JPWO2017138264A1 - 二酸化バナジウム粒子の製造方法 - Google Patents

二酸化バナジウム粒子の製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明の課題は、優れたサーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法を提供することである。
本発明の二酸化バナジウム粒子の製造方法は、サーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法であって、少なくとも一分子内に正電荷を帯びることが可能な部位を有する分子を含有する保護剤と、還元剤と、水と、バナジウム含有化合物と、を含有する溶液を水熱反応させることにより、二酸化バナジウム粒子を製造することを特徴とする。

Description

本発明は、二酸化バナジウム粒子の製造方法に関するものであり、より詳しくは、優れたサーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法に関する。
例えば、住宅やビル等の建物及び車両などの移動体等では、内部(例えば、室内、車両内。)と外部環境との間で大きな熱交換が生じるか所(例えば、窓ガラス)において、省エネルギー性と快適性とを両立するために、熱の遮断又は透過を制御可能なサーモクロミック性を有する材料(以下、「サーモクロミック材料」ともいう。)の適用が期待されている(例えば、非特許文献1参照。)。
ここで、「サーモクロミック材料」とは、透明状態/反射状態等の光学的な性質が、温度により可逆的に変化する材料である。例えば、温度が高い場合は反射状態となり、温度が低い場合は透明状態となる材料である。このようなサーモクロミック材料を、例えば、建物の窓ガラスに適用した場合には、夏には太陽光を反射させて熱を遮断でき、冬には太陽光を透過させて熱を利用できるため、省エネルギー性と快適性とを両立することができる。
現在、最も着目されているサーモクロミック材料の一つに、二酸化バナジウム粒子(以下、単に「VO粒子」ともいう。)がある。VOは、室温付近での相転移の際に、サーモクロミック性を示すことが知られている。したがって、この性質を利用することにより、環境の温度に依存するサーモクロミック性を得ることができる。
ここで、二酸化バナジウム(VO)には、A相、B相、C相及びR相など、いくつかの結晶相の多形が存在するが、前述のようなサーモクロミック特性を示す結晶構造は、ルチル型の結晶相(以下、「R相」という)に限られる。このR相は、転移温度以下では、単斜晶系(monoclinic)の構造を有するため、M相とも呼ばれている。
このようなVO粒子において、実質的に優良なサーモクロミック性を発現させるためには、粒子中にサーモクロミック性を示さない金属や、二酸化バナジウムのM相以外の結晶相が存在しないことが望ましい。また、良好な光学特性(低ヘイズ)を得るためには、二酸化バナジウム粒子の粒子径ができるだけ均一かつ小さく(100nm以下)、VO粒子同士が凝集していないこと、粒子が等方的な形状を有していることが望ましい。このような粒子を作製する技術として、水熱合成法が報告されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
しかしながら、上記従来技術にあってはサーモクロミック性及び透明性が不十分であり、更なる性能の向上が求められている。
例えば、特許文献1に示す水熱反応で得られるVO粒子は、二酸化チタン(TiO)粒子上にR相の二酸化バナジウムをエピタキシャル成長させることでサブミクロン以下の粒子に形成するものの、不純物として二酸化チタンを含み、その結果、二酸化バナジウムの純度が低くなり、サーモクロミック性が低下するという問題がある。
一方、特許文献2に示す水熱反応で得られるVO粒子は、還元効果の強い還元剤を使用して形成されたものである。このような水熱反応による形成方法には、核の成長過程中に核同士が無秩序に凝集してしまうので、得られるVO粒子の平均粒子径及び形状が制御困難となる問題がある。
特開2010−031235号公報 特開2011−178825号公報
井上悟等「機能性ガラス・ナノガラスの最新技術」エヌ・ティー・エス社出版、2006年、第5編3節pp.304〜322
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、優れたサーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、分子内に正電荷を帯びることができる分子を含有する保護剤を使用して水熱反応により二酸化バナジウム粒子を作製することで、粒子の結晶成長を抑制することができ、優れたサーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子を製造することができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.サーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法であって、
少なくとも一分子内に正電荷を帯びることが可能な部位を有する分子を含有する保護剤と、還元剤と、水と、バナジウム含有化合物と、を含有する溶液を水熱反応させることにより、二酸化バナジウム粒子を製造することを特徴とする二酸化バナジウム粒子の製造方法。
2.前記分子が、さらにカルボニル基、ヒドロキシ基及びスルホン酸基の群から選ばれる一種類以上の官能基を有することを特徴とする第1項に記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
3.前記保護剤の添加量が、水熱反応における前記バナジウム含有化合物由来の二酸化バナジウムの固形分濃度に対して0.001〜3倍の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
4.前記水熱反応における前記バナジウム含有化合物由来の二酸化バナジウムの固形分濃度が、0.1〜20質量%の範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
5.前記水熱反応における水熱条件が、250〜300℃の範囲内であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
本発明の上記手段により、優れたサーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
保護剤に含有される分子が正電荷を帯びることができる部位を持つため、二酸化バナジウム粒子表面で負に帯電する酸素原子と作るイオンペアが粒子表面を覆うことで、保護剤が結晶成長抑制剤として働き、二酸化バナジウム粒子を小粒子径に制御することができるものと考えている。
さらに、保護剤に双性イオン等の一分子内に正電荷と負電荷の両方の電荷を帯びることが可能な部位を複数持つ分子を添加する場合、粒子の結晶成長を抑制しつつ、粒子同士の電荷反発による分散安定化を両立することができるものと推察している。
本発明の二酸化バナジウム粒子の製造方法は、サーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法であって、少なくとも一分子内に正電荷を帯びることが可能な部位を有する分子を含有する保護剤と、還元剤と、水と、バナジウム含有化合物と、を含有する溶液を水熱反応させることにより、二酸化バナジウム粒子を製造することを特徴とする。この特徴は、各請求項に係る発明に共通する又は対応する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記分子が、さらにカルボニル基、ヒドロキシ基及びスルホン酸基の群から選ばれる一種類以上の官能基を有することにより、二酸化バナジウム粒子が負電荷を帯びることとなり、粒子同士が電荷反発し、分散安定性が向上するため好ましい。
本発明においては、前記保護剤の添加量が、水熱反応における前記バナジウム含有化合物由来の二酸化バナジウムの固形分濃度に対して0.001〜3倍の範囲内であることが、二酸化バナジウム粒子の表面を最適に被覆することができるため好ましい。
また、本発明においては、前記水熱反応における前記バナジウム含有化合物由来の二酸化バナジウムの固形分濃度が、0.1〜20質量%の範囲内であることが、不純物である準安定なロッド状の二酸化バナジウム粒子が生成しにくくなり、M相を示す二酸化バナジウム粒子が小粒子径かつ均一に生成されるため好ましい。
さらに、本発明においては、本発明の効果発現の観点から、前記水熱反応における水熱条件が、250〜300℃の範囲内であることが好ましい。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
≪二酸化バナジウム粒子の製造方法の概要≫
本発明の二酸化バナジウム粒子の製造方法は、サーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法であって、少なくとも一分子内に正電荷を帯びることが可能な部位を有する分子を含有する保護剤と、還元剤と、水と、バナジウム含有化合物と、を含有する溶液を水熱反応させることにより、二酸化バナジウム粒子を製造することを特徴とする。
以下に、本発明のサーモクロミック性を有する二酸化バナジウム粒子(以下、「VO粒子」ともいう。)の製造方法について詳細に説明する。
[1:反応液の調製]
まず、過酸化水素水の水溶液に、五酸化バナジウム等のバナジウム(V)含有化合物を添加し、これを撹拌してゾルを得る。得られたゾルに、還元剤をゆっくり滴下し、純水を加えて二酸化バナジウムを含有する反応液を調製する。
<バナジウム(V)含有化合物>
上記バナジウム(V)含有化合物は、少なくとも5価のバナジウム(V)含有化合物であれば、特に限定されず、例えば、五酸化バナジウム(V)、バナジン酸アンモニウム(NHVO)、三塩化酸化バナジウム(VOCl)、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO)が含まれる。
<バナジウム(V)以外の金属化合物(その他の金属化合物)>
本発明に係る反応液は、バナジウム(V)以外の金属化合物を含有してもよい。バナジウム(V)以外に含有される金属化合物としては特に限定されず、本発明の効果を阻害しないものであればよい。具体的には、バナジウム(V)以外の金属化合物として、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、スズ(Sn)、レニウム(Re)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、アンチモン(Sb)、ルテニウム(Ru)、ゲルマニウム(Ge)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)が金属化合物に含有されることも好ましい。
また、バナジウム(V)以外の金属化合物としては、上記以外にも、バナジウム(V)とは価数の異なるバナジウムの化合物であってもよく、例えば、V(3価のバナジウムの化合物)、V(4価のバナジウムの化合物)、V13(4.3価のバナジウムの化合物)などが含まれていてもよい。
バナジウム(V)以外の金属化合物が、反応液に含有されることで、サーモクロミック性を示す相転移温度を変化させることができるため、添加剤として添加することも好ましい。したがって、本発明に係る二酸化バナジウム粒子は、サーモクロミック性を示す二酸化バナジウム以外の化合物等を含んでいても良い。
<保護剤>
本発明で用いられる保護剤は、一分子内に正電荷を帯びることが可能な部位を有する分子を含有することを特徴とする。
ここで、「正電荷を帯びることが可能な部位」とは、二酸化バナジウム粒子の表面に吸着しやすい部位であり、カチオン基に誘導され得る部位(以下、カチオン性基ともいう。)をいう。例えば、アミノ基、メチルアミノ基やエチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基やジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、イミノ基、グアニジノ基、イミド基等が挙げられる。
分子内に正電荷を帯びることが可能な部位を有することで、分散液中で負電荷を帯びている二酸化バナジウム粒子の表面でイオンペアを形成し、粒子表面を被覆することで二酸化バナジウム粒子の結晶成長を抑制し、粒子径を制御することができるものと考えられる。
また、前記保護剤に含有される分子は、正電荷を帯びることが可能な部位に加えて、負電荷を帯びることが可能な部位(以下、アニオン性基ともいう。)、例えば、カルボニル基、ヒドロキシ基及びスルホン酸基の群から選ばれる一種類以上の官能基を有することが好ましい。
正電荷及び負電荷の両方を帯びることが可能な部位を有する分子を保護剤に含有することで、粒子の結晶性長を抑制しつつ、粒子同士の電荷反発による分散安定化を両立することができたものと考えられる。
保護剤として、具体的には、カチオン性基を一か所もつものとしては、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、3−ペンタンアミン、ヘプチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、ウンデシルアミン、n−トリデシルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンジプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプオピルアミン、エチルプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニムヒドロキシド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、イミダゾール、ピリミジン、プリンなどが挙げられる。
また、カチオン性基を複数個所もつものとしては、ジシクロヘキシルメタンジアミン、イソホロンジアミン、4,4′−ジフェニルメタンジアミン、ジアミノエタン、1,2−又は1,3−ジアミノプロパン、1,2−又は1,3−又は1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサンピペラジン、N,N′−ビス−(2−アミノエチル)ピペラジン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノ−3−ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2−、1,3−及び1,4−ジアミノシクロヘキサン、ノルボルネンジアミンなどが挙げられる。
さらに、カチオン基とアニオン基を両方もつものとして、グリシン、グリシルグリシン、グルタミン酸、トリメチルグリシン、2−アミノプロピオン酸、4−アミノブタン酸、2−アミノブタン酸、5−アミノペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、1−ピロリン−5−カルボン酸、L−プロリンなどが挙げられる。
<還元剤>
本発明で用いられる還元剤は、水に容易に溶解する性質を有し、かつ、バナジウム(V)含有化合物の還元剤として機能すればよく、例えば、ヒドラジン(N)及びヒドラジン一水和物などのヒドラジンの水和物(N・nHO)などが挙げられる。
<水>
本発明に係る水は、特に限定されないが、不純物の少ない高純度のものが好ましく、具体的には、イオン交換水、蒸留水等の精製水を用いることができる。
また、本発明に係る反応液は、酸化性又は還元性を有する物質が更に混ざったものであって良い。このような物質には、例えば、過酸化水素(H)が含まれる。酸化性又は還元性を有する物質を添加することにより、反応液のpHを調整したり、バナジウム化合物を均一に溶解させたりすることができる。
なお、過酸化水素としては、例えば、過酸化水素水(濃度35質量%、和光純薬社製、特級)を好適に用いることができる。
[2:粒子形成(水熱反応)工程]
次に、調製した反応液を用いて、水熱反応処理を行い、二酸化バナジウム粒子を形成する。すなわち、本工程では、バナジウム(V)以外の金属化合物も含む前記反応液を水熱反応させる。
ここで、「水熱反応」とは、温度と圧力が、水の臨界点(374℃、22MPa)よりも低い熱水(亜臨界水)中において生じる化学反応を意味する。水熱反応処理は、例えば、オートクレーブ装置内で実施される。水熱反応処理により、二酸化バナジウム(VO)を含有するVO粒子が得られる。
水熱反応処理の条件(反応物の量、処理温度、処理圧力、処理時間)は、適宜設定されるが、水熱反応処理の液温は、例えば、250〜350℃、好ましくは、250〜300℃の範囲内である。水熱反応が、液温250〜350℃の範囲内で行われると、不純物である準安定なロッド状の二酸化バナジウム粒子が生成しにくくなり、M相を示す二酸化バナジウム粒子が小粒子径かつ均一に生成されるため好ましい。
また、水熱反応処理の時間は、例えば1時間〜7日であり、時間を長くすることにより、得られるVO粒子の平均粒径等を制御することができ、7日以内であると、エネルギー消費量が多くなりすぎる場合を回避できる。より好ましくは、コストの面から12〜72時間の範囲内である。
水熱反応におけるバナジウム含有化合物由来の二酸化バナジウムの固形分濃度は、0.1〜20質量%の範囲内であることが好ましい。
これは、バナジウム含有化合物を過酸化水素水の水溶液に添加し、得られたゾルに還元剤を添加した後、純水を加えた際の、バナジウム含有化合物に含有されるバナジウムが全て二酸化バナジウムに変換した場合の固形分濃度を表している。
二酸化バナジウムの固形分濃度が、0.1〜20質量%の範囲内であることにより、結晶成長を抑制することができ、分散安定化を図ることができる。
また、保護剤の添加量は、水熱反応におけるバナジウム含有化合物由来の二酸化バナジウムの固形分濃度に対して0.001〜3倍の範囲内であることが好ましい。
すなわち、保護剤の添加量は、固形分濃度が0.0001〜60質量%の範囲内であることが好ましい。
当該数値範囲内とすることで、二酸化バナジウム粒子の表面を保護剤で被覆することができ、結晶成長を好適に抑制することができる点で好ましい。
また、水熱反応は、撹拌されながら行われることが、VO粒子の粒子径をより均一化できるため、好ましい。
なお、水熱反応処理は、バッチ式で実施してもよく、連続式で実施してもよい。
《二酸化バナジウム粒子(VO粒子)》
本発明のVO粒子の製造方法は、優れたサーモクロミック性を有する二酸化バナジウム粒子を提供することができる。
当該VO粒子の平均粒子径は、5〜50nmの範囲内であることが好ましい。VO粒子の平均粒子径は、粒子を走査型電子顕微鏡で撮影し、粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径を粒子径と定義し、100個のVO粒子について測定し、これらの算術平均値を求め、これを平均粒子径とする。
また、VO粒子の粒子径分布のメディアン径(D50)は、150nm以下であることが好ましい。
また、VO粒子の粒子径分布のメディアン径(D50)は、調製した水熱反応後の各分散液を、島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、回折/散乱光強度で35〜75%(絶対値では、700〜1500)の間になるように希釈した後、粒子径の指標としてVO粒子の粒子径D50を測定することができる。測定値は、体積換算値を使用する。D50の値が小さいほど粒子径が小さいことを表す。測定条件の詳細は実施例に記載する。
(サーモクロミック性)
二酸化バナジウム粒子を含有する水分散液のサーモクロミック性は、例えば、分光光度計V−670(日本分光株式会社製)を用いて、水の吸収ピークによる影響を受けない波長1300nmにおける光透過率の差として測定することができる。
<二酸化バナジウム粒子の表面組成>
本発明の二酸化バナジウム粒子の製造方法により製造した二酸化バナジウム粒子は、酸化する工程を経ることにより、従来のサーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子と比較して、粒子表面の酸素原子の割合が増加していると考えられる。
二酸化バナジウム粒子表面の組成は、公知の方法で測定でき、例えば、X線光電子分光法(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)により測定できる。
XPS測定は、サンプルにX線を照射し、サンプルから放出される光電子エネルギーを測定する手法である。
サンプルの奥深くから放出された光電子は、サンプル内で散乱されないので検出されず、表面付近の状態を評価することができる。
そのためXPS測定は、サンプルの数〜数十nm以内の表面状態を検出することが可能である。
具体的には、XPS測定は、X線電子分光装置(アルバック・ファイ社製、Quantum−2000)等によって測定することができる。
なお、測定条件は、測定対象とする蛍光体の種類や粒子形状などによって変動し得るが、例えば、以下の測定条件で測定することができる。
(表面組成の測定条件)
X線源:AlKα線、出力:40W、測定面積:φ200μm
パスエネルギー:ワイドスキャン:187.85eV(1.60eV/Step)
ナロースキャン:58.70eV(0.125eV/Step)
帯電中和銃:e
なお、本発明に係るVO粒子は、前述のとおり二酸化バナジウム以外にも本発明の効果を阻害しない範囲でその他の化合物や原子を含んでいてもよい。
≪分散液≫
本発明のVO粒子の製造方法で製造されたVO粒子を水に分散させた場合、優れたサーモクロミック性を示すVO粒子を含有する分散液を提供することができる。本発明のVO粒子の製造方法で製造された、VO粒子を含有する分散液を塗布すれば、優れたサーモクロミック性を示す光学フィルム等を提供することができる。
また、分散させるための溶媒は、水を含んでいればよく、二酸化バナジウムの機能を阻害しない範囲で有機溶媒等の公知の溶媒を使用することができる。
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
[サンプル1の合成方法]
過酸化水素水(濃度35質量%、和光純薬社製)の10質量%水溶液50mLに、五酸化バナジウム(V、和光純薬社製、特級)1.5gを添加し、これを4時間撹拌して澄んだ赤茶色のゾルを得た。
得られたゾルに、還元剤であるヒドラジン一水和物(N・HO、和光純薬社製、特級)の5質量%水溶液をゆっくり滴下し、pHが4.5の反応液(液温25℃)とした後、純水を加えて二酸化バナジウム換算で固形分が2.5質量%となるように調製した。
調製した反応液を、市販の水熱反応処理用オートクレーブ(三愛科学社製、HU−50型(SUS製本体に50mL容積のテフロン(登録商標)製内筒を備える。))内に入れ、270℃で48時間、水熱反応させ、VO粒子を含有する分散液(サンプル1)を調製した。
[サンプル2〜11、25の合成方法]
ヒドラジン一水和物の水溶液を得られたゾルに滴下した後、表1に記載の保護剤を添加した以外はサンプル1と同様の手順でVO粒子を含有する分散液(サンプル2〜11及び25)を調製した。
[サンプル12〜17、28、29の合成方法]
ヒドラジン一水和物の水溶液を得られたゾルに滴下した後、保護剤の添加量を表1に記載のとおりに変更した以外はサンプル11と同様の手順でVO粒子を含有する分散液(サンプル12〜17、28及び29)を調製した。
[サンプル18〜21、26、27の合成方法]
二酸化バナジウム換算で固形分濃度を表1に記載のとおりに調整した以外はサンプル11と同様の手順でVO粒子を含有する分散液(サンプル18〜21、26及び27)を調製した。
[サンプル22〜24、30の合成方法]
水熱反応の温度を表1に記載のとおりに変更した以外はサンプル11と同様の手順でVO粒子を含有する分散液(サンプル22〜24及び30)を調製した。
[評価]
調製した分散液及び分散液から作製した二酸化バナジウム粒子を下記(1)〜(3)のようにして評価した。
なお、二酸化バナジウム粒子は、作製された分散液をろ過し、残渣を水及びエタノールで洗浄し、さらに、この残渣を、定温乾燥機を用いて、60℃で10時間乾燥させて作製した。
(1)サーモクロミック性
調製した各分散液を、二酸化バナジウム粒子を5質量%含有する水分散液20gに調製し、水90gに溶解したポリビニルアルコール10g中に混合した。この混合液をPETフィルム上に塗布し、乾燥後の膜厚が20μmになるようにワイヤーバーで塗布を行った後、60℃で24時間乾燥してフィルムを作製した。フィルム中の二酸化バナジウム粒子の濃度は1質量%であり、膜厚は20μmであった。
各測定用フィルムを用いて、25℃・50%RH及び85℃・50%RHの各条件における波長2000nmでのそれぞれの光透過率を測定し、光透過率差を算出した。
光透過率の測定は、分光光度計V−670(日本分光(株)製)に温調ユニット(日本分光(株)製)を取り付けて行った。算出した透過率差を以下の基準に従って評価した。なお、5%以上を合格とし、20%以上をより好ましい範囲とした。
◎:20%以上
○:10%以上、20%未満
△:5%以上、10%未満
×:5%未満
(2)平均粒子径
実施例において、VO粒子の平均粒子径は、粒子を走査型電子顕微鏡で撮影し、粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径を粒子径と定義し、100個のVO粒子について測定し、これらの算術平均値を求め、これを平均粒子径とした。平均粒子径を以下の基準に従って評価した。なお平均粒子径は、150nm以下を合格とし、100nm以下が好ましい範囲であり、50nm以下をより好ましい範囲とした。
◎:50nm以下
○:50nmより大きく、100nm以下
△:100nmより大きく、150nm以下
×:150nmより大きい
(3)分散時の粒子径測定
調製した水熱反応後の各分散液を、島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、回折/散乱光強度で35〜75%(絶対値では、700〜1500)の間になるように希釈した後、下記条件にて、粒子径の指標としてVO粒子のメディアン径D50を測定した。測定値は、体積換算値を使用した。D50の値が小さいほど粒子径が小さいことを表す。
(測定条件)
測定回数(C):1
測定間隔(秒):2
平均回数(A):128
測定吸光度範囲最大(L):0.2
測定吸光度範囲最小(S):0.01
超音波照射時間(秒)(U):10
分散時間(秒)(D):5
センサ使用開始位置(P):1
測方/後方センサを評価する(B):YES
屈折率:3.00
◎:50nm以下
○:50nmより大きく、100nm以下
△:100nmより大きく、150nm以下
×:150nmより大きい
Figure 2017138264
Figure 2017138264
(まとめ)
表2に示されるように、本発明のVO粒子の製造方法によって製造されたVO粒子は、結晶成長が抑制され、優れたサーモクロミック性を示すことがわかった。
本発明の二酸化バナジウム粒子の製造方法により、優れたサーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子を得ることができ、省エネルギー性と快適性とを両立させることができるため、建物や移動体の窓ガラス等に好適に利用できる。

Claims (5)

  1. サーモクロミック性を示す二酸化バナジウム粒子の製造方法であって、
    少なくとも一分子内に正電荷を帯びることが可能な部位を有する分子を含有する保護剤と、還元剤と、水と、バナジウム含有化合物と、を含有する溶液を水熱反応させることにより、二酸化バナジウム粒子を製造することを特徴とする二酸化バナジウム粒子の製造方法。
  2. 前記分子が、さらにカルボニル基、ヒドロキシ基及びスルホン酸基の群から選ばれる一種類以上の官能基を有することを特徴とする請求項1に記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
  3. 前記保護剤の添加量が、水熱反応における前記バナジウム含有化合物由来の二酸化バナジウムの固形分濃度に対して0.001〜3倍の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
  4. 前記水熱反応における前記バナジウム含有化合物由来の二酸化バナジウムの固形分濃度が、0.1〜20質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
  5. 前記水熱反応における水熱条件が、250〜300℃の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
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