JPWO2008023456A1 - 鉄筋の接合具 - Google Patents

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Abstract

本発明に係る鉄筋の接合具1は、断面形状が長円状の筒体2と、楔部材4とからなる。ここで、楔部材4を、鉄筋5a,5bの間に圧入される楔部材4aと楔部材4bとで構成し、それら楔部材4a,4bの圧入位置を離間させることで、各圧入位置に挟まれた領域における鉄筋5a,5b、筒体2及び楔部材4a,4bを一体化させるとともに、鉄筋に作用する引張力の作用点を領域の外側に前進させ、それによって作用点間距離を増加させて筒体2の回転量を低減できるようになっている。

Description

本発明は、鉄筋同士を接合する際に適用される鉄筋の接合具に関する。
鉄筋は、鉄筋コンクリート構造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC造)の主たる構成要素であり、配筋する際の作業性等を考慮して所定長さに加工される。そのため、鉄筋同士を接合する作業が現場では不可欠となる。
鉄筋同士を接合するための方法としては、重ね継手、機械式継手、ガス圧接継手等のさまざまな種類があり、それらの継手は、構造体に求められる品質、作業条件、使用される鉄筋径等に応じて適宜使い分けられる。
ここで、上述した接合方法にはそれぞれ一長一短がある。例えば、重ね継手は、コンクリートとの付着を利用することによって鉄筋同士を簡易に接合することができるが、その一方、2本の鉄筋を重ね合わせなければならないため、鉄筋径が太くなればなるほど、配筋が難しくなったり、重ね長さの確保が難しくなったりする。また、機械継手は、カプラーへの鉄筋の挿入長さや締付けトルクといった項目を管理しなければならず、ガス圧接継手は、作業にあたって資格が必要となる。
そのため、鉄筋を簡単に接合可能でかつ重ね長さを確保する必要がない鉄筋の接合方法も別途開発されているが、それらのうち、互いに平行な2本の鉄筋をまとめて接合する方法では、決まった間隔の鉄筋にしか適用することができず、鉄筋のピッチに関して汎用性に欠ける(特許文献5参照)。
かかる状況下、断面が長円状をなす鋼製の筒体と楔部材とからなる接合具が開発されており、かかる接合具によれば、筒体内に2本の鉄筋端部をそれぞれ逆方向から挿入し、次いで筒体に設けられた楔挿通孔から2本の鉄筋の間に楔部材を打ち込むことにより、鉄筋を相互に接合することができる(特許文献1、特許文献2及び非特許文献1参照)。
実公昭58−32498号公報 実公昭58−53880号公報 実開平04−122111号公報 実公昭60−3858号公報 特許第3197079号公報 ERICO International Corporation、[平成18年8月2日検索]、インターネット<URL : http://www.erico.com/products/QuickWedge.asp>
しかしながら、このような構成においては、2本の鉄筋の材軸がずれているため、各鉄筋に反対方向の引張力が作用したとき、筒体には曲げモーメントが作用するとともに、筒体は、各引張力の作用線が同一の直線上に一致しようとする方向に回転する。
そのため、引張力だけが作用する場合には生じない曲げモーメントが鉄筋に生じたり、筒体の回転によって、鉄筋に作用する引張力の一部が筒体の開口縁部に作用し、筒体に割裂を生じさせる。
また、筒体の開口縁部を拡げようとする力の反力が筒体から鉄筋に作用し、鉄筋を破断させたり、筒体の回転によって鉄筋と楔部材との係合が緩み、鉄筋が筒体から抜け出すといった事態も招く。
したがって、上述した接合構造を、引張荷重が比較的小さな鉄筋コンクリート構造又は鉄骨鉄筋コンクリート構造のせん断補強筋に適用することはできても、引張荷重が比較的大きな主筋に適用することはできないという問題を生じていた。
なお、開口縁部を斜めに切り欠くことによって、鉄筋に生じる応力集中を防止したり(特許文献3)、楔を十字形断面に形成することによって、楔の回転を防止しようとする提案がなされている(特許文献4)。
しかしながら、鉄筋に引張力が作用したときに生じる筒体の回転は、特許文献3のように筒体の開口縁部を斜めに切り欠いたとしても何ら防止されないし、特許文献4のように楔を十字形断面にしたとしても、上述した筒体の回転はやはり防止されない。
このように、断面が長円状をなす鋼製の筒体と楔部材とからなる接合具はいくつか提案されているものの、2本の鉄筋に引張力が作用したときの筒体回転に起因する鉄筋の引張強度低下という問題については、従来技術において何ら解決されていない。
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、2本の鉄筋に引張力が作用したときの筒体回転に起因する鉄筋の引張強度低下を防止するとともにRC造やSRC造の主筋に適用することが可能な鉄筋の接合具を提供することを目的とする。
本出願人は、筒体を用いた鉄筋の接合具で鉄筋同士を接続するにあたり、筒体の回転を完全になくすことはできないにしても、その回転量を低減することで、せん断補強筋のみならず、上述した鉄筋の接合具を主筋にも適用することができないかという点に着眼して研究開発を重ねた結果、楔部材を複数本で構成してそれらの圧入位置を離間させるという新規な構成により、筒体の回転量を減少させるとともにそれに伴う鉄筋の曲げ変形を抑制し、あるいは鉄筋の抜け出しを防止することに成功した。
すなわち、本発明においては、第1の楔部材及び第2の楔部材は、第1の鉄筋及び第2の鉄筋の間に圧入される際、筒体の内周面から反力を受ける形で各鉄筋にそれぞれくいこむ。そして、このような2本の楔部材のくい込みと筒体による拘束作用とにより、鉄筋、楔部材及び筒体は、鉄筋に作用する引張力によって筒体が回転する際、第1の楔部材の圧入位置近傍から第2の楔部材の圧入位置近傍まで概ね一体となって回転する。
換言すれば、鉄筋に作用する引張力によって筒体が回転するとき、第1の楔部材の圧入位置と第2の楔部材の圧入位置に挟まれた領域においては、鉄筋、楔部材及び筒体が一体となって回転し、鉄筋に作用する引張力の作用点は、その一体領域の外側にそれぞれずれる。
そのため、楔部材が単体構成であった従来よりも、鉄筋に作用する引張力の作用点間距離が大幅に増加し、それに伴って、鉄筋の引張力を受けたときの筒体の回転量が大幅に減少する。
したがって、鉄筋に生じる曲げ変形が小さくなるとともに、筒体の開口を拡げようとする鉄筋からの力も小さくなり、引張荷重下においては、筒体の割裂破壊、鉄筋の抜け及びウェッジ破断が防止され、鉄筋に母材破断させることが可能となる。
ここで、鉄筋の抜けとは、楔部材が喰い込んだ箇所(断面欠損部)での鉄筋のせん断破壊、筒体の裂けとは、鉄筋が当接することによる筒体縁部の割裂破壊、ウェッジ破断とは、楔部材が喰い込んだ箇所(断面欠損部)での鉄筋の破断をそれぞれ意味するものとする。また、母材破断とは、楔部材の打込み箇所以外での鉄筋の破断をいうものとする。
なお、本発明においては、楔部材の圧入位置を2カ所設けることで引張力の作用点を外側にずらし、それによって作用点間距離を増加させて筒体の回転量を低減することを特徴とするものであって、楔部材の本数は2本に限定されるものではない。すなわち、楔部材が3本以上の場合、作用点間距離は、3つの楔挿通孔のうち、最も外側に位置する2つの楔挿通孔の離間距離となる。なお、この場合、3本の楔部材のうち、最も外側に位置する2つの楔挿通孔に打ち込まれる2つの楔部材が本発明に係る第1及び第2の楔部材となる。
筒体は、第1の鉄筋及び第2の鉄筋を両端の開口から所定の重ね長さをもって挿入可能であってかつ2つの楔挿通孔から第1の楔部材及び第2の楔部材をそれぞれ打ち込むことができるように構成する限り、その具体的な構成は任意である。
例えば、筒体の断面形状、長さ、硬さといった筒体の仕様は、任意に設定することができるが、筒体の硬さを第1の鉄筋及び第2の鉄筋の硬さよりも相対的に小さくしたならば、筒体の割裂破壊、鉄筋の抜け及びウェッジ破断を防止し、鉄筋を確実に母材破断させることが可能となる。
筒体の硬さを第1の鉄筋及び第2の鉄筋の硬さよりも相対的に小さくするには、例えば筒体の製造過程において焼鈍し処理を施すようにすればよい。
本実施形態に係る鉄筋の接合具の図であり、(a)は正面図、(b)はA−A線に沿う断面図。 本実施形態に係る鉄筋の接合具を用いて2本の鉄筋を接合した様子を示した図であり、(a)は正面図、(b)はB−B線に沿う断面図。 本実施形態に係る鉄筋の接合具の作用を説明した図。 同じく本実施形態に係る鉄筋の接合具の作用を説明した図。 楔部材を2つとした試験体に対する引張試験結果を示した写真。 楔部材を1つとした試験体に対する引張試験結果を示した写真。 変形例に係る鉄筋の接合具の正面図。
符号の説明
1 鉄筋の接合具
2 筒体
4 楔部材
4a 楔部材(第1の楔部材)
4b 楔部材(第2の楔部材)
5a 鉄筋(第1の鉄筋)
5b 鉄筋(第2の鉄筋)
6a,6b 開口
9a,9b 楔挿通孔
以下、本発明に係る鉄筋の接合具の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る鉄筋の接合具を示した正面図である。同図でわかるように、本実施形態に係る鉄筋の接合具1は、断面形状が長円状の筒体2と、楔部材4とからなり、筒体2は、第1の鉄筋としての鉄筋5aの端部及び第2の鉄筋としての鉄筋5bの端部を、それらが所定長だけ重ねられるようにして両端の開口6a,6bからそれぞれ挿入できるようになっており、楔部材4は、鉄筋5a,5bの間に圧入される第1の楔部材としての楔部材4aと、第2の楔部材としての楔部材4bとからなる。
筒体2は、湾曲内面が対向するように配置された一対の半円筒状壁部7,7と該一対の半円筒状壁部の対応縁部をつなぐ一対の平板状壁部8,8とからなり、一対の平板状壁部8,8には、楔部材4aが挿通される楔挿通孔9a,9aと楔部材4bが挿通される楔挿通孔9b、9bとを鉄筋5a,5bの材軸に沿って距離Lだけ離間されるようにそれぞれ形成してある。
筒体2は、例えば円筒パイプの中に型を入れ、次いで、平板状壁部となる部分の外面に圧力を加えることで形成することができる。
楔挿通孔9a,9aは、一対の平板状壁部8,8の対向位置であって鉄筋5bの端部側に形成してあるとともに、楔挿通孔9b,9bは、一対の平板状壁部8,8の対向位置であって鉄筋5aの端部側にそれぞれ形成してある。
楔挿通孔9a,9aの位置は、鉄筋5a,5bの曲げ変形が卓越する筒体2の開口縁部付近を避けるのが望ましい。すなわち、楔挿通孔9a,9aの位置を筒体2の縁部からある程度離れた位置、例えば鉄筋径と同等程度又はそれ以上離れた位置に設定するのが望ましい。
なお、本実施形態に係る鉄筋の接合具1は、RC造又はSRC造の主筋の相互接合に用いることを用途としたものであり、筒体2や楔部材4a,4bの鋼材の種類については、接合対象となる鉄筋5a,5bの硬さや引張強さを考慮して適宜定めればよい。
本実施形態に係る鉄筋の接合具1を用いて鉄筋5a,5bを接合するには、まず、筒体2の一方の開口6aから鉄筋5aの端部を挿入するとともに、鉄筋5bの端部を筒体2の他方の開口6bから挿入する。このとき、鉄筋5a,5bがそれらの端部で所定長だけ互いに重ねて配置されるように、該鉄筋を筒体2に挿入する。
次に、楔部材4aを楔挿通孔9a,9aに通してこれを圧入するとともに、楔部材4bを楔挿通孔9b,9bに通してこれを圧入する。圧入にあたっては、従来公知の楔打込み機を適宜選択して用いればよい。
図2は、楔打込み作業を終えて鉄筋5a,5bの接合が完了した様子を示した図である。
本実施形態に係る鉄筋の接合具1においては、楔部材4a,4bは、鉄筋5a,5bの間に圧入される際、筒体2の内周面から反力を受ける形で各鉄筋にそれぞれくいこむ。そして、このような2本の楔部材4a,4bのくい込みと、鉄筋5a,5bを束ねようとする筒体2の拘束作用とにより、鉄筋5a,5b、楔部材4a,4b及び筒体2は、鉄筋5a,5bに作用する引張力による筒体2の回転に関する限り、図3(a)に示すように、楔部材4aの圧入位置近傍から楔部材4bの圧入位置近傍までの領域Pの範囲内で全体として概ね一体となる。
一方、楔部材が一つしかない従来においては、図3(b)に示すように、楔部材31の圧入位置を跨ぐ領域P′の範囲内で一体となるだけである。
すなわち、従来においては、領域P′が一体領域であったにすぎないのに対し、本実施形態においては、領域Pが一体領域となり、鉄筋に作用する引張力の作用点は、領域P′の境界線上に位置する点P1′から、領域Pの境界線上に位置する点P1にずれる。
そのため、鉄筋間距離Nは変わらないが、作用点間距離は、M′からMへと大幅に増加する。なお、鉄筋5a,5b、筒体2及び楔部材4a,4bが一体となる領域Pの境界がどこにくるのかは、筒体2の長さが影響する。すなわち、筒体2が長いと、その拘束作用によって領域Pの境界が筒体2の縁部方向に移り、筒体2が短いと、その拘束作用があまり期待できないため、領域Pの境界は筒体の中心方向に移る。加えて、領域Pの境界は筒体2の耐力にも依存し、筒体2の耐力が大きいと、その拘束作用によって領域Pの境界が筒体2の縁部方向に移り、筒体2の耐力が小さいと、その拘束作用があまり期待できないため、領域Pの境界は筒体の中心方向に移る。
図4は、鉄筋に引張力が作用したとき、筒体が回転する様子を示した図であり、同図(a)は、作用点間距離がMである本実施形態のケース、同図(b)は、作用点間距離がM′である従来技術のケースをそれぞれ示したものである。
これらの図でわかるように、従来技術においては、鉄筋の引張力を受けたときの筒体の回転量がθ′であるのに対し(図4(b))、本実施形態においては、回転量が大幅に減少してθにとどまっているのがわかる(図4(a))。
以上説明したように、本実施形態に係る鉄筋の接合具1によれば、楔部材4aが挿通される楔挿通孔9a,9aと楔部材4bが挿通される楔挿通孔9b、9bとを鉄筋5a,5bの材軸に沿って距離Lだけ離間されるようにそれぞれ形成し、かかる楔挿通孔に楔部材4a,4bをそれぞれ圧入するようにしたので、鉄筋5a,5bに引張力が作用したときの筒体2の回転量を大幅に減少させることが可能となる。
したがって、鉄筋5a,5bに生じる曲げ変形が小さくなるとともに、筒体2の開口を拡げようとする鉄筋5a,5bからの力も小さくなり、引張荷重下においては、筒体2の割裂破壊や鉄筋5a,5bの抜けが防止されるとともに、鉄筋5a,5bのウェッジ破断が防止され、かくして鉄筋5a,5bに母材破断させることが可能となる。
また、本実施形態に係る鉄筋の接合具1によれば、2つの楔部材4a,4bを離間させて鉄筋5a,5b間にそれぞれ圧入するようにしたので、筒体2はおのずと長くなる。
そのため、鉄筋5a,5bから筒体2の開口に作用する分力は、大幅に小さくなり、この点からも筒体2の回転を抑制することが可能となる。
図5及び図6は、引張試験結果を示した写真である。図5は、楔部材を2つとした本実施形態に対応した試験体であり、鉄筋には、米国の鉄筋#8(GRADE60、#8は日本のD25に相当)を用いた。一方、図6は、楔部材を1つとした従来技術に対応した試験体であり、鉄筋には、米国の鉄筋#6(GRADE60、#6は日本のD19に相当)を用いた。
まず、図6に示すように、従来技術の試験体では、鉄筋に作用する引張力によって筒体が大きく回転するとともに、該回転に伴って鉄筋にも大きな曲げ変形が生じた。また、鉄筋に曲げが生じたことによって、筒体の開口が拡がる方向の分力が鉄筋から作用し、それが原因で筒体に割裂破壊を生じた。
以上の試験結果から、従来技術の試験体では、鉄筋が母材破断する前に筒体が割裂破壊することがわかる。
一方、図5に示した本実施形態に対応する試験体では、鉄筋に作用する引張力によって筒体が回転しているものの、その回転量は図6に比べて大幅に小さく、該回転に伴う鉄筋の曲げ変形も小さい。そのため、筒体には割裂破壊を生じなかった。
以上の試験結果から、本実施形態に対応する試験体では、鉄筋は、接合箇所近傍で曲げ引張り破断しているものの、破断荷重は、鉄筋の引張強さ(規格値)を上回って、素材として本来備えている引張強さと同等の荷重にまで達し、主筋を用途とする鉄筋継手としての性能を十分に満足することがわかった。
本実施形態では、鉄筋の接合具1をRC造又はSRC造の主筋の相互接合に用いることを用途としたが、これに代えてせん断補強筋の相互接合に用いることを用途としてもかまわない。
また、上述した実施形態では特に言及しなかったが、図7に示すように筒体2にコンクリート充填孔51を形成するようにしてもかまわない。
かかる構成によれば、コンクリート打設の際、コンクリート充填孔51を介して筒体2内にコンクリートが流入するため、鉄筋5a,5bの接合強度を増加させることが可能となる。なお、複数の孔を筒体2の材軸に沿って形成しておき、そのうちのいくつかを楔挿通孔、残りをコンクリート充填孔とすることも可能である。
引張試験の結果を表1に示す。なお、引張試験には、径がD22(公称断面積が387.1mm)、鋼種がSD345(鉄筋コンクリート用棒鋼、日本工業規格、規格値;降伏点が345N/mm、引張強さが490N/mm)の鉄筋を用いた。また、孔数が2とある場合は、孔間を50mmとしたものであり、後述する試験でも同様である。
まず、試験体2と試験体3は、鋼種及び形状とも同一の筒体(スリーブ)を用いたものであるが、試験体2の楔部材の数(楔挿通孔の数)が1つであるのに対し、試験体3の楔部材が2つである点が異なる。これらの試験体の比較から、楔部材が1つの場合には、鉄筋の抜け出しが生じているのに対し、楔部材が2つの場合には、鉄筋が母材破断していることがわかる。
これは、筒体が同一鋼種で同一形状であっても、楔部材の数が2つの場合には、接合具は、鉄筋の規格値である引張強さを上回る引張耐力を有していることを示すものであり、本発明の作用効果が実証されている。
次に、試験体5と試験体6は、鋼種や形状は異なるが、試験体2,3の比較と同様に、鋼種及び形状とも同一の筒体を用いるとともに、楔部材を1つの場合と2つの場合で比較したものである。
これらの試験体の比較から、楔部材が1つの場合には、鉄筋の抜け出しが生じているのに対し、楔部材が2つの場合には、鉄筋が母材破断していることがわかる。これは、試験体2,3の比較と同様、筒体が同一鋼種で同一形状であっても、楔部材の数が2つの場合には、接合具は、鉄筋の規格値である引張強さを上回る引張耐力を有していることを示すものであり、本発明の作用効果が実証されている。
次に、試験体1と試験体4は、楔部材がいずれも2つであり、筒体も、肉厚を除く条件はすべて同じであるが(筒体長さは短いが、いずれも100mm)、試験体1の肉厚が4mmであるのに対し、試験体4の肉厚は10mmである点が異なる。
これらの試験体の比較から、肉厚が4mmの場合には、筒体が裂けているのに対し、肉厚が10mmの場合には、鉄筋が母材破断していることがわかる。この試験結果だけをみると、肉厚が小さい場合には、楔部材が2つであっても、鉄筋を母材破断させることができないことになるが、同じ肉厚で鉄筋が母材破断している試験体3と併せ考えれば、筒体が短い場合、2つの楔部材の離間距離もおのずと短くなるため、2つの楔部材が圧入される位置を離間させることによる本発明の作用効果が十分に発揮されなかったものと思われる。
次に、試験体7と試験体8は、楔部材の数が同じで筒体の鋼種や肉厚はすべて同じであるが、試験体7の筒体長さが100mmであるのに対し、試験体8の筒体長さは120mmである点が異なる。
これらの試験体の比較から、筒体の長さを長くすることによって、筒体の回転が抑制され、その結果、筒体縁部の裂け、鉄筋の抜け及びウェッジ破断が防止されていることがわかる。
別の引張試験の結果を表2に示す。同表において、抜けとは、楔部材が喰い込んだ箇所(断面欠損部)での鉄筋のせん断破壊、裂けとは、鉄筋が当接することによる筒体縁部の割裂破壊、ウェッジ破断とは、楔部材が喰い込んだ箇所(断面欠損部)での鉄筋の破断をそれぞれ意味するものとする。
なお、引張試験には、径がD22、鋼種がSD390(鉄筋コンクリート用棒鋼、日本工業規格、規格値;降伏点が390N/mm、引張強さが560N/mm)の鉄筋を用いた。また、試験結果にばらつきが生じたものについては、「試験結果」の欄を複数表示してある。
まず、試験体9では結果にばらつきが生じたので、この点を踏まえ、筒体の全長を100mmから110mmに延ばして試験体10〜12としたが、概ね母材破断させることができることがわかった。これは、筒体が短いと、その回転量が大きくなって鉄筋への曲げモーメントが大きくなり、楔喰込み部(断面欠損部)への影響が大きくなって鉄筋がウェッジ破断する一方、筒体を長くすれば、その回転量が小さくなって鉄筋への曲げモーメントが小さくなることから、喰込み部への影響が小さくなって母材破断するものと考えられる。
しかしながら、試験体10〜12の引張強さ比は0.93〜0.99であって、さらに性能を向上させる余地が残っていることもわかった。
ここで、引張強さ比とは、試験で得られた引張強さを鉄筋(素材)の引張強さで除した比率をいうものとし、この数値が1未満であれば、2本の鉄筋を接合したことによって引張強さが低下したことを意味する。
次に、試験体10〜12で十分な引張強さ比を得られなかった点を踏まえ、筒体の肉厚を5mmに増やして試験体13〜14としたが、結果に大きな改善は見られなかった。
試験体10〜14の結果からわかるように、スリーブ長を確保することで一定の引張強さ比を得ることはできるものの、肉厚を増やしてもさらなる改善ができない。本出願人は、この原因を筒体の剛性が高すぎるからであると考え、試験体9〜試験体14で用いた筒体を焼鈍し処理し、これを試験体15〜20とした。
すなわち、試験体9〜試験体14で用いた筒体は、焼入れ処理が施されていない生材のS45C(機械構造用炭素鋼鋼材、日本工業規格)を用いたものの、生材のS45Cは焼入れ処理をせずとも十分な硬さを有しているため、試験体15〜20では、S45Cに焼鈍し処理を施すことで、硬さが鉄筋よりも小さくなるようにした。
その結果、肉厚をほぼ4.8mmにした試験体18〜20では、引張強さ比がほぼ1となり、鉄筋をすべて母材破断させることができた。これは、焼鈍し処理によって筒体が延性に富む部材となり、その結果、筒体の縁部近傍から鉄筋に作用する反力及びその反力で生じる鉄筋の応力が低減するとともに、鉄筋周面の凹凸が筒体内面にくいこむことで鉄筋の周面における凹凸状態のばらつきが吸収されるからであると考えられる。
鉄筋径をD22からD25に変更して同様の引張試験を行った結果を表3に示す。筒体長さは、鉄筋径の増加に合わせて110〜130mmに変更してあるが、試験結果は概ね、試験体9〜試験体20と同様であり、S45Cを焼鈍し処理した試験体28〜35では、引張強さ比がほぼ1となり、試験体33の一部を除くすべての試験体で鉄筋をすべて母材破断させることができた。
これはD22の場合と同様、焼鈍し処理によって筒体が延性に富む部材となり、その結果、筒体の縁部近傍から鉄筋に作用する反力及びその反力で生じる鉄筋の応力が低減するとともに、鉄筋周面の凹凸が筒体内面にくいこむことで鉄筋の周面における凹凸状態のばらつきが吸収されるからであると考えられる。
また、筒体長さを120mmから130mmに変更した試験体35では、確実に母材破断させるとともに、引張強さ比を1.00〜1.01に改善することができたが、これは、筒体を長くすることによって筒体の回転量が小さくなったからであると考えられる。
なお、上述した筒体の割裂破壊を、焼鈍し処理による筒体の強度低下が原因であると考え、筒体の肉厚を大きくして断面性能を向上させるようにすることも考えられる。かかる方法によっても、筒体の割裂破壊を防止するとともに、鉄筋を確実に母材破断させることができるものと思われる。
このように、焼鈍し処理がなされた筒体を用いることによって、本発明に係る接合具の継手性能を大幅に向上させることができる反面、焼鈍し処理による強度低下を例えば肉厚の増加という形で補ってやらないと、筒体が縁部から裂けることがあることもわかった(試験体15,16,33)。
すなわち、焼鈍し処理がなされた筒体を用いるにあたっては、筒体の断面性能や焼き鈍し後の強度を十分に考慮することが重要となる。
一方、焼鈍し処理による強度低下を補う代わりに、筒体の長さを長くすることで筒体の回転を抑制し、筒体に作用する荷重の低減を図ってやるようにしてもよい。かかる方法でも、筒体縁部の裂けを回避し、鉄筋を確実に母材破断させることが可能となる(試験体1と試験体3、試験体7と試験体8を参照)。

Claims (4)

  1. 第1の鉄筋及び第2の鉄筋がそれらの端部で所定長だけ重ねて配置されるように該各端部を両端の開口からそれぞれ挿入可能な断面形状が長円状の筒体と、該筒体を構成する壁部のうち、対向する一対の平板状壁部にそれぞれ形成された楔挿通孔に挿通され前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋との間に圧入される楔部材とを備え、
    前記楔部材は、前記楔挿通孔のうち、前記第2の鉄筋の端部側に位置決めされた楔挿通孔に挿通される第1の楔部材と、前記第1の鉄筋の端部側に位置決めされた楔挿通孔に挿通される第2の楔部材とを備え、
    前記第1の鉄筋及び前記第2の鉄筋は、鉄筋コンクリート構造又は鉄骨鉄筋コンクリート構造の主筋であることを特徴とする鉄筋の接合具。
  2. 第1の鉄筋及び第2の鉄筋がそれらの端部で所定長だけ重ねて配置されるように該各端部を両端の開口からそれぞれ挿入可能な断面形状が長円状の筒体と、該筒体を構成する壁部のうち、対向する一対の平板状壁部にそれぞれ形成された楔挿通孔に挿通され前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋との間に圧入される楔部材とを備え、
    前記楔部材は、前記楔挿通孔のうち、前記第2の鉄筋の端部側に位置決めされた楔挿通孔に挿通される第1の楔部材と、前記第1の鉄筋の端部側に位置決めされた楔挿通孔に挿通される第2の楔部材とを備え、
    前記第1の鉄筋及び前記第2の鉄筋は、鉄筋コンクリート構造又は鉄骨鉄筋コンクリート構造のせん断補強筋であることを特徴とする鉄筋の接合具。
  3. 前記筒体の硬さを前記第1の鉄筋及び第2の鉄筋の硬さよりも相対的に小さくした請求項1又は請求項2記載の鉄筋の接合具。
  4. 前記筒体の製造過程において焼鈍し処理を施す請求項3記載の鉄筋の接合具。
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