内燃機関が非線形系であるのに対し、この従来の制御装置では、上述したように排ガス酸素濃度、EGRガス酸素濃度および接続部酸素濃度の算出を、単に、物理式に従って行うに過ぎないので、吸入ガス酸素濃度を精度良く推定することができず、ひいては、吸入ガス酸素濃度に基づくEGRガス量を介した内燃機関の制御を適切に行うことができない。同様に、従来の制御装置では、ディレイ係数の算出を、吸気マニホルドの容積、気筒の総容積、気筒数および内燃機関の回転数に応じ、物理式に従って行うに過ぎないので、吸気通路のEGR通路との接続部から燃焼室に吸入ガスが到達するまでのむだ時間を、吸入ガス酸素濃度の算出に良好に反映させることができず、このことによっても、吸入ガス酸素濃度を精度良く推定することができない。以上のような不具合は、内燃機関が過渡運転状態にあるときには、内燃機関における非線形性が強くなるので、より顕著になる。
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関の過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において、燃焼室に吸入される吸入ガスの流量および酸素濃度を精度良く推定することができ、それにより、内燃機関を適切に制御することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明による内燃機関3の制御装置1は、内燃機関3の吸気通路5および排気通路6に接続され、内燃機関3の燃焼室から排気通路6に排出されたガスである排ガスの一部を、吸気通路5に還流させるための第1EGR通路(実施形態における(以下、本項において同じ)低圧EGR通路16a)と、吸気通路5、排気通路6および第1EGR通路を含むガス通路の互いに異なる複数の部位のそれぞれにおける複数のガスの流量(低圧EGRガス流量FLEGR、高圧EGRガス流量FHEGR、吸気チャンバガス流量FICHG、吸入ガス流量FING)を推定するための複数のニューラルネットワーク(第1流量推定部2a、第2流量推定部2c、第3流量推定部2d、第4流量推定部2e)を有するガス流量推定手段(ECU2、ステップ1、3、4、5)と、を備え、複数のニューラルネットワークのうちの、吸気通路5の第1EGR通路との接続部よりも下流側の少なくとも1つの部位におけるガスの流量を推定するためのニューラルネットワークは、当該ニューラルネットワークによりガスの流量が推定される部位よりも上流側の部位における、他のニューラルネットワークにより推定されたガスの流量の今回値および過去値を入力とし、当該推定されるガスの流量を出力として構築されており、ガス流量推定手段は、複数のニューラルネットワークを用いて、複数のガスの流量をガス通路の上流側から下流側に向かって順に推定することにより、少なくとも1つの部位のうちの最も下流側の部位におけるガスの流量として、燃焼室に吸入されるガスである吸入ガスの流量(吸入ガス流量FING)を推定することを特徴とする。
この内燃機関の制御装置によれば、燃焼室から排気通路に排出された排ガスの一部が、第1EGR通路を介して、吸気通路に還流する(以下、請求項1〜5の説明において、還流する排ガスを「第1EGRガス」という)。また、吸気通路、排気通路および第1EGR通路を含むガス通路の互いに異なる複数の部位のそれぞれにおける複数のガスの流量が、ガス流量推定手段の複数のニューラルネットワークによってそれぞれ推定される。また、複数のニューラルネットワークのうちの、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側の少なくとも1つの部位におけるガスの流量を推定するためのニューラルネットワークは、当該ニューラルネットワークによりガスの流量が推定される部位よりも上流側の部位における、他のニューラルネットワークにより推定されたガスの流量の今回値および過去値を入力とし、当該推定されるガスの流量を出力として構築されている。
ガスの流量は、内燃機関が定常運転状態にあるときには、安定しており、その今回値が過去値とほぼ同じになる一方、過渡運転状態にあるときには、非線形的に変化し、今回値が過去値と異なるようになる。このように、ガスの流量の今回値および過去値の間の関係は、内燃機関が定常運転状態または過渡運転状態のいずれの状態にあるかを良好に表す。また、ニューラルネットワークは、入力および出力の間の関係を、入力される複数のパラメータの間の関係を加味しながら、適切にモデル化できるという特性を有しており、この場合、これらの入力および出力の間の関係が、線形または非線形であるかを問わない。
この制御装置によれば、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側の少なくとも1つの部位におけるガスの流量を推定するためのニューラルネットワークが、より上流側の部位における、他のニューラルネットワークにより推定されたガスの流量の今回値および過去値の双方を入力として構築されている。したがって、内燃機関の定常運転状態における上流側および下流側のガスの流量の間の関係はもとより、過渡運転状態における上流側および下流側のガスの流量の間の関係についても、上流側のガスの流量が変化してからそれに応じて下流側のガスの流量が変化するまでのむだ時間を良好に反映させながら、適切にモデル化でき、ニューラルネットワークを適切に構築することができる。
さらに、この制御装置によれば、そのように適切に構築されたニューラルネットワークを含む複数のニューラルネットワークを用いて、複数のガスの流量を上流側から下流側に向かって順に推定することにより、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側の少なくとも1つの部位のうちの最も下流側の部位におけるガスの流量として、吸入ガスの流量を推定するので、内燃機関の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。特に、内燃機関が過渡運転状態にあるときには、上記のむだ時間による影響が大きくなることによって、吸入ガスの流量は、吸気通路における上流側のガスの流量と大きく異なるのに対し、この制御装置によれば、上記から明らかなように、過渡運転状態にあるときでも、むだ時間を良好に反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。
また、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側の部位におけるガスの流量を、より上流側の部位におけるガスの流量をニューラルネットワークに入力することによって推定するので、むだ時間に加え、第1EGRガスによる影響をも反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。以上のように、この制御装置によれば、内燃機関の過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において、吸入ガスの流量を精度良く推定することができ、それにより、内燃機関を適切に制御することができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関3の制御装置1において、吸気通路5の第1EGR通路との接続部よりも下流側に設けられ、吸入ガスを冷却するための冷却装置(インタークーラ13)をさらに備え、少なくとも1つの部位におけるガスの流量は、吸気通路5の冷却装置よりも下流側の部位におけるガスの流量(吸気チャンバガス流量FICHG)をさらに含むことを特徴とする。
この構成によれば、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側に設けられた冷却装置によって、吸入ガスが冷却される。また、吸気通路の冷却装置よりも下流側の部位におけるガスの流量が推定されるとともに、請求項1の説明から明らかなように、推定された冷却装置よりも下流側の部位におけるガスの流量に応じて、さらに下流側の部位におけるガスの流量が推定され、ひいては、吸入ガスの流量が推定される。したがって、冷却装置におけるガスの温度変化による影響をも反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の内燃機関3の制御装置1において、吸気通路5の冷却装置よりも下流側に設けられ、吸入ガスの流量を変更するためのスロットル弁14をさらに備え、吸気通路5の冷却装置よりも下流側の部位におけるガスの流量は、吸気通路5のスロットル弁14よりも下流側の部位におけるガスの流量(吸気チャンバガス流量FICHG)であることを特徴とする。
この構成によれば、吸気通路の冷却装置よりも下流側に設けられたスロットル弁によって、吸入ガスの流量が変更される。また、吸気通路のスロットル弁よりも下流側の部位におけるガスの流量が推定されるとともに、請求項1および2の説明から明らかなように、推定されたスロットル弁よりも下流側の部位におけるガスの流量に応じて、さらに下流側の部位におけるガスの流量が推定され、ひいては、吸入ガスの流量が推定される。この場合、スロットル弁が吸気通路の冷却装置よりも下流側に設けられているので、冷却装置におけるガスの温度変化による影響に加え、スロットル弁による影響をも反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の内燃機関3の制御装置1において、排気通路6に設けられたタービン12b、および吸気通路5の冷却装置よりも上流側に設けられたコンプレッサ12aを有し、燃焼室に吸入ガスを過給するための過給装置12をさらに備え、第1EGR通路は、排気通路6のタービン12bよりも下流側と、吸気通路5のコンプレッサ12aよりも上流側とに接続されており、複数のガスの流量は、第1EGR通路におけるガスの流量(低圧EGRガス流量FLEGR)を含むことを特徴とする。
この構成によれば、排気通路に設けられたタービン、および吸気通路の冷却装置よりも上流側に設けられたコンプレッサを有する過給装置によって、吸入ガスが燃焼室に過給される。また、第1EGR通路は、排気通路のタービンよりも下流側と、吸気通路のコンプレッサよりも上流側とに接続されている。このため、この内燃機関では、第1EGR通路を介して還流する第1EGRガスと新気が混合したガスが流れる吸気通路の部分が長く、それにより、第1EGRガスの応答遅れは比較的大きい。
これに対して、上述した構成によれば、第1EGR通路におけるガスの流量が推定されるとともに、請求項1および2の説明から明らかなように、推定された第1EGR通路におけるガスの流量に応じて、さらに下流側の部位におけるガスの流量が推定され、ひいては、吸入ガスの流量が推定される。したがって、大きな応答遅れを有する第1EGRガスによる影響をより良好に反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。
また、請求項2の説明で述べたように、吸気通路の冷却装置よりも下流側の部位におけるガスの流量が推定されるとともに、推定されたガスの流量に応じて、さらに下流側の部位におけるガスの流量が推定され、ひいては、吸入ガスの流量が推定される。この場合、コンプレッサは、吸気通路の冷却装置よりも上流側に設けられているので、冷却装置における吸入ガスの温度変化による影響と、大きな応答遅れを有する第1EGRガスによる影響に加え、コンプレッサにおけるガスの圧力変化による影響をも反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の内燃機関3の制御装置1において、吸気通路5の冷却装置よりも下流側に設けられ、吸入ガスの流量を変更するためのスロットル弁14と、排気通路6のタービン12bよりも上流側と、吸気通路5のスロットル弁14よりも下流側とに接続され、排ガスの一部を吸気通路5に還流させるための第2EGR通路(高圧EGR通路17a)と、をさらに備え、吸気通路5の冷却装置よりも下流側の部位におけるガスの流量は、吸気通路5のスロットル弁14よりも下流側の部位におけるガスの流量(吸気チャンバガス流量FICHG)であり、複数のガスの流量は、吸入ガスの流量、吸気通路のスロットル弁14よりも下流側の部位におけるガスの流量、および第1EGR通路におけるガスの流量に加えて、第2EGR通路におけるガスの流量(高圧EGRガス流量FHEGR)のみであり、推定された吸入ガスの流量に応じて内燃機関3を制御する制御手段(ECU2、ステップ10、11)をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、吸気通路の冷却装置よりも下流側に設けられたスロットル弁によって、吸入ガスの流量が変更される。また、吸気通路のスロットル弁よりも下流側の部位におけるガスの流量が推定されるとともに、請求項1、2および4の説明から明らかなように、推定されたスロットル弁よりも下流側の部位におけるガスの流量に応じて、より下流側の部位におけるガスの流量が推定され、ひいては、吸入ガスの流量が推定される。この場合、スロットル弁が吸気通路の冷却装置よりも下流側に設けられていることと、請求項4の説明から明らかなように、冷却装置における吸入ガスの温度変化による影響と、大きな応答遅れを有する第1EGRガスによる影響と、コンプレッサにおける吸入ガスの圧力変化による影響に加え、スロットル弁による影響をも反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。
さらに、排気通路のタービンよりも上流側と吸気通路のスロットル弁よりも下流側とに接続された第2EGR通路を介して、排ガスの一部が吸気通路に還流する(以下、本項の説明において、還流する排ガスを「第2EGRガス」という)。また、第2EGR通路におけるガスの流量が推定されるとともに、請求項1、2および4の説明から明らかなように、推定された第2EGR通路におけるガスの流量に応じて、より下流側の部位におけるガスの流量が推定され、ひいては、吸入ガスの流量が推定される。したがって、第2EGRガスによる影響を反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。
さらに、吸入ガスの流量の推定を、推定された第1および第2EGR通路におけるガスの流量の双方に応じて行うので、第1EGRガスと第2EGRガスとの干渉による影響をも反映させながら、吸入ガスの流量を精度良く推定することができる。また、ガスの流量を推定する複数のニューラルネットワークとして、吸入ガスの流量、スロットル弁よりも下流側の部位におけるガスの流量、第1EGR通路におけるガスの流量、および第2EGR通路におけるガスの流量を推定する4つのニューラルネットワークを構築するだけでよいので、制御装置を容易に設計できるとともに、その演算負荷を低減することができる。さらに、推定された吸入ガスの流量に応じ、制御手段によって、内燃機関が制御されるので、この制御を適切に行うことができる。
前記目的を達成するため、請求項6に係る発明による内燃機関3の制御装置1は、内燃機関3の吸気通路5および排気通路6に接続され、内燃機関3の燃焼室から排気通路6に排出されたガスである排ガスの一部を、吸気通路5に還流させるための第1EGR通路(実施形態における(以下、本項において同じ)低圧EGR通路16a)と、吸気通路5、排気通路6および第1EGR通路を含むガス通路を流れるガスの流量を表すガス流量パラメータ(低圧EGR制御弁開度LPVT、低圧スロットル弁開度LPTH、高圧EGR制御弁開度HPVT、スロットル弁開度TH、排気温TEXG、低下温度DTG、新気流量QIN、エンジン回転数NE、要求トルクTREQ)を検出するガス流量パラメータ検出手段(クランク角センサ21、エアフローセンサ23、LPTH開度センサ24、TH開度センサ25、排気温センサ27、LPEGR開度センサ28、HPEGR開度センサ29、ECU2、低下温度推定部2b)と、ガス通路の互いに異なる複数の部位のそれぞれにおける複数のガス中の酸素濃度(低圧EGRガス酸素濃度O2LEGR、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGR、吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHG、吸入ガス酸素濃度O2ING)を推定するための複数のニューラルネットワーク(第1酸素濃度推定部2f、第2酸素濃度推定部2g、第3酸素濃度推定部2h、第4酸素濃度推定部2i)を有するガス酸素濃度推定手段(ECU2、ステップ6〜9)と、を備え、複数のニューラルネットワークのうちの、吸気通路5の第1EGR通路との接続部よりも下流側の少なくとも1つの部位におけるガス中の酸素濃度を推定するためのニューラルネットワークは、当該ニューラルネットワークによりガス中の酸素濃度が推定される部位よりも上流側の部位における、他のニューラルネットワークにより推定されたガス中の酸素濃度の今回値および過去値と、ガス流量パラメータの今回値および過去値とを入力とし、当該推定されるガス中の酸素濃度を出力として構築されており、ガス酸素濃度推定手段は、複数のニューラルネットワークを用いて、複数のガス中の酸素濃度をガス通路の上流側から下流側に向かって順に推定することにより、少なくとも1つの部位のうちの最も下流側の部位におけるガス中の酸素濃度として、燃焼室に吸入されるガスである吸入ガス中の酸素濃度(吸入ガス酸素濃度O2ING)を推定することを特徴とする。
この内燃機関の制御装置によれば、燃焼室から排気通路に排出された排ガスの一部が、第1EGR通路を介して、吸気通路に還流する(以下、請求項6〜10の説明において、還流する排ガスを「第1EGRガス」という)。また、吸気通路、排気通路および第1EGR通路を含むガス通路を流れるガスの流量を表すガス流量パラメータが、ガス流量パラメータ検出手段によって検出される。さらに、ガス通路の互いに異なる複数の部位のそれぞれにおける複数のガス中の酸素濃度が、ガス酸素濃度推定手段の複数のニューラルネットワークによってそれぞれ推定される。また、これらの複数のニューラルネットワークのうちの、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側の少なくとも1つの部位におけるガス中の酸素濃度を推定するためのニューラルネットワークは、当該ニューラルネットワークによりガス中の酸素濃度が推定される部位よりも上流側の部位における、他のニューラルネットワークにより推定されたガス中の酸素濃度の今回値および過去値と、ガス流量パラメータの今回値および過去値とを入力とし、当該推定されるガス中の酸素濃度を出力として構築されている。
ガス中の酸素濃度は、内燃機関が定常運転状態にあるときには、安定しており、その今回値が過去値とほぼ同じになる一方、過渡運転状態にあるときには、非線形的に変化し、今回値が過去値と異なるようになる。このように、ガス中の酸素濃度の今回値および過去値の間の関係は、内燃機関が定常運転状態または過渡運転状態のいずれの状態にあるかを良好に表す。また、請求項1の説明で述べたように、ニューラルネットワークは、入力および出力の間の関係を、入力される複数のパラメータの間の関係を加味しながら、適切にモデル化できるという特性を有しており、この場合、入力および出力の間の関係が線形または非線形であるかを問わない。
この制御装置によれば、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側の少なくとも1つの部位におけるガス中の酸素濃度を推定するためのニューラルネットワークが、より上流側の部位における、他のニューラルネットワークにより推定されたガス中の酸素濃度の今回値および過去値の双方を入力として構築されている。したがって、内燃機関の定常運転状態における上流側および下流側のガス中の酸素濃度の間の関係はもとより、過渡運転状態における上流側および下流側のガス中の酸素濃度の間の関係についても、上流側のガス中の酸素濃度が変化してからそれに応じて下流側のガス中の酸素濃度が変化するまでのむだ時間を良好に反映させながら、適切にモデル化でき、ニューラルネットワークを適切に構築することができる。さらに、ガス中の酸素濃度に加え、ガス流量パラメータの今回値および過去値の双方を入力としてニューラルネットワークを構築するので、ガスの流量の変化による影響をも反映させながら、ニューラルネットワークを適切に構築することができる。
さらに、この制御装置によれば、そのように適切に構築されたニューラルネットワークを含む複数のニューラルネットワークを用いて、複数のガス中の酸素濃度を上流側から下流側に向かって順に推定することにより、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側の少なくとも1つの部位のうちの最も下流側の部位におけるガス中の酸素濃度として、吸入ガス中の酸素濃度を推定するので、内燃機関の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。特に、内燃機関が過渡運転状態にあるときには、上記のむだ時間による影響が大きくなることによって、吸入ガス中の酸素濃度は、吸気通路における上流側のガス中の酸素濃度と大きく異なるのに対し、この制御装置によれば、上記から明らかなように、過渡運転状態にあるときでも、むだ時間を良好に反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。
また、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度を、より上流側の部位におけるガス中の酸素濃度をニューラルネットワークに入力することによって推定するので、むだ時間に加え、第1EGRガスによる影響をも反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。以上のように、この制御装置によれば、内燃機関の過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができ、それにより、内燃機関を適切に制御することができる。
なお、特許請求の範囲および本明細書における「ガス流量パラメータ」は、ガスの流量と密接な相関関係にあるパラメータに加え、ガスの流量そのものも含む。
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の内燃機関3の制御装置1において、吸気通路5の第1EGR通路との接続部よりも下流側に設けられ、吸入ガスを冷却するための冷却装置(インタークーラ13)をさらに備え、少なくとも1つの部位におけるガス中の酸素濃度は、吸気通路5の冷却装置よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度(吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHG)をさらに含むことを特徴とする。
この構成によれば、吸気通路の第1EGR通路との接続部よりも下流側に設けられた冷却装置によって、吸入ガスが冷却される。また、吸気通路の冷却装置よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定されるとともに、請求項6の説明から明らかなように、推定された冷却装置よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度に応じて、さらに下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定され、ひいては、吸入ガス中の酸素濃度が推定される。したがって、冷却装置におけるガスの温度変化による影響をも反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の内燃機関3の制御装置1において、吸気通路5の冷却装置よりも下流側に設けられ、吸入ガスの流量を変更するためのスロットル弁14をさらに備え、吸気通路5の冷却装置よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度は、吸気通路5のスロットル弁14よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度(吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHG)であることを特徴とする。
この構成によれば、吸気通路の冷却装置よりも下流側に設けられたスロットル弁によって、吸入ガスの流量が変更される。また、吸気通路のスロットル弁よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定されるとともに、請求項6および7の説明から明らかなように、推定されたスロットル弁よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度に応じて、さらに下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定され、ひいては、吸入ガス中の酸素濃度が推定される。この場合、スロットル弁が吸気通路の冷却装置よりも下流側に設けられているので、冷却装置におけるガスの温度変化による影響に加え、スロットル弁におけるガスの流量の変化による影響をも反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。
請求項9に係る発明は、請求項7に記載の内燃機関3の制御装置1において、排気通路6に設けられたタービン12b、および吸気通路5の冷却装置よりも上流側に設けられたコンプレッサ12aを有し、燃焼室に吸入ガスを過給するための過給装置12をさらに備え、第1EGR通路は、排気通路6のタービン12bよりも下流側と、吸気通路5のコンプレッサ12aよりも上流側とに接続されており、複数のガス中の酸素濃度は、第1EGR通路におけるガス中の酸素濃度(低圧EGRガス酸素濃度O2LEGR)を含むことを特徴とする。
この構成によれば、排気通路に設けられたタービン、および吸気通路の冷却装置よりも上流側に設けられたコンプレッサを有する過給装置によって、吸入ガスが燃焼室に過給される。また、第1EGR通路は、排気通路のタービンよりも下流側と、吸気通路のコンプレッサよりも上流側とに接続されている。このため、この内燃機関では、第1EGR通路を介して還流する第1EGRガスと新気が混合したガスが流れる吸気通路の部分が長く、それにより、第1EGRガスの応答遅れは比較的大きい。
これに対して、上述した構成によれば、第1EGR通路におけるガス中の酸素濃度が推定されるとともに、請求項6および7の説明から明らかなように、推定された第1EGR通路におけるガス中の酸素濃度に応じて、さらに下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定され、ひいては、吸入ガス中の酸素濃度が推定される。したがって、大きな応答遅れを有する第1EGRガスによる影響をより良好に反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。
また、請求項7の説明で述べたように、吸気通路の冷却装置よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定されるとともに、推定されたガス中の酸素濃度に応じて、さらに下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定され、ひいては、吸入ガス中の酸素濃度が推定される。この場合、コンプレッサは、吸気通路の冷却装置よりも上流側に設けられているので、冷却装置における吸入ガスの温度変化による影響と、大きな応答遅れを有する第1EGRガスによる影響に加え、コンプレッサにおけるガスの圧力変化による影響をも反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の内燃機関3の制御装置1において、吸気通路5の冷却装置よりも下流側に設けられ、吸入ガスの流量を変更するためのスロットル弁14と、排気通路6のタービン12bよりも上流側と、吸気通路5のスロットル弁14よりも下流側とに接続され、排ガスの一部を吸気通路5に還流させるための第2EGR通路(高圧EGR通路17a)と、をさらに備え、吸気通路5の冷却装置よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度は、吸気通路5のスロットル弁14よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度(吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHG)であり、複数のガス中の酸素濃度は、吸入ガス中の酸素濃度、吸気通路5のスロットル弁14よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度、および第1EGR通路におけるガス中の酸素濃度に加えて、第2EGR通路におけるガス中の酸素濃度(高圧EGRガス酸素濃度O2HEGR)のみであり、推定された吸入ガス中の酸素濃度に応じて内燃機関3を制御する制御手段(ECU2、ステップ10、11)をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、吸気通路の冷却装置よりも下流側に設けられたスロットル弁によって、吸入ガスの流量が変更される。また、吸気通路のスロットル弁よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定されるとともに、請求項6、7および9の説明から明らかなように、推定されたスロットル弁よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度に応じて、より下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定され、ひいては、吸入ガス中の酸素濃度が推定される。この場合、スロットル弁が吸気通路の冷却装置よりも下流側に設けられていることと、請求項9の説明から明らかなように、冷却装置における吸入ガスの温度変化による影響と、大きな応答遅れを有する第1EGRガスによる影響と、コンプレッサにおける吸入ガスの圧力変化による影響に加え、スロットル弁における流量の変化による影響をも反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。
さらに、排気通路のタービンよりも上流側と吸気通路のスロットル弁よりも下流側とに接続された第2EGR通路を介して、排ガスの一部が吸気通路に還流する(以下、本項の説明において、還流する排ガスを「第2EGRガス」という)。また、第2EGR通路におけるガス中の酸素濃度が推定されるとともに、請求項6、7および9の説明から明らかなように、推定された第2EGR通路におけるガス中の酸素濃度に応じて、より下流側の部位におけるガス中の酸素濃度が推定され、ひいては、吸入ガス中の酸素濃度が推定される。したがって、第2EGRガスによる影響を反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。
さらに、吸入ガス中の酸素濃度の推定を、推定された第1および第2EGR通路におけるガス中の酸素濃度の双方に応じて行うので、第1EGRガスと第2EGRガスとの干渉による影響をも反映させながら、吸入ガス中の酸素濃度を精度良く推定することができる。また、ガス中の酸素濃度を推定する複数のニューラルネットワークとして、吸入ガス中の酸素濃度、スロットル弁よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度、第1EGR通路におけるガス中の酸素濃度、および第2EGR通路におけるガス中の酸素濃度を推定する4つのニューラルネットワークを構築するだけでよいので、制御装置を容易に設計できるとともに、その演算負荷を低減することができる。さらに、推定された吸入ガス中の酸素濃度に応じ、制御手段によって、内燃機関が制御されるので、この制御を適切に行うことができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、4つの気筒3aを有する4サイクルタイプのディーゼルエンジンであり、車両(図示せず)に動力源として搭載されている。各気筒3aのピストンとシリンダヘッドとの間には、燃焼室(いずれも図示せず)が形成されている。
また、エンジン3には、クランク角センサ21および水温センサ22(図2参照)が設けられている。このクランク角センサ21は、エンジン3のクランクシャフト(図示せず)の回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号を制御装置1の後述するECU2に出力する。このCRK信号は、所定のクランク角ごとに出力される。ECU2は、CRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを求める。上記のTDC信号は、ピストンが吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定クランク角度位置にあることを表す信号であり、4気筒タイプの本例では、クランク角180゜ごとに出力される。上記の水温センサ22は、エンジン3を冷却する冷却水の温度であるエンジン水温TWを検出するとともに、その検出信号をECU2に出力する。
また、各気筒3aには、燃料噴射弁4(図2に1つのみ図示)が設けられており、これらの燃料噴射弁4によって、燃料が燃焼室に噴射される。各燃料噴射弁4の開弁時間すなわち燃料噴射量は、ECU2によって制御される。さらに、エンジン3には、4つの気筒3aの燃焼室に新気を含むガスを導入するための吸気通路5と、燃焼室での燃焼により生成された既燃ガスを排出するための排気通路6が設けられている。
吸気通路5は、その下流部に、吸気チャンバ5bと4つの分岐通路5cで構成された吸気マニホルド5aを有しており、これらの4つの分岐通路5cは、4つの気筒3aにそれぞれ接続されている。また、吸気通路5の吸気マニホルド5aよりも上流側の部位には、上流側から順に、エアフローセンサ23、低圧スロットル弁11、過給装置12、インタークーラ13およびスロットル弁14が設けられている。
低圧スロットル弁11は、バタフライ弁で構成されている。低圧スロットル弁11には、電動機で構成されたLPTHアクチュエータ11aが連結されている。低圧スロットル弁11の開度(以下「低圧スロットル弁開度」という)は、ECU2によって変更され、それにより、低圧スロットル弁11よりも下流側の吸気通路5内の圧力が制御される。また、低圧スロットル弁開度LPTHは、LPTH開度センサ24によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。さらに、エアフローセンサ23は、低圧スロットル弁11を通過する新気の流量(以下「新気流量」という)QINを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
過給装置12は、吸気通路5の低圧スロットル弁11よりも下流側に設けられたコンプレッサ12aと、排気通路6に設けられ、コンプレッサ12aと一体に回転するタービン12bと、複数の可変ベーン12c(2つのみ図示)と、可変ベーン12cを駆動するベーンアクチュエータ12dなどで構成されている。
この過給装置12では、燃焼室から排気通路6に排出されたガスである排ガスによってタービン12bが回転駆動されると、これと一体のコンプレッサ12aも同時に回転することにより、吸気通路5内のガスが加圧されることによって、各気筒3aの燃焼室に吸入されるガスである吸入ガスが過給される。
また、可変ベーン12cは、過給装置12が発生する過給圧を変化させるためのものであり、タービン12bを収容するハウジングに回動自在に取り付けられている。可変ベーン12cは、ECU2に接続されたベーンアクチュエータ12dに連結されている。ECU2は、ベーンアクチュエータ12dを介して可変ベーン12cの開度を変化させ、タービン12bに吹き付けられる排ガス量を変化させることによって、タービン12bの回転数すなわちコンプレッサ12aの回転数を変化させ、それにより、過給圧を制御する。
また、インタークーラ13は、水冷式のものであり、過給装置12の過給動作により吸気通路5を流れるガスの温度が上昇したときなどに、ガスを冷却し、それにより吸入ガスが冷却される。さらに、インタークーラ13の冷却水は、エンジン3の冷却水として兼用されている。
さらに、スロットル弁14は、前述した低圧スロットル弁11と同様、バタフライ弁で構成されている。スロットル弁14には、電動機で構成されたTHアクチュエータ14aが連結されている。このスロットル弁14の開度(以下「スロットル弁開度」という)は、ECU2によって変更され、それにより、吸入ガスの流量が制御されるとともに、前述した吸気チャンバ5b内の圧力が制御される。また、スロットル弁開度THは、TH開度センサ25によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
さらに、排気通路6は、その下流部の排気マニホルド6aを介して4つの気筒3aに接続されている。排気通路6の排気マニホルド6aよりも下流側には、上流側から順に、前記タービン12b、LAFセンサ26、排ガス浄化装置15および排気温センサ27が設けられている。
上記のLAFセンサ26は、排ガス中の酸素濃度(以下「排ガス酸素濃度」という)O2EXGをリニアに検出し、その検出信号をECU2に出力する。また、排ガス浄化装置15は、排ガスを浄化するものであり、酸化触媒やフィルタ(Diesel particulate filter )の組み合わせで構成されている。また、排気温センサ27は、排ガス浄化装置15を通過した排ガスの温度(以下「排気温」という)TEXGを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
エンジン3にはさらに、低圧EGR装置16および高圧EGR装置17が設けられている。この低圧EGR装置16は、排気通路6を流れる排ガスの一部を吸気通路5に還流させるものであり、吸気通路5と排気通路6に接続された低圧EGR通路16aと、低圧EGR通路16aを流れる還流ガス(以下「低圧EGRガス」という)を冷却する低圧EGRクーラ16bと、この低圧EGR通路16aを開閉する低圧EGR制御弁16cなどで構成されている。低圧EGR通路16aの一端は、排気通路6の排ガス浄化装置15よりも下流側に接続され、他端は、吸気通路5の低圧スロットル弁11とコンプレッサ12aの間に接続されている。
低圧EGR制御弁16cは、その開度が最大値と最小値との間でリニアに変化するリニア電磁弁で構成されており、低圧EGR制御弁16cの開度(以下「低圧EGR制御弁開度」という)は、ECU2によって変更される。前述した低圧スロットル弁開度LPTHの変更による吸気通路5内の圧力の制御によって、低圧EGR制御弁16cよりも上流側と下流側の間の差圧が制御されることと、この低圧EGR制御弁開度が変更されることとの協働によって、低圧EGRガスの還流量(以下「低圧EGRガス流量」という)が制御される。また、低圧EGR制御弁開度LPVTは、LPEGR開度センサ28によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
以上の構成により、この低圧EGR装置16では、低圧EGRガスは、排気通路6の排ガス浄化装置15の下流側の部分から低圧EGR通路16aに流入し、図1に矢印X1で示す向きに流れ、低圧EGRクーラ16bおよび低圧EGR制御弁16cを通過した後、吸気通路5に流入する。そして、低圧EGRガスは、新気とともに、コンプレッサ12a、インタークーラ13およびスロットル弁14を通過した後、吸気マニホルド5aを介して、各気筒3aの燃焼室に流入する。
また、高圧EGR装置17も、低圧EGR装置16と同様に、排気通路6を流れる排ガスの一部を吸気通路5に還流させるものであり、吸気通路5と排気通路6に接続された高圧EGR通路17aと、高圧EGR通路17a内を流れる還流ガス(以下「高圧EGRガス」という)を冷却する高圧EGRクーラ17bと、この高圧EGR通路17aを開閉する高圧EGR制御弁17cなどで構成されている。高圧EGR通路17aの一端は、排気通路6の排気マニホルド6aに接続されており、他端は、吸気通路5の吸気チャンバ5bに接続されている。
高圧EGR制御弁17cは、その開度が最大値と最小値との間でリニアに変化するリニア電磁弁で構成されており、高圧EGR制御弁17cの開度(以下「高圧EGR制御弁開度」という)は、ECU2によって変更される。前述したスロットル弁開度THの変更による吸気チャンバ5b内の圧力の制御によって、高圧EGR制御弁17cよりも上流側と下流側の間の差圧が制御されることと、この高圧EGR制御弁開度が変更されることとの協働によって、高圧EGRガスの還流量(以下「高圧EGRガス流量」という)が制御される。また、高圧EGR制御弁開度HPVTは、HPEGR開度センサ29によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
以上の構成により、この高圧EGR装置17では、高圧EGRガスは、排気マニホルド6aから高圧EGR通路17aに流入し、図1に矢印X2で示す向きに流れ、高圧EGRクーラ17bおよび高圧EGR制御弁17cを通過した後、吸気チャンバ5bに流入する。そして、高圧EGRガスは、低圧EGRガスおよび新気とともに、吸気チャンバ5bおよび分岐通路5cを介して、各気筒3aの燃焼室に流入する。
ECU2にはさらに、大気温センサ30から、エンジン3の周囲の大気の温度(以下「大気温」という)TAを表す検出信号が、アクセル開度センサ31から、車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、出力される。
また、ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されている。さらに、ECU2は、前述した各種のセンサ21〜31からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、エンジン3を制御する。
具体的には、ECU2は、燃焼室に吸入される吸入ガスの流量(以下「吸入ガス流量」という)FING、および吸入ガス中の酸素濃度(以下「吸入ガス酸素濃度」という)O2INGを推定するとともに、推定された吸入ガス流量FINGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGに応じて、燃料噴射弁4による燃料噴射量を制御する。また、これらの燃料噴射量の制御、吸入ガス流量FINGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGの推定は、気筒3aごとに行われる。
図3は、吸入ガス流量FINGを推定するための吸入ガス流量推定部を示している。この吸入ガス流量推定部は、第1流量推定部2a、低下温度推定部2b、第2流量推定部2c、第3流量推定部2d、および第4流量推定部2eを有しており、ECU2によって構成されている。
この第1流量推定部2aは、図1に示す点Aにおける低圧EGRガス流量FLEGRを、すなわち、低圧EGR通路16aの低圧EGR制御弁16cよりもすぐ下流側の部位における低圧EGRガス流量FLEGRを、ニューラルネットワークを用いて推定するものである。第1流量推定部2aで用いられるニューラルネットワークは、図4に示す3階層型のニューラルネットワークNNであり、入力層はm(mは2以上の整数)個のニューロン(3つのみ図示)を、中間層はm×(n−1)[nは2以上の整数]個のニューロン(6つのみ図示)を、出力層はm+1個のニューロンをそれぞれ備えている。
このニューラルネットワークNNでは、入力Uが次式(1)に示すように定義される。また、入力層では、入力Uに基づき、値V1jが、j=1〜mとして、次式(2)〜(4)により算出されるとともに、中間層に出力される。
上記式(3)において、fは、シグモイド関数であり、上記式(4)で定義される。また、式(4)において、βはシグモイド関数の傾きゲインを、εはシグモイド関数のオフセット値を、それぞれ表している。また、上記式(1)〜(3)や後述する式における記号(k)付きのデータは、前述したTDC信号の発生に同期して繰り返しサンプリングまたは算出されたデータであることを示しており、記号k(kは正の整数)は、各データのサンプリングまたは算出サイクルの順番を表している。この場合、(k)付きのデータは、当該データの今回値であり、(k−1)付きのデータは、1回前にサンプリングまたは算出された値、すなわち前回値である。なお、以下の説明および図面において、今回値および前回値であることを表す記号(k)および(k−1)の表記を適宜、省略する。
また、中間層では、入力された値V1jに基づき、値Vijが、i=2〜nとして、次式(5)および(6)により算出されるとともに、出力層に出力される。この式(5)において、ωは重み係数である。
また、出力層では、入力された値Vijに基づき、出力Yが、次式(7)〜(9)によって算出される。
上記式(8)において、gは、シグモイド関数であり、上記式(9)で定義される。また、式(9)において、αはシグモイド関数の出力ゲインを、γはシグモイド関数の傾きゲインを、δはシグモイド関数のオフセット値を、それぞれ表している。
より具体的には、図5に示すように、第1流量推定部2aには、検出された低圧EGR制御弁開度の今回値LPVT(k)、その前回値LPVT(k−1)、低圧スロットル弁開度の今回値LPTH(k)、その前回値LPTH(k−1)、排気温の今回値TEXG(k)、その前回値TEXG(k−1)、新気流量の今回値QIN(k)、その前回値QIN(k−1)、算出されたエンジン回転数の今回値NE(k)、その前回値NE(k−1)、要求トルクの今回値TREQ(k)、および、その前回値TREQ(k−1)が入力される。この要求トルクTREQは、運転者からエンジン3に要求されるトルクであり、エンジン回転数NEおよび検出されたアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。また、第1流量推定部2aへの入力として、上記の低圧EGR制御弁開度LPVTや新気流量QINなどの複数のパラメータを用いるのは、これらの複数のパラメータが低圧EGRガス流量FLEGRと密接な相関関係にあるためである。
第1流量推定部2aは、入力された上記の複数のパラメータに応じ、上述した図4と同様の3階層型のニューラルネットワークを用いて、低圧EGRガス流量FLEGRを次のようにして算出する。まず、入力層では、上記の複数のパラメータ(LPVT(k)、LPVT(k−1)、LPTH(k)、LPTH(k−1)、TEXG(k)、TEXG(k−1)、QIN(k)、QIN(k−1)、NE(k)、NE(k−1)、TREQ(k)、TREQ(k−1))を入力Uaとして、値Va1jを、次式(10)〜(13)により算出するとともに、中間層に出力する。
上記式(12)において、faは、上記式(13)で定義されるシグモイド関数である。また、この式(13)において、βaおよびεaは、シグモイド関数faの傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。これらの値βaおよびεaは、次のようにして設定される。すなわち、車両の出荷前または出荷後の点検時にサービス工場において、低圧EGR通路16aの点Aに示す位置に、低圧EGRガス流量FLEGRを検出するための流量センサを取り付けるとともに、この流量センサで検出された低圧EGRガス流量FLEGRの検出値を教師信号として、バックプロパゲーション法により学習することにより、傾きゲインβaおよびオフセット値εaは予め設定される。また、傾きゲインβaおよびオフセット値εaの学習は、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において行われる。なお、バックプロパゲーション法による学習は、周知のものなので、その詳細な説明については省略する。さらに、上記の流量センサは、傾きゲインβaおよびオフセット値εaの設定が完了したときに、取り外される。
また、中間層では、入力された値Va1jに基づき、値Vaijを、次式(14)および(15)により算出するとともに、出力層に出力する。この式(14)において、ωaは、重み係数であり、傾きゲインβaおよびオフセット値εaと同様にして設定される。
また、出力層では、入力された値Vaijに基づき、次式(16)〜(18)によって、出力Yaを算出する。
上記式(17)において、gaは、上記式(18)で定義されるシグモイド関数である。また、この式(18)において、αa、γaおよびδaは、シグモイド関数gaの出力ゲイン、傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。これらの値αa,γa,δaも、傾きゲインβaおよびオフセット値εaと同様にして設定される。
また、算出された出力Ya(k)は、低圧EGRガス流量FLEGR(k)として設定されるとともに、低下温度推定部2bおよび第3流量推定部2dに入力される。
低下温度推定部2bは、インタークーラ13の冷却によるガスの温度低下分を低下温度DTGとして推定するものである。低下温度推定部2bには、上述した低圧EGRガス流量FLEGR(k)に加え、検出された排気温TEXG(k)、エンジン水温TW(k)、新気流量QIN(k)、および大気温TA(k)が入力される。
低下温度推定部2bは、低圧EGRガス流量FLEGR(k)および新気流量QIN(k)に応じ、所定の演算式に従って、インタークーラ13に流入するガスの流量を算出するとともに、低圧EGRガス流量FLEGR(k)、排気温TEXG(k)、新気流量QIN(k)および大気温TA(k)に応じ、所定の演算式に従って、インタークーラ13に流入するガスの温度を算出する。また、エンジン水温TWが前述したようにインタークーラ13の冷却水の温度を表すことから、エンジン水温TW(k)、算出されたインタークーラ13に流入するガスの流量および温度に応じ、所定の演算式に従って、低下温度DTG(k)を算出する。算出された低下温度DTG(k)は、第3流量推定部2dに入力される。
第2流量推定部2cは、図1に示す点Bにおける高圧EGRガス流量FHEGRを、すなわち、高圧EGR通路17aの高圧EGR制御弁17cよりもすぐ下流側の部位における高圧EGRガス流量FHEGRを、ニューラルネットワークを用いて推定するものである。図6に示すように、第2流量推定部2cには、検出された高圧EGR制御弁開度の今回値HPVT(k)、その前回値HPVT(k−1)、スロットル弁開度の今回値TH(k)、その前回値TH(k−1)、排気温の今回値TEXG(k)、その前回値TEXG(k−1)、新気流量の今回値QIN(k)、その前回値QIN(k−1)、エンジン回転数の今回値NE(k)、その前回値NE(k−1)、要求トルクの今回値TREQ(k)、およびその前回値TREQ(k−1)が入力される。また、第2流量推定部2cへの入力として、これらの高圧EGR制御弁開度HPVTや新気流量QINなどの複数のパラメータを用いるのは、これらの複数のパラメータが高圧EGRガス流量FHEGRと密接な相関関係にあるためである。
第2流量推定部2cは、入力された上記の複数のパラメータ(HPVT(k)、HPVT(k−1)、TH(k)、TH(k−1)、TEXG(k)、TEXG(k−1)、QIN(k)、QIN(k−1)、NE(k)、NE(k−1)、TREQ(k)、TREQ(k−1))に応じ、図4と同様の3階層型のニューラルネットワークを用いて、出力Yb(k)を、次式(19)〜(27)により算出する。算出された出力Yb(k)は、高圧EGRガス流量FHEGR(k)として設定されるとともに、第3流量推定部2dに入力される。
上記式(22)および(23)において、βbおよびεbは、式(22)で定義されるシグモイド関数fbの傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表しており、ωbは、重み係数を表している。また、式(27)において、αb、γbおよびδbは、同式で定義されるシグモイド関数gbの出力ゲイン、傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。
さらに、これらの値βb、εb、ωb、αb、γbおよびδbは、次のようにして設定される。すなわち、車両の出荷前または出荷後の点検時にサービス工場において、高圧EGR通路17aの点Bに示す位置に、高圧EGRガス流量FHEGRを検出するための流量センサを取り付けるとともに、この流量センサで検出された高圧EGRガス流量FHEGRの検出値を教師信号として、バックプロパゲーション法により学習することにより、値βb、εb、ωb、αb、γbおよびδbは予め設定される。また、値βb、εb、ωb、αb、γbおよびδbの学習は、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において行われる。なお、バックプロパゲーション法による学習の詳細な説明については省略する。さらに、上記の流量センサは、値βb、εb、ωb、αb、γbおよびδbの設定が完了したときに、取り外される。
第3流量推定部2dは、図1に示す点Cを流れるガスの流量を、すなわち、吸気チャンバ5bを流れるガスの流量(以下「吸気チャンバガス流量」という)FICHGを、ニューラルネットワークを用いて推定するものである。図7に示すように、第3流量推定部2dには、前述した低圧EGRガス流量の今回値FLEGR(k)、低下温度DTG(k)および高圧EGRガス流量の今回値FHEGR(k)に加え、低圧EGRガス流量の前回値FLEGR(k−1)、高圧EGRガス流量の前回値FHEGR(k−1)、スロットル弁開度の今回値TH(k)、その前回値TH(k−1)、新気流量の今回値QIN(k)、その前回値QIN(k−1)、エンジン回転数の今回値NE(k)、その前回値NE(k−1)、要求トルクの今回値TREQ(k)、およびその前回値TREQ(k−1)が入力される。また、第3流量推定部2dへの入力として、これらの複数のパラメータを用いるのは、これらの複数のパラメータが吸気チャンバガス流量FICHGと密接な相関関係にあるためである。
第3流量推定部2dは、入力された上記の複数のパラメータ(FLEGR(k)、FLEGR(k−1)、FHEGR(k)、FHEGR(k−1)、DTG(k)、TH(k)、TH(k−1)、QIN(k)、QIN(k−1)、NE(k)、NE(k−1)、TREQ(k)、TREQ(k−1))に応じ、図4と同様の3階層型のニューラルネットワークを用いて、出力Yc(k)を、次式(28)〜(36)により算出する。算出された出力Yc(k)は、吸気チャンバガス流量FICHG(k)として設定されるとともに、第4流量推定部2eに入力される。
上記式(31)および(32)において、βcおよびεcは、式(31)で定義されるシグモイド関数fcの傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表しており、ωcは重み係数を表している。また、式(36)において、αc、γcおよびδcは、同式で定義されるシグモイド関数gcの出力ゲイン、傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。
さらに、これらの値βc、εc、ωc、αc、γcおよびδcは、次のようにして設定される。すなわち、車両の出荷前または出荷後の点検時にサービス工場において、吸気チャンバ5bの点Cに示す位置に、吸気チャンバガス流量FICHGを検出するための流量センサを取り付けるとともに、この流量センサで検出された吸気チャンバガス流量FICHGの検出値を教師信号として、バックプロパゲーション法により学習することにより、値βc、εc、ωc、αc、γcおよびδcは予め設定される。また、値βc、εc、ωc、αc、γcおよびδcの学習は、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において行われる。なお、バックプロパゲーション法による学習の詳細な説明については省略する。さらに、上記の流量センサは、値βc、εc、ωc、αc、γcおよびδcの設定が完了したときに、取り外される。
第4流量推定部2eは、図1に示す点Dを流れるガスの流量を、すなわち、分岐通路5cを流れるガスの流量を吸入ガス流量FINGとして、ニューラルネットワークを用いて推定するものである。図8に示すように、第4流量推定部2eには、上述した吸気チャンバガス流量の今回値FICHG(k)に加え、その前回値FICHG(k−1)、新気流量の今回値QIN(k)、その前回値QIN(k−1)、エンジン回転数の今回値NE(k)、その前回値NE(k−1)、要求トルクの今回値TREQ(k)、およびその前回値TREQ(k−1)が入力される。また、第4流量推定部2eへの入力として、これらの吸気チャンバガス流量FICHGおよび新気流量QINを用いるのは、これらの複数のパラメータが吸入ガス流量FINGと密接な相関関係にあるためである。
第4流量推定部2eは、入力された上記の複数のパラメータ(FICHG(k)、FICHG(k−1)、QIN(k)、QIN(k−1)、NE(k)、NE(k−1)、TREQ(k)、TREQ(k−1))に応じ、図4と同様の3階層型のニューラルネットワークを用いて、出力Yd(k)を、次式(37)〜(45)により算出するとともに、吸入ガス流量FING(k)として設定する。
上記式(40)および(41)において、βdおよびεdは、式(40)で定義されるシグモイド関数fdの傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表しており、ωdは重み係数を表している。また、式(45)において、αd、γdおよびδdは、同式で定義されるシグモイド関数gdの出力ゲイン、傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。
さらに、これらの値βd、εd、ωd、αd、γdおよびδdは、次のようにして設定される。すなわち、車両の出荷前または出荷後の点検時にサービス工場において、分岐通路5cの点Dに示す位置に、吸入ガス流量FINGを検出するための流量センサを取り付けるとともに、この流量センサで検出された吸入ガス流量FINGの検出値を教師信号として、バックプロパゲーション法により学習することにより、値βd、εd、ωd、αd、γdおよびδdは予め設定される。また、値βd、εd、ωd、αd、γdおよびδdの学習は、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において行われる。なお、バックプロパゲーション法による学習の詳細な説明については省略する。さらに、上記の流量センサは、値βd、εd、ωd、αd、γdおよびδdの設定が完了したときに、取り外される。
図9は、前記吸入ガス酸素濃度O2INGを推定するための吸入ガス酸素濃度推定部を示している。この吸入ガス酸素濃度推定部は、第1酸素濃度推定部2f、第2酸素濃度推定部2g、第3酸素濃度推定部2hおよび第4酸素濃度推定部2iを有しており、ECU2によって構成されている。
この第1酸素濃度推定部2fは、図1に示す点Aにおける低圧EGRガス中の酸素濃度を、すなわち、低圧EGR通路16aの低圧EGR制御弁16cよりもすぐ下流側の部位における低圧EGRガス中の酸素濃度(以下「低圧EGRガス酸素濃度」という)O2LEGRを、ニューラルネットワークを用いて推定するものである。図10に示すように、第1酸素濃度推定部2fには、低圧EGR制御弁開度の今回値LPVT(k)、その前回値LPVT(k−1)、低圧スロットル弁開度の今回値LPTH(k)、その前回値LPTH(k−1)、排気温の今回値TEXG(k)、その前回値TEXG(k−1)、新気流量の今回値QIN(k)、その前回値QIN(k−1)、エンジン回転数の今回値NE(k)、その前回値NE(k−1)、要求トルクの今回値TREQ(k)、その前回値TREQ(k−1)、検出された排ガス酸素濃度の今回値O2EXG(k)、およびその前回値O2EXG(k−1)が入力される。
また、第1酸素濃度推定部2fへの入力として、低圧EGR制御弁開度LPVT、低圧スロットル弁開度LPTH、排気温TEXG、新気流量QIN、エンジン回転数NE、および要求トルクTREQを用いるのは、これらのパラメータが、低圧EGRガス流量FLEGRと密接な相関関係にあるためであり、換言すれば、低圧EGRガス流量FLEGRを表すためである。また、第1酸素濃度推定部2fへの入力として、排ガス酸素濃度O2EXGを用いるのは、排ガスの一部が低圧EGR通路16aを介して低圧EGRガスとして還流するためである。
第1酸素濃度推定部2fは、入力された上記の複数のパラメータ(LPVT(k)、LPVT(k−1)、LPTH(k)、LPTH(k−1)、TEXG(k)、TEXG(k−1)、QIN(k)、QIN(k−1)、NE(k)、NE(k−1)、TREQ(k)、TREQ(k−1)、O2EXG(k)、O2EXG(k−1))に応じ、図4と同様の3階層型のニューラルネットワークを用いて、出力Ye(k)を、次式(46)〜(54)により算出する。算出された出力Ye(k)は、低圧EGRガス酸素濃度O2LEGR(k)として設定されるとともに、第3酸素濃度推定部2hに入力される。
上記式(49)および(50)において、βeおよびεeは、式(49)で定義されるシグモイド関数feの傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表しており、ωeは重み係数を表している。また、式(54)において、αe、γeおよびδeは、同式で定義されるシグモイド関数geの出力ゲイン、傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。
さらに、これらの値βe、εe、ωe、αe、γeおよびδeは、次のようにして設定される。すなわち、車両の出荷前または出荷後の点検時にサービス工場において、低圧EGR通路16aの点Aに示す位置に、低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRを検出するための酸素濃度センサを取り付けるとともに、この酸素濃度センサで検出された低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRの検出値を教師信号として、バックプロパゲーション法により学習することにより、値βe、εe、ωe、αe、γeおよびδeは予め設定される。また、値βe、εe、ωe、αe、γeおよびδeの学習は、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において行われる。なお、バックプロパゲーション法による学習の詳細な説明については省略する。さらに、上記の酸素濃度センサは、値βe、εe、ωe、αe、γeおよびδeの設定が完了したときに、取り外される。
第2酸素濃度推定部2gは、図1に示す点Bにおける高圧EGRガス中の酸素濃度を、すなわち、高圧EGR通路17aの高圧EGR制御弁17cよりもすぐ下流側の部位における高圧EGRガス中の酸素濃度(以下「高圧EGRガス酸素濃度」という)O2HEGRを、ニューラルネットワークを用いて推定するものである。図11に示すように、第2酸素濃度推定部2gには、高圧EGR制御弁開度の今回値HPVT(k)、その前回値HPVT(k−1)、スロットル弁開度の今回値TH(k)、その前回値TH(k−1)、排気温の今回値TEXG(k)、その前回値TEXG(k−1)、新気流量の今回値QIN(k)、その前回値QIN(k−1)、エンジン回転数の今回値NE(k)、その前回値NE(k−1)、要求トルクの今回値TREQ(k)、その前回値TREQ(k−1)、検出された排ガス酸素濃度の今回値O2EXG(k)、およびその前回値O2EXG(k−1)が入力される。
また、第2酸素濃度推定部2gへの入力として、これらの高圧EGR制御弁開度HPVT、スロットル弁開度TH、排気温TEXG、新気流量QIN、エンジン回転数NE、および要求トルクTREQを用いるのは、これらのパラメータが、高圧EGRガス流量FHEGRと密接な相関関係にあるためであり、換言すれば、高圧EGRガス流量FHEGRを表すためである。また、第2酸素濃度推定部2gへの入力として、排ガス酸素濃度O2EXGを用いるのは、排ガスの一部が高圧EGR通路17aを介して高圧EGRガスとして還流するためである。
第2酸素濃度推定部2gは、入力された上記の複数のパラメータ(HPVT(k)、HPVT(k−1)、TH(k)、TH(k−1)、TEXG(k)、TEXG(k−1)、QIN(k)、QIN(k−1)、NE(k)、NE(k−1)、TREQ(k)、TREQ(k−1)、O2EXG(k)、O2EXG(k−1))に応じ、図4と同様の3階層型のニューラルネットワークを用いて、出力Yf(k)を、次式(55)〜(63)により算出する。算出された出力Yf(k)は、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGR(k)として設定されるとともに、第3酸素濃度推定部2hに入力される。
上記式(58)および(59)において、βfおよびεfは、式(58)で定義されるシグモイド関数ffの傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表しており、ωfは重み係数を表している。また、式(63)において、αf、γfおよびδfは、同式で定義されるシグモイド関数gfの出力ゲイン、傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。
さらに、これらの値βf、εf、ωf、αf、γfおよびδfは、次のようにして設定される。すなわち、車両の出荷前または出荷後の点検時にサービス工場において、高圧EGR通路17aの点Bに示す位置に、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRを検出するための酸素濃度センサを取り付けるとともに、この酸素濃度センサで検出された高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRの検出値を教師信号として、バックプロパゲーション法により学習することにより、値βf、εf、ωf、αf、γfおよびδfは予め設定される。また、値βf、εf、ωf、αf、γfおよびδfの学習は、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において行われる。なお、バックプロパゲーション法による学習の詳細な説明については省略する。上記の酸素濃度センサは、値βf、εf、ωf、αf、γfおよびδfの設定が完了したときに、取り外される。
第3酸素濃度推定部2hは、図1に示す点Cを流れるガス中の酸素濃度を、すなわち、吸気チャンバ5bを流れるガス中の酸素濃度(以下「吸気チャンバガス酸素濃度」という)O2ICHGを、ニューラルネットワークを用いて推定するものである。図12に示すように、第3酸素濃度推定部2hには、前述した低圧EGRガス酸素濃度の今回値O2LEGR(k)および高圧EGRガス酸素濃度の今回値O2HEGR(k)に加え、両者の前回値O2LEGR(k−1)、O2HEGR(k−1)、低下温度推定部2bで算出された低下温度DTG(k)、スロットル弁開度の今回値TH(k)、その前回値TH(k−1)、新気流量の今回値QIN(k)、その前回値QIN(k−1)、エンジン回転数の今回値NE(k)、その前回値NE(k−1)、要求トルクの今回値TREQ(k)、およびその前回値TREQ(k−1)が入力される。
また、第3酸素濃度推定部2hへの入力として、これらの低下温度DTG、スロットル弁開度TH、新気流量QIN、エンジン回転数NE、要求トルクTREQを用いるのは、これらのパラメータが、吸気チャンバガス流量FICHGと密接な相関関係にあるためであり、換言すれば、吸気チャンバガス流量FICHGを表すためである。さらに、第3酸素濃度推定部2hへの入力として、低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRおよび高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRを用いるのは、低圧EGRガスと新気を混合したガスと、高圧EGRガスが、吸気チャンバ5bに流入するためである。
第3酸素濃度推定部2hは、入力された上記の複数のパラメータ(O2LEGR(k)、O2LEGR(k−1)、O2HEGR(k)、O2HEGR(k−1)、DTG(k)、TH(k)、TH(k−1)、QIN(k)、QIN(k−1)、NE(k)、NE(k−1)、TREQ(k)、TREQ(k−1))に応じ、図4と同様の3階層型のニューラルネットワークを用いて、出力Yg(k)を、次式(64)〜(72)により算出する。算出された出力Yg(k)は、吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHG(k)として設定されるとともに、第4酸素濃度推定部2iに入力される。
上記式(67)および(68)において、βgおよびεgは、式(67)で定義されるシグモイド関数fgの傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表しており、ωgは重み係数を表している。また、式(72)において、αg、γgおよびδgは、同式で定義されるシグモイド関数ggの出力ゲイン、傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。
さらに、これらの値βg、εg、ωg、αg、γgおよびδgは、次のようにして設定される。すなわち、車両の出荷前または出荷後の点検時にサービス工場において、吸気チャンバ5bの点Cに示す位置に、吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGを検出するための酸素濃度センサを取り付けるとともに、この酸素濃度センサで検出された吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGの検出値を教師信号として、バックプロパゲーション法により学習することにより、値βg、εg、ωg、αg、γgおよびδgは予め設定される。また、値βg、εg、ωg、αg、γgおよびδgの学習は、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において行われる。なお、バックプロパゲーション法による学習の詳細な説明については省略する。さらに、上記の酸素濃度センサは、値βg、εg、ωg、αg、γgおよびδgの設定が完了したときに、取り外される。
第4酸素濃度推定部2iは、図1に示す点Dを流れるガス中の酸素濃度を、すなわち、分岐通路5cを流れるガス中の酸素濃度を吸入ガス酸素濃度O2INGとして、ニューラルネットワークを用いて推定するものである。図13に示すように、第4酸素濃度推定部2iには、上述した吸気チャンバ酸素濃度の今回値O2ICHG(k)に加え、その前回値O2ICHG(k−1)、新気流量の今回値QIN(k)、その前回値QIN(k−1)、エンジン回転数の今回値NE(k)、その前回値NE(k−1)、要求トルクの今回値TREQ(k)、およびその前回値TREQ(k−1)が入力される。
また、第4酸素濃度推定部2iへの入力として、これらの新気流量QIN、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQの今回値および前回値を用いるのは、これらのパラメータが、吸入ガス流量FINGと密接な相関関係にあるためであり、換言すれば、吸入ガス流量FINGを表すためである。さらに、第4酸素濃度推定部2iへの入力として、吸気チャンバ酸素濃度O2ICHGを用いるのは、ガスが吸気チャンバ5bを介して分岐通路5cに流入するためである。
第4酸素濃度推定部2iは、入力された上記の複数のパラメータ(O2ICHG(k)O2ICHG(k−1)、QIN(k)、QIN(k−1)、NE(k)、NE(k−1)、TREQ(k)、TREQ(k−1))に応じ、図4と同様の3階層型のニューラルネットワークを用いて、出力Yh(k)を、次式(73)〜(81)により算出するとともに、吸入ガス酸素濃度O2ING(k)として設定する。
上記式(76)および(77)において、βhおよびεhは、式(76)で定義されるシグモイド関数fhの傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表しており、ωhは重み係数を表している。また、式(81)において、αh、γhおよびδhは、同式で定義されるシグモイド関数ghの出力ゲイン、傾きゲインおよびオフセット値を、それぞれ表している。
さらに、これらの値βh、εh、ωh、αh、γhおよびδhは、次のようにして設定される。すなわち、車両の出荷前または出荷後の点検時にサービス工場において、分岐通路5cの点Dに示す位置に、吸入ガス酸素濃度O2INGを検出するための酸素濃度センサを取り付けるとともに、この酸素濃度センサで検出された吸入ガス酸素濃度O2INGの検出値を教師信号として、バックプロパゲーション法により学習することにより、値βh、εh、ωh、αh、γhおよびδhは予め設定される。また、値βh、εh、ωh、αh、γhおよびδhの学習は、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態を含むあらゆる運転状態において行われる。なお、バックプロパゲーション法による学習の詳細な説明については省略する。さらに、上記の酸素濃度センサは、値βh、εh、ωh、αh、γhおよびδhの設定が完了したときに、取り外される。
図14は、上述した吸入ガス流量FINGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGに応じて燃料噴射弁4による燃料噴射を制御するための処理を示すフローチャートである。本処理は、TDC信号の発生に同期して繰り返し実行される。まず、図14のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、低圧EGR制御弁開度LPVTなどに応じ、前述した第1流量推定部2aの説明で述べたようにして、低圧EGRガス流量FLEGRを算出する。次いで、算出された低圧EGRガス流量FLEGRなどに応じ、前述した低下温度推定部2bの説明で述べたようにして、低下温度DTGを算出する(ステップ2)。
次に、高圧EGR制御弁開度HPVTなどに応じ、前述した第2流量推定部2cの説明で述べたようにして、高圧EGRガス流量FHEGRを算出する(ステップ3)。次いで、上記ステップ1および3でそれぞれ算出された低圧EGRガス流量FLEGRおよび高圧EGRガス流量FHEGRなどに応じ、前述した第3流量推定部2dの説明で述べたようにして、吸気チャンバガス流量FICHGを算出する(ステップ4)。次に、算出された吸気チャンバガス流量FICHGなどに応じ、前述した第4流量推定部2eの説明で述べたようにして、吸入ガス流量FINGを算出する(ステップ5)。
次いで、低圧EGR制御弁開度LPVTなどに応じ、前述した第1酸素濃度推定部2fの説明で述べたようにして、低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRを算出する(ステップ6)。次に、高圧EGR制御弁開度HPVTなどに応じ、前述した第2酸素濃度推定部2gの説明で述べたようにして、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRを算出する(ステップ7)。
次いで、上記ステップ6および7でそれぞれ算出された低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRおよび高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRなどに応じ、前述した第3酸素濃度推定部2hの説明で述べたようにして、吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGを算出する(ステップ8)。次に、算出された吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGなどに応じ、前述した第4酸素濃度推定部2iの説明で述べたようにして、吸入ガス酸素濃度O2INGを算出する(ステップ9)。
次に、前記ステップ5および9でそれぞれ算出された吸入ガス流量FINGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGに応じて、燃料噴射弁4による燃料の噴射モードを決定する(ステップ10)とともに、燃料噴射量TOUTを算出し(ステップ11)、本処理を終了する。この噴射モードには、燃料の噴射を1燃焼サイクル中に1回行う単噴射モードと、複数回(例えば3回)に分けて行う分割噴射モードが含まれる。このステップ10では、そのときの要求トルクTREQ(k)、吸入ガス流量FING(k)および吸入ガス酸素濃度O2ING(k)に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、単噴射モードおよび分割噴射モードの一方が選択され、噴射モードとして決定される。これにより、エンジン3の良好な排ガス特性が得られる噴射モードが選択される。
また、上記ステップ11による燃料噴射量TOUT(k)の算出は、具体的には次のようにして行われる。すなわち、まず、要求トルクTREQ(k)に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本噴射量を算出するとともに、吸入ガス流量FING(k)および吸入ガス酸素濃度O2ING(k)に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、補正項を算出する。そして、算出された基本噴射量を補正項で補正することによって、燃料噴射量TOUT(k)を算出する。さらに、ステップ11の実行に伴い、燃料噴射量TOUT(k)に基づく駆動信号が燃料噴射弁4に出力され、それにより、燃料噴射弁4による燃料噴射量が制御される。
また、図15は、図3に示す吸入ガス流量推定部で推定された吸入ガス流量FING(実線)と、実際の吸入ガス流量FINGA(破線)との関係を、第1および第2比較例とともに示している。この第1比較例は、第3流量推定部を、吸気チャンバガス流量FICHGではなく、吸気通路5の低圧EGR通路16aとの接続部とコンプレッサ12aとの間を流れるガスの流量を推定するように構成するとともに、第4流量推定部を、この第3流量推定部で推定されたガスの流量と、第2流量推定部2cで推定された高圧EGRガス流量FHEGRとを入力として吸入ガス流量を推定するように構成した場合を示している。また、図15のFING1(一点鎖線)は、この第1比較例における吸入ガス流量である。
さらに、第2比較例は、第3流量推定部を、吸気通路5のインタークーラ13とスロットル弁14との間を流れるガスの流量を推定するように構成するとともに、第4流量推定部を、この第3流量推定部で推定されたガスの流量と高圧EGRガス流量FHEGRを入力として吸入ガス流量を推定するように構成した場合を示している。また、図15のFING2(二点鎖線)は、この第2比較例における吸入ガス流量である。
図15に示すように、第1比較例では、吸入ガス流量FING1は、実際の吸入ガス流量FINGAに対して大きくずれている。これは、次の理由による。すなわち、上述したように、第1比較例では、吸気通路5のコンプレッサ12aよりも上流側の部位におけるガスの流量が第3流量推定部で算出されるとともに、算出されたガスの流量と高圧EGRガス流量FHEGRが第4流量推定部に入力されることによって、吸入ガス流量FING1が算出される。これにより、吸入ガス流量FING1に、コンプレッサ12aにおけるガスの圧力変化、インタークーラ13におけるガスの温度変化、およびスロットル弁14による影響が良好に反映されないためである。
また、上述したように、第2比較例では、吸気通路5のインタークーラ13とスロットル弁14との間を流れるガスの流量が第3流量推定部で算出されるとともに、算出されたガスの流量と高圧EGRガス流量FHEGRが第4流量推定部に入力されることによって、吸入ガス流量FING2が算出される。これにより、吸入ガス流量FING2に、コンプレッサ12aにおけるガスの圧力変化とインタークーラ13におけるガスの温度変化による影響は良好に反映されるものの、スロットル弁14による影響については、良好に反映されない。その結果、図15に示すように、吸入ガス流量FING2は、実際の吸入ガス流量FINGAに対してずれており、そのずれは、第1比較例における吸入ガス流量FING1よりも小さい。
これに対して、本実施形態によれば、算出された吸入ガス流量FINGは、実際の吸入ガス流量FINGAに対してほとんどずれておらず、吸入ガス流量FINGAとほぼ同じになっており、その精度は非常に高い。
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は次のとおりである。すなわち、本実施形態におけるインタークーラ13、低圧EGR通路16aおよび高圧EGR通路17aが、本発明における冷却装置、第1EGR通路および第2EGR通路にそれぞれ相当するとともに、本実施形態におけるクランク角センサ21、エアフローセンサ23、LPTH開度センサ24、TH開度センサ25、排気温センサ27、LPEGR開度センサ28、およびHPEGR開度センサ29が、本発明におけるガス流量パラメータ検出手段に相当する。また、本実施形態におけECU2が、本発明におけるガス流量推定手段、制御手段、ガス流量パラメータ検出手段、およびガス酸素濃度推定手段に相当する。さらに、本実施形態における第1〜第4流量推定部2a、2c〜2e、および第1〜第4酸素濃度推定部2f〜2iが、本発明における複数のニューラルネットワークに相当するとともに、本実施形態における低下温度推定部2bが、本発明におけるガス流量パラメータ検出手段に相当する。
また、本実施形態における低圧EGRガス流量FLEGR、高圧EGRガス流量FHEGR、吸気チャンバガス流量FICHG、および吸入ガス流量FINGが、本発明における複数のガスの流量に相当するとともに、本実施形態における低圧EGRガス流量FLEGRおよび高圧EGRガス流量FHEGRが、第1および第2EGR通路におけるガスの流量にそれぞれ相当する。さらに、本実施形態における吸気チャンバガス流量FICHGが、吸気通路の冷却装置よりも下流側の部位におけるガスの流量および吸気通路のスロットル弁よりも下流側の部位におけるガスの流量に相当するとともに、本実施形態における吸入ガス流量FINGが、本発明における吸入ガスの流量に相当する。
また、本実施形態における低圧EGR制御弁開度LPVT、低圧スロットル弁開度LPTH、高圧EGR制御弁開度HPVT、スロットル弁開度TH、排気温TEXG、低下温度DTG、新気流量QIN、エンジン回転数NE、および要求トルクTREQが、本発明におけるガス流量パラメータに相当する。さらに、本実施形態における低圧EGRガス酸素濃度O2LEGR、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGR、吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGが、本発明における複数のガス中の酸素濃度に相当する
また、本実施形態における低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRおよび高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRが、本発明における第1および第2EGR通路におけるガス中の酸素濃度にそれぞれ相当する。さらに、本実施形態における吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGが、本発明における吸気通路の冷却装置よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度および吸気通路のスロットル弁よりも下流側の部位におけるガス中の酸素濃度に相当するとともに、本実施形態における吸入ガス酸素濃度O2INGが、本発明における吸入ガス中の酸素濃度に相当する。
以上のように、本実施形態によれば、低圧EGR通路16aを流れる低圧EGRガスの流量である低圧EGRガス流量FLEGR、および、高圧EGR通路17aを流れる高圧EGRガスの流量である高圧EGRガス流量FHEGRが、第1および第2流量推定部2a,2cのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。また、推定された低圧EGRガス流量FLEGRおよび高圧EGRガス流量FHEGRの今回値・前回値を第3流量推定部2dのニューラルネットワークに入力することによって、吸気チャンバガス流量FICHGが推定される。この吸気チャンバガス流量FICHGは、吸気通路5のコンプレッサ12a、インタークーラ13およびスロットル弁14よりも下流側に設けられた吸気チャンバ5bを流れるガスの流量である。
さらに、推定された吸気チャンバガス流量FICHGの今回値・前回値を第4流量推定部2eのニューラルネットワークに入力することによって、吸気通路5の最も下流側の部位である分岐通路5cを流れるガスの流量が、燃焼室に吸入される吸入ガスの流量である吸入ガス流量FINGとして推定される。以上により、上流側のガスの流量が変化してから下流側のガスの流量が変化するまでのむだ時間と、コンプレッサ12aにおけるガスの圧力変化による影響と、インタークーラ13におけるガスの温度変化による影響と、スロットル弁14による影響と、低圧EGRガスによる影響と、高圧EGRガスによる影響と、低圧EGRガスと高圧EGRガスとの干渉による影響とを反映させながら、吸入ガス流量FINGを精度良く推定することができる。
同様に、低圧EGRガス中の酸素濃度である低圧EGRガス酸素濃度O2LEGR、および、高圧EGRガス中の酸素濃度である高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRが、第1および第2酸素濃度推定部2f,2gのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。また、推定された低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRの今回値・前回値と、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRの今回値・前回値と、吸気チャンバガス流量FICHGを表すパラメータ(DTG、TH、QIN、NE、TREQ)の今回値・前回値とを第3酸素濃度推定部2hのニューラルネットワークに入力することによって、吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGが推定される。この吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGは、吸気チャンバ5bを流れるガス中の酸素濃度である。
さらに、推定された吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGの今回値・前回値と、吸入ガス流量FINGを表すパラメータ(QIN、NE、TREQ)の今回値・前回値とを第4酸素濃度推定部2iのニューラルネットワークに入力することによって、分岐通路5cを流れるガス中の酸素濃度が、吸入ガス中の酸素濃度である吸入ガス酸素濃度O2INGとして推定される。以上により、上流側のガス中の酸素濃度が変化してから下流側のガス中の酸素濃度が変化するまでのむだ時間と、ガスの流量の変化による影響と、コンプレッサ12aにおけるガスの圧力変化による影響と、インタークーラ13におけるガスの温度変化による影響と、スロットル弁14におけるガスの流量の変化による影響と、低圧EGRガスによる影響と、高圧EGRガスによる影響と、低圧EGRガスと高圧EGRガスとの干渉による影響とを反映させながら、吸入ガス酸素濃度O2INGを精度良く推定することができる。また、推定された吸入ガス流量FINGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGに応じて、噴射モードを決定するとともに、燃料噴射量を制御するので、エンジン3を適切に制御することができ、良好な排ガス特性を得ることができる。
さらに、ガスの流量については第1〜第4ガス流量推定部2a、2c〜2eの4つのニューラルネットワークを、ガス中の酸素濃度については第1〜第4酸素濃度推定部2f〜2iの4つのニューラルネットワークを、それぞれ構築するだけでよいので、制御装置1を容易に設計できるとともに、その演算負荷を低減することができる。
また、インタークーラ13の冷却によるガスの温度低下分を低下温度DTGとして算出するとともに、算出された低下温度DTGを、第3流量推定部2dおよび第3酸素濃度推定部2hへの入力として用いるので、インタークーラ13におけるガスの温度変化による影響をより良好に反映させながら、吸入ガス流量FINGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGをより精度良く推定することができる。
なお、本実施形態では、第3流量推定部2dおよび第3酸素濃度推定部2hへの入力として、低下温度の今回値DTG(k)を用いているが、今回値DTG(k)に加え、前回以前に算出された1つ以上の過去値(DTG(k−1)、DTG(k−2)……DTG(k−q))を用いてもよい。また、本実施形態では、第1〜第4流量推定部2a、2c〜2e、第1および第2酸素濃度推定部2f,2gへの入力として、新気流量QIN、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQを用いているが、これらのパラメータを適宜、省略してもよく、この場合、これらのパラメータの前回値(k−1)のみを省略してもよい。
さらに、本実施形態では、第1流量推定部2aおよび第1酸素濃度推定部2fへの入力として、低圧EGR制御弁開度LPVTおよび低圧スロットル弁開度LPTHの今回値・前回値を用いているが、両パラメータLPVT,LPTHの少なくとも一方の前回値を省略してもよい。また、本実施形態では、第2流量推定部2cおよび第2酸素濃度推定部2gへの入力として、高圧EGR制御弁開度HPVTおよびスロットル弁開度THの今回値・前回値を用いているが、両パラメータHPVT,THの少なくとも一方の前回値を省略してもよい。さらに、本実施形態では、低下温度DTGを推定しているが、これを省略してもよい。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、複数のガスパラメータとして、低圧EGRガス流量FLEGR、高圧EGRガス流量FHEGRおよび吸気チャンバガス流量FICHGを推定しているが、これらのパラメータFLEGR、FHEGRおよびFICHGを、本発明の趣旨の範囲内で適宜、省略してもよい。また、低圧EGRガス流量FLEGR、高圧EGRガス流量FHEGRおよび吸気チャンバガス流量FICHGの少なくとも1つに代えて、またはこれらの少なくとも1つとともに、吸気通路5、低圧EGR通路16a、高圧EGR通路17aおよび排気通路6における他の適当な部位におけるガスの流量を推定してもよい。この場合の他の部位として、例えば、次の部位(a)〜(j)が挙げられる。以上については、低圧EGRガス酸素濃度O2LEGR、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRおよび吸気チャンバ酸素濃度O2ICHGについても同様に当てはまる。
(a)吸気通路5の低圧スロットル弁11からコンプレッサ12aまでの部位
(b)吸気通路5のコンプレッサ12aからインタークーラ13までの部位
(c)吸気通路5のインタークーラ13からスロットル弁14までの部位
(d)低圧EGR通路16aの低圧EGRクーラ16bから低圧EGR制御弁16cまでの部位
(e)低圧EGR通路16aの低圧EGRクーラ16bよりも上流側における部位
(f)高圧EGR通路17aの高圧EGRクーラ17bから高圧EGR制御弁17cまでの部位
(g)高圧EGR通路17aの高圧EGRクーラ17bよりも上流側における部位
(h)排気通路6のタービン12bよりも上流側における部位
(i)排気通路6のタービン12bから排ガス浄化装置15までの部位
(j)排気通路6の排ガス浄化装置15よりも下流側における部位
なお、上記の部位(i)における排ガス中の酸素濃度については、本実施形態では、LAFセンサ26によって排ガス酸素濃度O2EXGとして検出されるので不要であるものの、そのような排ガス中の酸素濃度を検出するセンサが設けられていない場合には、有用である。また、部位(h)における排ガスの流量および酸素濃度(以下、それぞれ「第1排ガス流量」「第1排ガス酸素濃度」という)を推定する場合には、これらの第1排ガス流量および第1排ガス酸素濃度は、吸入ガス流量の過去値FING(k−q)および吸入ガス酸素濃度の過去値O2ING(k−q)をそれぞれ入力とする2つのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。さらに、部位(j)における排ガスの流量および酸素濃度(以下、それぞれ「第2排ガス流量」「第2排ガス酸素濃度」という)を推定する場合には、これらの第2排ガス流量および第2排ガス酸素濃度は、第1排ガス流量および第1排ガス酸素濃度をそれぞれ入力とする2つのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。あるいは、第1および第2排ガス酸素濃度は、排ガス酸素濃度O2EXGを入力とする2つのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。
また、第1排ガス流量および第1排ガス酸素濃度を推定する場合には、高圧EGRガス流量FHEGRおよび高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRは、推定された第1排ガス流量および第1排ガス酸素濃度をそれぞれ入力とする2つのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。さらに、第2排ガス流量および第2排ガス酸素濃度を推定する場合には、低圧EGRガス流量FLEGRおよび低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRは、推定された第2排ガス流量および第2排ガス酸素濃度をそれぞれ入力とする2つのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。
また、第1排ガス流量および第1排ガス酸素濃度を推定せずに、第2排ガス流量および第2排ガス酸素濃度を推定する場合には、高圧EGRガス流量FHEGRおよび高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRは、推定された第2排ガス流量および第2排ガス酸素濃度をそれぞれ入力とする2つのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。あるいは、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRは、実施形態の場合と同様、排ガス酸素濃度O2EXGを入力とするニューラルネットワークを用いて推定される。さらに、第2排ガス流量および第2排ガス酸素濃度を推定せずに、第1排ガス流量および第1排ガス酸素濃度を推定する場合には、低圧EGRガス流量FLEGRおよび低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRは、推定された第1排ガス流量および第1排ガス酸素濃度をそれぞれ入力とする2つのニューラルネットワークを用いてそれぞれ推定される。あるいは、低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRは、実施形態の場合と同様、排ガス酸素濃度O2EXGを入力とするニューラルネットワークを用いて推定される。
また、吸気通路5を流れるガスの流量について、吸気チャンバガス流量FICHGに加え、上記の部位(a)〜(c)におけるガスの流量を推定する場合には、これらのガスの流量は、より上流側の部位におけるガスの流量を入力とするニューラルネットワークを用いて、吸気通路5の上流側から下流側に向かって順に推定される。このことは、吸気通路5を流れるガス中の酸素濃度について、吸気チャンバガス酸素濃度O2ICHGに加え、上記の部位(a)〜(c)におけるガス中の酸素濃度を推定する場合にも同様に当てはまる。さらに、低圧EGR通路16aを流れるガスの流量について、低圧EGRガス流量FLEGRに加え、前記部位(d)および(e)におけるガスの流量を推定する場合には、これらのガスの流量は、より上流側の部位におけるガスの流量を入力とするニューラルネットワークを用いて、低圧EGR通路16aの上流側から下流側に向かって順に推定される。このことは、低圧EGR通路16aを流れるガス中の酸素濃度について、低圧EGRガス酸素濃度O2LEGRに加え、前記部位(d)および(e)におけるガス中の酸素濃度を推定する場合にも同様に当てはまる。
また、高圧EGR通路17aを流れるガスの流量について、高圧EGRガス流量FHEGRに加え、前記部位(f)および(g)におけるガスの流量を推定する場合には、これらのガスの流量は、より上流側の部位におけるガスの流量を入力とするニューラルネットワークを用いて、高圧EGR通路17aの上流側から下流側に向かって順に推定される。このことは、高圧EGR通路17aを流れるガス中の酸素濃度について、高圧EGRガス酸素濃度O2HEGRに加え、前記部位(f)および(g)におけるガス中の酸素濃度を推定する場合についても同様に当てはまる。
さらに、実施形態では、吸入ガス流量FINGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGの双方を推定しているが、両パラメータFINGおよびO2INGの一方を推定してもよい。また、実施形態では、第3酸素濃度推定部2hに入力されるガス流量パラメータとして、低下温度DTG、スロットル弁開度TH、新気流量QIN、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQを用いるとともに、第4酸素濃度推定部2iに入力されるガス流量パラメータとして、新気流量QIN、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQを用いているが、これらのパラメータを、本発明の趣旨の範囲内で適宜、省略してもよい。あるいは、これらのパラメータの少なくとも1つに代えて、またはこれらのパラメータの少なくとも1つとともに、ガスの流量を表す他の適当なパラメータを用いてもよく、当然のことながら、ガスの流量そのものを用いてもよい。この場合、例えば、第3酸素濃度推定部2hへの入力として、低圧EGRガス流量FLEGR、高圧EGRガス流量FHEGR、および吸気チャンバガス流量FICHGの少なくとも1つを用いてもよい。また、第4酸素濃度推定部2iへの入力として、吸気チャンバガス流量FICHGおよび吸入ガス流量FINGの少なくとも一方を用いてもよい。
さらに、実施形態では、第1〜第4流量推定部2a、2c〜2eおよび第1〜第4酸素濃度推定部2f〜2iにそれぞれ入力される各種のパラメータの過去値として、前回値(k−1)を用いているが、これに代えて、またはこれとともに、前々回以前にサンプリングまたは算出された1つ以上の過去値((k−2)、(k−3)……(k−q))を用いてもよい。
また、実施形態では、ニューラルネットワークとして、シグモイド関数を用いたタイプのものを用いているが、動径基底関数を用いた、いわゆるRBF(Radial Basis Function )ネットワークや、リカレント型ニューラルネットワークを用いてもよい。さらに、実施形態では、推定された吸入ガス流量FINGおよび吸入ガス酸素濃度O2INGに応じて、燃料噴射弁4による燃料噴射を制御しているが、これに代えて、またはこれとともに、エンジン3を制御するための制御パラメータ、例えば、低圧EGRガスの流量、高圧EGRガスの流量、過給装置12の過給圧、および吸入ガスの流量などの少なくとも1つを制御してもよい。
また、実施形態は、過給装置12、スロットル弁14および高圧EGR装置17がいずれも設けられたエンジン3に本発明による制御装置を適用した例であるが、制御装置は、これに限らず、過給装置12、スロットル弁14および高圧EGR装置17の少なくとも1つが設けられていない内燃機関にも適用可能である。それに加え、制御装置は、車両用のディーゼルエンジンであるエンジン3に代えて、ガソリンエンジンや、LPGエンジン、クランク軸が鉛直方向に配置された船外機などのような船舶推進機用エンジンなど、産業用の各種の内燃機関に適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。