JP3574903B2 - 熱間加工性に優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

熱間加工性に優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は海上、海浜地区などの過酷な腐食環境下でも使用可能な耐食性を備え、更に熱間加工性にも優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
オーステナイト系ステンレス鋼は他のステンレス鋼に比較して加工性、溶接性に優れるため広い範囲で用いられてきている。特に、海水と接触する使用条件等、過酷な腐食環境下では、優れた耐食性が要求されるため、Cr、Ni、Mo等を多量に含有し、Nを添加することにより耐孔食性、耐隙間腐食性を向上させた高合金オーステナイト系ステンレス鋼が使用されている。
【0003】
従来、この種の高合金オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えばJISG4305ではSUS317J4LとしてC:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Ni:24.00〜26.00%、Cr:19.00〜24.00%、Mo:5.00〜7.00%、N:0.25%以下の鋼が規定されている。
【0004】
また、特公昭63−58214号公報に開示されている溶接部の耐食性に優れた完全オーステナイトステンレス鋼は、重量%で、C:0.04%以下、Si:1.5%以下、Mn:2.0%以下、Cr:18%〜25%、Ni:20〜30%、Mo:4〜8%、N:0.01〜0.3%、Al:0.02%以下、La+Ce:0.01〜0.06%を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなり、
かつ
Figure 0003574903
なる関係を満足する組成になっており、さらにB:0.01%以下、Cu:0.
3〜3%を含有する組成になっている。
【0005】
以上のような高合金オーステナイト系ステンレス鋼において、熱間加工性を改善させるために、Bの添加、Caの添加、Mgの添加、Alの添加、δバランスの規制といった手段も行われている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
SUS317J4LのようにCr、Ni、Mo等を大量に含有し、さらにNを添加した高合金オーステナイト系ステンレス鋼は耐食性に優れるが、高合金のために熱間加工性に劣り、分塊工程、熱間圧延工程などで割れが生じるといった問題がある。
【0007】
また、特公昭63−58214号に開示されたステンレス鋼も熱間加工性が十分でなく、熱延工程において割れが発生するなどの問題がある。
【0008】
従って本発明は、これらの課題を解決し、熱間加工性に優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼を得ることを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、質量%で、
C :0.03%以下
Si:0.75%以下
Mn:1.5%以下
Cr:22.5〜30.0%
Ni:20〜30%
Mo:4〜8%
N :0.01〜0.3%
Cu:0 . 2〜1 . 0%
Al:0.3%以下
を含有し、かつSの含有量を質量%で0.0015%以下とすると共に、
横軸にS含有量を、縦軸に(La+Ce)/Sをとったとき、図1の点I, II III I VおよびVで囲われる領域内となる関係、ただし、図1において、
点Iの座標: S=0、(La+Ce)/S=10
II の座標: S=0 . 00083、(La+Ce)/S=10
III の座標: S=0 . 0015、(La+Ce)/S=20
I Vの座標: S=0 . 0015、(La+Ce)/S=40
点Vの座標: S=0、(La+Ce)/S=40を表す、
を満足するようにLaとCeの何れか一方若しくは両方を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる熱間加工性に優れた完全オーステナイト系ステンレス鋼を提供する。
【0011】
【作用】
本発明における各成分の限定理由は以下の通りである。
【0012】
C:Cは耐食性の面から低い方がよいが、製造性を考慮してCの含有量は0.03%以下とした。好ましくは0.025%以下である。
【0013】
Si:Siは耐応力腐食割れ性向上に有効に作用する。このためには0.10%以上、好ましくは0.30%以上含有させるのがよい。しかし、0.75%を
越えて含有すると溶接性、加工性が劣化するので、Siの含有量の上限は0.75%までとした。
【0014】
Mn:Mnは脱酸および熱間加工性の改善、あるいはオーステナイト安定元素として必要であり、少なくとも0.10%以上含有させるが、過剰に添加すると耐食性を劣化させるので、Mnの含有量の上限は1.5%とした。
【0015】
Cr:Crはステンレス鋼の耐孔食性をはじめ、耐食性を向上させるために極めて重要な元素である。Crの含有量が22.5%未満では耐食性が十分でなく、Crは22.5%以上含有した方が望ましい。しかし、30.0%を越えて含
有すると鋼の加工性を劣化させるとともに、オーステナイト組織を維持するために、Niを多量に添加することが必要となって価格の上昇を招き、また製造性を困難にする。そこで、Crの含有量は22.5〜30.0%の範囲とした。
【0016】
Ni:Niは耐食性の改善、特に活性溶解を抑制するのに有効であり、組織をオーステナイト相に維持するため、最低約20%程度必要である。しかし、Niを多量に添加すると価格の上昇を招くので、Niの含有量は20〜30.0%の範囲とした。
【0017】
Mo:MoはCr、Ni、Nとともにステンレス鋼の耐食性、特に耐孔食性を向上させるのに有効な元素である。Moの含有量が4%以下では十分な耐食性が得られず、一方、8%以上になると熱間加工性を阻害する。そこで、Moの含有量は4〜8%の範囲とした。
【0018】
N:NはCr、Ni、Moとともにステンレス鋼の耐食性、特に耐孔食性を向上させ、また、オーステナイト相安定のために、0.01%以上含有する必要がある。しかし、0.5%が鋼中に固溶する限度であり、また製造性を考慮すると0.3%以下であることが望ましい。そこで、Nの含有量は0.01〜0.3%
の範囲とした。好ましい範囲は0.08〜0.3%である。
【0019】
Al:AlはLa、Ceの酸化を防ぐ目的で少なくとも0.01%添加する。しかし、Alを多量に添加するとAl系介在物を生成し、鋼の耐食性、加
工性を劣化させるため、Alの含有量はLaとCeの含有量に見合うように0.3%以下とした。
【0020】
Cu:Cuは高Cr高Ni高Mo鋼において耐酸性を向上させるのに有効な元素である。特にCuを0.2%以上含有することによりその効果は顕著となる。ただし、1.0%を越えて含有すると熱間加工性に有害となる。そこで、高い耐酸──要求される場合は、0.2〜1.0%のCuを含有させることとした。好
ましくは0.3〜1.0%、更に好ましくは0.4〜1.0%を含有させる。
【0021】
S:高合金オーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性はSの粒界偏析によって低下させられる。Sは熱間加工性および耐食性に有害であるため、その含有量は低いほどよく、0.0015%を越えて含有すると特に熱間加工性を劣化させるので、Sの含有量は0.0015%以下とした。
【0022】
La+Ce:本発明鋼において、La+Ceは耐食性と熱間加工性の改善、および硫化物生成の低減を目的に添加される。本発明者らは、種々の実験および詳細な検討を行ってきた結果、上記のようにSの含有量を0.0015%以下に抑えると共に、Sの含有量に応じて一定の範囲量にある(La+Ce)の1種または2種を含有せしめることによって、鋼の熱間加工性および耐食性を著しく向上できることを見出した。これらの点について以下試験例に基いて説明する。
【0023】
本発明者らは、表1に示す種々の化学成分値(質量%)の試材鋼について先ず熱間引張試験を行い、各試材の熱間加工性を調査した。各試材は30kg高周波真空溶解炉にて溶製して鋳造し、鋼塊から試験片を切出して熱間引張試験を行った。
【0024】
【表1】
Figure 0003574903
【0025】
熱間引張試験は、柱状晶の成長方向と垂直に荷重を負荷するようにして、平行部10mmφの試験片を、900℃,950℃、1000℃、1050℃、1100℃、1150℃、1200℃、1250℃の各温度においてひずみ速度10/secで熱間引張試験し、引張破断させた。そのさい熱延前における加熱を考慮して、1230℃で5分間加熱保持した後、50℃/secの冷却速度で各試験温度まで冷却し、5分間保持の後、破断させ破断面の断面収縮率を求めた。一般に断面収縮率が60%以上であれば、熱間圧延時に特に問題のない熱間加工性を有していると考えられることから、前記900〜1250℃の温度範囲における断面収縮率の極小値を熱間加工性の指標として用いいた。その結果を表1に示すと共に、図1にまとめて表示した。
【0026】
以上の実験の結果、Sの含有量を質量%で0.0015%以下に規制するとともに、(La+Ce)/Sの値を以下のように調整すると、断面収縮率が60%以上の値を示すという知見が得られた。
S<0.0005%のとき
5≦(La+Ce)/S≦200
0005%≦S≦0.0015%のとき
1.5×10 S−2.5≦(La+Ce)/S≦200
【0027】
次に、表1の各30kg鋼塊から熱間圧延用試片を切出し、熱間圧延を行ったあと、冷間圧延および焼鈍を施して板厚1.0mmの冷延焼鈍板を作製し、耐食性を調べた。耐食性の評価は次の耐酸性試験と耐孔食性試験で行った。
【0028】
耐酸性試験:80℃に維持した50%硫酸溶液中に24時間浸漬後の腐食減量(g/m・h)を測定した。
耐孔食性試験:80℃に維持した6%塩化第二鉄+N/20塩酸の溶液中に24時間浸漬後の腐食減量(g/m・h)を測定した。
【0029】
【表2】
Figure 0003574903
【0030】
これらの耐食性の試験結果を表2に示したが、耐酸性について見ると、前記のSと(La+Ce)の関係を満足したうえ、Cuを適量含有したものは、耐酸性試験で腐食減量が2.0(g/m・h)以下となっており、耐酸性に著しく優れることがわかる。また、耐孔食性について見ると、腐食減量が0.2(g/m・h)以下の著しく耐孔食性に優れるものは、Sと(La+Ce)の関係を満足したうえ、Cuを適量含有したものであるが、これを整理すると、図1の斜線域内のものであることが明らかとなった。
【0031】
ここで、図1の斜線域の範囲は、横軸にS含有量を、縦軸に(La+Ce)/Sをとったとき、点I, II, III, IVおよびVで囲われる領域であり、各点の座標は次のとおりである。
点Iの座標: S=0、(La+Ce)/S=10
点IIの座標: S=0.00083、(La+Ce)/S=10
点IIIの座標:S=0.0015、(La+Ce)/S=20
点IVの座標:S=0.0015、(La+Ce)/S=40
点Vの座標: S=0、(La+Ce)/S=40
【0032】
図1において、直線I−IIより上方で耐孔食性に優れる理由としては、Sと結合しやすい(La+Ce)の添加によって、腐食の起点となり耐孔食性に悪影響するMnS等の非金属介在物の生成を抑制するからであろうと考えられる。また直線 IV−Vより下方で耐孔食性に優れる理由としては、この直線より上方では(La+Ce)を含む耐孔食性を劣化させる非金属介在物が多くなるのに対し、この直線より下方では少なくなるからであろうと考えられる。
【0033】
【実施例】
表3に示す化学成分(質量%)を有する1〜15の試材鋼を、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を行って板厚1.0mmの冷延焼鈍鋼板を製造した。各鋼について、熱間圧延での耳切れ発生の有無を調べて熱間加工性を評価するとともに、冷延焼鈍鋼板での耐食性を評価した。耐食性の評価は、前記同様の条件での耐酸性試験と耐孔食性試験によって行った。また80℃の20%NaCl溶液における孔食電位(Vc’)も併せて測定し、孔食の発生を調べた。これらの結果を表4に示した。
【0034】
【表3】
Figure 0003574903
【0035】
【表4】
Figure 0003574903
【0036】
表4に示すように、鋼1〜10はいずれも熱間圧延時において耳切れが発生せず、熱間加工性に優れているという結果が得られた。また孔食電位の測定においても孔食の発生がみられず、耐孔食性に優れていることが分かる。更に、耐酸性試験においても、腐食度(単位面積当たりの腐食減量)が5(g/m2・h)以下となり、本発明鋼は耐酸性にも優れている。なお0.2〜1.0%のCuを含有する鋼3〜10の腐食度は2(g/m2・h)以下となり、不純物としてしかCuを含有していない鋼1、2の腐食度が2超〜5(g/m2・h)となったのに比べて、より耐酸性に優れているといった結果が得られた。
【0037】
また耐孔食性試験(浸漬試験)において、鋼1、3、5、6、7および10は腐食度が0.2(g/m2・h)以下であり、特に耐孔食性に優れている。これらは、いずれも図1の斜線域内の関係を満足している。
【0038】
これに対して、Sの含有量が0.0018%で本発明鋼の範囲外である比較鋼11は、耐孔食性、耐酸性は良好であるものの熱延時に耳切れを生じ、熱間加工性に劣った。
【0039】
(La+Ce)/Sの値が276.3で本発明鋼の範囲外である比較鋼12は介在物の生成量が多く熱間加工性に劣った。
【0040】
(La+Ce)/Sの値が9.2で本発明の範囲外である比較鋼13は(La+Ce)によるSの固定が十分でなく熱延時に耳切れを生じ、熱間加工性に劣った。
【0041】
Crの含有量が18.50%で本発明の範囲外である比較鋼14は、熱間加工性は良好であるものの耐孔食性、耐酸性に劣った。
【0042】
Moの含有量が3.43%で本発明の範囲外である比較鋼15は、熱間加工性は良好であるものの、耐食性に劣った。
【0043】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、海上、海浜地区などの過酷な腐食環境下で優れた耐食性を有し、さらに熱間加工性にも優れた高合金オーステナイト系ステンレス鋼を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実験に用いた各試材の断面収縮率を、S量と(La+Ce)/S値の関係を示すグラフにおいて表した図面である。

Claims (1)

  1. 質量%で、
    C :0.03%以下
    Si:0.75%以下
    Mn:1.5%以下
    Cr:22.5〜30.0%
    Ni:20〜30%
    Mo:4〜8%
    N :0.01〜0.3%
    Cu:0.2〜1.0%
    Al:0.3%以下
    を含有し、かつSの含有量を質量%で0.0015%以下とすると共に、
    横軸にS含有量を、縦軸に(La+Ce)/Sをとったとき、図1の点I,II,III,IVおよびVで囲われる領域内となる関係、ただし、図1において、
    点Iの座標: S=0、(La+Ce)/S=10
    点IIの座標: S=0.00083、(La+Ce)/S=10
    点IIIの座標: S=0.0015、(La+Ce)/S=20
    点IVの座標: S=0.0015、(La+Ce)/S=40
    点Vの座標: S=0、(La+Ce)/S=40を表す、
    を満足するようにLaとCeの何れか一方若しくは両方を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる熱間加工性に優れた完全オーステナイト系ステンレス鋼。
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