JPWO2010029679A1 - 無水銀アルカリ乾電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】低コストで放電特性を向上させることができる無水銀アルカリ乾電池を提供する。【解決手段】正極と負極とセパレータと分散媒であるゲル状アルカリ電解液とを備えた無水銀アルカリ乾電池であって、負極活物質には、短繊維形状の亜鉛が含有されている。短繊維形状の亜鉛は、長さが1mm以上50mm以下であり、横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、比表面積が50cm2/g以上1000cm2/g以下である。

Description

本発明は、無水銀アルカリ乾電池に関するものである。
正極に二酸化マンガン、負極に亜鉛、電解液にアルカリ水溶液を用いたアルカリマンガン乾電池は、汎用性が高く安価であるため、各種機器の電源として広く普及している。
アルカリ乾電池において、負極活物質には、ガスアトマイズ法等で得られる不定形の亜鉛粉を通常使用している。以前は、亜鉛粉同士の接触および亜鉛粉と集電体との接触を十分確保して集電効率を高めるために負極に水銀を加えて亜鉛粉表面にアマルガムを形成させていた。例えば特許文献5には亜鉛粉の代わりに電解により作製した針状亜鉛に水銀を加えて負極活物質とした電池が開示されている。けれども環境への配慮から、1980〜1990年頃にかけて、アルカリ乾電池の無水銀化が進み、それによってアルカリ乾電池の耐食性や放電特性は低下した。
耐食性に関する問題は、例えば特許文献1に記載されているようなインジウム、アルミニウム、ビスマス等を少量含んだ耐食性の高い亜鉛合金粉を用いる技術を用いることにより解決がなされてきた。
一方放電特性に関しては、特許文献2乃至4に記載されているように、亜鉛のリボンや繊維を負極活物質とすることによって改善する試みが行われていた。特許文献2の技術では亜鉛繊維と亜鉛粒子とを接着剤で固定して負極としており、特許文献3の技術では、亜鉛繊維をウール状(綿状)にして多孔性固体亜鉛電極としており、特許文献4の技術では、亜鉛リボンを負極活物質として用いている。これらの負極は、アマルガムによって亜鉛粉同士や針状亜鉛同士が固定された有水銀の電池と同様に、多孔性で且つ亜鉛同士が固定されているため、現状の市販アルカリ乾電池で用いられているゲル状電解液ではなく、KOH水溶液を電解液として使用している。市販アルカリ乾電池では、無水銀化することによって亜鉛粉末が沈殿して電解液と分離しないようにゲル状電解液を用いている。けれどもゲル状電解液中で周囲の亜鉛粉末や集電体との接触が不十分な亜鉛粉末の集合体は十分な反応が進まず、負極活物質として利用されないままになってしまうが、特許文献2乃至4に記載の技術では、このようなことは生じない。
特公平3−71737号公報 特表2008−516410号公報 特表2008−518408号公報 特表2002−531923号公報 米国特許第3853625号公報
しかしながら、特許文献2乃至4に記載の技術は現状の市販アルカリ乾電池とは負極が全く異なっているため、製造する際には新たな製造工程・設備を開発して使用する必要があり、製造コストが増大してしまうという問題があった。また、特許文献2に記載の技術では、負極は亜鉛粒子と亜鉛繊維とが接着剤で固定された構造体であるため、放電による正極の膨張によって負極の構造体に局所的な応力が掛かって、応力集中によって構造体が崩壊し、電子伝導のネットワークが断たれてしまう課題があった。特許文献3に記載の技術では、ウール状の亜鉛繊維を圧縮して負極としているため、均一な多孔体構造とすることが困難であり、電子伝導のネットワークや電解液の拡散性の不均一が生じて負極利用率が低下する課題があった。特許文献4に記載の技術では、亜鉛リボンにより負極が形成されているため負極中の亜鉛間の隙間に連続性が欠けていて電解液の拡散が抑制されてしまい負極利用率が低下する課題があった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低コストで放電特性を向上させることができる無水銀アルカリ乾電池を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明の無水銀アルカリ乾電池は、正極と、負極と、セパレータと、を備え、前記負極は、負極活物質である短繊維形状の亜鉛と、分散媒であるゲル状アルカリ電解液とを含み、前記短繊維形状の亜鉛は、長さが1mm以上50mm以下であり、横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下である構成とした。なお、短繊維形状の亜鉛の長さは横断面の長径の2倍以上であることが好ましい。
前記負極には前記負極活物質同士を接着させる接着剤は含有されていない構成とすることができる。ここで接着剤とは、乾電池中で負極活物質同士を接着して固定し、負極活物質同士の接触状態を保持するものである。前記接着剤は、例えばポリビニルアルコールである。
ある実施形態において、横断面の長径と短径とが、0.1≦短径/長径≦1という関係を有する。
ある実施形態において、短繊維形状の亜鉛の結晶粒径が1μm以上50μm以下である。
ある実施形態において、負極活物質として最大径が500μm以下の亜鉛粒子も含まれており、前記短繊維形状の亜鉛の量は全負極活物質中の2質量%以上80質量%以下である。前記横断面の長径と短径とが、0.15≦短径/長径≦1という関係を有し、前記亜鉛粒子の最大径が250μm以下であることが好ましい。
ある実施形態において、負極の密度は、2.3g/cm以上3.8g/cm以下である。
ある実施形態において、短繊維形状の亜鉛には、Al、Bi、In、CaおよびMgからなる群から選ばれた少なくとも1種類の物質が添加されている。
ある実施形態において、短繊維形状の亜鉛および亜鉛粒子には、Al、Bi、In、CaおよびMgからなる群から選ばれた少なくとも1種類の物質が添加されている。
本発明の無水銀アルカリ乾電池においては、長さが1mm以上50mm以下であり、横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下である短繊維形状の亜鉛を負極活物質として含んでいるので、ゲル状アルカリ電解液中において該短繊維形状の亜鉛が電子伝導のネットワークを緊密に形成し、高い放電特性を有し、乾電池の製造においては従来の工程をそのまま使用できて製造コストを低くすることができる。
(a)はメルトスピニング法に用いるロールの外形図であり、(b)は溝部分の拡大図である。 作製した亜鉛の小塊の性質を記載した図表である。 実施例1〜10,比較例1〜19の評価結果を示した図表である。 実施例11〜17の評価結果を示した図表である。 実施例18〜28の評価結果を示した図表である。 実施例29〜36の評価結果を示した図表である。 実施例37〜43の評価結果を示した図表である。 実施例44〜52の評価結果を示した図表である。 実施形態に係るアルカリ乾電池の一部破断図である。
まず無水銀アルカリ乾電池の負極に用いる亜鉛の小塊について説明する。ここでいうところの亜鉛の小塊というのは、形状を問わず、最大径・最大長さが数μmから10mmくらいの負極活物質として用いられる亜鉛の小さな塊・小片のことであり上述の短繊維形状の亜鉛および亜鉛粒子を含む概念である。ここでの亜鉛には亜鉛以外の少量の金属(水銀は除く)を含んだ亜鉛合金も含まれる。
従来の市販のアルカリ乾電池に充填されている亜鉛の小塊は、ガスアトマイズ法によって作製される粉体であって、形状はジャガイモのような不定形の塊であり、平均粒径が180μm近辺になるように篩で分級させたものである。三井金属株式会社製の亜鉛粉末(ロットNo.70SA−H、Al50ppm,Bi50ppm、In200ppm含有)を例として挙げることができる。
以下の実施形態においては、短繊維形状の亜鉛をメルトスピニング法によって作製した。メルトスピニング法とは、回転する単ロールに溶融金属を噴出・滴下させて、遠心力により吹き飛ばして金属小塊を形成する方法である。溶融金属の噴出量やロールの回転数を調整することで帯状金属から粉体まで種々の形状の金属を作製することができる。なお、本願の短繊維形状の亜鉛の作製方法は、メルトスピニング法に限定されず、溶融紡糸法・切削加工法などでもよい。
短繊維形状の亜鉛は、通常の円筒形あるいは円板形状のロールを用いてメルトスピニング法により作製することができるが、図1に示すロール30を用いても作製できる。この場合、回転軸32から最遠の円柱側面部に溝31が形成されていて、この溝31に溶融金属を噴出することで、長軸方向に垂直な断面(横断面)における短径/長径の値が大きな短繊維形状の亜鉛を作製することができる。なお、この短径/長径の値は、溝31の幅mと深さhとの両方の値によって決まってくる。溝31の形状は横断面が三角形のものに限定されず、横断面が矩形やU字状などでもよい。
(実施形態)
−亜鉛の小塊の作製−
アルカリ乾電池を作製するために、上述の三井金属株式会社製の亜鉛粉末を用いて、メルトスピニング法によって種々の形状の短繊維形状の亜鉛を作製した。作製条件と出来上がった亜鉛の形状・性質を図2の図表に示す。ノズルというのは、亜鉛粉末を加熱してロールに噴出する際に用いるものである。溝形状h/mがゼロであるのは、溝がなくフラットなロールを用いたことを示している。なお、作製条件が一定であっても出来上がった亜鉛の小塊の形状は一定ではないので、図表に示す形状は当該作製条件においてもっとも多くできた小塊の平均を示している。ここで形状がいも状(No.1)とあるのは原料の亜鉛粉末そのもののことである。
−比表面積の測定−
亜鉛の小塊の比表面積は、ガス吸着法を用いて測定した。測定装置には、島津製作所株式会社製のASAP−2010を用いた。亜鉛の小塊を約7g採取して測定セルに入れて、120℃、2時間の条件で真空脱ガス処理を行い、その後吸着ガスとしてKrを使用してガスの吸着量を測定して比表面積を換算した。
−結晶粒径の測定−
亜鉛の小塊の結晶粒径は、顕微鏡写真から測定した。すなわち、作製された亜鉛小塊の表面または断面を、光学顕微鏡や電子顕微鏡で拡大して写真を撮影し、その写真に写った結晶粒径を測定したものである。1枚の写真には粒界で囲まれた領域が数十個以上写るように顕微鏡の倍率を調整した。顕微鏡写真に任意に複数の直線を引いて、10個以上の粒界と交点を有する直線を選び、連続して並ぶ10個の粒界において前記直線と1個目の粒界との交点から、前記直線と10個目の粒界との交点までの距離を測定し、その距離を9で除した値rを求めた。このような直線をさらに2つ以上選んでrを求めて、これらのrの平均値を亜鉛小塊の結晶粒径とした。
−アルカリ乾電池の説明−
以下、本発明の一実施の形態である、無水銀アルカリ乾電池について説明する。図9に示すように、この無水銀アルカリ乾電池は、正極合剤ペレット3と、ゲル状負極6とを有する。正極合剤ペレット3とゲル状負極6とはセパレータ4により隔てられている。正極ケース1は、ニッケルメッキされた鋼板からなる。この正極ケース1の内部には、黒鉛塗装膜2が形成されている。
図9に示す無水銀アルカリ乾電池は以下のようにして作製することができる。すなわち、まず正極ケース1の内部に、二酸化マンガン等の正極活物質を含む中空円筒型の正極合剤ペレット3を複数個挿入し、加圧することによって正極ケース1の内面に密着させる。
そして、この正極合剤ペレット3の内側に、円柱状に巻いたセパレータ4および絶縁キャップ5を挿入した後、セパレータ4と正極合剤ペレット3を湿潤させる目的で電解液を注液する。
注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填する。ここでゲル状負極6は、あらかじめ負極活物質である亜鉛小塊をゲル状のアルカリ電解液(分散媒)に混合分散させることにより作製する。この亜鉛小塊は、上述の通りに作製されたものである。また、ゲル状負極のアルカリ電解液にはアニオン性界面活性剤と4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤、また必要に応じてインジウム化合物を添加する。
それから、樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8、および絶縁ワッシャ9とが一体化された負極集電体10を、ゲル状負極6に差し込む。そして正極ケース1の開口端部を封口板7の端部を介して底板8の周縁部にかしめつけて正極ケース1の開口部を密着させる。
最後に、正極ケース1の外表面に外装ラベル11を被覆することで、本実施形態における無水銀アルカリ乾電池を得ることができる。
−亜鉛小塊の評価−
上で説明した無水銀アルカリ乾電池において、負極活物質である亜鉛小塊の検討を行った実施例を以下に示す。なお、以下の実施例は本発明の例示であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1〜10、比較例1〜19>
ゲル状負極6を以下の手順で作製した。
図2の材料No.20乃至29の短繊維形状の亜鉛をそれぞれ実施例1乃至10の負極活物質とした。また、比較例1の負極活物質としてNo.1のいも状亜鉛小塊を用い、比較例2乃至19の負極活物質としてNo.2乃至19の短繊維形状の亜鉛を用いた。なお、以後に説明する実施例も含めて、いずれの短繊維形状の亜鉛・亜鉛小塊にもAl:0.005質量%、Bi:0.005質量%、In:0.020質量%が含有されている。
次に、上記の短繊維形状の亜鉛あるいは亜鉛小塊100重量部に対して、分散媒であるゲル状アルカリ電解液として、33重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含有)54重量部、架橋型ポリアクリル酸0.7重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム1.4重量部を混合し、さらに、水酸化インジウム0.03重量部(金属インジウムとして0.0197重量部)を加えて混合して無水銀の負極をそれぞれ作製した。
続いて、単3形の無水銀アルカリ乾電池の作製を行った。
正極は、次のように作製した。電解二酸化マンガン及び黒鉛を重量比94:6の割合で混合し、この混合粉100重量部に対して電解液(ZnOを2重量%含有する39重量%の水酸化カリウム水溶液)1重量部を混合させた後、ミキサーで均一に攪拌・混合を行って一定粒度に整粒した。そして得られた粒状物を中空円筒型を用いて加圧成形して正極合剤ペレットとした。ここで、電解二酸化マンガンは東ソー株式会社製のHH−TF、黒鉛は日本黒鉛工業株式会社製のSP−20を用いた。
このようにして得られた正極合剤ペレットを正極ケースの内壁面を覆うように挿入した後、セパレータと底紙とをさらに挿入した。セパレータは株式会社クラレ製のビニロン−リヨセル複合不織布を用いた。それからセパレータの内側に33重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含有)を注液し、上記の負極を充填して底板をかしめて単3形アルカリ乾電池をそれぞれ作製した。
このようにして作製した乾電池について、以下の2種類の放電条件によって評価を行った。
放電条件(A):100mAの定電流での放電であり、放電電圧が0.9Vになるまでの放電容量を評価対象とした。温度条件は20℃である。本条件は、いわゆるローレート放電特性を判断するためのものである。
放電条件(B):1000mAの定電流での放電であり、放電電圧が0.9Vになるまでの放電容量を評価対象とした。温度条件は20℃である。本条件は、いわゆるハイレート放電特性を判断するためのものである。
図3に比較例1〜19と実施例1〜10との乾電池A1〜A29の評価結果を示す。比較例1の亜鉛小塊がいも状である電池A1と、比較例2〜19の短繊維形状の亜鉛を用いた電池A2〜A19とでは、電池A2〜A19の方が放電条件(A)、(B)の放電容量が少しだけ電池A1よりも大きいが、大差はない。これは、電池A2〜A5は短繊維形状の亜鉛の横断面の長径が1μmと小さく(A4,A5ではさらに比表面積が1000cm/gよりも大きい)、電池A6〜A9は短繊維形状の亜鉛の横断面の長径が1100μmと大きく(A8,A9ではさらに比表面積が1000cm/gよりも大きい)、電池A10〜A15は短繊維形状の亜鉛の比表面積が1000cm/gよりも大きく(A15ではさらに長さが0.5mmと小さい)、電池A6〜A9は短繊維形状の亜鉛の長さが50mmよりも長い(A16ではさらに比表面積が50cm/gよりも小さい)ためと考えられる。一方、実施例1〜10の電池A20〜A29では、短繊維形状の亜鉛の長さが1mm以上50mm以下であり、且つ横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、且つ比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下であるため、比較例1〜18よりも放電条件(A)、(B)の放電容量がいずれも有意に大きくなっている。
上記のことは、亜鉛小塊間の電子伝導性と電解液の拡散し易さによるものと考えられる。すなわち、長さが1mm以上50mm以下であり、且つ横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、且つ比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下という条件を満たす短繊維形状の亜鉛であると、亜鉛繊維同士がうまく絡み合って接触頻度が増加し、そのため亜鉛繊維間の電子伝導のネットワークが緊密になって、他の亜鉛繊維と電気的に接続していない孤立した亜鉛繊維がほとんど存在しないようになる。その効果はゲル電解質を含有している場合にさらに高くなる。電解液のゲル部分(ゲル小領域部分)の周囲に亜鉛繊維が配置されることで亜鉛繊維がより緊密に接触するようになるのである。さらに、短繊維形状の亜鉛同士の間にゲル部分が連続的に存在することにより電解液が拡散しやすくなっている。亜鉛繊維間の電子伝導ネットワークが緊密になっていると、亜鉛繊維の集合体の全体で時間的に均一に反応が進むため、反応が進まないで取り残される亜鉛繊維がほとんど存在せず、結果として放電容量が大きくなる。また、電解液の拡散が妨げられると未反応の活物質が存在していても放電電圧が降下してしまい放電容量が小さくなるが、実施例の亜鉛繊維を負極活物質として用いればそのような事態は避けられる。
また比較例1が従来のアルカリ乾電池とほぼ同等の乾電池と考えられるが、実施例1〜10の乾電池は比較例1と同じ製法、同じ工程・製造装置で作製することができ、従来の製造ラインをそのまま使用できるため製造コストが増加することを確実に抑制できる。
なお、比較例1では、亜鉛小塊の集合体において集合体全体で亜鉛小塊同士をあらゆる場所で接触させておくのが困難であるため、亜鉛小塊間の電子伝導性が悪く、孤立した亜鉛小塊が多く存在し、それらは反応が遅れてしまう。
<実施例11〜17>
図4に示すように、実施例11乃至17は、図2のNo.30乃至36の短繊維形状の亜鉛をそれぞれ負極活物質として用い、それ以外は実施例1と同様にして乾電池B1〜B7を作製したものである。これらの乾電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図4に示す通りである。
実施例11乃至17では、短繊維形状の亜鉛の横断面における短径/長径の値が0.1から1まで順に変化しているが、0.3が最も放電特性が良好である。横断面の短径/長径の値が0.15以上1以下であると放電特性がより良好であるので、より好ましい。ただし、横断面の短径/長径の値が0.1である実施例11の乾電池も比較例の乾電池に比べると、実用上放電特性に十分な向上が見られる。
<実施例18〜28>
図5に示すように、実施例18乃至28は、図2のNo.37乃至47の短繊維形状の亜鉛をそれぞれ負極活物質として用い、それ以外は実施例1と同様にして乾電池C1〜C11を作製したものである。これらの乾電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図5に示す通りである。
実施例18では、短繊維形状の亜鉛の結晶粒径が0.5μmとやや小さいので粒界から発生するガスの量が多くなり、比較例1〜19に比べた放電特性の向上度合いがそれほど高くはない。また実施例28は、短繊維形状の亜鉛の結晶粒径が60μmとやや大きいので亜鉛の反応性がやや抑えられ、比較例1〜19に比べた放電特性の向上度合いがそれほど高くはない。従って、短繊維形状の亜鉛の結晶粒径は1μm以上50μm以下が好ましい。ただし、実施例18および実施例28の乾電池も比較例に乾電池の比べると、実用上放電特性に十分な向上が見られる。
<実施例29〜36>
図6に示すように、実施例29乃至36は、図2のNo.40の短繊維形状の亜鉛を負極活物質として用い、さらにNo.1のいも状の亜鉛小塊(粒状亜鉛)も負極活物質として加えて、それ以外は実施例1と同様にして乾電池D1〜D8を作製した。なお、短繊維形状の亜鉛の量を全負極活物質(亜鉛)に対して図6に示すように種々に変更している。これらの乾電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図6に示す通りである。
短繊維形状の亜鉛の混合割合が2質量%の電池D1は、比較例1乃至19よりはハイレートおよびローレートの放電特性の両方が良好であるが、電池D2から電池D7と比較すると両方の放電特性はやや低い。また、短繊維形状の亜鉛の混合割合が85質量%の電池D8は、比較例1乃至19よりはハイレートおよびローレートの放電特性の両方が良好であるが、電池D2から電池D7と比較すると両方の放電特性がやや低い。この結果から考えられるのは、全負極物質中に短繊維形状の亜鉛が2質量%よりも少ない量しか含有されていないと、負極物質間を繋ぐ短繊維形状の亜鉛が少なすぎて電子伝導ネットワークの構築量が少なく、放電特性の向上がそれほど大きくないということと、全負極物質中に短繊維形状の亜鉛が80質量%よりも多いと、電解液の拡散性の向上がさほど顕著ではなく、放電特性がそれほど大きくは向上しないことである。従って、全負極活物質中の短繊維形状の亜鉛の混合割合は2質量%以上80質量%以下がより好ましい。
<実施例37〜43>
図7に示すように、実施例37乃至43は、図2のNo.30,31,33,36の短繊維形状の亜鉛を負極活物質として用い、さらにNo.1のいも状の亜鉛小塊(粒状亜鉛)も負極活物質として加えて、それ以外は実施例1と同様にして乾電池E1〜E7を作製したものである。なお、全負極活物質(亜鉛)中における短繊維形状の亜鉛の量は4質量%とし、粒状亜鉛の大きさ(最大径)を0.25mm以下と0.25mm超の2種類とした。これらの乾電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図7に示す通りである。
電池E1と電池E4、電池E2と電池E5、電池E3と電池E6のそれぞれの比較を行うと、粒状亜鉛の最大径が0.25mmよりも大きいと放電特性は比較例1〜19よりは向上しているが、その向上度合いが粒状亜鉛の最大径が0.25mm以下の場合よりも小さい。これは粒状亜鉛の最大径が0.25mmよりも大きいと、電子伝導ネットワークを緊密に形成する働きと電解液の拡散の働きとが小さくなるからと考えられる。従って、混合する粒状亜鉛の最大径は0.25mm以下であることが好ましい。また電池E1〜E3と電池E7とを比べると、短繊維形状の亜鉛の横断面の短径/長径の値が0.15以上になると、0.1の場合に比べて放電特性が顕著に向上することがわかる。
<実施例44〜52>
図8に示すように、実施例44乃至52は、図2のNo.41の短繊維形状の亜鉛を負極活物質として用い、No.1のいも状の亜鉛小塊(粒状亜鉛、最大径が0.25mm以下)も負極活物質として加えて、さらに負極の充填度合いを調節して負極の密度を変更しながら、それ以外は実施例1と同様にして乾電池F1〜F9を作製したものである。なお、全負極活物質(亜鉛)中の短繊維形状の亜鉛の量は7質量%とした。これらの電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図8に示す通りである。
電池F1および電池F9は、比較例1〜19よりは放電特性が向上しているがその向上度合いが電池F2〜F8に比べて小さい。負極密度が2.3g/cm以上3.8g/cm以下であると、電子伝導ネットワークを緊密に形成する働きと電解液の拡散の働きとがより効果的に大きくなるものと考えられる。
以上説明したように、本発明に係る無水銀アルカリ乾電池は、負極の利用率が大きく放電特性が向上しており、長寿命な電池が必要な機器用等として有用である。
本発明は、無水銀アルカリ乾電池に関するものである。
正極に二酸化マンガン、負極に亜鉛、電解液にアルカリ水溶液を用いたアルカリマンガン乾電池は、汎用性が高く安価であるため、各種機器の電源として広く普及している。
アルカリ乾電池において、負極活物質には、ガスアトマイズ法等で得られる不定形の亜鉛粉を通常使用している。以前は、亜鉛粉同士の接触および亜鉛粉と集電体との接触を十分確保して集電効率を高めるために負極に水銀を加えて亜鉛粉表面にアマルガムを形成させていた。例えば特許文献5には亜鉛粉の代わりに電解により作製した針状亜鉛に水銀を加えて負極活物質とした電池が開示されている。けれども環境への配慮から、1980〜1990年頃にかけて、アルカリ乾電池の無水銀化が進み、それによってアルカリ乾電池の耐食性や放電特性は低下した。
耐食性に関する問題は、例えば特許文献1に記載されているようなインジウム、アルミニウム、ビスマス等を少量含んだ耐食性の高い亜鉛合金粉を用いる技術を用いることにより解決がなされてきた。
一方放電特性に関しては、特許文献2乃至4に記載されているように、亜鉛のリボンや繊維を負極活物質とすることによって改善する試みが行われていた。特許文献2の技術では亜鉛繊維と亜鉛粒子とを接着剤で固定して負極としており、特許文献3の技術では、亜鉛繊維をウール状(綿状)にして多孔性固体亜鉛電極としており、特許文献4の技術では、亜鉛リボンを負極活物質として用いている。これらの負極は、アマルガムによって亜鉛粉同士や針状亜鉛同士が固定された有水銀の電池と同様に、多孔性で且つ亜鉛同士が固定されているため、現状の市販アルカリ乾電池で用いられているゲル状電解液ではなく、KOH水溶液を電解液として使用している。市販アルカリ乾電池では、無水銀化することによって亜鉛粉末が沈殿して電解液と分離しないようにゲル状電解液を用いている。けれどもゲル状電解液中で周囲の亜鉛粉末や集電体との接触が不十分な亜鉛粉末の集合体は十分な反応が進まず、負極活物質として利用されないままになってしまうが、特許文献2乃至4に記載の技術では、このようなことは生じない。
特公平3−71737号公報 特表2008−516410号公報 特表2008−518408号公報 特表2002−531923号公報 米国特許第3853625号公報
しかしながら、特許文献2乃至4に記載の技術は現状の市販アルカリ乾電池とは負極が全く異なっているため、製造する際には新たな製造工程・設備を開発して使用する必要があり、製造コストが増大してしまうという問題があった。また、特許文献2に記載の技術では、負極は亜鉛粒子と亜鉛繊維とが接着剤で固定された構造体であるため、放電による正極の膨張によって負極の構造体に局所的な応力が掛かって、応力集中によって構造体が崩壊し、電子伝導のネットワークが断たれてしまう課題があった。特許文献3に記載の技術では、ウール状の亜鉛繊維を圧縮して負極としているため、均一な多孔体構造とすることが困難であり、電子伝導のネットワークや電解液の拡散性の不均一が生じて負極利用率が低下する課題があった。特許文献4に記載の技術では、亜鉛リボンにより負極が形成されているため負極中の亜鉛間の隙間に連続性が欠けていて電解液の拡散が抑制されてしまい負極利用率が低下する課題があった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低コストで放電特性を向上させることができる無水銀アルカリ乾電池を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明の無水銀アルカリ乾電池は、正極と、負極と、セパレータと、を備え、前記負極は、負極活物質である短繊維形状の亜鉛と、分散媒であるゲル状アルカリ電解液とを含み、前記短繊維形状の亜鉛は、長さが1mm以上50mm以下であり、横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下である構成とした。なお、短繊維形状の亜鉛の長さは横断面の長径の2倍以上であることが好ましい。
前記負極には前記負極活物質同士を接着させる接着剤は含有されていない構成とすることができる。ここで接着剤とは、乾電池中で負極活物質同士を接着して固定し、負極活物質同士の接触状態を保持するものである。前記接着剤は、例えばポリビニルアルコールである。
ある実施形態において、横断面の長径と短径とが、0.1≦短径/長径≦1という関係を有する。
ある実施形態において、短繊維形状の亜鉛の結晶粒径が1μm以上50μm以下である。
ある実施形態において、負極活物質として最大径が500μm以下の亜鉛粒子も含まれており、前記短繊維形状の亜鉛の量は全負極活物質中の2質量%以上80質量%以下である。前記横断面の長径と短径とが、0.15≦短径/長径≦1という関係を有し、前記亜鉛粒子の最大径が250μm以下であることが好ましい。
ある実施形態において、負極の密度は、2.3g/cm以上3.8g/cm以下である。
ある実施形態において、短繊維形状の亜鉛には、Al、Bi、In、CaおよびMgからなる群から選ばれた少なくとも1種類の物質が添加されている。
ある実施形態において、短繊維形状の亜鉛および亜鉛粒子には、Al、Bi、In、CaおよびMgからなる群から選ばれた少なくとも1種類の物質が添加されている。
本発明の無水銀アルカリ乾電池においては、長さが1mm以上50mm以下であり、横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下である短繊維形状の亜鉛を負極活物質として含んでいるので、ゲル状アルカリ電解液中において該短繊維形状の亜鉛が電子伝導のネットワークを緊密に形成し、高い放電特性を有し、乾電池の製造においては従来の工程をそのまま使用できて製造コストを低くすることができる。
(a)はメルトスピニング法に用いるロールの外形図であり、(b)は溝部分の拡大図である。 作製した亜鉛の小塊の性質を記載した図表である。 実施例1〜10,比較例1〜19の評価結果を示した図表である。 実施例11〜17の評価結果を示した図表である。 実施例18〜28の評価結果を示した図表である。 実施例29〜36の評価結果を示した図表である。 実施例37〜43の評価結果を示した図表である。 実施例44〜52の評価結果を示した図表である。 実施形態に係るアルカリ乾電池の一部破断図である。
まず無水銀アルカリ乾電池の負極に用いる亜鉛の小塊について説明する。ここでいうところの亜鉛の小塊というのは、形状を問わず、最大径・最大長さが数μmから10mmくらいの負極活物質として用いられる亜鉛の小さな塊・小片のことであり上述の短繊維形状の亜鉛および亜鉛粒子を含む概念である。ここでの亜鉛には亜鉛以外の少量の金属(水銀は除く)を含んだ亜鉛合金も含まれる。
従来の市販のアルカリ乾電池に充填されている亜鉛の小塊は、ガスアトマイズ法によって作製される粉体であって、形状はジャガイモのような不定形の塊であり、平均粒径が180μm近辺になるように篩で分級させたものである。三井金属株式会社製の亜鉛粉末(ロットNo.70SA−H、Al50ppm,Bi50ppm、In200ppm含有)を例として挙げることができる。
以下の実施形態においては、短繊維形状の亜鉛をメルトスピニング法によって作製した。メルトスピニング法とは、回転する単ロールに溶融金属を噴出・滴下させて、遠心力により吹き飛ばして金属小塊を形成する方法である。溶融金属の噴出量やロールの回転数を調整することで帯状金属から粉体まで種々の形状の金属を作製することができる。なお、本願の短繊維形状の亜鉛の作製方法は、メルトスピニング法に限定されず、溶融紡糸法・切削加工法などでもよい。
短繊維形状の亜鉛は、通常の円筒形あるいは円板形状のロールを用いてメルトスピニング法により作製することができるが、図1に示すロール30を用いても作製できる。この場合、回転軸32から最遠の円柱側面部に溝31が形成されていて、この溝31に溶融金属を噴出することで、長軸方向に垂直な断面(横断面)における短径/長径の値が大きな短繊維形状の亜鉛を作製することができる。なお、この短径/長径の値は、溝31の幅mと深さhとの両方の値によって決まってくる。溝31の形状は横断面が三角形のものに限定されず、横断面が矩形やU字状などでもよい。
(実施形態)
−亜鉛の小塊の作製−
アルカリ乾電池を作製するために、上述の三井金属株式会社製の亜鉛粉末を用いて、メルトスピニング法によって種々の形状の短繊維形状の亜鉛を作製した。作製条件と出来上がった亜鉛の形状・性質を図2の図表に示す。ノズルというのは、亜鉛粉末を加熱してロールに噴出する際に用いるものである。溝形状h/mがゼロであるのは、溝がなくフラットなロールを用いたことを示している。なお、作製条件が一定であっても出来上がった亜鉛の小塊の形状は一定ではないので、図表に示す形状は当該作製条件においてもっとも多くできた小塊の平均を示している。ここで形状がいも状(No.1)とあるのは原料の亜鉛粉末そのもののことである。
−比表面積の測定−
亜鉛の小塊の比表面積は、ガス吸着法を用いて測定した。測定装置には、島津製作所株式会社製のASAP−2010を用いた。亜鉛の小塊を約7g採取して測定セルに入れて、120℃、2時間の条件で真空脱ガス処理を行い、その後吸着ガスとしてKrを使用してガスの吸着量を測定して比表面積を換算した。
−結晶粒径の測定−
亜鉛の小塊の結晶粒径は、顕微鏡写真から測定した。すなわち、作製された亜鉛小塊の表面または断面を、光学顕微鏡や電子顕微鏡で拡大して写真を撮影し、その写真に写った結晶粒径を測定したものである。1枚の写真には粒界で囲まれた領域が数十個以上写るように顕微鏡の倍率を調整した。顕微鏡写真に任意に複数の直線を引いて、10個以上の粒界と交点を有する直線を選び、連続して並ぶ10個の粒界において前記直線と1個目の粒界との交点から、前記直線と10個目の粒界との交点までの距離を測定し、その距離を9で除した値rを求めた。このような直線をさらに2つ以上選んでrを求めて、これらのrの平均値を亜鉛小塊の結晶粒径とした。
−アルカリ乾電池の説明−
以下、本発明の一実施の形態である、無水銀アルカリ乾電池について説明する。図9に示すように、この無水銀アルカリ乾電池は、正極合剤ペレット3と、ゲル状負極6とを有する。正極合剤ペレット3とゲル状負極6とはセパレータ4により隔てられている。正極ケース1は、ニッケルメッキされた鋼板からなる。この正極ケース1の内部には、黒鉛塗装膜2が形成されている。
図9に示す無水銀アルカリ乾電池は以下のようにして作製することができる。すなわち、まず正極ケース1の内部に、二酸化マンガン等の正極活物質を含む中空円筒型の正極合剤ペレット3を複数個挿入し、加圧することによって正極ケース1の内面に密着させる。
そして、この正極合剤ペレット3の内側に、円柱状に巻いたセパレータ4および絶縁キャップ5を挿入した後、セパレータ4と正極合剤ペレット3を湿潤させる目的で電解液を注液する。
注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填する。ここでゲル状負極6は、あらかじめ負極活物質である亜鉛小塊をゲル状のアルカリ電解液(分散媒)に混合分散させることにより作製する。この亜鉛小塊は、上述の通りに作製されたものである。また、ゲル状負極のアルカリ電解液にはアニオン性界面活性剤と4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤、また必要に応じてインジウム化合物を添加する。
それから、樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8、および絶縁ワッシャ9とが一体化された負極集電体10を、ゲル状負極6に差し込む。そして正極ケース1の開口端部を封口板7の端部を介して底板8の周縁部にかしめつけて正極ケース1の開口部を密着させる。
最後に、正極ケース1の外表面に外装ラベル11を被覆することで、本実施形態における無水銀アルカリ乾電池を得ることができる。
−亜鉛小塊の評価−
上で説明した無水銀アルカリ乾電池において、負極活物質である亜鉛小塊の検討を行った実施例を以下に示す。なお、以下の実施例は本発明の例示であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1〜10、比較例1〜19>
ゲル状負極6を以下の手順で作製した。
図2の材料No.20乃至29の短繊維形状の亜鉛をそれぞれ実施例1乃至10の負極活物質とした。また、比較例1の負極活物質としてNo.1のいも状亜鉛小塊を用い、比較例2乃至19の負極活物質としてNo.2乃至19の短繊維形状の亜鉛を用いた。なお、以後に説明する実施例も含めて、いずれの短繊維形状の亜鉛・亜鉛小塊にもAl:0.005質量%、Bi:0.005質量%、In:0.020質量%が含有されている。
次に、上記の短繊維形状の亜鉛あるいは亜鉛小塊100重量部に対して、分散媒であるゲル状アルカリ電解液として、33重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含有)54重量部、架橋型ポリアクリル酸0.7重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム1.4重量部を混合し、さらに、水酸化インジウム0.03重量部(金属インジウムとして0.0197重量部)を加えて混合して無水銀の負極をそれぞれ作製した。
続いて、単3形の無水銀アルカリ乾電池の作製を行った。
正極は、次のように作製した。電解二酸化マンガン及び黒鉛を重量比94:6の割合で混合し、この混合粉100重量部に対して電解液(ZnOを2重量%含有する39重量%の水酸化カリウム水溶液)1重量部を混合させた後、ミキサーで均一に攪拌・混合を行って一定粒度に整粒した。そして得られた粒状物を中空円筒型を用いて加圧成形して正極合剤ペレットとした。ここで、電解二酸化マンガンは東ソー株式会社製のHH−TF、黒鉛は日本黒鉛工業株式会社製のSP−20を用いた。
このようにして得られた正極合剤ペレットを正極ケースの内壁面を覆うように挿入した後、セパレータと底紙とをさらに挿入した。セパレータは株式会社クラレ製のビニロン−リヨセル複合不織布を用いた。それからセパレータの内側に33重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含有)を注液し、上記の負極を充填して底板をかしめて単3形アルカリ乾電池をそれぞれ作製した。
このようにして作製した乾電池について、以下の2種類の放電条件によって評価を行った。
放電条件(A):100mAの定電流での放電であり、放電電圧が0.9Vになるまでの放電容量を評価対象とした。温度条件は20℃である。本条件は、いわゆるローレート放電特性を判断するためのものである。
放電条件(B):1000mAの定電流での放電であり、放電電圧が0.9Vになるまでの放電容量を評価対象とした。温度条件は20℃である。本条件は、いわゆるハイレート放電特性を判断するためのものである。
図3に比較例1〜19と実施例1〜10との乾電池A1〜A29の評価結果を示す。比較例1の亜鉛小塊がいも状である電池A1と、比較例2〜19の短繊維形状の亜鉛を用いた電池A2〜A19とでは、電池A2〜A19の方が放電条件(A)、(B)の放電容量が少しだけ電池A1よりも大きいが、大差はない。これは、電池A2〜A5は短繊維形状の亜鉛の横断面の長径が1μmと小さく(A4,A5ではさらに比表面積が1000cm/gよりも大きい)、電池A6〜A9は短繊維形状の亜鉛の横断面の長径が1100μmと大きく(A8,A9ではさらに比表面積が1000cm/gよりも大きい)、電池A10〜A15は短繊維形状の亜鉛の比表面積が1000cm/gよりも大きく(A15ではさらに長さが0.5mmと小さい)、電池A6〜A9は短繊維形状の亜鉛の長さが50mmよりも長い(A16ではさらに比表面積が50cm/gよりも小さい)ためと考えられる。一方、実施例1〜10の電池A20〜A29では、短繊維形状の亜鉛の長さが1mm以上50mm以下であり、且つ横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、且つ比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下であるため、比較例1〜18よりも放電条件(A)、(B)の放電容量がいずれも有意に大きくなっている。
上記のことは、亜鉛小塊間の電子伝導性と電解液の拡散し易さによるものと考えられる。すなわち、長さが1mm以上50mm以下であり、且つ横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、且つ比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下という条件を満たす短繊維形状の亜鉛であると、亜鉛繊維同士がうまく絡み合って接触頻度が増加し、そのため亜鉛繊維間の電子伝導のネットワークが緊密になって、他の亜鉛繊維と電気的に接続していない孤立した亜鉛繊維がほとんど存在しないようになる。その効果はゲル電解質を含有している場合にさらに高くなる。電解液のゲル部分(ゲル小領域部分)の周囲に亜鉛繊維が配置されることで亜鉛繊維がより緊密に接触するようになるのである。さらに、短繊維形状の亜鉛同士の間にゲル部分が連続的に存在することにより電解液が拡散しやすくなっている。亜鉛繊維間の電子伝導ネットワークが緊密になっていると、亜鉛繊維の集合体の全体で時間的に均一に反応が進むため、反応が進まないで取り残される亜鉛繊維がほとんど存在せず、結果として放電容量が大きくなる。また、電解液の拡散が妨げられると未反応の活物質が存在していても放電電圧が降下してしまい放電容量が小さくなるが、実施例の亜鉛繊維を負極活物質として用いればそのような事態は避けられる。
また比較例1が従来のアルカリ乾電池とほぼ同等の乾電池と考えられるが、実施例1〜10の乾電池は比較例1と同じ製法、同じ工程・製造装置で作製することができ、従来の製造ラインをそのまま使用できるため製造コストが増加することを確実に抑制できる。
なお、比較例1では、亜鉛小塊の集合体において集合体全体で亜鉛小塊同士をあらゆる場所で接触させておくのが困難であるため、亜鉛小塊間の電子伝導性が悪く、孤立した亜鉛小塊が多く存在し、それらは反応が遅れてしまう。
<実施例11〜17>
図4に示すように、実施例11乃至17は、図2のNo.30乃至36の短繊維形状の亜鉛をそれぞれ負極活物質として用い、それ以外は実施例1と同様にして乾電池B1〜B7を作製したものである。これらの乾電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図4に示す通りである。
実施例11乃至17では、短繊維形状の亜鉛の横断面における短径/長径の値が0.1から1まで順に変化しているが、0.3が最も放電特性が良好である。横断面の短径/長径の値が0.15以上1以下であると放電特性がより良好であるので、より好ましい。ただし、横断面の短径/長径の値が0.1である実施例11の乾電池も比較例の乾電池に比べると、実用上放電特性に十分な向上が見られる。
<実施例18〜28>
図5に示すように、実施例18乃至28は、図2のNo.37乃至47の短繊維形状の亜鉛をそれぞれ負極活物質として用い、それ以外は実施例1と同様にして乾電池C1〜C11を作製したものである。これらの乾電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図5に示す通りである。
実施例18では、短繊維形状の亜鉛の結晶粒径が0.5μmとやや小さいので粒界から発生するガスの量が多くなり、比較例1〜19に比べた放電特性の向上度合いがそれほど高くはない。また実施例28は、短繊維形状の亜鉛の結晶粒径が60μmとやや大きいので亜鉛の反応性がやや抑えられ、比較例1〜19に比べた放電特性の向上度合いがそれほど高くはない。従って、短繊維形状の亜鉛の結晶粒径は1μm以上50μm以下が好ましい。ただし、実施例18および実施例28の乾電池も比較例に乾電池の比べると、実用上放電特性に十分な向上が見られる。
<実施例29〜36>
図6に示すように、実施例29乃至36は、図2のNo.40の短繊維形状の亜鉛を負極活物質として用い、さらにNo.1のいも状の亜鉛小塊(粒状亜鉛)も負極活物質として加えて、それ以外は実施例1と同様にして乾電池D1〜D8を作製した。なお、短繊維形状の亜鉛の量を全負極活物質(亜鉛)に対して図6に示すように種々に変更している。これらの乾電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図6に示す通りである。
短繊維形状の亜鉛の混合割合が2質量%の電池D1は、比較例1乃至19よりはハイレートおよびローレートの放電特性の両方が良好であるが、電池D2から電池D7と比較すると両方の放電特性はやや低い。また、短繊維形状の亜鉛の混合割合が85質量%の電池D8は、比較例1乃至19よりはハイレートおよびローレートの放電特性の両方が良好であるが、電池D2から電池D7と比較すると両方の放電特性がやや低い。この結果から考えられるのは、全負極物質中に短繊維形状の亜鉛が2質量%よりも少ない量しか含有されていないと、負極物質間を繋ぐ短繊維形状の亜鉛が少なすぎて電子伝導ネットワークの構築量が少なく、放電特性の向上がそれほど大きくないということと、全負極物質中に短繊維形状の亜鉛が80質量%よりも多いと、電解液の拡散性の向上がさほど顕著ではなく、放電特性がそれほど大きくは向上しないことである。従って、全負極活物質中の短繊維形状の亜鉛の混合割合は2質量%以上80質量%以下がより好ましい。
<実施例37〜43>
図7に示すように、実施例37乃至43は、図2のNo.30,31,33,36の短繊維形状の亜鉛を負極活物質として用い、さらにNo.1のいも状の亜鉛小塊(粒状亜鉛)も負極活物質として加えて、それ以外は実施例1と同様にして乾電池E1〜E7を作製したものである。なお、全負極活物質(亜鉛)中における短繊維形状の亜鉛の量は4質量%とし、粒状亜鉛の大きさ(最大径)を0.25mm以下と0.25mm超の2種類とした。これらの乾電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図7に示す通りである。
電池E1と電池E4、電池E2と電池E5、電池E3と電池E6のそれぞれの比較を行うと、粒状亜鉛の最大径が0.25mmよりも大きいと放電特性は比較例1〜19よりは向上しているが、その向上度合いが粒状亜鉛の最大径が0.25mm以下の場合よりも小さい。これは粒状亜鉛の最大径が0.25mmよりも大きいと、電子伝導ネットワークを緊密に形成する働きと電解液の拡散の働きとが小さくなるからと考えられる。従って、混合する粒状亜鉛の最大径は0.25mm以下であることが好ましい。また電池E1〜E3と電池E7とを比べると、短繊維形状の亜鉛の横断面の短径/長径の値が0.15以上になると、0.1の場合に比べて放電特性が顕著に向上することがわかる。
<実施例44〜52>
図8に示すように、実施例44乃至52は、図2のNo.41の短繊維形状の亜鉛を負極活物質として用い、No.1のいも状の亜鉛小塊(粒状亜鉛、最大径が0.25mm以下)も負極活物質として加えて、さらに負極の充填度合いを調節して負極の密度を変更しながら、それ以外は実施例1と同様にして乾電池F1〜F9を作製したものである。なお、全負極活物質(亜鉛)中の短繊維形状の亜鉛の量は7質量%とした。これらの電池の放電条件(A)、(B)による評価結果は図8に示す通りである。
電池F1および電池F9は、比較例1〜19よりは放電特性が向上しているがその向上度合いが電池F2〜F8に比べて小さい。負極密度が2.3g/cm以上3.8g/cm以下であると、電子伝導ネットワークを緊密に形成する働きと電解液の拡散の働きとがより効果的に大きくなるものと考えられる。
以上説明したように、本発明に係る無水銀アルカリ乾電池は、負極の利用率が大きく放電特性が向上しており、長寿命な電池が必要な機器用等として有用である。

Claims (10)

  1. 正極と、負極と、セパレータと、を備え、
    前記負極は、負極活物質である短繊維形状の亜鉛と、分散媒であるゲル状アルカリ電解液とを含み、
    前記短繊維形状の亜鉛は、長さが1mm以上50mm以下であり、横断面の長径が2μm以上1mm以下であり、比表面積が50cm/g以上1000cm/g以下である、無水銀アルカリ乾電池。
  2. 前記負極には前記負極活物質同士を接着させる接着剤は含有されていない、請求項1に記載されている無水銀アルカリ乾電池。
  3. 前記接着剤はポリビニルアルコールである、請求項2に記載されている無水銀アルカリ乾電池。
  4. 前記横断面の長径と短径とが、0.1≦短径/長径≦1という関係を有する、請求項1から3のいずれか一つに記載されている無水銀アルカリ乾電池。
  5. 前記短繊維形状の亜鉛の結晶粒径が1μm以上50μm以下である、請求項1から4のいずれか一つに記載されている無水銀アルカリ乾電池。
  6. 前記負極活物質として最大径が500μm以下の亜鉛粒子も含まれており、前記短繊維形状の亜鉛の量は全負極活物質中の2質量%以上80質量%以下である、請求項1から5のいずれか一つに記載されている無水銀アルカリ乾電池。
  7. 前記横断面の長径と短径とが、0.15≦短径/長径≦1という関係を有し、前記亜鉛粒子の最大径が250μm以下である、請求項6に記載されている無水銀アルカリ乾電池。
  8. 負極の密度は、2.3g/cm以上3.8g/cm以下である、請求項1から7のいずれか一つに記載されている無水銀アルカリ乾電池。
  9. 前記短繊維形状の亜鉛には、Al、Bi、In、CaおよびMgからなる群から選ばれた少なくとも1種類の物質が添加されている、請求項1から8のいずれか一つに記載されている無水銀アルカリ乾電池。
  10. 前記短繊維形状の亜鉛および前記亜鉛粒子には、Al、Bi、In、CaおよびMgからなる群から選ばれた少なくとも1種類の物質が添加されている、請求項6または7に記載されている無水銀アルカリ乾電池。
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