JPWO2019244819A1 - ポリビニルアルコールフィルム、延伸フィルム、偏光フィルム、及びポリビニルアルコールフィルムの製造方法 - Google Patents

ポリビニルアルコールフィルム、延伸フィルム、偏光フィルム、及びポリビニルアルコールフィルムの製造方法 Download PDF

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Abstract

延伸加工性に優れたPVAフィルム、当該PVAフィルムから得られる延伸フィルム、及び成形性に優れた偏光フィルムを提供する。本発明のポリビニルアルコールフィルムは、ポリビニルアルコール(A)、及びポリイソプレンゴム粒子(B)を含み、前記ポリイソプレンゴム粒子(B)の含有量が前記ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して35質量部より多く60質量部以下である、ポリビニルアルコールフィルムである。

Description

本発明は、ポリビニルアルコールフィルム、延伸フィルム、偏光フィルム、及びポリビニルアルコールフィルムの製造方法に関する。
ポリビニルアルコールフィルム(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある。)は、包装用フィルム、水溶性フィルム、農業用フィルム、離型フィルム、光学フィルム等広範な用途分野に使用されている。
PVAフィルムは、可塑剤を含まない状態では他のプラスチックフィルムに比べ剛直であり、衝撃強度等の機械的物性や、延伸などの二次加工時の工程通過性などが問題になることがある。それらの問題を防止するために、通常、PVAフィルムに可塑剤を添加して柔軟性を改善したものが用いられることが多い。特に偏光フィルムの原料としてPVAフィルムが用いられる場合には、延伸加工を施す際に高い延伸性を求められることから、可塑剤の添加により延伸加工性が改善されたものが用いられる。しかし、このような可塑剤を含有するPVAフィルムは、経時的に可塑剤が減少し、延伸加工性が低下するという問題がある。
この問題に対して、可塑剤の添加以外の手法によって良好な延伸加工性を付与する手法として、PVA繊維の場合には、紡糸原液にエチレン酢酸ビニル共重合体の乳化分散液を添加する手法が提案されている(特許文献1参照)。
特公昭47−42050号公報
一方、PVAフィルムの用途として、様々な延伸処理を施したPVAフィルムを利用するものがある。そのような用途では、PVAフィルムに高い延伸性が求められると共に、加工後の変形等の問題の原因となる残留応力を低減させるため、引張応力が低いことが重要となる。
しかしながら、上記のような従来の手法では、PVAフィルムに高い延伸性を付与しつつ、その引張応力を低減させることが困難であり、PVAフィルムの延伸加工性は十分でない。また、PVAフィルムの引張応力は、PVAフィルムの変形速度が大きくなるほど大きくなる傾向にあるため、変形速度が大きくても引張応力の小さいPVAフィルムが求められている。
また、PVAフィルムを延伸加工して得られる偏光フィルムは、光学用途、主に液晶ディスプレイ用の偏光板やサングラスに用いられている。しかしながら、従来の偏光フィルムでは、近年の折り畳み式ディスプレイやデザイン性の高いサングラスなど、偏光フィルムに更なる変形を加える用途において、偏光フィルムが延伸方向に平行に裂けるなどの問題を生じることが判ってきた。この問題は、偏光フィルムの変形速度が大きいほど、より顕著となる。そのため、変形速度が大きい条件下で変形されても裂けなどの問題を生じない、成形性に優れた偏光フィルムが求められている。
そこで、本発明の第一の目的は、延伸加工性に優れたPVAフィルム及び当該PVAフィルムから得られる延伸フィルムを提供することにある。また、本発明の第二の目的は、成形性に優れた偏光フィルムを提供することにある。
本発明によれば、上記目的は、
[1]PVA(A)、及びポリイソプレンゴム粒子(B)を含み、前記ポリイソプレンゴム粒子(B)の含有量が前記PVA(A)100質量部に対して35質量部より多く60質量部以下である、PVAフィルム;
[2]PVA(A)の重合度が1,000以上、10,000以下であり、ケン化度が95モル%以上である、[1]に記載のPVAフィルム;
[3]ポリイソプレンゴム粒子(B)を構成するポリイソプレンゴムの重量平均分子量が5,000以上80,000以下である、[1]又は[2]に記載のPVAフィルム;
[4]厚みが1μm以上60μm以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載のPVAフィルム;
[5]光学フィルム用の原反フィルムである、[1]〜[4]のいずれかに記載のPVAフィルム;
[6][1]〜[5]のいずれかに記載のPVAフィルムから得られる、延伸フィルム;
[7][1]〜[6]のいずれかに記載のPVAフィルム又は延伸フィルムから得られる、偏光フィルム;
[8]ポリビニルアルコール(A)と、ポリイソプレンゴム粒子(B)を含む分散液とを混合した製膜原液を用いて製膜する工程を備え、上記製膜原液における上記ポリイソプレンゴム粒子(B)の含有量が、上記ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して35質量部より多く60質量部以下であるポリビニルアルコールフィルムの製造方法;
を提供することにより、達成される。
本発明によれば、延伸加工性に優れたPVAフィルム及び当該PVAフィルムから得られる延伸フィルムが提供される。また、当該PVAフィルム又は当該延伸フィルムを染色加工等することで、成形性に優れた偏光フィルムが提供される。
以下、本発明のPVAフィルム、その製造方法、延伸フィルム、及び偏光フィルムの実施形態について詳細に説明する。
<PVAフィルム>
本発明の一実施形態にかかるPVAフィルムは、PVA(A)、及びポリイソプレンゴム粒子(B)を含む。当該PVAフィルムは、通常、延伸加工がされていないフィルム(無延伸フィルム)である。後に詳述するように、当該PVAフィルムを延伸加工することで、延伸フィルムが得られる。また、当該PVAフィルム又は当該延伸フィルムを染色加工等することで偏光フィルムが得られる。
(PVA)
PVA(ポリビニルアルコール)は通常、当該PVAフィルムの主成分となる。PVAは、ビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)を主の構造単位として有する重合体である。なお、主の構造単位とは、全構造単位に占める割合が最も多い構造単位をいい、全構造単位に占める割合が50モル%以上であることが好ましい(以下、「主の構造単位」について同様。)PVAは、ビニルアルコール単位の他、ビニルエステル単位やその他の単位を有していてもよい。
PVAとしては、ビニルエステルの1種又は2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。ビニルエステルの中でも、製造の容易性、入手の容易性、コスト等の点から、分子中にビニルオキシカルボニル基(HC=CH−O−CO−)を有する化合物が好ましく、酢酸ビニルがより好ましい。
ポリビニルエステルは、単量体として1種又は2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたポリビニルエステルがより好ましい。本発明の効果を大きく損なわない範囲内であれば、1種又は2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合樹脂であってもよい。
共重合可能な他の単量体に由来する構造単位の割合の上限は、共重合樹脂を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、5モル%がさらに好ましく、1モル%がよりさらに好ましい。すなわち、ポリビニルエステルをけん化して得られるPVA中の全構造単位に占めるビニルアルコール単位の割合の下限は、85モル%が好ましく、90モル%がより好ましく、95モル%がさらに好ましく、99モル%がよりさらに好ましい。
ビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸又はその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミド又はその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、又はその塩、エステル若しくは酸無水物;イタコン酸、又はその塩、エステル若しくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸又はその塩などを挙げることができる。
ポリビニルエステルは、上記単量体の1種又は2種以上に由来する構造単位を有することができる。
PVAとしては、好ましくはグラフト共重合がされていないものを使用することができる。但し、本発明の効果を大きく損なわない範囲内であれば、PVAは1種又は2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。グラフト共重合は、ポリビニルエステル及びそれをけん化することにより得られるPVAのうちの少なくとも一方に対して行うことができる。グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体;不飽和スルホン酸又はその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリビニルエステル又はPVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル又はPVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
PVAはそのヒドロキシ基の一部が架橋されていてもよいし、架橋されていなくてもよい。また、PVAはそのヒドロキシ基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよい。
PVAの重合度の下限としては、1,000が好ましく、1,500がより好ましく、1,700がさらに好ましい。PVAの重合度が上記下限以上であることにより、PVAフィルムや得られる延伸フィルムの靭性等を向上させることができる。一方、この重合度の上限としては、10,000が好ましく、8,000がより好ましく、5,000がさらに好ましい。PVAの重合度が上記上限以下であることにより、PVAの製造コストの上昇や製膜時における不良発生を抑制することができる。なお、PVAの重合度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
PVAのけん化度の下限としては、例えば80モル%であってもよいが、95モル%が好ましく、98モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。けん化度が上記下限以上であることで、本発明の効果がより十分に発揮される。なお、水溶性フィルムの用途の場合には、比較的低いけん化度のPVAを用いてもよい。一方、このけん化度の上限は、100モル%であってよい。なお、PVAのけん化度とは、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合(モル%)をいう。けん化度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
当該PVAフィルムにおけるPVAの含有量の下限としては、60質量%が好ましく、62.5質量%がより好ましく、64質量%がさらに好ましい。PVAの含有量を上記下限以上とすることで、PVAの特性が十分に発揮され、また、得られる延伸フィルムの透明性、平滑性を高めることなどができる。一方、この含有量の上限としては、74質量%が好ましく、72質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましい。PVAの含有量を上記上限以下とすることで、延伸加工性を高めることなどができる。
(ポリイソプレンゴム粒子)
ポリイソプレンゴム粒子は、ポリイソプレンゴムの粒子である。ポリイソプレンゴム粒子は、ポリイソプレンゴム以外の成分を含んでいてもよい。すなわち、ポリイソプレンゴムは、主成分としてのポリイソプレンゴムとその他の任意成分から構成されている。但し、ポリイソプレンゴム粒子中のポリイソプレンゴムの含有量の下限は、例えば80質量%であり、90質量%であってもよく、95質量%であってもよい。ポリイソプレンゴム粒子が含んでいてもよい他の成分としては、表面に付着する乳化剤、その他添加剤等が挙げられる。
ポリイソプレンゴム粒子は、通常、基材としてのPVAに対して均一に分散して存在する。当該PVAフィルムは、所定量のポリイソプレンゴム粒子を含有することにより、延伸加工性に優れ、PVAフィルムから延伸フィルムを得ることができる。
ポリイソプレンゴムとは、イソプレンに由来する構造単位を主の構造単位とする重合体であるゴムである。ポリイソプレンゴムを構成する全構造単位に占めるイソプレン単位の含有割合の下限は、例えば50モル%であり、70モル%が好ましく、90モル%がさらに好ましく、95モル%がよりさらに好ましいこともある。ポリイソプレンゴムは、実質的にイソプレンの単独重合体であってもよい。なお、ポリイソプレンには異性体が存在するが、ポリイソプレンゴムは、通常、シス−1,4ポリイソプレンである。ポリイソプレンゴムが共重合体である場合、イソプレン以外の単量体としては、「ビニルエステルと共重合可能な他の単量体」として既述した各単量体、その他ブタジエン等のジエン系化合物、スチレン等を挙げることができる。
ポリイソプレンゴムは、変性体であってもよい。例えば、四塩化錫、四塩化ケイ素、エポキシ基を分子内に有するアルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン等の変性剤を用いることにより変性された、分岐構造又は官能基を有するポリイソプレンゴムであってもよいが、これらに限られたものではない。
ポリイソプレンゴムの重量平均分子量の下限としては、例えば5,000が好ましく、10,000がより好ましく、15,000がさらに好ましい。一方、この重量平均分子量の上限としては、80,000が好ましく、60,000がより好ましく、40,000がさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲のポリイソプレンゴムを用いることで、延伸加工性や、得られる延伸フィルムの諸特性をより改善することができる。
当該PVAフィルムにおけるポリイソプレンゴム粒子の含有量は、PVA100質量部に対して、35質量部より多くであり、40質量部以上が好ましく、45質量部以上がさらに好ましい。ポリイソプレンゴム粒子の含有量を上記下限より多く又は上記下限以上に設定することで、当該PVAフィルムの延伸加工性が向上する。一方、ポリイソプレンゴム粒子の含有量の上限は60質量部であり、50質量部が好ましい。ポリイソプレンゴム粒子の含有量を上記上限以下とすることで、当該PVAフィルムについて良好な表面状態とすることができる。
(ポリイソプレンゴム粒子の製造方法)
ポリイソプレンゴム粒子は、ポリイソプレンゴム粒子の分散液として製造することができる。ポリイソプレンゴム粒子の分散液の製造方法は特に限定されないが、例えばアニオン重合法及び後乳化法等の公知の方法が採用できる。具体的には、例えば、まずポリイソプレンゴムを合成した後、そのポリイソプレンゴムに乳化剤と水を加えて、乳化機などで強撹拌することにより、ポリイソプレンゴム粒子の分散液を得ることができる。このとき、撹拌の強さや撹拌時間などの調整や、乳化剤の選択などにより、ポリイソプレンゴム粒子の平均粒子径を調整することができる。また、公知の乳化重合法により、ポリイソプレンゴム粒子の分散液を製造してもよい。
ポリイソプレンゴムを水に分散させて水中油滴型分散液として用いる場合、機械的方法又は化学的方法により分散液を予め調製し、希釈等により所定の濃度で使用することが好ましい。機械的方法としてはホモジナイザー、ホモミキサー、ディスパーサーミキサー、コロイドミル、パイプラインミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波乳化機等が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて使用できる。化学的方法としては、反転乳化法、D相乳化法、HLB温度乳化法、ゲル乳化法及び液晶乳化法等種々の方法が挙げられ、簡便に粒子径の細かい分散液が得られる観点から反転乳化法が好ましい。また粒子径の細かい分散液を得るためには、ポリイソプレンゴムの粘度を下げる目的で適当な温度(例えば30〜80℃)で加熱しながら上記作業を実施することが好ましい場合もある。分散液調製の際は分散液の安定性向上の観点から、固形分濃度20〜80質量%で調製することが好ましく、30〜70質量%がより好ましい。
ポリイソプレンゴムの重合の際の触媒としては、例えば四ハロゲン化チタン−トリアルキルアルミニウム系、ジエチルアルミニウムクロライド−コバルト系、トリアルキルアルミニウム−三弗化ホウ素−ニッケル系、ジエチルアルミニウムクロライド−ニッケル系等のチーグラー系触媒;トリエチルアルミニウム−有機酸ネオジム−ルイス酸系等のランタノイド系希土類金属触媒、又はS−SBRと同様に有機アルカリ金属化合物等を用いることができる。
ポリイソプレンゴム粒子の製造で使用する乳化剤としては、特に限定されないが、アニオン系、ノニオン系、ノニオン−アニオン系など、一般的なものが挙げられる。
乳化剤の具体例としては、アニオン系乳化剤として、例えばラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、アルケニルコハク酸塩などの脂肪族カルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩;天然ロジンの不均化又は水添物のナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩;ラウリル硫酸塩などの脂肪族硫酸化合物のナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩などが挙げられる。また、ノニオン−アニオン系乳化剤として、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル石鹸、ヘキサデシルフォスフェート、ポリオキシエチレンラウリルエーテルフォスフェート、ポリオキシエチレントリデシルエーテルフォスフェート、ポリオキシエチレンノニルフェニルフォスフェート等のリン酸塩石鹸等のアニオン石鹸等が挙げられる。これら塩の対カチオンとしては、ナトリウム、カリウム又はアンモニウムが挙げられる。
乳化剤の使用量はポリイソプレンゴム100質量部に対して、好ましくは0.5〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部である。乳化剤の使用量が前記上限以下であると、ポリイソプレンゴム粒子の安定性に影響を与えることなく、過剰の乳化剤の使用を抑制できるため、経済的に有利である。また、乳化剤の使用量が前記下限以上であると、ポリイソプレンゴム粒子の粒子径の増大を抑制し、クリーミングや分離現象の発生を抑制することができる。ポリイソプレンゴム粒子の安定性を高める目的で、必要に応じて水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類のようなアルカリ性物質を添加し、pHを調整して使用することもできる。
なお、ポリイソプレンゴム又はポリイソプレンゴム粒子の分散液は、市販のものを用いることもできる。
(可塑剤)
当該PVAフィルムは、可塑剤をさらに含むことができる。当該PVAフィルムが可塑剤を含むことにより、延伸加工性、取扱性、巻品質等の向上を図ることができる。好ましい可塑剤としては、多価アルコールが挙げられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。これらの可塑剤は、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、延伸加工性や巻品質の向上効果の点からグリセリンが好ましい。
当該PVAフィルムにおける可塑剤の含有量の下限としては、PVA100質量部に対して1質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。可塑剤の含有量を上記下限以上とすることで、加工延伸性等がより向上する。一方、この含有量の上限としては、20質量部が好ましく、15質量部がより好ましい。可塑剤の含有量を上記上限以下とすることで、PVAフィルムが柔軟になりすぎたり、表面に可塑剤がブリードアウトしたりして、取扱性が低下するのを抑制することができる。
(他の添加剤等)
当該PVAフィルムには、さらに充填剤、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤、界面活性剤などの他の添加剤を、必要に応じて適宜配合できる。
他の添加剤の中でも、製膜性などの点から界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤を含むことにより、PVAフィルムの厚み斑の発生が抑制されたり、製膜に使用する金属ロールやベルトからのフィルムの剥離が容易になったりする。上記界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点などから、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えばラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型等が好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好ましい。
これらの界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
当該PVAフィルムが界面活性剤を含む場合、その含有量の下限は、PVA100質量部に対して、0.01質量部が好ましく、0.03質量部がより好ましい。界面活性剤の含有量が上記の下限以上であることにより、剥離性、製膜性等がより向上する。一方、この含有量の上限としては、0.5質量部が好ましく、0.3質量部がより好ましい。界面活性剤の含有量が上記上限以下であることにより、界面活性剤がPVAフィルムの表面にブリードアウトして、フィルム同士が密着して取り扱い性が低下することを抑制することができる。
当該PVAフィルムにおけるPVA、ポリイソプレンゴム粒子、可塑剤及び界面活性剤以外の他の添加剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましいことがあり、5質量%がより好ましいことがあり、1質量%がより好ましいことがあり、0.2質量%がよりさらに好ましいことがある。他の添加剤の含有量が上記上限を超える場合、PVAフィルムの加工延伸性や得られる延伸フィルムの透明性等に影響を与える場合がある。
(形状)
当該PVAフィルムの形状に特に制限はないが、生産性良く連続的に製造することができることから、長尺のフィルムであることが好ましい。当該長尺のPVAフィルムの長さは特に制限されず、用途等に応じて適宜設定することができる。例えば、長さを5m以上20,000m以下の範囲内にすることができる。当該PVAフィルムの幅に特に制限はなく、例えば水溶性フィルムの場合には下限を1cmとすることができる。また、各種用途においては近年幅広のPVAフィルムが求められていることから、下限は1mが好ましく、2mがより好ましく、4mがさらに好ましい。当該PVAフィルムの幅の上限に特に制限はないが、例えば7mとすることができる。幅があまりに広すぎると、実用化されている装置でPVAフィルムを製造する場合に、均一に生産することが困難になる傾向がある。
当該PVAフィルムは、単層フィルムであってもよく、多層フィルム(積層体)であってもよい。
当該PVAフィルムの厚み(平均厚み)の上限は特に制限されないが、例えば100μmであり、60μmが好ましく、40μmがより好ましい。一方、この厚みの下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。PVAフィルムの厚みが上記範囲であることで、取扱性、延伸加工性などを高めることができる。なお、厚み(平均厚み)は、任意の5ヶ所で測定した値の平均値とする。以下、厚み(平均厚み)について同様である。
(用途)
当該PVAフィルムは、包装用フィルム、水溶性フィルム、農業用フィルム、離型フィルム、光学フィルム等、従来のPVAフィルムと同様の各種用途に用いることができる。また、当該PVAフィルムは、延伸フィルムの原反フィルムとして好適である。特に当該PVAフィルムは、延伸加工性に優れる延伸フィルムを得ることができるため、光学フィルムの材料となる原反フィルムとして好適である。すなわち、当該PVAフィルムを延伸することにより、好適に光学フィルムを得ることができる。なお、原反フィルムとは、材料として用いられるフィルムをいい、ロール状になっているものに限定されるものではない。
光学フィルムとは、光学装置に用いられる、透光性を有するフィルムをいう。光学装置としては、液晶表示装置、有機ELディスプレイ等の表示装置が代表的なものとして挙げられる。光学フィルムとしては、偏光フィルム、偏光子保護フィルム、色補償フィルム、輝度向上フィルム、視野角拡大フィルム、位相差フィルム等を挙げることができる。その他、当該PVAフィルムは、その良好な透明性とガスバリア性とを活かし、光学フィルムの他の例として有機ELディスプレイ等のガスバリアフィルムとしても用いることができる。
なお、当該PVAフィルムは、上記のように延伸フィルムの原反フィルムとして好適に用いられるが、無延伸で各種用途に用いてもよい。
<PVAフィルムの製造方法>
当該PVAフィルムの製造方法は特に限定されず、製膜後のPVAフィルムの厚み及び幅がより均一になる製造方法を好ましく採用することができる。例えば、PVAフィルムを構成するPVA及びポリイソプレンゴム粒子、並びに必要に応じてさらに可塑剤等の他の成分が液体媒体中に溶解した製膜原液を用いて製膜することにより、得ることができる。また、必要に応じて、PVAを溶融した製膜原液を用いても製造することができる。
すなわち、本発明の一実施形態に係るPVAフィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール(A)と、ポリイソプレンゴム粒子(B)を含む分散液とを混合した製膜原液を用いて製膜する工程を備え、上記製膜原液における上記ポリイソプレンゴム粒子(B)の含有量が、上記ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して35質量部より多く60質量部以下である。
当該製造方法によれば、延伸加工性に優れるPVAフィルムを製造することができる。
製膜原液において、ポリイソプレンゴム粒子は均一に混合されていることが好ましい。なお、ポリイソプレンゴム粒子の分散液を、液体媒体、PVA及びその他の添加剤等と混合することにより、ポリイソプレンゴム粒子が均一に混合された製膜原液を効果的に得ることができる。また、製膜原液が、可塑剤、その他の添加剤等を含有する場合には、それらの成分が均一に混合されていることが好ましい。
上記液体媒体としては、例えば水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができる。これらの液体媒体は、1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。
製膜原液の揮発分率(製膜原液中における、製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによっても異なるが、一般的には、下限として50質量%が好ましく、55質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましい。製膜原液の揮発分率が上記下限以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、製膜原液の調製時のろ過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないPVAフィルムの製造が容易になる。一方、この揮発分率の上限としては、95質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。製膜原液の揮発分率が上記上限以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なPVAフィルムの製造が容易になる。
製膜原液を用いてPVAフィルムを製膜する際の製膜方法としては、従来公知の方法が用いられる。製膜方法としては、基材上へ製膜原液をコートし、基材上にPVAフィルムを製膜する方法であってもよく、直接、単層のPVAフィルムを製膜する方法であってもよい。製膜方法としては、例えばキャスト製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが挙げられ、これらの製膜方法は1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でもキャスト製膜法及び押出製膜法が、厚み及び幅が均一で物性の良好なPVAフィルムが得られることから好ましい。
製膜されたPVAフィルムには必要に応じて熱処理を行うことができる。熱処理温度に特に制限はなく、適宜調整すればよい。熱処理温度は、あまりに高いとPVAフィルムの変色や劣化がみられる。従って、熱処理温度の上限としては、210℃が好ましく、180℃がより好ましく、150℃がさらに好ましい。一方、熱処理温度の下限としては、例えば60℃であり、90℃が好ましい。
熱処理時間に特に制限はなく適宜調整すればよいが、PVAフィルムを効率よく製造する観点から、上限としては、30分が好ましく、15分がより好ましい。一方、この下限としては、例えば10秒が好ましく、1分がより好ましい。
<延伸フィルム>
本発明の一実施形態に係る延伸フィルムは、上述した本発明の一実施形態に係るPVAフィルムを延伸加工して得られる延伸フィルムである。当該延伸フィルムは、通常、PVAが所定方向(延伸方向)に配向している。当該延伸フィルムは、一軸延伸されていてもよく、二軸延伸されていてもよいが、一軸延伸されていることが好ましい。一軸延伸された当該延伸フィルムは、偏光フィルム等の光学フィルムとして好適に用いることができる。当該延伸フィルムは、単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよいが、単層フィルムであることが好ましい。
当該延伸フィルムの厚み(平均厚み)の上限としては、例えば30μmであり、16μmが好ましい。当該延伸フィルムの厚みが上記上限以下であることで、十分な薄型化を図ることができる。一方、この厚みの下限としては、5μmが好ましく、8μmがより好ましい。当該延伸フィルムの厚みが上記下限以上であることで、裂け難くなり、取扱性などを高めることができる。
当該延伸フィルムは、包装用フィルム、水溶性フィルム、農業用フィルム、離型フィルム、光学フィルム等として用いることができるが、光学フィルムとして用いられることが好ましい。
光学フィルムとしては、偏光フィルム、偏光子保護フィルム、色補償フィルム、輝度向上フィルム等を挙げることができるが、これらの中でも偏光フィルムであることが好ましい。
<延伸フィルムの製造方法>
当該延伸フィルムは、上述した当該PVAフィルムを延伸する工程を備える製造方法によって得ることができる。すなわち、当該延伸フィルムの製造工程において、延伸処理以外は任意であり、上述したPVAフィルムを用いること以外は、従来と同様の方法により製造することができる。したがって、当該延伸フィルムの製造工程においては、後述する偏光フィルムの製造工程における延伸処理以外の処理(染色処理、固定処理等)を含まなくてもよい。すなわち、当該製造方法によれば、特殊な工程を経ることなく、延伸フィルムを比較的容易に得ることができる。
当該PVAフィルム又は当該延伸フィルムを染色加工等することで、成形性に優れた偏光フィルムが提供される。
<偏光フィルム>
本発明の一実施形態に係る偏光フィルムは、上述した本発明の一実施形態に係るPVAフィルム又は延伸フィルムを染色加工等することで得られる偏光フィルムである。当該偏光フィルムは、当該PVAフィルム又は当該延伸フィルムに、二色性色素やホウ酸が吸着している。当該偏光フィルムは、所定量のポリイソプレンゴム粒子を含有することにより、変形による裂けなどの問題が生じ難いため、折り畳み式のディスプレイやデザイン性の高いサングラスに好適である。
この偏光フィルムは、その両面又は片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用することもできる。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルム等が使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤や紫外線硬化型接着剤などを挙げることができ、PVA系接着剤が好ましい。
上記のようにして得られた偏光板は、さらに位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等の光学フィルムが貼り合わせられていてもよい。なお、上記視野角向上フィルム等として、本発明の一実施形態に係る延伸フィルムを用いることもできる。偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせて液晶表示装置の部品として使用することができる。
<偏光フィルムの製造方法>
当該偏光フィルムを製造するための具体的な方法としては、当該PVAフィルムに対して、膨潤処理、染色処理、一軸延伸処理、及び必要に応じてさらに、架橋処理、固定処理、洗浄処理、乾燥処理、熱処理などを施す方法が挙げられる。この場合、膨潤処理、染色処理、架橋処理、一軸延伸、固定処理などの各処理の順序は特に制限されず、また、2つ以上の処理を同時に行うこともできる。また、各処理の1つ又は2つ以上を2回又はそれ以上行うこともできる。
また、当該偏光フィルムを製造するための別途の方法としては、当該延伸フィルムに対して、膨潤処理以外の各処理を施す方法が挙げられる。すなわち、当該延伸フィルムに対して、染色処理、一軸延伸処理、及び必要に応じてさらに、架橋処理、固定処理、洗浄処理、乾燥処理、熱処理などを施すことにより、当該偏光フィルムを得ることもできる。この場合、染色処理、架橋処理、一軸延伸、固定処理などの各処理の順序は特に制限されず、また、2つ以上の処理を同時に行うこともできる。また、各処理の1つ又は2つ以上を2回又はそれ以上行うこともできる。
それら当該偏光フィルムの製造方法の中でも、当該PVAフィルムに対して、膨潤処理、染色処理、一軸延伸処理、及び必要に応じてさらに、架橋処理、固定処理、洗浄処理、乾燥処理、熱処理などを施した後、さらに乾式延伸法で一軸延伸する工程を有する方法が特に好ましい。
以下では、当該PVAフィルムを用いて当該偏光フィルムを製造する場合について詳述するが、後述の染色処理等の各処理の条件は、当該延伸フィルムを用いて製造する場合も同様である。
膨潤処理は、PVAフィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度の下限としては、20℃が好ましく、22℃がより好ましく、25℃がさらに好ましい。一方、この温度の上限としては、50℃が好ましく、38℃がより好ましく、35℃がさらに好ましい。また、水に浸漬する時間の下限としては、0.1分が好ましく、0.5分がより好ましい。一方、この時間の上限としては、5分が好ましく、3分がより好ましい。なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
染色処理は、PVAフィルムに対して二色性色素を接触させることにより行うことができる。二色性色素としては、ヨウ素系色素や二色性染料を用いるのが一般的である。
ヨウ素系色素の場合、染色処理の時期としては、一軸延伸処理前、一軸延伸処理時及び一軸延伸処理後のいずれの段階であってもよい。染色処理は、PVAフィルムを染色浴としてヨウ素−ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行うのが一般的である。染色浴におけるヨウ素の濃度は0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。また、染色浴の温度の下限は、20℃が好ましく、25℃がより好ましい。一方、この温度の上限は、50℃が好ましく、40℃がより好ましい。
二色性染料の場合、染色処理の時期としては、PVAフィルムを作製する段階、一軸延伸処理前、一軸延伸処理時及び一軸延伸処理後のいずれの段階であってもよい。染色処理は、PVAフィルムを膨潤処理させたものに二色性染料、例えばアゾ化合物を吸着及び含浸させる。膨潤処理を省略した場合には、染色処理において膨潤処理を同時に行うことが出来る。
アゾ化合物は、遊離酸の形態で用いるほか、当該化合物の塩を用いてもよい。そのような塩は例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、およびカリウム塩などのアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩やアルキルアミン塩などの有機塩であり、好ましくは、ナトリウム塩である。
染色処理は、PVAフィルムを染色浴としてアゾ化合物を含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行うのが一般的である。染色浴における各アゾ化合物の濃度は0.00001質量%以上10質量%以下であることが好ましい。また、染色浴の温度は、5〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましく、35〜50℃が特に好ましい。溶液に浸漬する時間は適度に調節できるが、30秒から20分で調節するのが好ましく、1〜10分がより好ましい。
染色溶液としては、アゾ化合物に加え、染色助剤を必要に応じてさらに含有してもよい。染色助剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、無水硫酸ナトリウム、およびトリポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。染色助剤の含有量は、染料の染色性による時間および温度によって任意の濃度で調整できるが、それぞれの含有量としては、染色溶液中に0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
PVAフィルムに対して架橋処理を施すことで、高温で湿式延伸する際に、PVAが水へ溶出することを効果的に防止することができる。この観点から架橋処理は一軸延伸処理の前に行うことが好ましい。架橋処理は、架橋剤を含む水溶液にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができる。上記架橋剤としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素無機化合物の1種又は2種以上を使用することができる。架橋剤を含む水溶液における架橋剤の濃度の下限は1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。一方、この濃度の上限は、15質量%が好ましく、7質量%がより好ましく、6質量%がさらに好ましい。架橋剤の濃度が上記範囲内にあることで十分な延伸性を維持することができる。架橋剤を含む水溶液は、ヨウ素系色素を用いた場合にはヨウ化カリウム等の助剤を含有してもよい。架橋剤を含む水溶液の温度の下限は、20℃が好ましく、25℃がより好ましい。一方、この温度の上限は、50℃が好ましく、40℃がより好ましい。この温度を上記範囲内とすることで効率良く架橋することができる。
一軸延伸処理は、湿式延伸法及び乾式延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合は、ホウ酸水溶液中で行うこともできるし、上述した染色浴中や後述する固定処理浴中で行うこともできる。また、乾式延伸法の場合は、室温のまま一軸延伸処理を行ってもよいし、加熱しながら一軸延伸処理を行ってもよいし、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で一軸延伸処理を行ってもよい。これらの中でも、湿式延伸法が好ましく、ホウ酸水溶液中で一軸延伸処理を行うことがより好ましい。ホウ酸水溶液のホウ酸濃度の下限は0.5質量%が好ましく、1.0質量%がより好ましく、1.5質量%がさらに好ましい。一方、このホウ酸濃度の上限は、6質量%が好ましく、5質量がより好ましい。また、ホウ酸水溶液はヨウ素系色素の場合、ヨウ化カリウムを含有してもよく、その濃度は0.01質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
一軸延伸処理における延伸倍率の下限は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から4倍が好ましく、5倍がより好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、例えば10倍が好ましく、8倍がより好ましいこともある。
偏光フィルムの製造にあたっては、PVAフィルムへの二色性色素(ヨウ素系色素等)の吸着を強固にするために一軸延伸処理の後に固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する固定処理浴としては、ホウ酸、硼砂等のホウ素無機化合物の1種又は2種以上を含む水溶液を使用することができる。また、必要に応じて、固定処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理浴におけるホウ素無機化合物の濃度の下限は、0.5質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。一方、この濃度の上限は、15質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。この濃度を上記範囲内にすることで二色性色素の吸着をより強固にすることができる。固定処理浴の温度の下限は、15℃が好ましい。一方、この温度の上限は、60℃が好ましく、40℃がより好ましい。
洗浄処理は、水等にPVAフィルムを浸漬して行われることが一般的である。ヨウ素系色素の場合、偏光性能向上の点から洗浄処理に用いる水等はヨウ化カリウム等の助剤を含有することが好ましい。このとき、ヨウ化カリウム等のヨウ化物の濃度は0.5質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。また、洗浄処理に用いる水等の温度の下限は、一般的に5℃であり、10℃が好ましく、15℃がより好ましい。一方、この温度の上限は、一般的に50℃であり、45℃が好ましく、40℃がより好ましい。経済的な観点から水等の温度が低すぎることは好ましくない。一方、水等の温度が高すぎると偏光性能が低下することがある。
乾燥処理の条件は特に制限されないが、乾燥温度の下限としては、30℃が好ましく、50℃がより好ましい。一方、乾燥温度の上限としては、150℃が好ましく、130℃がより好ましい。上記範囲内の温度で乾燥することで、寸法安定性に優れる偏光フィルムが得られやすい。
乾燥処理の後に熱処理を行うことで、寸法安定性に優れた偏光フィルムを得ることができる。ここで熱処理とは、乾燥処理後の水分率が5%以下の偏光フィルムをさらに加熱し、偏光フィルムの寸法安定性を向上させる処理のことである。熱処理の条件は特に制限されないが、60℃以上150℃以下の範囲内で熱処理することが好ましい。60℃よりも低温で熱処理を行うと熱処理による寸法安定化効果が不十分である。一方、150℃よりも高温で熱処理を行うと、偏光フィルムに黄変が激しく生じることがある。
上記偏光フィルムは、二次元形状(平面状)のものに限定されず、三次元形状に加工されたものも含まれる。すなわち、偏光フィルムは、染色後に延伸等の成形が施されたものであってもよい。染色後のフィルムを延伸等させるための方法としては、湿式延伸、真空成形、熱成形等様々な方法があるが、これらに限ったものではない。延伸倍率としては、性能を維持する観点から、1.2〜2倍延伸が好ましく、1.3〜1.5倍がより好ましい。延伸速度としては、生産性の観点から、100〜10000%/minが好ましく、500〜5000%/minがさらに好ましい。延伸温度としては、ヨウ素系色素を用いた場合は100℃以下が好ましく、二色性染料を用いた場合は160℃以下が好ましい。ヨウ素系色素の場合、100℃より高い温度で成形すると脱色されて性能が低下する恐れがあるとともに、低い温度で延伸を行うと破断する恐れがある。
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において採用された各評価方法を、以下に示す。
[液状ゴム(ポリイソプレンゴム)の重量平均分子量の測定方法]
液状ゴムの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、標準ポリスチレン換算分子量で求めた。
測定装置及び条件は以下の通りである。
装置 :東ソー株式会社製GPC装置「GPC8020」
分離カラム :東ソー株式会社製「TSKgelG4000HXL」
検出器 :東ソー株式会社製「RI−8020」
溶離液 :テトラヒドロフラン
溶離液流量 :1.0ml/分
サンプル濃度:5mg/10ml
カラム温度 :40℃
[PVAフィルムの延伸加工性(引張応力)]
PVAフィルムを23℃、50%RHで24時間調湿し、このPVAフィルムから長さ方向に30mm、幅方向に10mmのフィルム片を切り出した。その後、インストロン社製の引張試験装置(「シングルコラム卓上型試験機:5952」)に初期のチャック間隔が10mmとなるようにこのPVAフィルム片を取り付け、100[mm/min]の速度で引張試験を実施した。このときのチャック間隔が30mmとなったときの試験力[N]を、延伸前の原反の断面積[mm]で除した値を引張応力[N/mm]とした。このとき1つのサンプルにつき、同じ測定を10回繰り返し、その平均値をデータとして採用した。引張応力が45N/mm未満の場合、延伸が容易であり、延伸加工性が良好であると判断した。
[偏光フィルムの成形性(TD破断歪)]
偏光フィルムを23℃、50%RHで24時間以上調湿し、この偏光フィルムから長さ方向(MD)に10mm、幅方向(TD)に30mmのフィルム片を切り出した。その後、島津製作所製の引張試験装置(「オートグラフ(AGS−H)」)に初期のチャック間隔が10mmとなるようにこの偏光フィルム片を引張方向と偏光フィルムのTDが一致するように取り付け、140℃の加熱環境下、100[mm/min]の速度で引張試験を実施した。このとき1つのサンプルにつき同じ測定を10回繰り返し、そのうち最もTD破断歪が大きかったものをデータとして採用した。TD破断歪が40%以上の場合、成形が容易であり、成形性が良好であると判断した。ここで、TD破断歪とは、上記引張試験において偏光フィルムが初期のチャック間距離(10mm)からXmm伸びて破断した時の(X/10)×100(%)の値である。
[合成例1]ゴム粒子の合成
(1)液状ゴムの合成
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、ヘキサン1200g及びs−ブチルリチウム(10.5質量%ヘキサン溶液)112gを仕込み、50℃に昇温した。その後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、イソプレン1200gを逐次添加して、1時間重合した。その後、メタノールを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を排出した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、液状ポリイソプレン(液状ゴム)を得た。得られた液状ゴムの重量平均分子量を測定したところ、10,000であった。
(2)ゴム粒子の水分散液の調製
上記液状ゴム250gにアニオン性乳化剤(東邦化学工業社の「フォスファノールRS−710」)15gを加えて20分間撹拌した。続いて撹拌しながら水177gを少しずつ添加した。所定量の水を添加後、20分撹拌することで、ゴム粒子(ポリイソプレンゴム粒子)の水分散液を得た。
[実施例1]
(PVAフィルムの作製)
PVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物、重合度2,400、けん化度99.5モル%)を100質量部、ゴム粒子を45質量部、可塑剤としてグリセリンを10質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを0.1質量部、及び水を混合し、揮発分率85質量%の製膜原液を調製した。なお、ゴム粒子は、上記合成例1で得られた水分散液の状態のものを他の成分と混合した。上記製膜原液を表面温度80℃の金属ドラムに流延し、揮発分率(含水率)が5質量%になるまで乾燥して厚み30μm、長さ1.5m、幅30cmの長尺のPVAフィルム(熱処理前のPVAフィルム)を得た。このPVAフィルムを、温度110℃で10分熱処理し、実施例1のPVAフィルムを得た。
[比較例1]
実施例1のPVAフィルムの作製において、ゴム粒子を添加しなかったこと以外は同様の方法でPVAフィルムを得た。
[比較例2]
実施例1のPVAフィルムの作製において、ゴム粒子を10質量部添加したこと以外は同様の方法でPVAフィルムを得た。
[実施例2]
(偏光フィルムの作製)
実施例1で得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ10cmのサンプルをカットした。このサンプルを40℃の純水に120秒間浸漬しつつ1.3倍に長さ方向に一軸延伸して、膨潤処理した(一段階目の一軸延伸)。続いてDirect blue15染料 0.00002質量%、トリポリリン酸ナトリウム0.1質量%及び硫酸ナトリウム0.1質量%を含有する水溶液が入った染色処理浴(温度48℃)に300秒間浸漬しつつ全体で2.4倍に長さ方向に一軸延伸して染料を吸着させた(二段階目の一軸延伸)。さらに、ホウ酸2質量%を含有する水溶液が入った架橋処理浴(温度40℃)に60秒間浸漬しつつ全体で2.7倍に長さ方向に一軸延伸して、ホウ酸を吸着させた(三段階目の一軸延伸)。そして、ホウ酸3.9質量%を含有する水溶液が入った延伸処理浴(温度58℃)に浸漬しつつ初期のフィルムの長さから4.0倍になるように長さ方向に一軸延伸して配向させた(四段階目の一軸延伸)。延伸後すぐに、洗浄槽として水槽(温度25℃)に5秒間浸漬した。最後に70℃で3分間乾燥して偏光フィルムを作製した。
[比較例3]
実施例2の偏光フィルムの作製において、実施例1で得られたPVAフィルムの代わりに、比較例1のゴム粒子を添加していないPVAフィルムを用いたこと以外は同様の方法で偏光フィルムを得た。
[比較例4]
実施例2の偏光フィルムの作製において、実施例1で得られたPVAフィルムの代わりに、ゴム粒子を70質量部添加したPVAフィルムを用いたこと以外は同様とした。このとき、一段階目の一軸延伸処理中にPVAフィルムが破断したため、偏光フィルムの作製を中止した。これは、PVAフィルムにおいて液状ゴムの分散性が不良であったために、PVAフィルム表面に液状ゴムのはじきによる欠陥が多数発生したことで厚み斑が生じ、この厚み斑を起点にPVAフィルムが破断したものと推測される。
[評価]
実施例1及び比較例1、2で得られた各PVAフィルムについて、前記の方法にて、延伸加工性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
また、実施例2及び比較例3で得られた各偏光フィルムについて、前記の方法にて、TD破断歪の測定を行った。評価結果を表2に示す。
Figure 2019244819
Figure 2019244819
[評価結果の説明]
<実施例1>
PVAフィルムが所定量のゴム粒子(ポリイソプレンゴム粒子)を含有することにより、引張応力が45N/mm未満であり、延伸加工性が良好であった。
PVAフィルムの変形速度が比較的大きい条件下、すなわち、100[mm/min]の速度条件で引張試験を実施したにもかかわらず、引張応力が45N/mm未満であったことは驚くべきことである。
<比較例1、2>
PVAフィルムにおけるゴム粒子の含有量が少ない比較例である。
この場合、引張応力が45N/mm以上であり、延伸加工性が不十分であった。
<実施例2>
偏光フィルムの原反フィルムとして、所定量のゴム粒子を含有するPVAフィルムを用いたことにより、TD破断歪みが40%以上であり、成形性が良好であった。
偏光フィルムの変形速度が比較的大きい条件下、すなわち、100[mm/min]の速度条件で引張試験を実施したにもかかわらず、TD破断歪みが40%以上であったことは驚くべきことである。
<比較例3>
偏光フィルムの原反フィルムとして、ゴム粒子を含有しないPVAフィルムを用いた比較例である。
この場合、TD破断歪みが40%以下であり、成形性が不十分であった。

Claims (8)

  1. ポリビニルアルコール(A)、及びポリイソプレンゴム粒子(B)を含み、前記ポリイソプレンゴム粒子(B)の含有量が前記ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して35質量部より多く60質量部以下である、ポリビニルアルコールフィルム。
  2. ポリビニルアルコール(A)の重合度が1,000以上、10,000以下であり、ケン化度が95モル%以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
  3. ポリイソプレンゴム粒子(B)を構成するポリイソプレンゴムの重量平均分子量が5,000以上80,000以下である、請求項1又は2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
  4. 厚みが1μm以上60μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
  5. 光学フィルム用の原反フィルムである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムから得られる、延伸フィルム。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム又は延伸フィルムから得られる、偏光フィルム。
  8. ポリビニルアルコール(A)と、ポリイソプレンゴム粒子(B)を含む分散液とを混合した製膜原液を用いて製膜する工程を備え、
    上記製膜原液における上記ポリイソプレンゴム粒子(B)の含有量が、上記ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して35質量部より多く60質量部以下であるポリビニルアルコールフィルムの製造方法。

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