従来装置は、上記「排気通路内の排ガスの圧力」を、その圧力に影響を与え得る領域の体積(具体的に述べると、排気通路の容積およびEGR通路の容積)などに基づき、算出している。ここで、従来装置は、上記領域の体積は所定の「固定値」であると仮定している。しかしながら、上記領域の体積は、その体積を画定する部材の経年劣化などに起因して変化する場合がある。さらに、上記領域の体積を決定する部材(排気管およびEGR管)は、構造上のばらつき(製造の際に生じ得る同一種の部材間における寸法および性能などの差)を有する場合がある。すなわち、上記領域の体積の実際値と、上記「固定値」と、は一致しない場合がある。以下、便宜上、上記領域を画定する部材の経年劣化などの異常と、構造上のばらつきと、を単に「異常」と総称する。
上記異常が生じている場合、上記領域の体積の実際値と上記固定値とが一致しないので、従来装置によって取得されるEGR率の推定値と、EGR率の実際値と、は一致しない。従来装置は、このEGR率の推定値を用いてEGRガス量を制御する。その結果、エミッション排出量が十分に低減されない。
このように、排気再循環が行われる内燃機関において、排気通路内の排ガスの圧力に影響を与え得る領域の体積が上記異常によって変化した場合、エミッション排出量を十分に低減することができない虞があるという問題がある。
本発明の目的は、上記課題に鑑み、上記異常が生じた場合であっても上記領域の体積を適切に把握することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
上記課題を達成するための本発明による内燃機関の制御装置は、
排気弁と、排ガスを排気通路から吸気通路へ還流する通路部と、還流される排ガスの量を制御する制御弁と、排気通路に設けられる圧力損失発生部と、を備える内燃機関に適用される。
具体的に述べると、排気弁は、
内燃機関の燃焼室と排気通路との間に設けられる。この排気弁が閉弁したとき、排ガスは前記燃焼室から前記排気通路に流出不能である。さらに、この排気弁が開弁したとき、排ガスは前記燃焼室から前記排気通路に流出可能である。
なお、本発明において、排ガスとは、燃焼室から流出し得るあらゆる物質を含むガスを意味する。すなわち、排ガスは、燃焼室に導入される空気と燃料とが反応(燃焼)することによって生じる物質、燃焼室に導入される空気であって燃焼に供されない空気(いわゆるフューエルカット運転が行われる際の空気も含む。)、未燃物、および、排気再循環によって還流されたガスなどを含む。
通路部は、
一端が前記排気通路に接続されると共に他端が前記内燃機関の吸気通路に接続される。排ガスは、この通路部を通過して前記排気通路から前記吸気通路に還流可能である。
制御弁は、
前記通路部に設けられる。この制御弁が閉弁したとき、排ガスは前記通路部を通流不能である。さらに、この制御弁が開弁したとき、この制御弁の開度に応じて前記通路部を通過する排ガスの量が変化する。
圧力損失発生部は、上述したように前記排気通路に設けられる。前記燃焼室から前記排気通路に流出する排ガスのうちの前記通路部を通過する排ガス「以外」の排ガスは、この圧力損失発生部を通過するようになっている。
上記排気弁は、所定のタイミング(例えば、内燃機関の運転状態に応じて定められ得るタイミング)にて開弁または閉弁するように、作動され得る。さらに、上記制御弁は、所定の目標開度(例えば、内燃機関の運転状態に応じて定められ得る開度)と一致するようにその開度が変更されるように、作動され得る。これら排気弁および制御弁は、互いに関連して作動されるように構成され得る。加えて、これら排気弁および制御弁は、互いに関連することなく作動されるように構成され得る。
上記内燃機関は、上述したように作動され得る排気弁および制御弁について、排気弁が「閉弁」しており且つ制御弁が「閉弁」している状態(すなわち、排気弁および制御弁の「双方」が閉弁している状態)が生じ得るように構成される。以下、便宜上、排気弁および制御弁の双方が閉弁している状態を「全弁閉状態」とも称呼する。
上記内燃機関に適用される本発明の制御装置は、
(A)全弁閉状態が生じている期間における「排気弁と、排気通路の内壁面と、制御弁と、通路部の内壁面と、圧力損失発生部と、によって画成される領域である排気領域」内の排ガスの圧力の変化量と、
(B)全弁閉状態が生じている期間における圧力損失発生部を通過する排ガスの量と、
(C)全弁閉状態が生じている期間における排気領域内の排ガスの温度と、
に基づいて「排気領域の体積」を推定する体積推定手段、を備える。
上述したように、燃焼室から排気通路に流出する排ガスのうちの通路部を通過する排ガス「以外」の排ガスは、圧力損失発生部を通過するようになっている。全弁閉状態が生じているとき、制御弁は閉弁している。よって、このとき、排ガスは通路部を通過することができない。そのため、全弁閉状態が生じている期間、上記排気領域内の排ガスは、圧力損失発生部「のみ」を通過して、排気領域の外部へ流出する。すなわち、全弁閉状態が生じているとき、上記排気領域は圧力損失発生部のみを介して排気領域の外部と接続されている。
したがって、全弁閉状態が生じている期間において圧力損失発生部を通過する排ガスの量と、該期間における排気領域内の排ガスの圧力の変化量と、該期間における排気領域内の排ガスの温度と、排気領域の体積と、の間には密接な関連があると考えられる。そこで、上記体積推定手段は、これらパラメータに基づいて排気領域の体積を推定する。
排気領域の体積を推定する具体例な方法は、特に制限されない。例えば、上記パラメータと排気領域の体積との関係をあらかじめ定めたマップなどを利用して排気領域の体積を算出する方法、が採用され得る。さらに、気体の状態方程式を利用して排気領域の体積を算出する方法、が採用され得る。
このように、本発明の制御装置は、その「全弁閉状態」が生じている期間における上記パラメータを利用することにより、排気領域の体積を推定することができる。換言すると、本発明の制御装置は、このような推定が行われる毎に、その推定が行われた時点における排気領域の体積を把握することができる。したがって、本発明の制御装置は、排気領域の体積を固定値とする場合に比べて、上記異常が生じた場合であっても排気領域の体積を適切に把握することができる。
本発明の内燃機関の制御装置の一の態様として、
前記制御装置は、
「前記排気領域の体積を含む所定の運転パラメータ」に基づいて前記通路部を通過する排ガスの量を制御する還流ガス量制御手段を備える、ように構成され得る。
通路部を通過する排ガスの量(EGRガス量)は、例えば上記従来装置に示されているように、排気領域の体積を含む運転パラメータに基づいて算出され得る。上述したように、本発明の制御装置は、「排気領域の体積」を適切に把握することができる。そこで、この排気領域の体積を利用することにより、排気領域の体積を固定値とする場合に比べて、通路部を通過する排ガスの量(EGRガス量)をより適切に制御することができる。その結果、上記異常が生じた場合であっても、エミッション排出量を適切に低減することができる。
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様として、
前記体積推定手段は、
前記排気領域内の排ガスの圧力の変化量と、前記圧力損失発生部を通過する排ガスの量と、前記排気領域内の排ガスの温度と、前記排気領域内の排ガスの気体定数と、を「気体の状態方程式」に適用することによって前記排気領域の体積を推定する、ように構成され得る。
本態様においては、排気領域の体積を容易に推定する観点から、気体の状態方程式として「理想気体の状態方程式」が適用され得る。ただし、気体の状態方程式は理想気体の状態方程式に限定されず、気体の状態方程式として、ペン・ロビンソンの状態方程式、ファンデルワールスの状態方程式、および、ビリヤルの式等の実在気体に対応した周知の状態方程式が適用されてもよい。
さらに、本態様においては、排気領域の体積を容易に推定する観点から、排気領域内の排ガスの気体定数として「理想気体の気体定数」が適用され得る。ただし、排気領域内の排ガスの気体定数は理想気体の気体定数に限定されず、排ガスの気体定数として、実際に排気領域内に存在する物質(例えば、空気、窒素酸化物および未燃焼物質等)を考慮した適値が適用されてもよい。
ところで、上記圧力損失発生部は、その圧力損失発生部を通過した後の排ガスの圧力がその圧力損失発生部を通過する前の排ガスの圧力よりも小さくなる部分であればよく、特に制限されない。例えば、本発明の内燃機関の制御装置のさらに他の態様として、
前記内燃機関は、
前記排気通路に設けられるタービンと、前記吸気通路に設けられるコンプレッサと、を有する過給機を備え、
前記圧力損失発生部は前記タービンであるように構成され得る。
<装置の概要>
以下、本発明の制御装置の一の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る制御装置(以下、単に「実施装置」とも称呼する。)を内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。内燃機関10は、4気筒ディーゼル機関である。以下、内燃機関を単に「機関」とも称呼する。
この機関10は、図1に示すように、燃料噴射(供給)系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20に空気を導入するための吸気系統30、エンジン本体20から流出するガスを機関10の外部に排出するための排気系統40、排ガスを排気系統40から吸気系統30に還流させるためのEGR装置50、および、排ガスのエネルギによって駆動されてエンジン本体20に導入される空気を圧縮する過給装置60、を備えている。
エンジン本体20は、吸気系統30および排気系統40が連結されたシリンダヘッド21を有している。このシリンダヘッド21は、各気筒に対応するように各気筒の上部に設けられた複数の燃料噴射装置22を有している。各燃料噴射装置22は、図示しない燃料タンクと接続されており、電気制御装置80からの指示信号に応じて各気筒の燃焼室内に燃料を噴射するようになっている。
吸気系統30は、シリンダヘッド21に形成された図示しない吸気ポートを介して各気筒に連通されたインテークマニホールド31、インテークマニホールド31と各気筒の燃焼室との間に設けられてインテークマニホールド31と燃焼室とを導通または遮断する吸気弁(図示省略。)、インテークマニホールド31の上流側の集合部に接続された吸気管32、吸気管32内の開口断面積を可変とするスロットル弁(吸気絞り弁)33、電気制御装置80からの指示信号に応じてスロットル弁33を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ33a、スロットル弁33の上流側において吸気管32に設けられたインタークーラ34、および、インタークーラ34の上流側に設けられた過給装置60よりも上流側の吸気管32の端部に設けられたエアクリーナ35、を有している。インテークマニホールド31および吸気管32は、吸気通路を構成している。
排気系統40は、シリンダヘッド21に形成された図示しない排気ポートを介して各気筒に連通されたエキゾーストマニホールド41、各気筒の燃焼室とエキゾーストマニホールド41との間に設けられて燃焼室とエキゾーストマニホールド41とを導通または遮断する排気弁42、エキゾーストマニホールド41の下流側の集合部に接続された排気管43、および、排気管43に設けられた過給装置60よりも下流側の排気管43に設けられた排ガス浄化用触媒(DPNR)44、を有している。エキゾーストマニホールド41および排気管43は、排気通路を構成している。
なお、排気弁42が閉弁したとき、排ガスは燃焼室からエキゾーストマニホールド41に流出不能である。さらに、排気弁42が開弁したとき、排ガスは燃焼室からエキゾーストマニホールド41に流出可能である。
EGR装置50は、排ガスをエキゾーストマニホールド41からインテークマニホールド31へと還流させる通路部(EGR通路)を構成するEGR管51、EGR管51に介装されたEGRガス冷却装置(EGRクーラ)52、および、EGR管51に介装されたEGR制御弁53、を有している。
EGR管51は、その一端がエキゾーストマニホールド41に接続されると共にその他端がインテークマニホールド31に接続されている。EGR制御弁53は、EGR制御弁53が閉弁したときに排ガスがEGR管51を通過不能であると共にEGR制御弁53が開弁したときにその開度に応じてEGR管51を通過する排ガスの量が変化する、ように構成されている。EGR制御弁53は、電気制御装置80からの指示信号に応じてその開度を変更し得るようになっている。排ガスがEGR管51を通過可能であるとき、燃焼室からエキゾーストマニホールド41に流出された排ガスの一部が、このEGR管51を通過する。
過給装置60は、コンプレッサ61およびタービン62を有している。コンプレッサ61は吸気通路(吸気管32)に設けられている。タービン62は排気通路(排気管43)に設けられている。コンプレッサ61とタービン62とは、図示しないローターシャフトによって同軸回転可能に連結されている。燃焼室からエキゾーストマニホールド41に流出された排ガスのうちの上記「EGR管51を通過する排ガス」以外の排ガスが、タービン62を通過する。これにより、タービン62が排ガスによって回転せしめられると、コンプレッサ61が回転すると共にコンプレッサ61に供給される空気が圧縮される(過給が行われる)。なお、排ガスがタービン62を通過するとき、排ガスの圧力は低下する(圧力損失が生じる)。
この実施装置は、吸入空気量センサ71、吸気温度センサ72、吸気圧センサ73、クランクポジションセンサ74、排気温度センサ75、過給装置回転速度センサ76、および、アクセル開度センサ77、を備えている。
吸入空気量センサ71は、吸気通路(吸気管32)に設けられている。吸入空気量センサ71は、吸気管32内を流れると共に機関10に吸入される空気の質量流量である吸入空気量(すなわち、機関10に吸入される空気の質量)に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、吸入空気量が取得される。
吸気温度センサ72は、吸気通路(吸気管32)に設けられている。吸気温度センサ72は、吸気管32内を流れると共に機関10に吸入される空気の温度である吸気温度に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、吸気温度が取得される。
吸気圧センサ73は、スロットル弁33の下流側において吸気管32に設けられている。吸気圧センサ73は、それが設けられている部位における吸気管32内の空気の圧力(すなわち、機関10の燃焼室に供給される空気の圧力である過給圧)を表す信号を出力するようになっている。この信号に基づき、過給圧Pimが取得される。
クランクポジションセンサ74は、図示しないクランクシャフトの近傍に設けられている。クランクポジションセンサ74は、クランクシャフトが10°回転する毎に幅の狭いパルスを有する信号を出力すると共に、クランクシャフトが360°回転する毎に幅の広いパルスを有する信号を出力するようになっている。これら信号に基づき、クランクシャフトの単位時間あたりの回転数(以下、単に「機関回転速度NE」とも称呼される。)が取得される。
排気温度センサ75は、タービン62の上流側において排気通路(エキゾーストマニホールド41)に設けられている。排気温度センサ75は、燃焼室から流出した排ガスの温度に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、排気温度Texが取得される。
過給装置回転速度センサ76は、図示しないタービンシャフトの近傍に設けられている。過給装置回転速度センサ76は、過給装置60のタービンシャフトの単位時間あたりの回転数に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、過給装置回転速度NTが取得される。
アクセル開度センサ77は、機関10の操作者によって操作されるアクセルペダルAPに設けられている。アクセル開度センサ77は、このアクセルペダルAPの開度に応じた信号を出力するようになっている。この信号に基づき、アクセルペダル開度Accpが取得される。
電気制御装置80は、CPU81、CPU81が実行するプログラム、テーブル(マップ)および定数などをあらかじめ記憶したROM82、CPU81が必要に応じて一時的にデータを格納するRAM83、電源が投入された状態でデータを格納すると共に格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM84、ならびに、ADコンバータを含むインターフェース85、などを有する。CPU81、ROM82、RAM83、RAM84およびインターフェース85は、互いにバスで接続されている。
インターフェース85は、上記各センサなどと接続され、CPU81に上記各センサなどから出力される信号を供給するようになっている。さらに、インターフェース85は、CPU81の指示に応じて、燃料噴射装置22、スロットル弁アクチュエータ33a、および、EGR制御弁53などに駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
機関10において、「排気弁42と、エキゾーストマニホールド41の内壁面と、EGR制御弁53と、EGR管51の内壁面と、タービン62と、によって画成される領域」が、上記「排気領域」に相当する。以下、この領域を、上記同様に「排気領域」と称呼する。
上記説明から明らかなように、各気筒の燃焼室から排気領域に流出する排ガスの一部は、EGR管51を通過してインテークマニホールド31に還流される。一方、該排ガスの上記一部以外の他部は、タービン62を通過する。すなわち、該排ガスのうちのEGR管51を通過する排ガス以外の排ガスが、タービン62を通過する。
<装置の作動の概要>
以下、上述したように構成された実施装置の作動の概要について説明する。
実施装置は、EGR制御弁53および排気弁42の全てが「閉弁」している期間における排気領域内の排ガスの圧力Pexの変化量DPexと、その期間におけるタービン62を通過する排ガスの量Mtbと、その期間における排気領域内の排ガスの温度Texと、に基づき、排気領域の体積Vexを推定する。
さらに、実施装置は、排気領域の体積Vexを含む所定の運転パラメータに基づき、EGRガス量の推定値Gegrestを取得する。次いで、CPU81は、そのEGRガス量の推定値Gegrestに基づき、EGR率の推定値Regrestを取得する。そして、実施装置は、そのEGR率の推定値Regrestと、所定の運転パラメータに基づいて決定されるEGR率の目標値Regrtgtと、が一致するように、スロットル弁33の開度およびEGR制御弁53の開度を制御する。以上が実施装置の作動の概要である。
ところで、機関10のROM82には、排気領域の体積Vexの「初期値」が格納(保存)されている。この初期値は、例えば機関10を搭載した車両の工場出荷時などにおいて、ROM82に格納される。実施装置は、上述したように排気領域の体積Vex(推定値)が取得される前、この初期値を用いて上述したようにEGR率の推定値Regrestを取得する。そして、実施装置は、排気領域の体積Vex(推定値)が取得された後、この体積Vex(推定値)を用いてEGR率の推定値Regrestを取得する。
なお、上記「EGR制御弁53および排気弁42の全てが閉弁している期間」が、上記「全弁閉状態」が生じている期間に相当する。以下、「EGR弁53および排気弁42の全てが閉弁している状態」を、上記同様に「全弁閉状態」と称呼する。
さらに、以下、便宜上、排気領域内の排ガスの圧力Pexを「排気圧力Pex」と称呼し、排気領域内の排ガスの温度Texを「排気温度Tex」と称呼する。
<実際の作動>
以下、実施装置の実際の作動について説明する。
実施装置において、CPU81は、図2および図3にフローチャートによって示した各ルーチンを所定のタイミング毎に繰り返し実行するようになっている。CPU81は、これらルーチンにおいて、体積取得フラグXVEを用いる。
体積取得フラグXVEは、その値が「0」であるとき、排気領域の体積Vexが実施装置によって取得されていない(すなわち、所定の初期値である)ことを表す。一方、体積取得フラグXVEは、その値が「1」であるとき、排気領域の体積Vexが実施装置によって取得されていることを表す。
体積取得フラグXVEの値は、機関10を搭載した車両の工場出荷時およびサービス点検実施時などにおいて電気制御装置80に対して所定の操作がなされたとき、「0」に設定されるようになっている。
以下、CPU81が実行する各ルーチンについて詳細に説明する。
まず、現時点における体積取得フラグXVEの値は「0」に設定されていると仮定する。以下、便宜上、この仮定を「初期設定仮定」とも称呼する。
CPU81は、機関10が始動されると、所定時間が経過する毎に、図2にフローチャートによって示した「排気領域体積推定ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU81は、このルーチンにより、排気領域の体積Vexを推定する。
具体的に述べると、CPU81は、所定のタイミングにて図2のステップ200から処理を開始してステップ205に進む。CPU81は、ステップ205にて、EGR制御弁53および排気弁42の全てが閉弁しているか否か(すなわち、全弁閉状態が生じているか否か)を判定する。現時点にてEGR制御弁53および排気弁42のうちの少なくとも1つが「開弁」していると、CPU81は、ステップ205にて「No」と判定してステップ210に進む。
CPU81は、ステップ210にて、体積取得フラグXVEの値が「1」であるか否かを判定する。上記初期設定仮定に従えば、現時点における体積取得フラグXVEの値は「0」であるので、CPU81は、ステップ210にて「No」と判定する。そして、CPU81は、ステップ295に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
さらに、CPU81は、所定時間が経過する毎に、図3にフローチャートによって示した「EGR率制御ルーチン」を繰り返し実行するようになっている。CPU81は、このルーチンにより、機関10の運転状態に応じてEGR率の目標値Regrtgtを決定する。さらに、CPU81は、このルーチンにより、その目標値Regrtgtと、EGR率の推定値Regrestと、が一致するようにスロットル弁33およびEGR制御弁53を制御する。
具体的に述べると、CPU81は、所定のタイミングにて図3のステップ300から処理を開始してステップ310に進む。CPU81は、ステップ310にて、「機関回転速度NEと、アクセルペダル開度Accpと、EGR率の目標値Regrtgtと、の関係」をあらかじめ定めたEGR率目標値決定テーブルMapRegrtgt(NE,Accp)に、現時点における機関回転速度NEおよびアクセルペダル開度Accpを適用することにより、EGR率の目標値Regrtgtを決定する。
上記機関回転速度NEとして、クランクポジションセンサ74によって取得される値が採用される。上記アクセルペダル開度Accpとして、アクセル開度センサ77によって取得される値が採用される。さらに、上記EGR率目標値決定テーブルMapRegrtgt(NE,Accp)において、EGR率の目標値Regrtgtは、エミッション排出量を出来る限り低減する観点における適値となるように、定められる。
次いで、CPU81は、ステップ320に進む。CPU81は、ステップ320にて、「気筒内に吸入されるガス量Gcylと、燃料噴射量の目標値Qtgtと、気筒から流出するガス量Mcylと、の関係」を表す排ガス量算出関数FnMcyl(Gcyl,Qtgt)に、現時点における気筒内に吸入されるガス量Gcylおよび燃料噴射量の目標値Qtgtを適用することにより、排ガス量Mcylを算出する。
上記気筒内に吸入されるガス量Gcylは、所定の図示しないルーチンにより、機関10の運転状態に基づいて算出されるようになっている。さらに、上記燃料噴射量の目標値Qtgtは、所定の図示しないルーチンにより、機関10の運転状態に応じた量として定められるようになっている。上記排ガス量算出関数FnMcyl(Gcyl,Qtgt)において、排ガス量Mcylは、気筒内に吸入されるガス量Gcylが大きくなるにつれて大きくなるように、定められる。加えて、上記排ガス量算出関数FnMcyl(Gcyl,Qtgt)において、排ガス量Mcylは、燃料噴射量の目標値Qtgtが大きくなるにつれて大きくなるように、定められる。
次いで、CPU81は、ステップ330に進む。CPU81は、ステップ330にて、タービン62を通過する排ガスの量であるタービン通過排ガス量Mtbを取得する。なお、タービン通過排ガス量Mtbを取得する方法として、例えば、「気筒から流出するガス量Mcylおよび過給装置回転速度NTなどの運転パラメータと、タービン通過排ガス量Mtbと、の関係をあらかじめ定めたマップ」に基づいてタービン通過排ガス量Mtbを算出する方法が採用され得る。
次いで、CPU81は、ステップ340に進む。CPU81は、ステップ340にて、「排気領域の体積Vexと、排気温度Texと、排ガス量Mcylと、タービン通過排ガス量Mtbと、過給圧Pimと、EGR制御弁53の開度Oegrvと、EGRガス量の推定値Gegrestと、の関係」を表すEGRガス量推定関数FnGegrest(Vex,Tex,Mcyl,Mtb,Pim,Oegrv)に、現時点における排気領域の体積Vexと、排気温度Texと、排ガス量Mcylと、タービン通過排ガス量Mtbと、過給圧Pimと、EGR制御弁53の開度Oegrvと、を適用することにより、EGRガス量の推定値Gegrestを取得する。
現時点における排気領域の体積Vexとして、上述したようにROM82に格納されている排気領域の体積Vexの初期値が採用される。さらに、排気温度Texとして、排気温度センサ75によって取得される値が採用される。過給圧Pimとして、吸気圧センサ73によって取得される値が採用される。EGR弁53の開度Oegrvとして、電気制御装置80からEGR制御弁53に送出される指示信号に対応する値が採用される。なお、排ガス量Mcylおよびタービン通過排ガス量Mtbとして、上記各ステップにて取得された値が採用される。
次いで、CPU81は、ステップ350に進む。CPU81は、ステップ350にて、「EGRガス量の推定値Gegrestと、気筒内に吸入されるガス量Gcylと、EGR率の推定値Regrestと、の関係」を表すEGR率推定関数FnRegrest(Gegrest,Gcyl)に、現時点におけるEGRガス量の推定値Gegrestおよび気筒内に吸入されるガス量Gcylを適用することにより、EGR率の推定値Regrestを取得する。なお、EGRガス量の推定値Gegrestおよびガス量Gcylとして、上記各ステップにて取得された値が採用される。
次いで、CPU81は、ステップ360に進む。CPU81は、ステップ360にて、EGR率の推定値Regrestと、その目標値Regrtgtと、が一致しているか否かを判定する。なお、EGR率の推定値Regrestおよび目標値Regrtgtとして、上記各ステップにて取得された値が採用される。
現時点にてEGR率の推定値Regrestと目標値Regrtgtとが一致していれば、CPU81は、ステップ360にて「Yes」と判定してステップ395に進み、本ルーチンを一旦終了する。
一方、現時点にてEGR率の推定値Regrestと目標値Regrtgtと一致していなければ、CPU81は、ステップ360にて「No」と判定してステップ370に進む。CPU81は、ステップ370にて、EGR率の推定値Regrestと目標値Regrtgtとが一致するように、スロットル弁33の開度およびEGR制御弁53の開度を制御する。その後、CPU81は、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このように、実施装置は、排気領域の体積Vex(推定値)が取得される前、ROM82に格納されている排気領域の体積Vexの「初期値」を用いてEGR率の制御を行う。
次いで、現時点にてEGR制御弁53および排気弁42の全てが「閉弁」していると仮定し、説明を続ける。
CPU81は、所定のタイミングにて図2のステップ200から処理を開始すると、ステップ205に進む。上記仮定に従えば、CPU81は、ステップ205にて「Yes」と判定してステップ215に進む。
CPU81は、ステップ215にて、現時点におけるタービン通過排ガス量Mtb(k)を取得する。なお、タービン通過排ガス量Mtb(k)を取得する方法として、上記ステップ330にて採用されている方法と同様の方法が採用され得る。なお、kは現時点を表す指標であり、k−1は現時点よりも前の時点を表す指標である。
次いで、CPU81は、ステップ220に進む。CPU81は、ステップ220にて、現時点におけるタービン62の下流側の排ガスの圧力に対する上流側の排ガスの圧力の比(以下、「タービン圧力比」とも称呼する。)Rptb(k)を取得する。具体的に述べると、CPU81は、「タービン通過排ガス量Mtbと、過給装置回転速度NTと、タービン圧力比Rptbと、の関係」をあらかじめ定めたタービン圧力比テーブルMapRptb(Mtb,NT)に、現時点におけるタービン通過排ガス量Mtb(k)および過給装置回転速度NT(k)を適用することにより、タービン圧力比Rptb(k)を取得する。
上記タービン圧力比テーブルMapRptb(Mtb,NT)において、タービン圧力比Rptbは、タービン通過排ガス量Mtbが大きいほど大きく、かつ、過給装置回転速度NTが大きいほど大きくなるように、定められる。
次いで、CPU81は、ステップ225に進む。CPU81は、ステップ225にて、タービン圧力比Rptb(k)を下記(1)式に適用することにより、現時点における排気圧力Pex(k)を算出する。下記(1)式において、P0(k)は現時点におけるタービン62の下流側の排ガスの圧力を示す。なお、実施装置は、P0(k)としてROM82に格納(保存)されている大気圧(固定値)を採用する。
Pex(k)=P0(k)×Rptb(k) ・・・(1)
次いで、CPU81は、ステップ230に進む。CPU81は、ステップ230にて、体積取得フラグXVEの値が「0」であるか否かを判定する。上記初期設定仮定に従えば、現時点における体積取得フラグXVEの値は「0」であるので、CPU81は、ステップ230にて「Yes」と判定してステップ235に進む。
CPU81は、ステップ235〜ステップ245の一連の処理により、EGR弁53および排気弁42の全てが閉弁している期間(すなわち、全弁閉状態が生じている期間)における「排気圧力Pexの変化量の積算値DPex」および「タービン通過排ガス量Mtbの積算値DMtb」を算出する。以下、便宜上、排気圧力Pexの変化量の積算値DPexを「圧力変化量積算値DPex」と称呼し、タービン通過排ガス量Mtbの積算値DMtbを「排ガス量積算値DMtb」と称呼する。
圧力変化量積算値DPexおよび排ガス量積算値DMtbを算出するための準備として、CPU81は、ステップ235にて、時点k−1における圧力変化量積算値DPex(k−1)に「初期値としてのゼロ」を格納する。さらに、CPU81は、ステップ235にて、時点k−1におけるタービン通過排ガス量Mtb(k−1)に「初期値としてのゼロ」を格納する。加えて、CPU81は、ステップ235にて、時点k−1における排気圧力Pex(k−1)に「現時点(時点k)における排気圧力Pex(k)」を格納する。
次いで、CPU81は、ステップ240に進む。CPU81は、ステップ240にて、現時点における排気圧力Pex(k)を下記(2)式に適用することにより、現時点における圧力変化量積算値DPex(k)を取得(更新)する。
DPex(k)=DPex(k−1)+{Pex(k−1)−Pex(k)} ・・・(2)
上述したように、現時点において、圧力変化量積算値DPex(k−1)および排気圧力Pex(k−1)は、ゼロ(初期値)である。さらに、現時点において、排気圧力Pex(k−1)は、排気圧力Pex(k)である。よって、上記(2)式にこれら値が適用されることにより、圧力変化量積算値DPex(k)として「ゼロ」が取得される。なお、この圧力変化量積算値DPex(k)はRAM83に格納される。
次いで、CPU81は、ステップ245に進む。CPU81は、ステップ245にて、現時点におけるタービン通過排ガス量Mtb(k)を下記(3)式に適用することにより、現時点における排ガス量積算値DMtb(k)を取得(更新)する。
DMtb(k)=DMtb(k−1)+Mtb(k) ・・・(3)
上述したように、現時点において、排ガス量積算値DMtb(k−1)のゼロ(初期値)である。よって、上記(3)式にこの値が適用されることにより、排ガス量積算値DMtb(k)として「Mtb(k)」が取得される。なお、この排ガス量積算値DMtb(k)はRAM83に格納される。
次いで、CPU81は、ステップ250に進む。CPU81は、ステップ250にて、体積取得フラグXVEの値に「1」を設定する。その後、CPU81は、ステップ295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このように、ステップ205にて「EGR制御弁53および排気弁42の全てが閉弁している(すなわち、全弁閉状態が生じている)」と判定されると、排気圧力Pexの変化量およびタービン通過排ガス量Mtbが積算され始める。
さらに、EGR制御弁53および排気弁42の全てが閉弁している期間において、CPU81が再び図2のステップ200から処理を開始すると、CPU81は、ステップ205、ステップ215、ステップ220およびステップ225を経由してステップ230に進む。
現時点における体積取得フラグXVEの値は「1」であるので、CPU81は、ステップ230にて「No」と判定してステップ240に直接進む。すなわち、このとき、ステップ235の処理は行われない。このように、排気圧力Pexの変化量およびタービン通過排ガス量Mtbの積算が一旦開始されると、圧力変化量積算値DPex、排ガス量積算値DMtbおよび排気圧力Pexに上記初期値は設定されない。
CPU81は、ステップ240にて、上記(2)式に従って圧力変化量積算値DPex(k)を取得(更新)する。これにより、圧力変化量積算値DPex(k)の値は「時点k−1における排気圧力Pex(k−1)と、現時点kにおける排気圧力Pex(k)と、の差」だけ増大される。
次いで、CPU81は、ステップ245にて、上記(4)式に従って排ガス量積算値DMtb(k)を取得(更新)する。これにより、排ガス量積算値DMtb(k)の値は「現時点におけるタービン通過排ガス量Mtb(k)」だけ増大される。その後、CPU81は、ステップ250を経由してステップ295に進み、本ルーチンを一旦終了する。
上記説明から明らかなように、ステップ205にて「EGR弁53および排気弁42の全てが閉弁している(すなわち、全弁閉状態が生じている)」と判定されている期間、CPU81は、圧力変化量積算値DPexおよび排ガス量積算値DMtbの値を積算(更新)し続ける。ここで、現時点においてEGR制御弁53および排気弁42のうちの少なくとも1つが「開弁」したと仮定する。
上記仮定に従えば、CPU81は、図2のステップ200から処理を開始してステップ205に進むと、ステップ205にて「No」と判定してステップ210に進む。すなわち、このとき、ステップ215〜ステップ245の処理は実行されないので、圧力変化量積算値DPexおよび排ガス量積算値DMtbの値を積算することが停止される。
次いで、現時点における体積取得フラグXVEの値は「1」であるので、CPU81は、ステップ210にて「Yes」と判定してステップ255に進む。
CPU81は、ステップ255にて、上述したように取得(積算)された圧力変化量積算値DPex(k)および排ガス量積算値DMtb(k)を下記(4)式に適用することにより、排気領域の体積Vexを算出(推定)する。算出された排気領域の体積Vexは、バックアップRAM84に格納される。下記(4)式において、RはROM82にあらかじめ記憶されている理想気体の気体定数を表し、Texは排気温度センサ75によって取得される排気領域の排ガスの温度を表す。
Vex={R×Tex×DMtb(k)}/|DPex(k)| ・・・(4)
ここで、上記(4)式についてより詳細に説明する。
上述したように、排気弁42が開弁しているとき、燃焼室から排気領域に排ガスが流出する。そして、該排ガスの一部はEGR管51を通過してインテークマニホールド31に還流され、該排ガスの一部以外の排ガスはタービン62を通過して機関10の外部へ流出する。そのため、EGR制御弁53および排気弁42の双方が「閉弁」している場合(全弁閉状態が生じている場合)、排気領域の内部にはその外部から排ガスが供給されず、排気領域の内部の排ガスはタービン62「のみ」を介してその外部へ流出する。
そのため、全弁閉状態が生じている期間における排気領域内の排ガスの圧力の変化量(すなわち、上記圧力変化量積算値DPex)と、該期間においてタービン62を通過する排ガスの量(すなわち、上記排ガス量積算値DMtb)と、該期間における排気領域内の排ガスの温度(すなわち、上記温度Tex)と、を下記(5)式に示すように理想気体の状態方程式に適用することにより、排気領域の体積Vexを算出することができる。
下記(5)式において、Δtは圧力変化量積算値DPexおよび排ガス量積算値DMtbが取得された時間の長さを表す。さらに、実施装置において圧力変化量積算値DPexは負の数であると考えられるので、下記(5)式において圧力変化量積算値DPexの絶対値(|DPex|)が採用されている。加えて、全弁閉状態が生じている期間に排気領域の温度Texおよび排気領域の体積Vexは変化しない(すなわち、固定値である)と仮定されている。さらに加えて、気体定数Rとして理想気体の気体定数が採用されている。
|DPex|/Δt×Vex=DMtb/Δt×R×Tex ・・・(5)
上記(5)式に基づき、上記(4)式が導出される。以上が上記(4)式についての説明である。
再び図2を参照すると、CPU81は、ステップ255にて排気領域の体積Vexを算出(推定)した後、ステップ260に進む。CPU81は、ステップ260にて、体積取得フラグXVEの値に「0」を設定する。その後、CPU81は、ステップ295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
さらに、CPU81は、所定のタイミングにて図3のステップ300から処理を開始すると、ステップ310〜ステップ330を経由してステップ340に進む。CPU81は、ステップ340にて、上述したように算出(推定)された排気領域の体積Vexを用いてEGRガス量の推定値Gegrestを取得する。
その後、CPU81は、ステップ330およびステップ340の処理を実行し、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このように、実施装置は、EGR制御弁53および排気弁42の全てが閉弁している期間(全弁閉状態が生じている期間)に取得された圧力変化量積算値DPexおよび排ガス量積算値DMtbを用いて、排気領域の体積Vexを推定する。したがって、実施装置は、排気領域の体積Vexを画定する部材に経年劣化などの異常が生じた場合であっても、排気領域の体積を適切に把握することができる。
さらに、実施装置は、上記推定された排気領域の体積Vexを用いて、EGR率を制御する。したがって、例えばあらかじめ定められている排気領域の体積(固定値)が用いられる場合に比べて、より適切にEGR率を制御することができる。
ところで、機関10は、各気筒において、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、および、排気行程の4つの工程を繰り返し行ういわゆる4サイクル4気筒ディーゼル機関である。機関10は、所定の定常運転がなされているとき(例えば、加速運転および減速運転などの過渡的な運転以外の運転がなされているとき)、概ね、クランクシャフトの回転角度位置(以下、「クランク角度」と称呼する。)0°〜180°に亘って吸気行程が行われ、クランク角度180°〜360°に亘って圧縮行程が行われ、クランク角度360°〜540°に亘って膨張行程が行われ、クランク角度540°〜720°に亘って排気行程が行われるようになっている。なお、各気筒に配置されたピストンが特定の上死点にあるときのクランク角度が「0°」に相当し、ピストンが次の上死点にあるときのクランク角度が「360°」に相当する。
そして、4気筒ディーゼル機関である機関10では、概ね、各気筒における吸気行程は、クランク角度180°だけずれて行われる。したがって、概ね、各気筒における排気行程も、クランク角度180°だけずれて行われる。
ここで、特定の目的でもって排気行程において燃焼室内に排ガスを残留させる制御(すなわち、いわゆる内部EGR制御)が知られている。この内部EGR制御では、各気筒においてクランク角度720°よりも早いクランク角度で排気行程を終了させることによって燃焼室内に排ガスを残留させる。このとき、EGR制御弁を介して排ガスを燃焼室内に導入する必要がなく且つ各気筒においてクランク角度540°またはその近傍のクランク角度から排気行程が開始する場合、全弁閉状態が生じる。
したがって、上述した実施形態(実施装置)は、例えば、内部EGR制御が行われている場合において全弁閉弁状態が生じたときに、排気領域の体積の推定を行うものである。
もちろん、各気筒における排気行程が厳密にクランク角度540°〜720°に亘って行われる場合であっても、クランク角度180°毎に全ての気筒における排気弁42が閉弁している状態(すなわち、排気弁42の全てが閉弁している状態)が極めて短い期間に亘って生じる。したがって、この極めて短い期間に上述した考え方に従って排気領域の体積の推定を行ってもよい。
上述した実施形態は、このように排気弁42の全てが閉弁している状態が生じていると共に、EGR制御弁53が閉弁している状態が生じているときに、排気領域の体積Vexを推定するものである。
このように、実施装置は、上述した排気領域の体積の推定を行うべきか否かに「無関係に」全弁閉状態(すなわち、EGR制御弁および排気弁の全てが閉弁している状態)が生じたときに上述した排気領域の体積の推定を行うように、構成され得る。なお、上述した内部EGR制御が行われている場合において生じる全弁閉状態は、上述した排気領域の体積の推定を行うべきか否かに無関係に生じる全弁閉弁状態のあくまで一例である。
これに対し、実施装置は、上述した排気領域の体積の推定を行うべきであると判別されたときに全弁閉状態を「強制的に」生じさせた上で上述した排気領域の体積の推定を行うようにも、構成され得る。
ここで、上述した排気領域の体積の推定を行うべきであると判別されたときに上述した排気領域の体積の推定を行うために内燃機関の運転状態を考慮せずに全弁閉状態を「強制的に」生じさせると、内燃機関のドライバビリティが低下する場合もあり得るし、内燃機関の性能(例えば、内燃機関の出力性能や内燃機関のエミッション特性)が低下する場合もあり得る。そこで、全弁閉状態を強制的に生じさせる場合には、内燃機関のドライバビリティまたは内燃機関の性能が低下しないタイミング(或いは、内燃機関のドライバビリティまたは内燃機関の性能が低下したとしても、その低下の程度が小さいタイミング)にて全弁閉状態を生じさせることが好ましい。
なお、内燃機関のドライバビリティや内燃機関の性能が低下しないタイミング(或いは、内燃機関のドライバビリティや内燃機関の性能が低下したとしても、その低下の程度が小さいタイミング)として、例えば、減速中のタイミング、または、内燃機関の運転が停止される直前のタイミングなどが挙げられる。
また、4サイクル4気筒ディーゼル機関においては、一般に、各気筒における排気行程がクランク角度360°よりも早い(進角した)クランク角度から開始する場合があり、各気筒における排気行程がクランク角度540°よりも遅い(遅角した)クランク角度で終了する場合がある。この場合、厳密には、全ての気筒における排気弁が閉弁している状態が生じないことになる。しかしながら、排気行程が開始するクランク角度がクランク角度360°よりも僅かに早いクランク角度である場合、実質的には、全ての気筒における排気弁が閉弁している状態が生じているとみなすことができる。さらに、排気行程が終了するクランク角度がクランク角度540°よりも僅かに遅いクランク角度である場合、実質的には、全ての気筒における排気弁が閉弁している状態が生じているとみなすことができる。
「厳密に全ての気筒における排気弁が閉弁しており且つEGR制御弁が閉弁しているとき」に排気領域の体積を推定することが、より正確に排気領域の体積を推定するという観点からは好ましい。しかし、各気筒においてクランク角度360°よりも早いクランク角度から排気行程が開始するとしても、「開弁している排気弁の開度が実質的に全ての気筒における排気弁が閉弁しているとみなすことができる程度に小さい開度」であれば、上述した考え方に従って排気領域の体積が推定され得る。さらに、各気筒においてクランク角度540°よりも遅いクランク角度で排気行程が終了するとしても、「開弁している排気弁の開度が実質的に全ての気筒における排気弁が閉弁しているとみなすことができる程度に小さい開度」であれば、上述した考え方に従って排気領域の体積が推定され得る。
別の云い方をすれば、各気筒においてクランク角度360°よりも早いクランク角度から排気行程が開始するとしても、「開弁している排気弁の開度が排気領域の体積を許容可能な精度でもって推定することができる程度に小さい開度」であれば、上述した考え方に従って排気領域の体積が推定され得る。さらに、各気筒においてクランク角度540°よりも遅いクランク角度で排気行程が終了するとしても、「開弁している排気弁の開度が排気領域の体積を許容可能な精度でもって推定することができる程度に小さい開度」であれば、上述した考え方に従って排気領域の体積が推定され得る。
同様に、厳密にEGR制御弁が閉弁している状態が生じており且つ全ての気筒における排気弁が閉弁しているときに排気領域の体積を推定することがより正確に排気領域の体積を推定するという観点からは好ましいが、「EGR制御弁の開度が実質的にEGR制御弁が閉弁しているとみなすことができる程度に小さい開度」であれば、上述した考え方に従って排気領域の体積が推定され得る。
別の云い方をすれば、「EGR制御弁の開度が排気領域の体積を許容可能な精度でもって推定することができる程度に小さい開度」であれば、上述した考え方に従って排気領域の体積が推定され得る。
もちろん、上述した考え方に従った排気領域の体積の推定は、4サイクル4気筒ディーゼル機関「以外」の内燃機関であって厳密に或いは実質的に全ての排気弁が閉弁している状態が生じる内燃機関にも、適用され得る。
ところで、上述した考え方に従って排気領域の体積の推定を行うためには、体積を推定すべき排気領域を画定する部分として、排ガスの圧力が低下する部分(すなわち、圧力損失が生じる部分)が必要である。上述した実施形態(実施装置)では、この圧力損失が生じる部分は、タービン62である。しかしながら、圧力損失が生じる部分は、タービン62以外の部分でもよい。例えば、上述した実施形態のように、排気管43に排ガス浄化用触媒44が設けられている場合、この排ガス浄化用触媒44が圧力損失が生じる部分となり得る。加えて、排気管43内に当該排気管43内を流れる排ガスの流量を制御することができるいわゆる排気絞り弁が設けられている場合、この排気絞り弁が圧力損失が生じる部分となり得る。
さらに、排気管43にタービン62、排ガス浄化用触媒44または排気絞り弁などが設けられていない場合であっても、厳密には、排気管43自体が圧力損失が生じる部分となり得る。しかし、上述した考え方に従って排気領域の体積をより正確に推定するという観点からは、タービン62、排ガス浄化用触媒44または排気絞り弁などのような圧力損失が生じる部分が排気管43に存在することが好ましい。ただし、上述した考え方に従って排気領域の体積を許容可能な精度でもって推定することができる限りにおいて、排気管43自体を圧力損失が生じる部分として、上述した考え方に従って排気領域の体積が推定され得る。
換言すると、タービン62、排ガス浄化用触媒44または排気絞り弁などは、上述した考え方に従って排気領域の体積を許容可能な精度でもって推定することができる程度の圧力損失が生じる部分に相当する。
<実施形態の総括>
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る制御装置(実施装置)は、
排気弁42と、
排ガスを排気通路41から吸気通路31に還流可能な通路部(EGR管51)と、
通路部51を通過する排ガスの量を制御する制御弁(EGR制御弁53)と、
排気通路43に設けられる圧力損失発生部(タービン62)と、
を備える内燃機関10に適用される。
この内燃機関10において、燃焼室から排気通路41に流出する排ガスのうちの通路部51を通過する排ガス以外の排ガスは、圧力損失発生部62を通過する。さらに、この内燃機関10は、排気弁42が閉弁しており且つ制御弁53が閉弁している状態である「全弁閉状態」が生じ得るようになっている。
上記内燃機関10に適用される実施装置は、
「全弁閉状態」が生じている期間(図2のステップ205にて「Yes」と判定される期間)における排気弁42と、排気通路31の内壁面と、制御弁53と、通路部51の内壁面と、圧力損失発生部62と、によって画成される領域である排気領域内の排ガスの圧力(排気圧力Pex)の変化量(圧力変化量積算値DPex)と、全弁閉状態が生じている期間における圧力損失発生部62を通過する排ガスの量(排ガス量積算値DMtb)と、全弁閉状態が生じている期間における排気領域内の排ガスの温度(排気温度Tex)と、に基づき、排気領域の体積Vexを推定する体積推定手段(図2のルーチンを参照。)、
を備えている。
さらに、実施装置は、
排気領域の体積Vexを含む所定の運転パラメータに基づいて通路部51を通過する排ガスの量(EGRガス量Gegrest)を制御する還流ガス量制御手段(図3のルーチンを参照。)、
を備えている。
より具体的に述べると、実施装置において、
上記体積推定手段は、
排気領域内の排ガスの圧力の変化量DPexと、圧力損失発生部62を通過する排ガスの量DMtbと、排気領域内の排ガスの温度Texと、排気領域内の排ガスの気体定数Rと、を気体の状態方程式に適用することによって排気領域の体積Vexを推定する、ように構成されている(図2のステップ255)。
なお、上述したように、実施装置が適用される内燃機関10において、圧力損失発生部は、過給機60のタービン62に相当する。
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
例えば、本発明の制御装置は、排気領域の体積Vexをより精密に推定する観点から、機関10が定常運転されているときに(例えば、加速運転および減速運転などの過渡的な運転以外の運転がなされているときに)排気領域の体積Vexが推定されるように、構成され得る。
さらに、本発明の制御装置は、排気領域の体積Vexを推定することを複数回繰り返した後、取得された値の平均値を排気領域の体積Vexとして採用するように構成され得る。例えば、1の燃焼サイクルの間に全弁閉状態が複数回生じる場合、制御装置は、その1の燃焼サイクルの間に取得(推定)された複数の値(推定値)の平均値を体積Vexとして採用するように、構成され得る。