JPH09143476A - 均一微細孔を持つ多孔質炭素材料の製造方法 - Google Patents

均一微細孔を持つ多孔質炭素材料の製造方法

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JPH09143476A
JPH09143476A JP7329935A JP32993595A JPH09143476A JP H09143476 A JPH09143476 A JP H09143476A JP 7329935 A JP7329935 A JP 7329935A JP 32993595 A JP32993595 A JP 32993595A JP H09143476 A JPH09143476 A JP H09143476A
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JP
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pitch
softening point
carbon material
heavy oil
porous carbon
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JP7329935A
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English (en)
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Masatoshi Tsuchitani
正俊 槌谷
Ryoichi Nakajima
亮一 中島
Seiki Suzuki
清貴 鈴木
Hitoshi Shigematsu
等 重松
Katsutoshi Nishitani
勝利 西谷
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Maruzen Petrochemical Co Ltd
Original Assignee
Maruzen Petrochemical Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 重質油またはそれから得られる低軟化点ピッ
チ等の安価な原料を使用して、均一微細孔を持つ多孔質
炭素材料を簡便に製造する方法を提供する。 【解決手段】 特定性状の重質油またはそれから得られ
る低軟化点ピッチを原料とし、これを径100μ以下の
粒子状、粉末状または繊維状に賦形した後、特定の溶剤
で処理して温度勾配法軟化点が180℃以上の高軟化点
ピッチの粒子、粉末または繊維を得、これを酸素を含む
雰囲気下で不融化し、さらに不活性雰囲気下で焼成、炭
化する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は分子吸着剤、触媒、
電極炭素等に用いられる均一微細孔を持つ多孔質炭素材
料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、10Å以下という非常に微細な気
孔を持つ炭素材料を、空気中の窒素あるいは炭酸ガスの
分離回収に利用する方法が注目されており、圧力差によ
ってガスの吸着脱着を行なうPSA (Pressure Swing A
dsorption)法、およびこの用途で使用されるMSC (Mo
recular Sieving Carbon) あるいはCMS (Carbon Mol
ecular Sieve) と呼ばれる多孔質炭素材料の開発が盛ん
である。
【0003】また、最近、急速に技術、市場が広がって
いるリチウムイオン電池用負極炭素についても、炭素の
細孔構造が電池容量に関係しているとの報告(例えば
「炭素の細孔構造と電池性能」1994年炭素材料学会
要旨集、p190-191)があり、さらに、電気二重層キャパ
シターに使用されている電極炭素も微細孔を持つ多孔質
炭素であるというように、多孔質炭素材料は従来の吸着
分離以外にも新しい用途への展開が広がりつつある。
【0004】微細孔を持つ多孔質炭素材料の製造は、一
般的には賦活方法による場合が多かった。賦活方法とし
てはヤシガラ炭、チャーあるいはコークス等のすでに炭
素化した材料を水蒸気、炭酸ガス、酸素等の酸化性ガス
が存在する雰囲気下で加熱処理する方法、あるいは塩化
亜鉛、リン酸、水酸化カリウム、炭酸カリウム等の薬剤
を混合して加熱し、薬剤による浸食作用を利用する方法
が知られている。しかしながら、これらの方法では得ら
れる多孔質炭素材料の細孔分布が広く、均一な微細孔を
形成することはできなかった。
【0005】そのため、気孔の分布を均一にし、かつ極
めて微細な気孔とするためのいくつかの方法が提案され
ている。例えば炭素の沈積方法による場合は、分布の広
い気孔を持つ活性炭にコールタール、クレオソート油等
の油類、あるいはフェノール樹脂等の加熱によって炭素
を生成する有機物を含浸し、これを加熱することによっ
て新たに生成した炭素で気孔を小さく均一にする方法
(特開昭59−45914号、特開昭61−19151
0号、特開昭62−176908号等)、加熱によって
炭素を析出するガス状の有機物が存在する雰囲気中で気
孔の均一でない活性炭を加熱し、有機物から生成する熱
分解炭素を気孔に沈積させることによって気孔を小さく
均一にする方法(特開昭47−38686号、特開昭6
0−171212号等)等が挙げられる。
【0006】しかし、これらの場合は活性炭の製造に高
温での原料物質の炭化、および高温での賦活処理という
工程を必要とし、さらには上記のような該活性炭の気孔
の均一化のための高温での炭素生成、沈積という3段階
の高温処理が必要であるため、操作が複雑となり、得ら
れるものが高価にならざるを得ないばかりでなく、気孔
の均一性も不十分であった。
【0007】一方、この様な煩雑な賦活処理や新しい炭
素の沈積処理を必要としない方法も提案されており、例
えば、ポリ塩化ビニリデン、フェノール樹脂、メラミン
樹脂等をそのまま、あるいは不融化した後に炭化し、溶
融状態を経ないで炭素とすることで、樹脂中のヘテロ元
素(塩素、酸素、窒素等)がHCl、CO、CO2、H2
O、NO、N2 、HCN等として脱離する際に微細な気
孔が生成することを利用した方法(特開昭50−161
485号、特開昭52−77017号、特開昭57−1
18009号、特開昭61−6108号等)がある。し
かしながら、これらの方法は特殊な熱硬化性樹脂を原料
としており樹脂そのものが高価であり、また樹脂によっ
ては炭化時に多量の有害物質が発生し、これを処理する
ためのコストがかかる等の問題点があった。
【0008】そこで、より安価な高軟化点の紡糸ピッチ
を出発原料とし、これを粉砕あるいは紡糸して粉末状ま
たは繊維状とし、さらに不融化して酸素を導入した後に
炭化することで、取り込まれた酸素が脱離する際に微細
な気孔が生成することを利用した方法(特開昭60−2
27832号、特開平6−142503号、特開平6−
144818号等)が開発されたが、この方法において
も出発原料である高軟化点ピッチの製造に熱処理を含む
複雑な工程が必要であったり、製造の安定性に欠けると
いう問題点があった。
【0009】また、これらの賦活処理工程を経ないで多
孔質炭素材料を製造する方法においては、その出発原料
の性状、特性、化学構造等が得られる炭素材料の気孔生
成に重大な影響を及ぼすことも知られていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、安価
な出発原料を用い、熱処理による原料の高軟化点化等の
複雑な工程を必要とせずに、均一微細孔を持つ多孔質炭
素材料を工業的に簡便で効率良く、しかも安定した製造
方法で提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記目的
を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の出発原
料を先ず賦形し、次いで軽質成分を抽出除去することに
より高軟化点化し、さらに酸化して十分に酸素を取り込
ませた後、不活性雰囲気中で炭化すると極めて容易にか
つドライスティックに均一な微細孔が生成することを見
出し本発明を完成した。
【0012】すなわち、本発明の要旨は、(出発原料)
H/C原子比が0.8〜1.2の範囲にあり、BTX溶
剤不溶分を実質的に含まない重質油または該重質油から
軽質成分を留去して得られる温度勾配法軟化点が150
℃以下であって、BTX溶剤不溶分を実質的に含まない
低軟化点ピッチを出発原料とし、(第1工程)該出発原
料を径100μ以下の粒子状、粉末状または繊維状に賦
形して賦形体とする第1工程と、(第2工程)この賦形
体をその少なくとも10重量%は不溶分として残存せし
め得る有機溶剤と接触させることにより軽質成分を抽出
し、温度勾配法軟化点が少なくとも180℃以上で、か
つ300℃までの加熱減量が5重量%以下であり、BT
X溶剤不溶分を実質的に含まない賦形された高軟化点ピ
ッチとする第2工程と、(第3工程)この賦形された高
軟化点ピッチを、酸素を含む雰囲気で不融化して不融化
物とする第3工程と、(第4工程)この不融化物を不活
性雰囲気中で焼成、炭化する第4工程からなることを特
徴とする均一微細孔を持つ多孔質炭素材料の製造方法に
存する。
【0013】なお、ここでBTX溶剤とはベンゼン、ト
ルエン、キシレン、エチルベンゼンのような芳香族系溶
剤を示す。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明についてさらに詳細
に説明する。 (出発原料)本発明の出発原料においては、H/C原子
比が0.8〜1.2の範囲であることが必要である。H
/C原子比が0.8より小さいもの、すなわち芳香族性
が高く、脂肪族側鎖が非常に少ないものでは、第3工程
の不融化時に酸素の取り込み速度が遅いため、不融化物
中の酸素濃度がほぼ飽和するまで粒子、粉末または繊維
全体を過不融化状態にしようとすると、表面ではすでに
酸化消耗が著しく速い状態になり、目的物の回収率が下
がるので非効率的であり、また酸素の取り込み量が少な
い場合には第4工程の炭化時に広い炭化温度範囲での十
分大きな比表面積の生成、すなわち多数の気孔生成が困
難になる。逆に、H/C原子比が1.2より大きいも
の、すなわち芳香族性が低く、脂肪族性の非常に高いも
のでは、第2工程の軽質成分の抽出時に回収率が著しく
低くなる上、第3工程の不融化においても酸素の取り込
みよりも分解による脱離が多くなるため、やはり目的物
の回収率が低くなる。
【0015】また、出発原料はBTX溶剤に不溶の成分
を実質的に含まない、すなわち、JISに規定されてい
るような一般的な不溶分測定法で測定したときの不溶分
の値が1重量%以下であることが重要である。これは、
BTX溶剤に不溶な成分が存在すると、出発原料をミク
ロンオーダーの粒子状、粉末状または繊維状に賦形する
際の障害になるばかりでなく、これらBTX溶剤に不溶
な成分は熱重合等によって生成した分子量の大きい、す
なわち縮合芳香族環数の大きい成分であるため、これが
多量に含まれていると、不融化時に取り込まれる酸素の
量が低下し、ひいては気孔生成の低下、または収率の低
下を招くことになる。これは、重質油やピッチ類の不融
化では、酸化反応が分子のエッジ部分から起こり内部は
酸化され難いため、縮合芳香族環数が大きいと当然分子
のエッジ部分に相当する酸素の量は分子全体から見ると
小さな値になるからである。
【0016】このような本発明の条件を満たす重質油と
しては、ナフサを分解してオレフィン類を製造する際に
副生する重質油(ナフサ分解副生油)、ガスオイル(軽
油留分)を分解してオレフィン類を製造する際に副生す
る重質油(パイロリシスタール)、石油類の流動接触分
解(FCC)時に副生する重質油(デカント油あるいは
FCCスラリー油)等の石油系分解重質油がある。中で
も、ナフサ分解副生油はそもそも原料がナフサであるた
め、硫黄、窒素、酸素等のヘテロ元素含有量が非常に少
なく、炭化時の排ガス処理の面からも好適である。
【0017】なお、コールタールのような石炭系重質油
の場合、通常は芳香族性がかなり高く(H/Cが小さ
い)、多量のBTX溶剤不溶分を含むため、そのまま用
いることは好ましくないが、BTX溶剤不溶分の分離、
除去、あるいは水素化分解等の処理によって本発明の条
件に適合するように改質操作を行なえば本発明の出発原
料として使用可能である。ただしこの場合、改質操作に
伴うコストが掛かるので、上記石油系重質油に比較すれ
ば好ましい原料とはいい難い。
【0018】本発明の出発原料としては、このような重
質油をそのまま使用することもでき、また蒸留操作によ
り軽質成分を除去して得た温度勾配法軟化点が150℃
以下の低軟化点ピッチも使用することができる。ここで
いう温度勾配法軟化点とは温度勾配のついたアルミ板上
に試料ピッチ粉末を置き、これをハケで払い落とし、試
料が溶け始めてアルミ板表面に付着する位置を求め、こ
の点のアルミ板の表面温度を軟化点とする方法(測定
器:アジア理化器(株)社製、AMK−B2CEFH−
3)であり、ピッチの種類、性質によっても異なるが、
おおよそ、この温度勾配法軟化点は、JISに規定され
たR&B法(リング&ボール法)軟化点よりも15〜2
0℃低い値となり、また、ASTMに規定されたメトラ
ー法軟化点よりも25〜50℃低い値となる。
【0019】また、後述する第1工程の方法としてエマ
ルション化を採用する場合には、上記の重質油をそのま
まあるいは必要に応じて粘度調整したもの、また低軟化
点ピッチの場合には有機溶剤に溶解して溶液状とするこ
とにより粘度を低くしたものを使用することもできる。
このエマルション化による方法においては、エマルショ
ン化温度における粘度が1,000ポイズ以下であるこ
とが好ましい。この場合、本発明で使用されるこれら出
発原料はBTX溶剤に不溶の成分を含まないものである
ため、溶液とするために用いる有機溶剤にはBTX溶剤
が好適であることは言うまでもないが、少なくともこの
原料の90重量%以上を溶解することのできる有機溶剤
であれば使用可能となる。
【0020】(第1工程)本発明の第1工程は上記のよ
うな特定の原料を径100μ以下の粒子状、粉末状また
は繊維状に賦形する工程である。
【0021】径を100μ以下にする理由の一つは、次
の軽質成分の抽出工程において、抽出が速やかに、かつ
均一に起こるようにするためである。径が例えばmmオー
ダー以上に大きいと、外表面の抽出は速やかに起こるが
内部までの抽出に時間がかかるため、抽出時間が不十分
であると抽出状態が不均一となる。また一つの理由は、
抽出後の不融化工程でも内部まで均一に不融化状態とす
るためである。径が大きい場合、外表面が不融化して
も、内部への酸素拡散が遅いため不均一となる。内部の
不融化が不十分であると炭化時に内部が溶融して全く気
孔の無い部分ができたり、内部まで十分不融化しようと
すると、表面部分はすでに酸化消耗を起こす状態とな
り、結果として回収率の低下を招くことになる。
【0022】賦形の方法は粉砕、紡糸またはエマルショ
ン化等種々の方法を採用し得る。粉砕による場合、本発
明の出発原料は温度勾配法軟化点が150℃以下と低い
ため、粉砕時に発生する熱によって粒子同士が融着する
ことがあるので、冷却しながら粉砕するか、または多量
のガスと混合しながら粉砕することが好ましい。
【0023】また、出発原料の温度勾配法軟化点が室温
より十分高い、例えば45℃以上である場合には、紡糸
によることもできる。本発明で使用する出発原料はBT
X溶剤不溶分を実質的に含まないものであるため、その
粘度が数百〜数千ポイズとなるように加熱すれば、容易
に溶融紡糸が可能である。紡糸の方法はノズルから押し
出しこれを牽引して細繊化する長繊維製造法、ノズルか
ら押し出したピッチを遠心力によって細繊化する遠心紡
糸法、ノズルの直下に高速のガスを流しておきその力で
細繊化するメルトブロー法あるいは渦流法等の方法を採
用し得る。紡糸温度は使用する原料の温度勾配法軟化点
より50〜70℃程高い温度であればよく、従って温度
勾配法軟化点が45〜150℃の本発明の低軟化点ピッ
チの紡糸温度は95〜220℃の範囲が好ましい。この
温度域は不活性ガス中で一般の有機物が分解、変質する
温度域より十分低いため、通常の高軟化点ピッチを原料
として製造されるピッチ系炭素繊維の紡糸工程で問題と
なるような紡糸機内での分解、変質、コーキングという
現象が起こらす、安定して紡糸をすることができる。な
お、温度勾配法軟化点が比較的低い場合には、ノズル孔
から出たピッチ繊維が十分冷却されていないと繊維同士
が融着する場合があるが、このような場合にはノズル孔
から出て、細繊化されたピッチ繊維を直接第2工程で使
用する有機溶剤中に落とすことにより繊維同士の融着を
防止することができる。
【0024】さらに、軟化点が45℃より低いかまたは
常温で液状の場合は、賦形の方法としてこのような粉砕
や紡糸という手段を採用することはできず、エマルショ
ン化により行う。エマルション化の方法については本発
明者等は先に特願平6−331132号において開示し
ている。すなわち、「原料重質油類を、1,000ポイ
ズ以下の粘度の液状の状態において、ただし該原料重質
油類が当該状態でない場合は、加熱する手段、または水
と相溶せず、かつ原料重質油類を90重量%以上溶解す
る有機溶剤にて希釈ないし溶解する手段、またはこの両
手段の併用によって該原料重質油類の状態を当該状態に
調製して、剪断力が付与される撹拌方法により界面活性
剤の存在下に水と共に撹拌して、該原料重質油類が直径
100μ以下の微細球状粒子として水中に分散されたエ
マルションとする方法」により賦形することができる。
【0025】この方法の特徴は重質油類、ピッチ類を一
旦水中でエマルション状態とすることであり、エマルシ
ョン状態にある重質油類がその表面張力で球状になるこ
とを利用した賦形方法である。なお、上記エマルション
化には、上記の「剪断力が付与される撹拌」という方法
以外に、最近開発された膜乳化法をも採用し得る。この
方法は、均一なミクロンオーダーの細孔を持つガラスま
たはセラミックスを乳化膜メディアとし、この乳化膜メ
ディアの一方に分散媒である界面活性剤を含む水を入れ
循環あるいは撹拌しておき、乳化膜メディアの反対側か
ら分散質である重質油類、ピッチ類、またはピッチを有
機溶剤に溶解、希釈した溶液を圧力差により水中に押し
出す方法である。押し出される際に分散質は乳化膜メデ
ィアの均一な細孔を通過してくるため、その細孔の大き
さに比例した粒子として水中に分散され、従って極めて
粒子径分布のシャープなエマルション粒子を得ることが
できる。
【0026】以上のようにして、径100μ以下の粒子
状、粉末状または繊維状の賦形体を容易に得ることがで
きる。なお、賦形体の径が小さすぎて、例えば、0.1
μに満たない微細粒子が多量に含まれるような状態は、
後の不融化、炭化時のハンドリングを考えるとむしろ好
ましくないが、上記の方法で得られる賦形体の径は、通
常は0.1μ以上である。
【0027】(第2工程)本発明の第2工程は、次の不
融化工程において支障無く不融化が進行するために必要
な性状を有する粒子、粉末または繊維状に賦形された高
軟化点ピッチを得る工程である。すなわち、通常、石油
系分解重質油から製造されるピッチの空気雰囲気下にお
ける酸化開始温度は140〜160℃程度であることか
ら、ピッチの軟化点がこの温度より低いと、ピッチの溶
融、融着が起こり不融化が困難となる。従って不融化前
のピッチの軟化点はこの値より十分高いこと、少なくと
も180℃以上、好ましくは200℃以上が必要であ
る。また、ピッチの300℃までの加熱減量が5重量%
を越えるようなものでは、不融化工程において同じく溶
融、融着の問題が起こると同時に、ピッチから有機物が
多量に揮発してくる恐れがあり安全面からも好ましいこ
とではない。従って不融化前のピッチの300℃までの
加熱減量は5重量%以下、好ましくは3重量%以下が必
要である。
【0028】このような目的で第2工程では、第1工程
で賦形されたものから有機溶剤で軽質成分を抽出する
が、使用する有機溶剤は出発原料の少なくとも10重量
%は不溶分として残存せしめ得るものであることが必要
である。これ以上に溶解性の高い有機溶剤を使用する
と、得られる高軟化点ピッチの回収率が低下し、効率が
悪くなるばかりでなく、第1工程で賦形した形状が崩れ
る場合があり、一定の形状が要求される用途には不適当
である。
【0029】以上の条件を満足する有機溶剤にはパラフ
ィン系炭化水素類、ケトン類またはアルコール類が挙げ
られる。パラフィン系炭化水素類として例えば、n−ペ
ンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサ
ン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン等、
ケトン類としては例えば、アセトン、メチルエチルケト
ン(MEK)、ジエチルケトン、メチルイソブチルケト
ン(MIBK)等、アルコール類としては例えば、メタ
ノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノ
ール(IPA)、n−ブタノール、セカンダリーブタノ
ール(SBA)、n−ペンタノール、n−ヘキサノー
ル、シクロヘキサノール等が挙げられ、これらは単独
で、または混合して適当な溶解性に調整した混合溶剤と
して使用される。
【0030】なお、第1工程でエマルション化した場合
は、水と相溶しない例えばパラフィン系炭化水素溶剤を
単独で用いると、スカム状物が生じ分離が困難となるの
で、この場合には水と均一層を形成するアルコール類、
ケトン類の使用が好ましい。
【0031】軽質成分の抽出の方法は特に限定されるも
のではなく、通常知られている方法を採用すればよい。
本発明の場合、原料がすでに100μ以下に賦形されて
いるため、例えば賦形された原料を有機溶剤と共に撹拌
し、これを濾過、遠心分離して不溶分を回収するという
方法で速やかに抽出操作が完了する。このとき使用する
溶剤量は原料の数倍量から数十倍量の範囲で選択すれば
良いが、溶剤の使用量が少ないと抽出される量が限定さ
れ十分軟化点が高くならないことがあったり、賦形され
た粒子の径が小さい場合には混合後の流動性が悪くなり
抽出操作に支障をきたすことがあるため、通常は3〜3
0倍量程度の溶剤を使用することが望ましい。また、抽
出時の温度は室温付近で十分であるが、溶解性を高くす
るため加温することも可能である。抽出時間も特に限定
されないが、通常は数時間以下で十分である。また、沸
点の高い溶剤を使用した場合、溶剤の除去およびピッチ
の乾燥には時間がかかるので、この場合には使用した溶
剤を濾過等の方法で十分除去した後、その溶剤よりも溶
解性が低く、沸点の低い溶剤で洗浄して、沸点の高い溶
剤を除いてから乾燥することも好ましい方法である。な
お、抽出操作は1回に限定されるものではなく、抽出、
分離という操作を繰り返して行っても良い。
【0032】以上のようにして温度勾配法軟化点が18
0℃以上、好ましくは200℃以上で、かつ300℃ま
での加熱減量が5重量%以下、好ましくは3重量%以下
の高軟化点ピッチを容易に得ることができる。なお、本
発明の方法の場合、原料はBTX溶剤不溶分を実質的に
含まないものであり、また、原料の加熱処理という操作
を行わないため、この原料の賦形体から上記操作により
得られる高軟化点ピッチの温度勾配法軟化点は、通常は
300℃以下である。
【0033】本発明の第1工程および第2工程を経て得
られる賦形された高軟化点ピッチは、温度勾配法軟化点
が180℃以上であり、軟化点という点では炭素繊維用
紡糸ピッチと同程度であるにもかかわらず、BTX溶剤
に不溶な成分を含まず加熱減量も少ないという点で炭素
繊維用紡糸ピッチと異なっており、このことから、分子
量は比較的小さくかつその分布はシャープなものである
ということができる。また、本発明では従来の高軟化点
化後に賦形するという発想から脱却して、先に賦形しそ
の後高軟化点化するという手法を採用しているので、本
発明の第1工程、第2工程を通じて従来の高軟化点ピッ
チの製造において必要であった350℃以上というよう
な高温の加熱処理(熱重合)、あるいは触媒による重合
反応を全く使用しないため、経済的に容易に全面光学的
に等方性の高軟化点ピッチを得ることができる。軟化点
が著しく高く、分子量が小さく、かつBTX溶剤不溶分
を含まない等方性ピッチという意味では、第2工程で得
られるピッチそのものが極めて特異なものであると言う
ことができ、この特性が後の工程で均一微細孔が容易
に、ドラスティックに生成する大きな要因となっている
と考えられる。
【0034】(第3工程)本発明の第3工程は、この賦
形された高軟化点ピッチを、酸素を含む雰囲気下で加熱
して不融化する、すなわち酸化する工程である。
【0035】本発明の第2工程で得られる賦形された高
軟化点ピッチはそもそもBTX溶剤不溶分を含まないも
のであるが、これを酸素を含む雰囲気、例えば空気中で
徐々に加熱すると、140〜160℃程度から酸化反応
による重量増加が観測されるようになり、それと共にB
TX溶剤に不溶な成分およびキノリンに不溶な成分が生
成してくる。このとき、BTX溶剤不溶成分が100%
となっても、キノリン不溶分がまだ100%になってい
ないものは、後の炭化工程においてピッチの溶融、融着
が発生し、元の形状のものを得ることができない。本発
明者等の知見によれば、後の炭化工程において溶融によ
る形状変化や融着が起こらなくなる点と、不融化物中の
キノリン不溶分が100%に到達する点がほぼ一致して
おり、すなわち、溶融も融着も起こさないための不融化
に必要な最低条件がほぼこの点に相当し、炭化後の収率
もこの点が最も高くなる(以降、この不融化条件を最適
不融化条件と言う)。
【0036】一般に、強度に注目して製造されるピッチ
系炭素繊維においてはこの最適不融化条件が好ましいと
言われている。しかしながら、最適不融化条件では不融
化物中の酸素濃度がまだ飽和状態になく、そのような不
融化物を炭化した場合、300℃付近の温度から有機物
の分解によるタール状物の生成と取り込まれた酸素の脱
離が起こり、約600〜800℃という狭い炭化温度範
囲ではある程度大きな比表面積を有する炭化物が得られ
るが、それ以上に高い炭化温度では焼成収縮により気孔
がつぶれるようであり、炭化物の比表面積は急激に小さ
くなる。そこで、最適条件以上に過不融化すると、過不
融化物の収率は徐々に低下するものの、ある条件以上で
は酸素濃度がほぼ一定になり、この状態の過不融化物を
炭化すると、300℃付近からの有機物の分解によるタ
ール状物の生成はほとんど認められなくなり、500℃
以上の温度から、取り込まれた酸素が脱離するととも
に、一般に最適不融化条件で不融化した場合よりも多数
の気孔が生成して、炭化物は十分大きな比表面積を有す
るようになる。また、過不融化した場合にはこの比表面
積は1,100℃という高温まで維持されるようになる
ため、500〜1,100℃という広い炭化温度範囲で
容易に十分大きな比表面積を有するものを得ることがで
きる。すなわち多数の気孔を生成させるためには、上記
のように不融化工程で、単に最適不融化条件で不融化す
るよりも、酸素が飽和するよりも厳しい条件で処理し過
不融化状態とすることが望ましい。
【0037】本発明の第3工程における不融化の方法
は、酸素を含む雰囲気で加熱して酸素を取り込ませるこ
とができれば特に限定されないが、雰囲気中の酸素濃度
によって当然処理条件は異なり、例えば空気雰囲気中の
場合には、昇温速度0.1〜10℃/min 、保持温度2
50〜400℃、保持時間0.1〜10時間程度が採用
される。不融化条件が穏和すぎると前述のように、炭化
工程において不融化物の溶融による形状変化や融着が起
こったり、気孔の生成が困難になる。逆に不融化条件が
過酷すぎると、得られる炭素中の気孔はそれほど大きく
変わらないが、過不融化物の収率が低下するため好まし
くない。
【0038】なお、本発明の第3工程を経て得られる不
融化物の比表面積は、処理条件の如何にかかわらず、粒
子、粉末あるいは繊維の外表面積に相当する面積しか観
測されず、従ってこの段階で気孔が生成しているわけで
はないことを示している。
【0039】(第4工程)本発明の第4工程は、第3工
程で得られた不融化物を不活性雰囲気中で焼成し、炭化
する工程である。
【0040】前述のように、最適不融化条件で不融化し
たものを炭化する場合には、600〜800℃の範囲で
比表面積が最も大きくなるが、不融化条件をさらに厳し
くして、酸素が飽和するよりも厳しい条件で過不融化状
態とした場合には500〜1,100℃の範囲で大きな
比表面積、すなわち多量の微細孔を持つものが得られ
る。例えばナフサ分解副生油を出発原料として第1、
2、3工程を経て得られた過不融化物を窒素雰囲気中、
10℃/min で昇温し、所定温度で1時間保持する方法
により炭化したものについて、液体窒素温度での窒素吸
着によるBET法比表面積を測定してみると、炭化温度
400℃では小さな比表面積しか観測されないが、温度
をわずか100℃高くし500℃とすると非常に大きな
比表面積が観測される。また、炭化温度1,100℃で
もやはり大きな比表面積が観測されるが、これより10
0℃高い1,200℃で炭化すると小さな比表面積しか
観測されなくなる。すなわち、本発明の方法では、比表
面積の増加、減少がきわめてドラスティックであり、不
融化条件や炭化条件のわずかな変化で比表面積が大きく
変化する極めて特異な現象であると言える。
【0041】なお、本発明の炭化工程における昇温速
度、保持時間等の条件は通常用いられる範囲で十分であ
る。ただし、一般的に知られているように、昇温速度は
使用する炭化炉の形式によって実現できる範囲が異なる
ため、バッチ式の炭化炉を使用する場合には数℃/min
〜数十℃/min程度が、また連続式の炭化炉を使用する
場合には数十℃/min〜数百℃/min程度の昇温速度が採
用され、保持時間は数分〜数時間程度が採用される。
【0042】本発明の方法により得られる多孔質炭素材
料は液体窒素温度下の窒素吸着によるBET法比表面積
が少なくとも300m2 /g以上であり、窒素の吸着等
温線からHK法(Horvath-Kawazoe 法)で解析した細孔
径はその殆どが10Å以下に集中している。
【0043】なお、本発明の方法で生成する気孔のよう
に微細な分子サイズの気孔についてはまだ細孔径、細孔
分布、細孔容積を正確に測定する方法が確立されておら
ず、測定の方法、解析の手法等によってその値が相当大
きく変わる場合が多い。従って、分子ザイズレベルの気
孔の評価はそれぞれの用途毎に実用特性を評価すべきで
あるが、現実には通常窒素(分子サイズ、長径=4.1
Å、短径=3.0Å、特開平4−13288号に記載さ
れた値)等の吸着特性から特定解析手法に従って気孔を
評価する方法が採用されており、材料の基本特性、ある
いは製造法や条件による基本特性の変化等を知る上では
こうした評価方法で十分であると考えられている。
【0044】以上のような方法と条件を採用して本発明
の方法を実施すれば、容易に均一微細孔を持つ多孔質炭
素材料を効率よく製造することができる。
【0045】また、本発明の方法によれば、径が100
μ以下の全く気孔の存在しない粒子状、粉末状または繊
維状の炭素を製造することも可能であり、従って、本発
明は均一微細孔の生成を意図的にコントロールする一つ
の”ポロシティーコントロール法”を提供するものであ
ると言うこともできる。
【0046】
【実施例】以下、実施例、比較例によりさらに詳細に本
発明の方法を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施
例によって限定されるものではない。なお、実施例、比
較例中の%は特に指定がない限り重量%を示す。
【0047】実施例1 ナフサを分解してオレフィン類を製造する際に副生する
重質油(ナフサ分解副生油)を減圧蒸留して温度勾配法
軟化点71℃の低軟化点ピッチを得た。このもののナフ
サ分解副生油に対する収率は73%であった。またこの
ピッチの性状はキシレン不溶分0%、キノリン不溶分0
%、熱天秤で測定した300℃までの加熱減量17.9
%、元素分析値はC92.9%、H7.0%、S0.0
2%、H/C原子比0.90であった。
【0048】このピッチを径(D)0.25mm、長さ
(L)0.75mm(L/D比=3)のノズルを装着した
溶融紡糸機に入れ、紡糸温度135℃、吐出圧力5Kg/
cm2・Gで吐出し、ノズル下部に設置したエアーサッカー
で引き取り、繊維径20μの低軟化点ピッチ繊維を得
た。
【0049】次にこの低軟化点ピッチ繊維200gをア
セトンとSBAの混合溶剤(アセトン/SBA容量比=
20/80)4,000ml の中に入れマグネティック
スターラーで1時間撹拌した。その後、この混合物をG
−4グラスフィルターで濾過して溶剤可溶分を除き、得
られた不溶分を再度新しい混合溶剤4,000ml の中
に入れて1時間撹拌した。これを同じグラスフィルター
で濾過し、メタノールで3回洗浄した後、固形物を減圧
乾燥機に入れ、30℃で5時間乾燥し、軽質成分を除去
した高軟化点ピッチを得た。
【0050】得られた高軟化点ピッチの収率は低軟化点
ピッチ繊維に対して58%であり、その性状は温度勾配
法軟化点216℃、キシレン不溶分0%、キノリン不溶
分0%、300℃までの加熱減量2.1%、元素分析値
はC92.8%、H7.1%、S0.03%、H/C原
子比0.91であった。このものを走査型電子顕微鏡
(SEM)で観察したところ、繊維径は抽出前とほぼ同
じであるが、長さが数十μに切断された繊維状粉末であ
った。
【0051】ついで、この高軟化点ピッチ繊維の粉末を
空気中、昇温速度0.5℃/min で加熱し、195〜3
55℃の所定温度で1時間保持するこにより不融化処理
し、さらにこの不融化物を窒素気流中、昇温速度10℃
/min で加熱し、1,000℃で1時間保持することに
より炭化した。不融化物の収率と性状ならびに炭化物の
収率と外観を表1に示す。なお、収率は軽質成分抽出後
の高軟化点ピッチ繊維を基準とした。
【0052】表1より不融化温度215℃以下のもので
は炭化時に溶融して繊維形状を維持できず、また、不融
化温度235℃の場合は繊維形状はとどめているものの
繊維同士が融着を起こし塊状になるので、繊維が融着す
ることなく炭化できる最低の不融化温度は255℃であ
り、繊維強度を目的とする場合にはこの条件が最適不融
化条件となることがわかる。
【0053】また、不融化物の性状変化を見ると、最適
不融化条件の時に丁度キノリン不溶分が100%に到達
しているが、酸素濃度はまだ増加の途中であり、不融化
温度300℃程度まで増加し、300℃以上でほぼ飽和
することがわかる。
【0054】次に、得られた炭化物について直読式表面
積測定装置、MONOSORB(MS−8型、QUAN
TACHROME社製)を用い、ASTM法(Draft Pr
oposal 7-18-76、Revision 2 4-6-81)に従って液体窒
素温度における窒素吸着量からBET法比表面積(SA
(BET))を測定した。その結果も表1に示す。同表か
ら、不融化温度を高くして過不融化状態にしたもの、す
なわち不融化物中の酸素濃度がほぼ飽和する条件(29
5℃)以上では、炭化温度1,000でも大きな比表面
積が観測され、微細な気孔を持つものが得られているこ
とがわかる。
【0055】また、不融化温度255℃および355℃
で得た炭化物について、吸着等温線測定装置BELSO
RP−28SA型(日本ベル(株)製)を用いて液体窒
素温度での吸着等温線を測定し、このデータからLangmu
ir法による表面積(SA(Lang))を求めた。その結果
を表1に合わせて示す。吸着等温線から求めた比表面積
は不融化温度255℃ではやはり1m2 /g以下であ
り、この値は繊維の外径と長さから求めた外表面積とほ
ぼ同値であり、最適不融化条件で不融化し、1,000
℃で炭化した場合には、窒素が吸着するような微細孔は
殆ど存在しないことが再確認された。また、不融化温度
355℃のものでは688m2 /gという大きな値が確
認された。
【0056】これらのLangmuir法による比表面積の値は
MONOSORBを用いたBET法とは異なる値となっ
たが、微細な気孔の比表面積測定の場合、測定法の違
い、比表面積の計算を行う際に使用する理論計算式の違
いが得られる値に大きく影響することは周知のことであ
る。本発明の効果を検証するにはいずれの方法でも良い
と判断されたが、実施例では主にBET法により測定
し、部分的にLangmuir法により測定した。
【0057】なお、上記のような炭化処理をする前の不
融化物の比表面積は、いずれの不融化条件を採用したと
きも0.2〜0.4m2 /g程度であり、これは繊維径
と長さから計算される外表面積とほぼ同等の値であっ
た。従って不融化時点では気孔はまだ生成していなかっ
たと考えられる。
【0058】また、不融化温度を355℃として得た炭
化物の液体窒素温度における窒素の吸着脱着等温線を図
1に示す。同図から、相対圧(P/Ps、P:測定温度
における窒素の吸着平衡圧、Ps:測定温度における窒
素の飽和蒸気圧)が非常に小さい領域で殆どの吸着が起
こっていること、すなわち同炭化物には分布のシャープ
な非常に微細な気孔が存在することがわかる。なお、図
1では吸着時の等温線(丸)と脱着時の等温線(点)に
若干のヒステリシスが認められる。このようなヒステリ
シスは非常に微細な気孔の測定においてしばしば観測さ
れるものであり、その原因については明確にされていな
いが、このことが均一微細孔の生成を否定するものでは
ない。
【0059】また、このデータからHK法(Horvath-Ka
wazoe 法)に従って細孔分布を計算したところ、この炭
素材料の気孔は中心細孔径が約6Åであり、シャープな
分布をした均一微細孔であることが確認された。
【0060】
【表1】
【0061】実施例2 実施例1で得た径20μの低軟化点ピッチ繊維から、抽
出溶剤としてn−ペンタノールを用いる以外は実施例1
と同じ方法で抽出、メタノール洗浄、乾燥して高軟化点
ピッチの繊維状粉末を得た。このものの収率は低軟化点
ピッチ繊維に対して51%であり、その性状は温度勾配
法軟化点232℃、キシレン不溶分0%、キノリン不溶
分0%、300℃までの加熱減量1.8%、元素分析値
はC92.8%、H7.1%、S0.02%、H/C原
子比0.91であった。
【0062】ついで、この高軟化点ピッチの繊維状粉末
を空気中、昇温速度0.5℃/minで加熱し、255
℃、305℃、355℃、395℃の所定温度で1時間
保持することにより不融化処理し、さらにこの不融化物
を窒素気流中、昇温速度10℃/min で加熱し、1,0
00℃で1時間保持することにより炭化した。不融化物
の収率と性状ならびに炭化物の収率、外観および性状を
表2に示す。得られた炭化物の比表面積については実施
例1と同様にBET法比表面積(SA(BET))およびL
angmuir法比表面積(SA(Lang))を測定した。
【0063】炭化温度1,000℃の場合、不融化温度
255℃のものでは比表面積は小さく、窒素が吸着する
ような微細孔は存在しないが、不融化温度を305℃、
355℃、395℃と高くして過不融化状態としたもの
では大きな比表面積が観測され、微細な気孔が生成して
いることがわかる。
【0064】なお、不融化温度305℃および355℃
の吸着等温線は図1と同様、相対圧(P/Ps)の低い
ところで殆どの吸着が起こっているものであり、また、
そのデータからHK法によって細孔分布を計算すると、
いずれも細孔径の中心が約6Åにあるシャープな分布を
した気孔であることが確認された。
【0065】
【表2】
【0066】実施例3 実施例2で不融化温度355℃で処理した過不融化物
を、窒素気流中、昇温速度10℃/min で加熱し、40
0〜1,500℃の所定温度で1時間保持することによ
り炭化した。得られた炭化物の元素分析値、比表面積
(SA(BET))および比表面積(SA(Lang))を表
3に示す。
【0067】同表の結果から、炭化温度が500℃を越
えた時点から急激に気孔が生成し、1,200℃以上で
は急激に気孔が消滅することがわかる。
【0068】また、実施例1と同様に測定した吸着等温
線の結果から、炭化温度600〜1,100℃の炭化物
はいずれも約6Åに細孔径の中心があるシャープな細孔
分布をもつ多孔質炭素材料であることが確認された。
【0069】
【表3】
【0070】実施例4 実施例2で不融化温度255℃で処理して得た不融化物
を、実施例2と同様にして窒素気流中、昇温速度10℃
/min で加熱し、500〜1,000℃の所定温度で1
時間保持することにより炭化した。この不融化物の炭化
処理では、炭化炉から出てくる排ガスが300℃付近か
ら白く濁ってくると同時に、炉心管出口部分の内部に茶
色から黒褐色のタール状物が付着してくることが観測さ
れた。
【0071】また、得られた炭化物の繊維状高軟化点ピ
ッチに対する収率および比表面積(SA(BET))を表
4に示す。同表の結果から、600〜800℃という狭
い炭化温度範囲では比較的大きな比表面積が観測される
が、それ以上の温度では比表面積が急激に小さくなって
いることがわかる。
【0072】
【表4】
【0073】実施例5 実施例1と同じナフサ分解副生油を蒸留して温度勾配法
軟化点49℃の低軟化点ピッチを得た。この低軟化点ピ
ッチ70重量部にキシレン30重量部を混合して溶解
し、低軟化点ピッチの溶液を調製した。
【0074】次に、非イオン系界面活性剤(ポリオキシ
エチレンノニルフェニルエーテル、花王製エマルゲン9
85)2%を含む水を分散媒とし、膜乳化試験装置(伊
勢化学製)を用い、細孔径4μのミクロポーラスグラス
を分散メディアとして、上記低軟化点ピッチの溶液をこ
の分散メディアを通して分散媒中に押し出すことによ
り、低軟化点ピッチ溶液が水中に11容量%分散したい
わゆるO/W型エマルションを調製した。
【0075】次に、このエマルションを10倍量のSB
Aの中に撹拌しながら徐々に滴下して、低軟化点ピッチ
中の可溶成分と溶解のために用いたキシレンを抽出し
た。この混合液を遠心分離して固形分を得、メタノール
で洗浄後、乾燥した。さらに、この固形分を20倍量の
n−ペンタノール中に入れて撹拌し、濾過後にメタノー
ルで洗浄して、乾燥し、高軟化点ピッチの球状粒子を得
た。このものの低軟化点ピッチに対する収率は48%で
あった。
【0076】得られた高軟化点ピッチは平均粒子径16
μであり、その性状は温度勾配法軟化点243℃、キシ
レン不溶分0%、キノリン不溶分0%、300℃までの
加熱減量1.7%、元素分析値はC92.7%、H7.
1%、S0.02%、H/C原子比0.92であった。
【0077】この粒子を、昇温速度0.5℃/min 、3
55℃で1時間不融化し、さらに昇温速度10℃/min
、1,000℃で1時間炭化して球状炭素粒子を得
た。不融化、炭化時の収率はn−ペンタノール抽出後の
高軟化点ピッチ粒子を基準にしてそれぞれ72%、40
%であり、得られた炭素粒子のBET法比表面積(SA
(BET))は375m2 /gであった。
【0078】比較例1 H/C原子比0.70のコールタールを原料として熱処
理、溶剤分別、水素化で構成された公知の方法(特公平
4−8474号公報)に従って製造された石炭系メソフ
ェーズピッチ(メソフェーズ量99%(面積分率)、温
度勾配法軟化点265℃、キシレン不溶分96%、キノ
リン不溶分0.6%、300℃までの加熱減量0.03
%、元素分析値C93.8%、H4.3%、H/C原子
比0.55)をヘンシェルミキサーで粉砕し、さらに3
25メッシュの篩(JIS)で篩分けて平均粒子径21
μの高軟化点ピッチ粉末を得た。
【0079】このものを、空気中、昇温速度0.5℃/
min で加熱し320〜360℃の所定温度で5時間保持
することにより不融化処理し、さらに窒素雰囲中、1,
100℃で1時間保持し炭化した。不融化、炭化物の収
率と性状を表5に示す。
【0080】同表より、ここで用いた石炭系メソフェー
ズピッチのようにH/C原子比が0.8より小さいもの
では、本発明の方法に比べ気孔の生成量が極わずかであ
ることがわかる。
【0081】
【表5】
【0082】比較例2 比較例1と同じコールタールを原料として熱処理、溶剤
分別、水素化で構成された公知の方法(特公平4−84
75号公報)に従って製造された石炭系等方性ピッチ
(メソフェーズ量0%(面積分率)、温度勾配法軟化点
215℃、キシレン不溶分59%、キノリン不溶分0
%、300℃までの加熱減量0.02%、元素分析値C
93.3%、H4.5%、H/C原子比0.58)をヘ
ンシェルミキサーで粉砕し、さらに325メッシュの篩
で篩分けて平均粒子径23μの高軟化点ピッチ粉末を得
た。
【0083】このものを比較例1と同様にして不融化、
炭化した。不融化物、炭化物の収率と性状を表6に示
す。
【0084】この等方性ピッチを用いた場合には、比較
例1のメソフェーズピッチを用いた場合よりも多くの気
孔が認められたが、本発明の方法に比較すれば比表面積
がはるかに小さいことがわかる。
【0085】なお、参考のために実施例1、比較例1、
比較例2で得た炭素材料について、不融化処理前の高軟
化点ピッチを基準にした炭化物の収率とMONOSOR
Bを用いて測定したBET法比表面積(SA(BET))
との関係を図2に示した。この図から、比較例に示した
ごとき熱処理法によって得たピッチの場合、炭化物収率
が著しく少なくなっても大きな比表面積の炭素材料を得
ることができないことがわかり、また、実施例、比較例
のデータから同じ不融化および炭化操作を行なっても用
いる原料によって気孔生成の状況が大きく変わること、
および本発明の方法によって効果的、効率的に均一微細
孔を持つ炭素材料が得られることが明らかである。
【0086】
【表6】
【0087】比較例3 ナフタレンを原料とし、超強酸を触媒として製造された
市販のメソフェーズピッチ(メソフェーズ量100%
(面積分率)、温度勾配法軟化点240℃、キシレン不
溶分88%、キノリン不溶分43%、300℃までの加
熱減量0.2%、元素分析値C94.5%、H5.3
%、H/C原子比0.67)をヘンシェルミキサーで粉
砕し、さらに325メッシュの篩で篩分けて平均粒子径
22μの高軟化点ピッチ粉末を得た。
【0088】これを比較例1と同様に、空気中、昇温速
度0.5℃/min で320℃まで加熱し、この温度で5
時間保持することにより不融化処理した。得られた不融
化物の収率は103%であり、元素分析値はC74.5
%、H2.3%、O23.2%であった。なお、このピ
ッチから炭素繊維を製造する際に強度を最も発現させる
不融化条件は昇温速度1℃/min 、温度240〜250
℃、保持時間30分程度であるので、採用した処理条件
は明らかに過不融化である。
【0089】次に、この過不融化物を比較例1と同様に
して1,100℃で炭化したところ、得られた炭化物
は、メソフェーズピッチに対する収率が67%、BET
法比表面積(SA(BET))は13m2 /gであった。
【0090】
【発明の効果】本発明の方法によれば、重質油またはそ
れから得られる低軟化点ピッチ等の安価な出発原料か
ら、吸着分離や触媒として有用な均一微細孔を持つ多孔
質炭素材料を工業的に簡便で効率良く、しかも安定して
得ることができる。また、本発明の製造方法では、まず
出発原料の重質油等を賦形した後、溶剤抽出により高軟
化点化を図るという方法を採用するため、従来高軟化点
ピッチを製造する際に問題となっていた経済的、技術的
問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において、不融化温度を355℃とし
た場合の多孔質炭素材料の液体窒素温度における窒素の
吸着脱着等温線である。
【図2】実施例1、比較例1および比較例2で得た炭素
材料の、高軟化点ピッチを基準とする炭化物の収率と、
BET法比表面積との関係を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C04B 38/06 C04B 38/06 G C10C 3/08 C10C 3/08

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】(出発原料)H/C原子比が0.8〜1.
    2の範囲にあり、BTX溶剤不溶分を実質的に含まない
    重質油または該重質油から軽質成分を留去して得られる
    温度勾配法軟化点が150℃以下であって、BTX溶剤
    不溶分を実質的に含まない低軟化点ピッチを出発原料と
    し、 (第1工程)該出発原料を径100μ以下の粒子状、粉
    末状または繊維状に賦形して賦形体とする第1工程と、 (第2工程)この賦形体をその少なくとも10重量%は
    不溶分として残存せしめ得る有機溶剤と接触させること
    により軽質成分を抽出し、温度勾配法軟化点が少なくと
    も180℃以上で、かつ300℃までの加熱減量が5重
    量%以下であり、BTX溶剤不溶分を実質的に含まない
    賦形された高軟化点ピッチとする第2工程と、 (第3工程)この賦形された高軟化点ピッチを、酸素を
    含む雰囲気で不融化して不融化物とする第3工程と、 (第4工程)この不融化物を不活性雰囲気中で焼成、炭
    化する第4工程からなることを特徴とする均一微細孔を
    持つ多孔質炭素材料の製造方法。
  2. 【請求項2】 第3工程の不融化条件が、該不融化物中
    の酸素濃度が飽和する条件よりも厳しい条件であり、か
    つ、第4工程の炭化温度が500〜1,100℃の温度
    範囲である請求項1に記載の均一微細孔を持つ多孔質炭
    素材料の製造方法。
  3. 【請求項3】 出発原料の重質油がナフサもしくはガス
    オイルを熱分解してオレフィン類を製造する際に副生す
    る重質油、または石油類を流動接触分解して改質する際
    に副生する重質油から選ばれた少なくとも1種類の石油
    系分解重質油である請求項1または2に記載の均一微細
    孔を持つ多孔質炭素材料の製造方法。
  4. 【請求項4】 第1工程の賦形する方法が、出発原料の
    粉砕、溶融紡糸またはエマルション化である請求項1な
    いし3のいずれかに記載の均一微細孔を持つ多孔質炭素
    材料の製造方法。
  5. 【請求項5】 第2工程の有機溶剤が、パラフィン系炭
    化水素類、アルコール類、ケトン類、あるいはこれらを
    混合してなる混合溶剤である請求項1ないし4のいずれ
    かに記載の均一微細孔を持つ多孔質炭素材料の製造方
    法。
  6. 【請求項6】 該有機溶剤が、n−ペンタン、シクロペ
    ンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサ
    ン、n−ヘプタン、イソオクタン、メタノール、エタノ
    ール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタ
    ノール、セカンダリーブタノール、n−ペンタノール、
    n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、アセトン、メ
    チルエチルケトン、ジエチルケトンおよびメチルイソブ
    チルケトンから選ばれる少なくとも1種である請求項5
    に記載の均一微細孔を持つ多孔質炭素材料の製造方法。
  7. 【請求項7】 第1工程の賦形する方法が、エマルショ
    ン化であり、第2工程の有機溶剤が、アルコール類、ケ
    トン類、あるいはこれらを混合してなる混合溶剤である
    請求項1ないし3のいずれかに記載の均一微細孔を持つ
    多孔質炭素材料の製造方法。
  8. 【請求項8】 該有機溶剤が、メタノール、エタノー
    ル、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノ
    ール、セカンダリーブタノール、n−ペンタノール、n
    −ヘキサノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチ
    ルエチルケトン、ジエチルケトンおよびメチルイソブチ
    ルケトンから選ばれる少なくとも1種である請求項7に
    記載の均一微細孔を持つ多孔質炭素材料の製造方法。
  9. 【請求項9】 均一微細孔を持つ炭素材料が、窒素吸着
    を用いたBET法による比表面積が300m2 /g以上
    であり、かつ中心細孔径が10Å以下である請求項1な
    いし8のいずれかに記載の均一微細孔を持つ多孔質炭素
    材料の製造方法。
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