JPWO2005078503A1 - 液浸対物レンズ、液浸媒質の保持機構及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

試料を観察、測定する際に、測定の為の移動量が多い場合でも、また長時間にわたる場合でも、対物レンズ先端部に供給される液浸媒質が対物レンズ先端部からこぼれおちることが少ない液浸対物レンズ、液浸媒質の保持機構およびその製造方法を提供する。液浸対物レンズ(10)を使用して試料を観察、測定する装置の液浸媒質(31)の保持機構であって、対物レンズ先端部近傍の液浸媒質を保持する部材が、液浸媒質に対して親和性の低い第1の材質(α部)と、液浸媒質に対して親和性の高い第2の材質(β部)より構成される。

Description

本発明は、液浸対物レンズを用いて試料を観察、測定する装置における、液浸対物レンズ、液浸媒質を保持するための保持機構及びその製造方法に関する。
液浸対物レンズを用いて試料ステージに載置されたマイクロプレート内の試料の観察、あるいは測定を行なう場合には、対物レンズの先端に液浸媒質を供給して、その液浸媒質とマイクロプレートの底面ガラスとを介して試料を観察、測定する。この液浸媒質には水またはイマージョンオイルが用いられる。
米国特許第6071748号明細書には、蛍光相関分光解析装置に関する技術が記載されている。この装置はマイクロプレートの下面より液浸対物レンズを通して、光を試料に照射し、試料から発せられる蛍光を検出するものである。ところで、マイクロプレートには、試料を収容するための多数のウェルが空間的に離れた位置に設けられている。従って、マイクロプレートを用いる測定では観察範囲が広く、水平方向の移動量が大きいため、測定領域の移動に伴ってレンズ先端部の液浸媒質がマイクロプレート底板に付着し飛散してしまうことがあった。また、測定が長時間におよぶ場合には、対物レンズに長時間、強力なレーザー光が通るために乾燥が促進され、液浸媒質が消失してしまうことがあった。
そこで、国際公開第02/093232号パンフレットには、液浸媒質を大量に供給する液浸媒質の供給デバイスが開示されている。
しかしながら、国際公開第02/093232号パンフレットに記載の方法では、測定位置を移動する毎に液浸媒質を供給するため、大量の液浸媒質を備える必要があった。また、液浸媒質の供給には時間がかかるため、トータルの測定時間が長くなってしまうという問題も指摘されていた。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、試料を観察、測定する際に、測定の為の移動量が多い場合でも、また長時間にわたる場合でも、対物レンズ先端部に供給される液浸媒質が対物レンズ先端部からこぼれおちることが少ない液浸対物レンズ、液浸媒質の保持機構およびその製造方法を提供することを目的としている。
本発明の1局面に係る液浸媒質の保持機構は、液浸対物レンズを使用して試料を観察、測定する装置の液浸媒質の保持機構であって、対物レンズ先端部近傍の液浸媒質を保持する部材が少なくとも第1の材質と、第2の材質より構成される。
また本発明の1局面に係る液浸対物レンズは、少なくともレンズ環部の一部が液浸媒質との親和性が低いレンズ環部を備えた。
また本発明の1局面に係る液浸媒質の保持機構の製造方法は、液浸対物レンズを使用して試料を観察、測定する装置の液浸媒質の保持機構の製造方法であって、液浸媒質を保持する部材の表面に液浸媒質に対して親和性の高い材質、および親和性の低い材質を接合、または表面処理して製造する。
本発明に係る第1の実施の形態の液浸媒質の保持機構が適用される観察測定装置の構成を示す図。 対物レンズの先端部とマイクロプレートの一部を拡大して示す断面図。 第1の実施の形態に係る液浸媒質の保持機構を示す斜視図。 第1の実施の形態に係る液浸媒質の保持機構の縦断面図。 液浸媒質と保持する材質の親和性と接触角の関係を模式的に示す図。 液浸媒質と保持する材質の親和性と接触角の関係を模式的に示す図。 液だめプレートの断面図。 対物レンズの先端部とマイクロプレートの一部を拡大して示す断面図。 第1の実施の別形態に係る液浸媒質の保持機構を示す斜視図。 第1の実施の別形態に係る液浸媒質の保持機構を示す断面図。 第4の実施の形態に係る液浸媒質の保持機構を示す斜視図。 第4の実施の形態に係る液浸媒質の別の保持機構を示す斜視図。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の液浸媒質の保持機構が適用される観察測定装置の構成を示す図である。この観察測定装置の基本的な装置構成は倒立型顕微鏡をベースとしており、例えば共焦点光学顕微鏡に適用した場合を図1を参照しつつ、装置の構成と動作を説明する。
本観察測定装置には2種類の光源1a、1bが設けられている。光源1aには、ヘリウムネオン・レーザー(発振出力2mW、波長:633nm)を用い、光源1bには、アルゴン・レーザー(発振出力10mW、波長:488nm)を用いる。
光源1aから出射された光は、ミラー2によって進行方向が変化し、ダイクロイック・ミラー3で、光源1bから出射された光と1つの光路に合成される。1つにされた光ビームはレンズ4によってビーム直径が拡大された平行光ビームとなり、ダイクロイック・ミラー5で反射され、対物レンズ10に到達する。
ダイクロイック・ミラー5はガラス製の平板の一方に多層膜コーティングを施して、透過、反射のスペクトル特性が最適になるように製作されている。なお、ダイクロイック・ミラー5としてはプリズム形状のものを用いても良い。
XYステージ19上には試料を保持したマイクロプレート20が固定して載置されている。XYステージ19でマイクロプレート20の水平面上の位置を調整し、Z軸調整機構17により対物レンズ10の垂直方向位置を調整して、対物レンズ10で集光した領域(共焦点領域と言う)に測定対象の試料が位置するように調整する。
マイクロプレート20は、96個のウエル22(試料を収容する円形の溝)を備えている。各ウエル22の底面はガラスなどの可視光を透過する素材で作成された窓となっており、マイクロプレート20の下方に対峙する対物レンズ10から出射される光がこの窓を透過して試料内に集光する。
対物レンズ10は、例えば×40水浸対物レンズ(NA0.9)を用いる。そのため、マイクロプレート20の底面(ウェル22の底面)と対物レンズ10の先端部の間は液浸媒質である水で満たされている。この対物レンズ10によって、光源から発せられた光がウェル22内で形成される共焦点領域の大きさと形状は直径0.6μm程度、長さ2μm程度の略円筒状となる。またレーザー光の集光位置は、水平方向(X−Y軸)についてはウエル22の中央部分であり、垂直方向(Z軸)についてはウエル22の底面の上壁位置から100μm上方とする。
対物レンズ10で集光されたレーザー光は試料内の蛍光物質を励起し、蛍光物質からは蛍光が発せられる。蛍光物質としては種々の蛍光色素を用いることができる。例えば、ローダミン・グリーン(Rhodamine Green:RhG)を用いた場合には、ローダミン・グリーンは吸収のピーク波長が490nm付近にあり、発光波長は530nm付近にピークを持っている。従ってアルゴン・レーザーでローダミン・グリーンを励起する。また蛍光物質としてサイファイヴ(Cy5)を用いたときには、ヘリウムネオン・レーザーで励起する。サイファイヴ(Cy5)は吸収のピーク波長が640nm付近にあり、発光波長は670nm付近にピークを持っている。
この蛍光は再び対物レンズ10、続いてダイクロイック・ミラー5を通過して、バリア・フィルター7に入射する。バリア・フィルター7は円板状で、蛍光の発光スペクトルの波長域の光のみが通過するように透過特性が調整されている。これにより、レーザ光の一部が試料容器内で散乱しあるいはウェル22の壁などで反射して、入射光路に戻ってくるノイズ光をカットすることができる。即ち、蛍光の波長とバックグラウンド光の波長が異なるためノイズ光を遮断することができる。
バリア・フィルター7を通過した信号光はレンズ8を通過し、集束光となってミラー9で反射され、後方に配置されたピンホール16のピンホール面に集光される。すなわちレンズ8の焦点面とピンホール16の開口面とが一致している。ピンホール16の直径は50μmであり、ピンホール16により、ウェル22内に形成された光の共焦点領域外からのバックグラウンド光が除去される。
ピンホール16の後方近傍には光検出器11が配置されている。光検出器11で受光する信号光は微弱光であり、フォトン・パルスとなっている。そこで光検出器11は、例えばアバランシェ・フォトダイオード(略称:APD)、あるいは光電子増倍管などの微弱光検出器を用いる。
光検出器11によって、信号光は電気信号(電流パルス)に変換され、信号処理装置12に入力する。信号処理装置12において、電気信号は増幅、波形整形されて、ON−OFF電圧パルスとなって、コンピューター13に導かれる。そしてON−OFF電圧パルスはコンピューター13のメモリ(図示しない)に記憶されると共に、このデータに基づいて相関解析などの演算が行なわれる。そして、蛍光の強度、蛍光の寿命、得られた蛍光の強度ゆらぎの自己相関関数、あるいは相互相関関数などの解析結果がコンピューター13のモニター14上に表示される。
図2は、図1のA部分の拡大図、即ち、対物レンズ10の先端部とマイクロプレート20の一部を拡大して示す断面図である。
図1で説明したように、マイクロプレート20はXYステージ19(不図示)上に載置され、対物レンズ10がマイクロプレート20の底面に対向するように倒立して配置されている。そして、マイクロプレート20に埋設されたウェル22内には試料23が収容されている。マイクロプレート20のサイズは、幅127mm、長さ85.5mm、高さ14.5mmであり、よく用いられる96円形ウエルの場合、その溝のサイズは直径6.6mm、深さ12.5mmである。
対物レンズ10の先端部とマイクロプレート20の底面の間は液浸媒質31(例えば、液浸水)で満たされている。マイクロプレート20のウェル22部分の底面は、ガラス、アクリル樹脂などの光学的に透明な材質で形成されており、対物レンズ10を通過した光が液浸媒質31を介して殆んど減衰することなく、ウェル22内に収容された試料に入射する。
マイクロプレート20を容器として用いて試料を観察、測定する場合は、通常、数多くのウェル22内に試料を収容し、それぞれの試料について、別々に測定、あるいは観察を行なう。従って、XYステージ19をXY平面内で作動させ、マイクロプレート20を移動調整しながら、順次測定を繰り返し行なうことが必要になる。先端部を液浸媒質31で満たされた対物レンズ10の上方でマイクロプレート20が移動を繰り返し行なうため、マイクロプレート20の移動に伴って、対物レンズ10先端部に形成された液浸媒質31が飛散してしまう。また、測定が長時間に及ぶ場合などは対物レンズ10を光が通過しているために、光の熱エネルギーが液浸媒質31に伝わり、液浸媒質31の蒸発を招く。そのため対物レンズ10先端部とマイクロプレート20底面との間には十分な量の液浸媒質を満たしておく必要がある。
なお、液浸媒質31は実施例で述べたように水(液浸水)に限らず、油を使用しても良い。
図3は、第1の実施の形態に係る液浸媒質の保持機構を示す斜視図であり、図4は、第1の実施の形態に係る液浸媒質の保持機構の縦断面図である。図3、図4を参照しつつ液浸媒質の保持機構について説明する。
本実施例では、図4に示すように、液浸媒質の保持機構は、対物レンズ10の周囲に嵌合して取り付けられる中空の底板41、この底板41の周囲に沿って張り巡らされた壁42で構成されている。そして、底板41の表面は液浸媒質31に対して撥水処理をしたα部と親水処理をしたβ部が設けられている。この液浸媒質の保持機構は、液浸媒質31の液だめ構造になっている。以下、液浸媒質の保持機構を「液だめプレート」40という。
液だめプレート40の底板41の中央の開口部分には対物レンズ10が挿入され、Oリング45によってシールが施されて、底板41と対物レンズ10の嵌合部分からの液浸媒質31の漏れを防止している。
液だめプレート40の壁42には塩化ビニール樹脂で形成された中空の給液チューブ34が接続されており、この給液チューブ34の中を通って、液浸媒質31が対物レンズ10上に供給される。図4に示すように、液浸媒質31は、対物レンズ10の先端部のレンズ環43を覆い、α部との接触角の関係で定まるドーム状の塊を形成する。
マイクロプレート20の移動に伴って液浸媒質31は、α部の表面を伝いβ部の表面を流下して壁42で堰き止められ、液だめプレート40内に保持される。液だめプレート40の床には塩化ビニール樹脂で形成された中空の廃液チューブ35が接続されており、この廃液チューブ35を通って、液だめプレート40内を流下した液浸媒質31が排出される。
液だめプレート40の外形は円形で、材質はアルミニュームである。またこの液だめプレート40の周囲に張り巡らされた壁42の材質も同じくアルミニュームである。壁42のサイズは、高さ2mm、厚さ1mmである。給液チューブ34及び廃液チューブ35のサイズは共に、外径は3mm、内径は2mmである。なお、液だめプレートの材質はアルミニュームに限ることなく、例えば鉄、銅などの金属をはじめ、ガラスや、アクリル樹脂などでも良い。また、給液チューブ34及び廃液チューブは塩化ビニール樹脂に限ることなく、ポリエチレン、ポリスチレンなどの樹脂、あるいはガラス管や鉄などの金属製のパイプであってもよい。
次に、本発明に係る液浸媒質の保持機構の基本的な考え方を説明する。図5A、図5Bは、液浸媒質に対する親和性、すなわち、疎水性、親水性と接触角の関係を模式的に示す図である。
親和性が高い場合は、濡れ性が高くなり接触角が小さくなる。親和性が低い場合は、濡れ性が低くなり接触角が大きくなる。本発明は、液浸媒質を保持する材質と液浸媒質の間の親和性の大小を利用し、この材質を変更することにより親和性を制御して、液浸媒質の保持と排出を好適に行うことができる。
以下に、液浸媒質の保持と排出について具体的な構成と共に詳細に説明する。
対物レンズ10の先端部を取り巻くように、液浸媒質31と親和性の低い第1の部材(α部)を配置する。具体的には、液浸媒質31と第1の部材との接触角が所定角以上であれば、効果的に液浸媒質をはじくことが可能であり、この結果、表面張力により液浸媒質31をドーム状に保持することが可能となる。多量の液浸媒質31を供給しても重力に逆らって、表面張力により液浸媒質31がドーム状に保持されれば、この状態でマイクロプレート20等の試料容器底面に接触させて、長時間観察、測定しても液浸媒質31が安定に保持されるため、安定した測定データを得ることができる。
液浸媒質に水を用いた場合に、液浸媒質31をはじく、つまり、親和性が低い材質としては、例えば、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂が挙げられる。好ましくは、接触角が75度のポリエチレンテレフタレートや接触角が80度のポリメタクリル酸メチルである。より好ましくは、接触角は90°以上であり、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリプロピレン、ポリアセタール、ABS樹脂やポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン等の各種フッ素含有樹脂等の各種樹脂やZnO(酸化亜鉛)等が挙げられる。これらの材質を用いて対物レンズ先端部近傍の液浸媒質を保持する部材を構成することが可能である。
また、これらの材質やアルキルシランやフルオロアルキルシランを基材に対して、直接または間接的にコーティングして、対物レンズ先端部近傍の液浸媒質を保持する部材を構成することも可能である。また、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン等の各種フッ素含有樹脂の粒子を電解液中に懸濁させて、基材上にメッキを行う複合メッキでも対物レンズ先端部近傍の液浸媒質を保持する部材を構成することが可能である。
液浸媒質に水を用いる場合に、親和性を低くし、接触角を大きくするには、前述したアルキルシランやフルオロアルキルシラン等、疎水基を基材表面へ形成させることが好ましい。
この疎水基は、−R,−RX,−SiR3,−SiRmXn,−OR,−CS,−COOCH3,−CH2OCH3等が挙げられる。ここで、Rはアルキル基、Xはハロゲンである。
さらに試料容器と、液浸媒質31が接触してあふれた液がたまる周辺部は、第2の部材(β部)を親液性にすることにより、液浸媒質31が流れやすくなるので排液性を高めることが可能である。具体的には、第1の部材の外側の周を形成する第2の部材と液浸媒質31との親和性を高くすると排液性を高めることが可能である。特に、接触角が、所定角より小さい場合に排液性を更に高めることが可能である。
液浸媒質に水を用いる場合に、接触角を小さくするには、あふれた液がたまる周辺部の基材表面に、水ガラスやシリコンアルコキシドの加水分解物、これらに、水溶性の樹脂やコロイダルシリカを添加したもの等、基材表面へ親水基を形成させることが好ましい。
この親水基は、−SOH,−SOM,−OSOH,−OSOM,−COOM,−NRHX,−COOH,−NH,−CN,−OH,−NHCONH,−(OCHCH−である。ここで、Rはアルキル基、Mはアルカリ金属または−NH,Xはハロゲンである。
また、TiO(二酸化チタン)をコーティングし、光触媒作用により、親水性の表面を形成しても良い。
これらの液浸媒質に対する親和性を制御することができる表面処理の方法は種々の方法を適用することが可能である。種々のメッキ、塗装、溶射、融着、塗布、ディップコート、スピンコート、スプレーコート、蒸着、スパッタリング等を適用することができる。
この基本的な技術思想に基づいて、第1の実施の形態では、次のように液浸媒質の保持機構を構成した。
図6は、液だめプレートの断面図である。底板41とレンズ環43はアルミニウムで形成し、α部及びレンズ環43の表面には、表面処理を施してポリテトラフルオロエチレンの焼付け塗装を行なった。このポリテトラフルオロエチレンの液浸媒質31である水との接触角は、約110°であった。レンズ環43の内径rは18mm、外径Rは30mmで、傾斜角θは15°とした。
この装置に液浸媒質31として水を供給し、観察位置の移動や焦点調節を行なったが、液浸媒質31である水は、α部との接触角が大きいため、液浸媒質は効果的にドーム形状が対物レンズ10先端部とマイクロプレート20底面の間に長時間、安定に維持されていた。
本発明では対物レンズ先端部とマイクロプレート20の底面との間に満たされた液浸媒質31が大量に供給されても、重力により簡単に液浸対物レンズ10本体を伝わって流れ落ちずに、液浸対物レンズ10先端部の液浸媒質31を長時間安定に保持するように工夫したものである。
この目的を達成するため、α部、またはレンズ環43で構成される液浸媒質31を保持する領域は、図6に示すように、内径rが2〜20mm、外形Rが10〜40mmとし、また、傾斜角θは、1〜30度の範囲にあればよい。
[第1の実施の形態の変形例]
次に、第1の実施の形態の変形例について説明する。本変形例では、液浸媒質の保持機構が異なっている。図7は、対物レンズの先端部とマイクロプレートの一部を拡大して示す断面図である。
図7に示すように、本変形例では、液だめプレート40の内壁が対物レンズ10を中心としたすり鉢状の形状となっている。一方、液だめプレート40の外壁は円筒状になっている。自動給排液機構24から供給される液浸媒質が対物レンズ10の中心のレンズ部分から溢れ出た場合、液だめプレート40の内壁がすり鉢状になっているために、スムーズに液浸媒質を廃液チューブ35内に導くことができる。
〔第1の実施の形態の変形例2〕
図8は、液浸媒質を保持するレンズ環部を示す上面図である。本変形例では図8に示すように、レンズ環部がα部材とβ部材からなる分離構造となっている。これにより、媒質の保持と排出を好適に行うことができる。
更に別の変形例では液浸媒質の保持機構は、図9に示すように、レンズ環部、対物レンズ10の周囲に嵌合して取り付けられる中空の底板41、この底板41の周囲に沿って張り巡らされた壁42で構成されている。なお、レンズ環部は対物レンズの先端部のレンズからレンズ外枠に至る傾斜した面全体を指す。レンズ環部はアルミニウムでα部材が嵌合する窪みを有しており、全体がアルマイト処理されている。水に対する親和性が低い材質であるポリプロピレン(接触角約90°)を、この窪みに嵌合するようにドーナツ状に成型したものをはめ込んだ。アルマイトはポリプロピレンより水に対する親和性は高く、液浸媒質はレンズ上に安定して保持され、余剰な液浸媒質はすみやかに排出された。
[第2の実施の形態]
本発明に係る第2の実施の形態の液浸媒質の保持機構の形状は第1の実施の形態と同一であるが、α部、β部、レンズ環43の表面処理方法が第1の実施の形態と異なっている。従って、第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付して引用し、その詳細の説明を省略する。
第2の実施の形態では、α部及びレンズ環43に、フルオロアルキルアルコキシシランの1種であるCFCFCHSi(OCHの2%メタノール溶液をスプレーコートし、β部はマスクしてコートされないようにした。そして、その後に、室温にて乾燥した。
次に、β部のマスクを外し、α部にマスクをして、トリメトキシシランのメタノール溶液に少量の硝酸を加え、1時間加水分解を行った後に、β部にスプレーコーティングした。そして、これを120℃で1時間乾燥した。なお、コーティング前のα部の平均表面あらさは2nmであった。本実施の形態のα部とβ部の水に対する接触角を測定すると、それぞれ約60°と約20°であった。
この装置に液浸媒質31として水を供給し、観察位置の移動や焦点調節を行なったが、液浸媒質31の水によるドームは効果的に形成されて保持され、ドームからこぼれ落ちた水は効果的に排出された。親和性が低い材質と液浸媒質の接触角が60°であれば、常時安定して水によるドームは効果的に形成されて保持され、ドームからこぼれ落ちた水は効果的に排出された事を確認した。
[第3の実施の形態]
本発明に係る第3の実施の形態の液浸媒質の保持機構の形状は第1の実施の形態と同一であるが、α部、β部、レンズ環43の表面処理方法が第1の実施の形態と異なっている。従って、第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付して引用し、その詳細の説明を省略する。
第3の実施の形態では、α部及びレンズ環43に、フルオロアルキルアルコキシシランの1種であるCFCFCHSi(OCHの2%メタノール溶液をスプレーコートし、β部はマスクしてコートされないようにした。そして、その後に、室温にて乾燥した。
次に、β部のマスクを外し、α部にマスクをして、トリメトキシシランのメタノール溶液に少量の硝酸を加え、1時間加水分解を行った後に、β部にスプレーコーティングした。そして、これを120℃で1時間乾燥した。なお、コーティング前のα部の平均表面あらさは14nmであった。本実施の形態のα部とβ部の水に対する接触角を測定すると、それぞれ約100°と約20°であった。
この装置に液浸媒質31として水を供給し、観察位置の移動や焦点調節を行なったが、液浸媒質31の水によるドームは効果的に形成されて保持され、ドームからこぼれ落ちた水は効果的に排出された。
〔第4の実施の形態〕
図10は、液浸媒質を保持するレンズ環部を示す上面図である。第4の実施の形態では、図10に示すように、レンズ環部の表面がα部、β部、γ部の3種類の材質で構成されている。α部は対物レンズの中心軸に最も近い部分であり、親水性の材質を用いる。β部はα部の外周にリング状に形成されており、疎水性の材質が用いられている。γ部は最も対物レンズの外側部分にあり、親水性の材質が用いられている。
あるいは、保持機構の先端部分は1種類の部材、例えばアルミニウムを用い、表面部分をα部、β部、γ部のそれぞれ異なる部材を塗布、または被覆しても良い。この場合、α部では親水性の材質を用いて塗布、または被覆し、β部では撥水性の材質を用いて塗布、または被覆し、γ部では親水性の材質を用いて保持機構の先端部分を塗布、または被覆する。
さらに、α部、β部、γ部は互いに密接して液浸水媒質の保持機構の先端部分を構成し、α部、β部、γ部はそれぞれ対物レンズの中心軸から周辺に向かって降下する傾きを有しており、この構造によって、過剰の液浸水が液だめプレート40に浸漬する。
具体的には、親水性の膜としてSiO2−TiO2膜をα部とγ部に形成することが好ましい。この膜は光触媒作用により、表面を親水性に保つことができる。チタニア単成分の膜でも光触媒作用により、親水性の表面となるが、照明光が照射されていない間に、光触媒作用が停止して親水性が低下してしまうことがあるからである。これに対して、SiO2−TiO2の二成分膜は、Si−OH基の親水性と相俟って、光が照射されていない間も、α部とγ部の表面を好適に親水性に保つことができる。
測定時には、光が遮断された状態であることが多いので、測定終了後に、親水性を回復させるために光に当てたり、ランプ等の親水性を回復させるための光源を備えていることが好ましい。
SiO2−TiO2の二成分膜は、例えば、ゾル・ゲル法により作製することができる。例えば、以下のようにして作製される。シリコンアルコキシドをアルコールで希釈し、攪拌して部分加水分解を行った後に、アルコールで希釈したチタンアルコキシドを添加して攪拌し、最終的な加水分解のために少量の水を添加し、更に攪拌してゾルを調整する。このようにして得られたゾルを、β部をマスクして塗布後に、熱処理することにより、所望の箇所にSiO2−TiO2の二成分膜が作製される。
ゾル調整時の攪拌の方法は、種々の方法により行うことが可能であるが、好ましくは、遊星式攪拌脱泡機を用いると良い。遊星式攪拌脱泡機を用いると、反応が均一に進行するので、特に、部分加水分解の制御が容易にでき、特性の揃った成膜が可能であり、しかも非常に短時間でゾルを調整することが可能である。
次に、β部のマスクを外し、α部とγ部をマスクし、β部にフルオロアルキルアルコキシシランの一種であるCF3CF2CH2Si(OCH3)3の2%メタノール溶液をスプレーコートし、室温にて乾燥した。
別の構成として、図11に示すように、α部、β部を互いに密接して配設し、液浸媒質の保持機構の先端部分を構成し、液だめプレート40の部分にγ部を塗布、または被覆してもよい。または液だめプレート40に表面処理を施して、γ部を製作しても良い。
レンズ環部を中心から親水のα部、撥水のβ部、親水のγ部に帯状に分離することにより、対物レンズ先端部のレンズ、及びその周辺のレンズ環部上に保持される液浸媒質の液量がα部、β部2つの帯状構造に比べて、多くなる。従って、より多くの液浸媒質を対物レンズ先端部に保持することができ、長時間の顕微鏡観察を行う際に好都合である。また、液浸媒質の補充の頻度も少なくなり、実験者の手間を省くことができる。
液浸媒質の保持機構は、対物レンズ10の周囲に嵌合して取り付けられる中空の底板、この底板の周囲に沿って張り巡らされた壁で構成されていることもあり、あるいはレンズ環部、対物レンズの周囲に嵌合して取り付けられる中空の底板、この底板の周囲に沿って張り巡らされた壁で構成されていることもある。
なお、液浸媒質31は水浸に限定するものではなく、油浸方式についても同様の構成で本発明の目的を達成することができる。この際、使用する部材と液浸媒質31との親和性は水と油とで逆の特性となることに留意する必要がある。例えば、上記説明において、液浸媒質31に水を用いたときに親和性が高い材質は、油浸方式では、親和性が低い材質として用いることができる。また、液浸媒質31に水を用いたときに親和性が小さい材質は、油浸方式では、親和性が高い材質として用いることができる。
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
本発明は液浸対物レンズ、液浸媒質を保持するための保持機構を有し、試料を観察、測定する装置を製造する産業に広く利用することができる。

Claims (14)

  1. 液浸対物レンズを使用して試料を観察、測定する装置の液浸媒質の保持機構において、
    対物レンズ先端部近傍の前記液浸媒質を保持する部材が少なくとも第1の材質と、第2の材質より構成されることを特徴とする液浸媒質の保持機構。
  2. 前記液浸媒質を保持する第1の材質、及び第2の材質は液浸媒質に対する親和性が異なることを特徴とする請求項1に記載の液浸媒質の保持機構。
  3. 前記液浸媒質を保持する部材は、その先端部分から周辺部分にかけて、傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載の液浸媒質の保持機構。
  4. 前記液浸媒質を保持する第2の材質は、第1の材質の周囲に形成され、かつ、液浸媒質に対して親和性の低い材質であることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の液浸媒質の保持機構。
  5. 前記液浸媒質を保持する部材に、液浸媒質に対して親和性の高い材質が複数個所形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の液浸媒質の保持機構。
  6. 前記液浸媒質を保持する第1の材質、または、第2の材質のうち、液浸媒質に対して親和性の高い材質は前記液浸媒質との接触角が60°以下であることを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の液浸媒質の保持機構。
  7. 前記液浸媒質を保持する第1の材質と第2の材質のうち、液浸媒質に対して親和性の低い材質は前記液浸媒質との接触角が60°より大きいことを特徴とする請求項1乃至6の内いずれか1項に記載の液浸媒質の保持機構。
  8. 前記液浸媒質を保持する第1の材質、または、第2の材質の少なくとも一方は合成樹脂であることを特徴とする請求項1乃至7の内いずれか1項に記載の液浸媒質の保持機構。
  9. 前記液浸対物レンズに嵌合するための開口部と、前記液浸媒質を保持する部材を保持する皿状の底面と、前記皿状の底面の周囲に沿って配設された壁面と、前記皿状の底面または前記壁面の一部に接続した管状構造部材と、を有することを特徴とする請求項1乃至8の内いずれか1項に記載の液浸媒質の保持機構。
  10. 液浸対物レンズにおいて、少なくともレンズ環部の一部が液浸媒質との親和性が低いレンズ環部を備えたことを特徴とする液浸対物レンズ。
  11. 液浸対物レンズにおいて、少なくともレンズ環部の一部の液浸媒質との親和性が低い部分の接触角が60°以上であるレンズ環部を備えたことを特徴とする液浸対物レンズ。
  12. 液浸対物レンズを使用して試料を観察、測定する装置の液浸媒質の保持機構の製造方法において、
    前記液浸媒質を保持する部材に、液浸媒質に対して親和性の高い材質、または、親和性の低い材質を配置するか、液浸媒質に対して親和性の高い材質、または、親和性の低い材質を表面処理して製造することを特徴とする液浸媒質の保持機構の製造方法。
  13. 液浸対物レンズを使用して試料を観察、測定する装置の液浸媒質の保持機構の製造方法において、
    前記対物レンズ先端部近傍の前記液浸媒質を保持する部材に、前記液浸媒質との接触角が60°以上の第1の材質を配置、または、表面処理を行い、前記液浸媒質との接触角が60°より小さい第2の材質を配置、または、表面処理を行って製造することを特徴とする液浸媒質の保持機構の製造方法。
  14. 前記液浸媒質を保持する部材に、液浸媒質に対して親和性の高い材質、親和性の低い材質の少なくともいずれかの材質で表面処理することを特徴とする請求項12または13に記載の液浸媒質の保持機構の製造方法。
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