以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態にかかる内燃機関と、その制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下「エンジン」という)1は、シリンダ内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンであり、各気筒に燃料噴射弁9が設けられている。燃料噴射弁9は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)20に電気的に接続されており、燃料噴射弁9の開弁時間は、ECU20により制御される。
エンジン1は、吸気管2,排気管4、及びターボチャージャ8を備えている。ターボチャージャ8は、排気の運動エネルギにより回転駆動されるタービンホイール10を有するタービン11と、タービンホイール10とシャフト14を介して連結されたコンプレッサホイール15を有するコンプレッサ16とを備えている。コンプレッサホイール15は、エンジン1に吸入される空気の加圧(圧縮)を行う。
タービン11は、タービンホイール10に吹き付けられる排気ガスの流量を変化させるべく開閉駆動される複数の可変ベーン12(2個のみ図示)及び該可変ベーンを開閉駆動するアクチュエータ(図示せず)を有しており、可変ベーン12の開度(以下「ベーン開度」という)VOを変化させることにより、タービンホイール10に吹き付けられる排気ガスの流量を変化させ、タービンホイール10の回転速度を変更できるように構成されている。可変ベーン12を駆動するアクチュエータは、ECU20に接続されており、ベーン開度VOは、ECU20により制御される。より具体的には、ECU20は、デューティ比可変の制御信号をアクチュエータに供給し、これによってベーン開度VOを制御する。なお、可変ベーンを有するターボチャージャの構成は広く知られており、例えば特開平1−208501号公報に示されている。
吸気管2のコンプレッサ16の下流側にはインタークーラ18が設けられ、さらにインタークーラ18の下流側には、スロットル弁3が設けられている。スロットル弁3は、アクチュエータ19により開閉駆動可能に構成されており、アクチュエータ19はECU20に接続されている。ECU20は、アクチュエータ19を介して、スロットル弁3の開度制御を行う。
排気管4と吸気管2との間には、排気ガスを吸気管2に環流する排気還流通路5が設けられている。排気還流通路5には、排気還流量を制御するための排気還流弁(以下[EGR弁」という)6が設けられている。EGR弁6は、ソレノイドを有する電磁弁であり、その弁開度はECU20により制御される。EGR弁6には、その弁開度(弁リフト量)LACTを検出するリフトセンサ7が設けられており、その検出信号はECU20に供給される。排気還流通路5及びEGR弁6より、排気還流機構が構成される。
吸気管2には、吸入空気流量GAを検出する吸入空気流量センサ21、コンプレッサ16の下流側の吸気圧(過給圧)PBを検出する過給圧センサ22、吸気温TIを検出する吸気温センサ23、及び吸気圧PIを検出する吸気圧センサ24が設けられている。また、排気管4には、タービン11の上流側の排気圧PEを検出する排気圧センサ25が設けられている。これらのセンサ21〜25は、ECU20と接続されており、センサ21〜25の検出信号は、ECU20に供給される。
排気管4の、タービン11の下流側には、排気ガス中に含まれる炭化水素などの酸化を促進する触媒コンバータ31と、粒子状物質(主としてすすからなる)を捕集する粒子状物質フィルタ32とが設けられている。
エンジン1により駆動される車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ27、、エンジン回転数(回転速度)NEを検出するエンジン回転数センサ28、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ29がECU20に接続されており、これらのセンサの検出信号は、ECU20に供給される。
ECU20は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、タービン11の可変ベーン12を駆動するアクチュエータ、燃料噴射弁9、EGR弁6、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ19などに駆動信号を供給する出力回路から構成される。
ECU20は、モデル予測制御を用いて吸気及び排気の状態、より具体的には吸気管2内の新気分圧、還流される排気ガスの分圧、及び排気圧が目標値と一致するように、ベーン開度VO、スロットル弁開度TH、及びEGR弁6のリフト量(開度)LACTを制御する吸排気状態制御を実行する。
図2はこの吸排気状態制御を行うモジュールの構成を示す機能ブロック図である。この図に示される各ブロックの機能は、実際にはECU20のCPUにより実行される演算処理により実現される。
図2に示す吸排気状態制御モジュールは、要求値算出部51、目標仕事率算出部53、実仕事率推定部54、目標排気圧算出部55、除算部52、目標吸気圧算出部56、乗算部57、減算部58、分圧推定部59、モデル予測コントローラ60、θv変換部61、θth変換部62、及びθr変換部63を備えている。以下これらの機能ブロックの機能を、順次説明する。
要求値算出部51は、図3に示すように、要求トルク算出部71、要求吸気圧算出部72、要求新気流量算出部73、要求新気分圧算出部74、温度補正部76、及び減算部77とからなる。要求トルク算出部71は、エンジン回転数NE及びアクセルペダル操作量APに応じてエンジン1の要求トルクTRQを算出する。要求トルクTRQは、アクセルペダル操作量APが増加するほど、増加するように設定される。
要求吸気圧算出部72は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて、要求吸気圧Pidesを算出する。要求吸気圧Pidesは、要求トルクTRQが増加するほど、高くなるように設定される。要求新気流量算出部73は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて、要求新気流量Giadesを算出する。要求新気流量Giadesは、エンジン回転数NEが増加するほど、また要求トルクTRQが増加するほど、増加するように設定される。要求新気分圧算出部74は、エンジン回転数NE及び要求新気流量Giadesに応じて、Piaマップを検索し、要求新気分圧マップ値Piamapdを算出する。要求新気分圧は、エンジン1に吸入されるガス中の新気分圧の望ましい値である。Piaマップは、吸気温TIが所定温度TINORである状態に対応して設定されている。
1シリンダ容積を占める新気質量Miaと、要求新気分圧マップ値Piamapdとは、下記式(1)で示す関係を有する。
Piamapd={R・TINOR/(ηv・Vs)}Mia (1)
ここでRはガス定数、ηvは体積効率、Vsは気筒の容積である。
式(1)より、吸気温TIに対応する要求新気分圧Piadesは、下記式(2)で与えられる。
Piades=(TI/TINOR)Piamapd (2)
温度補正部76は、式(2)に検出される吸気温TIを適用して、マップ値Piamapdを補正し、要求新気分圧Piadesを算出する。
減算部77は、要求吸気圧Pidesから要求新気分圧Piadesを減算することにより、要求還流ガス分圧Pirdesを算出する。
図2に戻り、目標仕事率算出部53は、要求吸気圧Pides、要求新気流量Giades及び大気圧PAに応じてWcrefマップの検索、あるいは下記式(3a)による演算により、コンプレッサ16の目標仕事率Wcrefを算出する。Wcrefマップは、要求吸気圧Pides、または要求新気流量Giadesが増加するほど、また大気圧PAが低下するほど、目標仕事率Wcrefが増加するように設定されている。実仕事率推定部54は、検出される過給圧PB及び吸入空気流量GAを下記式(3b)に適用し、コンプレッサ16の実仕事率推定値Wcestを算出する。
ここでηcmpはコンプレッサの効率、cpは空気の定圧比熱、TAは大気温度、κaは空気の比熱比である。
目標排気圧算出部55は、実仕事率推定値Wcestが目標仕事率Wcrefと一致するように、目標排気圧Perefを算出する。具体的には、目標排気圧算出部55は、実仕事率推定値Wcestが目標仕事率Wcrefより小さいときは、目標排気圧Perefを高める方向に更新し、逆に実仕事率推定値Wcestが目標仕事率Wcrefより大きいときは、目標排気圧Perefを下げる方向に更新する。
目標吸気圧算出部56は、要求吸気圧Pidesと、検出される過給圧PBとを比較し、低い方を選択することにより、目標吸気圧Pirefを算出する。除算部52は、要求還流ガス分圧Pirdesを要求吸気圧Pidesで除算することにより、要求還流ガス比率RPIRを算出し、乗算部57は、目標吸気圧Pirefに要求還流ガス比率RPIRを乗算することにより、目標還流ガス分圧Pirrefを算出する。減算部58は、目標吸気圧Pirefから目標還流ガス分圧Pirrefを減算することにより、目標新気分圧Piarefを算出する。
分圧推定部59は、図4に示すように、新気分圧推定部81と、温度補正部83と、減算部84とからなる。新気分圧推定部81は、検出されるエンジン回転数NE及び吸入空気流量GAに応じて、新気分圧推定マップ値Piamapを算出する。新気分圧推定マップ値Piamapは、吸入空気流量GAが増加するほど、またエンジン回転数NEが減少するほど、増加するように算出される。より具体的には、新気分圧推定マップ値Piamapは、吸入空気流量GAに比例し、エンジン回転数NEに反比例するように設定されている。温度補正部83は、図3に示す温度補正部76と同様に、検出吸気温TIに応じて、新気分圧推定マップ値Piamapを補正し、推定新気分圧Piaestを算出する。減算部84は、検出される吸気圧PIから推定新気分圧Piaestを減算することにより、推定還流ガス分圧Pirestを算出する。
図2に戻り、モデル予測コントローラ60は、検出される排気圧PE、推定新気分圧Piaest及び推定還流ガス分圧Pirestが、それぞれ目標排気圧Peref、目標新気分圧Piaref及び目標還流ガス分圧Pirrefと一致するように、モデル予測制御を用いて、タービン11を通過するガス流量の指令値であるタービンガス流量指令値Gvcmd、スロットル弁3を通過する新気流量の指令値である新気流量指令値Gthcmd及びEGR弁6を通過する還流ガス流量の指令値である還流ガス流量指令値Grcmdを算出する。
θv変換部61は、検出される排気圧PE及び大気圧PAに応じて、タービンガス流量指令値Gvcmdを、可変ベーン12の開度指令値(以下「ベーン開度指令値」という)θvcmdに変換する。具体的には、以下のようにして変換を行う。
タービン11をノズルとしてモデル化することにより、下記式(4)の関係が成立する。
Gvcmd=Atb(θvcmd)・U(PE)・Φ(PA/PE) (4)
ここで、Atb(θvcmd)はベーン開度の関数である可変ベーンの有効開口面積であり、U(PE)は下記式(5)により算出される上流条件関数であり、Φ(PA/PE)は可変ベーン12の下流側圧力と上流側圧力との比の関数である。式(5)のρeは、タービン11を通過する排気ガスの密度であり、式(6)及び(7)のκeは、タービン11を通過する排気ガスの比熱比である。排気ガスの流速が音速より低いとき、式(6)が適用され、排気ガスの流速が音速以上であるとき、式(7)が適用される。
式(4)から有効開口面積Atb(θvcmd)は、下記式(8)により算出され、有効開口面積Atb(θvcmd)に応じて予め設定されている変換テーブルを検索することにより、ベーン開度指令値θvcmdが算出される。
Atb(θvcmd)=Gvcmd/{U(PE)・Φ(PA/PE)} (8)
θth変換部62及びθr変換部63も同様にしてそれぞれ下記式(9)及び(10)により、それぞれスロットル弁3の有効開口面積Ath(θth)及びEGR弁6の有効開口面積Ar(θr)を算出し、有効開口面積Ath(θth)及びAr(θr)に応じて変換テーブルを検索することにより、スロットル弁開度指令値θthcmd及びEGR弁開度指令値θrcmdを算出する。
Ath(θthcmd)=Gthcmd/{U(PB)・Φ(PI/PB)} (9)
Ar(θrcmd) =Grcmd/{U(PE)・Φ(PI/PE)} (10)
なお、式(9)のU(PB),Φ(PI/PB)、及び式(10)のΦ(PI/PE)は、下記式(11)〜(15)で与えられる。
ここで、式(11)のρaは空気の密度であり、式(12)(13)のκaは空気の比熱比である。
θv変換部61,θth変換部62及びθr変換部63から出力されるベーン開度指令値θvcmd、スロットル弁開度指令値θth及びEGR弁開度指令値θrに基づいて、可変ベーン12の開度、スロットル弁3の開度、及びEGR弁6の開度が制御される。
次にモデル予測コントローラ60について説明する。先ず、コントローラ60による制御の対象をモデル化した制御対象モデルについて説明する。
容積Vのチャンバ内気体の質量M及び圧力Pの関係は、絶対温度Tを用いて下記式(20)で示される。
PV=MRT (20)
この式を時間微分することにより、下記式(21)が得られる。
ここで、κnは、チャンバ内の気体の比熱比κ以下で1.0以上の値をとるポリトロープ指数である。
これを吸気管2内の新気分圧Piaに適用すると、下記式(22)が得られる。
ここで、G'thはスロットル弁3を通過する単位時間当たりの新気流量であり、G'zは気筒内に流入する単位時間当たりの吸入ガス流量であり、Piは吸気圧である。また定数kiは下記式(23)で与えられる。
ここで、Tiは吸気温、Viは吸気管のスロットル弁3より下流側の容積、κniは、ポリトロープ指数である。
式(22)の吸入ガス流量G'zは、下記式(24)で表すことができるので、式(22)は下記式(25)のように表すことができる。
ここで、NEはエンジン回転数、Pcylは気筒内圧力、Vcylは気筒容積、Tcylは気筒内温度、ηvは体積効率である。
式(25)では、新気分圧Piaの係数がエンジン回転数NEに依存するため、クランク角度αを基準とする式に変換する(具体的には、両辺にdt/dα=1/NEを乗算する)と、下記式(26)が得られる。式(26)のGthは、スロットル弁3を通過する単位クランク角当たりの新気流量である。
また吸気管内の還流ガス分圧Pirについても、同様にして下記式(27)が得られる。式(26)のGrは、EGR弁6を通過する単位クランク角当たりの還流ガス流量である。
一方排気管4のタービン上流側の排気ガスについては、下記式(28)が成立する。
ここで、Peは排気管4のタービン上流側における排気圧、G'rは単位時間当たりの還流ガス流量、Teは排気温度、Veは排気管4のタービン上流側の容積、κneはポリトロープ指数である。
吸入ガス流量G'zは、式(24)をさらに変形することにより、下記式(29)で表すことができる。
G'z==k'
ηv×Pi=k'
ηv(Pia+Pir) (29)
これを式(28)に適用すると、下記式(30)が得られ、さらにクランク角度基準に変換することにより、下記式(31)が得られる。
式(26)、(27)及び(31)をまとめると、下記式(32)が得られる。
次に式(32)により定義される制御対象モデルを、サンプリング周期hで離散化した時刻kを用いた離散時間系の制御対象モデルに変換すると、その制御対象モデルは下記式(34)により定義され、式(34)の制御出力x(k)、制御入力u(k)、モデルパラメータ行列A及びBは、それぞれ下記式(35)〜(38)で表される。
x(k+1)=Ax(k)+Bu(k) (34)
図5は、モデル予測制御の概要を説明するための図である。この図では、制御出力x(k)を、目標値(ベクトル)rに一致させる制御が示されており、以下のような手順で演算が行われる。
1)現時刻kにおいて出力x(k)を計測し、目標値rに徐々に近づく参照軌道xR(破線)を算出する。
2)予測式を用いて未来の出力の予測値xP(k+i)を求め、一致区間において予測値xPが参照軌道xRにできるだけ近づくように、現時刻k以降Huステップ(図5ではHu=2)の期間である制御区間において、制御入力u(k),u(k+1),…,u(k+Hu-1)を、最適化演算アルゴリズムにより算出する。
3)得られた制御入力のうちu(k)のみを実際に制御対象に入力する。
4)時刻(k+1)以後、上記1)〜3)の手順を繰り返す。
次にモデル予測制御の詳細を説明する。式(34)を繰り返し適用することにより、例えばx(k+2)は下記式(39)で与えられ、一般に離散時間i経過後の出力であるx(k+i)は、下記式(40)で与えられる。
制御入力uは、時刻kから(k+Hu−1)までの制御区間において変化し、以後は一定値をとると仮定して、制御出力xの予測値x(k+i)を算出し、その予測値x(k+i)が一致区間において目標値と一致するように(目標値からのずれを示す評価関数Vの値が最小となるように)、今回の制御入力u(k)が決定される。
制御入力u(k)を決定するためには、式(40)を制御入力変化量Δu(k)を用いた式に変換し、先ず最適な制御入力変化量Δu(k)optを求めて、最適制御入力変化量Δu(k)optを積算することにより、制御入力u(k)を算出する手法が採用される。
制御入力変化量Δu(k)と、制御入力u(k)との関係は、下記式(41)で表される。
u(k)=Δu(k)+u(k-1) (41)
式(41)の関係を用いて式(40)を変換すると、下記式(42)及び(43)が得られる。式(42)は、離散時間iが1からHuまでの期間に適用され、式(43)は、離散時間iが(Hu+1)からHpまでの期間に適用される。式(42)及び(43)のIは、単位行列である。式(42)と(43)をまとめて行列及びベクトルの形式で表すと、式(44)が得られる。
次に評価関数Vを下記式(45)で定義すると、式(45)は式(46)〜(48)のようにベクトルX(k)、T(k)、及びΔU(k)を定義することにより、式(49)のようの書き直すことができる。なお、式(45)のQ(i)及びR(i)は重み係数であり、式(49)の重み行列Q、Rは、式(50)、(51)で与えられる。
また式(44)の係数行列を下記式(52)〜(54)に示すように、Ψ、Γ、Θで表すと、一致区間(k+Hw〜k+Hp)における予測値ベクトルX(k)は、下記式(55)で表される。
X(k)=Ψx(k)+Γu(k-1)+ΘΔu(k) (55)
ここで追従誤差ε(k)を下記式(56)で定義すると、式(49)の評価関数Vは、下記式(57)のように変形できる。
ε(k)=T(k)−Ψx(k)−Γu(k-1) (56)
また重み行列Q、Rの平方根に相当する行列SQ、SRを下記式(58)、(59)で定義すると、式(60)で表されるベクトルの二乗長が、式(57)で示される評価関数Vに相当する。
したがって、最適な制御入力変化量ベクトルΔU(k)optは、式(60)のベクトルの長さを最小化するΔU(k)として求められる。これは、QRアルゴリズムを用いて求めることができる(例えば「モデル予測制御」Jan M. Maciejowski著、2005年1月20日、東京電機大学出版局発行(以下「文献1」という)を参照)。
文献1に示された表記法を用いれば、最適な制御入力変化量ベクトルΔu(k)optは、下記式(61)、(62)及び(63)で示される。式(63)のバックスラッシュ記号が、最小2乗解を求める演算を示している。また式(62)のI
mはm行m列の単位行列であり、O
mはm行m列のすべての要素が「0」である行列である。すなわち行列[I
m O
m O
m…O
m]は、ベクトルΔU(k)から、実際に制御入力u(k)の演算に使用されるベクトルΔu(k)のみを抽出するための行列である。
Δu(k)opt=KMPC・ε(k) (61)
KMPC=[I
m O
m O
m…O
m]KFULL (62)
図6は、モデル予測コントローラ60の構成を示す機能ブロック図である。モデル予測コントローラ60は、目標値ベクトル算出部91と、減算部92と、最適入力変化量算出部93と、積算部94と、遅延部95と、自由応答出力算出部96とから構成される。図6には、制御入力u(k)が制御対象100に入力され、制御出力x(k)がモデル予測コントローラ60にフィードバックされる構成が示されている。
本実施形態では、制御区間を決めるパラメータHu及び一致区間の開始時刻を示すパラメータHwをともに「1」とし、一致区間の終了時刻を示すパラメータHpを「2」とし、重み行列Q、Rは、対角要素がすべて「1」で他の要素がすべて「0」である単位行列としている(実質的に重み付け無しの設定としている)。したがって、最適入力変化量Δu(k)optの算出に必要な行列SQ、SRは、下記式(65)、(66)で与えられ、行列Θは、下記式(67)で与えられる。追従誤差ε(k)の算出に必要な行列Ψ及びΓ、並びに目標値ベクトルT(k)は、下記式(68)〜(70)で与えられる。
図6の目標値ベクトル算出部91は、目標値ベクトルT(k)を以下のようにして算出する。
1)現在の制御偏差e(k)を下記式(71)により算出する。s(k)は、本実施形態では、下記式(72)で与えられる、目標値ベクトル算出部91の入力(以下「設定値ベクトル」という)である。
e(k)=s(k)−x(k) (71)
2)iステップ後の制御偏差e(k+i)を下記式(73)により算出する。
e(k+i)=λi×e(k) (73)
ここでλは、出力x(k+i)が目標値r(k+i)に近づく速度を示すパラメータ(以下「収束速度パラメータ」という)であり、0から1の間の値に設定される。収束速度パラメータλは、その値が小さくなるほど収束速度が速くなることを示す。
3)下記式(74)により、参照軌道を示す目標値r(k+i)を算出する。
r(k+i)=s(k+i)−e(k+i) (74)
ただし、本実施形態では、未来の設定値ベクトルs(k+i)は、現在値s(k)と等しいとして、目標値ベクトルT(k)は、下記式(75)により算出される。
遅延部95は、制御入力u(k)を1サンプル周期だけ遅延させ、u(k-1)を出力する。自由応答出力算出部96は、制御出力x(k)及び制御入力u(k-1)を下記式(76)に適用することにより、自由応答出力xFを算出する。
xF=Ψx(k)+Γu(k-1) (76)
式(76)は、式(55)のΔu(k)を「0」としたものであり、自由応答出力xFは、制御入力u(k)の変化が無い場合に制御出力に相当する。
減算部92は、目標値ベクトルT(k)から自由応答出力xFを減算する。最適入力変化量算出部93は、式(56)により、最適入力変化量Δu(k)optを算出する。積算部94は、最適入力変化量Δu(k)optを積算することにより、制御入力u(k)を算出する。モデル予測コントローラ60は、算出された制御入力u(k)=(Gth(k) Gr(k) Gv(k))Tを、新気流量指令値Gthcmd(k),還流ガス流量指令値Grcmd(k),及びタービンガス流量指令値Gvcmd(k)として出力する。
図7は、本実施形態における制御動作例を説明するためのタイムチャートであり、同図(a)〜(c)は、制御入力u(k)=(Gthcmd(k) Grcmd(k) Gvcmd(k))Tの推移を示し、同図(d)〜(f)は対応する制御出力x(k)=(Piaest Pirest PE)Tの推移を示す。時刻t1において、吸気管内の還流ガス分圧Pirを高めるためにEGR弁6が開弁されるが、このときタービン11のベーン開度は、排気圧PEを一定に維持するように若干閉じ方向に制御される。また時刻t2において、排気圧PEを高めるためにベーン開度が閉じ方向に制御されるが、このときEGR弁6の開度は、還流ガス分圧Pieを一定に維持するように若干閉じ方向に制御される。また時刻t3において、新気分圧Piaを増加させるためにスロットル弁3が開弁されるが、このときベーン開度は、排気圧PEを一定に維持するように開き方向に制御される。
このように本実施形態によれば、相互に関連しあうガスパラメータである、吸気管内の新気分圧Pia及び還流ガス分圧Pirと、排気圧PEとが、それぞれの目標値に独立して整定させることが可能となる。したがって、これらのガスパラメータをエンジン1の運転状態に応じて適切に制御し、エンジン1の性能を最大限に引き出すことができる。
以上説明したように本実施形態では、エンジン1の排気管内のガスの状態を示す排気圧PEが検出され、吸気管内のガスの状態を示す吸気管ガスパラメータの推定値である推定新気分圧Piaest及び推定還流ガス分圧Pirestが算出されるとともに、排気圧の目標値Peref及び吸気管内の新気分圧及び還流ガス分圧の目標値Piaref,Pirrefが算出される。そして、排気圧PE,推定新気分圧Piaest及び推定還流ガス分圧Pirestが、それぞれの目標値Peref,Piaref,及びPirrefに一致するように、モデル予測制御を用いてタービン11のベーン開度、EGR弁6の開度、及びスロットル弁3の開度が制御される。その結果、排気ガスの状態を最適に維持しつつ機関に吸入されるガスの状態を最適に制御することができる。またモデル予測制御を用いることにより、複数入力・複数出力の制御対象の複数出力、すなわち排気圧PE、新気分圧Pia及び還流ガス分圧Pirを、それぞれ対応する目標値Peref,Piaref,及びPirrefへ、同時に且つ同じ速さで一致させることが可能となる。その結果、エンジン1に吸入されるガス(新気及び還流排気ガス)の流量制御を総合的に、きめ細かく行い、機関の性能を最大限に引き出すことができる。また制御対象モデルが数式で定義することができれば、モデル予測制御の制御系を構築することができるため、様々なハードウエア構成に容易に適用することができ、汎用性が高いという利点があり、制御に必要なマップ設定のための工数を大幅に低減することができる。
またエンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて、定常状態に対応した定常状態目標値としての要求吸気圧Pidesが、要求吸気圧算出部72により算出され、検出される過給圧PBと要求吸気圧Pidesの小さい方を選択することにより、目標吸気圧Pirefが算出される。さらに目標吸気圧Pirefに基づいて目標還流ガス分圧Pirrefが実現可能な値に再設定される。これにより過給圧PBの変化遅れにより目標吸気圧Piref及び目標還流ガス分圧Pirrefが不適切な値に設定されることを防止することができる。
また大気圧PA、要求吸気圧Pides及び要求新気流量Giadesに応じてコンプレッサホイール15の目標仕事率Wcrefが算出されるとともに、検出される過給圧PB及び新気流量GAに応じて、コンプレッサホイール15の実仕事率推定値Wcestが算出される。そして、コンプレッサホイール15の実仕事率推定値Wcestが目標仕事率Wcrefに一致するように目標排気圧Perefが算出される。さらに、そのようにして算出される目標排気圧Perefに、検出排気圧PEが一致するように、ベーン開度、EGR弁開度及びスロットル弁開度が算出される。すなわち、目標排気圧Perefの算出においてマスタフィードバック制御が行われ、流量制御機構(タービンの可変ベーン12、EGR弁6、及びスロットル弁3)の制御量の算出においてスレーブフィードバック制御が行われるカスケード制御が実行されるので、応答の遅い過給圧制御の制御性能を向上させることができる。
制御対象モデルは、タービンの可変ベーン12、EGR弁6、及びスロットル弁3を通過するガスの質量流量Gv、Gr、及びGthを制御入力として定義される(式(34)〜(38))ので、例えば可変ベーン12やEGR弁6の制御量を、制御入力として定義する場合に比べて制御対象モデルを定義する数式を簡略化でき、ECU20のCPUの演算負荷を軽減できる。また、可変ベーン12、EGR弁6、またはスロットル弁3の流量特性が変更されたときは、流量を弁の開度に変換する変換特性を置き換えるだけで足り、モデル予測制御を行うコントローラ60の制御ロジックを変更する必要がない。また可変ベーン12の開度、EGR弁6及びスロットル弁3の弁開度をフィードバック制御するローカルフィードバック制御を追加することにより、弁開度の外乱に対する制御性能を向上させることができる。これは、一種のカスケード制御の効果であり、弁開度指令値に対する実開度の応答が十分に(コントローラ760の制御対象である吸排気ガスの挙動と比較して)速い場合にこの効果は特に大きくなる。
本実施形態では、吸気管内の新気分圧Pia及び還流ガス分圧Pirが吸気管ガスパラメータに相当する。また可変ベーン12が排気ガス流量可変手段に相当し、排気圧センサ25が排気管内圧力検出手段に相当し、吸入空気流量センサ21、吸気温センサ23、吸気圧センサ24及びECU20が、吸気管ガスパラメータ取得手段を構成する。またECU20が、第1目標値算出手段、第2目標値算出手段、モデル予測コントローラ、変換手段、仕事率目標値算出手段、及び仕事率推定値算出手段を構成する。より具体的には、要求値算出部51、目標仕事率算出部53、実仕事率推定部54、及び目標排気圧算出部55が、第1目標値算出手段に相当し、要求値算出部51、除算部52、目標吸気圧算出部56、乗算部57及び減算部58が、第2目標値算出手段に相当し、θv変換部61、θth変換部62及びθr変換部63が、変換手段に相当する。また、目標仕事率算出部53が仕事率目標値算出手段に相当し、実仕事率推定部54が仕事率推定値算出手段に相当する。
[変形例1]
上述した実施形態では、吸気管ガスパラメータとして、新気分圧Pia及び還流ガス分圧Pirを用いたが、新気分圧Piaまたは還流ガス分圧Pirのいずれか一方を、吸気圧Pi(=Pia+Pir)に代えてもよい。その場合の吸排気状態制御モジュールは、図8に示すように構成される。図8に示す吸排気状態制御モジュールは、新気分圧Piaに代えて、吸気圧Piを吸気管ガスパラメータとして用いるものである。
図8に示すモジュールでは、図2のモデル予測コントローラ60が、モデル予測コントローラ60aに変更され、目標吸気圧算出部56から出力される目標吸気圧Pirefは、直接モデル予測コントローラ60aに入力される。また、モデル予測コントローラ60aには、検出吸気圧PIが入力される。また、分圧推定部59は、推定還流ガス分圧Pirestのみをモデル予測コントローラ60aに入力する。モデル予測コントローラ60aは、第1の実施形態における新気分圧Piaに代えて、吸気圧Piを用いてモデル化した制御対象モデルに基づくモデル予測制御を実行する。すなわち、検出吸気圧PI、推定還流ガス分圧Pirest、及び検出される排気圧PEが、それぞれ目標吸気圧Piref、目標還流ガス分圧Pirref、及び目標排気圧Perefと一致するように、タービンガス流量指令値Gvcmd、新気流量指令値Gthcmd、及び還流ガス流量指令値Grcmdを算出する。
この変形例における制御対象モデルの定義式(連続時間系)は、下記式(61)で与えられる。したがって、この式(61)に基づいて、上述した第1の実施形態と同一の手法により、制御入力u(k)を算出することができる。
本変形例では、要求値算出部51、除算部52、目標吸気圧算出部56、及び乗算部57が、第2目標値算出手段に相当する。
[変形例2]
吸気管ガスパラメータとして、新気分圧Pia及び還流ガス分圧Pirに代えて、新気流量Gia及び還流ガス流量Girを用いてもよい。以下、この場合の制御対象モデルについて説明する。
吸気管2内の新気分圧Piaについては、前述した式(22)の関係が成立する。これをサンプリング周期hで離散化した時刻kを用いると、下記式(62)が得られる。
式(62)を式(63)の関係を用いて変形すると、式(64)が得られる。
一方、式(24)の関係を新気流量G'iaに適用すると、下記式(65)が得られ、式(65)から式(66)が得られる。
式(66)を式(64)に適用することにより、下記式(67)が得られる。また、還流ガス流量G'irについても、同様にして下記式(68)が得られる。
よって、離散時間系のモデル定義式(x(k+1)=Ax(k)+Bu(k))の各項は、下記式(69)〜(72)で与えられる。
図9は、この変形例における吸排気状態制御モジュールの構成を示すブロック図である。
図9のモジュールは、図2のモジュールのモデル予測コントローラ60及び分圧推定部59を、それぞれモデル予測コントローラ60b及び流量推定部103に変更するとともに、目標新気流量算出部101及び目標還流ガス流量算出部102を追加したものである。またモデル予測コントローラ60bには、検出される新気流量GAが入力される。
目標新気流量算出部101は、目標新気分圧Pirefに式(26)に適用される係数kηvを乗算することより、目標新気流量Giarefを算出する。目標還流ガス流量算出部102は、目標還流ガス分圧Pirrefに係数kηvを乗算することにより、目標還流ガス流量Girrefを算出する。また、流量推定部103は、エンジン回転数NE及び吸気PIに応じて設定されたGzマップ(図示せず)を検索し、シリンダに吸入されるガス流量(吸入ガス流量)Gzを算出する。そして、吸入ガス流量Gzから検出される新気流量GAを減算することにより、推定還流ガス流量Girestを算出する。
モデル予測コントローラ60bは、上述した制御対象モデルに基づくモデル予測制御を実行し、検出新気流量GA、推定還流ガス流量Girest、及び検出される排気圧PEが、それぞれ目標新気流量Giaref、目標還流ガス流量Girref、及び目標排気圧Perefと一致するように、タービンガス流量指令値Gvcmd、新気流量指令値Gthcmd、及び還流ガス流量指令値Grcmdを算出する。
本変形例では、要求値算出部51、除算部52、目標吸気圧算出部56、乗算部57、減算部58、目標新気流量算出部101、及び目標還流ガス流量算出部102が、第2目標値算出手段に相当する。
なお、吸気管ガスパラメータは、新気流量Giaまたは還流ガス流量Girの何れか一方を、両者の和である吸入ガス流量Gz(=Gia+Gir)に代えてもよい。
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、吸気管2にスロットル弁3が設けられたエンジンを制御対象としたが、本実施形態はスロットル弁が設けられていないエンジンを制御対象とする。本実施形態では、吸排気状態制御モジュールは、図10に示すように構成される。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
図10に示す吸排気状態制御モジュールは、図2に示す吸排気状態制御モジュールの目標吸気圧算出部56、減算部58、及びθth変換部62を削除し、モデル予測コントローラ60を、モデル予測コントローラ60cに代えたものである。また乗算部57には、目標吸気圧Pirefに代えて、検出過給圧PBが入力される。したがって、乗算部57は、過給圧PBに要求還流ガス比率RPIRを乗算することにより、目標還流ガス分圧Pirrefを算出する。
モデル予測コントローラ60cには、目標排気圧Peref,検出された排気圧PE,目標還流ガス分圧Pirref及び推定還流ガス分圧Pirestが入力される。すなわち、目標新気分圧Piaref及び推定新気分圧Piaestは入力されない。
モデル予測コントローラ60cは、検出される排気圧PE及び推定還流ガス分圧Pirestが、それぞれ目標排気圧Peref及び目標還流ガス分圧Pirrefと一致するように、モデル予測制御を用いて、タービン11を通過するガス流量の指令値であるタービンガス流量指令値Gvcmd及びEGR弁6を通過する還流ガス流量の指令値である還流ガス流量指令値Grcmdを算出する。
本実施形態では、スロットル弁が設けられていないため、制御対象モデルは下記式(81)で定義される。
ここで、モデルパラメータa11〜a22及びb11〜b22は、システム同定により予め実験的に設定される。
式(81)をサンプリング周期hで離散化した時刻kを用いた離散時間系の制御対象モデルに変換すると、モデル定義式(x(k+1)=Ax(k)+Bu(k))の各項は、下記式(82)〜(85))で与えられる。
モデル予測コントローラ60cは、この制御対象モデルに基づくモデル予測制御を実行する。その場合、最適入力変化量Δu(k)optの算出に必要な行列SQ、SRは、下記式(86)、(87)で与えられる。行列Θ、追従誤差ε(k)の算出に必要な行列Ψ及びΓ、並びに目標値ベクトルT(k)は、前記式(68)〜(70)をそのまま適用することができる。また、設定値ベクトルs(k)は、下記式(88)で与えられ、目標値ベクトルT(k)は、下記式(89)で与えられる。
以上の点以外は、モデル予測コントローラ60cは、モデル予測コントローラ60と同様に動作する。
本実施形態によれば、排気圧PE及び推定還流ガス分圧Pirestをともに、その目標値Peref及びPirrefに一致させるように、タービン11のベーン開度及びEGR弁6の開度がモデル予測制御により制御される。その結果、排気ガスの状態を最適に維持しつつエンジンに吸入されるガスの状態を最適に制御することができる。
[第3の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態と同様に吸気管2にスロットル弁3が設けられたエンジンを制御対象とし、吸気管ガスパラメータとして、吸気管内の酸素分圧Pio及び吸気圧Piを用いるようにしたものである。
図11は、本実施形態におけるエンジン及びその制御装置の構成を示す図である。本実施形態では、排気管4の、触媒コンバータ31の上流側に空燃比センサ26が設けられている。空燃比センサ26は、エンジン1の燃焼室内の空燃比AFを示す信号をECU20に供給する。これ以外は、図1の示す構成と同一である。
図12は、本実施形態における吸排気状態制御モジュールの構成を示すブロック図である。図12に示すモジュールでは、図2の要求値算出部51,乗算部52,57,分圧推定部59,及びモデル予測コントローラ60が、それぞれ要求値算出部51a,乗算部52a,57a,分圧推定部59a,及びモデル予測コントローラ60dに変更され、減算部58が削除されている。
図13は、要求値算出部51aの構成を示すブロック図である。要求値算出部51aは、図3に示す要求値算出部51の要求新気分圧算出部74及び温度補正部76を、それぞれ要求酸素分圧算出部74a及び温度補正部76aに変更し、減算部77を削除したものである。
要求酸素分圧算出部74aは、エンジン回転数NE及び要求新気流量Giadesに応じて、Pioマップを検索し、要求酸素分圧マップ値Piomapdを算出する。要求酸素分圧は、エンジン1に吸入されるガス中の酸素分圧の望ましい値である。Pioマップは、吸気温TIが所定温度TINORである状態に対応して設定されている。
温度補正部76aは、下記式(2a)に検出される吸気温TIを適用して、要求酸素分圧マップ値Piomapdを補正し、要求酸素分圧Piodesを算出する。
Piodes=(TI/TINOR)Piomapd (2a)
図12に戻り、除算部52aは、要求酸素分圧Piodesを要求吸気圧Pidesで除算することにより、要求酸素分圧比率RPIOを算出する。乗算部57aは、要求酸素分圧比率RPIOに目標吸気圧Pirefを乗算して、目標酸素分圧Piorefを算出する。目標吸気圧算出部56から出力される目標吸気圧Pirefは、直接モデル予測コントローラ60dに入力される。
図14は、分圧推定部59aの構成を示すブロック図である。分圧推定部59aは、図4に示す分圧推定部59に分圧算出部85及び還流ガス酸素比率算出部86を追加したものである。
還流ガス酸素比率算出部86は、空燃比センサ26により検出される空燃比AFを特性変換テーブルを用いて排気中の酸素比率(以下「排気酸素比率」という)rexoに変換し、さらに排気酸素比率rexoについて、排気管4から吸気管2までの還流ガス流れの動的挙動補償を行い、還流ガス酸素比率reoを算出する。還流ガス流れの動的挙動補償は、例えば排気酸素比率rexoにむだ時間と一次遅れ特性を与えることにより行われる。
分圧算出部85は、推定新気分圧Piaest、推定還流ガス分圧Pirest、及び還流ガス酸素比率reoを下記式(101)に適用して、推定酸素分圧Pioestを算出し、さらに検出吸気圧PI及び式(101)により算出された推定酸素分圧Pioestを下記式(102)に適用して、推定不活性ガス分圧Piiestを算出する。式(101)のraoは空気中の酸素比率(0.232、以下「空気酸素比率」という)である。
Pioest=rao・Piaest+reo・Pirest (101)
Piiest=PI−Pioest (102)
モデル予測コントローラ60dには、検出吸気圧PIが入力される。分圧推定部59aは、推定酸素分圧Pioestのみをモデル予測コントローラ60dに入力する。モデル予測コントローラ60dは、第1の実施形態における新気分圧Pia及び還流ガス分圧Pirに代えて、吸気圧Pi及び酸素分圧Pioを用いてモデル化した制御対象モデルに基づくモデル予測制御を実行する。すなわち、検出吸気圧PI、推定酸素分圧Pioest、及び検出される排気圧PEが、それぞれ目標吸気圧Piref、目標酸素分圧Pioref、及び目標排気圧Perefと一致するように、タービンガス流量指令値Gvcmd、新気流量指令値Gthcmd、及び還流ガス流量指令値Grcmdを算出する。
次に本実施形態における制御対象モデルについて説明する。
先ず吸気圧Piについては、下記式(111)が成立する。ここで、吸入ガス流量G'zは、下記式(24)(再掲)で表すことができるので、これを式(111)に適用することにより、式(112)が得られる。
また吸入酸素分圧Pioについては、吸気管内の酸素の質量をMioとして、下記式(113)が成立する。
Pio・Vi=Mio・R・Ti (113)
これを微分することにより、下記式(114)が得られる。また、空気酸素比率rao、及び還流ガス酸素比率reoを用いると、下記式(115)が成立する。
上記式(114)に、式(115)及び(24)を適用すると、下記式(116)が得られる。
また排気圧Peについては、下記式(28)(再掲)の関係が成立するので、これに式(24)の関係を適用して整理すると、下記式(117)が得られる。
式(112)、(116)、及び(117)をまとめ、さらにクランク角度基準に変換することにより、制御対象モデルを定義する下記式(118)が得られる。したがって、この式(118)に基づいて、上述した第1の実施形態と同一の手法により、制御入力u(k)を算出することができる。
図15は、本実施形態における制御動作例を説明するためのタイムチャートであり、同図(a)〜(c)は、制御入力u(k)=(Gthcmd(k) Grcmd(k) Gvcmd(k))Tの推移を示し、同図(d)〜(f)は対応する制御出力x(k)=(Pioest PI PE)Tの推移を示す。また、同図(d)には、還流ガス酸素比率reoの推移が示されている。なお、同図(e)には、推定不活性ガス分圧Piiestの推移も示されている。
時刻t0において、還流ガス酸素比率reoが増加すると、酸素分圧Pioestを一定に維持するために、スロットル弁3が閉弁される(同図(a))。このとき、ベーン開度は、排気圧PEを一定に維持するために閉じ方向に制御される(同図(c))。時刻t1において、吸気管内の不活性ガス分圧Piiを高めるためにEGR弁6が開弁されるが、このときタービン11のベーン開度は、排気圧PEを一定に維持するように若干閉じ方向に制御される。また時刻t2において、排気圧PEを高めるためにベーン開度が閉じ方向に制御されるが、このときEGR弁6の開度は、酸素分圧Pioestを一定に維持するように若干閉じ方向に制御される。また時刻t3において、酸素分圧Pioestを増加させるためにスロットル弁3が開弁されるが、このときベーン開度は、排気圧PEを一定に維持するように開き方向に制御される。
このように本実施形態によれば、相互に関連しあうガスパラメータである、吸気圧PI及び吸気管内の酸素分圧Pioと、排気圧PEとが、それぞれの目標値に独立して整定させることが可能となる。したがって、これらのガスパラメータをエンジン1の運転状態に応じて適切に制御し、エンジン1の性能を最大限に引き出すことができる。
本実施形態では、吸気圧Pi及び吸気管内の酸素分圧Pioが、吸気管ガスパラメータに相当し、空燃比センサ26が吸気管ガスパラメータ取得手段の一部を構成する。また要求値算出部51a、目標仕事率算出部53、実仕事率推定部54、及び目標排気圧算出部55が、第1目標値算出手段に相当し、要求値算出部51a、除算部52a、目標吸気圧算出部56、及び乗算部57aが、第2目標値算出手段に相当する。
[変形例1]
上述した実施形態では、吸気管ガスパラメータとして、吸気圧Pi及び酸素分圧Pioを用いたが、吸気圧Piを不活性ガス分圧Pii(=Pi−Pio)に代えてもよい。その場合の吸排気状態制御モジュールは、図16に示すように構成される。
図16に示す吸排気状態制御モジュールは、図12に示す吸排気状態制御モジュールに減算部58aを追加し、モデル予測コントローラ60dをモデル予測コントローラ60eに変更したものである。
減算部58aは、目標吸気圧Pirefから目標酸素分圧Piorefを減算することにより、目標不活性ガス分圧Piirefを算出する。また分圧推定部59aは、推定酸素分圧Pioest及び推定不活性ガス分圧Piiestを、モデル予測コントローラ60eに入力する。モデル予測コントローラ60eには、検出吸気圧PIは入力されない。
モデル予測コントローラ60eは、第3の実施形態における吸気圧Piに代えて、不活性ガス分圧Piiを用いてモデル化した制御対象モデルに基づくモデル予測制御を実行する。すなわち、推定酸素分圧Pioest、推定不活性ガス分圧Piiest、及び検出される排気圧PEが、それぞれ目標酸素分圧Pioref、目標不活性ガス分圧Piiref、及び目標排気圧Perefと一致するように、タービンガス流量指令値Gvcmd、新気流量指令値Gthcmd、及び還流ガス流量指令値Grcmdを算出する。
以下、本変形例における制御対象モデルについて説明する。吸気圧Piは、下記式(120)で示すように、酸素分圧Pioと、不活性ガス分圧Piiとの和で表すことができるので、前記式(112)より、下記式(121)が得られる。
Pi=Pio+Pii (120)
式(121)に前記式(116)の関係を適用すると、下記式(122)が得られる。ここで、(1−rao)及び(1−reo)は、それぞれ空気中の不活性ガス比率及び排気中の不活性ガス比率であるので、rai及びreiと表すと、下記式(123)が得られる。
また前記式(117)に式(120)の関係を適用すると、下記式(124)が得られる。
式(116)、式(123)、及び式(124)をまとめて、クランク角度基準に変換することにより、下記式(125)が得られる。したがって、式(125)に基づいて、第1の実施形態と同一の手法により、制御入力u(k)を算出することができる。
[変形例2]
吸気管ガスパラメータとして、酸素分圧Pio及び不活性ガス分圧Piiに代えて、酸素流量Gio及び不活性ガス流量Giiを用いてもよい。以下、この場合の制御対象モデルについて説明する。
吸気管2内の酸素分圧Pioについては、空気酸素比率rao及び還流ガス酸素比率reoを用いると、下記式(131)の関係が成立する。これをサンプリング周期hで離散化した時刻kを用いると、下記式(132)が得られる。
式(132)を下記式(133)の関係を用いて変形すると、式(134)が得られる。
一方、式(24)の関係を酸素流量G'ioに適用すると、下記式(135)が得られ、式(135)から式(136)が得られる。
式(136)を式(134)に適用することにより、下記式(137)が得られる。また、不活性ガス流量G'iiについても、同様にして下記式(138)が得られる。
よって、離散時間系のモデル定義式(x(k+1)=Ax(k)+Bu(k))の各項は、下記式(139)〜(142)で与えられる。
図17は、この変形例における吸排気状態制御モジュールの構成を示すブロック図である。
図17のモジュールは、図12のモジュールのモデル予測コントローラ60d及び分圧推定部59aを、それぞれモデル予測コントローラ60f及び流量推定部103aに変更するとともに、目標酸素流量算出部101a及び目標不活性ガス流量算出部102aを追加したものである。
目標酸素流量算出部101aは、目標酸素分圧Piorefに式(26)に適用される係数kηvを乗算することより、目標酸素流量Giorefを算出する。目標不活性ガス流量算出部102aは、目標不活性ガス分圧Piirefに係数kηvを乗算することにより、目標不活性ガス流量Giirefを算出する。また、流量推定部103aは、分圧推定部59aと、分圧推定部59aから出力される推定酸素分圧Pioest及び推定不活性ガス分圧Piiestを推定酸素流量Gioest及び推定不活性ガス流量Giiestに変換する変換部(図示せず)とを備えており、該変換部は、推定酸素分圧Pioest及び推定不活性ガス分圧Piiestに、式(26)に適用される係数kηvを乗算することにより、推定酸素流量Gioest及び推定不活性ガス流量Giiestを算出する。
モデル予測コントローラ60fは、上述した制御対象モデルに基づくモデル予測制御を実行し、推定酸素流量Gioest、推定不活性ガス流量Giiest、及び検出される排気圧PEが、それぞれ目標酸素流量Gioref、目標不活性ガス流量Giiref、及び目標排気圧Perefと一致するように、タービンガス流量指令値Gvcmd、新気流量指令値Gthcmd、及び還流ガス流量指令値Grcmdを算出する。
本変形例では、要求値算出部51a、除算部52a、目標吸気圧算出部56、乗算部57a、減算部58a、目標酸素流量算出部101a、及び目標不活性ガス流量算出部102aが、第2目標値算出手段に相当する。
なお、吸気管ガスパラメータは、酸素流量Gioまたは不活性ガス流量Giiの何れか一方を、両者の和である吸入ガス流量Gz(=Gio+Gii)に代えてもよい。
[第4の実施形態]
本実施形態は、第2の実施形態と同様に、スロットル弁が設けられていないエンジンを制御対象とする。本実施形態では、吸排気状態制御モジュールは、図18に示すように構成される。以下に説明する点以外は、第3の実施形態と同一である。
図18に示す吸排気状態制御モジュールは、図12に示す吸排気状態制御モジュールの目標吸気圧算出部56、及びθth変換部62を削除し、モデル予測コントローラ60dを、モデル予測コントローラ60gに代えたものである。また乗算部57aには、目標吸気圧Pirefに代えて、検出過給圧PBが入力される。したがって、乗算部57aは、過給圧PBに要求酸素分圧比率RPIOを乗算することにより、目標酸素分圧Piorefを算出する。
モデル予測コントローラ60gには、目標排気圧Peref,検出された排気圧PE,目標酸素分圧Pioref及び推定酸素分圧Pioestが入力される。すなわち、検出吸気圧PI及び目標吸気圧Pirefは入力されない。
モデル予測コントローラ60gは、検出される排気圧PE及び推定酸素分圧Pioestが、それぞれ目標排気圧Peref及び目標酸素分圧Piorefと一致するように、モデル予測制御を用いて、タービン11を通過するガス流量の指令値であるタービンガス流量指令値Gvcmd及びEGR弁6を通過する還流ガス流量の指令値である還流ガス流量指令値Grcmdを算出する。
本実施形態では、スロットル弁が設けられていないため、制御対象モデルは下記式(151)で定義される。
ここで、モデルパラメータc11〜c22及びd11〜d22は、システム同定により予め実験的に設定される。
式(151)をサンプリング周期hで離散化した時刻kを用いた離散時間系の制御対象モデルに変換すると、モデル定義式(x(k+1)=Ax(k)+Bu(k))の各項は、下記式(152)〜(155))で与えられる。
モデル予測コントローラ60gは、この制御対象モデルに基づくモデル予測制御を実行する。モデル定義式が求められているので、制御演算は第2の実施形態と同様に行うことができる。
本実施形態によれば、排気圧PE及び推定酸素分圧Pioestをともに、その目標値Peref及びPiorefに一致させるように、タービン11のベーン開度及びEGR弁6の開度がモデル予測制御により制御される。その結果、排気ガスの状態を最適に維持しつつエンジンに吸入されるガスの状態を最適に制御することができる。
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した第2の実施形態では、吸気管ガスパラメータとして、還流ガス分圧Pirを用いたが、還流ガス分圧Pirに代えて、新気分圧Piaを用いてもよい。さらに、還流ガス流量Girまたは新気流量Giaのいずれか一方を用いてもよい。また第4の実施形態では、吸気管ガスパラメータとして、酸素分圧Pioを用いたが、これに代えて、不活性ガス分圧Piiを用いてもよい。さらに、酸素流量Gioまたは不活性ガス流量Giiのいずれか一方を用いてもよい。
また上述した実施形態では、図3及び図4に示す温度補正部76及び83において、検出した吸気温度TIを用いたが、これに代えて、エンジン回転数NE及び吸入空気流量GA(または要求新気流量Giades)に応じて、推定した吸気温度を用いるようにしてもよい。
また上述した実施形態では、可変ベーンを有するターボチャージャを備えた内燃機関の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明は、以下のような構成の制御装置にも適用可能である。
(1)容量が固定されたターボチャージャと、該ターボチャージャのタービンをバイパスするバイパス通路と、そのバイパス通路に設けられたウエストゲートバルブとを備え、ウエストゲートバルブの開度を変更することにより、タービンに流入する排気量を変化させ、過給圧を制御するように構成されている制御装置。この場合には、バイパス通路及びウエストゲートバルブが、排気ガス流量可変手段に相当する。
(2)容量が固定されたターボチャージャを備え、内燃機関の排気量そのものを機関運転状態(例えば機関回転数及び目標燃料量)に応じて変更することにより、過給圧を制御するように構成されている制御装置。この制御装置では、排気量の変更は、例えば内燃機関への燃料供給量あるい吸入空気量を変化させることにより行われる。この場合には、排気量の制御を行う制御ユニットが排気ガス流量可変手段に相当する。
また上述した実施形態では、本発明をディーゼル内燃機関のガスパラメータ制御に適用した例を示したが、ガソリン内燃機関のガスパラメータ制御にも適用可能である。
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。