ところで、特許文献1に記載の温度制御装置において、加熱盤が如何なる種類の外乱の影響を受けたとしても加熱盤の温度を初期目標温度に好適な制御形態でもって維持するためには、全ての種類の外乱に対応した加熱盤の目標温度変更パターンを取得しておく必要がある。しかしながら、加熱盤に影響を及ぼす外乱の種類は膨大であり、このため、取得しておくべき加熱盤の目標温度変更パターンも膨大となる。このことを考慮すると、全ての種類の外乱に対応した加熱盤の目標温度変更パターンを取得しておくことは実質的に不可能である。それでもなお、全ての種類の外乱に対応した加熱盤の目標温度変更パターンを取得しておこうとすれば、加熱盤の目標温度変更パターンを取得するために膨大な労力が必要になるし、取得した膨大な数の加熱盤の目標温度変更パターンを記憶しておくために大容量のメモリも必要となる。しかしながら、全ての種類の外乱に対応した加熱盤の目標温度変更パターンを取得しておかなければ、取得していない加熱盤の目標温度変更パターンに対応する種類の外乱の影響が加熱盤に及んだとき、加熱盤の温度を初期目標温度に好適な制御形態でもって維持することができないことも確かである。
いずれにせよ、特許文献1に記載の温度制御装置では、加熱盤が外乱の影響を受けたときに加熱盤の温度を初期目標温度に維持しようとしても、加熱盤の温度を初期目標温度に好適な制御形態でもって維持することは困難である。より一般的な表現をすれば、特許文献1に開示されている考え方では、制御対象が外乱の影響を受けたときに制御対象の制御量を初期目標値に維持しようとしても、制御対象の制御量を初期目標値に好適な制御形態でもって維持することは困難であると言える。
また、特許文献1に記載の温度制御装置において、加熱盤の初期目標温度自体が変更された場合、加熱盤の温度が変更後の初期目標温度に好適な制御形態でもって制御されることが好ましい。ここで、加熱盤の初期目標温度自体が変更されたときの加熱盤の温度の制御に特許文献1に開示されている考え方を適用した場合、例えば、変更後の初期目標温度に応じた目標温度変更パターンを予め取得しておき、加熱盤の初期目標温度が変更されたときに変更後の初期目標温度に対応した目標温度変更パターンに従って加熱盤の目標温度を変化させることになる。しかしながら、このことをもって加熱盤の温度を変更後の初期目標温度に好適な制御形態でもって制御することは、上述した理由と同じ理由で困難である。より一般的な表現をすれば、特許文献1に開示されている考え方では、加熱盤の初期目標温度自体が変更されたときに加熱盤の温度を変更後の初期目標温度に制御しようとしても、加熱盤の温度を初期目標温度に好適な制御形態でもって制御することは困難であると言える。
また、特許文献1に記載の温度制御装置において、加熱盤が外乱の影響を受け、この外乱に対応した目標温度変更パターンに従って変化せしめられる目標温度に基づいて加熱盤の温度が制御されたとき、加熱盤を含むシステム(以下このシステムを「加熱システム」という)全体の状態によっては、加熱盤の温度が初期目標温度に好適な制御形態では維持されないことがあるし、このときの加熱盤の温度の制御が加熱システムにとって好適な制御形態であるとは言えないこともある。また、特許文献1に記載の温度制御装置において、加熱盤の初期目標温度自体が変更され、この変更後の初期目標温度に対応した目標温度変更パターンに従って変更せしめられる目標温度に基づいて加熱盤の温度が制御されたときにも、加熱システムの状態によっては、加熱盤の温度が変更後の初期目標温度に好適な制御形態では制御されないこともあるし、このときの加熱盤の温度の制御が加熱システムにとって好適な制御形態であるとは言えないこともある。
このように、特許文献1に記載の温度制御装置では、加熱盤の温度を初期目標値に維持し或いは制御するときに加熱盤を含むシステム全体の状態は考慮されていない。
したがって、より一般的な表現をすれば、特許文献1に開示されている考え方では、制御対象の制御量を初期目標値に維持し或いは制御しようとしても、制御対象を含むシステム全体の状態によっては、制御対象の制御量が初期目標値に好適な制御形態でもって維持されず或いは制御されなかったり、制御対象の制御量の制御が制御対象を含むシステム全体にとって好適な制御形態ではなかったりする。
また、特許文献1に記載の温度制御装置において、加熱盤の他に制御対象がある場合、すなわち、複数の制御対象がある場合に、各制御対象が外乱の影響を受けたときに各制御対象の制御量をそれぞれの初期目標値に好適な制御形態でもって維持し或いは制御しようとしたとき、上述した理由と同様の理由から、各制御対象の制御量がそれぞれの初期目標値に好適な制御形態では維持されず或いは制御されなかったり、各制御対象の制御量の制御がこれら制御対象を含むシステム全体にとって好適な制御形態ではなかったりする。
このように、制御対象の制御量を初期目標値に好適な制御形態でもって維持し或いは制御し、しかも、複数の制御対象の制御量をそれぞれの目標値に好適な制御形態でもって維持し或いは制御するという観点では、特許文献1に開示されている考え方には、解決すべき幾つかの課題がある。そこで、本発明の目的は、複数の制御対象の制御量をそれぞれの初期目標値に維持し或いは制御する場合において、各制御対象の制御量をそれぞれの初期目標値に好適な制御形態でもって維持し或いは制御することにある。
上記目的を達成するための本願の1番目の発明は、内燃機関の第1の制御対象の制御量の目標値を第1の初期目標値として決定すると共に内燃機関の第2の制御対象の制御量の目標値を第2の初期目標値として決定する初期目標値決定手段と、前記第1の制御対象の制御量の制御用の目標値である第1の制御目標値に応じて前記第1の制御対象に入力すべき第1の操作量を決定すると共に前記第2の制御対象の制御量の制御用の目標値である第2の制御目標値に応じて前記第2の制御対象に入力すべき第2の操作量を決定する操作量決定手段と、該操作量決定手段によって決定された第1の操作量に従って前記第1の制御対象の動作を制御する第1の動作制御手段と、前記操作量決定手段によって決定された第2の操作量に従って前記第2の制御対象の動作を制御する第2の動作制御手段と、を具備し、前記各動作制御手段がそれぞれ対応する前記制御対象の動作を制御することによって前記各制御対象の制御量が制御される内燃機関の制御装置であって、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値を予め定められた規則に従って修正して該修正した初期目標値をそれぞれ第1の修正目標値および第2の修正目標値として出力する修正目標値出力手段をさらに具備し、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記操作量決定手段によって決定される第1の操作量および第2の操作量に従って前記第1の制御対象の制御量および前記第2の制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされる場合には前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値がそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記操作量決定手段に入力され、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記操作量決定手段によって決定される第1の操作量および第2の操作量に従って前記第1の制御対象の制御量および前記第2の制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされない場合には前記制約条件が満たされるように前記修正目標値出力手段によって前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値が前記予め定められた規則に従って繰り返し修正されて該修正された初期目標値がそれぞれ第1の修正目標値および第2の修正目標値として出力され、該出力された第1の修正目標値および第2の修正目標値がそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記操作量決定手段に入力される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされるのであれば、初期目標値が制御目標値とされる。一方、初期目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされないのであれば、内燃機関に関する制約条件が満たされるようになるまで初期目標値が予め定められた規則に従って繰り返し修正されて該修正された初期目標値が修正目標値として出力され、この出力された修正目標値が制御目標値とされる。すなわち、本発明は、如何なる状況においても内燃機関に関する制約条件を満たすように(すなわち、各制御対象の制御量の制御を内燃機関の状態にとって好適な制御形態にするように)初期目標値を修正するための修正パターンを状況毎に予め取得しておいて該取得しておいた修正パターンを用いて初期目標値を修正するのではなく、特定の予め定められた規則を繰り返し用いて内燃機関に関する制約条件を満たすように初期目標値を修正する。このように、本発明によれば、初期目標値の修正には、状況毎に予め取得しておいた修正パターンが用いられるのではなく、特定の予め定められた規則が用いられることから、各制御対象の制御量を一定の初期目標値に維持する場合(すなわち、各制御対象の制御量の制御が定常状態にある場合)、各制御対象の制御量が一定の初期目標値に維持される過程において、各制御対象の制御量が好適な制御形態でもって(すなわち、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって)初期目標値に維持されることになるし、初期目標値自体が変更されて該変更後の初期目標値に各制御対象の制御量を制御する場合(すなわち、各制御対象の制御量の制御が過渡状態にある場合)、各制御対象の制御量が変更後の初期目標値に制御される過程において、各制御対象の制御量が好適な制御形態でもって(すなわち、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって)変更後の初期目標値に制御されることになる。
また、この発明によれば、初期目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされるのであれば、初期目標値が制御目標値とされ、初期目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされないのであれば、内燃機関に関する制約条件が満たされるように修正された初期目標値が制御目標値とされる。したがって、両制御対象の制御量の制御に関連して内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量の制御が互いに干渉する場合であっても、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって(すなわち、内燃機関の状態にとって好適な制御形態でもって)各制御対象の制御量が初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の2番目の発明は、1番目の発明において、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記操作量決定手段によって決定される第1の操作量および第2の操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態を予測する予測手段をさらに具備し、該予測手段によって予測される内燃機関の状態に基づいて前記制約条件が満たされるように前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値が前記修正目標値出力手段によって修正される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値が決定された後に各制御対象の制御量の制御が実際に開始される前に、初期目標値を制御目標値として各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態が予測される。そして、この予測された内燃機関の状態に基づいて内燃機関に関する制約条件が満たされるか否かが判断され、制約条件が満たされると判断されたときには初期目標値が制御目標値に設定され、制約条件が満たされないと判断されたときには制約条件が満たされるように初期目標値が修正されて該修正された初期目標値が各制御対象の制御量の制御目標値に設定される。そして、斯くして設定された制御目標値に基づいて各制御対象の制御量の制御が実際に開始される。このため、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとって確実に好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の3番目の発明は、2番目の発明において、前記予測手段が内燃機関に関する状態空間モデルによって前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記操作量決定手段によって決定される第1の操作量および第2の操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態を予測する内燃機関の制御装置である。
この発明において、内燃機関に関する状態空間モデルは、内燃機関の内部状態を変数として有するものである。したがって、本発明によれば、内燃機関の内部状態が正確に反映された形で内燃機関の状態が予測される。このため、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとってより好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の4番目の発明は、1〜3番目の発明のいずれか1つにおいて、前記制約条件が有界閉集合によって表され、前記制約条件に関連する内燃機関の内部状態がベクトルによって表され、該ベクトルが前記有界閉集合に属することをもって前記制約条件が満たされると判断される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、制約条件を表す閉集合と、制約条件に関連する内燃機関の内部状態を表すベクトルとを用いて、制約条件が満たされるか否かが判断される。このため、容易に且つ確実に制約条件が満たされるか否かが判断される。
また、上記目的を達成するための本願の5番目の発明は、1〜4番目の発明のいずれか1つにおいて、前記第1の修正目標値が前記第1の初期目標値に最も近い値になり且つ前記第2の修正目標値が前記第2の初期目標値に最も近い値になるように、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値が前記修正目標値出力手段によって修正される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値が修正目標値出力手段によって修正されたとしても、修正後の初期目標値、すなわち、修正目標値は、それぞれ対応する初期目標値に最も近い値になっている。したがって、各制御対象の制御量は、初期目標値に最も近い値となっている修正目標値に基づいて制御される。このため、各制御対象の制御量を迅速に初期目標値に維持し或いは制御するという観点、および、初期目標値を修正したことに起因する各制御対象の制御量の大幅な変化を抑制するという観点からも、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御されるものと言える。
上記目的を達成するための本願の6番目の発明は、1〜5番目の発明のいずれか1つにおいて、前記制約条件が、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第1の制御対象に関する制約条件、前記第1の制御対象に入力すべき第1の操作量に関する制約条件、および、前記第1の動作制御手段に関する制約条件の少なくとも1つと、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第2の制御対象に関する制約条件、前記第2の制御対象に入力すべき第2の操作量に関する制約条件、および、前記第2の動作制御手段に関する制約条件の少なくとも1つとである内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、第1の制御対象の制御量に関連する制約条件(すなわち、第1の制御対象の制御量に関する制約条件、第1の制御対象に関する制約条件、第1の制御対象に入力すべき第1の操作量に関する制約条件、または、第1の動作制御手段に関する制約条件)と、第2の制御対象の制御量に関連する制約条件(すなわち、第2の制御対象の制御量に関する制約条件、第2の制御対象に関する制約条件、第2の制御対象に入力すべき第2の操作量に関する制約条件、または、第2の動作制御手段に関する制約条件)との両方が満たされた状態でもって、第1の制御対象の制御量に関連する制御(すなわち、第1の制御対象の制御量の制御、第1の制御対象の動作の制御、第1の操作量の決定、または、第1の動作制御手段の動作の制御)と、第2の制御対象の制御量に関連する制御(すなわち、第2の制御対象の制御量の制御、第2の制御対象の動作の制御、第2の操作量の決定、または、第2の動作制御手段の動作の制御)とが行われる。したがって、第1の制御対象の制御量に関連する制御と第2の制御対象の制御量に関連する制御とが互いに干渉する場合であっても、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御にとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の7番目の発明は、6番目の発明において、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件が前記第1の制御対象の制御量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の制御対象に関する制約条件が前記第1の制御対象の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の制御対象に入力すべき第1の操作量に関する制約条件が該第1の操作量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の動作制御手段に関する制約条件が前記第1の動作制御手段の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件が前記第2の制御対象の制御量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の制御対象に関する制約条件が前記第2の制御対象の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の制御対象に入力すべき第2の操作量に関する制約条件が該第2の操作量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の動作制御手段に関する制約条件が前記第2の動作制御手段の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることである内燃機関の制御装置である。
この発明において、制御対象の制御量が許容可能な範囲を越えて大きくなり或いは許容可能な範囲を越えて小さくなることは明らかに好ましくない。また、各制御対象の動作状態が許容可能な範囲を越えてしまうことは、当該制御対象自体にとって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御にとっても好ましくない。また、各制御対象に入力すべき操作量が許容可能な範囲を越えて大きく或いは許容可能な範囲を越えて小さいことは、制御対象にとって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御にとっても好ましくない。さらに、各動作制御手段の動作状態が許容可能な範囲を越えてしまうことは、当該動作制御手段にとって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御および制御対象自体にとっても好ましくない。ここで、本発明によれば、各制御対象の制御量が許容可能な範囲を越えず、或いは、各制御対象の動作状態が許容可能な範囲を越えず、或いは、各制御対象に入力すべき操作量が許容可能な範囲を越えず、或いは、各動作制御手段の動作状態が許容可能な範囲を越えない状態でもって、各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御にとってより好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
上記目的を達成するための本願の8番目の発明は、6または7番目の発明において、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第1の制御対象に関する制約条件、前記第1の制御対象に入力すべき第1の操作量に関する制約条件、前記第1の動作制御手段に関する制約条件、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第2の制御対象に関する制約条件、前記第2の制御対象に入力すべき第2の操作量に関する制約条件、および、前記第2の動作制御手段に関する制約条件の全てが満たされるように、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値が前記修正目標値出力手段によって修正される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、第1の制御対象の制御量に関連する制約条件全てと第2の制御対象の制御量に関連する制約条件全てとが満たされる制御目標値に基づいて、各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御全てにとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の9番目の発明は、1〜8番目の発明のいずれか1つにおいて、前記第1の制御対象が内燃機関の燃焼室に吸入される空気の圧力を高める過給機において前記燃焼室に吸入される空気の圧力を高める度合を制御する圧力制御弁であり、前記第2の制御対象が前記燃焼室から排出される排気ガスを前記燃焼室に吸入させるために前記燃焼室から排出される排気ガスを内燃機関の吸気通路に導入する排気再循環装置において前記吸気通路に導入される排気ガスの量を制御する排気ガス量制御弁であり、前記第1の制御対象の制御量が前記燃焼室に吸入される空気の圧力であり、前記第2の制御対象の制御量が前記吸気通路に導入される排気ガスの量であり、前記第1の動作制御手段が前記圧力制御弁の動作を制御する圧力制御弁アクチュエータであり、前記第2の動作制御手段が前記排気ガス量制御弁の動作を制御する排気ガス量制御弁アクチュエータである内燃機関の制御装置である。
この発明において、燃焼室に吸入される空気の圧力が変化すると、吸気通路に導入される排気ガスの量も変化し、吸気通路に導入される排気ガスの量が変化すると、燃焼室に吸入される空気の量も変化する。すなわち、燃焼室に吸入される空気の圧力と吸気通路に導入される排気ガスの量とは互いに干渉する制御量である。したがって、過給機の圧力制御弁の開度の制御と排気再循環装置の排気ガス量制御弁の開度の制御も互いに干渉する制御であると言えるし、圧力制御弁に入力される操作量と排気ガス量制御弁に入力される操作量も互いに干渉する操作量であると言えるし、圧力制御弁アクチュエータの制御と排気ガス量制御弁アクチュエータの制御も互いに干渉する制御であると言える。ここで、本発明によれば、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって、互いに干渉するこれら燃焼室に吸入される空気の圧力の制御、吸気通路に導入される排気ガスの量の制御、圧力制御弁の動作の制御、排気ガス量制御弁の動作の制御、圧力制御弁に入力される操作量の決定、排気ガス量制御弁に入力される操作量の決定、圧力制御弁アクチュエータの動作の制御、および、排気ガス量制御弁アクチュエータの動作の制御が行われる。このため、燃焼室に吸入される空気の圧力および吸気通路に導入される排気ガスの量が内燃機関の状態にとってより好適な制御形態でもってそれぞれの初期目標値に維持され或いは制御される。
上記目的を達成するための本願の10番目の発明は、内燃機関の制御されるべき第1の制御対象と、該第1の制御対象の動作を制御する第1の動作制御手段と、内燃機関の制御されるべき第2の制御対象と、該第2の制御対象の動作を制御する第2の動作制御手段と、前記第1の動作制御手段に前記第1の制御対象の動作を制御させるための第1の制御信号を生成すると共に前記第2の動作制御手段に前記第2の制御対象の動作を制御させるための第2の制御信号を生成する制御信号生成手段であって前記第1の制御対象の制御量の制御用の目標値が第1の制御目標値として入力されて該入力された第1の制御目標値を予め定められた第1の変換則に従って変換することによって前記第1の制御信号を生成すると共に前記第2の制御対象の制御量の制御用の目標値が第2の制御目標値として入力されて該入力された第2の制御目標値を予め定められた第2の変換則に従って変換することによって前記第2の制御信号を生成する制御信号生成手段と、を具備し、前記各動作制御手段がそれぞれ対応する前記制御対象の動作を制御することによって前記各制御対象の制御量が制御される内燃機関の制御装置であって、前記第1の制御対象の制御量の目標値を予め定められた条件に基づいて第1の初期目標値として決定すると共に前記第2の制御対象の制御量の目標値を予め定められた条件に基づいて第2の初期目標値として決定する初期目標値決定手段と、該初期目標値決定手段によって決定された第1の初期目標値および第2の初期目標値を予め定められた規則に従って修正して該修正した初期目標値をそれぞれ第1の修正目標値および第2の修正目標値として出力する修正目標値出力手段と、を具備し、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御信号生成手段によって生成される第1の制御信号および第2の制御信号に従って前記第1の制御対象の制御量および前記第2の制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされる場合には前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値がそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御信号生成手段に入力され、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御信号生成手段によって生成される第1の制御信号および第2の制御信号に従って前記第1の制御対象の制御量および前記第2の制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされない場合には前記制約条件が満たされるように前記修正目標値出力手段によって前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値が前記予め定められた規則に従って繰り返し修正されて該修正された初期目標値がそれぞれ第1の修正目標値および第2の修正目標値として出力され、該出力された第1の修正目標値および第2の修正目標値がそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御信号生成手段に入力される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値を制御目標値として生成される制御信号に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされるのであれば、初期目標値が制御目標値とされる。一方、初期目標値を制御目標値として生成される制御信号に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされないのであれば、内燃機関に関する制約条件が満たされるようになるまで初期目標値が予め定められた規則に従って繰り返し修正されて該修正された初期目標値が修正目標値として出力され、この出力された修正目標値が制御目標値とされる。すなわち、本発明は、如何なる状況においても内燃機関に関する制約条件を満たすように(すなわち、各制御対象の制御量の制御を内燃機関の状態にとって好適な制御形態にするように)初期目標値を修正するための修正パターンを状況毎に予め取得しておいて該取得しておいた修正パターンを用いて初期目標値を修正するのではなく、特定の予め定められた規則を繰り返し用いて内燃機関に関する制約条件を満たすように初期目標値を修正する。このように、本発明によれば、初期目標値の修正には、状況毎に予め取得しておいた修正パターンが用いられるのではなく、特定の予め定められた規則が用いられることから、各制御対象の制御量を一定の初期目標値に維持する場合(すなわち、各制御対象の制御量の制御が定常状態にある場合)、各制御対象の制御量が一定の初期目標値に維持される過程において、各制御対象の制御量が好適な制御形態でもって(すなわち、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって)初期目標値に維持されることになるし、初期目標値自体が変更された該変更後の初期目標値に各制御対象の制御量を制御する場合(すなわち、各制御対象の制御量の制御が過渡状態にある場合)、各制御対象の制御量が変更後の初期目標値に制御される過程において、各制御対象の制御量が好適な制御形態でもって(すなわち、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって)変更後の初期目標値に制御されることになる。
また、この発明によれば、初期目標値を制御目標値として生成される制御信号に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされるのであれば、初期目標値が制御目標値とされ、初期目標値を制御目標値として生成される制御信号に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされないのであれば、内燃機関に関する制約条件が満たされるように修正された初期目標値が制御目標値とされる。したがって、両制御対象の制御量の制御に関連して内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量の制御が互いに干渉する場合であっても、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって(すなわち、内燃機関の状態にとって好適な制御形態でもって)各制御対象の制御量が初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の11番目の発明は、10番目の発明において、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御信号生成手段によって生成される第1の制御信号および第2の制御信号に従って各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態を予測する予測手段をさらに具備し、該予測手段によって予測される内燃機関の状態に基づいて前記制約条件が満たされるように前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値が前記修正目標値出力手段によって修正される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値が決定された後に各制御対象の制御量の制御が実際に開始される前に、初期目標値を制御目標値として各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態が予測される。そして、この予測された内燃機関の状態に基づいて内燃機関に関する制約条件が満たされるか否かが判断され、制約条件が満たされると判断されたときには初期目標値が各制御対象の制御量の制御目標値に設定され、制約条件が満たされないと判断されたときには制約条件が満たされるように初期目標値が修正されて該修正された初期目標値が各制御対象の制御量の制御目標値に設定される。そして、斯くして設定された制御目標値に基づいて各制御対象の制御量の制御が実際に開始される。このため、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとって確実に好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の12番目の発明は、11番目の発明において、前記予測手段が内燃機関に関する状態空間モデルによって前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御信号生成手段によって生成される第1の制御信号および第2の制御信号に従って各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態を予測する内燃機関の制御装置である。
この発明において、内燃機関に関する状態空間モデルは、内燃機関の内部状態を変数として有するものである。したがって、本発明によれば、内燃機関の内部状態が正確に反映された形で内燃機関の状態が予測される。このため、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとってより好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の13番目の発明は、10〜12番目の発明のいずれか1つにおいて、前記制約条件が有界閉集合によって表され、前記制約条件に関連する内燃機関の内部状態がベクトルによって表され、該ベクトルが前記有界閉集合に属することをもって前記制約条件が満たされると判断される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、制約条件を表す閉集合と、制約条件に関連する内燃機関の内部状態を表すベクトルとを用いて、制約条件が満たされるか否かが判断される。このため、容易に且つ確実に制約条件が満たされるか否かが判断される。
また、上記目的を達成するための本願の14番目の発明は、10〜13番目の発明のいずれか1つにおいて、前記第1の修正目標値が前記第1の初期目標値に最も近い値になり且つ前記第2の修正目標値が前記第2の初期目標値に最も近い値になるように、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値が前記修正目標値出力手段によって修正される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値が修正目標値出力手段によって修正されたとしても、修正後の初期目標値、すなわち、修正目標値は、それぞれ対応する初期目標値に最も近い値になっている。したがって、各制御対象の制御量は、初期目標値に最も近い値となっている修正目標値に基づいて制御される。このため、各制御対象の制御量を迅速に初期目標値に維持し或いは制御するという観点、および、初期目標値を修正したことに起因する各制御対象の制御量の大幅な変化を抑制するという観点からも、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御されるものと言える。
上記目的を達成するための本願の15番目の発明は、10〜14番目の発明のいずれか1つにおいて、前記制約条件が、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第1の制御対象に関する制約条件、前記第1の動作制御手段に関する制約条件、および、前記第1の動作制御手段に与えられる第1の制御信号に関する制約条件の少なくとも1つと、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第2の制御対象に関する制約条件、前記第2の動作制御手段に関する制約条件、および、前記第2の動作制御手段に与えられる第2の制御信号に関する制約条件の少なくとも1つとである内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、第1の制御対象の制御量に関連する制約条件(すなわち、第1の制御対象の制御量に関する制約条件、第1の制御対象に関連する制約条件、第1の動作制御手段に関する制約条件、または、第1の動作制御手段に与えられる第1の制御信号に関する制約条件)と、第2の制御対象の制御量に関連する制約条件(すなわち、第2の制御対象の制御量に関する制約条件、第2の制御対象に関する制約条件、第2の動作制御手段に関する制約条件、または、第2の動作制御手段に与えられる第2の制御信号に関する制約条件)との両方が満たされた状態でもって、第1の制御対象の制御量に関連する制御(すなわち、第1の制御対象の制御量の制御、第1の制御対象の動作の制御、第1の動作制御手段の動作の制御、または、第1の制御信号の生成)と、第2の制御対象の制御量に関連する制御(すなわち、第2の制御対象の制御量の制御、第2の制御対象の動作の制御、第2の動作制御手段の動作の制御、または、第2の制御信号の生成)とが行われる。したがって、第1の制御対象の制御量に関連する制御と第2の制御対象の制御量に関連する制御とが互いに干渉する場合であっても、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御にとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の16番目の発明は、15番目の発明において、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件が前記第1の制御対象の制御量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の制御対象に関する制約条件が前記第1の制御対象の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の動作制御手段に関する制約条件が前記第1の動作制御手段の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の動作制御手段に与えられる第1の制御信号に関する制約条件が該第1の制御信号が予め定められた許容可能な範囲にあることであり、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件が前記第2の制御対象の制御量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の制御対象に関する制約条件が前記第2の制御対象の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の動作制御手段に関する制約条件が前記第2の動作制御手段の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の動作制御手段に与えられる第2の制御信号に関する制約条件が該第2の制御信号が予め定められた許容可能な範囲にあることである内燃機関の制御装置である。
この発明において、制御対象の制御量が許容可能な範囲を越えて大きくなり或いは許容可能な範囲を越えて小さくなることは明らかに好ましくない。また、各制御対象の動作状態が許容可能な範囲を越えてしまうことは、当該制御対象自体にとって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御にとっても好ましくない。また、各動作制御手段の動作状態が許容可能な範囲を越えてしまうことは、当該動作制御手段にとって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御および制御対象自体にとっても好ましくない。さらに、各動作制御手段に与えられる制御信号が許容可能な範囲を越えてしまうことは、当該動作制御手段によって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御および制御対象自体にとっても好ましくない。ここで、本発明によれば、各制御対象の制御量が許容可能な範囲を越えず、或いは、各制御対象の動作状態が許容可能な範囲を越えず、或いは、各動作制御手段の動作状態が許容可能な範囲を越えず、或いは、各動作制御手段に与えられる制御信号が許容可能な範囲を越えない状態でもって、各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御にとってより好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
上記目的を達成するための本願の17番目の発明は、15または16番目の発明において、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第1の制御対象に関する制約条件、前記第1の動作制御手段に関する制約条件、前記第1の動作制御手段に与えられる前記第1の制御信号に関する制約条件、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第2の制御対象に関する制約条件、前記第2の動作制御手段に関する制約条件、および、前記第2の動作制御手段に与えられる前記第2の制御信号に関する制約条件の全てが満たされるように、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値が前記修正目標値出力手段によって修正される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、第1の制御対象の制御量に関連する制約条件全てと第2の制御対象の制御量に関連する制約条件全てとが満たされる制御目標値に基づいて、各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御全てにとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の18番目の発明は、10〜17番目の発明のいずれか1つにおいて、前記第1の制御対象が内燃機関の燃焼室に吸入される空気の圧力を高める過給機において前記燃焼室に吸入される空気の圧力を高める度合を制御する圧力制御弁であり、前記第2の制御対象が前記燃焼室から排出される排気ガスを前記燃焼室に吸入させるために前記燃焼室から排出される排気ガスを内燃機関の吸気通路に導入する排気再循環装置において前記吸気通路に導入される排気ガスの量を制御する排気ガス量制御弁であり、前記第1の制御対象の制御量が前記燃焼室に吸入される空気の圧力であり、前記第2の制御対象の制御量が前記吸気通路に導入される排気ガスの量であり、前記第1の動作制御手段が前記圧力制御弁の動作を制御する圧力制御弁アクチュエータであり、前記第2の動作制御手段が前記排気ガス量制御弁の動作を制御する排気ガス量制御弁アクチュエータである内燃機関の制御装置である。
この発明において、燃焼室に吸入される空気の圧力が変化すると、吸気通路に導入される排気ガスの量も変化し、吸気通路に導入される排気ガスの量が変化すると、燃焼室に吸入される空気の量も変化する。すなわち、燃焼室に吸入される空気の圧力と吸気通路に導入される排気ガスの量とは互いに干渉する制御量である。したがって、過給機の圧力制御弁の開度の制御と排気再循環装置の排気ガス量制御弁の開度の制御も互いに干渉する制御であると言えるし、圧力制御弁アクチュエータの制御と排気ガス量制御弁アクチュエータの制御も互いに干渉する制御であると言えるし、圧力制御弁アクチュエータに与えられる制御信号と排気ガス量制御弁アクチュエータに与えられる制御信号も互いに干渉する制御信号であると言える。ここで、本発明によれば、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって、互いに干渉するこれら燃焼室に吸入される空気の圧力の制御、吸気通路に導入される排気ガスの量の制御、圧力制御弁の動作の制御、排気ガス量制御弁の動作の制御、圧力制御弁アクチュエータの動作の制御、排気ガス量制御弁アクチュエータの動作の制御、圧力制御弁アクチュエータに与えられる制御信号の生成、および、排気ガス量制御弁アクチュエータに与えられる制御信号の生成が行われる。このため、燃焼室に吸入される空気の圧力および吸気通路に導入される排気ガスの量が内燃機関の状態にとってより好適な制御形態でもってそれぞれの初期目標値に維持され或いは制御される。
上記目的を達成するための本願の19番目の発明は、内燃機関の第1の制御対象の制御量の制御用の目標値が第1の制御目標値として入力されて該入力された前記第1の制御目標値に応じて前記第1の制御対象に入力すべき第1の操作量を決定すると共に内燃機関の第2の制御対象の制御量の制御用の目標値が第2の制御目標値として入力されて該入力された前記第2の制御目標値に応じて前記第2の制御対象に入力すべき第2の操作量を決定する制御プロセスを実行する制御プロセス実行手段を具備し、該制御プロセス実行手段によって決定された第1の操作量に従って前記第1の制御対象の動作が制御されることによって前記第1の制御対象の制御量が制御されると共に前記制御プロセス実行手段によって決定された第2の操作量に従って前記第2の制御対象の動作が制御されることによって前記第2の制御対象の制御量が制御される内燃機関の制御装置であって、前記第1の制御対象の制御量の目標値を初期目標値として決定すると共に前記第2の制御対象の制御量の目標値を初期目標値として決定する初期目標値決定手段と、該初期目標値決定手段によって決定された前記第1の初期目標値を前記第1の制御目標値として前記制御プロセス実行手段によって決定される第1の操作量が前記第1の制御対象に入力されると共に前記初期目標値決定手段によって決定された前記第2の初期目標値を前記第2の制御目標値として前記制御プロセス実行手段によって決定される第2の操作量が前記第2の制御対象に入力されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされるか否かを判断する第1の判断手段と、該第1の判断手段によって前記制約条件が満たされると判断されたときに前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値を前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御プロセス実行手段に入力する初期目標値入力手段と、前記第1の判断手段によって前記制約条件が満たされないと判断されたときに前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値を予め定められた規則に従って修正して該修正された初期目標値をそれぞれ第1の修正目標値および第2の修正目標値として出力する修正目標値出力手段と、該修正目標値出力手段から出力された前記第1の修正目標値を前記第1の制御目標値として前記制御プロセス実行手段によって決定される第1の操作量が前記第1の制御対象に入力されると共に前記第2の修正目標値を前記第2の制御目標値として前記制御プロセス実行手段によって決定される第2の操作量が前記第2の制御対象に入力されたときに前記制約条件が満たされるか否かを判断する第2の判断手段と、該第2の判断手段によって前記制約条件が満たされると判断されたときに前記第1の修正目標値および前記第2の修正目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御プロセス実行手段に入力する修正目標値入力手段と、を具備し、前記第2の判断手段によって前記制約条件が満たされないと判断されたときには前記第1の修正目標値および前記第2の修正目標値が前記修正目標値出力手段によって前記予め定められた規則に従ってさらに修正されて該さらに修正された修正目標値が新たな第1の修正目標値および第2の修正目標値として出力され、該出力された前記新たな第1の修正目標値を前記第1の制御目標値として前記制御プロセス実行手段によって決定される第1の操作量が前記第1の制御対象に入力されると共に前記出力された前記新たな第2の修正目標値を前記第2の制御目標値として前記制御プロセス実行修正によって決定される第2の操作量が前記第2の制御対象に入力されたときに前記制約条件が満たされるか否かが前記第2の判断手段によって判断され、該第2の判断手段によって前記制約条件が満たされると判断されるまで前記修正目標値出力手段による前記第1の修正目標値および前記第2の修正目標値の修正と該修正された第1の修正目標値および第2の修正目標値の出力とが繰り返し行われる内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされるのであれば、初期目標値が制御目標値とされる。一方、初期目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされないのであれば、初期目標値が予め定められた規則に従って修正されて修正目標値として出力され、この出力された修正目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされるのであれば、この修正目標値が制御目標値とされる。一方、修正目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされないのであれば、内燃機関に関する制約条件が満たされるようになるまで、修正目標値が予め定められた規則に従って繰り返し修正されて新たな修正目標値として出力され、内燃機関に関する制約条件が満たされたときの修正目標値が制御目標値とされる。すなわち、本発明は、如何なる状況においても内燃機関に関する制約条件を満たすように(すなわち、各制御対象の制御量の制御を内燃機関の状態にとって好適な制御形態にするように)初期目標値を修正するための修正パターンを状況毎に予め取得しておいて該取得しておいた修正パターンを用いて初期目標値を修正するのではなく、特定の予め定められた規則を繰り返し用いて内燃機関に関する制約条件を満たすように初期目標値または修正目標値を修正する。このように、本発明によれば、初期目標値または修正目標値の修正には、状況毎に予め取得しておいた修正パターンが用いられるのではなく、特定の予め定められた規則が用いられることから、各制御対象の制御量を一定の初期目標値に維持する場合(すなわち、各制御対象の制御量の制御が定常状態にある場合)、各制御対象の制御量が一定の初期目標値に維持される過程において、各制御対象の制御量が好適な制御形態でもって(すなわち、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって)初期目標値に維持されることになるし、初期目標値自体が変更されて該変更後の初期目標値に各制御対象の制御量を制御する場合(すなわち、各制御対象の制御量の制御が過渡状態にある場合)、各制御対象の制御量が変更後の初期目標値に制御される過程において、各制御対象の制御量が好適な制御形態でもって(すなわち、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって)変更後の初期目標値に制御されることになる。
また、この発明によれば、初期目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされるのであれば、初期目標値が制御目標値とされ、初期目標値を制御目標値として決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときに内燃機関に関する制約条件が満たされないのであれば、内燃機関に関する制約条件が満たされるように修正された初期目標値が制御目標値とされる。したがって、両制御対象の制御量の制御に関連して内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量の制御が互いに干渉する場合であっても、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって(すなわち、内燃機関の状態にとって好適な制御形態でもって)各制御対象の制御量が初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の20番目の発明は、19番目の発明において、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値または前記第1の修正目標値および前記第2の修正目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御プロセス実行手段によって決定される操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態を予測する予測手段をさらに具備し、該予測手段によって予測される内燃機関の状態に基づいて前記第1の判断手段または前記第2の判断手段によって前記制約条件が満たされるか否かが判断される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値が決定された後または修正目標値が出力された後に各制御対象の制御量の制御が実際に開始される前に、初期目標値または修正目標値を制御目標値として各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態が予測される。そして、この予測された内燃機関の状態に基づいて内燃機関に関する制約条件が満たされるか否か判断され、制約条件が満たされると判断されたときの初期目標値または修正目標値が制御目標値に設定される。そして、斯くして設定された制御目標値に基づいて各制御対象の制御量の制御が実際に開始される。このため、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとって確実に好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の21番目の発明は、20番目の発明において、前記予測手段が内燃機関に関する状態空間モデルによって前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値または前記第1の修正目標値および前記第2の修正目標値をそれぞれ前記第1の制御目標値および前記第2の制御目標値として前記制御プロセス実行手段によって決定される第1の操作量および第2の操作量に従って各制御対象の制御量が制御されたときの内燃機関の状態を予測する内燃機関の制御装置である。
この発明において、内燃機関に関する状態空間モデルは、内燃機関の内部状態を変数として有するものである。したがって、本発明によれば、内燃機関の内部状態が正確に反映された形で内燃機関の状態が予測される。このため、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとってより好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の22番目の発明は、19〜21番目の発明のいずれか1つにおいて、前記制約条件が有界閉集合によって表され、前記制約条件に関連する内燃機関の内部状態がベクトルによって表され、該ベクトルが前記有界閉集合に属することをもって前記制約条件が満たされると判断される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、制約条件を表す閉集合と、制約条件に関連する内燃機関の内部状態を表すベクトルとを用いて、制約条件が満たされるか否かが判断される。このため、容易に且つ確実に制約条件が満たされるか否かが判断される。
また、上記目的を達成するための本願の23番目の発明は、19〜22番目の発明のいずれか1つにおいて、前記第1の修正目標値が前記第1の初期目標値に最も近い値になり且つ前記第2の修正目標値が前記第2の初期目標値に最も近い値になるように、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値または前記第1の修正目標値および前記第2の修正目標値が前記修正目標値出力手段によって修正される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、初期目標値または修正目標値が修正目標値出力手段によって修正されたとしても、修正後の初期目標値、または、修正後の修正目標値は、それぞれ対応する初期目標値に最も近い値になっている。したがって、各制御対象の制御量は、初期目標値に最も近い値となっている修正目標値に基づいて制御される。このため、各制御対象の制御量を迅速に初期目標値に維持し或いは制御するという観点、および、初期目標値または修正目標値を修正したことに起因する各制御対象の制御量の大幅な変化を抑制するという観点からも、各制御対象の制御量が内燃機関の状態にとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御されるものと言える。
上記目的を達成するための本願の24番目の発明は、19〜23番目の発明のいずれか1つにおいて、前記第1の制御対象の動作を制御する第1の動作制御手段と、前記第2の制御対象の動作を制御する第2の動作制御手段と、前記第1の動作制御手段に前記第1の制御対象の動作を制御させるための第1の制御信号を生成すると共に前記第2の動作制御手段に前記第2の制御対象の動作を制御させるための第2の制御信号を生成する制御信号生成手段であって前記第1の制御目標値が入力されて該入力された第1の制御目標値を予め定められた第1の変換則に従って変換することによって前記第1の制御信号を生成すると共に前記第2の制御目標値が入力されて該入力された第2の制御目標値を予め定められた第2の変換則に従って変換することによって前記第2の制御信号を生成する制御信号生成手段と、をさらに具備し、前記第1の動作制御手段が前記制御信号生成手段によって生成された第1の制御信号に従って前制御プロセス実行手段によって決定された第1の操作量を前記第1の制御対象に入力することによって前記第1の制御対象の動作を制御し、前記第2の動作制御手段が前記制御信号生成手段によって生成された第2の制御信号に従って前記制御プロセス実行手段によって決定された第2の操作量を前記第2の制御対象に入力することによって前記第2の制御対象の動作を制御し、前記制約条件が、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第1の制御対象に関する制約条件、前記第1の制御対象に入力すべき第1の操作量に関する制約条件、前記第1の動作制御手段に関する制約条件、および、前記第1の動作制御手段に与えられる第1の制御信号に関する制約条件の少なくとも1つと、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第2の制御対象に関する制約条件、前記第2の制御対象に入力すべき第2の操作量に関する制約条件、前記第2の動作制御手段に関する制約条件、および、前記第2の動作制御手段に与えられる第2の制御信号に関する制約条件の少なくとも1つとである内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、第1の制御対象の制御量に関連する制約条件(すなわち、第1の制御対象の制御量に関する制約条件、第1の制御対象に関する制約条件、第1の制御対象に入力すべき第1の操作量に関する制約条件、第1の動作制御手段に関する制約条件、または、第1の動作制御手段に与えられる第1の制御信号に関する制約条件)と、第2の制御対象の制御量に関連する制約条件(すなわち、第2の制御対象の制御量に関する制約条件、第2の制御対象に関する制約条件、第2の制御対象に入力すべき第2の操作量に関する制約条件、第2の動作制御手段に関する制約条件、または、第2の動作制御手段に与えられる第2の制御信号に関する制約条件)との両方が満たされた状態でもって、第1の制御対象の制御量に関連する制御(すなわち、第1の制御対象の制御量の制御、第1の制御対象の動作の制御、第1の操作量の決定、第1の動作制御手段の動作の制御、または、第1の制御信号の生成)と、第2の制御対象の制御量に関連する制御(すなわち、第2の制御対象の制御量の制御、第2の制御対象の動作の制御、第2の操作量の決定、第2の動作制御手段の動作の制御、または、第2の制御信号の生成)とが行われる。したがって、第1の制御対象の制御量に関連する制御と第2の制御対象の制御量に関連する制御とが互いに干渉する場合であっても、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御にとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の25番目の発明は、24番目の発明において、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件が前記第1の制御対象の制御量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の制御対象に関する制約条件が前記第1の制御対象の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の制御対象に入力すべき第1の操作量に関する制約条件が該第1の操作量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の動作制御手段に関する制約条件が前記第1の動作制御手段の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第1の動作制御手段に与えられる第1の制御信号に関する制約条件が該第1の制御信号が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件が前記第2の制御対象の制御量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の制御対象に関する制約条件が前記第2の制御対象の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の制御対象に入力すべき第2の操作量に関する制約条件が該第2の操作量が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の動作制御手段に関する制約条件が前記第2の動作制御手段の動作状態が予め定められた許容範囲内にあることであり、前記第2の動作制御手段に与えられる第2の制御信号に関する制約条件が該第2の制御信号が予め定められた許容範囲内にあることである内燃機関の制御装置である。
この発明において、制御対象の制御量が許容可能な範囲を越えて大きくなり或いは許容可能な範囲を越えて小さくなることは明らかに好ましくない。また、各制御対象の動作状態が許容可能な範囲を越えてしまうことは、当該制御対象自体にとって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御にとっても好ましくない。また、各制御対象に入力すべき操作量が許容可能な範囲を越えて大きく或いは許容可能な範囲を越えて小さいことは、制御対象にとって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御にとっても好ましくない。また、各動作制御手段の動作状態が許容可能な範囲を越えてしまうことは、当該動作制御手段にとって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御および制御対象自体にとっても好ましくない。さらに、各動作制御手段に与えられる制御信号が許容可能な範囲を越えてしまうことは、当該動作制御手段によって好ましくないだけでなく、制御対象の制御量の制御にとって好ましくない。ここで、本発明によれば、各制御対象の制御量が許容可能な範囲を越えず、或いは、各制御対象の動作状態が許容可能な範囲を越えず、或いは、各制御対象に入力すべき操作量が許容可能な範囲を越えず、或いは、各動作制御手段の動作状態が許容可能な範囲を越えず、或いは、各動作制御手段に与えられる制御信号が許容可能な範囲を越えない状態でもって、各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御にとってより好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
上記目的を達成するための本願の26番目の発明は、24または25番目の発明において、前記第1の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第1の制御対象に関する制約条件、前記第1の制御対象に入力すべき第1の操作量に関する制約条件、前記第1の動作制御手段に関する制約条件、前記第1の制御対象に与えられる第1の制御信号に関する制約条件、前記第2の制御対象の制御量に関する制約条件、前記第2の制御対象に関する制約条件、前記第2の制御対象に入力すべき第2の操作量に関する制約条件、前記第2の動作制御手段に関する制約条件、および、前記第2の動作制御手段に与えられる第2の制御信号に関する制約条件の全てが満たされるように、前記第1の初期目標値および前記第2の初期目標値または前記第1の修正目標値および前記第2の修正目標値が前記修正目標値出力手段によって修正される内燃機関の制御装置である。
この発明によれば、第1の制御対象の制御量に関連する制約条件全てと第2の制御対象の制御量に関連する制約条件全てとが満たされる制御目標値に基づいて、各制御対象の制御量が制御される。このため、各制御対象の制御量がそれぞれに関連する制御全てにとって好適な制御形態でもって初期目標値に維持され或いは制御される。
また、上記目的を達成するための本願の27番目の発明は、19〜26番目の発明のいずれか1つにおいて、前記第1の制御対象が内燃機関の燃焼室に吸入される空気の圧力を高める過給機において前記燃焼室に吸入される空気の圧力を高める度合を制御する圧力制御弁であり、前記第2の制御対象が前記燃焼室から排出される排気ガスを前記燃焼室に吸入させるために前記燃焼室から排出される排気ガスを内燃機関の吸気通路に導入する排気再循環装置において前記吸気通路に導入される排気ガスの量を制御する排気ガス量制御弁であり、前記第1の制御対象の制御量が前記燃焼室に吸入される空気の圧力であり、前記第2の制御対象の制御量が前記吸気通路に導入される排気ガスの量であり、前記第1の動作制御手段が前記圧力制御弁の動作を制御する圧力制御弁アクチュエータであり、前記第2の動作制御手段が前記排気ガス量制御弁の動作を制御する排気ガス量制御弁アクチュエータである内燃機関の制御装置である。
この発明において、燃焼室に吸入される空気の圧力が変化すると、吸気通路に導入される排気ガスの量も変化し、吸気通路に導入される排気ガスの量が変化すると、燃焼室に吸入される空気の量も変化する。すなわち、燃焼室に吸入される空気の圧力と吸気通路に導入される排気ガスの量とは互いに干渉する制御量である。したがって、過給機の圧力制御弁の開度の制御と排気再循環装置の排気ガス量制御弁の開度の制御も互いに干渉する制御であると言えるし、圧力制御弁に入力される操作量と排気ガス量制御弁に入力される操作量も互いに干渉する操作量であると言えるし、圧力制御弁アクチュエータの制御と排気ガス量制御弁アクチュエータの制御も互いに干渉する制御であると言えるし、圧力制御弁アクチュエータに与えられる制御信号と排気ガス量制御弁アクチュエータに与えられる制御信号も互いに干渉する制御信号であると言える。ここで、本発明によれば、内燃機関に関する制約条件が満たされた状態でもって、互いに干渉するこれら燃焼室に吸入される空気の圧力の制御、吸気通路に導入される排気ガスの量の制御、圧力制御弁の動作の制御、排気ガス量制御弁の動作の制御、圧力制御弁に入力される操作量の決定、排気ガス量制御弁に入力される操作量の決定、圧力制御弁アクチュエータの動作の制御、排気ガス量制御弁アクチュエータの動作の制御、圧力制御弁アクチュエータに与えられる制御信号の生成、および、排気ガス量制御弁アクチュエータに与えられる制御信号の生成が行われる。このため、燃焼室に吸入される空気の圧力および吸気通路に導入される排気ガスの量が内燃機関の状態にとってより好適な制御形態でもってそれぞれの初期目標値に維持され或いは制御される。
以下、本発明の内燃機関の制御装置の実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する実施形態は、本発明の制御装置を図1に示されている内燃機関に適用した場合の実施形態である。
図1に示されている内燃機関10は、内燃機関の本体(以下「機関本体」という)20と、該機関本体20の4つの燃焼室にそれぞれ対応して配置された燃料噴射弁21と、該燃料噴射弁21に燃料供給管23を介して燃料を供給する燃料ポンプ22とを具備する。また、内燃機関10は、外部から燃焼室に空気を供給する吸気系30と、燃焼室から排出される排気ガスを外部に排出する排気系40とを具備する。また、内燃機関10は、圧縮自着火式の内燃機関(いわゆる、ディーゼルエンジン)である。
吸気系30は、吸気枝管31と吸気管32とを有する。吸気枝管31の一方の端部(すなわち、枝部)は、各燃焼室に対応して機関本体10内に形成された吸気ポート(図示せず)に接続されている。一方、吸気枝管31の他方の端部は、吸気管32に接続されている。吸気管32内には、該吸気管32内を流れる空気の量を制御するスロットル弁33が配置されている。スロットル弁33には、該スロットル弁33の開度を制御するアクチュエータ(以下「スロットル弁アクチュエータ」という)33aが取り付けられている。さらに、吸気管32には、該吸気管32内を流れる空気を冷却するインタークーラ34が配置されている。さらに、吸気管32の外部を臨む端部には、エアクリーナ36が配置されている。
一方、排気系40は、排気枝管41と排気管42とを有する。排気枝管41の一方の端部(すなわち、枝部)は、各燃焼室に対応して機関本体10内に形成された排気ポート(図示せず)に接続されている。一方、排気枝管41の他方の端部は、排気管42に接続されている。排気管42には、排気ガス中の特定成分を浄化する排気浄化触媒43aを内蔵した触媒コンバータ43が配置されている。
また、内燃機関10は、過給機35を具備する。過給機35は、インタークーラ34よりも上流の吸気管32内に配置されるコンプレッサ35aと、触媒コンバータ43よりも上流の排気管42内に配置される排気タービン35bとを有する。排気タービン35bは、図2に示されているように、排気タービン本体35cと翼状の複数のベーン35dとを有する。
排気タービン本体35cは、シャフト(図示せず)を介してコンプレッサ35aに接続されている。排気タービン本体35cが排気ガスによって回転せしめられると、その回転がシャフトを介してコンプレッサ35aに伝達され、これによって、コンプレッサ35aが回転せしめられる。
一方、ベーン35dは、排気タービン本体35cを包囲するように該排気タービン本体35cの回転中心軸線R1を中心として放射状に等角度間隔で配置されている。また、各ベーン35dは、図2に符号R2で示されているそれぞれ対応する軸線周りで回動可能に配置されている。そして、各ベーン35dが延在している方向、すなわち、図2に符号Eで示されている方向を「延在方向」と称し、排気タービン本体35cの回転中心軸線R1とベーン35dの回動軸線R2とを結ぶ線、すなわち、図2に符号Aで示されている線を「基準線」と称したとき、各ベーン35dは、その延在方向Eとそれに対応する基準線Aとがなす角度が全てのベーン35dに関して等しくなるように回動せしめられる。そして、各ベーン35dがその延在方向Eとそれに対応する基準線Aとがなす角度が小さくなるように、すなわち、隣り合うベーン35d間の流路面積が小さくなるように回動せしめられると、排気タービン本体35cに供給される排気ガスの流速が速くなる。その結果、排気タービン本体35cの回転速度が速くなり、その結果、コンプレッサ35aの回転速度も速くなり、したがって、吸気管32内を流れる空気がコンプレッサ35aによって大きく圧縮されることになる。このため、各ベーン35dの延在方向Eとそれに対応する基準線とがなす角度(以下この角度を「ベーン開度」という)が小さくなるほど、コンプレッサ35aによって吸気管32内を流れる空気が圧縮される程度が大きくなる。
なお、各ベーン35dは、アクチュエータ(以下「ベーンアクチュエータ」という)35eによって回動せしめられる。
また、内燃機関10は、排気再循環装置(以下これを「EGR装置」という)50を具備する。EGR装置50は、排気再循環管(以下これを「EGR管」という)51を有する。EGR管51の一端は、排気枝管41に接続されている。一方、EGR管51の他端は、吸気枝管31に接続されている。また、EGR管51には、該EGR管51内を流れる排気ガスの流量を制御する排気再循環制御弁(以下この排気再循環制御弁を「EGR制御弁」という)52が配置されている。EGR制御弁52は、図示されていないアクチュエータ(以下これを「EGR制御弁アクチュエータ」という)によって動作せしめられる。内燃機関10では、EGR制御弁52の開度(以下この開度を「EGR制御弁開度」という)が大きいほど、EGR管51内を流れる排気ガスの流量が多くなる。さらに、EGR管51には、該EGR管51内を流れる排気ガスを冷却する排気再循環クーラ53が配置されている。
また、エアクリーナ36よりも下流であってコンプレッサ35aよりも上流の吸気管32には、該吸気管32内を流れる空気の流量を検出するエアフローメータ71が取り付けられている。また、吸気枝管31には、該吸気枝管31内の圧力を検出する圧力センサ(以下「吸気圧センサ」という)72が取り付けられている。
また、内燃機関10は、電子制御装置60を具備する。電子制御装置60は、マイクロプロセッサ(CPU)61と、リードオンリメモリ(ROM)62と、ランダムアクセスメモリ(RAM)63と、バックアップRAM(Back up RAM)64と、インターフェース65とを有する。インターフェース65には、燃料噴射弁21、燃料ポンプ22、スロットル弁アクチュエータ33a、ベーンアクチュエータ35e、および、EGR制御弁アクチュエータが接続されており、これらの動作を制御する制御信号がインターフェース65を介して電子制御装置60から与えられる。また、インターフェース65には、エアフローメータ71、吸気圧センサ72、および、アクセルペダルAPの踏込量を検出するアクセル開度センサ75も接続されており、エアフローメータ71によって検出された流量に対応する信号、吸気圧センサ72によって検出された圧力に対応する信号、および、アクセル開度センサ75によって検出されたアクセルペダルAPの踏込量に対応する信号がインターフェース65に入力される。
ところで、上述したように、本実施形態では、過給機35のコンプレッサ35aによって吸気管32内を流れる空気が圧縮される。そして、コンプレッサ35aによって圧縮されたときの空気の圧力(以下この圧力を「過給圧」という)は、排気タービン35bのベーン35dの回動位置(すなわち、ベーン開度)を制御することによって制御可能であり、ベーン開度以外の条件が同じであれば、ベーン開度が小さいほど過給圧が高くなる。また、上述したように、本実施形態では、EGR装置50によって吸気管32内を流れる空気中に排気ガス(以下この排気ガスを「EGRガス」という)が導入される。ここで、EGRガスの量(以下この量を「EGRガス量」という)は、EGR制御弁52の開度、すなわち、EGR制御弁開度を制御することによって制御可能であり、EGR制御弁開度以外の条件が同じであれば、EGR制御弁開度が大きいほどEGRガス量が多くなる。
ところで、本実施形態の制御装置では、過給圧に関して目標値(以下この目標値を「目標過給圧」という)が設定され、実際の過給圧が目標過給圧になるようにベーン開度が制御される。また、本実施形態の制御装置では、EGRガス量を代表するパラメータとして、燃焼室に吸入されるトータルのガス量に対するEGRガス量の割合(以下この割合を「EGR率」という)が採用され、このEGR率に関して目標値(以下この目標値を「目標EGR率」という)が設定され、実際のEGR率が目標EGR率になるようにEGR制御弁開度が制御される。次に、これら過給圧およびEGR率の制御について説明する。
目標過給圧が設定されると、この目標過給圧に対する実際の過給圧の偏差(以下この偏差を「過給圧偏差」という)が電子制御装置60において算出される。ここで、吸気圧センサ72によって検出される圧力は、過給圧に相当することから、本実施形態では、吸気圧センサ72によって検出される圧力が実際の過給圧として利用される。また、目標過給圧の設定については、後に詳細に説明する。
過給圧偏差が算出されると、この過給圧偏差が電子制御装置60において予め定められた変換則(別の言い方をすれば、予め定められた制御則)に従って変換されて制御信号が生成される。ここで生成される制御信号は、ベーンアクチュエータ35eにベーン35dを動作させるために電子制御装置60からベーンアクチュエータ35eに与えられる制御信号である。また、上記予め定められた変換則(以下この変換則を「過給圧偏差変換則」という)は、過給圧偏差が小さくなるようにベーンアクチュエータ35eにベーン35dを動作させる制御信号に過給圧偏差を変換するものである。
過給圧偏差が変換されて生成された制御信号(以下この制御信号を「ベーン制御信号」という)が電子制御装置60からベーンアクチュエータ35eに与えられると、ベーンアクチュエータ35eは、ベーン制御信号に従ってベーン35eを動作させる。すなわち、ベーンアクチュエータ35eは、ベーン制御信号に応じた操作量(以下この操作量を「ベーン操作量」という)をベーン35eに入力する。
ここで、過給圧偏差が正の値であるとき、すなわち、実際の過給圧が目標過給圧よりも低いときには、ベーンアクチュエータ35eは、ベーン開度が小さくなるようにベーン35dを動作させる。これによって、実際の過給圧が高くなる。一方、過給圧偏差が負の値であるとき、すなわち、実際の過給圧が目標過給圧よりも高いときには、ベーンアクチュエータ35eは、ベーン開度が大きくなるようにベーン35dを動作させる。これによって、実際の過給圧が低くなる。
一方、目標EGR率が設定されると、この目標EGR率に対する実際のEGR率の偏差(以下この偏差を「EGR率偏差」という)が電子制御装置60において算出される。
EGR率偏差が算出されると、このEGR率偏差が電子制御装置60において予め定められた変換則(別の言い方をすれば、予め定められた制御則)に従って変換されて制御信号が生成される。ここで生成される制御信号は、EGR制御弁アクチュエータにEGR制御弁52を動作させるためにEGR制御弁アクチュエータに与えられる制御信号である。また、上記予め定められた変換則(以下この変換則を「EGR率偏差変換則」という)は、EGR率偏差が小さくなるようにEGR制御弁アクチュエータにEGR制御弁52を動作させる制御信号にEGR率偏差を変換するものである。
EGR率偏差が変換されて生成された制御信号(以下この制御信号を「EGR制御弁制御信号」という)が電子制御装置60からEGR制御弁アクチュエータに与えられると、EGR制御弁アクチュエータは、EGR制御弁制御信号に従ってEGR制御弁52を動作させる。すなわち、EGR制御弁アクチュエータは、EGR制御弁制御信号に応じた操作量(以下この操作量を「EGR制御弁操作量」という)をEGR制御弁52に入力する。
ここで、EGR率偏差が正の値であるとき、すなわち、実際のEGR率が目標EGR率よりも小さいときには、EGR制御弁アクチュエータは、EGR制御弁開度が大きくなるようにEGR制御弁52を動作させる。これによって、実際のEGR率が大きくなる。一方、EGR率偏差が負の値であるとき、すなわち、実際のEGR率が目標EGR率よりも大きいときには、EGR制御弁アクチュエータは、EGR制御弁開度が小さくなるようにEGR制御弁52を動作させる。これによって、実際のEGR率が小さくなる。
次に、目標過給圧および目標EGR率の設定について説明する。
過給圧には、内燃機関10の運転状態(以下これを「機関運転状態」という)に応じた最適な過給圧がある。そこで、本実施形態では、機関運転状態として機関回転数と機関負荷とが採用され、これら機関回転数と機関負荷とに応じて最適な過給圧が実験等によって予め求められ、これら求められた過給圧が、図3(A)に示されているように、機関回転数Nと機関負荷Lとの関数のマップの形で目標過給圧TPcomとして電子制御装置60に記憶されている。そして、図3(A)のマップから機関回転数Nと機関負荷Lとに基づいて目標過給圧TPcomが決定される。
また、EGR率にも、機関運転状態に応じて最適なEGR率がある。そこで、本実施形態では、機関運転状態として機関回転数と機関負荷とが採用され、これら機関回転数と機関負荷とに応じて最適なEGR率が実験等によって予め求められ、これら求められたEGR率が、図3(B)に示されているように、機関回転数Nと機関負荷Lとの関数のマップの形で目標EGR率TRegrとして電子制御装置60に記憶されている。そして、図3(B)のマップから機関回転数Nと機関負荷得るとに基づいて目標過給圧TRegrが決定される。
ところで、斯くして決定された目標過給圧TPcomに対する実際の吸気圧Pcomの偏差(すなわち、過給圧偏差)TPcom−Pcomが、上述したように、過給圧偏差変換則に従ってベーン制御信号に変換され、このベーン制御信号に従ってベーンアクチュエータ35eによってベーン35dの動作状態が制御されれば、最終的には、過給圧は目標過給圧に制御されることになる。ところが、図3(A)のマップから決定された目標過給圧TPcomがそのまま過給圧の制御に利用されると、幾つかの不都合が生じる。
すなわち、例えば、実際の過給圧が目標過給圧よりも低い場合、上述したように、目標過給圧に対する実際の過給圧の偏差(すなわち、過給圧偏差)に応じてベーン開度が小さくなるようにベーンアクチュエータ35eにベーン35dを動作させる(すなわち、回動させる)ための制御信号(すなわち、ベーン制御信号)が電子制御装置60によって生成される。そして、この生成されたベーン制御信号が電子制御装置60からベーンアクチュエータ35eに与えられ、この与えられたベーン制御信号に従ってベーンアクチュエータ35eがベーン35dを動作させる。
ところが、このとき、EGR率等を含む機関運転状態によっては、過給圧が目標過給圧に制御される過程において、過給圧が目標過給圧を大幅に上回ってしまうことがある。特に、実際の過給圧が目標過給圧よりも大幅に低いときには、ベーンアクチュエータ35eがベーン35dを大きく動作させることになるので、過給圧が目標過給圧を大幅に上回ってしまう可能性がより高くなる。しかしながら、このように過給圧が目標過給圧を大幅に上回ってしまうことは避けられるべきである。要するに、過給圧を目標過給圧に制御する場合において、過給圧は、目標過給圧を上回ってしまうとしても許容可能な範囲内に収められているべきである。
また、燃焼室において失火が生じることを避けるためには、例えば、燃焼室に吸入されるガス中の酸素濃度が或る一定濃度以上に保たれるべきである。そして、燃焼室に吸入されるガス中の酸素濃度は、EGR率に応じて変化し、このEGR率は、過給圧に応じて変化する。したがって、過給圧を目標過給圧に制御する場合において、過給圧は、燃焼室に吸入されるガス中の濃度が一定濃度以上に保たれるように制御されるべきである。
このように、過給圧の制御には、制御されるべきパラメータである過給圧自体に関する制約がある。
また、ベーン35dの動作可能な範囲(すなわち、ベーン35dの回動可能な範囲)には、その構造上、限界がある。このため、ベーン開度を小さくするためにベーンアクチュエータ35eがベーン35dを動作させようとしても、ベーン35dの動作状態がその動作可能な範囲の限界に達してしまえば、ベーンアクチュエータ35eは、それ以上、ベーン35dを動作させることができない。それでもなお、ベーンアクチュエータ35eがベーン35dを動作させようとすれば、ベーン35の故障を招きかねない。また、より確実にベーン35dの故障を避けようとするならば、ベーン35dの動作がその動作可能な範囲よりも狭い範囲内に制限されるべきである。要するに、過給圧を目標過給圧に制御する場合、ベーン35dの動作は、様々な観点から定まる許容可能な範囲内に制限されるべきある。このように、過給圧の制御には、制御されるべき対象であるベーン35dの動作状態に関する制約もある。
さらに、ベーンアクチュエータ35eの動作可能な範囲にも、その構造上、限界がある。このため、ベーン開度を小さくするためにベーンアクチュエータ35eがベーン35dを動作させようとしても、ベーンアクチュエータ35eがその動作可能な範囲の限界に達してしまえば、ベーンアクチュエータ35eは、それ以上、ベーン35dを動作させることができない。それでもなお、ベーンアクチュエータ35eがベーン35dを動作させようとすれば、ベーンアクチュエータ35eの故障を招きかねない。また、より確実にベーンアクチュエータ35eの故障を避けようとするならば、ベーンアクチュエータ35eの動作可能な範囲よりも狭い範囲内にベーンアクチュエータ35eの動作が制限されるべきである。要するに、過給圧を目標過給圧に制御する場合、ベーンアクチュエータ35eの動作も、様々な観点から定まる許容可能な範囲内に制限されるべきである。このように、過給圧の制御には、ベーン35dの動作を制御する手段であるベーンアクチュエータ35eの動作状態に関する制約もある。
さらに、ベーン操作量(すなわち、ベーンアクチュエータ35eからベーン35dに入力される操作量)には、ベーンアクチュエータ35eの性能およびベーン35dの性能を考慮したとき、適切な操作量がある。要するに、過給圧を目標過給圧に制御する場合、ベーン操作量も、様々な観点から定まる許容可能な範囲内に制限されるべきである。このように、過給圧の制御には、ベーン操作量に関する制約もある。
もちろん、以上のことは、実際の過給圧が目標過給圧よりも高いときに過給圧を目標過給圧に制御しようとして、ベーンアクチュエータ35eがベーン35dを動作させる場合にも等しく当てはまる。
このように、過給圧の制御には、過給圧を許容可能な範囲内に収めるという過給圧自体に関する制約と、ベーン35dの動作を許容可能な範囲内に制限するというベーン35dの動作状態に関する制約と、ベーンアクチュエータ35eの動作を許容可能な範囲内に制限するというベーンアクチュエータ35eの動作状態に関する制約と、ベーン操作量を許容可能な範囲内に制限するというベーン操作量に関する制約とがある。したがって、図3(A)のマップから決定された目標過給圧TPcomがそのまま過給圧の制御に利用されたとした場合に、これら制約が満たされないことが予想されるときには、これら制約が満たされるように、図3(A)のマップから決定された目標過給圧TPcomが修正され、この修正された目標過給圧が過給圧の制御に利用されるべきである。
また、このことは、EGR率の制御にも等しく当てはまる。すなわち、図3(B)のマップから決定された目標EGR率TRegrに対する実際のEGR率Regrの偏差(すなわち、EGR率偏差)TRegr−Regrが、上述したように、EGR率偏差変換則に従ってEGR制御弁制御信号に変換され、このEGR制御弁制御信号に従ってEGR制御弁アクチュエータによってEGR制御弁52の動作状態が制御されれば、最終的には、EGR率は目標EGR率に制御されることになる。ところが、このように図3(B)のマップから決定された目標EGR率TRegrがそのままEGR率の制御に利用されると、幾つかの不都合が生じる。
すなわち、例えば、実際のEGR率が目標EGR率よりも小さい場合、上述したように、目標EGR率に対する実際のEGR率の偏差(すなわち、EGR率偏差)に応じてEGR制御弁開度が大きくなるようにEGR制御弁アクチュエータにEGR制御弁52を動作させるための信号(すなわち、EGR制御弁制御信号)が電子制御装置60によって生成される。そして、この生成されたEGR制御弁制御信号が電子制御装置60からEGR制御弁アクチュエータに与えられ、この与えられたEGR制御弁制御信号に従ってEGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を動作させる。
ところが、このとき、過給圧等を含む機関運転状態によっては、EGR率が目標EGR率に制御される過程において、EGR率が目標EGR率を大幅に上回ってしまうことがある。特に、実際のEGR率が目標EGR率よりも大幅に小さいときには、EGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を大きく動作させることになるので、EGR率が目標EGR率を大幅に上回ってしまう可能性がより高くなる。しかしながら、このようにEGR率が目標EGR率を大幅に上回ってしまうことは避けられるべきである。要するに、EGR率を目標過給圧に制御する場合において、EGR率は、目標EGR率を上回ってしまうとしても許容可能な範囲内に収められているべきである。
また、燃焼室において失火が生じることを避けるためには、例えば、燃焼室に吸入されるガス中の酸素濃度が或る一定濃度以上に保たれるべきである。そして、燃焼室に吸入されるガス中の酸素濃度は、EGR率に応じて変化する。したがって、EGR率を目標EGR率に制御する場合において、EGR率は、燃焼室に吸入されるガス中の濃度が一定濃度以上に保たれるように制御されるべきである。
このようにEGR率の制御には、制御されるべきパラメータであるEGR率自体に関する制約がある。
また、EGR制御弁52の動作可能な範囲には、その構造上、限界がある。このため、EGR制御弁開度を大きくするためにEGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を動作させようとしても、EGR制御弁52の動作状態がその動作可能な範囲の限界に達してしまえば、EGR制御弁アクチュエータは、それ以上、EGR制御弁52を動作させることができない。それでもなお、EGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を動作させようとすれば、EGR制御弁52の故障を招きかねない。また、より確実にEGR制御弁52の故障を避けようとするならば、EGR制御弁52の動作がその動作可能な範囲よりも狭い範囲内に制限されるべきである。要するに、EGR率を目標EGR率に制御する場合、EGR制御弁52の動作は、様々な観点から定まる許容可能な範囲内に制限されるべきである。このように、EGR率の制御には、制御されるべき対象であるEGR制御弁52の動作状態に関する制約もある。
さらに、EGR制御弁アクチュエータの動作可能な範囲にも、その構造上、限界がある。このため、EGR制御弁開度を大きくするためにEGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を動作させようとしても、EGR制御弁アクチュエータがその動作可能な範囲の限界に達してしまえば、EGR制御弁アクチュエータは、それ以上、EGR制御弁52を動作させることができない。それでもなお、EGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を動作させようとすれば、EGR制御弁アクチュエータの故障を招きかねない。また、より確実にEGR制御弁アクチュエータの故障を避けようとするならば、EGR制御弁アクチュエータの動作可能な範囲よりも狭い範囲内にEGR制御弁アクチュエータの動作が制限されるべきである。要するに、EGR率を目標EGR率に制御する場合、EGR制御弁アクチュエータの動作も、様々な観点から定まる許容可能な範囲内に制限されるべきである。このように、EGR率の制御には、EGR制御弁52の動作を制御する手段であるEGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約もある。
さらに、EGR制御弁操作量(すなわち、EGR制御弁アクチュエータからEGR制御弁52に入力される操作量)には、EGR制御弁アクチュエータの性能およびEGR制御弁52の性能を考慮したとき、適切な操作量がある。要するに、EGR率を目標EGR率に制御する場合、EGR制御弁操作量も、様々な観点から定まる許容可能な範囲内に制限されるべきである。このように、EGR率の制御には、EGR制御弁操作量に関する制約もある。
もちろん、以上のことは、実際のEGR率が目標EGR率よりも大きいときにEGR率を目標EGR率に制御しようとして、EGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を動作させる場合にも等しく当てはまる。
このように、EGR率の制御には、EGR率を許容可能な範囲内に収めるというEGR率自体に関する制約と、EGR制御弁52の動作を許容可能な範囲内に制限するというEGR制御弁52の動作状態に関する制約と、EGR制御弁アクチュエータの動作を許容可能な範囲内に制限するというEGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約と、EGR制御弁操作量を許容可能な範囲内に制限するというEGR制御弁操作量に関する制約とがある。したがって、図3(B)のマップから決定された目標EGR率TRegrがそのままEGR率の制御に利用されたとした場合に、これら制約が満たされないことが予想されるときには、これら制約が満たされるように、図3(B)のマップから決定された目標EGR率TRegrが修正され、この修正された目標EGR率がEGR率の制御に利用されるべきである。
さらに、EGR制御弁開度が一定であったとしても、ベーン開度が変われば、過給圧が変わる。したがって、この場合、少なからず、EGRガス量が変わり、EGR率が変わることになる。すなわち、過給圧の制御は、EGR率に影響する。一方、ベーン開度が一定であったとしても、EGR制御弁開度が変われば、EGRガス量も変わる。したがって、この場合、吸気枝管31内の圧力が変わり、過給圧が変わることになる。すなわち、EGR率の制御は、過給圧に影響する。
このように、過給圧の制御とEGR率の制御とは互いに干渉する。したがって、過給圧を目標過給圧に制御する場合、上述したEGR率に関する制約、EGR制御弁52の動作状態に関する制約、EGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約、および、EGR制御弁操作量に関する制約条件が満たされる状態で、過給圧が制御されるべきである。一方、EGR率を目標EGR率に制御する場合、上述した過給圧に関する制約、ベーン35dの動作状態に関する制約、ベーンアクチュエータ35eの動作状態に関する制約、および、ベーン操作量に関する制約が満たされる状態で、EGR率が制御されるべきである。すなわち、過給圧の制御とEGR率の制御とが行われる場合、上述した全ての制約が同時に満たされる状態で、過給圧およびEGR率が制御されるべきである。
そこで、本実施形態の制御装置は、過給圧に関する制約、ベーン35dの動作状態に関する制約、ベーンアクチュエータ35eの動作状態に関する制約、ベーン操作量に関する制約、EGR率に関する制約、EGR制御弁52の動作状態に関する制約、EGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約、および、EGR制御弁操作量に関する制約が全て満たされるように、図3(A)のマップから決定される目標過給圧が修正されると共に、図3(B)のマップから決定される目標EGR率とが修正され、修正された目標過給圧が過給圧の制御に利用されると共に、修正された目標EGR率がEGR率の制御に利用される。
より具体的には、本実施形態の制御装置では、図3(A)のマップから機関回転数Nと機関負荷Lとに基づいて目標過給圧TPcomが決定されると共に、図3(B)のマップから機関回転数Nと機関負荷Lとに基づいて目標EGR率TRegrが決定される。そして、これら目標過給圧TPcomおよび目標EGR率TRegrに基づいてベーン35dおよびEGR制御弁52が上述したように実際に動作せしめられる前に、これら目標過給圧TPcomおよび目標EGR率TRegrに基づいてベーン35dおよびEGR制御弁52が上述したように動作せしめられたときの実際の過給圧、ベーン35dの動作状態、ベーンアクチュエータ35eの動作状態、ベーン操作量、実際のEGR率、EGR制御弁52の動作状態、EGR制御弁アクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁操作量が予測される。
そして、これら予測された過給圧、ベーン35dの動作状態、ベーンアクチュエータ35eの動作状態、ベーン操作量、実際のEGR率、EGR制御弁52の動作状態、EGR制御弁アクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁操作量が、過給圧に関する制約、ベーン35dの動作状態に関する制約、ベーンアクチュエータ35eの動作状態に関する制約、ベーン操作量に関する制約、EGR率に関する制約、EGR制御弁52の動作状態に関する制約、EGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約、および、EGR制御弁操作量に関する制約を満たすか否かが判断される。
すなわち、上記予測された過給圧が許容可能な範囲内にあるという制約条件が満たされ、且つ、上記予測されたベーン35dの動作状態が許容可能な範囲内にあるという制約条件が満たされ、且つ、上記予測されたベーンアクチュエータ35eの動作状態が許容可能な範囲内にあるという制約条件が満たされ、且つ、上記予測されたベーン操作量が許容可能な範囲内にあるという制約条件が満たされ、且つ、上記予測されたEGR率が許容可能な範囲内にあるという制約条件が満たされ、且つ、上記予測されたEGR制御弁52の動作状態が許容可能な範囲内にあるという制約条件が満たされ、且つ、上記予測されたEGR制御弁アクチュエータの動作状態が許容可能な範囲内にあるという制約条件が満たされ、且つ、上記予測されたEGR制御弁操作量が許容可能な範囲内にあるという制約条件が満たされるか否かが判断される。
そして、制約条件が満たされる場合には、図3(A)のマップから決定された目標過給圧TPcomがそのまま過給圧の制御用の目標過給圧に設定されると共に、図3(B)のマップから決定された目標EGR率TRegrがそのままEGR率の制御用の目標EGR率に設定される。
そして、斯くして設定された目標過給圧に基づいて上述したようにして算出されるベーン制御信号に従ってベーンアクチュエータ35eがベーン35dを動作させると共に、斯くして設定された目標EGR率に基づいて上述したようにして算出されるEGR制御弁制御信号に従ってEGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を動作させる。
一方、上記制約条件が満たされない場合には、図3(A)のマップから決定された目標過給圧TPcomおよび図3(B)のマップから決定された目標EGR率TRegrが予め定められた規則に従って修正される。
そして、これら修正された目標過給圧TPcomおよび目標EGR率TRegrに基づいてベーン35dおよびEGR制御弁52が実際に動作せしめられたときの実際の過給圧、ベーン35dの動作状態、ベーンアクチュエータ35eの動作状態、ベーン操作量、実際のEGR率、EGR制御弁52の動作状態、EGR制御弁アクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁操作量が再び予測される。そして、これら予測された過給圧、ベーン35dの動作状態、ベーンアクチュエータ35eの動作状態、ベーン操作量、実際のEGR率、EGR制御弁52の動作状態、EGR制御弁アクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁操作量が、上記制約条件を満たすか否かが判断される。
ここで、上記制約条件が満たされる場合、上記修正された目標過給圧が過給圧の制御用の目標過給圧に設定され、この設定された目標過給圧に基づいて上述したようにして算出されるベーン制御信号に従ってベーンアクチュエータ35eがベーン35dを動作させると共に、上記修正された目標EGR率がEGR率の制御用の目標EGR率に設定され、この設定された目標EGR率に基づいて上述したようにして算出されるEGR制御弁制御信号に従ってEGR制御弁アクチュエータがEGR制御弁52を動作させる。
一方、ここでも上記制約条件が満たされない場合、上記修正された目標過給圧が上記予め定められた規則に従ってさらに修正されると共に、上記修正された目標EGR率が上記予め定められた規則に従ってさらに修正される。そして、これらさらに修正された目標過給圧および目標EGR率に基づいてベーン35dおよびEGR制御弁52が実際に動作せしめられたときの実際の過給圧、ベーン35dの動作状態、ベーンアクチュエータ35eの動作状態、ベーン操作量、実際のEGR率、EGR制御弁52の動作状態、EGR制御弁アクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁操作量が再び予測される。そして、これら予測された過給圧、ベーン35dの動作状態、ベーンアクチュエータ35eの動作状態、ベーン操作量、実際のEGR率、EGR制御弁52の動作状態、EGR制御弁アクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁操作量が、上記制約条件を満たすか否かが判断される。
本実施形態の制御装置では、目標過給圧および目標EGR率の修正と、該修正された目標過給圧および目標EGR率に基づいてベーン35dおよびEGR制御弁52が動作せしめられたときの実際の過給圧、ベーン35dの動作状態、ベーンアクチュエータ35eの動作状態、ベーン操作量、実際のEGR率、EGR制御弁52の動作状態、EGR制御弁アクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁操作量の予測と、該予測された過給圧、ベーン35dの動作状態、ベーンアクチュエータ35eの動作状態、ベーン操作量、実際のEGR率、EGR制御弁52の動作状態、EGR制御弁アクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁操作量が上記制約条件を満たすか否かの判断とが、上記制約条件が満たされると判断されるまで繰り返される。
このように、本実施形態の制御装置によれば、過給圧に関する制約条件、EGR率に関する制約条件、ベーンの動作状態に関する制約条件、EGR制御弁の動作状態に関する制約条件、ベーン操作量に関する制約条件、EGR制御弁操作量に関する制約条件、ベーンアクチュエータの動作状態に関する制約条件、および、EGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約条件が満たされた状態でもって、過給圧およびEGR率が制御される。このため、過給圧およびEGR率が過給圧の制御、EGR率の制御、ベーンの動作の制御、EGR制御弁の動作の制御、ベーン操作量の決定、EGR制御弁操作量の決定、ベーンアクチュエータの動作の制御、および、EGR制御弁アクチュエータの動作の制御にとって好適な制御状態でもって制御される。
また、本実施形態の制御装置によれば、ベーン操作量およびEGR制御弁操作量に関する制約条件が満たされるように過給圧およびEGR率が制御されることから、アンチワインドアップ効果が得られる。このため、過給圧およびEGR率をそれぞれ目標過給圧および目標EGR率に制御する過程(すなわち、過渡状態)において、過給圧およびEGR率の制御応答性がより良好であると言える。
また、本実施形態の制御装置によれば、ベーンおよびEGR制御弁に関する制約条件、ならびに、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータに関する制約条件が満たされた状態でもって、過給圧およびEGR率が制御される。このため、過給圧およびEGR率の制御の安定性およびロバスト性が高いと言える。
また、本実施形態の制御装置によれば、上述した全ての制約条件が満たされた状態で過給圧およびEGR率が制御されることになる。したがって、過給圧およびEGR率をそれぞれ目標過給圧および目標EGR率に制御する過程において、過給圧が目標過給圧を許容できないほど上回ったり下回ったりすることが防止され、ベーン35dの故障が防止され、ベーンアクチュエータ35eの故障が防止され、EGR率が目標EGR率を許容できないほど上回ったり下回ったりすることが防止され、EGR制御弁52の故障が防止され、EGR制御弁アクチュエータの故障が防止される。すなわち、過給圧およびEGR率が好適な状態でもって制御される。
なお、過給圧およびEGR率の制御に関する上述した考え方は、過給圧の制御とEGR率の制御とを同時に行う場合だけでなく、内燃機関10において制御されるべき複数のパラメータの制御を同時に行う場合に適用可能である。すなわち、例えば、内燃機関10では、燃焼室に吸入される空気の量(以下この空気の量を「吸気量」という)がスロットル弁33によって制御可能であるが、この吸気量の制御と過給圧の制御とEGR率の制御とを同時に行う場合にも上述した考え方は適用可能である。また、例えば、内燃機関10が、上述した実施形態のEGR装置50に加えて、過給機35の排気タービン35bよりも下流の排気管42から過給機35のコンプレッサ35aよりも上流の吸気管32に排気ガスを導入する別のEGR装置を具備する場合には、この別のEGR装置によって吸気管32に導入される排気ガスの量の制御と、上述した実施形態のEGR装置50によって吸気枝管31に導入される排気ガスの量の制御とを同時に行う場合にも上述した考え方は適用可能である。
なお、上述した実施形態において、ベーンおよびEGR制御弁は、内燃機関において制御されるべき制御対象である。そして、上述した実施形態の考え方は、ベーンおよびEGR制御弁以外の制御対象(すなわち、内燃機関の構成要素)を制御する場合にも適用可能である。したがって、上述した実施形態は、広くは、ベーンおよびEGR制御弁等の制御対象を制御するものであると言える。
また、上述した実施形態において、過給圧およびEGR率は、内燃機関において制御されるべき制御量である。そして、上述した実施形態の考え方は、過給圧およびEGR率以外の制御量を制御する場合にも適用可能である。したがって、上述した実施形態は、広くは、過給圧およびEGR率等の制御量を制御するものであると言える。
また、上述した実施形態において、電子制御装置は、図3(A)および図3(B)のマップから目標過給圧および目標EGR率を過給圧の初期目標値およびEGR率の初期目標値として決定する。したがって、電子制御装置は、初期目標値決定手段として機能すると言える。
また、上述した実施形態において、電子制御装置は、図3(A)および図3(B)のマップから決定される目標過給圧および目標EGR率を修正し、これら修正した目標過給圧および目標EGR率を過給圧およびEGR率の修正目標値として出力する。したがって、電子制御装置は、修正目標値出力手段として機能すると言える。
また、上述した実施形態において、電子制御装置は、目標過給圧に対する実際の過給圧の偏差(すなわち、過給圧偏差)に応じてベーンアクチュエータにベーンを動作させるためのベーン制御信号を生成すると共に、目標EGR率に対する実際のEGR率の偏差(すなわち、EGR率偏差)に応じてEGR制御弁アクチュエータにEGR制御弁を動作させるためのEGR制御弁制御信号を生成する。そして、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータは、これらベーン制御信号およびEGR制御弁制御信号に従ってベーンおよびEGR制御弁の動作を制御する。すなわち、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータは、ベーン制御信号およびEGR制御弁制御信号に従ってベーンおよびEGR制御弁に操作量を与える。したがって、電子制御装置は、目標過給圧および目標EGR率に応じてベーンおよびEGR制御弁に入力すべき操作量を決定する操作量決定手段として機能すると言える。
もちろん、上述した実施形態において、電子制御装置は、目標過給圧に対する実際の過給圧の偏差(すなわち、過給圧偏差)に応じてベーンアクチュエータにベーンを動作させるためのベーン制御信号を生成すると共に、目標EGR率に対する実際のEGR率の偏差(すなわち、EGR率偏差)に応じてEGR制御弁アクチュエータにEGR制御弁を動作させるためのEGR制御弁制御信号を生成するのであるから、電子制御装置は、制御信号生成手段として機能すると言える。
また、上述した実施形態において、電子制御装置は、目標過給圧が過給圧の制御用の制御目標値として入力されて該入力された目標過給圧に応じてベーンに入力すべきベーン操作量を決定すると共に目標EGR率がEGR率の制御用の制御目標値として入力されて該入力された目標EGR率に応じてEGR制御弁に入力すべきEGR制御弁操作量を決定する制御プロセスを実行する。したがって、電子制御装置は、上記制御プロセスを実行する制御プロセス実行手段として機能すると言える。
また、上述した実施形態において、電子制御装置は、図3(A)のマップから決定される目標過給圧を実際の過給圧制御における目標過給圧として決定されるベーン操作量がベーンに入力されると共に図3(B)のマップから決定される目標EGR率を実際のEGR率制御における目標EGR率として決定されるEGR制御弁操作量がEGR制御弁に入力されたときに上記制約条件が満たされるか否かを判断する。また、上述した実施形態において、電子制御装置は、修正した目標過給圧を実際の過給圧制御における目標過給圧として決定されるベーン操作量がベーンに入力されると共に修正した目標EGR率を実際のEGR率制御における目標EGR率として決定されるEGR制御弁操作量がEGR制御弁に入力されたときに上記制約条件が満たされるか否かを判断する。したがって、電子制御装置は、上記制約条件が満たされるか否かを判断する判断手段として機能すると言える。
また、上述した実施形態において、電子制御装置は、図3(A)および図3(B)のマップから初期目標値として決定された目標過給圧および目標EGR率に基づいて決定されるベーン操作量(または、ベーン制御信号)およびEGR制御弁操作量(または、EGR制御弁制御信号)に従って過給圧およびEGR率が制御されたときに上記制約条件が満たされると判断されたときにこれら目標過給圧および目標EGR率を実際の過給圧制御およびEGR率制御における目標値として上記制御プロセスに入力する。したがって、電子制御装置は、初期目標値入力手段として機能すると言える。
また、上述した実施形態において、電子制御装置は、修正された目標過給圧および目標EGR率に基づいて上記制約条件が満たされると判断されたときにこれら修正された目標過給圧および目標EGR率を実際の過給圧制御およびEGR率制御における目標値として上記制御プロセスに入力する。したがって、電子制御装置は、修正目標値入力手段として機能すると言える。
また、上述した実施形態において、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータは、それぞれ、ベーンおよびEGR制御弁の動作を制御する。したがって、これらベーンアクチュエータおよびEGR制御弁は、それぞれ、ベーンおよびEGR制御弁の動作を制御する動作制御手段である。そして、上述した実施形態の考え方は、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁以外のアクチュエータによって制御対象の動作を制御する場合にも適用可能である。したがって、上述した実施形態は、広くは、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータ等の動作制御手段によって制御対象の動作を制御するものであると言える。
また、上述した実施形態では、過給圧に関する制約条件、EGR率に関する制約条件、ベーンの動作状態に関する制約条件、EGR制御弁の動作状態に関する制約条件、ベーン操作量に関する制約条件、EGR制御弁操作量に関する制約条件、ベーンアクチュエータの動作状態に関する制約条件、および、EGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約条件の全てが満たされるように、目標過給圧および目標EGR率が修正される。そして、上述した実施形態の考え方は、ベーンおよびEGR制御弁以外の内燃機関の構成要素を制御対象とし、過給圧およびEGR率以外のパラメータを制御対象の制御量とし、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータ以外のアクチュエータを動作制御手段とした場合にも適用可能である。したがって、上述した実施形態は、広くは、制御量に関する制約条件、制御対象の動作状態に関する制約条件、制御対象に入力すべき操作量に関する制約条件、および、動作制御手段の動作状態に関する制約条件の全てが満たされるように、制御量の目標値を修正するものであると言える。
さらに、上述した実施形態では、上記制御条件の全てが満たされるように、目標過給圧および目標EGR率が修正される。しかしながら、上述した実施形態において、過給圧に関する制約条件とベーンの動作状態に関する制約条件とベーン操作量に関する制約条件とベーンアクチュエータの動作状態に関する制約条件との少なくとも1つと、EGR率に関する制約条件とEGR制御弁の動作状態に関する制約条件とEGR制御弁操作量に関する制約条件とEGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約条件との少なくとも1つとが満たされるように、目標過給圧および目標EGR率が修正されるようにしてもよい。そして、上述した実施形態の考え方は、ベーンおよびEGR制御弁以外の内燃機関の構成要素を制御対象とし、過給圧およびEGR率以外のパラメータを制御対象の制御量とし、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータ以外のアクチュエータを動作制御手段とした場合にも適用可能である。したがって、上述した実施形態は、広くは、内燃機関の第1の制御対象の制御量に関する制約条件と第1の制御対象の動作状態に関する制約条件と第1の制御対象に入力すべき操作量に関する制約条件と第1の制御対象の動作を制御する第1の動作制御手段の動作状態に関する制約条件との少なくとも1つと、内燃機関の第2の制御対象の制御量に関する制約条件と第2の制御対象の動作状態に関する制約条件と第2の制御対象に入力すべき操作量に関する制約条件と第2の制御対象の動作を制御する第2の動作制御手段の動作状態に関する制約条件との少なくとも1つとが満たされるように、第1の制御量の目標値および第2の制御量の目標値を修正するものと言える。
なお、上述した実施形態において、過給圧に関する制約条件は、過給圧が許容範囲内にあることである。しかしながら、過給圧の制御、EGR率の制御、ベーンの動作の制御、EGR制御弁の動作の制御、ベーン操作量の決定、EGR制御弁操作量の決定、ベーンアクチュエータの動作の制御、EGR制御弁アクチュエータの動作の制御(以下これら制御および決定をまとめて「制御対象の制御量に関連する各種制御」という)を考慮したときに、過給圧が許容範囲内にあるという制約条件以外に過給圧に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が、過給圧が許容範囲内にあるという制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。
同様に、上述した実施形態において、EGR率に関する制約条件は、EGR率が許容範囲内にあることである。しかしながら、制御対象の制御量に関連する各種制御を考慮したときに、EGR率が許容範囲内にあるという制約条件以外にEGR率に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が、EGR率が許容範囲内にあるという制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。
同様に、上述した実施形態において、ベーンの動作状態に関する制約条件は、ベーンの動作状態が許容範囲内にあることである。しかしながら、制御対象の制御量に関連する各種制御を考慮したときに、ベーンの動作状態が許容範囲内にあるという制約条件以外にベーンの動作状態に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が、ベーンの動作状態が許容範囲内にあるという制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。したがって、広くは、上述した実施形態において、ベーンに関する制約条件が採用されてもよい。
同様に、上述した実施形態において、EGR制御弁の動作状態に関する制約条件は、EGR制御弁の動作状態が許容範囲内にあることである。しかしながら、制御対象の制御量に関連する各種制御を考慮したときに、EGR制御弁の動作状態が許容範囲内にあるという制約条件以外にEGR制御弁の動作状態に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が、EGR制御弁の動作状態が許容範囲内にあるという制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。したがって、広くは、上述した実施形態において、EGR制御弁に関する制約条件が採用されてもよい。
さらに、上述した実施形態では、ベーンの動作状態に関する制約条件およびEGR制御弁の動作状態に関する制約条件が目標過給圧および目標EGR率を修正するときに考慮される。しかしながら、上述した実施形態において、ベーンの動作状態に関する制約条件およびEGR制御弁の動作状態に関する制約条件以外に考慮されるべきベーンに関する制約およびEGR制御弁に関する制約条件があるのであれば、これら制約条件が目標過給圧および目標EGR率を修正するときに考慮されてもよい。そして、上述した実施形態の考え方は、ベーンおよびEGR制御弁以外の内燃機関の構成要素を制御対象とする場合にも適用可能である。したがって、上述した実施形態は、広くは、内燃機関の第1の制御対象に関する制約条件および内燃機関の第2の制御対象に関する制約条件が満たされるように、第1の制御対象の制御量の目標値および第2の制御対象の制御量の目標値を修正するものであると言える。
同様に、上述した実施形態において、ベーンアクチュエータの動作状態に関する制約条件は、ベーンアクチュエータの動作状態が許容範囲内にあることである。しかしながら、制御対象の制御量に関連する各種制御を考慮したときに、ベーンアクチュエータの動作状態が許容範囲内にあるという制約条件以外にベーンアクチュエータの動作状態に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が、ベーンアクチュエータの動作状態が許容範囲内にあるという制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。したがって、広くは、上述した実施形態において、ベーンアクチュエータに関する制約条件が採用されてもよい。
同様に、上述した実施形態において、EGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約条件は、EGR制御弁アクチュエータの動作状態が許容範囲内にあることである。しかしながら、制御対象の制御量に関連する各種制御を考慮したときに、EGR制御弁アクチュエータの動作状態が許容範囲内にあるという制約条件以外にEGR制御弁アクチュエータの動作状態に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が、EGR制御弁アクチュエータの動作状態が許容範囲内にあるという制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。したがって、広くは、上述した実施形態において、EGR制御弁アクチュエータに関する制約条件が採用されてもよい。
さらに、上述した実施形態では、ベーンアクチュエータの動作状態に関する制約条件およびEGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約条件が目標過給圧および目標EGR率を修正するときに考慮される。しかしながら、上述した実施形態において、ベーンアクチュエータの動作状態に関する制約およびEGR制御弁アクチュエータの動作状態に関する制約以外に考慮されるべきベーンアクチュエータに関する制約条件およびEGR制御弁アクチュエータに関する制約条件があるのであれば、これら制約条件が目標過給圧および目標EGR率を修正するときに考慮されてもよい。そして、上述した実施形態の考え方は、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータ以外のアクチュエータを動作制御手段とする場合にも適用可能である。したがって、上述した実施形態は、広くは、内燃機関の第1の制御対象の動作を制御する第1の動作制御手段に関する制約条件および内燃機関の第2の制御対象の動作を制御する第2の動作制御手段に関する制約条件が満たされるように、第1の制御対象の制御量の目標値および第2の制御対象の制御量の目標値を修正するものであると言える。
同様に、上述した実施形態において、ベーン操作量に関する制約条件は、ベーン操作量が許容範囲内にあることである。しかしながら、制御対象の制御量に関連する各種制御を考慮したときに、ベーン操作量が許容範囲内にあるという制約条件以外にベーン操作量に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が、ベーン操作量が許容範囲内にあるという制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。
同様に、上述した実施形態において、EGR制御弁操作量に関する制約条件は、EGR制御弁操作量が許容範囲内にあることである。しかしながら、制御対象の制御量に関連する各種制御を考慮したときに、EGR制御弁操作量が許容範囲内にあるという制約条件以外にEGR制御弁操作量に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が、EGR制御弁操作量が許容範囲内にあるという制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。
また、上述した実施形態において、制約条件は、過給圧、EGR率、ベーン、EGR制御弁、ベーン操作量、EGR制御弁操作量、ベーンアクチュエータ、および、EGR制御弁アクチュエータに関する制約条件である。しかしながら、これら制約条件以外に課すべき制約条件がある場合には、その課すべき制約条件が上記制約条件に代えて或いはこれに加えて採用されてもよい。したがって、広くは、上述した実施形態において、内燃機関に関する制約条件が採用されてもよい。
また、上述した実施形態の制御装置において、実際の過給圧およびEGR率の制御に使用される修正後の目標過給圧および目標EGR率は、少なくとも、目標過給圧および目標EGR率に基づいて実際に過給圧およびEGR率が制御されたときに上記制約条件全てが満たされるものであればよい。しかしながら、図3(A)および図3(B)のマップから決定された目標過給圧および目標EGR率は機関運転状態にとって最適な値であるので、実際の過給圧およびEGR率の制御に使用される修正後の目標過給圧および目標EGR率が図3(A)および図3(B)のマップから決定された目標過給圧および目標EGR率から大きく異なっている状態は、出力トルクの大幅な変動(すなわち、トルクショック)やドライバビリティの悪化を招く可能性があり、機関運転状態にとって好ましくない。したがって、上述した実施形態の制御装置において、上記制約条件全てが満たされる複数の修正後の目標過給圧および目標EGR率がある場合には、これら目標過給圧および目標EGR率のうち、図3(A)および図3(B)のマップから決定された目標過給圧および目標EGR率に最も近い目標過給圧および目標EGR率が採用されることが好ましい。
また、上述した実施形態において、ベーンは、燃焼室に吸入される空気の圧力を高める度合を制御する圧力制御弁であるとも言える。また、上述した実施形態において、EGR制御弁は、内燃機関の吸気通路に導入される排気ガスの量を制御する排気ガス量制御弁であるとも言える。
次に、上述した実施形態の制御装置において、図3(A)および図3(B)のマップから決定された目標過給圧および目標EGR率に基づいて上記制約条件の全てを満たす目標過給圧および目標EGR率を求める手法の具体例の1つを紹介する。
内燃機関の複数の構成要素を制御対象とし、内燃機関の現時刻における内部状態を内部状態ベクトル「x」で表し、各制御対象の制御量をそれぞれ対応する目標値に制御するために各制御対象に入力される操作量を操作量ベクトル「u」で表したとき、各制御対象にそれぞれ対応する操作量が入力されたときの内燃機関の内部状態、すなわち、内燃機関の次時刻における内部状態を表す状態ベクトル「x
+」は、定数行列(または、係数行列)AおよびBを用いて、次式1の状態方程式によって表現可能である。
また、各制御対象の制御量をそれぞれ対応する目標値に制御するために各制御対象にそれぞれ対応する操作量が入力されたときに各制御対象から出力される制御量を表す制御量ベクトル「y」は、定数行列(または、係数行列)CおよびDを用いて、次式2の出力方程式によって表現可能である。
ここで、上記内部状態ベクトルxに関する制約、上記操作量ベクトルuに関する制約、および、上記制御量ベクトルyに関する制約を表すベクトル(以下このベクトルを「被拘束信号ベクトル」という)「c」を次式3で表すものと定義する。
そして、上式3のように被拘束信号ベクトルcを定義したとき、被拘束信号ベクトルcは、上式1および上式2から次式4によって表現される。
ここで、定数行列(または、係数行列)Ccを次式5のように定義し、定数行列(または、係数行列)Dcを次式6のように定義する。
そして、上式5および上式6のように定数行列CcおよびDcを定義したとき、上式4は、次式7によって表現される。
このように、制御対象に関する状態空間モデルは、上式1、上式2、および、上式7で表現されることになる。
ここで、内部状態ベクトルxで表される各制御対象の内部状態に関する制約を有界閉集合「X」で表し、操作量ベクトルuで表される各制御対象に入力される操作量に関する制約を有界閉集合「U」で表し、制御量ベクトルyで表される各制御対象から出力される制御量に関する制約を有界閉集合「Y」で表し、有界閉集合「C」を次式8で表すものと定義する。なお、内部状態ベクトルxがm次元のベクトルであり、操作量ベクトルuがn次元のベクトルであり、制御量ベクトルyがp次元のベクトルであり、q=m+n+pであるとしたとき、有界閉集合Cは、ベクトル空間R
qに属している。
そして、被拘束信号ベクトルcが上記有界閉集合Cに属するならば、内部状態ベクトルxが上記有界閉集合Xに属し、操作量ベクトルuが上記有界閉集合Uに属し、制御量ベクトルyが上記有界閉集合Yに属することになる。したがって、被拘束信号ベクトルcが上記有界閉集合Cに属するように操作量ベクトルu(すなわち、各操作量)が修正され、この修正された操作量ベクトルuに従った操作量が各制御対象に入力されたとき、各制御対象の内部状態に関する制約、各制御対象に入力される操作量に関する制約、および、各制御対象から出力される制御量に関する制約の全てが満たされた形で、各制御対象の制御量が制御されることになる。
以上のことを前提とし、ベーン35d、ベーンアクチュエータ35e、EGR制御弁52、および、EGR制御弁アクチュエータを含む内燃機関の複数の構成要素の内部状態観測による内部状態フィードバックと、目標過給圧に対する実際の過給圧の偏差(すなわち、過給圧偏差)と目標EGR率に対する実際のEGR率の偏差(すなわち、EGR率偏差)とに基づく追従誤差積分制御とを行うとしたとき、以下のように、図3(A)および図3(B)のマップからそれぞれ決定される目標過給圧および目標EGR率が修正され、ベーン35dおよびEGR制御弁52にそれぞれ入力される操作量を決定するために用いるべき目標過給圧および目標EGR率が求められる。
すなわち、内部状態フィードバックに関するフィードバックゲインを「K
x」で表し、追従誤差積分制御に関するフィードバックゲインを「K
v」で表し、内燃機関の複数の構成要素の内部状態を表す内部状態ベクトルを「x」で表し、追従誤差積分制御における追従誤差積算値を表す追従誤差積算値ベクトルを「v」で表し、ベーンアクチュエータ35eからベーン35に入力される操作量およびEGR制御弁アクチュエータからEGR制御弁52に入力される操作量を表す操作量ベクトルを「u」で表したとき、操作量ベクトルuは、次式9によって表現される。
また、目標過給圧および目標EGR率を表す目標値ベクトルを「r」で表し、制御対象の制御量である過給圧およびEGR率を表す制御量ベクトルを「y」で表し、目標過給圧に対する実際の過給圧の偏差(すなわち、追従誤差)および目標EGR率に対する実際のEGR率の偏差(すなわち、追従誤差)を表す追従誤差ベクトルを「e」で表したとき、追従誤差ベクトルeは、次式10によって表現される。
さらに、現時刻における追従誤差積算値ベクトルを「v」で表し、次時刻における追従誤差積算値ベクトルを「v
+」で表したとき、次時刻における追従誤差積算値ベクトルv
+は、次式11によって表現される。
そして、上式10および上式11を上式1、上式2、および、上式7に代入して変形すると、次式12〜次式14の閉ループ系の状態空間モデルが得られる。
ここで、上式12は、過給圧およびEGR率に関する現時刻における追従誤差積算値(これらは、追従誤差積算値ベクトルvで表されている)と、内燃機関の構成要素の現時刻における内部状態(これらは、内部状態ベクトルxで表されている)と、現時刻における目標過給圧および目標EGR率(これらは、目標値ベクトルrで表されている)とに基づいて、次時刻における追従誤差積算値(これらは、追従誤差積算値ベクトルv+で表されている)および内燃機関の構成要素の次時刻における内部状態(これらは、内部状態ベクトルx+で表されている)を求める式である。
また、上式13は、過給圧およびEGR率に関する追従誤差積算値と、内燃機関の構成要素の内部状態とに基づいて、制御対象の制御量である過給圧およびEGR率(これらは、制御量ベクトルyで表されている)を求める式である。
さらに、上式14は、過給圧およびEGR率に関する追従誤差積算値と、内燃機関の構成要素の内部状態とに基づいて、上述した被拘束信号ベクトルcを求める式である。
一方、「ξ」、「Φ」、「G」、「H」、および、「Hc」をそれぞれ次式15〜次式19のように定義する。
そして、上記「ξ」、「Φ」、「G」、「H」、および、「Hc」を用いれば、上式12〜上式14は、次式20〜次式22のように表現可能される。
そして、演算周期を「ステップ」と称し、目標過給圧および目標EGR率が目標値ベクトルrとして与えられたとき、hステップ先における被拘束信号ベクトルcは、上式20〜上式22から、次式23のように算出される。
ここで、上式23に従って算出される被拘束信号ベクトルcが上記有界閉集合Cに属していれば、そのときの目標過給圧および目標EGR率は、制約を満たすものであると言える。したがって、上式23に従って算出される被拘束信号ベクトルcが上記有界閉集合Cに属するように、図3(A)および図3(B)のマップからそれぞれ決定される目標過給圧および目標EGR率を修正し、この修正した目標過給圧および目標EGR率を過給圧およびEGR率の制御に用いれば、全ての制約が満たされた状態で、過給圧およびEGR率を制御することができる。
したがって、過給圧およびEGR率の制御では、有限な時間先までの間を考慮すればよい、すなわち、有限なhステップ先までの間を考慮すればよいことから、被拘束信号cが上記有界閉集合Cに属するという制約の下で、図3(A)および図3(B)のマップからそれぞれ決定される目標過給圧および目標EGR率、すなわち、初期の目標値を表す初期目標値ベクトルを「r
0」で表したとき、初期目標値ベクトルr
0に対する今回求めるべき目標過給圧および目標EGR率を表す目標値ベクトルrの偏差の絶対値の最小値を求めるという下の(24)に示されている最適化問題を解くことによって得られる目標値ベクトルrで表される目標過給圧および目標EGR率が全ての制約を満たした状態で過給圧およびEGR率を制御することができる目標過給圧および目標EGR率である。
すなわち、逐次、上の(24)に示されている最適化問題を解いて得られる目標過給圧および目標EGR率を過給圧およびEGR率の制御に用いれば、全ての制約を満たした状態で、過給圧およびEGR率が制御されることになる。
なお、上で紹介した例では、状態空間モデルを用いて、全ての制約条件が満たされるように図3(A)および図3(B)のマップからそれぞれ決定された目標過給圧および目標EGR率が修正され、これら修正された目標過給圧および目標EGR率が実際の過給圧およびEGR率の制御に用いられる。したがって、上で紹介した例では、図3(A)および図3(B)のマップからそれぞれ決定された目標過給圧および目標EGR率に基づいて実際の過給圧およびEGR率が制御されたときの過給圧、EGR率、ベーンの動作状態、EGR制御弁の動作状態、ベーン操作量、EGR制御弁操作量、ベーンアクチュエータの動作状態、および、EGR制御弁アクチュエータの動作状態が、状態空間モデルによって予測され、この予測結果に基づいて全ての制約条件が満たされるか否かが判別され、全ての制約条件が満たされると判断されるまで目標過給圧および目標EGR率が修正され、全ての制約条件が満たされると判断されたときの目標過給圧および目標EGR率が実際の過給圧およびEGR率の制御に用いられるものと言える。
これによれば、目標過給圧が変更され或いは目標EGR率が変更されたときに、過給圧またはEGR率がそれぞれ目標過給圧または目標EGR率に制御されるまでの過程(すなわち、過渡状態)において、最適な目標過給圧または目標EGR率が逐次算出され、この算出された目標過給圧または目標EGR率に基づいて過給圧またはEGR率が制御されることになる。このため、過渡状態における過給圧またはEGR率の応答性が良好なものとなる。
特に、これによれば、ベーン35dおよびEGR制御弁52に入力される操作量にも制約が加えられていることから、アンチワインドアップ効果が得られる。このため、過給圧およびEGR率をそれぞれ目標過給圧および目標EGR率に制御する過程(すなわち、過渡状態)において、過給圧およびEGR率の制御応答性がより良好であると言える。
また、上述した実施形態および上で紹介した例では、過給機のベーンおよびEGR装置のEGR制御弁といった制御対象に関する制約、ならびに、ベーンアクチュエータおよびEGR制御弁アクチュエータといった制御対象の動作を制御するアクチュエータに関する制約が満たされた状態でもって、過給圧およびEGR率が制御される。このため、過給圧およびEGR率の制御の安定性およびロバスト性が高いと言える。
また、上述した考え方に基づいて記述される状態空間モデルには、制御対象への入力および制御対象から出力における非線形特性、これら入力および出力に関する制約、ならびに、制御対象の内部状態に関する制約が陽に記述可能である。このため、当該状態空間モデルが用いられた過給圧およびEGR率の制御では、制御の安定性およびロバスト性が高いと言える。
なお、上式24の最適化問題を解く場合、最適解を求めるようにしてもよいが、1回の演算にかけられる時間が比較的短い場合、或いは、解を迅速に求める必要がある場合には、近似解を求めるようにしてもよい。
また、上で紹介した例では、ベーン、ベーンアクチュエータ、EGR制御弁、および、EGR制御弁アクチュエータを含む内燃機関の構成要素の内部状態観測による内部状態フィードバックが行われているが、内燃機関の構成要素の内部状態観測が行えない或いは精度良く行えない場合には、内部状態フィードバックに代えて過給圧およびEGR率といった制御対象からの出力値に基づく出力フィードバックが用いられてもよい。
なお、以上、圧縮自着火式の内燃機関に本発明の制御装置を適用した場合を例に本発明の実施形態を説明したが、本発明は、火花点火式の内燃機関にも適用可能である。
最後に、上述した例に従って目標過給圧および目標EGR率の修正を行うルーチンの一例を紹介する。この例は、図4に示されている。図4のルーチンは、所定時間間隔毎に実行される。
図4のルーチンが開始されると、始めに、ステップ100において、図3(A)のマップから機関回転数Nと機関負荷Lとに基づいて目標過給圧TPcomが決定される。次いで、ステップ101において、図3(B)のマップから機関回転数Nと機関負荷Lとに基づいて目標EGR率TRegrが決定される。
次いで、ステップ102において、ステップ100で決定された目標過給圧と目標EGR率とに基づいて過給圧およびEGR率の制御が行われたときに上述した制約条件の全てが満たされるか否かが判別される。ここで、上述した制約条件の全てが満たされると判別されたときには、ルーチンはステップ103に進み、ステップ100において決定された目標過給圧が実際の過給圧の制御に用いられる目標過給圧に設定されると共に、ステップ101において決定された目標EGR率が実際のEGR率の制御に用いられる目標EGR率に設定され、ルーチンが終了する。
一方、ステップ102において、上述した制約条件の少なくとも1つが満たされないと判別されたときには、ルーチンはステップ104に進み、上述した様式に従ってステップ100において決定された目標過給圧およびステップ101において決定された目標EGR率が修正され、ルーチンは再びステップ102に進む。そして、この場合、ステップ102では、ステップ104において修正された目標過給圧および目標EGR率に基づいて過給圧およびEGR率の制御が行われたときに上述した制約条件の全てが満たされるか否かが判別される。ここで、上述した制約条件の全てが満たされると判別されたときには、ルーチンはステップ103に進み、ステップ104において修正された目標過給圧が実際の過給圧の制御に用いられる目標過給圧に設定されると共に、ステップ104において修正された目標EGR率が実際の過給圧の制御に用いられる目標EGR率に設定される。
一方、ステップ102において、上述した制約条件の少なくとも1つが満たされていないと判別されたときには、ルーチンは再びステップ104に進み、前回ステップ104において修正された目標過給圧および目標EGR率が上述した様式に従ってさらに修正され、ルーチンは再びステップ102に進む。すなわち、ステップ102において上述した制約条件の全てが満たされると判断されるまで、ステップ104およびステップ102が繰返し実行される。