本発明は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の分析方法、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物および医薬、薬学的組成物および医薬の製造方法、疾患の治療、診断、症状の軽減および予防方法に関する。
硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖の中でも、特にコンドロイチン硫酸(CS)やデルマタン硫酸(DS)等のグリコサミノグリカン(GAG)は、ヘパリンやヘパラン硫酸(HS)とともにその生物活性が注目され、盛んに研究されている。例えば、コンドロイチン硫酸(CS)やデルマタン硫酸(DS)は、コアタンパク質に共有結合した形でプロテオグリカン(PG)として合成され(非特許文献1〜3)、あらゆる組織の細胞表面や細胞外マトリックスに存在していることが報告されている。さらに、こうしたCS/DS-PGsは、哺乳類の脳の構成成分であり、神経細胞の接着、移動、分化、神経突起形成や軸索誘導などの調節を通して、神経の発生に関与していることも報告されている(非特許文献4〜8)。しかしながら、これらグリコサミノグリカンの生物活性等についてはいまだ不明な点が多く、基礎医学、応用医学、創薬等の各分野において、さらなる研究が要求されている。
例えば、これまでに、ヘパリンが癌転移の阻害活性を示すことが分かっていたが、出血などの副作用があるため臨床応用には至っておらず、さらに良質な腫瘍転移阻害剤等の研究開発が求められている。また、ヘパラン硫酸がヘルぺスウイルスやデングウイルスの感染のレセプターとなるという報告はあるが、CSについてはそのような報告はない。
さらに、CS等の硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖については、その構造解析についても、さらなる研究が要求されている。例えば、従来の研究としては、CS-EとCS-KをコンドロイチナーゼACIIやACIで消化して硫酸化オリゴ糖とし、NMR測定により、GlcA(3S)構造を確認したことが報告されていた(非特許文献9)。しかし、CS-EまたはCS-KをコンドロイチナーゼABC(CSase ABC)で完全に消化すると、前記GlcA(3S)構造がほとんど消失し、アニオン交換HPLCクロマトグラフィー分析による伝統的なジサッカリド分析では検出できない(非特許文献9)。このため、硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖の構造について、例えば、前記NMR測定よりも感度の良い測定方法が求められている。
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したがって、本発明は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を高感度で解析できる分析方法の提供を目的とする。また、本発明は、優れた生物活性を有する硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物および医薬を提供することを目的とする。さらに、本発明は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物および医薬の製造方法、疾患の治療、診断、症状の軽減および予防方法を提供する。
前記課題を解決するために、本発明の分析方法は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を酵素消化して得られる生成物を質量分析する工程を含む分析方法であって、前記酵素消化生成物は、モノサッカリド、ジサッカリドおよびトリサッカリドからなる群から選択される少なくとも一つのサッカリドを含み、前記質量分析により解析される前記サッカリドの構造に基づき前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する分析方法である。
また、本発明は、前記本発明の分析方法により硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する工程と、前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖をヒトまたは動物の患者に投与する工程とを含む、前記ヒトまたは動物の患者における疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法を提供する。
次に、本発明の第1の薬学的組成物は、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含み、増殖因子結合に関する用途に使用される。そして、本発明の第2の薬学的組成物は、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を含み、デングウィルス感染阻害に関する用途に使用される。さらに、本発明の第3の薬学的組成物は、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を活性物質として含み、細胞増殖阻害、細胞死誘導、腫瘍細胞増殖阻害、腫瘍細胞浸潤阻害、腫瘍細胞転移阻害、腫瘍細胞遊走阻害、および腫瘍細胞死誘導からなる群から選択される少なくとも一つに関する用途に使用される。
また、本発明の第1の医薬は、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含み、増殖因子結合に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。そして、本発明の第2の医薬は、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を含み、デングウィルス感染阻害に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。さらに、本発明の第3の医薬は、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を活性物質として含み、細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。
さらに、本発明は、ヒトまたは動物の患者における増殖因子結合に関する疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法であって、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを前記ヒトまたは動物の患者に投与する工程を含む方法を提供する。そして、本発明は、ヒトまたは動物の患者におけるデングウィルス感染阻害に関する疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法であって、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を前記ヒトまたは動物の患者に投与する工程を含む方法を提供する。さらに、本発明は、ヒトまたは動物の患者における細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法であって、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を活性物質として前記ヒトまたは動物の患者に投与する工程を含む方法を提供する。また、本発明は、増殖因子結合に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬を製造するために、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを使用する方法を提供する。さらに、本発明は、デングウィルス感染阻害に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬を製造するために、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を使用する方法を提供する。さらに、本発明は、細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬を製造するために、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を活性物質として使用する方法を提供する。
前記本発明の分析方法によれば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を高感度で解析できる。したがって、本発明の分析方法は、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を構造解析して生物活性等の品質を評価することにより、前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物または医薬の製造に有用である。また、本発明の薬学的組成物および医薬は、前記特定の硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性物質として含むことにより、その活性物質に対応した優れた生物活性を有する。なお、多糖またはオリゴ糖を酵素消化すると、通常、二糖(ジサッカリド)が生成するが、場合によっては、単糖(モノサッカリド)や三糖(トリサッカリド)が生成するので、本発明はこれらを含む。
図1は、コンドロイチナーゼABC消化の、ルイス肺癌H11細胞の転移能に対する効果を示す図である。
図2は、種々のCSアイソフォームによるルイス肺癌H11細胞転移阻害を示す図である。
図3は、ルイス肺癌H11細胞の転移に対するCS-Eの阻害活性について、コンドロイチナーゼABC処理の効果を示す図である。
図4は、ルイス肺癌H11細胞の転移に対するCS-Eの阻害活性の用量依存性を示す図である。
図5は、デングウィルス2型感染の、コンドロイチン硫酸(CS)製剤による阻害を示す図である。
図6は、デングウィルス2型感染の濃度依存阻害を示す図である。
図7は、化学修飾(酸化処理)したCS-E製剤の、デングウィルス2型感染阻害を示す図である。
図8は、精製CS-Kに対する種々の成長因子および神経栄養性因子の結合を示す図である。
図9は、GAGs被覆基層上で培養したE16海馬ニューロンの代表的形態および神経突起伸長を示す図であり、図9(A)は、増大した神経長および代表的形態を示し、図9(B)は、生成した神経突起の定量的分析を示す図である。
図10は、化学修飾CS-E製剤により刺激したニューロンの代表的形態、およびそれらの神経突起伸長促進活性の定量分析を示す図であり、図10(A)は、CS-E, CS-EPまたはCS-EPAでコートした種々の基層で培養したニューロンの、増加した神経突起長および形態学的特徴を示し、図10(B)は、生成した神経突起の定量的分析を示す図である。
図11は、CS-Kテトラサッカリド(K-K)のCSase ABC消化物におけるESI-MSスペクトル(200〜700m/z amu間)図である。
図12は、97における硫酸基(sulfite group)についてのプリカーサーイオンモードにより得られたESI-MSスペクトル図である。
図13は、300[GalNAc(4S)]についてのプリカーサーイオンモードにより得られたESI-MSスペクトル図である。
図14は、ΔA-KテトラサッカリドCSase ABC消化物のアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図15は、図14由来GalNAc(4S)ピークのESI-MSスペクトル図である。
図16は、CSase ABC消化し2-AB標識したCS-Kポリサッカリド製剤のアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図17は、2-AB-標識不飽和CSジサッカリド標準およびGalNAc(4S)標準の、HPLC条件B下におけるアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図18は、2-AB標識後の、CSases ACIおよびACII抵抗性CS-EテトラサッカリドフラクションCSase ABC消化物のアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図19は、2-AB標識後の、CSases ACIおよびACII抵抗性テトラサッカリドフラクションCSase ABC消化物のゲル濾過クロマトグラム図である。
図20は、図19におけるフラクション4のESI-MSスペクトル図である。
図21は、HPLC条件B下での、図19におけるフラクション4のアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図22は、HPLC条件B下での、図19におけるフラクション4の、信頼性のあるΔCSジサッカリド標準および2-AB標識GalNAc(4S)標準混合物との共クロマトグラフの、アニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
本発明の分析方法では、前述の通り、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を酵素消化して得られるサッカリドの構造を質量分析により解析する。前記サッカリドは、モノサッカリド(単糖)、ジサッカリド(二糖)およびトリサッカリド(三糖)からなる群から選択される少なくとも一つを含む。前記質量分析により検出される被検出物質は、前記モノサッカリド(単糖)、前記ジサッカリド(二糖)または前記トリサッカリド(三糖)自体を含んでいても良い。前記被検出物質は、例えば、前記モノサッカリド(単糖)、前記ジサッカリド(二糖)または前記トリサッカリド(三糖)が酵素消化により分解される際の分解中間体を含むことが好ましい。前記分解中間体を質量分析により検出することで、前記モノサッカリド(単糖)、前記ジサッカリド(二糖)または前記トリサッカリド(三糖)の構造を、さらに正確に感度良く解析することができる。本発明の分析方法では、さらに高感度な分析のために、例えば、前記質量分析工程に先立ち、前記酵素消化生成物を分画する工程をさらに含むことが好ましい。前記分画に用いる手段は特に限定されないが、例えばゲル濾過クロマトグラフィーがより好ましい。
また、本発明の分析方法では、前記硫酸化多糖は特に限定されないが、例えば、グリコサミノグリカンが好ましく、コンドロイチン硫酸およびその誘導体のうち少なくとも一方であることがより好ましく、前記コンドロイチン硫酸が、CS-A、CS-B、CS-C、CS-D、CS-E、CS-KおよびCS-H(DS-E)からなる群から選択される少なくとも一つであることがさらに好ましい。前記コンドロイチン硫酸を分解する酵素は、コンドロイチナーゼが好ましく、例えばコンドロイチナーゼABCを含むことがより好ましい。
次に、本発明の組成物の製造方法および医薬の製造方法は、前記本発明の分析方法により硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する工程を含む。前記組成物は、前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を薬学的活性成分として含む組成物であることが好ましい。すなわち、前記本発明の分析方法によれば、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析することで、その生物活性等の品質を評価し、実用に適した医薬や組成物を製造することができる。前記薬学的活性成分は、例えば、細胞増殖阻害活性、細胞死誘導活性、腫瘍細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、腫瘍細胞転移阻害活性、腫瘍細胞遊走阻害活性、腫瘍細胞死誘導活性、ウィルス感染阻害活性、デングウィルス感染阻害活性、神経突起伸長促進活性、および増殖因子結合活性からなる群から選択される少なくとも一つの活性を有することが好ましい。
次に、本発明の薬学的組成物および医薬について説明する。
本発明の第1の薬学的組成物は、前記の通り、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含み、増殖因子結合に関する用途に使用される。また、本発明の第1の医薬は、前記の通り、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含み、増殖因子結合に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。
本発明者らは、コンドロイチン硫酸(CS)の生物活性について鋭意研究の結果、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eが神経突起伸長促進活性および増殖因子結合活性を有し、神経突起伸長促進および増殖因子結合促進の少なくとも一方に関する用途に使用できることを見出し、前記本発明の第1の薬学的組成物および第1の医薬の発明に到達した。前記用途としては、例えば、神経突起伸長促進および増殖因子結合促進の少なくとも一方に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途がある。特に、酸化処理したCS-KおよびCS-Eは、酸化処理による副作用の軽減で、母体のCS-KまたはCS-Eよりも臨床等の用途にさらに有用であることが期待される。前記酸化処理は、例えば、過ハロゲン酸による酸化処理が好ましく、前記過ハロゲン酸は、過ヨウ素酸がより好ましく、また、前記酸化処理したCS-KまたはCS-Eが、例えば、酸化処理後、さらにアルカリ処理したCS-KまたはCS-Eであることがさらに好ましい。
また、本発明の第2の薬学的組成物は、前記の通り、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を含み、デングウィルス感染阻害に関する用途に使用される。そして、本発明の第2の医薬は、前記の通り、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を含み、デングウィルス感染阻害に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。
従来、コンドロイチン硫酸のデングウィルス感染阻害に関する報告はなかった。しかし、本発明者らは、鋭意研究の結果、コンドロイチン硫酸およびその誘導体がデングウィルス感染阻害活性を有することを見出し、前記本発明の第2の薬学的組成物および前記本発明の第2の医薬の発明に到達した。前記本発明の第2の薬学的組成物および前記本発明の第2の医薬の使用対象となるコンドロイチン硫酸およびその誘導体は特に限定されないが、ウィルス感染阻害活性、副作用等の観点から、例えば、CS-A、CS-B、CS-C、CS-D、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、およびCS-Kからなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
さらに、本発明の第3の薬学的組成物は、前記の通り、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を活性物質として含み、細胞増殖阻害、細胞死誘導、腫瘍細胞増殖阻害、腫瘍細胞浸潤阻害、腫瘍細胞転移阻害、腫瘍細胞遊走阻害、および腫瘍細胞死誘導からなる群から選択される少なくとも一つに関する用途に使用される。そして、本発明の第3の医薬は、前記の通り、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を活性物質として含み、細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。これらは、本発明者らが鋭意研究の結果発見したコンドロイチン硫酸の細胞増殖阻害活性等に基づく発明である。前記コンドロイチン硫酸は、特に限定されないが、活性、副作用等の観点から、例えば、CS-A、CS-B、CS-C、CS-D、およびCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。また、前記活性物質は、活性の高さ等の観点から、コンドロイチン硫酸Eが特に好ましい。前記細胞の増殖に関する疾患は、例えば、脳腫瘍、頭頚部癌、神経芽細胞腫、副鼻孔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮筋腫、子宮頚癌、卵巣癌、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、赤血球増加症、真正多血症、本態性血小板増多症、骨髄腫、骨肉腫、絨毛癌、ホジキン病、非ホジキン病、膠芽種、星状細胞腫、および軟組織肉腫からなる群から選択される少なくとも一つの疾患であることが好ましい。また、前記本発明の第3の医薬は、例えば、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用されることが好ましい。
従来の研究によれば、細胞表面のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CS-PGs)は、腫瘍細胞の挙動調節に重要な役割を果たしうる(Iida, J., Meijne, A. M., Knutson, J. R., Furcht, L. T., and McCarthy, J. B. (1996) Cell surface chondroitin sulfate proteoglycans in tumor cell adhesion, motility and invasion. Semin. Cancer Biol. 7, 155-162)。コンドロイチナーゼ(CSase)ACまたはBによるメラノーマ細胞の処理は、浸潤および増殖を阻害する(Denholm, E. M., Lin, Y. Q., and Silver, P. J. (2001) Anti-tumor activities of chondroitinase AC and chondroitinase B: inhibition of angiogenesis, proliferation and invasion. Eur. J. Pharmacol. 416, 213-221)。細胞表面のCD44-関連CS-PGは、タイプIコラーゲンにより媒介されるメラノーマ細胞の運動性および浸潤に関し、そして、タイプIコラーゲン基層における細胞の運動性および浸潤挙動に必要であり、トランスフォーミング増殖因子βにより刺激される(Faassen, A. E., Schrager, J. A., Klein, D. J., Oegema, T. R., Couchman, J. R., and McCarthy, J. B. (1992) A cell surface chondroitin sulfate proteoglycan, immunologically related to CD44, is involved in type I collagen-mediated melanoma. J. Cell Biol. 116, 521-531およびFaassen, A. E., Mooradian, D. L., Tranquillo, R. T., Dickinson, R. B., Letourneau, P. C., Oegema, T. R., and McCarthy, J. B. (1993) Cell surface CD44-related chondroitin sulfate proteoglycan is required for transforming growth factor-beta-stimulated mouse melanoma cell motility and invasive behavior on type I collagen. J. Cell Sci. 105, 501-511)。しかし、コンドロイチン硫酸およびその誘導体、特にコンドロイチン硫酸E(CS-E)が非常に強い腫瘍細胞転移阻害活性を有すること、および細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減、予防等の用途に対し有用であることは従来知られておらず、本発明者等が初めて見出した。
これら本発明の薬学的組成物および医薬の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記本発明の分析方法によりコンドロイチン硫酸等の構造を解析し、その生物活性等の品質を評価して製造することが好ましい。そのようにすれば、前述の通り、実用に適した医薬や組成物を製造することができるためである。
なお、本発明では、コンドロイチン硫酸(CS)とは、CS-Bすなわちデルマタン硫酸(DS)を含み、また、CS-H(DS-E)も含むものとする。また、「硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖」とは、天然由来構造のもののみならず、例えば酸化処理等により化学修飾した誘導体も含むものとする。特に、酸化処理した誘導体は、副作用の低減により、医薬や薬学的組成物への応用の有用性が期待できる。前記酸化処理は、例えば、過ヨウ素酸等の過ハロゲン化酸により行うことが好ましく、この場合の硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖は、例えばCSが好ましく、CS-EまたはCS-Kがより好ましい。
本発明の薬学的組成物または医薬に含まれる硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖は、中性分子の形態で用いても塩の形態で用いても良く、前記塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でも良い。前記酸付加塩を形成する酸は、無機酸でも有機酸でも良い。無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等が可能である。有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等が可能である。前記塩基付加塩を形成する塩基は、無機塩基でも有機塩基でも良い。無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が可能であり、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が可能である。有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が可能である。硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の塩の製造方法も特に限定されず、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
また、本発明の薬学的組成物または医薬において、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の1回当たりの投与量および投与間隔等は特に限定されず、その目的に応じて適宜選択することができる。それらは、患者の年齢、体重、性別、医学的状態、病状、投与経路、患者の代謝・排泄機能のレベル、使用される剤形、投与される特定の硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖ならびにそれらの塩を含む種々の要素を考慮して、当業者によって選定される。
本発明の薬学的組成物または医薬の投与形態は特に限定されず、その目的に応じて、経口的に、または非経口的に投与することができる。経口剤として投与する時の形態は、特に限定されず、通常のおよび腸溶性錠剤、カプセル、ピル、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、溶剤、懸濁剤、シロップ、固体もしくは液体エアロゾル、および乳濁液等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。また、非経口投与時の形態も特に限定されず、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。
本発明の薬学的組成物または医薬は、例えば、一種類以上の薬学的に許容可能な添加物をさらに含むことが好ましい。すなわち、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を、投与に先立ち、一種類以上の薬学的に許容可能な添加物と共に製剤することが好ましい。前記添加物は、特に限定されないが、例えば、担体、希釈剤、香料、甘味料、滑沢剤、溶解剤、懸濁剤、結合剤、錠剤崩壊剤、およびカプセル化材等の不活性物質である。また、これら以外にも、例えば、医薬の分野で一般に使用されている任意の添加物を適宜用いても良い。
前記添加物は、経口投与する場合は、例えば、以下に列挙する物質を使用することができる。担体としては、例えば、ラクトース、デンプン、スクロース、グルコース、炭酸ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、メチルセルロース等が可能である。崩壊剤としては、例えば、トウモロコシ粉、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム、アルギン酸等が可能である。結合剤としては、例えば、ゼラチン、天然糖、ベータラクトース、トウモロコシ甘味料、天然および合成ゴム、アラビアゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス等が可能である。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、食塩、タルク等が可能である。
本発明の薬学的組成物または医薬は、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を、希釈剤と混合しても良いし、担体に封入しても良い。前記担体は、例えば、カプセル、小袋、紙その他の容器の形態が可能である。前記担体は希釈剤を兼ねてもよく、固体でも、半固体でも、ビヒクルとして作用する液体でも良い。また、本発明の医薬の形態は、特に限定されないが、例えば、錠剤、ピル、散剤、ローゼンジ、エリキシル、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、エアロゾル、軟膏、軟・硬ゼラチンカプセル、坐薬、滅菌注射用液および包装滅菌散剤等の種々の形態が可能である。
次に、本発明の種々の実施例について説明する。しかし、本発明は、これらの実施例には限定されない。
[腫瘍細胞転移阻害]
本実施例は、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を活性物質として含む前記本発明の第3の薬学的組成物および医薬の腫瘍細胞転移阻害活性等に関する実施例である。
本実施例では、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸E(CS-E)およびその他の種々のコンドロイチン硫酸による、ルイス肺癌セルラインH11の転移阻害を確認した。腫瘍細胞転移は、腫瘍細胞の接着、遊走および浸潤等を含む一連の複雑な現象に関連する。すなわち、コンドロイチン硫酸またはその誘導体が前記腫瘍細胞の転移を阻害することは、細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減、予防等の用途に対する有用性を示す。
まず、参考実験として、CSあるいはDSの腫瘍細胞転移への関連性を検証するために、ルイス肺癌の高転移性セルラインH11(Munesue, S., Kusano, Y., Oguri, K., Itano, N., Yoshitomi, Y., Nakanishi, H., Yamashina, I., and Okayama, M. (2002) The role of syndecan-2 in regulation of actin-cytoskeletal organization of Lewis lung carcinoma-derived metastatic clones. Biochem. J. 363, 201-209)をコンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー(生化学工業株式会社の商品名)で処理した場合と、非処理の場合の転移能を比較した。具体的には、まず、ルイス肺癌高転移H11細胞(4×105個)を、200μlのDMEM(ダルベッコの修飾イーグル培地, Dulbecco’s modified Eagle’s medium)に懸濁させ、5mIU/mLのコンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー(生化学工業株式会社より購入)を加えて(処理)、または何も加えずに(非処理)、37℃で30分間インキュベートした。その後、前記処理または非処理のルイス肺癌H11細胞を、各マウス(n=6)に、尾静脈を通じて注射した。前記癌細胞接種後3週間で前記マウスを殺し、そして、各マウス肺中の晶結節数に基づき肺転移を評価した。図1に、前記コンドロイチナーゼABC消化の、ルイス肺癌H11細胞の転移能に対する効果を示す。図示の通り、コンドロイチナーゼABC消化の結果、転移能が有意に減少した。このことは、細胞表面のCS/DS鎖がH11細胞の転移工程に関連することを示す。
次に、種々の市販のCSおよびデルマタン硫酸(DS)製剤のマウス肺へのH11転移阻害能を、ヘパリンと併せて評価した。前記評価は、各CSまたはDS製剤100μgを尾静脈から注射し、その後同じルートでH11細胞を接種して行った。具体的には、種々のCSまたはDS製剤(各々、200μl DMEM中に100μg)を各マウス(n=6)にそれぞれ注射し、30分後、図1の説明で述べた前記癌細胞(非処理)を接種し、そして、図1の説明で述べた方法により肺転移を評価した。使用したCSまたはDS製剤は、CS-A, CS-B, CS-C, CS-DおよびCS-Eである。また、ウシ腸管粘膜ヘパリンを含む200μlのDMEMを比較例(陽性対照)として用い、200μlのDMEM単独を陰性対照として用いた。図2に、前記種々のCSアイソフォームによるルイス肺癌H11細胞転移阻害を示す。図示の通り、試験したCSおよびDS製剤の具体的な阻害活性は、CS-Eが90%、CS-Aが80%、CS-Dが47%およびCS-B(またはDS)が30%、ヘパリンが62%という数値であった。このように、試験したCSおよびDS製剤の全てが阻害活性を示した。特に、CS-EおよびCS-Aは、陽性対照であるヘパリンよりも強力な阻害活性を示し、中でもCS-Eは最も強力な阻害活性を示した。
なお、ヘパリンは、強力な抗転移能を有することが長年知られている(Folkman, J., Langer, R., Linhardt, R. J., Haudenschild, C., and Taylor, S. (1983) Angiogenesis inhibition and tumor regression caused by heparin or a heparin fragment in the presence of cortisone. Science 221, 719-725, Borsig, L., Wong, R., Feramisco, J., Nadeau, D. R., Varki, N. M., and Varki, A. (2001) Heparin and cancer revisited: mechanistic connections involving platelets, P-selectin, carcinoma mucins, and tumor metastasis. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98, 3352-3357, Kragh, M., and Loechel, F. (2005) Non-anti-coagulant heparins: a promising approach for prevention of tumor metastasis. Int. J. Oncol. 27, 1159-1167, Stevenson, J. L., Choi, S. H., and Varki, A. (2005) Differential metastasis inhibition by clinically relevant levels of heparins--correlation with selectin inhibition, not antithrombotic activity. Clin. Cancer Res. 11, 7003-7011)。実際、本研究でも、図2の通り、ヘパリンは62%の阻害を示した。しかし、前述の通り、ヘパリンには出血などの副作用があるため臨床応用には至っていない。
また、ルイス肺癌H11細胞の転移に対するCS-Eの阻害活性について、コンドロイチナーゼABC処理の効果を試験するために、コンドロイチナーゼABCによる消化前または消化後のCS−Eについて、図2の説明で述べた方法により、H11細胞の肺転移に対する阻害活性を評価した。図3に、その評価結果を示す。同図に示すとおり、CS-Eにおける阻害活性の80%は、CSase ABC消化により無効にされた。この結果は、CS-E製剤において、活性が不純物に由来するという可能性を排除する。
さらに、CS-E阻害活性の用量依存性を試験した。具体的には、種々の用量(10, 50, 100, 200および300μg)のCS-Eを、各マウス(n=6)について、図2の説明で述べた方法により肺転移阻害活性を試験した。図4に、その結果を示す。図示の通り、マウス1匹あたり100μgまでは用量依存性の阻害を示し、100μgで転移阻害効果が最も高くなった。
このように、コンドロイチン硫酸およびその誘導体、特にCS-EおよびCS-A、中でもCS-Eは、1つの抗転移薬剤としてヘパリンより有望な候補となり得る。また、抗凝血作用等の他の作用も期待できる。
なお、本実施例において、ルイス肺癌H11細胞は、京都産業大学の岡山 實(Minoru Okayama)教授から提供を受けた。C3H/HeNマウス(雌)は、日本エスエルシー株式会社(浜松)から購入した。CSおよびDS製剤は、特級品(superspecial grade)であり、生化学工業株式会社から購入した。CS-Eはイカ軟骨由来であり、CS-Aは鯨軟骨由来であり、CS-Dは鮫軟骨由来であり、そして、CS-B(またはDS)は、ブタの皮膚由来である。
以上の通り、本実施例によれば、マウス由来高転移性ルイス肺癌H11細胞を用い、コンドロイチン硫酸およびその誘導体、特にCS-EおよびCS-A、中でもCS-Eの腫瘍細胞転移阻害活性を確認することができた。
[デングウィルス感染阻害]
本実施例は、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の少なくとも一方を含む前記本発明の第2の薬学的組成物および医薬のデングウィルス感染阻害活性等に関する実施例である。
本実施例では、各種多硫酸化CSのデングウイルスに対する感染阻害活性を測定した。本実施例における実験プロトコールは、Chie Aoki, Kazuya I.P.J. Hidari, Saki Itonori, Akihiro Yamada, Naonori Takahashi, Takeshi Kasama, Futoshi Hasebe, Mohammend Alimul Islam, Ken Hatano, Koji Matsuoka, Takao Taki, Chao-Tan Guo, Tadanobu Takahashi, Yuichi Sakano, Takashi Suzuki, Daisei Miyamoto, Mutsumi Sugita, Daiyo Terunuma, Koichi Morita and Yasuo Suzuki J. Biochem. (Tokyo) in press (2006)に記載の方法「焦点力価アッセイ(Focus-forming assay)」および「デンドリマーによるウィルス感染阻害(Inhibition of virus infection by dendrimers)」に準じて行った。すなわち、具体的には以下の通りである。
(焦点形成アッセイ)
ウィルス力価は、BHK-21細胞を用いた焦点形成アッセイにより決定した。BHK-21細胞は、96ウェルプレート上に播種し、そして、2% FBSを含むDMEM中、37℃で24時間培養した。培地除去後、血清フリーDMEMで連続的に希釈したウィルス溶液を前記プレート上に播種し、そして、前記細胞を37℃で2時間インキュベートした。前記ウィルス溶液除去後、上敷き培地(1% FBSおよび0.5%メチルセルロースを含むDMEM)を添加し、そして、プレートを37℃で44時間インキュベートした。前記細胞を固定化し、そして、5%パラホルムアルデヒドおよび1% NP-40をそれぞれ含むPBSで透過処理した。感染性病巣は、ヒト抗デング抗血清を一次抗体とし、HRP複合化ヤギ抗ヒト免疫グロブリンを二次抗体として検出した。ウィルス感染性は、焦点形成ユニット(FFU)により決定した。
(デンドリマーによるウィルス感染阻害)
DEN2(最終濃度1,800FFU/ml)を、扇形、球形およびダンベル形デンドリマーと、指示濃度で予備混合した。前記ウィルスとデンドリマーの予備混合物(125μl)を、続いて、48ウェルプレートで増殖させたBHK-21細胞に、37℃で2時間播種した。血清フリーDMEMで3回洗浄後、上敷き培地を添加し、そして、プレートを37℃で43時間インキュベートした。細胞の感染性病巣は、続いて、前述の焦点形成アッセイにより可視化し、そして、光学顕微鏡で計数した。播種ウィルスの最適力価は、1ウェルに少なくとも50の病巣が発現するように予備決定した。
上記実験プロトコールに従い、デングウィルス2型感染の、コンドロイチン硫酸(CS)製剤による阻害を測定した。具体的には、 CS-A, CS-B, CS-C, CS-D, CS-E, CS-K, ヘパリンまたはヘパリン硫酸を5μg/mL濃度で用い、BHK-21細胞に対するデングウィルス2型感染を阻害した。ヘパリンは、陽性対照として用いた。図5に、その結果を示す。図中の「ウィルス(Virus)」は、デング2ウィルスエンベロープタンパク質を表し、そして、感染力%(% of Infectivity)は、インヒビターなしで得られた値との比較で表している。数値は3回の独立実験の平均値として得た。
図5から分かる通り、いずれのCS製剤もデングウィルス感染に対する阻害活性を示した。特に、CS-EおよびCS-Kは、ヘパリンと同等以上の強力な阻害活性を示した。
次に、CS-Eまたはヘパリンのデングウィルス2型感染に対する阻害効力を測定するために、濃度を次第に減少させて(0-5μg/mL範囲)、濃度依存阻害活性を測定した。図6に、その結果を示す。図中の用語については、図5と同様である。また、実験プロトコールの詳細も、前記と同様である。図6から分かる通り、CS-Eは濃度依存性の阻害活性を示した。
さらに、酸化処理により化学修飾したCS-E(CS-E誘導体)製剤の、デングウィルス2型感染阻害活性を測定した。すなわち、CS-E, CS-EP (CS-Eを過ヨウ素酸で120時間処理したもの)およびCS-EPA(CS-EPを1M NaOHで加水分解したもの)を、5μg/mL濃度でデングウィルス2型感染阻害に用い、活性を測定した。図7に、その結果を示す。同図から分かる通り、CS-Eのみならず、酸化処理したCS-EPおよびCS-EPAも、有効なデングウィルス2型感染阻害活性を示した。これらCS-EPおよびCS-EPA等の化学修飾製剤は、酸化処理による副作用の軽減で、母体のCS-Eよりも臨床等の用途にさらに有用であることが期待される。なお、図中の用語については図5と同様であり、実験プロトコールも前記と同様である。
なお、本実施例で用いたCS-Eは、実施例1と同じく、生化学工業株式会社から購入した。CS-Kは、当業者であれば、技術常識に基づいて、過度の試行錯誤や複雑高度な実験を行うことなく、カブトガニ軟骨から単離精製することができる。前記単離精製方法としては、具体的には、例えば、Seno, N., Yamashiro, S., and Anno, K. (1974) Biochim. Biophys. Acta 343, 423-426等に記載の方法、あるいは他のプロテオグリカンの単離精製方法と同様の方法を用いることができる。本実施例で用いたCS-Kは、Seno, N., Yamashiro, S., and Anno, K. (1974) Biochim. Biophys. Acta 343, 423-426に記載の方法に準じて単離精製した。すなわち、まず、カブトガニの鰓の軟骨部分を他の組織と分離し、小片に切断した後、アセトン処理により脱脂した。この軟骨を乾燥させた後、プロナーゼで徹底消化した。この消化物をトリクロロ酢酸処理し、セチルピリジニウムクロリドを用いたエタノール沈殿法によりムコ多糖を抽出した。そのムコ多糖を、陰イオン交換樹脂カラムDowex1(Sigma社の商品名、X-2、200-400メッシュ、Cl-フォーム、2.8cm×40cm)にかけた。0.15M NaCl水溶液と0.5M NaCl水溶液で前記カラムを順次洗浄後、2.0M NaCl水溶液によりCS-Kを溶出させ、透析および凍結乾燥の後、本実施例に用いた。
以上の通り、本実施例によれば、培養細胞を用い、コンドロイチン硫酸、特に、CS-K、CS-Eおよびその誘導体のデングウイルスに対する感染阻害活性を確認することができた。また、過ヨウ素酸で酸化処理したCS-Kについても、同様の活性を確認した。
[増殖因子結合活性等]
本実施例は、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含む前記本発明の第1の薬学的組成物および医薬の増殖因子結合活性等に関する実施例である。
本実施例では、まず、精製コンドロイチン硫酸K(CS-K、カブトガニ由来)の、種々の増殖因子および神経栄養性因子に対する結合活性を測定した。すなわち、ビオチン化CS-Kをストレプトアビジン被覆センサーチップ上に固定化し、増殖因子および神経栄養性因子との結合を確認した。具体的には、50ngのHGFまたは種々の因子各100ngを灌流させ、そして、Nandini, C. D., Mikami, T., Ohta, M., Itoh, N., Nambu, F. A., and Sugahara, K. (2004) J. Biol. Chem. 279(49), 50799-50809.に記載の方法で、BIAcoreシステム(商品名)中、ランニングバッファを用い、各因子を固定化CS-Kと4分間相互作用させて行った。より詳しくは以下のとおりである。
すなわち、まず、ストレプトアビジン被覆センサーチップ(商品名BIAcore AB)を、製品マニュアルに従い、1M NaClと50mM NaOHを用いて1分間コンディショニングし、それを3回繰り返した。ビオチン化CS-Kをリン酸緩衝食塩水中で灌流し、リン酸緩衝食塩水で、前記センサー表面と3分間相互作用させた。固定化は、応答ユニット(response units、RU)の増加により確認した。相互作用解析は、前記CS-Kを固定化したセンサーチップを用い、BIAcore Jシステム(商品名)により行った。HGF(50ng)または他の各増殖因子(各100ng)は、それぞれ、ランニングバッファ(10mM HEPES-NaOH(pH 7.4), 0.15M NaCl, 3mM EDTA,および0.005% Tween 20)中において、前記固定化CS-Kとの結合を確認した。流速は、製品マニュアルに従い、中程度の30μl/minに保った。各増殖因子は、固定化CS-Kと4分間相互作用させ、これを会合段階(association phase)とした。さらに追加の2分間で、増殖因子の解離(解離段階、dissociation phase)をさせた。その後、1M NaClを2分間注入して、前記センサーチップを再生させた。神経栄養性因子(各100ng)は、60μl/minの高い流速で固定化CS-Kと相互作用させた。会合段階および解離段階は、それぞれ4分間および2分間とした。
結合の結果として得られた会合段階は、応答ユニット(RU)によって測定した応答として扱った。図8に、その結果を示す。
さらに、表面プラズモン共鳴測定装置(商品名BIAcore)による固定化CS-Kと増殖因子の相互作用の速度論的解析を行い、動力学的パラメータを決定した。表1に、その結果を示す。
表1中、動力学的パラメータka(会合定数)、kd(解離定数)およびKd(解離平衡定数)値は、Nandini, C. D., Mikami, T., Ohta, M., Itoh, N., Nambu, F. A., and Sugahara, K. (2004) J. Biol. Chem. 279(49), 50799-50809.と同様、BIAevaluation 3.1ソフトウェア(商品名)により、1:1ラングミュア結合モデルを用い、物質輸送により決定した。各因子の結合および解離速度値は、5の異なる濃度の平均±S.E.M.として表現した。
図8および表1から分かる通り、CS-Kは、各因子に対応した結合活性を示した。
次に、CS-Kの神経突起伸長活性を、CS-Eと併せて測定した。すなわち、E16海馬ニューロン(10,000個細胞/cm2)を、P-ORN(ポリオルニチン)でプレコートした基層上で24時間伸長させ、CS-E(陽性対照)またはCS-Kで固定し、そして、2. Hikino, M., Mikami, T., Faissner, A., Vilela-Silva, A.E.S., Pavao, M.S.G., and Sugahara, K. (2003) J. Biol. Chem. 278(44), 43744-43754.に記述の方法により、微小管結合タンパク質2およびニューロフィラメントを染色した。より詳しくは以下のとおりである。
まず、E16マウス胚を解剖して海馬を取り出し、ハンクス液(Hanks’ balanced salt solution)で10回洗浄し、0.25%(w/v)トリプシンを含む同じハンクス液を用いて37℃で10分間解離させ、続いて穏やかに倍散させた。単一の細胞を、N2サプリメント(Invitrogen社、日本国、東京)、0.1mM ピルビン酸塩、0.1%(w/v)卵白アルブミン、0.029% L-グルタミン、0.2% 炭酸水素ナトリウムおよび5mM HEPESを含むイーグルの最小必須培地(Eagle’s minimum essential medium)に再懸濁させた。この細胞を、続いて、P-ORN(ポリオルニチン)でプレコートした基層上、10,000個細胞/cm2密度に接種し、組織培養インキュベータ中、5%CO2雰囲気下、37℃に保った。24時間培養後、前記細胞を、4%(w/v)パラホルムアルデヒドで30分間固定化し、PBSで3回洗浄し、0.2%(w/v) Triton X-100(商品名、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を含むPBSを用いて室温で30分間透過処理した。この細胞を、100倍希釈の抗微小管結合タンパク質2(anti-microtuble-associated protein 2、Leico Technologies Inc.社、ミズーリ州セントルイス)および250倍希釈の抗ニューロフィラメント(anti-neurofilament、シグマ社、ニューロフィラメントHサブユニットのリン酸化または非リン酸化形態と特異的に反応する)、および3%(w/v)ウシ血清アルブミンを含む抗体含有PBSで免疫染色した。そして、3,3’−ジアミノベンジジンを色素源とし、Vectastain ABCキット(Vector Laboratories Inc.社(カナダ国Burlingame)の商品名)で展開した。各培養条件について、2回の実験を行った。
図9(A)に、前記CS-EまたはCS-K被覆基層上で培養したニューロン(神経細胞)の、増大した神経長および代表的形態を示す。また、生成した神経突起を定量的に分析した。すなわち、100個のランダムに選択した個々のニューロンを、各条件下における最長神経細胞の平均長測定に用い、2回の個別実験により得られた値を、平均±S.E.M.として表現した。図9(B)に、その結果を示す。図9(A)および(B)から分かる通り、CS-K培養ニューロンは、CS-Eに匹敵する量および神経長を示した。
さらに、本実施例では、酸化処理により化学修飾したCS-Eを用い、ニューロンを刺激した。すなわち、E16マウス由来の海馬ニューロン(10,000個細胞/cm2)を、P-ORNおよび続いてCS-E(陽性対照)、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)またはCS-EPA(1M NaOHで処理したCS-EP)でプレコートした種々の基層で24時間かけて伸長させ、固定し、そして、微小管結合タンパク質2(MAP2)およびニューロフィラメントを染色した。より詳しい操作は、前述と同様である。図10(A)に、CS-E, CS-EPまたはCS-EPA被覆基層で培養したニューロンの、増加した神経突起長および形態学的特徴(代表的形態)を示す。CS-EPで培養したニューロンは、CS-Eについて観測したそれと比較して顕著に長い神経突起を示した。一方、CS-EPA被覆基層上の細胞は、複数の神経突起を示した。
さらに、生成した神経突起を定量的に分析した。すなわち、100のランダムに選択した個々のニューロンを、各条件下での最長神経突起長の平均値測定に用い、2回の個別実験により得られた値を、平均値±S.E.Mで表した。図10(B)に、その結果を示す。同図から分かる通り、化学修飾(酸化処理)による副作用の軽減が期待されるCS-EPおよびCS-EPAも、CS-Eとほぼ遜色ない神経突起伸長促進活性を示した。
なお、本実施例において、CS-Kは、実施例2と同様の方法で単離精製したものを用いた。CS-Eは、生化学工業株式会社から購入した。
以上の通り、本実施例によれば、マウスの培養海馬ニューロンを用い、CS-Kおよび酸化処理CS-Eに、神経突起伸長促進活性およびその基盤となると考えられる細胞増殖因子結合活性が存在することを確認することができた。また、同様に、過ヨウ素酸により酸化処理したCS-Kおよびさらにアルカリ処理したCS-Kについても、同様の活性を認めた。これらCSおよびその誘導体は、培養液中に細胞から分泌される種々の増殖因子と糖鎖が結合し、細胞に提示していると推測され、これらのCSおよびその誘導体自体が増殖因子結合医薬として有効利用できると考えられる。
[3-O-硫酸化グルクロン酸を含むCS-KテトラサッカリドのコンドロイチナーゼABCによる消化、および分解生成物であるジサッカリド中間体の構造決定]
本実施例は、質量分析を用いて硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する前記本発明の分析方法に関する実施例である。
本発明者らは、以前、カブトガニ軟骨から単離したCS-K由来の希少なテトラサッカリドGlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-GalNAc(4S) (K-K)の構造を決定した(Sugahara, K., Tanaka, Y., Yamada, S., Seno, N., and Kitagawa, H. (1996) J. Biol. Chem. 271(43), 26745-26754.)。上記テトラサッカリドのコンドロイチナーゼABC(CSase ABC)消化は、還元末端から形成されるΔHexA(3S)を含む不安定なジサッカリドユニットを生成し、非還元末端からは、飽和ジサッカリドユニットのみを生ずる。
本実施例では、CSase ABC消化後のΔHexA(3S)α1-3GalNAc(4S)分解生成物をESI-MSのネガティブイオンモードで分析し、従来の分析方法では検出不可能であった構造を検出した。
さらに、検出された構造から、前記CSase ABC消化において起こりうるメカニズムを推測した。前記推測されるメカニズムの概要は以下の通りである。すなわち、分解(消化)は、ΔHexAユニットからの水分子、二酸化硫黄およびアセチレンの損失に関連する。ΔHexA(3S)ユニットからの二酸化硫黄損失の間、C3-C4炭素は、隣接炭素C5およびC6に水素化物イオンを連続的に与えて5,6-ジヒドロキシ-6-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ヘキサ-1-イン-3,4-ジオンを形成し、SP2混成となる。さらに、分解工程中においては、中間体である1-ヒドロキシ-1-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ブタ-3-イン-2-オンを生じ、前記中間体は、最終生成物としてGalNAc(4S)を与える。ただし、この推測は、本発明をなんら限定するものではない。
以下、本実施例における分析方法および前記推測されるメカニズムについて、さらに詳しく説明する。
[CS-KテトラサッカリドのCSase ABCによる消化]
まず、実施例2と同様の方法により、カブトガニ軟骨からCS-Kを単離した。そのCS-Kを、Sugahara, K., Shigeno, K., Masuda, M., Fujii, N., Kurosaka, A., and Takeda, K. (1994) Carbohydr. Res. 255, 145-163.に記述されている方法で消化してCS-Kテトラサッカリドを調製した。すなわち、まず、50mgのCS-Kを、2.0mLの0.05M Tris・HCl緩衝液(pH8.0、60mM酢酸ナトリウムおよび100μg/mLウシ血清アルブミンを含む)中、0.9ユニットのコンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社より購入)により37℃で22時間消化した。その後、0.1ユニットのコンドロイチナーゼABCを追加してさらに18時間消化した。反応は、波長232nmにおけるUV吸収で追跡した。この反応混合物に1M AcOHを加えてpHを6.5に調整し、100℃で1分間煮沸して反応を停止させた。この消化物を、Sephadex G-15(GEヘルスケアバイオサイエンス社の商品名)カラムでゲルろ過した。溶出液には、0.25M NH4HC03-7% 1−プロパノール水溶液を用いた。ゲルろ過物に水を加え、エバポレーションにより脱塩し、再度水に溶解させ、HPLCにより精製して目的のテトラサッカリドを得た。このCS-Kテトラサッカリド(K-K)[GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-GalNAc(4S)](0.5nmol)を、Sugahara, K., Shigeno, K., Masuda, M., Fujii, N., Kurosaka, A., and Takeda, K. (1994) Carbohydr. Res. 255, 145-163.に記述されている標準条件(CS-Kテトラサッカリド0.5nmolに対するコンドロイチナーゼABCの使用量40μL、温度37℃、緩衝液中)で10分間、5mIU/mL コンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社から購入)により消化した。その反応混合物を、ナトリウム化に基づくピーク(sodiated peaks)を抑制するために、0.1%酢酸を含む50%アセトニトリルに溶解させて溶液(90:10)とし、ESI-MSのネガティブモードにかけた。図11に、CS-Kテトラサッカリド(K-K)のCSase ABC消化物におけるESI-MSスペクトル(200〜700m/z amu間)を示す。図12に、97における硫酸基(sulfite group)についてのプリカーサーイオンモードにより得られたESI-MSスペクトルを示す。図13に、300[GalNAc (4S)]についてのプリカーサーイオンモードにより得られたESI-MSスペクトルを示す。
上記分析の結果として、CSase ABCにより消化されたCS-Kテトラサッカリド(K-K)は、還元末端からは、主要な不飽和ジサッカリドは何も生成しなかった。584.8におけるピークの存在(図11)は、飽和のCS-Kジサッカリドユニットであるとアサインすることが出来る。本発明者らは、ΔHexA(3S)α1-3GalNAc(4S)ユニットについて可能性のある分解生成物ピークを300.3に同定し、そして、1つの中間体のピークを382に同定した。CSオリゴサッカリド類は、それらの構造に関係なく、全て硫酸基(sulfate group)を含む。そのため、本発明者らは、ネガティブイオンモードにおいて97を硫酸基(sulfite group)のプリカーサーイオンと分析した。その結果、主要なピークが300.3, 382.4に得られ、そして、検出可能な中間体ピークが440.5に得られた(図12)。さらに、300におけるプリカーサーイオンピークは、358.1, 382.0, 416.3および440.1に、可能性のある親中間体単独としての主要ピークを与えた(図13)。
上記ESI-MSスペクトルに基づき、本発明者らは、ΔHexA(3S)α1-3GalNAc(4S)の分解において可能性のあるメカニズムを、下記スキーム1、2および3のように推測した。ただし、前述の通り、この推測は、本発明をなんら限定するものではない。
上記スキーム1、2および3についての説明は、以下の通りである。すなわち、まず、GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-GalNAc(4S) [K-K]のCSase ABC酵素による消化は、不安定なジサッカリドユニットΔK(化合物3)を生じた。ESI-MSスペクトルによれば、さらに多くのフラグメントピークが明らかになった。それらは、CSase ABC消化後に生じる分解した低分子量および不安定な中間体である可能性があり、本発明者らは、GalNAc(4S)(化合物9)に加え、アセチレン中間体すなわち1-ヒドロキシ-1-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ブタ-3-イン-2-オン(化合物7)と同定した。最初に親テトラサッカリドから遊離したΔHexA(3S)α1-3GalNAc(4S)は、不安定であり、隣接するβ-不飽和酸(C4およびC5)を攻撃する3-O硫酸エステル基(sulfate group)の影響により分解した(スキーム2)。C5炭素は隣接するC4炭素の電子を吸引し、それによりΔHexA環は開裂し、そして、続いて、C4炭素に隣接するC3炭素も、水分子が脱離して化合物5が形成されるまでこの工程に関与する(スキーム3)。HexAユニットにおいて高い歪みのかかったC3およびC4炭素は、SO2分子を喪失して5,6-ジヒドロキシ-6-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ヘキサ-1-イン-3,4-ジオン(化合物5)に達することでSP2となることが示される。前記中間体5は、さらに、熱的に不安定であり、同様の方式でのアセチレン脱離により、すぐに3,4-dihydroxy-2-oxo-4-[GalNAc(3S)-4-oxy]-butanal6を形成する。一般的には、隣接するα-ケトカルボアルデヒドは、不安定である。そのために、中間体6は、水分子の脱離により安定な中間体1-ヒドロキシ-1-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ブタ-3-イン-2-オン(化合物7)を形成する。化合物7は、ESI-MSスペクトル中において、プリカーサーイオンモードスペクトルにより得られたGalNAc(4S)とともに、m/z 382amuとして見出された。前記中間体7は、アセチレンの遊離により中間体8すなわち2-ヒドロキシ-2-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-アセトアルデヒドを与える。前記中間体8は、すぐに水分子およびアセチレン基を失い、安定化合物GalNAc (4S)(化合物9)を最終生成物として与える。
なお、多くの文献は、光化学反応中、アジド溶液中に捕捉することによるC-グリコシル-α-アミノ酸の調製について、C-グリコシルアセチレンを強力かつベターな中間体として、その使用に脚光を当てている((a) Dondoni, A., Giovannini, P. P., and Massi, A. (2004) Organic Letters, 6(17), 2929-2932、(b) Dondoni, A., Mariotti, G., and Marra, A. (2002) J. Org. Chem. 67, 4475-4486 および(c) Dondoni, A., and Marra, A. (2000) Chem. 100, 4395-4421.)。このことも、GalNAc-O-アセチレン形成がグリコプロテイン生合成の出発原料であるというメカニズムの推測の理由付けとなる。また、このメカニズムは、3-O-硫酸化ΔHexA分解に対し一般的に適用可能である可能性がある。
以上の通り、本実施例では、カブトガニ軟骨から得られた3-O-硫酸化グルクロン酸を含むテトラサッカリドGlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-GalNAc(4S)をCSase ABCにより消化した後の分解において、中間体と考えられる1-ヒドロキシ-1-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ブタ-3-イン-2-オンを同定した。また、GalNAc(4S)を最終生成物として与える前記分解工程中において推測されるメカニズムについては、前述の通りである。
[種々のGAGsの構造解析]
本実施例は、質量分析を用いて硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する前記本発明の分析方法に関する実施例である。本実施例では、CS-KのみならずCS-Eについても酵素消化(分解)物のESI-MSによる分析を行い、3-O-硫酸化グルクロン酸を含むジサッカリドを検出した。これにより、本発明の分析方法が種々の硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖に適用可能であることを示した。なお、CS-Kは、前記と同様に調製したものを用い、CS-Eは市販品を用いた。
前述の通り、CS-KおよびCS-EをコンドロイチナーゼACIIやACIで消化して硫酸化オリゴ糖とし、NMR測定することにより、CS-Kがグルクロン酸3-O-硫酸[GlcA(3S)]を多く含むことが報告されていた。コンドロイチナーゼABC(CSase ABC)消化によるGlcA(3S)の分解のため、GlcA(3S)は、アニオン交換HPLCクロマトグラフィー分析による伝統的なジサッカリド分析では検出できない(非特許文献9)。本実施例では、CS-KおよびCS-EのCSase ABC消化(分解)物を質量分析することにより、GlcA(3S)を検出した。具体的には、CS-KおよびCS-EのCSase ABC消化後における消化(分解)物に含まれる、分解中間体と思われる物質をモニターすることにより、有意な量のGlcA(3S)を含むことを確認した。
第一に、標準的なΔA-Kテトラサッカリド[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)β1-4 GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)](Kinoshita, A., Yamada, S., Haslam, M.S., Morris, H.R., Dell, A., and Sugahara K. (1997) J. Biol. Chem. 272, 19656-19665)を、モデル化合物としてCSase ABCで消化し、そして、その消化物を、優れた感度および分解能のためにフルオロフォア2-ABで標識した(Kinoshita, A., and Sugahara, K. (1999) Anal. Biochem. 269, 367-378)。続いて、前記生成物を、アニオン交換HPLCおよびアミノ結合シリカPA-03カラム(株式会社ワイエムシィ(日本国、京都)のYMC-Pack PA(商品名))を用い、下記フローチャート1に記載の伝統的条件Aで分析した。
図14に、ΔA-KテトラサッカリドCSase ABC消化物のアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。図示の通り、前記CSase ABC消化物は、ΔA[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)]ジサッカリドユニットおよびΔO[ΔHexAα1-3GalNAc]を、モル比45.7:54.3で含んでいた。このピークをさらにキャラクタライズするために、CSase ABC消化物の一定分量を、ゲル濾過でフラクション化(分画)した(フローチャート1)。前記フラクションを集め、ESI-MSにかけた。図15に、そのESI-MSスペクトルを示す。図示の通り、前記ESI-MS(ネガティブイオンモード)の特性は、m/z 420に主なシグナルを示した。これは、2-ABで標識した一硫酸化GalNAcの分子量に対応する。このシグナルが示す物質については、必ずしも全てが明らかではないが、ΔHexAα1-3GalNAc(4S)の分解に由来する物質であり、CSase ABCのGalNAc(4S)に対する作用により生成されたと考えるのが合理的である。この生成メカニズムは、例えば、実施例4で述べたように推測される。
第二に、CS-Kの試験サンプルを、前記フローチャート1に示す工程に従ってCSase ABC消化にかけた。図16に、このようにしてCSase ABC消化し2-AB標識したCS-Kポリサッカリド製剤のアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。図示の通り、このHPLC特性は、GalNAc(4S)の位置にピークの存在を示した。このことは、ESI-MSにより確認された(データ示さず)。ΔAピークに観測されたスモールショルダーは、以下に述べる通りGalNAc(4S,6S)と推測される。また、下記表2に、HPLCにより決定したCS-Kの糖組成を示す。
2-AB-標識ΔOユニットおよび2-AB-標識GalNAc(4S)の保持時間は互いに近い。このため、本発明者らは、アニオン交換HPLCにおいてこれらのピークをより良く分解するために、前記フローチャート1に示した伝統的条件AをHPLC条件Bに改変した測定も行った。HPLC条件AとHPLC条件Bとの相違点は、緩衝液勾配である。具体的には、HPLC条件Aでは、緩衝液A(1M NaH2PO4)と緩衝液B(16mM NaH2PO4)の勾配を、60分間に対し緩衝液B濃度100%〜47%としたのに対し、HPLC条件Bでは、最初の20分間は緩衝液B濃度100%とし、次の40分間は47%に減少させた。図17に、2-AB-標識不飽和CSジサッカリド標準およびGalNAc(4S)標準の、HPLC条件B下におけるアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。図示の通り、HPLC条件B下では、ΔOユニットの2-AB誘導体およびGalNAc(4S)が良く分解された。
第三に、イカ軟骨由来のCS-Eを分析した。
イカ軟骨が約10%のGlcA(3S)を含むことは知られており、そして、100mgのCS-EをCSase ACIIで徹底消化した後、テトラサッカリドΔA-L[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(6S)], ΔA-K[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)], ΔA-M[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S,6S)], ΔE-K[ΔHexAα1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)]およびΔE-M[ΔHexAα1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S,6S)]が285, 243, 508, 48および195mgの収量で得られ、GlcA(3S)含有構造が単離されている(Kinoshita, A., Yamada, S., Haslam, M.S., Khoo, K.H., Sugiura, M., Morris, R.H., Dell, A., and Sugahara, K. (2004) Biochemistry 43, 11063-11074)。本発明者らは、今回、下記フローチャート2によりCS-Eの消化(分解)生成物を分析した。そして、CSases ACIおよびACII抵抗性テトラサッカリドフラクションの2-AB標識後におけるアニオン交換HPLCクロマトグラフィーで、GalNAc(6S)およびGalNAc(4S,6S)であると推定される2つの生成物をさらに検出するという進歩があった。図18に、2-AB標識後の、CSases ACIおよびACII抵抗性CS-EテトラサッカリドフラクションCSase ABC消化物のアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。
CSase ABCは、ΔA-KおよびΔE-KからGalNAc(4S)を、ΔA-LからGalNAc(6S)を、ΔA-MおよびΔE-MからGalNAc(4S,6S)を、1.00:0.98:2.42のモル比で生じさせた。GlcA(3S)を含むと思われるテトラサッカリドフラクションは、第一に、CS-EをCSases ACIとACIIの混合物で消化して得た。これは、GlcA(3S)に対するN-アセチルガラクトサミン結合が、前記2つの酵素に抵抗性であり、前記酵素に抵抗性のテトラサッカリドフラクション中に濃縮されやすいためである。したがって、上記フローチャート2の通り、その後のステップで、前記抵抗性テトラサッカリドフラクションを、GlcA(3S)-含有構造の分析に用いた。
しかしながら、ΔA-L, ΔA-MおよびΔE-M由来のGalNAc(4S), GalNAc(6S)および/またはGalNAc(4S,6S)は、内部シーケンスのみならず、CS-Eポリサッカリド鎖の非還元末端からも生成されている可能性がある。それゆえに、対照実験で、前記CS-Eポリサッカリド製剤をCSases ACIとACIIの混合物により消化したところ、アニオン交換HPLCのGalNAc(4S), GalNAc(6S)またはGalNAc(4S,6S)部位には、何のピークも与えなかった。この結果は、CS-Eが、ポリサッカリド鎖の非還元末端に、感知できるほどの量のGalNAc(4S), GalNAc(6S)またはGalNAc(4S,6S)を含まないことを示す。
さらに、CS-Eサンプル中のGlcA(3S)-結合GalNAc(6S)およびGalNAc(4S,6S)をGlcA(3S)-結合GalNAc(4S)とともに検出するために、CSases ACIおよびACIIに抵抗性のCS-EテトラサッカリドフラクションをCSase ABC消化にかけ、2-ABで標識した。続いて、この2-AB標識消化物の一定分量を、0.2M炭酸水素アンモニウムを溶出剤として用いたSuperdex(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社の商品名)ペプチドカラムによるゲル濾過で分画した。図19に、このゲル濾過のクロマトグラムを示す。
図19に示すフラクション1〜5を個別に採取し、そして、各フラクションをESI-MSにかけた。ネガティブモードによる前記ESI-MSでは、フラクション1は未同定分子イオンシグナルを示し、一方、フラクション2および3は、それぞれ、2-ABで標識した二硫酸化および一硫酸化ジサッカリドに対応する分子イオンシグナルを示した(データ示さず)。フラクション5は、m/z 420に主なシグナルを示した。これは、2-ABで標識した一硫酸化GalNAcの分子量に対応する。このことは、GalNAc(4S)もしくはGalNAc(6S)または両方に対応する生成物が、ΔA-KおよびΔE-KまたはΔA-Lの分解に由来することを示している。図20に、図19におけるフラクション4のESI-MSスペクトルを示す。図示の通り、フラクション4では、前記スペクトルは、m/z 522に分子イオンシグナルを示した。これは、2-ABで標識した一ナトリウム化二硫酸化GalNAcの分子質量に対応する。この生成物は、ΔA-MおよびΔE-MのCSase ABC消化後の分解により生じたGalNAc(4S,6S)であると考えるのが合理的である。
本発明者らは、前記ゲル濾過HPLCによるフラクション4の溶出位置にさらに注目し、前記フローチャート2に記載の通り、前記フラクション4の一定分量をアニオン交換HPLCにかけた。図21に、図19におけるフラクション4の、フローチャート2に記載のHPLC条件B下でのアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。図示の通り、HPLC特性は、ΔAの溶出位置に単一の主要なピークを示した。
さらに、図19におけるフラクション4を、HPLC条件B下でのアニオン交換HPLCクロマトグラフィーにより、信頼性のあるΔCSジサッカリド標準および2-AB標識GalNAc(4S)標準混合物との共クロマトグラフィーにかけた。図22に、そのクロマトグラムを示す。図示の通り、このクロマトグラムは、ΔAのショルダーピークとして特異的に、ΔCとΔAの間のフラクション4ピーク溶出を示した。このピークのモルパーセンテージは、表に示す通り、ACIおよびACIIに抵抗性のテトラサッカリドフラクションにおけるジサッカリド組成物全量の29%に相当する。これは、ΔA-MおよびΔE-Mユニットの両方に由来するGalNAc(4S,6S)の検出についての最初の報告である。対照実験として、CS-Eポリサッカリド製剤をCSases ACIおよびACIIの混合物で消化したところ、アニオン交換HPLCではGalNAc(4S,6S)溶出位置に何の有意なピークも与えなかった。このことは、前述の通り、CS-Eはポリサッカリド鎖の非還元末端に検出可能な量のGalNAc(4S,6S)を含まないことを示す。興味深いことに、CS-KのCSase ABC消化物もまたΔAにショルダーピークを示した。このショルダーピークは、CS-KのMユニットに由来するGalNAc(4S,6S)を表すと思われる。
以上の結果は、本実施例においてフローチャート1および2等で述べた工程が、ΔA-KおよびΔE-K由来のGalNAc(4S)とΔA-MおよびΔE-Mシーケンス由来のGalNAc(4S,6S)の検出および定量を可能にすることを明確に示す。すなわち、本発明の分析方法は、単純ヘルペスウィルス感染を阻害する強力な生物活性を有するCS-EおよびCS-K製剤の質の確認に適用できる。なお、CS-EおよびCS-Kの単純ヘルペスウィルス感染阻害については、Bergefall, K., Trybala, E., Johansson, M., Uyama, T., Naito, S., Yamada, S., Kitagawa, H., Sugahara, K., and Bergstrom, T. (2005) J. Biol. Chem. 280, 32193-32199およびBergefall, K., Trybala, E., Johansson, M., Uyama, T., Naito, S., Yamada, S., Kitagawa, H., Sugahara, K., Bergestrom, T. (2005) in Abstract of International Symposium on “Proteoglycans in Signaling”, Sep. 7-11, 2005, Stockholm, Sweden, abstract 81に記載されている。
以上の通り、本実施例によれば、質量分析を用い、GlcA(3S)含有二糖単位を高感度で簡易に検出し、CS-EとCS-Kにおけるその含量を決定することに成功した。
以上説明した通り、本発明によれば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を高感度で解析できる分析方法を提供することができる。本発明の分析方法によれば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の生物活性の基盤となりうる構造、例えばコンドロイチン硫酸中に含まれるGlcA(3S)構造等を高感度で簡易に検出することができる。これにより、例えば、癌転移阻害、ウィルス感染阻害等の基盤となっている構造を解明することで、癌転移、ウイルス感染のメカニズム解明等の基礎医学分野への応用も期待できる。また、前記のような構造を検出することで、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の生物活性等の品質を評価し、抗癌剤、制癌剤、抗ウィルス薬開発等の創薬分野に応用することができる。
また、本発明によれば、優れた生物活性を有する硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物および医薬を提供することができる。本発明の薬学的組成物および医薬は、前記特定の硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性物質として含むことにより、その活性物質に対応した優れた生物活性を有し、その生物活性や副作用の軽減により、種々の分野への適用が可能である。例えば、酸化処理による副作用の軽減は、GAGのみならず、糖脂質、糖タンパク質等の糖鎖生物学、基礎医学、応用医学、創薬分野、糖鎖工学に新しい分野を切り開く突破口となると考えられる。
本発明は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の分析方法、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物および医薬、薬学的組成物および医薬の製造方法に関する。
硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖の中でも、特にコンドロイチン硫酸(CS)やデルマタン硫酸(DS)等のグリコサミノグリカン(GAG)は、ヘパリンやヘパラン硫酸(HS)とともにその生物活性が注目され、盛んに研究されている。例えば、コンドロイチン硫酸(CS)やデルマタン硫酸(DS)は、コアタンパク質に共有結合した形でプロテオグリカン(PG)として合成され(非特許文献1〜3)、あらゆる組織の細胞表面や細胞外マトリックスに存在していることが報告されている。さらに、こうしたCS/DS-PGsは、哺乳類の脳の構成成分であり、神経細胞の接着、移動、分化、神経突起形成や軸索誘導などの調節を通して、神経の発生に関与していることも報告されている(非特許文献4〜8)。しかしながら、これらグリコサミノグリカンの生物活性等についてはいまだ不明な点が多く、基礎医学、応用医学、創薬等の各分野において、さらなる研究が要求されている。
例えば、これまでに、ヘパリンが癌転移の阻害活性を示すことが分かっていたが、出血などの副作用があるため臨床応用には至っておらず、さらに良質な腫瘍転移阻害剤等の研究開発が求められている。また、ヘパラン硫酸がヘルペスウイルスやデングウイルスの感染のレセプターとなるという報告はあるが、CSについてはそのような報告はない。
さらに、CS等の硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖については、その構造解析についても、さらなる研究が要求されている。例えば、従来の研究としては、CS-EとCS-KをコンドロイチナーゼACIIやACIで消化して硫酸化オリゴ糖とし、NMR測定により、GlcA(3S)構造を確認したことが報告されていた(非特許文献9)。しかし、CS-EまたはCS-KをコンドロイチナーゼABC(CSase ABC)で完全に消化すると、前記GlcA(3S)構造がほとんど消失し、アニオン交換HPLCクロマトグラフィー分析による伝統的なジサッカリド分析では検出できない(非特許文献9)。このため、硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖の構造について、例えば、前記NMR測定よりも感度の良い測定方法が求められている。
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したがって、本発明は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を高感度で解析できる分析方法の提供を目的とする。また、本発明は、優れた生物活性を有する硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物および医薬を提供することを目的とする。さらに、本発明は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物および医薬の製造方法を提供する。
前記課題を解決するために、本発明の分析方法は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を酵素消化して得られる生成物を質量分析する工程を含む分析方法であって、前記酵素消化生成物は、モノサッカリド、ジサッカリドおよびトリサッカリドからなる群から選択される少なくとも一つのサッカリドを含み、前記質量分析により解析される前記サッカリドの3−O−硫酸化ヘキスロン酸(ΔHexA(3S))構造に基づき前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する分析方法である。
次に、本発明の第1の薬学的組成物は、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含み、増殖因子結合に関する用途に使用される。そして、本発明の第2の薬学的組成物は、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、およびCS-Kからなる群から選択される少なくとも一つを含み、デングウィルス感染阻害に関する用途に使用される。さらに、本発明の第3の薬学的組成物は、コンドロイチン硫酸E(CS-E)を活性物質として含み、細胞増殖阻害、細胞死誘導、腫瘍細胞増殖阻害、腫瘍細胞浸潤阻害、腫瘍細胞転移阻害、腫瘍細胞遊走阻害、および腫瘍細胞死誘導からなる群から選択される少なくとも一つに関する用途に使用される。
また、本発明の第1の医薬は、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含み、増殖因子結合に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。そして、本発明の第2の医薬は、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、およびCS-Kからなる群から選択される少なくとも一つを含み、デングウィルス感染阻害に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。さらに、本発明の第3の医薬は、コンドロイチン硫酸E(CS-E)を活性物質として含み、細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。
前記本発明の分析方法によれば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を高感度で解析できる。したがって、本発明の分析方法は、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を構造解析して生物活性等の品質を評価することにより、前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物または医薬の製造に有用である。また、本発明の薬学的組成物および医薬は、前記特定の硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性物質として含むことにより、その活性物質に対応した優れた生物活性を有する。なお、多糖またはオリゴ糖を酵素消化すると、通常、二糖(ジサッカリド)が生成するが、場合によっては、単糖(モノサッカリド)や三糖(トリサッカリド)が生成するので、本発明はこれらを含む。
本発明の分析方法では、前述の通り、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を酵素消化して得られるサッカリドの3−O−硫酸化ヘキスロン酸(ΔHexA(3S))構造を質量分析により解析する。前記サッカリドは、モノサッカリド(単糖)、ジサッカリド(二糖)およびトリサッカリド(三糖)からなる群から選択される少なくとも一つを含む。前記質量分析により検出される被検出物質は、前記モノサッカリド(単糖)、前記ジサッカリド(二糖)または前記トリサッカリド(三糖)自体を含んでいても良い。前記被検出物質は、例えば、前記モノサッカリド(単糖)、前記ジサッカリド(二糖)または前記トリサッカリド(三糖)が酵素消化により分解される際の分解中間体を含むことが好ましい。前記分解中間体を質量分析により検出することで、前記モノサッカリド(単糖)、前記ジサッカリド(二糖)または前記トリサッカリド(三糖)の構造を、さらに正確に感度良く解析することができる。本発明の分析方法では、さらに高感度な分析のために、例えば、前記質量分析工程に先立ち、前記酵素消化生成物を分画する工程をさらに含むことが好ましい。前記分画に用いる手段は特に限定されないが、例えばゲル濾過クロマトグラフィーがより好ましい。
また、本発明の分析方法では、前記硫酸化多糖は特に限定されないが、例えば、グリコサミノグリカンが好ましく、コンドロイチン硫酸およびその誘導体のうち少なくとも一方であることがより好ましく、前記コンドロイチン硫酸が、CS-A、CS-B、CS-C、CS-D、CS-E、CS-KおよびCS-H(DS-E)からなる群から選択される少なくとも一つであることがさらに好ましい。前記グリコサミノグリカンを消化する酵素は、コンドロイチナーゼが好ましく、例えばコンドロイチナーゼABCを含むことがより好ましい。
また、本発明の分析方法では、前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖が、3−O−硫酸化グルクロン酸(GlcA(3S))構造を含み、前記質量分析により解析される3−O−硫酸化ヘキスロン酸(ΔHexA(3S))構造に基づき前記3−O−硫酸化グルクロン酸(GlcA(3S))構造を検出することが好ましい。
また、本発明の分析方法では、前記酵素消化生成物が、前記モノサッカリド、ジサッカリドまたはトリサッカリドが酵素消化により分解される際の分解中間体をさらに含み、前記分解中間体を質量分析により検出することで、前記3−O−硫酸化ヘキスロン酸(ΔHexA(3S))構造を検出することが好ましい。
次に、本発明の薬学的組成物の製造方法および医薬の製造方法は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性成分として含む薬学的組成物および医薬の製造方法であって、前記本発明の分析方法により前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析して生物活性を評価する工程を含む。前記薬学的組成物は、前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を薬学的活性成分として含む組成物であることが好ましい。すなわち、前記本発明の分析方法によれば、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析することで、その生物活性等の品質を評価し、実用に適した医薬や薬学的組成物を製造することができる。前記薬学的活性成分は、例えば、細胞増殖阻害活性、細胞死誘導活性、腫瘍細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、腫瘍細胞転移阻害活性、腫瘍細胞遊走阻害活性、腫瘍細胞死誘導活性、ウィルス感染阻害活性、デングウィルス感染阻害活性、神経突起伸長促進活性、および増殖因子結合活性からなる群から選択される少なくとも一つの活性を有することが好ましい。
次に、本発明の薬学的組成物および医薬について説明する。
本発明の第1の薬学的組成物は、前記の通り、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含み、増殖因子結合に関する用途に使用される。また、本発明の第1の医薬は、前記の通り、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含み、増殖因子結合に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。
本発明者らは、コンドロイチン硫酸(CS)の生物活性について鋭意研究の結果、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eが神経突起伸長促進活性および増殖因子結合活性を有し、神経突起伸長促進および増殖因子結合促進の少なくとも一方に関する用途に使用できることを見出し、前記本発明の第1の薬学的組成物および第1の医薬の発明に到達した。前記用途としては、例えば、神経突起伸長促進および増殖因子結合促進の少なくとも一方に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途がある。特に、酸化処理したCS-KおよびCS-Eは、酸化処理による副作用の軽減で、母体のCS-KまたはCS-Eよりも臨床等の用途にさらに有用であることが期待される。前記酸化処理は、例えば、過ハロゲン酸による酸化処理が好ましく、前記過ハロゲン酸は、過ヨウ素酸がより好ましく、また、前記酸化処理したCS-KまたはCS-Eが、例えば、酸化処理後、さらにアルカリ処理したCS-KまたはCS-Eであることがさらに好ましい。
また、本発明の第2の薬学的組成物は、前記の通り、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、およびCS-Kからなる群から選択される少なくとも一つを含み、デングウィルス感染阻害に関する用途に使用される。そして、本発明の第2の医薬は、前記の通り、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、およびCS-Kからなる群から選択される少なくとも一つを含み、デングウィルス感染阻害に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。
従来、コンドロイチン硫酸のデングウィルス感染阻害に関する報告はなかった。しかし、本発明者らは、鋭意研究の結果、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、またはCS-Kがデングウィルス感染阻害活性を有することを見出し、前記本発明の第2の薬学的組成物および前記本発明の第2の医薬の発明に到達した。
さらに、本発明の第3の薬学的組成物は、前記の通り、コンドロイチン硫酸E(CS-E)を活性物質として含み、細胞増殖阻害、細胞死誘導、腫瘍細胞増殖阻害、腫瘍細胞浸潤阻害、腫瘍細胞転移阻害、腫瘍細胞遊走阻害、および腫瘍細胞死誘導からなる群から選択される少なくとも一つに関する用途に使用される。そして、本発明の第3の医薬は、前記の通り、コンドロイチン硫酸E(CS-E)を活性物質として含み、細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。これらは、本発明者らが鋭意研究の結果発見したコンドロイチン硫酸の細胞増殖阻害活性等に基づく発明である。前記細胞の増殖に関する疾患は、例えば、脳腫瘍、頭頚部癌、神経芽細胞腫、副鼻孔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮筋腫、子宮頚癌、卵巣癌、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、赤血球増加症、真正多血症、本態性血小板増多症、骨髄腫、骨肉腫、絨毛癌、ホジキン病、非ホジキン病、膠芽種、星状細胞腫、および軟組織肉腫からなる群から選択される少なくとも一つの疾患であることが好ましい。また、前記本発明の第3の医薬は、例えば、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用されることが好ましい。
従来の研究によれば、細胞表面のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CS-PGs)は、腫瘍細胞の挙動調節に重要な役割を果たしうる(Iida, J., Meijne, A. M., Knutson, J. R., Furcht, L. T., and McCarthy, J. B. (1996) Cell surface chondroitin sulfate proteoglycans in tumor cell adhesion, motility and invasion. Semin. Cancer Biol. 7, 155-162)。コンドロイチナーゼ(CSase)ACまたはBによるメラノーマ細胞の処理は、浸潤および増殖を阻害する(Denholm, E. M., Lin, Y. Q., and Silver, P. J. (2001) Anti-tumor activities of chondroitinase AC and chondroitinase B: inhibition of angiogenesis, proliferation and invasion. Eur. J. Pharmacol. 416, 213-221)。細胞表面のCD44-関連CS-PGは、タイプIコラーゲンにより媒介されるメラノーマ細胞の運動性および浸潤に関し、そして、タイプIコラーゲン基層における細胞の運動性および浸潤挙動に必要であり、トランスフォーミング増殖因子βにより刺激される(Faassen, A. E., Schrager, J. A., Klein, D. J., Oegema, T. R., Couchman, J. R., and McCarthy, J. B. (1992) A cell surface chondroitin sulfate proteoglycan, immunologically related to CD44, is involved in type I collagen-mediated melanoma. J. Cell Biol. 116, 521-531およびFaassen, A. E., Mooradian, D. L., Tranquillo, R. T., Dickinson, R. B., Letourneau, P. C., Oegema, T. R., and McCarthy, J. B. (1993) Cell surface CD44-related chondroitin sulfate proteoglycan is required for transforming growth factor-beta-stimulated mouse melanoma cell motility and invasive behavior on type I collagen. J. Cell Sci. 105, 501-511)。しかし、コンドロイチン硫酸およびその誘導体、特にコンドロイチン硫酸E(CS-E)が非常に強い腫瘍細胞転移阻害活性を有すること、および細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減、予防等の用途に対し有用であることは従来知られておらず、本発明者等が初めて見出した。
これら本発明の薬学的組成物および医薬の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記本発明の分析方法によりコンドロイチン硫酸等の構造を解析し、その生物活性等の品質を評価して製造することが好ましい。そのようにすれば、前述の通り、実用に適した医薬や薬学的組成物を製造することができるためである。また、本発明の医薬の製造方法において、増殖因子結合に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬を製造するために、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを使用することが好ましい。また、本発明の医薬の製造方法において、デングウィルス感染阻害に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬を製造するために、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、およびCS-Kからなる群から選択される少なくとも一つを使用することが好ましい。また、本発明の医薬の製造方法において、細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬を製造するために、コンドロイチン硫酸E(CS-E)を活性物質として使用することが好ましい。
なお、本発明では、コンドロイチン硫酸(CS)とは、CS-Bすなわちデルマタン硫酸(DS)を含み、また、CS-H(DS-E)も含むものとする。また、「硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖」とは、天然由来構造のもののみならず、例えば酸化処理等により化学修飾した誘導体も含むものとする。特に、酸化処理した誘導体は、副作用の低減により、医薬や薬学的組成物への応用の有用性が期待できる。前記酸化処理は、例えば、過ヨウ素酸等の過ハロゲン化酸により行うことが好ましく、この場合の硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖は、例えばCSが好ましく、CS-EまたはCS-Kがより好ましい。
本発明の薬学的組成物または医薬に含まれる硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖は、中性分子の形態で用いても塩の形態で用いても良く、前記塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でも良い。前記酸付加塩を形成する酸は、無機酸でも有機酸でも良い。無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等が可能である。有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等が可能である。前記塩基付加塩を形成する塩基は、無機塩基でも有機塩基でも良い。無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が可能であり、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が可能である。有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が可能である。硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の塩の製造方法も特に限定されず、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
また、本発明の薬学的組成物または医薬において、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の1回当たりの投与量および投与間隔等は特に限定されず、その目的に応じて適宜選択することができる。それらは、患者の年齢、体重、性別、医学的状態、病状、投与経路、患者の代謝・排泄機能のレベル、使用される剤形、投与される特定の硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖ならびにそれらの塩を含む種々の要素を考慮して、当業者によって選定される。
本発明の薬学的組成物または医薬の投与形態は特に限定されず、その目的に応じて、経口的に、または非経口的に投与することができる。経口剤として投与する時の形態は、特に限定されず、通常のおよび腸溶性錠剤、カプセル、ピル、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、溶剤、懸濁剤、シロップ、固体もしくは液体エアロゾル、および乳濁液等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。また、非経口投与時の形態も特に限定されず、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。
本発明の薬学的組成物または医薬は、例えば、一種類以上の薬学的に許容可能な添加物をさらに含むことが好ましい。すなわち、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を、投与に先立ち、一種類以上の薬学的に許容可能な添加物と共に製剤することが好ましい。前記添加物は、特に限定されないが、例えば、担体、希釈剤、香料、甘味料、滑沢剤、溶解剤、懸濁剤、結合剤、錠剤崩壊剤、およびカプセル化材等の不活性物質である。また、これら以外にも、例えば、医薬の分野で一般に使用されている任意の添加物を適宜用いても良い。
前記添加物は、経口投与する場合は、例えば、以下に列挙する物質を使用することができる。担体としては、例えば、ラクトース、デンプン、スクロース、グルコース、炭酸ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、メチルセルロース等が可能である。崩壊剤としては、例えば、トウモロコシ粉、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム、アルギン酸等が可能である。結合剤としては、例えば、ゼラチン、天然糖、ベータラクトース、トウモロコシ甘味料、天然および合成ゴム、アラビアゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス等が可能である。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、食塩、タルク等が可能である。
本発明の薬学的組成物または医薬は、例えば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を、希釈剤と混合しても良いし、担体に封入しても良い。前記担体は、例えば、カプセル、小袋、紙その他の容器の形態が可能である。前記担体は希釈剤を兼ねてもよく、固体でも、半固体でも、ビヒクルとして作用する液体でも良い。また、本発明の医薬の形態は、特に限定されないが、例えば、錠剤、ピル、散剤、ローゼンジ、エリキシル、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、エアロゾル、軟膏、軟・硬ゼラチンカプセル、坐薬、滅菌注射用液および包装滅菌散剤等の種々の形態が可能である。
ヒトまたは動物の患者における疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法としては、例えば、前記本発明の分析方法により硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する工程と、前記硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖をヒトまたは動物の患者に投与する工程とを含む。そして、前記ヒトまたは動物の患者における疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法が、ヒトまたは動物の患者における増殖因子結合に関する疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法である場合には、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを前記ヒトまたは動物の患者に投与する工程を含むことが好ましい。さらに、前記ヒトまたは動物の患者における疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法が、ヒトまたは動物の患者におけるデングウィルス感染阻害に関する疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法である場合には、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、およびCS-Kからなる群から選択される少なくとも一つを前記ヒトまたは動物の患者に投与する工程を含むことが好ましい。さらに、前記ヒトまたは動物の患者における疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法が、ヒトまたは動物の患者における細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減または予防をする方法である場合には、コンドロイチン硫酸E(CS-E)を活性物質として前記ヒトまたは動物の患者に投与する工程を含むことが好ましい。
次に、本発明の種々の実施例について説明する。しかし、本発明は、これらの実施例には限定されない。
[腫瘍細胞転移阻害]
本実施例は、コンドロイチン硫酸E(CS-E)を活性物質として含む前記本発明の第3の薬学的組成物および医薬の腫瘍細胞転移阻害活性等に関する実施例である。
本実施例では、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸E(CS-E)による、ルイス肺癌セルラインH11の転移阻害を確認した。併せて、その他の種々のコンドロイチン硫酸についても同様に、ルイス肺癌セルラインH11の転移阻害を確認した。腫瘍細胞転移は、腫瘍細胞の接着、遊走および浸潤等を含む一連の複雑な現象に関連する。すなわち、コンドロイチン硫酸またはその誘導体が前記腫瘍細胞の転移を阻害することは、細胞の増殖に関する疾患の治療、診断、症状の軽減、予防等の用途に対する有用性を示す。
まず、参考実験として、CSあるいはDSの腫瘍細胞転移への関連性を検証するために、ルイス肺癌の高転移性セルラインH11(Munesue, S., Kusano, Y., Oguri, K., Itano, N., Yoshitomi, Y., Nakanishi, H., Yamashina, I., and Okayama, M. (2002) The role of syndecan-2 in regulation of actin-cytoskeletal organization of Lewis lung carcinoma-derived metastatic clones. Biochem. J. 363, 201-209)をコンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー(生化学工業株式会社の商品名)で処理した場合と、非処理の場合の転移能を比較した。具体的には、まず、ルイス肺癌高転移H11細胞(4×105個)を、200μlのDMEM(ダルベッコの修飾イーグル培地, Dulbecco’s modified Eagle’s medium)に懸濁させ、5mIU/mLのコンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー(生化学工業株式会社より購入)を加えて(処理)、または何も加えずに(非処理)、37℃で30分間インキュベートした。その後、前記処理または非処理のルイス肺癌H11細胞を、各マウス(n=6)に、尾静脈を通じて注射した。前記癌細胞接種後3週間で前記マウスを殺し、そして、各マウス肺中の晶結節数に基づき肺転移を評価した。図1に、前記コンドロイチナーゼABC消化の、ルイス肺癌H11細胞の転移能に対する効果を示す。図示の通り、コンドロイチナーゼABC消化の結果、転移能が有意に減少した。このことは、細胞表面のCS/DS鎖がH11細胞の転移工程に関連することを示す。
次に、種々の市販のCSおよびデルマタン硫酸(DS)製剤のマウス肺へのH11転移阻害能を、ヘパリンと併せて評価した。前記評価は、各CSまたはDS製剤100μgを尾静脈から注射し、その後同じルートでH11細胞を接種して行った。具体的には、種々のCSまたはDS製剤(各々、200μl DMEM中に100μg)を各マウス(n=6)にそれぞれ注射し、30分後、図1の説明で述べた前記癌細胞(非処理)を接種し、そして、図1の説明で述べた方法により肺転移を評価した。使用したCSまたはDS製剤は、CS-A, CS-B, CS-C, CS-DおよびCS-Eである。また、ウシ腸管粘膜ヘパリンを含む200μlのDMEMを比較例(陽性対照)として用い、200μlのDMEM単独を陰性対照として用いた。図2に、前記種々のCSアイソフォームによるルイス肺癌H11細胞転移阻害を示す。図示の通り、試験したCSおよびDS製剤の具体的な阻害活性は、CS-Eが90%、CS-Aが80%、CS-Dが47%およびCS-B(またはDS)が30%、ヘパリンが62%という数値であった。このように、試験したCSおよびDS製剤の全てが阻害活性を示した。特に、CS-EおよびCS-Aは、陽性対照であるヘパリンよりも強力な阻害活性を示し、中でもCS-Eは最も強力な阻害活性を示した。
なお、ヘパリンは、強力な抗転移能を有することが長年知られている(Folkman, J., Langer, R., Linhardt, R. J., Haudenschild, C., and Taylor, S. (1983) Angiogenesis inhibition and tumor regression caused by heparin or a heparin fragment in the presence of cortisone. Science 221, 719-725, Borsig, L., Wong, R., Feramisco, J., Nadeau, D. R., Varki, N. M., and Varki, A. (2001) Heparin and cancer revisited: mechanistic connections involving platelets, P-selectin, carcinoma mucins, and tumor metastasis. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 98, 3352-3357, Kragh, M., and Loechel, F. (2005) Non-anti-coagulant heparins: a promising approach for prevention of tumor metastasis. Int. J. Oncol. 27, 1159-1167, Stevenson, J. L., Choi, S. H., and Varki, A. (2005) Differential metastasis inhibition by clinically relevant levels of heparins--correlation with selectin inhibition, not antithrombotic activity. Clin. Cancer Res. 11, 7003-7011)。実際、本研究でも、図2の通り、ヘパリンは62%の阻害を示した。しかし、前述の通り、ヘパリンには出血などの副作用があるため臨床応用には至っていない。
また、ルイス肺癌H11細胞の転移に対するCS-Eの阻害活性について、コンドロイチナーゼABC処理の効果を試験するために、コンドロイチナーゼABCによる消化前または消化後のCS−Eについて、図2の説明で述べた方法により、H11細胞の肺転移に対する阻害活性を評価した。図3に、その評価結果を示す。同図に示すとおり、CS-Eにおける阻害活性の80%は、CSase ABC消化により無効にされた。この結果は、CS-E製剤において、活性が不純物に由来するという可能性を排除する。
さらに、CS-E阻害活性の用量依存性を試験した。具体的には、種々の用量(10, 50, 100, 200および300μg)のCS-Eを、各マウス(n=6)について、図2の説明で述べた方法により肺転移阻害活性を試験した。図4に、その結果を示す。図示の通り、マウス1匹あたり100μgまでは用量依存性の阻害を示し、100μgで転移阻害効果が最も高くなった。
このように、コンドロイチン硫酸およびその誘導体、特にCS-EおよびCS-A、中でもCS-Eは、1つの抗転移薬剤としてヘパリンより有望な候補となり得る。また、抗凝血作用等の他の作用も期待できる。
なお、本実施例において、ルイス肺癌H11細胞は、京都産業大学の岡山 實(Minoru Okayama)教授から提供を受けた。C3H/HeNマウス(雌)は、日本エスエルシー株式会社(浜松)から購入した。CSおよびDS製剤は、特級品(superspecial grade)であり、生化学工業株式会社から購入した。CS-Eはイカ軟骨由来であり、CS-Aは鯨軟骨由来であり、CS-Dは鮫軟骨由来であり、そして、CS-B(またはDS)は、ブタの皮膚由来である。
以上の通り、本実施例によれば、マウス由来高転移性ルイス肺癌H11細胞を用い、コンドロイチン硫酸およびその誘導体の中でも、特にCS-Eの腫瘍細胞転移阻害活性が強力であることを確認することができた。
[デングウィルス感染阻害]
本実施例は、CS-E、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)、CS-EPA(アルカリ処理したCS-EP)、およびCS-Kからなる群から選択される少なくとも一つを含む前記本発明の第2の薬学的組成物および医薬のデングウィルス感染阻害活性等に関する実施例である。
本実施例では、各種多硫酸化CSのデングウイルスに対する感染阻害活性を測定した。本実施例における実験プロトコールは、Chie Aoki, Kazuya I.P.J. Hidari, Saki Itonori, Akihiro Yamada, Naonori Takahashi, Takeshi Kasama, Futoshi Hasebe, Mohammend Alimul Islam, Ken Hatano, Koji Matsuoka, Takao Taki, Chao-Tan Guo, Tadanobu Takahashi, Yuichi Sakano, Takashi Suzuki, Daisei Miyamoto, Mutsumi Sugita, Daiyo Terunuma, Koichi Morita and Yasuo Suzuki J. Biochem. (Tokyo) in press (2006)に記載の方法「焦点力価アッセイ(Focus-forming assay)」および「デンドリマーによるウィルス感染阻害(Inhibition of virus infection by dendrimers)」に準じて行った。すなわち、具体的には以下の通りである。
(焦点形成アッセイ)
ウィルス力価は、BHK-21細胞を用いた焦点形成アッセイにより決定した。BHK-21細胞は、96ウェルプレート上に播種し、そして、2% FBSを含むDMEM中、37℃で24時間培養した。培地除去後、血清フリーDMEMで連続的に希釈したウィルス溶液を前記プレート上に播種し、そして、前記細胞を37℃で2時間インキュベートした。前記ウィルス溶液除去後、上敷き培地(1% FBSおよび0.5%メチルセルロースを含むDMEM)を添加し、そして、プレートを37℃で44時間インキュベートした。前記細胞を固定化し、そして、5%パラホルムアルデヒドおよび1% NP-40をそれぞれ含むPBSで透過処理した。感染性病巣は、ヒト抗デング抗血清を一次抗体とし、HRP複合化ヤギ抗ヒト免疫グロブリンを二次抗体として検出した。ウィルス感染性は、焦点形成ユニット(FFU)により決定した。
(デンドリマーによるウィルス感染阻害)
DEN2(最終濃度1,800FFU/ml)を、扇形、球形およびダンベル形デンドリマーと、指示濃度で予備混合した。前記ウィルスとデンドリマーの予備混合物(125μl)を、続いて、48ウェルプレートで増殖させたBHK-21細胞に、37℃で2時間播種した。血清フリーDMEMで3回洗浄後、上敷き培地を添加し、そして、プレートを37℃で43時間インキュベートした。細胞の感染性病巣は、続いて、前述の焦点形成アッセイにより可視化し、そして、光学顕微鏡で計数した。播種ウィルスの最適力価は、1ウェルに少なくとも50の病巣が発現するように予備決定した。
上記実験プロトコールに従い、デングウィルス2型感染の、コンドロイチン硫酸(CS)製剤による阻害を測定した。具体的には、 CS-A, CS-B, CS-C, CS-D, CS-E, CS-K, ヘパリンまたはヘパリン硫酸を5μg/mL濃度で用い、BHK-21細胞に対するデングウィルス2型感染を阻害した。ヘパリンは、陽性対照として用いた。図5に、その結果を示す。図中の「ウィルス(Virus)」は、デング2ウィルスエンベロープタンパク質を表し、そして、感染力%(% of Infectivity)は、インヒビターなしで得られた値との比較で表している。数値は3回の独立実験の平均値として得た。
図5から分かる通り、いずれのCS製剤もデングウィルス感染に対する阻害活性を示した。特に、CS-EおよびCS-Kは、ヘパリンと同等以上の強力な阻害活性を示した。
次に、CS-Eまたはヘパリンのデングウィルス2型感染に対する阻害効力を測定するために、濃度を次第に減少させて(0-5μg/mL範囲)、濃度依存阻害活性を測定した。図6に、その結果を示す。図中の用語については、図5と同様である。また、実験プロトコールの詳細も、前記と同様である。図6から分かる通り、CS-Eは濃度依存性の阻害活性を示した。
さらに、酸化処理により化学修飾したCS-E(CS-E誘導体)製剤の、デングウィルス2型感染阻害活性を測定した。すなわち、CS-E, CS-EP (CS-Eを過ヨウ素酸で120時間処理したもの)およびCS-EPA(CS-EPを1M NaOHで加水分解したもの)を、5μg/mL濃度でデングウィルス2型感染阻害に用い、活性を測定した。図7に、その結果を示す。同図から分かる通り、CS-Eのみならず、酸化処理したCS-EPおよびCS-EPAも、有効なデングウィルス2型感染阻害活性を示した。これらCS-EPおよびCS-EPA等の化学修飾製剤は、酸化処理による副作用の軽減で、母体のCS-Eよりも臨床等の用途にさらに有用であることが期待される。なお、図中の用語については図5と同様であり、実験プロトコールも前記と同様である。
なお、本実施例で用いたCS-Eは、実施例1と同じく、生化学工業株式会社から購入した。CS-Kは、当業者であれば、技術常識に基づいて、過度の試行錯誤や複雑高度な実験を行うことなく、カブトガニ軟骨から単離精製することができる。前記単離精製方法としては、具体的には、例えば、Seno, N., Yamashiro, S., and Anno, K. (1974) Biochim. Biophys. Acta 343, 423-426等に記載の方法、あるいは他のプロテオグリカンの単離精製方法と同様の方法を用いることができる。本実施例で用いたCS-Kは、Seno, N., Yamashiro, S., and Anno, K. (1974) Biochim. Biophys. Acta 343, 423-426に記載の方法に準じて単離精製した。すなわち、まず、カブトガニの鰓の軟骨部分を他の組織と分離し、小片に切断した後、アセトン処理により脱脂した。この軟骨を乾燥させた後、プロナーゼで徹底消化した。この消化物をトリクロロ酢酸処理し、セチルピリジニウムクロリドを用いたエタノール沈殿法によりムコ多糖を抽出した。そのムコ多糖を、陰イオン交換樹脂カラムDowex1(Sigma社の商品名、X-2、200-400メッシュ、Cl-フォーム、2.8cm×40cm)にかけた。0.15M NaCl水溶液と0.5M NaCl水溶液で前記カラムを順次洗浄後、2.0M NaCl水溶液によりCS-Kを溶出させ、透析および凍結乾燥の後、本実施例に用いた。
以上の通り、本実施例によれば、培養細胞を用い、CS-K、CS-Eおよびその誘導体のデングウイルスに対する感染阻害活性を確認することができた。また、過ヨウ素酸で酸化処理したCS-Eについても、同様の活性を確認した。
[増殖因子結合活性等]
本実施例は、CS-K、酸化処理したCS-Kおよび酸化処理したCS-Eからなる群から選択される少なくとも一つを含む前記本発明の第1の薬学的組成物および医薬の増殖因子結合活性等に関する実施例である。
本実施例では、まず、精製コンドロイチン硫酸K(CS-K、カブトガニ由来)の、種々の増殖因子および神経栄養性因子に対する結合活性を測定した。すなわち、ビオチン化CS-Kをストレプトアビジン被覆センサーチップ上に固定化し、増殖因子および神経栄養性因子との結合を確認した。具体的には、50ngのHGFまたは種々の因子各100ngを灌流させ、そして、Nandini, C. D., Mikami, T., Ohta, M., Itoh, N., Nambu, F. A., and Sugahara, K. (2004) J. Biol. Chem. 279(49), 50799-50809.に記載の方法で、BIAcoreシステム(商品名)中、ランニングバッファを用い、各因子を固定化CS-Kと4分間相互作用させて行った。より詳しくは以下のとおりである。
すなわち、まず、ストレプトアビジン被覆センサーチップ(商品名BIAcore AB)を、製品マニュアルに従い、1M NaClと50mM NaOHを用いて1分間コンディショニングし、それを3回繰り返した。ビオチン化CS-Kをリン酸緩衝食塩水中で灌流し、リン酸緩衝食塩水で、前記センサー表面と3分間相互作用させた。固定化は、応答ユニット(response units、RU)の増加により確認した。相互作用解析は、前記CS-Kを固定化したセンサーチップを用い、BIAcore Jシステム(商品名)により行った。HGF(50ng)または他の各増殖因子(各100ng)は、それぞれ、ランニングバッファ(10mM HEPES-NaOH(pH 7.4), 0.15M NaCl, 3mM EDTA,および0.005% Tween 20)中において、前記固定化CS-Kとの結合を確認した。流速は、製品マニュアルに従い、中程度の30μl/minに保った。各増殖因子は、固定化CS-Kと4分間相互作用させ、これを会合段階(association phase)とした。さらに追加の2分間で、増殖因子の解離(解離段階、dissociation phase)をさせた。その後、1M NaClを2分間注入して、前記センサーチップを再生させた。神経栄養性因子(各100ng)は、60μl/minの高い流速で固定化CS-Kと相互作用させた。会合段階および解離段階は、それぞれ4分間および2分間とした。
結合の結果として得られた会合段階は、応答ユニット(RU)によって測定した応答として扱った。図8に、その結果を示す。
さらに、表面プラズモン共鳴測定装置(商品名BIAcore)による固定化CS-Kと増殖因子の相互作用の速度論的解析を行い、動力学的パラメータを決定した。表1に、その結果を示す。
表1中、動力学的パラメータka(会合定数)、kd(解離定数)およびKd(解離平衡定数)値は、Nandini, C. D., Mikami, T., Ohta, M., Itoh, N., Nambu, F. A., and Sugahara, K. (2004) J. Biol. Chem. 279(49), 50799-50809.と同様、BIAevaluation 3.1ソフトウェア(商品名)により、1:1ラングミュア結合モデルを用い、物質輸送により決定した。各因子の結合および解離速度値は、5の異なる濃度の平均±S.E.M.として表現した。
図8および表1から分かる通り、CS-Kは、各因子に対応した結合活性を示した。
次に、CS-Kの神経突起伸長活性を、CS-Eと併せて測定した。すなわち、E16海馬ニューロン(10,000個細胞/cm2)を、P-ORN(ポリオルニチン)でプレコートした基層上で24時間伸長させ、CS-E(陽性対照)またはCS-Kで固定し、そして、2. Hikino, M., Mikami, T., Faissner, A., Vilela-Silva, A.E.S., Pavao, M.S.G., and Sugahara, K. (2003) J. Biol. Chem. 278(44), 43744-43754.に記述の方法により、微小管結合タンパク質2およびニューロフィラメントを染色した。より詳しくは以下のとおりである。
まず、E16マウス胚を解剖して海馬を取り出し、ハンクス液(Hanks’ balanced salt solution)で10回洗浄し、0.25%(w/v)トリプシンを含む同じハンクス液を用いて37℃で10分間解離させ、続いて穏やかに倍散させた。単一の細胞を、N2サプリメント(Invitrogen社、日本国、東京)、0.1mM ピルビン酸塩、0.1%(w/v)卵白アルブミン、0.029% L-グルタミン、0.2% 炭酸水素ナトリウムおよび5mM HEPESを含むイーグルの最小必須培地(Eagle’s minimum essential medium)に再懸濁させた。この細胞を、続いて、P-ORN(ポリオルニチン)でプレコートした基層上、10,000個細胞/cm2密度に接種し、組織培養インキュベータ中、5%CO2雰囲気下、37℃に保った。24時間培養後、前記細胞を、4%(w/v)パラホルムアルデヒドで30分間固定化し、PBSで3回洗浄し、0.2%(w/v) Triton X-100(商品名、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を含むPBSを用いて室温で30分間透過処理した。この細胞を、100倍希釈の抗微小管結合タンパク質2(anti-microtuble-associated protein 2、Leico Technologies Inc.社、ミズーリ州セントルイス)および250倍希釈の抗ニューロフィラメント(anti-neurofilament、シグマ社、ニューロフィラメントHサブユニットのリン酸化または非リン酸化形態と特異的に反応する)、および3%(w/v)ウシ血清アルブミンを含む抗体含有PBSで免疫染色した。そして、3,3’−ジアミノベンジジンを色素源とし、Vectastain ABCキット(Vector Laboratories Inc.社(カナダ国Burlingame)の商品名)で展開した。各培養条件について、2回の実験を行った。
図9(A)に、前記CS-EまたはCS-K被覆基層上で培養したニューロン(神経細胞)の、増大した神経長および代表的形態を示す。また、生成した神経突起を定量的に分析した。すなわち、100個のランダムに選択した個々のニューロンを、各条件下における最長神経細胞の平均長測定に用い、2回の個別実験により得られた値を、平均±S.E.M.として表現した。図9(B)に、その結果を示す。図9(A)および(B)から分かる通り、CS-K培養ニューロンは、CS-Eに匹敵する量および神経長を示した。
さらに、本実施例では、酸化処理により化学修飾したCS-Eを用い、ニューロンを刺激した。すなわち、E16マウス由来の海馬ニューロン(10,000個細胞/cm2)を、P-ORNおよび続いてCS-E(陽性対照)、CS-EP(過ヨウ素酸処理したCS-E)またはCS-EPA(1M NaOHで処理したCS-EP)でプレコートした種々の基層で24時間かけて伸長させ、固定し、そして、微小管結合タンパク質2(MAP2)およびニューロフィラメントを染色した。より詳しい操作は、前述と同様である。図10(A)に、CS-E, CS-EPまたはCS-EPA被覆基層で培養したニューロンの、増加した神経突起長および形態学的特徴(代表的形態)を示す。CS-EPで培養したニューロンは、CS-Eについて観測したそれと比較して顕著に長い神経突起を示した。一方、CS-EPA被覆基層上の細胞は、複数の神経突起を示した。
さらに、生成した神経突起を定量的に分析した。すなわち、100のランダムに選択した個々のニューロンを、各条件下での最長神経突起長の平均値測定に用い、2回の個別実験により得られた値を、平均値±S.E.Mで表した。図10(B)に、その結果を示す。同図から分かる通り、化学修飾(酸化処理)による副作用の軽減が期待されるCS-EPおよびCS-EPAも、CS-Eとほぼ遜色ない神経突起伸長促進活性を示した。
なお、本実施例において、CS-Kは、実施例2と同様の方法で単離精製したものを用いた。CS-Eは、生化学工業株式会社から購入した。
以上の通り、本実施例によれば、マウスの培養海馬ニューロンを用い、CS-Kおよび酸化処理CS-Eに、神経突起伸長促進活性およびその基盤となると考えられる細胞増殖因子結合活性が存在することを確認することができた。また、同様に、過ヨウ素酸により酸化処理したCS-Kおよびさらにアルカリ処理したCS-Kについても、同様の活性を認めた。これらCSおよびその誘導体は、培養液中に細胞から分泌される種々の増殖因子と糖鎖が結合し、細胞に提示していると推測され、これらのCSおよびその誘導体自体が増殖因子結合医薬として有効利用できると考えられる。
[3-O-硫酸化グルクロン酸を含むCS-KテトラサッカリドのコンドロイチナーゼABCによる消化、および分解生成物であるジサッカリド中間体の構造決定]
本実施例は、質量分析を用いて硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する前記本発明の分析方法に関する実施例である。
本発明者らは、以前、カブトガニ軟骨から単離したCS-K由来の希少なテトラサッカリドGlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-GalNAc(4S) (K-K)の構造を決定した(Sugahara, K., Tanaka, Y., Yamada, S., Seno, N., and Kitagawa, H. (1996) J. Biol. Chem. 271(43), 26745-26754.)。上記テトラサッカリドのコンドロイチナーゼABC(CSase ABC)消化は、還元末端から形成されるΔHexA(3S)を含む不安定なジサッカリドユニットを生成し、非還元末端からは、飽和ジサッカリドユニットのみを生ずる。
本実施例では、CSase ABC消化後のΔHexA(3S)α1-3GalNAc(4S)分解生成物をESI-MSのネガティブイオンモードで分析し、従来の分析方法では検出不可能であった構造を検出した。
さらに、検出された構造から、前記CSase ABC消化において起こりうるメカニズムを推測した。前記推測されるメカニズムの概要は以下の通りである。すなわち、分解(消化)は、ΔHexAユニットからの水分子、二酸化硫黄およびアセチレンの損失に関連する。ΔHexA(3S)ユニットからの二酸化硫黄損失の間、C3-C4炭素は、隣接炭素C5およびC6に水素化物イオンを連続的に与えて5,6-ジヒドロキシ-6-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ヘキサ-1-イン-3,4-ジオンを形成し、SP2混成となる。さらに、分解工程中においては、中間体である1-ヒドロキシ-1-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ブタ-3-イン-2-オンを生じ、前記中間体は、最終生成物としてGalNAc(4S)を与える。ただし、この推測は、本発明をなんら限定するものではない。
以下、本実施例における分析方法および前記推測されるメカニズムについて、さらに詳しく説明する。
[CS-KテトラサッカリドのCSase ABCによる消化]
まず、実施例2と同様の方法により、カブトガニ軟骨からCS-Kを単離した。そのCS-Kを、Sugahara, K., Shigeno, K., Masuda, M., Fujii, N., Kurosaka, A., and Takeda, K. (1994) Carbohydr. Res. 255, 145-163.に記述されている方法で消化してCS-Kテトラサッカリドを調製した。すなわち、まず、50mgのCS-Kを、2.0mLの0.05M Tris・HCl緩衝液(pH8.0、60mM酢酸ナトリウムおよび100μg/mLウシ血清アルブミンを含む)中、0.9ユニットのコンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社より購入)により37℃で22時間消化した。その後、0.1ユニットのコンドロイチナーゼABCを追加してさらに18時間消化した。反応は、波長232nmにおけるUV吸収で追跡した。この反応混合物に1M AcOHを加えてpHを6.5に調整し、100℃で1分間煮沸して反応を停止させた。この消化物を、Sephadex G-15(GEヘルスケアバイオサイエンス社の商品名)カラムでゲルろ過した。溶出液には、0.25M NH4HC03-7% 1−プロパノール水溶液を用いた。ゲルろ過物に水を加え、エバポレーションにより脱塩し、再度水に溶解させ、HPLCにより精製して目的のテトラサッカリドを得た。このCS-Kテトラサッカリド(K-K)[GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-GalNAc(4S)](0.5nmol)を、Sugahara, K., Shigeno, K., Masuda, M., Fujii, N., Kurosaka, A., and Takeda, K. (1994) Carbohydr. Res. 255, 145-163.に記述されている標準条件(CS-Kテトラサッカリド0.5nmolに対するコンドロイチナーゼABCの使用量40μL、温度37℃、緩衝液中)で10分間、5mIU/mL コンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社から購入)により消化した。その反応混合物を、ナトリウム化に基づくピーク(sodiated peaks)を抑制するために、0.1%酢酸を含む50%アセトニトリルに溶解させて溶液(90:10)とし、ESI-MSのネガティブモードにかけた。図11に、CS-Kテトラサッカリド(K-K)のCSase ABC消化物におけるESI-MSスペクトル(200〜700m/z amu間)を示す。図12に、97における硫酸基(sulfite group)についてのプリカーサーイオンモードにより得られたESI-MSスペクトルを示す。図13に、300[GalNAc (4S)]についてのプリカーサーイオンモードにより得られたESI-MSスペクトルを示す。
上記分析の結果として、CSase ABCにより消化されたCS-Kテトラサッカリド(K-K)は、還元末端からは、主要な不飽和ジサッカリドは何も生成しなかった。584.8におけるピークの存在(図11)は、飽和のCS-Kジサッカリドユニットであるとアサインすることが出来る。本発明者らは、ΔHexA(3S)α1-3GalNAc(4S)ユニットについて可能性のある分解生成物ピークを300.3に同定し、そして、1つの中間体のピークを382に同定した。CSオリゴサッカリド類は、それらの構造に関係なく、全て硫酸基(sulfate group)を含む。そのため、本発明者らは、ネガティブイオンモードにおいて97を硫酸基(sulfite group)のプリカーサーイオンと分析した。その結果、主要なピークが300.3, 382.4に得られ、そして、検出可能な中間体ピークが440.5に得られた(図12)。さらに、300におけるプリカーサーイオンピークは、358.1, 382.0, 416.3および440.1に、可能性のある親中間体単独としての主要ピークを与えた(図13)。
上記ESI-MSスペクトルに基づき、本発明者らは、ΔHexA(3S)α1-3GalNAc(4S)の分解において可能性のあるメカニズムを、下記スキーム1、2および3のように推測した。ただし、前述の通り、この推測は、本発明をなんら限定するものではない。
上記スキーム1、2および3についての説明は、以下の通りである。すなわち、まず、GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-GalNAc(4S) [K-K]のCSase ABC酵素による消化は、不安定なジサッカリドユニットΔK(化合物3)を生じた。ESI-MSスペクトルによれば、さらに多くのフラグメントピークが明らかになった。それらは、CSase ABC消化後に生じる分解した低分子量および不安定な中間体である可能性があり、本発明者らは、GalNAc(4S)(化合物9)に加え、アセチレン中間体すなわち1-ヒドロキシ-1-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ブタ-3-イン-2-オン(化合物7)と同定した。最初に親テトラサッカリドから遊離したΔHexA(3S)α1-3GalNAc(4S)は、不安定であり、隣接するβ-不飽和酸(C4およびC5)を攻撃する3-O硫酸エステル基(sulfate group)の影響により分解した(スキーム2)。C5炭素は隣接するC4炭素の電子を吸引し、それによりΔHexA環は開裂し、そして、続いて、C4炭素に隣接するC3炭素も、水分子が脱離して化合物5が形成されるまでこの工程に関与する(スキーム3)。HexAユニットにおいて高い歪みのかかったC3およびC4炭素は、SO2分子を喪失して5,6-ジヒドロキシ-6-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ヘキサ-1-イン-3,4-ジオン(化合物5)に達することでSP2となることが示される。前記中間体5は、さらに、熱的に不安定であり、同様の方式でのアセチレン脱離により、すぐに3,4-dihydroxy-2-oxo-4-[GalNAc(3S)-4-oxy]-butanal6を形成する。一般的には、隣接するα-ケトカルボアルデヒドは、不安定である。そのために、中間体6は、水分子の脱離により安定な中間体1-ヒドロキシ-1-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ブタ-3-イン-2-オン(化合物7)を形成する。化合物7は、ESI-MSスペクトル中において、プリカーサーイオンモードスペクトルにより得られたGalNAc(4S)とともに、m/z 382amuとして見出された。前記中間体7は、アセチレンの遊離により中間体8すなわち2-ヒドロキシ-2-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-アセトアルデヒドを与える。前記中間体8は、すぐに水分子およびアセチレン基を失い、安定化合物GalNAc (4S)(化合物9)を最終生成物として与える。
なお、多くの文献は、光化学反応中、アジド溶液中に捕捉することによるC-グリコシル-α-アミノ酸の調製について、C-グリコシルアセチレンを強力かつベターな中間体として、その使用に脚光を当てている((a) Dondoni, A., Giovannini, P. P., and Massi, A. (2004) Organic Letters, 6(17), 2929-2932、(b) Dondoni, A., Mariotti, G., and Marra, A. (2002) J. Org. Chem. 67, 4475-4486 および(c) Dondoni, A., and Marra, A. (2000) Chem. 100, 4395-4421.)。このことも、GalNAc-O-アセチレン形成がグリコプロテイン生合成の出発原料であるというメカニズムの推測の理由付けとなる。また、このメカニズムは、3-O-硫酸化ΔHexA分解に対し一般的に適用可能である可能性がある。
以上の通り、本実施例では、カブトガニ軟骨から得られた3-O-硫酸化グルクロン酸を含むテトラサッカリドGlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-GalNAc(4S)をCSase ABCにより消化した後の分解において、中間体と考えられる1-ヒドロキシ-1-[GalNAc(3S)-4-オキシ]-ブタ-3-イン-2-オンを同定した。また、GalNAc(4S)を最終生成物として与える前記分解工程中において推測されるメカニズムについては、前述の通りである。
[種々のGAGsの構造解析]
本実施例は、質量分析を用いて硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を解析する前記本発明の分析方法に関する実施例である。本実施例では、CS-KのみならずCS-Eについても酵素消化(分解)物のESI-MSによる分析を行い、3-O-硫酸化グルクロン酸を含むジサッカリドを検出した。これにより、本発明の分析方法が種々の硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖に適用可能であることを示した。なお、CS-Kは、前記と同様に調製したものを用い、CS-Eは市販品を用いた。
前述の通り、CS-KおよびCS-EをコンドロイチナーゼACIIやACIで消化して硫酸化オリゴ糖とし、NMR測定することにより、CS-Kがグルクロン酸3-O-硫酸[GlcA(3S)]を多く含むことが報告されていた。コンドロイチナーゼABC(CSase ABC)消化によるGlcA(3S)の分解のため、GlcA(3S)は、アニオン交換HPLCクロマトグラフィー分析による伝統的なジサッカリド分析では検出できない(非特許文献9)。本実施例では、CS-KおよびCS-EのCSase ABC消化(分解)物を質量分析することにより、GlcA(3S)を検出した。具体的には、CS-KおよびCS-EのCSase ABC消化後における消化(分解)物に含まれる、分解中間体と思われる物質をモニターすることにより、有意な量のGlcA(3S)を含むことを確認した。
第一に、標準的なΔA-Kテトラサッカリド[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)β1-4 GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)](Kinoshita, A., Yamada, S., Haslam, M.S., Morris, H.R., Dell, A., and Sugahara K. (1997) J. Biol. Chem. 272, 19656-19665)を、モデル化合物としてCSase ABCで消化し、そして、その消化物を、優れた感度および分解能のためにフルオロフォア2-ABで標識した(Kinoshita, A., and Sugahara, K. (1999) Anal. Biochem. 269, 367-378)。続いて、前記生成物を、アニオン交換HPLCおよびアミノ結合シリカPA-03カラム(株式会社ワイエムシィ(日本国、京都)のYMC-Pack PA(商品名))を用い、下記フローチャート1に記載の伝統的条件Aで分析した。
図14に、ΔA-KテトラサッカリドCSase ABC消化物のアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。図示の通り、前記CSase ABC消化物は、ΔA[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)]ジサッカリドユニットおよびΔO[ΔHexAα1-3GalNAc]を、モル比45.7:54.3で含んでいた。このピークをさらにキャラクタライズするために、CSase ABC消化物の一定分量を、ゲル濾過でフラクション化(分画)した(フローチャート1)。前記フラクションを集め、ESI-MSにかけた。図15に、そのESI-MSスペクトルを示す。図示の通り、前記ESI-MS(ネガティブイオンモード)の特性は、m/z 420に主なシグナルを示した。これは、2-ABで標識した一硫酸化GalNAcの分子量に対応する。このシグナルが示す物質については、必ずしも全てが明らかではないが、ΔHexAα1-3GalNAc(4S)の分解に由来する物質であり、CSase ABCのGalNAc(4S)に対する作用により生成されたと考えるのが合理的である。この生成メカニズムは、例えば、実施例4で述べたように推測される。
第二に、CS-Kの試験サンプルを、前記フローチャート1に示す工程に従ってCSase ABC消化にかけた。図16に、このようにしてCSase ABC消化し2-AB標識したCS-Kポリサッカリド製剤のアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。図示の通り、このHPLC特性は、GalNAc(4S)の位置にピークの存在を示した。このことは、ESI-MSにより確認された(データ示さず)。ΔAピークに観測されたスモールショルダーは、以下に述べる通りGalNAc(4S,6S)と推測される。また、下記表2に、HPLCにより決定したCS-Kの糖組成を示す。
2-AB-標識ΔOユニットおよび2-AB-標識GalNAc(4S)の保持時間は互いに近い。このため、本発明者らは、アニオン交換HPLCにおいてこれらのピークをより良く分解するために、前記フローチャート1に示した伝統的条件AをHPLC条件Bに改変した測定も行った。HPLC条件AとHPLC条件Bとの相違点は、緩衝液勾配である。具体的には、HPLC条件Aでは、緩衝液A(1M NaH2PO4)と緩衝液B(16mM NaH2PO4)の勾配を、60分間に対し緩衝液B濃度100%〜47%としたのに対し、HPLC条件Bでは、最初の20分間は緩衝液B濃度100%とし、次の40分間は47%に減少させた。図17に、2-AB-標識不飽和CSジサッカリド標準およびGalNAc(4S)標準の、HPLC条件B下におけるアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。図示の通り、HPLC条件B下では、ΔOユニットの2-AB誘導体およびGalNAc(4S)が良く分解された。
第三に、イカ軟骨由来のCS-Eを分析した。
イカ軟骨が約10%のGlcA(3S)を含むことは知られており、そして、100mgのCS-EをCSase ACIIで徹底消化した後、テトラサッカリドΔA-L[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(6S)], ΔA-K[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)], ΔA-M[ΔHexAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S,6S)], ΔE-K[ΔHexAα1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S)]およびΔE-M[ΔHexAα1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcA(3S)β1-3GalNAc(4S,6S)]が285, 243, 508, 48および195mgの収量で得られ、GlcA(3S)含有構造が単離されている(Kinoshita, A., Yamada, S., Haslam, M.S., Khoo, K.H., Sugiura, M., Morris, R.H., Dell, A., and Sugahara, K. (2004) Biochemistry 43, 11063-11074)。本発明者らは、今回、下記フローチャート2によりCS-Eの消化(分解)生成物を分析した。そして、CSases ACIおよびACII抵抗性テトラサッカリドフラクションの2-AB標識後におけるアニオン交換HPLCクロマトグラフィーで、GalNAc(6S)およびGalNAc(4S,6S)であると推定される2つの生成物をさらに検出するという進歩があった。図18に、2-AB標識後の、CSases ACIおよびACII抵抗性CS-EテトラサッカリドフラクションCSase ABC消化物のアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。
CSase ABCは、ΔA-KおよびΔE-KからGalNAc(4S)を、ΔA-LからGalNAc(6S)を、ΔA-MおよびΔE-MからGalNAc(4S,6S)を、1.00:0.98:2.42のモル比で生じさせた。GlcA(3S)を含むと思われるテトラサッカリドフラクションは、第一に、CS-EをCSases ACIとACIIの混合物で消化して得た。これは、GlcA(3S)に対するN-アセチルガラクトサミン結合が、前記2つの酵素に抵抗性であり、前記酵素に抵抗性のテトラサッカリドフラクション中に濃縮されやすいためである。したがって、上記フローチャート2の通り、その後のステップで、前記抵抗性テトラサッカリドフラクションを、GlcA(3S)-含有構造の分析に用いた。
しかしながら、ΔA-L, ΔA-MおよびΔE-M由来のGalNAc(4S), GalNAc(6S)および/またはGalNAc(4S,6S)は、内部シーケンスのみならず、CS-Eポリサッカリド鎖の非還元末端からも生成されている可能性がある。それゆえに、対照実験で、前記CS-Eポリサッカリド製剤をCSases ACIとACIIの混合物により消化したところ、アニオン交換HPLCのGalNAc(4S), GalNAc(6S)またはGalNAc(4S,6S)部位には、何のピークも与えなかった。この結果は、CS-Eが、ポリサッカリド鎖の非還元末端に、感知できるほどの量のGalNAc(4S), GalNAc(6S)またはGalNAc(4S,6S)を含まないことを示す。
さらに、CS-Eサンプル中のGlcA(3S)-結合GalNAc(6S)およびGalNAc(4S,6S)をGlcA(3S)-結合GalNAc(4S)とともに検出するために、CSases ACIおよびACIIに抵抗性のCS-EテトラサッカリドフラクションをCSase ABC消化にかけ、2-ABで標識した。続いて、この2-AB標識消化物の一定分量を、0.2M炭酸水素アンモニウムを溶出剤として用いたSuperdex(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社の商品名)ペプチドカラムによるゲル濾過で分画した。図19に、このゲル濾過のクロマトグラムを示す。
図19に示すフラクション1〜5を個別に採取し、そして、各フラクションをESI-MSにかけた。ネガティブモードによる前記ESI-MSでは、フラクション1は未同定分子イオンシグナルを示し、一方、フラクション2および3は、それぞれ、2-ABで標識した二硫酸化および一硫酸化ジサッカリドに対応する分子イオンシグナルを示した(データ示さず)。フラクション5は、m/z 420に主なシグナルを示した。これは、2-ABで標識した一硫酸化GalNAcの分子量に対応する。このことは、GalNAc(4S)もしくはGalNAc(6S)または両方に対応する生成物が、ΔA-KおよびΔE-KまたはΔA-Lの分解に由来することを示している。図20に、図19におけるフラクション4のESI-MSスペクトルを示す。図示の通り、フラクション4では、前記スペクトルは、m/z 522に分子イオンシグナルを示した。これは、2-ABで標識した一ナトリウム化二硫酸化GalNAcの分子質量に対応する。この生成物は、ΔA-MおよびΔE-MのCSase ABC消化後の分解により生じたGalNAc(4S,6S)であると考えるのが合理的である。
本発明者らは、前記ゲル濾過HPLCによるフラクション4の溶出位置にさらに注目し、前記フローチャート2に記載の通り、前記フラクション4の一定分量をアニオン交換HPLCにかけた。図21に、図19におけるフラクション4の、フローチャート2に記載のHPLC条件B下でのアニオン交換HPLCクロマトグラムを示す。図示の通り、HPLC特性は、ΔAの溶出位置に単一の主要なピークを示した。
さらに、図19におけるフラクション4を、HPLC条件B下でのアニオン交換HPLCクロマトグラフィーにより、信頼性のあるΔCSジサッカリド標準および2-AB標識GalNAc(4S)標準混合物との共クロマトグラフィーにかけた。図22に、そのクロマトグラムを示す。図示の通り、このクロマトグラムは、ΔAのショルダーピークとして特異的に、ΔCとΔAの間のフラクション4ピーク溶出を示した。このピークのモルパーセンテージは、表に示す通り、ACIおよびACIIに抵抗性のテトラサッカリドフラクションにおけるジサッカリド組成物全量の29%に相当する。これは、ΔA-MおよびΔE-Mユニットの両方に由来するGalNAc(4S,6S)の検出についての最初の報告である。対照実験として、CS-Eポリサッカリド製剤をCSases ACIおよびACIIの混合物で消化したところ、アニオン交換HPLCではGalNAc(4S,6S)溶出位置に何の有意なピークも与えなかった。このことは、前述の通り、CS-Eはポリサッカリド鎖の非還元末端に検出可能な量のGalNAc(4S,6S)を含まないことを示す。興味深いことに、CS-KのCSase ABC消化物もまたΔAにショルダーピークを示した。このショルダーピークは、CS-KのMユニットに由来するGalNAc(4S,6S)を表すと思われる。
以上の結果は、本実施例においてフローチャート1および2等で述べた工程が、ΔA-KおよびΔE-K由来のGalNAc(4S)とΔA-MおよびΔE-Mシーケンス由来のGalNAc(4S,6S)の検出および定量を可能にすることを明確に示す。すなわち、本発明の分析方法は、単純ヘルペスウィルス感染を阻害する強力な生物活性を有するCS-EおよびCS-K製剤の質の確認に適用できる。なお、CS-EおよびCS-Kの単純ヘルペスウィルス感染阻害については、Bergefall, K., Trybala, E., Johansson, M., Uyama, T., Naito, S., Yamada, S., Kitagawa, H., Sugahara, K., and Bergstrom, T. (2005) J. Biol. Chem. 280, 32193-32199およびBergefall, K., Trybala, E., Johansson, M., Uyama, T., Naito, S., Yamada, S., Kitagawa, H., Sugahara, K., Bergestrom, T. (2005) in Abstract of International Symposium on “Proteoglycans in Signaling”, Sep. 7-11, 2005, Stockholm, Sweden, abstract 81に記載されている。
以上の通り、本実施例によれば、質量分析を用い、GlcA(3S)含有二糖単位を高感度で簡易に検出し、CS-EとCS-Kにおけるその含量を決定することに成功した。
以上説明した通り、本発明によれば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の構造を高感度で解析できる分析方法を提供することができる。本発明の分析方法によれば、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の生物活性の基盤となりうる構造、例えばコンドロイチン硫酸中に含まれるGlcA(3S)構造等を高感度で簡易に検出することができる。これにより、例えば、癌転移阻害、ウィルス感染阻害等の基盤となっている構造を解明することで、癌転移、ウイルス感染のメカニズム解明等の基礎医学分野への応用も期待できる。また、前記のような構造を検出することで、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖の生物活性等の品質を評価し、抗癌剤、制癌剤、抗ウィルス薬開発等の創薬分野に応用することができる。
また、本発明によれば、優れた生物活性を有する硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物および医薬を提供することができる。本発明の薬学的組成物および医薬は、前記特定の硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性物質として含むことにより、その活性物質に対応した優れた生物活性を有し、その生物活性や副作用の軽減により、種々の分野への適用が可能である。例えば、酸化処理による副作用の軽減は、GAGのみならず、糖脂質、糖タンパク質等の糖鎖生物学、基礎医学、応用医学、創薬分野、糖鎖工学に新しい分野を切り開く突破口となると考えられる。
図1は、コンドロイチナーゼABC消化の、ルイス肺癌H11細胞の転移能に対する効果を示す図である。
図2は、種々のCSアイソフォームによるルイス肺癌H11細胞転移阻害を示す図である。
図3は、ルイス肺癌H11細胞の転移に対するCS-Eの阻害活性について、コンドロイチナーゼABC処理の効果を示す図である。
図4は、ルイス肺癌H11細胞の転移に対するCS-Eの阻害活性の用量依存性を示す図である。
図5は、デングウィルス2型感染の、コンドロイチン硫酸(CS)製剤による阻害を示す図である。
図6は、デングウィルス2型感染の濃度依存阻害を示す図である。
図7は、化学修飾(酸化処理)したCS-E製剤の、デングウィルス2型感染阻害を示す図である。
図8は、精製CS-Kに対する種々の成長因子および神経栄養性因子の結合を示す図である。
図9は、GAGs被覆基層上で培養したE16海馬ニューロンの代表的形態および神経突起伸長を示す図であり、図9(A)は、増大した神経長および代表的形態を示し、図9(B)は、生成した神経突起の定量的分析を示す図である。
図10は、化学修飾CS-E製剤により刺激したニューロンの代表的形態、およびそれらの神経突起伸長促進活性の定量分析を示す図であり、図10(A)は、CS-E, CS-EPまたはCS-EPAでコートした種々の基層で培養したニューロンの、増加した神経突起長および形態学的特徴を示し、図10(B)は、生成した神経突起の定量的分析を示す図である。
図11は、CS-Kテトラサッカリド(K-K)のCSase ABC消化物におけるESI-MSスペクトル(200〜700m/z amu間)図である。
図12は、97における硫酸基(sulfite group)についてのプリカーサーイオンモードにより得られたESI-MSスペクトル図である。
図13は、300[GalNAc(4S)]についてのプリカーサーイオンモードにより得られたESI-MSスペクトル図である。
図14は、ΔA-KテトラサッカリドCSase ABC消化物のアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図15は、図14由来GalNAc(4S)ピークのESI-MSスペクトル図である。
図16は、CSase ABC消化し2-AB標識したCS-Kポリサッカリド製剤のアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図17は、2-AB-標識不飽和CSジサッカリド標準およびGalNAc(4S)標準の、HPLC条件B下におけるアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図18は、2-AB標識後の、CSases ACIおよびACII抵抗性CS-EテトラサッカリドフラクションCSase ABC消化物のアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図19は、2-AB標識後の、CSases ACIおよびACII抵抗性テトラサッカリドフラクションCSase ABC消化物のゲル濾過クロマトグラム図である。
図20は、図19におけるフラクション4のESI-MSスペクトル図である。
図21は、HPLC条件B下での、図19におけるフラクション4のアニオン交換HPLCクロマトグラム図である。
図22は、HPLC条件B下での、図19におけるフラクション4の、信頼性のあるΔCSジサッカリド標準および2-AB標識GalNAc(4S)標準混合物との共クロマトグラフの、アニオン交換HPLCクロマトグラム図である。