JPWO2008050913A1 - 薄膜状高分子構造体とその調製方法 - Google Patents
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Abstract
Description
一方、金や白金などの金属の表面、あるいはシリコンやシリカやガラスなどの無機材料の表面に有機分子を規則正しく、しかも安定に配向させた自己組織化単分子膜(SAM)を形成させる技術が確立されている。この技術の特徴は、基板との結合力が強いため単分子膜が安定である点、また、基板を溶液に浸漬させるだけで単分子膜を構築できるため特殊な装置を必要とせず安価で簡便な点である。さらには複雑な形状の基板にも対応できる。例えばリソグラフィーの技術によって書き込まれた超微細パターンの上に有機分子のパターンを構築するナノテクノロジーとしても注目されている(4)。
また、2次元平面上に分子の積層を、例えば高分子電解質の静電的相互作用による交互積層法によって行い、3次元の構造体をボトムアップ方式で構築する試みも進められている。この積層法は以下の原理に基づいている。高分子電解質溶液をそれと反対電荷を有する基板表面に浸漬させ、静電相互作用によって一層のみ吸着させる。その際、基板上の電荷は、吸着した高分子電解質の過剰な電荷によって新たな反対電荷を帯びる。次に、この表面に、先の高分子電解質とは反対の電荷を有する別の高分子電解質を一層分吸着させる。この繰り返しにより任意の膜厚に制御された多層構造の膜を得ることができる。例えば、交互積層法にて得られた構造体に、酵素を静電的な相互作用によって固定化させて、酵素リアクター、バイオセンサー、発光素子などの新たな分子デバイスの開発を目的とする報告がされている(1),(2)。この方法は、特殊な装置を一切使用せず、簡便に3次元の構造体を調製できるので、タンパク質などの変性の恐れのある分子の固定化にも適している。近年、交互積層法にて得られた構造体を非水溶性の犠牲膜上で構築した後、犠牲膜を溶解し、構造体を得る方法が提案されている(5)。また、交互積層法にて得られた構造体をSAM上に形成した後、構造体を水溶性の支持膜に移し取る技術も報告されている(6)。
本発明者らも、以前、任意の形状の薄膜状高分子構造体とその調製方法を出願している(3)。例えば、円形の金基体に自己組織化単分子膜を形成後、アルブミンを吸着、架橋させた後、円形のアルブミン重合体薄膜を当該金基体から界面活性剤処理によって簡便に剥離させ、アルブミンナノシートを得ることを見出している。
また、無機や金属の微粒子や細胞などを鋳型としてその表面に高分子電解質のコンプレックスを形成させてから、鋳型を溶解させることにより鋳型の形をした中空構造物が得られることが知られている(7)。鋳型となる微粒子には、シリカやラテックスビーズ、メラミン樹脂などが用いられており、鋳型はHF(フッ化水素)、有機溶剤、酸などによって溶解される。鋳型が球状微粒子であれば問題にはならないが、複雑な形状の鋳型は、印刷技術の活版やプラスチックの鋳型の様に精巧で高価であるため、この方法は、鋳型が安定で再利用できることが要件となる。また、これらの構造体は基板からボトムアップさせる方式であるため、たとえ遊離させても基板接触面側は修飾されていない。
この様に、既存のナノテクノロジーにて得られた構造体において、基板に接触している側を修飾する方法に関する報告はない。また、分散状態にある薄膜状高分子構造体において表面と裏面を別々の機能性分子で簡便にしかも確実に修飾する方法も知られていない。
(参考文献)
1.特許第3020428号
2.特許第2966795号
3.WO 2006/025592号パンフレット
4.Daan,W et al.,Angew,Chem.Int.Ed,43,2480−2495(2004).
5.Mamedov,A.A.et al.,Langmuir,16,5530−5533(2000).
6.Stroock,A.D.et al.,Langmuir,19,2466−2472(2003).
7.David,I.et al.,J.Phys.Chem.B,105,6846−6852(2001).
本発明者は上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、例えばシリコン基体に長方形にパターン化された自己組織化単分子膜を形成後、多官能性分子としてアルブミンを吸着、架橋させ、薄膜の一方の面である表面(おもて面)(A面という)に機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を用いてアルブミン重合体薄膜を当該金基体から剥離させ、薄膜の他方の面である裏面(B面という)に同一又は別の機能性物質を結合させて支持膜を溶剤にて溶解させ薄膜状構造体を得ることを見出し、本発明を完成した。また、薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させることによって薄膜を基体から剥離させ、その後、前記基体とは別の基体に形成させた可溶性支持膜上に、剥離させた薄膜の表面を貼り付け、前記機能性物質と同一又は別の機能性物質を薄膜のB面に結合させて支持膜を溶剤にて溶解させて薄膜状構造体を得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.膜の表面(A面)と裏面(B面)に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体。
2.膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体であって、以下の工程:
(a)基体の液相との界面における任意形状の領域に多官能性分子を吸着させ、
(b)吸着させた多官能性分子を重合及び/又は架橋して高分子の薄膜を形成させ、
(c)形成させた薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、さらにその上に可溶性支持膜を形成させ、
(d)前記薄膜および支持膜を基体から剥離させ、
(e)薄膜のB面に、A面に結合させた機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させること
により得られた前記構造体。
3.膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体であって、以下の工程:
(a)基体の液相との界面における任意形状の可溶性の領域に多官能性分子を吸着させ、
(b)吸着させた多官能性分子を重合及び/又は架橋して高分子の薄膜を形成させ、
(c)形成させた薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、
(d)可溶性の領域を溶剤にて溶解させることによって薄膜を基体から剥離させ、
(e)前記基体とは別の基体に形成させた可溶性支持膜上に、剥離させた薄膜のA面を貼付し、
(f)薄膜のB面に、前記機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させること
により得られた前記構造体。
4.膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体の調製方法であって、以下の工程:
(a)基体の液相との界面における任意形状の領域に多官能性分子を吸着させ、
(b)吸着させた多官能性分子を重合及び/又は架橋して高分子の薄膜を形成させ、
(c)形成させた薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、さらにその上に可溶性支持膜を形成させ、
(d)前記薄膜および可溶性支持膜を基体から剥離させ、
(e)薄膜のB面に、A面に結合させた機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させること
を含む前記方法。
5.膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体の調製方法であって、以下の工程:
(a)基体の液相との界面における任意形状の可溶性の領域に多官能性分子を吸着させ、
(b)吸着させた多官能性分子を重合及び/又は架橋して高分子の薄膜を形成させ、
(c)形成させた薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、
(d)可溶性の領域を溶剤にて溶解させることによって薄膜を基体から剥離させ、
(e)前記基体とは別の基体に形成させた可溶性支持膜上に、剥離させた薄膜のA面を貼付し、
(f)薄膜のB面に、前記機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させること
を含む前記方法。
本発明の方法は、多官能性分子を重合及び/又は架橋させる工程に、さらに反対電荷の高分子電解質を交互に積層させて電荷的に架橋させる工程を含むものであってもよい。多官能性分子としては、例えば多官能性モノマー及び/又は多官能性マクロマーが挙げられる。そして、多官能性マクロマーとしては、例えばタンパク質、ポリ乳酸、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、高分子電解質及び高分子ビーズからなる群から選ばれる少なくとも一つを例示することができる。本発明において、多官能性マクロマーの架橋は、例えば熱変性または熱可塑性などの物理的架橋、又は融解により行われる。
また、本発明において、機能性物質としては、例えばポリエチレングリコールなどの高分子化合物、高分子電解質、タンパク質、ペプチド、糖鎖及びビオチン誘導体からなる群から選択される少なくとも一つを例示することができる。
さらに、本発明において、領域は、自己組織化単分子膜又は自己組織化二分子膜が好ましい。ここで、自己組織化単分子膜としては、末端にSH基、クロロアルキルシリル基、アルコキシアルキルシリル基およびビニル基からなる群から選ばれる少なくとも一つの基を持つ直鎖状疎水性分子から形成されるものが挙げられる。
本発明において、基体の全部又は一部は、金属若しくはその酸化皮膜、シリコン、シリコンゴム、シリカ又はガラス、マイカ、グラファイトなどのカーボン材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、エラストマーなどの高分子材料、アパタイトなどのカルシウム化合物からなるものである。
また、本発明において、可溶性支持膜または可溶性の領域とは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸など高分子電解質、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、あるいはデンプン、セルロースアセテートなどの多糖類などの非イオン性の水溶性高分子、あるいはノボラックなどの樹脂から形成されるものが列記できる。
さらに、本発明において、溶剤は、アセトン、酢酸エチル、アルコール類、水および水溶液の中から選ばれ、かつ、薄膜状高分子構造体は溶解させないものを例示することができる。
本発明において、可溶性支持膜または可溶性の領域を溶剤にて溶解することで、構造体が液体中に分散してなる分散体を得ることができる。
本発明において、構造体は界面に貼付または塗布などにより付着された薄膜状高分子構造体であってもよい。そして、界面として、細胞、組織、臓器、血管壁、粘膜、角膜、皮膚、毛髪、及び爪からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面を例示することができる。
本発明により、任意形状を有し、表面と裏面に同一又は別々の機能性物質を有する薄膜状高分子構造体とその調製方法が提供される。本発明の構造体は、当該構造体に標的認識部位等を結合させることで、薬物送達系における機能性担体や血小板代替物、創傷被覆剤、癒着防止剤、スキンケア用品などの皮膚外用剤として利用することが可能となる。
図2は、PVA膜上のHSAナノシート像:(a)光学顕微鏡像、(b)蛍光顕微鏡像を示す図である。
図3は、HSAナノシート表面へNBD標識ラテックスビーズを結合させる工程を示す図である。
図4は、基板上に構築したHSAナノシートの原子間力顕微鏡像であり、(a)3次元像、(b)直上からの平面図、(c)断面模式図を示す図である。
図5は、(HSA)LBシートの走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図6は、AおよびB面に別々の機能性物質を有する(HSA)LBシートの作製法を示す図である。
図7は、AおよびB面に別々の機能性物質を有する(HSA)LBシートの共焦点レーザー顕微鏡像およびその説明図である。
図8は、LbLナノシートの作成法を示す図である。
図9は、LbLナノシート像:(a)アセトン中にて基板から剥離し浮遊させた状態、(b)大気中にて金属枠にて掬い取った状態を示す図である。
図10は、SiO2基板上に再吸着させたLbLナノシートの原子間力顕微鏡像:(a)直上からの平面像、(b)3次元像、(c)断面模式図を示す図である。
図11は、エリプソメトリーによるLbLナノシートの膜厚と交互積層回数の関係を示す図である。
図12は、水溶性の支持膜を利用したLbLナノシートのAおよびB面に別々の機能性物質で修飾する方法を示す図である。
図13は、ラテックスビーズ修飾LbLナノシートの光学顕微鏡像を示す図である。
図14は、異なるラテックスビーズにてAおよびB面を修飾したLbLナノシートの走査型電子顕微鏡像を示す図である。A面、B面はそれぞれ粒子径200nm、2μmのラテックスビーズで修飾した図である。
図15は、水溶性の支持膜を利用したナノシートの作製と皮膚へのナノシートの貼付方法を示す図である。
図16は、皮膚上に接着させたナノシート:(a)シリコンゴム上のナノシートを皮膚に接着させた状態、(b)シリコンゴムとナノシートとの間にある支持膜を水にて溶解後シリコンゴムを剥離した後の皮膚の様子(可視光下)、(c)同左(ブラックライト照射下)を示す図である。
図17は、ディスク状パターン(3mm)を用いたPLGAナノシートの調製とフィブリノーゲン由来ドデカペプチド(H12)の両面修飾方法を示す図である。
図18は、ディスク状パターンPLGAナノシートの選択的吸着を示す図である。(b)は(a)の拡大図である。
図19は、PLGAナノシート(二重矢印)と活性化血小板(矢印)との相互作用を示す走査電子顕微鏡写真である。
図20は、H12−PLGAナノシートのコラーゲン基板への粘着数の比較を示す図である(流動開始から180秒後)。
図21は、(a)H12−PLGAナノシート存在下における血小板の粘着像(流動開始180秒後)、(b)H12−PLGAナノシート非存在下での血小板の粘着像(流動開始180後)、及び(c)H12PLGAナノシート存在下(○)、非存在下(□)での血小板粘着の経時的変化を示す図である。
図22は、(a)PVA支持膜を利用したPLAナノシートのSiO2基板からの剥離、(b)水溶液中で分散するPLAナノシート、及び(c)金属枠に掬い取った無色透明なPLAナノシートを示す図である。
図23は、A面のみにrHSAを吸着させたPLAナノシートの接触角測定の様子を示す図である。(a)A面、rHSA吸着前、(b)A面、rHSA吸着後、及び(c)B面。
図24は、蓄光剤を少量担持させたLbLナノシートをラット盲腸に貼付し、ブラックライト下で観察した様子を示す図である。
なお、本明細書において引用した文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。本明細書は、本願優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2006−292688号明細書の内容を包含する。
以下、本発明の膜の両面に別々の機能性物質を有する薄膜状高分子構造体(以下、「シート」ともいう)の調製方法について説明する。
1.膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体の作製(1)
本発明の一つの態様では、基体(以下、「基板」と称する場合もある)上の液相との界面における任意形状の可溶性の領域に、その上に多官能性分子を吸着させた後に、これを重合及び/又は架橋して薄膜を形成させ、その薄膜の面(A面)に機能性物質を結合させた後、さらにその上(薄膜が形成された基体上)に可溶性支持膜を形成させ、その薄膜及び可溶性支持膜を基体から剥離させ、薄膜のB面に前記機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させて得ることを特徴とするものである。「A面」、「B面」とは、それぞれ薄膜の一方の面、他方の面を意味し、本明細書では便宜的にA面を表(おもて)の面、B面を裏の面として説明する。本発明の上記態様では、基体上に形成された膜において、基体に吸着されている側がB面、基体に吸着されている側の反対側がA面という関係になっている。
2.膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体の作製(2)
本発明の他の態様では、基体上の液相との界面における任意形状の可溶性の領域に、多官能性分子を吸着させた後に、これを重合及び/又は架橋して薄膜を形成させ、その薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、可溶性の領域を溶剤にて溶解させることによって薄膜を基体から剥離させ、前記基体とは別の基体に形成させた可溶性支持膜上に、剥離させた薄膜のA面を貼り付け、前記機能性物質と同一又は別の機能性物質を薄膜のB面に結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させて薄膜を剥離させて得ることを特徴とするものである。また、多官能性分子を重合及び/又は架橋させる工程に、反対電荷の高分子電解質を交互に積層させて電荷的に架橋させる工程も含むものである。
本発明の方法によって、初めて基体(又は固定担体)から容易に薄膜を剥離でき、A面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体を簡便かつ確実に得ることが可能になった。また、本発明の方法によって、本薄膜状構造体を大量に製造することが可能となった。
本発明の薄膜状高分子構造体は、多官能性分子が重合及び/又は架橋した単層又は積層構造の薄膜である。
また、当該構造体は高分子の薄膜分散体として得ることができる。本発明の薄膜状高分子構造体が液体中に分散した分散体も本発明に含まれる。
また、組織、臓器、血管壁、粘膜、角膜、または皮膚などから選ばれる少なくとも1つの表面などの界面に本発明の薄膜状高分子構造体を貼付または塗布などにより付着させた薄膜状高分子構造体も本発明に含まれる。更に、基体/可溶性支持膜/薄膜状高分子構造体上で皮膚、角膜、臓器の組織などを培養し、構造体と共に剥離した薄膜状高分子構造体も本発明に含まれる。
(1)基体の水面との界面における任意形状の領域
本発明において、「基体の液相との界面」とは、固体である基体が水や水溶液、有機溶媒などの液体に接触している界面を意味する。
多官能性分子を吸着させる領域の形状は、基体の形状と同一あるいはその一部分であってもよい。特に限定されないが、例えば、円形、四角形、楕円形、リボン形、ひも形、多分岐形、星形などが挙げられる。
本発明においては、基体上の液相との界面には、自己組織化単分子膜(self−assembled monolayer、SAM)又は自己組織化二分子膜(self−assembled bilayer,SAB)を形成させておくことが好ましい。
「自己組織化単分子膜」(SAM)とは、末端に基体に結合し得る官能基を有する直線状疎水性分子からなる膜を意味し、官能基により金属の基体表面に固定されて膜を形成する。「自己組織化二分子膜」(SAB)とは、例えば脂質などの疎水性の炭化水素鎖と親水性の極性頭部を含む両親媒性分子が構築する二分子膜であり、基体表面の親水性の領域、あるいは両親媒性分子の極性頭部の電荷と反対電荷を持つ領域に自己組織化にて形成される二分子膜のことである。あるいは、SAMにて形成された疎水性の領域に両親媒性分子を自己組織化させることによって、二分子膜構造が形成され、膜表面が親水性の領域になる場合もSABとみなすことができる。
本明細書において、「自己組織化膜」とは、自発的に形成する膜を意味する。
本発明において、基体は、多官能性分子を吸着させることができるものであれば、特に限定されない。基体上にSAM又はSABを形成させる場合、SAM又はSABを形成させるための基体は、SAM又はSABを形成させることができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウム、チタン、亜鉛などの金属板、又はこれらの金属を蒸着した平板などを用いることができる。また、基体の全部又は一部が、前述の金属若しくはその酸化皮膜、シリコン、シリコンゴム、シリカ又はガラス、マイカ、グラファイトなどのカーボン材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、エラストマーなどの高分子材料、アパタイトなどのカルシウム化合物を単独又は適宜組みあわせて用いることもできる。
本発明において、SAMを形成する疎水性分子中の疎水性部分は、末端にSH基、クロロアルキルシリル基、アルコキシアルキルシリル基、ビニル基、アミノ基、カルボニル基などを持つ直鎖状疎水性分子が挙げられるが、通常は炭素数4個〜40個、好ましくは8〜18個の飽和炭化水素鎖である。例えば、SH基を有する直鎖状疎水性分子にはアルカンチオールが挙げられる。アルカンチオールとしては、例えばウンデカンチオール、ドデカンチオール、テトラデカンチオールなどが挙げられる。当該疎水性分子は、不飽和結合を含むアルケンやアルキン、分岐構造を持つイソプレノイド骨格、ステロイド環を持つ分子であってもよい。
そして、金基体上にはSH基を持つ上記疎水性分子をエタノールなどの溶媒に溶解させて、この溶液を金基体と接触あるいは浸漬させておくことで自発的にSAMを形成させることができる。また、シリコン基体上は、ビニル基を持つ長鎖分子により、シリカや金属の基体表面はクロロアルキルシリル基、アルコキシアルキルシリル基を持つ長鎖分子により、SAMが得られる。例えば、これらの基を有する長鎖状疎水性分子には、オクタデシルジメチルクロロシラン、トリアルコキシヘキサデシルシラン、オクタデシルトリメトキシシラン(ODMS)などが挙げられる。例えば、酸化シリコン基体に、ODMSを蒸着することでSAMが得られる。蒸着とは、真空又は真空に近い条件の中で物質を加熱蒸発させ、基体表面にこの蒸発した物質の薄膜を形成することを意味する。
本発明において、SABを構成する両親媒性分子は、分子中に疎水性部分と親水性の極性部を含む分子のいずれでもよいが、例えば、疎水性リン脂質、アミノ酸型脂質、糖脂質等の脂質、又はジアルキルアンモニウム塩などのカチオン性脂質等を挙げることができる。
SABは基体に、脂質などの両親媒性分子を溶解させた有機溶媒を塗布することによって、二分子膜構造を有する膜を簡単に形成させることができる。その後マスキングして電子線照射などによってマスキングされていない領域の二分子膜構造を分解除去して二分子膜構造を有する領域を形成できる。
あるいは表面処理によって、アニオン性又はカチオン性とした領域を持つ基体を、カチオン性脂質又はアニオン性脂質の分散液に接触あるいは浸漬させることによって、当該領域にSABを自発的に形成させることができる。
あるいはSAMを形成させた領域を持つ基体を、両親媒性分子の溶液あるいは分散液と接触あるいは浸漬させることによって、SABを自発的に形成させることができる。
これらの高分子を後述のマスキング技術を用いて基体の任意の領域に、吸着、あるいは化学的に修飾させることができる。
本発明において、表面処理化基体の領域、すなわち、SAM形成基体、SAB形成基体、もしくはフォトレジスト形成基体の領域は、マスキングを利用して、任意の形状の領域に成形することができる。フォトマスクの方法を説明するが、当業者であれば適宜選択して実施することができ、以下に限定されるわけではない。
まず、表面処理化基体にレジストを形成する。例えば、表面処理化基体に、ポジ型フォトレジストをスピンコーターで800rpmで3秒塗布し、続いて7000rpmで20秒塗布した後、例えば110℃、90秒で加熱乾燥させればよい。回転速度、回転時間を上げればフォトレジストの膜厚は薄くなり、加熱温度、加熱時間はレジストの溶媒が蒸発する条件であれば、記載の方法に限定されるものではない。次に、上記レジストに、フォトマスクを透過させて露光する。露光は、電子線照射、紫外線照射、X線照射などを1〜60秒、好ましくは5〜20秒行えばよい。フォトマスクは、例えば、10μm×30μmの長方形や直径3μmの円形のものを使用することができる。続いて、感光上の基体上のレジストを現像、乾燥させる一方、感光した領域のレジストを除去する。そして、O2プラズマ処理、COプラズマ処理あるいはハロゲンガスを用いた反応性イオンエッチング処理にて、レジストで保護されていないSAMやSABを除去する。最後に、アセトン、THF、ジクロロメタンなどのレジスト可溶性溶媒などでレジストを除去する。これによって、膜構造を有する所望の形状(例えば、マイクロパターン)の領域を成形することができる。
また、本発明において、「可溶性領域」とは、アセトン、酢酸エチル、アルコール類、水、水溶液等の溶剤に可溶な高分子膜からなるものであるが、これらに限定されるものでない。溶剤の選択は、薄膜状高分子構造体自体は溶解させないものでなければならない。あるいは、温度、pH、イオン強度などの条件によって処理工程の間、薄膜状高分子構造体を溶解させないものであればよい。可溶性領域は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸など高分子電解質、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、あるいはデンプン、セルロースアセテートなどの多糖類などの非イオン性の水溶性高分子、ノボラックやポリ(N−アルキルシアノアクリレート)などの樹脂から形成されるものを例示することができる。可溶性領域を形成させる高分子溶液において、高分子の分子量は、1000〜100万、好ましくは5000〜50万であり、濃度は1〜20wt%、好ましくは2〜10wt%の溶液あるいは200〜500cPの粘度である溶液が望ましい。可溶性領域は、上記溶液を薄膜状高分子構造体構築前の基体上に塗布して、10分〜24時間、好ましくは1時間〜12時間乾燥させる。あるいは、キャストまたはスピンコートにて塗布した後、110℃で加熱した鉄板上にて90秒間、塗布した基体を過熱することで溶剤を揮発させ、形成させたものが好ましいが、これらに限定されるものではない。
(2)多官能性分子の吸着、重合、架橋
前記基体の液相との境界面の領域(例えば、SAM又はSABの構造を有する領域)に吸着させるための薄膜の構成要素となる物質としては、例えば多官能性モノマー又は多官能性マクロマーなどの多官能性分子が挙げられる。
多官能性モノマー又はマクロマーは、1分子内に2個以上の同種又は異種の官能基を持つ分子である。多官能性モノマーとしては、例えば、アミノ酸や糖類などアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、イソシアナート基、アルデヒド基、エポキシ基、シアヌル基などを複数持つモノマー、ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン、ビスマレイミドなど複数のビニル基を持つモノマーなどが挙げられる。また、多官能性マクロマーとしては、タンパク質、ポリリシン、ポリグルタミン酸、ポリスチレン/無水マレイン酸共重合体の加水分解体、キトサン、アルギン酸、高分子ビーズ、ポリ乳酸、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトンなどが挙げられるが、マクロマーの末端官能性基や繰り返しユニットの側鎖官能基が複数あるものは全て含めることができる。
なお、モノマー又はマクロマーが単官能性であっても、多官能性のものと混合して使用することが可能である。例えば、ポリスチレンやポリ(ε−カプロラクトン)などの重合体、L−乳酸とグリコール酸との共重合体からなるビーズの表面に多官能性分子(アルブミンなど)を吸着あるいは化学修飾したものを使用することもできる。
タンパク質としては、どのようなものでもよく、限定されるものではない。例えば、水溶性であればBSA(ウシ血清アルブミン)、HSA(ヒト血清アルブミン)などのアルブミン、ヘモグロビン、ミオグロビン、溶解性コラーゲン、フィブリノーゲンなどを例示することができる。あるいは元来水溶性ではなくても、支持膜にて被覆して剥離可能なもの、あるいは溶剤にて支持膜を溶解させた際、溶剤中に安定に分散できるものであれば利用できる。タンパク質は、生体由来サンプルから公知の方法で精製したものを用いてもよく、ペプチド合成機により合成されたペプチドであってもよい。あるいは、目的タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列情報を利用して、公知の方法により組換え型のタンパク質として哺乳動物細胞、大腸菌、酵母菌などの宿主で産生させ、その後精製したものを用いることもできる(Sambrook J and Russel D.Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd edition,CSHL Press,2001等参照)。タンパク質のアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能性基に、たとえばピリジルジスルフィド基、マレイミド基、又はスクシンイミド基を適当な長さのスペーサーを介して結合させたものを用いることもできる。タンパク質は、ラテックスビーズに被覆した形態で用いることもできる。
高分子ビーズとは、ビニル基を持つモノマーを乳化重合、懸濁重合させた粒状物、O/Wエマルジョン法にて粒状化させたもの、あるいは環状化合物をモノマーとして開環重合させたポリマーを界面活性剤で乳化させて粒状にしたもの、多官能性マクロマーを重合させた粒状物を意味する。高分子ビーズは、例えば、ポリスチレン−co−ジビニルベンゼンなどから構成されるラテックスビーズを挙げることができる。また、高分子ビーズは、ポリ乳酸やポリ(乳酸/グリコール酸)あるいはポリカプロラクトンなどの生分解性高分子ビーズを用いることもできる。さらに、多官能性分子(例えば、多官能性モノマー又はマクロマー)は両親媒性分子であってもよい。両親媒性分子としては、例えば1−アシル鎖と2−アシル鎖にジエン基やビニル基を持つ重合性のリン脂質、アミノ酸型脂質、糖脂質類を挙げることができる。
薄膜(薄膜状高分子)は、1種類の分子から形成することもできるし、複数種類の分子を組み合わせて形成することもできる。組み合わせは、複数の多官能性モノマーの組み合わせ、複数の多官能性マクロマーの組み合わせ、または多官能性モノマーとマクロマーとの組み合わせのいずれであってもよい。例えば、多官能性分子として、タンパク質に被覆された高分子ビーズを使用してもよい。
多官能性高分子は、表面処理化基体上のSAM又はSABに吸着して高分子の薄膜を形成するため、吸着する分子(例えば疎水性部分を含み、薄膜を形成する分子)はSAMなどに疎水性部分を配向して配列される。そして上記多官能性分子を吸着後、適宜重合及び/又は架橋を行い、表面処理化基体上(例えばSAM上)に高分子の薄膜を形成させる。
多官能性高分子のSAMへの吸着は、SAM形成基体を多官能性分子の溶液あるいは分散液に接触あるいは浸漬させればよい。それによって多官能性高分子の薄膜を形成させることができる。多官能性分子をSABに吸着して高分子薄膜を形成させるためには、SABの表面の電荷と反対電荷を持つ高分子電解質を吸着させればよい。
また、本発明において、SAM又はSABを形成した基体を、多官能性分子の溶液中から適当な速度で引き出す操作を繰り返したり、多官能性分子の溶液を滴下した基体に空気あるいは窒素などの気体を利用して溶液を押し流し、基体表面に多官能性分子の溶液の流れを作り出すことで、SAM又はSAB上に多官能性分子を吸着させることができる。この場合、気液界面での表面張力を利用した接触であるため、液中接触よりも、より選択的に膜上に多官能性分子を吸着させることができる場合がある。
本発明において、「重合」は、ポリマーの生成反応を意味する。分子の重合法は、重縮合、重付加、付加縮合、開環重合、付加重合(ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合)、熱による固相重合、光重合、放射線重合、プラズマ重合などを挙げることができる。
また、本発明において、「架橋」は、線状高分子中のいくつかの特定の原子間に、化学結合を形成させることを意味する。架橋により、3次元網目状構造が形成する。
分子の架橋法は、イソシアナート基によるウレタン結合やユリア結合、アルデヒド基によるシッフ塩基の形成、メルカプト基によるジスルフィド結合などを挙げることができる。架橋剤としては、アルキルジイミデート類、アシルジアジド類、ジイソシアネート類、ビスマレイミド類、トリアジニル類、ジアゾ化合物、グルタルアルデヒド、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)アルキオネート、ブロモシアン、などを列挙することができる。
また、多官能性マクロマー間の架橋は、マクロマーがタンパク質であれば、熱変性による凝固などの物理的な架橋でもよいし、マクロマーが熱可塑性のある高分子ビーズであれば、加熱によってビーズの表面を部分的に溶融させて物理的に架橋させても良い。あるいは高分子ビーズを完全に加熱溶融させて任意の形状の薄膜を形成させても良い。要するに、本工程は膜の不溶化が目的であるので、その目的が達成される物理架橋であれば、静電的相互作用、双極子相互作用、水素結合、疎水結合を含めることができる。タンパク質の処理条件は、タンパク質の性質に応じて適宜設定できる。例えば、アルブミンの場合は、60〜120℃、好ましくは70〜100℃の温度で、1分〜60分、好ましくは1分〜30分間処理することで熱変性し、架橋させることができる。また、高分子ビーズは、例えばポリスチレン−co−ジビニルベンゼンから構成されるラテックスビーズの場合は、100〜150℃、好ましくは110〜120℃の温度で、1秒〜5分、好ましくは10秒〜60秒間処理することで、部分的に溶解し、架橋させることができる。あるいは、高分子ビーズは、100〜150℃、好ましくは110〜120℃の温度で、30秒〜10分、好ましくは1分〜5分間処理することで、完全に加熱融解させることができる。例えばポリ(乳酸/グリコール酸)から構成される生分解性高分子ビーズの場合は、30〜100℃、好ましくは50〜70℃の温度で、1秒〜30分、好ましくは60秒〜20分間処理することで、部分的に溶解し、架橋させることができる。あるいは、100〜180℃、好ましくは130〜160℃の温度で、30秒〜10分、好ましくは1分〜5分間処理することで、完全に加熱融解させることができる。
重合や架橋を行った後に、更に薄膜を形成する多官能性分子を、すでに薄膜が形成されているSAM又はSAB等の形成基体に吸着させて、重合や架橋を行う作業を繰り返し行ってもよい。
本発明においては、薄膜の構成要素の多官能性マクロマーとして高分子電解質を使用することもできる。例えば、反対電荷の高分子電解質(ポリカチオン及びポリアニオン)の希薄溶液に交互にSAM又はSABなどの表面処理化基体に浸漬することにより、SAM上又はSAB上に高分子電解質を自発的に吸着させ、余剰の高分子電解質を洗浄する工程をはさんで、この操作を繰り返すことによって、ポリカチオンとポリアニオンとが積層された薄膜を形成する。平滑な薄膜作製にあたっては、スピンコート法を利用して、平滑な基体上に滴下された高分子をスピンコーターにて交互に展開しながら、積層させる方法が挙げられる。上記ポリカチオンには、キトサン、コラーゲン、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、アイオネン、ポリ(4級化ピリジン)、ジアリルジアルキルアンモニウム塩の重合体、ポリアリルアミンなどを、ポリアニオンには、アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸やそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を挙げることができる。無水マレイン酸とスチレンの交互共重合体のアルカリ加水分解体も利用できる。
また、有機溶剤に可溶なフォトレジストなどの熱硬化性樹脂上に高分子電解質を吸着させ、交互積層膜を形成させることも可能である。交互積層法は、反対電荷を有する高分子電解質間を静電結合により薄膜を作製する方法であるが、静電結合の他に、高分子間の水素結合や双極子相互作用を利用して製膜することも可能である。
この交互吸着法により形成する積屓膜を構成するポリカチオン及びポリアニオンは、静電力により電荷的に架橋され、薄膜が形成される。また、ポリイオンコンプレックス間のアミノ基とカルボン酸残基間で脱水縮合をさせることにより、アミド基として共有結合にて架橋させ、薄膜を形成させることもできる。
上記のようにして形成される薄膜も、本発明の範囲である。
基体の液相との界面において形成する薄膜は、単層膜でもよいし、積層膜でもよい。
本発明において、多官能性分子の吸着、重合・架橋の処置の前後に、基体を洗浄してもよい。洗浄は、基体を洗浄液に単回あるいは複数回、接触あるいは浸漬させることにより行うことができる。
(3)薄膜のA面へ機能性物質の結合
本発明においては、多官能性分子を重合又は架橋して得られる薄膜のA面に、機能性物質を結合させることができる。あるいはここでは機能性物質を結合させずにA面の多官能性基の一部を機能性物質と見なし、後述の剥離法にて剥離させて膜のB面に機能性物質を結合させて薄膜状高分子構造体を作製することもできる。
「機能性物質」とは、細胞膜上にある認識タンパク質やそのリガンド、抗原や抗体など分子認識能を有する物質や、触媒や酵素など特定の反応を促進する物質、抗酸化剤やラジカル消去剤など特定の反応に関与する物質、あるいはカルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、マレイミド基など電荷や反応に関与する基や配位子などを意味する。また、高分子電解質の電荷(静電相互作用)を利用して機能を発現させる物質も機能性物質に含まれる。例えば、機能性物質としては、ポリエチレングリコールや糖鎖のような高分子化合物、タンパク質、ペプチド、糖鎖、ビオチン誘導体、ポリカチオン及びポリアニオンの高分子電解質からなる群から選ばれる少なくとも一つが挙げられるが、これらに何ら限定されるものではない。尚、ポリカチオン及びポリアニオンとしては、前述したのと同様のものを挙げることができる。
機能性物質の結合法としては、化学的あるいは物理的に結合させる方法がある。化学的に結合させる方法は、機能性物質を薄膜に結合させるには、薄膜を構成する多官能性モノマーあるいはマクロマーに導入されたアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、イソシアナート基、アルデヒド基、エポキシ基、シアヌル基、ビニル基に対して、結合し得る官能基を介して結合させることができる。例えば、機能性物質と薄膜との結合反応が、ヒドロキシル基やアミノ基とイソシアナート基との反応によるウレタン結合やユリア結合、アミノ基とアルデヒド基との反応によるシッフ塩基の形成、メルカプト基同士のジスルフィド結合、メルカプト基とピリジルジスルフィド基やマレイミド基との反応やカルボニル基とスクシンイミド基との反応などを利用することができる。
物理的に結合させる方法としては、機能性物質側と薄膜側との静電的相互作用、疎水性相互作用、水素結合あるいは分子間力などを用いることができる。
あるいは、薄膜側又は機能性物質側にリガンドを導入させておき、機能性物質側又は薄膜側に導入されたアクセプターとのコンプレックスを利用して機能性物質を薄膜上に固定することができる。具体的な組合せとしては、ビオチンとアビジン、糖鎖とレクチン、抗原と抗体、薬物とレセプター、酵素と基質などが挙げられる。
酵素としては、カタラーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ、キモトリプシン、チトクローム、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、ガラクトシダーゼ、グリコセレブロシダーゼ、血液凝固因子、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、プルラナーゼ、イソメラーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースイソメラーゼ、グルタミナーゼ、β−グルカナーゼ、セリンプロテアーゼなどが挙げられるが、これらに何ら限定されるものではない。上記に示す薄膜のA面へリガンド等を導入させた後の機能性物質の結合方法は、支持膜上で行ってもよいし、支持膜を溶解させてからの分散体の態様で反応させてもよい。
(4)可溶性支持膜の形成および支持膜と薄膜の剥離
本発明において、可溶性支持膜とは、アセトン、酢酸エチル、アルコール類、水、水溶液等の溶剤に可溶な高分子膜からなるものであるが、これらに限定されるものでない。溶剤の選択は、薄膜状高分子構造体を溶解させないものである必要がある。可溶性支持膜は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸など高分子電解質、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、あるいはデンプン、セルロースアセテートなどの多糖類などの非イオン性の水溶性高分子、ノボラックあるいはポリ(N−アルキルシアノアクリレート)などの樹脂から形成されるものを例示することができる。可溶性支持膜あるいは領域を作製する高分子溶液において、高分子の分子量は、1000〜100万、好ましくは5000〜50万であり、濃度は1〜20wt%、好ましくは2〜10wt%の溶液であることが望ましい。可溶性支持膜は薄膜状高分子構造体を構築した基体上に塗布して、10分〜24時間、好ましくは1時間〜12時間乾燥させることで形成させる。基体上への塗布の方法としては、キャスト法、スピンコート法などがあるが、これらに限定されるものではない。可溶性支持膜はピンセットなどを用いて、基体より薄膜状高分子構造体とともに剥離される。このとき、可溶性支持膜と薄膜状高分子構造体との間には、静電的相互作用、水素結合、ファンデルワールス力などの2次結合力によって、剥離と同時に薄膜を支持膜に移し取ることが可能となる。一方、可溶性の領域は基体上にて溶解することで、薄膜が液体中に分散してなる分散体を得ることができる。この時、分散体は、薄膜状高分子構造体が形成された基体を静置することが可能なサイズかつ、溶剤に対して不溶な容器中に基体を静置することで基体からの剥離が可能である。また、形成された基板の4隅を注射針のような鋭利な刃物で削ることで、より迅速に分散体を剥離することが可能となる。
(5)支持膜側の薄膜のB面への機能性物質の結合、支持膜の溶解
本発明において、構造体が可溶性支持膜あるいは目的とする界面に移し取られた構造体であってもよく、B面が液相との界面と接するように浸漬あるいは浮遊させるように置く。このとき、可溶性支持膜が不溶、あるいは難溶の溶液中で前述した機能性物質を結合させることができる。あるいは、機能性物質を結合させずにB面自体の多官能性基の一部を機能性物質と見なして薄膜状高分子構造体を作製することもできる。
例えば、支持膜としてポリアクリル酸を使用した場合、pH1〜6、好ましくはpH3〜5、10mM〜1M、好ましくは100mM〜500mMの塩濃度の水溶液に浸漬させることで、ポリアクリル酸が溶解することなく、あるいは溶解する前に、機能性物質を反応させることができるが、これに限定されるものではない。機能性物質をB面の薄膜上に化学的に結合させるためには、薄膜を構成する多官能性モノマーあるいはマクロマーに導入されたアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、イソシアナート基、アルデヒド基、エポキシ基、シアヌル基、ビニル基に対して、結合し得る官能基を介して結合させることができる。例えば、機能性物質と薄膜との結合反応が、ヒドロキシル基やアミノ基とイソシアナート基との反応によるウレタン結合やユリア結合、アミノ基とアルデヒド基との反応によるシッフ塩基の形成、メルカプト基同士のジスルフィド結合、メルカプト基とピリジルジスルフィド基やマレイミド基との反応やカルボニル基とスクシンイミド基との反応などを利用することができる。物理的に結合させる方法としては、機能性物質側と薄膜側との静電的相互作用、疎水性相互作用、水素結合、分子間力などを用いることができる。あるいは、薄膜側又は機能性物質側にリガンドを導入させておき、機能性物質側又は薄膜側に導入されたアクセプターとのコンプレックスを利用して機能性物質を薄膜上に固定することができる。具体的な組合せとしては、ビオチンとアビジン、糖鎖とレクチン、抗原と抗体、薬物とレセプター、酵素と基質などが挙げられる。上記に示す薄膜のB面へリガンド等を導入させた後の機能性物質の結合方法は、支持膜上で行ってもよいし、支持膜を溶解させてからの分散体の態様で反応させてもよい。
機能性物質を結合させた後、支持膜を溶解することで、A面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体の分散液を得ることができる。A面とB面に結合される機能性物質は、同一のものでもよく、別々のものでもよい。このとき、未結合の機能性物質、溶解した支持膜は、遠心分離操作やろ過、限外ろ過操作によって、除去することができる。「別々の」とは、互いに相違する、という意味であり、A面に結合する機能性物質と、B面に結合する機能性物質の種類や性質が互いに異なることを意味する。例えば、前述のビオチンとアビジン、糖鎖とレクチン、抗原と抗体、薬物とレセプター、酵素と基質などは、所定の物質とその結合相手との関係にあり、別々の機能性物質であるといえる。一方、A面とB面に同一の機能性物質を結合したときは、例えば、A面とB面の機能性物質に同一の結合相手が結合することができる。この場合、機能性物質の結合相手の反応点が1箇所であれば、機能性物質を介して結合相手がA面とB面に結合した構造体を形成することができるし、機能性物質の結合相手の反応点が2箇所以上であれば、構造体は機能性物質を介してその結合相手とともに凝集体を形成したり、さらに、機能性物質もしくはその結合相手のどちらか一方を多く入れれば凝集体の解離現象を引き起こすこともできる。また、A面とB面に機能性物質を結合させなくとも、交互積層法にて例えばA面がポリカチオンでB面がポリアニオンになる様に操作しておけば、その解離基を機能性物質とみなして薄膜状高分子構造体を作製すこともできる。
本明細書において、ビオチン誘導体とは、アミノ基、カルボキシル基等の官能基、ピリジルジスルフィド基、スクシンイミジル基等の活性エステル基を結合させたビオチンを意味する。
本発明のシートは、薬物運搬体(例えば、薬物送達系における機能性担体または血小板代替物)として用いることもできる。薬物運搬体として用いるときには、前記修飾には、例えば、(a)薬物、(b)標的組織/細胞を特異的に認識する部位を含む物質(特異的認識物質)、また(c)構造体を体内で安定化させるための物質であってもよい。これらの機能性物質の具体例は以下の通りである。
(a)薬物:抗炎症剤、止血剤、血管拡張薬、血栓溶解剤、抗動脈硬化剤など
(b)特異的認識物質:コラーゲン、ラミニン、VCAM−1、セレクチン、フィブリンなど
(c)構造体を安定化させる物質:ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、多糖類、ポリグルタミン酸など
任意の機能性物質を結合させる方法は、例えば、任意の物質のヒドロキシル基やアミノ基に対しては構造体のイソシアナート基によるウレタン結合やユリア結合、任意の物質のカルボキシル基を活性化させての構造体のアミノ基とのアミド結合、任意の物質のアミノ基と構造体のアミノ基間をグルタルアルデヒドによるシッフ塩基で結合、任意の物質のカルボキシル基に対しては構造体のアミノ基やヒドロキシル基とのアミド結合やエステル結合、任意の物質が多糖類でありそのヒドロキシル基に対しては臭化シアンによるイミドカルボネートを形成させた後、構造体のアミノ基と架橋させる方法、任意の物質のメルカプト基に対しては構造体の活性化メルカプト基間とのジスルフィド結合などを挙げることができる。あるいは、架橋剤を用いて、アルキルジイミデート類、アシルジアジド類、ジイソシアネート類、ビスマレイミド類、トリアジニル類、ジアゾ化合物、グルタルアルデヒド、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)アルキオネート、ブロモシアン、などを用いて対応する官能基と架橋させることができる。あるいは、任意の物質が疎水性であれば薄膜状構造体の疎水性領域に疎水性相互作用にて、水素結合性であれば構造体の水素結合性領域に水素結合にて、電荷をもっていれば構造体の反対電荷の領域に静電的相互作用にて結合させることができる。
本発明の更なる別の態様においては、基体に形成された可溶性支持膜上に貼り付けられた薄膜状高分子構造体のB面に同一又は別の機能性物質を結合させた後、支持膜を溶解させる前に、この構造体を支持膜、あるいは支持膜と基体と共に、任意の界面に接着させ、支持膜を溶解させることで、基体も剥離させて、界面側に薄膜状高分子構造体を移し取ることができる。
例えば、実施例に示すとおり、ポリプロピレン基板上にポリビニルアルコールをスピンコートさせ、アセトン中にてポリプロピレン基板からポリビニルアルコールシートを剥離し、シリコンゴム基板上にポリビニルアルコールシートを搭載(再吸着)させる。薄膜状高分子構造体をポリビニルアルコールシート上に搭載した状態で皮膚へ貼り付け、水を用いてポリビニルアルコールシートを溶解させると薄膜状高分子構造体を皮膚に移し取ることができる。この時、基板には、シリコンゴムの他、ポリエチレン、ポリプロピレン等の汎用高分子材料や、伸縮性を有するエラストマーやゴムなどを用いても良い。また、付着の対象となる界面は、細胞、組織、臓器、血管壁、粘膜、角膜、皮膚、毛髪、又は爪などの生体部位の表面なども対象にできる。また、薄膜状高分子構造体上で皮膚、角膜等を培養し、構造体上と共に剥離した構造体としてもよい。例えば、基体/可溶性支持膜/薄膜状高分子構造体上で皮膚、角膜、臓器の組織等を培養し、構造体と共に剥離した薄膜状高分子構造体とすることができる。任意の界面に貼付または塗布などにより付着させた薄膜状高分子構造体は、液中に分散状態の薄膜状高分子構造体とは形態が異なる場合がある。例えば、前者は界面上に拡がった形状で固定された状態であるが、後者は拡がったり丸まったり折りたたまれたりする動的な形状である。また、機能性物質も前者では界面との相互作用によってその構造が変化している場合もある。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1−1〕 親疎水性マイクロパターン基板上でのアルブミン(HSA)ナノシートの作製
酸化シリコン基板(SiO2)基板上にオクタデシルトリメトキシシラン(ODMS)を蒸着、ポジ型フォトレジストをスピンコーターにて塗布し(800rpm,3秒+7000rpm,20秒)、加熱乾燥させた(110℃,90秒)。フォトマスク(長方形;10μm×30μm)をしてUV照射させた後(7秒)、現像処理、乾燥操作を経て基板上にレジストパターンを得た。O2プラズマ処理(30秒)にてレジスト未保護のODMSを除去後、アセトンでレジストを除去することで、親疎水性マイクロパターン基板(ODMS−SiO2基板)を構築した(図1)。
HSAに対してLC−SPDP(10当量)を添加(室温,20分)、ゲルろ過(GPC)精製後、PD−HSAを得た。続いて、dithiothreitol(DTT)にてPD基を還元、遊離した2−thiopyridone(2TP,ε=8.1x103 M−1cm−1,343nm)より、HSA1分子にPD基7.4±1.2分子結合したことを確認し、GPC精製後、HSA−SHを得た。ODMS−SiO2基板にrhodamine標識HSA−SHを浸漬(室温,1時間)、未吸着HSA−SHを除去後、さらに銅イオンを含む酢酸緩衝液中で浸漬させ([Cu2+]=100μM,室温,12時間)、ジスルフィド架橋させ、HSAナノシートを構築した。
〔実施例1−2〕 HSAナノシートのポリ(ビニルアルコール)(PVA)支持膜を用いた剥離
基板上にPVA水溶液(2.5wt%)をキャスト後、デシケータ内にて静置(室温,12時間)、乾燥させたところ、PVA膜はピンセットにて簡便に剥離できた(図1,図2a)。そこで、PVA膜あるいは剥離後のODMS−SiO2基板を蛍光顕微鏡にて観察したところ、PVA上にはパターン状に配列したHSAナノシートが観察され(図2b)、PVA膜を剥離後の基板上には、HSAナノシートは確認できなかった。これは、HSAナノシートとODMS間の疎水性相互作用は乾燥時には働かず、両者間はVander Waals力のみとなる一方、HSAナノシートとPVA膜間には静電的相互作用が誘起されるため、ナノシートのパターンはPVA膜に移し取られた。従って、PVAによって簡便にナノシートを剥離することが確認できた。この方法により、PVA膜を支持膜とし、シートのA面、B面に別々の機能物質を修飾できる可能性が示された。
〔実施例1−3〕 HSAナノシートB面へのラテックスビーズ修飾
HSAに7−chloro−4−nitrobenzo−2−oxa−1,3−diazole(NBD−Cl)を反応させNBD標識HSAを得た。ラテックスビーズ(LB)(直径100nm)にNBD標識HSAを添加(室温,2時間)、超遠心、再分散を経て(NBD)HSA−LBを得た。吸着HSAのリジン残基のアミノ基を標的とし、LC−SPDP(室温,20分)、DTT(室温,10分)を順に添加してSH−(NBD)LBを得た。
ローダミン(Ex=545nm,Em=580nm)標識HSAナノシートをPVA膜にて剥離後、そのまま裏返した。フタル酸緩衝液(pH4.0)を塗布した直後に、N−[ε−maleimido caproyloxy]succinimide ester(EMCS)を添加し(室温,5分)、maleimido基を導入した。PBSにてPVA膜を溶解させた後、NBD(Ex=475nm,Em=540nm)標識SH−LBを添加して、HSAナノシートのB面にLBを結合させた(図3)。
LB修飾HSAナノシートを543nmで励起させ、検出波長(>560nm)として共焦点顕微鏡観察したところ、湾曲したシート全面が赤色に発光した。そこで、458nmで励起させ、NBDのみの検出波長(505〜530nm)に設定したところ、シート状に黄色発光が認められたが、特に湾曲部が消光(蛍光エネルギー移動)した様子が観察できた。これは、湾曲部のB面にLBが存在していることを示している。
〔実施例1−4〕 HSAナノシートのAFM観察
ODMS−SiO2基板にHSAナノシートを構築した後、原子間力顕微鏡にて観測したところ、長方形(10×30μm)の疎水性ODMS領域部位にのみにHSAが選択的に吸着していることを蛍光顕微鏡観察時と同様に確認できた(図4a)。そこで、SiO2表面とHSAナノシートの高低差から膜厚を算出したところ6.5nmであった。同様に、HSA未吸着のODMS領域の膜厚は3.5nmであり、その差よりHSAナノシートの膜厚は約3nmであることが確認できた(図4b,c)。従って、HSAナノシートはほぼHSA分子(正三角柱;正三角形1辺8nm、高さ3nm)1層が2次元架橋にしたものであった。
〔実施例2−1〕 (HSA)LBシートのポリ(アクリル酸)(PAA)支持膜を用いた剥離
ドデシルトリメトキシシラン(DMS)パターン基板(DMS−SiO2)上のDMS領域に(HSA)LB選択的に吸着、熱融合させ、ナノシートを得た。その基板上ポリアクリル酸(重量平均分子量450,000、50mg)をメタノール/水混合溶媒(9/1)(体積/体積)1mLに溶解させ、(HSA)LBシートを構築した基板上にキャストし、終夜乾燥させた後、基板よりPAA支持膜を剥離し、柔軟かつ強靭な透明膜を得た。PAAは支持膜として(HSA)LBシートを担持したまま剥離可能であった。
(HSA)LBシートを捕捉したメンブレンフィルターを電解放射型走査型電子顕微鏡(HITACHI S−4500,10kV,四酸化オスミウム被覆)にて観察した。図5(a)は表面が平滑であることから、シートを構築した際基板側(B面)であり、図5(b)は表面に微粒子の凹凸が現れていることから、シートを構築した際分散液側(A面)であったと考えられる。
〔実施例2−2〕 A及びB面に別々の蛍光分子で修飾した(HSA)LBシートの作製(図6)
Tetramethylrhodamine 5−(and−6−)−isothiocyanate(TRITC)(5mg)に0.1規定水酸化ナトリウム水溶液300μLを加え、撹拌して溶解させた。ここにリン酸緩衝食塩水900μLを加え、中和させた。ここから2μL分取し、リン酸緩衝食塩水にて5mLとし、3.76μmol/L TRITC水溶液を得た。10mLバイアル瓶に(HSA)LBシート構築基板を静置し、TRITC水溶液1mLを加え、20分間浸漬させ、A面のHSAにTRITCを結合し、超純水にて洗浄、乾燥させた。
ポリアクリル酸(重量平均分子量450,000、50mg)をメタノール/水混合溶媒(9/1)(体積/体積)1mLに溶解させ、(HSA)LBシート構築基板上にキャストし、終夜乾燥させた後、基板よりポリアクリル酸膜を剥離することでTRITC修飾(HSA)LBシートを剥離させた。
Fluorescein−4−isothiocyanate(FITC)(5mg)に0.1規定水酸化ナトリウム水溶液300μLを加え、撹拌して溶解させた。ここにリン酸緩衝食塩水900μLを加え、中和させた。ここから2μL分取し、塩化ナトリウムを飽和させたフタル酸緩衝液にて5mLとし、4.28μmol/L FITC水溶液を得た。10mLバイアル瓶内にシートB面が上向きになるように載せ、FITC水溶液1mLを徐々に加えて20分間静置し、シートのB面にFITCを結合した。反応後上清を除去し、リン酸緩衝食塩水を加えてポリアクリル酸を溶解させた。
両面修飾(HSA)LBシート分散液を、メンブレンフィルター(孔径0.4μm)、N2ガスを用いて加圧ろ過後、超純水を通してフィルターを洗浄し、両面修飾(HSA)LBシートを得た。(図6)
(HSA)LBシートのA面、B面にTRITCあるいはFITCを結合させた(HSA)LBシートを回収したメンブレンフィルターにリン酸緩衝液(pH7.6)を滴下し、ガラス板に貼り付けた。シートをガラス板へ移し取った後、寒天にて固定し、共焦点顕微鏡観察したところ、A面にローダミン、B面にFITCが混在することなく結合し、表裏が独立して蛍光物質と反応したことが確認された(図7)。従って、PAA膜が溶解しにくい条件に設定すれば(低pH,高イオン強度)、(HSA)LB表面のアミノ基(HSA由来)を標的として機能性分子をA面、B面に結合可能であることが証明できた。
〔実施例3−1〕 交互積層ナノシートの作製
本実施例では、以下のステップでLbLナノシートを作製した。(図8)
1.シリコンウェーハ(2cm x 2cm)上にレジストを支持膜としてスピンコート(800rpm,3秒/7000rpm,20秒)
2.キトサン(Mw:88kDa,1mg/mL,1%酢酸/0.5M NaCl)水溶液に浸漬(室温,20分)
3.超純水にて基板表面を洗浄(室温,1分)、窒素ガスにて表面を乾燥
4.アルギン酸ナトリウム(Mw:106kDa,1mg/mL,0.5M NaCl)スピンコート(4500rpm,15秒)した後、超純水にて2度基板表面をスピンコートし、洗浄
5.キトサンを4の条件にてスピンコート
6.以降、4.から6.の工程を繰返し、21層からなるLbLナノシート固定基板を作製
アセトンにて支持膜を溶解し、LbLナノシートを剥離、回収
〔実施例3−2〕 LbLナノシートの観察
スピンコートにて交互積層させた基板をアセトン中に浸漬したところ、アセトンに可溶なレジスト層のみが徐々に溶解し、基板の淵側から徐々に無色透明のLbLナノシートが剥離する様子が観察された。さらに静置したところ(約20分)、基板の形状を完全に維持したままアスペクト比100万を超すLbLナノシートの剥離に成功した(図9a)。剥離したシートを金属枠で掬い大気中に取り出すことも可能であり、乾燥してもシートは破断しなかった(図9b)。
剥離したLbLナノシートを別のSiO2基板表面に吸着させ、原子間力顕微鏡にて観測したところ、SiO2表面の平滑性と同様にLbLナノシート表面が極めて平滑であることが観測された(図10a,b)。これは、スピンコート法特有の機械的応力に伴う高分子電解質の水平拡散が反映された結果と考えられる。また、NaCl添加に伴う高分子電解質側鎖の遮蔽効果によりLbLナノシート内の高分子鎖間静電的相互作用の緩和も、平滑性の向上に寄与したものと考えられる。また、SiO2表面とLbLナノシートの高低差から膜厚を測定したところ、30.2±4.3nmであることが確認された(図10c)。この膜厚は、エリプソメトリーにて、SiO2基板上にレジストを用いずに作製した10.5対からなるLbL膜の厚さ(30.7±45nm)とほぼ一致していることが確認された(図11)。
〔実施例3−3〕 水溶性支持膜を利用したA及びB面に別々の機能性物質を有するLbLナノシートの作製
本実施例では、以下のステップでA及びB面に別々の機能性物質を有するLbLナノシートを作製した。(図12)
1.SiO2基板上に10wt%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液を約1mL滴下し、乾燥
2.PVA固相化SiO2基板上にLbLナノシートを吸着
3.ナノシート吸着基板を粒径200nmのラテックスビーズ(LB)分散液(1mg/mL,pH4)中に浸漬(室温,15分)
4.pH7.0のリン酸緩衝液にてPVAを溶解することにより、A面に200nm LB修飾ナノシートを剥離
5.4.で剥離したナノシートを反転後、B面を表にした状態でPVA固相化SiO2基板上に再吸着
6.5.で作製したA面修飾ナノシート吸着基板を、粒径2μmのLB分散液(1mg/mL,pH4)中に浸漬(室温,15分)
7.4.と同様の方法にてpH7.0のリン酸緩衝液にてPVAを溶解することで、AおよびB面に異なる粒径のLBで修飾したLbLナノシートを剥離、回収
〔実施例3−4〕 LB修飾LbLナノシートの観察
粒径2μmのLB分散液([suspension]=5mg/mL,pH4)中にLbLナノシート吸着PVA基板を浸漬させ、ナノシートA面に選択的にLBを担持させたところ、ナノシート淵部の折り目を境界にしてナノシートの構造色が異なり、折り返し面中のLB群がナノシートによって被覆されている様子が観察された。特に、折り返し面中のLB群周辺部では、ナノシートの構造色が折り返さない面と一致することを確認した(図13)。これは、ナノシートのような平滑な薄膜内部にLB粒子が局在することにより、部分的に薄膜干渉が抑制されたためと考えられる。以上から、LBをナノシートのA面に対してのみ選択的に修飾することに成功した。
次に、実施例3−3の方法でナノシートのA面、B面にそれぞれ2μmと200nmのLBを担持させ、走査型電子顕微鏡にて観察したところ、A面に担持させた200nm LBが、B面に担持した2μm LB上にナノシートを挟んで点在する様子が観察された(図14)。また、B面のLBの輪郭がナノシートの被覆によって表出し、シートA面に破断箇所が見られないことから、ナノシートの柔軟性が確認された。
〔実施例3−5〕 水溶性支持膜を利用したLbLナノシートの作製と皮膚への接着
本実施例では、以下のステップでナノシートを作製し、皮膚へ接着させた。(図15)
1.ポリプロピレン基板(5cm x 5cm)上にポリビニルアルコール(PVA)を支持膜としてスピンコート(800rpm,3秒/7000rpm,20秒)
2.アセトン中にてPVAをポリプロピレン基板からシート状(サイズca 5cm x 5cm,膜厚ca 1.3μm)に剥離
3.シリコンゴム基板上にPVAシートを搭載(吸着)
4.蓄光剤担持LbLナノシートをPVA搭載シリコンゴム基板上に吸着
5.皮膚に4.のシリコンゴム基板を接着させ、水にてPVAシートを溶解させながらシリコンゴム基板を剥離させて、皮膚に蓄光剤担持LbLナノシートを接着
PVA−シリコンゴム板上に蓄光剤担持LbLナノシートを吸着させ、皮膚表面に貼付したところ、ナノシート表面のわずかな反射から、シリコンゴム板状でのナノシートの存在が確認できた(図16a矢印)。そこで、皮膚表面を少量の水で濡らし、同様に貼付したところ、瞬時にPVA層が溶解し、基体であるシリコンゴムを剥離させて容易にLbLナノシートを皮膚上に移し取ることに成功した。皮膚表面に吸着したLbLナノシートは、可視光下ではその存在を確認することが困難であり(図16b)、LbLナノシートの密着性は高い。他方、ブラックライトにて皮膚上のシート接着部位を照射したところ、蓄光剤の発光からLbLナノシートがシリコンゴム基板上での形状を維持したまま、皮膚表面に貼付されている様子が観察された(図16c)。以上から、アスペクト比100万を超すナノシートが皮膚上に適応可能であることが示された。
〔実施例4−1〕ディスク状パターン(3μm)を用いたPLGAナノシートの調製とフィブリノーゲン由来ドデカペプチド(H12)の両面修飾(図17)
本実施例では、PLGAナノシートの構築とH12の両面修飾を行った。PLGAナノ粒子分散液(1x1011particles/mL,pH7.4)をODSディスク状パターン基板上に滴下しN2ガスで吹き流したところ、PLGAナノ粒子は基板全体に一様に吸着したが、超純水での洗浄操作を数回繰返すと、ODS領域のみ密に吸着したまま留まり、選択的に吸着していることが観察された(図18(a))。また、吸着したナノ粒子はドットパターン上に密に配列しており円形も維持されていた(図18(b))。加熱融合後(60℃,2分)、図17に示すスキームに従い、表裏面にH12を結合させ分散させたH12−PLGAナノシートを調製した。
〔実施例4−2〕H12−PLGAナノシートと活性化血小板との相互作用
H12−PLGAシート(300μL,約3.0 x 106sheets)に血小板(600μL,6.0 x 106個)を添加後、アデノシン5’−二リン酸(1mM,90μL)にて血小板を活性化させ、振とうさせた(30min,37℃)。グルタルアルデヒド(1.0%)にて固定化後、poly(L−lysine)固定化基板上に吸着させた後(1hr,r.t.)、1%(w/v)四酸化オスミウム固定、アルコール脱水操作を行い、同様に走査型電子顕微鏡にて観察した。
その結果、活性化血小板はシート両面に特異的に結合し、ナノシートのディスク状を保持していた(図19)。
〔実施例4−3〕流動状態下におけるH12−PLGAナノシートの接着挙動観察
抗凝固剤PPACK(f.c.40μM)を添加した血液([PLT]=20 x 104/μL,500μL)にH12−PLGAナノシート(8.0 x 106sheets)を添加し、コラーゲン固定基板上に低ずり速度(100s−1)にて流動させ、蛍光顕微鏡、CCDカメラを用いてビデオ録画した。
FITC標識したH12未結合のPLGAナノシート分散液を全血に添加し、コラーゲン固定化基板上を流動(ずり速度100s−1)させたところ、基板上に接着(ローリング)するものの、ほとんど粘着しなかった(図20)。そこで、A面のみにH12を結合させたPLGAナノシート、あるいは両面にH12−PLGAナノシート分散液を同様に流動させたところ、H12結合量の増大(Aのみと両面修飾の比較)と共に不可逆的に粘着するシートが増大した(図20)。この効果は、シートに結合させたH12と、コラーゲン基板上に粘着した活性化血小板との特異的な相互作用によるものと判断できた。従って、活性化血小板との接着機能(速度を緩める効果)と、不可逆的粘着機能を持ち併せるには、H12を両面に修飾した方が良いと考えられた。
〔実施例4−4〕H12−PLGAナノシートの血小板凝集促進能評価
血小板減少血液の血小板(f.c.1.0 x 104/μL)にのみFITC標識し、コラーゲン固定化基板上を流動(ずり速度100s−1)させたところ、血小板は経時的に粘着し、180秒後の粘着占有率(SC)は0.9%であった(図21(b),及び(c)の「□」)。そこで、未蛍光標識のH12−PLGA sheets分散液を添加したところ、血小板のSCは60秒後から急激に増大し、180後では約3倍増大した(SC:2.6%)(図21(a),及び(c)の「○」)。これは、H12−PLGA sheetsの粘着は、まず血小板の基板上への粘着によって誘導されることを示唆し、活性化血小板上にH12−PLGA sheetsが粘着し、さらに流動血小板がそれを介して誘導・粘着されたためと考えられる。
従って、H12−PLGA sheetsはH12−PLGA sheetsが平坦な足場になり、表面積が増大し流動血小板の凝集促進能を向上させることができる可能性が示された。
〔実施例5−1〕水溶性支持膜を利用したPLAナノシートの剥離
PLA(重量平均分子量:80,000)ジクロロメタン溶液(5mg/mL)をSiO2基板上でスピンコートし(4000rpm,20秒)、加熱乾燥させ(50℃,90秒)、触針膜厚計を用いて膜厚を測定したところ、23±5nmであった。次いで、2wt%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液をキャスト、加熱乾燥させたところ(70℃,15分)、PVAキャスト膜はピンセットで簡便に剥離可能であり、柔軟かつ強靭な透明膜を得た(図22(a))。PVAキャスト膜を純水中に浸漬させると、瞬時にPVAが溶解すると同時に、無色透明なPLAナノシートの分散体が得られた(図22(b))。この方法を用いれば、種々の膜厚のPLAナノシートを剥離可能であり、PLGAナノシート(膜厚18±6nm)、PCLナノシート(膜厚18±5nm)の分散体も得られた。さらに、PLAナノシートの分散体を金属枠で掬い大気中に取り出すことも可能であり、乾燥してもシートは破断しなかった(図22(c))。
〔実施例5−2〕A面とB面に別々の機能性物質を有するPLAナノシートの構築
20mg/mL PVA水溶液をSiO2基板上にスピンコートし、加熱乾燥した(70℃,15分)。次いで、5mg/mL PLAジクロロメタン溶液をスピンコートし、加熱乾燥させ(70℃,15分)、PLAナノシートを作製した。
PLAナノシートSiO2基板のA面の接触角は74±5°であった(図23(a)、表1)。そこで、PLAナノシートSiO2基板のA面上に遺伝子組換えヒト血清アルブミン(rHSA)水溶液(50mg/mL)を塗布し、1時間室温で静置後、純水にて基板のA面上を洗浄した。乾燥後の接触角は21±3°と顕著に減少し(図23(b)、表1)、基板のA面にrHSAが修飾されたと考えられる。
次いで、この基板を純水中に浸漬させると、PVA犠牲膜が溶解し、PLAナノシートを剥離させた。このPLAナノシートのB面が表になるようにSiO2基板に貼付し、純水洗浄操作を経て乾燥させた。この接触角は78±6°であり(図23(c)、表1)、rHSA吸着前のA面とほぼ同等であり、B面にはrHSAは存在しないと考えられる。従って、A面とB面に別々の機能性物質を有するPLAナノシートの構築に成功した。
以下の(1)〜(5)の方法にて、SiO2基板上に直接LbLナノシートを構築した。
(1)キトサン(Mw:88kDa,1mg/mL,1%酢酸/0.5M NaCl)水溶液をスピンコート(4500rpm,15秒)
(2)超純水にて2度基板表面をスピンコートし、洗浄
(3)アルギン酸ナトリウム(Mw:106kDa,1mg/mL,0.5M NaCl)スピンコート(4500rpm,15秒)
(4)超純水にて2度基板表面をスピンコートし、洗浄
(5)以降、(1)から(4)の工程を繰返し、21層からなるLbLナノシート固定基板を作製
次いで、蓄光剤を少量担持させたLbLナノシート−SiO2基板上に、10wt%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液をキャスト、デシーケータ内で乾燥させたところ(室温,12時間)、PVAキャスト膜上にLbLナノシートを写し取った状態で剥離することに成功した。
そこで、LbLナノシート側がラット盲腸に接するようにPVA膜ごとを貼付し、生理食塩水でPVAを溶解させると、LbLナノシートのみが残り(ブラックライト下で観察)、盲腸の形状通りに密着して貼り付けることができた(図24)。
Claims (39)
- 膜の表面(A面)と裏面(B面)に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体。
- 膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体であって、以下の工程:
(a)基体の液相との界面における任意形状の領域に多官能性分子を吸着させ、
(b)吸着させた多官能性分子を重合及び/又は架橋して高分子の薄膜を形成させ、
(c)形成させた薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、さらにその上に可溶性支持膜を形成させ、
(d)前記薄膜および可溶性支持膜を基体から剥離させ、
(e)薄膜のB面に、A面に結合させた機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させること
により得られた前記構造体。 - 膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体であって、以下の工程:
(a)基体の液相との界面における任意形状の可溶性の領域に多官能性分子を吸着させ、
(b)吸着させた多官能性分子を重合及び/又は架橋して高分子の薄膜を形成させ、
(c)形成させた薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、
(d)可溶性の領域を溶剤にて溶解させることによって薄膜を基体から剥離させ、
(e)前記基体とは別の基体に形成させた可溶性支持膜上に、剥離させた薄膜のA面を貼付し、
(f)薄膜のB面に、前記機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させること
により得られた前記構造体。 - 多官能性分子を重合及び/又は架橋させる工程に、さらに反対電荷の高分子電解質を交互に積層させて電荷的に架橋させる工程を含む、請求項2又は3に記載の構造体。
- 多官能性分子が多官能性モノマー及び/又は多官能性マクロマーである請求項2から4のいずれか1項に記載の構造体。
- 多官能性マクロマーがタンパク質、ポリ乳酸、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体及びポリカプロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項5記載の構造体。
- 多官能性マクロマーが高分子電解質である請求項5記載の構造体。
- 多官能性マクロマーが高分子ビーズである請求項5記載の構造体。
- 多官能性分子が多官能性マクロマーであり、多官能性マクロマーの架橋が、物理的架橋又は融解によるものである請求項2又は3に記載の構造体。
- 物理的架橋が、熱変性又は熱可塑性によるものである、請求項9記載の構造体。
- 機能性物質が、高分子化合物、高分子電解質、タンパク質、ペプチド、糖鎖及びビオチン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1から3のいずれか1項に記載の構造体。
- 高分子化合物がポリエチレングリコールを含むものである請求項11記載の構造体。
- 領域が自己組織化単分子膜又は自己組織化二分子膜の構造を有する領域である請求項2又は3に記載の構造体。
- 自己組織化単分子膜が、末端にSH基、クロロアルキルシリル基、アルコキシアルキルシリル基及びビニル基からなる群から選ばれる少なくとも一つの基を持つ直鎖状疎水性分子から形成されるものである請求項13記載の構造体。
- 基体の全部又は一部が、金属若しくはその酸化皮膜、シリコン、シリコンゴム、シリカ、ガラス、マイカ、グラファイト、有機高分子、及びアパタイトからなる群から選ばれる少なくとも一つからなるものである請求項2又は3に記載の構造体。
- 可溶性支持膜又は可溶性の領域が、高分子電解質、非イオン性の水溶性高分子又は樹脂から形成されるものである請求項2又は3に記載の構造体。
- 溶剤が、アセトン、酢酸エチル、アルコール類、水および水溶液の中から選ばれ、かつ薄膜状高分子構造体は溶解させないものである請求項2又は3に記載の構造体。
- 請求項1〜17のいずれか1項に記載の構造体が液体中に分散してなる分散体。
- 請求項1〜17のいずれか1項に記載の構造体が界面に付着された薄膜状高分子構造体。
- 界面が細胞、組織、臓器、血管壁、粘膜、角膜、皮膚、毛髪及び爪からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面である請求項19記載の薄膜状高分子構造体。
- 膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体の調製方法であって、以下の工程:
(a)基体の液相との界面における任意形状の領域に多官能性分子を吸着させ、
(b)吸着させた多官能性分子を重合及び/又は架橋して高分子の薄膜を形成させ、
(c)形成させた薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、さらにその上に可溶性支持膜を形成させ、
(d)前記薄膜および可溶性支持膜を基体から剥離させ、
(e)薄膜のB面に、A面に結合させた機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させること
を含む前記方法。 - 膜のA面とB面に機能性物質を有する薄膜状高分子構造体の調製方法であって、以下の工程:
(a)基体の液相との界面における任意形状の可溶性の領域に多官能性分子を吸着させ、
(b)吸着させた多官能性分子を重合及び/又は架橋して高分子の薄膜を形成させ、
(c)形成させた薄膜のA面に機能性物質を結合させた後、
(d)可溶性の領域を溶剤にて溶解させることによって薄膜を基体から剥離させ、
(e)前記基体とは別の基体に形成させた可溶性支持膜上に、剥離させた薄膜のA面を貼付し、
(f)薄膜のB面に、前記機能性物質と同一又は別の機能性物質を結合させた後、可溶性支持膜を溶剤にて溶解させること
を含む前記方法。 - 多官能性分子を重合及び/又は架橋させる工程に、さらに反対電荷の高分子電解質を交互に積層させて電荷的に架橋させる工程を含む、請求項21又は22に記載の方法。
- 多官能性分子が多官能性モノマー及び/又は多官能性マクロマーである請求項21または22に記載の方法。
- 多官能性マクロマーがタンパク質、ポリ乳酸、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体及びポリカプロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項24記載の方法。
- 多官能性マクロマーが高分子電解質である請求項24記載の方法。
- 多官能性マクロマーが高分子ビーズである請求項24記載の方法。
- 多官能性分子が多官能性マクロマーであり、多官能性マクロマーの架橋が、物理的架橋又は融解によるものである請求項21又は22に記載の方法。
- 物理的架橋が、熱変性又は熱可塑性によるものである、請求項28記載の方法。
- 機能性物質が、高分子化合物、高分子電解質、タンパク質、ペプチド、糖鎖及びビオチン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項21または22に記載の方法。
- 高分子化合物がポリエチレングリコールを含むものである請求項30記載の方法。
- 領域が自己組織化単分子膜又は自己組織化二分子膜の構造を有する領域である請求項21又は22に記載の方法。
- 自己組織化単分子膜が、末端にSH基、クロロアルキルシリル基、アルコキシアルキルシリル基及びビニル基からなる群から選ばれる少なくとも一つの基を持つ直鎖状疎水性分子から形成されるものである請求項32記載の方法。
- 基体の全部又は一部が、金属若しくはその酸化皮膜、シリコン、シリコンゴム、シリカ、ガラス、マイカ、グラファイト、有機高分子、及びアパタイトからなる群から選ばれる少なくとも一つからなるものである請求項21又は22に記載の方法。
- 可溶性支持膜または可溶性の領域が、高分子電解質、非イオン性の水溶性高分子又は樹脂から形成されるものである請求項21又は22に記載の方法。
- 溶剤が、アセトン、酢酸エチル、アルコール類、水および水溶液の中から選ばれ、かつ薄膜状高分子構造体は溶解させないものである請求項21又は22に記載の方法。
- 請求項1〜17のいずれか1項に記載の構造体を液体中に分散させることを特徴とする、前記構造体が液体中に分散した分散体の調製方法。
- 請求項1〜17のいずれか1項に記載の構造体を界面に付着することを特徴とする、前記構造体が界面に付着してなる薄膜状高分子構造体の調製方法。
- 界面が細胞、組織、臓器、血管壁、粘膜、角膜、皮膚、毛髪及び爪からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面である請求項38記載の方法。
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