JPWO2012067083A1 - ポリエステル樹脂 - Google Patents

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Abstract

本発明は、アルミニウム化合物とリン化合物を重合触媒として用いて得られ、エチレンテレフタレート構造単位を85モル%以上含有するポリエステル樹脂であって、ポリエステル樹脂質量に対して、アルミニウム系異物の含有量が100ppb以下であり、特定の構造で示されるリン化合物の含有量が5〜11ppmであるポリエステル樹脂である。本発明により、商業的規模で連続重合生産を行った際に、得られたポリエステル樹脂からなる成形体の透明性を高く維持した上で、成形体が耐熱性のボトルの場合には、口栓部の結晶化コントロールがしやすく、また、成形体が成形用シートの場合には、成形での加熱の際に白化しにくいと言う特徴を有するポリエステル樹脂を提供できる。

Description

本発明は、透明性に優れたポリエステル樹脂に関するものであり、更に詳しくは、アルミニウム化合物およびリン化合物を触媒主成分として用いるポリエステル樹脂に関するものである。
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性、及び化学的特性に優れており、それぞれのポリエステルの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。特に、PETなどの飽和ポリエステルからなるボトルは、機械的強度、耐熱性、透明性およびガスバリヤー性に優れるため、ジュース、炭酸飲料、清涼飲料などの飲料充填用容器、および目薬、化粧品などの容器として広く使用されている。
従来から、このようなポリエステルの重縮合時に用いられるポリエステル重縮合触媒としては、アンチモンあるいはゲルマニウム化合物が広く用いられている。三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、これを主成分、即ち、実用的な重合速度が発揮される程度の添加量にて使用すると、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、ポリエステルに黒ずみや異物が発生すると言う問題があり、アンチモンを全く含まないか或いはアンチモンを触媒主成分として含まないポリエステルが望まれている。
なおポリエステル中の上記の異物は、以下のような問題をひき起こす。
(1)繊維用のポリエステル中の異物は、紡糸時の口金汚れの原因となると同時に、製品である繊維自体の強度低下をもたらす。
よって、ポリエステル繊維の製造においては、操業性および品質の観点から、異物の生成の少ないポリエステル重合触媒が求められる。
(2)フィルム用のポリエステルにおいては、析出は、ポリエステル中の異物となり、製膜時のロール汚れの原因になるだけでなく、フィルムの表面欠点の原因にもなる。
よって、ポリエステルフィルムの製造においても、操業性および品質の観点から、異物の生成の少ないポリエステル重合触媒が求められる。
(3)また、異物を含有するポリエステルを、中空成形品等の原料として用いた場合には、透明性に優れた中空成形体を得ることが困難である。
上記の要求に答える新規の重縮合触媒として、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる触媒系が開示されており注目されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
しかしながら、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる触媒系においても触媒異物が発生するという問題がある。この問題を解決するために、触媒として用いるアルミニウム化合物やリン化合物のエチレングリコール溶液の調整方法を工夫したり、エステル反応終了後にリン化合物を添加することにより、重縮合触媒に起因する異物の生成を低減するという技術が知られている(例えば、特許文献5、6参照)。
また、PETはその優れた透明性、機械的強度、耐熱性、ガスバリヤー性などの特性により、炭酸飲料、ジュース、ミネラルウオータなどの容器の素材として採用されている。中でも内容物を高温で充填するための耐熱性のボトルにおいては、口栓部を加熱して結晶化させ、口栓部に耐熱性を持たせて充填する際の口栓部の変形を抑える技術が広く採用されている(例えば、特許文献7、8参照)。
この口栓部結晶化技術は、結晶化処理をする時間・温度が生産性に大きく影響し、低温でかつ短時間で処理できる、結晶化速度が速いPETであることが好ましい。一方、胴部については、ボトル内容物の充填量が外部より視認できるように、成形時の熱処理を施しても透明であることが要求されており、口栓部と胴部では相反する特性が必要である。また、結晶化速度が速すぎたり、遅すぎると結晶化が不均一になり、口栓部に歪が生じたり、口栓部の寸法が設計通りとならず、充填液の液漏れに繋がる。
最適な口栓部の結晶化速度とするためには、市場より150〜170℃、特には160〜165℃の昇温結晶化温度(以下、「Tc1」と称する場合がある)の製品が望まれている。上記のアルミニウム化合物とリン化合物とからなる重縮合触媒系は、特許文献5および6に記載されているように、異物を低減させることで上記範囲のTc1のPETが得られることが知られており、連続重合生産において、循環再使用するエチレングリコールの留出分を区分することで、安定したTc1のPETを得る技術も提案されている(例えば、特許文献9参照)。
しかしながら上記の方法によっても、時間当たり1トン以上の生産量で、数日間以上連続して生産すると言うような商業的規模で連続重合生産を行った場合には、製造条件の変更等でTc1は大きく変化し、安定したTc1のPETを得ることは困難であった。
一方、PETのTc1を下げて口栓部の結晶化速度を上げる技術として、結晶核剤となるポリエチレンやポリプロピレンなどの結晶性樹脂を、ごく微量配合することが知られている(例えば、特許文献10参照)。特にポリエチレンやポリプロピレンなどの結晶性樹脂部材に、PETチップを接触させる技術は、工業生産において、簡便にppb量の結晶核剤樹脂を配合することが出来る(例えば、特許文献11および12参照)。
しかし、特許文献5、6、9等の技術で得られたPETに、結晶性樹脂を微量配合してTc1を160〜165℃に調整しようとした場合には、昇温時の結晶化温度であるTc1が170℃以下であるためか、安定したTc1のPET樹脂を得ることが困難であった。
特開2001−131276号公報 特開2001−163963号公報 特開2001−163964号公報 特開2002−220446号公報 WO2005/075539号公報 特開2005−187558号公報 特開昭55−79237号公報 特開昭58−110221号公報 特開2006−290909号公報 特開平9−151308号公報 特開平9−71639号公報 特開2002−249573号公報
このように、Tc1が170℃以下であるポリエステルは、耐熱ボトルに用いた場合、ボトル口栓部の結晶化コントロールがしにくい等の問題点があった。これと同様に、シート成形での加熱の際に白化するという問題点もあった。さらに、Tc1が170℃以上であっても、降温時結晶化温度(以下、「Tc2」と称する場合がある)が高い場合、成形時に十分に延伸される前に結晶が固定されてしまい、成形体の強度が低下してしまうことがあると言う別の問題点を見出した。そこで、成形体の透明性を高く維持した上で、市場が求める物性を有する成形体を得るためには、Tc1と同時に、Tc2の制御も必要である事が分かった。後記するように、Tc1、Tc2の制御には、重合触媒として用いたリン化合物の分解物の量、重合触媒として用いたアルミニウム化合物に起因するアルミニウム系異物の量をコントロールする必要があるが、従来の技術ではこのコントロールは達成できていなかった。
本発明の大きな目的は、商業的規模で連続重合生産を行った場合に、成形体の透明性を高く維持した上で、耐熱性のボトルに用いた場合には、口栓部の結晶化コントロールがしやすく、また、成形用シートに用いた場合には、成形での加熱の際に白化しにくいポリエステルを提供することにある。
すなわち本発明は、アルミニウム化合物とリン化合物を重合触媒として用いて得られ、エチレンテレフタレート構造単位を85モル%以上含有するポリエステル樹脂であって、ポリエステル樹脂質量に対して、アルミニウム系異物の含有量が100ppb以下であり、下記(B)構造で示されるリン化合物の含有量が5〜11ppmであることを特徴とするポリエステル樹脂である。
上記において、重合触媒として用いたリン化合物が、下記化学式(式A)で表されるリン化合物であり、ポリエステル樹脂中に含まれる下記化学式(式A)で表されるリン化合物、及びその熱分解物である前記(B)構造で示されるリン化合物を含めた全リン化合物のリン原子の量が、ポリエステル樹脂質量に対して20〜65ppmであることが好ましい。
((式A)において、X1、X2は、それぞれ、水素、炭素数1〜4のアルキル基、または1価以上の金属を表す。)
上記において、ポリエステル樹脂中に含まれるアルミニウム化合物のアルミニウム原子と、化学式(式A)で表されるリン化合物及びその熱分解物である前記(B)構造で示されるリン化合物を含めた全リン化合物のリン原子の比率P/Al(モル比)が、1.4≦P/Al≦100であることが好ましい。
本発明により製造されたポリエステル樹脂は、成形体の透明性が高く、耐熱性のボトルに用いた場合には、口栓部の結晶化コントロールがしやすく、また、成形用シートに用いた場合には、成形での加熱の際に白化しにくいという利点がある。
本発明のポリエステル樹脂の評価に用いた段付き成形板の平面図である。 本発明のポリエステル樹脂の評価に用いた段付き成形板の側面図である。
本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂質量に対して、アルミニウム系異物の含有量が100ppb以下である。アルミニウム系異物とは、重合触媒として用いたアルミニウム化合物に起因するものであり、ポリエステル樹脂に不溶の異物である。アルミニウム系異物量は以下の方法で定量したものである。
[アルミニウム系異物量]
ポリエステルペレット30gおよびパラクロロフェノール/テトラクロロエタン(3/1:重量比)混合溶液300mlを攪拌機付き丸底フラスコに投入し、該ペレットを混合溶液に100〜105℃、2時間で攪拌・溶解する。該溶液を室温になるまで放冷し、直径47mm/孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルター(Advantec社製PTFEメンブレンフィルター、品名:T100A047A)を用い、全量を0.15MPaの加圧下で異物を濾別する。有効濾過直径は、37.5mmとする。濾過終了後、引き続き300mlのクロロホルムを用い洗浄し、次いで、30℃で一昼夜減圧乾燥する。該メンブレンフィルターの濾過面を走査型蛍光X線分析装置(RIGAKU社製、ZSX100e、Rh管球4.0kW)でアルミニウム元素量を定量する。定量はメンブレンフィルターの中心部直径30mmの部分について行なう。なお、該蛍光X線分析法の検量線は、アルミニウム元素含有量が既知のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて求め、見掛けのアルミニウム元素量をppmで表示する。測定はX線出力50kV−70mAで、分光結晶としてペンタエリスリトール、検出器としてPC(プロポーショナルカウンター)を用い、PHA(波高分析器)100−300の条件でAl−Kα線強度を測定することにより実施する。検量線用ポリエチレンテレフタレート樹脂中のアルミニウム元素量は、高周波誘導結合プラズマ発光分析法で定量する。
上記見掛けのアルミニウム元素量(ppm)は、有効濾過直径に対応する面積のメンブレンフィルター(質量M:0.0392g)中の含有量(捕集量)であるので、得られた見掛けのアルミニウム元素量(ppm)にMを乗じて、ポリエステルペレット質量(30g)で除した値をアルミニウム系異物量(単位:ppb)とする。
上記評価法で測定されたアルミニウム系異物量は、70ppb以下がより好ましい。50ppb以下がさらに好ましい。30ppb以下が特に好ましい。アルミニウム系異物量が100ppbを超えた場合は、該ポリエステルに不溶性の微細な異物が原因となり、本願の目指す高度な透明性が達成できず好ましくない。
上記評価法で測定されたアルミニウム系異物量の好ましい下限は、10ppb以上である。アルミニウム系異物量を10ppb未満にするには、コストを度外視して触媒として用いるアルミニウム化合物の精製を徹底的に行うことや、触媒活性を犠牲にしてアルミニウム化合物の添加量を減らす等の対応が必要となり、現実的ではない。
上記評価法で測定されたアルミニウム系異物量は、ppbレベルの極微量である。この極微量の異物量により成形体の透明性が悪化するのは、上記評価法で測定されるアルミニウム系異物は、ポリエステルに対する親和性が低いために、成形時の成形応力によりポリエステルとアルミニウム系異物の界面にボイドが形成されて、該ボイドにより光の散乱が起こり成形体の透明性が低下することが原因となっていると推定している。
また、本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂質量に対して、下記(B)構造で示されるリン化合物を5〜11ppm含有するものである。
なお、(B)構造のものは、樹脂中ではAl塩として存在していると考えられるが、測定においてはリン酸を添加することで「−PO(OH)」となり、(B)構造で示されるリン化合物の量は、「−P−O−」部位が「−P−OH」となったものとしての値である。
(B)構造で示されるリン化合物は、アルミニウム化合物および化学式(式A)で表されるリン化合物を触媒として用いて、ポリエステルを重合する際の熱分解物としてポリエステル中に存在する。
本発明者らの検討によると、ポリエステル中の(B)構造で示されるリン化合物は、特異的にTc1に影響を与え、その含有量が特定以上になるとTc1の低下が起こることが分かった。(B)構造で示されるリン化合物の含有量としては、好ましくは10.5ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは9.5ppm以下であり、最も好ましくは9ppm以下である。(B)構造で示されるリン化合物は触媒調合時や重縮合時の熱により生成するため、基本的に含有することを避けることは困難である。(B)構造で示されるリン化合物の含有量の下限は、現実的に5ppmであり、より好ましくは6ppm以上であり、特には6.5ppm以上、最も好ましくは7ppm以上である。
(B)構造で示されるリン化合物の含有量が11ppmを超えるとTc1の低下が起こり、Tc1を170℃以上にすることが困難となる場合がある。
このような場合、透明性が低下し、口栓部結晶化のコントロールがし難く、コントロール幅が狭い状態となることがある。Tc1は、より好ましくは171℃以上であり、さらに好ましくは172℃以上であり、特に好ましくは173℃以上であり、最も好ましくは174℃以上である。Tc1の上限は、現実的には好ましくは195℃であり、より好ましくは190℃であり、さらに好ましくは187℃であり、特に好ましくは186℃であり、最も好ましくは185℃である。
また、アルミニウム系異物により、Tc1の低下が起こることがある。この場合はTc2の上昇も同時に起こる。Tc2は175℃以下であることが好ましく、より好ましくは174℃以下であり、さらに好ましくは173℃以下であり、特に好ましくは172℃以下であり、最も好ましくは171℃以下である。Tc2の下限は、現実的には、好ましくは145℃であり、より好ましくは150℃であり、さらに好ましくは155℃であり、特に好ましくは160℃であり、最も好ましくは165℃である。
アルミニウム系異物量を100ppb以下、(B)構造で示されるリン化合物を5〜11ppmにするための手段を以降に説明する。(B)構造で示されるリン化合物を5〜11ppmにするためには、中でも、重縮合工程の温度時間積が重要になる。
さらに、本発明のポリエステル樹脂の詳細を説明する。
1.ポリエステル樹脂の組成
ポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレ−ト単位を85モル%以上含むポリエステルであって、好ましくはエチレンテレフタレ−ト単位を90モル%以上含む線状ポリエステルであり、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97%モル以上含む線状ポリエステルである。
なお、本発明で言う「ポリエステル樹脂」とは、単一の化学種としてのポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)に、重合触媒やその分解物を含むものである。その点からすると、「組成物」とも解されるが、触媒成分等は、非常に少ない量であるので、本願では「ポリエステル樹脂」と称する。また、本願発明の効果を損なわない範囲で、本願発明のポリエステル樹脂に各種の添加剤が含まれても良い。
前記ポリエステルが、共重合体である場合に使用される共重合成分としてのジカルボン酸としては、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4,4−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸や、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などに例示される脂肪族ジカルボン酸や脂環族ジカルボン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸を用いることができる。
これらのジカルボン酸は、全カルボン酸成分のうち、好ましくは0〜15モル%、より好ましくは0.5〜10モル%、更に好ましくは0.8〜7.5モル%、特に好ましくは0.9〜5.0モル%、最も好ましくは1.0〜2.5モル%の範囲で用いることができる。
また、前記ポリエステルが、共重合体である場合に使用される共重合成分としてのグリコールとしては、例えば、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族グリコール等が挙げられる。
これらのグリコールは、全グリコール成分のうち、好ましくは0〜15モル%、より好ましくは0.5〜10モル%、更に好ましくは0.8〜7.5モル%、特に好ましくは0.9〜5.0モル%、最も好ましくは1.0〜2.5モル%の範囲で用いることができる。
該ポリエステル樹脂の極限粘度は、0.35〜1.30dl/gが好ましく、より好ましくは0.40〜1.00dl/g、更に好ましくは0.45〜0.90dl/g、特に好ましくは0.50から0.85dl/g、最も好ましくは0.55〜0.80dl/gである。即ち、極限粘度がこの範囲よりも低いと、容器の機械的強度や耐衝撃性が不十分であり、一方、上記範囲よりも高いと、有底プリフォームへの射出成形が困難となる傾向にある。
2.ポリエステル樹脂の触媒
本発明にかかるポリエステル重合触媒を構成するアルミニウム化合物としては、公知のアルミニウム化合物が限定なく使用できる。
アルミニウム化合物としては、具体的には、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、シュウ酸アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、及びこれらの部分加水分解物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でも酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートがより好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム及び水酸化塩化アルミニウムがさらに好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウムが最も好ましい。
本発明にかかるポリエステル重合触媒に用いられるアルミニウム化合物のアルミニウム原子としての使用量は、得られるポリエステル樹脂の全質量に対して1〜60ppm残留するようにすることが好ましく、より好ましくは2〜50ppmであり、更に好ましくは3〜40ppmであり、特に好ましくは5〜30ppmであり、最も好ましくは10〜20ppmである。
上記を下回ると触媒活性不良となる可能性があり、上記を超えるとアルミニウム系異物生成を引き起こす可能性がある。その結果、Tc1低下、Tc2上昇につながる可能性がある。
ポリエステル重合触媒を構成するリン化合物は、下記化学式(式A)で表されるようなヒンダードフェノール構造を有するリン化合物である。
(式A)中、X1、X2は、それぞれ、水素、炭素数1〜4のアルキル基、または1価以上の金属を表す。
また、X1は、金属が2価以上であって、X2が存在しなくても良い。さらには、リン化合物に対して金属の余剰の価数に相当するアニオンが配置されていても良い。
金属としては、Li,Na,K、Ca,Mg,Alが好ましい。
上記の化学式(式A)にて示される化合物の具体例としては、化学式(化1)、(化2)で表されるリン化合物がある。
上記の化学式(化1)にて示される化合物としては、Irgamod295(ビーエーエスエフ社製)が市販されており、また(化2)にて示される化合物としては、Irgamod195(ビーエーエスエフ社製)が市販されており、使用可能である。
リン化合物使用量は、得られるポリエステル樹脂の全質量に対してリン原子として、20〜65ppm残留するようにすることが好ましく、より好ましくは25〜60ppmであり、更に好ましくは30〜55ppmであり、特に好ましくは35〜52ppmであり、最も好ましくは40〜50ppmである。
但し、リン化合物については、ポリエステル重合時に減圧環境下に置かれる際、その条件により、添加量の約10〜30%が系外に除去される。そこで、実際は、条件を変えて数回の試行実験を行い、リン化合物のポリエステル中への残留率を見極めた上で、添加量を決める必要がある。
リン化合物の添加量が少ない場合には、触媒活性不良となったり、アルミニウム系異物生成を引き起こす場合があり、多すぎてもポリエステル重縮合触媒としての触媒活性が低下する場合があり、その低下の傾向は、アルミニウム化合物の添加量等により変化する。触媒活性が不良となった場合は、後述するが、重縮合での温度時間積が多く必要となるためにリン化合物の分解物量が多くなり、その結果、Tc1を170℃以上とすることが困難となる場合がある。
また、リン化合物の添加量が多すぎる場合、後述するが、リン化合物の分解物量が多くなり、その結果、Tc1を170℃以上とすることが困難となる場合がある。
ポリエステル樹脂中に含まれる化学式(式A)で表されるリン化合物、及びその熱分解物を含めた全リン化合物のリン原子と、アルミニウム化合物のアルミニウム原子の比率P/Al(モル比)は、1.4≦P/Al≦100であることが好ましく、より好ましくは1.5≦P/Al≦50であり、更に好ましくは1.6≦P/Al≦20であり、特に好ましくは1.7≦P/Al≦10であり、最も好ましくは1.8≦P/Al≦5である。
P/Alが低すぎると、ポリエステル重縮合触媒としての触媒活性が低下したり、アルミニウム系異物生成を引き起こし、その結果、Tc1低下、Tc2上昇となる場合があり、高すぎても、やはりポリエステル重縮合触媒としての触媒活性が低下する場合がある。触媒活性が低下した場合には、Tc1を170℃以上とすることが困難となる場合がある。アルミニウム系異物が多く生成した場合、Tc2を175℃以下にすることが困難となる。
本発明にかかる重縮合触媒は、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物などの他の重縮合触媒をポリエステルの特性、加工性、色調等製品に問題を生じない添加量の範囲内において共存させても良いが、これらは実質的に含まないことが好ましい。
共存させる場合、アンチモン化合物は、重縮合して得られるポリエステルに対して、アンチモン原子として30ppm以下の量であることが好ましい。より好ましくは、20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは5ppm以下である。アンチモンの添加量を30ppm超にすると、金属アンチモンの析出が起こり、Tc1、Tc2が、前記範囲から外れることがあるため好ましくない。
共存させる場合、ゲルマニウム化合物は、重縮合して得られるポリエステルに対して、ゲルマニウム原子として10ppm以下の量であることが好ましい。より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、特に好ましくは2ppm以下である。ゲルマニウムの添加量を10ppm超にすると、コスト的に不利になるため好ましくない。
共存させる場合、チタン化合物は、重縮合して得られるポリエステルに対して、チタン原子として3ppm以下であることが好ましい。より好ましくは2ppm以下であり、さらに好ましくは1ppm以下である。チタンの添加量を3ppm超にすると、得られるポリエステルの着色が顕著になり、さらに熱安定性が顕著に低下するため好ましくない。
共存させる場合、ナトリウム化合物は、重縮合して得られるポリエステルに対して、ナトリウム原子として20ppm以下の量であることが好ましい。より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下、特に好ましくは2ppm以下である。ナトリウムの添加量を20ppm超にすると、得られるポリエステルを成形した際のヘイズが悪化し、さらに耐加水分解性が低下するため好ましくない。
共存させる場合、マグネシウム化合物は、重縮合して得られるポリエステルに対して、マグネシウム原子として100ppm以下の量であることが好ましい。より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。マグネシウムの添加量を100ppm超にすると、得られるポリエステルの熱酸化安定性が悪化するため好ましくない。
共存させる場合、リチウム化合物は、重縮合して得られるポリエステルに対して、リチウム原子として50ppm以下の量であることが好ましい。より好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは5ppm以下である。リチウムの添加量を50ppm超にすると、ナトリウム化合物ほどではないが、得られるポリエステルを成形した際のヘイズが悪化し、さらに耐加水分解性が低下するため好ましくない。
3.触媒の調整
アルミニウム化合物およびリン化合物を触媒として用いる場合には、スラリー状あるいは溶液状で添加するのが好ましく、水やグリコールなどの溶媒に可溶化したもの、特に、水および/またはエチレングリコールに可溶化したものを用いることが好ましい。
以下にアルミニウム化合物の溶解方法を例示する。
(1)塩基性酢酸アルミニウムの水溶液の調製例
塩基性酢酸アルミニウムに水を加え、50℃以下で3時間以上攪拌する。攪拌時間は、6時間以上であることが更に好ましい。その後、60℃以上で数時間以上攪拌を行う。この場合の温度は、60〜100℃の範囲であることが好ましい。攪拌時間は、1時間以上であることが好ましい。水溶液の濃度は、10g/l〜30g/lが好ましく、特に15g/l〜20g/lが好ましい。
(2)塩基性酢酸アルミニウムのエチレングリコール溶液の調製例
上記の水溶液に対して、エチレングリコールを加える。エチレングリコールの添加量は水溶液に対して、容量比で0.5〜5倍量が好ましい。より好ましくは1〜3倍量である。該溶液を数時間常温で攪拌することで、均一な水/エチレングリコール混合溶液を得る。その後、該溶液を加熱し、水を留去することでエチレングリコール溶液を得ることができる。温度は80℃以上が好ましく、200℃以下が好ましい。より好ましくは90〜150℃で数時間攪拌して水を留去することが好ましい。また留去の際に系を減圧にしても良い。減圧にすることで、より低温で迅速にエチレングリコールを留去することができる。つまり減圧下では、80℃以下でも留去が可能となり、系に与える熱履歴をより少なくすることができる。
(3)乳酸アルミニウムのエチレングリコール溶液の調製例
乳酸アルミニウムの水溶液を調製する。調製は室温下でも加熱下でもよいが、室温下が好ましい。水溶液の濃度は20g/l〜100g/lが好ましく、50〜80g/lが特に好ましい。該水溶液にエチレングリコールを加える。エチレングリコールの添加量は水溶液に対して容量比で1〜5倍量が好ましい。より好ましくは2〜3倍量である。該溶液を常温で攪拌し、均一な水/エチレングリコール混合溶液を得た後、該溶液を加熱し、水を留去することで、エチレングリコール溶液を得ることができる。温度は80℃以上が好ましく、120℃以下が好ましい。より好ましくは90〜110℃で数時間攪拌して水を留去することが好ましい。
リン化合物は溶解させた後、加熱処理することが好ましい。該処理により重縮合触媒活性が向上すると共に、アルミニウム系異物の形成性が低下し、Tc2を低くすることが出来る。加熱処理する際に使用する溶媒としては、水及びアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であれば、限定されず任意であるが、リン化合物を溶解する溶媒を用いることが好ましい。
アルキレングリコールとしては、エチレングリコール等の目的とするポリエステルの構成成分であるグリコールを用いることが好ましい。
溶媒中での加熱処理は、リン化合物を溶解してから行うのが好ましいが、完全に溶解していなくても良い。
また、加熱処理の後に、化合物が元の構造を保持している必要はなく、溶媒に対する溶解性が向上する構造に変性する方が、重合活性向上に対してはより好ましい。
加熱処理の温度は、特に限定はされないが、150〜200℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは155〜195℃の範囲であり、更に好ましくは160〜190℃の範囲であり、特に好ましくは165〜185℃の範囲であり、最も好ましくは170〜180℃の範囲である。
加熱時間は、温度等の条件によって異なり、160℃の場合は、3〜7Hr、200℃の場合は、0.2〜0.5Hrが好ましい。加熱時間が短すぎると、重合活性が低下する場合がある。触媒活性が不十分であるとTc1を170℃以上とすることが困難となる場合がある。また、加熱時間が長すぎると、リン化合物の熱分解物量が増加し、昇温結晶化温度(Tc1)が低下する場合がある。
リン化合物を加熱処理することにより得られた溶液を保管する際の温度は、100℃以下の低温が好ましい。高温であると短時間でリン化合物の熱分解物量が増加し、昇温結晶化温度(Tc1)が低下する場合がある。
4.ポリエステルの重合方法
ポリエステルの製造法としては、特に制限はなく、テレフタル酸を含む多価カルボン酸と多価アルコールとの直接エステル化法もしくは、テレフタル酸等のアルキルエステルと多価アルコールとのエステル交換法によってテレフタル酸等と多価アルコールとのオリゴマーを得、しかる後に、常圧あるいは減圧下で溶融重縮合してポリエステルを得ることができる。このとき、必要に応じてエステル化触媒もしくは前記の重縮合触媒を用いることができる。
本発明によるポリエステルの製造は、触媒としてアルミニウム化合物およびリン化合物からなるポリエステル重合触媒を用いる点、以下の触媒の添加方法および重縮合条件に留意する点以外は、従来公知の工程を備えた方法で行うことができる。例えば、PETを製造する場合は、テレフタル酸とエチレングリコール、及び必要により他の共重合成分を直接反応させて、水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコール、及び必要により他の共重合成分を反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。更に必要に応じて、極限粘度を増大させる為に固相重合を行っても良い。固相重合前の結晶化促進のため、溶融重合ポリエステルを吸湿させた後、加熱結晶化させ、また水蒸気を直接ポリエステルチップに吹きつけて加熱結晶化させたりしても良い。
前記溶融重縮合反応は、連続式反応装置で行うことが好ましい。連続反応装置とは、エステル化反応またはエステル交換反応の反応容器と溶融重縮合反応容器を配管でつなぎ、それぞれの反応容器を空にさせることなく連続的に原料投入、配管での溶融重縮合反応容器への移送、溶融重縮合反応容器からの樹脂の抜き出しを行う方法である。なお、この場合、連続とは完全に常時原料投入から抜き出しが行われている必要はなく、少量ずつ、例えば反応容器量の1/10程度の量で、原料投入から抜き出しを行うような間欠的なものであっても良い。
これらいずれの方式においても、エステル化反応、あるいはエステル交換反応は、1段階で行っても良いし、また多段階に分けて行っても良い。溶融重縮合反応も、1段階で行っても良いし、また多段階に分けて行っても良い。固相重合反応は、溶融重縮合反応と同様連続式装置で行うことが出来る。
連続式反応装置を用いることにより、安定して高いTc1かつ低いTc2のポリエステルを得ることができるが、バッチ式(回分式)の場合では、このようなポリエステルを得ることはしばしば困難となる。反応装置に残存した前バッチのポリエステルが、熱履歴を受けて触媒の分解物が増えたり、樹脂自体の分解物の影響を受けたりすることが原因と考えられる。また、バッチ式の場合は、一般的に同一反応装置で異なる組成のポリエステルやポリアミドなど他種の樹脂も製造するものであり、それらの残存物の影響を受けているものと考えられる。
また、バッチ式の場合、ポリエステル重合修了後も反応装置内から樹脂を全量抜き出すのに、数十分から数時間かかり、この間にリン化合物の分解が進み、Tc1の低下が生じ、同一ロット内でのTc1が変動すると言う問題が起こる場合があるだけでなく、チップを全体で均一混合した場合では、Tc1の低下が起こることがある。
なお、連続式反応装置を用いた場合であっても、製造開始直後は、前に製造した樹脂の影響を受け、安定して高いTc1かつ低いTc2のポリエステルを得ることが困難となることがある。装置の規模や生産量、前に製造した樹脂にもよるが、運転開始または条件変更後、24〜48時間経過させて品質が安定した後のものを採取することが好ましい。
連続式反応装置では、そのメリットを活かすためには、時間当たり1トン以上の規模で生産を行うことが好ましい。上限は時間当たり50トン程度である。また、同一条件で2日以上生産することが好ましい。
5.触媒の添加
本発明においては、アルミニウム化合物溶液およびリン化合物溶液を、同時に添加することが重要である。同時に添加するとは、それぞれ単独で同じ反応容器や反応容器間の配管に添加する方法、予めアルミニウム化合物溶液およびリン化合物溶液を混合して、一液化して添加する方法が挙げられる。一液化する方法としては、それぞれの溶液をダンクで混合する方法、触媒を添加する配管を途中で合流して混合させる方法などが挙げられる。
なお、反応容器に添加する場合には、反応容器の攪拌を高くすることが好ましい。反応容器間の配管に添加する場合には、インラインミキサーなどを設置して添加された触媒溶液が速やかに均一混合されるようにすることが好ましい。
これらの中でも、アルミニウム化合物とリン化合物を速やかに結合させることで、ポリエステルのオリゴマー、モノマーの末端にアルミニウム化合物が配位したアルミニウム系異物の生成を防ぐためには、攪拌効率の面で反応容器間の配管に添加する方法が好ましい。光学的に観測されない微小な異物であっても結晶化の促進に大きく影響を及ぼすため、攪拌効率が低いとこのようなアルミニウム系異物が生成しやすくなり、Tc2の上昇、Tc1の低下が起こりやすくなる。特に、アルミニウム化合物溶液およびリン化合物溶液を別々に添加する場合は顕著となる。
アルミニウム化合物溶液およびリン化合物溶液を別々に添加した場合、アルミニウム化合物に起因する異物が多く発生し易く、Tc1が低くなったり、Tc2が高くなったり、十分な触媒活性が得られなくなる場合がある。アルミニウム化合物とリン化合物を同時に添加することで、重合活性をもたらすアルミニウム化合物とリン化合物の複合体が速やかに無駄なく生成できるが、別々に添加した場合には、アルミニウム化合物とリン化合物の複合体の生成が不十分であり、また、リン化合物との複合体を生成できなかったアルミニウム化合物が異物として析出するためだと考えられる。特に、異物として析出したアルミニウム化合物が、結晶核剤として作用することにより、Tc2が高くなると考えられる。
また、アルミニウム化合物溶液およびリン化合物溶液は、エステル化反応またはエステル交換反応終了後に添加することが重要である。エステル化反応またはエステル交換反応終了前に添加をすると、Tc1が低くなることがある。これは、後述するが、エステル化工程でもリン化合物の熱分解が進行して分解物が多くなるためだと考えられる。
6.重縮合
(B)構造のリン化合物を特定範囲とするためには、重縮合工程の条件が重要な要素となる。
本発明者らは、アルミニウム化合物とリン化合物からなる触媒を用いたポリエステルの重合条件と結晶化温度の関係を精査し、その原因、解決法を検討したところ、重縮合温度、時間によって、Tc1が変動することを突き止めた。
さらに、Tc1変動の原因となっていたものは、触媒として用いられるリン化合物の特定の分解物であることを明らかにし、製造条件を適正化して、この分解物の量をコントロールすることで、アルミニウム化合物とリン化合物からなる触媒を用いたポリエステル樹脂を170℃以上のTc1、かつ175℃以下のTc2という従来知られていなかったものとすることができ、このポリエステル樹脂は成形体の透明性が高く、耐熱性のボトルに用いた場合には、口栓部の結晶化コントロールがしやすく、また、成形用シートに用いた場合には、成形での加熱の際に白化しにくいことが分かった。
以下説明する。
重縮合の工程でリン化合物は分解していく。
リン化合物の分解物としては様々なものがあるが、本発明者らの検討の結果、特に前記(式A)のリン化合物のt−Bu基が一つ外れたものである、下記(B)構造のものがTc1に大きな影響を与えることが分かった。
分解による(B)の生成は、重縮合の温度が高く、時間が長いほど、分解が進行するため、温度と時間を特定の範囲とすることが好ましい。
即ち、[重縮合温度−240](℃)×重縮合時間(分)で表される温度時間積は、1000〜6500(℃×分)が好ましく、より好ましくは2000〜6300(℃×分)であり、更に好ましくは2500〜6200(℃×分)であり、特に好ましくは3000〜6100(℃×分)であり、最も好ましくは3500〜6000(℃×分)である。
上記範囲を超えると、(B)構造のリン化合物が11ppmを超え、Tc1を170℃以上にすることが困難となることがある。また、上記範囲以下では現実的な溶融重縮合が困難である。
ここで、240℃以上の温度としたのは、重縮合の時間として有意差が認められる5〜10分の時間で、リン化合物の分解にも有意差が生じる温度が240℃以上だからである。
なお、ここでの温度時間積は、各重縮合缶での平均滞留時間と缶内温度の積であり、複数の重縮合缶を用いる場合は、それぞれの反応缶で温度時間積を計算し、合計したものである。また、缶内の入り口付近−出口付近で温度勾配がある場合は、平均の温度を採る。
まず、温度を低くすることにより、リン化合物の分解が抑えられ、Tc1の変動がより安定化する傾向があるので、重縮合の温度は、250〜285℃が好ましく、より好ましくは255〜283℃であり、更に好ましくは260〜282℃であり、特に好ましくは265〜281℃であり、最も好ましくは270〜280℃である。285℃を超える場合は、急速に分解が進み、重縮合時間で分解物量の調整を安定して行うことが困難となる。250℃未満の場合は重縮合時間が長くなりすぎ、経済的な生産が困難となる。
重縮合時間は、50〜350分が好ましく、より好ましくは90〜310分であり、更に好ましくは120〜280分であり、特に好ましくは140〜260分であり、最も好ましくは150〜250分である。50分未満にするには、温度を高くする必要があり、また、わずかの時間変動が分解物量に影響を与え、安定したTc1のポリエステル樹脂の生産が困難となる。350分以上では経済的な生産が困難となる。
また、リン化合物の分解は、リン化合物の溶液の熱処理および保管時でも進行していく。熱処理で前述の温度、時間以上の履歴を受けたもの、保管で比較的高温・長期間の熱履歴を受けたものは、リン化合物の分解物量が多くなっており、重縮合条件での温度時間積をより小さくすることが好ましい。
さらに、当然ながら分解物量は、触媒として用いたリン化合物の量の影響を受ける。リン化合物を多く用いた場合は、より温度時間積を少なくすることが好ましい。
連続重縮合の場合、温度は反応缶の設定で行うことが出来、時間は原料投入量で調整することが出来る。さらに、反応缶内の減圧度、攪拌を調整することにより重縮合の速度を調整して、狙いの温度時間積で重縮合を行うことが出来る。
また、IVの高い溶融重合樹脂とするためには、一般的には温度時間積を大きくする必要があり、上記好ましい範囲にしにくい場合がある。このような場合は、反応缶内の減圧度を高める、攪拌を上げることにより重縮合の速度を早めて、狙いの温度時間積で重縮合を行うことが出来る。
7.その他
本発明のポリエステル樹脂は、一般的に用いられる溶融成形法を用いて、中空成形体、フィルム、シート状物、繊維、その他の成形体等を成形し、また溶融押出法によって別の基材上にコートした被覆物を形成することができる。
本発明のポリエステル樹脂からなるシート状物を、少なくとも一軸方向に延伸することにより、機械的強度を改善することが可能である。
本発明のポリエステル樹脂からなる延伸フィルムは、射出成形もしくは押出成形して得られたシート状物を、通常PETの延伸に用いられる一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のうちの任意の延伸方法を用いて成形される。また、圧空成形、真空成形により、カップ状やトレイ状に成形することもできる。
中でも、中空成形体に好適に用いられる。中でも、口栓部を結晶化させて耐熱性を高めた飲料用ボトルとして好適に用いられる。この際には、ポリエステルには、結晶化特性を改良するためにポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタ−ル樹脂、ポリブチレンテレフタレ−ト樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂0.1ppb〜1000ppm、好ましくは0.3ppb〜100ppm、より好ましくは0.5ppb〜1ppm、さらに好ましくは0.5ppb〜45pbbを配合することも好ましい。
ポリエステル樹脂に上記の樹脂を配合する方法は、ポリエステル製造工程中での添加、製造後のポリエステルとのドライブレンド等、均一に混合し得る方法が好ましく、ポリエステル製造工程中、具体的には、原料スラリー調製時、エステル化反応またはエステル交換反応の任意の段階および重縮合反応工程の初期の何れかの時点で添加することが好ましい。また、結晶性樹脂部材にPETチップを接触させる方法も好ましい形態である。
本発明のポリエステル樹脂にこのような結晶性樹脂を添加する場合、安定したTc1の樹脂を得ることができる。特に製造後のポリエステルに配合する際にはその効果が顕著である。これは、元のポリエステル樹脂のTc1が170℃以下の場合、口栓部結晶化のために最も好ましいTc1である160〜165℃にしようとした際には、添加する結晶性樹脂が非常に微量すぎ、添加量のバラツキが出やすいためと考えられる。
本発明のポリエステル樹脂は、例えば、溶融重縮合終了後にダイス細孔より溶融ポリエステルを水中に押出して水中でカットする方式、あるいは溶融重縮合終了後にダイス細孔より空気中にストランド状に押出した後、冷却水で冷却しながらチップ化する方式によってチップ化される。チップの形状は、シリンダー型、角型、球状または扁平な板状等の何れでもよいが、特に扁平な形状が好ましい。例えば、シリンダー型の場合は、長さは1.0〜4mm、断面の長径、短径は1.0〜4mm程度であるのが実用的である。球状粒子の場合は、直径が1〜4mmであるのが実用的である。
チップ1個当たりの重量としては10〜50mgが好ましく、さらには20〜45mgが好ましく、特には25〜40mgが好ましい。
このようなチップは、10kg以上の単位で容器に入れられて供給される。容器としては、紙袋、金属やペーパードラム缶、フレキシブルコンテナー(フレコン)バッグ、専用タンクなどが挙げられる。紙袋の場合は、15−35kg入り、ドラム缶の場合は小型ドラムでは30−100kg入り、大型ドラムでは150−300kg入り、フレコンバッグでは0.5〜2トン入り、専用タンクの場合は、2〜30トンのタンクローリーが用いられることが一般的である。これらの中でもフレコンバッグ、専用タンクの形態が好ましい。
さらに、チップは乾燥状態で供給されることが好ましい。チップの水分率としては3000ppm以下が好ましく、さらには1000ppm以下、特には100ppm以下が好ましい。
連続的に乾燥する方法としては、上部よりポリエステルのチップを供給し、下部より乾燥ガスを通気するホッパー型の通気乾燥機が通常使用される。バッチ方式で乾燥する乾燥機としては大気圧下で乾燥ガスを通気しながら乾燥してもよい。この場合、ホッパー形状の乾燥機で静置しながら行っても良いし、回転式のブレンダーで行っても良い。
乾燥ガスとしては大気空気でも差し支えないが、ポリエステルの加水分解や熱酸化分解による分子量低下を防止する点からは乾燥窒素、除湿空気が好ましい。乾燥温度は約50℃〜約150℃、好ましくは約60℃〜約140℃であり、乾燥時間は3時間〜15時間、好ましくは4時間〜10時間である。乾燥後、一旦ホッパーに貯蔵され、その後容器に入れられて製品となる。なお、固相重合後のチップは乾燥状態であるため、さらに乾燥は必要としない。そのまま乾燥状態でホッパーに貯蔵される。
本発明のポリエステル樹脂は、飲料用の中空成形体として好適に用いられる。特に、口栓部を加熱して結晶化させた耐熱性のボトルに好適に用いられる。
また、成形用シートも好ましい用途の一つである。このシートは圧空成形、真空成形によりリカップ状やトレイ状に成形するが、成形時に高い温度での加熱か可能で、容易に複雑な構造の成形物とすることが出来る。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、主な特性値の測定法を、以下に説明する。
(1)ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)
1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(2/3重量比)混合溶媒中の30℃での溶液粘度から算出した。
(2)ポリエステル樹脂の結晶化温度(Tc1/Tc2)
ティー・エイ・インスツルメント社製の示差熱分析計(DSC)TAS100型熱分析システムを用いて測定した。ポリエステル樹脂7.5±0.3mgをアルミ製のパンに入れ、融点測定器を用いて280℃まで加熱し、1分間保持した後、液体窒素にて急冷した。上記サンプルを、室温から20℃/分の昇温速度で300℃まで加熱し、昇温結晶化温度(Tc1)並びに融点(Tm)を測定した。更に、300℃に到達してから2分間保持した後、10℃/分の降温速度で冷却し、降温時結晶化温度(Tc2)を測定した。Tc1、Tc2、Tmは、それぞれのピークの極大部分の温度とした。
なお、サンプルは約30−40mgのポリエステルチップ5個をニッパーにて細かく刻み、これら破片のなかから、単独もしくは組み合わせて規定の重量になるよう選び出して測定した。さらに同じ5個のチップから得られた破片の中から、別サンプルを選び出して測定する作業を行い、合計5回測定を行った。5回の測定で得られた値の平均値をTc1、Tc2、Tmの値とした。
(3)アルミニウムの定量方法(乾式分解法)
白金製るつぼにポリエステル樹脂を秤量し、電気コンロでの炭化の後、マッフル炉で550℃/8時間の条件で灰化した。灰化後のサンプルを、6M塩酸で酸処理の後、1.2M塩酸により20mlに定容した。
ICP発光測定により金属濃度を求めた。
装置:SPECTRO社製 CIROS−120
プラズマ出力:1400W
プラズマガス:13.0L/min
補助ガス:2.0L/min
ネブライザー:クロスフローネブライザー
チャンバー:サイクロンチャンバー
測定波長:167.078nm
(4)リンの定量方法(モリブデンブルー比色法)
1.硫酸、硝酸、過塩素酸による湿式分解を行った。
2.1の操作後、アンモニア水で中和した。
3.2で調整した溶液にモリブデン酸アンモニウム及び硫酸ヒドラジンを加えた。
4.島津製作所製紫外−可視吸光光度計UV−1700を用いて、波長830nmでの吸光度を測定した。
(5)中空容器連続成形評価法
試料ポリエステルを真空乾燥機にて乾燥して、水分率を100ppm以下とし、名機製作所製150C−DM型射出成形機、及びプリフォーム用金型(金型温度5℃)を用いて有底プリフォーム(PF)を成形した。M−150C−DM射出成形機による可塑化条件としては、フィードスクリュー回転数=70%、スクリュー回転数=120rpm、背圧0.5MPa、シリンダー温度はホッパー直下から順に45℃、250℃及びノズルを含めた以降のシリンダー温度(以下、Sxとする)を290℃に設定した。また成形品重量が28.4±0.2gになるように射出圧力及び保圧を調整した。
次いで、プリフォームの口栓部を、フロンティア(株)製NC−01口栓部結晶化装置を用いて加熱結晶化させた。更に、シデル社製のSBO LabN゜1045タイプ1Labブロー成形機を用いて、160℃に設定した金型内で圧力36barの空気を吹込みながら、30秒の成形サイクルにて、750bphで、縦方法に2.5倍、周方向に3.8倍の倍率で、前記プリフォームを二軸延伸ブローした。
(6)ヘイズ(霞度:%)
ヤマト科学社製真空乾燥器DP61型を用いて140℃で16時間程度真空乾燥したポリエステルを名機製作所社製射出成形機M−150C−DM型射出成形機により図1、図2に示すようにゲート部(G)を有する、2mm〜11mm(A部の厚み=2mm、B部の厚み=3mm、C部の厚み=4mm、D部の厚み=5mm、E部の厚み=10mm、F部の厚み=11mm)の厚さの段付成形板を射出成形した。
成形中に吸湿を防止するために、成形材料ホッパー内は乾燥不活性ガス(窒素ガス)パージを行った。M−150C−DM射出成形機による可塑化条件としては、フィードスクリュー回転数=70%、スクリュー回転数=120rpm、背圧0.5MPa、シリンダー温度はホッパー直下から順に45℃、250℃、以降ノズルを含め290℃に設定した。射出条件は射出速度及び保圧速度は20%、また、成形品重量が146±0.2gになるように射出圧力及び保圧を調整し、その際保圧は射出圧力に対して0.5MPa低く調整した。
射出時間、保圧時間はそれぞれ上限を10秒、7秒、冷却時間は50秒に設定し、成形品取出時間も含めた全体のサイクルタイムは概ね75秒程度とした。
金型には常時、水温10℃の冷却水を導入して温調するが、成形安定時の金型表面温度は22℃前後であった。
成形品特性評価用のテストプレートは、成形材料導入し樹脂置換を行った後、成形開始から11〜18ショット目の安定した成形品の中から任意に選ぶものとした。
5mm厚みのプレート(図1のD部)をヘイズ測定に使用した。
日本電色(株)製ヘイズメーター model NDH2000を用いて、試料のヘイズを測定した。
(7)熱分解物量((B)構造のリン化合物)の定量方法
試料ポリエステル420mgを、HFIP+C(1+1)混合溶媒2.7mlに溶解し、リン酸25%重アセトン溶液を10μl添加して、遠心分離を行った。上澄み液に、トリフロロ酢酸105〜125mgを添加し、すぐにP−NMR測定を行った。得られたスペクトル中で、該当するリン化合物の熱分解物に相当するケミカルシフト値である32.3での積分値の、他のリン化合物に相当する積分値を合わせた合計に対する比率を求め、該当する熱分解物の全リン化合物に対するモル比とした。この値と、(4)のリン化合物量の値より、ポリエステル中の該当するリン化合物の熱分解物量を算出した。
(8)アルミニウム系異物量
ポリエステルペレット30gおよびパラクロロフェノール/テトラクロロエタン(3/1:重量比)混合溶液300mlを攪拌機付き丸底フラスコに投入し、該ペレットを混合溶液に100〜105℃、2時間で攪拌・溶解した。該溶液を室温になるまで放冷し、直径47mm/孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルター(Advantec社製PTFEメンブレンフィルター、品名:T100A047A)を用い、全量を0.15MPaの加圧下で異物を濾別した。有効濾過直径は37.5mmとした。濾過終了後、引き続き300mlのクロロホルムを用い洗浄し、次いで、30℃で一昼夜減圧乾燥した。該メンブレンフィルターの濾過面を走査型蛍光X線分析装置(RIGAKU社製、ZSX100e、Rhライン球4.0kW)でアルミニウム元素量を定量した。定量はメンブレンフィルターの中心部直径30mmの部分について行った。なお、該蛍光X線分析法の検量線はアルミニウム元素含有量が既知のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて求め、見掛けのアルミニウム元素量をppmで表示した。測定はX線出力50kV−70mAで分光結晶としてペンタエリスリトール、検出器としてPC(プロポーショナルカウンター)を用い、PHA(波高分析器)100−300の条件でAl−Kα線強度を測定することにより実施した。検量線用PET樹脂中のアルミニウム元素量は、高周波誘導結合プラズマ発光分析法で定量した。
上記見掛けのアルミニウム元素量(ppm)は、有効濾過直径に対応する面積のメンブレンフィルター(質量M:0.0392g)中の含有量(捕集量)であるので、得られた見掛けのアルミニウム元素量(ppm)にMを乗じて、ポリエステルペレット質量(30g)で除した値をアルミニウム系異物量(単位:ppb)とした。
(9)ポリエステルチップの水分率
三菱化学製のカールフィッシャー微量水分測定装置CA−100型と水分気化装置VA−100を使用した。三菱化学製の水分気化装置VA−100を、予め乾燥筒2本(シリカゲルと五酸化リンを充填)に乾燥した、窒素ガスを流速250ml/分で流しながら、加熱炉を230℃に加熱して、試料ボードを加熱炉に入れ、加熱炉と試料ボードから得られた乾燥窒素が無水になっていることを、微量水分測定装置CA−100で確認した後、試料3gを乾燥しておいた専用サンプル容器に精秤し、速やかに、サンプルを試料ボードに入れた。サンプルから気化した水分は、乾燥窒素によって、微量水分測定装置CA−100型に運ばれカールフィッシャー滴定され、水分率が求められた。
(10)ポリエステルチップの平均重量
無作為にチップ100粒を取り(但し、2つ以上が融着したものは除く)その重量を測定し、1粒あたりの重量を求めた。
(実施例1)
(1)アルミニウム化合物の調製
塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート)の20g/l水溶液に対して、等量(容量比)のエチレングリコールをともに調合タンクに仕込み、室温で数時間攪拌した後、減圧(3kPa)下、50〜90℃で数時間攪拌しながら系から水を留去し、20g/lのアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
(2)リン化合物の調製例
リン化合物として、上記(化1)で表されるIrgamod295(ビーエーエスエフ社製)を、エチレングリコールとともに調合タンクに仕込み、窒素置換下攪拌しながら液温175℃で2時間半加熱し、50g/lのリン化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
(3)エステル化反応及び重縮合
3基の連続エステル化反応器及び3基の重縮合反応器よりなり、かつ第3エステル化反応器から第1重縮合反応器への移送ラインに高速攪拌器を有したインラインミキサーが設置された連続式ポリエステル製造装置に、高純度テレフタル酸1質量部に対してエチレングリコール0.75質量部を混合して調整されたスラリーを連続的に供給し、第1エステル化反応器の反応温度255℃、170kPa、第2エステル化反応器の反応温度261℃、第3エステル化反応器の反応温度266−267℃にて反応させて、低次縮合物を得た。
該低次縮合生成物を、3基の反応器よりなる連続重縮合装置に連続して移送し、初期重合反応器の反応温度268℃、中期重合反応器の反応温度270℃、0.567kPa、後期重合反応器の反応温度274℃、0.168kPaにて重縮合を行い、IVが0.554dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。ポリエステル樹脂は、ストランド状に押し出し、水中で冷却した後カットし、振動型篩い器で水滴を除去した後、連続ホッパー型乾燥機に投入して140℃の乾燥窒素ガスで12時間乾燥させた。連続的に取り出されたチップは一旦ホッパーに貯蔵された後、1000kgのフレコンバッグに入れ、製品形態とした。
なお、製品は前バッチの影響を排除して高品位な製品を確保するため、運転開始後または条件変更後30時間以上経過したものを採取した。
インラインミキサーからは、前記方法にて調整したアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を、重縮合終了後の残留量が、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、アルミニウム原子として15ppmとなるように、リン化合物のエチレングリコール溶液を、重縮合終了後の残留量が、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、リン原子として45ppmとなるように添加した。
チップは切断面が短径2,5mm長径3.0mmの俵型で長さ3.3mm(いずれも10粒をノギスで測った平均値)であり、平均重量36.2mgであった。水分含有量は50ppmであった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(比較例1)
初期重合反応器の反応温度275℃、中期重合反応器の反応温度278℃、1.394kPa、後期重合反応器の反応温度282℃、0.234kPa以外は実施例1と同様に行い、IVが0.544dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は7050℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(比較例2)
初期重合反応器の反応温度276℃、中期重合反応器の反応温度282℃、1.589kPa、後期重合反応器の反応温度284℃、0.3kPa以外は実施例1と同様に行い、IVが0.563dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は7400℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例2)
初期重合反応器の反応温度269℃、中期重合反応器の反応温度272℃、0.450kPa、後期重合反応器の反応温度275℃、0.115kPa以外は実施例1と同様に行い、IVが0.578dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5870℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例3)
インラインミキサーの回転数を、より高く設定した以外は、実施例1と同様に行い、IVが0.578dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例4)
3基の連続エステル化反応器及び2基の重縮合反応器を使用し、初期重合反応器の反応温度270℃、後期重合反応器の反応温度275℃にした以外は、実施例3と同様に行い、IVが0.565dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計130分であり、温度時間積は4100℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例5)
初期重合反応器の反応温度269℃、中期重合反応器の反応温度275℃、0.567kPa、後期重合反応器の反応温度280℃、0.168kPa以外は実施例3と同様に行い、IVが0.558dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は6190℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例6)
リン化合物のエチレングリコール溶液を、重縮合終了後の残留量が、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、リン原子として55ppmとなるように添加した以外は、実施例1と同様に行い、IVが0.563dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例7)
3基の連続エステル化反応器及び2基の重縮合反応器を使用し、初期重合反応器の反応温度270℃、後期重合反応器の反応温度275℃にした以外は、実施例6と同様に行い、IVが0.568dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計130分であり、温度時間積は4100℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例8)
重縮合時の真空度とインラインミキサーの回転数をより高く設定した以外は、実施例3と同様に行い、IVが0.620dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例9)
実施例3にて得られたPETを、常法により固相重縮合し、IVが0.720dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例10)
酸成分を高純度テレフタル酸98.5質量部とイソフタル酸1.5質量部混合する以外は、実施例1と同様に行い、IVが0.556dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(実施例11)
リン化合物のエチレングリコール溶液を、重縮合終了後の残留量が、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、リン原子として30ppmとなるように添加した以外は、実施例1と同様に行い、IVが0.551dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(比較例3)
アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を、第2エステル化反応器に添加する以外は、実施例1と同様に行い、IVが0.552dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(比較例4)
重縮合時間を240分とした以外は、実施例1と同様に行い、IVが0.557dl/gのPETを得た。このときの中期重合反応器の圧力は0.7kPa、後期重合反応器の圧力は0.23kPaで、温度時間積は7120℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
(比較例5)
アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を、重縮合終了後の残留量が、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、アルミニウム原子として10ppmとなるように添加し、リン化合物のエチレングリコール溶液を、重縮合終了後の残留量が、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、リン原子として15ppmとなるように添加した以外は、実施例1と同様に行い、IVが0.553dl/gのPETを得た。このときの重縮合時間は計190分であり、温度時間積は5640℃・分となった。
こうして得られたPETの評価結果を表1に示す。
実施例1〜11で得られたポリエステル樹脂は、(B)構造のリン化合物(熱分解物)が5〜11ppmであるので、Tc1が170℃以上であり、結晶性樹脂を微量配合することにより、市場から要求に応じて、最適なTc1(例えば、160〜165℃)に容易にコントロールが可能である。また、アルミニウム系異物が100ppb以下であるので、得られる成形体の透明性も十分満足できるものである。比較例1、2で得られたポリエステル樹脂は、(B)構造のリン化合物(熱分解物)が11ppm超であり、Tc1が低いため、市場からの要求に応じて、自由にTc1をコントロールができない。比較例4で得られたポリエステル樹脂は、以下の実施例に示すように、最適なTc1(例えば、160〜165℃)にコントロールが困難なものである。比較例3、5で得られたポリエステル樹脂は、アルミニウム系異物が100ppb超であるので、得られる成形体の透明性が満足できるレベルではない。
(実施例12〜22、比較例6、7)
径20cm長さ5mのSUS製配管(配管の下部内面側には低密度ポリエチレン性のシートを特定長さ貼り付けてある)を45度に傾けた中を、実施例1〜11、比較例3、4で得られたポリエステル樹脂チップを落下させ、ポリエステルチップの表面に微量のポリエチレンを付着させる接触処理を行った。なお、ボトルのプリフォームとした場合の目標のTc1を165℃前後とし、この値となるよう、配管内面に貼り付けるポリエチレン性シートの長さを調整し、ポリエチレン付着前のTc1が175℃以上のものはシート長さ1.5mとし、170〜175℃のものはシート長さ1.0mとし、170℃未満のものはシート長さ30cmとした。
接触処理後のポリエステル樹脂を(5)の方法でプリフォームを作成した。プリフォーム10本をランダムに取り出し、口栓部からサンプルを切り出して、Tc1を測定した。なお、1本のプリフォームからは3点サンプルを取ってTc1を測定し、その3点の平均値をそのプリフォームのTc1とした。10本のプリフォームのTc1の平均と最大、最小値を求めた。
また、接触処理後のポリエステル樹脂についても、同様の評価を行った。結果を表2に示す。
実施例12〜22は、目標としたTc1に対してばらつきが少なく、好適なTc1にコントロールができた。(B)構造のリン化合物(熱分解物)は5〜11ppmであり、アルミニウム系異物は100ppbであって、成形体の透明性も満足できるレベルであった。
比較例7は、(B)構造のリン化合物(熱分解物)がやや多かったため、目標としたTc1に対してばらつきが大きく、好適なTc1コントロールが出来なかった。これは配合させるポリエチレンが微量であるため、接触処理でポリエチレンの付着が安定しなかったためと考えられる。比較例6は、透明性が満足できるレベルではなかった。
本発明のポリエステル樹脂は、商業的規模で連続重合生産を行った場合に、成形体の透明性を高く維持した上で、耐熱性のボトルに用いた場合には、口栓部の結晶化コントロールがしやすく、また、成形用シートに用いた場合には、成形での加熱の際に白化しにくいポリエステルを提供することができ、産業界に寄与すること大である。

Claims (3)

  1. アルミニウム化合物とリン化合物を重合触媒として用いて得られ、エチレンテレフタレート構造単位を85モル%以上含有するポリエステル樹脂であって、ポリエステル樹脂質量に対して、アルミニウム系異物の含有量が100ppb以下であり、下記(B)構造で示されるリン化合物の含有量が5〜11ppmであることを特徴とするポリエステル樹脂。
  2. 重合触媒として用いたリン化合物が、下記化学式(式A)で表されるリン化合物であり、ポリエステル樹脂中に含まれる下記化学式(式A)で表されるリン化合物、及びその熱分解物である前記(B)構造で示されるリン化合物を含めた全リン化合物のリン原子の量が、ポリエステル樹脂質量に対して20〜65ppmであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
    ((式A)において、X1、X2は、それぞれ、水素、炭素数1〜4のアルキル基、または1価以上の金属を表す。)
  3. ポリエステル樹脂中に含まれるアルミニウム化合物のアルミニウム原子と、化学式(式A)で表されるリン化合物及びその熱分解物である前記(B)構造で示されるリン化合物を含めた全リン化合物のリン原子の比率P/Al(モル比)が、1.4≦P/Al≦100であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂。
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