JP3568760B2 - 裸耐候性と溶接性に優れた厚板 - Google Patents

裸耐候性と溶接性に優れた厚板 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、特に橋梁など維持管理の遂行が困難な構造物で、しかも無塗装で使用される構造材用に適した厚板に関し、裸耐候性と溶接性に優れた厚板に関するものである。
【0002】
【従来技術】
例えば山間部や海岸地帯など、塩水や融雪塩が飛来するなどの塩分腐食環境下にある道路橋等の橋梁構造物に使用する鋼材は、耐食性向上のため、従来から塗装されて用いられている。しかし、この塗装塗膜は必ず経時劣化するため、耐食性維持のために、一定周期で塗装しなおす維持管理の必要性がある。
【0003】
一方、近年では、これらの橋梁には、従来の多数桁橋梁に代わり、2主桁橋梁に代表されるような主桁の数が少ない少数主桁橋梁が多く用いられるようになっている。この少数主桁橋梁は、多数桁橋梁に比して、使用鋼材量(鋼重)や橋材片数が削減可能で、施工性も良く、環境保護や工期の短縮の点で利点を有する。そして、このような少数主桁橋梁には、橋梁設置後の維持管理の負荷やコストの最小化と、橋梁自体の高寿命化が強く求められている。したがって、このような少数主桁橋の構造材に用いられる鋼材には、前記塩分腐食環境下であっても、無塗装で使用(裸使用)可能な、裸耐候性が優れた鋼材が強く求められている。
【0004】
また、これら少数主桁橋梁の構造材は前記施工性や工期の短縮の点から、炭酸ガスアーク溶接やエレクトロガスアーク溶接により、入熱量5KJ/mm以上、場合によっては入熱量100 乃至300KJ/mm以上の大入熱溶接が施される。したがって、この構造材に使用される鋼材としては、予熱の必要が無く、これら大入熱溶接等の高効率溶接が可能な、溶接性の優れた鋼材が求められている。したがって、この用途の鋼材には、橋梁用鋼材としての強度等の機械的な性質は勿論、更に裸耐候性と溶接性とを併せ持つ鋼材が要求されている。
【0005】
従来、この種の裸耐候性が優れる鋼材としては、P:0.15%以下やCu:0.2 〜0.6 %、Cr:0.3 〜1.25%、Ni:0.65%以下を含む耐候性鋼がある。この耐候性鋼は、JIS G 3114 (溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材) あるいはJIS G 3125 (高耐候性圧延鋼材) の2 種が規格化されている。この耐候性鋼は、前記微量元素の作用によって、鋼表面に生成するさびが、裸耐候性に代表される高い耐食性を有する緻密な「安定さび層」となる自己防食機能を有している。そして、このような性質により、耐候性鋼は、前記橋梁など、これまで様々な構造物のメンテナンスフリーの構造材として、基本的に無塗装で使用されてきた。
【0006】
しかし、前記塩分腐食環境下では、塩分の影響により、耐候性鋼の特徴である前記「安定さび層」が形成されにくくなる。そして、この「安定さび層」が形成されなくなると、前記耐候性鋼の耐食性は著しく低下してしまう。これは、前記塩分の多い腐食環境下では、鋼の腐食に伴って、さび皮膜中のpHが特に低下することに起因している。即ち、通常、鋼の腐食がわずかでも始まると、まず、Fe→Fe2++2eと、これに続くFe2++2HO→Fe(OH) +2Hなる反応により、鋼表面のpHは低下し、さび皮膜中乃至さび皮膜と鋼との界面のpHも低下する。そして、これらのpHが一旦低下すると、電気的中性を保つためにさび皮膜中の塩素イオンの輸率が増大し、塩素イオンの濃縮がさび皮膜と鋼との界面で生じる。この結果、この界面部分に塩酸雰囲気が形成され、鋼の腐食を促進するものである。また、これと同時に、さび皮膜中のpHの低下によって、鉄イオンの溶解度が大きくなり、耐候性鋼など耐食低合金鋼の防食機構の要である前記「安定さび層」の形成を阻害する現象も生じ、腐食加速状況が形成される。
【0007】
このため、従来から、前記さび皮膜中のpHの低下を防止するため、耐候性鋼の表面をアルカリ化し、前記腐食加速状況の形成を阻止する技術が提案されている。より具体的には、耐候性鋼の表面をアルカリ化する化学種を、予め鋼中に分散しておき、前記鋼の腐食反応と同時に、これら化学種を作用させ、鋼表面のpHの低下を抑制する方法が、例えば、特開昭58−25458 号や特許第2572447 号公報などで提案されている。
【0008】
この内、まず特開昭58−25458 号公報には、前記化学種として、Be、Mg、Ca、Sr、Baなどの酸化物を添加することが開示されている。また、特許第2572447 号公報には、これらの化学種の内、特にCaの酸化物を選択し、これを鋼中に製鋼段階で確実に分散させるため、CaをAlとの二元系合金または金属間化合物、乃至Feとの三元系合金または金属間化合物として溶鋼中に添加し、CaをAlとの複合酸化物として、鋼中に分散させた耐候性鋼が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
これら従来技術に記載された酸化物を添加して、腐食加速状況の形成を阻止する技術は、確かに、外界からの塩分等の影響を抑制する点では効果がある。しかしながら、本発明者が知見したところによれば、特に、前記少数主桁橋の構造材に求められている、無塗装で使用可能な耐食性のレベル、即ち1 年間大気暴露 (週 1回の5%塩水散布を含む) 後の、腐食による鋼材の平均板厚減少量が0.8mm 以下、より好ましくは0.5mm 以下のレベルまでには、耐候性鋼の耐食性を改善できない。また、前記少数主桁橋梁などでの構造材の施工上重要な、予熱なし(予熱フリー)で、入熱量5KJ/mm以上、場合によって100 乃至300KJ/mm以上の大入熱溶接などの高効率の溶接ができる溶接性の要求特性も満たすことができていない。したがって、前記少数主桁橋に代表される、塩分腐食環境下であっても無塗装で使用(裸使用)される構造材に適した鋼材は、これまで実質的に無かったのが実情である。
【0010】
したがって本発明は、これら従来の耐候性鋼の問題に鑑み、前記少数主桁橋などの構造材として無塗装で使用可能な裸耐候性を有するとともに、予熱なしで、入熱量5KJ/mm以上の大入熱溶接などの高効率の溶接ができる溶接性に優れた厚板を提供することを目的とする。
【0011】
【問題を解決するための手段】
このための本発明の要旨は、厚板の組成成分を、質量%にて、C:0.15%以下、Si:0.10〜1.0 %、Mn:1.5 %以下、Cu:0.05〜3.0 %、Ni:0.05〜6.0 %、P:0.03%未満、Cr:Cr無添加を含む0.05%未満、Ti:0.01〜 0.5%、Ca:0.0001〜0.01%、S:0.02%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ炭素当量A (%) を0.20以下 [但し、炭素当量A =C+Si/22 +Mn/6+P/10−Cu/20 −Ni/15 +Cr/2−Ti/2−Ca−Al/35(%)] とすることである。
【0012】
このような要旨とすることにより、好ましくは、後述するX線回折法により求めた非晶質成分の分率が30wt%以上で、β−FeOOH 成分の分率が20wt%以下であるなど、鋼材表面に生成したさびを緻密な「安定さび層」にすることができ、鋼材を塩分腐食環境下でも、塗装無しで使用できる裸耐候性を有することが可能となる。より具体的には、鋼材の裸耐候性を、好ましくは、 1年間大気暴露 (週 1回の塩水散布を含む) 後の腐食による鋼材の平均板厚減少量が0.8mm 以下、より好ましくは0.5mm 以下の優れたものとすることができる。
【0013】
そして、このような要旨とすることにより、前記裸耐候性とともに、鋼材の厚みが50mm以上であっても、好ましくは、予熱無しで入熱量5KJ/mm以上、場合によって100 乃至300KJ/mm以上の大入熱溶接を施すことができる溶接性を有することが可能となる。
【0014】
また、前記裸耐候性をより向上させるために、本発明の好ましい態様は、前記鋼材の組成元素の内、Tiの下限量を0.04%とすることである。
【0015】
更に、前記裸耐候性をより向上させる観点から、本発明の別の好ましい態様は、選択的に、Al:0.05〜0.50%を含有することである。
【0016】
また更に、前記裸耐候性をより向上させる観点から、本発明の別の好ましい態様は、選択的に、La:0.0001〜 0.05 %、Ce:0.0001〜 0.05 %、Mg0.0001〜0.05%の内から1種又は2種を含有することである。
【0017】
一方、例えば橋梁の構造材としての必要強度や靱性および裸耐候性などの耐食性を確保する観点から、本発明の好ましい態様は、前記鋼材組織のフェライト量を90%以上とすることである。
【0018】
本発明者らは、前記従来の耐候性鋼材や、アルカリ化する化学種を鋼中に分散させた耐候性鋼材が、特に、前記少数主桁橋などの構造材に求められている、無塗装で使用可能な裸耐候性のレベルまでに、耐候性鋼の耐食性を改善できない理由を鋭意検討した。その結果、これら耐候性鋼材に含まれるCrが腐食因子として作用していることを知見した。
【0019】
即ち、従来の耐候性鋼材では、Crは、PやCu、Niとともに、前記「安定さび層」を形成させるために必須の添加元素と認識され、前記した通り、JIS 規格などでも0.30〜1.25% 含有されている。また、前記特開昭58−25458 号や特許第2572447 号公報などでは、Crの添加は明示されていないものの、鉄原料や製鋼過程などからの不純物として、必然的に0.05% 以上含有されている。
【0020】
このように、Crを0.05% 以上含有する場合、鋼のミクロな表面欠陥部において腐食がわずかでも始まると、化学平衡的に鉄原子に伴い微量溶解するCrイオンが、Clイオンの作用も加わり、前記鋼のミクロな表面欠陥部内におけるpHの低下の原因となり、欠陥内での凝縮水分の酸化性を促進し、腐食を誘発する作用がある。
【0021】
したがって、本発明では、Crの含有量を可能な限り少なくすることが必要で、Cr含有量低減の経済性も考慮して、その上限を0.05% 未満とする。そして、Crに代わる前記「安定さび層」の形成促進元素としてTiを選択した。Tiは、Crのような前記pHの低下の原因とならずに、前記「安定さび層」の形成促進効果があるという特異な性質を有する。因みに、Tiは、通常、溶鋼の脱酸や鋼材の強度維持のために添加されることが公知であり、前記特許第2572447 号公報などでも、この公知の目的のために0.03% 以下程度添加している。しかし、本発明におけるTiの目的は、前記した通り緻密な「安定さび層」の形成であり、この点がCrの低減とともに本発明の特徴の一つである。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明における鋼材の化学成分および炭素当量の限定理由について、以下に説明する。
Cは、鋼の構造材用途としての390 〜630N/mm級、乃至それ以上の要求強度を確保するための必須の元素であるが、0.15%を越えて含有量されると、鋼の溶接性や裸耐候性を劣化させる。したがって、C含有量は0.15%以下の、前記要求強度を確保できる量とする。
【0023】
Siは溶鋼の脱酸や固溶強化のために必須の元素であり、また緻密な「安定さび層」の形成を促進し、裸耐候性などの耐食性を向上させる効果も有する。しかし、0.10%未満ではこれらの効果が不十分であり、逆に1.0 %を超えると、溶接性が低下する。したがって、Si含有量は0.10〜1.0 %の範囲とする。
【0024】
Mnは、Cに替わり390 〜630N/mm級、乃至それ以上のの強度確保のための必須の元素であるが、1.5 %を越えて含有量されると、MnS が鋼中に多量に生成して、裸耐候性などの耐食性劣化を招くおそれがある。したがって、Mn含有量は1.5 %以下の範囲とする。
【0025】
Cuは、電気化学的に鉄より貴な元素であり、鋼表面に生成するさびを緻密化して、「安定さび層」の形成を促進し、裸耐候性を向上させる効果を有する。また、溶接性の向上にも寄与する。Cu含有量が0.05%未満ではこの効果がなく、3.0 %を越えてもそれ以上の効果は得られず、逆に鋼材の製造のための熱間圧延などの加工の際に、素材の脆化を引き起こす可能性がある。この観点からは、Cu含有量の上限を0.5 %以下とするのが好ましい。したがって、Cu含有量は0.05〜3.0 %の範囲、好ましくは0.05〜0.5 %の範囲とする。
【0026】
Niは、Cuと同様の裸耐候性向上効果や溶接性の向上効果を有する元素である。また、Cuの前記熱間加工脆性を抑制する効果もある。したがって、Cuと併せて含有すると、耐食性向上効果、熱間加工脆性の抑制効果の相乗効果が期待できる。Niが0.05%未満の含有量ではこのような優れた効果を得ることができない。しかし、一方、Niの過剰な含有は、完全オーステナイト組織における固液凝固温度範囲を広げて、低融点不純物元素のデンドライト粒界への偏析を助長するとともに、Sと反応して溶接金属の粒界に、低融点のNiS化合物を析出させ、凝固金属の粒界の延性を劣化させる。したがって、Niの過剰な含有は、耐溶接高温割れ性に悪影響を与えるので、その上限の含有量は6.0 %とすべきであり、結果としてNi含有量は0.05〜6.0 %の範囲とする。
【0027】
Pは、耐候性鋼にとって、鋼表面に生成するさびへの塩化物イオンの進入を阻止し、緻密な「安定さび層」を形成して、耐食性を向上させる効果を有する特徴的な元素である。そして、前記従来の耐候性鋼では、この効果を発揮させるために、0.05%程度以上、0.15%以下程度の含有を必須としている。しかし、本発明においては、Pの0.05%程度以上の過度の含有は、溶接性を著しく阻害し、前記少数桁橋梁の施工上重要な、予熱なし(予熱フリー)で、高効率の大入熱溶接ができる溶接性の要求特性を満たすことができない。また、本発明では、Tiなどの含有により、緻密な「安定さび層」の形成が達成できるゆえ、Pの過度の含有は必要ない。したがって、本発明では、P含有量を極力低減することが必要で、P含有量低減の経済性も考慮して、その上限を0.03%未満とする。このP量の低減は、溶接性の向上にも寄与する。
【0028】
Crは、前記した通り、鋼のミクロな表面欠陥部内におけるpHの低下の原因となり、欠陥内での凝縮水分の酸化性を促進し、腐食を誘発する作用があり、鋼材の裸耐候性を低下させる。したがって、本発明ではCrを0.05% 未満に可能な限り含有量を少なくする。このCr量の低減は、溶接性の向上にも大きく寄与するものである。
【0029】
Tiは、前記した通り、本発明では、Crに代わる前記「安定さび層」の形成促進元素として重要な元素であり、Crの如き前記pHの低下の原因となるような耐食性への悪影響はない。また、Tiは鋼材組織の結晶粒微細化による生成さびの微細化、あるいは靱性向上や溶接性の向上効果も有する。即ち、Tiの含有によって、溶接部の冷却過程において強力なフェライト変態核となるTiC やTiN 等を鋼中に分散析出させ、溶接熱影響部の組織のフェライト微細化に大きく寄与する。Ti含有量が0.01%未満ではこの効果がなく、また1.0 %を越えてもその効果は飽和し経済的ではない。ただ、前記鋼材表面に生成した錆を、好ましくは、後述するX線回折法により求めた非晶質成分の分率が30wt%以上で、β−FeOOH 成分の分率が20wt%以下であるなど、鋼材表面に生成した錆を緻密なものにし、鋼材を塩分腐食環境下でも、塗装無しで使用できる耐食性を有するためには、好ましくは0.05%以上含有することが好ましい。またTiが0.5 %を越えると鋼の脆化が問題となる場合もあり、前記した通り経済的でもない。したがって、Ti含有量は 0.01〜0.5 %の範囲とする。
【0031】
また、Tiを鋼板の耐孔あき耐食性の向上のために添加することも、特開平7 −1971879 号や特公平7 −11058 号、あるいは特開平3 −253541号公報などで提案されている。しかし、これらは主として自動車用などの極低C 鋼を対象にしたものであり、チッピング等の鋼材の塗装皮膜が損傷した際の、鋼母材の孔あき腐食発生を防止しようとするものである。したがって、本発明の無塗装で使用される鋼材表面の全面腐食を抑制する耐候性とは、対象とする鋼板用途や目的とする耐食性内容やメカニズムが相違し、本発明におけるTiを前記「安定さび層」の形成促進元素として用いる技術思想は無い。
【0032】
Caは、耐食性をより向上させる元素であり、また溶接性の向上効果も有する。Caの耐食性向上の作用の1 つは、耐食性に有害なSを固定して、鋼マトリックスを清浄化することである。また、更に他の作用として、鋼中に微量固溶したCaが鋼表面やミクロ的な欠陥部での腐食進行過程において、鉄の腐食反応に伴い微量溶解してアルカリ性を呈する。したがって、腐食 (アノード) 先端部の溶液pH緩衝効果を有し、腐食先端部での腐食を抑制する効果を有する元素である。これらは、前記Crのような溶解時にpHを下げる元素の作用とは全く逆の作用を持っている。したがって、CaをTiと併用すると、本発明のCrの低減効果やTiなどの「安定さび層」の形成促進効果と合わせ、裸耐候性などの耐食性向上の相乗効果が生じる。この相乗効果は、Caの含有量が0.0001%未満ではこの効果が発揮されないが、過度に含有しても、その効果は飽和し、経済的ではない。特にCaは、過度に含有されると、鋼の清浄度を悪くし、耐候性鋼材の製造時、特に製鋼中の炉壁を損傷する可能性も有している。したがって、Caの含有量は0.0001〜0.01%の範囲とする。
【0033】
Sが0.02%を越えて含有量されると、腐食の起点となるFeS 、MnS が鋼中に多量に生成して、裸耐候性などの耐食性劣化を招くおそれがある。また、前記した通り、Niを過剰に含有した場合に、Sとの反応により、溶接金属の粒界に低融点のNiS化合物を析出させ、凝固金属の粒界の延性を劣化させやすくなる。この点、S含有量を0.02%以下とすれば、前記低融点のNiS化合物を析出させずに、Niをより多量に含有することが可能になる。例えば、Sが0.02%を越えた場合には、Niの上限値は3.0 %とすべきであるが、S含有量を0.02%以下とすることにより、前記した通り、Niを6.0 %まで含有することが可能となる。したがって、S含有量は0.02%以下、好ましくは0.01%以下、更に好ましくは0.005 %以下の範囲とする。
【0034】
更に、本発明では、鋼材の炭素当量A (%) を0.20以下 [但し、炭素当量A =C +Si/22 +Mn/6+P/10−Cu/20 −Ni/15 +Cr/2−Ti/2−Ca−Al/35(%)] と低く規定する。これは、特に少数主桁橋梁などの構造物用の鋼材の優れた耐候性とともに、板厚が厚くても溶接性を確保するためである。より具体的には、50mm厚み以上、あるいは更に80mm厚み以上の厚板でも、予熱なしに、しかも溶接割れ等の溶接不良を生じないで、入熱量5KJ/mm以上、場合によって100 乃至300KJ/mm以上の大入熱溶接などの高効率溶接施工を可能とする溶接性を確保するためである。この鋼の低炭素当量化は、鋼マトリックスの焼入れ性を低下させ、溶接時の溶接熱影響部の組織のフェライトの微細化にも有効である。したがって、鋼材の炭素当量A (%) が0.20を越えた場合には、溶接性が悪くなり、50mm厚み以上の厚板で、予熱なしに入熱量5KJ/mm以上の大入熱溶接などの高効率溶接施工ができなくなり、本発明が特に対象とする少数桁橋梁用途には使用できなくなる。
【0035】
なお、50mm厚み以上、あるいは更に80mm厚み以上の厚板の前記溶接性を確実に確保乃至より溶接性を向上させるために、鋼材の厚みが50mm厚み以上の場合には前記炭素当量A (%) を0.19以下とする、鋼材の厚みが80mm以上の場合には前記炭素当量A (%) を0.18以下とすることが好ましい。更に鋼材の厚みが100mm 以上の場合には前記炭素当量A (%) を0.16以下とすることがより好ましい。
【0036】
通常、鋼材の溶接性は、板厚によって大きく変わり、板厚が大きいほど溶接性が悪くなる。また、鋼材の耐候性と溶接性も往々にして相矛盾する課題であり、合金元素を添加して耐候性を向上させようとすると、溶接性が犠牲になる。しかし、本発明では主として耐候性の観点からCr、Pを低減しているが、これが溶接性を向上させる結果にもつながっており、前記相矛盾する課題である鋼材の耐候性と溶接性とを共に改善向上させている。
【0037】
本発明における、前記炭素当量A は、日本溶接工業規格の炭素当量Ceq [ 炭素当量Ceq=C +Si/24 +Mn/6+Cr/5+Mo/4+Ni/40 +V/14(%)]に基づき、本発明独自の前記炭素当量A として設定している。これは、本発明の成分組成範囲内外の鋼材について試験し、裸耐候性と溶接性の両方から評価した結果、各含有元素の作用が、従来の炭素当量Ceq の考え方と異なる部分があり、本発明の成分組成範囲内の鋼について、裸耐候性と溶接性とを兼備させるために、これを改良する必要があることを知見したためである。例えば、Cu、Niは、従来の炭素当量Ceq では溶接性を阻害する元素であるが、本発明では、裸耐候性の向上に寄与するとともに、逆に溶接性を改善する効果もある。また、Ti、Ca、Alは、従来の炭素当量Ceq では考慮されていないが、溶接性を改善する効果もある。更に、P も、従来の炭素当量Ceq では考慮されていないが、溶接性を阻害する。したがって、本発明では、これらの元素の裸耐候性と溶接性の両方の作用を加味して、前記炭素当量A[但し、炭素当量A =C +Si/22 +Mn/6+P/10−Cu/20 −Ni/15 +Cr/2−Ti/2−Ca−Al/35(%)] を規定した。
【0038】
次に本発明鋼材の選択添加元素について説明する。
Alは、鋼表面に生成するさびを緻密化して、「安定さび層」の形成を促進し、裸耐候性を向上させる効果を有する。また溶接性の向上効果も有する。この裸耐候性を向上効果はTiと複合添加することにより一層増す。したがって、本発明鋼材の裸耐候性などの耐食性をより一層向上させる場合には、Alを0.05〜0.50%の範囲で含有させる。また、Alは、溶鋼の脱酸元素として、固溶酸素を捕捉するとともに、ブローホールの発生を防止して、鋼の靱性の向上のためにも有効な元素である。Al含有量が0.05%未満では、これらの十分な効果が得られず、一方、Al含有量が0.50%を超えても、裸耐候性などの耐食性向上効果は飽和し、逆に、溶接性を劣化させたり、アルミナ系介在物の増加により鋼の靱性を劣化させる。
【0039】
La、Ce、Mgは、裸耐候性などの耐食性をより向上させる観点から選択的に含有させる。これらの元素は、鋼表面やミクロ的な欠陥部での腐食進行過程において、鉄の腐食反応に伴い微量溶解してアルカリ性を呈する。したがって、腐食 (アノード) 先端部の溶液pH緩衝効果を有し、腐食先端部での腐食を抑制する効果を有する元素である。これらは、前記Crのような溶解時にpHを下げる元素の作用とは全く逆の作用を持っている。したがって、本発明の、Crの低減効果やTiなどの「安定さび層」の形成促進効果と、併用すると、より一層の裸耐候性などの耐食性向上の相乗効果が期待できる。この相乗効果は、La、Ce、Mgの内1種含有していれば発揮されるし、勿論2種以上を含有しても良い。そして、各々の含有量が0.0001%未満ではこの効果が発揮されないが、過度に含有しても、その効果は飽和し経済的ではないし、鋼の機械的性質も悪くする。したがって、各々の含有量は、La:0.0001〜 0.05 %、Ce:0.0001〜 0.05 %、Mg0.0001〜0.05%の範囲とする。
【0040】
また、本発明で、より好ましい条件として規定する鋼材表面に生成した錆の、X線回折法による非晶質度は、耐候性鋼材表面のさびが、緻密な「安定さび層」で、鋼材の耐食性を、 1年間大気暴露 (週 1回の5%塩水散布を含む) 後の鋼材の平均板厚減少量が0.8mm 以下、より好ましくは0.5mm 以下とするさびであるかどうかの重要な目安となる。そして、緻密な「安定さび層」か否かの目安としてさびの非晶質度 (非晶質度合い) が重要となる。即ち、鋼材表面に生成する鉄さびの主要な成分は、α−FeOOH 、β−FeOOH 、γ−FeOOH およびFeの結晶性のさびと、非晶質のさびとの5 種類からなる。この内、非晶質のさびは、緻密な「安定さび層」を形成し、鋼材の長期の裸耐候性を保障する。したがって、鉄さび中の非晶質のさびの割合 (非晶質度) が高いほど、また、結晶性のさび成分の内でも特に腐食を促進しやすいβ−FeOOH の割合が少ないほど、緻密な「安定さび層」と言える。
【0041】
そこで、この非晶質度を測定する手段として、「腐食防食 95 C −306(341 〜344 頁) 」の「粉末X 線回折法による鉄錆成分の定量化およびその応用」に開示された粉末X 線回折法が有効である。この文献では耐候性鋼材を対象に粉末X 線回折法により、鋼材表面の前記鉄さび成分の定量化を試み、鉄さび中の非晶質のさびの割合 (非晶質度) が高いほど、緻密な「安定さび層」となる耐食性改善モデルを裏付けている。そして、より具体的な粉末X 線回折法として、同文献では、内部標準として一定重量比のCaFあるいはZnO などを鋼材から採取したさび試料に混合し粉末化したものを通常のX 線回折法により同定し、前記5 種類のさびの各々の固有の回折ピークの積分強度比と、予め求めた各々のさび成分の検量線から、各々の結晶性のさび成分の定量化を行い、さびの合計量からこれら各々の結晶性のさび成分量を差し引いて非晶質成分の割合を算出している。これは、非晶質成分自体の回折ピークの積分強度比が求めにくく、定量化しにくいためである。
【0042】
因みに、同文献にも開示されている通り、X 線回折法以外の、赤外分光分析法などの他の分析法では、さび成分の定性的な分析は可能であるものの定量的な分析は困難であり、さび成分の確率された定量分析法が無い。したがって、本発明で言う鋼材表面のさびの非晶質度とは、このX 線回折法、特に前記文献に開示された粉末X 線回折法により定量的に測定したものを言う。
【0043】
本発明では、鋼材表面のさびを、裸耐候性が優れ、鋼材の裸使用が可能な、緻密な「安定さび層」とするために、このX線回折法により求めた鋼材表面のさびの非晶質成分の分率が30wt%以上で、β−FeOOH 成分の分率が20wt%以下と規定する。さびの非晶質成分の分率が30wt%未満、およびβ−FeOOH 成分の分率が20wt%を越える場合には、前記α−FeOOH 、β−FeOOH 、γ−FeOOH およびFeの結晶性のさび成分が多くなり、鋼材表面のさびが緻密な「安定さび層」を形成していないので、鋼材の無塗装使用などの優れた裸耐候性を保証出来なくなる。また、より裸耐候性を向上させ、鋼材の裸使用をより確実に補償するために、鋼材表面のさびの非晶質成分の分率が40wt%以上で、β−FeOOH 成分の分率が10wt%以下とすることがより好ましい。
【0044】
本発明の緻密な「安定さび層」を形成する方法について、本発明鋼材は、特に積極的に処理せずとも、また、塩水や融雪塩が飛来するなどの塩分腐食環境下であっても、橋梁などの構造材として使用中に、緻密な「安定さび層」が生成する点が、大きな利点である。しかし、確実な裸耐候性などの耐食性を保障する品質保証の観点から、鋼材を製造後、必要により酸洗等の前処理を施した後、酸化ポテンシャルを制御したガスなどの雰囲気中で熱処理する、あるいは、燐酸塩やクロメートや酸化剤などの薬剤により化学的に表面処理し、鋼材の製造過程中で生成しているさびを非晶質化するなどの処理を行って、積極的に緻密な「安定さび層」を形成しても良い。通常、この種の鋼の無塗装使用乃至裸使用とは、防錆塗料などの塗り替え塗装が施されないで使用される意味であり、鋼表面が完全な裸の状態で使用される場合のみではなく、前記燐酸塩やクロメートや酸化剤などの薬剤によるさび流出の防止処理や簡易塗装剤により表面処理される場合を含む。したがって、本発明で言う無塗装使用乃至裸使用の意味も、鋼表面が完全な裸の状態で使用される以外に、前記表面処理される場合を含んでいる。
【0045】
したがって、前記鋼材表面のさびの非晶質度合いを求める対象鋼材としては、例えば実際に橋の構造材として使用される前の鋼材であっても、あるいは、1 年間大気暴露 (週 1回の塩水散布を含む) した鋼材であっても、また実際に橋の構造材として使用された後の鋼材であっても良い。
【0046】
更に、本発明の鋼材組織については、基本的にはフェライト+パーライトの混合組織であるが、例えば橋梁の構造材としての必要強度390 〜630N/mm級、乃至それ以上の強度や靱性を確保し、また、優れた裸耐候性を有するためには、フェライト量が90%以上であることが好ましい。フェライト量が多くなり、鋼組織がフェライト相単層に近づくほど、鋼組織自体がミクロ電池を作りにくく、裸耐候性などの耐食性が向上する。したがって、鋼材組織は、95%以上のフェライト量とするのがより好ましい。
【0047】
次に、本発明鋼材の製造方法を説明する。本発明鋼材は、通常の厚鋼板の製造方法により製造可能である。即ち、鋼の連続鋳造や造塊法による溶製後、分塊圧延乃至熱間鍛造や、厚板圧延などの熱間加工を行い、所定の製品板厚に製造される。なお、これら熱間加工条件や熱間加工後の冷却や熱処理の条件は、鋼材の、例えば橋梁の構造材としての、390 〜630N/mm級乃至それ以上の強度などの機械的性質の要求や仕様に応じて、適宜決定される。したがって、通常の熱間加工の他に、溶接性を保障する低合金化乃至低炭素当量化を確保した上で、前記強度等の機械的性質を確保し、本発明の鋼材組織を、好ましくはフェライト量が90%以上とするために、熱間加工後の加速冷却などの強制冷却や制御圧延が施されても良い。また、熱間加工後の熱処理も、必要により、圧延オンラインでの直接焼入れ(DQ)やオフラインでの焼入れ焼戻し(QT)などが適宜施される。
【0048】
【実施例】
次に、以上説明した本発明鋼材の各要件の意義について、実施例を挙げて説明する。表1 、2 に示す化学成分、炭素当量などを有する鋼塊を各々溶製し、これら鋼塊を熱間圧延後加速冷却による強制冷却して厚鋼板を製造した (表1 、2 の内、比較例No.3の板厚は16mmで、比較例No.1、2 、4 〜7 、30の板厚は30mm、本発明例の板厚は全て50mmとした) 。これらの厚板について、週1 回の塩水散布を含む1 年間の大気暴露試験を行い、その長期耐久性を評価した。その結果を表3 に示す。なお、塩水噴霧試験等の比較的短期間の腐食促進試験があるなかで、あえて1 年間の大気暴露試験を行ったのは、本発明鋼材の用途が、特に塩分腐食環境下の橋梁等の構造材であるため、この実際の使用条件下の腐食に適合した試験でないと、正確な評価ができないためである。
【0049】
表3 において、1 年間の大気暴露試験の条件は、実際の塩分腐食環境下に合わせて、週 1回の5%塩水散布を行い、供試材は南向き、水平に対し30°の傾斜で設置した。この大気暴露試験の後、供試材の鋼材の外観評価、平均板厚減少量、鋼材表面の生成さびの非晶質度を各々測定し、総合評価( ◎○△×) を行った。なお、表3 において、非晶質のさび成分の分率はA :0〜30wt% 、B:31〜40wt% 、C:40wt% 以上で示している。
【0050】
具体的な評価試験の方法は、供試材の鋼材の平均板厚減少量は、大気暴露試験の前後での供試材の平均板厚をマイクロメーターで測定し、密度を考慮して平均板厚減少量(mm)を算出した。また、非晶質度を測定する手段としては、前記「腐食防食 95 C −306(341 〜344 頁) 」に開示された粉末X 線回折法により行い、内部標準として一定重量比のZnO を鋼材から採取したさび試料に混合し粉末化したものをX 線回折法により同定し、前記α−FeOOH 、β−FeOOH 、γ−FeOOH およびFe の5 種類の結晶性さびの各々の固有の回折ピークの積分強度比と、予め求めた各々のさび成分の検量線から、各々の結晶性のさび成分の定量化を行い、さびの合計量からこれら各々の結晶性のさび成分量を差し引いて非晶質成分の割合(%) を算出した。
【0051】
また、表1 、2 に示す供試鋼材の一部 (比較例No.1〜3 、発明例No.24)を、熱間圧延後加速冷却乃至直接焼入れして、16〜100mm まで板幅および強度を変えた厚板とした。これらの鋼板を基本的に予熱すること無しに大入熱溶接し、溶接部について、高温割れ、低温割れ、引張強さ(N/mm) 、靱性、外観を評価し総合評価 (◎○△×) を行った。これらの結果を表4 に示す。特に発明例鋼材No.24 は、板厚と引張強さを種々変えたものを7 例準備して試験した。大入熱溶接は、入熱量35KJ/cm のサブマージアーク溶接法により行った。具体的な評価試験の方法と条件は、供試鋼材の高温割れ率は、JIS 規格で制定されているC 型ジグ拘束突き合わせ溶接割れ試験 (高温割れ試験) で行った。供試鋼材の低温割れは、JIS 規格で制定されている斜めY 型拘束突き合わせ溶接割れ試験 (低温割れ試験) にて割れの発生を防止できる供試材の予熱温度で評価した。靱性は、溶接継手ボンド部の−40℃における吸収エネルギーvE−40(N/mm)で評価している。なお、表1 、2 の供試鋼材のNo.( 表の略号) は、各々表3 、4 のNo. ( 表の略号) に対応している。
【0052】
以下に、表1 、2 の供試鋼材について、表3 、4 を用いて評価結果を説明する。表1 のNo.1は普通鋼、No.2、3 は従来の耐候性鋼の各々比較例であり、Cr量、P 量が本発明範囲よりも高くはずれており、Tiの含有も無い。このため、表3 に示す通り、いずれもさびの非晶質度が悪く(A) 、鋼材表面の外観評価が悪く、平均板厚減少量も1mm 以上と大きく裸使用での耐候性が劣っている。更にこれらは本発明の炭素当量A が0.20を越えており、表4 に示す通り溶接性も悪い。具体的には、16〜30mmの比較的板厚の小さい厚板のレベルでも、高温割れ率はまだしも、予熱なしでは低温割れが生じ、この割れの発生を防止するための予熱が必要である。更に、溶接継手ボンド部の靱性も極端に低い。
【0053】
また、表1 の比較例No.4はC 量が、比較例No.7はCr量やP 量が、各々本発明範囲よりも高くはずれており、Tiの含有も無く、いずれも鋼材表面のさびの非晶質度が悪い(A) 。したがって、表3 に示す通り、平均板厚減少量も1.37mmと大きく、鋼材の裸使用で必要な裸耐候性が劣っている。更に表1 の比較例No.5、6 はP 量が本発明範囲よりも高くはずれており、Tiの含有も無く、いずれも鋼材表面のさびの非晶質度が悪い(A) 。したがって、表3 に示す通り、平均板厚減少量も1.44〜1.79mmと大きく、裸使用での耐候性が劣っている。また、これら比較例No.4〜7 は、本発明の炭素当量A が0.20を越えており、比較例No.1〜3 と同様に溶接性も劣る。更に、比較例No.30 は、表1 に示す通り、S 量が本発明範囲よりも高くはずれており、Ni量も比較的高く、熱間圧延中に高温脆化割れを起こしたため、製造できなかった。
【0054】
これに対し、表1 、2 の発明例No.8〜29は、選択的添加元素としてAlを含むNo.15 、17、22〜25、Ce、Laを含むNo.20 、21、Mgを含むNo.26 、或いはNi量が比較的高いNo.27 〜29を含めて、表3 に示す通り、さびの非晶質度が良く(B〜C)、このため鋼材表面に緻密な「安定さび層」が形成され、外観評価も良く、平均板厚減少量も0.8mm 以下と小さく、裸使用での耐候性が優れている。そして、特に本発明例の中でも、Cr量やP 量が低い場合でも、Ti量が0.05% 以上と多い発明例No.10 〜12、17、19〜21、23の方が、Ti量が0.04% 以下の発明例No.13 、14よりも裸耐候性が優れている。そして、本発明例の中でも、Cr量が比較的高いNo.8、9 、15、16、18、22の方が、Cr量がより低い( 分析結果はトレース) 他の本発明例No.10 〜12、17、19〜21、23〜26よりも、さびの緻密度 (非晶質度) が劣り(B、C)、裸耐候性が劣っている。したがって、本発明におけるCr量やP 量の規制とTi含有の重要性が裏付けられる。また、Ni量が比較的高い発明例No.27 〜29も、S 量が低いために、熱間圧延中に高温脆化割れを起こすことなく製造することができ、かつ特性も他の発明例と同様に良好であった。なお、表3 において明示していないが、比較例No.1〜7 の鋼材表面のさびは、いずれもβ−FeOOH の結晶性さび成分の割合( 分率) が20wt% を越えているのに対し、発明例No.8〜26は、いずれもβ−FeOOH の結晶性さび成分の割合が20wt% 以下である。
【0055】
また、表4 から明らかな通り、表1 の発明例鋼材No.24 は、50〜100mm の比較的板厚の大きい厚板のレベルでも、また610 〜630N/mm級の比較的強度の高い鋼板でも、溶接性に優れている。具体的には、高温割れも無く、低温割れ防止予熱温度が25℃以下であり、予熱なしでも大入熱溶接が可能であることが分かる。更に、比較例に比して、強度も高く溶接継手ボンド部の靱性も著しく高い。
【0056】
図1 に、表1 、2 のNo.1〜25の供試材の、本発明で規定する炭素当量A と溶接性との関係を整理した結果を示す。図1 において、●印は表3 、4 の裸耐候性や溶接性を含めた総合評価が悪いことを示し、○印はこの総合評価が良いことを示している。図1 から明らかな通り、本発明で規定する炭素当量A が0.20の点で、溶接性の良し悪しが別れ、本発明で規定する炭素当量A が0.20以下である点に臨界的意義があることが分かる。
【0057】
また、表1 、2 のNo.1、2 、17の供試材鋼表面に予めさびを形成するとともに、さび成分の内、特にβ−FeOOH の結晶性のさびと、非晶質のさびとの成分割合を前記酸化ポテンシャルを制御した熱処理により変えて積極的に非晶質のさびを設けた鋼材の裸耐候性について、各々のさびを形成した鋼材を 1年間大気暴露 (週 1回の5%塩水散布を含む) 後の鋼材の平均板厚減少量で評価した結果を、表5 に示す。なお、表5 において、非晶質のさび成分の分率はA :0〜30wt% 、B:31〜40wt% 、C:40wt% 以上で示し、β−FeOOH の結晶性のさび成分の分率はA :20wt%以上、B:10〜20wt% 、C:10wt% 以下で示し、鋼材の平均板厚減少量は○:0.5mm以下、△:0.5〜0.8mm 、×:0.8mm以上で示している。
【0058】
表5 から明らかな通り、表5 のテストNo.1〜6 の比較例では、β−FeOOH の結晶性のさびの割合 (分率) にかかわらず、非晶質のさび成分の割合が30wt% 未満のために、鋼材の平均板厚減少量が0.8mm を越えている。これに対し、テストNo.7〜12の発明例は、全て非晶質のさび成分の割合が30wt% 以上であるために、鋼材の平均板厚減少量が0.8mm 以下となっている。ただ、β−FeOOH の結晶性のさびの割合が20wt% を越えるテストNo.7の発明例は鋼材の平均板厚減少量が0.5 〜0.8mm であり、β−FeOOH の結晶性のさびの割合が20wt% 以下の他の発明例の鋼材の平均板厚減少量が0.5mm 以下であるのに比して、裸耐食性が若干劣っている。したがって、この結果から、本発明のより好ましい条件である鋼表面のさびの非晶質化と、β−FeOOH の結晶性のさびの抑制が、裸耐候性の点から重要であることが分かる。
【0059】
更に、表1 、2 のNo.1、2 、12、17の供試材鋼の組織のフェライト量を変えたものの裸耐候性について、鋼材を 1年間大気暴露 (週 1回の塩水散布を含む) 後の鋼材の平均板厚減少量で評価した結果を、表6 に示す。なお、表6 において、鋼材の平均板厚減少量は、表5 と同様、○:0.5mm以下、△:0.5〜0.8mm 、×:0.8mm以上で示している。表5 から明らかな通り、表5 のテストNo.1〜6 の比較例は全て鋼材の平均板厚減少量が0.8mm を越えており、裸耐候性に劣る。特にテストNo.1、2 の比較例では、フェライト量が90%以上であるにもかかわらず、鋼材の平均板厚減少量が0.8mm を越えており、これは、用いた供試材No.1、2(表1)の鋼材のPやCrの含有量が高く、本発明の範囲を上限にはずれているためである。一方、テストNo.7〜12の発明例では、フェライト量が90%以上であるテストNo.8、9 、11、12の発明例では鋼材の平均板厚減少量が0.5mm 以下であるのに比して、フェライト量が90%未満であるテストNo.7の発明例では平均板厚減少量が0.5 〜0.8mm であり、裸耐候性の向上に対しては、フェライト量が90%以上の方が有利であることが分かる。
【0060】
【表1】
Figure 0003568760
【0061】
【表2】
Figure 0003568760
【0062】
【表3】
Figure 0003568760
【0063】
【表4】
Figure 0003568760
【0064】
【表5】
Figure 0003568760
【0065】
【表6】
Figure 0003568760
【0066】
【発明の効果】
本発明によれば、特に塩分腐食環境下の少数主桁橋梁などの構造物として、無塗装で使用可能な優れた裸耐候性を有するとともに、予熱なしで、入熱量5KJ/mm以上の大入熱溶接などの高効率の溶接施工ができる厚板を提供することができる。したがって、特に、この種耐候性が優れた鋼の用途を新規に、しかも大幅に拡大するものであり、工業的な価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で規定する炭素当量A と鋼材の耐候性や溶接性の総合評価との関係を示す説明図である。

Claims (9)

  1. 質量%にて、C:0.15%以下、Si:0.10〜1.0 %、Mn:1.5 %以下、Cu:0.05〜3.0 %、Ni:0.05〜6.0 %、P:0.03%未満、Cr:Cr無添加を含む0.05%未満、Ti:0.01〜 0.5%、Ca:0.0001〜0.01%、S:0.02%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ炭素当量A (%) が0.20以下 [但し、炭素当量A =C+Si/22 +Mn/6+P/10−Cu/20 −Ni/15 +Cr/2−Ti/2−Ca−Al/35(%)] であることを特徴とする裸耐候性と溶接性に優れた厚板
  2. 前記元素の内、Ti:0.05〜 0.5%を含有する請求項1に記載の裸耐候性と溶接性に優れた厚板
  3. 前記元素の他に、更にAl:0.05〜0.50%を含有する請求項1または2に記載の裸耐候性と溶接性に優れた厚板
  4. 前記元素の他に、更にLa:0.0001〜 0.05 %、Ce:0.0001〜 0.05 %、Mg0.0001〜0.05%の内から1種又は2種以上を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の裸耐候性と溶接性に優れた厚板
  5. 前記厚板組織のフェライト量が90%以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の裸耐候性と溶接性に優れた厚板
  6. 前記厚板の表面に生成した錆の、X線回折法により求めた非晶質成分の分率が30wt%以上で、β−FeOOH 成分の分率が20wt%以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の裸耐候性と溶接性に優れた厚板
  7. 前記厚板が入熱量5KJ/mm以上の大入熱溶接性に優れる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の裸耐候性と溶接性に優れた厚板
  8. 請求項1乃至7のいずれか1項に記載された厚板を用いた橋梁。
  9. 請求項1乃至7のいずれか1項に記載された厚板を用いた溶接継ぎ手。
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