JPWO2009148101A1 - 銅合金板材およびその製造方法 - Google Patents

銅合金板材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

NiとCoのいずれか1種または2種を合計で0.5〜5.0mass%、Siを0.3〜1.5mass%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる組成を有し、EBSD測定における結晶方位解析において、cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5〜50%である銅合金板材。

Description

本発明は電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどに適用される銅合金板材およびその製造方法に関する。
リードフレーム、コネクタ、端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどの電気・電子機器用途に使用される銅合金材料に要求される特性項目は、導電率、耐力(降伏応力)、引張強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性がある。近年、電気・電子機器の小型化、軽量化、高機能化、高密度実装化や、使用環境の高温化に伴って、この要求特性が高まっている。
従来、一般的に電気・電子機器用材料としては、鉄系材料の他、リン青銅、丹銅、黄銅等の銅系材料も広く用いられている。これらの合金はSnやZnの固溶強化と、圧延や線引きなどの冷間加工による加工硬化の組み合わせにより強度を向上させている。この方法では、導電率が不十分であり、また、高い冷間加工率を加えることによって高強度を得ているために、曲げ加工性や耐応力緩和特性が不十分である。
これに替わる強化法として材料中に微細な第二相を析出させる析出強化がある。この強化方法は強度が高くなることに加えて、導電率を同時に向上させるメリットがあるため、多くの合金系で行われている。その中で、Cu中にNiとSiの化合物を微細に析出させて強化させたCu−Ni−Si系合金(例えば、CDA[Copper Development Association]登録合金であるC70250)は、その強化する能力が高いメリットがあり、広く使用されている。また、更にNiの一部または全てをCoで置換したCu−Ni−Co−Si系やCu−Co−Si系合金は、Cu−Ni−Si系よりも導電率が高いメリットがあり、一部の用途で使用されている。しかし、昨今の電子機器や自動車に使用される部品の小型化に伴って、使用される銅合金は、より高強度な材料をより小さい半径で曲げ加工が施される様になっており、曲げ加工性に優れた銅合金板材が強く要求されている。従来のCu−Ni−Co−Si系において、高い強度を得るには、圧延加工率を高めて大きな加工硬化を得ていたが、この方法は先述した様に曲げ加工性を劣化させてしまい、高強度と良好な曲げ加工性を両立することができなかった。
この曲げ加工性向上の要求に対して、結晶方位の制御によって解決する提案がいくつかなされている。特許文献1では、Cu−Ni−Si系銅合金において、結晶粒径と、{311}、{220}、{200}面からのX線回折強度がある条件を満たす様な結晶方位の場合に、曲げ加工性が優れることが見出されている。また、特許文献2では、Cu−Ni−Si系銅合金において、{200}面および{220}面からのX線回折強度がある条件を満足する結晶方位の場合に、曲げ加工性が優れることが見出されている。また、特許文献3では、Cu−Ni−Si系銅合金において、cube方位{100}<001>の割合の制御によって曲げ加工性が優れることが見出されている。
特開2006−009137号公報 特開2008−013836号公報 特開2006−283059号公報
ところで、特許文献1または特許文献2に記載された発明においては、{200}、{220}、{311}などの限られた特定の結晶面の集積の解析は、広がりを持った結晶面の分布の中のごく一部の情報に過ぎない。しかも、板面方向の結晶面のみを測定しているに過ぎず、圧延方向や板幅方向にどの結晶面が向いているかについては開示されていない。よって、特許文献1または特許文献2に記載された発明の記載に基づいて、曲げ加工性に優れる集合組織を制御するには、不完全な場合があり、不十分である。また、特許文献3に記載された発明においては、結晶方位の制御は溶体化熱処理後の圧延加工率の低減によって実現している。
一方では、近年のますますの電気・電子機器の小型化、高機能化、高密度実装化等に伴い、電気・電子機器用の銅合金材料について、前述の各特許文献に記載された発明において想定されていた曲げ加工性よりも高い曲げ加工性が要求されてきている。
上記のような点に鑑み、本発明の課題は、曲げ加工性に優れ、優れた強度を有し、電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、自動車車載用などのコネクタや端子材、リレー、スイッチなどに適した銅合金板材を提供することにある。
本発明者らは、電気・電子部品用途に適した銅合金について研究を行い、Cu−Ni−Si系やCu−Ni−Co−Si系やCu−Co−Si系の銅合金において、曲げ加工性、強度、導電性、応力緩和特性を大きく向上させるために、cube方位集積割合、及び、更にS方位の割合と曲げ加工性について相関があることを発見し、鋭意検討の末に本発明に至った。また、それに加えて、本合金系において導電率や曲げ加工性を損なうことなく、強度や応力緩和特性を向上させる働きのある添加元素について発明を行った。また、上記の様な結晶方位を実現するための製造方法を発明した。
本発明によれば、以下の手段が提供される:
(1)NiとCoのいずれか1種または2種を合計で0.5〜5.0mass%、Siを0.3〜1.5mass%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる組成を有し、EBSD測定における結晶方位解析において、cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5〜50%であることを特徴とする銅合金板材、
(2)NiとCoのいずれか1種または2種を合計で0.5〜5.0mass%、Siを0.3〜1.5mass%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる組成を有し、EBSD測定における結晶方位解析において、cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5〜50%であり、S方位{3 2 1}<3 4 6>の面積率が5〜40%であることを特徴とする銅合金板材、
(3)前記銅合金が、Sn、Zn、Ag、Mn、B、P、Mg、Cr、Fe、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.005〜1.0mass%含有することを特徴とする(1)または(2)項に記載の銅合金板材、
(4)cube方位{0 0 1}<1 0 0>の結晶粒の平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の銅合金板材、
(5)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であって、前記銅合金板材の原料となる銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、水冷[工程4]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6]、熱処理[工程7]、冷間圧延[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、冷間圧延[工程10]、時効析出熱処理[工程11]、仕上げ冷間圧延[工程12]および調質焼鈍[工程13]の処理をこの順に施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とすることを特徴とする銅合金板材の製造方法、
(6)前記時効析出熱処理[工程11]を最終工程とし、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)を5〜65%とすることを特徴とする、前記(5)に記載の銅合金板材の製造方法、
(7)前記中間溶体化熱処理[工程9]の次工程として前記時効析出熱処理[工程11]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)を5〜65%とすることを特徴とする、前記(5)に記載の銅合金板材の製造方法、
(8)前記熱間加工[工程3]の次工程として前記面削[工程5]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とする、前記(5)に記載の銅合金板材の製造方法、および
(9)前記鋳造[工程1]の次工程として前記熱間加工[工程3]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とすることを特徴とする、前記(5)に記載の銅合金板材の製造方法、
を提供するものである。
本発明により、強度、曲げ加工性、導電率、耐応力緩和特性の各特性に優れ、電気・電子機器の用途に好適な銅合金板材を提供することができる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
図1は応力緩和特性の試験方法の説明図であり、図1(a)は熱処理前、図1(b)は熱処理後の状態をそれぞれ示す。 図2はJCBA T309:2001(仮)に基づく応力緩和試験方法の説明図である。
1 初期応力を付与した時の試験片
2 負荷を除いた後の試験片
3 応力を負荷しなかった場合の試験片
4 試験台
11 試験片(除荷時)
12 試験ジグ
13 基準面
14 たわみ負荷用ボルト
15 試験片(たわみ負荷時)
本発明の銅合金板材の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。なお、本発明における「板材」には、「条材」も含むものとする。
本発明において、銅(Cu)に添加するニッケル(Ni)とコバルト(Co)とケイ素(Si)について、それぞれの添加量を制御することにより、Ni−Si、Co−Si、Ni−Co−Siの化合物を析出させて銅合金の強度を向上させることができる。本発明おける銅合金はNiとCoを合計で0.5〜5.0mass%、好ましくは1.0〜4.0mass%、さらに好ましくは1.5〜3.5mass%を含有する。NiとCoはいずれか一方のみを含有させても良いし、NiとCoの両方を含有させるものであってもよい。Niの含有量は好ましくは0.5〜4.0mass%、さらに好ましくは1.0〜4.0mass%であり、Coの含有量は好ましくは0.5〜2.0mass%、さらに好ましくは0.6〜1.7mass%である。また、本発明における銅合金は、Siを0.3〜1.5mass%、好ましくは0.4〜1.2mass%、さらに好ましくは0.5〜1.0mass%を含有する。Ni、Co、Siの添加量が多すぎると導電率を低下させ、また、少なすぎると強度が不足する。
銅合金板材の曲げ加工性を改善するために、本発明者らは曲げ加工部に発生するクラックの発生原因について調査した。その結果、塑性変形が局所的に発達して剪断変形帯を形成し、局所的な加工硬化によってマイクロボイドの生成と連結が起こり、成形限界に達することが原因であることを確認した。その対策として、曲げ変形において加工硬化が起きにくい結晶方位の割合を高めることが有効であることを知見した。即ち、cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5%〜50%の場合に、良好な曲げ加工性を示すことを発明した。cube方位の面積率が5%よりも少ない場合は、その効果が不十分である。また、50%よりも高めようとすると、再結晶処理の後の冷間圧延加工を低加工率で行わなければならず、強度が著しく低下してしまうため、好ましくない。また、50%よりも高い場合は応力緩和特性も低下させるため、好ましくない。好ましい範囲は7〜47%、更に好ましくは、10〜45%である。
なお、本明細書における結晶方位の表示方法は、材料の圧延方向(RD)をX軸、板幅方向(TD)をY軸、圧延法線方向(ND)をZ軸の直角座標系を取り、材料中の各領域がZ軸に垂直な(圧延面に平行な)結晶面の指数(h k l)と、X軸に平行な結晶方向の指数[u v w]とを用いて、(h k l)[u v w]の形で示す。また、(1 3 2)[6 −4 3]と(2 3 1)[3 −4 6]などのように、銅合金の立方晶の対称性のもとで等価な方位については、ファミリーを表すカッコ記号を使用し、{h k l}<u v w>と示す。cube方位は{0 0 1}<1 0 0>、S方位は{3 2 1}<3 4 6>の指数でそれぞれ示される。
また、上記範囲のcube方位に加えて、S方位{3 2 1}<3 4 6>が5〜40%の範囲で存在することが、曲げ加工性の改善に有効であることから好ましい。S方位{3 2 1}<3 4 6>の面積率は、さらに好ましくは7%〜37%、より好ましくは10%〜35%である。cube方位とS方位の他に、Copper方位{1 2 1}<1 −1 1>、D方位{4 11 4}<11 −8 11>、Brass方位{1 1 0}<1 −1 2>、Goss方位{1 1 0}<0 0 1>、R1方位{2 3 6}<3 8 5>などが発生するが、cube方位が5〜50%、S方位が5〜40%の面積率で存在していれば、これらの方位成分を含んでいることは許容される。
本発明における上記結晶方位の解析には、EBSD法を用いた。EBSD法とは、Electron Back−Scatter Diffraction(電子後方散乱解析)の略で、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。結晶粒を200個以上含む、0.1ミクロン四方の試料面積に対し、0.5ミクロンなどのステップでスキャンし、方位を解析した。測定面積およびスキャンステップは試料の結晶粒の大きさによって調整した。各方位の面積率は、cube方位{0 0 1}<1 0 0>やS方位{3 2 1}<3 4 6>の理想方位から±10°以内の面積の全測定面積に対する割合である。EBSDによる方位解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの方位情報を含んでいるが、測定している広さに対して充分に小さいため、本明細書中では面積率として記載した。また、測定は板の表層部分から行った。
結晶方位の解析に、EBSD測定を用いることにより、従来のX線回折法による板面方向に対する特定原子面の集積の測定とは大きく異なり、三次元方向の完全な結晶方位情報が高い分解能で得られるため、曲げ加工性を支配する結晶方位について全く新しい情報が得られる。
次に本合金への副添加元素の効果について示す。好ましい副添加元素としては、Sn、Zn、Ag、Mn、B、P、Mg、Cr、Fe、Ti、ZrおよびHfが挙げられる。これらの元素は総量で1mass%を超えると導電率を低下させる弊害を生じるために好ましくない。副添加元素を添加する場合には、添加効果を充分に活用し、かつ導電率を低下させないためには、副添加元素は総量で、0.005〜1.0mass%であることが必要で、好ましくは0.01mass%〜0.9mass%、さらに好ましくは、0.03mass%〜0.8mass%である。以下に、各元素の添加効果を示す。
Mg、Sn、Znは、Cu−Ni−Si系、Cu−Ni−Co−Si系、Cu−Co−Si系銅合金に添加することで耐応力緩和特性を向上する。それぞれを添加した場合よりも併せて添加した場合に相乗効果によって更に耐応力緩和特性が向上する。また、半田脆化が著しく改善する効果がある。
Mn、Ag、B、Pは添加すると熱間加工性を向上させるとともに、強度を向上する。
Cr、Fe、Ti、Zr、Hfは、主な添加元素であるNiやCoやSiとの化合物や単体で微細に析出し、析出硬化に寄与する。また、化合物として50〜500nmの大きさで析出し、粒成長を抑制することによって結晶粒径を微細にする効果があり、曲げ加工性を良好にする。
また、cube方位の結晶粒の平均結晶粒径は好ましくは20μm以下に、さらに好ましくは、17μm以下、より好ましくは15〜3μmである。cube方位の結晶粒の平均結晶粒径を上記の範囲に制御することによって、曲げ部表面に発生するシワを低減する効果があり、更に優れた曲げ加工性を実現する。本発明におけるcube方位の結晶粒の平均結晶粒径は、上記のEBSD法による方位解析においてcube方位を示す領域のみを抽出して結晶粒径を測定し、平均として算出した値である。なお、この場合、cube方位に隣接するcube方位の双晶方位である{2 2 1}<2 1 2>方位はcube方位に含めて解析を行った値である。
次に、本発明の銅合金板材の好ましい製造条件について説明する。従来の析出型銅合金の製造方法の一例は、銅合金素材を鋳造[工程1]して鋳塊を得て、これを均質化熱処理[工程2]し、熱間圧延等の熱間加工[工程3]、水冷[工程4]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6]をこの順に行い薄板化し、温度700〜1020℃の温度範囲で中間溶体化熱処理[工程9]を行って溶質原子を再固溶させた後に、時効析出熱処理[工程11]と仕上げ冷間圧延[工程12]によって必要な強度を満足させるものである。この一連の工程の中で、材料の集合組織は、中間溶体化熱処理中に起きる再結晶によっておおよそが決定し、仕上げ圧延中に起きる方位の回転により、最終的に決定される。
本発明の銅合金板材の製造方法の好ましい実施態様においては、この中間溶体化熱処理[工程9]の前に、温度400℃〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行う熱処理[工程7]と、更に、50%以下の加工率の冷間圧延[工程8]を加えることによって、中間溶体化熱処理[工程9]での再結晶集合組織においてcube方位の面積率が増加する。ここで、熱処理[工程7]は中間溶体化熱処理[工程9]と比較して低温で行うものである。ここで、熱処理[工程7]および中間溶体化熱処理[工程9]においては、低温の場合は長時間、高温の場合は短時間の熱処理を行うことが好ましい。
熱処理[工程7]時の処理温度が400℃より低い場合は再結晶しなくなる傾向が強まるため好ましくなく、処理温度が800℃より高い場合は結晶粒径が粗大化する傾向が強まるため好ましくない。このため、熱処理[工程7]の処理温度は450〜750℃が好ましく、500〜700℃がさらに好ましい。また、熱処理[工程7]の処理時間は1分間〜10時間が好ましく、30分間〜4時間がさらに好ましい。熱処理[工程7]の温度と時間との関係では、450〜750℃の場合の処理時間は1分間〜10時間(低温の場合は長時間、高温の場合は短時間)が好ましく、処理温度が500〜700℃の場合の処理時間は30分間〜4時間(低温の場合は長時間、高温の場合は短時間)が好ましい。冷間圧延[工程8]の加工率は45%以下が好ましく、5〜40%がさらに好ましい。また、中間溶体化熱処理[工程9]の処理温度は750〜1020℃、処理時間は5秒〜1時間が好ましい。
また、中間溶体化熱処理[工程9]後には、冷間圧延[工程10]、時効析出熱処理[工程11]、仕上げ冷間圧延[工程12]及び、調質焼鈍[工程13]を施す。ここで、冷間圧延[工程10]と仕上げ冷間圧延[工程12]のそれぞれの加工率R1とR2の合計を5〜65%で行うことが好ましい。5%以下の加工率では加工硬化量が少なく、強度が不十分であり、65%以上の加工率では、中間溶体化熱処理で生成したcube方位領域が、圧延によって、Copper方位、D方位、S方位、Brass方位などの他の方位へ回転してしまい、cube方位の面積率が低下してしまうため、好ましくない。更に好ましくは、加工率R1とR2の合計は、10〜50%である。なお、加工率R1とR2の算出は下記の通り行った。
R1(%)=(t[9]−t[10])/t[9]*100
R2(%)=(t[10]−t[12])/t[10]*100
ここで、t[9]、t[10]、t[12]はそれぞれ、中間溶体化熱処理[工程9]後、冷間圧延[工程10]後、仕上げ冷間圧延[工程12]後の板厚である。
また、上記で言及した以外の部分については、従来の製造方法における工程と同様に行うことができる。
本発明の銅合金板材は上記の実施態様の製造方法により製造することが好ましいが、EBSD測定における結晶方位解析において、cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5〜50%である銅合金板材が得られるならば、上記[工程1]〜[工程13]をこの順にすべて行うことに必ずしも拘束されるものではなく、上記の方法に含まれるものではあるが、上記[工程1]〜[工程13]のうち、例えば、以下のような組み合わせの方法により製造されるものであってもよい。
a.銅合金板材の原料となる銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、水冷[工程4]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6]、熱処理[工程7]、冷間圧延[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、冷間圧延[工程10]および時効析出熱処理[工程11]の処理をこの順に施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)を5〜65%とする方法。この方法は、強度に対する要求が極度に厳しくない場合に適用されうる。
b.銅合金板材の原料となる銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、水冷[工程4]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6]、熱処理[工程7]、冷間圧延[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、時効析出熱処理[工程11]、仕上げ冷間圧延[工程12]および調質焼鈍[工程13]の処理をこの順に施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)を5〜65%とする方法。この方法は、上記a.の方法と同様、強度に対する要求が極度に厳しくない場合に適用されうる。
c.銅合金板材の原料となる銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6]、熱処理[工程7]、冷間圧延[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、冷間圧延[工程10]、時効析出熱処理[工程11]、仕上げ冷間圧延[工程12]および調質焼鈍[工程13]の処理をこの順に施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とする方法。この方法は、熱間加工[工程3]の終了時の温度が、水冷[工程4]を要しない温度(例えば550℃以下)である場合に適用されうる。
d.銅合金板材の原料となる銅合金素材に、鋳造[工程1]、熱間加工[工程3]、水冷[工程4]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6]、熱処理[工程7]、冷間圧延[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、冷間圧延[工程10]、時効析出熱処理[工程11]、仕上げ冷間圧延[工程12]および調質焼鈍[工程13]の処理をこの順に施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とする方法。この方法は、鋳造[工程1]における偏析状況が軽微な場合、または偏析状況が銅合金材料およびこれを加工した電気電子部品に影響を及ぼさない場合に適用されうる。
本発明の銅合金板材は、上記内容を満たすことで、たとえばコネクタ用銅合金板材に要求される特性を満足することができる。特に0.2%耐力が600MPa以上、曲げ加工性が90°W曲げ試験においてクラックなく曲げ加工が可能な最小曲げ半径を板厚で割った値が1以下、導電率が35%IACS以上、耐応力緩和特性が30%以下の良好な特性を、本発明により実現することができる。
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
(実施例1)
表1および2の合金成分の欄の組成に示すように、少なくともNiとCoの中から1種または2種を合計で0.5〜5.0mass%、Siを0.3〜1.5mass%含有し、他の添加元素については適宜含有するように元素を配合し、残部がCuと不可避不純物から成る合金を高周波溶解炉により溶解し、これを0.1〜100℃/秒の冷却速度で鋳造[工程1]して鋳塊を得た。これを温度900〜1020℃で3分から10時間の均質化熱処理[工程2]後、熱間加工[工程3](本実施例においては開始温度が900℃)を行った後に水焼き入れ(水冷[工程4]に相当)を行い、酸化スケール除去のために面削[工程5]を行った。その後に、加工率80%から99.8%の冷間圧延[工程6]、温度400℃〜800℃で5秒から20時間の範囲の熱処理[工程7]、加工率が2%〜50%の冷間圧延[工程8]、温度750℃〜1020℃で5秒〜1時間の中間溶体化熱処理[工程9]、加工率が3%〜35%の冷間圧延[工程10]、温度400℃〜700℃で5分〜10時間の時効析出熱処理[工程11]、加工率が3%〜25%の仕上げ冷間圧延[工程12]、温度200℃〜600℃で5秒〜10時間の調質焼鈍[工程13]を行って、実施例1−1〜1−19および比較例1−1〜1−8の供試材を作成した。各熱処理や圧延の後に、材料表面の酸化や粗度の状態に応じて酸洗浄や表面研磨を、形状に応じてテンションレベラーによる矯正を行った。
均質化熱処理[工程2]の適正な温度と時間は、合金の濃度及び鋳造時の冷却速度によって異なる。このため、鋳塊のミクロ組織において、溶質元素の偏析によって見られる枝状の組織が、均質化熱処理後にほぼ消失する温度と時間を採用した。
熱間加工[工程3]は、均質化熱処理後の材料について、通常の塑性加工(圧延、押し出し、引き抜きなど)によって行った。熱間加工開始時の温度は、材料の割れが発生しないように、600〜1000℃の範囲とする。
また、均質化熱処理[工程2]、熱処理[工程7]、中間溶体化熱処理[工程9]、時効析出熱処理[工程11]、調質焼鈍[工程13]の各工程においては、低温の場合は長時間、高温の場合は短時間の熱処理を行うことが好ましい。低温で短時間の熱処理ではその効果が現れにくい傾向があり、高温で長時間の熱処理では著しい強度低下の弊害が発生する傾向がある。
なお、下表中の比較例1−5、1−6は上記工程内の熱処理[工程7]と冷間圧延[工程8]を行わずに製造した。比較例1−7、1−8は、上記工程内の冷間圧延[工程10]を行わず、仕上げ圧延[工程12]の加工率を3%で行った。
この供試材について下記の特性調査を行った。ここで、供試材の厚さは0.15mmとした。結果を本発明例については表1に、比較例については表2にそれぞれ示す。
a.cube方位とS方位の面積率:
EBSD法により、測定面積が0.04〜4mm、スキャンステップが0.5〜1μmの条件で測定を行った。測定面積は結晶粒を200個以上含むことを基準として調整した。スキャンステップは結晶粒径に応じて調整し、平均結晶粒径が15μm以下の場合は0.5μmステップで、30μm以下の場合は1μmステップで行った。電子線は走査電子顕微鏡のWフィラメントからの熱電子を発生源とした。
b.曲げ加工性:
圧延方向に垂直に幅10mm、長さ35mmに切出し、これに曲げの軸が圧延方向に直角になるようにW曲げしたものをGW(Good Way)、圧延方向に平行になるようにW曲げしたものをBW(Bad Way)とし、曲げ部を50倍の光学顕微鏡で観察し、クラックの有無を調査した。クラックのないものを○、クラックのあるものを×と判定した。各曲げ部の曲げ角度は90°、各曲げ部の内側半径は0.15mmとした。
c.0.2%耐力 [YS]:
圧延平行方向から切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241に準じて3本測定しその平均値を示した。
d:導電率 [EC]:
20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
e.応力緩和率 [SR]
旧日本電子材料工業会標準規格(EMAS−3003)に準じ、以下に示すように、150℃×1000時間の条件で測定した。片持ち梁法により耐力の80%の初期応力を負荷した。
図1は応力緩和特性の試験方法の説明図であり、図1(a)は熱処理前、図1(b)は熱処理後の状態である。図1(a)に示すように、試験台4に片持ちで保持した試験片1に、耐力の80%の初期応力を付与した時の試験片1の位置は、基準からδの距離である。これを150℃の恒温槽に1000時間保持し、負荷を除いた後の試験片2の位置は、図1(b)に示すように基準からHの距離である。3は応力を負荷しなかった場合の試験片であり、その位置は基準からHの距離である。この関係から、応力緩和率(%)は(H−H)/δ×100と算出した。
なお、同様の試験方法として以下の方法も適用可能である;日本伸銅協会(JCBA:Japan Copper and Brass Association)の技術標準案である「JCBA T309:2001(仮);銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験方法」;米国材料試験協会(ASTM;American Society for Testing and Materials)の試験方法である「ASTM E328;Standard Test Methods for Stress Relaxation Tests for Materials and Structures」;など。
図2は、上述のJCBA T309:2001(仮)に基づく、下方たわみ式片持ちねじ式のたわみ変位負荷用試験ジグを用いた応力緩和試験方法の説明図である。この試験方法の原理は、図1の試験台を用いた試験方法と同様のため、応力緩和率の値もほぼ同様の値となる。
この試験方法では、まず、試験片11を試験ジグ(試験装置)12に取り付け、所定の変位を室温で与え、30秒間保持後除荷し、試験ジグ12の底面を基準面13とし、この面13と試験片11たわみ負荷点との距離をHとして測定する。所定の時間が経過したら恒温槽又は加熱炉から試験ジグ12を常温に取り出し、たわみ負荷用ボルト14をゆるめ除荷する。試験片11を常温まで冷却後、基準面13と試験片11のたわみ負荷点との距離Hを測定する。測定後、再びたわみ変位を与える。なお、図中、11は除荷時の試験片を表し、15はたわみ負荷時の試験片を表す。永久たわみ変位δを次の式によって求める。
δ=H−H
この関係から、応力緩和率(%)はδ/δ×100と算出した。
なお、δは所定の応力を得るのに必要な試験片の初期たわみ変位で、次の式で算出する。
δ=σl /1.5Eh
ここで、σ:試験片の表面最大応力(N/mm);h:板厚(mm)、E:たわみ係数(N/mm)、l:スパン長さ(mm)である。
f.cube方位の結晶粒の平均結晶粒径 [cube粒のGS]:
EBSDによる方位解析においてcube方位から±10°以内の方位領域を抽出し、20個以上の結晶粒径を測定して、平均を算出した。なお、この場合、cube方位の結晶粒の内部および、隣接する{2 2 1}<2 1 2>方位はcube方位の双晶方位であり、cube方位に含めて解析した。
Figure 2009148101
Figure 2009148101
表1に示すように、本発明例1−1〜本発明例1−19は、曲げ加工性、耐力、導電率、耐応力緩和特性に優れた。しかし、表2に示すように、本発明の規定を満たさない場合は、特性が劣る結果となった。すなわち、比較例1−1は、NiとCoの総量が少ないために、析出硬化に寄与する析出物の密度が低下し強度が優れなかった。また、NiまたはCoと化合物を形成しないSiが金属組織中に過剰に固溶し導電率が優れなかった。比較例1−2は、NiとCoの総量が多いために、導電率が劣った。比較例1−3は、Siが少ないために強度が劣った。比較例1−4は、Siが多いために導電率が劣った。比較例1−5と1−6は、cube方位の割合が少ないために曲げ加工性が劣った。比較例1−7と1−8は、cube方位の割合を高めるために再結晶後の圧延加工率が低く、その結果強度が劣った。
(実施例2)
表3の合金成分の欄に示す組成で、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金について、実施例1と同様にして、本発明例2−1〜2−17および比較例2−1〜2−3の銅合金板材の供試材を製造し、実施例1と同様に特性を調査した。結果を表3に示す。
Figure 2009148101
表3に示すように、本発明例2−1〜本発明例2−17は、曲げ加工性、耐力、導電率、耐応力緩和特性に優れた。しかし、本発明の規定を満たさない場合は、特性が優れなかった。すなわち、比較例2−1、2−2、2−3は、その他の元素の添加量が多いために、導電率が劣った。
(実施例3)
表3の本発明例2−11と同じ組成の銅合金について、熱処理[工程7]の温度と時間、冷間圧延[工程8]の加工率、冷間圧延[工程10]と仕上げ冷間圧延[工程12]のそれぞれの加工率R1とR2を、表4に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、本発明例3−1〜3−12および比較例3−1〜3−10の銅合金板材の供試材を製造し、実施例1と同様に特性を調査した。結果を表4に示す。なお、表4において、「[工程8]」等は単に「[8]」と、「仕上げ冷間圧延[工程12]」は「冷間圧延[12]」と表記している。
Figure 2009148101
表4に示す様に、本発明例3−1から本発明例3−12は曲げ加工性、耐力、導電率、耐応力緩和特性に優れた。しかし、本発明の規定を満たさない場合は、特性が優れなかった。すなわち、比較例3−1は熱処理[工程7]の温度が低すぎたために、比較例3−2は熱処理[工程7]の温度が高温すぎたために、比較例3−3は熱処理[工程7]を行わなかったために、比較例3−4は熱処理[工程7]の時間が長すぎたために、それぞれcube方位の面積率が低下し、曲げ加工性が劣った。比較例3−5は冷間圧延[工程8]を行わなかったために、比較例3−6は冷間圧延[工程8]の加工率が高すぎたために、それぞれcube方位の面積率が低下し、曲げ加工性が劣った。比較例3−7と3−8は加工率R1とR2の合計が低いために、強度が劣った。比較例3−9と3−10は加工率R1とR2の合計が高いために、cube方位の面積率が低下し、曲げ加工性が劣った。
(実施例4)
表3の本発明例2−13と同じ組成の銅合金について、最終工程を時効析出熱処理[工程11]としたときの例を示す。熱処理[工程7]の温度と時間、冷間圧延[工程8]の加工率、冷間圧延[工程10]の加工率R1を、表5に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、本発明例4−1〜4−2の銅合金板材の供試材を製造し、実施例1と同様に特性を調査した。結果を表5に示す。なお、表5において、「[工程8]」等は単に「[8]」と、「仕上げ冷間圧延[工程12]」は「冷間圧延[12]」と表記している。
(実施例5)
表3の本発明例2−13と同じ組成の銅合金について、中間溶体化熱処理[工程9]の次工程として時効析出熱処理[工程11]を施したときの例を示す。熱処理[工程7]の温度と時間、冷間圧延[工程8]の加工率、仕上げ冷間圧延[工程12]の加工率R2を、表5に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、本発明例5−1〜5−2の銅合金板材の供試材を製造し、実施例1と同様に特性を調査した。結果を表5に示す。
(実施例6)
表3の本発明例2−11と同じ組成の銅合金について、熱間加工[工程3]の次工程として面削[工程5]を施したときの例を示す。熱処理[工程7]の温度と時間、冷間圧延[工程8]の加工率、冷間圧延[工程10]と仕上げ冷間圧延[工程12]のそれぞれの加工率R1とR2を、表5に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、本発明例6−1〜6−2の銅合金板材の供試材を製造し、実施例1と同様に特性を調査した。結果を表5に示す。なお、実施例6において、熱間加工[工程3]の終了時の温度は、ともに500℃とした。
(実施例7)
表3の本発明例2−11と同じ組成の銅合金について、鋳造[工程1]の次工程として熱間加工[工程3]を施したときの例を示す。熱処理[工程7]の温度と時間、冷間圧延[工程8]の加工率、冷間圧延[工程10]と仕上げ冷間圧延[工程12]のそれぞれの加工率R1とR2を、表5に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、本発明例7−1〜7−2の銅合金板材の供試材を製造し、実施例1と同様に特性を調査した。結果を表5に示す。なお、実施例7において、鋳造[工程1]後の鋳塊の偏析状況を確認し、偏析が軽微なサンプルを用いた。また、熱間加工[工程3]の開始時の温度は、実施例1と同様に900℃とし、鋳塊を加熱して900℃となった直後に熱間加工を開始した。
Figure 2009148101
表5に示す様に、本発明例4−1、本発明例4−2、本発明例5−1、本発明例5−2は、本発明例2−13と比較して耐力が低くなる傾向が見られたが、電気電子部品用の銅合金板材として十分な特性を有するものとなった。また、本発明例6−1、本発明例6−2、本発明例7−1、本発明例7−2は、本発明例2−11と比較して実質的に同等の特性が得られた。
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
本願は、2008年6月3日に日本国で特許出願された特願2008-145707に基づく優先権を主張するものであり、これらはいずれもここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
本発明によれば、以下の手段が提供される:
(1)NiとCoのいずれか1種または2種を合計で0.5〜5.0mass%、Siを0.3〜1.5mass%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる組成を有し、0.2%耐力が600MPa以上であり、導電率が35%IACS以上であり、板厚と同じ内側曲げ半径で、圧延方向に対して平行及び垂直な方向に90°W曲げを行った場合に、割れが生じず、耐力の80%の応力を付加して150℃に1000時間保持した後の応力緩和率が30%以内であり、EBSD測定における結晶方位解析において、cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が7〜47%であることを特徴とする銅合金板材、
(2)Coを0.5〜2.0mass%含有することを特徴とする前記(1)に記載の銅合金板材、
さらに、S方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率が5〜40%であることを特徴とする前記(1)項または(2)項に記載の銅合金板材、
)前記銅合金が、さらに、Sn、Zn、Ag、Mn、B、P、Mg、Cr、Fe、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.005〜1.0mass%含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の銅合金板材、
)cube方位{0 0 1}<1 0 0>の結晶粒の平均結晶粒径が17μm以下であることを特徴とする、前記(1)〜()のいずれか1項に記載の銅合金板材、
(6)前記銅合金が、Coを0.6〜1.7mass%含有することを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の銅合金板材、
)前記(1)〜()のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であって、前記銅合金板材の原料となる銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、水冷[工程4]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6]、熱処理[工程7]、冷間圧延[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、冷間圧延[工程10]、時効析出熱処理[工程11]、仕上げ冷間圧延[工程12]および調質焼鈍[工程13]の処理をこの順に施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とすることを特徴とする銅合金板材の製造方法、
)前記時効析出熱処理[工程11]を最終工程とし、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)を5〜65%とすることを特徴とする、前記()に記載の銅合金板材の製造方法、
)前記中間溶体化熱処理[工程9]の次工程として前記時効析出熱処理[工程11]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)を5〜65%とすることを特徴とする、前記()に記載の銅合金板材の製造方法、
(10)前記熱間加工[工程3]の次工程として前記面削[工程5]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とする、前記()に記載の銅合金板材の製造方法、および
(11)前記鋳造[工程1]の次工程として前記熱間加工[工程3]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とすることを特徴とする、前記()に記載の銅合金板材の製造方法、
を提供するものである。
なお、本明細書における結晶方位の表示方法は、材料の圧延方向(RD)をX軸、板幅方向(TD)をY軸、圧延法線方向(ND)をZ軸の直角座標系を取り、材料中の各領域がZ軸に垂直な(圧延面に平行な)結晶面の指数(h k l)と、X軸に平行な結晶方向の指数[u v w]とを用いて、(h k l)[u v w]の形で示す。また、(1 3 2)[6 −4 3]と(2 3 1)[3 −4 6]などのように、銅合金の立方晶の対称性のもとで等価な方位については、ファミリーを表すカッコ記号を使用し、{h k l}<u v w>と示す。cube方位は{0 0 1}<1 0 0>、S方位は{2 3 1}<3 4 6>の指数でそれぞれ示される。
また、上記範囲のcube方位に加えて、S方位{2 3 1}<3 4 6>が5〜40%の範囲で存在することが、曲げ加工性の改善に有効であることから好ましい。S方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率は、さらに好ましくは7%〜37%、より好ましくは10%〜35%である。cube方位とS方位の他に、Copper方位{1 2 1}<1 −1 1>、D方位{4 11 4}<11 −8 11>、Brass方位{1 1 0}<1 −1 2>、Goss方位{1 1 0}<0 0 1>、R1方位{2 3 6}<3 8 5>などが発生するが、cube方位が5〜50%、S方位が5〜40%の面積率で存在していれば、これらの方位成分を含んでいることは許容される。
本発明における上記結晶方位の解析には、EBSD法を用いた。EBSD法とは、Electron Back−Scatter Diffraction(電子後方散乱解析)の略で、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。結晶粒を200個以上含む、0.1ミクロン四方の試料面積に対し、0.5ミクロンなどのステップでスキャンし、方位を解析した。測定面積およびスキャンステップは試料の結晶粒の大きさによって調整した。各方位の面積率は、cube方位{0 0 1}<1 0 0>やS方位{2 3 1}<3 4 6>の理想方位から±10°以内の面積の全測定面積に対する割合である。EBSDによる方位解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの方位情報を含んでいるが、測定している広さに対して充分に小さいため、本明細書中では面積率として記載した。また、測定は板の表層部分から行った。
結晶方位の解析に、EBSD測定を用いることにより、従来のX線回折法による板面方向に対する特定原子面の集積の測定とは大きく異なり、三次元方向の完全な結晶方位情報が高い分解能で得られるため、曲げ加工性を支配する結晶方位について全く新しい情報が得られる。
Figure 2009148101
表1に示すように、本発明例1−1〜本発明例1−1は、曲げ加工性、耐力、導電率、耐応力緩和特性に優れた。しかし、表2に示すように、本発明の規定を満たさない場合は、特性が劣る結果となった。すなわち、比較例1−1は、NiとCoの総量が少ないために、析出硬化に寄与する析出物の密度が低下し強度が優れなかった。また、NiまたはCoと化合物を形成しないSiが金属組織中に過剰に固溶し導電率が優れなかった。比較例1−2は、NiとCoの総量が多いために、導電率が劣った。比較例1−3は、Siが少ないために強度が劣った。比較例1−4は、Siが多いために導電率が劣った。比較例1−5と1−6は、cube方位の割合が少ないために曲げ加工性が劣った。比較例1−7と1−8は、cube方位の割合を高めるために再結晶後の圧延加工率が低く、その結果強度が劣った。
Figure 2009148101
表4に示す様に、本発明例3−1から本発明例3−1は曲げ加工性、耐力、導電率、耐応力緩和特性に優れた。しかし、本発明の規定を満たさない場合は、特性が優れなかった。すなわち、比較例3−1は熱処理[工程7]の温度が低すぎたために、比較例3−2は熱処理[工程7]の温度が高温すぎたために、比較例3−3は熱処理[工程7]を行わなかったために、比較例3−4は熱処理[工程7]の時間が長すぎたために、それぞれcube方位の面積率が低下し、曲げ加工性が劣った。比較例3−5は冷間圧延[工程8]を行わなかったために、比較例3−6は冷間圧延[工程8]の加工率が高すぎたために、それぞれcube方位の面積率が低下し、曲げ加工性が劣った。比較例3−7と3−8は加工率R1とR2の合計が低いために、強度が劣った。比較例3−9と3−10は加工率R1とR2の合計が高いために、cube方位の面積率が低下し、曲げ加工性が劣った。

Claims (9)

  1. NiとCoのいずれか1種または2種を合計で0.5〜5.0mass%、Siを0.3〜1.5mass%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる組成を有し、EBSD測定における結晶方位解析において、cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5〜50%であることを特徴とする銅合金板材。
  2. NiとCoのいずれか1種または2種を合計で0.5〜5.0mass%、Siを0.3〜1.5mass%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる組成を有し、EBSD測定における結晶方位解析において、cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5〜50%であり、S方位{3 2 1}<3 4 6>の面積率が5〜40%であることを特徴とする銅合金板材。
  3. 前記銅合金が、Sn、Zn、Ag、Mn、B、P、Mg、Cr、Fe、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.005〜1.0mass%含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の銅合金板材。
  4. cube方位{0 0 1}<1 0 0>の結晶粒の平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の銅合金板材。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であって、前記銅合金板材の原料となる銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、水冷[工程4]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6]、熱処理[工程7]、冷間圧延[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、冷間圧延[工程10]、時効析出熱処理[工程11]、仕上げ冷間圧延[工程12]および調質焼鈍[工程13]の処理をこの順に施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とすることを特徴とする銅合金板材の製造方法。
  6. 前記時効析出熱処理[工程11]を最終工程とし、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)を5〜65%とすることを特徴とする、請求項5記載の銅合金板材の製造方法。
  7. 前記中間溶体化熱処理[工程9]の次工程として前記時効析出熱処理[工程11]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)を5〜65%とすることを特徴とする、請求項5記載の銅合金板材の製造方法。
  8. 前記熱間加工[工程3]の次工程として前記面削[工程5]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とする、請求項5記載の銅合金板材の製造方法。
  9. 前記鋳造[工程1]の次工程として前記熱間加工[工程3]を施し、前記熱処理[工程7]は温度400〜800℃で5秒〜20時間の範囲で行い、前記冷間圧延[工程8]は50%以下の加工率で行い、前記冷間圧延[工程10]での加工率R1(%)と前記仕上げ冷間圧延[工程12]での加工率R2(%)の和を5〜65%とすることを特徴とする、請求項5記載の銅合金板材の製造方法。
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