JPWO2020110978A1 - ポリアミド樹脂組成物、及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

(A)ポリカプラミド樹脂を主成分とする結晶性ポリアミド樹脂、(B)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂、(C)無機強化材、(D)カーボンブラックのマスターバッチ、及び(E)銅化合物を含有するポリアミド樹脂組成物であって、(C)無機強化材として、(C−1)ガラス繊維、(C−2)針状ワラストナイト、及び(C−3)板状晶の無機強化材を含み、ポリアミド樹脂組成物のメルトマスフローレイト及び降温結晶化温度(TC2)が特定の範囲内にあり、各成分の質量比、含有量が特定の条件を満たすポリアミド樹脂組成物であり、成形時の金型温度が100℃以下でより高いレベルの外観の成形品が得られるのみならず、成形品表面の外観の耐侯性が優れたポリアミド樹脂組成物である。

Description

本発明は、ポリカプラミド樹脂、半芳香族非晶性ポリアミド樹脂、無機強化材、カーボンブラック、及び銅化合物を主成分として含むポリアミド樹脂組成物に関する。詳しくは、本発明のポリアミド樹脂組成物は、剛性・強度に優れ、かつ成形品外観(鏡面表面光沢、シボ面均一表面性)に優れ、さらには耐侯性にも優れるポリアミド樹脂組成物に関する。特に、自動車外装部品やドアミラー部品に適するものである。
一般にポリアミド樹脂は、機械的特性、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性に優れ、自動車部品、電機部品、電子部品、家庭雑貨等に広く使用されている。なかでもガラス繊維を代表とする無機強化材を添加したポリアミド樹脂は、剛性、強度、耐熱性が大幅に向上し、特に、剛性に関しては無機強化材の添加量に比例して向上することが知られている。
しかしながら、ポリアミド樹脂に剛性、強度向上を目的にガラス繊維等の強化材を50〜70質量%と大量に添加すれば、成形品外観(鏡面表面光沢、シボ面均一表面性等)が極度に低下し、商品価値が著しく損なわれる。そこで成形品外観を向上させる方法として、結晶性ポリアミド樹脂に非晶性樹脂を添加することが提案されている(特許文献1〜4)。しかし、これらの方法では良好な鏡面表面光沢、シボ面均一表面光沢は得られない。また、半芳香族ポリアミド樹脂(MXD−6)にナイロン66、ガラス繊維、マイカを高充填し、強度・剛性を上げる方法(例えば、特許文献5)が知られているが、この場合、成形時の金型温度を135℃もの高温に上げる必要があったり、高温に上げた場合でも良好な成形品外観が得られない場合もあった。
そこで、ガラス繊維等の無機強化材を50質量%以上と大量に添加しても、成形品の外観が低下しないようなポリアミド樹脂組成物が提案されている(特許文献6)。この特許文献6に開示されている樹脂組成物によれば、成形時の金型温度が100℃以下でも概ね良好な成形品外観が得られるようになった。しかし、次の点で改善の余地があることが判明した。(1)より高いレベルの外観が求められ、それに応える必要がある。(2)時として外観不良が発生する場合がある。(3)成形品の長期使用時に、変色する、成形品表面に強化材の浮きや露出が認められるようになる、成形品のシボが不明瞭になるなど、成形品表面外観の耐侯性の点で課題がある。
特開平2―140265号公報 特開平3−9952号公報 特開平3−269056号公報 特開平4−202358号公報 特開平1−263151号公報 特開2000−154316号公報
そこで、本発明は、成形時の金型温度が100℃以下でより高いレベルの外観の成形品が得られるのみならず、成形品表面の外観の耐侯性が優れたポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とするものである。
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、特許文献6に記載されたポリアミド樹脂組成物の組成を詳細に見直し、さらに、カーボンブラック及び銅化合物を特定量配合することで、より高いレベルの外観を有し、さらに表面外観の耐侯性が優れた成形品とすることができるポリアミド樹脂組成物を見出し、本発明を完成するに到った。
即ち本発明は、以下の通りである。
[1] (A)ポリカプラミド樹脂を主成分とする結晶性ポリアミド樹脂、(B)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂、(C)無機強化材、(D)カーボンブラックのマスターバッチ、及び(E)銅化合物を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
(C)無機強化材として、(C−1)ガラス繊維、(C−2)針状ワラストナイト、及び(C−3)板状晶の無機強化材を含み、
ポリアミド樹脂組成物の水分率0.05%以下でのメルトマスフローレイト(MFR)が4.0g/10分以上、13.0g/10分未満であり、
ポリアミド樹脂組成物の示差走査熱量計(DSC)で測定した降温結晶化温度(TC2)が、180℃以上、185℃以下であり、
(A)と(B)との質量比が0.5<(B)/(A)≦0.8を満足し、
(A)、(B)、(C)、及び(D)の合計を100質量部としたとき、(E)の含有量が、0.001〜0.1質量部であり、各成分の含有量が下記式を満足することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
30質量部≦(A)+(B)+(D)≦60質量部
13質量部≦(B)≦23質量部
1質量部≦(D)≦5質量部
20質量部≦(C−1)≦40質量部
8質量部≦(C−2)≦25質量部
8質量部≦(C−3)≦25質量部
40質量部≦(C−1)+(C−2)+(C−3)≦70質量部
[2] (A)ポリカプラミド樹脂を主成分とする結晶性ポリアミド樹脂、(B)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂、(D)カーボンブラックのマスターバッチ、及び(E)銅化合物の分散液とを予め混合して押出機のホッパー部に投入し、(C)無機強化材をサイドフィード方式によって投入することを特徴とする[1]に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形時の金型温度が100℃以下でより高いレベルの良好な外観の成形品が得られるのみならず、得られた成形品表面のシボなどの外観は耐侯性が優れる。
以下、本発明を具体的に説明する。まず、本発明で用いる各成分について説明する。
本発明において、ポリアミド樹脂の結晶性/非晶性は、ポリアミド樹脂をJIS K 7121:2012に準じて昇温速度20℃/分でDSC測定した場合に、明確な融点ピークを示すものを結晶性、示さないものを非晶性とする。
本発明のポリアミド樹脂組成物中の各成分の含有量(配合量)は、特に但し書きをしない限り、(A)ポリカプラミド樹脂を主成分とする結晶性ポリアミド樹脂、(B)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂、(C)無機強化材、及び(D)カーボンブラックのマスターバッチの合計を100質量部としたときの量で表している。
本発明における(A)成分は、ポリカプラミド樹脂を主成分とする結晶性ポリアミド樹脂である。ポリカプラミド樹脂は、通常ナイロン6と呼ばれ、ε−カプロラクタムの重合によって得られる。本発明におけるポリカプラミド樹脂の相対粘度(96%硫酸法)は、1.7〜2.2の範囲が好ましい。特に好ましいのは1.9〜2.1の範囲である。なお、相対粘度がこの範囲にあることで、樹脂としてのタフネス性や流動性(流動性により、目的とする成形品外観が得られる)が満足できるものとなる。しかし、ポリカプラミド樹脂の相対粘度を規制するより、ポリアミド樹脂組成物のメルトマスフローレイトを規制する方が現実的である。
(A)成分中の、ポリカプラミド樹脂の含有量は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。ポリカプラミド樹脂が100質量%であっても良い。(A)成分として、ポリカプラミド樹脂以外に含まれても良い結晶性ポリアミド樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミドM−5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T(H))、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリラウリルラクタム(ポリアミド12)、ポリ−11−アミノウンデカン酸(ポリアミド11)及びこれらの構成単位の共重合体などが挙げられる。
本発明における(B)成分は、ジアミン成分又はジカルボン酸成分のいずれかに芳香族成分を含む半芳香族非晶性ポリアミド樹脂である。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられ、ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、アミノエチルピペラジン、ビスアミノメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中で、テレフタル酸とイソフタル酸とアジピン酸を原料とするポリアミド6T/6Iが好ましい。
半芳香族非晶性ポリアミド樹脂の相対粘度(96%硫酸法)は、特に限定されるものではないが、好ましい範囲は1.8〜2.4である。
(A)成分と(B)成分、並びに後記で説明する(D)カーボンブラックマスターバッチの合計含有量は、30〜60質量部であり、好ましくは35〜55質量部である。(B)成分の含有量は、13〜23質量部であり、好ましくは13〜22質量部である。(B)成分の含有量が13質量部よりも少ないと、より高いレベルの良好な成形品外観が得られず、反対に(B)成分の含有量が23質量部よりも多いと、成形品の結晶固化が悪くなり、成形時に離型不良が生じたり熱間剛性が低下したりする。(A)成分の含有量は、(B)成分及び(D)成分の含有量を考慮して決めれば特に限定されないが、20〜34質量部が好ましく、より好ましくは21〜32質量部である。
また、本発明においては、(A)成分と(B)成分との質量比は、下記式を満足することが必要である。
0.5<(B)/(A)≦0.8
本発明において、(B)/(A)がこの範囲にあることで、より高いレベルの良好な外観の成形品が得られ、(B)/(A)は、0.52以上、0.75以下が好ましく、0.55以上、0.75以下がより好ましい。
本発明における(C)成分は無機強化材であり、(C−1)ガラス繊維、(C−2)針状ワラストナイト、及び(C−3)板状晶の無機強化材を含む。(C−3)板状晶の無機強化材としては、マイカ、タルク、未焼成クレー等が挙げられるが、中でもマイカ、タルクが好ましく、マイカがより好ましい。(C)成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、ウィスカー、カーボン繊維、セラミック繊維などの繊維状無機強化材、シリカ、アルミナ、カオリン、石英、粉末状ガラス(ミルドファイバー)、グラファイトなどの粉末状の無機強化材を含んでも良い。これらの無機強化材は、アミノシラン処理等、表面処理されているものを使用してもよい。
前記(C−1)ガラス繊維としては、断面の平均直径が4〜20μm程度、カット長が3〜6mm程度の一般的なものを使用することができる。成形品中のガラス繊維の平均繊維長は、加工工程(コンパウンド工程・成形工程)で短くなり、150〜300μm程度になる。(C−1)ガラス繊維の含有量としては、20〜40質量部であり、好ましくは25〜35質量部である。20質量部未満であれば、強度、剛性が低く、反対に40質量部を超えると、良好な成形品外観が得られ難いので好ましくない。
前記(C−2)針状ワラストナイトとは、断面の平均直径が3〜40μm程度、平均繊維長が20〜180μm程度のワラストナイトである。(C−2)針状ワラストナイトの含有量は、8〜25質量部であり、好ましくは10〜25質量部であり、より好ましくは13〜20質量部である。8質量部未満であれば、強度、剛性が低く、反対に25質量部を超えると、良好な成形品外観が得られ難いので好ましくない。
前記(C−3)板状晶の無機強化材とは、タルク、マイカ、未焼成クレー等が挙げられ、その形状は魚のウロコのような形態を示す。その含有量は、8〜25質量部であり、好ましくは10〜25質量部であり、より好ましくは13〜20質量部である。8質量部未満であれば、強度、剛性が低く、反対に25質量部を超えると、良好な成形品外観が得られ難いので好ましくない。なお、(C−3)の板状晶の無機強化材のなかでも、強度、剛性の面より特にマイカが優れている。
(C)成分の無機強化材の含有量は、40〜70質量部であり、好ましくは45〜70質量部であり、より好ましくは55〜65質量部である。40質量部未満の場合は、強度、剛性が低くなり、反対に70質量部より上になれば、良好な成形品外観は得られず、また強度に関しても低下する。(C)成分として、(C−1)が20〜40質量部、(C−2)が8〜25質量部、(C−3)が8〜25質量部の範囲内で含有することにより、強度剛性が優れており、しかも成形品表面外観(鏡面表面光沢シボ面均一表面性)が優れる。
(C)成分は、いずれもポリアミド樹脂組成物中で補強効果を発揮するが、その中でも(C−1)ガラス繊維が、一番補強効果が高いが、成形品のソリ変形も大きい。(C−2)針状ワラストナイト、(C−3)板状晶の無機強化材は、ガラス繊維ほどの補強効果は無いものの、アスペクト比がガラス繊維よりも小さいため、ソリ変形が小さくなる利点がある。また、針状ワラストナイトは成形後のヒケ防止にも寄与でき、これらを適切に組み合わせることで、強化材が高濃度に配合されていても、成形後に大きな変形を生み出さない樹脂組成物を作製できる。
通常、ガラス繊維、ワラストナイトなどを高濃度に配合した強化ポリアミド樹脂組成物は、耐候性に劣り強化材の露出が発生するが、後述のカーボンブラックマスターバッチと銅化合物と組み合わせることにより耐候性を制御でき、強化材の露出を防ぐことが可能となる。
本発明における(D)成分としては、カーボンブラックマスターバッチであり、ベース樹脂としてポリアミド樹脂と相溶性があるLD−PE(低密度ポリエチレン)やAS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)などを用い、マスターバッチ中にカーボンブラックを30〜60質量%含有させたものが好ましい。これらのマスターバッチを用いることにより、カーボンブラックの分散性が優れ、作業環境性に優れる効果があるのみならず、加えてガラス繊維や他の無機強化材の浮き、露出などの抑制効果が高く、成形品外観の耐久性向上効果が発現される。カーボンブラックマスターバッチとしての含有量は、1〜5質量部であり、2〜4質量部が好ましい。カーボンブラックとしての含有量は、0.5〜3.0質量部の範囲が好ましく、1〜2質量部がより好ましい。カーボンブラックの含有量が3.0質量部よりも多くなると、機械的物性が低下する恐れがある。
本発明における(E)成分としては、銅化合物であり、銅を含有する化合物であれば特に限定されないが、ハロゲン化銅(ヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅など)、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅及びステアリン酸銅、並びにエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤が銅に配位した銅錯塩が例として挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記で列挙した銅化合物の中でも、好ましくはハロゲン化銅であり、より好ましくはヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅からなる群より選択される1種以上であり、さらに好ましくはヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅よりなる群より選択される1種以上であり、特に好ましくは臭化第二銅である。上記銅化合物を用いることにより、耐久性に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることが可能となる。
(E)成分の含有量としては、0.001〜0.1質量部であり、好ましくは、0.01〜0.05質量部である。0.1質量部以上添加すると、金属腐食性や変色の恐れが高くなる。
(E)成分の含有量は少量であるので、室温で液状の液体成分に溶解または分散させて配合するか、マスターバッチで配合することが好ましい。液体成分としては、樹脂ペレットに付着し、異種樹脂ペレットの均一な混在状態が同種の樹脂ペレット同士で集まってくる、すなわち、偏析してくるのを抑制できる効果を発揮するものであれば特に限定されないが、水が最も簡便である。
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物は、水分率が0.05%(0.05質量%)以下でのメルトマスフローレイトが4.0g/10分以上、13.0g/10分未満、かつ示差走査熱量計(DSC)で測定した降温結晶化温度(TC2)が、180℃≦(TC2)≦185℃であることが必要である。
メルトマスフローレイト(MFR)は、JIS K 7210−1:2014に準じて275℃、2160g荷重で測定した値である。また、降温結晶化温度(TC2)の測定は、示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素気流下で20℃/分の昇温速度にて300℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、10℃/分の速度にて100℃まで降温させることにより測定した際に得られるピーク温度である。
メルトマスフローレイトが4.0g/10分未満の場合、良好な成形品外観が得られない。メルトマスフローレイトが4.0g/10分以上のポリアミド樹脂組成物を得るには、通常よく用いられている相対粘度2.3以上の結晶性ポリアミド樹脂を用いると、前記メルトマスフローレイトの範囲に達しない(4.0g/10分未満)ことがあるため、超低粘度(相対粘度1.7〜2.2)の結晶性ポリアミド樹脂を使用するか、コンパウンド加工時にポリアミド樹脂の分子鎖切断剤を添加する等の処方を採用することが良い。前記ポリアミド樹脂の分子鎖切断剤(減粘剤ともいう)としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が有効であり、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。分子鎖切断剤を添加(含有)する場合、その添加量は本発明の(A)、(B)、(C)及び(D)成分の合計100質量部に対し0.1〜3質量部前後で、本発明組成物のメルトマスフローレイトが4.0g/10分以上になる。ただし、コンパウンド加工条件により分子鎖切断剤の効果は変化し、当然のことながら加工温度が高い程、またコンパウンド時のポリマー滞留時間が長い程効果は優れる。通常、コンパウンド加工温度は240〜300℃の範囲内およびコンパウンド時のポリマー滞留時間は15〜60秒以内が一般的である。
樹脂の溶融粘度が低い場合、射出成形時にドローダウンや計量困難になる場合があり、メルトマスフローレイトが13.0g/10分以上の場合、射出成形時の成形条件幅が狭くなる恐れがある。
さらに、降温結晶化温度(TC2)が、180℃≦(TC2)≦185℃を満足しない場合は、ポリアミド樹脂組成物の結晶化速度に起因して、より高いレベルの良好な成形品外観が得られない。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料あるいは他種ポリマーなども添加することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物は、前記(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)成分の合計で、90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、本発明における各成分の配合量を上記の所定の範囲に正確にコントロールできる溶融混練押出法であれば特に限定されるものではないが、単軸押出機、二軸押出機を用いることが好ましい。
配合する樹脂ペレットの形状、見かけ比重、摩擦係数などの異なり度が大きい樹脂ペレットを、押出機のホッパー部から投入する場合は、以下の方法を採用することが好ましい。
すなわち、(A)ポリカプラミド樹脂を主成分とする結晶性ポリアミド樹脂、(B)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂、(D)カーボンブラックのマスターバッチおよび(E)銅化合物の分散液とを予め混合して押出機のホッパー部に投入し、(C)無機強化材として(C−1)ガラス繊維、(C−2)針状ワラストナイト、(C−3)板状晶の無機強化材をサイドフィード方式によって投入する製造方法である。
(E)成分を含有する液体成分は、非常に弱い付着力で、(A)成分と(B)成分と(D)成分とが徐々に分離偏析しようとするのを抑制することができる。このため、各成分のペレットの形状、見かけ比重、摩擦係数などの異なり度が大きい場合ほど、本発明の効果が発揮される。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。
また、以下の実施例、比較例において示した各特性、物性値は、下記の試験方法で測定した。
1)メルトマスフローレイト(MFR):樹脂組成物ペレットを熱風乾燥機により水分率0.05%以下まで乾燥し、JIS K 7210−1:2014に準じて275℃、2160g荷重で測定した。
2)降温結晶化温度(TC2):DSC測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を使用した。窒素気流下で20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、10℃/分の速度にて100℃まで降温させた際の、降温時の発熱ピークのピークトップをTC2とした。DSCの測定試料は、下記評価の100mm×100mm×3mmの平板の中央部付近から切り出した。
3)曲げ強度:JIS K 7171:2016に準じて測定した。
4)曲げ弾性率:JIS K 7171:2016に準じて測定した。
5)鏡面光沢度:鏡面仕上げの100mm×100mm×3mm(厚み)の金型を使用し、樹脂温度280℃、金型温度80℃で成形品を作成し、JIS Z−8714に準じて入射角60度の光沢度を測定した。(数値が高い程、光沢度が良い)
光沢度の測定結果を、「光沢度95以上:○、光沢度95未満〜90以上:△、光沢度90未満:×」として表記した。
6)耐候試験後の色差ΔE:射出成形機(東芝機械株式会社製、IS80)でシリンダー温度280℃、金型温度90℃にて成形したシボ平板(100mm×100mm×2mm)について、JIS K−7350−2に準拠し、キセノンウェザーメーター(スガ試験機株式会社製XL75)を用い、耐候試験(ブラックパネル温度:63±2℃、相対湿度:50±5%、照射方法:120分中18分降雨(水噴射)、照射時間:1250時間、照射度:波長300nm〜400nm 60W/m・S、光学フィルター:(内)石英、(外)ボロシリケイト♯275)を行った。耐候試験前後のシボ平板について、東京電色社製分光測色計TC−1500SXを用いてL、a、b値を測定し、色差ΔEを算出した。
7)耐候試験後の成形品表面外観(強化材露出の有無):上記6)の耐候試験前後のシボ平板について、目視にて、下記の指標で判断した。
○:強化材の露出が認められない。×:強化材の露出が認められる。
8)耐候試験後の成形品表面のシボ状態:上記6)の耐候試験前後のシボ平板について、目視にて、下記の指標で判断した。
○:シボの模様がはっきり見える。×:シボの模様が確認されない。
実施例、比較例で用いた原料は、以下の通りである。
(A)結晶性ポリアミド樹脂:ナイロン6、M2000、MEIDA社製、相対粘度2.0
(B)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂:ヘキサメチレンテレフタレート/ヘキサメチレンイソフタレート(6T/6I樹脂)、G21、EMS社製、相対粘度2.1
(C−1)ガラス繊維:ECS03T−275H、日本電気硝子社製、繊維径10μm、カット長3.0mm
(C−2)針状ワラストナイト:NYGLOS−8 NYCO社製、平均繊維径8μm、平均繊維長136μm
(C−3)板状晶の無機強化材:マイカ、S−325、レプコ社製、平均粒子径18μm、平均アスペクト比20
(D)カーボンブラックのマスターバッチ:ABF−T−9801、レジノカラー社製、ベース樹脂はAS樹脂、カーボンブラックを45質量%含有
(E)銅化合物:臭化第二銅
実施例1〜3、比較例1〜5
銅化合物は臭化第二銅を水溶液にして用いた。表1に示す組成になるように、無機強化材以外の各原料を予め混合して二軸押出機のホッパー部から投入し、各強化材は二軸押出機のサイドフィーダーから投入した。二軸押出機のシリンダー温度280℃、スクリュー回転数180rpmにてコンパウンドを実施し、ペレットを作成した。得られたペレットは、熱風乾燥機にて水分率0.05%以下になるまで乾燥後、種々の特性を評価した。評価結果を表1に示す。
Figure 2020110978
表1の結果より、実施例1〜3は、結晶化温度を制御することにより、鏡面光沢度が非常に高く、より高いレベルの外観の成形品が得られ、銅化合物とカーボンブラックを所定量組み合わせることにより、耐侯試験後の色差、強化材の露出、シボ状態においても非常に優れており、成形品表面の外観の耐久性、耐侯性が優れていることが分かる。一方、比較例1は、鏡面光沢度は満足できるレベルであるが、耐侯試験後の評価が悪い。比較例2〜5は、鏡面光沢度は不十分であり、特に耐侯試験後のシボ状態が悪い。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、外観の良さと剛性の高さのバランスに優れ、自動車用途、電機・電子部品用途等エンジニアリングプラスチック用途に好適に使用することができる。

Claims (2)

  1. (A)ポリカプラミド樹脂を主成分とする結晶性ポリアミド樹脂、(B)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂、(C)無機強化材、(D)カーボンブラックのマスターバッチ、及び(E)銅化合物を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
    (C)無機強化材として、(C−1)ガラス繊維、(C−2)針状ワラストナイト、及び(C−3)板状晶の無機強化材を含み、
    ポリアミド樹脂組成物の水分率0.05%以下でのメルトマスフローレイト(MFR)が4.0g/10分以上、13.0g/10分未満であり、
    ポリアミド樹脂組成物の示差走査熱量計(DSC)で測定した降温結晶化温度(TC2)が、180℃以上、185℃以下であり、
    (A)と(B)との質量比が0.5<(B)/(A)≦0.8を満足し、
    (A)、(B)、(C)、及び(D)の合計を100質量部としたとき、(E)の含有量が、0.001〜0.1質量部であり、各成分の含有量が下記式を満足することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
    30質量部≦(A)+(B)+(D)≦60質量部
    13質量部≦(B)≦23質量部
    1質量部≦(D)≦5質量部
    20質量部≦(C−1)≦40質量部
    8質量部≦(C−2)≦25質量部
    8質量部≦(C−3)≦25質量部
    40質量部≦(C−1)+(C−2)+(C−3)≦70質量部
  2. (A)ポリカプラミド樹脂を主成分とする結晶性ポリアミド樹脂、(B)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂、(D)カーボンブラックのマスターバッチ、及び(E)銅化合物の分散液とを予め混合して押出機のホッパー部に投入し、(C)無機強化材をサイドフィード方式によって投入することを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
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