ( E ) 参照) 。 この第 2の紫外線硬化樹脂 2 0 'には、 後 述の実施例に示すものが用いられるとよい。 滴下された第 2の紫外線硬化 樹脂 2 0 'において、 回折格子溝 3◦が形成される面とは反対側の面に、 面形成用の第 2の金型 7 0を押し当てる (図 2 ( F ) 参照) 。 さらに、 紫 外線 U Vを照射することで、第 2の紫外線硬化樹脂 2 0 'を硬化させる(図 2 ( G ) 参照) 。 これにより、 第 1の回折光学素子 1 0に密着接合された 第 2の回折光学素子 2 0が形成される。 最後に、 面形成用の第 2の金型 7 0を取り外せば、 第 1の回折光学素子 (第 1の紫外線硬化樹脂) 1 0と第 2の回折光学素子 (第 2の紫外線硬化樹脂) 2 0とから構成される、 本発 明に係る密着複層型の回折光学素子 1が完成する (図 2 ( H ) 参照) 。 上記の回折光学素子 1の製造方法では、 複層型の回折光学素子の製造方 法でありながら、 全工程の中で回折格子溝を形成する工程は、 第 1の回折 光学素子 (第 1の紫外線硬化樹脂) 1 0に回折格子溝 3 0を形成する工程 のみであり、 予め形成しておかなければならない金型は一つ (ここでは第 1の金型 5 0 ) でよい。 このため、 本発明の回折光学素子の製造方法によ れば、 製造工程が簡単であるとともに低コス トで、 密着複層型の回折光学 素子を製造することができる。
なお、本発明の回折光学素子は、上記実施例に限定されるものではない。 例えば、 本回折光学素子は、 回折格子溝を上記実施例のように平面上では なく、 曲面に形成してもよい。 ここで、 図 3 ( A ) は、 回折格子溝 3 0が
凸の形状を有する曲面上に形成された例を、 図 3 (B) は回折格子溝 30 が凹の形状を有する曲面上に形成された例を示している。
また、 本発明の回折光学素子は、 特定次数の回折光が一点に集まるよう にしてレンズのように用いることができ、 この場合、 本回折光学素子は、 全体が円盤状に作られる。 また、 本回折光学素子の断面形状は、 図 1に示 すように平行平板状であっても、 図 3 (A) , (B) に示すようにレンズ 状であってもよい。 第 1実施例
本実施例では、 第 1の紫外線硬化樹脂 10において屈折率 nd 1を
1.55349、 分散値ソ d lを 50.41 (図 7中の点 ( 1) ) とし、 第 2の紫外線 硬化樹脂 20において屈折率 n d 2を 1.52409、 分散値レ d 2を 36.32 (図 7中の点 (2) ) とし、 回折格子溝 30の高さ hを 20 zmとし、 第 1の紫 外線硬化樹脂の中心厚さ t 1を lOO zmとし、第 2の紫外線硬化樹脂の中心 厚さ t 2を 200〃 mとし、基板の曲率半径 Rを + 12mmとした。以下の表 1 に、 第 1実施例における前述の条件式 ( 1) 〜 (8) 及び ( 19) に対応 する値を示す。
(表 1)
( 1 ) nd 1 =1.55349
( 2 ) V d 1 =50.41 (なお、 nF 1—nC 1 =0.01098)
(3) nd 2 =1.52409
(4) v d 2 =36.32 (なお、 n F 2— n C 2 =0.01443)
( 5 ) (nd l -nd 2) / (vd l -vd 2) =0.0020866
( 6 ) h =20 zm
( 7 ) t 1 /t 2 =2.0
( 8) 1/R=0.08333
( 1 9) A nd/Δ (nF-nC) =-8.52174 このように本実施例では、 上記条件式 ( 1 ) 〜 ( 8) 及び ( 1 9) が全 て満たされていることが分かる。 図 4に示す曲線 A及び Bは、 各々回折格 子溝の高さを d線(波長人 =587.562nm)で回折効率が 1 00 %となるよ うに設定した場合であり、 曲線 Aは回折格子に対する入射角度が 0° で入 射した場合の回折効率、曲線 Bは回折格子に対する入射角度が 4.58 6。 で入射した場合の回折効率を示している。 このような構成である本実施例 の回折光学素子は、 g線から C線までの波長領域で、 0. 97以上の高い 回折効率 (光強度) を得ることができた。 第 2実施例
本実施例では、 第 1の紫外線硬化樹脂 1 0において屈折率 nd 1を 1.55349s 分散値レ d 1を 50.41 (図 7中の点 ( 1 ) ) とし、 第 2の紫外線 硬化樹脂 20において屈折率 nd 2を 1.52987、 分散値レ d 2を 35.44 (図 7中の点 (3 ) ) とし、 回折格子溝 30の高さ hを 25 /Π1とし、 第 1の紫 外線硬化樹脂の中心厚さ t 1を 200 111とし、第 2の紫外線硬化樹脂の中心 厚さ t 2を 100 zmとし、 基板の曲率半径 Rを +300mmとした。 以下の表 2に、 第 2実施例における前述の条件式 ( 1 ) 〜 ( 8) 及び ( 1 9 ) に対 応する値を示す。
(表 2)
( 1 ) nd 1 =1.55349
( 2) V d 1 =50.41 (なお、 n F 1— n C 1 =0.01098)
( 3) nd 2 = 1.52987
(4) ソ d 2 =35.44 (なお、 n F 2— n C 2 =0.01495)
( 5) (nd l— nd 2) / ( ソ d l—ソ d 2) =0.0015778
( 6) h =25〃m
(7) t 1/t 2 =0.5
( 8) 1/R = 0.003333
( 1 9 ) A d/A (nF-nC) =-5.94962 このように本実施例では、 上記条件式 ( 1 ) 〜 ( 8 ) 及び ( 1 9) が全 て満たされていることが分かる。 図 5に示す曲線 A及び Bは、 各々回折格 子溝の高さを d線(波長え =587.562nm)で回折効率が 1 00 %となるよ うに設定した場合であり、 曲線 Aは回折格子に対する入射角度が 0 ° で入 射した場合の回折効率、曲線 Bは回折格子に対する入射角度が 4.58 6 ° で入射した場合の回折効率を示している。 このような構成である本実施例 の回折光学素子は、 g線から C線までの波長領域で、 0. 9 5以上の高い 回折効率 (光強度) を得ることができた。