実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1のシステムの構成を説明するため概念図である。本実施形態のシステムは、複数のバンクを備えるV型エンジンを備えている。図1において、左側に示す要素は、第1バンクに対応して設けられた要素であり、一方、右側に示す要素は、第2バンクに対応して設けられた要素である。
各バンクには、新気を取り入れるべく大気に開放された吸気口10、および排気ガスを排出すべく大気に開放された排気口12が設けられている。各バンクの吸入孔10と排気口12との間には、それぞれターボチャージャ14が配置されている。ターボチャージャ14は、吸気口10に連通するコンプレッサ16と、排気口12に連通するタービン18と、コンプレッサ16とタービン18とを連結するタービンシャフト20を備えている。また、本実施形態において用いられるターボチャージャ14は、いわゆる可変容量タイプであり、タービン18の内部には、図示されない可変ノズルを備えている。ターボチャージャ14は、可変ノズルの開度を変えることにより、その効率を変えることができる。
各バンクのコンプレッサ16の下流には、それぞれインタークーラ22が配置されている。コンプレッサ16とインタークーラ22との間には、各バンクに吸入される新気量Gaを検出するためのエアフロメータAFM24が設けられている。インタークーラ22の下流には、スロットルバルブ26が配置されている。更に、スロットルバルブ26の下流は、吸気マニホールド28に連通している。スロットルバルブ26と吸気マニホールド28との間には、各バンクにおける吸気管圧力、つまり、過給圧を検出するための吸気圧センサ30が設けられている。
各バンクの吸気マニホールド28は、個々のバンクに属する気筒32の吸気ポートに連通している。また、各気筒32の排気ポートは、排気マニホールド34を介して上記のタービン18に連通している。各バンクの排気マニホールド34は、更に、EGR管36およびEGRクーラ38を介して同一バンクの吸気マニホールド28に連通していると共に、EGR連通管40を介して、互いに他バンクの排気マニホールド34と連通している。
EGR弁40は、外部から供給される制御指令に応じて開度を変化させる電気式の弁機構である。吸気マニホールド28の圧力は、通常、排気マニホールド34の圧力より低いため、EGR弁40を適当に開弁させると、排気ガスを吸気側に還流させることができる。排気ガス(既燃ガス)を吸気側に還流させると、筒内での燃焼温度を下げてNOx排出量を下げることができる。EGR弁40は、上記の機能が適正に発揮されるように、適宜その開度が制御される。
EGR連通管42は、各バンクの排気マニホールド圧力、つまり、排気圧を揃えるための管路である。バンク間で排気圧にバラツキがあると、個々のバンクに配置されたタービン18の動きにもバラツキが生じ易い。このため、本実施形態のシステムでは、EGR連通管42を設けてバンク間で排気圧を揃えることとしている。
本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50には、各バンクに配置されたAFM24および吸気圧センサ30などから、センサ出力が供給されている。ECU50は、これらのセンサ出力を基礎として、各バンクのEGR弁40やタービン18内の可変ノズル開度(VNT開度)などを制御することができる。
[実施の形態1のシステムの課題]
実施の形態1のシステムは、上述した通り、内燃機関のバンク毎にターボチャージャ14を備えている。ターボチャージャ14には、個体間のバラツキがある。このため、各バンクにおいて排気圧が揃っていたとしても、ターボチャージャ14の過給能力はバンク間で不均一となることがある。そして、このようなバラツキは、バンク間で新気量がばらつく原因となる。
また、内燃機関がディーゼル機関である場合は、各バンクの排気口12の下流に、それぞれDPNR(NOxおよびパティキュレートの除去フィルタ)が配置される。そして、DPNRの状態は、必ずしもバンク間で同じにならないため、排気ガスの流量はバンク間で不均一となることがある。ターボチャージャ14のタービン回転数は、排気ガス流量に応じて変化する。このため、その流量が不均一であれば、タービン回転数もバンク間で不均一となり、その結果、新気量もバンク間で異なったものとなり易い。
更に、ターボチャージャ14の過給能力がバンク間で不均一であったり、タービン回転数がバンク間で不均一であったりすると、EGR弁40が同じように制御されても、吸気側に還流される排気ガスの比率、つまりEGR率は、バンク毎に異なったものとなる。そして、そのEGR率がバンク間で不均一となると、気筒32内の燃焼状態がバンク毎に異なったり、更には、NOxの排出量がバンク間でばらついたりといった不都合が生ずる。
図2は、上述したEGR率の定義を説明するための概念図である。この図において、Gaはコンプレッサ16により圧送された後、個々の気筒32に流入する新気量である。Gegrは、EGR弁40を通過して各気筒32に還流される排気ガス量(EGR量)である。そして、Gcylは、個々の気筒32に流入する筒内流入量である。既述したEGR率は、これらの変数を用いて次式のように定義される。
EGR率=(Ga−Gegr)/Gcyl ・・・(1)
筒内の燃焼状態をバンク間で同様にし、また、NOx排出量をバンク間で均一にするためには、個々のバンクにおけるEGR率を揃えることが必要である。上記(1)式に含まれる変数のうち、筒内流入量Gcylは、内燃機関のハードウェア構成や機関回転数Neなどにより決まる値であり、バンク間ではばらつき難い。一方、EGR量Gegrは新気量Gaに比して十分に小さな値である。このため、EGR率は、主として新気量Gaにより決定される変数である。従って、本実施形態のシステムでは、バンク間で新気量Gaを揃えることができれば、新気量Gaそのものをバンク間で均一化できることに加え、EGR率をもバンク間で均一化することが可能となり、その結果、筒内の燃焼状態をバンク間で均一化することができる。
本実施形態のシステムにおいて、新気量Gaは、ターボチャージャ14の作動状態に応じて変動する値である。そして、本実施形態において用いられているターボチャージャ14は、ECU50の指令に応じて容量を変化させることのできる可変容量式の機構である。このため、バンク間で新気量Gaに差がある場合には、ターボチャージャ14のVNT開度をバンク毎に適当に制御することで、その差を消滅させることができる。
[実施の形態1における制御の内容]
図3は、上記の原理に従ってバンク間で新気量Gaを揃えるべく、実施の形態1において実行される制御の概要を説明するための図である。図3に示すように、本実施形態のシステムでは、左右のバンクにおいてそれぞれ検知された新気量Gaの差が求められる。その新気量Gaの差が、後述する制御ロジックに当てはめられることにより、左右のバンクに対するVNT開度の補正値が算出される。
可変ノズル基本開度(VNT基本開度)は、予め左右のバンク毎に算出されており、それらのVNT基本開度に、上記の如く算出された補正値がそれぞれ加算されることにより、左右のバンクのVNT最終開度が算出される。本実施形態において、VNT開度の補正値は、左右のバンクの新気量Gaの差が消滅するように算出される。このため、上記の如く算出されるVNT最終開度によれば、左右のバンクにおける新気量Gaを揃えることが可能である。
図4は、VNT開度の補正値を決定する手法の一例を説明するための図である。図4において、領域1、領域2および領域3は、それぞれVNT開度の大きさに対応する領域を表している。具体的には、領域3は、左右のバンクのVNT開度が全開付近である領域を示す。領域2は、左右のバンクのVNT開度が全閉付近である領域を示す。そして、領域1は、左右のバンクのVNT開度が全開付近でなく、かつ、全閉付近でない領域を示す。
VNT開度が領域3に属している場合は、その開度を更に大きく補正することはできない。従って、この場合は、VNT開度を閉じる方向の補正値を与えることで、左右のバンクの新気量Gaを揃えることが必要である。VNT開度が閉じられると、タービン回転数は上昇する。そして、タービン回転数が上がれば、新気量Gaは増大する。このため、本実施形態のシステムでは、領域3において新気量Gaの偏差が認められた場合は、新気量Gaが不足している側のバンクに対して、VNT開度を閉じる方向の補正値が与えられる。
VNT開度が領域2に属している場合は、その開度を更に小さく補正することはできない。従って、この場合は、VNT開度を開ける方向の補正値を与えることで、左右のバンクの新気量Gaを揃えることが必要である。VNT開度が開けられると、タービン回転数は下降する。そして、タービン回転数が下がれば、新気量Gaは減少する。このため、本実施形態のシステムでは、領域2において新気量Gaの偏差が認められた場合は、新気量Gaが過剰な側のバンクに対して、VNT開度を開ける方向の補正値が与えられる。
VNT開度が領域1に属している場合は、その開度は何れの方向にも補正することができる。従って、この場合は、新気量Gaが不足している側のバンクに対してVNT開度を閉じる方向の補正値を与えても、或いは、新気量Gaが過剰な側のバンクに対してVNT開度を開ける方向の補正値を与えても、更には、それらを組み合わせて双方のバンクに補正値を与えても良い。但し、内燃機関に高出力を発生させるという意味では、新気量Gaは多量であるほど好ましい。このため、本実施形態では、領域1において新気量Gaの偏差が認められた場合は、新気量Gaが不足している側のバンクに対して、VNT開度を閉じる方向の補正値を与えることとしている。
[実施の形態1における具体的処理]
図5乃至図7は、本実施形態において、ECU50が、上記の機能を実現するために実行するルーチンのフローチャートを示す。より具体的には、図5乃至図7は、ECU50が、領域1乃至3のそれぞれにおいて補正値を算出すべく実行するルーチンのフローチャートである。尚、ECU50は、これらのルーチンとは別に、VNT基本開度を算出するためのルーチン、およびEGR弁40の開度を制御するためのルーチンを実行するものとする。
図5に示すルーチンは、左右のバンクのVNT開度が領域1に属している場合に起動される。より具体的には、上述した他のルーチンにより算出されたVNT基本開度が領域1に属している場合に起動される。このルーチンが起動されると、先ず、右バンクのAFM24により検出された新気量Ga_Rが、左バンクのAFM24により検出された新気量Ga_Lに比して多量であるか否かが判別される(ステップ100)。
その結果、Ga_R>Ga_Lの成立が認められた場合は、左バンクの新気量Ga_Lが不足していると判断され、左バンクのVNT開度を小さくするための補正が行われる(ステップ102)。本ステップ102では、より具体的には、先ず、左右のバンクの新気量Ga_R,Ga_Lを揃えるための補正値が算出される。この補正値は、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差をerrorとして、例えば以下のように算出することができる。但し、KpおよびKiは、それぞれ比例項および積分項の制御ゲインである。次式によれば、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差をPI制御により消滅させるためのVNT開度補正値を算出することができる。
VNT開度補正値=Kp*error+Ki*∫error dt ・・・(2)
上記ステップ102では、更に、(2)式により算出された補正値を、VNT基本開度から減ずることにより、左バンクのターボチャージャ14に対するVNT最終開度を算出し、かつ、VNT基本開度を、そのまま右バンクのターボチャージャ14に対するVNT最終開度とする処理が行われる。このような処理によれば、左バンクのVNT開度を右バンクのVNT開度より適当に小さくし、左バンクの新気量Gaを適正に増量させることにより、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを小さくすることができる。
一方、上記ステップ100において、Ga_R>Ga_Lの成立が認められなかった場合は、右バンクの新気量Ga_Rが不足していると判断され、右バンクのVNT開度を小さくすべく補正が行われる(ステップ104)。本ステップ104では、具体的には、先ず、上記の(2)式に従ってVNT開度補正値が算出される。次に、VNT基本開度からVNT開度補正値を減じた値を右バンクに対するVNT最終開度とし、また、VNT基本開度をそのまま左バンクのVNT最終開度とする処理が行われる。このような処理によれば、右バンクのVNT開度を左バンクのVNT開度より適当に小さくし、右バンクの新気量Gaを適正に増加させることにより、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを小さくすることができる。
図6に示すルーチンは、左右のバンクのVNT開度が領域2に属している場合に起動される。より具体的には、他のルーチンにより算出されたVNT基本開度が領域2に属している場合に起動される。このルーチンが起動されると、先ず、右バンクのAFM24により検出された新気量Ga_Rが、左バンクのAFM24により検出された新気量Ga_Lに比して多量であるか否かが判別される(ステップ110)。
その結果、Ga_R>Ga_Lの成立が認められた場合は、右バンクの新気量Ga_Rが過剰であると判断され、右バンクのVNT開度を大きくすべく補正が行われる(ステップ112)。本ステップ112では、具体的には、先ず、上記の(2)式に従ってVNT開度補正値が算出される。次に、VNT基本開度にVNT開度補正値を加えた値を右バンクのターボチャージャ14に対するVNT最終開度とし、また、VNT基本開度をそのまま左バンクのVNT最終開度とする処理が行われる。このような処理によれば、右バンクのVNT開度を左バンクのVNT開度より適当に大きくし、右バンクの新気量Gaを適正に減少させることにより、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを小さくすることができる。
一方、上記ステップ110において、Ga_R>Ga_Lの成立が認められなかった場合は、左バンクの新気量Ga_Rが過剰であると判断され、左バンクのVNT開度を大きくすべく補正が行われる(ステップ114)。本ステップ114では、具体的には、先ず、上記の(2)式に従ってVNT開度補正値が算出される。次に、VNT基本開度にVNT開度補正値を加えた値を左バンクに対するVNT最終開度とし、また、VNT基本開度をそのまま右バンクのVNT最終開度とする処理が行われる。このような処理によれば、左バンクのVNT開度を右バンクのVNT開度より適当に大きくし、左バンクの新気量Gaを適正に増加させることにより、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを小さくすることができる。
図7に示すルーチンは、左右のバンクのVNT開度が領域3に属している場合に起動される。より具体的には、他のルーチンにより算出されたVNT基本開度が領域3に属している場合に起動される。このルーチンが起動されると、先ず、右バンクのAFM24により検出された新気量Ga_Rが、左バンクのAFM24により検出された新気量Ga_Lに比して多量であるか否かが判別される(ステップ120)。
その結果、Ga_R>Ga_Lの成立が認められた場合は、左バンクの新気量Ga_Lが不足していると判断され、左バンクのVNT開度を小さくするための補正が行われる(ステップ122)。本ステップ122では、具体的には、先ず、上記の(2)式に従ってVNT開度補正値が算出される。次に、VNT基本開度からVNT開度補正値を減じた値を左バンクのターボチャージャ14に対するVNT最終開度とし、また、VNT基本開度をそのまま右バンクのVNT最終開度とする処理が行われる。このような処理によれば、左バンクのVNT開度を右バンクのVNT開度より適当に小さくし、左バンクの新気量Gaを適正に増加させることにより、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを小さくすることができる。
一方、上記ステップ120において、Ga_R>Ga_Lの成立が認められなかった場合は、右バンクの新気量Ga_Rが不足していると判断され、右バンクのVNT開度を小さくすべく補正が行われる(ステップ124)。本ステップ124では、具体的には、先ず、上記の(2)式に従ってVNT開度補正値が算出される。次に、VNT基本開度からVNT開度補正値を減じた値を右バンクに対するVNT最終開度とし、また、VNT基本開度をそのまま左バンクのVNT最終開度とする処理が行われる。このような処理によれば、右バンクのVNT開度を左バンクのVNT開度より適当に小さくし、右バンクの新気量Gaを適正に増加させることにより、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを小さくすることができる。
以上説明した通り、本実施形態のシステムによれば、左右のバンクの新気量Ga_R,Ga_Lの差errorが消滅するように、左右のバンクに対するVNT開度を補正することができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ターボチャージャの個体差や、DPNRの状態差などに関わらず、バンク毎の新気量Gaを揃えることができ、更に、その結果として、バンク毎のEGR率をも揃えることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、左右のバンクにおける燃焼状態を均一化することが可能であり、内燃機関に対して優れた安定性を付与することができる。
ところで、上述した実施の形態1においては、Ga_R>Ga_Lが成立するか否かに基づき、常に何れかのバンクのVNT開度を補正することとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、VNT開度の補正に関しては、ある程度の不感帯を設けて、新気量Ga_R,Ga_Lの差errorがある程度大きな値になった場合にのみVNT開度に補正を施すこととしても良い。
尚、上述した実施の形態1においては、バンク毎に設けられたEGR弁40が前記第1の発明における「排気ガス還流機構」に相当していると共に、ECU50が、図5乃至図7に示すルーチンを実行することにより、前記第1の発明における「過給機制御手段」が実現されている。また、上述した実施の形態1においては、ターボチャージャ14が備える可変ノズル機構が前記第2の発明における「過給能力可変機能」に、バンク毎に配置されたAFM24が前記第2の発明における「新気量検知手段」に、それぞれ相当していると共に、ECU50が、図5乃至図7に示すルーチンを実行することにより前記第2の発明における「過給能力調整手段」が実現されている。
実施の形態2.
次に、図8および図9を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。図8は、本発明の実施の形態2のシステムの構成を説明するための図である。尚、図8において、図1に示す要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図8に示すシステムは、可変容量式のターボチャージャ14に変えて、電動式のターボチャージャ60を備えている点を除き、実施の形態1のシステムと実質的に同様である。電動式のターボチャージャ60は、可変ノズルを備えていないタービン62を備えていると共に、タービンシャフト20に対して正方向および逆方向のトルクを印加し得るモータ64を備えている。図8に示すシステムは、モータ64を制御する機能を有するECU70を備えている。ECU70は、コンプレッサ16の下流に目標の過給圧が発生するように、モータ64を適当に制御することができる。
上述した実施の形態1のシステムは、左右のバンクの新気量Ga_R,Ga_Lに有意な差errorが認められた場合に、可変容量式ターボチャージャ14のVNT開度を補正することによりその差errorの解消を図っている。これに対して、本実施形態では、その差errorの解消を、モータ60のトルクで解消しようとする点に特徴を有している。
図9は、上記の機能を実現すべく、本実施形態においてECU70が実行するルーチンのフローチャートを示す。尚、ECU50は、これらのルーチンとは別に、EGR弁40の開度(以下、「EGR開度」とする)を制御するためのルーチンを実行するものとする。
図9に示すのルーチンが起動されると、先ず、右バンクのAFM24により検出された新気量Ga_Rが、左バンクのAFM24により検出された新気量Ga_Lに比して多量であるか否かが判別される(ステップ130)。
その結果、Ga_R>Ga_Lの成立が認められた場合は、左バンクの新気量Ga_Lが不足していると判断される。本実施形態では、この場合、左バンクのタービン回転数を高めるべく、左バンクのモータ60に対して駆動信号が供給される(ステップ132)。ここでは、具体的には、先ず、左バンクのモータ60が発生するべき補正トルクが算出される。補正トルクは、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを基礎として、例えば次式に従って算出される。但し、KpおよびKiは、それぞれ比例項および積分項の制御ゲインである。次式によれば、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差をPI制御により消滅させるための補正トルクを算出することができる。
補正トルク=Kp*error+Ki*∫error dt ・・・(3)
上記ステップ132では、更に、(3)式により算出された補正トルクをモータ60に発生させるための駆動信号が生成される。そして、その駆動信号が、左バンクのモータ60に対してのみ供給される。このような処理によれば、左バンクのタービン回転数を適当に上昇させ、左バンクの新気量Gaを適正に増加させることにより、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを小さくすることができる。
一方、上記ステップ130において、Ga_R>Ga_Lの成立が認められなかった場合は、右バンクの新気量Ga_Rが不足していると判断され、右バンクのタービン回転数を高めるべく、右バンクのモータ60に対して駆動信号が供給される(ステップ134)。ここでは、先ず、上記(3)式に従って右バンクのモータ60が発生するべき補正トルクが算出される。次に、その補正トルクを発生させるための駆動信号が右バンクのモータ60に対してのみ供給される。このような処理によれば、右バンクのタービン回転数を適当に上昇させ、右バンクの新気量Gaを適正に増加させることにより、左右の新気量Ga_R,Ga_Lの差errorを小さくすることができる。
以上説明した通り、本実施形態のシステムによれば、左右のバンクの新気量Ga_R,Ga_Lの差errorが消滅するように、バンク毎に配置されたモータ60に適当な補正トルクを発生させることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ターボチャージャの個体差や、DPNRの状態差などに関わらず、バンク毎の新気量Gaを揃えることができ、更に、その結果として、バンク毎のEGR率をも揃えることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、左右のバンクにおける燃焼状態を均一化することが可能であり、内燃機関に対して優れた安定性を付与することができる。
ところで、上述した実施の形態1においては、Ga_R>Ga_Lが成立するか否かに基づき、常に何れかのバンクのモータ60に補正トルクを発生させることとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、補正トルクの発生に関しては、ある程度の不感帯を設けて、新気量Ga_R,Ga_Lの差errorがある程度大きな値になった場合にのみ補正トルクを発生させることとしても良い。
実施の形態3.
[実施の形態3の概要]
次に、図10乃至図17を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。上述した実施の形態1のシステムは、左右のバンクの新気量Ga_R,Ga_Lが均等になるようにVNT開度に補正を施す点に特徴を有している。そして、実施の形態1は、VNT基本開度を演算する手法や、EGR開度を演算する手法には、何ら特徴を有していない。本実施形態の装置は、それらの変数(VNT基本開度およびEGR開度)を、エンジンモデルを用いた下記の手法により効率的に算出する点に特徴を有している。
本実施形態のシステムは、実施の形態1の場合と同様に図1に示すハードウェア構成を用いて実現される。また、本実施形態のシステムは、実施の形態1の場合と同様に、バンク毎にVNT開度を補正することにより、左右のバンクの新気量Ga_R,Ga_Lを均等化する機能を有している。そして、これらの機能を実現するためには、その前提として、バンク毎にVNT基本開度を設定し、更に、バンク毎にEGR開度を設定することが必要である。
VNT基本開度やEGR開度は、例えば、内燃機関の運転状態を表すいくつかの状態変数をパラメータとして、適合により定めることができる。また、内燃機関の状態を表すいくつかの状態変数をパラメータとして、実現すべきVNT開度やEGR開度を導くための物理モデルが構築できれば、VNT基本開度やEGR開度は、その物理モデルを用いて算出することが可能である。
しかしながら、ここで用いられるような複雑なシステムにおいて、VNT基本開度やEGR開度を適合により定めるためには、多大な適合工数が必要である。また、状態パラメータからそれらの変数を導くためのモデルを構築することも、極めて困難である。これに対して、VNT開度やEGR開度を入力として、内燃機関の状態変数を導くエンジンモデルは、比較的容易に構築することができる。
図10は、そのようなエンジンモデルの一例を示したものである。ここでは、VNT開度、スロットル開度、燃料噴射量およびEGR開度がエンジンモデルブロック80に対する入力パラメータとされている。また、内燃機関の各部における温度、圧力およびガス流量がエンジンモデルブロック80により得られる状態変数とされている。本実施形態において、ECU50には、図10に示すエンジンモデルブロック80が実装されている。ECU50は、このエンジンモデル80を利用して、VNT基本開度およびEGR開度を算出する。
図11は、本実施形態において、ECU50がVNT基本開度およびEGR開度を算出する手法を説明するための制御ブロック図である。図11に示すように、ECU50には、エンジンモデルブロック80の他、基本制御ブロック82が実装されている。基本制御ブロック82は、内燃機関の状態を制御するための基本ロジックを実行するブロックである。本実施形態では、基本制御ブロック82により、少なくとも燃料噴射量qfおよびスロットル開度TA、並びに、目標新気流量Gatgtおよび目標吸気マニホールド圧力Pintgtが算出される。
ECU50には、また、偏差演算器84と制御器86が実装されている。上述した基本制御ブロックにより算出される制御量のうち、燃料噴射量とスロットル開度はエンジンモデルブロック80に直接供給される。エンジンモデルブロック80は、それらの入力を基礎とするモデル演算を行って、新気流量Gaのモデル演算値(以下、「モデル計算新気流量Ga_m」と称す)および吸気マニホールド圧力Pinのモデル演算値(以下、「モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_m」と称す)を含む複数の状態変数を演算する。
エンジンモデルブロック80により算出された状態変数のうち、少なくともモデル計算新気流量Ga_mとモデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mとは、偏差演算器84に供給される。偏差演算器84には、これらの状態変数に加えて、基本制御ブロック82において演算された目標新気量Gatgtおよび目標吸気マニホールド圧力Pintgtが供給されている。そして、偏差演算器84は、モデル計算新気流量Ga_mと目標新気量Gatgtとの差、つまり新気量偏差ΔGaと、モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mと目標吸気マニホールド圧力Pintgtとの差、つまり、吸気マニホールド圧偏差ΔPinとを算出する。
偏差演算器84によって算出された新気量偏差ΔGaおよび吸気マニホールド圧偏差ΔPinは、制御器86に供給される。制御器86は、VNT基本開度とEGR開度を算出するためのブロックである。ここで算出されたVNT基本開度およびEGR開度は、エンジンモデルブロック80に供給されると共に、ターボチャージャ14およびEGR弁40の実機を制御するためのVNT基本開度およびEGR開度として用いられる。
以上説明した制御の流れにおいて、エンジンモデルブロック80は、基本制御ブロック82により算出された燃料噴射量およびスロットル開度と、制御器86により算出されたVNT基本開度およびEGR開度とを基礎として、モデル計算新気流量Ga_mとモデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mを演算する。モデル計算新気流量Ga_mは、タービン回転数が高いほど大きな値に算出される状態変数である。このため、モデル計算新気流量Ga_mが目標新気量Gatgtより少量であれば、タービン回転数が不足していることになる。一方、モデル計算新気流量Ga_mが目標新気量Gatgtを上回っていれば、タービン回転数が過剰であると判断できる。制御器86は、これらの場合に、モデル計算新気流量Ga_mが目標新気量Gatgtと一致するように、つまり、タービン回転数の過不足が解消されるように、VNT基本開度を適当に増減させる。その結果、制御器86によれば、最終的には、目標新気量Gatgtを発生させるVNT基本開度を算出することができる。
モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mは、EGR量が多量であるほど大きな値に算出される状態変数である。このため、モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mが目標吸気マニホールド圧力Pintgtより低圧であれば、EGR量が不足していることになる。一方、モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mが目標吸気マニホールド圧力Pintgtを上回っていれば、EGR量が過剰であると判断できる。制御器86は、これらの場合に、モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mが目標吸気マニホールド圧力Pintgtと一致するように、つまり、EGR量の過不足が解消されるように、EGR開度を適当に増減させる。その結果、制御器86によれば、最終的には、目標吸気マニホールド圧力Pintgtを発生させるEGR開度を算出することができる。
[実施の形態3におけるエンジンモデルの概要]
図12は、本実施形態で用いられるエンジンモデルの概要を説明するための図である。複数のバンクを有する内燃機関についてエンジンモデルを構築するにあたっては、(1)左右のバンクのそれぞれにつきモデルを設定したり、(2)左右のバンクの状態を均等に考慮したモデルを設定したり、更には、(3)一方のバンクのモデルを双方のバンクの状態を代表するモデルとして設定することが考えられる。ここでは、説明の便宜上、エンジンモデルが(3)の思想に則って構築されているものとする。
図12に示すエンジンモデルは、図1に示すシステムが一方のバンクに対応して備えている構成に対応している。但し、図12に示すモデルにおいては、コンプレッサ16の下流の空間、つまり、スロットルバルブ26の上流の空間を「コンプレッサ下流空間90」と称することとする。図12において、コンプレッサ下流空間90を除く他の要素については、図1と符号を共通化することによりここでの説明を省略する。
図12に示すエンジンモデルには、コンプレッサ下流空間90の圧力Pcompや温度Tcomp、吸気マニホールド28の圧力Pinや温度Tin、更には排気マニホールド34の圧力Pexや温度Texなど、内燃機関の運転状態に応じて変化する種々の状態変数を算出するためのモデルが含まれている。以下、それらのモデルの内容を順次説明する。尚、以下の記載において、あるパラメータ(例えば、「mcomp」)の微分値を示す必要がある場合には、便宜上「ドット」の添え字を付してその値(例えば「mドットcomp」)を示すものとする。
(コンプレッサ下流空間モデル)
エンジンモデル16には、「コンプレッサ下流空間モデル」が実装されている。このモデルは、コンプレッサ下流空間90におけるガスの流入出量およびエネルギの流入出量から、その空間内の圧力Pcomp、温度Tcompおよびガス質量Mcompを算出するためのモデルである。
図13は、コンプレッサ下流空間90におけるガスおよびエネルギの収支を説明するための図である。図13中に楕円で示す空間は、コンプレッサ下流空間90を模式的に表したものである。また、図13に示すmドットcompおよびeドットcompは、それぞれ、コンプレッサ16を通過してコンプレッサ下流空間90に流入してくるガス流量、およびそのガスが有するエンタルピである。更に、mドットthおよびeドットthは、それぞれ、スロットルバルブ26を通過してコンプレッサ下流空間90から流出するガス流量、およびそのガスが有するエンタルピである。
コンプレッサ下流空間90の内部では、コンプレッサ流通ガス流量mドットcompと、スロットル流通ガス流量mドットthと、空間内のガス質量Mcompとの間に質量保存の法則が成立する。この法則は、次式のように表すことができる。
dMcomp/dt=Mドットcomp
=mドットcomp−mドットth ・・・(4)
また、コンプレッサ下流空間90の内部では、エネルギの収支に対してエネルギ保存の法則が成立する。この法則は、次式のように表すことができる。
(ν/2)・Rv・(Mドットcomp・Tcomp+Mcomp・Tドットcomp)
=eドットcomp−eドットth ・・・(5)
但し、上記(5)式において、「Rv」はガス定数であり、「ν」はコンプレッサ下流空間90の上流におけるガスの自由度である。自由度νは、ガスの比熱比と相関を有する値である。ここでは、νは一定であるものとして演算を行うが、ガスの組成や温度などに基づいてその値を厳密に計算することとしてもよい(この点、以下のモデルも同様)。
コンプレッサ下流空間90の内部では、更に、以下に示す気体の状態方程式が成立する。
Pcomp・Vcomp=Mcomp・Rv・Tcomp ・・・(6)
上記の(4)、(5)および(6)式において、自由度ν、ガス定数Rvおよび空間容積Vcompは固定値である。このため、コンプレッサ流通ガス流量mドットcompおよびコンプレッサ流通エンタルピeドットcomp、並びにスロットル流通ガス流量mドットthおよびスロットル流通エンタルピeドットthが判明すれば、関係式(4)乃至(6)を解くことにより、コンプレッサ下流空間90におけるガス質量Mcomp、温度Tcompおよび圧力Pcompを算出することができる。
コンプレッサ流通ガス流量mドットcompおよびコンプレッサ流通エンタルピeドットcompは、後述する「コンプレッサガスモデル」により算出することができる。また、スロットル流通ガス流量mドットthおよびスロットル流通エンタルピeドットthは、後述する「スロットルモデル」により算出することができる。コンプレッサ下流空間モデルでは、それらのモデルで算出されたmドットcompおよびeドットcomp、並びにmドットthおよびeドットthを、上記(4)式乃至(6)式に代入することで、コンプレッサ下流空間90におけるMcomp、TcompおよびPcompが算出される。
(スロットルモデル)
エンジンモデル16には、「スロットルモデル」が実装されている。このモデルは、コンプレッサ下流空間90の温度Tcompおよび圧力Pcomp、スロットルの有効開度Ath、並びに吸気マニホールド圧力Pinに基づいて、スロットル流通ガス流量mドットth、およびスロットル流通エンタルピeドットthを算出するためのモデルである。
スロットル流通ガス流量mドットthは、圧縮性流体の一般式により、次式の通り表すことができる。但し、次式において、「κ」はガスの比熱比である。
また、スロットル流通エンタルピeドットthは、エンタルピの一般式により、次式の通り表すことができる。但し、次式における「ρcomp」は、コンプレッサ下流空間90におけるガス密度であり、コンプレッサ下流圧力Pcompとコンプレッサ下流温度Tcompより、ρcomp=Pcomp/(Rv・Tcomp)として算出される値である。
上記の(7)式および(8)式によれば、コンプレッサ下流空間90の圧力Pcompと温度Tcomp、並びに吸気マニホールド圧力Pinが決まれば、スロットル流通ガス流量mドットthおよびスロットル流通エンタルピeドットthを算出することができる。PcompとTcompは、既述したコンプレッサ下流空間モデルにより算出することができる。一方、Pinは、後述する吸気マニホールドモデルにより算出することができる。スロットルモデルでは、それらのモデルで算出されたPcomp、TcompおよびPinを、上記(7)式および(8)式に代入することで、スロットル流通ガス流量mドットthおよびスロットル流通エンタルピeドットthが算出される。
(吸気マニホールドモデル)
エンジンモデル16には、「吸気マニホールドモデル」が実装されている。このモデルは、吸気マニホールド28におけるガスおよびエネルギの収支より、その内部におけるガス質量Min、圧力Pinおよび温度Tinを算出するためのモデルである。
図14は、吸気マニホールド28におけるガスおよびエネルギの収支を説明するための図である。図14中に楕円で示す空間は、吸気マニホールド28を模式的に表したものである。また、mドットcylおよびeドットcylは、それぞれ、吸気マニホールド28から気筒32内に流入するガス流量、およびそのガスが有するエンタルピであり、mドットegrおよびeドットegrは、それぞれ、EGR弁40を通過して排気側から吸気マニホールド28に流入してくるガス流量、およびそのガスが有するエンタルピである。
吸気マニホールド28の内部では、ガスの流入出量とガス質量Minとの間に質量保存の法則が成立する。この法則は、次式のように表すことができる。
dMin/dt=Mドットin
=mドットth−mドットcyl+mドットegr ・・・(9)
また、吸気マニホールド28の内部では、エネルギの収支に対してエネルギ保存の法則が成立する。この法則は、ガス定数Rvおよび自由度νを用いて次式のように表すことができる。
(ν/2)・Rv・(Mドットin・Tin+Min・Tドットin)
=eドットth−eドットcyl+eドットegr ・・・(10)
吸気マニホールド28の内部では、更に、以下に示す気体の状態方程式が成立する。
Pin・Vin=Min・Rv・Tin ・・・(11)
上記の(9)、(10)および(11)式において、自由度ν、ガス定数Rvおよび空間容積Vinは固定値である。このため、スロットルバルブ26を通過するガス流量mドットthおよびエンタルピeドットth、気筒32内に流入するガス流量mドットcylおよびエンタルピeドットcyl、更には、EGR弁40を通過するガス流量mドットegrおよびエンタルピeドットegrが判明すれば、関係式(9)乃至(11)を解くことにより、吸気マニホールド28内のガス質量Min、温度Tinおよび圧力Pinを算出することができる。
スロットル流通ガス流量mドットthおよびスロットル流通エンタルピeドットthは、上述した「スロットルモデル」により算出することができる。また、筒内流入ガス流量mドットcylおよび筒内流入エンタルピeドットcylは、後述する「筒内流入モデル」により算出することができる。更に、EGRガス流量mドットegrおよびEGRエンタルピeドットegrは、後述する「EGRモデル」により算出することができる。吸気マニホールドモデルでは、それらのモデルで算出されたモデル演算値を上記(9)式乃至(11)式に代入することで、吸気マニホールド28におけるMin、TinおよびPinが算出される。
(筒内流入モデル)
エンジンモデル16には、「筒内流入モデル」が実装されている。このモデルは、内燃機関の運転状態、吸気マニホールド圧力Pin、および吸気マニホールド温度Tinに基づいて筒内に流入するガス流量mドットcylおよびエンタルピeドットcylを算出するためのモデルである。
内燃機関10の筒内に流入するガスの質量流量mドットcylは、内燃機関10の運転状態と吸気マニホールド圧力Pinにより、ほぼ一義的に決定される。例えば、そのガス流量mドットcylは、機関回転数Neを用いて次式のように表すことができる。
mドットcyl=(Ka・Pin+Kb)・Ne ・・・(12)
但し、上記(12)式において、KaおよびKbは、それぞれ内燃機関10の運転状態に応じて適宜設定される変数である。ECUは、それらを設定するためのマップを記憶しており、そのマップを参照することで、現在の運転状態に応じた適切なKaおよびKbを設定する。ここで、ECUは、例えば内燃機関10の負荷率KLを、KaおよびKbを決めるための運転状態の特性値として考慮する。尚、ここで考慮すべき変数は、負荷率KLに限定されるものではなく、バルブタイミングが可変であるような場合には、そのタイミングをも考慮してKa、Kbを決めることとしてもよい。
KaおよびKbを決めるために考慮すべき変数の値は、基本制御ブロック82から、或いは内燃機関10のセンサから供給される。筒内流入モデルは、このようにして供給される変数に基づいてKaおよびKBを決定することができる。また、吸気マニホールド圧力Pinは、既述した吸気マニホールドモデルにより算出することができる。更に、機関回転数Neは、後述する「排気エンタルピモデル」において算出されるクランクシャフト回転速度ωcを換算することで得ることができる。このため、筒内流入モデルは、上記(12)式に従って、筒内流入ガス流量mドットcylを算出することができる。
筒内流入エンタルピeドットcylは、エンタルピの一般式により、次式の通り表すことができる。但し、次式における「ρin」は、吸気マニホールド28におけるガス密度であり、吸気マニホールド28における圧力Pinと温度Tinより、ρin=Pin/(Rv・Tin)として算出される値である。
mドットcylは上記(12)式により算出することができる。また、吸気マニホールド28の圧力Pinおよび温度Tinは、既述した吸気マニホールドモデルにより算出することができる。このため、筒内流入モデルは、上記(13)式に従って、筒内流入エンタルピeドットcylを算出することができる。
(排気ガス流量モデルおよび排気エンタルピモデル)
エンジンモデル16には、「排気ガス流量モデル」および「排気エンタルピモデル」が実装されている。図15は、これらのモデルの内容を説明するための図、より具体的には、筒内におけるガスの質量流量の収支、およびエネルギの収支を説明するための図である。
内燃機関10の筒内では、筒内に流入するガスの流量mドットcylと、燃料燃料量qfと、排気ガス流量mドットexとの間に質量保存の法則が成立する。つまり、筒内流入ガス流量mドットcylと、燃料噴射量qfと、排気ガス流量mドットexとの間では、以下に示す関係が成立する(図4参照)。
mドットex=mドットcyl+qf ・・・(14)
上記(14)式中、mドットcylは既述した筒内流入モデルにより算出することができる。また、qfは基本制御ブロック82により算出される。このため、排気ガス流量モデルは、それらの値を(14)式に代入することで、排気ガス流量mドットexを算出することができる。
内燃機関10の筒内では、また、エネルギ保存の法則が成立する。以下に示す関係式は、排気マニホールドに排出されるガスが有するエンタルピ、つまり排気エンタルピeドットexを、その法則に則って表した式である(図15参照)。
eドットex=eドットcyl+eドットqf−Wドットcrank−eドットloss
・・・(15)
上記(14)式中、eドットcylは、つまり、筒内流入ガスのエンタルピは、既述した筒内流入モデルにより算出することができる。eドットqfは、筒内に噴射された燃料が燃焼することで発生するエネルギである。この値eドットqfは、燃料噴射量qfの関数として、より具体的には、例えばqfに係数Kを掛け合わせることなどにより算出することができる。
Wドットcrankは、ピストンが外部にするエネルギである。この値は、内燃機関10の発するトルクTorqに、クランクシャフトの角速度ωcを掛け合わせることにより、次式の通り算出することができる。
Wドット=Torq・ωc ・・・(16)
内燃機関10がディーゼル機関である場合は、トルクTorqは、燃料噴射量qfによりほぼ一義的に決定される。また、内燃機関10がガソリン機関である場合は、トルクTorqは、燃料噴射量qf、混合気の空燃比A/F、および点火時期AOPによりほぼ決定される。このため、上記(16)式中、トルクTorqは、例えば、内燃機関10の種類に応じて以下のようなマップを参照することにより算出することができる。
Diesel機関の場合:Torq=MAP(qf)
ガソリン機関の場合:Torq=MAP(qf, A/F, AOP) ・・・(17)
クランクシャフトの角速度ωcについては、以下に示す関係式が成立する。但し、この式において、Icはクランクシャフト周りの慣性モーメントであり、Tloadはクランクシャフトに作用する負荷トルクTloadである。
Ic・ωドットc=Torq−Tload ・・・(18)
上記(18)式中、慣性モーメントIcは、既定値として扱うことができる。また、Torqは、上記(17)式のマップにより求めることができる。更に、負荷トルクTloadは、車速SPDと変速機のシフト位置とに基づいて推定することができる。ここで、シフト位置については、ECUの指令を見ることで検知が可能である。また、車速SPDは、クランクシャフトの角速度ωc(ここでは、算出済みの値を用いる)とシフト位置とに基づいて算出することができる。このため、ECUは、上記(18)式の関係を特定することができ、更に、その関係式を解くことでクランクシャフトの角速度ωcを算出することができる。そして、その値ωcを上記(16)式に代入すると、外部への仕事エネルギWcrankを算出することができる。
上記(15)式中、eドットlossは、熱などにより外部に放出される損失エネルギである。その値は、例えば機関回転数Ne等を基礎としてマップ化することができる。そして、機関回転数Neは、上記の手法で演算されたクランクシャフトの角速度ωcに基づいて演算することが可能である。このため、ECUは、損失エネルギeドットlossを演算により求めることができる。
以上説明した通り、上記(15)式中、右辺に含まれる全ての項は、ECUの内部で演算により求めることができる。そして、排気エンタルピモデルは、それらの演算値を(15)式に代入することにより、排気エンタルピeドットexを算出する。
(排気マニホールドモデル)
エンジンモデル16には、「排気マニホールドモデル」が実装されている。このモデルは、排気マニホールド34におけるガスおよびエネルギの収支より、その内部におけるガス質量Mex、圧力Pexおよび温度Texを算出するためのモデルである。
図16は、排気マニホールド34におけるガスおよびエネルギの収支を説明するための図である。図16中に楕円で示す空間は、排気マニホールド34を模式的に表したものである。また、mドットturbおよびeドットturbは、それぞれ、タービン18を通って排気マニホールド34から流出するガス流量、およびそのガスが有するエンタルピである。
排気マニホールド34の内部では、ガスの流入出量とガス質量Mexとの間に質量保存の法則が成立する。この法則は、次式のように表すことができる。
dMex/dt=Mドットex
=mドットex−mドットturb−mドットegr ・・・(19)
また、排気マニホールド34の内部では、エネルギの収支に対してエネルギ保存の法則が成立する。この法則は、ガス定数Rvおよび自由度νを用いて次式のように表すことができる。
(ν/2)・Rv・(Mドットex・Tex+Mex・Tドットex)
=eドットex−eドットturb−eドットegr ・・・(20)
排気マニホールド34の内部では、更に、以下に示す気体の状態方程式が成立する。
Pex・Vex=Mex・Rv・Tex ・・・(21)
上記の(19)、(20)および(21)式において、自由度ν、ガス定数Rvおよび空間容積Vexは固定値である。このため、排気ガス流量mドットexおよび排気エンタルピeドットex、タービン流通ガス流量mドットturbおよびタービン流通エンタルピeドットturb、更には、EGRガス流量mドットegrおよびEGRエンタルピeドットegrが判明すれば、関係式(19)乃至(21)を解くことにより、排気マニホールド34内のガス質量Mex、温度Texおよび圧力Pexを算出することができる。
排気ガス流量mドットexおよび排気エンタルピeドットexは、上述した「排気ガス流量モデル」および「排気エンタルピモデル」により算出することができる。また、タービン流通ガス流量mドットturbおよびタービン流通エンタルピeドットturbは、後述する「タービンガスモデル」により算出することができる。更に、更に、EGRガス流量mドットegrおよびEGRエンタルピeドットegrは、後述する「EGRモデル」により算出することができる。排気マニホールドモデルでは、それらのモデルで算出されたmドットexおよびeドットex、並びにmドットturbおよびeドットturbを、上記(19)式乃至(21)式に代入することで、排気マニホールド34におけるMex、TexおよびPexが算出される。
(EGRモデル)
エンジンモデル16には、「EGRモデル」が実装されている。このモデルは、排気マニホールド34の温度Texおよび圧力Pex、EGR弁40の有効開度Aegr、並びに吸気マニホールド圧力Pinに基づいて、スロットル流通ガス流量mドットth、およびスロットル流通エンタルピeドットthを算出するためのモデルである。
EGRガス流量mドットegrは、上述したスロットル流通ガス流量mドットthの場合と同様の原理で、圧縮性流体の一般式より算出することができる。次式は、その一般式をEGR弁40の周辺の状況に当てはめることで得られる演算式である。
また、スロットル流通エンタルピeドットthは、エンタルピの一般式により、次式の通り表すことができる。但し、次式における「ρex」は、排気マニホールド34におけるガス密度であり、排気マニホールド圧力Pexと排気マニホールド温度Texより、ρex=Pex/(Rv・Tex)として算出される値である。
上記の(22)式および(23)式によれば、排気マニホールド34の圧力Pexと温度Tex、並びに吸気マニホールド28の圧力Pinが決まれば、EGRガス流量mドットegrおよびEGRエンタルピeドットegrを算出することができる。PexとTexは、既述した排気マニホールドモデルにより算出することができる。一方、Pinは、上記の吸気マニホールドモデルにより算出することができる。EGRモデルでは、それらのモデルで算出されたPex、TexおよびPinを、上記(22)式および(23)式に代入することで、スロットル流通ガス流量mドットthおよびスロットル流通エンタルピeドットthが算出される。
(タービンガスモデル)
エンジンモデル16には、「タービンガスモデル」が実装されている。このモデルは、タービン30前後の圧力比や、タービンシャフト回転数ωs、更には、タービン内部におけるVNT開度などに基づいて、タービン通過ガス流量mドットturbと、タービン通過エンタルピeドットturbとを算出するためのモデルである。
本実施形態のシステムにおいて、タービン30を流れるガス流量mドットturbは、タービン30前後の圧力比、つまり、排気マニホールド圧力Pexと大気圧力Patmとの比と、タービン回転数、つまり、タービンシャフト20の角速度ωsと、VNT開度とによりほぼ決定される。排気マニホールド圧力Pexは上記の排気マニホールドモデルにより算出することができ、大気圧力Patmは大気圧センサにより検知することができる。また、タービンシャフト20の角速度ωsは、後述する「シャフト回転数モデル」により算出することができる。更に、VNT開度は、ECU50により算出される指令値である。タービンガスモデルは、PexとPatmの比、タービンシャフト20の角速度ωs、およびVNT開度を軸とするmドットturbのマップを含んでおり、そのマップにそれらの変数を当てはめることにより、タービン通過ガス流量mドットturbを算出する。
タービン30を通過するガスが有するエンタルピeドットturbは、エンタルピの一般式により、次式の通り表すことができる。但し、次式における「ρex」は、排気マニホールド34におけるガス密度であり、排気マニホールド34における圧力Pexと温度Texより、ρex=Pex/(Rv・Tex)として算出される値である。
mドットturbは、上記の如くマップを参照することで算出できる。また、排気マニホールド34の圧力Pexおよび温度Texは、既述した排気マニホールドモデルにより算出することができる。このため、タービンガスモデルは、上記(24)式に従って、タービン通過エンタルピeドットturbを算出することができる。
(シャフト回転数モデル)
エンジンモデル16には、「シャフト回転数モデル」が実装されている。このモデルは、タービン30がタービンシャフト20に及ぼす機械エネルギLturbと、コンプレッサ16がタービンシャフト20から受け取る機械エネルギLcompとに基づいてタービンシャフトの角速度ωsを算出するためのモデルである。
タービンシャフト20の角速度ωsについては、以下に示す関係式が成立する。但し、この式において、Isはタービンシャフト20周りの慣性モーメントである。また、Torqtは、タービン30からタービンシャフト20に与えられるトルクであり、Torqcは、タービンシャフト20からコンプレッサ16に与えられるトルクである。
Is・ωドットs=Torqt−Torqc ・・・(25)
Torqtは、タービン30がタービンシャフト20に与える機械的エネルギLturbと、タービンシャフト20の角速度ωsとにより、以下のように表すことができる。
Torqt=Lturb/ωs ・・・(26)
同様に、Torqcは、コンプレッサ16がタービンシャフト20から受ける機械的エネルギLcompと、タービンシャフト20の角速度ωsとにより、以下のように表すことができる。
Torqc=Lcomp/ωs ・・・(27)
従って、LturbとLcompが判明すれば、それらを、タービンシャフト20の角速度ωs(ここでは、算出済みの値を用いる)と共に上記(25)式に当てはめることにより、タービンシャフト20の角加速度ωドットsを算出することができる。そして、その値を積分すれば、角速度ωsを算出(更新)することができる。タービン30の発する機械エネルギLturbは、後述する「タービンモデル」により算出することができる。また、コンプレッサ16の受ける機械エネルギLcompは、後述する「コンプレッサモデル」により算出することができる。シャフト回転数モデルは、それらを(25)式に代入することにより、タービンシャフト20の角速度ωs(つまり回転数)を算出する。
(タービンモデル)
エンジンモデル16には、「タービンモデル」が実装されている。このモデルは、タービン30周りのエネルギの釣り合いから、タービン30の発する機械エネルギLturbを算出するためのモデルである。ここで、タービン30周りのエネルギの釣り合いは、以下のように表すことができる。但し、次式において、κは比熱比であり、ηtはタービン効率である。
上記(28)式中、mドットturbは既述したタービンガスモデルにより算出することができる。また、TexおよびPexは排気マニホールドモデルにより算出することができ、更に、Patmは大気圧センサにより実測することができる。そして、ECUは、タービンシャフト20の角速度ωs(回転数)とVNT開度との関係でタービン効率ηtを定めたマップを記憶しており、このマップを参照することで、ηtを算出することができる。タービンモデルは、それらの算出値や検出値を上記(28)式に代入することにより、タービン30が発する機械的エネルギLturbを算出する。このようにして算出されたLturbは、既述した通り、シャフト回転数モデルにおける演算の基礎として利用される。
(コンプレッサモデル)
エンジンモデル16には、「コンプレッサモデル」が実装されている。このモデルは、コンプレッサ16周りのエネルギの釣り合いから、コンプレッサ16がタービンシャフト20から受け取る機械エネルギLcompを算出するためのモデルである。ここで、コンプレッサ16周りのエネルギの釣り合いは、以下のように表すことができる。但し、次式において、κは比熱比であり、ηcはコンプレッサ効率である。
上記(29)式中、mドットcompは後述するコンプレッサガスモデルにより算出することができる。また、TatmおよびPatmは、それぞれ大気温センサおよび大気圧センサにより検出することができる。更に、Pcompは、既述したコンプレッサ下流空間モデルにより算出することができる。そして、ECUは、タービンシャフト20の角速度ωs(回転数)とコンプレッサ効率ηcとの関係を定めたマップを記憶しており、このマップを参照することで、ηcを算出することができる。コンプレッサモデルは、それらの算出値や検出値を上記(27)式に代入することにより、コンプレッサ16が受け取る機械的エネルギLcompを算出する。このようにして算出されたLcompは、既述した通り、シャフト回転数モデルにおける演算の基礎として利用される。
(コンプレッサガスモデル)
エンジンモデル16には、「コンプレッサガスモデル」が実装されている。このモデルは、大気圧力Patm、大気温度Tatm、コンプレッサ下流圧力Pcomp、およびタービンシャフト20の角速度ωs(回転数)に基づいて、コンプレッサ通過ガス流量mドットcompと、コンプレッサ通過エンタルピeドットcompとを算出するためのモデルである。
コンプレッサ16を流れるガス流量mドットcompは、コンプレッサ16前後の圧力比、つまり、大気圧力Patmとコンプレッサ下流圧力Pcompとの比、およびコンプレッサ回転数、つまり、タービンシャフト20の角速度ωsによりほぼ決定される。大気圧力Patmは大気圧センサにより実測することができ、一方、コンプレッサ下流圧力Pcompは既述したコンプレッサ下流空間モデルにより算出することができる。更に、タービンシャフト20の角速度ωsは、上述した「シャフト回転数モデル」により算出することができる。コンプレッサガスモデルは、PatmとPcompとの比、および角速度ωsを軸とするmドットcompのマップを含んでおり、そのマップに圧力比Patm/Pcompおよびωsを当てはめることにより、コンプレッサ16を通過するガス流量mドットcompを算出する。
コンプレッサ16を通過するガスが有するエンタルピeドットcompは、エンタルピの一般式により、次式の通り表すことができる。但し、次式における「ρatm」は、コンプレッサ16上流におけるガス密度、つまり大気におけるガス密度であり、大気圧力Patmと大気温度Tatmより、ρatm=Patm/(Rv・Tatm)として算出される値である。
mドットcompは、上記の如くマップを参照することで算出できる。また、大気圧力Patmおよび大気温度Tatmは、それぞれ大気圧センサおよび大気温センサにより実測することができる。このため、コンプレッサガスモデルは、上記(30)式に従って、コンプレッサ16を通過するガスが有するエンタルピeドットcompを算出することができる。
このようにして算出されたコンプレッサ流通ガス流量mドットcomp、およびコンプレッサ流通エンタルピeドットcompは、上述したコンプレッサ下流空間モデルにおける演算の基礎とされる(上記(4)式および(5)式参照)。また、コンプレッサ流通ガス流量mドットcompについては、更に、既述したコンプレッサモデルでの演算の基礎ともされる(上記(29)式参照)。
既述した全てのモデルは、以上説明した通り、所望の演算を行う上で必要な全ての変数を基本制御ブロック82から、或いは他のモデルより、更にはセンサによる実測値として取得することができる。より具体的には、エンジンモデルブロック80に含まれる全てのモデルは、燃料噴射量qf、スロットル有効開度Ath、VNT開度、およびEGR開度Aegrが外部から供給されることにより、互いに他のモデルの演算値を基礎として順次モデル演算を進めることのできるループを構成している。そして、図11に示すように、本実施形態におけるECU50は、エンジンモデルブロック80に対して、燃料噴射量qf、スロットル有効開度Ath、VNT基本開度、およびEGR開度Aegrを供給することができるように構成されている。
更に、エンジンモデルブロック80の内部でループを形成しているモデルにより演算されるいくつかのモデル演算値は、初期値を既知のものとして扱うことができる。具体的には、例えば、シャフト回転数モデルにより算出されるべきタービンシャフト20の角速度ωsについては、その初期値はゼロとして扱うことができる。また、各部を流れるガス流量(「mドットx」とする)やエンタルピ(「eドットx」とする)についても、その初期値はゼロとして扱うことができる。更に、吸気マニホールド圧力Pinや排気マニホールド圧力Pex、或いは吸気マニホールド温度Texや排気マニホールド温度Texについては、その初期値を大気圧力Patmまたは大気温度Tatmと扱うことができる。
このため、エンジンモデルブロック80は、内燃機関10の始動と同時に既知の初期値を用いてモデル演算を開始することにより、既述した全てのモデルにおいて、所望の演算処理を進めることができ、内燃機関10の運転中に各部において生ずるガス流量mドットxや、圧力Px、更には温度Txなどを逐次精度良く算出することができる。そして、エンジンモデルブロック80がこのような機能を有していることから、図11に示す制御ブロックによれば、新気量Gaを目標値Gatgtに一致させるVNT基本開度と、吸気マニホールド圧力Pinを目標値Pintgtに一致させるEGR開度を、精度良く設定することができる。
[ECUが実行する具体的処理]
図17は、VNT基本開度およびEGR開度を上記の如く算出するためにECU50が実行するルーチンのフローチャートを示す。図17に示すルーチンでは、先ず、エンジンモデルブロック80に対して供給すべき指令の入力処理が行われる(ステップ140)。具体的には、本ステップ140においては、基本制御ブロック82の機能により算出された燃料噴射量qfとスロットル開度Ath、並びに前回の処理サイクルにおいて制御器86の機能により算出されたVNT基本開度およびEGR開度が、エンジンモデルに入力される。
次に、エンジンモデルブロック80の機能を実現するための処理、つまり、入力された指令に基づいて既述した各種のモデル演算を行う処理が実行される(ステップ142)。その結果、モデル計算新気流量Ga_m(つまり、コンプレッサ流通ガス流量mドットcompのモデル演算値)、およびモデル計算吸気マニホールド圧力Pin_m(つまり、吸気マニホールド圧力Pinのモデル演算値)を含む複数の状態変数が演算される。
次いで、偏差演算器84の機能を実現すべく、新気量偏差ΔGa、および吸気マニホールド圧偏差ΔPinが順次算出される(ステップ144,146)。具体的には、ステップ144では、基本制御ブロック82の機能により算出された目標新気流量Gatgtからモデル計算新気流量Ga_m(コンプレッサ流通ガス流量mドットcompのモデル演算値)を減ずることにより新気量偏差ΔGaが算出される。また、ステップ146では、基本制御ブロック82の機能により算出された目標吸気マニホールド圧力Pintgtからモデル計算吸気マニホールド圧力Pin_m(吸気マニホールド圧力Pinのモデル演算値)を減ずることにより吸気マニホールド圧力偏差ΔPinが算出される。
次に、制御器86の機能を実現すべく、EGR開度とVNT基本開度とが順次算出される(ステップ148,150)。具体的には、ステップ148では、先ず、新気量偏差ΔGaがEGR係数K_EGRに掛け合わされることにより、EGR開度の修正値ΔEGR=K_EGR*ΔGaが算出される。そして、その修正値ΔEGRが現在のEGR開度から減じられることにより、最新のEGR開度が算出される。修正値ΔEGRは、モデル計算新気流量Ga_mが過小であるほど大きな値となることから、EGR開度はGa_mが過小であるほど大きく閉じられる。EGR開度が小さくなるほど新気量Gaは増えるため、更新後のEGR開度によれば、モデル計算新気流量Ga_mを目標値Gatgtに近づけることができる。
また、上記ステップ150では、先ず、吸気マニホールド圧偏差ΔPinがVNT係数K_VNTに掛け合わされることにより、VNT基本開度の修正値ΔVNT=K_VNT*ΔPinが算出される。そして、その修正値ΔVNTが現在のVNT基本開度から減じられることにより、最新のVNT基本開度が算出される。修正値ΔVNTは、モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mが過小であるほど大きな値となることから、VNT基本開度はPin_mが過小であるほど大きく閉じられる。VNT基本開度が小さくなるほどターボチャージャ14の過給能力が高まって吸気マニホールド圧Pinが上昇する。このため、更新後のVNT基本開度によれば、モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mを目標値Pintgtに近づけることができる。
以上説明した通り、図7に示すルーチンによれば、エンジンモデルブロック80により算出されるモデル演算値を利用して、新気量Gaおよび吸気マニホールド圧力Pinをそれぞれ目標値Gatgt、Pintgtに一致させ得るVNT基本開度、およびEGR開度を算出することができる。つまり、図7に示すルーチンによれば、多大な工数を必要とする適合処理等を行うことなく、内燃機関の状態に応じてVNT基本開度およびEGR開度を適切に設定する機能を実現することができる。このため、本実施形態のシステムは、それらの設定を適合等に頼るシステムに比して、簡単に実現することが可能である。
ところで、上述した実施の形態2においては、新気量Gaの偏差ΔGaを基礎としてVNT基本開度を設定することとしているが、その設定の基礎は、ΔGaに限定されるものではない。すなわち、VNT基本開度の設定は、VNT開度と相関を有する状態変数の何れかを基礎として行えば良く、例えば、タービン回転数(ωs)のモデル演算値と目標値との偏差Δωs、或いは、機械エネルギLturbのモデル演算値と目標値との偏差などを基礎としてその設定を行うこととしてもよい。
また、上述した実施の形態2においては、吸気マニホールド圧力Pinの偏差ΔPinを基礎としてEGR開度を設定することとしているが、その設定の基礎は、ΔPinに限定されるものではない。すなわち、EGR開度の設定は、EGR開度と層間を有する状態変数の何れかを基礎として行えば良く、例えば、EGRガス流量mドットegrのモデル演算値と目標値との偏差ΔEGRなどを基礎としてその設定を行うこととしてもよい。
また、上述した実施の形態2においては、VNT基本開度の設定、およびEGR開度の設定を、それぞれ単一の状態変数の偏差を基礎として行うこととしているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、それらの設定は、複数の状態変数を基礎としてより正確に行うこととしてもよい。
更に、上述した実施の形態2においては、内燃機関が備える過給機が、可変容量式のターボチャージャ14に限定されているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明は、電動式のターボチャージャ60を備える内燃機関に適用することも可能である。この場合、エンジンモデルを利用して、EGR開度と共にモータ64に対する指令を設定することで、本実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
尚、上述した実施の形態3においては、VNT基本開度が前記第3の発明における「過給機に供給される指令の基礎となる基礎指令」に、基本制御ブロック82、偏差演算器84および制御器86が前記第3の発明における「制御指令発生手段」に、モデル計算吸気マニホールド圧力Pin_mが前記第3の発明における「過給機相関状態変数」に、それぞれ相当しており、基本制御ブロック82が目標吸気マニホールド圧力Pintgtを算出することにより前記第3の発明における「状態変数目標値算出手段」が、偏差演算器84および制御器86がVNT基本開度を算出することにより前記第3の発明における「指令修正手段」が、それぞれ実現されている。