本開示は、電磁波を吸収する性質を有する電磁波吸収性組成物と電磁波吸収体に関し、特に、電磁波吸収材料として磁性酸化鉄の粉体を備えてミリ波帯域以上の高い周波数の電磁波を吸収することが可能な電磁波吸収性組成物と電磁波吸収体に関する。
電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収性組成物が用いられている。電磁波吸収性組成物は、ブロック状の電磁波吸収体、シート状の電磁波吸収シートなど、電磁波吸収部材として使用される形態に対応して所定の形状に成型される。
一方、近年では、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、1テラヘルツ(THz)の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。このようなより高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収性組成物や電磁波吸収体においても、ギガヘルツ帯域からテラヘルツ帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望が高まっている。
従来、ミリ波帯以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収体として、25〜100ギガヘルツの範囲で電磁波吸収性能を発揮するイプシロン酸化鉄(ε−Fe2O3)結晶を磁性相に持つ粒子の充填構造を有する電磁波吸収体が提案されている(特許文献1参照)。また、イプシロン酸化鉄の微細粒子をバインダーとともに混練し、バインダーの乾燥硬化時に外部から磁界を印加してイプシロン酸化鉄粒子の磁場配向性を高めた、シート状の配向体についての提案がなされている(特許文献2参照)。
さらに、弾性を有する電磁波吸収シートとして、シリコーンゴムにカーボンナノチューブを分散させたセンチメートル波を吸収可能な電磁波吸収シートが提案されている(特許文献3参照)。
また、電磁波吸収材料としてイプシロン酸化鉄を用いた薄型の電磁波吸収体として、アルミニウムなどの平板状の金属基材上に電磁波吸収膜が積層形成されたものにおいて、電磁波吸収膜にイプシロン酸化鉄とカーボンナノチューブとを含んで比誘電率を6.5〜65の範囲としたものが提案されている(特許文献4参照)。
特開2008− 60484号公報
特開2016−135737号公報
特開2011−233834号公報
特開2016−111341号公報
電磁波を発生する発生源からの漏洩電磁波を遮蔽する場合、対象となる回路部品を覆う筐体などに電磁波吸収材を配置する必要があるが、特に、配置場所の形状が平面形状ではない場合には、固形のブロック形状や平板状の電磁波吸収体よりも可撓性や面内方向に伸びる弾性を備えて柔軟に変形可能なシート状の電磁波吸収体を用いることで利便性が向上する。また、例えば樹脂製のプリント基板上に電子部品が搭載された電気回路基板に対して、ペースト状の電磁波吸収性組成物を塗布して必要部分を覆うことによって、少ない電磁波吸収性組成物で効果的に、漏洩電磁波の遮蔽や外部からの妨害電磁波の影響を回避する構成を実現することができる。
しかし、ミリ波帯域である数十ギガヘルツ以上の周波数の電磁波を吸収できる電磁波吸収部材として、回路基板上に塗布できるような電磁波吸収性組成物や、弾性を有したシート状の電磁波吸収体は実現されていない。
本開示は、上記従来の課題を解決するために、ミリ波帯域以上の高い周波数の電磁波を良好に吸収することができ、ペースト状で所望する部分に塗布することができる電磁波吸収性組成物、および、容易に変形可能な柔軟性を備えた電磁波吸収体を実現することを目的とする。
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収性組成物は、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーと、電磁波吸収材料として、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄とを含むことを特徴とする。
また、本願で開示する電磁波吸収体は、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーと、電磁波吸収材料として、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄とを含み、入射した電磁波を反射する電磁波反射層を備えない非共振型であることを特徴とする。
本願で開示する電磁波吸収性組成物、および、電磁波吸収体は、いずれも、ミリ波帯域以上の高周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄を電磁波吸収材料として備えるため、数十ギガヘルツ以上の高い周波数帯域の電磁波を熱に変換して吸収することができる。また、ゴム製のバインダーを備えているため、ペースト状の電磁波吸収性塗料としての使用や、面内方向への所定の伸び量を備えた非共振型のシート状の電磁波吸収体としての使用をすることができる。
本実施形態にかかるシート状の電磁波吸収体の構成を説明する断面図である。
本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物における、フィラーの添加量と電気抵抗値との関係を説明するグラフである。
実施例の電磁波吸収シートにおける、照射した電磁波の周波数と透過減衰量との関係を示す図である。
電磁波入射方向の厚さを異ならせた実施例の電磁波吸収シートにおける、照射した電磁波の周波数と透過減衰量との関係を示す図である。
フィラーの添加量を異ならせた実施例の電磁波吸収シートと、フィラーを含まない比較例の電磁波吸収シートにおける、照射した電磁波の周波数と透過減衰量との関係を示す図である。
フィラーの添加に伴う、電磁波吸収性組成物の誘電率の変化と電気抵抗の変化との関係を示す図である。
本願で開示する電磁波吸収性組成物は、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーと、電磁波吸収材料として、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄とを含む。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収性組成物は、電磁波吸収材料の磁気共鳴によってミリ波帯域である30ギガヘルツ以上の高周波帯域の電磁波を吸収することができる。また、電磁波吸収材料とゴム製バインダーとを用いているため、ペースト状の電磁波吸収性組成物とすることができ、例えば樹脂製のプリント基板上に電子部品が搭載された電気回路基板に対して、ペースト状の電磁波吸収性組成物を塗布して必要部分を覆って漏洩電磁波の遮蔽などを行うことができる。さらに、粒状の炭素材料からなるフィラーを含んでいるため、電磁波吸収性組成物の電気抵抗値の低下を抑えつつ誘電率を高くすることができる。
なお、本明細書において「粒状の炭素材料」とは、炭素材料の一次粒子における最小径に対する最大径の比が1以上2程度までのものを言い、例えば、×100000倍の電子顕微鏡(SEM)で炭素材料からなるフィラーを撮影し、1枚の写真から任意の100個の粒子を選んで測定した平均値として求めることができる。また、本明細書における「粒状の炭素材料」には、炭素材料ではあるものの針状または筒状であるカーボンナノチューブは含まれず、この点において「非カーボンナノチューブ炭素材料」として認識できる。
本願で開示する電磁波吸収性組成物において、前記磁性酸化鉄がイプシロン酸化鉄、または、ストロンチウムフェライトのいずれかであることが好ましい。30ギガヘルツより高い周波数の電磁波を磁気共鳴によって吸収する電磁波吸収体としてのイプシロン酸化鉄やストロンチウムフェライトを電磁波吸収材料として用いることで、高周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収性組成物を実現することができる。
この場合において、前記イプシロン酸化鉄のFeサイトの一部が3価の金属原子で置換されていることが好ましい。このようにすることで、Feサイトを置換する材料によって磁気共鳴周波数が異なるイプシロン酸化鉄の特性を活かして、所望の周波数帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収性組成物を実現することができる。
また、前記ゴム製バインダー100体積部に対して、前記磁性酸化鉄が60体積部以上110体積部以下であり、かつ、前記ゴム製バインダーの体積部をα、前記磁性酸化鉄の体積部をβ、前記フィラーの体積部をγとしたとき、(β+γ)/(α+β+γ)×100の値が43.0以上52.0以下であることが好ましい。このようにすることで、容易に変形可能な弾性と、電磁波吸収性組成物を透過する電磁波の減衰量として−8.5dB以上の電磁波吸収特性とを確保することができる。
さらにこの場合において、γ/(α+β+γ)×100の値が1.2以上3.2以下であることがより好ましい。このようにすることで、例えば、電気回路基板上のノイズ源となる電子部品に直接塗布しても不所望なショートなどが生じにくい電磁波吸収性組成物を得ることできる。
また、本願で開示する電磁波吸収性組成物は、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーと、電磁波吸収材料として、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄とを含み、入射した電磁波を反射する電磁波反射層を備えない非共振型である。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収体は、電磁波吸収材料の磁気共鳴によってミリ波帯域である30ギガヘルツ以上の高周波帯域の電磁波を吸収することができる。また、電磁波吸収材料とゴム製バインダーとを用いているため、面内方向に伸びる弾性を備えたシート状の非共振型の電磁波吸収性体とすることができる。このため、例えば湾曲した部分などへの貼着を容易に行うことができる。さらに、粒状の炭素材料からなるフィラーを含んでいるため、電磁波吸収性組成物の電気抵抗値の低下を抑えつつ誘電率を高くすることができる。
本願で開示する電磁波吸収体において、前記磁性酸化鉄がイプシロン酸化鉄、または、ストロンチウムフェライトのいずれかであることが好ましい。30ギガヘルツより高い周波数の電磁波を磁気共鳴によって吸収する電磁波吸収体としてのイプシロン酸化鉄やストロンチウムフェライトを電磁波吸収材料として用いることで、高周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収体を実現することができる。
この場合において、前記イプシロン酸化鉄のFeサイトの一部が3価の金属原子で置換されていることが好ましい。このようにすることで、Feサイトを置換する材料によって磁気共鳴周波数が異なるイプシロン酸化鉄の特性を活かして、所望の周波数帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収体を実現することができる。
また、前記ゴム製バインダー100体積部に対して、前記磁性酸化鉄が60体積部以上110体積部以下であり、かつ、前記ゴム製バインダーの体積部をα、前記磁性酸化鉄の体積部をβ、前記フィラーの体積部をγとしたとき、(β+γ)/(α+β+γ)×100の値が43.0以上52.0以下であることが好ましい。このようにすることで、高い弾性と、電磁波減衰率が−8.5dB以上の高い電磁波吸収特性とを備えた電磁波吸収体を得ることができる。
さらにこの場合において、γ/(α+β+F)×100の値が1.2以上3.2以下であることがより好ましい。このようにすることで、例えば電子回路部品に直接載置した場合でも、不所望なショートが起きにくい電磁波吸収体を実現することができる。
また、本願で開示する電磁波吸収体において、電磁波の入射方向における厚みが400μm以上であることが好ましい。このようにすることで、透過する電磁波の吸収特性が減衰率として−10dB以上の電磁波吸収体を実現することができる。
さらに、いずれかの表面に接着層が積層形成されていることが好ましい。このようにすることで、被着物に容易に貼着できる電磁波吸収体を得ることができる。
以下、本願で開示する電磁波吸収性組成物と電磁波吸収体について、図面を参照して説明する。
(実施の形態)
[シート状の電磁波吸収体の構成]
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収体として、シート状に形成された電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。図1に示した電磁波吸収シートは、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物を材料として用いて、シート形状に作製された電磁波吸収体として把握することができる。
なお、図1は、本実施形態で説明する電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電磁波吸収シート1は、電磁波吸収材料である磁性酸化鉄粉1aと、ゴム製のバインダー1bと、炭素材料からなるフィラー1cとを含んで構成されている。
電磁波吸収シート1では、磁性酸化鉄粉1aが磁気共鳴を起こすことで、磁気損失によって電磁波を熱エネルギーに変換して吸収するものであるため、電磁波吸収シート1自体が透過する電磁波を吸収することができる。一般に、電磁波吸収シートの形態としては、電磁波吸収層の電磁波が入射する側とは反対側の表面に金属層からなる反射層(電磁波遮蔽層)を備え、反射層で反射した電磁波が再び電磁波吸収層を透過して射出される際の共振作用によって電磁波を吸収する共振型(反射型、または、λ/4型とも称する)のものと、反射層を備えずに、電磁波吸収層に入射した電磁波が入射側とは反対の側に透過する非共振型(透過型とも称する)のものとの2種類があるが、本実施形態で説明する電磁波吸収シートは、反射層を備えていない非共振型の電磁波吸収シートとして実現できる。電磁波吸収シートに用いられる反射層としては、良好な反射特性を実現するために金属箔や金属蒸着膜などが用いられるが、これらの反射層は弾性を有しているとは言えず、仮に電磁波吸収層が高い弾性を有していた場合でも、反射層と積層されることで、電磁波吸収シートとしての弾性が制限されてしまう。この点、本実施形態で説明する電磁波吸収シートは、磁性酸化鉄粉1aが磁気共鳴を起こして電磁波を吸収するために、非共振型の電磁波吸収シートであっても−8.5dB以上の高い電磁波減衰性を発揮することができる。
また、本実施形態で説明する電磁波吸収シート1は、シートを構成するバインダー1bとして、各種のゴム材料が利用される。このため、特に厚みが薄いシート形状とされている場合には、面内方向において容易に伸び縮みすることができる。また、高い弾性を有すると共に可撓性も高く、電磁波吸収シート1の取り扱い時に電磁波吸収シート1を丸めることができ、電磁波吸収シート1を湾曲面に沿って容易に配置することができる。
なお、電磁波吸収シートを形成するに当たって、電磁波吸収層の厚みが薄い場合には、シートとして一定の強度を維持し取り扱いの容易性を確保する観点から、電磁波吸収層を樹脂製の基材上に積層して電磁波吸収シートを形成する場合がある。この点に関し、本実施形態で説明する電磁波吸収シート1では、ゴム製バインダーを有することにより発揮できる高い弾性を維持するという観点から、さらに、非共振型の電磁波吸収シートでは、後述するようにシートの厚さが厚くなれば電磁波吸収特性が向上するため一定以上の厚さ(一例として400μm)を有したシートとして形成されることが好ましいという観点から、基材を伴わずに、電磁波吸収材料である磁性酸化鉄粉とゴム製のバインダーとフィラーとを含む、自立性のある電磁波吸収層でシートを構成することが好ましい。
一方で、電磁波吸収シートを、電磁波を吸収・遮蔽するために所定の場所に貼着する場合の利便性を考えると、電磁波吸収シートのいずれか一方の表面(図1における図中上方側または下方側)に、接着層を積層形成することが好ましい場合がある。
[電磁波吸収材料]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収材料である磁性酸化鉄粉1aとしてイプシロン酸化鉄の磁性粉を用いることができる。
イプシロン酸化鉄(ε−Fe2O3)は、酸化第二鉄(Fe2O3)において、アルファ相(α−Fe2O3)とガンマ相(γ−Fe2O3)との間に現れる相であり、逆ミセル法とゾルーゲル法とを組み合わせたナノ微粒子合成方法によって単相の状態で得られるようになった磁性材料である。
イプシロン酸化鉄は、数nmから数十nmの微細粒子でありながら常温で約20kOeという金属酸化物として最大級の保磁力を備え、さらに、歳差運動に基づくジャイロ磁気効果による自然磁気共鳴が数十ギガヘルツ以上のいわゆるミリ波帯の周波数帯域で生じるため、ミリ波帯域である30〜300ギガヘルツ、またはそれ以上の高周波数の電磁波を吸収するという高い効果を有する。
さらに、イプシロン酸化鉄は、結晶のFeサイトの一部をアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)などの3価の金属元素と置換された結晶とすることで、磁気共鳴周波数、すなわち、電磁波吸収材料として用いられる場合に吸収する電磁波の周波数を異ならせることができる。
例えば、ガリウム置換のイプシロン酸化鉄、すなわちε−GaxFe2-xO3の場合、置換量「x」を調整することで30ギガヘルツから150ギガヘルツ程度までの周波数帯域で吸収のピークを有し、アルミニウム置換のイプシロン酸化鉄、すなわちε−AlxFe2-xO3の場合、置換量「x」を調整することで100ギガヘルツから190ギガヘルツ程度の周波数帯域で吸収のピークを有する。さらに、置換する金属をロジウムとしたイプシロン酸化鉄、すなわちε−RhxFe2-xO3の場合には、180ギガヘルツからそれ以上と、吸収する電磁波の周波数帯域をより高い方向にシフトすることが可能である。このため、電磁波吸収シートで吸収したい周波数の自然共鳴周波数となるように、イプシロン酸化鉄のFeサイトと置換する元素の種類を決め、さらに、Feとの置換量を調整することで、吸収される電磁波の周波数を所望の値とすることができる。
イプシロン酸化鉄は、一部のFeサイトが金属置換された形態のものを含めて市販されているため、容易に入手することができる。
また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収材料である磁性酸化鉄粉1aとして、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトなどの六方晶フェライトの磁性粉を用いることができる。六方晶フェライトは、スピネルフェライトなど他の構造のフェライト材料よりも磁気異方性が大きく、大きな保磁力を示すことから、高い電磁波吸収特性を有する電磁波吸収体として使用できる。
特に、ストロンチウムフェライトとしてSrFe12O19にAlを添加した系では、Alを添加することによって電磁波吸収を示す周波数を高周波側にシフトさせることができる。このため、例えば、60GHz帯の無線LANに対応した電磁波吸収シートを、磁性酸化鉄粉としてAlが添加されたストロンチウムフェライトを用いて実現することができる。
[ゴム製バインダー]
電磁波吸収シート1を構成するゴム製のバインダー1bには、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、クロロブレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSR)、ウレタンゴム(PUR)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、エチレン・酢酸ビニルゴム(EVA)、エピクロルヒドリンゴム(CO)、多硫化ゴム(T)、ウレタンゴム(U)など、各種のゴム材料を利用することができる。
また、室温でゴム弾性を有する材料というゴムの定義から、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー(SIS、スチレン- イソプレン共重合体、SBS、スチレン−ブタジエン共重合体)、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも、高温では流動性を有するものの室温ではゴム弾性を有するために、本実施形態で説明する電磁波吸収シート1のゴム製バインダー1bとして使用することができる。したがって、本明細書においてはこれらの材料も広くゴム材料に含めて説明する。
これらのゴム材料の中では、耐熱性が高いことから、アクリルゴム、シリコーンゴムを好適に用いることができる。アクリルゴムの場合、高温環境下におかれても耐油性が優れるとともに、比較的廉価でコストパフォーマンスにも優れている。また、シリコーンゴムの場合は、耐熱性に加え耐寒性も高い。さらに、物理的特性の温度に対する依存性が、合成ゴム中で一番少なく、耐溶剤性、耐オゾン性、耐候性にも優れている。さらに、電気絶縁性にもすぐれ、広い温度範囲、および、周波数領域にわたって物質的に安定している。
[フィラー]
本実施形態で説明する電磁波吸収シートでは、フィラー1cを添加することによって電磁波吸収特性を向上させることができる。
フィラー1cとしては、粒状の炭素材料を用いることが好ましい。具体的に、粒状の炭素材料としては、カーボンブラック(CB)が好適に用いられる。非カーボンナノチューブ炭素材料であるカーボンブラックとして、ファーネス法導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど各種導電性カーボンブラックを使用することかできる。
フィラー1cとして用いられる粒状の炭素材料は、比表面積が30〜2300m2/gのものを用いることができ、好ましくは、比表面積が300〜2000m2/gのものが、さらにより好ましくは、比表面積が800〜1800m2/gのものを用いることが好ましい。
[分散剤]
電磁波吸収性材料である磁性酸化鉄粉をゴム製バインダー内で良好に分散させるために、分散剤を用いることがより好ましい。
分散剤としては、リン酸基、スルホン酸基、カルボキシ基等の極性基を有する化合物を用いることができる。これらの中でも分子内にリン酸基を有するリン酸化合物を分散剤として用いることが好ましい。
リン酸化合物としては、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジクロリド等のアリールスルホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、プロピルホスホン酸などのアルキルホスホン酸、あるいは、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸などの多官能ホスホン酸などのリン酸化合物を含んでいる。これらのリン酸化合物は、難燃性を有するとともに、微細な磁性酸化鉄粉の分散剤として機能するため、バインダー内のイプシロン酸化鉄粒子やストロンチウムフェライトの粒子を良好に分散させることができる。
具体的には、和光純薬工業株式会社製、または、日産化学工業株式会社製のフェニルホスホン酸(PPA)城北化学工業株式会社製の酸化リン酸エステル「JP−502」(製品名)などを分散剤として使用することができる。
なお、本実施形態で説明する電磁波吸収シートに含ませる分散剤としては、上記したリン酸化合物の他にも、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸などの炭素数12〜18の脂肪酸〔RCOOH(Rは炭素数11〜17のアルキル基またはアルケニル基)〕、また、上記脂肪酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる金属石けん、上記脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、上記脂肪酸のアミド;ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5、オレフィンはエチレン、プロピレン等)銅フタロシアニンなどを使用することができる。さらに、分散剤としてシランやシランカップリング剤などを使用することができる。これら分散剤は、単独でも組み合わせて使用してもよい。
[電磁波吸収性組成物の製造方法、電磁波吸収性シートの作製方法]
ここで、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物の製造方法と、この電磁波吸収性組成物を用いた電磁波吸収体の一形態である電磁波吸収シートの作製方法について説明する。
本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物は、磁性酸化鉄粉とゴム製バインダーとフィラーとを含んだ磁性コンパウンドとして作製される。また、本実施形態にかかる電磁波吸収体としての電磁波吸収シートは、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物である磁性コンパウンドを所定の厚さでプレス成型処理することによって作製される。
まず、電磁波吸収性組成物である磁性コンパウンドを作製する。
磁性コンパウンドは、磁性酸化鉄粉と、ゴム製バインダーと、フィラーとを混練し、得られた混練物に架橋剤を混合して粘度を調整して得ることができる。
一例として、磁性酸化鉄粉として、ガリウム置換イプシロン酸化鉄(ε−Ga0.47Fe1.53O3)340重量部、ゴム製バインターとして、シリコーンゴムKE−510−U(商品名:信越化学株式会社製)100重量部、フィラーとして、ケッチェンブラックEC600JD(商品名:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)2.2重量部を加圧式の回分式ニーダで混練する。この混練物に、架橋剤として、2.5ジメチル−2.5ビスヘキサンC−8A(商品名:信越化学株式会社製)を3重量部混合する。
このようにして得られた電磁波吸収性組成物は、シリコーンゴムをベースとしているため、例えば回路基板上に搭載されてノイズ源となる特定の回路部品を覆うように塗布することができる。また、一般的なシリコーンゴムと同様に、隙間部分を埋める充填剤として使用することができるため、金属板を組み合わせて構成されたシールド筐体の隙間部分に注入することで、漏洩電磁波のシールド特性を向上させることができる。
なお、磁性コンパウンドは、例えば加熱することやUV光を照射することなどによって固めることができ、所望の形状を維持した電磁波吸収性組成物を得ることができる。
電磁波吸収体を作製する場合は、上記得られた電磁波吸収性組成物である磁性コンパウンドを一例として例えば油圧プレス機を用いて温度150℃でシート状に架橋・成型する。その後、恒温槽内において、例えば温度170℃で2次架橋処置を施し、所定形状の電磁波吸収体とすることができる。
[接着層]
図1では図示を省略したが、本実施形態にかかる電磁波吸収体としての電磁波吸収シート1において、シート主面のいずれか一方の表面に接着層を形成することができる。
接着層を設けることで、電磁波吸収シート1を、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面の所望の位置に容易に貼着することができる。特に、本実施形態の電磁波吸収シート1はゴム製バインダーを用いることで弾性を有しているため、接着層2によって湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。なお、接着層の材料、形成厚み、形成状態などを工夫して、接着層が、電磁波吸収シート1の弾性変形による伸びを妨げないように、例えばガラス点温度(Tg)が低い粘着剤を用いることが好ましい。
接着層としては、粘着テープなどの接着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm〜12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
また接着層の厚さは20μm〜100μmが好ましい。接着層の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シート全体の可撓性が小さくなってしまう虞れがある。また、接着層が厚いと電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。
なお、本願明細書において接着層とは、剥離不可能に貼着する接着層とすることができ、剥離可能な貼着を行う接着層とすることもできる。
また、電磁波吸収シートを所定の面に貼着するにあたって、電磁波吸収シートが接着層を備えていなくても、電磁波吸収シートが配置される部材の側の表面に接着性を備えさせて電磁波吸収シート1を貼り付けるようにすることができる。また、両面テープや接着剤を用いることで、所定の部位に電磁波吸収シートを貼着することができる。この点において、接着層は、本実施形態に示す電磁波吸収シートにおける必須の構成要件でないことは明らかである。
[フィラーの電気抵抗]
本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物では、ゴム製バインダーに粒状の炭素材料のフィラーを添加して電磁波吸収特性を向上させているが、フィラーが添加されることによって、電磁波吸収性組成物の電気抵抗値が低下する。電磁波吸収性組成物としての磁性コンパウンドを電気回路基板上のノイズ源となる電子部品に塗布するような場合、または、電磁波吸収シートを電気回路部品の端子に接触するように配置する場合などでは、電磁波吸収性組成物や電磁波吸収シートの電気抵抗値が一定以上でないと電子部品間でショートが生じるなどの不所望な事態となる。
そこで、電磁波吸収性組成物におけるフィラーの添加量とシート抵抗値との関係を、粒状の炭素材料としてフィラーにカーボンブラックを用いた実施例としての電磁波吸収性組成物と、フィラーにカーボンナノチューブを用いた比較例としての電磁波吸収性組成物とを作製して確認した。
図2は、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物において、フィラーとしてのカーボンブラックとカーボンナノチューブの添加量を変化させた場合のシート抵抗値を測定した結果を示す。
図2では、電磁波吸収性組成物にフィラーとして添加したカーボンブラック、または、カーボンナノチューブの添加量(体積部:体積パーセント)を変化させた場合のシート抵抗値の変化を示している。
なお、測定は、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物を磁性塗料として用いて、幅12.25mm×長さ150mm、厚さ1mmの電磁波吸収性シートを作製して行った。
表面抵抗値は、ヒューレットパッカード社製の高抵抗計(4329A:商品名)を用い、間隔12.25mm、曲率半径10mmの黄銅ブロック2個に、シート表面がブロックに当たるように巻き付け、短冊状のシートの両端に50gの重りを吊るして、黄銅ブロックそれぞれに検出計を当てて、表面電気抵抗を測定した。
電磁波吸収性組成物は、上記製造方法の説明部分で例示したガリウム置換イプシロン酸化鉄(ε−Ga0.47Fe1.53O3)を340部、ゴム製バインダーとしてシリコーンゴムKE−510−U(商品名:信越化学株式会社製)を100重量部用いた物に対して、カーボンブラックとして、ケッチェンブラックEC600JD(商品名:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を、また、カーボンナノチューブとして、C−tube100(商品名:韓国CNT社製)をそれぞれフィラーとして添加した。
フィラーの添加量は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ共に電磁波吸収シートを作製する際の磁性コンパウンドを製造する段階での重量部(重量パーセント)で求め、これをイプシロン酸化鉄の密度を4.9g/cc、シリコーンゴムの密度を1.1g/cc、カーボンブラックの見かけ密度を1.5g/cc、カーボンナノチューブの見かけ密度を2.0g/ccとして、体積部に換算して求めた。
図2に示すように、フィラーとしてカーボンブラックを添加した電磁波吸収性組成物におけるフィラーの添加量と電気抵抗値との関係を示す符号21のグラフから、添加量が3%程度までは、電気抵抗値が10の10乗Ω(10GΩ)レベルを維持できることがわかる。
なお、電気回路基板上で、不所望なショートを生じないためには、少なくとも1×10の10乗(10G)Ω程度のシート抵抗値が必要であると考えられる。しかし、フィラーとしてカーボンブラックを用いた本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物は、フィラーの添加量を体積部で3%程度以下に抑えると、10の10乗(10G)Ωレベルという、ショートを抑制するために十分な値の表面抵抗値が得られる。
一方、フィラーとしてカーボンナノチューブを添加した比較例としての電磁波吸収性組成物では、フィラーの添加量と電気抵抗値との関係を示す符号22のグラフから、添加量が体積部で1%程度であれば10の10乗Ω(10GΩ)レベルの電気抵抗値を実現できるが、添加量が1.5%となると10の10乗Ω以下となり、電気回路基板上の電子部品に直接塗布した場合にショートが生じる虞れが高くなる。
このように、フィラーとしてカーボンブラックを用いた場合に比べてカーボンナノチューブを用いた場合に、フィラーの添加量に対するシート抵抗値の低下度合いが大きくなるのは、カーボンナノチューブの形状が針状または筒状であり、また、粒子径がカーボンブラックの粒子径に比較して極めて小さいため、磁性コンパウンド内に電流が流れる経路が形成されやすいためと考えられる。
このことから、フィラーとして非カーボンナノチューブ炭素材料であるカーボンブラックなどの粒状の炭素材料を用いることで、フィラーとしてカーボンナノチューブを用いた場合と比較して、電気抵抗値の定価を抑制して不所望なショートが生じる虞れを抑えながら、炭素材料からなるフィラーの添加量を増やして電磁波吸収性組成物や電磁波吸収体の誘電率をあげて、電磁波吸収特性を向上させることができる。
図6は、添加される炭素材料のフィラーの添加量を変化させた場合の、電磁波吸収性組成物の誘電率の変化と電気抵抗の変化との関係を示す図である。
図6では、上述の図2に示した、炭素材料のフィラーの添加量と電気抵抗値との関係を求めた測定試料において、それぞれの電磁波吸収性組成物の誘電率を求めて、電気抵抗値との関係を改めてプロットし直したものである。
なお、誘電率は、アジレント・テクノロジー株式会社製のインピーダンス測定器4291B(製品名)を用いて、容量法によって測定した。より具体的には、電磁波吸収性組成部としての磁性コンパウンドを作製し、厚さ2mm、対角が120mmの正方形状に成型、架橋して測定試料とした。この試料を、測定電極に挟んで、テストフィクスチャ16453A(アジレント・テクノロジー株式会社製:製品名)を用いて測定周波数1GHzで測定した。
図6において符号61で示す実線が、フィラーとしてカーボンブラックを用いた場合の誘電率と電気抵抗値との関係を示す。フィラーとして粒状の炭素部材であるカーボンブラックを用いた場合には、電気抵抗値として10の10乗Ωレベルを維持した状態で、電磁波吸収性組成物の誘電率を13まで上げることができる。一方、フィラーとしてカーボンナノチューブを用いた場合を示す符号62の点線から、カーボンナノチューブをフィラーとして用いた場合には、電気抵抗値として10の10乗Ωを維持した状態では電磁波吸収性組成物の誘電率を10までしか上げることができず、誘電率を10以上にすると電気抵抗値が10の10乗Ωから急激に低下することが確認できる。
この結果、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物、または、電磁波吸収体では、フィラーとして非カーボンナノチューブ炭素材料である粒状の炭素材料を用いることで、フィラーの添加量を増やして電磁波吸収性組成物、または、電磁波吸収体の誘電率を上げて、電磁波吸収特性を向上させることができる。また、特に電磁波吸収体の場合には、誘電率を上げることで、軽量化、薄型化を実現することができる。
なお、電磁波吸収体においては、一般的に、電磁波吸収層のインピーダンス値を空気中(真空)のインピーダンス値と同じ値にするインピーダンス整合が行われる。電磁波吸収層のインピーダンスが空気中のインピーダンスと大きく異なった場合には、空気中から電磁波が電磁波吸収層に入射する際に不所望な散乱が生じて、共振型の電磁波吸収シートでは電磁波吸収特性の大幅な低下に繋がるからである。
本実施形態で示す電磁波吸収体としての電磁波吸収シートは、非共振型の電磁波吸収シートであるために、電磁波吸収シートのインピーダンスを空気中のインピーダンスに整合しないと電磁波吸収特性が大幅に低下するという事態は生じない。また、電磁波吸収シートの表面抵抗値が小さい場合には電磁波の表面反射が生じるが、特に電磁波吸収性組成物として電気回路部品に塗布された際に不所望なショートを引き起こさないという観点から、表面抵抗値を10の10乗Ω以上に維持された磁性コンパウンドによって形成された場合は、電磁波吸収シートの表面反射による電磁波吸収特性の低下は問題にならないと考えられる。
[電磁波吸収特性]
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収体としての電磁波吸収シートについて、電磁波吸収材料であるイプシロン酸化鉄、または、ストロンチウムフェライトの含有量とフィラーであるカーボンブラックの含有量とを変化させた場合について電磁波吸収シートを作製して電磁波吸収特性を測定した。また、比較例としてのフィラーとしてカーボンナノチューブを用いた電磁波吸収シートとフィラーを添加していない電磁波吸収シートとを作製して、電磁波吸収特性を測定した。その結果を、表1、図3〜図5に示す。
表1において、磁性酸化鉄欄は、電磁波吸収シートに含まれる電磁波吸収材料としての磁性酸化鉄の種類を示し、「イプシロン」が、ガリウム置換イプシロン酸化鉄(ε−Ga0.47Fe1.53O3)を用いたものであること、また、「SrFe」が、SrFe10.56Al1.44O19を用いたものであることを示す。また、「含有量」欄には、ゴム製バインダーとして用いたシリコーンゴムKE−510−U(商品名:信越化学株式会社製)100部に対する、磁性酸化鉄の含有量を体積部(体積パーセント)で示している。
フィラー欄は、ゴム製バインダーに添加したフィラーの種類を示し、「CB」が、粒状の炭素材料であるカーボンブラックを示し、具体的には、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のカーボンブラック(ケッチェンブラックEC600JD:商品名)を用いたことを示す。また、「CNT」は、比較例として、カーボンナノチューブをフィラーとして添加したことを示し、具体的には韓国CNT社製のカーボンナノチューブC−tube100(製品名)を用いたことを示す。
なお、カーボンブラックの一次粒子径は34nm、BET値は1270m2/gである。また、カーボンナノチューブの直径は10〜40nm、長さが1〜25μm、BET値は〜200m2/gである。
フィラー欄に「無し」と記載した、比較例3〜比較例5の電磁波吸収シートでは、フィラーを添加していない。
なお、体積部の数値を求めるに当たっては、上記フィラーの添加量についての検討と同様に、イプシロン酸化鉄の密度を4.9g/cc、ストロンチウムフェライトの密度を5.1g/cc、シリコーンゴムの密度を1.1g/cc、カーボンブラックの見かけ密度を1.5g/cc、カーボンナノチューブの見かけ密度を2.0g/ccとして、重量部データに基づいて体積部に換算した。
表1において、フィラーとして粒状の炭素材料を添加した実施例1〜実施例13の電磁波吸収シートと、フィラーとしてカーボンナノチューブを添加した比較例1、比較例2の電磁波吸収シート、さらに、フィラーを添加していない比較例3〜比較例5の電磁波吸収シートそれぞれにおいて、ゴム製バインダーの含有量(体積部)をα、磁性酸化鉄の含有量(体積部)をβ、導電性フィラーの含有量(体積部)をγとしたときの、「γ/(α+β+γ)」の値と、「(β+γ)/(α+β+γ)」の値をパーセント(%)で示す。
また、表1における「厚み」は、電磁波吸収シートとしてプレス成型した後の厚みを示している。
このようにして形成した、実施例1〜実施例13と、比較例1〜比較例5の電磁波吸収シートに対し、フリースペース法を用いて電磁波吸収量(電磁波減衰量)を測定した。
具体的には、アンリツ株式会社製のミリ波ネットワークアナライザーME7838A(製品名)を用いて、送信アンテナから誘電体レンズを介して電磁波吸収シートに所定周波数の入力波(ミリ波)を照射し、電磁波吸収シートの裏側に配置された受信アンテナで透過する電磁波を計測した。照射される電磁波の強度と透過した電磁波の強度とをそれぞれ電圧値として把握し、その強度差から電磁波減衰量をdBで求めた。
また、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例5の電磁波吸収シートの誘電率を、アジレント・テクノロジー株式会社製のインピーダンス測定器4291B(製品名)を用いて、容量法によって測定した。より具体的には、電磁波吸収性組成部としての磁性コンパウンドを作製し、厚さ2mm、対角が120mmの正方形状に成型、架橋して測定試料とした。この試料を、測定電極に挟んで、テストフィクスチャ16453A(アジレント・テクノロジー株式会社製:製品名)を用いて測定周波数1GHzで測定し、測定結果を表1に示した。
図3に、実施例1の電磁波吸収シート(符号31)、実施例4の電磁波吸収シート(符号32)、実施例8の電磁波吸収シート(符号33)、実施例9の電磁波吸収シート(符号34)それぞれにおける電磁波吸収特性として、照射した電磁波の周波数に対する電磁波吸収度合いである透過減衰量の値を示す。
また、図4に、実施例1の電磁波吸収シート(符号41)、実施例8の電磁波吸収シート(符号42)、実施例11の電磁波吸収シート(符号43)、実施例12の電磁波吸収シート(符号44)、実施例13の電磁波吸収シート(符号45)それぞれにおける電磁波吸収特性を示す。
さらに、図5に、実施例1の電磁波吸収シート(符号51)、実施例7の電磁波吸収シート(符号52)、比較例3の電磁波吸収シート(符号53)、比較例4の電磁波吸収シート(符号54)それぞれにおける電磁波吸収特性を示す。
なお、それぞれの電磁波吸収シートにおける、透過減衰量の最大値(絶対値が最も大きい部分)の値(dB値)を、表1の「電磁波減衰量」欄に示している。
図3から、イプシロン酸化鉄の含有量が少なくなった場合でも、フィラーが多く含まれるようにすることで(実施例4、実施例8、実施例9)、−10dB以上の高い電磁波吸収特性を維持できる傾向にあることがわかる。
また、図4から、イプシロン酸化鉄の含有量とフィラーの含有量が同じであれば、電磁波吸収シートの厚みが厚くなるにつれて(実施例1、実施例7、実施例11、実施例12、実施例13)、電磁波減衰量が大きくなることがわかる。なお、図が煩雑になることから図4における図示を省略した実施例2もこの傾向を示している。
図5から、フィラーを添加することで磁性酸化鉄の含有量と電磁波吸収シートの厚みが同じ場合(実施例7と比較例3)でも電磁波吸収特性が向上すること、さらに、磁性酸化鉄の含有量が少なく、電磁波吸収シートの厚みが薄い場合でも、電磁波吸収特性を高くすることができること(実施例1と比較例4)がわかる。
さらに、表1から、粒状のカーボンブラックの量が3.2体積部以下であっても、1.2体積部までの範囲で電気抵抗値が10の10乗Ωより大きくなり、高い絶縁性を確保することができる(実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例10)。
また、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例5の検討結果から、全体として、電磁波吸収シートに粒状の炭素材料からなるフィラーを添加することで電磁波吸収シートの電磁波吸収特性を向上させることができ、樹脂製バインダー100部に対する磁性酸化鉄の体積部の含有量を60〜110部、磁性酸化鉄と導電性フィラーとを合わせた体積部としての含有率を示す「(β+γ)/(α+β+γ)」の値を43.0〜52.0の範囲とすることで、電磁波吸収特性が−8.5dB以上の高い電磁波減衰率が得られるとともに、面方向に伸びる弾性を有し、例えば湾曲した貼着面などに容易に貼着することが可能な電磁波吸収シートを実現できることが確認できた。
すなわち、本実施形態の電磁波吸収体である電磁波吸収シートは、電磁波吸収層を構成するバインダーとして、各種のゴム製バインダーが用いられているため、特に、電磁波吸収シートの面内方向において容易に伸び縮みする弾性を備えている。なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、ゴム製バインダーに磁性酸化鉄が含まれて電磁波吸収層が形成されているため、弾性とともに可撓性も高く、電磁波吸収シートの取り扱い時に電磁波吸収シートを丸めることができ、また、電磁波吸収シートを湾曲面に沿って容易に配置することができる。
さらに、この場合において、導電性フィラーの添加割合を示す「γ/(α+β+γ)」の値を体積部で1.2〜3.2の範囲とすることで、表面の電気抵抗値が10の10乗Ω(10GΩ)レベルを維持することができるので、電気回路部品の端子部などに直接触れた場合でも不所望なショートが生じることが抑制されたきわめて実用性の高い電磁波吸収シートを実現できることが確認できた。
なお、表1、図3〜図5に示した検討結果は、シート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートに限られるものではない。本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、上述した電磁波吸収性組成物を用いて作製されたものであるため、磁性コンパウンドである電磁波吸収性組成物についても、表1に示した電磁波吸収シートの場合と同様の結果が得られる。
[シート状ではない電磁波吸収体]
上記の実施形態では、電磁波吸収性組成物を層状に塗布して作製された電磁波吸収シートを例示して説明したが、本願で開示する電磁波吸収体はシート状のものに限られず、厚みを有するブロック形状のものとしても実現することができる。
ブロック形状の電磁波吸収体は、上述の電磁波吸収性シートの作製方法において説明した、電磁波吸収材料として磁性酸化鉄粉とゴム製バインダーとフィラーとを含んだ磁性コンパウンドを用いて、押出成型、射出成型などの成型法によって作製することができる。
例えば、磁性酸化鉄粉と、バインダーと、必要に応じて分散剤などを予め加圧式ニーダやエクストルーダー、ロールミルなどでブレンドし、ブレンドされたこれら材料を押出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給する。
なお、押出成型機としては、可塑性シリンダと、可塑性シリンダの先端に設けられたダイと、可塑性シリンダ内に回転自在に配設されたスクリューと、スクリューを駆動させる駆動機構とを備えた通常の押出成型機を用いることができる。
押出成型機のバンドヒータによって可塑化された溶融材料が、スクリューの回転によって前方に送られて先端からシート状に押し出すことで所定形状の電磁波吸収体を得ることができる。
また、磁性酸化鉄粉と、分散剤、バインダーを必要に応じて予めブレンドし、ブレンドされたこれら材料を射出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給し、可塑化シリンダ内においてスクリューで溶融混練の後、射出成型機の先端に接続した金型に溶融樹脂を射出することによっても、成型体としてのブロック状の電磁波吸収体を作製することができる。
なお、ブロック状の電磁波吸収体の作成法として上述した、押出成型や射出成型などの成型法は、成形される電磁波吸収体の厚さを所定の厚さに制限することで、電磁波吸収シートの作製法としても利用することができる。
所定の厚さを有するブロック状の電磁波吸収体の場合は、ゴム製のバインダーを用いていてもシート状の電磁波吸収体ほどの大きな弾性や可撓性を発揮することはできないが、弾性を備えていることで、例えば配置面が緩やかな湾曲面である場合や、配置面に凹凸がある場合でも容易に追従することができ、ノイズ源に対して電磁波吸収体を密着して配置することができる。
以上説明したように、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物、および、電磁波吸収体は、ゴム製のバインダーに電磁波吸収性材料としての磁性酸化鉄と、フィラーとを含むことによって、ミリ波帯域の高い周波数の電磁波を良好に吸収するペースト状の電磁波吸収性組成物、または、高い弾性を備え、特にシート状にした場合には可撓性を備えた電磁波吸収体として実現することができる。
なお、本願で開示する電磁波吸収性組成物、および、電磁波吸収体について、上記実施形態では、電磁波吸収性材料である磁性酸化鉄と、ゴム製バインダー、導電性フィラーの好ましい含有割合について、体積部を指標として用いて説明した。しかし、実際に、電磁波吸収性組成物や、この電磁波吸収性組成物を用いて電磁波吸収体を作製するに当たっては、重量部を用いてそれぞれの部材の混入割合を定めることが有益である。このため、本願で開示する電磁波吸収性組成物を作成するに当たっては、各部材の比重を用いて好ましい体積部となる重量部を求めることが好ましい。一方、電磁波吸収性組成物、または、電磁波吸収体として作製された物から、各部材の混入割合を解析するに当たっては、重量部については、熱分解法や化学分解法を用いることで、また、体積部については、試料の断面をSEMやTEMなどの顕微鏡を用いて拡大観察することで、それぞれ求めることができる。
さらに、上記実施形態では、電磁波吸収材料として主としてイプシロン酸化鉄を用いたものを例示して説明した。上述のように、イプシロン酸化鉄を用いることで、ミリ波帯域である30ギガヘルツから300ギガヘルツの電磁波を吸収する電磁波吸収シートを形成することかできる。また、Feサイトを置換する金属材料として、ロジウムなどを用いることによって、電磁波として規定される最高周波数である1テラヘルツの電磁波を吸収する電磁波吸収シートを実現することができる。
しかし、上述したように、本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層の電磁波吸収材料として用いられる磁性酸化鉄は、イプシロン酸化鉄には限られず、ストロンチウムフェライトをはじめとする六方晶フェライトを磁性酸化鉄として使用することができる。
フェライト系電磁吸収体としての六方晶フェライトは、76ギガヘルツ帯で電磁波吸収特性を発揮し、さらにストロンチウムフェライトも数十ギガヘルツ帯域に電磁波吸収特性を発揮する。このため、イプシロン酸化鉄以外にもこのようなミリ波帯域である30ギガヘルツから300ギガヘルツにおいて電磁波吸収特性を有する磁性酸化鉄の粒子と、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーとを用いて、電磁波吸収性組成物、または、電磁波吸収体を形成することで、ミリ波帯域の電磁波を吸収し弾性を有する電磁波吸収部材を実現することができる。
なお、本願で開示した電磁波吸収性組成物の製造に当たっては、各種ニーダの他にロールミル、エクストルーダーを用いることができる。また、成型はプレス成型の他に、押出成型、射出成型、カレンダ(ロール)成型とすることができる。
さらに、メディア分散機などを用い溶剤中に分散した後、スピンコート、ダイコート、グラビアコート(各塗布方式)で剥離基材状に塗布し、基材から剥離した後に(単膜あるいは積層化し)カレンダ処理を施し作製することができる。
また、本願で開示する電磁波吸収体は、上述のシート状、ブロック状のものに限られず、電磁波吸収性組成物を塗布して形成された薄膜状のものや、加熱プレスや射出成形によって形成されたコーン状などの特定の形状を有するものなども含まれる。
本願で開示する電磁波吸収性組成物、電磁波吸収体は、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収し、さらに、弾性を有する電磁波吸収材料として有用である。
1 電磁波吸収シート(電磁波吸収体)
1a イプシロン酸化鉄(電磁波吸収材料、磁性酸化鉄)
1b ゴム製バインダー
1c フィラー
本開示は、電磁波を吸収する性質を有する電磁波吸収性組成物と電磁波吸収体に関し、特に、電磁波吸収材料として磁性酸化鉄の粉体を備えてミリ波帯域以上の高い周波数の電磁波を吸収することが可能な電磁波吸収性組成物と電磁波吸収体に関する。
電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収性組成物が用いられている。電磁波吸収性組成物は、ブロック状の電磁波吸収体、シート状の電磁波吸収シートなど、電磁波吸収部材として使用される形態に対応して所定の形状に成型される。
一方、近年では、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、1テラヘルツ(THz)の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。このようなより高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収性組成物や電磁波吸収体においても、ギガヘルツ帯域からテラヘルツ帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望が高まっている。
従来、ミリ波帯以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収体として、25〜100ギガヘルツの範囲で電磁波吸収性能を発揮するイプシロン酸化鉄(ε−Fe2O3)結晶を磁性相に持つ粒子の充填構造を有する電磁波吸収体が提案されている(特許文献1参照)。また、イプシロン酸化鉄の微細粒子をバインダーとともに混練し、バインダーの乾燥硬化時に外部から磁界を印加してイプシロン酸化鉄粒子の磁場配向性を高めた、シート状の配向体についての提案がなされている(特許文献2参照)。
さらに、弾性を有する電磁波吸収シートとして、シリコーンゴムにカーボンナノチューブを分散させたセンチメートル波を吸収可能な電磁波吸収シートが提案されている(特許文献3参照)。
また、電磁波吸収材料としてイプシロン酸化鉄を用いた薄型の電磁波吸収体として、アルミニウムなどの平板状の金属基材上に電磁波吸収膜が積層形成されたものにおいて、電磁波吸収膜にイプシロン酸化鉄とカーボンナノチューブとを含んで比誘電率を6.5〜65の範囲としたものが提案されている(特許文献4参照)。
特開2008− 60484号公報
特開2016−135737号公報
特開2011−233834号公報
特開2016−111341号公報
電磁波を発生する発生源からの漏洩電磁波を遮蔽する場合、対象となる回路部品を覆う筐体などに電磁波吸収材を配置する必要があるが、特に、配置場所の形状が平面形状ではない場合には、固形のブロック形状や平板状の電磁波吸収体よりも可撓性や面内方向に伸びる弾性を備えて柔軟に変形可能なシート状の電磁波吸収体を用いることで利便性が向上する。また、例えば樹脂製のプリント基板上に電子部品が搭載された電気回路基板に対して、ペースト状の電磁波吸収性組成物を塗布して必要部分を覆うことによって、少ない電磁波吸収性組成物で効果的に、漏洩電磁波の遮蔽や外部からの妨害電磁波の影響を回避する構成を実現することができる。
しかし、ミリ波帯域である数十ギガヘルツ以上の周波数の電磁波を吸収できる電磁波吸収部材として、回路基板上に塗布できるような電磁波吸収性組成物や、弾性を有したシート状の電磁波吸収体は実現されていない。
本開示は、上記従来の課題を解決するために、ミリ波帯域以上の高い周波数の電磁波を良好に吸収することができ、ペースト状で所望する部分に塗布することができる電磁波吸収性組成物、および、容易に変形可能な柔軟性を備えた電磁波吸収体を実現することを目的とする。
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収性組成物は、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーと、電磁波吸収材料として、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄とを含むことを特徴とする。
また、本願で開示する電磁波吸収体は、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーと、電磁波吸収材料として、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄とを含み、入射した電磁波を反射する電磁波反射層を備えない非共振型であることを特徴とする。
本願で開示する電磁波吸収性組成物、および、電磁波吸収体は、いずれも、ミリ波帯域以上の高周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄を電磁波吸収材料として備えるため、数十ギガヘルツ以上の高い周波数帯域の電磁波を熱に変換して吸収することができる。また、ゴム製のバインダーを備えているため、ペースト状の電磁波吸収性塗料としての使用や、面内方向への所定の伸び量を備えた非共振型のシート状の電磁波吸収体としての使用をすることができる。
本実施形態にかかるシート状の電磁波吸収体の構成を説明する断面図である。
本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物における、フィラーの添加量と電気抵抗値との関係を説明するグラフである。
実施例の電磁波吸収シートにおける、照射した電磁波の周波数と透過減衰量との関係を示す図である。
電磁波入射方向の厚さを異ならせた実施例の電磁波吸収シートにおける、照射した電磁波の周波数と透過減衰量との関係を示す図である。
フィラーの添加量を異ならせた実施例の電磁波吸収シートと、フィラーを含まない比較例の電磁波吸収シートにおける、照射した電磁波の周波数と透過減衰量との関係を示す図である。
フィラーの添加に伴う、電磁波吸収性組成物の誘電率の変化と電気抵抗の変化との関係を示す図である。
本願で開示する電磁波吸収性組成物は、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーと、電磁波吸収材料として、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄とを含む。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収性組成物は、電磁波吸収材料の磁気共鳴によってミリ波帯域である30ギガヘルツ以上の高周波帯域の電磁波を吸収することができる。また、電磁波吸収材料とゴム製バインダーとを用いているため、ペースト状の電磁波吸収性組成物とすることができ、例えば樹脂製のプリント基板上に電子部品が搭載された電気回路基板に対して、ペースト状の電磁波吸収性組成物を塗布して必要部分を覆って漏洩電磁波の遮蔽などを行うことができる。さらに、粒状の炭素材料からなるフィラーを含んでいるため、電磁波吸収性組成物の電気抵抗値の低下を抑えつつ誘電率を高くすることができる。
なお、本明細書において「粒状の炭素材料」とは、炭素材料の一次粒子における最小径に対する最大径の比が1以上2程度までのものを言い、例えば、×100000倍の電子顕微鏡(SEM)で炭素材料からなるフィラーを撮影し、1枚の写真から任意の100個の粒子を選んで測定した平均値として求めることができる。また、本明細書における「粒状の炭素材料」には、炭素材料ではあるものの針状または筒状であるカーボンナノチューブは含まれず、この点において「非カーボンナノチューブ炭素材料」として認識できる。
本願で開示する電磁波吸収性組成物において、前記磁性酸化鉄がイプシロン酸化鉄、または、ストロンチウムフェライトのいずれかであることが好ましい。30ギガヘルツより高い周波数の電磁波を磁気共鳴によって吸収する電磁波吸収体としてのイプシロン酸化鉄やストロンチウムフェライトを電磁波吸収材料として用いることで、高周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収性組成物を実現することができる。
この場合において、前記イプシロン酸化鉄のFeサイトの一部が3価の金属原子で置換されていることが好ましい。このようにすることで、Feサイトを置換する材料によって磁気共鳴周波数が異なるイプシロン酸化鉄の特性を活かして、所望の周波数帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収性組成物を実現することができる。
また、前記ゴム製バインダー100体積部に対して、前記磁性酸化鉄が60体積部以上110体積部以下であり、かつ、前記ゴム製バインダーの体積部をα、前記磁性酸化鉄の体積部をβ、前記フィラーの体積部をγとしたとき、(β+γ)/(α+β+γ)×100の値が43.0以上52.0以下であることが好ましい。このようにすることで、容易に変形可能な弾性と、電磁波吸収性組成物を透過する電磁波の減衰量として−8.5dB以上の電磁波吸収特性とを確保することができる。
さらにこの場合において、γ/(α+β+γ)×100の値が1.2以上3.2以下であることがより好ましい。このようにすることで、例えば、電気回路基板上のノイズ源となる電子部品に直接塗布しても不所望なショートなどが生じにくい電磁波吸収性組成物を得ることできる。
また、本願で開示する電磁波吸収性組成物は、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーと、電磁波吸収材料として、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄とを含み、入射した電磁波を反射する電磁波反射層を備えない非共振型である。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収体は、電磁波吸収材料の磁気共鳴によってミリ波帯域である30ギガヘルツ以上の高周波帯域の電磁波を吸収することができる。また、電磁波吸収材料とゴム製バインダーとを用いているため、面内方向に伸びる弾性を備えたシート状の非共振型の電磁波吸収性体とすることができる。このため、例えば湾曲した部分などへの貼着を容易に行うことができる。さらに、粒状の炭素材料からなるフィラーを含んでいるため、電磁波吸収性組成物の電気抵抗値の低下を抑えつつ誘電率を高くすることができる。
本願で開示する電磁波吸収体において、前記磁性酸化鉄がイプシロン酸化鉄、または、ストロンチウムフェライトのいずれかであることが好ましい。30ギガヘルツより高い周波数の電磁波を磁気共鳴によって吸収する電磁波吸収体としてのイプシロン酸化鉄やストロンチウムフェライトを電磁波吸収材料として用いることで、高周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収体を実現することができる。
この場合において、前記イプシロン酸化鉄のFeサイトの一部が3価の金属原子で置換されていることが好ましい。このようにすることで、Feサイトを置換する材料によって磁気共鳴周波数が異なるイプシロン酸化鉄の特性を活かして、所望の周波数帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収体を実現することができる。
また、前記ゴム製バインダー100体積部に対して、前記磁性酸化鉄が60体積部以上110体積部以下であり、かつ、前記ゴム製バインダーの体積部をα、前記磁性酸化鉄の体積部をβ、前記フィラーの体積部をγとしたとき、(β+γ)/(α+β+γ)×100の値が43.0以上52.0以下であることが好ましい。このようにすることで、高い弾性と、電磁波減衰率が−8.5dB以上の高い電磁波吸収特性とを備えた電磁波吸収体を得ることができる。
さらにこの場合において、γ/(α+β+F)×100の値が1.2以上3.2以下であることがより好ましい。このようにすることで、例えば電子回路部品に直接載置した場合でも、不所望なショートが起きにくい電磁波吸収体を実現することができる。
また、本願で開示する電磁波吸収体において、電磁波の入射方向における厚みが400μm以上であることが好ましい。このようにすることで、透過する電磁波の吸収特性が減衰率として−10dB以上の電磁波吸収体を実現することができる。
さらに、いずれかの表面に接着層が積層形成されていることが好ましい。このようにすることで、被着物に容易に貼着できる電磁波吸収体を得ることができる。
以下、本願で開示する電磁波吸収性組成物と電磁波吸収体について、図面を参照して説明する。
(実施の形態)
[シート状の電磁波吸収体の構成]
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収体として、シート状に形成された電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。図1に示した電磁波吸収シートは、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物を材料として用いて、シート形状に作製された電磁波吸収体として把握することができる。
なお、図1は、本実施形態で説明する電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電磁波吸収シート1は、電磁波吸収材料である磁性酸化鉄粉1aと、ゴム製のバインダー1bと、炭素材料からなるフィラー1cとを含んで構成されている。
電磁波吸収シート1では、磁性酸化鉄粉1aが磁気共鳴を起こすことで、磁気損失によって電磁波を熱エネルギーに変換して吸収するものであるため、電磁波吸収シート1自体が透過する電磁波を吸収することができる。一般に、電磁波吸収シートの形態としては、電磁波吸収層の電磁波が入射する側とは反対側の表面に金属層からなる反射層(電磁波遮蔽層)を備え、反射層で反射した電磁波が再び電磁波吸収層を透過して射出される際の共振作用によって電磁波を吸収する共振型(反射型、または、λ/4型とも称する)のものと、反射層を備えずに、電磁波吸収層に入射した電磁波が入射側とは反対の側に透過する非共振型(透過型とも称する)のものとの2種類があるが、本実施形態で説明する電磁波吸収シートは、反射層を備えていない非共振型の電磁波吸収シートとして実現できる。電磁波吸収シートに用いられる反射層としては、良好な反射特性を実現するために金属箔や金属蒸着膜などが用いられるが、これらの反射層は弾性を有しているとは言えず、仮に電磁波吸収層が高い弾性を有していた場合でも、反射層と積層されることで、電磁波吸収シートとしての弾性が制限されてしまう。この点、本実施形態で説明する電磁波吸収シートは、磁性酸化鉄粉1aが磁気共鳴を起こして電磁波を吸収するために、非共振型の電磁波吸収シートであっても−8.5dB以上の高い電磁波減衰性を発揮することができる。
また、本実施形態で説明する電磁波吸収シート1は、シートを構成するバインダー1bとして、各種のゴム材料が利用される。このため、特に厚みが薄いシート形状とされている場合には、面内方向において容易に伸び縮みすることができる。また、高い弾性を有すると共に可撓性も高く、電磁波吸収シート1の取り扱い時に電磁波吸収シート1を丸めることができ、電磁波吸収シート1を湾曲面に沿って容易に配置することができる。
なお、電磁波吸収シートを形成するに当たって、電磁波吸収層の厚みが薄い場合には、シートとして一定の強度を維持し取り扱いの容易性を確保する観点から、電磁波吸収層を樹脂製の基材上に積層して電磁波吸収シートを形成する場合がある。この点に関し、本実施形態で説明する電磁波吸収シート1では、ゴム製バインダーを有することにより発揮できる高い弾性を維持するという観点から、さらに、非共振型の電磁波吸収シートでは、後述するようにシートの厚さが厚くなれば電磁波吸収特性が向上するため一定以上の厚さ(一例として400μm)を有したシートとして形成されることが好ましいという観点から、基材を伴わずに、電磁波吸収材料である磁性酸化鉄粉とゴム製のバインダーとフィラーとを含む、自立性のある電磁波吸収層でシートを構成することが好ましい。
一方で、電磁波吸収シートを、電磁波を吸収・遮蔽するために所定の場所に貼着する場合の利便性を考えると、電磁波吸収シートのいずれか一方の表面(図1における図中上方側または下方側)に、接着層を積層形成することが好ましい場合がある。
[電磁波吸収材料]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収材料である磁性酸化鉄粉1aとしてイプシロン酸化鉄の磁性粉を用いることができる。
イプシロン酸化鉄(ε−Fe2O3)は、酸化第二鉄(Fe2O3)において、アルファ相(α−Fe2O3)とガンマ相(γ−Fe2O3)との間に現れる相であり、逆ミセル法とゾルーゲル法とを組み合わせたナノ微粒子合成方法によって単相の状態で得られるようになった磁性材料である。
イプシロン酸化鉄は、数nmから数十nmの微細粒子でありながら常温で約20kOeという金属酸化物として最大級の保磁力を備え、さらに、歳差運動に基づくジャイロ磁気効果による自然磁気共鳴が数十ギガヘルツ以上のいわゆるミリ波帯の周波数帯域で生じるため、ミリ波帯域である30〜300ギガヘルツ、またはそれ以上の高周波数の電磁波を吸収するという高い効果を有する。
さらに、イプシロン酸化鉄は、結晶のFeサイトの一部をアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)などの3価の金属元素と置換された結晶とすることで、磁気共鳴周波数、すなわち、電磁波吸収材料として用いられる場合に吸収する電磁波の周波数を異ならせることができる。
例えば、ガリウム置換のイプシロン酸化鉄、すなわちε−GaxFe2-xO3の場合、置換量「x」を調整することで30ギガヘルツから150ギガヘルツ程度までの周波数帯域で吸収のピークを有し、アルミニウム置換のイプシロン酸化鉄、すなわちε−AlxFe2-xO3の場合、置換量「x」を調整することで100ギガヘルツから190ギガヘルツ程度の周波数帯域で吸収のピークを有する。さらに、置換する金属をロジウムとしたイプシロン酸化鉄、すなわちε−RhxFe2-xO3の場合には、180ギガヘルツからそれ以上と、吸収する電磁波の周波数帯域をより高い方向にシフトすることが可能である。このため、電磁波吸収シートで吸収したい周波数の自然共鳴周波数となるように、イプシロン酸化鉄のFeサイトと置換する元素の種類を決め、さらに、Feとの置換量を調整することで、吸収される電磁波の周波数を所望の値とすることができる。
イプシロン酸化鉄は、一部のFeサイトが金属置換された形態のものを含めて市販されているため、容易に入手することができる。
また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、電磁波吸収材料である磁性酸化鉄粉1aとして、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトなどの六方晶フェライトの磁性粉を用いることができる。六方晶フェライトは、スピネルフェライトなど他の構造のフェライト材料よりも磁気異方性が大きく、大きな保磁力を示すことから、高い電磁波吸収特性を有する電磁波吸収体として使用できる。
特に、ストロンチウムフェライトとしてSrFe12O19にAlを添加した系では、Alを添加することによって電磁波吸収を示す周波数を高周波側にシフトさせることができる。このため、例えば、60GHz帯の無線LANに対応した電磁波吸収シートを、磁性酸化鉄粉としてAlが添加されたストロンチウムフェライトを用いて実現することができる。
[ゴム製バインダー]
電磁波吸収シート1を構成するゴム製のバインダー1bには、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、クロロブレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSR)、ウレタンゴム(PUR)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、エチレン・酢酸ビニルゴム(EVA)、エピクロルヒドリンゴム(CO)、多硫化ゴム(T)、ウレタンゴム(U)など、各種のゴム材料を利用することができる。
また、室温でゴム弾性を有する材料というゴムの定義から、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー(SIS、スチレン- イソプレン共重合体、SBS、スチレン−ブタジエン共重合体)、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも、高温では流動性を有するものの室温ではゴム弾性を有するために、本実施形態で説明する電磁波吸収シート1のゴム製バインダー1bとして使用することができる。したがって、本明細書においてはこれらの材料も広くゴム材料に含めて説明する。
これらのゴム材料の中では、耐熱性が高いことから、アクリルゴム、シリコーンゴムを好適に用いることができる。アクリルゴムの場合、高温環境下におかれても耐油性が優れるとともに、比較的廉価でコストパフォーマンスにも優れている。また、シリコーンゴムの場合は、耐熱性に加え耐寒性も高い。さらに、物理的特性の温度に対する依存性が、合成ゴム中で一番少なく、耐溶剤性、耐オゾン性、耐候性にも優れている。さらに、電気絶縁性にもすぐれ、広い温度範囲、および、周波数領域にわたって物質的に安定している。
[フィラー]
本実施形態で説明する電磁波吸収シートでは、フィラー1cを添加することによって電磁波吸収特性を向上させることができる。
フィラー1cとしては、粒状の炭素材料を用いることが好ましい。具体的に、粒状の炭素材料としては、カーボンブラック(CB)が好適に用いられる。非カーボンナノチューブ炭素材料であるカーボンブラックとして、ファーネス法導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど各種導電性カーボンブラックを使用することかできる。
フィラー1cとして用いられる粒状の炭素材料は、比表面積が30〜2300m2/gのものを用いることができ、好ましくは、比表面積が300〜2000m2/gのものが、さらにより好ましくは、比表面積が800〜1800m2/gのものを用いることが好ましい。
[分散剤]
電磁波吸収性材料である磁性酸化鉄粉をゴム製バインダー内で良好に分散させるために、分散剤を用いることがより好ましい。
分散剤としては、リン酸基、スルホン酸基、カルボキシ基等の極性基を有する化合物を用いることができる。これらの中でも分子内にリン酸基を有するリン酸化合物を分散剤として用いることが好ましい。
リン酸化合物としては、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジクロリド等のアリールスルホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、プロピルホスホン酸などのアルキルホスホン酸、あるいは、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸などの多官能ホスホン酸などのリン酸化合物を含んでいる。これらのリン酸化合物は、難燃性を有するとともに、微細な磁性酸化鉄粉の分散剤として機能するため、バインダー内のイプシロン酸化鉄粒子やストロンチウムフェライトの粒子を良好に分散させることができる。
具体的には、和光純薬工業株式会社製、または、日産化学工業株式会社製のフェニルホスホン酸(PPA)城北化学工業株式会社製の酸化リン酸エステル「JP−502」(製品名)などを分散剤として使用することができる。
なお、本実施形態で説明する電磁波吸収シートに含ませる分散剤としては、上記したリン酸化合物の他にも、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸などの炭素数12〜18の脂肪酸〔RCOOH(Rは炭素数11〜17のアルキル基またはアルケニル基)〕、また、上記脂肪酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる金属石けん、上記脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、上記脂肪酸のアミド;ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5、オレフィンはエチレン、プロピレン等)銅フタロシアニンなどを使用することができる。さらに、分散剤としてシランやシランカップリング剤などを使用することができる。これら分散剤は、単独でも組み合わせて使用してもよい。
[電磁波吸収性組成物の製造方法、電磁波吸収性シートの作製方法]
ここで、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物の製造方法と、この電磁波吸収性組成物を用いた電磁波吸収体の一形態である電磁波吸収シートの作製方法について説明する。
本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物は、磁性酸化鉄粉とゴム製バインダーとフィラーとを含んだ磁性コンパウンドとして作製される。また、本実施形態にかかる電磁波吸収体としての電磁波吸収シートは、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物である磁性コンパウンドを所定の厚さでプレス成型処理することによって作製される。
まず、電磁波吸収性組成物である磁性コンパウンドを作製する。
磁性コンパウンドは、磁性酸化鉄粉と、ゴム製バインダーと、フィラーとを混練し、得られた混練物に架橋剤を混合して粘度を調整して得ることができる。
一例として、磁性酸化鉄粉として、ガリウム置換イプシロン酸化鉄(ε−Ga0.47Fe1.53O3)340重量部、ゴム製バインターとして、シリコーンゴムKE−510−U(商品名:信越化学株式会社製)100重量部、フィラーとして、ケッチェンブラックEC600JD(商品名:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)2.2重量部を加圧式の回分式ニーダで混練する。この混練物に、架橋剤として、2.5ジメチル−2.5ビスヘキサンC−8A(商品名:信越化学株式会社製)を3重量部混合する。
このようにして得られた電磁波吸収性組成物は、シリコーンゴムをベースとしているため、例えば回路基板上に搭載されてノイズ源となる特定の回路部品を覆うように塗布することができる。また、一般的なシリコーンゴムと同様に、隙間部分を埋める充填剤として使用することができるため、金属板を組み合わせて構成されたシールド筐体の隙間部分に注入することで、漏洩電磁波のシールド特性を向上させることができる。
なお、磁性コンパウンドは、例えば加熱することやUV光を照射することなどによって固めることができ、所望の形状を維持した電磁波吸収性組成物を得ることができる。
電磁波吸収体を作製する場合は、上記得られた電磁波吸収性組成物である磁性コンパウンドを一例として例えば油圧プレス機を用いて温度150℃でシート状に架橋・成型する。その後、恒温槽内において、例えば温度170℃で2次架橋処置を施し、所定形状の電磁波吸収体とすることができる。
[接着層]
図1では図示を省略したが、本実施形態にかかる電磁波吸収体としての電磁波吸収シート1において、シート主面のいずれか一方の表面に接着層を形成することができる。
接着層を設けることで、電磁波吸収シート1を、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面の所望の位置に容易に貼着することができる。特に、本実施形態の電磁波吸収シート1はゴム製バインダーを用いることで弾性を有しているため、接着層2によって湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。なお、接着層の材料、形成厚み、形成状態などを工夫して、接着層が、電磁波吸収シート1の弾性変形による伸びを妨げないように、例えばガラス点温度(Tg)が低い粘着剤を用いることが好ましい。
接着層としては、粘着テープなどの接着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm〜12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
また接着層の厚さは20μm〜100μmが好ましい。接着層の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シート全体の可撓性が小さくなってしまう虞れがある。また、接着層が厚いと電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。
なお、本願明細書において接着層とは、剥離不可能に貼着する接着層とすることができ、剥離可能な貼着を行う接着層とすることもできる。
また、電磁波吸収シートを所定の面に貼着するにあたって、電磁波吸収シートが接着層を備えていなくても、電磁波吸収シートが配置される部材の側の表面に接着性を備えさせて電磁波吸収シート1を貼り付けるようにすることができる。また、両面テープや接着剤を用いることで、所定の部位に電磁波吸収シートを貼着することができる。この点において、接着層は、本実施形態に示す電磁波吸収シートにおける必須の構成要件でないことは明らかである。
[フィラーの電気抵抗]
本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物では、ゴム製バインダーに粒状の炭素材料のフィラーを添加して電磁波吸収特性を向上させているが、フィラーが添加されることによって、電磁波吸収性組成物の電気抵抗値が低下する。電磁波吸収性組成物としての磁性コンパウンドを電気回路基板上のノイズ源となる電子部品に塗布するような場合、または、電磁波吸収シートを電気回路部品の端子に接触するように配置する場合などでは、電磁波吸収性組成物や電磁波吸収シートの電気抵抗値が一定以上でないと電子部品間でショートが生じるなどの不所望な事態となる。
そこで、電磁波吸収性組成物におけるフィラーの添加量とシート抵抗値との関係を、粒状の炭素材料としてフィラーにカーボンブラックを用いた実施例としての電磁波吸収性組成物と、フィラーにカーボンナノチューブを用いた比較例としての電磁波吸収性組成物とを作製して確認した。
図2は、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物において、フィラーとしてのカーボンブラックとカーボンナノチューブの添加量を変化させた場合のシート抵抗値を測定した結果を示す。
図2では、電磁波吸収性組成物にフィラーとして添加したカーボンブラック、または、カーボンナノチューブの添加量(体積部:体積パーセント)を変化させた場合のシート抵抗値の変化を示している。
なお、測定は、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物を磁性塗料として用いて、幅12.25mm×長さ150mm、厚さ1mmの電磁波吸収性シートを作製して行った。
表面抵抗値は、ヒューレットパッカード社製の高抵抗計(4329A:商品名)を用い、間隔12.25mm、曲率半径10mmの黄銅ブロック2個に、シート表面がブロックに当たるように巻き付け、短冊状のシートの両端に50gの重りを吊るして、黄銅ブロックそれぞれに検出計を当てて、表面電気抵抗を測定した。
電磁波吸収性組成物は、上記製造方法の説明部分で例示したガリウム置換イプシロン酸化鉄(ε−Ga0.47Fe1.53O3)を340部、ゴム製バインダーとしてシリコーンゴムKE−510−U(商品名:信越化学株式会社製)を100重量部用いた物に対して、カーボンブラックとして、ケッチェンブラックEC600JD(商品名:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を、また、カーボンナノチューブとして、C−tube100(商品名:韓国CNT社製)をそれぞれフィラーとして添加した。
フィラーの添加量は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ共に電磁波吸収シートを作製する際の磁性コンパウンドを製造する段階での重量部(重量パーセント)で求め、これをイプシロン酸化鉄の密度を4.9g/cc、シリコーンゴムの密度を1.1g/cc、カーボンブラックの見かけ密度を1.5g/cc、カーボンナノチューブの見かけ密度を2.0g/ccとして、体積部に換算して求めた。
図2に示すように、フィラーとしてカーボンブラックを添加した電磁波吸収性組成物におけるフィラーの添加量と電気抵抗値との関係を示す符号21のグラフから、添加量が3%程度までは、電気抵抗値が10の10乗Ω(10GΩ)レベルを維持できることがわかる。
なお、電気回路基板上で、不所望なショートを生じないためには、少なくとも1×10の10乗(10G)Ω程度のシート抵抗値が必要であると考えられる。しかし、フィラーとしてカーボンブラックを用いた本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物は、フィラーの添加量を体積部で3%程度以下に抑えると、10の10乗(10G)Ωレベルという、ショートを抑制するために十分な値の表面抵抗値が得られる。
一方、フィラーとしてカーボンナノチューブを添加した比較例としての電磁波吸収性組成物では、フィラーの添加量と電気抵抗値との関係を示す符号22のグラフから、添加量が体積部で1%程度であれば10の10乗Ω(10GΩ)レベルの電気抵抗値を実現できるが、添加量が1.5%となると10の10乗Ω以下となり、電気回路基板上の電子部品に直接塗布した場合にショートが生じる虞れが高くなる。
このように、フィラーとしてカーボンブラックを用いた場合に比べてカーボンナノチューブを用いた場合に、フィラーの添加量に対するシート抵抗値の低下度合いが大きくなるのは、カーボンナノチューブの形状が針状または筒状であり、また、粒子径がカーボンブラックの粒子径に比較して極めて小さいため、磁性コンパウンド内に電流が流れる経路が形成されやすいためと考えられる。
このことから、フィラーとして非カーボンナノチューブ炭素材料であるカーボンブラックなどの粒状の炭素材料を用いることで、フィラーとしてカーボンナノチューブを用いた場合と比較して、電気抵抗値の定価を抑制して不所望なショートが生じる虞れを抑えながら、炭素材料からなるフィラーの添加量を増やして電磁波吸収性組成物や電磁波吸収体の誘電率をあげて、電磁波吸収特性を向上させることができる。
図6は、添加される炭素材料のフィラーの添加量を変化させた場合の、電磁波吸収性組成物の誘電率の変化と電気抵抗の変化との関係を示す図である。
図6では、上述の図2に示した、炭素材料のフィラーの添加量と電気抵抗値との関係を求めた測定試料において、それぞれの電磁波吸収性組成物の誘電率を求めて、電気抵抗値との関係を改めてプロットし直したものである。
なお、誘電率は、アジレント・テクノロジー株式会社製のインピーダンス測定器4291B(製品名)を用いて、容量法によって測定した。より具体的には、電磁波吸収性組成部としての磁性コンパウンドを作製し、厚さ2mm、対角が120mmの正方形状に成型、架橋して測定試料とした。この試料を、測定電極に挟んで、テストフィクスチャ16453A(アジレント・テクノロジー株式会社製:製品名)を用いて測定周波数1GHzで測定した。
図6において符号61で示す実線が、フィラーとしてカーボンブラックを用いた場合の誘電率と電気抵抗値との関係を示す。フィラーとして粒状の炭素部材であるカーボンブラックを用いた場合には、電気抵抗値として10の10乗Ωレベルを維持した状態で、電磁波吸収性組成物の誘電率を13まで上げることができる。一方、フィラーとしてカーボンナノチューブを用いた場合を示す符号62の点線から、カーボンナノチューブをフィラーとして用いた場合には、電気抵抗値として10の10乗Ωを維持した状態では電磁波吸収性組成物の誘電率を10までしか上げることができず、誘電率を10以上にすると電気抵抗値が10の10乗Ωから急激に低下することが確認できる。
この結果、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物、または、電磁波吸収体では、フィラーとして非カーボンナノチューブ炭素材料である粒状の炭素材料を用いることで、フィラーの添加量を増やして電磁波吸収性組成物、または、電磁波吸収体の誘電率を上げて、電磁波吸収特性を向上させることができる。また、特に電磁波吸収体の場合には、誘電率を上げることで、軽量化、薄型化を実現することができる。
なお、電磁波吸収体においては、一般的に、電磁波吸収層のインピーダンス値を空気中(真空)のインピーダンス値と同じ値にするインピーダンス整合が行われる。電磁波吸収層のインピーダンスが空気中のインピーダンスと大きく異なった場合には、空気中から電磁波が電磁波吸収層に入射する際に不所望な散乱が生じて、共振型の電磁波吸収シートでは電磁波吸収特性の大幅な低下に繋がるからである。
本実施形態で示す電磁波吸収体としての電磁波吸収シートは、非共振型の電磁波吸収シートであるために、電磁波吸収シートのインピーダンスを空気中のインピーダンスに整合しないと電磁波吸収特性が大幅に低下するという事態は生じない。また、電磁波吸収シートの表面抵抗値が小さい場合には電磁波の表面反射が生じるが、特に電磁波吸収性組成物として電気回路部品に塗布された際に不所望なショートを引き起こさないという観点から、表面抵抗値を10の10乗Ω以上に維持された磁性コンパウンドによって形成された場合は、電磁波吸収シートの表面反射による電磁波吸収特性の低下は問題にならないと考えられる。
[電磁波吸収特性]
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収体としての電磁波吸収シートについて、電磁波吸収材料であるイプシロン酸化鉄、または、ストロンチウムフェライトの含有量とフィラーであるカーボンブラックの含有量とを変化させた場合について電磁波吸収シートを作製して電磁波吸収特性を測定した。また、比較例としてのフィラーとしてカーボンナノチューブを用いた電磁波吸収シートとフィラーを添加していない電磁波吸収シートとを作製して、電磁波吸収特性を測定した。その結果を、表1、図3〜図5に示す。
表1において、磁性酸化鉄欄は、電磁波吸収シートに含まれる電磁波吸収材料としての磁性酸化鉄の種類を示し、「イプシロン」が、ガリウム置換イプシロン酸化鉄(ε−Ga0.47Fe1.53O3)を用いたものであること、また、「SrFe」が、SrFe10.56Al1.44O19を用いたものであることを示す。また、「含有量」欄には、ゴム製バインダーとして用いたシリコーンゴムKE−510−U(商品名:信越化学株式会社製)100部に対する、磁性酸化鉄の含有量を体積部(体積パーセント)で示している。
フィラー欄は、ゴム製バインダーに添加したフィラーの種類を示し、「CB」が、粒状の炭素材料であるカーボンブラックを示し、具体的には、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のカーボンブラック(ケッチェンブラックEC600JD:商品名)を用いたことを示す。また、「CNT」は、比較例として、カーボンナノチューブをフィラーとして添加したことを示し、具体的には韓国CNT社製のカーボンナノチューブC−tube100(製品名)を用いたことを示す。
なお、カーボンブラックの一次粒子径は34nm、BET値は1270m2/gである。また、カーボンナノチューブの直径は10〜40nm、長さが1〜25μm、BET値は〜200m2/gである。
フィラー欄に「無し」と記載した、比較例3〜比較例5の電磁波吸収シートでは、フィラーを添加していない。
なお、体積部の数値を求めるに当たっては、上記フィラーの添加量についての検討と同様に、イプシロン酸化鉄の密度を4.9g/cc、ストロンチウムフェライトの密度を5.1g/cc、シリコーンゴムの密度を1.1g/cc、カーボンブラックの見かけ密度を1.5g/cc、カーボンナノチューブの見かけ密度を2.0g/ccとして、重量部データに基づいて体積部に換算した。
表1において、フィラーとして粒状の炭素材料を添加した実施例1〜実施例13の電磁波吸収シートと、フィラーとしてカーボンナノチューブを添加した比較例1、比較例2の電磁波吸収シート、さらに、フィラーを添加していない比較例3〜比較例5の電磁波吸収シートそれぞれにおいて、ゴム製バインダーの含有量(体積部)をα、磁性酸化鉄の含有量(体積部)をβ、導電性フィラーの含有量(体積部)をγとしたときの、「γ/(α+β+γ)」の値と、「(β+γ)/(α+β+γ)」の値をパーセント(%)で示す。
また、表1における「厚み」は、電磁波吸収シートとしてプレス成型した後の厚みを示している。
このようにして形成した、実施例1〜実施例13と、比較例1〜比較例5の電磁波吸収シートに対し、フリースペース法を用いて電磁波吸収量(電磁波減衰量)を測定した。
具体的には、アンリツ株式会社製のミリ波ネットワークアナライザーME7838A(製品名)を用いて、送信アンテナから誘電体レンズを介して電磁波吸収シートに所定周波数の入力波(ミリ波)を照射し、電磁波吸収シートの裏側に配置された受信アンテナで透過する電磁波を計測した。照射される電磁波の強度と透過した電磁波の強度とをそれぞれ電圧値として把握し、その強度差から電磁波減衰量をdBで求めた。
また、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例5の電磁波吸収シートの誘電率を、アジレント・テクノロジー株式会社製のインピーダンス測定器4291B(製品名)を用いて、容量法によって測定した。より具体的には、電磁波吸収性組成部としての磁性コンパウンドを作製し、厚さ2mm、対角が120mmの正方形状に成型、架橋して測定試料とした。この試料を、測定電極に挟んで、テストフィクスチャ16453A(アジレント・テクノロジー株式会社製:製品名)を用いて測定周波数1GHzで測定し、測定結果を表1に示した。
図3に、実施例1の電磁波吸収シート(符号31)、実施例4の電磁波吸収シート(符号32)、実施例8の電磁波吸収シート(符号33)、実施例9の電磁波吸収シート(符号34)それぞれにおける電磁波吸収特性として、照射した電磁波の周波数に対する電磁波吸収度合いである透過減衰量の値を示す。
また、図4に、実施例1の電磁波吸収シート(符号41)、実施例8の電磁波吸収シート(符号42)、実施例11の電磁波吸収シート(符号43)、実施例12の電磁波吸収シート(符号44)、実施例13の電磁波吸収シート(符号45)それぞれにおける電磁波吸収特性を示す。
さらに、図5に、実施例1の電磁波吸収シート(符号51)、実施例7の電磁波吸収シート(符号52)、比較例3の電磁波吸収シート(符号53)、比較例4の電磁波吸収シート(符号54)それぞれにおける電磁波吸収特性を示す。
なお、それぞれの電磁波吸収シートにおける、透過減衰量の最大値(絶対値が最も大きい部分)の値(dB値)を、表1の「電磁波減衰量」欄に示している。
図3から、イプシロン酸化鉄の含有量が少なくなった場合でも、フィラーが多く含まれるようにすることで(実施例4、実施例8、実施例9)、−10dB以上の高い電磁波吸収特性を維持できる傾向にあることがわかる。
また、図4から、イプシロン酸化鉄の含有量とフィラーの含有量が同じであれば、電磁波吸収シートの厚みが厚くなるにつれて(実施例1、実施例7、実施例11、実施例12、実施例13)、電磁波減衰量が大きくなることがわかる。なお、図が煩雑になることから図4における図示を省略した実施例2もこの傾向を示している。
図5から、フィラーを添加することで磁性酸化鉄の含有量と電磁波吸収シートの厚みが同じ場合(実施例7と比較例3)でも電磁波吸収特性が向上すること、さらに、磁性酸化鉄の含有量が少なく、電磁波吸収シートの厚みが薄い場合でも、電磁波吸収特性を高くすることができること(実施例1と比較例4)がわかる。
さらに、表1から、粒状のカーボンブラックの量が3.2体積部以下であっても、1.2体積部までの範囲で電気抵抗値が10の10乗Ωより大きくなり、高い絶縁性を確保することができる(実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例10)。
また、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例5の検討結果から、全体として、電磁波吸収シートに粒状の炭素材料からなるフィラーを添加することで電磁波吸収シートの電磁波吸収特性を向上させることができ、樹脂製バインダー100部に対する磁性酸化鉄の体積部の含有量を60〜110部、磁性酸化鉄と導電性フィラーとを合わせた体積部としての含有率を示す「(β+γ)/(α+β+γ)」の値を43.0〜52.0の範囲とすることで、電磁波吸収特性が−8.5dB以上の高い電磁波減衰率が得られるとともに、面方向に伸びる弾性を有し、例えば湾曲した貼着面などに容易に貼着することが可能な電磁波吸収シートを実現できることが確認できた。
すなわち、本実施形態の電磁波吸収体である電磁波吸収シートは、電磁波吸収層を構成するバインダーとして、各種のゴム製バインダーが用いられているため、特に、電磁波吸収シートの面内方向において容易に伸び縮みする弾性を備えている。なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、ゴム製バインダーに磁性酸化鉄が含まれて電磁波吸収層が形成されているため、弾性とともに可撓性も高く、電磁波吸収シートの取り扱い時に電磁波吸収シートを丸めることができ、また、電磁波吸収シートを湾曲面に沿って容易に配置することができる。
さらに、この場合において、導電性フィラーの添加割合を示す「γ/(α+β+γ)」の値を体積部で1.2〜3.2の範囲とすることで、表面の電気抵抗値が10の10乗Ω(10GΩ)レベルを維持することができるので、電気回路部品の端子部などに直接触れた場合でも不所望なショートが生じることが抑制されたきわめて実用性の高い電磁波吸収シートを実現できることが確認できた。
なお、表1、図3〜図5に示した検討結果は、シート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートに限られるものではない。本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、上述した電磁波吸収性組成物を用いて作製されたものであるため、磁性コンパウンドである電磁波吸収性組成物についても、表1に示した電磁波吸収シートの場合と同様の結果が得られる。
[シート状ではない電磁波吸収体]
上記の実施形態では、電磁波吸収性組成物を層状に塗布して作製された電磁波吸収シートを例示して説明したが、本願で開示する電磁波吸収体はシート状のものに限られず、厚みを有するブロック形状のものとしても実現することができる。
ブロック形状の電磁波吸収体は、上述の電磁波吸収性シートの作製方法において説明した、電磁波吸収材料として磁性酸化鉄粉とゴム製バインダーとフィラーとを含んだ磁性コンパウンドを用いて、押出成型、射出成型などの成型法によって作製することができる。
例えば、磁性酸化鉄粉と、バインダーと、必要に応じて分散剤などを予め加圧式ニーダやエクストルーダー、ロールミルなどでブレンドし、ブレンドされたこれら材料を押出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給する。
なお、押出成型機としては、可塑性シリンダと、可塑性シリンダの先端に設けられたダイと、可塑性シリンダ内に回転自在に配設されたスクリューと、スクリューを駆動させる駆動機構とを備えた通常の押出成型機を用いることができる。
押出成型機のバンドヒータによって可塑化された溶融材料が、スクリューの回転によって前方に送られて先端からシート状に押し出すことで所定形状の電磁波吸収体を得ることができる。
また、磁性酸化鉄粉と、分散剤、バインダーを必要に応じて予めブレンドし、ブレンドされたこれら材料を射出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給し、可塑化シリンダ内においてスクリューで溶融混練の後、射出成型機の先端に接続した金型に溶融樹脂を射出することによっても、成型体としてのブロック状の電磁波吸収体を作製することができる。
なお、ブロック状の電磁波吸収体の作成法として上述した、押出成型や射出成型などの成型法は、成形される電磁波吸収体の厚さを所定の厚さに制限することで、電磁波吸収シートの作製法としても利用することができる。
所定の厚さを有するブロック状の電磁波吸収体の場合は、ゴム製のバインダーを用いていてもシート状の電磁波吸収体ほどの大きな弾性や可撓性を発揮することはできないが、弾性を備えていることで、例えば配置面が緩やかな湾曲面である場合や、配置面に凹凸がある場合でも容易に追従することができ、ノイズ源に対して電磁波吸収体を密着して配置することができる。
以上説明したように、本実施形態にかかる電磁波吸収性組成物、および、電磁波吸収体は、ゴム製のバインダーに電磁波吸収性材料としての磁性酸化鉄と、フィラーとを含むことによって、ミリ波帯域の高い周波数の電磁波を良好に吸収するペースト状の電磁波吸収性組成物、または、高い弾性を備え、特にシート状にした場合には可撓性を備えた電磁波吸収体として実現することができる。
なお、本願で開示する電磁波吸収性組成物、および、電磁波吸収体について、上記実施形態では、電磁波吸収性材料である磁性酸化鉄と、ゴム製バインダー、導電性フィラーの好ましい含有割合について、体積部を指標として用いて説明した。しかし、実際に、電磁波吸収性組成物や、この電磁波吸収性組成物を用いて電磁波吸収体を作製するに当たっては、重量部を用いてそれぞれの部材の混入割合を定めることが有益である。このため、本願で開示する電磁波吸収性組成物を作成するに当たっては、各部材の比重を用いて好ましい体積部となる重量部を求めることが好ましい。一方、電磁波吸収性組成物、または、電磁波吸収体として作製された物から、各部材の混入割合を解析するに当たっては、重量部については、熱分解法や化学分解法を用いることで、また、体積部については、試料の断面をSEMやTEMなどの顕微鏡を用いて拡大観察することで、それぞれ求めることができる。
さらに、上記実施形態では、電磁波吸収材料として主としてイプシロン酸化鉄を用いたものを例示して説明した。上述のように、イプシロン酸化鉄を用いることで、ミリ波帯域である30ギガヘルツから300ギガヘルツの電磁波を吸収する電磁波吸収シートを形成することかできる。また、Feサイトを置換する金属材料として、ロジウムなどを用いることによって、電磁波として規定される最高周波数である1テラヘルツの電磁波を吸収する電磁波吸収シートを実現することができる。
しかし、上述したように、本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収層の電磁波吸収材料として用いられる磁性酸化鉄は、イプシロン酸化鉄には限られず、ストロンチウムフェライトをはじめとする六方晶フェライトを磁性酸化鉄として使用することができる。
フェライト系電磁吸収体としての六方晶フェライトは、76ギガヘルツ帯で電磁波吸収特性を発揮し、さらにストロンチウムフェライトも数十ギガヘルツ帯域に電磁波吸収特性を発揮する。このため、イプシロン酸化鉄以外にもこのようなミリ波帯域である30ギガヘルツから300ギガヘルツにおいて電磁波吸収特性を有する磁性酸化鉄の粒子と、ゴム製バインダーと、粒状の炭素材料からなるフィラーとを用いて、電磁波吸収性組成物、または、電磁波吸収体を形成することで、ミリ波帯域の電磁波を吸収し弾性を有する電磁波吸収部材を実現することができる。
なお、本願で開示した電磁波吸収性組成物の製造に当たっては、各種ニーダの他にロールミル、エクストルーダーを用いることができる。また、成型はプレス成型の他に、押出成型、射出成型、カレンダ(ロール)成型とすることができる。
さらに、メディア分散機などを用い溶剤中に分散した後、スピンコート、ダイコート、グラビアコート(各塗布方式)で剥離基材状に塗布し、基材から剥離した後に(単膜あるいは積層化し)カレンダ処理を施し作製することができる。
また、本願で開示する電磁波吸収体は、上述のシート状、ブロック状のものに限られず、電磁波吸収性組成物を塗布して形成された薄膜状のものや、加熱プレスや射出成形によって形成されたコーン状などの特定の形状を有するものなども含まれる。
本願で開示する電磁波吸収性組成物、電磁波吸収体は、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収し、さらに、弾性を有する電磁波吸収材料として有用である。
1 電磁波吸収シート(電磁波吸収体)
1a イプシロン酸化鉄(電磁波吸収材料、磁性酸化鉄)
1b ゴム製バインダー
1c フィラー