JPWO2009093492A1 - 磁気特性の優れた方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Abstract
Description
方向性電磁鋼板の鉄損を低減させるために、これまでさまざまな取り組みがなされてきた。今までに、次の方法が提案されている。(1){110}<001>方位への集積度を高め、ヒステリシス損失を低減する方法、(2)鋼板の介在物や内部歪を低減してヒステリシス損失を低減する方法、(3)鋼板表面を平滑化してヒステリシス損失を低減する方法、(4)鋼板のSi量を増加させ比抵抗を高めて渦電流損失を低減する方法、(5)板厚を薄くして渦電流損失を低減する方法。
また、以上のような鋼板自体の鉄損を向上させる方法とは別に、磁区構造を物理的に制御して鉄損を低減する方法も提案されている。
例えば、特開昭53−137016号公報、特開昭55−18566号公報、特開昭57−188810号公報には、ボールペンによるスクラッチ、レーザー照射によるスクラッチ、放電加工によるスクラッチによって線状歪を導入して磁区制御を行うことにより鉄損を低減させる方法が開示されている。しかしながら、これらの磁区構造を制御する方法は、コア成形後に焼鈍を行う巻き鉄心用の材料には適用できない。
このため、巻き鉄心用の材料として適用が可能な磁区制御方法として、線状溝や微細粒を導入して磁区制御を行い鉄損を低減させる方法が、特開昭59−197520号公報、特開昭61−117218号公報、特開昭62−179105号公報に提案されているが、この方法では溝や微細粒が存在するために、製品の磁束密度(B8)が0.02〜0.06Tと大幅に低下してしまう。
本発明は、新たにNi−Fe合金膜を方向性電磁鋼板表面に形成することを着想し、これによって上記課題を解決するもので、その要旨は以下のものである。
(1){110}<001>方位が主方位の集合組織を有する方向性電磁鋼板であって、少なくとも鋼板の片方の面において、Fe:10〜50質量%、Ni:50〜90質量%の組成よりなるNi−Fe合金膜が形成されていることを特徴とする磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(2)少なくとも鋼板の片方の面において、Ni−Fe合金膜の表面に張力コーテイングが形成されており、Ni−Fe合金膜と張力コーテイングとの界面の粗度が、Ni−Fe合金膜と地鉄との界面の粗度以下であることを特徴とする上記(1)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(3)Ni−Fe合金膜の厚みが0.1〜0.6μmであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(4)Ni−Fe合金膜の表面に0.1〜1kg/mm2の張力コーテイングが形成されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(5)鋼板の磁束密度B8と鋼板の成分系での飽和磁束密度Bsの比:B8/Bsが0.93以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(6)Siを0.8〜7質量%含有する鋼からなることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(7)Siに加え、さらに、質量%で、Mn:1%以下、Cr:0.3%以下、Cu:0.4%以下、P:0.5%以下、Ni:1%以下、Mo:0.1%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%の1種または2種以上を含有する鋼からなることを特徴とする上記(6)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
以上のような本発明によれば、上記課題を解決し、鉄損が低く磁束密度の高い磁気特性の優れた方向性電磁鋼板を容易に得ることができ、近年の、環境保全、省エネルギー化への要望に沿う方向性電磁鋼板を提供できる。
図2は、方向性電磁鋼帯の鉄損におよぼす励磁周波数fとNi−Fe合金膜の厚みの影響を示す図である。
図3は、方向性電磁鋼帯の鉄損におよぼす最大励磁磁束密度(周波数:50Hz)とNi−Fe合金膜の影響を示す図である。
以下に、その知見が得られた実験について説明する。なお、以下の説明で、元素の含有量は質量%とする。
まず、Siを3%含有し、{110}<001>方位粒からなる板厚0.7mmの方向性電磁鋼板の片面に、スパッタリング法によって、Fe−78%Ni合金膜を0.2および0.6μmの厚みでコーテイングし、さらにその上に張力コーテイングして、これらのコーテイングが磁区幅に及ぼす影響を調べた。図1にNi−Fe合金膜の厚みと張力を変化させた場合の磁区幅の測定結果を示す。
図1から明らかなように、磁性コーテイング無しの方向性電磁鋼板の磁区幅に対し、Ni−Fe合金膜を0.2μm、0.6μmとコーテイングすることによって磁区幅が漸次細分化されていくことが分かる。更に、張力コーテイングにより鋼板に張力を付与することによって磁区幅がより細分化していくことも分かる。
また、NiリッチなNi−Fe合金膜を付与した場合、Ni−Fe合金被膜が鋼板に張力を付与しない場合でも磁区を細分化して鉄損を低減する効果があることが新たに明らかになった。従って、NiリッチなNi−Fe合金膜の磁区細分化メカニズムは張力付与による磁区細分化とは異なることが分かる。
また、張力による鉄損低減効果は、張力が1kg/mm2を超える領域でほぼ飽和している。
次に、同一の方向性電磁鋼板を試料として用い、この鋼板に、Fe−78%Ni合金膜を片面に0.1〜0.6μmの厚みでコーテイングし、張力1.0kg/m2を付与した状態でNi−Fe合金膜が磁気特性に及ぼす影響を調べた。
図2に、励起周波数fを変化させた場合の試料の鉄損W/fの測定結果を示す。図2から明らかなように、磁性コーテイングの厚みを、0.11μmから漸次厚くするにしたがって鉄損は低減しており、Ni−Fe合金膜の磁性コーテイングを施すことによって、鉄損は、50〜500Hzの周波数範囲の全域で低減していくことが確認できた。この場合、0.6μm以上のコーテイング厚では鉄損低減効果はほぼ飽和していた。
これらの試料について磁束密度(B8)を測定したところ、磁性コーテイングによって磁束密度は低下していなかった。
また、図3に、50Hzの周波数で励磁最大磁束密度を0.6〜1.7Tから変化させた場合の磁性コーテイング無しの試料と、Ni−Fe合金膜による磁性コーテイング厚みが0.4μmの試料の鉄損の測定結果を示す。図3より、全ての励磁磁束密度において磁性コーテイングを施すことによって鉄損が低減していることが分かる。
以上のことから、{110}<001>方位が主方位の集合組織を有する方向性電磁鋼板の表面にNi−Fe合金膜を形成させることによって、鋼板の磁区を細分化させて鉄損を低減させることができることがわかる。
Ni−Fe合金膜による磁気特性改善効果についての機構は完全に解明されたわけではないが、本願発明者らはつぎのように考えている。
{110}<001>方位に配向した方向性電磁鋼板の磁区構造は、基本的には圧延方向にスラブ状にならんだ180°磁区から構成され、この180°磁区の幅は磁気特性に大きな影響を与える。この磁区幅は、<001>軸の表面からの傾斜角に起因して生じる表面磁極による静磁エネルギーと磁壁エネルギーによって決定される。表面にFe−78%Niなどの軟磁性コーティングを施すと、この表面磁極による静磁エネルギーが変化するために180°磁区の幅が変化して磁気特性を改善するものと考えられる。
以上の知見に基づきなされた本発明につき、以下説明する。
本発明では、Ni−Fe合金膜が形成される素材としての方向性電磁鋼板は、特に限定されるものではなく、Siを7%以下の範囲で含有し、{110}<001>方位が主方位の集合組織を有する既存の方向性電磁鋼板や鋼帯などが利用できる。
例えば、公知の方向性電磁鋼板の製造方法(例えば、特公昭30−3651号公報、特公昭40−15644号公報、特公昭51−13469号公報、特公昭62ー45285号公報参照)で製造された鋼板や鋼帯、および方向性電磁鋼箔の製造方法(例えば、特開平2−277748号公報参照)で製造された鋼箔を用いればよい。
方向性電磁鋼板は、一般に鋼板表面にグラス被膜が形成されているので、グラス被膜を酸洗などによって除去した後、鋼板表面にNi−Fe合金膜を形成させる。また、鋼板表面にグラス被膜を形成させない方向性電磁鋼板の製造方法(例えば、特開平7−118750号公報、特開2003−268450号公報参照)を適用して製造された鋼板を使用すると、グラス被膜を除去する手間を省くことができる。
Ni−Fe合金膜の組成については、Fe:10〜50%、Ni:90〜50%、好ましくはFe:15〜30%、Ni:85〜70%とする。この範囲の組成比率のNi−Fe合金膜を形成することで鉄損が低減する。
Ni−Fe合金膜の形成方法は特に限定されるものではなく、PVD,CVDなどのドライコーテイング、メッキなどのウェットコーテイング、または原料を塗布した後に焼鈍により焼成する方法など、いかなる方法でも良い。
Ni−Fe合金膜のコーテイング厚みは、鉄損低減効果を発揮するためには0.1μm以上形成する必要がある。0.6μm以上形成しても鉄損低減効果は飽和してしまう。
Ni−Fe合金膜のコーテイングを施す面は、鋼板の両面あるいは片面のいずれであっても良いが、片面コーテイングの方が磁気特性改善の点から好ましい。
コーティング後のNi−Fe合金膜の表面が粗い場合には、鉄損低減効果が損なわれるので、Ni−Fe合金膜の表面粗度は、グラス被膜除去後の鋼板表面(地鉄表面)の粗度と同程度あるいはそれ以下の粗度であることが好ましい。
本発明は、方向性電磁鋼板の磁区幅を細分化させることによって鉄損を向上させるものであるので、磁区幅が広くなる{110}<001>方位の集積度が高い素材、および板厚の薄い素材に適用するほど効果が大きくなる。
従って、{110}<001>方位集積度の指標となるB8/Bs(B8:800A/mの磁界を印加した場合の磁束密度、Bs:素材の成分系での飽和磁束密度)で0.93以上、好ましくは0.95以上の素材に適用すると鉄損改善効果がより大きい。
Ni−Fe合金膜を形成した上に、絶縁コーテイングを施す。その際に、特開昭53−28375号公報に開示されているような張力コーティング(張力付与型の絶縁コーテイング)を形成すると鉄損改善効果が大きくなる。
張力コーテイングにより鉄損低減効果を発現させるためには、0.1kg/mm2以上、好ましくは0.5kg/mm2/以上の張力が必要である。1kg/mm2を超える張力では鉄損低減効果はほぼ飽和する。
本発明では、Ni−Fe合金膜が形成される素材としての方向性電磁鋼板には、上述のように既存のものが使用でき、方向性電磁鋼板の鋼組成が特に限定されるものではないが、Siを0.8〜7%含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなる鋼を基本とし、この鋼に、必要に応じてさらに、Mn:1%以下、Cr:0.3%以下、Cu:0.4%以下、P:0.5%以下、N:1%以下、Mo:0.1%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下の1種または2種以上を含有する鋼が好ましい。
なお、C、N、S、Se,Ti、及び、Alに関しては、二次再結晶を安定的に発現させるための集合組織制御及びインヒビター制御のために、製鋼段階で添加する場合もあるが、最終製品の鉄損特性を劣化させる元素でもあるので、製造工程の脱炭焼鈍後及び仕上げ焼鈍等において、低減する必要がある。このため、これら元素の含有量は、最終製品として0.005%以下、好ましくは0.003%以下にするのがよい。
ここで、方向性電磁鋼板の好ましい鋼組成の選定理由は下記のとおりである。
Siは、含有量を多くすると電気抵抗が高くなり、鉄損特性が改善される。しかし、7%を超えて添加されると、製造工程において冷延が極めて困難となり、圧延時に割れてしまうなど工業生産に適していない。また、含有量が0.8%より少ないと、焼鈍を施す際に温度を高くしすぎるとγ変態が生じ鋼板の結晶方位が損なわれてしまうので、0.8%以上とすることが好ましい。
Mnは、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。また、Mnは、製造工程において、熱間圧延における割れの発生を防止するためにも有効な元素であるが、含有量が1%を超えると、製品の磁束密度が低下してしまうので、含有させる場合の上限を1%とする。
Crも、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。さらに、Crは、製造工程において脱炭焼鈍後の表面酸化層を改善し、グラス被膜形成に有効な元素であり、0.3%以下の範囲で含有させるとよい。
Cuも、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素であるが、含有量が0.4%を超えると、鉄損低減効果が飽和してしまうとともに、製造工程において、熱間圧延時に“カッパーヘゲ”なる表面疵の原因になるので、含有させる場合の上限を、0.4%とする。
Pも、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素であるが、含有量が0.5%を超えると、製造工程において鋼板の圧延性に問題が生じるので、含有させる場合の上限を0.5%とする。
Niも、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。また、Niは、熱延板の金属組織を制御して、磁気特性を高めるうえで有効な元素であるが、含有量が1%を超えると、二次再結晶が不安定になるので、含有させる場合の上限を1%とする。
Moも、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素であるが、含有量が0.1%を超えると、製造工程において鋼板の圧延性に問題が生じるので、含有させる場合の上限を0.1%とする。
SnとSbは、二次再結晶を安定化させ、{110}<001>方位を発達させるのに有効な元素であるが、0.3%を超えると、製造工程においてグラス被膜の形成に悪影響を及ぼすので、含有させる場合の上限を0.3%とする。
次に、本発明の実施例を説明するが、実施例で採用した条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
試料として、Si:3%、Mn:0.1%、Cr:0.12%、P:0.03%を含有して{110}<001>方位を主方位とする板厚0.07mmの方向性電磁鋼板を用い、この鋼板の片面、あるいは両面に、メッキ法によって厚さ0.6μmのFe−78%Ni合金の磁性コーテイングを施した後、コロイド状シリカ、リン酸アルミニウムおよびクロム酸を主成分とする張力コーテイングを施した。コーテイング後の試料の磁気特性を表1に示す。
表1から明らかなように、Fe−78%Ni合金膜を有することによって鉄損は低減しているが、片面に施したほうが両面よりも鉄損の改善効果が大きいことが分かる。
試料として、Si:3.3%を含有して{110}<001>方位を主方位とするB8/Bs=0.91〜0.97、板厚0.22mmの方向性電磁鋼板を用い、この鋼板の片面に、メッキ法によって厚さ0.6μmのFe−78%Ni合金の磁性コーテイングを施した後、さらに実施例1と同様の張力コーテイングを施した。コーテイング前後の試料の鉄損向上代を表2に示す。
表2から明らかなように、方向性電磁鋼板の方位集積度(B8/Bs)が0.93以上、好ましくは0.95以上の場合に鉄損改善効果が顕在化する。
試料として、Si:3.3%を含有して{110}<001>方位を主方位とするB8/Bs=0.96、板厚0.22mmの電磁鋼板を用い、この鋼板の片面に、メッキ法によってNi−Fe合金膜をNi含有率40〜95%の範囲で変化させて、0.6μmの厚みでコーテイングした。その後、さらに絶縁コーテイングを施した。コーテイング前後の試料の鉄損向上代を表3に示す。
表3から明らかなように、Ni含有率50〜90%、好ましくは70から85%で鉄損改善効果が顕在化する。
実施例1の試料(A)を用い、この試料を加工した後、750℃で2時間の歪取り焼鈍を施した。焼鈍後の試料の鉄損W17/50は0.26W/kgであった。
この結果、コア成形後に焼鈍を行っても鉄損低減効果が消滅しないことが確認された。
(実施例5:鋼板成分)
試料として、(A)Si:3.3%、Mn:0.1%、Cr:0.12%、Cu:0.2%、P:0.03%、Sn:0.06%を含有して{110}<001>方位を主方位とする板厚0.14mmの方向性電磁鋼板、(B)Si:3.3%、Mn:0.12%、Ni:0.1%、P:0.02%、Sb:0.03%を含有して{110}<001>方位を主方位とする板厚0.14mmの方向性電磁鋼板、およびSi:3.3%、Mn:0.14%、Cr:0.12%、P:0.03%、Mo:0.01%を含有して{110}<001>方位を主方位とする板厚0.14mmの方向性電磁鋼板に、Fe−78%Ni合金膜を片面に0.6μmコーテイングを施した後、コロイド状シリカ、リン酸アルミニウムおよびクロム酸を主成分とする張力コーテイングを施した。磁性コーテイング前後の鉄損向上代を表4に示す。
成分の異なるいずれの試料においても鉄損低減効果が得られている。
このため、鉄損が低く磁束密度の高い磁気特性の優れた方向性電磁鋼板を容易に得ることができ、近年の、環境保全、省エネルギー化への要望に沿う方向性電磁銅板を提供できるので、本発明は、大きな産業上の利用可能性を有する。
例えば、特開昭53―137016号公報、特開昭55―18566号公報、特開昭57―188810号公報には、ボールペンによるスクラッチ、レーザー照射によるスクラッチ、放電加工によるスクラッチによって線状歪を導入して磁区制御を行うことにより鉄損を低減させる方法が開示されている。しかしながら、これらの磁区構造を制御する方法は、コア成形後に焼鈍を行う巻き鉄心用の材料には適用できない。
本発明は、新たにNi−Fe合金膜を方向性電磁鋼板表面に形成することを着想し、これによって上記課題を解決するもので、その要旨は以下のものである。
(2)少なくとも鋼板の片方の面において、Ni−Fe合金膜の表面に張力コーテイングが形成されており、Ni−Fe合金膜と張力コーテイングとの界面の粗度が、Ni−Fe合金膜と地鉄との界面の粗度以下であることを特徴とする上記(1)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(3)Ni−Fe合金膜の表面に0.1〜1kg/mm2の張力コーテイングが形成されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(4)鋼板の磁束密度B8と鋼板の成分系での飽和磁束密度Bsの比:B8/Bsが0.93以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(5)Siを0.8〜7質量%含有する鋼からなることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(6)Siに加え、さらに、質量%で、Mn:1%以下、Cr:0.3%以下、Cu:0.4%以下、P:0.5%以下、Ni:1%以下、Mo:0.1%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%の1種または2種以上を含有する鋼からなることを特徴とする上記(5)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
まず、Siを3%含有し、{110}<001>方位粒からなる板厚0.7mmの方向性電磁鋼板の片面に、スパッタリング法によって、Fe−78%Ni合金膜を0.2および0.6μmの厚みでコーテイングし、さらにその上に張力コーテイングして、これらのコーテイングが磁区幅に及ぼす影響を調べた。図1にNi−Fe合金膜の厚みと張力を変化させた場合の磁区幅の測定結果を示す。
また、NiリッチなNi−Fe合金膜を付与した場合、Ni−Fe合金被膜が鋼板に張力を付与しない場合でも磁区を細分化して鉄損を低減する効果があることが新たに明らかになった。従って、NiリッチなNi−Fe合金膜の磁区細分化メカニズムは張力付与による磁区細分化とは異なることが分かる。
また、張力による鉄損低減効果は、張力が1kg/mm2を超える領域でほぼ飽和している。
図2に、励起周波数fを変化させた場合の試料の鉄損W/fの測定結果を示す。図2から明らかなように、磁性コーテイングの厚みを、0.11μmから漸次厚くするにしたがって鉄損は低減しており、Ni−Fe合金膜の磁性コーテイングを施すことによって、鉄損は、50〜500Hzの周波数範囲の全域で低減していくことが確認できた。この場合、0.6μm以上のコーテイング厚では鉄損低減効果はほぼ飽和していた。
これらの試料について磁束密度(B8)を測定したところ、磁性コーテイングによって磁束密度は低下していなかった。
{110}<001>方位に配向した方向性電磁鋼板の磁区構造は、基本的には圧延方向にスラブ状にならんだ180°磁区から構成され、この180°磁区の幅は磁気特性に大きな影響を与える。この磁区幅は、<001>軸の表面からの傾斜角に起因して生じる表面磁極による静磁エネルギーと磁壁エネルギーによって決定される。表面にFe−78%Niなどの軟磁性コーティングを施すと、この表面磁極による静磁エネルギーが変化するために180°磁区の幅が変化して磁気特性を改善するものと考えられる。
本発明では、Ni−Fe合金膜が形成される素材としての方向性電磁鋼板は、特に限定されるものではなく、Siを7%以下の範囲で含有し、{110}<001>方位が主方位の集合組織を有する既存の方向性電磁鋼板や鋼帯などが利用できる。
例えば、公知の方向性電磁鋼板の製造方法(例えば、特公昭30−3651号公報、特公昭40−15644号公報、特公昭51−13469号公報、特公昭62ー45285号公報参照)で製造された鋼板や鋼帯、および方向性電磁鋼箔の製造方法(例えば、特開平2−277748号公報参照)で製造された鋼箔を用いればよい。
Ni−Fe合金膜の形成方法は特に限定されるものではなく、PVD,CVDなどのドライコーテイング、メッキなどのウェットコーテイング、または原料を塗布した後に焼鈍により焼成する方法など、いかなる方法でも良い。
Ni−Fe合金膜のコーテイングを施す面は、鋼板の両面あるいは片面のいずれであっても良いが、片面コーテイングの方が磁気特性改善の点から好ましい。
コーティング後のNi−Fe合金膜の表面が粗い場合には、鉄損低減効果が損なわれるので、Ni−Fe合金膜の表面粗度は、グラス被膜除去後の鋼板表面(地鉄表面)の粗度と同程度あるいはそれ以下の粗度であることが好ましい。
従って、{110}<001>方位集積度の指標となるB8/Bs(B8:800A/mの磁界を印加した場合の磁束密度、Bs:素材の成分系での飽和磁束密度)で0.93以上、好ましくは0.95以上の素材に適用すると鉄損改善効果がより大きい。
張力コーテイングにより鉄損低減効果を発現させるためには、0.1kg/mm2以上、好ましくは0.5kg/mm2/以上の張力が必要である。1kg/mm2を超える張力では鉄損低減効果はほぼ飽和する。
なお、C、N、S、Se,Ti、及び、Alに関しては、二次再結晶を安定的に発現させるための集合組織制御及びインヒビター制御のために、製鋼段階で添加する場合もあるが、最終製品の鉄損特性を劣化させる元素でもあるので、製造工程の脱炭焼鈍後及び仕上げ焼鈍等において、低減する必要がある。このため、これら元素の含有量は、最終製品として0.005%以下、好ましくは0.003%以下にするのがよい。
Siは、含有量を多くすると電気抵抗が高くなり、鉄損特性が改善される。しかし、7%を超えて添加されると、製造工程において冷延が極めて困難となり、圧延時に割れてしまうなど工業生産に適していない。また、含有量が0.8%より少ないと、焼鈍を施す際に温度を高くしすぎるとγ変態が生じ鋼板の結晶方位が損なわれてしまうので、0.8%以上とすることが好ましい。
Mnは、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。また、Mnは、製造工程において、熱間圧延における割れの発生を防止するためにも有効な元素であるが、含有量が1%を超えると、製品の磁束密度が低下してしまうので、含有させる場合の上限を1%とする。
Cuも、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素であるが、含有量が0.4%を超えると、鉄損低減効果が飽和してしまうとともに、製造工程において、熱間圧延時に“カッパーヘゲ”なる表面疵の原因になるので、含有させる場合の上限を、0.4%とする。
Moも、比抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素であるが、含有量が0.1%を超えると、製造工程において鋼板の圧延性に問題が生じるので、含有させる場合の上限を0.1%とする。
SnとSbは、二次再結晶を安定化させ、{110}<001>方位を発達させるのに有効な元素であるが、0.3%を超えると、製造工程においてグラス被膜の形成に悪影響を及ぼすので、含有させる場合の上限を0.3%とする。
試料として、Si:3%、Mn:0.1%、Cr:0.12%、P:0.03%を含有して{110}<001>方位を主方位とする板厚0.07mmの方向性電磁鋼板を用い、この鋼板の片面、あるいは両面に、メッキ法によって厚さ0.6μmのFe−78%Ni合金の磁性コーテイングを施した後、コロイド状シリカ、リン酸アルミニウムおよびクロム酸を主成分とする張力コーテイングを施した。コーテイング後の試料の磁気特性を表1に示す。
表1から明らかなように、Fe−78%Ni合金膜を有することによって鉄損は低減しているが、片面に施したほうが両面よりも鉄損の改善効果が大きいことが分かる。
試料として、Si:3.3%を含有して{110}<001>方位を主方位とするB8/Bs=0.91〜0.97、板厚0.22mmの方向性電磁鋼板を用い、この鋼板の片面に、メッキ法によって厚さ0.6μmのFe−78%Ni合金の磁性コーテイングを施した後、さらに実施例1と同様の張力コーテイングを施した。コーテイング前後の試料の鉄損向上代を表2に示す。
表2から明らかなように、方向性電磁鋼板の方位集積度(B8/Bs)が0.93以上、好ましくは0.95以上の場合に鉄損改善効果が顕在化する。
試料として、Si:3.3%を含有して{110}<001>方位を主方位とするB8/Bs=0.96、板厚0.22mmの電磁鋼板を用い、この鋼板の片面に、メッキ法によってNi−Fe合金膜をNi含有率40〜95%の範囲で変化させて、0.6μmの厚みでコーテイングした。その後、さらに絶縁コーテイングを施した。コーテイング前後の試料の鉄損向上代を表3に示す。
表3から明らかなように、Ni含有率50〜90%、好ましくは70から85%で鉄損改善効果が顕在化する。
実施例1の試料(A)を用い、この試料を加工した後、750℃で2時間の歪取り焼鈍を施した。焼鈍後の試料の鉄損W17/50は0.26W/kgであった。
この結果、コア成形後に焼鈍を行っても鉄損低減効果が消滅しないことが確認された。
試料として、(A)Si:3.3%、Mn:0.1%、Cr:0.12%、Cu:0.2%、P:0.03%、Sn:0.06%を含有して{110}<001>方位を主方位とする板厚0.14mmの方向性電磁鋼板、(B)Si:3.3%、Mn:0.12%、Ni:0.1%、P:0.02%、Sb:0.03%を含有して{110}<001>方位を主方位とする板厚0.14mmの方向性電磁鋼板、およびSi:3.3%、Mn:0.14%、Cr:0.12%、P:0.03%、Mo:0.01%を含有して{110}<001>方位を主方位とする板厚0.14mmの方向性電磁鋼板に、Fe−78%Ni合金膜を片面に0.6μmコーテイングを施した後、コロイド状シリカ、リン酸アルミニウムおよびクロム酸を主成分とする張力コーテイングを施した。磁性コーテイング前後の鉄損向上代を表4に示す。
成分の異なるいずれの試料においても鉄損低減効果が得られている。
このため、鉄損が低く磁束密度の高い磁気特性の優れた方向性電磁鋼板を容易に得ることができ、近年の、環境保全、省エネルギー化への要望に沿う方向性電磁鋼板を提供できるので、本発明は、大きな産業上の利用可能性を有する。
(2)少なくとも鋼板の片方の面において、Ni−Fe合金膜の表面に張力コーテイングが形成されており、Ni−Fe合金膜と張力コーテイングとの界面の粗度が、Ni−Fe合金膜と地鉄との界面の粗度以下であることを特徴とする上記(1)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(3)Ni−Fe合金膜の表面に0.1〜1kg/mm2の張力コーテイングが形成されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(4)鋼板の磁束密度B8と鋼板の成分系での飽和磁束密度Bsの比:B8/Bsが0.93以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(5)Siを0.8〜7質量%含有する鋼からなることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
(6)Siに加え、さらに、質量%で、Mn:1%以下、Cr:0.3%以下、Cu:0.4%以下、P:0.5%以下、Ni:1%以下、Mo:0.1%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%の1種または2種以上を含有する鋼からなることを特徴とする上記(5)に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
Ni−Fe合金膜の形成方法は特に限定されるものではなく、PVD,CVDなどのドライコーテイング、メッキなどのウェットコーテイング、または原料を塗布した後に焼鈍により焼成する方法など、いかなる方法でも良い。
Claims (7)
- {110}<001>方位が主方位の集合組織を有する方向性電磁鋼板であって、少なくとも鋼板の片方の面において、Fe:10〜50質量%、Ni:50〜90質量%の組成よりなるNi−Fe合金膜が形成されていることを特徴とする磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
- 少なくとも鋼板の片方の面において、Ni−Fe合金膜の表面に張力コーテイングが形成されており、Ni−Fe合金膜と張力コーテイングとの界面の粗度が、Ni−Fe合金膜と地鉄との界面の粗度以下であることを特徴とする請求の範囲1に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
- Ni−Fe合金膜の厚みが0.1〜0.6μmであることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
- Ni−Fe合金膜の表面に0.1〜1kg/mm2の張力コーテイングが形成されていることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
- 鋼板の磁束密度B8と鋼板の成分系での飽和磁束密度Bsの比:B8/Bsが0.93以上であることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
- Siを0.8〜7質量%含有する鋼からなることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
- Siに加え、さらに、質量%で、Mn:1%以下、Cr:0.3%以下、Cu:0.4%以下、P:0.5%以下、Ni:1%以下、Mo:0.1%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%の1種または2種以上を含有する鋼からなることを特徴とする請求の範囲6に記載の磁気特性の優れた方向性電磁鋼板。
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