JPWO2012153737A1 - 切削インサートのクランプ装置、切削工具および切削インサート - Google Patents

Abstract

クランプ力が高くかつ切削インサートの着脱時の操作性が高いクランプ装置を提供する。ガイド穴（２２）、工具ボデー（２０）の側面（２０ｂ）からガイド穴（２２）に交差する向きに形成されたねじ穴（２１）、クランプ部分（２）を有するとともにガイド穴（２２）内に移動可能に配置されるクランプ部材（１）、およびねじ穴（２１）に螺合して第１および第２の方向へ移動可能なねじ部材（１０）を有し、ねじ部材（１０）は、第１および第２の方向への移動の両方においてクランプ部材（１）と係合可能で、ガイド穴（２２）は、クランプ部材（１）と係合してねじ部材（１０）から受ける第１の方向の力を当該クランプ部材（１）を切削インサート（３０）へ向かわせる方向へ移動させる力に変換する第１のカム面（２２ａ）と、第２の方向の力をクランプ部分（２）を切削インサート（３０）から離れる方向へ移動させる力に変換する第２のカム面（２２ｂ）とを有する。

Description

本発明は、切削インサートを工具ボデーにクランプするためのクランプ装置と、このクランプ装置を備える切削工具と、このクランプ装置に適した切削インサートとに関する。

従来の切削インサートのクランプ装置として、例えば、特許文献１に開示されたものがある。この装置は、ツールホルダ内に切削インサートをクランプするために、クランプピンとロックねじとを有する。クランプピンは、クランプ部分と第１および第２のカム面とを備え、ツールホルダの頂面と底面とを貫通する第１の穴内に配置される。ロックねじは、クランプピンの第１および第２のカム面とそれぞれ係合可能な第１および第２のカム面を有するとともに、第１の穴に交差して形成されてねじ切りされた第２の穴に移動可能に設けられる。ロックねじを第１の方向に回転させると、第１のカム面が係合し、クランプピンをそのクランプ部分が下方で当該切削インサートに向かう方向に移動させる。ロックねじを第２の方向に回転させると、第２のカム面が係合し、クランプピンを上方で当該切削インサートから離れる方向に移動させる。

米国特許第７，４３１，５３９号

本発明は、切削インサートの着脱時の操作性がさらに改善されるとともに、クランプ力が向上したクランプ装置と、これに適した切削インサートと、このクランプ装置を備えた切削工具とを提供する。

本発明のクランプ装置は、切削インサート（３０）を工具ボデー（２０）へクランプするためのクランプ装置であって、
前記工具ボデー（２０）の上面（２３）から底面に向けて貫通するガイド穴（２２）と、
前記工具ボデー（２０）の一側面（２０ｂ）から前記ガイド穴（２２）に交差する向きに形成されるとともに当該ガイド穴（２２）に接続されたねじ穴（２１）と、
クランプ部分（２）を有し、一部が前記ガイド穴（２２）内において所定のガイド方向に移動可能に配置されるクランプ部材（１）と、
前記ねじ穴（２１）に螺合し、回転することにより第１および第２の方向へ移動可能なねじ部材（１０）と、を有し、
前記ねじ部材（１０）は、前記第１および第２の方向への移動の両方において、前記クランプ部材（１）と係合可能に形成されており、
前記ガイド穴（２２）は、前記クランプ部材（１）と係合して、当該クランプ部材（１）が前記ねじ部材（１０）から受ける前記第１の方向の力を、当該クランプ部分（２）を下方でかつ前記切削インサート（３０）へ向かわせる方向へ移動させる力に変換する第１のカム面（２２ａ）と、前記クランプ部材（１）と係合して、当該クランプ部材が前記ねじ部材から受ける前記第２の方向の力を、前記クランプ部分（２）を上方にかつ前記切削インサート（３０）から離れる方向へ移動させる力に変換する第２のカム面（２２ｂ）とを有する、ことを特徴とする。

本発明の切削工具は、本発明のクランプ装置を備える切削工具である。

本発明の切削インサートは、割り出し可能面（３２）を内周面の周方向に沿って複数備えている、ことを特徴とする。

本発明によれば、クランプ力が高く、なおかつ、操作性が高いクランプ装置と、これに適した切削インサートと、このクランプ装置を備える切削工具が提供される。

本発明の第１の実施形態に係るクランプ装置が適用された切削工具の斜視図。 図１Ａの切削工具の平面図。 図１Ａの切削工具における工具ボデーの斜視図。 本発明の一実施形態に係るねじ部材の正面図。 図３Ａのねじ部材の斜視図。 図３Ａのねじ部材の別方向からの斜視図。 本発明の一実施形態に係るクランプ部材の斜視図。 図４Ａのクランプ部材の別方向からの斜視図。 図４Ａのクランプ部材の平面図。 図４Ａのクランプ部材の正面図。 図４Ａのクランプ部材の右側面図。 図４Ａのクランプ部材の背面図。 図４Ａのクランプ部材の下面図。 図４ＥにおけるＩＶＨ−ＩＶＨ線方向の断面図。 本発明の一実施形態に係る切削インサートの斜視図。 図５Ａの切削インサートの平面図。 図５Ａの切削インサートの正面図。 図５ＢのＸＤ−ＸＤ線方向の断面図。 図１ＢのＶＩＡ−ＶＩＡ線方向の断面図であって、クランプ状態のクランプ装置を示す図。 図１ＢのＶＩＡ−ＶＩＡ線方向の断面図であって、アンクランプ状態のクランプ装置を示す図。 本発明の第２の実施形態に係る切削工具の斜視図。 図７Ａの切削工具の平面図。 図７Ａの切削工具先端部分の拡大斜視図。 図７ＢのＩＸ−ＩＸ線方向の断面図であって、クランプ状態にあるクランプ装置を示す図。

第１実施形態
本発明の第１実施形態に係るクランプ装置が適用された切削工具について、図面を参照して説明する。本実施形態に係る切削工具は、図１Ａおよび図１Ｂに示すように、クランプ部材１、ねじ部材１０、工具ボデー２０および切削インサート３０を有する。この切削工具に用いられるクランプ装置は、切削インサート３０を工具ボデー２０へクランプするためのものである。

工具ボデー２０は、図２に示すように、断面が矩形状の細長い棒状の部材からなり、先端部に外側に突出する略円柱状の突出部２０ｐを有する。突出部２０ｐには、その上面から底面に向けて貫通するガイド穴２２が形成されている。ガイド穴２２は、その内部に配置されるクランプ部材１を、所定のガイド方向、すなわち、ガイド穴２２の貫通する方向に移動可能にガイドする。突出部２０ｐの上部には、切削インサート３０を置くためのチップ座２０ａが形成されている。チップ座２０ａは、ガイド穴２２の周囲に形成された平面からなる座面２３と、座面２３と直交する向きに延びかつ円弧状に湾曲する側壁面２４を有する。

ガイド穴２２は、図２、図６Ａおよび図６Ｂに示すように、平面で構成され、かつ、互いに対向する第１および第２の摺動面２２ａ，２２ｂを有する。第１および第２の摺動面２２ａ，２２ｂは、チップ座２０ａの座面２３および側壁面２４に対して傾斜している。なお、第１および第２の摺動面２２ａ，２２ｂの機能については後述する。

シャンクからの突出部２０ｐである頭部には、その側面２０ｂからガイド穴２２に交差する向きにねじ穴２１が形成されている。このねじ穴２１は、ガイド穴２２に接続されており、工具ボデー２０を貫通していない。ねじ穴２１は、その中心軸線Ｃ１がチップ座２０ａの座面２３に対して略平行になるように形成される。また、図６Ａおよび図６Ｂに示すように、ねじ穴２１を形成するための下穴は、第１の摺動面２２ａを貫通しており、この貫通部分が後述するねじ部材１０の拡径部１２のための逃げ領域２１ｂを画定している。

ねじ部材１０は、一方に回転させることにより図６ＡのＡ１方向に前進し、他方に回転させることにより図６Ｂに示すＡ２方向に後退する。ねじ部材１０は、図３Ａ〜図３Ｃに示すように、ねじ穴２１に螺合するねじ部１０ａと、ねじ部１０ａの先端部から長手方向に延在するとともにねじ部１０ａよりも小径の円柱状の軸部１１と、軸部１１の先端部に形成されるとともに軸部１１より拡径された拡径部１２とを有する。また、ねじ部１０ａの後端面には、トルックスドライバを差し込むための、トルックス穴１０ｃが形成されている。ねじ部材１０は、ねじ部１０ａと軸部１１との間に形成された肩部１０ｂと、軸部１１と拡径部１２との間に形成された肩部１２ａとを備える。肩部１０ｂは、クランプ部材１の後述する第１の係合面４に係合し、肩部１２ａは、クランプ部材１の後述する第２の係合面５に係合する。

クランプ部材１は、図４Ａ〜４Ｈに示すように、正面側から見た外輪郭形状が略矩形状を有する柱状に形成された主部分１Ｍと、主部分１Ｍの長手方向の先端部から突出するクランプ部分２を有する。

クランプ部材１の主部分１Ｍの下端側には、鍵穴形状の長穴７が形成されている。長穴７は、ねじ部材１０のねじ部１０ａが挿入不可能で拡径部１２および軸部１１が挿入可能な下側部分７ｂと、この下側部分７ｂに接続され、ねじ部材１０の拡径部１２および軸部１１のうち軸部１１のみ挿入可能な上側部分７ａとから形成されている。この長穴７は、ねじ部材１０に対するクランプ部材１のガイド穴２２の貫通方向への移動を可能にするために設けられている。図４Ａに示すように、主部分１Ｍの一方の面には、長穴７の上側部分７ａを囲むように第１の係合面４が形成されている。この第１の係合面４は、ねじ部材１０がＡ１方向に移動する際にねじ部材１０の肩部１０ｂが係合する。図４Ｂに示すように、主部分１Ｍの他方の面には、長穴７の上側部分７ａを囲むように第２の係合面５が形成されている。この第２の係合面４は、ねじ部材１０がＡ２方向に移動する際にねじ部材１０の肩部１２ａが係合する。第１および第２の係合面４，５は、平面で構成され、図６Ａおよび６Ｂに示すように、ねじ穴２１の中心軸線Ｃ１に対して略直交する方向に配置される。なお、本実施形態では、クランプ部材１の移動を可能にするために長穴７を形成したが、長穴７の下端側が開放された切り欠き形状にしてもよい。その場合、長穴７の上側部分７ａだけを残し、下側部分７ｂの周辺を削除した形状とすることで、クランプ部材１の長さを短くできる。

クランプ部材１の主部分１Ｍの上端側の一方面には、図４Ｂに示すように、ガイド穴２２に形成された第１の摺動面２２ａに係合する第１の当接面１ａが主部分１Ｍの幅方向の中央領域に形成されている。主部分１Ｍの上端側の他方面には、図４Ａに示すように、ガイド穴２２に形成された第２の摺動面２２ｂに係合する第２の当接面１ｂが主部分１Ｍの幅方向の中央領域に形成されている。第１および第２の当接面１ａ，１ｂは、平面で構成され、図６Ａおよび６Ｂから分かるように、第１および第２の係合面４，５に対してそれぞれ傾斜している。

クランプ部材１のクランプ部分２は、切削インサート３０をチップ座２０ａにクランプする際に、当該切削インサート３０の後述する取り付け穴３１の内周面に係合する。クランプ部材１のクランプ部分２は、切削インサート３０を着脱するときに、取り付け穴３１を通過可能な寸法に形成されている。これより、クランプ部材１を工具ボデー２０へ取り付けたまま、少し後退させるだけで、切削インサート３０を着脱することができる。このクランプ部分２は、図４Ｂに示すように、後述する取り付け穴３１の内周面に当接する当接面３を有する。この当接面３は、所定の幅の平面で構成され、クランプ部材１の長手方向を横切る向きに延在している。

クランプ部材１の主部分１Ｍの上端面６ａ、クランプ部分２の当接面３とは反対側に形成された面６ｂ、および、クランプ部分２の両側に形成された面６ｃは、切削インサート３０をアンクランプする際に、切削インサート３０を支持する支持面６である。後述するように、切削インサート３０をアンクランプするときにクランプ部材１のクランプ部分２は切削インサート３０から離れる方向へ移動する。この際に、支持面６は切削インサート３０を支持して当該切削インサート３０をチップ座２０ａから引き離す。クランプ部分２に支持面６を形成することにより、切削中には強固に固定されている切削インサート３０を取り外すときに、簡単に押し離せるようになる。例えば、丸形板状の切削インサート３０などは、切削中に回転しやすいため、工具ボデーのチップ座２０ａを積極的に弾性変形させて、切削インサート３０の回転方向の動きを防止するような場合がある。そのような場合、切削中はよいが、切削インサート３０の着脱時には、切削インサート３０がなかなか外れずに困ることがある。本発明は、そのような場合にも有効であり、切削インサート３０をクランプ部材１で押し離すことができるため、簡単にチップ座から浮き上がる。すなわち、切削インサート３０の着脱時における操作性が大幅に向上する。なお、支持面６は、面６ａ、６ｂ、６ｃのすべての箇所に形成されなくてもよく、どこか１箇所に形成されれば機能する。支持面６は、切削インサート３０と当接して、切削インサート３０を工具ボデー２０のチップ座２０ａから引き離すことができる位置であれば、クランプ部材１のどこに形成されても構わない。

図４Ｈは、図４ＥのＩＶＨ−ＩＶＨ線方向の断面図である。クランプ部材１の主部分１Ｍの断面形状は、長方形を基本に、４つの角部に曲率半径Ｒ１およびＲ２の丸みが付けられた形状である。この形状は、クランプ部材１の主部分１Ｍが挿入される、工具ボデー２０側のガイド穴２２の断面形状も同様の形状である。これらの断面形状は、長穴形状などにされてもよい。クランプ部材１の主部分１Ｍとガイド穴２２との間のすきまは、クランプ部材１が移動可能であり、かつ、がたつきが少なくなるように適切に調整される。本実施形態では、主部分１Ｍは平面からなる互いに直交する４つの側面を有するので、クランプ部材１の主部分１Ｍとガイド穴２２との間のすきまの調整が容易である。本実施形態では、曲率半径Ｒ１は約１．０ｍｍとされ、曲率半径Ｒ２は約１．５ｍｍとされる。曲率半径Ｒ１が曲率半径Ｒ２より小さくされる理由は、ねじ部材１０のＡ１方向への進行でクランプ部材１が、ガイド穴２２へ押し付けられるとき、当接する平面を増やすためである。当接する平面が広いと、クランプ部材１とガイド穴２２とが密着しやすくなり、強固なクランプ力を得られる。曲率半径Ｒ１は、小さ過ぎてはいけない。曲率半径Ｒ１が小さ過ぎると、工具ボデー２０側のガイド穴２２の加工が難しくなり、クランプ部材１とガイド穴２２とを、高精度に嵌合させることが難しくなる。ガイド穴２２の加工には、エンドミル加工や研削砥石による研削加工、放電加工などが適用できる。曲率半径Ｒ１は、０．５ｍｍ以上が好ましい。曲率半径Ｒ２は、クランプ部材１の強度を確保しながら、適宜調整される。曲率半径Ｒ２は、曲率半径Ｒ１と同じにするか、大きいことが好ましい。すなわち、Ｒ２≧Ｒ１とすることが好ましい。

切削インサート３０は、図５Ａ〜５Ｄに示すように、互いに対向するとともに円形状の外形をもつ上面３０ａおよび下面３０ｂ、当該上面３０ａおよび下面３０ｂの間で延びる側面３０ｃと、上面３０ａおよび下面３０ｂを貫通する取り付け穴３１とを有しており、上下対称に形成されている。側面３０ｃと、上面３０ａおよび下面３０ｂとの交差部に切れ刃が形成されている。また、取り付け穴３１の内周面には、複数の割り出し可能面３２が形成されている。なお、割り出し可能面３２の機能については後述する。

次に、上記構成のクランプ装置のクランプ動作およびアンクランプ動作について図６Ａおよび６Ｂを参照して説明する。図６Ｂに示すように、クランプ装置がアンクランプ状態において、切削インサート３０の取り付け穴３１にクランプ部分２が挿入されるように、切削インサート３０をクランプ部材１上に置く。このとき、クランプ部材１の支持面６が、切削インサート３０を支持する。そして、ねじ部材１０をＡ１方向に進むように回転させると、ねじ部材１０の肩部１０ｂがクランプ部材１の第１の係合面４に係合し、クランプ部材１にはＡ１方向の力が加えられる。クランプ部材１がＡ１方向に押圧されて、クランプ部材１の第１の当接面１ａがガイド穴２２の第１の摺動面２２ａに係合すると、第１の摺動面２２ａはＡ１方向の力をクランプ部材１がガイド穴２２の下方に向けて移動する力に変換する。クランプ部材１がガイド穴２２の下方に向けて移動していくと、クランプ部分２が切削インサート３０に向かう方向に移動し、クランプ部分２の当接面３が切削インサート３０の取り付け穴３１の割り出し可能面３２に当接する。さらに、ねじ部材１０をＡ１方向に進むように回転させると、当接面３が切削インサート３０をチップ座２０ａの座面２３および側壁面２４に向けて押圧する。これにより、図６Ａに示すように、切削インサート３０が工具ボデー２０にクランプされた状態となる。つまり、強固なクランプ力を得られる。チップ座２０ａの座面２３に対するガイド穴２２の傾斜角度は、座面２３に垂直な直線を基準として、２０度以上、なおかつ４０度以下の角度範囲が好ましい。この傾斜角度が、２０度に満たないとき、および４０度を超えるときは、本実施形態のように、ねじ部材１０の中心軸線Ｃ１をチップ座２０ａの座面２３と平行にするときに、強固なクランプ力が得られない。

ねじ部材１０の中心軸線Ｃ１の方向は、クランプ部材１の移動方向とは異なる方向とすることが好ましい。すなわち、ねじ部材１０を、クランプ部材１の移動方向に対して、傾斜した方向に移動させる。

クランプ装置が図６Ａに示すクランプ状態において、ねじ部材１０をＡ２方向に進むように回転させると、ねじ部材１０の肩部１２ａがクランプ部材１の第２の係合面５に係合し、クランプ部材１にはＡ２方向の力が加えられる。クランプ部材１がＡ２方向に押圧されて、クランプ部材１の第２の当接面１ｂがガイド穴２２の第２の摺動面２２ｂに係合すると、Ａ２方向の力を第２の摺動面２２ｂはクランプ部材１がガイド穴２２の上方に向けて移動する力に変換する。クランプ部材１がガイド穴２２の上方に向けて移動していくと、クランプ部分２の当接面３が切削インサート３０から離れる向きに移動する。そして、クランプ部材１の支持面６が切削インサート３０を支持し、切削インサート３０をチップ座２０ａから引き離す。

ここで、切削インサート３０の割り出し可能面３２は、クランプ部材１の当接面３と当接して当該切削インサート３０のチップ座２０ａ上での回転方向の向きを規定する。割り出し可能面３２は、内周面の上面側および下面側に４つずつ、合計８つ形成されている。したがって、切削インサート３０は、９０度ごとに割り出し可能であり、片面で４回ずつ、合計８回使用できる。割り出し可能面３２の数は、切削インサート３０の使用回数に対応する。ただし、割り出し可能面３２の数は、上記の数に限定されるわけではない。例えば、片面に６つずつや、片面に８つずつなど、用途に応じて数を任意に調整できる。また、割り出し可能面３２を設けなくてもよい。割り出し可能面３２を設けない場合は、切削インサート３０の使用回数について、使用時の損傷状態などに応じて柔軟に対応できる。反面、切削インサート３０の回転方向の位置を拘束できないため、使用回数がわかりにくくなる。また、切削インサート３０が丸形板状に限らず、不安定な外形形状のときには、切れ刃の位置が動きやすくなる。不安定な外形形状とは、例えば、楕円形板状や、各辺が円弧をなす略多角形などの、外周方向に回転しやすい形状のことである。外周形状の拘束が難しい切削インサート３０において、使用時における回転方向の向きを決めるには、割り出し可能面３２を設けることが効果的である。また、丸形板状の切削インサート３０の場合、切れ刃が一定高さでなく波形切れ刃とされるときなどは、波形の頂点位置を合わせるために、割り出し可能面３２を設けることが効果的である。

本実施形態では、割り出し可能な面３２は、略平面で構成される。このため、前述のクランプ部材１の当接面３と面接触または線接触する。線接触のときでも、切削インサート３０の回転方向の向きは規定される。しかしながら、割り出し可能面３２は、平面に限定されない。割り出し可能面３２は、例えば、曲面で構成されていても構わない。切削インサート３０の、使用時における回転方向の向きを決められればよい。なお、回転方向の向きを規定するとは、クランプ部材１の当接面３と当接して、切削インサート３０の回転方向の動きを規制した状態にすることを意味する。

本実施形態の切削インサート３０は、上面３０ａおよび下面３０ｂの両面を対称な形状に形成することで、両面の使用が可能である。切削インサート３０の向きを規定するための割り出し可能面３２は、切削インサート３０を押し離すときに、クランプ部材１の支持面６に当接する当接面としても使用できる。切削インサート３０は、クランプ部材１の支持面６に支持されることで、工具ボデー２０のチップ座から押し離される。支持面６のうち、面６ａは、切削インサート３０の上面３０ａまたは下面３０ｂと当接する。面６ａだけでも、切削インサート３０を押し離す効果が得られる。本実施形態では、面６ａに加えて、クランプ部材１の面６ｂおよび６ｃが、切削インサート３０の割り出し可能面３２と当接する。これにより、切削インサート３０は押し離す時に回転せず、使用された向きを保ちながら取り外せる。また装着する時も回転せず、取り付けたい向きを保ちながら装着できる。

本実施形態の切削インサート３０では、押し離すときの当接面の位置がずれないように、上面側の割り出し可能面３２と、下面側の割り出し可能面３２とが、切削インサート３０の上下をひっくり返した際に同じ位置にある必要があるために、切削インサート３０の上下面の中央を通る軸線に関して１８０°回転対称な関係にある。さらに、本実施形態では、上面および下面のそれぞれにおいて、取り付け穴の中心軸線に関して１８０°（９０°）回転対称な関係にあることから、上面側の割り出し可能面３２と、下面側の割り出し可能面３２とが、面対称（鏡像）の関係に配置されている。このことをわかりやすくするため、本実施形態では、切削インサート３０の取り付け穴３１は、円筒穴でなく多角形、具体的には四角形の穴とされる。しかし、これに限定されない。取り付け穴３１は円筒穴であってもよい。クランプ部材１の当接面３と当接しない部分の、取り付け穴３１の形状は、他の部品と干渉しない限り、どのような形状とされても構わない。なお、取り付け穴３１を円筒穴にするときは、クランプ部材１のクランプ部分２の横断面形状を、取り付け穴３１の円筒穴の内側を通れるように丸める。

本実施形態においては、切削インサート３０は、丸形板状とされる。しかしながら、切削インサート３０は、丸形板状に限定されない。取り付け穴３１を有する形状であれば、どのような外形形状の切削インサート３０にも適用できる。また、クランプ部材１の支持面６と当接する、切削インサート３０の当接面を形成する箇所は、取り付け穴３１の内周面に限定されない。クランプ部材１が後退するときに、切削インサート３０を工具ボデー２０のチップ座から押し離せるように形成されれば、どのような形状でも構わない。ただし、支持面６の面６ｂがクランプ部材１のクランプ部分２の正面に形成され、かつ、切削インサート３０の当接面が、取り付け穴３１の内側に形成されると、切削インサート３０を浮き上がらせる方向が、固定する方向と正反対の最適な方向になる。

第２の当接面４および第３の当接面５は、貫通穴７をはさんで両側に設けられる。切削インサート３０を固定するときは、クランプ部材１の第２の当接面４をねじ部材１０が押さえつける。切削インサート３０を着脱するときは、ねじ部材１０の先太部分１２がクランプ部材１の第３の当接面５と当接し、クランプ部材１を後退させる。前述のとおり、クランプ部材１が後退すると、クランプ部分２の第４の当接面６にて、切削インサート３０を工具ボデーのチップ座から押し離す。なお、クランプ部材１の貫通穴７または切り欠きと、ねじ部材１０の略円柱状の軸部１１とのすきまは、適切に調整される。略円柱状部分１１が回転しながら、ねじ部材１０が進退可能なすきまであればよい。ねじ部材１０の拡径部１２の形状も、実施形態の形状に限定されない。クランプ部材１の第３の当接面５と当接する太さおよび形状であれば、どのような形状でも構わない。

ねじ部材１０の移動方向は、チップ座２０ａの座面２３と傾斜する方向とされてもよい。例えば、切削インサート３０から離れる方向に傾斜させると、クランプ力をさらに高めることができる。ねじ部材１０の進退方向は、工具ボデー２０のチップ座周辺のバックメタルの厚さなどに応じて、適宜調整できる。

第２実施形態
本発明の第２の実施形態に係るクランプ装置が適用された切削工具を、図７Ａ〜図９に示す。なお、これらの図面において、第１の実施形態と同様の構成部分には同じ符号を使用している。本実施形態のクランプ部材１Ａには、液体または気体を切削インサート３０の切れ刃に向けて噴出するための噴出し口８と、その液体または気体を、噴出し口８へ誘導するための流体経路９とが設けられている。切れ刃の近くから切削液やエアーを噴出させて、高い冷却効果や潤滑効果を得ることができる。クランプ部材１Ａの流体経路９と接続するように、工具ボデー２０Ａの流体経路２５が設けられている。工具ボデー２０Ａの流体経路２５は、様々な従来技術を適用できる。本実施形態では、クランプ部材１Ａの長さを短くし、なおかつ、チップ座２０ａの座面２３のバックメタルを確保するために、工具ボデー２０Ａの流体経路２５は、チップ座２０ａの座面２３に対して傾斜する方向に設けられる。工具ボデー２０Ａの流体経路２５は、途中から方向を変更することが可能である。すなわち、流体経路２５の他端に設けられる流体の供給口は、工具ボデー２０の任意の位置に配置できる。なお、工具ボデー２０Ａの流体経路２５の断面積は、クランプ部材１の流体経路９の断面積より広くされることが好ましい。工具ボデー２０Ａの流体経路２５の断面積が広くされると、流体の圧力損失を抑制できる。同様に、クランプ部材１の流体経路９の断面積は、噴出し口８の断面積よりも広くされることが好ましい。

切削インサート３０を固定しているとき、図９に示すように、クランプ部材１Ａの当接面１ａは、ねじ部材１０により、ガイド穴２２の第１の摺動面２２ａに押し付けられる。このため、当接面１ａおよび第１の摺動面２２ａのいずれも平面で構成されるため、互いに密着し、液体または気体が漏れにくい。このことも相まって、高い冷却効果や潤滑効果を持続できる。上述したように、クランプ部材１Ａの第１の当接面１ａは、曲率半径Ｒ１を適切な大きさにすることによって、広い幅を得られる。

第２の実施形態の切削工具における工具ボデー２０Ａは、第１の実施形態の切削工具における工具ボデー２０と共通化できる。なお、第１の実施形態の切削工具専用の工具ボデー２０とするときは、流体経路２５を設けなくてもよい。

切削インサート３０の切れ刃および切れ刃の周辺の工具材料は、超硬合金、サーメット、セラミック、立方晶窒化硼素等の硬質材料またはこれら硬質材料の表面にＰＶＤまたはＣＶＤコーティング膜を被膜したもの、またはダイヤモンドの中から選択することが好ましい。

クランプ部材１，１Ａおよびねじ部材１０の形成材料は、合金鋼や工具鋼などから選択することが好ましい。すなわち、成形が容易で、かつ、引っ張り強さと圧縮強さがともに高い鋼材が好ましい。

このクランプ装置は、様々な切削工具に適用されて、その切削工具が工作機械に装着されることにより、鋼材などの切削加工に利用できる。旋盤用のバイトや回転切削工具などに適用され、適用切削工具への制約がほとんどない。実施形態には旋盤用のバイトだけを記載したが、回転切削工具においても、操作性が高く、クランプ強度の高いクランプ装置であることが確認されている。

本発明のクランプ装置は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更及び追加が可能である。例えば、ねじ部材１０をＡ２方向に後退させることで切削インサート３０がクランプされるような構造を採用することも可能である。また、上記実施形態では、ネガティブタイプの切削インサートの場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ポジティブタイプの切削インサートにも適用できる。

１，１Ａ クランプ部材
２ クランプ部分
３ クランプ部分の当接面
４ 第１の係合面
５ 第２の係合面
６、６ａ、６ｂ、６ｃ 支持面
７ 長穴（鍵穴形状の穴）
８ 噴出し口
９ クランプ部材の流体経路
１０ ねじ部材
１１ 軸部
１２ 拡径部
２０ 工具ボデー
２０ａ チップ座
２１ ねじ穴
２２ ガイド穴
２３ 座面
２４ 側壁面
２５ 工具ボデーの流体経路
３０ 切削インサート
３１ 取り付け穴
３２ 割り出し可能面

Claims (13)

1. 切削インサート（３０）を工具ボデー２０）へクランプするためのクランプ装置であって、
   前記工具ボデー（２０）のガイド穴（２２）と、
   前記工具ボデー（２０）の一側面（２０ｂ）から前記ガイド穴（２２）に交差する向きに形成されるとともに当該ガイド穴（２２）に接続されるねじ穴（２１）と、
   クランプ部分（２）を有し、前記ガイド穴（２２）内において所定のガイド方向に移動可能に配置されるクランプ部材（１）と、
   前記ねじ穴（２１）に螺合し、回転することにより第１および第２の方向へ移動可能なねじ部材（１０）と、を有し、
   前記ねじ部材（１０）は、前記第１および第２の方向への移動の両方において、前記クランプ部材（１）と係合可能に形成されており、
   前記ガイド穴（２２）は、前記クランプ部材（１）と係合して、当該クランプ部材（１）が前記ねじ部材（１０）から受ける前記第１の方向の力を、当該クランプ部分（２）をガイド穴（２２）側でかつ前記切削インサート（３０）へ向かわせる方向へ移動させる力に変換する第１の摺動面（２２ａ）と、前記クランプ部材（１）と係合して、当該クランプ部材が前記ねじ部材から受ける前記第２の方向の力を、前記クランプ部分（２）をガイド穴（２２）とは反対側でかつ前記切削インサート（３０）から離れる方向へ移動させる力に変換する第２の摺動面（２２ｂ）とを有する、ことを特徴とする装置。
2. 前記第１および第２摺動面（２２ａ，２２ｂ）は、平面で構成され、前記工具ボデー（２０）に形成された前記切削インサート（３０）のためのチップ座（２０ａ）の座面（２３）に対して傾斜している、ことを特徴とする請求項１に記載の装置。
3. 前記第１および第２摺動面（２２ａ，２２ｂ）は、前記工具ボデー（２０）に形成された前記切削インサート（３０）のためのチップ座（２０ａ）の側壁面（２４）に対して傾斜している、ことを特徴とする請求項１または２に記載の装置。
4. 前記ねじ穴（２１）は、その中心軸線（Ｃ１）が前記チップ座（２０ａ）の座面（２３）に対して略平行になるように配置され、
   前記クランプ部材（１）は、前記ねじ部材（１０）が前記第１の方向に移動する際に係合する第１の係合面（４）と、前記ねじ部材（１０）が前記第２の方向に移動する際に係合する第２の係合面（５）と、を有し、
   前記第１および第２の係合面（４，５）は、前記中心軸線（Ｃ１）に対して略直交する方向に配置されている、ことを特徴とする請求項１ないし３のいずれかに記載の装置。
5. 前記クランプ部材（１）は、前記第１の摺動面（２２ａ）に係合する第１の当接面（１ａ）と、前記第２の摺動面（２２ｂ）に係合する第２の当接面（１ｂ）とを有し、
   前記第１および第２の当接面（１ａ，１ｂ）は、平面で構成されるとともに、前記第１および第２の係合面（４，５）に対してそれぞれ傾斜している、ことを特徴とする請求項１ないし４のいずれかに記載の装置。
6. 前記ねじ部材（１０）は、前記ねじ穴（２１）に螺合するねじ部（１０ａ）と、当該ねじ部（１０ａ）の先端部から長手方向に延在するとともに当該ねじ部（１０ａ）よりも小径の軸部（１０ｂ）と、当該軸部（１０ｂ）の先端部に形成されるとともに当該軸部（１０ｂ）より拡径された拡径部（１０ｃ）とを有し、
   前記クランプ部材（１）は、前記ねじ部材（１０）のねじ部（１０ａ）が挿入できず、前記拡径部（１０ｃ）および前記軸部（１０ｂ）が挿入できる第１の挿入部（７ｂ）と、この第１の挿入部（７ｂ）に接続され、前記拡径部（１０ｃ）および軸部（１０ｂ）のうち当該軸部（１０ｂ）のみ挿入でき、前記ねじ部材（１０）に対する前記クランプ部材（１）の前記所定のガイド方向の移動を可能にする第２の挿入部（７ａ）を有する、ことを特徴とする請求項１ないし５のいずれかに記載の装置。
7. 前記第１の挿入部（７ｂ）は、貫通穴又は切り欠きで形成されている、ことを特徴とする請求項６に記載の装置。
8. 前記ねじ部（１０ａ）と前記軸部（１０ｂ）との間に形成された肩部（１０ｂ）が前記第１の係合面（４）に係合し、前記軸部（１０ｂ）と前記拡径部（１０ｃ）との間に形成された肩部（１２ａ）が前記第２の係合面（５）に係合し、
   前記前記第１および第２の係合面（４，５）は、前記第２の挿入部の周りに配置されている、ことを特徴とする請求項６又は７に記載の装置。
9. 前記クランプ部材（１）は、液体または気体を、前記切削インサート（３０）の切れ刃に向けて噴出するための噴出し口（８）と、液体または気体を、該噴出し口（８）へ誘導するための流体経路（９）とを有することを特徴とする請求項１ないし８のいずれかに記載の装置。
10. 前記切削インサート（３０）は、互いに対向する上下面（３０ａ、３０ｂ）と、当該上下面（３０ａ、３０ｂ）の間で延びる側面（３０ｃ）と、上下面（３０ａ、３０ｂ）を貫通する取り付け穴（３１）とを有し、
    前記クランプ部材（１）のクランプ部分（２）は、前記取り付け穴（３１）の内周面に当接可能な当接面（３）を有し、
    前記切削インサート（３０）の取り付け穴（３１）の内周面は、前記当接面（３）と当接して当該切削インサート（３０）のチップ座（２０ａ）における向きを規定する割り出し可能面（３２）を有する、ことを特徴とする請求項１ないし９のいずれかに記載の装置。
11. 請求項１から１０のいずれかに記載されたクランプ装置を備えることを特徴とする切削工具。
12. 請求項１１に記載の切削インサート（３０）であって、
    前記割り出し可能面（３２）を前記内周面の周方向に沿って複数備えている、ことを特徴とする切削インサート。
13. 前記切削インサート（３０）は、前記上面（３０ａ）および下面（３０ｃ）の両面を使用可能であり、
    前記複数の割り出し可能面（３２）は、前記クランプ部材（１）のクランプ部分（２）が上方にかつ当該切削インサート（３０）から離れる方向移動する際に、当該クランプ部分（２）に形成された、当該切削インサート（３０）を支持して前記チップ座（２０ａ）から引き離すための支持面（６）に当接する当接面としても機能する、ことを特徴とする請求項１２に記載の切削インサート。

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