JP3985613B2 - ナイロン短繊維構造物およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軽量かつソフトな風合いで抗ピル性に優れた中空ナイロン短繊維構造物とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、中空のポリアミド系繊維の技術は種々検討されている。例えば、単一繊維内にポリエステル系成分とカルボキシル基を有するポリアミド系成分を複合してなる改質繊維のポリエステル系成分を除去してなる中空ポリアミド系繊維が特開昭56−37312号公報で開示されている。また、中空率が30%以上で、吸水率3%以上の耐アルカリ性ポリマーからなる中空繊維が特開平7−278947号公報に示されている。更に、中空繊維の製造法として、ポリアミドからなる鞘部とポリエステルからなる芯部を有する複合繊維を加熱アルカリ水溶液で処する方法が特開平3−124857号公報に開示されている。しかしながら、これらに中空繊維を短繊維として衣料用布帛に使用した場合、実着用での擦れなどによるピリングが発生するため実用化はされていない。
【0003】
一方、短繊維編織物は従来より、着用時の摩擦などによるピリングが発生する欠点がある。ピリング改善には、数々の改善方法が提案されているが、布帛の仕上工程で硬仕上げ樹脂を使用した場合、ピリング性は向上するものの風合いが硬化するなどの問題が生じる。また、繊維にダメージを与え強度を落として、ピリング発生を防止する方法も提案させているが、かかる方法は、工程が増えるし、実用的ではない。この点は、かかる技術を中空短繊維布帛に採用した場合も同様に実用的ではない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、従来得ることのできなかった、軽量で、ソフトなしっとり感のある独特な風合いを有する上に、抗ピル性に優れたナイロン短繊維構造物とその製造方法を提供せんとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明のナイロン短繊維構造物は、ナイロン短繊維で構成されてなる繊維構造物であって、該ナイロン短繊維の少なくとも一部が中空ナイロン短繊維であり、かつ、該ナイロン短繊維の繊維表面にセラミックスが付着しており、JIS L−1076 6.1A法に基づいて測定したときの抗ピル性が3級以上であることを特徴とするものである。
【0006】
また、かかるナイロン短繊維構造物の製造方法は、鞘成分がポリアミドで、芯成分がポリエステルである複合繊維で構成されてなる紡績糸を用いて繊維構造物を形成した後、該繊維構造物をアルカリ水溶液で処理して該複合繊維の芯成分を除去し、次いで、該繊維構造物の表面にセラミックスを付与することを特徴とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、つまり従来得ることのできなかった、軽量で、ソフトなしっとり感のある独特な風合いを有する上に、抗ピル性に優れたナイロン短繊維構造物について、鋭意検討し、特定な複合繊維からなる紡績糸を用いて、繊維構造物を形成し、これを中空繊維化処理した、特定な繊維構造物の繊維表面にセラミックスを付着せしめてみたところ、前記課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、中空ナイロン短繊維を使用してなる布帛の繊維表面にセラミックスを付与することによって、軽量かつソフトな風合いで、優れた抗ピル性を有する繊維構造物を実現したものである。
【0009】
本発明において、ナイロン短繊維とは、ポリヘキサメチレナジパミド(ナイロン66)やポリε−カプラミド(ナイロン6)からなるポリアミドが好適であるが、セバシン酸、イソフタル酸、パラキシレンギアミドなどを構成成分とするポリアミドあるいはこれらの共重合ポリアミド等を用いてもよい。
単糸繊度は特に制約はないが、紡糸の安定性の面から0.5デシテックス以上が好ましい。繊維長は限定されるものではないが、ポリエステルの除去効率の面から10cm以下が好ましい。
【0010】
本発明における繊維構造物とは、織物、編物および不織布などをいい、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、綿、麻、ウールなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維やテンセルなどとの混紡、交撚、交織、交編などを施したものも含まれるが、これらに限られるものではない。
【0011】
本発明では、抗ピル性の面から抗ピル剤としてセラミックが用いられる。
【0012】
本発明において使用される複合紡績糸は、少なくともその一部が芯鞘複合繊維の原綿からなるものであり、その鞘成分はポリアミド系ポリマー、芯成分はポリエステル系ポリマーで構成されている複合原綿を用いるものである。
【0013】
本発明において、鞘部を構成するポリアミドとしては、ポリヘキサメチレナジパミド(ナイロン66)やポリε−カプラミド(ナイロン6)からなるポリアミドが好適であるが、セバシン酸、イソフタル酸、パラキシレンギアミドなどを構成成分とするポリアミドあるいはこれらの共重合ポリアミド等を用いてもよい。
【0014】
また、芯部を構成するポリエステルとしては、染色加工工程にてアルカリ処理を行い溶出除去する関係上、易溶性ポリマーであることが重要である。
【0015】
かかる易溶性ポリエステルとしては、例えば、スルフォン化芳香族ジカルボン酸変性ポリエステルであり、スルフォン基を有する化合物がポリエステルの連鎖または末端の一部に含まれた変性されたポリエステルを用いることができるものである。より具体的には、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリブチレンテレフタレート、あるいはこれらを主成分とする共重合ポリエステルなどにスルフォン化芳香族ジカルボン酸、あるいはその塩を共重合させてなる変性されたポリエステルなどを用いることが好ましいものである。
【0016】
鞘部と芯部の複合割合(重量%)は、軽量性および風合い面から重要である。その芯鞘複合割合は、芯:鞘=25:75〜60:40の範囲であるのが好ましい。より好ましくは、芯:鞘=30:70〜50:50の範囲内である。
【0017】
芯鞘複合割合の大小は、原綿、紡績糸および布帛の形体でアルカリ処理によって溶出し繊維に中空構造を形成するものであるので、芯成分の比率が大きい、すなわち、中空率が大きくなれば軽量性は向上するものの、布帛の状態で物理的な力が加われば容易に中空構造は変形する傾向となる。一般に、該変形した部分は、扁平状を呈し、所望の機能・特性を発揮することができない方向となる。かかる点から、芯成分の比率は60%以下が好ましいものである。逆に、芯成分の比率が小さければ中空構造は変形し難くなるが、所望の機能・特性を発揮することが難しい方向となる。芯成分の比率の好ましい下限値に関して、芯成分比率が小さすぎる場合、芯成分を溶出除去させる工程中において鞘部内を薬液が浸透して分解物を除去するに長時間を要することになるので、この点から芯成分比率は25%以上であることが好ましい。
【0018】
また、芯成分は完全に除去されていることが好ましいが、一部溶解除去されずに残っていても、つまり一部複合繊維のままである部分が存在しても差し支えない。
【0019】
複合繊維(原綿)の繊維断面形状は、特に限定されるものではないが、同心円状の芯鞘複合形態が代表的であり生産上好ましいが、芯鞘が相対的に偏心しているものや、全体が三角形状、もしくは四角形状などの多角形状や楕円形状のものなどであってもよい。また、芯が、単一の芯でなく多芯状のものでもよい。
【0020】
紡績工程において、上述の原綿を100%で使用することが、本発明の本来のねらいである軽量かつソフトな風合い性などの特性を十分に発揮する上でより効果的であるが、本発明にかかる繊維構造物は、該原綿100%使いのものに限られず、他の原綿との混紡品やあるいはフィラメント糸との精紡交撚(いわゆる長短複合紡績糸)品であっても良く、いずれにあっても従来技術では得られない特徴あるナイロンスパン織編物商品を創出できるものである。
【0021】
この際に、芯成分をアルカリ処理により溶出するため、アルカリに対して耐久性のある素材との組合せを考慮することが実際的である。紡績工程における紡績糸製造条件は、通常のポリエステルやポリアミド繊維使いの場合と基本的に特に変わることはない。
【0022】
製織工程は、通常の短繊維織物と同様の工程で行えばよい。使用できる織機は特に限定されず、エアージェット織機、レピア織機などの革新織機にも充分対応が可能である。
【0023】
不織布工程は、短繊維不織布を製造する通常の工程で行えばよい。たとえばニードルパンチなどを使用することができる。
【0024】
芯部の変性ポリエステルなどポリエステル成分を溶出除去するためのアルカリ処理には、例えば、苛性ソーダ、苛性カリなどを用いればよい。その処理条件は、芯鞘複合比率や布帛を構成する該原綿の混用比率などによっても相違するが、一般的には苛性ソーダ濃度は10〜80g/リットル、処理温度は80〜120℃の条件を用いればよい。また、減量促進剤を使用すると短時間でのポリエステル成分を除去することができる。染色はポリアミド染着のための通常用いられる染料及び染色条件を採用すればよい。ピリング改善の点から天然タンニン酸や合成タンニンなどのFIX剤を1〜5%sol.で使用することが好ましい。
【0025】
セラミックスの付与方法は浴中処理、パディング処理またはコーティング処理などを適用することができる。セラミックスの付着量は繊維構造物の形体により異なるが、繊維重量に対して0.01〜5.0重量%が好ましい。セラミックスの付着量が0.01重量%以下ではピリング改善が不十分であり、5.0重量%以上では風合いが粗硬となる。また、洗濯耐久性や風合い調整の面から、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などを添加することが可能である。特にメラミン樹脂は洗濯後のピリング防止に有効である。布帛を構成する繊維素材により異なるがメラミン樹脂の使用量は0.01〜0.5重量%の範囲が洗濯耐久性と風合いの点から好ましい。セラミックスの付着状態としては、布帛内部の繊維束の繊維1本、1本の表面に均一に付着していることが好ましい。布帛の表層部のみに付着している場合や繊維表面に部分的に付着している場合は抗ピル性が充分に発揮されず、洗濯後の抗ピル性の面でも好ましくない。
【0026】
本発明により得られる中空ナイロン繊維構造物は、軽量でかつしなやかな風合いを持ち、良好なピリング性を兼ね備えた特徴から、スポーツやカジュアル用途などに好適に用いられ、その機能特性を十分に発揮できるものである。
【0027】
本発明の抗ピル性とは、摩耗による毛玉および毛羽立ちの少ない性質として定義される。評価方法はJIS L−1076 6.1 A法に準じて行うことができる。判定はJIS L−1076 7.2に表示されているピリング判定基準写真1と表2の判定基準表とを用いて等級判定用する。抗ピル性3級以上とは、ピルの発生が標準写真の3号程度のものを含み、3級よりピルの発生の少ないものとして定義される。
【0028】
【実施例】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。実施例での評価方法を次に示す。
(1)ピリング:
JIS L−1076 6.1 A法(ICI形試験機を用いる方法)により評価する。
【0029】
判定は、JIS L−1076 7.2に表示されているピリング判定標準写真1と表2の判定基準表とを使用して決定する。
【0030】
実施例1
芯成分に5−ナトリウムスルフォイソフタル酸ジメチルを8.0モル%共重合したポリエステルを用い、鞘成分にナイロン66を用いて、芯鞘複合割合(重量%)を芯:鞘=45:55として、紡糸速度1300m/分で紡糸した後、3.0倍で通常の延伸を行い、捲縮付与後、カットして、単繊維繊度1.7dtex、繊維長38mmの複合繊維からなる複合繊維原綿を得た。
【0031】
続いて、この複合繊維原綿100%を用いて、通常の紡績方式で0.76番手の粗糸を作り、精紡ドラフト約21倍、撚数16.1t/インチ(吋)、綿番手16sの複合紡績糸を製造した。
【0032】
この紡績糸を経糸と緯糸に使用して、織上密度タテ101本/吋×ヨコ82本/吋、織物組織を斜子織とし、エアジェットルームにて製織した。
【0033】
こうして得られた生機を染色加工において、精練、リラックス後、苛性ソーダ水溶液50g/リットルの濃度とし、処理温度110℃、処理時間60分、液流染色機を用いて芯のポリエステル成分の溶出除去を行った。
【0034】
引き続き、通常のナイロン染色100℃、45分で染色を行い、乾燥後、CLX-1000(共栄社化学(株)製:抗ピル剤)30g/リットルの水溶液に浸漬し、絞り率60%で処理した後、乾燥、仕上げ処理した。仕上げ後の密度は、タテ115本/吋×ヨコ94本/吋であった。
【0035】
比較例1として、CLX-1000の処理をせずに仕上げて、実施例1と同じ仕上げ密度の布帛を得た。
【0036】
実施例2
実施例1と同様の方法で複合繊維原綿を得た。この複合繊維原綿90%、芯鞘複合とはしないナイロン66の繊維原綿10%を混合して、実施例1と同様の処理により、織上機密度タテ101本/吋×ヨコ82本/吋の斜子織物を得た。
【0037】
この生機を染色加工において、芯成分のポリエステルを除去する処理時間を30分とする以外は実施例1と同様の処理を施して、仕上密度タテ115本/吋×ヨコ94本/吋の布帛を得た。
【0038】
比較例2として、CLX-1000による処理をせずに仕上げて、実施例2と同じ仕上げ密度の布帛を得た。
【0039】
表1に示す通り、実施例1,2の布帛は、風合いが良好でピリング発生が少なかった。また、実施例2のものは、芯成分のポリエステルが一部残留した中空繊維が含まれていた。比較例1,2のものは、いずれもピリングが発生した。
【0040】
実施例3
実施例1と同様の方法で複合繊維を得た。続いてこの複合繊維原綿50%、綿50%を混合して、実施例1と同様の方法で複合紡績糸を製造した。
【0041】
この紡績糸を苛性ソーダ水溶液50g/リットルの濃度とし、処理温度110℃、処理時間90分、チーズ染色機を用いて芯のポリエステル成分の溶出除去を行った。次にウエル195、コース305の天竺を丸編機で製造した。次いで、常法で精練、漂白、染色を行った後、乾燥し、CLX-1000(共栄社化学(株)製:抗ピル剤)30g/リットルの水溶液に浸漬し、絞り率65%で処理した後、乾燥、仕上げ処理した。
【0042】
比較例3
実施例3の編物を、CLX-1000による処理をしなかった以外は、実施例2と同様に処理した。
【0043】
表1に示す通り、実施例3のものは、風合いが良好で抗ピル性に優れていたが、比較例3のものは、著しくピリングが発生した。
【0044】
【表1】
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、従来技術では得られなかった、軽量性とナイロン独特のしなやかな風合いも具備し、抗ピル性に優れたた新規なスパン織物を提供することができる。
【0046】
本発明に係るスパン編織物は、その軽量性と抗ピルを兼ね備えた特徴から、スポーツやカジュアル用途などに幅広く用いられる。もちろん、カバンなどの他用途への展開も可能である。
Claims (8)
- ナイロン短繊維で構成されてなる繊維構造物であって、該ナイロン短繊維の少なくとも一部が中空ナイロン短繊維であり、かつ、該ナイロン短繊維の繊維表面にセラミックスが付着しており、JIS L−1076 6.1A法に基づいて測定したときの抗ピル性が3級以上であることを特徴とするナイロン短繊維構造物。
- 中空ナイロン短繊維が、芯にポリエステル、鞘にポリアミドを配してなる複合繊維部分を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のナイロン短繊維構造物。
- 中空ナイロン短繊維が、25%以上の中空率を有するものである請求項1または2記載のナイロン短繊維構造物。
- 鞘成分がポリアミドで、芯成分がポリエステルである複合繊維で構成されてなる紡績糸を、アルカリ水溶液で処理して該芯成分を除去した後、繊維構造物を形成し、次いで、該繊維構造物の表面にセラミックスを付与することを特徴とするナイロン短繊維構造物の製造方法。
- 鞘成分がポリアミドで、芯成分がポリエステルである複合繊維で構成されてなる紡績糸を用いて繊維構造物を形成した後、該繊維構造物をアルカリ水溶液で処理して該複合繊維の芯成分を除去し、次いで、該繊維構造物の表面にセラミックスを付与することを特徴とするナイロン短繊維構造物の製造方法。
- 繊維構造物が、布帛である請求項4または5に記載のナイロン短繊維構造物の製造方法。
- 布帛が、編物、無杼織物、織物および不織布から選ばれた少なくとも1種である請求項6に記載のナイロン短繊維構造物の製造方法。
- 複合繊維の芯成分と鞘成分の複合割合(重量%)が25/75〜60/40の範囲にあることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のナイロン短繊維構造物の製造方法。
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