JPH06128699A - 熱間加工性と耐局部腐食性に優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 - Google Patents

熱間加工性と耐局部腐食性に優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法

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JPH06128699A
JPH06128699A JP28153292A JP28153292A JPH06128699A JP H06128699 A JPH06128699 A JP H06128699A JP 28153292 A JP28153292 A JP 28153292A JP 28153292 A JP28153292 A JP 28153292A JP H06128699 A JPH06128699 A JP H06128699A
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less
corrosion resistance
stainless steel
austenitic stainless
high alloy
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JP28153292A
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Inventor
Masayuki Abe
阿部  雅之
Akira Matsuhashi
亮 松橋
Tetsuo Takeshita
哲郎 竹下
Masanori Ueda
全紀 上田
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Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 ゴミ焼却炉洗煙設備の安全性及び長寿命化を
実現するための製造性及び耐食性に優れた設備材料を提
供することを目的とする。 【構成】 重量%で、C:0.015%以下、Si:
1.0%以下、Mn:10%以下、P:0.02%以
下、S:0.003%以下、O:0.003%以下、C
r:20〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1〜4
%、N:0.003〜0.4%、Al:0.5%以下お
よびNiをCr+Mo+1.5Si−0.5×(Mn+
Cu)−30(C+N)以上含み、かつCr+4.1×
Mo+2Cu+24Nを50以上及び、S+O:0.0
03%以下で残部が鉄と不可避的不純物からなる高合金
オーステナイト系ステンレス鋼。 【効果】 硫酸イオン、ハロゲン化物イオン、酸化性金
属イオンを同時に含む環境中で優れた耐食性を有すると
ともに熱間加工性が優れ耐局部腐食性に優れている。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、都市ゴミなどの焼却系
の洗煙設備などの低温部分で生成されるハロゲン化物
(フッ化物、塩化物、臭化物)および硫酸主体の湿潤環
境系で使用される高合金オーステナイトステンレス鋼に
関する。従来このような環境にはSUS304やSUS
316L級のオーステナイトステンレス鋼が適用され
てきたが、短期に孔食、応力腐食割れなどの現象によっ
て焼却設備の停止を余儀なくされてきており、また、近
年の大気環境汚染の元凶となるNOx やSOx を除去す
る上で不可欠な設備である洗煙設備の安全性確保、長寿
命化には、高耐食材料の適用が必須であり、本発明はか
ゝる材料の改良に係るものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ゴミ焼却など都市ゴミ処理設備用
材料は、その使用される温度領域によって使用材料が異
なっている。焼却炉など高温領域では、ハロゲン化物を
含む環境での高温溶融塩による腐食が支配的であり、ニ
ッケル基合金等が適用されている。しかし、排ガス処理
を行う排煙設備では、低温での凝縮液を含む環境での湿
式腐食が支配的となり、環境中に含まれる硫酸イオン、
ハロゲン化物イオン(フッ化物イオン、塩化物イオンお
よび臭化物イオン)、酸化性金属イオンによりSUS
304,SUS 316L級ステンレス鋼に孔食、隙間
腐食、応力腐食割れなどが経験されている。
【0003】しかし、SUS 316L以上の高級鋼
は、経済性の観点からその適用がかなり困難であった
が、近年の設備の安全性、長寿命化の方向から、より高
耐食性を有する合金の適用が指向されるようになってき
た。この点に関し、本発明者らは特願平4−50187
号明細書に記載したように硫酸イオン、ハロゲン化物イ
オン、酸化性金属イオンを同時に含む環境中で優れた耐
食性を有する高合金オーステナイト系ステンレス鋼を開
発した。
【0004】しかし、特願平4−50187号明細書に
記載した硫酸イオン、ハロゲン化物イオン、酸化性金属
イオンを同時に含む環境中で優れた耐食性を有する高合
金オーステナイト系ステンレス鋼は、従来のオーステナ
イト系ステンレス鋼よりも高Cr化、高Ni化、高Mo
化したために、連続鋳造したスラブに割れが発生した
り、熱間圧延時の割れが発生する等熱間加工性が従来の
オーステナイト系ステンレス鋼に比べ劣るものとなっ
た。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】近年の都市ゴミの処分
は、可燃性物質は焼却で、プラッスティク類等は埋め立
てによって処理されているのが現状である。しかし、埋
め立て処分地の問題などから、都市ゴミのすべてが焼却
処分される方向にある。従って、焼却設備全体が紙ゴミ
量の増大、プラスチック類の混入により発熱量の上昇を
引き起こし、より高温での耐久性が要求されるようにな
ってきた。また、本発明の対象である排煙設備も例外で
はなく、硫酸イオン、ハロゲン化物イオン及び酸化性金
属イオンの増大を引き起こし、使用材料にとってますま
す厳しくなっているのが現状である。
【0006】本発明者らは、こうした状況を踏まえて、
実際に使用されている設備の環境条件を把握し、その結
果に基づいて得られた腐食環境条件下でステンレス鋼の
主要成分であるCr,Ni,Mo,Cu,Nの成分の腐
食に対する影響を検討し、各元素の効果を明確にするこ
とによって、前述した如く、実際の設備への適用におい
ても優れた耐局部腐食性を示し、当該設備の長寿命化、
安全性、環境汚染防止などを長期にわたって確保するこ
とを可能にした耐局部腐食性高合金オーステナイト系ス
テンレス鋼を開発した。しかし、これらの高合金ステン
レス鋼は、鋳造時に割れが発生したり、熱間加工性が劣
り熱間圧延時に割れが発生し、安定的に大量生産するこ
とが困難であることが判明し、これらの製造上の課題を
解決することが必要となった。
【0007】従って、本発明が解決しようとする課題
は、硫酸イオン、ハロゲン化物イオン、酸化性金属イオ
ンを同時に含む環境中で優れた耐食性を有する高合金オ
ーステナイト系ステンレス鋼の鋳造時の割れを防止し、
熱間圧延時の割れを回避できるように熱間加工性を改善
して、安定製造を可能とすることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨とするとこ
ろは、重量%で、C:0.015%以下、Si:1.0
%以下、Mn:10%以下、P:0.020%以下、
S:0.003%以下、O:0.003%以下、Cr:
20〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1〜4%、
N:0.003〜0.4%、Al:0.5%以下及びN
iを[Cr]+[Mo]+1.5×[Si]−0.5×
[Mn]−30×([C]+[N])−0.5×[C
u]の式から計算される量以上で70%以下を含み、か
つ、[Cr]+4.1×[Mo]+2×[Cu]+24
×[N]の値が50以上及びS+O:0.003%以下
で残部がFeと不可避的不純物からなる高合金オーステ
ナイト系ステンレス鋼、または重量%で、C:0.01
5%以下、Si:1.0%以下、Mn:10%以下、
P:0.020%以下、S:0.003%以下、O:
0.003%以下、Cr:20〜45%、Mo:2〜1
0%、Cu:1〜4%、N:0.003〜0.4%、A
l:0.5%以下およびNiを[Cr]+[Mo]+
1.5×[Si]−0.5×[Mn]−30×([C]
+[N])−0.5×[Cu]の式から計算される量以
上で70%以下を含み、かつ[Cr]+4.1×[M
o]+2×[Cu]+24×[N]の値が50以上で、
選択成分としてCa:0.005%以下、Ce:0.0
5%以下、La:0.03%以下、Y:0.05%以下
のうち1種または2種以上を含み、残部がFeと不可避
的不純物からなる高合金オーステナイト系ステンレス鋼
にあり、さらに、重量%で、C:0.015%以下、S
i:1.0%以下、Mn:10%以下、P:0.020
%以下、S:0.003%以下、O:0.003%以
下、Cr:20〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1
〜4%、N:0.003〜0.4%、Al:0.5%以
下及びNiを[Cr]+[Mo]+1.5×[Si]−
0.5×[Mn]−30×([C]+[N])−0.5
×[Cu]の式から計算される量以上で70%以下を含
み、かつ[Cr]+4.1×[Mo]+2×[Cu]+
24×[N]の値が50以上及びS+O:0.003%
以下で残部がFeと不可避的不純物からなる鋼を110
0〜1300℃で2時間以上の加熱を施した後熱間圧延
を行う高合金オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法
または重量%で、C:0.015%以下、Si:1.0
%以下、Mn:10%以下、P:0.020%以下、
S:0.003%以下、O:0.003%以下、Cr:
20〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1〜4%、
N:0.003〜0.4%、Al:0.5%以下及びN
iを[Cr]+[Mo]+1.5×[Si]−0.5×
[Mn]−30×([C]+[N])−0.5×[C
u]の式から計算される量以上で70%以下を含み、か
つ[Cr]+4.1×[Mo]+2×[Cu]+24×
[N]の値が50以上で、選択成分としてCa:0.0
05%以下、Ce:0.05%以下、La:0.03%
以下、Y:0.05%以下のうち1種または2種以上含
み、残部がFeと不可避的不純物からなる鋼を1100
℃以上1300℃以下で2時間以上の熱処理を施した後
熱間圧延を行う高合金オーステナイト系ステンレス鋼の
製造方法にある。
【0009】以下に、本発明を詳細に説明する。本発明
者らは、重量%で15〜50%Cr、5〜80%Ni、
0〜10%Mo(以下%は全て重量%である)を含有す
るオーステナイト系ステンレス鋼について詳細に検討を
加えた。特に検討を加えた項目は、凝固後の鋳片の割れ
防止、熱間圧延時の割れ防止及び耐食性である。
【0010】25%Cr−7%Mo−35%Ni−1%
Cu−0.01%C−0.01%N系の合金について、
実験室の真空溶解炉で15kgの鋼塊を溶製し供試材とし
た。連続鋳造時の割れ防止の観点から凝固後の延性と不
純物量の関係を調査した。鋳片から直径10mmの丸棒引
張試験を採取し、グリーブル試験機を用い通電加熱によ
って平行部中央が溶融開始するまで昇温し、溶融開始温
度を測定して1分保定後、溶融点から50℃低い温度に
20℃/Sで冷却し30秒保持して引張試験を実施し、
破断までの試験片の断面収縮率(%)を測定した。この
凝固後の延性が大きいものほど、鋳造時の凝固シェルの
変形能が大きく鋳造時の割れやブレークアウトに対する
抵抗が大きい。
【0011】図1には溶融開始点から50℃低い温度に
おける断面収縮率と不純物S量の関係を示した。Sが多
いほど凝固後の延性は劣化し、S量が30ppm 以下にな
ると延性が向上することが判明した。また図2には溶融
開始点から50℃低い温度における断面収縮率と不純物
O量の関係を示した。O量が多いほど凝固後の延性は劣
化し、O量が30ppm 以下になると延性が向上すること
が判明した。
【0012】また図3は、溶融開始点から50℃低い温
度における断面収縮率(%)と不純物Pの関係を示し
た。Pも含有量が多いほど凝固後の延性は劣化するが
S,Oほどの影響はなく、P量で0.020%以下であ
れば凝固後の延性に対して大きく影響することはない。
このことから鋳片の割れ防止に対しては、Pを0.02
0%以下、S,Oを30ppm 以下にすれば防止できるこ
とが判明した。
【0013】また、熱間圧延時の割れ防止の観点から、
加熱後の熱間圧延温度域の高温延性を調査した。鋳片か
ら直径10mmの丸棒試験片を採取し、グリーブル試験機
を用いて通電加熱により1250℃に昇温後1分間保定
して、20℃/sで引張試験温度まで冷却し、しかる後
引張試験を行い、試験片の断面収縮率を測定して高温延
性を調査した。この溶体化後の引張試験の断面収縮率が
大きいほど熱間加工時の変形能が優れていることを示
し、熱間圧延時の割れを防止できることになる。
【0014】図4は、不純物S+Oを30ppm 以下、P
を150ppm 以下にした25%Cr−7%Mo−1%C
u−0.01%C−0.01%N系の高温延性に及ぼす
Niの影響を示したものである。この図より、高温延性
はNiが低いほど劣化している傾向がみられた。この延
性の劣化の原因は鋳片に存在するδ−Fe.や金属間化
合物等の第二相であって、低Niほど鋳片に第二相が存
在し熱間加工性が劣ることとなった。
【0015】また図5は、25%Cr−7%Mo−1%
Cu−0.01%C−0.01N系の高温延性に及ぼす
微量添加元素の影響を示したものである。前述のごと
く、S,O量が高いものほど1100℃以下での断面収
縮率が小さくなり高温延性が劣化したが、Yを添加した
ものは低S,Oに近い断面収縮率が得られ熱間加工性が
改善できることが判明した。また図6には、鋳片を12
00℃で2時間のソーキング(拡散熱処理)を行ったも
のの高温延性を示した。この図よりソーキングによって
さらに高温延性を改善できることが判明した。ソーキン
グの効果は凝固時の偏析、特に熱間加工性に有害で偏析
しやすいP,S等の不純物や不純物の化合物を拡散させ
ることによると考えられる。また、Ca,Ce,La,
Y等を微量添加させた場合は更に、S,O等の不純物を
固定化する効果も加わり延性を改善することになると考
えられる。
【0016】以上の検討結果から、材料の高温延性を改
善するためには、低S,O化、あるいは、S,Oを固定
化できる元素の微量添加が有効であることが判明した。
この効果を確かめるために、実験室で熱間圧延を行い、
割れの発生の有無について成分系を広げて検討を行っ
た。熱間圧延は厚み30mmの鋳片を6mmに6パスで行
い、割れの発生を比較した。表1および表2に、成分
系、熱間圧延条件、割れの状態を示した。これによりN
i量が低いもの、またS+O量が高いものには大きな割
れが発生することが明かとなった。低S,O材につい
て、Cr当量(=Cr%以下+1.5Si%+Mo
%)、Ni当量(Ni%+0.5Mn%+0.5Cu%
+30C%+30N%)で整理すると図7のようにな
り、割れ防止の点からNi当量をCr当量より大きくす
ることが必要である。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】さらに、耐食性、特に耐局部腐食性を確保
するという観点から、以下の評価試験を行った。都市ゴ
ミ等の排ガス洗煙設備の腐食は基本的に塩化物イオン等
のハロゲン化物を主体とした局部腐食であり、これを実
験的に評価する必要がある。実際に排煙設備環境を解析
し、塩化物イオンが高濃度で存在することが明らかにな
った。従って、実験室的にはこの結果を用いて模擬評価
液を作成し、この環境中での局部腐食発生に及ぼす合金
成分の影響を電気化学的局部腐食発生特性の観点から評
価検討した。
【0020】都市ゴミ焼却設備の洗煙設備凝縮液の解析
結果に基ずいて実験室評価液を作成し、当該環境での隙
間腐食性を評価した。表3に実験室評価液の組成を示
す。実験室評価液は測定の目的によって2種類の溶液を
使い分けた。評価液A中では金属の腐食電位:Ecor
rを24時間測定した。また、評価液B中において隙間
腐食発生電位:Ecを測定した。評価液Bは洗煙設備凝
縮液に含まれる塩化物イオン主体の酸性環境、評価液A
は環境中に含まれる酸化性金属イオン主体の酸性環境で
ある。
【0021】
【表3】
【0022】供試材は通常の真空溶解炉を用い、表4に
示す成分の鋼を溶製し、25kg鋼塊を鋳造後、熱延し、
適切な熱処理後、本試験に供した。これらの評価試験に
用いた試験片の形状を図8に示す。図8中、1は試験
片、2は試験面以外を被覆した被覆部、3は試験面、4
はポリカーボネイト製ボルト・ナットおよび5はエナメ
ル導線である。ポリカーボネイト製ボルト・ナット4と
試験片1との間に隙間部6を作り、隙間腐食の発生を加
速できるようにした。
【0023】
【表4】
【0024】この試験片1を用いて評価液A中で図9に
示すような腐食電位:Ecorrの経時変化の測定を2
4時間継続して行った。また、同様にして評価液B中で
図10に示すようにこの評価液の自然電位より、アノー
ド方向に20mV/分の電位掃引速度で電位を貴にせしめ
て行き、試験片1に流れる電流密度が100μA/cm 2
に達した点の電位を隙間腐食発生電位:Ecと規定し
た。この電位が貴な値ほど隙間腐食が発生しにくいこと
を示す。隙間腐食が実際に発生するか否かの判定は評価
液A中での24時間後の腐食電位:Ecorr(24
h)と評価液B中での隙間腐食発生電位:Ecとを比較
することで行った。すなわち、 ○:隙間腐食は自然状態では発生しない−−Ec≧Ec
orr(24h) ×:隙間腐食は自然状態で発生する−−−−Ec<Ec
orr(24h) を材料の耐隙間腐食性の判定基準に用いた。
【0025】表4に種々の高合金ステンレス鋼の組成お
よび腐食電位:Ecorr(24h)、隙間腐食発生電
位:Ecならびに(1)式で定義されるCI値および隙
間腐食性判定結果を示した。表4の結果から、高合金オ
ーステナイト系ステンレス鋼の耐局部腐食性が次式で定
義されるCI値50以上の材料では局部腐食は発生しな
いことを見いだした。
【0026】 CI=[Cr]+4.1×[Mo]+2×[Cu]+24×[N]… (1) 表4に示す本発明鋼ならびに比較鋼の結果より、本発明
の高合金はゴミ焼却炉洗煙部(排ガス用スクラバー)に
おいて極めて優れた耐隙間腐食性を有する材料であるこ
とがわかる。上述の鋳造時の割れ防止の検討結果、熱間
加工性の検討結果及び耐食性の検討結果から、製造性に
優れ従来の材料に対比して一段と優れた耐局部腐食性を
有する材料は、以下の組成および条件を満足する高合金
オーステナイト系ステンレス鋼によって達成できること
を発見した。
【0027】以上の考え方は、以下に示す成分系、すな
わち重量%で、C:0.015%以下、Si:1.0%
以下、Mn:10%以下、P:0.020%以下、S:
0.003%以下、O:0.003%以下、Cr:20
〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1〜4%、N:
0.003〜0.4%、Al:0.5%以下Ni:[C
r]+[Mo]+1.5×[Si]−0.5×[Mn]
−30×([C]+[N])−0.5×[Cu]〜70
%で、選択成分としてCa:0.005%以下、Ce:
0.05%以下、La:0.03%以下、Y:0.05
%以下で、残部がFeと不可避的不純物からなり、かつ
[Cr]+4.1×[Ni]+2×[Cu]+24×
[N]の値が50以上の合金について成り立つ。以下に
成分の限定理由を述べる。
【0028】C:Cは溶接部の粒界に炭化物を析出し、
粒界腐食を誘発するので低いほどよい。また、母材の強
度や加工性、靱性の点からも低い方が好ましい。本発明
の特徴である耐局部腐食性を改善するため、特に0.0
15%以下の極めて低い値に限定した。 Si:Siは脱酸元素であり、耐食性にも有効な元素で
あるが、0.01%未満では効果がなく、また1.0%
を越えて、添加しても顕著な効果はなく、また金属間化
合物の生成を助長し高温延性を劣化させるので上限を
1.0%とした。
【0029】Mn:MnはSiと同様に脱酸元素として
有効であり、またNiの代替としても添加可能な元素で
あり10%まで添加できる。これを超えて添加しても耐
食性及び熱間加工性を劣化させる。 P:Pは上記環境での耐局部腐食性を劣化させるので少
ないほどよい。0.020%を越えると耐局部腐食性が
劣化し、また鋳造時の鋳片割れも顕著になるので、0.
020%以下とする。
【0030】S:Sは上記環境でのステンレス鋼の耐食
性を劣化させるので少ないほどよく、また鋳造時の割れ
防止及び熱間圧延時の割れ防止の観点から規制すること
が必要であり、0.003%以下とする。 Cr:Crは本発明の基本成分である。都市ゴミ焼却系
の洗煙設備の凝縮液など高い耐食性を要求される環境で
は、Ni,Mo,Cu,Nとの共存の形で、20%以上
の添加が必要である。Cr量が多いほど耐局部腐食性は
向上するが、45%を越えるとオーステナイト単相とす
ることができず熱間加工性が著しく劣化するため上限を
45%とする。
【0031】Ni:Niは本発明鋼の基本成分である。
基本的には耐局部腐食性にあまり寄与しないが、母材の
加工性や靱性を確保し、完全オーステナイト相とするた
めに添加する。ステンレス鋼中のC量、Si量、Mn
量、Cr量、Mo量およびCu量に応じて次式でその添
加量の下限値が規定される。 Ni = Cr + Mo +1.5 × Si -0.5× Mn -30 ×( C + N )-0.5 × Cu … (2) また上限については、70%超添加しても熱間加工性に
おいて改善効果が飽和し、効果になるため上限を70%
とした。
【0032】Mo:MoはCr,Ni,Cu,Nその他
の元素と共存の形で添加される。上記環境での局部腐食
発生・成長の抑制に効果的な元素である。2%未満で
は、耐局部腐食性改善効果が充分ではなく、2%以上1
0%の範囲で前記元素との共存で極めて効果的となる。
10%を越えても耐局部腐食性の改善にそれほど寄与し
ないし、かつ高価となる。
【0033】Cu:CuはCr,Ni,Moをベースと
した成分系にその他の元素と共存の形で添加され、上記
凝縮液環境での耐局部腐食性向上に効果的な元素であ
る。1%以上で共存効果が著しく、4%を越えると耐局
部腐食性は飽和し、かつ熱間加工性を劣化させる。 N:Nは前記Cr,Ni,Mo,Cuと共に共存添加さ
れ、耐局部腐食性を向上するが0.4%超添加すると熱
間加工性を著しく劣化させ、また0.003%未満にす
るには製鋼コストが高くなり、Nについては0.003
〜0.4%で添加する。
【0034】Al:Alは強力な脱酸元素であり、本発
明鋼のような高合金ステンレス鋼では、Oを低減するた
めに必要な元素であり、0.5%以下で添加する。これ
を超えて添加しても脱酸効果は飽和し、また熱間加工性
を劣化させる。 O:Oは本発明鋼のような高合金ステンレス鋼の鋳造時
の鋳片割れ防止、熱間圧延時の割れ防止の点から低いほ
どよく、0.003%以下とする。Ca,Ce,La,
Y:Ca,Ce,La,Yはそれぞれ脱酸、脱硫元素と
して有効な元素であり、また加熱やソーキング時にS,
Oを固定して熱間圧延時の割れ防止に有効であるため、
選択成分としてCa:0.005%以下、Ce:0.0
5%以下、La:0.03%以下、Y:0.05%以下
で1種または2種以上添加する。これ以上添加しても熱
間加工性改善効果は飽和する。
【0035】なお、上記成分からなる鋼を連続鋳造鋳片
に鋳造した後、1100〜1300℃の温度範囲で2時
間以上加熱し、しかる後所定の厚みまで熱間圧延を行う
ことにより本発明の目的とする高合金オーステナイト系
ステンレス鋼板を得ることができる。
【0036】
【実施例】表5に示す高合金オーステナイト系ステンレ
ス鋼を10トンVIMで溶製し、160mm厚みの連続鋳
造鋳片に通常条件で鋳造した。この鋳片を1200℃で
加熱後、厚板圧延を行い、10mmの厚板を製造したが、
熱間圧延が不可能となる割れを発生することなく圧延を
することができた。またこの厚板に1100℃×30分
の溶体化熱処理を施し耐食性を評価した。耐食性の評価
は表3に示す評価液を使用して、評価液A中での腐食電
位:Ecorrの経時変化の測定を24時間継続して行
った。また、評価液B中での自然電位より、アノード方
向に20mV/分の電位掃引速度で電位を貫にせしめて行
き、試験片に流れる電流密度が100μA/cm2 に達し
た点の電位を隙間腐食発生電位:Ecを測定した。表5
に示すごとく極めて局部腐食性に優れたオーステナイト
系ステンレス鋼を得ることができた。
【0037】
【表5】
【0038】
【発明の効果】本発明の高合金オーステナイト系ステン
レス鋼により、都市ゴミなどの焼却系の洗煙設備などの
低温部分で生成されるハロゲン化物(フッ化物、塩化
物、臭化物)および硫酸主体の湿潤環境系で使用される
設備用材料の安全性が確保されるとともに、長寿命化を
可能とし、またこの種の高合金オーステナイト系ステン
レス鋼の製造上の大きな問題点であった製造上の課題を
解決することで、大量生産を可能とし、安価で経済性に
も優れた製品の製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】25%Cr−7%Mo−35%Ni−1%Cu
−0.01%C−0.01%N系の合金のグリーブル試
験における溶融開始点から50℃低い温度における断面
収縮率と不純物S量の関係を示した図である。
【図2】25%Cr−7%Mo−35%Ni−1%Cu
−0.01%C−0.01%N合金系のグリーブル試験
における溶融開始点から50℃低い温度における断面収
縮率と不純物O量の関係を示した図である。
【図3】25%Cr−7%Mo−35%Ni−1%Cu
−0.01%C−0.01%N系の合金のグリーブル試
験における溶融開始点から50℃低い温度における断面
収縮率と不純物P量の関係を示した図である。
【図4】不純物S+O量を30ppm 以下、P量を150
ppm 以下にした25%Cr−7%Mo−1%Cu−0.
01%C−0.01%N合金系のグリーブル試験におけ
る高温延性に及ぼすNiの影響を示した図である。
【図5】25%Cr−7%Mo−35%Ni−1%Cu
−0.01%C−0.01%N合金系のグリーブル試験
における高温延性に及ぼすS,O及びYの影響を示した
図である。。
【図6】25%Cr−7%Mo−35%Ni−1%Cu
−0.01%C−0.01%N−0.03Y合金系のグ
リーブル試験における高温延性に及ぼすソーキングの影
響を示した図である。
【図7】実験室における熱間圧延時の割れの発生をNi
当量とCr当量の関係で表示した図である。
【図8】材料の耐局部腐食性を調べるための試験片で図
(1)は平面図、(2)は(1)のX−X線断面図であ
る。
【図9】評価液A中に材料を浸漬した場合に得られる腐
食電位:Ecorrの経時変化を模式的に示した図であ
る。24h後のEcorrを特性値として得た。
【図10】評価液B中で測定される材料の電位と電流密
度の関係を示した図である。100μA/cm2 の電流密
度に対応した電位を局部腐食発生電位:Ecとして得
た。
【符号の説明】
1…試験片 2…被覆部 3…試験面 4…ボルト・ナット 5…エナメル導線 6…隙間部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 上田 全紀 千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株式 会社技術開発本部内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.015%以下、S
    i:1.0%以下、Mn:10%以下、P:0.020
    %以下、S:0.003%以下、O:0.003%以
    下、Cr:20〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1
    〜4%、N:0.003〜0.4%、Al:0.5%以
    下およびNiを[Cr]+[Mo]+1.5×[Si]
    −0.5×[Mn]−30×([C]+[N])−0.
    5×[Cu]の式から計算される量以上で70%以下を
    含み、かつ[Cr]+4.1×[Mo]+2×[Cu]
    +24×[N]の値が50以上及びS+O:0.003
    %以下で残部がFeと不可避的不純物からなることを特
    徴とする硫酸イオン、ハロゲン化物イオン、酸化性金属
    イオンを同時に含む環境中で優れた耐食性を有するとと
    もに熱間加工性と耐局部腐食性に優れた高合金オーステ
    ナイト系ステンレス鋼。
  2. 【請求項2】 重量%で、C:0.015%以下、S
    i:1.0%以下、Mn:10%以下、P:0.020
    %以下、S:0.003%以下、O:0.003%以
    下、Cr:20〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1
    〜4%、N:0.003〜0.4%、Al:0.5%以
    下およびNiを[Cr]+[Mo]+1.5×[Si]
    −0.5×[Mn]−30×([C]+[N])−0.
    5×[Cu]の式から計算される量以上で70%以下を
    含み、かつ[Cr]+4.1×[Mo]+2×[Cu]
    +24×[N]の値が50以上で、選択成分としてC
    a:0.005%以下、Ce:0.05%以下、La:
    0.03%以下またはY:0.05%以下のうち1種ま
    たは2種以上を含み、残部がFeと不可避的不純物から
    なることを特徴とする硫酸イオン、ハロゲン化物イオ
    ン、酸化性金属イオンを同時に含む環境中で優れた耐食
    性を有するとともに熱間加工性と耐局部腐食性に優れた
    高合金オーステナイト系ステンレス鋼。
  3. 【請求項3】 重量%で、C:0.015%以下、S
    i:1.0%以下、Mn:10%以下、P:0.020
    %以下、S:0.003%以下、O:0.003%以
    下、Cr:20〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1
    〜4%、N:0.003〜0.4%、Al:0.5%以
    下およびNiを[Cr]+[Mo]+1.5×[Si]
    −0.5×[Mn]−30×([C]+[N])−0.
    5×[Cu]の式から計算される量以上で70%以下を
    含み、かつ[Cr]+4.1×[Mo]+2×[Cu]
    +24×[N]の値が50以上及びS+O:0.003
    %以下で残部がFeと不可避的不純物からなる鋼を11
    00〜1300℃で2時間以上の加熱を施した後熱間圧
    延を行うことを特徴とする硫酸イオン、ハロゲン化物イ
    オン、酸化性金属イオンを同時に含む環境中で優れた耐
    食性を有するとともに熱間加工性と耐局部腐食性に優れ
    た高合金オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
  4. 【請求項4】 重量%で、C:0.015%以下、S
    i:1.0%以下、Mn:10%以下、P:0.020
    %以下、S:0.003%以下、O:0.003%以
    下、Cr:20〜45%、Mo:2〜10%、Cu:1
    〜4%、N:0.003〜0.4%、Al:0.5%以
    下およびNiを[Cr]+[Mo]+1.5×[Si]
    −0.5×[Mn]−30×([C]+[N])−0.
    5×[Cu]の式から計算される量以上で70%以下を
    含み、かつ[Cr]+4.1×[Mo]+2×[Cu]
    +24×[N]の値が50以上で、選択成分としてC
    a:0.005%以下、Ce:0.05%以下、La:
    0.03%以下またはY:0.05%以下のうち1種ま
    たは2種以上を含み、残部がFeと不可避的不純物から
    なる鋼を1100〜1300℃で2時間以上の加熱を施
    した後熱間圧延を行うことを特徴とする硫酸イオン、ハ
    ロゲン化物イオン、酸化性金属イオンを同時に含む環境
    中で優れた耐食性を有するとともに熱間加工性と耐局部
    腐食性に優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼の
    製造方法。
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