JPH06184820A - 易染性ポリエステル繊維及びその製造方法 - Google Patents

易染性ポリエステル繊維及びその製造方法

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JPH06184820A
JPH06184820A JP32797292A JP32797292A JPH06184820A JP H06184820 A JPH06184820 A JP H06184820A JP 32797292 A JP32797292 A JP 32797292A JP 32797292 A JP32797292 A JP 32797292A JP H06184820 A JPH06184820 A JP H06184820A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 カチオン染料、分散染料の両方に対して、マ
イルドな染色条件下で優れた染色性を示し、ペーパーラ
イク感のないバルキーでソフトな風合の織編物とするこ
とのできる易染性ポリエステル繊維及びその製造方法を
提供する。 【構成】 0.8〜3.3モル%のスルホン酸金属塩基
を共重合したポリエチレンテレフタレートからなり、破
断伸度が70%以下、非晶部の配向度(△Na)が0.
05以下、熱応力(Fmax)が0.15g/de以上
である。この易染性ポリエステル繊維は、スルホン酸金
属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートを、断面
積が連続的に拡大する吐出孔から溶融押し出し、紡糸ド
ラフト10,000以上、紡糸速度4,000m/分以
下で引き取り、次いで、延伸、熱処理することにより製
造する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、染色性が大幅に改善さ
れたポリエステル繊維及びその製造方法に関する。更に
詳しくは、分散染料だけでなく、カチオン染料にも優れ
た染色性を示し、また風合面でも優れた織編物とするこ
とができる易染性ポリエステル繊維及びその新規な製造
方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、ポリエチレンテレフタレート繊
維は、その緻密な構造のために、染色性が劣り、その染
色に際しては、例えば分散染料を使用する場合は、13
0℃の高温高圧の条件下、或いは有機溶剤のキャリアを
使用して染色する。ポリエチレンテレフタレート繊維同
志の交編、交織においては、前述の条件でも特に問題は
ないが、ウール、アクリル繊維、絹等との交編、交織に
おいては、前述の条件ではこれらの素材を劣化させてし
まうため、よりマイルドな条件、例えば100℃、常圧
でも優れた染色性を示すポリエチレンテレフタレート繊
維が必要となってくる。特に、ファッションの多様化・
個性化が進んだ昨今、各種繊維との交編、交織が多くな
り、例えば100℃、常圧のようなマイルドな条件下で
も優れた染色性を示すポリエチレンテレフタレート繊維
の出現が望まれている。
【0003】上記の問題を解決するために、近年急速に
発展した7,000m/分以上の超高速紡糸法により得
られる特異な微細構造を利用した試みが、種々提案され
ている(例えば、米国特許第4,195,051号公
報、米国特許第4,134,882号公報、特願昭57
―89753号公報など)。これらの方法によると、確
かにその染色性は向上するが、その反面、繊維の結晶部
における結晶が大きく発達した安定な構造になるため
に、収縮し難くなり、また、その熱応力も通常の延伸糸
に比べてかなり低いため、得られる織編物は幅が入り難
く、ペーパーライクな風合になる。更に、7,000m
/分以上の超高速紡糸のため、糸切れの問題から、使用
出来るポリエチレンテレフタレートが限定され、より鮮
明な染色性を示すカチオン染料に可染性のポリエステ
ル、例えばスルホン酸金属塩基を含むポリエチレンテレ
フタレートでは、溶融粘度が高すぎて、安定な紡糸が行
なえないという問題があった。
【0004】鮮明な染色性を示すカチオン可染性ポリエ
チレンテレフタレート繊維としては、スルホン酸金属塩
基を共重合したポリエチレンテレフタレートを使用する
のが一般的である(例えば、特公昭34―10497号
公報)が、分散染料及びカチオン染料の両方に対して、
常圧で、100℃のマイルドな条件下でも、優れた染色
性を示すためには、スルホン酸金属塩基をポリエステル
酸成分に対して少なくとも5モル%以上含む必要が有
る。
【0005】この場合、スルホン酸金属塩基の増粘作用
のために、高分子量のポリエチレンテレフタレート繊維
を得ることが出来ないので、ポリエチレンテレフタレー
ト繊維本来の力学特性、熱的特性を大きく損ねるだけで
なく、その繊維の製造過程においても糸切れが多発し、
更に、得られた繊維は毛羽が極めて多く製織、製編性が
極めて悪いと言う問題が有った。
【0006】スルホン酸金属塩基の含有量を少なくし
て、且つ、上記の問題点を改善しようとする試みとして
は、高分子量のポリオキシアルキレングリコールを共重
合する方法(特開昭57―63325号公報)、イソフ
タル酸を共重合する方法(特開昭58―126376号
公報等)などが提案されているが、前者は耐光性が悪
く、後者は染色性が不十分であると言う問題が有った。
【0007】更に、特開平4―194020号公報等で
は、上記問題点を改善しようとする試みが行なわれてい
る。しかしながら、これらの方法は、スルホン酸金属塩
基の含有量を少なくして、ある特殊な成分を更に共重合
させるものであるから、生産コスト、重合速度、ポリマ
ーの熱安定性等の面で、十分に満足できるものではなか
った。また、従来のスルホン酸金属塩基含有ポリエステ
ルから成る繊維は、共重合繊維特有の、熱応力が低いと
いう特徴があり、そのため、織編物にした場合、幅入れ
が十分に行なえず、風合がペーパーライクになってしま
うという問題もあった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明が
解決しようとする課題は次の通りである。 (1)ウール、アクリル繊維、絹等との交編、交織にお
いても、これらの素材を損なうことのないマイルドな染
色条件下で、優れた染色性を示すポリエステル繊維を提
供すること (2)分散染料だけでなく、カチオン染料にも、マイル
ドな染色条件下で優れた染色性を示すポリエステル繊維
を提供すること (3)織編物にした場合、十分な幅入れを行なうことが
でき、ペーパーライク感のないバルキーでソフトな風合
を与えることのできるポリエステル繊維を提供すること (4)上記のようなポリエステル繊維を、特殊な成分を
共重合、ブレンドすることなく、しかも7,000m/
分以上の超高速紡糸も必要とせず、比較的簡単な生産設
備を使用し、低コストで、しかも安定に生産する方法を
提供すること
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、(1)
0.8〜3.3モル%のスルホン酸金属塩基を共重合し
たポリエチレンテレフタレートからなり、破断伸度が7
0%以下、非晶部の配向度(ΔNa)が0.05以下、
熱応力(Fmax)が0.15g/de以上、であるこ
とを特徴とする易染性ポリエステル繊維が提供される。
【0010】かかる易染性ポリエステル繊維は、(2)
0.8〜3.3モル%のスルホン酸金属塩基を共重合し
たポリエチレンテレフタレートを溶融し、断面積が連続
的に拡大する吐出孔から押し出し、紡糸ドラフト1,0
00以上、紡糸速度4,000m/分以下で引き取り、
次いで、延伸、熱処理することを特徴とする方法により
製造される。
【0011】本発明で使用するポリエチレンテレフタレ
ートは、エチレンテレフタレートを繰り返し単位とする
ポリマーであり、かつ0.8〜3.3モル%のスルホン
酸金属塩基を共重合することが必要である。スルホン酸
金属塩基を共重合することにより、分散染料だけでな
く、カチオン染料にも染色可能となり、その含有量は
0.8〜3.3モル%、好ましくは1.2〜3.0モル
%、更に好ましくは、1.5〜2.8モル%である。ス
ルホン酸金属塩基の含有量が、0.8モル%未満の場合
は、100℃、常圧のマイルドな染色条件下では、分散
染料及びカチオン染料に対する染着性が共に低く、好ま
しくない。一方、スルホン酸金属塩基の含有量が、3.
3モル%を越える場合は、染色性は良好であるが、ポリ
マーとしての溶融粘度が高くなり過ぎて、紡糸性が大き
く低下し、更に、高溶融粘度のためにポリマーの重合度
を高くすることができず、得られる繊維の力学特性、熱
特性が劣るものとなり、毛羽が多く、品位も大きく低下
するので好ましくない。
【0012】また、本発明で使用するポリマーの固有粘
度[η]cは、0.60以下、好ましくは0.55以下
であることが望ましい。固有粘度[η]cが、0.60
を越えると、スルホン酸金属塩基の増粘効果により、紡
糸性が大きく低下する。
【0013】なお、本発明におけるスルホン酸金属塩基
は、特に限定されるものではないが、例えば、スルホン
酸のナトリウム塩、カリウム塩などの基が、経済性(コ
スト)の観点から特に好ましい。
【0014】具体的には、例えば、5―ナトリウムスル
ホイソフタル酸、5―カリウムスルホイソフタル酸など
を、ポリエチレンテレフタレートに共重合させる。勿
論、難燃剤、艶消剤、着色剤等の添加剤、或は他のポリ
マーなどを少量含むことはさしつかえない。
【0015】次に、本発明のポリエステル繊維は、破断
伸度が70%以下、好ましくは65%以下と低く、且
つ、その非晶部の配向度(ΔNa)が、0.05以下と
極めて低く、更に、その熱応力(Fmax)が、0.1
5g/de以上であるという独特の繊維構造を有してい
る。
【0016】破断伸度が70%を越えると、強度、モジ
ュラスが低下して製織、製編時に糸が伸び、ひけや染斑
が発生するので好ましくない。また、非晶部の配向度
(ΔNa)が0.05を越えると、100℃、常圧での
染色性が十分でなくなるので好ましくない。更に、熱応
力が0.15g/de未満の場合は、織編物の風合がペ
ーパーライクになり不適当である。
【0017】破断伸度が70%以下と低くなった場合、
従来のポリエステル繊維では、通常、繊維の配向が高ま
り、結晶部、非晶部共に大きな配向度を示し、例えば、
その非晶部の配向度(ΔNa)は0.08以上となる。
これに対し、本発明のポリエステル繊維は、「伸度が低
いにもかかわらず、非晶部の配向度(△Na)が小さ
い」と言う、従来のポリエステル繊維の特性とは全く相
反する特徴を有している。更に、驚くべきことに、本発
明のポリエステル繊維は、その熱応力(Fmax)が、
0.15g/de以上と高い。熱応力は、非晶部の分子
鎖の熱的特性を反映したものであり、非晶部の配向度
(ΔNa)が小さい場合は、その熱応力も小さくなるの
が普通である。例えば、非晶部の配向度(ΔNa)が
0.05以下と低い場合は、熱応力は0.10g/de
以下になる。ところが、本発明のポリエステル繊維は
「非晶部の配向度(ΔNa)が小さいにもかかわらず、
その熱応力が高い」と言う、特異な性質をも併せ持って
いるのである。
【0018】なお、6,000m/分以上の超高速紡糸
によって得られたポリエステル繊維は、伸度が小さくな
り、延伸を行なわなくても使用出来るほど力学的特性は
改善され、かつ非晶部の配向度(ΔNa)も小さいの
で、染色性はそこそこのレベルとなるが、熱応力の値が
小さく、織編物としたときの風合は、ペーパーライクな
ものとなる。熱応力の値を上げるために、紡糸速度をさ
らに上げて、例えば9,000m/分にしても、その熱
応力は0.13g/de程度にしかならず、また、紡糸
速度を9,000m/分にすると、その結晶サイズが極
めて発達した構造となるため、織編物での幅入れが困難
となり、風合は改善されない。
【0019】本発明のポリエステル繊維は、前述のよう
に熱応力が0.15g/de以上と高く、且つその結晶
サイズも低速紡糸によって得られたものと大差がない程
度に小さいため、通常の熱収縮率(5〜18%)を示す
ので、十分な幅入れが可能となり、優れた風合の織編物
を得ることが出来る。
【0020】また、100℃、常圧のマイルドな条件下
で優れた染色性を示すためには、100℃、常圧での染
着率が少なくとも70%以上であることが必要である
が、本発明のポリエステル繊維は73%以上の染着率を
示す。本発明のポリエステル繊維の染色に使用出来る染
料は、特に限定されるものではなく、通常に市販されて
いるポリエステル繊維用の分散染料、カチオン染料を使
用することが出来る。
【0021】このような特性を有する本発明の易染性ポ
リエステル繊維は、0.8〜3.3モル%のスルホン酸
金属塩基を共重合したポリエチレンテレフタレートを溶
融し、断面積が連続的に拡大する形状を有する吐出孔か
ら押し出し、紡糸ドラフト10,000以上、紡糸速度
4,000m/分以下で引き取り、次いで、延伸、熱処
理することにより得ることが出来る。なお、紡糸ドラフ
トとは、紡糸速度(V1)と溶融ポリマーの吐出孔から
の押し出し速度(V2)の比(V1/V2)で表される
値である。
【0022】この場合、前述のように、ポリエチレンテ
レフタレートポリマーの固有粘度[η]cは、0.60
以下、好ましくは0.55以下であることが望ましい。
【0023】また、紡糸ドラフトは10,000以上、
好ましくは30,000以上、更に好ましくは50,0
00以上、特に好ましくは100,000以上紡糸速度
は4,000m/分以下であることが必要である。
【0024】紡糸ドラフトが10,000未満では、延
伸後のポリエステル繊維の非晶部の配向度(ΔNa)が
0.05よりも大きくなり、100℃、常圧での染色性
が低下する。また、紡糸速度が4,000m/分を越え
ると、紡糸時の断糸が頻発すると共に、熱応力の値(F
max)が0.15g/de未満となり、織編物の風合
がペーパーライクになってしまう。
【0025】吐出孔は、図1及び図2に示すように、断
面積が連続的に拡大しているものが用いられる。図1は
断面積の拡大が1段である例を、また図2は、断面積の
拡大が2段である例を示すものであり、Aは、断面積が
連続的に拡大を開始する位置、Bは、拡大を終了する位
置、C及びC′はテーパー部を示す。
【0026】具体的には、Aの位置での吐出孔の直径を
0.15〜0.75mmと絞り、10〜30°の緩やか
な角度で拡大し、Bの位置では、直径を3.0〜15.
0mmとすると、好ましい結果が得られる。
【0027】このようにして紡糸した後、延伸、熱処理
して、破断伸度が70%以下のポリエステル繊維を得
る。この延伸、熱処理条件は、紡出糸条の分子配向に応
じて、得られる繊維の破断伸度が70%以下、非晶部の
配向度(ΔNa)が0.05以下、熱応力(Fmax)
が0.15g/de以上となるように設定する。例え
ば、延伸倍率が高すぎると、糸切れが多くなるだけでな
く、非晶部の配向度(ΔNa)が高くなり、染色性が大
きく低下してしまう。また、延伸倍率が低すぎると、破
断伸度が高くなり、強度、モジュラスが低下して、製編
織性が悪くなり、更に熱応力(Fmax)も低くなっ
て、良好な風合の織編物が得られない。具体的には、延
伸倍率は1.3〜1.7倍程度が好ましい。
【0028】また、延伸、熱処理方式は、特に限定され
るものではなく、一旦巻き取ってから延伸、熱処理する
方法(別延法)でも、一旦巻き取ることなく、紡糸後連
続して延伸、熱処理する方法(直延法)でもよい。
【0029】かくして得られた易染性ポリエステル繊維
は、フィラメント糸として、あるいはステープルファイ
バーとして、常法により製編織し、染色、加工して、外
衣用途をはじめ、各種用途に用いられる。
【0030】
【作用】本発明の易染性ポリエステル繊維は、スルホン
酸金属塩基を有しているため、カチオン染料に対する染
色性が良好であり、しかも、非晶部の配向度(ΔNa)
が低いため、分散染料に対する染色性が良好であり、カ
チオン染料に対する染色性も1段と向上し、100℃、
常圧というマイルドな条件下でも優れた染色性を示す。
【0031】更に、熱応力(Fmax)が大きいため、
織編物の十分な幅入れが可能となり、バルキーでソフト
な優れた風合が得られる。
【0032】また、伸度を70%以下としているため、
製織、製編時に糸が伸びてひけ、染斑が発生したり、糸
切れが生じたりするようなこともない。
【0033】一方、紡糸ドラフトが、紡糸された繊維の
物性に影響を及ぼすことは公知であるが、吐出孔からの
ポリマー流の状態を大きく変えることについての報告は
ない。
【0034】本発明者等の検討結果によると、紡糸ドラ
フトが10,000以上になった場合、その吐出状態が
ドラスチックに変わることがわかった。即ち、紡糸ドラ
フトが10,000以上になると、それまで見られてい
た溶融ポリマーの吐出孔下での膨らみ(ベーラス効果)
が全く影をひそめ、吐出孔からの溶融ポリマーが、引き
抜かれるような急激な伸長細化が起こる。特に、その吐
出孔を、断面積が連続的に拡大するように形成するなら
ば、その吐出をより安定なものにする事が出来るため、
断糸の起こらない安定な紡糸が可能となる。
【0035】吐出孔からの溶融ポリマーが、引き抜かれ
るような急激な伸長細化を起こす場合は、「分子量はそ
れほど大きくないが、溶融粘度がそこそこ大きい」ポリ
マーを使用するのが好ましい。即ち、吐出孔からの溶融
ポリマーを引き抜くように急激に伸長細化させ、ポリマ
ーを配向させるためには、分子量が大きすぎると分子鎖
の絡みが大きすぎて配向できず、ほどほどの絡みを有す
る分子量が必要で有る。ただ、分子量が小さすぎると、
得られる繊維の力学的物性が低下するだけでなく、溶融
粘度も小さくなりすぎるため、十分な引き抜き効果が得
られない。以上の観点から、ある程度の分子量のポリエ
ステルに、増粘効果のあるスルホン酸金属塩基を特定量
含有させることが、最も効果的である。
【0036】更に、その変形が、吐出孔から吐出される
溶融ポリマーが引き抜かれるような急激な伸長細化であ
るため、得られる繊維の分子鎖が極めて高度に配向され
るものと考えられる。例えば、織編物の幅入れに関係
し、優れた風合に影響のある熱応力の値(Fmax)
が、極めて大きい値を示す。
【0037】熱応力の値(Fmax)を大きくするため
には、通常の低速紡糸においては、繊維の分子鎖の配向
が悪いので、結果的に繊維の破断伸度がかなり小さく成
るまで延伸しなければならず、この場合、糸切れと言う
生産面での問題が生ずるだけでなく、非晶部の配向度
(ΔNa)が大きくなり、染色性が大きく低下してしま
う。これに対して、本発明の場合は、繊維は紡糸段階
で、分子鎖の配向がかなり進んでいるため、その未延伸
糸の破断伸度は極めて小さくなり、延伸して目的とする
破断伸度にするためには、僅かな延伸ですむ。その結
果、得られた繊維の非晶部の配向度(ΔNa)は極めて
小さく、しかも、繊維の分子鎖が高度に配向しているの
で、その熱応力の値(Fmax)が大きく成るのであ
る。
【0038】以下、実施例により、本発明を具体的に説
明する。尚、実施例における特性値の測定方法は、次の
通りである。
【0039】(1)極限粘度[η]c ポリマーをo―クロロフェノールに溶解し、35℃で測
定した。
【0040】(2)強度(g/de)及び伸度(%) 東洋測器社製テンシロン(UTM―III )を使用して、
常温でマルチフィラメントの応力―伸度曲線を求め、そ
の最大応力(g)を繊度で徐した値を強度(g/d
e)、最大応力での伸びを伸度(%)とした。
【0041】(3)沸水収縮率(BWS)(%) 繊維を沸騰水中で無荷重で30分間処理し、処理前後の
繊維の長さの変化から、以下の式で求めた。 BWS(%)=[(L0−L1)/L0]×100 但し、L0:処理前の長さ L1:処理後の長さ
【0042】(4)比重 n―ヘプタン/四塩化炭素系密度勾配管により、25℃
で測定した。
【0043】(5)熱応力(Fmax)(g/de) カネボウエンジニアリング社製の熱応力計を使用し、昇
温速度300℃/120秒の条件で測定し、その最大応
力(g)を求め、以下の式から算出した。 熱応力(Fmax)(g/de)=最大応力(g)/繊
度(de)
【0044】(6)非晶部の配向(ΔNa) 以下の式から求めた。 ΔNa=ΔN−(XcfcΔNc)/(1−Xc) 但し、ΔN:偏光顕微鏡を使用して、ベレックコンペン
セーター法で求めた繊維の複屈折 ΔNc:結晶の固有複屈折(=0.212) Xc:比重法で求められる結晶化度で、次式により求め
られる。
【0045】Xc=(0.7491−1/ρ)/0.0
6178 尚、ρは繊維比重を示す。3 fc:結晶配向関数で、広角X線回折で決められる平均
配向角θから次の如く求められる。 fc=(180−θ)/180 但し、θは[010]及び[100]回折アークの半価
幅から求める。
【0046】(7)結晶サイズ 広角X線散乱で得られた赤道線走査の強度分布曲線の半
価幅より、シェラーの式を用いて求めた。
【0047】(8)L* マクベスMS2020分光光度計を用いてL* を測定し
た。
【0048】(9)染着率 日立330自記分光光度計を用いて、染色前後の染色液
吸光度を測定して、次式で算出した。 染着率(%)=[(A−B)/A]×100 但し、A:染色前の染色液の吸光度 B:染色後の染色液の吸光度
【0049】(10)紡糸調子 5時間連続して紡糸し、断糸2回以下を紡糸調子良、断
糸2回以上を紡糸調子不良とした。
【0050】(11)風合 筒編み後、染色したサンプルについて、バルキー感とソ
フト感を触感で判定した。
【0051】
【実施例1】図1に示すように断面積が連続的に拡大す
る吐出孔(拡大開始位置の直径が0.20mm、18°
の角度で拡大、拡大終了位置の直径が10.00mm)
を16個有する紡糸口金を用い、極限粘度[η]cが
0.47で、5―ナトリウムスルホイソフタル酸を2.
6モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを30
0℃で溶融し、吐出量21.7g/分で押し出し、冷
却、固化後、油剤を付与し、速度2,000m/分、温
度100℃の第1ローラーに8回ターンさせ、続いて巻
き取ることなく、速度2,600m/分、温度150℃
の第2ローラーに8回ターンさせて連続的に延伸熱処理
し、2,600m/分で巻き取り、75de/16fi
lsのマルチフィラメントを得た。この時の紡糸ドラフ
トは、138,000と極めて高ドラフトであったが、
上記の断面積が連続的に拡大する吐出孔を用いたため、
その吐出は極めて安定なものであり(紡糸性:良好)、
また、その吐出状況は、あたかも溶融ポリマーを吐出孔
から一気に引き抜くが如く、ベーラス効果のない、急激
な伸長細化の様相を呈していた。得られた、マルチフィ
ラメント糸の特性を表1に記す。
【0052】
【表1】
【0053】得られた繊維は、比重が低く、繊維全体と
しては結晶性が低いが、その結晶サイズから、通常の延
伸糸程度には結晶が発達していた。更に、延伸熱処理糸
にもかかわらず、非結晶部の配向(ΔNa)は、あたか
も未延伸糸のそれのように低く、更に驚くべきことに、
その熱応力は、ほぼ通常の未延伸糸と変わらないもので
あった。
【0054】上記のマルチフィラメント糸を筒編みし、
精練後、180℃の乾熱で30秒間プリセットし、染色
を行った。 精練条件 (1)スコアロール400 0.5g/l (2)炭酸ナトリウム 0.5g/l (3)温度 70℃ 染色条件 (1)染料 Eastman Po
lyester Blue GLF (2)染料濃度 4%owf (3)Disper VG 0.5g/l (4)酢酸 0.3cc/l (5)浴比 1:100 (6)温度 沸騰 (7)圧力 常圧 (8)染色時間 60分
【0055】次いで、サンプルを水洗し、還元処理した
後、水洗し、脱水後、160℃で1分間セットして、染
色性及び風合評価用の試料とした。 還元条件 (1)ハイドロサルファイト 2g/l (4)温度 80℃ (2)NaOH 2g/l (5)時間 30分 (3)アミラジン 2g/l 染色性の評価結果を表2に示す。なお、その染色性のレ
ベルを比較するために、通常のポリエチレンテレフタレ
ートホモポリマーを常法により紡糸延伸し、130℃で
高圧染色した試料の値も、参考例として併せて示す。
【0056】
【表2】
【0057】上記試料は、100℃、常圧と言う極めて
マイルドな条件下での染色において、極めて優れた染色
性を示し、その染色性の程度は、従来の130℃染色と
遜色無いものであった。また、その風合は、幅入れが十
分に行なわれたバルキーなもので、さらに非晶部の配向
(ΔNa)が低いために、モジュラスが低く、ソフトで
あった。
【0058】分散染料での染色に続いて、以下の要領で
カチオン染料で染色を行った。 精練条件 (1)スコアロール400 0.5g/l (2)炭酸ナトリウム 0.5g/l (3)温度 70℃ 染色条件 (1)染料 ESTROL RED
NGSL (2)染料濃度 4%owf (3)酢酸 0.3cc/l (4)無水硫酸ナトリウム 3g/l (5)浴比 1:100 (6)温度 沸騰 (7)圧力 常圧 (8)染色時間 60分
【0059】次いで、サンプルを水洗して、下記条件で
ソーピング処理し、水洗後、脱水して、160℃で1分
間セットし、染色性及び風合評価用の試料とした。 ソーピング条件 (1)スコアロール 1g/l (2)温度 70℃ (3)時間 10分 得られた試料の染色結果は、L* が27.4、染着率が
85%であり、カチオン染料を用いても、100℃、常
圧と言うマイルドな条件下で、優れた染色性を示した。
また、その風合は、分散染料にて染色して得られた試料
と同じように、バルキーで、かつソフトであった。
【0060】以上のように、本発明の繊維は、分散染
料、カチオン染料のどちらに対しても、優れた染色性を
示し、更に、その風合も優れたものとなり、且つ、その
製造も容易であった。
【0061】
【比較例1】断面積が一定である吐出孔(直径0.04
mm、ランド長0.80mm)を16個有する紡糸口金
を用い、吐出量を30.0g/分、第2ローラーの速度
を3,600m/分とした以外は、実施例1と同じ要領
で紡糸し、75de/16filsのマルチフィラメン
ト糸を得た。この時の紡糸ドラフトは161であり、吐
出状況は、通常の所謂‘ベーラス効果’を示すものであ
った。得られたマルチフィラメント糸の特性を表3に示
す。
【0062】
【表3】
【0063】得られたマルチフィラメント糸は、非晶部
の配向度(ΔNa)が低くなっているが、それでも0.
05よりも大きな値を示し、熱応力は高くなかった。ま
た、比重、結晶サイズから、普通の延伸糸と変わらない
結晶性を示していた。このマルチフィラメント糸を筒編
みし、実施例1と同じ要領で、分散染料及びカチオン染
料で染色し、染色性及び風合を調べた。染色性の評価結
果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】5―ナトリウムスルホイソフタル酸が2.
6モル%共重合したポリエチレンテレフタレートである
ため、通常のポリエチレンテレフタレートよりは染色性
は良いものの、そのレベルは、どちらの染料においても
不十分であった。また、その風合は、ペーパーライクで
硬いものであった。
【0066】
【比較例2】断面積が一定である吐出孔(直径0.22
mm、ランド長0.60mm)を16個有する紡糸口金
を用い、極限粘度[η]cが0.64で共重合成分を含
まないポリエチレンテレフタレートホモポリマーを30
0℃で溶融し、吐出量62.5g/分で押し出し、冷
却、固化後、油剤を付与し、マルチフィラメント糸を収
束して空気抵抗を極力小さくなるようにした後、延伸、
熱処理操作を全く付与しないで、そのまま7,500m
/分の速度で巻き取り、75de/16filsのマル
チフィラメント糸を得た。なお、この時の紡糸ドラフト
は88であった。得られたマルチフィラメント糸の特性
は、表5に示す通りであった。
【0067】
【表5】
【0068】得られたマルチフィラメント糸は、極めて
結晶が発達した高結晶性マルチフィラメント糸であった
が、非晶部の配向度(ΔNa)は低く、その熱応力は小
さかった。このマルチフィラメント糸を筒編みし、実施
例1と同じ要領で分散染料で染色し、染色性と風合を調
べたところ、L* は25.8、染着率は87%で、10
0℃、常圧というマイルドな条件でも、優れた染色性を
示したが、筒編みの幅入れが小さく、ペーパーライクな
風合であった。また、5―ナトリウムスルホイソフタル
酸を共重合していないので、カチオン染料には全く染ま
らなかった。
【0069】
【比較例3】ポリマーを5―ナトリウムスルホイソフタ
ル酸を2.6モル%共重合したポリエチレンテレフタレ
ートに変えた以外は、比較例2と全く同じ条件で紡糸し
たが、糸切れが多発して、全く巻き取る事が出来なかっ
た。
【0070】
【実施例2〜4及び比較例4、5】実施例1において、
5―ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量等を表6
に示すように変更し、その他の条件は実施例1と同様に
して、75de/16filsのマルチフィラメント糸
を得た。
【0071】
【表6】
【0072】各マルチフィラメント糸の紡糸性及び得ら
れた各マルチフィラメント糸の特性を表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】これらのマルチフィラメント糸を筒編み
し、実施例1と同じ要領で分散染料で染色し、染色性と
風合の評価をした。その結果は、表8に示す通りであっ
た。
【0075】
【表8】
【0076】比較例4の場合は、共重合の量が少ないた
め、染色性が不十分であり、また、その風合も硬く、好
ましくなかった。比較例5の場合は、極めて優れた染色
性を示し、その風合もバルキーかつソフトで好ましかっ
たが、共重合の量が多いため、溶融粘度が高くなり過ぎ
て、紡糸性が極めて悪く、また、得られたマルチフィラ
メント糸は強度が低くて、しかも毛羽が多かった。
【0077】実施例2〜4の場合は、紡糸性、染色性共
に良好であり、その風合もバルキーかつソフトであっ
た。
【0078】
【比較例6】吐出量を20g/分、第2ローラーの速度
を2,400m/分とし、それ以外の条件は実施例1と
同じにして、75de/16filsのマルチフィラメ
ントを得た。このときの紡糸ドラフトは、150,00
0であった。得られたマルチフィラメント糸の特性は、
表9に示す通りであった。
【0079】
【表9】
【0080】このマルチフィラメント糸を筒編みし、染
色して、染色性と風合を評価しようと試みたが、破断伸
度が高すぎ、強度が低すぎて、筒編み時に糸切れが多発
し、十分な評価ができなかった。
【0081】
【発明の効果】本発明の易染性ポリエステル繊維は、カ
チオン染料、分散染料の両方に対して、マイルドな染色
条件下で優れた染色性を示す。また、ペーパーライク感
のない、バルキーでソフトな優れた風合の織編物とする
ことができる。
【0082】また、本発明の易染性ポリエステル繊維の
製造方法によれば、特殊な成分を共重合、ブレンドする
ことなく、しかも超高速紡糸も必要とせず、比較的簡単
な生産設備を使用し、低コストでしかも安定に、上記易
染性ポリエステル繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法で用いる吐出孔の一例を示す断面
図である。
【図2】本発明の方法で用いる吐出孔の他の例を示す断
面図である。
【符号の説明】
A 断面積が連続的に拡大を開始する位置 B 断面積が拡大を終了する位置 C、C′ テーパー部

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 0.8〜3.3モル%のスルホン酸金属
    塩基を共重合したポリエチレンテレフタレートからな
    り、破断伸度が70%以下、非晶部の配向度(ΔNa)
    が0.05以下、熱応力(Fmax)が0.15g/d
    e以上であることを特徴とする易染性ポリエステル繊
    維。
  2. 【請求項2】 0.8〜3.3モル%のスルホン酸金属
    塩基を共重合したポリエチレンテレフタレートを溶融
    し、断面積が連続的に拡大する吐出孔から押し出し、紡
    糸ドラフト10,000以上、紡糸速度4,000m/
    分以下で引き取り、次いで延伸、熱処理することを特徴
    とする易染性ポリエステル繊維の製造方法。
  3. 【請求項3】 ポリエチレンテレフタレートの固有粘度
    [η]cが0.60以下である請求項2記載の易染性ポ
    リエステル繊維の製造方法。
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