【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
本発明は、筋状欠点が少なく外観品位に優れ、 且つソフトな風合を有する、極細繊維よりなる布 帛の製造方法に関するものである。
【従来の技術】
従来より、極細繊維よりなる布帛の製造方法と しては、以下の如きものが知られている。例えば、 海島型繊維で構成された生地を作成し、この生地 中の海島型繊維の海成分を溶出させて島成分より なる極細繊維群を生成させて、極細繊維よりなる 布帛を製造する方法が知られている(特公昭60-7 723号公報)。また、ポリエチレンテレフタレー ト成分とナイロン6成分とよりなる分割剥離型繊 維で構成された生地を作成し、この生地をベンジ ルアルコールで処理し、ナイロン6成分を膨潤収 縮させてポリエチレンテレフタレート成分よりな る極細繊維群を生成させ、極細繊維よりなる布帛 を製造する方法が知られている(特公昭59-30419 号公報)。 しかしながら、上記のいずれの方法においても、 得られた布帛は筋状欠点を有しており、外観品位 が悪く、商品価値の低いものであった。
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、上記筋状欠点の生じる原因につ いて鋭意検討した結果、以下の如き結論に到達し た。即ち、海島型繊維や分割剥離型繊維から極 細繊維群が十分に生成せず、未分割状態の繊維が 存在すること、極細繊維群が十分に生成したと しても、この極細繊維群には混繊や交絡が殆どな く、整然と並んでいること、が原因であるという 結論に到った。つまり、未分割状態の繊維間では 間隙が大きかったり、或いは繊維が重なり合って おり、この部分では消光状態となる。そして、極 細繊維群が整然と並んでいる部分では、光沢状態 になる。その結果、光沢状態となった部分が筋状 欠点となるのである。 この筋状欠点をなくすためには、上記との 原因を取り除けばよい。このため、得られた布帛 に液流によるもみ効果を与え、未分割状態の繊維 を分割させ、更に整然と並んでいる極細繊維群に 乱れを生じさせることが考えられる。しかしなが ら、この方法では十分に分割をさせることができ ず、また極細繊維群に十分な乱れを生じさせるこ とができなかった。 また、加圧ロールを用いて、得られた布帛にカ レンダー加工し、未分割状態の繊維を分割させる ことも考えられる。しかしながら、カレンダー加 工で未分割状態の繊維を分割させると、未分割状 態の繊維部分に大きな圧力が加わり、この部分に 光沢が付与された。即ち、この方法によっても、 依然として筋状欠点をなくすことはできなかった のである。 そこで、本発明は、得られた布帛にある特殊な 収縮処理を施すことにより、筋状欠点を少なくし て外観品位に優れた、極細繊維よりなる布帛を提 供しようというものである。
【課題を解決するための手段及び作用】
即ち、本発明は、繊度0.8デニール以下の極細 繊維が接合されてなる分割型繊維を用いて生地を 作成した後、前記生地中の前記分割型繊維を分割 させて前記極細繊維群を生成させ、次いで得られ た布帛を弾性ベルトに積層すると共に加熱体に圧 接せしめて搬送し、収縮処理することを特徴とす る極細繊維よりなる布帛の製造方法に関するもの である。 本発明で用いる分割型繊維は、極細繊維が接合 されてなるものである。分割型繊維としては、従 来公知の種々のものが使用できる。特に、第1図 に示す如き楔状の極細繊維(1b)が接合剤(1a)で複 数接合されてなるものが好適に使用できる。この 分割型繊維から接合剤(1a)を除去すれば、分割型 繊維は分割され、極細繊維(1b)の束となるのであ る。なお、分割型繊維中における接合剤(1a)の割 合は、30重量%以下が好ましく、特に15〜25重量 %程度が最適である。接合剤(1a)の割合が、30重 量%を超えると、除去成分の割合が多くなり過ぎ て、最終的に得られる布帛の組織の緩みが大きく なり、組織ずれ等の欠点が生じる傾向となる。ま た、除去成分が多いと、生産コスト面でも不利に なる傾向が生じる。 極細繊維(1b)の繊度は0.8デニール以下である。 極細繊維(1b)の繊度が0.8デニールを超えると、 得られる布帛の柔軟性やソフトな感触が低下する ため、好ましくない。 極細繊維(1b)及び接合剤(1a)の組成としては、 従来公知のものが使用できる。本発明においては、 特に両者共ポリエステル系重合体を用いるのが好 ましい。即ち、極細繊維(1b)として、アルカリ溶 解性の小なるポリエステル系重合体を使用し、接 合剤(1a)としてアルカリ溶解性の大なるポリエス テル系重合体を使用するのが好ましい。アルカリ 溶解性の小なるポリエステル系重合体としては、 90モル%以上がエチレンテレフタレート構造単位 よりなるものが用いられる。また、アルカリ溶解 性の大なるポリエステル系重合体としては、ナト リウムスルホイソフタル酸1〜5モル%とポリア ルキレングリコール10〜30重量%とを含有するも のが用いられる。 本発明においては、分割型繊維を用いて生地を 作成する。この生地を作成する際、分割型繊維の みを用いてもよいし、また分割型繊維と共に分割 型繊維以外の繊維を用いてもよい。分割型繊維以 外の繊維としては、一般的に用いられているポリ エステル系繊維,ポリアミド系繊維,ポリアクリ ロニトリル系繊維等の合成繊維、アセテート繊維 等の半合成繊維、レーヨン繊維等の再生繊維、綿, 麻,羊毛等の天然繊維等を用いることができる。 生地としては、織物,編物,不織布等が採用で きる。織物や編物を作成するには、一般的に、多 数の分割型フィラメント繊維よりなるマルチフィ ラメント糸条、又はこのマルチフィラメント糸条 が仮撚加工された仮撚加工糸条、ニット・デ・ニ ット加工糸条、エアー処理加工糸条等が用いられ る。分割型繊維以外の繊維を、その一部に用いて 生地を作成する際には、分割型繊維が主として生 地の表面に配置されるようにするのが好ましい。 本発明においては、特に生地として織物を採用す るのが好ましく、更に分割型繊維で構成された糸 条が経糸に用いられ、緯糸に対して経糸が浮いた 朱子組織の織物を採用するのが最適である。 生地を作成した後、生地中の分割型繊維を分割 し、極細繊維(1b)群を生成させる。この分割手段 は従来公知の方法を採用しうる。例えば、第1図 に示す如き分割型繊維であって、極細繊維(1b)と してアルカリ溶解性の小なるポリエステル系重合 体を用い、接合剤(1a)としてアルカリ溶解性の大 なるポリエステル系重合体を用いた場合には、ア ルカリ水溶液中に浸漬処理することによって、接 合剤(1a)を溶解除去せしめて分割型繊維を分割さ せ、極細繊維(1b)群を生成させるのである。アル カリ水溶液中における浸漬処理は、具体的には0. 5〜1.5%苛性ソーダ水溶液(温度100℃)中に 30分間程度浸漬すればよい。 生地中の分割型繊維を分割させて布帛(2)を得た 後、この布帛(2)を弾性ベルト(3)に積層する。弾性 ベルト(3)としては、無端ゴムベルトが一般的に用 いられる。無端ゴムベルトは、複数のロール(4)に よって張設され、各ロール(4)の外周面に沿って搬 送されるものである。 そして、本発明においては、布帛(2)が弾性ベル ト(3)に積層されると共に加熱体(5)に圧接されて搬 送されるのである。加熱体(5)としては、一般的に、 加熱シリンダーロールや加熱ドラム等が用いられ る。加熱体(5)の加熱温度は、極細繊維(1b)の種類 にもよるが、一般的に80〜150℃程度である。極 細繊維(1b)としてポリエステル系重合体を用いた 場合には、加熱体(5)の温度は120℃前後に設定す るのが好ましい。 布帛(2)を弾性ベルト(3)に積層すると共に加熱体 (5)に圧接せしめて処理する装置としては、例えば 第2図に示す如き装置を用いることができる。ま た、第2図に示す装置において、弾性ベルト(3)の 裏側に弾性ロール(図示せず。)を付設し、この 弾性ロールが加熱体に圧接するようにしたものを 使用してもよい(特公昭42-13419号公報)。 布帛(2)を弾性ベルト(3)に積層すると共に加熱体 (5)に圧接せしめて処理すると、布帛(2)は弾性ベル ト(3)の表面の伸縮性に追随し、収縮処理される。 これにより、極細繊維(1b)が整然と並んでいる部 分が微小クリンプ状に固定されるのである。そし て、この微小クリンプ部分で、分割型繊維の分割 が進み、更に極細繊維(1b)に乱れが生じ、布帛(2) 上の筋状欠点が解消されるのである。 布帛(2)に収縮処理を行うのは、布帛(2)の染色前 であってもよいし、染色後であってもよい。本発 明においては、特に染色前に行うのが好ましい。 これは、染色前に収縮処理を行っておくことによ り、極細繊維(1b)に乱れを生じさせ、染色中に発 生する泡が布帛(2)中から抜けやすくなるためであ る。布帛(2)中に極細繊維(1b)が整然と並んだ部分 が存在すると、染色中に発生する泡が布帛(2)から 抜けにくくなる。泡が布帛(2)中に存在すると、染 色浴中で布帛(2)が浮いて絡んだり、リール上で泡 の存在する部分がダンゴ状になって引っ掛かり、 加工皺,スレ班,染班等の欠点が生じる恐れがあ るからである。
【実施例】
極細繊維成分としてポリエチレンテレフタレー ト4重量部を用い、接合剤成分として分子量6000 のポリエチレングリコール23重量%と5-ナトリウ ムスルホイソフタル酸グリコール2モル%との共 重合ポリエステル1重量部を用い、公知の複合紡 糸装置によって第1図に示す如き花弁8分割型複 合繊維を得た。この繊維を70d/48fのマルチフィ ラメント糸条とし、この糸条を経糸及び緯糸に用 いて、経密度185本/吋,緯密度110本/吋でサ テン生地を製織した。 この生地を、精錬を兼ねて接合剤成分を溶出除 去し、極細繊維群を生成させた布帛を得た。溶出 除去の条件は、液流染色機を用い、苛性ソーダ10 g/l,非イオン性界面活性剤1g/lを含んだ 液で、100℃,30分間の浸漬処理を行い、その後 水洗,乾燥した。この処理による生地の減量率は 21重量%であった。 次に、カムフィット加工機(上ノ山機工社製) を用いて、弾性ベルト上に布帛を積層し、加熱シ リンダー温度120℃,弾性ベルトの加熱シリンダ ーへの加圧変形率が30%となるような条件で布帛 に収縮処理を施した。なお、弾性ベルトの加熱シ リンダーへの加圧変形率は、加圧変形率=〔(弾 性ベルトの当初の厚み−弾性ベルトが加熱シリン ダーに圧接した場合の弾性ベルトの厚み)/弾性 ベルトの当初の厚み〕×100で表されるものであ る。実施例においては、弾性ベルトの当初の厚み が50mmであり、変形後の厚みが35mmであった。ま た、この収縮処理時における布帛の搬送速度は、 10m/分とした。 この収縮処理の結果、布帛は経方向に12%収縮 され、布帛の表面全面に微小クリンプが付与され、 いぶし銀調の布帛となった。そして、筋状欠点は 殆ど認められなかった。従って、この極細繊維よ りなる布帛は、外観品位に優れ、ソフトな風合及 び感触を有するものであった。 また、この布帛に染色処理を行ったが、染色浴 中において泡を原因とする事故は発生しなかった。 比較例 収縮処理を施さない以外は、実施例と同一の方 法で布帛を得た。 この布帛は、染色処理によってかなり揉まれた にも拘わらず、筋状欠点が認められ、外観品位の 低いものであった。
【発明の効果】
以上説明した如く、本発明に係る方法は、分割 型繊維を分割させて極細繊維よりなる布帛を得た 後、ある特殊な収縮処理を施すことにより、分割 型繊維の分割を更に進め、且つ極細繊維が整然と 並んだ部分に乱れを生じさせるというものである。 従って、分割型繊維が未分割状態であること及び 極細繊維が整然と並んでいることによる、布帛表 面の筋状欠点が除去できるという効果を奏する。 従って、本発明に係る方法で得られた、極細繊 維よりなる布帛は、外観品位に優れ、且つソフト な風合或いは感触を有するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明において使用する分割型繊維 の一例を示す模式的横断面図である。第2図は、 本発明における収縮処理で使用する装置の一例を 示す概略図である。 (1b)…極細繊維,(2)…布帛,(3)…弾性ベルト, (5)…加熱体
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