JPWO2018139610A1 - 複極式電解槽、アルカリ水電解用複極式電解槽、及び水素製造方法 - Google Patents

複極式電解槽、アルカリ水電解用複極式電解槽、及び水素製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、隔膜として無機粒子を含有した多孔膜を使用したアルカリ水電解用複極式電解槽において、高密度電流運転の場合でも、優れた電解効率及び高い発生ガス純度を維持することを目的とする。陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせを、複数備える、複極式電解槽であって、前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極であり、前記隔膜が、平均一次粒径20nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である、ことを特徴とする、複極式電解槽、アルカリ水電解用複極式電解槽、並びに水素製造方法。

Description

本発明は、複極式電解槽、アルカリ水電解用複極式電解槽、及び水素製造方法に関する。
近年、二酸化炭素等の温室効果ガスによる地球温暖化、化石燃料の埋蔵量の減少等の問題を解決するため、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用した風力発電や太陽光発電等の技術が注目されている。
再生可能エネルギーは、出力が気候条件に依存するため、その変動が非常に大きいという性質がある。そのため、再生可能エネルギーによる発電で得られた電力(以下、「変動電源」とも称する)を一般電力系統に輸送することが常に可能とはならず、電力需給のアンバランスや電力系統の不安定化等の社会的な影響が懸念されている。また、再生可能エネルギーから得られる電力と電力需要のアンバランスが一日の中でも起こるばかりでなく、季節によってもアンバランスを生じることはよく知られている。
そこで、再生可能エネルギーから発電された電力を、貯蔵及び輸送が可能な形に代えて、これを利用しようとする研究が行われている。具体的には、再生可能エネルギーから発電された電力を利用した水の電気分解(電解)により、貯蔵及び輸送が可能な水素を発生させ、発生した水素をエネルギー源や原料として利用することが検討されている。
水素は、石油精製、化学合成、金属精製等の場面において、工業的に広く利用されており、近年では、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションやスマートコミュニティ、水素発電所等における利用の可能性も広がっている。このため、再生可能エネルギーから特に高純度の水素を得る技術の開発に対する期待は高い。
水の電気分解の方法としては、固体高分子型水電解法、高温水蒸気電解法、アルカリ水電解法等がある。中でも、数十年以上前から工業化されていること、大規模に実施することができること、他の水電解装置に比べると安価であること等の理由から、アルカリ水電解は特に有力なものの一つとされている。
しかしながら、アルカリ水電解を今後エネルギーの貯蔵及び輸送のための手段として適応させるためには、前述のとおり出力の変動が大きい電力を効率的且つ安定的に利用して水電解を行うことを可能にする必要がある。前記の需給のアンバランス、特に再生可能エネルギーからの電力の供給が大幅に電力需要を超える場合に水素に変換して貯蔵しようとすると、水電解装置に大きな電力が供給され、電解セル単位面積当たりの電流密度が大きくなった場合に、既存のアルカリ水電解装置では変換効率や水素純度悪化が深刻であり、水素生成の電力原単位の悪化だけでなく、発生した水素中酸素及び/または酸素中水素濃度が増えて精製ロスの増加等が懸念される。このような状況下では、水電解装置の容量を大きくして大電流を受けられるようにせざるを得ず、設備投資が増えて採算性に問題が生じる。
アルカリ水電解において電解電圧を低く抑えて、水素製造の電力原単位を改善するという課題を解決するために、電解セルの構造として、特に、隔膜と電極との隙間を実質的に無くした構造である、ゼロギャップ構造と呼ばれる構造の採用が有効なことはよく知られている(特許文献1、2参照)。ゼロギャップ構造では、発生するガスを電極の細孔を通して電極の隔膜側とは反対側に素早く逃がすことによって、電極間の距離を低減しつつ、電極近傍におけるガス溜まりの発生を極力抑えて、電解電圧を低く抑制している。そのため、ゼロギャップ構造は、電解電圧の抑制にきわめて有効であり、種々の電解装置に採用されている。
また近年、効率的且つ安定的なアルカリ水電解を実現するために、電解セルの構造の最適化に加えて、電極や隔膜の最適化等によって上述の諸課題に取り組む研究が盛んに行われている(特許文献3、4参照)。
米国特許第4530743号明細書 特開昭59−173281号公報 国際公開第2013/191140号 特開2015−117417号公報
そこで、本発明の目的は、高電流密度運転が行われた場合でも変換効率及び水素純度の悪化を抑制できる電解装置を提供することにある。
本発明者らは、上述の課題を解決するため、電極及び隔膜について鋭意検討を行った。そして、驚くべきことに多孔体電極の細孔の平均孔径及び多孔膜に含有される無機粒子の平均一次粒径を所定の範囲に制御することにより、高密度電流運転の場合でも、電解効率と発生ガス純度の悪化を抑制できることを見出し、本発明の完成に至った。
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせを、複数備える、複極式電解槽であって、
前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極であり、前記隔膜が、平均一次粒径20nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である、
ことを特徴とする、複極式電解槽。
[2]
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせを、複数備える、複極式電解槽であって、
前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極であり、前記隔膜が、平均一次粒径20nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である、
ことを特徴とする、アルカリ水電解用複極式電解槽。
[3]
前記隔膜に含有される前記無機粒子の平均一次粒径が50nm以上180nm以下である、[2]に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[4]
前記多孔体電極が、基材と、前記基材の表面上に形成された触媒層とを備える、[2]又は[3]に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[5]
前記多孔体電極が、網状構造の基材と、Niを含有する触媒層とを備える、[4]に記載のアルカリ水電解用複極式電解層。
[6]
前記多孔体電極の二重層容量が、0.5F/cm以上4.0F/cm以下である、[2]〜[5]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[7]
前記多孔体電極の水接触角が0°超30°以下である、[2]〜[6]のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[8]
前記多孔体電極が、30%以上80%以下の表面開口率を有する、[2]〜[7]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[9]
前記多孔体電極が、目開き0.2mm以上4.0mm以下の平織メッシュ型基材を含む、[4]〜[8]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[10]
前記多孔体電極が、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)が2.0mm以上6.0mm以下、かつメッシュの短目方向の中心間距離(SW)が1.0mm以上5.0mm以下のエキスパンド型基材を含む、[4]〜[8]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[11]
前記多孔体電極が、穴径(D)が1.0mm以上10.0mm以下、穴間ピッチ(P)が1.0mm以上12.0mmのパンチング型基材を含む、[4]〜[8]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[12]
前記隔膜に含有される前記無機粒子が、0.2μm以上10.0μm以下の平均二次粒径を有する、[2]〜[11]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[13]
前記隔膜に含有される前記無機粒子が、酸化ジルコニウム(ZrO)及び/又は酸化チタン(TiO)を含む、[2]〜[12]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[14]
前記隔膜の平均透水孔径が、0.1μm以上1.0μm以下である、[2]〜[13]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[15]
前記隔膜の最大孔径が、0.5μm以上3.0μm以下である、[2]〜[14]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[16]
前記隔膜の表面開口率が、20%以上80%以下である、[2]〜[15]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[17]
前記隔膜の水接触角が30°以上90°以下である、[2]〜[16]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[18]
前記陽極及び前記陰極と前記隔膜がゼロギャップ構造をなしている、[2]〜[17]のいずれかに記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
[19]
アルカリを含有する水を、電解槽により水電解し、水素を製造する水素製造方法であって、
前記電解槽が、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせを、複数備える、複極式電解槽であって、
前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極であり、
前記隔膜が、平均一次粒径20nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である、複極式電解槽である、
ことを特徴とする、水素製造方法。
本発明によれば、高密度電流運転や変動電源運転が行われた場合でも、優れた電解効率及び高い発生ガス純度を維持することができる、複極式電解槽及び水素製造方法を提供することができる。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例の全体について示す側面図である。 本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例を備えるアルカリ水電解装置の概要を示す図である。 本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の多孔体電極の一例のエキスパンド型基材の網目部分について示す平面図、及び、前記平面図の線A−Aに沿う面により切断したときの断面図である。 本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の多孔体電極の一例の平織メッシュ型基材の網目部分について示す平面図である。 本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の多孔体電極の一例のパンチング型基材について示す平面図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態のアルカリ水電解用電解槽は、片面が陽極、片面が陰極となる複数の複極式エレメントを、隔膜を挟んで同じ向きに並べて直列に接続し、両端のみを電源に接続した、複極式電解槽である。言い換えると、本実施形態のアルカリ水電解用電解槽は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせ(「電解セル」とも称する)を、複数備える、複極式電解槽である。
以下、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽を特徴付ける重要な構成要素である、陽極、陰極、隔膜について、詳細に説明する。
アルカリ水電解反応では、電源に接続されている電極対(すなわち、陽極及び陰極)を備える電解槽で、アルカリ水を電気分解して、陽極で酸素ガスを発生させ、陰極で水素ガスを発生させる。なお、本明細書中において、「電極」と称する場合には、陽極及び陰極のいずれか一方又は両方を意味するものとする。
本発明者らの検討から、電極(陽極、陰極)から発生するガスのバブル(気泡)の大きさは、電極の細孔径に大きく依存しており、電極の細孔径を小さくすると、発生するガスのバブル径は小さくなることが判明した。細孔径が小さいと比表面積が大きくなって電極の過電圧が低下する一方で、隔膜である多孔膜を通り抜けるガスの量はバブル径が小さくなる程増加して、発生するガスの純度が低下する傾向があることがわかった。逆に、ガス純度を高めるために電極の細孔径を大きくすると、発生するガスのバブル径は大きくなって多孔膜のガス遮断性が高まる一方で、電極の比表面積が小さくなって過電圧が上昇することにより、電解効率が低下することがあった。
他方、多孔質膜中の無機粒子は、一般に、多孔膜中では疎水性の有機高分子のマトリックス中に一次粒子が凝集した二次粒子と呼ばれる凝集体として存在し、電解液がこの二次粒子凝集体が形成する貫通孔に浸透し、電解時のイオンの透過性を確保する。無機粒子の一次粒径を小さくし過ぎると、貫通孔内のガスバブルの透過はより防げるものの、イオンの透過性が制限される。逆に、一次粒子径を大きくし過ぎると逆の結果となることが判明した。
本発明者らは、精緻な実験を繰り返し、電極の細孔径と多孔質膜中に無機粒子の一次粒子径との適切な範囲を組み合わせることで、一時的な高電流密度運転においても電解効率と水素純度の悪化を抑制できることを見出し、本発明をなすに至った。
[電極(陽極、陰極)]
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)の複極式電解槽及びアルカリ水電解用複極式電解槽においては、陽極及び陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極である。上記効果をさらに高める観点から、多孔体電極の平均孔径は、40nm以上190nm以下であることが好ましく、50nm以上180nm以下であることがより好ましい。
なお、多孔体電極の平均孔径は、BET法を用いて測定することができる。測定試料を専用セルに入れ、加熱真空排気を行うことにより前処理を行い、細孔表面への吸着物を予め取り除く。その後、−196℃で測定サンプルへのガス吸着の吸脱着等温線を測定する。得られた吸脱着等温線をBET法で解析することにより、平均孔径を求めることができる。より具体的には、後述する実施例に示す方法で測定することができる。
そして、本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、上記の多孔体電極と組み合わせて使用する隔膜は、平均一次粒径20.0nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である。
なお、上記多孔体電極の平均孔径の範囲、上記隔膜(多孔膜)中の無機粒子の平均一次粒径の範囲は、本発明の効果を好適に得るうえで、それぞれ個別に選択されてもよい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔体電極の二重層容量は、特に限定されないが、0.5F/cm以上4.0F/cm以下であることが好ましく、0.6F/cm以上3.8F/cm以下であることがより好ましく、0.7F/cm以上3.6F/cm以下であることが更に好ましい。二重層容量は、電極と電解液との界面で形成される電気二重層の静電容量であり、電極表面で電解に使用される比表面積を疑似的に示すことができる。この範囲の二重層容量を有すると、電解に用いられる比表面積を最適化して、過電圧を一層低下させ、電解効率を一層向上させることができる。
なお、二重層容量は、電気化学インピーダンス法により測定することができる。交流インピーダンス測定により得られた実部と虚部をプロットしたCole−Coleプロットに対して、等価回路フィッティングにより解析することで、二重層容量を算出する。
後述するゼロギャップ電解槽の場合は、隔膜との接触面の裏側から発生するガスを脱泡する必要があるため、多孔体電極は、隔膜に接する面と反対に位置する面が、貫通していることが好ましい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)における多孔体電極としては、特に限定されないが、平均孔径の制御の観点から、平織メッシュ型、パンチング型、エキスパンド型などの網(メッシュ)状構造を有する電極、金属発泡体等が挙げられる。中でも、細孔の寸法や形状の制御の観点から、平織メッシュ型、パンチング型、エキスパンド型からなる群より選択される網状構造を有することが好ましい。
平織メッシュ型は、金属や樹脂などからなる線材を、一方向に平行な複数の線材に対して、別方向に平行な複数の線材が一定の間隔を保ちつつ互いに1本ずつ交差するように織られた網状構造である。図4に、平織メッシュ型の多孔体電極の一例の開口部を拡大して示す。
なお、平織メッシュ型の開口部の形状は、開口部を平面として垂直方向から観察した場合に、一方向に平行な隣接する2本の線材1組と、別方向に平行な隣接する2本の線材1組とが交差して形成される平行四辺形であり、正方形、長方形、菱形のいずれであってもよい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、平織メッシュ型の多孔体電極を用いる場合、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるために、目開き(A)は、0.1mm以上5.0mm以下とすることができ、0.2mm以上4.0mm以下が好ましく、0.3mm以上3.0mm以下がより好ましい。
ここで、目開き(A)は、図4に示すように、平織メッシュ型の開口部を構成する4本の線材のうち、平行な隣接する2本1組の線材間の垂直距離と、他方の2本1組の線材間の垂直距離との平均値を意味する。1の基材上の開口部間で目開き(A)が異なる場合には、平均値とする。
なお、目開きは、後述する線径及びメッシュ数から下記式で求めることができる。
目開き=(25.4/メッシュ数)−線径
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、目開き以外の寸法については、特に制限されないが、線径は0.05mm以上1.0mm以下、メッシュ数は5以上70以下が好ましい。より好ましくは、線径は0.1mm以上0.3mm以下、メッシュ数は10以上65以下である。
線径は、図4に示すように、平織メッシュ型を構成する線材の直径である。メッシュ数は、1インチ(25.4mm)の中にある目の数であり、下記式で求めることができる。
メッシュ数=25.4/(目開き+線径)。
パンチング型は、金属や樹脂などからなる板に丸型や角型のパンチ穴を一定間隔で複数開けた網状構造である。パンチ穴の形状は、特に限定されないが、機械的強度の観点から、円形が好ましく、真円形がより好ましい。図5に、パンチング型の多孔体電極の一例の平面図を示す。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、パンチング型の多孔体電極を用いる場合、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるため、穴径(D)は0.5mm以上12.0mm以下、穴間ピッチ(P)は0.5mm以上15mm以下とすることができる。好ましくは、穴径(D)が1.0mm以上10.0mm以下、穴間ピッチ(P)が1.0mm以上10.0mm以下であり、より好ましくは、穴径(D)が1.5mm以上8.0mm以下、穴間ピッチ(P)が1.5mm以上8.0mm以下である。
ここで、穴径(D)は、パンチ穴が真円形の場合は直径を意味し、パンチ穴が楕円形の場合には長軸径と短軸径の平均値を意味する。穴間ピッチ(P)は、1のパンチ穴と最近接するパンチ穴との中心間距離を意味する。言い換えると、1のパンチ穴に隣接する複数のパンチ穴の中心から当該1のパンチ穴中心までの距離のうち最短のものを意味する。1の基材上のパンチ穴間で穴径(D)、穴間ピッチ(P)が異なる場合は、平均値とする。
エキスパンド型は、金属や樹脂などからなる板に千鳥状に切れ目を入れながら押し広げて、菱形の開口部を成形した網状構造である。ここで、エキスパンド型における「菱形」は、四辺の長さが等しく、対角線同士が直交し、4つの内角のうちの1つの角度が0°超180°未満である、平行四辺形を意味する。1つの内角の角度が90°である場合、すなわち「正方形」も含むものとする。図3に、エキスパンド型の多孔体電極の一例の開口部を拡大した平面図及び断面図を示す。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、エキスパンド型の多孔体電極を用いる場合、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるため、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)は1.0mm以上10.0mm以下、メッシュの短目方向の中心間距離(SW)は0.5mm以上8.0mm以下とすることができる。好ましくは、LWが2.0mm以上6.0mm以下、SWが1.0mm以上5.0mm以下、より好ましくは、LWが3.0mm以上5.0mm以下、SWが1.0mm以上4.0mm以下である。
ここで、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)は、開口部を平面として垂直方向から観察した場合の、隣接するボンド(メッシュ交差部)中心間の最長距離を意味する。メッシュの短目方向の中心間距離(SW)は、開口部を平面として垂直方向から観察した場合の、LWに対し直角方向で隣接するボンド中心間の最短距離を意味する。1の基材上のメッシュ間でLW、SWが異なる場合は、平均値とする。
金属発泡体を多孔体電極として用いる場合、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるため、気孔率80%以上95%以下が好ましい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔体電極の表面開口率としては、特に限定されないが、電解効率の向上の観点から、例えば8%以上85%以下とすることができ、30%以上80%以下が好ましく、31%以上70%以下がより好ましく、35%以上65%以下が更に好ましい。
なお、多孔体電極の表面開口率は、多孔体電極の表面上に占める孔部分の割合を示す。多孔体電極の表面開口率は、測定用サンプルを、電極表面の垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像し、孔が電極表面内を占める割合として求めることができる。より具体的には、後述する実施例で説明する方法で求めることができる。
多孔体電極の厚みとしては、特に限定されないが、機械的強度の観点から、0.7mmから3mm程度が好ましい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔体電極の水接触角は、特に限定されないが、0°超30°以下であることが好ましく、0°超25°以下であることがより好ましく、0°超20°以下であることが更に好ましい。水接触角がこの範囲であると、電極表面の濡れ性を向上させ、電解で発生するガスを電極表面から一層効率的に除去することができ、電解効率を一層高めることができる。ここで、多孔体電極の水接触角とは、多孔体電極の表面に水を滴下し、水滴が多孔体電極と接する部位から水滴の表面に接線を引いたときに、接線と多孔体電極表面のなす角度である。
多孔体電極の水接触角は、市販の接触角計を用いて、θ/2法により測定することができる。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)における多孔体電極は、基材そのものとしてもよく、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものとしてもよいが、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものが好ましい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔体電極が、基材のみで構成される場合、多孔体電極について上述する、平均孔径、表面開口率、及び水接触角は、基材表面についてのものとする。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔体電極が、基材と、基材の表面を被覆する触媒層とを備える場合、多孔体電極について上述する、平均孔径、表面開口率、及び水接触角は、電極触媒層表面についてのものとする。
基材の材料としては、特に制限されず、ニッケル、鉄、軟鋼、ステンレス、バナジウム、モリブデン、銅、銀、マンガン、白金族、黒鉛及びクロム等から群より選ばれる少なくとも一種からなる導電性基材が挙げられる。二種以上の金属からなる合金又は、二種以上の導電性物質の混合物からなる導電性基材を用いてもよい。中でも、基材の導電性及び使用環境への耐性の観点から、ニッケル及びニッケル基合金などが好ましい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、陽極の触媒層は、酸素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄若しくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、あるいはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。具体的には、ニッケルめっきや、ニッケルとコバルト、ニッケルと鉄等の合金めっき、LaNiOやLaCoO、NiCo2O等のニッケルやコバルトを含む複合酸化物、酸化イリジウム等の白金族元素の化合物、グラフェン等の炭素材料等が挙げられる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子等の有機物が含まれていてもよい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、陰極の触媒層は、水素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄若しくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、あるいはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。具体的には、ラネーニッケルや、ニッケルとアルミニウム、あるいはニッケルと錫等の複数の材料の組み合わせからなるラネー合金、ニッケル化合物やコバルト化合物を原料として、プラズマ溶射法により作製した多孔被膜、ニッケルと、コバルト、鉄、モリブデン、銀、銅等から選ばれる元素との合金や複合化合物、水素発生能が高い白金やルテニウム等の白金族元素の金属や酸化物、及び、それら白金族元素の金属や酸化物と、イリジウムやパラジウム等の他の白金族元素の化合物やランタンやセリウム等の希土類金属の化合物との混合物、グラフェン等の炭素材料等が挙げられる。高い触媒活性や耐久性を実現するために、上記の材料を複数積層してもよく、触媒層中に複数混在させてもよい。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子材料等の有機物が含まれていてもよい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔体電極が、触媒層を含む場合、電極の導電性、ガス発生能及び使用環境への耐性の観点から、陽極及び陰極の少なくとも一方の触媒層は、ニッケル(Ni)を含むことが好ましい。
上記多孔体電極において、平均孔径の範囲、触媒層の有無、触媒層の組成の範囲、二重層容量の範囲、水接触角の範囲、表面開口率の範囲、基材の形状は、本発明の効果を好適に得るうえで、それぞれ個別に選択されてもよい。
また上記多孔体電極、後述の隔膜(多孔膜)は、本発明の効果を好適に得るうえで、それぞれ個別に選択されてもよい。
触媒層の厚みは、厚すぎると電気抵抗が増加し過電圧を上昇させる場合があり、逆に薄すぎると長期間の電解や電解の停止により触媒層が溶解若しくは脱落することで電極が劣化し、過電圧が上昇する場合がある。
これらの理由から、触媒層の厚みは、0.2μm以上、1000μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上、300μm以下である。
なお、触媒層の厚みは、例えば電子顕微鏡にて電極の断面を観察することにより測定できる。
基材上に触媒層を形成させる方法としては、めっき法、プラズマ溶射法等の溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、及び、スパッタリング法等の真空成膜法といった手法が挙げられる。
溶射法としては、アセチレン等の可燃性ガスと酸素の燃焼熱で溶射用粉末を溶融する方法、溶射法に用いる溶射用粉末(触媒層の原料粉末)を棒状に加工し、可燃性ガスを燃焼した熱で溶融した素材を燃焼ガスで吹き付ける方法、アルゴン、水素、窒素又はヘリウム等のガスを加熱して得たプラズマガスで溶射粉末を溶融する方法がある。その中では、窒素又はアルゴンに水素を混ぜたガスをプラズマ化して、プラズマで溶射用粉末を溶融するプラズマ溶射法が好ましい。プラズマガスの速度が音速を超える程度に大きく、ガスの温度が5000℃以上である。そのため、融点の高い溶射用粉末を溶融することができ、溶融した溶射用粉末を高速で基材に付着させることができる。その結果、緻密で強度の強いコーティング層を形成することが可能になる。プラズマ溶射法を用いた場合、原料粉末のコーティング速度が速いため、10〜1000μmの厚みを有する触媒層を比較的短時間で形成することができる。プラズマ溶射法では、その条件にもよるが、溶融した原料粉末の粒子が基材上に積層する過程で粒子間に形成される細孔が、他の溶射法を用いた場合に比べ緻密になりやすい。水素を含むプラズマガスを用いた溶射法で酸化物を基材に吹き付ける場合、コーティングの一部が還元されやすく、コーティング層の導電性が増し、導電性に優れた電極を製造することが可能となる。
溶射法によって形成されたコーティング層(実施例中で「触媒層の前駆体」とも称する)を、水素気流下で還元することにより、触媒層に細孔を形成することもできる。溶射法によって形成された金属酸化物層を水素で還元する際の温度は重要であり、還元の温度が高すぎる場合、還元により生じた細孔が熱によりつぶされて、期待する細孔、比表面積及び細孔容量が得られない場合がある。また還元温度が低すぎると、金属酸化物の還元が進まない。例えば、金属酸化物として酸化ニッケルを用いる場合、水素による金属酸化物層の還元温度としては、180〜300℃が好ましく、180〜250℃が特に好ましい。
コーティング層は電解によって還元してもよい。
上記の溶射工程及び還元工程によって、得られた触媒層の表面をロジウム、パラジウム、イリジウム、及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒で修飾してもよい。
プラズマ溶射法で作製される膜は多孔質であるため、高い比表面積を有する電極を得ることができる。
プラズマ溶射法の原料としては、金属酸化物の粉末が好ましく用いられる。プラズマ溶射工程に先立ち、平均粒径が1.0μm〜5.0μmである金属酸化物粉末を噴霧乾燥造粒気により造粒し、平均粒径が10〜100μmである金属酸化物粒子を得る。この金属酸化物の粒子をプラズマガス等の高温のガス中に吹き込み、溶融させて、導電性基材に吹き付ける。つまり、導電性基材を溶融した金属酸化物でコーティングする。造粒する前の金属酸化物の粒径が大きすぎても、小さすぎても、電極を形成した際に必要な孔径や比表面積、細孔容量が得られない。造粒前の金属酸化物粉末の平均粒径は1.0〜5.0μmであることが好ましく、1.0〜1.2μmであることがより好ましい。
プラズマ溶射原料として用いられる金属酸化物は、電解環境への耐久性や触媒活性能から、少なくともニッケル酸化物を含むことが好ましい。酸化ニッケル粉末と他の粉末との混合物を原料に用いてもよい。他の粉末としては、金属ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、コバルト、マンガン、鉄、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、白金族及び希土類元素等からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の粉末が挙げられる。さらに、導電性基材に吹き付ける前の酸化ニッケル粉末に、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース及びラウリル硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の添加材を混ぜてもよい。
なお、プラズマ溶射法などの溶射法では、溶射原料としての金属酸化物の平均粒径、その造粒物の平均粒径、造粒物中の溶射原料(例えば、金属酸化物)と添加剤の含有割合などを制御することによって、電極触媒層における平均孔径や表面開口率を制御することができる。
熱分解法を用いると、多孔基材上に均一な厚みの薄膜を形成することができる。そのため、少量の原料で基材表面を効率的に被覆することができる。
熱分解法では、基材表面に前駆体層を形成する前駆体形成工程と、表面に前駆体層を形成した基材を加熱することで、前駆体を分解し、触媒層を形成させる焼成工程とを備える。
前駆体形成工程は、例えば金属元素を含む液を基材表面に塗布する手法が挙げられる。塗布液中での金属の形態は特に制限はなく、金属や金属化合物の微粒子でもよく、溶解してイオン化されていてもよい。微粒子状態の場合、均質な前駆体層を形成するために、液中で分散されている状態が好ましい。そのため粒径は100nm以下であることが好ましい。イオン化されている場合、金属塩としては、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機化合物塩、酢酸塩に代表される有機化合物塩等が例示できる。これらの中で、塩化物、硝酸塩は原料を工業的に入手できるために好ましく用いられる。さらに、硝酸塩は分解後に残留するアニオン成分による基材の劣化が小さく、保存安定性の良好な電極を得ることができるため、より好ましい。溶液の溶媒としては、溶質である金属塩等を溶解するものであればよい。高濃度の溶液を調製することができれば、塗布量が増加し、生産性を高めることができるため、水若しくは炭素数が2〜5のアルコールの少なくとも1種以上を含むことが好ましい。溶液の金属塩の濃度が薄いと、溶媒の揮発に多くのエネルギーを要する。一方、金属塩の濃度が濃いと、ムラが生じる恐れがあり、触媒層の厚みが不均一となる場合がある。そのため、前駆体形成工程において用いる塗布液の金属塩の濃度は0.001mol/L以上、1mol/L以下が好ましく、より好ましくは0.01mol/L以上、0.5mol/Lである。
前駆体形成工程において、基材表面に金属元素を含む液を塗布する方法としては、公知の様々な手法を用いることが可能である。例えば、基材を液に浸漬するディップ法、基材に液を刷毛で塗る方法、スポンジ状ロールに含浸させた液を基材に塗布するロール法、塗布液と基材とを反対の電荷に帯電させてスプレー等を用いて噴霧を行う静電塗布法等が挙げられる。特に、生産性の点と触媒層が均一に塗布できる点とからロール法及び静電塗布法が好適に用いられる。
基材には、溶液を塗布するのに先立ち、表面に凹凸を設けるための表面処理を行ってもよい。基材表面に凹凸を設けると、基材と触媒層との密着性が向上する。表面処理の方法は特に限定されず、ブラスト処理や薬液を用いたエッチング等が例示できる。
焼成工程において触媒層を形成する温度は、用いる金属塩の熱分解温度以上であればよいが、300℃以上が好ましい。多くの金属塩の熱分解は300℃以上で進行するためである。熱分解を良好に進行させ、未反応の物質を除去するため、400℃以上が好ましく、より好ましくは500℃以上である。1000℃より高い温度で焼成すると、基材が軟化して変形する場合があるので、1000℃以下が好ましく、より好ましくは800℃以下である。
前駆体形成工程と焼成工程は複数回繰り返すことが好ましい。所望の厚みの触媒層を形成するためには、1回当たりの液塗布量や、あるいは液中の金属塩の濃度だけでも調整できるが、1回当たりの液塗布量や液中の金属濃度を高くし過ぎると、ムラになる恐れがあり、各層が均一に形成されない場合がある。そのため、前駆体形成工程と焼成工程を複数回繰り返すことによって、より均一な触媒層を所望の厚みで形成することができる。繰り返し回数は、所望の厚みが得られる条件であれば、特に限定されないが、5回以上、30回以下が好ましい。
前駆体形成工程と焼成工程とを複数回繰り返した後に、さらに、焼成工程の温度以上の高温で焼成する工程を含んでもよい。この際の焼成する温度の上限は1000℃以下が好ましく、より好ましくは800℃以下である。
上述する熱分解法では、塗布液中の金属(金属化合物、金属塩の場合も含む)の微粒子の平均粒径や濃度、塗工方法、塗工焼成回数などを制御することによって、電極触媒層の平均孔径や表面開口率を制御することができる。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、陽極及び陰極の一方のみが平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極である場合、対となる他方の電極は、公知のものを用いることができ、多孔体電極であってもなくてもよい。また、前記他方の電極は、平均孔径以外の特性について、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極について上述した特性を有するものであっても、そうでなくてもよい。
後述するゼロギャップ構成では、隔膜が、従来の電解セルより強く電極に押しつけられる。例えばエキスパンド型基材を用いた電極では開口部の端部で、隔膜が破損すること或いは、開口部に隔膜が食い込んで、陰極と隔膜の間に隙間ができて電圧が上昇する場合がある。
上記の課題を解決するためには、できるだけ平面的な電極形状とすることが好ましい。例えば、エキスパンド加工した基材(例えば、エキスパンド型基材)をローラーでプレスして平面状に加工する方法が適用できる。この際、エキスパンド加工前の元の金属平板厚みに対し、95%から110%までプレスし、平面化することが望ましい。
上記の処理を施して製造した電極は、隔膜の損傷を防げるだけでなく、意外なことに電圧も低減できる。この理由は明確ではないが隔膜の表面と電極面が均一に接触するので電流密度が均―化するためと予想される。
電極のサイズとしては、特に限定されず、後述するアルカリ水電解用複極式電解槽、電解セル、複極式エレメント、隔壁などの形状やサイズに合わせて、また所望する電解能力などに応じて、定めることができる。例えば、隔壁が板状の形状の場合、隔壁のサイズに合わせて定められてよい。
[隔膜]
電解セルにおいて、隔膜は、陽極と陰極との間に配置されており、イオンを含む電解液を透過する一方、電極で発生したガスを遮断する役割を担う。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)の複極式電解槽及びアルカリ水電解用複極式電解槽における隔膜は、平均一次粒径20.0nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である。無機粒子の平均一次粒径は、25nm以上250nm以下であることが好ましく、30nm以上200nm以下であることがより好ましく、50nm以上180nm以下であることが更に好ましい。
隔膜が微粒子形状の無機粒子を含有する多孔膜であると、無機粒子が多孔膜の孔を親水化して、電解液透過性、イオン透過性及びガス遮断性を向上させて、発生ガス純度を高めることができる。そして、無機粒子の平均一次粒径が上記範囲であると、多孔膜内で二次粒子を構成する無機粒子1個あたりの多孔膜との接触面積を増加させて多孔膜からの無機粒子の脱離を防止すると共に、無機粒子の二次粒子の表面積を増加させて、多孔膜の孔内の親水性を向上させることができ、発生ガス純度を一層高めることができる。更には、上記特定の範囲の平均孔径の多孔体電極との組み合わせにより、多孔膜から脱離した無機粒子が多孔体電極の細孔を閉塞するのを防止することができ、過電圧の上昇を防止することができる。
無機粒子は、多孔膜の表面に付着していても良いし、一部が多孔膜を構成する高分子材料に埋没していても良い。また無機粒子が多孔膜の空隙部に内包されると、多孔膜から脱離しにくくなり、多孔膜の性能を長時間維持することができる。
隔膜(多孔膜)中の無機粒子の平均一次粒径は、次の方法で求めることができる。
測定サンプルを膜表面の垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、無機粒子が観察できる倍率で撮像した。その画像を、画像解析ソフトを用いて2値化し、凝集していない10点の無機粒子のそれぞれに対して絶対最大長を測定し、その個数平均を求める。より具体的には、後述する実施例に記載の方法によって求めることができる。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、無機粒子の平均二次粒径は、特に限定されないが、隔膜からの脱落防止及び多孔膜孔内の親水化の観点から、0.2μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上8.0μm以下であることがより好ましい。平均二次粒径は、無機粒子が多孔膜中で形成している二次粒子の状態の平均粒径である。
なお、平均二次粒径は、多孔膜から高分子樹脂を溶解除去して残った無機粒子を測定試料として、レーザー回折・散乱法により、体積分布から平均二次粒径を計測することができる。より具体的には、後述する実施例に記載の方法によって求めることができる。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、無機粒子としては、特に限定されないが、例えば、ジルコニウム、チタン、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、チタン、ビスマス、セリウムの酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物が好ましく、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)がより好ましい。これら向き粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。無機粒子の粒子表面は、極性を帯びている。水溶液である電解液内における、極性の小さな酸素分子や水素分子と、極性の大きな水分子との親和性等を踏まえると、極性の大きな水分子の方が無機粒子と吸着し易いとと考えられる。よって、このような無機粒子が膜表面に存在することで、膜表面には水分子が優先的に吸着し、酸素分子や水素分子等の気泡は膜表面に吸着しない。その結果、多孔膜の表面への気泡の付着を効果的に抑制することができる。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔膜の平均透水孔径は、特に限定されないが、例えば0.05μm以上1.5μm以下とすることができ、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。平均透水孔径がこの範囲であれば、多孔膜のイオン透過性が良好となり、電圧損失を低減しやすくなり、更には、上述の平均孔径を有する多孔体電極によって制御されたバブル径を有する発生ガスが、隔膜孔を閉塞及び透過することを防止できる。加えて、無機粒子の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の脱落を抑制できる。それに伴い、多孔膜の高い親水性を維持することができ、電解液透過性、イオン透過性及びガス遮断性を向上させることができる。そして、隔膜による電圧損失を上昇させることなく隔膜のガス遮断性を高めることができ、電解効率及び発生ガス純度を一層向上させることができる。
なお、多孔膜の平均透水孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して以下の方法で測定した平均透水孔径をいう。まず、多孔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを任意の耐圧容器にセットして、容器内を純水で満たす。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくる際の圧力及び透過流量の数値を記録する。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めることができる。
平均透水孔径(m)={32ηLμ/(εP)}0.5
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは多孔膜の厚み(m)、μは見かけの流速でありμ(m/s)=流量(m/s)/流路面積(m)である。また、εは気孔率、Pは圧力(Pa)である。
ここで、多孔膜の気孔率εとは、アルキメデス法により求めた開気孔率をいい、以下の式により求めることができる。
気孔率ε(%)=(ρ1−ρ2)×100
ρ1は、飽水密度(g/cm)、すなわち、開気孔内が水を含んで飽和した状態のサンプルの密度を表す。ρ2は、乾燥密度(g/cm)、すなわち、開気孔内から水が十分に除去されて乾燥した状態のサンプルの密度を表す。ρ1及びρ2は、それぞれの状態のサンプルについて、w:重量(g)、d:厚み(cm)、s:厚み方向に垂直な面の面積(cm)を測定し、ρ=w/(d×s)として求めることができる。
多孔膜サンプルの水接触面が低吸水性であって、サンプルが水を含んだ状態と乾燥状態との間で厚みや面積が有意に変化しない場合には、d及びsは一定値とみなすこともできる。
気孔率εは、具体的に、25℃に設定した室内で次の手順で測定することができる。純水で洗浄した多孔膜を3cm×3cmの大きさで3枚に切出して、シックネスゲージで厚みdを測定する。これら測定サンプルを純水中に24時間浸し、余分な水分を取り除いて重量w1(g)を測定する。続いて、取り出したサンプルを50℃に設定された乾燥機で12時間以上静置して乾燥させて、重量w2(g)を測定する。そして、w1、w2、及びdの値から気孔率を求める。3枚のサンプルについて気孔率を求め、それらの算術平均値を多孔膜の気孔率εとする。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔膜の最大孔径は、特に限定されないが、ガス遮断性及び閉塞防止の観点から、例えば0.05μm以上4.0μm以下とすることができ、0.5μm以上3.0μm以下であることが好ましく、0.8μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。
最大孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して以下の方法で測定することができる。まず、隔膜として使用する多孔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを純水で濡らし、多孔膜の孔内に純水を含浸させ、これを測定用の耐圧容器にセットする。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から気泡が連続して発生してくるときの窒素圧力を、バブルポイント圧力とする。最大孔径はヤング−ラプラスの式を変形させた下記バブルポイント式から求めることができる。
最大孔径(m)=4γcosθ/P
ここで、γは水の表面張力(N/m)、cosθは多孔膜表面と水の接触角(rad)、Pはバブルポイント圧力(Pa)である。
なお、多孔膜の平均孔径と最大孔径との差が小さい程、多孔膜の分離性能は高くなる傾向にある。特に、電解においては、多孔膜内の孔径のばらつきを小さく保てる為、ピンホールが発生して両電極室から発生するガスの純度が低下する可能性を低くできる。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔膜の表面開口率は、特に限定されないが、ガス遮断性及び電解液透過性の観点から、20%以上80%以下であることが好ましく、25%以上75%以下であることがより好ましく、30%以上70%以下であることが更に好ましい。
多孔膜の表面開口率は、以下の方法で求めることができる。多孔膜表面の画像をSEMで撮像する。次に、この画像を画像解析ソフト(三谷商事社製、「WinROOF」)で2値化し、孔と孔以外の部分とを分ける。続いて、得られた2値化像を分析し画像全体に対する孔の割合を求め、これを表面開口率とする。より具体的には、後述する実施例で説明する方法で求めることができる。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[19]の形態等)において、多孔膜の水接触角は、特に限定されないが、ガス遮断性及び電解液透過性の観点から、10°以上110°以下とすることができ、20°以上100°以下であることが好ましく、30°以上90°以下であることがより好ましい。水接触角がこの範囲であると、電極で発生したガスが電極表面へ付着して電極反応を阻害するのを防止することができ、電解効率を一層高めることができる。
多孔膜の水接触角は、多孔膜の表面を構成する高分子等の材料の親水性を制御することにより、制御することができる。
多孔膜の水接触角は、電極の水接触角と同様に求めることができる。
多孔膜の平均透水孔径、最大孔径、平均孔径、表面開口率、水接触角は、例えば、後述の多孔膜の製造方法で製造することによって制御することができる。
上記多孔膜(隔膜)において、無機粒子の平均一次粒径の範囲、無機粒子の平均二次粒径の範囲、無機粒子の化学組成の範囲、透水孔径の範囲、最大孔径の範囲、表面開口率の範囲、水接触角の範囲は、本発明の効果を好適に得るうえで、それぞれ個別に選択されてもよい。
また、上記多孔膜(隔膜)、上記多孔体電極は、本発明の効果を好適に得るうえで、それぞれ個別に選択されてもよい。
本実施形態において隔膜として使用できる多孔膜としては、高分子多孔膜、無機多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。これらは公知の技術により作製することができる。
高分子多孔膜の製法例としては、相転換法(ミクロ相分離法)、抽出法、延伸法、湿式ゲル延伸法等が挙げられる。相転換法(ミクロ相分離法)とは、高分子材料を良溶媒に溶解して得られた溶液により製膜し、これを貧溶媒中で相分離させることで多孔質化する方法(非溶媒誘起相分離法)である。抽出法とは、高分子材料に炭酸カルシウム等の無機粉体を混練して製膜した後に、該無機粉体を溶解抽出して多孔質化する方法である。延伸法とは、所定の結晶構造を有する高分子材料のフィルムを所定の条件で延伸して開孔させる方法である。湿式ゲル延伸法とは、高分子材料を流動パラフィン等の有機溶剤で膨潤させてゲル状シートとし、これを所定の条件で延伸したのち有機溶剤を抽出除去する方法である。
無機多孔膜の製法例としては、焼結法等が挙げられる。焼結法は、プレスや押出しによって得られた成形物を焼き、微細孔を残したまま一体化させる方法である。
不織布の製法例としては、スパンボンド法、電界紡糸(エレクトロスピニング)法等が挙げられる。スパンボンド法とは、溶融したペレットから紡糸された糸を熱ロールで圧着し、シート状に一体化させる方法である。電界紡糸(エレクトロスピニング)法とは、溶融ポリマーの入ったシリンジとコレクター間に高電圧を印加しながら射出することで、細く伸長した繊維をコレクター上に集積させる方法である。
−−−高分子材料−−−
高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、であることが好ましく、ポリスルホンであることがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
高分子材料として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンを用いることで、高温、高濃度のアルカリ溶液に対する耐性が一層向上する。
また、例えば、非溶媒誘起相分離法等の方法を用いることで、隔膜を一層簡便に製膜することができる。特にポリスルホンであれば、孔径を一層精度よく制御することができる。
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンは架橋処理が施されていてもよい。かかる架橋処理が施されたポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンの重量平均分子量は、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として、4万以上15万以下であることが好ましい。架橋処理の方法は、特に限定されないが、電子線やγ線等の放射線照射による架橋や架橋剤による熱架橋等が挙げられる。なお、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量はGPCで測定することができる。
上記した高分子材料は、市販品を用いることもできる。ポリスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason S PSU(登録商標)」、ソルベイアドバンストポリマーズ社の「ユーデル(登録商標)」等が挙げられる。ポリエーテルスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason E PES(登録商標)」、ソルベイアドバンストポリマーズ社の「レーデル A(登録商標)」等が挙げられる。ポリフェニルスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason P PPSU(登録商標)」、ソルベイアドバンストポリマーズ社の「レーデル R(登録商標)」等が挙げられる。ポリフェニレンサルファイドとしては、例えば、東レ社の「トレリナ(登録商標)」等が挙げられる。ポリテトラフルオロエチレンとしては、三井デュポンフロロケミカル社の「テフロン(登録商標)」、ダイキン社の「ポリフロン(登録商標)」、旭硝子社の「フロオン(登録商標)」等が挙げられる。
多孔膜の厚みは、特に限定されないが、200μm以上700μm以下であることが好ましい。多孔膜の厚みが、250μm以上であれば、一層優れたガス遮断性が得られ、また、衝撃に対する多孔膜の強度が一層向上する。一方で、多孔膜の厚みが、700μm以下であれば、運転時に孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性を阻害されにくく、一層優れたイオン透過性を維持することができる。特に、高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである場合に、かかる効果は一層向上する。
−−多孔性支持体−−
隔膜として多孔膜を用いる場合、多孔膜は多孔性支持体と共に用いてよい。好ましくは、多孔膜が多孔性支持体を内在した構造であり、より好ましくは、多孔性支持体の両面に多孔膜を積層した構造である。また、多孔性支持体の両面に対称に多孔膜を積層した構造であってもよい。
隔膜の強度を一層向上する目的で、多孔性支持体を含むことができる。例えば、機械的なストレスによる、隔膜の切れや破れや伸び等といった不具合を防止できる。また、多孔性支持体の両面に多孔膜が積層されている構造では、多孔性支持体の片面に傷や穴(ピンホール等)が生じた場合でも、多孔性支持体の他方に積層された多孔膜によりガス遮断性を担保することができる。多孔性支持体の両面に、対称に多孔膜が積層される構造では、膜のカール等を効果的に防止でき、運搬時や膜設置時等における取り扱い性が一層向上する。
多孔性支持体の材質は、特に限定されないが、隔膜における電解液のイオン透過性を実質的に低減させない材質であることが好ましい。多孔性支持体の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリフェニレンサルファイドを含むことが好ましい。ポリフェニレンサルファイドを用いることで、高温、高濃度のアルカリ溶液に対しても優れた耐性を示し、また、水の電気分解時に陽極から発生する活性酸素に対しても化学的に優れた安定性を示す。さらに、織布や不織布等のような様々に形態に加工し易いので、使用目的や使用環境に即して好適に調節することができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
多孔性支持体としては、例えば、メッシュ、多孔質膜、不織布、織布、不織布及びこの不織布に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。多孔性支持体のより好適な態様としては、例えば、ポリフェニレンサルファイドのモノフィラメントで構成されるメッシュ基材、又は不織布及び該不織布内に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。
多孔性支持体が、メッシュであれば、十分な開口度を有するため、隔膜のイオン透過性をより高いレベルで維持できる。また、機械的強度が高いため、隔膜の破断や寸法の変化を一層効果的に抑制できる(機械的強度、寸法安定性)。さらに、アンカー効果によって多孔膜から多孔性支持体が剥離することも効果的に抑制できる。モノフィラメントである場合の繊維径は、特に限定されないが、30μm以上600μm以下であることが好ましい。モノフィラメントの繊維径の下限が、30μm以上であれば、十分な機械的強度が得られ、多孔膜が一層破れにくくなる。また、繊維径の上限が600μm以下であれば、メッシュ表面の凸凹をより一層抑制でき、多孔膜表面の平滑性を一層向上させることができる。
<隔膜の製造方法>
隔膜の製造方法は、特に限定されないが、非溶媒誘起相分離法(「湿式相分離法」とも称される)で行うことが好ましい。以下、非溶媒誘起相分離法による製造方法の例を記載する。
非溶媒誘起相分離法による製造方法は、以下の工程を含む:
高分子樹脂と、溶媒と、任意により無機粒子とを含有する溶液を調製する工程、
前記溶液を多孔性支持体の片面又は両面に塗工し、多孔性支持体上に塗膜を形成する工程、
前記多孔性支持体上の塗膜を、前記高分子樹脂の貧溶媒の蒸気を含む気体に晒す工程、
前記多孔性支持体上の塗膜を、前記高分子樹脂の貧溶媒を含む凝固浴に浸漬させ、多孔膜を形成する工程。
本実施形態の作用効果が得られる範囲であれば、上記各工程はこの順に行うことに限定されるものではなく、必要に応じて同時に行ってもよいし、連続的に行ってもよい。
溶媒は、高分子樹脂を溶解する性質を有するものであり、使用する高分子樹脂について高い溶解性を有する良溶媒であることが好ましい。この溶媒は、使用する高分子樹脂の種類等に応じて適宜選択することができる。かかる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中で、種々の樹脂に対する溶解性、不揮発性、及び溶媒の管理の容易性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
貧溶媒は、高分子樹脂を実質的に溶解しない溶媒であり、全く溶かさない非溶媒であることが好ましい。貧溶媒は、使用する高分子樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。貧溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール等が挙げられ、これらの混合液であってもよい。
多孔膜の表面及び内部の孔径を制御するには、例えば、溶液を多孔性支持体に塗工し、多孔性支持体上に塗膜を形成する工程と、多孔性支持体上の塗膜を、高分子樹脂の貧溶媒を含む凝固浴に浸漬させ、多孔膜を形成する工程との間に、塗膜を、高分子樹脂の貧溶媒の蒸気を含む気体に晒す工程を行うことが好ましい。
なお、多孔膜の表面及び内部の孔径とは、多孔膜の表面及び裏面の平均孔径、表面開口率、平均透水孔径、最大孔径、並びに気孔率等を包含するものとする。
多孔性支持体に塗工した塗膜が貧溶媒の蒸気を含む気体に晒されると、蒸気に晒されている表面から、微量な貧溶媒が塗膜表面内に浸透する。貧溶媒が浸透したところは非溶媒誘起相分離が始まり、凝固浴に浸漬されるまでの間に相分離が十分に進行する。塗膜を、貧溶媒の蒸気を含む気体に晒すことなく、高分子樹脂の貧溶媒を含む凝固浴に浸漬させると、塗膜表面の相分離がほとんど進行していない状態で、塗膜表面が固化するため、表面の孔径は非常に小さなものとなる。これにより、隔膜内へのイオン透過性が悪くなり、結果として電圧損失が増大する傾向となる。また塗膜内部の高分子樹脂の溶媒と貧溶媒の置換は、塗膜表面に形成された小さな孔から行われるため、内部が固化するまでの置換に長い時間を有することとなる。これにより、塗膜内部の相分離時間は非常に長いものとなり、膜内部に大きなボイドが形成され易くなる。膜内に大きなボイドが形成されると、ガス遮断性が失われたり、膜が脆くなったりする問題が生じる。この点、塗膜表面に貧溶媒の蒸気を含む気体を晒し、塗膜表面に貧溶媒を浸透させる工程を有することで、多孔膜の表面の平均孔径を上記下限値以上に制御しやすいという観点等から好ましい。また、多孔膜の表面の孔径は、塗膜に浸透させる蒸気量等を調整することで制御できる。
蒸気の発生方法としては、例えば、塗工した溶液を浸漬する凝固浴の温度上げて蒸気を発生させてもよいし、凝固浴とは別に蒸気を発生させるための蒸気発生浴を用いてもよい。蒸気発生の温度は、特に限定されないが、30℃以上100℃以下であることが好ましい。蒸気発生の温度が30℃以上であれば、塗工した溶液に浸透して相分離を進行できる量の蒸気を発生させ易い。
塗膜表面を貧溶媒の蒸気を含む気体に晒す時間は、特に限定されないが、3秒以上180秒以下であることが好ましい。塗膜表面を貧溶媒の蒸気を含む気体に晒す時間は、塗膜の組成、蒸気発生浴の温度等によって適宜好適な条件を選択できる。通常、3秒以上であれば、多孔膜表面の孔径が小さくなり過ぎず、多孔膜の表面の平均孔径を上記下限値以上に制御しやすくなるという観点等から好ましい。これにより隔膜のイオン透過性が良好で、運転時の電圧損失の増大を一層効果的に抑制できる。また、多孔膜内部に大きなボイドが形成されにくく、高いガス遮断性を維持できる。180秒以下であれば、蒸気発生浴の温度が高い場合でも、貧溶媒の蒸気を含む気体により膜が固化しづらく、また多孔膜表面の孔径が大きくなり過ぎず、多孔膜の表面の平均孔径を上記上限値以下に制御しやすくなるという観点等から好ましい。これにより多孔膜の孔内等からの無機粒子の欠落を一層効果的に抑制できる。
多孔性支持体上の塗膜を凝固浴に浸漬させる時間は、特に限定されないが、30秒以上600秒以下であることが好ましい。塗膜を凝固浴に浸漬させる時間は、塗膜の組成、貧溶媒の組成、凝固浴の温度等によって適宜好適な条件を選択できる。通常、30秒以上5600秒以下であれば、多孔性支持体上の塗膜を十分に凝固させることができる。
凝固浴の温度は、特に限定されないが、10℃以上60℃以下であることが好ましい。凝固浴の温度は、塗膜の組成、貧溶媒の組成、凝固浴の温度等によって適宜好適な条件を選択できるが、通常、10℃以上60℃以下であれば、得られる多孔膜の表面及び内部の孔径を所望の範囲に制御することができる。
多孔膜の表面及び内部の孔径を制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、無機粒子と高分子樹脂とその溶媒を含有する溶液に、孔径を制御するための添加剤を加える方法等も挙げられる。これにより該溶液が高分子樹脂の貧溶媒を含む凝固浴に接触した際に生じる非溶媒誘起相分離の速度を変化させる、あるいは、高分子樹脂を凝固させた後に、添加剤を溶出させることにより、多孔膜における平均透水孔径や最大孔径を制御することができる。孔径を制御するための添加剤としては、特に限定されないが、以下の有機化合物や無機化合物等が挙げられる。
有機化合物としては、上述した溶媒と高分子樹脂の貧溶媒の両方に溶解するものを用いることが好ましい。有機化合物は、使用する溶媒や貧溶媒の種類等を踏まえて適宜好適なものを選択することができるが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、デキストラン等が好ましい。これらの中で、特に溶媒との相溶性の観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン等がより好ましい。さらに、少量の添加量であっても相分離速度を大幅に変化させること等が可能といった観点から、分子量が1万〜5万のポリエチレングリコール、分子量が5万〜30万のポリエチレンオキサイド、分子量が3万〜100万のポリビニルピロリドン等が更に好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
無機化合物としては、上述した溶媒及び高分子樹脂の貧溶媒の両方に溶解するものを用いることが好ましい。無機化合物は、使用する溶媒や貧溶媒の種類等を踏まえて適宜好適なものを選択することができるが、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硫酸バリウム等が好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、添加剤を用いずに、凝固浴における貧溶媒の種類、濃度及び温度によって相分離速度を制御し、多孔膜の表面及び内部の孔径を制御することも可能である。一般的には、相分離速度が速いと平均孔径が小さくなり、相分離速度が遅いと平均孔径が大きくなる傾向にある。また、高分子樹脂とそれらの溶媒を含有する溶液に、高分子樹脂の貧溶媒を添加することも、相分離速度を変化させて、多孔膜における平均孔径を制御することに有効である。
高分子樹脂、無機粒子、及びそれらの溶媒を含有する溶液における高分子樹脂の含有量は、5質量%以上25質量%以下であることが好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。高分子樹脂の含有量を上記上限値以下とすることで、多孔膜の機械的強度が一層向上する。高分子樹脂の含有量を上記下限値以上とすることで、溶液の高粘度化を抑制でき、製膜性が一層向上するので、多孔膜の厚みを一層均一なものとすることができる。
溶液における無機粒子の含有量は、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。無機粒子の含有量を上記上限値以下とすることで、溶液の高粘度化を抑制でき、製膜性が一層向上するので、多孔膜の厚みを一層均一なものにできる。無機粒子の含有量を上記下限値以上とすることで、多孔膜の親水性が一層向上する。
溶液における溶媒の含有量は、30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、40質量%以上70質量%以下であることが好ましく、45質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量を上記上限値以下とすることで、溶液の高粘度化を抑制でき、塗工時のむらや斑も一層抑制できる。溶媒の含有量を上記下限値以上とすることで、高分子樹脂をより溶解させることができるとともに、無機粒子を溶液中に一層分散させることができる。
溶液を調製する方法は、特に限定されていないが、例えば次の様な方法を用いることができる。ボールミルのポット内に高分子樹脂の溶媒と無機粒子を投入した後、ボールミルのポットを撹拌し、無機粒子を高分子樹脂の溶媒に細分化しながら分散させる。その後、得られた液からボールを濾過により分離する。その後、無機粒子を分散した溶液を撹拌翼で撹拌しながら、高分子樹脂を少量ずつ添加して溶解させ、製膜溶液を調節する。また必要があれば添加剤を添加して溶液を調製することもできる。この他、溶液の調節は、例えば、ボールミルのポット内に高分子樹脂の溶媒と無機粒子と添加剤を一緒に投入した後、ボールミルのポットを撹拌することや、高分子樹脂の溶媒に添加剤を溶解させることでも可能である。
高分子樹脂、無機粒子、及びそれらの溶媒を含有する溶液を多孔性支持体に塗工する方法は、特に限定されない。例えば、多孔性支持体上に溶液を供給した後、コーターを用いて、目的とした塗工量以外の部分を掻き取る方法、溶液に多孔性支持体を浸漬させた後、目的とした塗工量以外の部分をロールで絞り取る方法、溶液に多孔性支持体を浸漬させた後、目的とした塗工量以外の部分をコーターで掻き取る方法、Tダイにより塗工液を多孔性支持体にフィードして塗工する方法等が挙げられる。また、多孔膜の厚みの調節としては、特に限定されるものではないが、例えば溶液を塗工するコーターと多孔性支持体の間隔を調節する方法や、Tダイにより塗工される液量を調節する方法が用いられる。
凝固浴は貧溶媒以外に、上記した溶媒を加えることにより、相分離速度を制御して、多孔膜における表面及び内部の孔径を制御することができる。例えば、溶媒を凝固浴に加えることにより、塗膜内の溶媒と凝固浴内の貧溶媒の置換速度を遅くすることができ、これにより固化するまでの相分離時間を長くすることができ、孔径を大きくすることができる。溶媒としては、上記したものを使用することができる。貧溶媒は凝固浴内に30体積%以上あれば、非溶媒誘起相分離を問題なく進行させることができるが、それ以下の量になると、高分子樹脂の固化が不十分となる場合がある。よって、凝固浴中に含まれる貧溶媒の割合は30体積%以上が好ましい。
また、多孔膜は多孔性支持体の孔内に一部入り込み、一体となっていることが好ましい。これらが一体となっていれば、いわゆるアンカー効果により、多孔膜から多孔性支持体の剥離を一層効果的に抑制できる。
多孔膜を製膜した後に、更に熱処理を施してもよい。熱処理を行うと、高分子樹脂の高分子鎖を結晶化又は固定化させて、多孔膜の構造を一層安定化することができる。熱処理の方法としては、多孔膜を湯浴に浸漬させる方法;高温の金属板で多孔膜を挟み、プレスする方法;高温のロールで多孔膜を挟み、プレスする方法等が挙げられる。熱処理温度は、特に限定されないが、80℃以上210℃以下であることが好ましく、180℃以上210℃以下であることがより好ましい。熱処理温度が80℃以上であれば、水電解における使用温度より高い温度となるため、隔膜とした際に、高分子樹脂の高分子鎖が再び動き始めて多孔膜の構造が不安定となるといった不具合を効果的に抑制できる。熱処理温度が210℃以下であれば、高分子の熱劣化を効果的に抑制できる。熱処理温度が180℃以上であれば、通常汎用される高分子樹脂のガラス転移点温度以上の温度であるため、高分子鎖を結晶化又は固定化して、より優れた耐熱性を有する多孔膜とすることができる。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽では、特に限定されないが、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触した、いわゆる「ゼロギャップ構造」が形成されていることが好ましい。「ゼロギャップ構造」は、電極全面にわたり、陽極と隔膜とが互いに接触し、且つ、陰極と隔膜とが互いに接触している状態、又は、電極全面にわたり、極間距離が隔膜の厚みとほぼ同じとなる距離で、陽極と隔膜との間及び陰極と隔膜との間に隙間のほとんど無い状態、に保つことのできる構造である。
アルカリ水電解において、隔膜と、陽極や陰極との間に隙間がある場合、この部分には電解液の他に電解で発生した大量のガスバブルが滞留することで、電気抵抗が非常に高くなる。
一方、ゼロギャップ構造を形成すると、発生するガスを電極の細孔を通して電極の隔膜側とは反対側に素早く逃がすことによって、陽極と陰極の間隔(以下、「極間距離」ともいう。)を低減しつつ、電解液による電圧損失や電極近傍におけるガス溜まりの発生を極力抑え、電解電圧を低く抑制することができる。
ゼロギャップ構造を構成する手段は、既にいくつか提案されており、例えば、陽極と陰極を完全に平滑に加工して、隔膜を挟むように押し付ける方法や、電極と隔壁との間にバネ等の弾性体を配置し、この弾性体で電極を支持する方法が挙げられる。
なお、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽において、ゼロギャップ構造を構成する手段の好ましい実施形態については、後述する。
(アルカリ水電解用複極式電解槽)
以下、上述した陰極、陽極、隔膜を備える、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例について、図を参照しながら説明する。
なお、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽は、下記で説明するものに限定されるものではない。また、アルカリ水電解用複極式電解槽に含まれる、陽極、陰極及び隔膜以外の部材も、下記で挙げられるものに限定されず、公知のものを適宜選択、設計等して用いることができる。
図1に、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例の全体についての側面図を示す。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽は、図1に示すとおり、陽極と、陰極と、陽極と陰極とを隔離する隔壁と、隔壁を縁取る外枠とを備える複数の電解セル65が隔膜を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽50である。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽では、特に限定されないが、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触したゼロギャップ構造が形成されていることが好ましい。
((複極式エレメント))
一例のアルカリ水電解用複極式電解槽に用いられる複極式エレメント60は、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁を備え、隔壁を縁取る外枠を備えている。より具体的には、隔壁は導電性を有し、外枠は隔壁の外縁に沿って隔壁を取り囲むように設けられている。
本実施形態では、図1に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図1に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は、陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置する。複極式電解槽50は、全体をタイロッド51r(図1参照)や油圧シリンダー方式等の締め付け機構で締め付けることによりー体化され、複極式電解槽50となる。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極2a側からでも陰極2c側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
図1に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置され、隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
また、本実施形態における複極式電解槽50では、隔壁と外枠と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室が画成されている。
複極式電解槽50には、通常、電解液を配液又は集液する管であるヘッダーが取り付けられ、隔壁の端縁にある外枠のうちの下方に、陽極室に電解液を入れる陽極入口ヘッダーと、陰極室に電解液を入れる陰極入口ヘッダーとを備えている。また、同様に、隔壁の端縁にある外枠のうちの上方に、陽極室から電極液を出す陽極出口ヘッダーと、陰極室から電解液を出す陰極出口ヘッダーとを備えている。
なお、図1に示す複極式電解槽50に取り付けられるヘッダーの配設態様として、代表的には、内部ヘッダー型と外部ヘッダー型とがあるが、本発明では、いずれの型を採用してもよく、特に限定されない。
なお、図1に示す例では、隔壁、陽極2a、陰極2cがいずれも所定の厚みを有する板状の形状であるが、本発明はこれに限定されることなく、断面において全部又は一部がジグザグ状、波状となる形状であってもよく、端部が丸みを帯びている形状であってもよい。
((ゼロギャップ構造))
ゼロギャップ型セルにおける複極式エレメント60では、極間距離を小さくする手段として、電極2と隔壁との間に弾性体であるバネを配置し、このバネで電極2を支持する形態をとることが好ましい。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極2が隔膜4に接する圧力が不均一にならないように、バネの強度、バネの数、形状等必要に応じて適宜調節する必要がある。
また弾性体を介して支持した電極2の対となるもう一方の電極2の剛性を強くすること(例えば、陽極の剛性を陰極の剛性よりも強くすること)で、押しつけても変形の少ない構造としている。―方で、弾性体を介して支持した電極2については、隔膜4を押しつけると変形する柔軟な構造とすることで、電解槽50の製作精度上の公差や電極2の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップ構造を保つことができる。
(アルカリ水電解装置)
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽を用いることができる、アルカリ水電解装置の一例を図2に示す。
アルカリ水電解装置70は、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50に加えて、送液ポンプ71、気液分離タンク72、水補給器73以外にも、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、圧力制御弁80などを備えてよい。
(アルカリ水電解)
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽を備えたアルカリ水電解装置に電解液を循環させて電解を行うことにより、高密度電流運転の場合でも、優れた電解効率及び高い発生ガス純度を維持して、高効率なアルカリ水電解を実施することができる。
本実施形態のアルカリ水電解に用いることができる電解液としては、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液としてよく、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液等が挙げられる。
アルカリ塩の濃度としては、特に限定されないが、20質量%〜50質量%が好ましく、25質量%〜40質量%がより好ましい。
中でも、イオン導電率、動粘度、冷温化での凍結の観点から、25質量%〜40質量%のKOH水溶液が特に好ましい。
電解セル内にある電解液の温度は、特に限定されないが、80℃〜130℃であることが好ましい。
上記温度範囲とすれば、高い電解効率を維持しながら、ガスケット、隔膜等の電解装置の部材が熱により劣化することを効果的に抑制することができる。
電解液の温度は、85℃〜125℃であることがさらに好ましく、90℃〜115℃であることが特に好ましい。
本実施形態のアルカリ水電解において、電解セルに与える電流密度としては、特に限定されないが、4kA/m〜20kA/mであることが好ましく、6kA/m〜15kA/mであることがさらに好ましい。
特に、変動電源を使用する場合には、電流密度の上限を上記範囲にすることが好ましい。
本実施形態のアルカリ水電解において、電解セル内の圧力としては、特に限定されないが、3kPa〜1000kPaであることが好ましく、3kPa〜300kPaであることがさらに好ましい。
電極室当たりの電解液の流量その他の条件は、アルカリ水電解用複極式電解層の各構成に応じて適宜制御すればよい。
(水素製造方法)
本実施形態の水素製造方法は、アルカリを含有する水を複極式電解槽により水電解し、水素を製造するものであり、本実施形態の複極式電解槽、本実施形態の電解装置、本実施形態の水電解方法を用いて実施されてよい。
複極式電解槽は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせを、複数備え、陽極及び陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極であり、隔膜が、平均一次粒径20nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である。
本実施形態の水素製造方法における、本実施形態の電解槽の詳細、本実施形態の電解装置の詳細、本実施形態の水電解方法の詳細は、前述のとおりである。
以上、図面を参照して、本発明の実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽、アルカリ水電解装置及びアルカリ水電解方法について例示説明したが、本発明のアルカリ水電解用複極式電解槽、アルカリ水電解装置及びアルカリ水電解方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した電極(陽極、陰極)及び隔膜は、下記の通りに作製した。
[実施例1]
(陽極)
実施例1の陽極として、下記の手順で作製した多孔体電極を使用した。
粒径が0.1〜2.0μmである酸化ニッケル粉末100質量部、アラビアゴム1.50質量部、カルボキシルメチルセルロース0.7質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.001質量部、及び水100質量部を混合・攪拌して、懸濁液を調整した。噴霧乾燥造粒機を用いて、懸濁液から、粒径が2〜10μmである造粒物を調製した。
造粒成形物を、プラズマ溶射法によって導電性基材の両面に吹き付けた。導電性基材としては、予めブラスト処理を施したニッケルエキスパンド型基材を用いた。メッシュの長目方向の中心間距離(LW)は4.5mm、基材メッシュの短目方向の中心間距離(SW)は3.2mmであった。基材の厚みは1mmであった。プラズマ溶射法では、プラズマガスとして、アルゴンと窒素とを1:0.8の割合で混合したガスを用いた。導電性基材の表面を被覆する触媒層の前駆体の厚みは、240μmに調整した。導電性基材の裏面を被覆する触媒層の前駆体の厚みは、160μmに調整した。
この導電性基材を、石英管中に設置した。この石英管を、管状炉内に差し込んで、石英管内を200℃に加熱しつつ、石英管内へ水素気流を2時間供給し続けることにより、触媒層の前駆体を還元した。
以上の工程により、導電性基材と、導電性基材を被覆する触媒層と、を備える多孔体電極を得た。
なお、当該陽極を以下及び表1において「陽極1」と表記する。
(陰極)
実施例1の陰極として、下記の手順で作製した電極を使用した。
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュに編んだ平織メッシュ型基材を用いた。重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗し、乾燥させた。
次に、硝酸パラジウム溶液(田中貴金属製、パラジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)とを、パラジウムと白金のモル比が1:1となるように混合して、第一塗布液を調製した。
塗布ロールの最下部に上記第一塗布液を入れたバットを設置し、EPDM製の塗布ロールに塗布液をしみこませ、その上部にロールと塗布液とが常に接するようにロールを設置し、さらにその上にPVC製のローラーを設置して、該導電性基材に塗布液を塗布した(ロール法)。塗布液が乾燥する前に手早く、2つのEPDM製スポンジロールの間にこの導電性基材を通過させて、導電性基材のメッシュの交点に溜まる塗布液を吸い取って除いた。その後、50℃で10分間乾燥させて塗布膜を形成した後、マッフル炉を用いて500℃で10分間の加熱焼成を行って該塗布膜を熱分解させた。このロール塗布、乾燥及び熱分解のサイクルを2回繰り返し、第一層を形成させた。
次に、塩化イリジウム酸溶液(田中貴金属製、イリジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)を、イリジウムと白金とのモル比が0.73:0.27となるように混合し、第二塗布液を調製した。第一層と同様にロール法にて第二塗布液を上記第一層が形成された基材上へ、塗布、乾燥及び熱分解を行った。乾燥温度は、50℃、熱分解温度は500℃で2回繰り返し、第二層を形成させた。さらに、空気雰囲気中500℃で1時間の後加熱を行い、陰極を作製した。
なお、当該陰極を以下及び表1において「陰極1」と表記する。
(隔膜)
実施例1の隔膜として、下記の手順で作製した多孔膜を使用した。
酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)135gとN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)240gを、粒径0.5mmのSUSボールが1kg入った容量1000mLのボールミルポットに投入した。これらを回転数70rpmで25℃雰囲気下において3時間攪拌して、分散させて混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス製のざる(網目30メッシュ)により濾過し、混合物からSUSボールを除去した。この混合物にポリスルホン(「ユーデル」、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)60g及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)18gを加え、スリーワンモータを用いて60℃で12時間攪拌して溶解させ、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン :20質量部
ポリビニルピロリドン :6質量部
N−メチル−2−ピロリドン :80質量部
酸化ジルコニウム :45質量部
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、糸径150μm)の両表面に対して、コンマコータを用いて塗工厚みが各面150μmとなるよう塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を、40℃の純水/イソプロパノール混合液(和光純薬工業社製、純水/イソプロパノール=50/50(v/v))を溜めた凝固浴の蒸気下へ2分間晒した。その後直ちに、塗工液を塗工した基材を、凝固浴中へ4分間浸漬した。そして、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成した。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔膜を得た。
この多孔膜は、平均透水孔径が0.3μm、最大孔径が1.1μm、厚みが560μmであった。ZrOの平均一次粒径は50nm、平均二次粒径は4.0μmであった。
なお、当該隔膜を以下及び表1において「隔膜1」と表記する。
[実施例2]
(陽極)
実施例2の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.2〜2.0μmに、アラビアゴムの量を2.25質量部に、造粒物の粒径を5〜50μmに変え、導電性基材を、予めブラスト処理を施した、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)が4.5mm、メッシュの短目方向の中心間距離(SW)が3.2mm、基材の厚みが1mmのニッケルエキスパンド型基材に変えた以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を以下及び表1中において「陽極2」と表記する。
(陰極)
実施例2の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
実施例2の隔膜としては、隔膜1を使用した。
[実施例3]
(陽極)
実施例3の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.1〜1.0μm、アラビアゴムの量を1.00質量部に変え、導電性基材を、予めブラスト処理を施した、穴径1.2mm、穴間ピッチ1.4mm、基材の厚み1mmのニッケルパンチング型基材に変えた以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極3」と表記する。
(陰極)
実施例3の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
実施例3の隔膜としては、N−メチル−2−ピロリドンの量を210g(70質量部)に、ポリスルホンの量を45g(15質量部)に、ポリビニルピロリドンの量を24g(8質量部)に変えた凝固浴の温度を30℃に変えた以外は、実施例1の隔膜と同様に作製した多孔膜を使用した。
この多孔膜の平均透水孔径は0.2μm、最大孔径は1.1μm、表面孔径は1.1μm、裏面の表面孔径は0.9μm、厚みは580μm、気孔率は43%であった。ZrOの平均一次粒径は50μm、平均二次粒径は5.5μmであった。そして、水接触角は50°であった。
なお、当該隔膜を以下及び表1において「隔膜2」と表記する。
[実施例4]
(陽極)
実施例4の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.2〜2μmに、アラビアゴムの量を2.25質量部に、造粒物の粒径を5〜50μmに変え、導電性基材を、予めブラスト処理を施した、穴径が9.0mm、穴間ピッチが11.5mm、基材の厚みが1mmのニッケルパンチング型基材に変えた以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極4」と表記する。
(陰極)
実施例4の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
実施例4の隔膜としては、隔膜2を使用した。
[実施例5]
(陽極)
実施例5の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.2〜2μmに、アラビアゴムの量を2.25質量部に、造粒物の粒径を5〜50μmに変え、導電性基材を、予めブラスト処理を施した、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)が3.0mm、メッシュの短目方向の中心間距離(SW)が2.0mm、基材の厚みが1mmのニッケルエキスパンド型基材に変えた以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極5」と表記する。
(陰極)
実施例5の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
実施例5の隔膜としては、隔膜2を使用した。
[実施例6]
(陽極)
実施例6の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.2〜2μmに、アラビアゴムの量を2.25質量部に、造粒物の粒径を5〜50μmに変え、導電性基材を、予めブラスト処理を施した、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)が6.0mm、メッシュの短目方向の中心間距離(SW)が4.0mm、基材の厚みが1mmのニッケルエキスパンド型基材とした以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極6」と表記する。
(陰極)
実施例6の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
実施例6の隔膜としては、隔膜2を使用した。
[実施例7]
(陽極)
実施例7の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.2〜2μmに、アラビアゴムの量を2.25質量部に、造粒物の粒径を5〜50μmに変え、導電性基材を、予めブラスト処理を施した、直径0.40mmのニッケルの細線を9メッシュの目開きで編んだ平織メッシュ型基材に変えた以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極7」と表記する。
(陰極)
実施例7の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
実施例7の隔膜としては、隔膜1を使用した。
[実施例8]
(隔膜)
実施例8の隔膜として、ポリスルホンの量を45g(15質量部)に、ポリビニルピロリドンの量を36g(12質量部)に、凝固浴の温度を30℃に変えた以外は、実施例1の隔膜と同様に作製した多孔膜を使用した。
この多孔膜は、平均透水孔径が0.8μm、最大孔径が2.5μm、厚みが480μmであった。ZrOの平均一次粒径は50nm、平均二次粒径は4.0μmであった。
なお、当該隔膜を表1において「隔膜3」と表記する。
(陽極)
実施例8の陽極としては、陽極2を使用した。
(陰極)
実施例8の陰極として、下記の手順で作製した多孔体電極を使用した。
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュに編んだ平織メッシュ型基材を用いた。重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥した。
次に、硝酸パラジウム溶液(田中貴金属製、パラジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)と塩化アルミニウム水溶液(Aldrich製、アルミニウム濃度:100g/L)とを、パラジウムと白金とアルミニウムのモル比が4:5:1となるように混合し、第一塗布液を調製した。
塗布ロールの最下部に上記第一塗布液を入れたバットを設置し、EPDM製の塗布ロールに塗布液をしみこませ、その上部にロールと塗布液とが常に接するようにロールを設置し、さらにその上にPVC製のローラーを設置して、該導電性基材に塗布液を塗布した(ロール法)。塗布液が乾燥する前に手早く、2つのEPDM製スポンジロールの間にこの導電性基材を通過させて、導電性基材のメッシュの交点に溜まる塗布液を吸い取って除いた。その後、50℃で10分間乾燥させて塗布膜を形成した後、マッフル炉を用いて500℃で10分間の加熱焼成を行って該塗布膜を熱分解させた。このロール塗布、乾燥及び熱分解のサイクルを2回繰り返し、第一層を形成させた。
次に、塩化イリジウム酸溶液(田中貴金属製、イリジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)を、イリジウムと白金とのモル比が0.73:0.27となるように混合し、第二塗布液を調製した。第一層と同様にロール法にて第二塗布液を上記第一層が形成された基材上へ、塗布、乾燥及び熱分解を行った。乾燥温度は、50℃、熱分解温度は500℃で2回繰り返し、第二層を形成させた。さらに、空気雰囲気中500℃で1時間の後加熱を行った。最後に、40℃の0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に1時間浸漬し、多孔体電極としての陰極を作製した。
なお、当該陰極を表1において「陰極2」と表記する。
陰極2は、上述のように、予めブラスト処理を施した直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュに編んだ平織メッシュ型基材(目開き0.5mm)を導電性基材として用いた多孔体電極であり、平均孔径160nm、表面開口率40%、二重層容量0.5F/cm、水接触角13°であった。
[実施例9]
(隔膜)
実施例9の隔膜として、酸化ジルコニウムを酸化チタン(「TTO−51(A)」、石原産業社製)に、ポリスルホンの量を45g(15質量部)に、N−メチル−2−ピロリドンの量を210g(70質量部)に、凝固浴の温度を30℃に変えた以外は、実施例1の隔膜と同様に作製した多孔膜を使用した。
この多孔膜は、平均透水孔径が0.5μm、最大孔径が1.2μm、厚みが590μmであった。TiOの平均一次粒径は20nm、平均二次粒径は0.5μmであった。
なお、当該隔膜を表1において「隔膜4」と表記する。
(陽極)
実施例9の陽極としては、陽極2を使用した。
(陰極)
実施例9の陰極としては、陰極1を使用した。
[実施例10]
(隔膜)
実施例10の隔膜として、酸化ジルコニウムを「EP酸化ジルコニウム」(第一稀元素化学工業社製)から「SRP−2酸化ジルコニウム」(第一稀元素化学工業社製)に、ポリスルホンの量を45g(15質量部)に変えた以外は、実施例1の隔膜と同様に作製した多孔膜を使用した。
この多孔膜は、平均透水孔径が0.4μm、最大孔径が1.3μm、厚みが530μmであった。ZrOの平均一次粒径は250nm、平均二次粒径は8.0μmであった。
なお、当該隔膜を表1において「隔膜5」と表記する。
(陽極)
実施例10の陽極としては、陽極2を使用した。
(陰極)
実施例10の陰極としては、陰極1を使用した。
[実施例11]
(陽極)
実施例11の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.5〜2.5μm、アラビアゴムの量を2.25質量部、造粒物の粒径を10〜60μmとした以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極8」と表記する。
(陰極)
実施例11の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
実施例11の隔膜としては、隔膜2を使用した。
[実施例12]
(陰極)
実施例12の陰極としては、導電性基材として、直径0.5mmのニッケルの細線を20メッシュに編んだ平織メッシュ型基材を用いた以外は、実施例8の陰極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陰極を表1において「陰極3」と表記する。
(陽極)
実施例12の陽極としては、陽極2を使用した。
(隔膜)
実施例12の隔膜としては、隔膜2を使用した。
[実施例13]
(陽極)
実施例13の陽極としては、酸化ニッケル粉末の粒径を0.2〜2.0μmに、アラビアゴムの量を2.25質量部に、造粒物の粒径を5〜50μmに変え、導電性基材を、予めブラスト処理を施した、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)が51.0mm、メッシュの短目方向の中心間距離(SW)が11.0mm、基材の厚みが1mmのニッケルエキスパンド型基材に変えた以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極9」と表記する。
(陰極)
実施例13の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
実施例13の隔膜としては、隔膜2を使用した。
[実施例14]
(隔膜)
実施例14の隔膜として、ポリスルホンの量を9g(15質量部)に、ポリビニルピロリドンの量を9g(3質量部)に、凝固浴の温度を30℃に変えた以外は、実施例1の隔膜と同様に作製した多孔膜を使用した。
この多孔膜は、平均透水孔径が0.05μmの測定下限値より小さく、最大孔径が0.3μm、厚みが550μmであった。ZrOの平均一次粒径は50nm、平均二次粒径は4.0μmであった。
なお、当該隔膜を表1において「隔膜6」と表記する。
(陽極)
実施例14の陽極としては、陽極2を使用した。
(陰極)
実施例14の陰極としては、陰極1を使用した。
[比較例1]
(陽極)
比較例1の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.1〜1.0μmに、アラビアゴムの量を0.50質量部に変えた以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極11」と表記する。
(陰極)
比較例1の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
比較例1の隔膜としては、隔膜2を使用した。
[比較例2]
(陽極)
比較例2の陽極として、酸化ニッケル粉末の粒径を0.4〜3.0μmに、アラビアゴムの量を2.00質量部に、造粒物の粒径を5〜80μmに変えた以外は、実施例1の陽極と同様に作製した多孔体電極を使用した。
なお、当該陽極を表1において「陽極12」と表記する。
(陰極)
比較例2の陰極としては、陰極1を使用した。
(隔膜)
比較例2の隔膜としては、隔膜1を使用した。
[比較例3]
(隔膜)
比較例3の隔膜として、酸化ジルコニウムを「EP酸化ジルコニウム」から「UEP−100酸化ジルコニウム」(第一稀元素化学工業社製)に、N−メチル−2−ピロリドンの量を240g(80質量部)に、ポリスルホンの量を45g(15質量部)に、凝固浴の温度を30℃に変えた以外は、実施例1の隔膜と同様に作製した多孔膜を使用した。
この多孔膜は、平均透水孔径が0.4μm、最大孔径が1.4μm、厚みが550μmであった。ZrOの平均一次粒径は15nm、平均二次粒径は0.1μmであった。
なお、当該隔膜を表1において「隔膜11」と表記する。
(陽極)
比較例3の陽極としては、陽極2を使用した。
(陰極)
比較例3の陰極としては、陰極1を使用した。
[比較例4]
(隔膜)
比較例4の隔膜としては、酸化ジルコニウムを「EP酸化ジルコニウム」から「UEP−100酸化ジルコニウム」(第一稀元素化学工業社製)45g(15質量部)に、N−メチル−2−ピロリドンの量を120g(40質量部)に変え、ポリビニルピロリドンを使用せず、塗工厚みを各面100μmに、に凝固浴を30℃の純水に変えて、塗工液を塗工した基材を蒸気下へ晒さずに凝固浴中へ4分間浸漬した以外は、実施例1の隔膜と同様に作製した多孔膜を使用した。
この多孔膜表面の平均透水孔径は0.05μm以下で最大孔径は0.3μmであった。また、表面孔径は0.2μm、裏面の表面孔径は0.1μmであった。厚みは400μmであった。気孔率は24%であった。ZrOの平均一次粒径は5nm、平均二次粒径は0.1μmであった。そして、水接触角は40°であった。
なお、当該隔膜を表1において「隔膜12」と表記する。
(陽極)
比較例4の陽極としては、陽極2を使用した。
(陰極)
比較例4の陰極としては、陰極1を使用した。
[比較例5]
(隔膜)
比較例5の隔膜としては、酸化ジルコニウムを「EP酸化ジルコニウム」から「RC−100酸化ジルコニウム」(第一稀元素化学工業社製)に、ポリビニルピロリドンの量を48g(16質量部)に変え、凝固浴を50℃の純水に変えた以外は、実施例1の隔膜と同様に作製した多孔膜を使用した。
この多孔膜表面の平均透水孔径は1.1μmで最大孔径は2.6μmであった。また、表面孔径は2.3μm、裏面の表面孔径は2.1μmであった。厚みは500μmであった。気孔率は70%であった。ZrOの平均一次粒径は500nm、平均二次粒径は10.5μmであった。そして、水接触角は25°であった。
なお、当該隔膜を表1において「隔膜13」と表記する。
(陽極)
比較例5の陽極としては、陽極2を使用した。
(陰極)
比較例5の陰極としては、陰極1を使用した。
以下、使用した複極式電解槽及び電解システムについて説明する。上述した電極及び隔膜以外は、実施例及び比較例の全てにおいて同一条件とした。
[複極式電解槽]
陽極ターミナルエレメント、陰極ターミナルエレメント、4個の複極式エレメントから構成される、図1のような、複極式ゼロギャップ構造の電解槽を作製した。各電解槽にはそれぞれの実施例及び比較例の陽極、陰極、及び隔膜が同様に組み込まれている。陽極、陰極、及び隔膜以外の部材は、本技術分野で一般的なものを使用した。
<複極式エレメント>
複極式エレメントは、540mm×620mmの長方形で、陽極及び陰極の面積は500mm×500mmとした。このゼロギャップ複極式エレメントを、525mm×525mmの隔膜を介してスタックさせることで、陰極と陽極が隔膜に押し付けられたゼロギャップ構造を形成した。
[電解システム]
上記複極式電解槽を、図2に示す電解装置70に組み込んでアルカリ水電解に使用した。以下、図2を参照しながら、電解システムの概略を説明する。
気液分離タンク72及び複極式電解槽50には、電解液として30%KOH水溶液が封入されている。この電解液は、送液ポンプ71により、陽極室と陽極用気液分離タンク(酸素分離タンク72o)との間、陰極室と陰極用気液分離タンク(水素分離タンク72h)との間をそれぞれ循環している。電解液の流量は、流量計77で測定して200L/minに、温度は、熱交換器79によって90℃に調整した。
整流器74から、各電解セルの陰極及び陽極に対して、所定の電極密度で通電した。
通電開始後のセル内圧力は、圧力計78で測定し、陰極側圧力が50kPa、酸素側圧力が49kPaとなるとように調整した。圧力調整は、圧力計78の下流に圧力制御弁80を設置し、これにより行った。
整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、送液ポンプ71、気液分離タンク72(72h及び72o)、水補給器73等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いた。
[物性の測定・評価方法]
以下、対象電極及び隔膜についての物性の測定・評価方法について説明する。
なお、実施例及び比較例で使用した対象電極は、基材上に触媒層を形成したものであるため、表面物性は触媒層に由来する。
(1)電極の平均孔径
電極触媒層の平均孔径は、BET法を用いて測定した。測定試料を専用セルに入れ、加熱真空排気を行うことにより前処理を行い、細孔表面への吸着物を予め取り除いた。その後、−196℃で測定サンプルへのガス吸着の吸脱着等温線を測定した。得られた吸脱着等温線をBET法で解析することにより、測定サンプルの触媒層の平均孔径を求めた。
(2)電極の表面開口率
電極触媒層の表面開口率は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ社製、「Miniscope TM3000」)を使用して求めた。
電極を所定の大きさに切り出して、これをSEM観察用のサンプルとした。このサンプルをSEMの観察用試料台にセットして測定を開始した。このとき、SEMによる観察が測定対象の電極表面の垂直方向から行えるように、測定試料である電極をセットし、測定を開始した。SEMの倍率(10000倍以上が好ましい)を調節して撮像し、その撮像画面を画像として保存した。得られた画像は、画像解析ソフト(三谷商事社製、「WinROOF」)を用いて2値化し、孔部分が電極表面内に占める割合を算出して、表面開口率(%)とした。
(3)電極の水接触角
多孔体電極について、水接触角の測定は、「Drop Master DM−701」(協和界面化学社製)を用いて行った。純水3μLを測定対象(多孔体電極)の表面に滴下し、水接触角をθ/2法により測定した。測定雰囲気条件は、温度23℃、湿度65%RHとした。
(4)電極の二重層容量
電極の二重層容量は、電気化学インピーダンス法により測定した。交流インピーダンス測定により得られた実部と虚部をプロットしたCole−Coleプロットに対して、等価回路フィッティングにより解析することで、二重層容量を算出した。
(5)隔膜の平均透水孔径
隔膜の平均透水孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して以下の方法の測定で得られる平均透水孔径とした。まず、隔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとした。このサンプルを測定用の耐圧容器(透過部面積12.57cm2)にセットして、容器内を150mLの純水で満たした。次に、耐圧容器を90℃に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が90℃になってから測定を開始した。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくるので、圧力及び透過流量の数値を記録した。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めた。
平均透水孔径(m)={32ηLμ0/(εP)}0.5
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは隔膜の厚み(m)、μ0は見かけの流速でありμ0(m/s)=流量(m3/s)/流路面積(m2)である。また、εは気孔率、Pは圧力(Pa)である。
(6)隔膜の最大孔径
隔膜の最大孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して以下の方法で測定した。まず、隔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとした。このサンプルを純水で濡らし、膜の孔内に純水を含浸させ、これを測定用の耐圧容器にセットした。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始した。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から150mL/分の割合で気泡が連続して発生してくるときの窒素圧力を、バブルポイント圧力とした。最大孔径はヤング−ラプラスの式を変形させた下記バブルポイント式から求めた。
最大孔径(m)=4γcosθ/P
ここで、γは水の表面張力(N/m)、cosθは隔膜表面と水との接触角(rad)、Pはバブルポイント圧力(Pa)である。
(7)無機粒子の平均一次粒径
隔膜の無機粒子の平均一次粒径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ社製、「Miniscope TM3000」)を使用して行った。まず、隔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとした。このサンプルに対して、マグネトロンスパッタ装置(真空デバイス社製、「MSP−1S型」)を用いて1分間メタルコーティングを行った。次に、このサンプルをSEMの観察用試料台にセットして測定を開始した。このとき、SEMによる観察が測定対象の膜表面の垂直方向から行えるように、測定試料である隔膜をセットした。測定を開始し、観察対象の無機粒子が見えるように倍率を調節(2万倍以上が好ましい)して撮像し、その撮像画面を画像として保存した。得られた画像は、画像解析ソフト(三谷商事社製、「WinROOF」)を用いて2値化し、凝集していない10点の無機粒子のそれぞれに対し絶対最大長を測定し、その個数平均を算出した。この平均を、無機粒子の一次粒径とした。
(8)無機粒子の平均二次粒径
無機微粒子の平均二次粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、「LA−950」)を使用して求めた。
まず、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いて、アルカリ水電解用隔膜から多孔膜を形成する高分子樹脂を溶解除去した。その後に残った無機粒子をその重量の1000倍以上の量のN−メチル−2−ピロリドンを用いて3回以上繰り返し洗浄した。洗浄した無機粒子を、イオン交換水が入った超音波洗浄槽に投入した。酸化ジルコニウムを、洗浄槽内で循環・撹拌しながら1分間超音波を照射した後、穏やかに撹拌して1分程度空気抜きを行い、サンプルとした。サンプルである無機粒子の平均二次粒径は、以下の方法によって測定した。赤色レーザー(波長:655nm)の透過強度80〜90%、青色LED(波長:405nm)の透過強度70〜90%である範囲で、レーザー回折・散乱法により、体積分布から平均二次粒径を計測した。なお、水の屈折率は1.33、酸化ジルコニウムの屈折率は2.4とした。
(9)隔膜の表面開口率
隔膜の表面開口率は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ社製、「Miniscope TM3000」)を使用して行った。
SEM観察前に卓上型超音波洗浄機(BRANSON社製、「BRANSONIC Model 5800」)を使用して隔膜表面の無機粒子を取り除く。まず、卓上型超音波洗浄機内に純水を3L入れ、さらに500mL用のPP製ディスポカップに純水を500mL入れた。ディスポカップを洗浄器中央に置き、スイッチを入れ、水温が30℃になるまで運転を続けた。その後、8cm角に切出したサンプルをディスポカップの内に立てて入れ、超音波洗浄を1分間行った。取り出したサンプルを純水が入った洗瓶で表面を洗い流した。洗浄後のサンプルは、50℃に設定された乾燥機で12時間以上乾燥させた後、芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをSEM観察用のサンプルとした。このサンプルに対して、マグネトロンスパッタ装置(真空デバイス社製、「MSP−1S型」)を用いて1分間メタルコーティングを行った。
次に、このサンプルをSEMの観察用試料台にセットして測定を開始した。このとき、SEMによる観察が測定対象の膜表面の垂直方向から行えるように、測定試料である隔膜をセットした。測定を開始すると、測定画面内に、観察対象の隔膜面に存在する孔が100個以上400個以下写るようにSEMの倍率を調節して撮像し、その撮像画面を画像として保存した。得られた画像は、画像解析ソフト(三谷商事社製、「WinROOF」)を用いて2値化し、写った孔のそれぞれに対し、0.5μm以上の絶対最大長を持つ孔が面内を占める割合を算出した。SEMによる観察は膜の観察面と垂直になるように行い、孔とは周囲を途切れなく樹脂で囲まれたものとする。また、測定画面内で孔の一部が見切れているものは孔と見なさないものとする。
(10)隔膜の水接触角
隔膜の水接触角は、測定対象を隔膜に変えた以外は、電極触媒層の水接触角の測定方法(上記(3))に従って測定した。
(11)隔膜の気孔率
隔膜の気孔率は、電子天秤を用いて、25℃に保った室内で測定した。
隔膜を3cm×3cmの大きさ(9cm)で3枚に切出して測定サンプルとし、シックネスゲージで厚みd(cm)を測定した。次いで、測定サンプルを純水中に24時間浸し、余分な水分を取り除いて、重量w1(g)を測定した。続いて、これらを50℃に設定した乾燥機内で12時間以上静置して乾燥させて、重量w2(g)を測定した。
測定対象の隔膜は、水接触面が非常に低吸水性であり、測定サンプルが水を含んだ状態と乾燥状態とで厚み及び面積が有意に変化しなかった。そのため、厚みd及び面積を一定値とみなして、下記式で、w1、w2の値から気孔率を求めた。
気孔率(%)={(w1−w2)/(d×9)}×100
3枚の測定サンプルについてそれぞれ気孔率を求め、それらの算術平均値を隔膜の気孔率εとして、隔膜の平均透水孔径の算出(上記(5))に使用した。
[電解試験]
実施例1〜16及び比較例1〜4の電解槽構成で、電流密度10kA/mの高電流密度下で連続して24時間通電し、アルカリ水電解を行った。
24時間後、各実施例及び比較例ごとに4つの電解セルの対電圧の平均値を算出し、セル電圧(V)として評価した。
また、陰極側及び陽極側の気液分離タンクから気体をサンプリングし、陰極側での水素濃度(%)及び陽極側での酸素濃度(%)をガスクロマトグラフィで測定して、それぞれ水素純度(%)及び酸素純度(%)として評価した。この結果を表1に示す。
Figure 2018139610
本発明のアルカリ水電解用複極式電解槽によれば、隔膜として無機粒子を含有する多孔膜を使用して、高密度電流運転の場合でも、優れた電解効率及び高い発生ガス純度を維持して、高効率なアルカリ水電解を実施することができる。
2 電極
2a 陽極
2c 陰極
7 ガスケット
50 複極式電解槽
51g ファストヘッド、ルーズヘッド
51i 絶縁板
51a 陽極ターミナルエレメント
51c 陰極ターミナルエレメント
51r タイロッド
60 複極式エレメント
65 電解セル
70 電解装置
71 送液ポンプ
72 気液分離タンク
72h 水素分離タンク
72o 酸素分離タンク
73 水補給器
74 整流器
75 酸素濃度計
76 水素濃度計
77 流量計
78 圧力計
79 熱交換器
80 圧力制御弁
SW メッシュの短目方向の中心間距離
LW メッシュの長目方向の中心間距離
C メッシュの目開き
TE メッシュの厚み
B メッシュのボンド長さ
T 板厚
W 送り幅(刻み幅)
A 平織メッシュ型の目開き
d 平織メッシュ型の線径
D パンチング型の穴径
P パンチング型の穴間ピッチ

Claims (19)

  1. 陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせを、複数備える、複極式電解槽であって、
    前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極であり、
    前記隔膜が、平均一次粒径20nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である
    ことを特徴とする、複極式電解槽。
  2. 陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせを、複数備える、複極式電解槽であって、
    前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極であり、
    前記隔膜が、平均一次粒径20nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である
    ことを特徴とする、アルカリ水電解用複極式電解槽。
  3. 前記隔膜に含有される前記無機粒子の平均一次粒径が50nm以上180nm以下である、請求項2に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  4. 前記多孔体電極が、基材と、前記基材の表面上に形成された触媒層とを備える、請求項2又は3に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  5. 前記多孔体電極が、網状構造の基材と、Niを含有する触媒層とを備える、請求項4に記載のアルカリ水電解用複極式電解層。
  6. 前記多孔体電極の二重層容量が、0.5F/cm以上4.0F/cm以下である、請求項2〜5のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  7. 前記多孔体電極の水接触角が0°超30°以下である、請求項2〜6のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  8. 前記多孔体電極が、30%以上80%以下の表面開口率を有する、請求項2〜7のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  9. 前記多孔体電極が、目開き0.2mm以上4.0mm以下の平織メッシュ型基材を含む、請求項4〜8のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  10. 前記多孔体電極が、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)が2.0mm以上6.0mm以下、かつメッシュの短目方向の中心間距離(SW)が1.0mm以上5.0mm以下のエキスパンド型基材を含む、請求項4〜8のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  11. 前記多孔体電極が、穴径(D)が1.0mm以上10.0mm以下、穴間ピッチ(P)が1.0mm以上12.0mmのパンチング型基材を含む、請求項4〜8のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  12. 前記隔膜に含有される前記無機粒子が、0.2μm以上10.0μm以下の平均二次粒径を有する、請求項2〜11のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  13. 前記隔膜に含有される前記無機粒子が、酸化ジルコニウム(ZrO)及び/又は酸化チタン(TiO)を含む、請求項2〜12のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  14. 前記隔膜の平均透水孔径が、0.1μm以上1.0μm以下である、請求項2〜13のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  15. 前記隔膜の最大孔径が、0.5μm以上3.0μm以下である、請求項2〜14のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  16. 前記隔膜の表面開口率が、20%以上80%以下である、請求項2〜15のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  17. 前記隔膜の水接触角が30°以上90°以下である、請求項2〜16のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  18. 前記陽極及び前記陰極と前記隔膜がゼロギャップ構造をなしている、請求項2〜17のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用複極式電解槽。
  19. アルカリを含有する水を、電解槽により水電解し、水素を製造する水素製造方法であって、
    前記電解槽が、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせを、複数備える、複極式電解槽であって、
    前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方が、平均孔径10nm以上200nm以下の多孔体電極であり、
    前記隔膜が、平均一次粒径20nm以上300nm以下の無機粒子を含有する多孔膜である、複極式電解槽である、
    ことを特徴とする、水素製造方法。
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