以下、図面を参照しつつ、静電モータについて説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
図1は、静電モータ1の概略構成図である。静電モータ1は、アクチュエータ2、駆動部3および制御部4を有する。図2(A)および図2(B)は、それぞれ、アクチュエータ2の模式的な斜視図および側面図である。アクチュエータ2は、主要な構成要素として、回転子(ロータ)10、回転軸11、帯電部12、固定子(ステータ)20,30および固定電極21,22,31,32を有する。静電モータ1は、駆動部3に入力された電気信号をもとに、帯電部12と固定電極21,22,31,32との間に静電気力を発生させて、回転子10を回転させることにより、電力から動力を取り出す。
図2(A)に示すように、アクチュエータ2は、回転子10が2枚の固定子20,30に挟まれて構成される。固定子20と回転子10の間、および回転子10と固定子30の間には、一定の間隔が空けられている。図2(B)では、簡単のために、横方向が回転子10および固定子20,30の円周方向(図2(A)の矢印C方向)に相当するように変形された側面図を示している。固定電極21,22は上側の固定子20の下面に形成され、固定電極31,32は下側の固定子30の上面に形成されている。なお、図1では、固定子20、回転子10および固定子30を互いに横にずらして並べ、固定子20が透明であるとして、それぞれを上方から見た状態を示している。この点は、後述する図5、図8、図11、図14および図21に示す別のアクチュエータについても同様である。
回転子10は、例えばシリコン基板、帯電用の電極面が設けられたガラスエポキシ基板、またはアルミ板などの低比重材といった周知の基板材料で構成される。図2(A)に示すように、回転子10は、例えば円板形状を有し、その中心で回転軸11に固定されている。図1および図2(B)に示すように、回転子10の上下面には、略台形状の帯電部12が、円周方向に等間隔、かつ回転軸11を中心として放射状に形成されている。また、回転子10では、重量を軽くするために、円周方向に沿って帯電部12と交互に、略台形状の複数の貫通孔(スリット)13が形成されている。回転子10は、駆動部3に入力された電気信号に応じて帯電部12と固定電極21,22,31,32との間で発生する静電気力により、回転軸11の周りを、円周方向である矢印C方向(時計回り)およびその逆方向(反時計回り)に回転可能である。
帯電量を多くするために回転子10の径を大きくして帯電面積を広くする場合であっても、貫通孔13を設けることで、回転子10の重量を減らすことができ、駆動エネルギーが低減する利点がある。貫通孔13を設けず、回転子10の貫通孔13と同位置に回転子10の基材などを配置すると、導電体である基材と帯電部12との間の電位差が低下するため、静電気力による駆動トルクが低下するが、貫通孔13を設けることで、帯電部12との電位差が最大となり、駆動トルクが増加する。
回転軸11は、回転子10の回転中心となる軸であり、図1および図2(A)に示すように、回転子10の中心を貫通している。図示しないが、回転軸11の上下端は、軸受けを介して静電モータ1の筐体に固定されている。なお、図2(B)では回転軸11の図示を省略している。
帯電部12は、エレクトレット材料で構成された薄膜であり、回転子10の上下面に回転軸11を中心として放射状に形成されている。帯電部12は、すべて同一の極性(例えば負)に帯電している。帯電部12のエレクトレット材料としては、例えば、CYTOP(登録商標)などの樹脂材料、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルデンジフルオライド(PVDF)もしくはポリビニルフルオライド(PVF)などの高分子材料(特に、吸湿性の低い高分子材料が好ましい。)、または、シリコン酸化物(SiO2)もしくはシリコン窒化物(SiN)などの無機材料が用いられる。
固定子20,30は、例えば、ポリイミド、液晶ポリマー(LCP)などのFPC基板、ガラスエポキシ基板、または透明導電膜(ITO)で配線されたポリエチレンテレフタレート(PET)による透明基板などの周知の基板材料で構成される。図2(A)に示すように、固定子20,30は、例えば円板形状を有し、回転子10を挟むようにその上下に配置されている。固定子20は、回転子10の上面に対向して回転子10の上側に配置され、固定子30は、回転子10の下面に対向して回転子10の下側に配置されている。固定子20,30は、回転子10とは異なり、静電モータ1の筐体に固定されている。
固定電極21,22,31,32は、電圧が印加されて回転子10を駆動するための電極であり、図1に示すように、それぞれ略台形状の複数の電極で構成される。固定電極21,22は固定子20の下面(回転子10の上面との対向面)において、固定電極31,32は固定子30の上面(回転子10の下面との対向面)において、それぞれ円周方向に交互に、かつ回転軸11を中心とする放射状に形成されている。同じ組の固定電極(すなわち、同じ参照符号で表される複数の固定電極)同士は、円周方向に間隔を空けて形成され、かつ等間隔に配置されている。
回転軸11を中心とする同一円周上では、個々の帯電部12と個々の固定電極の幅はすべて同じである。また、回転子10の各面の帯電部12と各組の固定電極の個数は、すべて同じである。1つの固定電極21とそれに隣接する固定電極22の円周方向の幅を1周期とすると、固定電極21,22の配置位置は、固定電極31,32の配置位置に対して1/4周期分、矢印C方向にずれている。すなわち、回転子10の回転方向における固定電極21,22と固定電極31,32との配置位置は、互いに位相がずれた関係にある。この位相ずれにより、固定子20,30の一方における1つの固定電極は、円周方向において、固定子20,30の他方における2つの固定電極に重なる。
駆動部3は、アクチュエータ2の駆動回路であり、制御部4から入力された制御信号に応じて、所定の駆動周波数で極性が交互に切り替わる交番電圧(駆動パルス)を固定電極21,22および固定電極31,32に印加する。固定電極21,22,31,32の極性は、この駆動パルスの波形に応じて変化する。駆動部3は、駆動パルスに応じて固定電極21,22,31,32に選択的に通電することで、複数の帯電部12と固定電極21,22,31,32との間に発生する静電気力により、回転子10を回転させる。
制御部4は、CPUおよびメモリを含むマイクロコンピュータで構成され、アクチュエータ2を駆動するための制御信号を生成して駆動部3に入力する。
図3は、アクチュエータ2の駆動パルスの例を示す図である。第1〜第4電極は、図1の固定電極31,21,32,22にそれぞれ相当する。図3では、横軸が時間tであり、駆動パルスの1周期内に第1〜第4電極のそれぞれに印加される電圧の波形を示している。第1〜第4電極の波形は、それぞれ半周期ずつ、対応する電極が帯電部12の極性とは逆の正電位になる期間と、その電極が負電位になる期間とを繰り返す。第1〜第4電極は、隣接する2つの固定電極の幅を1周期として1/4周期ずつ、回転子10の回転方向(円周方向)にこの順序でずれて配置されているため、それらの波形が正電位に切り替わるタイミングt1〜t4も、同じ順序で1/4周期ずつずれている(t1<t2<t3<t4)。
すなわち、第1〜第4電極は、駆動パルスの1周期内で、円周方向の配置順序と同じ順序で通電されて、正電位になる。図3の例では、時刻t1〜t4をそれぞれ起点とする1/4周期ずつの期間を(A)〜(D)とすると、期間(A)では第1、第4電極が、期間(B)は第1、第2電極が、期間(C)では第2、第3電極が、期間(D)では第3、第4電極が、それぞれ正電位になる。したがって、アクチュエータ2では、常に同時に2組の電極が駆動されており、駆動パルスの1周期における同時に通電される電極の組数の平均も2個である。このため、アクチュエータ2を有する静電モータ1では、駆動パルスの1周期内に第1〜第4電極のうちで同時に通電される電極の組数の平均は、固定子20の固定電極の組数(2組)と固定子30の固定電極の組数(2組)との平均に等しい。
図4(A)〜図4(D)は、アクチュエータ2の動作の説明図である。これらの図は、縦方向と横方向がそれぞれアクチュエータ2の厚さ方向と円周方向に相当する模式的な縦断面図である。各図の上から順に、固定子20の第2、第4電極(固定電極21,22)、回転子10の上面および下面の帯電部12、ならびに固定子30の第1、第3電極(固定電極31,32)を示している。第2、第4電極と第1、第3電極はそれぞれ同一面に形成されており、それらの鉛直方向の高さは同じであるが、各図では、図示をわかりやすくするために、これらの電極を縦方向にずらしている。図4(A)〜図4(D)は、図3に示した(A)〜(D)の期間にそれぞれ対応し、これらの期間中に正電位になる電極を強調して示しており、また、帯電部12と第1〜第4電極との間に働く静電気力および回転子10の回転方向を矢印で示している。
図示した例では、最初に、図4(A)に示すように、円周方向において帯電部12が第3電極と丁度重なり、第2、第4電極と部分的に重なり、かつ第1電極とは重ならない位置で回転子10が停止しており、この状態で図3の駆動パルスが印加されたとする。時刻t1からの期間(A)では、図4(A)に示すように、第1、第4電極が正電位であるため、回転子10は、帯電部12と重なる第4電極から引力を受けて、矢印C方向(図中右方向)に回転する。
続いて、時刻t2からの期間(B)では、図4(B)に示すように、第1、第2電極が正電位であるため、回転子10は、帯電部12と重なるこれらの電極から引力を受けて、矢印C方向にさらに回転する。続いて、時刻t3からの期間(C)では、図4(C)に示すように、第2、第3電極が正電位であるため、回転子10は、帯電部12と重なるこれらの電極から引力を受けて、矢印C方向にさらに回転する。続いて、時刻t4からの期間(D)では、図4(D)に示すように、第3、第4電極が正電位であるため、回転子10は、帯電部12と重なるこれらの電極から引力を受けて、矢印C方向にさらに回転する。期間(D)以降の動作も上記と同様である。
アクチュエータ2では、駆動パルスの1周期内では常に、円周方向における個々の帯電部12の幅内に、第1〜第4電極のうち3つまたは4つの少なくとも一部が重なっており、回転子10は、これらのうちで正電位である2つの電極から円周方向の引力を受ける。図3の駆動パルスにより、第1〜第4電極は円周方向の配置順序と同じ順序で正電位になり、矢印C方向(正方向)に連続的に駆動力(トルク)が発生する。最初の回転子10の停止位置が図示した例とは異なる場合でも、同様に、正方向に連続的にトルクが発生する。このため、アクチュエータ2を有する静電モータ1では、帯電部と固定電極との静止時の位置関係にかかわらず、図3の駆動パルスにより回転子10を停止状態から安定的に起動して正方向に回転させることができる。
また、固定子20の下面(回転子10の上面との対向面)の固定電極と、固定子30の上面(回転子10の下面との対向面)の固定電極とが、位相のずれがなく配置されている場合には、駆動パルスの1周期内では常に、円周方向における個々の帯電部12の幅内に、第1〜第4電極のうち2つまたは4つの少なくとも一部が重なる。
図5は、別のアクチュエータ2Aの概略構成図である。アクチュエータ2Aは、固定電極の組数および配置以外の点では、アクチュエータ2と同じ構成を有する。静電モータ1は、アクチュエータ2に代えてアクチュエータ2Aを有してもよい。アクチュエータ2Aの固定子20,30は、それぞれ3組の固定電極21〜23,31〜33を有し、これらはそれぞれ略台形状の複数の電極で構成される。固定電極21〜23は固定子20の下面において、固定電極31〜33は固定子30の上面において、それぞれ円周方向にこの順序で、回転軸11を中心とする放射状に形成されている。同じ組の固定電極同士は、円周方向に間隔を空けて形成され、かつ等間隔に配置されている。
回転軸11を中心とする同一円周上では、個々の固定電極の幅はすべて同じであるが、その大きさは、個々の帯電部12の幅の2/3である。また、回転子10の各面の帯電部12と各組の固定電極の個数は、すべて同じである。1つの固定電極21とそれに隣接する固定電極22,23の円周方向の幅を1周期とすると、固定電極21〜23の配置位置は、固定電極31〜33の配置位置に対して1/12周期分、矢印C方向にずれている。
図6は、アクチュエータ2Aの駆動パルスの例を示す図である。第1〜第6電極は、図5の固定電極31,21,32,22,33,23にそれぞれ相当する。第1〜第6電極は、円周方向にこの順序でずれて配置されているため、駆動パルスの1周期内で第1〜第6電極が正電位になる半周期の期間も、同じ順序で現れる。特に、固定電極21〜23と固定電極31〜33との位置ずれ量に対応して、第2、第4、第6電極の波形の位相は、第1、第3、第5電極の波形の位相に対して1/12周期分遅れている。
図6の例では、第1電極が正電位になる図中左端の時刻から1/12周期分ずつの長さの期間を順に(A)〜(D)とすると、期間(A)では第1、第5、第6電極が正電位になり、期間(B)では第1、第2、第5、第6電極が正電位になり、期間(C)では第1、第2、第6電極が正電位になり、期間(D)では第1、第2電極が正電位になる。駆動パルスの1周期分の期間でみると、アクチュエータ2Aでは、同時に2組から4組の電極が駆動されており、同時に通電される電極の組数の平均は3個である。このため、アクチュエータ2Aを有する静電モータでは、駆動パルスの1周期内に第1〜第6電極のうちで同時に通電される電極の組数の平均は、固定子20の固定電極の組数(3組)と固定子30の固定電極の組数(3組)との平均に等しい。
図7(A)〜図7(D)は、アクチュエータ2Aの動作の説明図である。各図では、図4(A)〜図4(D)と同様に、上から順に、固定子20の第2、第4、第6電極(固定電極21〜23)、回転子10の上面および下面の帯電部12、ならびに固定子30の第1、第3、第5電極(固定電極31〜33)を示している。図7(A)〜図7(D)は、図6に示した(A)〜(D)の期間にそれぞれ対応し、これらの期間中に正電位になる電極を強調して示しており、また、帯電部12と第1〜第6電極との間に働く静電気力および回転子10の回転方向を矢印で示している。
図示した例では、最初に、図7(A)に示すように、円周方向において帯電部12が第3〜第6電極と重なり、かつ第1、第2電極とは重ならない位置で回転子10が停止しており、この状態で図6の駆動パルスが印加されたとする。期間(A)では、図7(A)に示すように、第1、第5、第6電極が正電位であるため、回転子10は、帯電部12の斜め前方に近接する第1電極、および帯電部12と重なる第5、第6電極から引力を受けて、矢印C方向(図中右方向)に回転する。続く期間(B)〜(D)でも同様に、図7(B)〜図7(D)に示すように、回転子10は、第1〜第6電極のうちで、帯電部12と重なりかつ正電位である電極から引力を受ける。それぞれの期間において、各電極からの引力を合成すると、正味の引力は矢印C方向の向きであるため、回転子10は、矢印C方向にさらに回転する。期間(D)以降の動作も上記と同様である。
アクチュエータ2Aでは、駆動パルスの1周期内では常に、円周方向における個々の帯電部12の幅内に、第1〜第6電極のうち4つまたは5つの少なくとも一部が重なっており、回転子10は、これらのうちで正電位である2〜4つの電極から円周方向の引力を受ける。図6の駆動パルスにより、第1〜第6電極は円周方向の配置順序と同じ順序で正電位になり、正方向に連続的にトルクが発生するため、アクチュエータ2Aを有する静電モータでも、帯電部と固定電極との静止時の位置関係にかかわらず、回転子10を安定的に起動して正方向に回転させることができる。
また、固定子20の下面(回転子10の上面との対向面)の固定電極と、固定子30の上面(回転子10の下面との対向面)の固定電極とが、位相のずれがなく配置されている場合には、駆動パルスの1周期内では常に、円周方向における個々の帯電部12の幅内に、第1〜第6電極のうち4つまたは6つの少なくとも一部が重なる。
図8は、さらに別のアクチュエータ2Bの概略構成図である。アクチュエータ2Bは、固定電極の組数および配置以外の点では、アクチュエータ2と同じ構成を有する。静電モータ1は、アクチュエータ2に代えてアクチュエータ2Bを有してもよい。アクチュエータ2Bの固定子20は下面に、固定子30は上面に、それぞれ4組の固定電極21〜24,31〜34を有し、これらはそれぞれ略台形状の複数の電極で構成される。同じ組の固定電極同士は、円周方向に間隔を空けて形成され、かつ等間隔に配置されている。
固定電極21,23は固定子20の内周側(回転軸11に近い側)において交互に、固定電極22,24は固定電極21,23よりも外周側(回転軸11から遠い側)において交互に、かつそれぞれ回転軸11を中心とする放射状に形成されている。同様に、固定電極31,33は固定子30の内周側において交互に、固定電極32,34は固定電極31,33よりも外周側において交互に、かつそれぞれ回転軸11を中心とする放射状に形成されている。言い換えると、固定電極21,23および固定電極22,24ならびに固定電極31,33および固定電極32,34は、固定子20,30上で回転軸11を中心として同心円状に配置されている。
回転軸11を中心とする同一円周上では、個々の帯電部12と個々の固定電極の幅はすべて同じである。また、回転子10の各面の帯電部12と各組の固定電極の個数は、すべて同じである。1つの固定電極21とそれに隣接する固定電極23の円周方向の幅を1周期とすると、固定電極22,24の配置位置は、固定電極21,23の配置位置に対して1/4周期分、矢印C方向にずれている。同様に、固定電極32,34の配置位置は、固定電極31,33の配置位置に対して1/4周期分、矢印C方向にずれており、固定電極21〜24の配置位置は、固定電極31〜34の配置位置に対して1/8周期分、矢印C方向にずれている。
図9は、アクチュエータ2Bの駆動パルスの例を示す図である。第1〜第8電極は、図8の固定電極31,21,32,22,33,23,34,24にそれぞれ相当する。第1〜第8電極は、隣接する2つの固定電極の幅を1周期として1/8周期ずつ、円周方向にこの順序でずれて配置されているため、駆動パルスの1周期内で第1〜第8電極が正電位になる半周期の期間も、1/8周期ずつずれて、同じ順序で現れる。
図9の例では、第1電極が正電位になる図中左端の時刻から1/8周期分ずつの長さの期間を順に(A)〜(D)とすると、期間(A)では第1、第6〜第8電極が正電位になり、期間(B)では第1、第2、第7、第8電極が正電位になり、期間(C)では第1〜第3、第8電極が正電位になり、期間(D)では第1〜第4電極が正電位になる。アクチュエータ2Bでは、常に同時に4組の電極が駆動されており、駆動パルスの1周期における同時に通電される電極の組数の平均も4個である。このため、アクチュエータ2Bを有する静電モータでは、駆動パルスの1周期内に第1〜第8電極のうちで同時に通電される電極の組数の平均は、固定子20の固定電極の組数(4組)と固定子30の固定電極の組数(4組)との平均に等しい。
図10(A)〜図10(D)は、アクチュエータ2Bの動作の説明図である。各図では、図4(A)〜図4(D)と同様に、上から順に、固定子20の第2、第4、第6、第8電極(固定電極21〜24)、回転子10の上面および下面の帯電部12、ならびに固定子30の第1、第3、第5、第7電極(固定電極31〜34)を示している。図10(A)〜図10(D)は、図9に示した(A)〜(D)の期間にそれぞれ対応し、これらの期間中に正電位になる電極を強調して示しており、また、帯電部12と第1〜第8電極との間に働く静電気力および回転子10の回転方向を矢印で示している。
図示した例では、最初に、図10(A)に示すように、円周方向において帯電部12が第5電極と丁度重なり、第2〜第4、第6〜第8電極と部分的に重なり、かつ第1電極とは重ならない位置で回転子10が停止しており、この状態で図9の駆動パルスが印加されたとする。期間(A)では、図10(A)に示すように、第1、第6〜第8電極が正電位であるため、回転子10は、帯電部12と重なる第6〜第8電極から引力を受けて、矢印C方向(図中右方向)に回転する。続く期間(B)〜(D)でも同様に、図10(B)〜図10(D)に示すように、回転子10は、第1〜第8電極のうちで、帯電部12と重なりかつ正電位である電極から引力を受ける。それぞれの期間において、各電極からの引力を合成すると、正味の引力は矢印C方向の向きであるため、回転子10は、矢印C方向にさらに回転する。期間(D)以降の動作も上記と同様である。
アクチュエータ2Bでは、駆動パルスの1周期内では常に、円周方向における個々の帯電部12の幅内に、第1〜第8電極のうち7つまたは8つの少なくとも一部が重なっており、回転子10は、これらのうちで正電位である3〜4つの電極から円周方向の引力を受ける。図9の駆動パルスにより、第1〜第8電極は円周方向の配置順序と同じ順序で正電位になり、正方向に連続的にトルクが発生するため、アクチュエータ2Bを有する静電モータでも、帯電部と固定電極との静止時の位置関係にかかわらず、回転子10を安定的に起動して正方向に回転させることができる。
また、固定子20の下面(回転子10の上面との対向面)の固定電極と、固定子30の上面(回転子10の下面との対向面)の固定電極とが、位相のずれがなく配置されている場合には、駆動パルスの1周期内では常に、円周方向における個々の帯電部12の幅内に、第1〜第8電極のうち6つまたは8つの少なくとも一部が重なる。
図11は、さらに別のアクチュエータ2Cの概略構成図である。アクチュエータ2Cは、固定電極の組数および配置以外の点では、アクチュエータ2と同じ構成を有する。静電モータ1は、アクチュエータ2に代えてアクチュエータ2Cを有してもよい。アクチュエータ2Cでは、固定子20は下面に4組の固定電極21〜24を有し、固定子30は上面に3組の固定電極31〜33を有する。すなわち、アクチュエータ2Cでは、アクチュエータ2,2A,2Bとは異なり、固定子20の固定電極の組数と固定子30の固定電極の組数とは互いに異なる。固定電極21〜24の形状および配置は、アクチュエータ2Bのものと同じであり、固定電極31〜33の形状および配置は、アクチュエータ2Aのものと同じである。
図12は、アクチュエータ2Cの駆動パルスの例を示す図である。第1〜第7電極は、図11の固定電極31,21,32,22,23,33,24にそれぞれ相当する。第1〜第7電極は、円周方向にこの順序でずれて配置されているため、駆動パルスの1周期内で第1〜第7電極が正電位になる半周期の期間も、同じ順序で現れる。
図12の例では、第1電極が正電位になる図中左端の時刻から1/12周期分ずつの長さの期間を順に(A)〜(D)とすると、期間(A)では第1、第5〜第7電極が正電位になり、期間(B)では第1、第2、第6、第7電極が正電位になり、期間(C),(D)では第1、第2、第7電極が正電位になる。駆動パルスの1周期分の期間でみると、アクチュエータ2Cでは、同時に3組または4組の電極が駆動されており、同時に通電される電極の組数の平均は3.5個である。このため、アクチュエータ2Cを有する静電モータでは、駆動パルスの1周期内に第1〜第7電極のうちで同時に通電される電極の組数の平均は、固定子20の固定電極の組数(4組)と固定子30の固定電極の組数(3組)との平均に等しい。
図13(A)〜図13(D)は、アクチュエータ2Cの動作の説明図である。各図では、図4(A)〜図4(D)と同様に、上から順に、固定子20の第2、第4、第5、第7電極(固定電極21〜24)、回転子10の上面および下面の帯電部12、ならびに固定子30の第1、第3、第6電極(固定電極31〜33)を示している。図13(A)〜図13(D)は、図12に示した(A)〜(D)の期間にそれぞれ対応し、これらの期間中に正電位になる電極を強調して示しており、また、帯電部12と第1〜第7電極との間に働く静電気力および回転子10の回転方向を矢印で示している。
図示した例では、最初に、図13(A)に示すように、円周方向において帯電部12が第2〜第7電極と重なり、かつ第1電極とは重ならない位置で回転子10が停止しており、この状態で図12の駆動パルスが印加されたとする。期間(A)では、図13(A)に示すように、第1、第5〜第7電極が正電位であるため、回転子10は、帯電部12の斜め前方に近接する第1電極、および帯電部12と重なる第5〜第7電極から引力を受けて、矢印C方向(図中右方向)に回転する。続く期間(B)〜(D)でも同様に、図13(B)〜図13(D)に示すように、回転子10は、第1〜第7電極のうちで、帯電部12と重なりかつ正電位である電極から引力を受ける。それぞれの期間において、各電極からの引力を合成すると、正味の引力は矢印C方向の向きであるため、回転子10は、矢印C方向にさらに回転する。期間(D)以降の動作も上記と同様である。
アクチュエータ2Cでは、駆動パルスの1周期内では常に、円周方向における個々の帯電部12の幅内に、第1〜第7電極のうち5つから7つの少なくとも一部が重なっており、回転子10は、これらのうちで正電位である3〜4つの電極から円周方向の引力を受ける。図12の駆動パルスにより、第1〜第7電極は円周方向の配置順序と同じ順序で正電位になり、正方向に連続的にトルクが発生するため、アクチュエータ2Cを有する静電モータでも、帯電部と固定電極との静止時の位置関係にかかわらず、回転子10を安定的に起動して正方向に回転させることができる。
図14は、さらに別のアクチュエータ2Dの概略構成図である。アクチュエータ2Dは、固定電極の配置以外の点では、図5のアクチュエータ2Aと同じ構成を有する。静電モータ1は、アクチュエータ2に代えてアクチュエータ2Dを有してもよい。アクチュエータ2Dでも、アクチュエータ2Aと同様に、3組の固定電極21〜23が固定子20の下面に、3組の固定電極31〜33が固定子30の上面に、それぞれ円周方向にこの順序で、回転軸11を中心とする放射状に形成されている。しかしながら、アクチュエータ2Dでは、アクチュエータ2Aとは異なり、固定電極21〜23と固定電極31〜33とは位相差なしで配置されている。すなわち、固定電極21と固定電極31、固定電極22と固定電極32、および固定電極23と固定電極33の円周方向の配置位置はそれぞれ揃っており、各固定電極は鉛直方向に丁度重なって配置されている。
図15(A)はアクチュエータ2Dの駆動パルスの例を示す図であり、図15(B)は回転子10の帯電部12と各固定電極との位置関係を示す図である。第1〜第6電極は、図14の固定電極31,21,32,22,33,23にそれぞれ相当する。アクチュエータ2Dでは、第1電極と第2電極、第3電極と第4電極、および第5電極と第6電極の円周方向の配置位置がそれぞれ揃っているため、駆動パルスは3相となる。すなわち、第1、第2電極に印加される駆動パルスU1,U2、第3、第4電極に印加される駆動パルスV1,V2、および第5、第6電極に印加される駆動パルスW1,W2はそれぞれ同位相(同じパターン)である。アクチュエータ2Dでは、駆動パルスの1周期T内で、正電位への立ち上がりは3回現れる。
第1〜第6電極の位置ずれ量に対応して、駆動パルスU1,U2、駆動パルスV1,V2、および駆動パルスW1,W2は、2/3周期ずつの位相差で、この順にそれぞれ半周期の期間、正電位になる。駆動パルスの1周期分の期間でみると、アクチュエータ2Dでは、同時に2組または4組の電極が駆動されており、同時に通電される電極の組数の平均は3個である。このため、アクチュエータ2Dを有する静電モータでは、駆動パルスの1周期内に第1〜第6電極のうちで同時に通電される電極の組数の平均は、固定子20の固定電極の組数(3組)と固定子30の固定電極の組数(3組)との平均に等しい。
アクチュエータ2Dでは、駆動パルスの1周期内では常に、円周方向における個々の帯電部12の幅内に、第1〜第6電極のうち4つまたは6つの少なくとも一部が重なっており、回転子10は、これらのうちで正電位である2つまたは4つの電極から円周方向の引力を受ける。図15(A)の駆動パルスにより、第1〜第6電極は円周方向の配置順序と同じ順序で正電位になり、正方向に連続的にトルクが発生するため、アクチュエータ2Dを有する静電モータでも、帯電部と固定電極との静止時の位置関係にかかわらず、回転子10を安定的に起動して正方向に回転させることができる。
静電モータの回転子を回転させるために必要な最低限のトルクは、回転子の外径、帯電部および固定電極の分割数(略台形状の各領域の個数)、それらの面積、固定電極への印加電圧の大きさなどに応じて決まり、実験的に定められる。特に、静電モータを時計の運針用のモータとして使用する場合には、例えば、秒針が30秒遅れたときに次の周回でその遅れを取り戻そうとすると、通常の2倍の速度で秒針を回転させる必要がある。こうした制限を考慮すると、時計への適用のためには、回転方向に少なくとも1/30(μNm)のトルクが必要である。静電モータ1は、アクチュエータ2,2A〜2Dのいずれを使用する場合でも、上記の駆動パルスを印加することで回転方向にこの最低限以上のトルクを発生させることができるため、時計の運針用モータとしての使用に適している。
また、アクチュエータ2,2A〜2Dを有する静電モータでは、帯電部と固定電極との静止時の位置関係にかかわらず回転子10が確実に正方向に回転するため、回転子10の起動時に帯電部の位置を検出する必要がない。したがって、位置検出の手段が不要になるため、その分、静電モータの構成が簡略化される。
また、固定子20と固定子30の固定電極の組数が等しく、回転子10の回転方向における固定子20と固定子30の固定電極の配置位置に位相ずれがあるアクチュエータ2,2A,2Bでは、回転方向の駆動力の変動が平坦化されてトルクの波形が平坦になる。この場合、コギングトルクの低減効果があり、回転子10の起動後は速度変動が少ないため、静電モータ1を時計の運針用モータとして使用したときに、滑らかな運針が可能になる。一方、固定子20と固定子30の固定電極の組数が互いに異なるアクチュエータ2Cでは、駆動パルスの1周期内におけるトルクの変動が比較的大きくなる。この場合、回転子10に速度変動が生じるため、静電モータ1を時計の運針用モータとして使用したときに、秒針を小刻みに動かすことが可能になる。したがって、固定電極の組数および配置位置を適宜選択することにより、所望のパターンで指針を駆動する静電モータを得ることができる。
また、回転子の一方の面だけに帯電部を設け、その一方の面だけに対向させて固定電極を設けると、帯電部と固定電極が静電気力によって引き合うことで、回転軸方向の摩擦力が発生する。しかしながら、アクチュエータ2,2A〜2Dでは、回転子10の上下面に対向させて固定電極を設け、その上下面の帯電部12における帯電量と、上下面の帯電部12から固定子20,30の固定電極までの距離をそれぞれ等しくすることで、回転軸方向の静電気力が相殺され、回転子10の摩擦負荷が小さくなる。このため、印加された電力から回転方向の駆動トルクを効率よく取り出すことができる。
例えば、回転子10の上下面における帯電量のばらつき、あるいはその上下面で帯電面積が異なることなどにより、回転子10の上下面で帯電部12の帯電量が異なる場合には、回転子10の上下面における静電気力が同等になるように、回転子10と固定子20,30との距離を変えてもよい。具体的には、回転子10の上下面のうちで帯電量が大きい側における回転子10から固定電極までの距離を、帯電量が小さい側における回転子10から固定電極までの距離よりも大きくすることにより、回転子10の上下の静電による引力を同等にできるので、回転負荷を低減させることができる。
また、回転子10の上側と下側の両方に帯電部と固定電極とを配置することで、狭いスペースでも電極数を増やすことができるため、小径化しやすいという利点もある。回転子10の径を大きくすることで、帯電部12の面積を増やして帯電量を増加させることができるが、この場合には回転子10の重量も増すため、回転子10が駆動パルスに追従して回転できずに脱調する可能性が高くなる。しかしながら、アクチュエータ2,2A〜2Dでは、回転子10の上下面とそれに対向する固定子20,30に帯電部12と固定電極をそれぞれ配置することで、駆動力を大幅に高められるため、回転子10が大径にならず、安定的に駆動することができる。
なお、固定子20の固定電極の配置位置は、図1、図5、図8および図11に示したアクチュエータ2,2A〜2Cの場合とは異なり、固定子30の固定電極の配置位置に対して、矢印C方向とは逆方向にずれていてもよい。この場合でも、固定電極の配置に応じて、駆動パルスを図3、図6、図9および図12に示したものから変更することにより、アクチュエータ2,2A〜2Cと同様に回転子10を回転させることができる。
アクチュエータの組立時には、固定子20,30に形成された各組の固定電極の位相が所定の関係を満たすように、固定子20と固定子30とを精密に組む必要がある。固定子20,30の製造時には、基材が型抜きされた後でその基材にエッチングで固定電極のパターンが形成されるため、複数の工程で加工することになり、固定電極の位置精度が課題となる。この課題に対しては、例えば、型抜きされた固定子に位置決め孔を設け、位置決め用の治具のピンに固定子の位置決め孔を通して位置決めをした後にエッチングする方法が考えられる。しかしながら、この方法では、位置決め孔の加工精度が低い上に、治具のピンと位置決め孔との間に間隙が必要であるため、エッチングの位置ずれが起こり、固定子20,30における固定電極の位相の関係を正確に確保できないおそれがある。
そこで、固定子20,30に固定電極のパターンを形成する際に、固定電極の外周側に位置決めマークをエッチングにより併せて形成するとよい。固定子20,30の固定用部材にも位置決めマークを形成しておけば、固定子20,30と固定用部材の位置決めマークを互いに合わせることで、固定子20,30における固定電極の位相の関係を正確に保って固定子20,30を組み立てることができる。
回転子10の起動時の帯電部と固定電極との位置関係によっては、起動時に最初に印加する駆動パルス(以下、「起動パルス」という)によって、回転子10が正方向とは逆方向に回転(逆転)する可能性がある。しかも、慣性トルクを上回る十分な駆動トルクを回転子10に与えられず、駆動パルスの周波数を高くしていった場合には、逆転がそのまま継続してしまう可能性もある。
図16(A)および図16(B)は、アクチュエータ2における回転子10の逆転についての説明図である。これらの図では、アクチュエータ2の第1〜第4電極に印加される駆動パルスを示している。この駆動パルスは図3に示したものと同じであり、その周期をTとする。アクチュエータ2では、回転子10が正方向に一定速度で回転しているとき(通常時)には、帯電部12は、第1〜第4電極との対面位置に順に移動し、図16(A)に丸印で示すように順に正電位になる第1〜第4電極から順に引力を受ける。すなわち、通常時には、丸印で示す第1〜第4電極の駆動パルスの立ち上がりが順に認識され、これにより回転子10は正方向に回転する。
しかしながら、回転子10の起動時、より正確には、停止状態にある回転子10が起動されてから回転速度が徐々に増して回転が定常状態になるまでの間には、各組の固定電極に順に通電したとしても、帯電部12がそれらの固定電極との対面位置まで回転できない場合がある。例えば、第2、第3電極が順に通電されても回転子10がそれに追従できずに帯電部12が第1、第2電極の間にあり、その後第4電極が通電されると、帯電部12と第4電極の間の距離は正方向側よりも逆方向側の方が短いため、帯電部12は逆方向の引力を受けて第4電極に引き寄せられる。さらにその後、第1、第2電極が順に通電されても回転子10がそれに追従できずに帯電部12が第4、第1電極の間にあり、その後第3電極が通電されると、帯電部12は同様に逆方向の引力を受けて第3電極に引き寄せられる。これが繰り返されると、回転子10は逆方向に回転することになる。
このように、回転子10の慣性が大きく回転子10が駆動パルスの周波数に追従して回転できない場合には、第1〜第4電極の順に起こる正電位への立ち上がりの一部が認識されないことがあり得る。例えば、図16(B)に示す時刻t0での第1電極の正電位への立ち上がりの後、第2、第3電極の正電位への立ち上がりが認識されなかったとすると、第1電極の次に第4電極が正電位に立ち上がるものとして認識されることになる。同様に、次の第1、第2電極の正電位への立ち上がりが認識されなかったとすると、第4電極の次に第3電極が正電位に立ち上がるものとして認識されることになる。これが繰り返されると、図16(B)に丸印で示す第4、第3、第2、第1電極の順に正電位になる駆動パルス、すなわち、逆方向に回転させる駆動パルスを印加したのと同じ状態になるため、逆転が発生してしまう。
図17(A)および図17(B)は、アクチュエータ2Aにおける回転子10の逆転についての説明図である。図18(A)および図18(B)は、アクチュエータ2Bにおける回転子10の逆転についての説明図である。図19(A)および図19(B)は、アクチュエータ2Dにおける回転子10の逆転についての説明図である。これらの図では、それぞれ、アクチュエータ2Aの第1〜第6電極、アクチュエータ2Bの第1〜第8電極、およびアクチュエータ2Dの第1〜第6電極に印加される駆動パルスを示している。これらの駆動パルスは、図6、図9および図15(A)に示したものと同じであり、その周期をTとする。
アクチュエータ2A,2B,2Dでも、通常時には、図17(A)、図18(A)および図19(A)に丸印で示す各固定電極の駆動パルスの立ち上がりが順に認識され、これにより回転子10は正方向に回転する。しかしながら、回転子10の起動時には、例えばアクチュエータ2Aの場合、図17(B)に示す時刻t0での第1電極の正電位への立ち上がりの後、第2〜第5電極の正電位への立ち上がりが認識されず、次の第6電極の正電位への立ち上がりが認識されるという間引き現象が繰り返されると、図17(B)に丸印で示す第6、第5、第4、第3、第2、第1電極の順に正電位になる逆転の駆動パルスを印加したのと同じ状態になる。これは、図18(B)および図19(B)に示すアクチュエータ2B,2Dの駆動パルスの場合も同様である。
こうした現象が発生する可能性を排除するためには、各組の固定電極には、回転子10の起動時に最初に印加する少なくとも1周期分の駆動パルス(起動パルス)の周波数を、回転子10の回転中(通常時)に印加する駆動パルスの周波数の1/3以下にするとよい。すなわち、停止状態から最初に印加する1パルス目の周波数を2パルス目以降よりも低くして、起動時は回転子10を遅く回転させるとよい。こうすれば、上記のような駆動パルスの一部が認識されない間引き現象は生じないため、逆方向への回転が継続する事態を確実に防ぐことができる。もちろん、回転子10の回転速度に応じて、最初の1周期に引き続き、数周期の間、駆動パルスの周波数を1/3以下にしてもよい。
図3の例で説明すると、回転子10の回転速度が遅くて固定電極の駆動に追従できずに第1電極の近くに存在する帯電部12を逆方向に回転させるのは、逆方向において第1電極に隣接する第4電極からの引力である。したがって、回転子10の逆転を抑制するためには、第1電極の次に第4電極ではなく第2電極から引力を受けるように、駆動パルスの周波数を低くして、各固定電極の通電期間を長くする必要がある。
アクチュエータ2の場合には、駆動パルスの周波数を図3に示したものの1/3以下に(すなわち、周期を3倍の3T以上に)すれば、図16(B)に丸印で示す第4、第3、第2、第1電極の順に駆動パルスの立ち上がりが認識されることはないので、逆転を防ぐことができる。同様に考えると、アクチュエータ2A,2B,2Dの場合には、駆動パルスの周波数を、それぞれ、図6、図9および図15(A)に示したものの1/5以下、1/7以下および1/2以下に(すなわち、周期を5T以上、7T以上および2T以上に)すれば、逆転を防ぐことができる。
一般化すると、回転子10が駆動パルスに追従して移動できず逆転することを防ぐためには、少なくとも最初の1周期分の駆動パルスの周波数を、通常時の駆動パルスの周波数のk(所定の係数)倍以下にすればよく、このkは、駆動パルスの1周期に含まれる正電位への立ち上がりタイミングの数から1を差し引いた数の逆数であればよい。例えば、アクチュエータ2では、図3の駆動パルスが4相であるため、1周期に含まれる正電位への立ち上がりタイミングの数は4であり、起動時の駆動パルスの周波数を通常時の1/(4−1)=1/3以下にすればよい。
アクチュエータ2Aでは、図6の駆動パルスが6相であるため、1周期に含まれる正電位への立ち上がりタイミングの数は6であり、起動時の駆動パルスの周波数を通常時の1/(6−1)=1/5以下にすればよい。アクチュエータ2Bでは、図9の駆動パルスが8相であるため、1周期に含まれる正電位への立ち上がりタイミングの数は8であり、起動時の駆動パルスの周波数を通常時の1/(8−1)=1/7以下にすればよい。アクチュエータ2Cでは、図12の駆動パルスが7相であるため、1周期に含まれる正電位への立ち上がりタイミングの数は7であり、起動時の駆動パルスの周波数を通常時の1/(7−1)=1/6以下にすればよい。アクチュエータ2Dでは、図15(A)の駆動パルスが3相であるため、1周期に含まれる正電位への立ち上がりタイミングの数は3であり、起動時の駆動パルスの周波数を通常時の1/(3−1)=1/2以下にすればよい。
駆動パルスの1周期に含まれる正電位への立ち上がりタイミングの数と負電位への立ち下がりタイミングの数は同じなので、上記した周波数の所定の係数kは、駆動パルスの1周期に含まれる負電位への立ち下がりタイミングの数から1を差し引いた数の逆数と表現することもできる。あるいは、所定の係数kは、固定子20,30の固定電極に印加される駆動パルスのうちで位相が互いに異なるものの数から1を差し引いた数の逆数と表現することもできる。
固定電極の組数は、アクチュエータ2の場合が最小であるため、図3に示した駆動パルスの周波数を基準にすると、逆転が発生し得る周波数は、その3倍が最小値になる。例えば、アクチュエータ2Aの場合には、周波数が図6に示した駆動パルスの5倍にならないと、第1電極の次に第6電極が正電位になる逆転パルスとしては認識されない。すなわち、固定電極の組数がアクチュエータ2のものよりも多いアクチュエータ2A〜2Cは、逆転が発生し得る周波数は、図6、図9および図12に示した駆動パルスの周波数の3倍よりも大きいので、逆転は容易には起こらない。このため、少なくとも1パルス目の起動パルスの周波数を、それ以降の駆動パルスの周波数の1/3以下にすれば十分である。小径化のためには固定電極の組数は少ない方がよく、このように駆動パルスを制御すれば、アクチュエータ2の場合でも起動時の逆転を確実に防ぐことができる。
回転子の上下面のいずれか一方に帯電部が設けられ、その帯電部に対向する上下いずれか一方の固定子に固定電極が設けられた片面駆動のアクチュエータでも、起動時の少なくとも最初の1周期分の駆動パルスとして、通常時の駆動パルスの周波数の所定の係数倍以下のものを固定電極に印加し、この所定の係数を、駆動パルスの1周期に含まれる正電位への立ち上がりタイミングの数から1を差し引いた数の逆数にするとよい。これにより、片面駆動の場合にも同様に、回転子の逆転を防止する効果が得られる。
図20(A)および図20(B)は、帯電部と固定電極の他の形状の例を示す図である。回転子と固定子に設けられる帯電部と固定電極は、上記した略台形状に限らず、略方形、略菱形または略プロペラ形などの他の形状を有してもよい。例えば、図20(A)に符号21’〜23’で示すように、各固定電極の2辺は円周方向に沿って延び、他の2辺は、回転軸を中心とする円に対して斜めに延びるとともに曲線状に湾曲していてもよい。この場合、図20(A)に符号12’で示すように、帯電部の径方向の辺は、回転軸を中心とする円に対して傾きを持たず直交していてもよい。
また、図20(B)に符号21’’〜23’’で示すように、複数組の固定電極は、径方向の辺が傾きを持たない略方形であるとともに、回転軸を中心とし径方向の位置が互いに異なる複数の円環領域内で、円周方向に互いにずれて配置されていてもよい。この場合、図20(B)に符号12’’で示すように、帯電部は、径方向の辺が回転軸を中心とする円に対して斜めに延びるとともに曲線状に湾曲した略プロペラ形であってもよい。このような形状にすることで、駆動トルクの変動が抑えられ、より滑らかに回転駆動ができるという利点もある。
図20(C)は、さらに別のアクチュエータ2Eの側面図である。アクチュエータ2Eでは、固定子20は、回転子10と固定子30よりも直径が小さい円板形状を有する。また、固定子30の上面には、回転軸11に近い内周側に固定電極31が、回転軸11から遠い外周側に固定電極32が、それぞれ形成されている。固定子20の下面には、固定子30の固定電極31に対応する径方向の位置に、固定電極21が形成されている。これ以外の点では、アクチュエータ2Eは、アクチュエータ2と同じ構成を有する。静電モータ1は、アクチュエータ2,2A〜2Dのいずれにおいても、アクチュエータ2Eと同様の構造を有してもよい。
図20(C)のアクチュエータ2Eのように、固定子20と固定子30の直径は必ずしも等しくなくてもよく、固定子20,30のうちの一方は、回転子10よりも直径が小さい円板形状を有してもよい。言い換えると、回転子10の外径は、いずれかの固定子の外径よりも大きくてもよい。あるいは、回転子10および固定子20,30がすべて同程度の外形を有し、固定子20,30のうちの一方における外周の一部分が切り欠かれていてもよい。あるいは、固定子20,30のうちの一方における内周側の一部に開口部を設けたり、固定子20,30のうちの一方における内周側の一部の固定電極をなくし、その部分の基材を透明にしたりしてもよい。これらの場合には、外径が小さい方の固定子の脇から、または固定子の切欠き、開口部もしくは透明部分を通して回転子が見えるので、固定電極と帯電部の間の間隔を確認しやすくなり、その間隔の調整が容易になる。
一般に、静電モータの駆動パルスには、回転子の起動時に印加するパルス(起動パルス)と、起動パルスよりも消費電力が少ない低消電パルスがある。低消電パルスは、例えば、いずれかの組の固定電極に通電させる通電期間と、いずれの組の固定電極にも通電させない非通電期間とを(例えば半周期分ずつ)交互に含み、その非通電期間に回転子を惰性で回転させる駆動パルスであってもよい。図3、図6、図9、図12および図15(A)に示した駆動パルスでは、正電位と負電位が連続的に印加され、常にいずれかの組の固定電極が正電位になっているので、通電期間には、負電荷をもつ帯電部12が正電位の固定電極に引き寄せられることで、回転運動が抑制される。これに対し、非導電期間には、すべての組の固定電極に印加する駆動パルスをハイインピーダンスにすることで、固定電極からの引力が生じなくなるため、回転子10は惰性で回転を続けることができる。
回転子の上下面に帯電部が設けられ、それらに対向する上下の固定子に固定電極が設けられた両面駆動のアクチュエータだけでなく、回転子の上下面のいずれか一方に帯電部が設けられ、その帯電部に対向する上下いずれか一方の固定子に固定電極が設けられた片面駆動のアクチュエータでも、回転子の起動後に駆動パルスを低消電パルスに切り替えてもよい。これにより、消費電力を低減させ、電池電圧の低下を抑制することが可能である。
さらにアクチュエータの消費電力を低減させる方法として、低消電パルスは、固定子20,30のうちで一方の固定電極のみに通電させる駆動パルスであってもよい。駆動パルスが非通電期間を含む場合には、通電を止めることで回転子10に速度変動が生じるが、一方の固定子の固定電極のみに通電させる場合には、回転子10の速度変動が実質的に生じないという特徴がある。また、後者の場合には、通電させない側の固定電極では帯電部12の負電荷に応じて正電荷が現れ、回転子10との間に引力が働く一方で、通電させる側の固定電極でも駆動パルスに伴い回転子10との間に引力が働く。これにより、回転子10の摩擦負荷が減少するので、一方の固定子の固定電極のみに通電して得られた駆動トルクだけでも、容易に回転子10を回転させることができる。つまり、回転子10の片面のみに帯電部12を設けて駆動する片面駆動の場合よりも、駆動トルクを効率的に活用することができる。
また、一旦、固定子20,30のすべての固定電極をハイインピーダンスにすると、帯電部12の負電荷に応じて固定子20,30の各固定電極の表面に正電荷が現れ、回転子10の上下面で帯電部12と固定電極との間に引力が働く。これにより、回転子10の摩擦負荷が減少するので、この状態で一方の固定子の固定電極に駆動パルスを印加すれば、片面駆動の場合と同じ電力により、片面駆動の場合よりも少ない摩擦負荷で、容易に回転子10を回転させることができる。
特に、静電モータを時計の運針用モータとして使用する場合には、起動パルスは、秒針を細かいピッチで連続的に動かす運針方法(以下、スイープ運針という)の駆動パルスに相当する。また、非通電期間を含む低消電パルスは、秒針を小刻みに動かす運針方法(以下、多ビート運針という)の駆動パルスに相当する。多ビート運針とスイープ運針は、秒針の見た目の動きが滑らかかどうかで区別される。
一般に、静電モータを時計などの電子機器で使用する場合には、なるべく低消費電力で駆動させることが望ましい。そこで、制御部4の制御により、回転子10の起動後に、駆動部3が印加する駆動パルスを、起動パルスから低消電パルスに切り替えてもよい。以下では、駆動パルスの切り替えを行う静電モータについて説明する。
図21は、さらに別のアクチュエータ2Fの概略構成図である。アクチュエータ2Fでは、回転子10の上面における回転軸11との嵌合孔の周辺の2か所に検出用帯電部15が形成されており、固定子20の下面における回転軸11との嵌合孔の周辺の2か所に検出用電極25が形成されている。これ以外の点では、アクチュエータ2Fは、アクチュエータ2と同じ構成を有する。静電モータ1は、アクチュエータ2に代えてアクチュエータ2Fを有してもよい。
検出用帯電部15と検出用電極25は、回転子10の回転状態を検出する検出部の一例であり、帯電部12および固定電極21,22とは別個に設けられたものである。検出用帯電部15と検出用電極25は、帯電部12および固定電極21,22に上面視で重ならず、回転子10が回転して円周方向の位置が合ったときに互いに対向するように、回転子10と固定子20の内周側の径方向における同じ位置に形成されている。回転軸11との嵌合孔が円形ではなく長径と短径を有する場合には、面積をなるべく大きくするために、検出用帯電部15と検出用電極25を嵌合孔の短径部に配置することが好ましい。回転子10が回転して検出用帯電部15が通過するたびに検出用電極25から検出信号が出力されるため、その検出信号の波形から、回転子10の回転速度を検出することができる(Z相検出)。
アクチュエータ2Fを有する静電モータの制御部4は、検出用電極25からの出力信号の間隔の増減から、回転子10の回転状態を判断する。例えば、制御部4は、数十回程度、検出用電極25から等間隔に検出信号が出力されたら、回転子10の回転速度が一定になり、回転子10が起動状態から安定状態になったと判断する。そして、制御部4は、検出用電極25からの出力信号に基づいて回転子10の回転が安定状態になったと判断したときに、駆動部3が出力する駆動パルスを、起動パルスから低消電パルスに切り替える。例えば、時計に適用する場合には、制御部4は、スイープ運針の駆動パルスを多ビート運針の駆動パルスに切り替える。あるいは、制御部4は、例えばユーザの操作に応じて、スイープ運針と多ビート運針とを切り替えてもよい。
図22は、アクチュエータ2Fを有する時計用の静電モータの動作例を示すフローチャートである。図22に示すフローは、制御部4のROMに予め記憶されたプログラムに従って、制御部4のCPUにより実行される。
まず、制御部4は、駆動部3に起動パルスを出力させて(S1)、検出用電極25からの出力信号に基づき回転子10の回転状態を検出する(S2)。検出用電極25から等間隔に検出信号が出力されており、回転子10が一定速度で安定に駆動されている場合(S3でYes)には、制御部4は、駆動部3が出力する駆動パルスを、起動パルスから低消電パルスに切り替える(S4)。その上で、制御部4は、検出用電極25からの出力信号に基づき、回転子10の回転状態を再び検出し(S5)、回転子10が一定速度で安定に駆動されている場合(S6でYes)には、低消電パルスによる駆動を継続させて(S7)、処理を終了する。一方、S5で安定駆動が検出されない場合(S6でNo)には、S1に戻り、制御部4は、再び駆動部3に起動パルスを出力させる。
また、S2で安定駆動が検出されない場合(S3でNo)には、制御部4は、起動パルスによる駆動を継続させる(S8)。そして、一定時間の経過後、制御部4は、回転子10が一定速度で安定に駆動されているか否かを再び判断する(S9)。回転子10が一定速度で安定に駆動されている場合(S9でYes)には、S4に進んで、制御部4は、駆動部3が出力する駆動パルスを、起動パルスから低消電パルスに切り替える。一方、安定駆動が検出されない場合(S9でNo)には、回転子10の回転に異常があるため、制御部4は、例えば12時の位置などの基準位置まで秒針を送り停止させることでその異常状態を表示して(S10)、処理を終了する。
アクチュエータ2Fを有する静電モータは、回転子10の回転状態が安定してからは、起動時よりも低消費電力で駆動することができる。また、検出用帯電部15と検出用電極25を回転子10と固定子20の内周側における回転軸11との嵌合孔の周辺に形成することで、回転子10の外径を増やすことなく、回転子10の回転状態を検出することができる。
なお、検出用帯電部15と検出用電極25を用いずに、制御部4は、回転子10の起動から一定時間経過したときに、回転子10の回転が安定状態になったと判断してもよい。また、固定電極21,22のうちで各1個の電極を回転子10の駆動と回転状態の検出に兼用してもよい。この場合、制御部4は、それらの電極から出力される互いに位相がずれた検出信号(A相およびB相の検出信号)と、回転子10が1回転するたびに検出用電極25から出力される検出信号(Z相の検出信号)とに基づいて、回転子10の回転状態を判断し、駆動パルスを切り替えてもよい。
あるいは、静電モータを時計の運針用モータとして使用する場合には、制御部4は、時計が時刻修正モードに移行したときに、低消電パルスへの切替えを行ってもよい。多ビート運針では秒針が小刻みに動くので、駆動パルスを多ビート運針の低消電パルスに切り替えれば、12時の位置などの切りのよいところで秒針を止めやすい。このため、時刻修正時に多ビート運針にすれば、0秒位置をユーザが合わせやすいという利点がある。また、駆動パルスによってスイープ運針と多ビート運針を切り替えれば、時計の操作モードが切り替わったことをユーザに知らせることもできる。
あるいは、制御部4は、電池電圧に応じて低消電パルスへの切替えを行ってもよい。例えば、制御部4は、電池電圧が十分高いときには、起動パルスでスイープ運針をさせ、電池電圧が第1のしきい値Th1よりも低下したときには、駆動パルスを起動パルスと低消電パルスの間で交互に切り替えてもよい。この場合、例えば、スイープ運針と多ビート運針の発生を一定時間ごとに切り替えてもよいし、電池電圧の低下に応じて多ビート運針の期間の割合を増やしてもよい。また、制御部4は、電池電圧がさらに第2のしきい値Th2(<Th1)よりも低下したときには、駆動パルスを完全に低消電パルスに切り替えて多ビート運針を継続させてもよい。また、制御部4は、電池電圧がさらに第3のしきい値Th3(<Th2)よりも低下したときには、例えば2秒に1回秒針を動かすなどのまとめ運針を行うように駆動パルスを制御してもよい。
あるいは、静電モータを時計などの電子機器で使用する場合であって、その電子機器が太陽発電、エレクトレット発電または熱発電などの発電機を有する場合には、制御部4は、発電機の発電量に応じて低消電パルスへの切替えを行ってもよい。この場合、制御部4は、発電機の発電量に応じて、スイープ運針と多ビート運針の発生を一定時間ごとに切り替えるとともに、それらの継続期間の長さを変化させてもよい。
また、多ビート運針により、秒針の移動と停止を繰り返して秒針を小刻みに動かすことで、ユーザに対して時計の状況変化を示してもよい。例えば、通常の数倍の周波数をもつ駆動パルスを固定電極に印加して指針を一定期間動かし、次の一定期間には回転子10を停止して指針を止めることで、通常とは異なる指針動作を行ってもよい。これにより、電池電圧の低下による警告や、時計が設定モード中であることなどをユーザに示すことができる。つまり、ユーザに対する警告を優先したい場合には、多ビート運針により通常とは異なる指針動作を行うように、駆動パルスを選択してもよい。
電池電圧の低下に伴う充電警告として、秒指標の2目盛分を秒針が一気に動き、しばらく停止するという指針動作(2秒運針)を繰り返すことで、ユーザに電池交換や充電を促すことが可能である。秒指標の1目盛分、つまり1秒分の刻み幅を秒針が移動するのに駆動パルスが何周期必要かは、指針輪列の減速比と固定子における円周方向の電極数で決まる。通常運針において秒指標の1目盛分を秒針が移動するために必要な駆動パルスの周期をn周期とすると、2秒運針を実現するには、2n周期分の駆動パルスを1秒で印加すればよい。すなわち、通常の2倍の周波数の駆動パルスを1秒間印加して秒針を2目盛分すばやく動かし、次の1秒間は回転子10を止めて秒針を停止させることで、2秒運針を実現することができる。ここで、駆動パルスの周波数や指針を秒指標の何目盛分動かすかは、任意に設定することができる。
これまでに説明したアクチュエータでは、第1および第2の複数組の固定電極のそれぞれは2組から4組の固定電極であり、回転子10の回転方向における個々の帯電部12の幅内に、固定電極のうちで2つから8つの固定電極の少なくとも一部が重なっている。さらに、駆動パルスにより、固定電極のそれぞれは円周方向の配置順序と同じ順序で正電位になり、正方向に連続的にトルクが発生するため、帯電部と固定電極との静止時の位置関係にかかわらず、回転子10を安定的に起動して正方向に回転させることができる。