JP7376230B2 - メソフェーズピッチ含有繊維束、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束、及びこれらの製造方法 - Google Patents

メソフェーズピッチ含有繊維束、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束、及びこれらの製造方法 Download PDF

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本発明は、メソフェーズピッチ含有繊維束、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束、及びこれらの製造方法に関する。詳しくは、極細炭素繊維の前駆体となるメソフェーズピッチ含有繊維束、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束、及びこれらの製造方法に関する。
カーボンナノ材料、特に、平均繊維径が1μm以下である極細炭素繊維は、高結晶性、高導電性、高強度、高弾性率、軽量等の優れた特性を有していることから、高性能複合材料のナノフィラーとして使用されている。その用途は、機械的強度向上を目的とした補強用ナノフィラーに留まらず、炭素材料に備わった高導電性、高熱伝導性を生かし、各種電池やキャパシタの電極への添加材料、電磁波シールド材、静電防止材用の導電性ナノフィラーとして、あるいは樹脂向けの静電塗料に配合するナノフィラーや、放熱材料への添加材料としての用途が検討されている。また、炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性、微細構造の特徴を生かし、フラットディスプレー等の電界電子放出材料としての用途も期待されている。
例えば、特許文献1には、(1)熱可塑性樹脂100質量部並びにピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾール及びアラミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性炭素前駆体1~150質量部からなる混合物から前駆体成型体を形成する工程、(2)前駆体成型体を安定化処理に付して前駆体成形体中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化樹脂組成物を形成する工程、(3)安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を、減圧下で除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程、(4)繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化する工程、を経る炭素繊維の製造方法が開示されている。
また、特許文献2では、メソフェーズピッチを主体とする原料ピッチを常法に従って溶融紡糸してメソフェーズピッチ繊維とした後、該ピッチ繊維を酸素含有ガス又は不活性ガスに0.1~50容量%のNOを混入した雰囲気中で、100℃以下の温度条件下で、気相ニトロ化することにより該ピッチ繊維を不融化し、次いで常法により炭化(黒鉛化)することを特徴とする、メソフェーズピッチ系炭素繊維の製造方法が開示されている。
国際公開第2009/125857号公報 特開平6-248520号公報
特許文献1に記載された方法は、複合化された前駆体成形体中の炭素前駆体繊維を安定化する工程において、高温かつ長時間の処理が必要になるため、工程として煩雑化する。
特許文献2に開示される不融化は、炭化後に得られる炭素繊維の繊維径が10μmを超えるものを対象としている。即ち、特許文献1のような繊維径が1μm未満の極細炭素繊維を対象とする製造については何も言及されていない。
また、NOを主成分として用いた安定化反応は酸化反応であるため、膨大な発熱を伴うことを本発明者らは知見している。特許文献2に記載の発明は、100℃以下の低い反応温度で、かつ酸化による発熱を伴わない状態で安定化処理することが可能であることが記載されている(段落0015)。しかし、特許文献2の実施例には、安定化する際の温度が95℃、NOの濃度が10容量%以下の場合のみが開示されており、係る条件で不融化する場合は4~24時間の長時間を要している。
本発明の目的は、繊維径が細く、かつ結晶性に優れた極細炭素繊維を効率的に製造するための中間原料となるメソフェーズピッチ含有繊維束、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束、及びこれらの製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記の従来技術に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、膨大な発熱を伴う安定化処理時において、繊維束を構成する単繊維の一部を予め熱融着しておくことに想到した。これにより、安定化反応時の発熱を制御し、品質が高く効率的に製造を行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
〔1〕 メソフェーズピッチと、
前記メソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂と、
を含有して成るメソフェーズピッチ含有単繊維が複数本集束して成るメソフェーズピッチ含有繊維束であって、
前記メソフェーズピッチ含有単繊維の平均繊維径が10~200μmであり、
前記メソフェーズピッチ含有繊維束の幅が5~50mmであり、
前記メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する前記メソフェーズピッチ含有単繊維の一部が互いに熱融着していることを特徴とするメソフェーズピッチ含有繊維束。
〔1〕に記載の発明は、安定化処理前(不融化処理前)のメソフェーズピッチ含有繊維に関する。この発明は、メソフェーズピッチ含有繊維束を構成するメソフェーズピッチ含有単繊維の一部が熱可塑性樹脂によって熱融着することによって集束され、メソフェーズピッチ含有繊維束を構成している。
〔2〕 前記メソフェーズピッチ含有繊維束を構成するメソフェーズピッチ含有単繊維が、前記メソフェーズピッチを島成分とし、前記熱可塑性樹脂を海成分とする海島構造を有する〔1〕に記載のメソフェーズピッチ含有繊維束。
〔2〕に記載の発明は、メソフェーズピッチ含有単繊維が、熱可塑性樹脂を海成分とし、この熱可塑性樹脂内で引き延ばされた繊維状のメソフェーズピッチを島成分とする海島構造を有している。
〔3〕 前記メソフェーズピッチ含有繊維束を構成するメソフェーズピッチ含有単繊維の本数が100~3000本である〔1〕又は〔2〕に記載のメソフェーズピッチ含有繊維束。
〔4〕 長さ25cmの前記メソフェーズピッチ含有繊維束の中央部であって、前記メソフェーズピッチ含有繊維束の前記幅方向に10gの荷重をかけた際の開繊幅が30~120mmである、〔1〕~〔3〕の何れかに記載のメソフェーズピッチ含有繊維束。
〔4〕に記載の発明は、メソフェーズピッチ含有単繊維同士の熱融着の程度を規定している。即ち、後述する方法で測定したメソフェーズピッチ含有繊維束の開繊され易さを規定している。この性質を有するメソフェーズピッチ含有繊維束は、後の安定化工程において効率的に安定化を行うことができる。
〔5〕 〔1〕~〔4〕の何れかに記載のメソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法であって、
(1)熱可塑性樹脂100質量部とメソフェーズピッチ1~150質量部とからなる組成物を溶融状態で紡糸することにより前記メソフェーズピッチを繊維化してメソフェーズピッチ含有単繊維を得る繊維化工程と、
(2)前記メソフェーズピッチ含有単繊維を熱処理して前記メソフェーズピッチ含有単繊維の一部を互いに熱融着する熱融着工程と、
を有することを特徴とするメソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法。
〔5〕に記載の発明は、メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法であり、メソフェーズピッチ含有単繊維の一部を互いに熱融着する工程を含むことを特徴としている。
〔6〕 安定化メソフェーズピッチと、
前記安定化メソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂と、
を含有して成る安定化メソフェーズピッチ含有単繊維が複数本集束して成る安定化メソフェーズピッチ含有繊維束であって、
前記安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の平均繊維径が10~200μmであり、
前記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の幅が5~50mmであり、
前記安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の元素分析法で測定される酸素元素と炭素元素の元素組成比(O/C)が0.04以上であり、窒素元素と炭素元素の元素組成比(N/C)が0.016以上であることを特徴とする安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
〔6〕に記載の発明は、安定化処理後(不融化処理後)の安定化メソフェーズピッチ含有繊維に関する。この安定化メソフェーズピッチ含有繊維束は、〔1〕に記載のメソフェーズピッチ含有繊維束を安定化処理して得られる。なお、(O/C)及び(N/C)は、安定化処理の程度を示す指標である。
〔7〕 前記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する安定化メソフェーズピッチ含有単繊維が、前記安定化メソフェーズピッチを島成分とし、前記熱可塑性樹脂を海成分とする海島構造を有する〔6〕に記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
〔8〕 前記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の本数が100~3000本である〔6〕又は〔7〕に記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
〔9〕 前記安定化メソフェーズピッチ含有単繊維が、赤外分光法による測定で波数1525±50cm-1にNO伸縮振動に起因するピークが検出されるものである〔6〕~〔8〕の何れかに記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
〔9〕に記載の発明は、安定化メソフェーズピッチ含有繊維が赤外分光法による測定でNO伸縮振動に起因するピークを有している。
〔10〕 前記安定化メソフェーズピッチの含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して1~150質量部である〔6〕~〔9〕の何れかに記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
〔11〕 長さ25cmの前記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の中央部であって、前記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の前記幅方向に10gの荷重をかけた際の開繊幅が30~120mmである、〔6〕~〔10〕の何れかに記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
〔11〕に記載の発明は、〔4〕に記載のメソフェーズピッチ含有繊維束を安定化して成る安定化メソフェーズピッチ含有繊維束である。メソフェーズピッチ含有繊維束において形成されている熱融着は、安定化反応後も残存する。
〔12〕 〔6〕~〔11〕の何れかに記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法であって、
(1)熱可塑性樹脂100質量部とメソフェーズピッチ1~150質量部とからなる組成物を溶融状態で紡糸することにより前記メソフェーズピッチを繊維化してメソフェーズピッチ含有単繊維を得る繊維化工程と、
(2)前記メソフェーズピッチ含有単繊維を熱処理して前記メソフェーズピッチ含有単繊維の一部を互いに熱融着してメソフェーズピッチ含有繊維束を得る熱融着工程と、
(3)酸素と二酸化窒素とのモル比(NO/O)が1未満である反応性ガスと、前記メソフェーズピッチ含有繊維束と、を接触させて安定化する安定化工程と、
を有することを特徴とする安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法。
〔12〕に記載の発明は、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法であり、熱融着によって束ねられたメソフェーズピッチ含有繊維束と、二酸化窒素を含む反応性ガスと、を接触させて安定化処理することを特徴としている。
本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束は、メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する単繊維の一部が互いに熱融着している。このメソフェーズピッチ含有繊維束は、安定化処理する際に熱制御を容易に行うことができる。その結果、安定化処理時における熱暴走を防ぎつつも、安定化処理を短時間で完了できる。また、発熱反応が低減されるため、熱可塑性樹脂が溶融することを抑制できる。さらには、熱可塑性樹脂の酸化物等のような副生成物が生じ難い。
図1は樹脂複合繊維(単糸)の断面を撮影した図面代用走査型電子顕微鏡写真である。 図2は、循環方式による安定化装置の一例を示す模式図である。 メソフェーズピッチ含有繊維束を拡げた状態を示す図面代用写真である。 実施例2において、荷重をかけた際のメソフェーズピッチ含有繊維束の開繊状態を示す図面代用写真である。 比較例1において、荷重をかけた際のメソフェーズピッチ含有繊維束の開繊状態を示す図面代用写真である。 実施例1の安定化処理前後におけるメソフェーズ含有繊維束の赤外線吸収スペクトルである。 安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の断面における窒素原子の元素分析結果である。 安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の断面における酸素原子の元素分析結果である。
本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束及び安定化メソフェーズピッチ含有繊維束は、極細炭素繊維を製造するための中間原料である。以下、本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束を製造する方法;本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束を用いて本発明の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を製造する方法;本発明の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を用いて極細炭素繊維を製造する方法について説明する。
1. 極細炭素繊維の製造方法
極細炭素繊維は、以下の例えば工程を経ることによって製造される。
(1)熱可塑性樹脂と、メソフェーズピッチと、からなる組成物を溶融状態で紡糸成形することによりメソフェーズピッチを繊維化してメソフェーズピッチ含有繊維束を得る工程、
(2)メソフェーズピッチ含有繊維束に反応性ガスを接触させて安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得る安定化工程、
(3)安定化メソフェーズピッチ含有繊維束から熱可塑性樹脂を除去する熱可塑性樹脂除去工程、
(4)熱可塑性樹脂が除去された安定化メソフェーズピッチ含有繊維を不活性雰囲気下で加熱して炭素化乃至黒鉛化し、極細炭素繊維を得る炭化焼成工程。
本発明は、上記の極細炭素繊維の製造方法において用いるメソフェーズピッチ含有繊維束、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束、及びこれらの製造方法に関する。
2. メソフェーズピッチ含有繊維束
本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束は、
メソフェーズピッチと、
このメソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂と、
を含有して成るメソフェーズピッチ含有単繊維が複数本集束して成るメソフェーズピッチ含有繊維束であって、
メソフェーズピッチ含有単繊維の平均繊維径が10~200μmであり、
メソフェーズピッチ含有繊維束の幅が5~50mmであり、
メソフェーズピッチ含有繊維束を構成するメソフェーズピッチ含有単繊維の一部が互いに熱融着していることを特徴とする。
メソフェーズピッチ含有単繊維の平均繊維径は10~200μmである。平均繊維径の下限は、50μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましい。平均繊維径の上限は、150μm以下であることが好ましく、130μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい。200μmを超える場合、安定化工程の際に反応性ガスが熱可塑性樹脂の内部に分散するメソフェーズピッチと接触し難くなる。そのため、生産性が低下する。一方、10μm未満の場合、繊維束の強度が低下して工程安定性が低下する恐れがある。
メソフェーズピッチ含有繊維束の形状は、繊維束の長さ方向に直交する方向における断面が楕円形状又は長方形状のような帯状の形状を有する。楕円形状又は長方形状の長軸径又は長辺は、本発明において繊維束の幅と定義される。本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束の幅は5~50mmであり、6~40mmであることが好ましく、10~30mmであることがより好ましい。50mmを超える場合、安定化工程において反応性ガスと接触させる際の効率が低下する。5mm未満である場合、安定化工程において発生する熱が効率よく除去できない場合があり好ましくない。
本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束は、100~3000本の単繊維から構成されることが好ましい。単繊維の本数は200~2000本であることがより好ましく、300~1500本であることがさらに好ましい。
本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束は、メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する単繊維の一部が互いに熱融着していることを特徴とする。この熱融着は、メソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂の溶融によって形成されている。
本発明における繊維束における融着とは、単繊維と他の単繊維とが点で融着している場合のみならず、線(面)で融着している場合も含まれる。
熱融着はメソフェーズピッチ含有単繊維の一部に形成されていればよく、全単繊維が全体で熱融着されていてはならない。熱融着の強さの程度としては、特に限定されないが、後の安定化工程において、繊維束が単繊維に分離されてバラバラにならない程度であれば取扱い性も優れるので良い。
例えば、メソフェーズピッチ含有繊維束は繊維束の長さ100mm当たりに少なくとも5カ所の融着点を有していることが好ましい。融着点は10カ所以上であることが好ましく、15カ所以上であることがより好ましく、20カ所以上であることがさらに好ましく、30カ所以上であることが特に好ましい。熱融着点の上限数は特に制限されないが、1500箇所以下が好ましく、1000箇所以下がより好ましく、500箇所以下がさらに好ましく、200箇所以下が特に好ましい。過度の融着は安定化工程において反応性ガスと接触させる際の通気性が低下する。また、融着点が少ない場合、繊維束がバラバラになり易く工程安定性に影響する。
本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束及び安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の熱融着の強さの程度は、繊維束の中央部に重りを吊した際の繊維束の拡がりの程度(開繊幅)によって評価することもできる。ここで、開繊幅とは、長さ25cmに切断した繊維束の中心部に10gの重りを吊すことにより、繊維束の幅方向へ荷重をかけた際の繊維束の幅を意味する。中心部とは、繊維束の長さ方向の中心(即ち、各端から12.5cmの位置)であって、かつ繊維束の幅の中心部を意味する。なお、開繊幅が小さいほど、繊維束における熱融着の箇所が多いことを意味する。
本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束及び安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の開繊幅は、30~120mmであり、40~100mmであることが好ましく、50~80mmであることがより好ましい。120mmを超えたり、30mm未満である場合、安定化工程において反応性ガスと接触させる際の効率と、安定化工程において発生する熱の放熱効率とを両立できない場合があり好ましくない。
また、後述する安定化工程において反応性ガスと接触させる際の接触効率や放熱効率の評価は、安定化前後における開繊幅の差によって評価することができる。即ち、安定化前後における開繊幅の差が小さいほど、安定化工程が効率的に行われたと評価することができる。安定化前後における開繊幅の差は小さいことが好ましく、実質的に変化しないことがより好ましい。即ち、本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束及び安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の開繊幅の差は、20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることが特に好ましい。開繊幅の差が前記範囲内、特に1mm以下であると、安定化工程において反応性ガスと接触させる際の接触効率や放熱効率が高く、また、繊維束がばらけたりせずに安定化工程前の帯状形状を維持できる。
熱融着の強さの程度としては、繊維束の上に所定の重りを載置してその繊維束の幅の増加率を測定することにより定めることもできる。例えば、質量100gの重りを繊維束の上に載置した場合(繊維束と重りの接触面積は4.5cm)、繊維束の拡幅が10%以下であることが好ましい。或いは、繊維束を1000%に強制的に拡幅した後、200~450%まで復元する程度に熱融着されていることが好ましい。
なお、本発明においては、後述の安定化工程における反応性ガスの濃度や流量によって熱融着の強さの程度は適宜調整される。係る調整は、安定化工程における繊維束の温度上昇等を参照すれば過度の試行錯誤を要することなく行うことができる。
本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束を構成するメソフェーズピッチ含有単繊維は、メソフェーズピッチと、このメソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂と、から成り、かつメソフェーズピッチを島成分とし、前記熱可塑性樹脂を海成分とする海島構造を有することが好ましい。
3. 安定化メソフェーズピッチ含有繊維束
本発明の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束は、
安定化メソフェーズピッチと、
この安定化メソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂と、
を含有して成る安定化メソフェーズピッチ含有単繊維が複数本集束して成る安定化メソフェーズピッチ含有繊維束であって、
安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の平均繊維径が10~200μmであり、
安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の幅が5~50mmであり、
安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の元素分析法で測定される酸素元素と炭素元素の元素組成比(O/C)が0.04以上であり、窒素元素と炭素元素の元素組成比(N/C)が0.016以上であることを特徴とする。
本発明の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束は、本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束を安定化(不融化)することにより得られる。そのため、メソフェーズピッチ、熱可塑性樹脂の種類や、安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の平均繊維径、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の幅は、上述のメソフェーズピッチ含有繊維束で説明した内容に準じる。また、メソフェーズピッチ含有繊維束に形成されていた熱融着は、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束となった後においても残存している。即ち、本発明の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束は、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する単繊維の一部が互いに熱融着している。この熱融着は、安定化メソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂の溶融によって形成されている。
本発明の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する安定化メソフェーズピッチ含有単繊維は、元素分析法で測定された酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)が0.040以上であり、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)が0.016以上である。元素組成比(O/C)は0.041以上であることが好ましく、0.043以上であることがより好ましい。元素組成比(N/C)は0.017以上であることが好ましく、0.018以上であることがより好ましい。元素組成比(O/C)が0.040未満、あるいは窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)が0.016未満であると、安定化反応が不十分である。このような安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を用いると、良好な炭素繊維を得ることができない場合がある。
本発明の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する安定化メソフェーズピッチ含有単繊維は、赤外分光法による測定で波数1525±50cm-1にNO伸縮振動に起因するピークが検出される。本ピークは安定化反応が進行するにしたがって、ピークの大きさが増大する。一方、1470cm-1付近に観測されるCH変角振動は安定化反応が進行してもピークの大きさが変化しない。そのため、1470cm-1付近に観測されるCH変角振動のピークとの強度比(NO/CH)を用いることで安定化反応の進行度合いを確認することができる。比(NO/CH)は0.7以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。
4. メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法
メソフェーズピッチ含有繊維束は以下の方法により製造できる。
先ず、熱可塑性樹脂内にメソフェーズピッチが分散して成るメソフェーズピッチ組成物を調製する。次に、このメソフェーズピッチ組成物を溶融状態で紡糸する。これにより、熱可塑性樹脂内に分散するメソフェーズピッチが熱可塑性樹脂内部で引き延ばされるとともに、メソフェーズピッチ組成物を繊維化してメソフェーズピッチ含有単繊維(以下、「樹脂複合繊維」ともいう)を得る。次に、このメソフェーズピッチ含有単繊維の複数本を互いに熱融着させることにより、本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束を得る。
<メソフェーズピッチ>
メソフェーズピッチとは、溶融状態において光学的異方性相(液晶相)を形成しうるピッチである。本発明で使用するメソフェーズピッチとしては、石炭や石油の蒸留残渣を原料とするものや、ナフタレン等の芳香族炭化水素を原料とするものが挙げられる。例えば、石炭由来のメソフェーズピッチは、コールタールピッチの水素添加・熱処理を主体とする処理、水素添加・熱処理・溶剤抽出を主体とする処理等により得られる。
メソフェーズピッチの光学的異方性含有率(メソフェーズ率)は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
また、上記メソフェーズピッチは、軟化点が100~400℃であることが好ましく、150~350℃であることがより好ましい。
<熱可塑性樹脂>
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、安定化工程において繊維束の形態を維持でき、かつ後述する熱可塑性樹脂除去工程において、容易に除去される必要がある。このような熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルカーボネート、ポリサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリ乳酸等が好ましく使用される。これらの中でも、ポリオレフィンが好ましく用いられる。
ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチルペンテン-1及びこれらを含む共重合体が挙げられる。熱可塑性樹脂除去工程において除去し易いという観点からは、ポリエチレンを用いることが好ましい。ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン、気相法・溶液法・高圧法直鎖状低密度ポリエチレンなどの低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどの単独重合体又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレンと他のビニル系単量体との共重合体が挙げられる。
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、JIS K 7210(1999年度)に準拠して測定されたメルトマスフローレート(MFR)が0.1~25g/10minであることが好ましく、0.1~15g/10minであることがより好ましく、0.1~10g/10minであることが特に好ましい。MFRが上記範囲であると、熱可塑性樹脂中にメソフェーズピッチを良好にミクロ分散することができる。また、樹脂複合繊維を紡糸する際に、メソフェーズピッチが引き延ばされることにより、得られる炭素繊維の繊維径をより小さくするとともに、得られる炭素繊維の直線性を高くすることができる。本発明で使用する熱可塑性樹脂は、メソフェーズピッチと容易に溶融混練できるという点から、非晶性の場合はガラス転移温度が250℃以下、結晶性の場合は融点が300℃以下であることが好ましい。
<メソフェーズピッチ組成物>
メソフェーズピッチ組成物は、熱可塑性樹脂と、この熱可塑性樹脂100質量部に対して好ましくは1~150質量部のメソフェーズピッチと、を含んで成る。メソフェーズピッチの含有量は5~100質量部であることがより好ましい。メソフェーズピッチの含有量が150質量部を超えると所望の分散径を有する樹脂複合繊維が得られず、1質量部未満であると最終的に製造される炭素繊維の製造コストが上昇するため好ましくない。
平均繊維径が10~900nmの範囲である炭素繊維を製造するためには、熱可塑性樹脂中におけるメソフェーズピッチの分散径を0.01~50μmとすることが好ましく、0.01~30μmとすることがより好ましい。メソフェーズピッチの熱可塑性樹脂中への分散径が0.01~50μmの範囲を逸脱すると、所望の炭素繊維を製造することが困難となることがある。なお、メソフェーズピッチ組成物中において、メソフェーズピッチは球状又は楕円状の島相を形成するが、本発明における分散径とは、島成分が球状の場合はその直径を意味し、楕円状の場合はその長軸径を意味する。
上記0.01~50μmの分散径は、メソフェーズピッチ組成物を300℃で3分間保持した後においても上記範囲内を維持していることが好ましく、300℃で5分間保持した後においても維持していることがより好ましく、300℃で10分間保持した後においても維持していることが特に好ましい。一般に、メソフェーズピッチ組成物を溶融状態で保持しておくと、熱可塑性樹脂中においてメソフェーズピッチが時間と共に凝集する。メソフェーズピッチが凝集してその分散径が50μmを超えると、所望の炭素繊維を製造することが困難となることがある。熱可塑性樹脂中におけるメソフェーズピッチの凝集速度は、使用する熱可塑性樹脂及びメソフェーズピッチの種類により変動する。
メソフェーズピッチ組成物は、熱可塑性樹脂とメソフェーズピッチとを溶融状態において混練することにより製造することができる。熱可塑性樹脂とメソフェーズピッチとの溶融混練は公知の装置を用いて行うことができる。例えば、一軸式混練機、二軸式混練機、ミキシングロール、バンバリーミキサーからなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。これらの中でも、熱可塑性樹脂中にメソフェーズピッチを良好にミクロ分散させるという目的から、二軸式混練機を用いることが好ましく、特に各軸が同方向に回転する二軸式混練機を用いることが好ましい。
混練温度としては、熱可塑性樹脂とメソフェーズピッチとが溶融状態であれば特に制限されないが、100~400℃であることが好ましく、150~350℃であることが好ましい。混練温度が100℃未満であると、メソフェーズピッチが溶融状態にならず、熱可塑性樹脂中にミクロ分散させることが困難であるため好ましくない。一方、400℃を超える場合、熱可塑性樹脂及びメソフェーズピッチの分解が進行するため好ましくない。また、溶融混練の時間としては、0.5~20分間であることが好ましく、1~15分間であることがより好ましい。溶融混練の時間が0.5分間未満の場合、メソフェーズピッチのミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、20分間を超える場合、炭素繊維の生産性が著しく低下するため好ましくない。
本発明で使用するメソフェーズピッチは、溶融混練時に酸素と反応することにより変性してしまい、熱可塑性樹脂中へのミクロ分散を阻害することがある。このため、不活性雰囲気下で溶融混練を行い、酸素とメソフェーズピッチとの反応を抑制することが好ましい。溶融混練は、酸素ガス含有量が10体積%未満の不活性雰囲気下で行うことが好ましく、酸素ガス含有量が5体積%未満の不活性雰囲気下で行うことがより好ましく、酸素ガス含有量が1%体積未満の不活性雰囲気下で行うことが特に好ましい。
<樹脂複合繊維>
上記のメソフェーズピッチ組成物から樹脂複合繊維を製造する方法としては、メソフェーズピッチ組成物を紡糸口金より溶融紡糸する方法を例示することができる。これにより、樹脂複合繊維に含まれるメソフェーズピッチの初期配向性を高くすることができる。
メソフェーズピッチ組成物を紡糸口金より溶融紡糸をする際に、口金の数はそのまま本発明の繊維束の繊維本数になる。この繊維本数は100~3000本の範囲であれば、特に制限はされないが、200~2000本の範囲が好ましく、300~1500本の範囲がより好ましい。100本未満であると生産性が低下し、3000本を超えると工程安定性が担保できないため、それぞれ好ましくない。
このようにして得られたメソフェーズピッチ含有単繊維(樹脂複合繊維)の平均単糸径は上述のとおりである。
メソフェーズピッチ組成物から樹脂複合繊維を製造する際の温度は、メソフェーズピッチの溶融温度よりも高いことが必要であり、150~400℃であることが好ましく、180~350℃であることがより好ましい。400℃を超える場合、メソフェーズピッチの変形緩和速度が大きくなり、繊維の形態を保つことが難しくなる。
また、樹脂複合繊維の製造工程は冷却工程を有していてもよい。冷却工程としては、例えば、溶融紡糸の場合、紡糸口金の下流の雰囲気を冷却する方法が挙げられる。冷却工程を設けることにより、メソフェーズピッチが伸長により変形する領域を調整でき、ひずみの速度を調整することができる。また、冷却工程を設けることにより、紡糸後の樹脂複合繊維を直ちに冷却固化させて安定した成形を可能とする。
これらの工程を経て得られた樹脂複合繊維は混練時の熱可塑性樹脂中にメソフェーズピッチがミクロ分散した状態で繊維化されている。図1は樹脂複合繊維(単糸)の断面を撮影した図面代用写真である。図1から観察されるように、この樹脂複合繊維においては、熱可塑性樹脂内にメソフェーズピッチが分散している。
次に、このメソフェーズピッチ含有単繊維の複数本を互いに熱融着させることにより、本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束を得る。
熱融着を形成する方法としては、例えば空気、窒素から選ばれる1種類以上のガスをヒーターで加熱し、それをローラー、ベルトコンベアなどで搬送されている繊維の束に吹き付けることで表面の熱可塑性樹脂を溶かし、単繊維同士を融着させる方法が例示される。また、アイロン等の熱板を繊維束に押し当てる方法が例示される。加熱温度や時間にもよるが、繊維束の内部に空間があった方が後述する安定化が効率的に行われるので前者の方法が好ましい。なお、これらの方法は併用しても良い。
メソフェーズピッチ含有単繊維同士を融着させる際の温度は、熱可塑性樹脂の融点~300℃が好ましい。融点以下で加熱してもメソフェーズピッチ含有単繊維同士を融着させることができない。一方、300℃を超える加熱を行うと、熱可塑性樹脂及びメソフェーズピッチ含有単繊維内のメソフェーズピッチが溶融して繊維形状が失われる場合がある。
5. 安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法
安定化メソフェーズピッチ含有繊維束は、本発明のメソフェーズピッチ含有繊維束に反応性ガスを接触させることにより製造できる。反応性ガスを接触させることにより、樹脂複合繊維に含まれるメソフェーズピッチが安定化(不融化)される。反応性ガスとの接触としては、樹脂複合繊維に反応性ガスを所定の流通速度で接触させる方法が例示される。
この安定化工程において、反応性ガスとは、酸素と二酸化窒素とのモル比(NO/O)が1未満である反応性ガスを意味する。即ち、反応性ガスは二酸化窒素単独であっても良いし、酸素と併用しても良い。モル比(NO/O)は、0.2~0.9であることが好ましく、0.3~0.8であることがより好ましい。また、反応性ガスには、酸素及び二酸化窒素以外の気体が含まれていても良い。酸素及び二酸化窒素以外の気体としては、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどの不活性ガスが例示される。
反応性ガスの流通速度とは、反応性ガスが樹脂複合繊維の表面に接触しながら移動する際におけるガスの線速度をいう。反応性ガスの流通速度は、0.010~10.0m/sの範囲であることが好ましい。流通速度の下限は、0.010m/s以上であり、0.050m/s以上であることが好ましく、0.100m/s以上であることがより好ましい。流通速度の上限値は、10.0m/s以下であり、7.0m/s以下であることが好ましく、5.0m/s以下であることがより好ましく、2.0m/s以下であることがさらに好ましく、1.0m/s以下であることが特に好ましい。10.0m/sを超える場合、流通速度が速すぎて反応性ガスが樹脂複合繊維中のメソフェーズピッチに接触する頻度が低下し、反応性ガスとメソフェーズピッチとの反応性が低下する。また、得られる樹脂複合安定化繊維を用いて炭素繊維を製造する場合、得られる炭素繊維に残炭が形成され易くなる。0.010m/s未満の場合、安定化反応時に発生する発熱を制御するのが困難になる。その結果、熱暴走を生じる場合がある。反応性ガスの流通速度は、安定化反応時において終始同一であっても良いし、上記の範囲内で漸次変化させても良い。
本発明によれば、メソフェーズピッチは、熱可塑性樹脂と複合化した樹脂複合繊維の状態で安定化される。そのため、メソフェーズピッチのみを溶融紡糸して成る繊維を安定化する場合と比較して、メソフェーズピッチの繊維径を小さくできる。
安定化の反応温度は、25~100℃が好ましく、30~80℃がより好ましい。この範囲の温度で安定化処理することにより、熱可塑性樹脂の溶融を防いで、反応性ガスの流通を高く維持できる。その結果、熱暴走が抑制される。また、樹脂複合繊維に含まれる極細繊維状のメソフェーズピッチの形態を維持できる。
安定化の処理時間は、10~300分間が好ましく、20~200分間がより好ましく、30~120分間がさらに好ましい。
上記安定化処理によりメソフェーズピッチの軟化点は著しく上昇するが、所望の炭素繊維を得るという目的から、メソフェーズピッチの軟化点は400℃以上となることが好ましく、500℃以上となることがさらに好ましい。
安定化処理は、反応性ガスが流通速度0.010~10.0m/sで流通する反応系内で、樹脂複合繊維に反応性ガスを接触させることにより行われる。そのような方法としては特に限定されないが、例えば以下に説明するフロー方式及び循環方式を挙げることができる。
(a) フロー方式
フロー方式は、例えば、ガス導入口及びガス導出口を備える反応容器内に樹脂複合繊維を投入し、該ガス導入口から反応性ガスを導入する。この際、反応性ガスの導入速度は、反応容器内におけるガスの線速度が0.010~10.0m/sとなるように調整される。該ガスは、反応容器内で樹脂複合繊維と接触した後、ガス導出口から反応容器外に排出される。ガス導入口から導入されるガスの温度は、安定化の反応温度が前述の温度範囲となる温度であれば特に限定されないが、通常30~120℃であり、30~100℃であることが好ましい。
(b) 循環方式
循環方式は、例えば、ガス導入口及びガス導出口を備える反応容器内に樹脂複合繊維を投入し、該ガス導入口から反応性ガスを導入する。この際、反応性ガスの導入速度は、反応容器内におけるガスの線速度が0.010~10.0m/sとなるように調整される。該ガスは、反応容器内で樹脂複合繊維と接触した後、ガス導出口から反応容器外に排出される。この排出された反応性ガスは、再度ガス導入口から導入される。再導入されるガスは、安定化の反応温度が前述の温度範囲になるように、予め冷却される。再導入されるガスの冷却はどのように行っても良いが、通常、熱交換器を用いて冷却される。ガス導入口から導入されるガス(又は再導入されるガス)の温度は、(a)のフロー方式で説明したとおりである。
図2は、循環方式による安定化装置の一例を示す模式図である。図2中、10は安定化装置であり、11は反応容器である。反応容器11は気密に形成された箱状の容器であり、その一端にはガス導入口11aが形成されており、他端にはガス導出口11bが形成されている。反応容器11は、ガス導入口11aとガス導出口11bとの間に樹脂複合繊維23を載置できるように構成されている。ガス導入口11aには、ガス循環管13の一端が気密に接続されており、ガス導出口11bには、ガス循環管13の他端が気密に接続されている。ガス循環管13には、熱交換器15及び送風機17が介装されている。また、ガス循環管13には、安定化装置10内にガスを供給するガス供給口19及び安定化装置10外にガスを排出するガス排出口21がそれぞれ形成されている。
この装置を用いる安定化工程は、例えば次のように行われる。
先ず、反応容器11内に樹脂複合繊維23が載置される。次いで、ガス排出口21を閉じ、ガス供給口19から安定化装置10内にガスが供給される。また、送風機17により安定化装置10内のガスは循環される。安定化装置10内に所定量の窒素酸化物が導入されたら、ガス供給口19が閉じられる。ガス導入口11aから反応容器11内に導入されたガスは、樹脂複合繊維23と接触しながら流通して、樹脂複合繊維23の安定化反応(発熱反応)を進行させる。該ガスは、ガス導出口11bから反応容器外に導出され、熱交換器15に送られ、ここで冷却される。熱交換器15で冷却されたガスはガス導入口11aから反応容器11内に再導入されて安定化反応に供され、これが繰り返される。なお、反応容器11内におけるガスの線速度や安定化の反応温度は前述のとおりである。
循環方式による製造方法においては、反応系内に導入する反応性ガス中の二酸化窒素の量は、樹脂複合繊維中のメソフェーズピッチ100gに対して0.5~1.5モルであることが好ましく、0.5~1モルであることがより好ましい。0.5モル未満であると安定化が不十分となる。1.5モルを超えて導入すると熱暴走を生じ易くなる上に、経済上も好ましくない。
また、反応系内における二酸化窒素の平均濃度は、1~30容量%の範囲が好ましく、2~20容量%の範囲がより好ましく、3~10容量%の範囲がさらに好ましい。1容量%未満の場合、安定化処理に長時間を要する。また、30容量%を超える場合には安定化時の発熱を制御できなくなるので好ましくない。
本発明における安定化工程は、いずれの方式で行っても良いが、循環方式の方が未利用となる二酸化窒素の量を低減できるので、経済性及び生産性の観点から好ましい。
6. 極細炭素繊維の製造方法
以下、本発明の安定化メソフェーズピッチ繊維束を用いて極細炭素繊維を製造する方法について説明する。
<熱可塑性樹脂除去工程>
本発明の安定化メソフェーズピッチ繊維束は、その中に含まれる熱可塑性樹脂が除去されて安定化繊維が分離される。この工程では、安定化繊維の熱分解を抑制しながら、熱可塑性樹脂を分解・除去する。熱可塑性樹脂を分解・除去する方法としては、例えば、溶剤を用いて熱可塑性樹脂を除去する方法や、熱可塑性樹脂を熱分解して除去する方法が挙げられる。
熱可塑性樹脂の熱分解は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。ここでいう不活性ガス雰囲気とは、二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガス雰囲気をいい、その酸素濃度は30体積ppm以下であることが好ましく、20体積ppm以下であることがより好ましい。本工程で使用する不活性ガスとしては、コストの関係から二酸化炭素及び窒素を用いることが好ましく、窒素を用いることが特に好ましい。
熱可塑性樹脂を熱分解によって除去する場合、減圧下で行うこともできる。減圧下で熱分解することにより、熱可塑性樹脂を十分に除去することができる。その結果、安定化繊維を炭素化又は黒鉛化して得られる炭素繊維又は黒鉛化繊維の繊維間における融着を少なくすることができる。雰囲気圧力は低いほど好ましいが、50kPa以下であることが好ましく、30kPa以下であることがより好ましく、10kPa以下であることがさらに好ましく、5kPa以下であることが特に好ましい。一方、完全な真空は達成が困難であるため、圧力の下限は一般に0.01kPa以上である。
熱可塑性樹脂を熱分解によって除去する場合、上記の雰囲気圧力が保たれれば、微量の酸素や不活性ガスが存在してもよい。特に微量の不活性ガスが存在すると、熱可塑性樹脂の熱劣化による繊維間の融着が抑制される利点があり好ましい。なお、ここでいう微量の酸素雰囲気下とは、酸素濃度が30体積ppm以下であることをいい、微量の不活性ガス雰囲気下とは、不活性ガス濃度が20体積ppm以下であることをいう。用いる不活性ガスの種類は、上述したとおりである。
熱分解の温度は、350~600℃であることが好ましく、380~550℃であることがより好ましい。熱分解の温度が350℃未満である場合、安定化繊維の熱分解は抑えられるものの、熱可塑性樹脂の熱分解を十分行うことができない場合がある。一方、600℃を超える場合、熱可塑性樹脂の熱分解は十分行うことができるものの、安定化繊維までが熱分解される場合があり、その結果、炭素化時の収率が低下し易い。熱分解の時間としては、0.05~5時間であることが好ましく、0.05~3時間であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂除去工程は、樹脂複合安定化繊維を、支持基材上に目付け2kg/m以下で保持して行うことが好ましい。支持基材に保持することによって、熱可塑性樹脂除去時の加熱処理による樹脂複合繊維又は樹脂複合安定化繊維の凝集を抑制することができ、通気性を保つことが可能となる。
支持基材の材質としては、溶剤や加熱によって変形や腐食を生じないことが必要である。また、支持基材の耐熱温度としては、上記の熱可塑性樹脂除去工程の熱分解温度で変形しないことが必要であることから、600℃以上の耐熱性を有していることが好ましい。このような材質としては、ステンレスなどの金属材料やアルミナ、シリカなどのセラミックス材料を挙げることができる。
また、支持基材の形態としては、面垂直方向への通気性を有する形状であることが好ましい。このような形状としては網目構造が好ましい。網目の目開きは0.1~5mmであることが好ましい。目開きが5mmよりも大きい場合、加熱処理によって網目の線上に繊維が凝集し易くなり、メソフェーズピッチの安定化や熱可塑性樹脂の除去が不十分となる場合があり好ましくない。一方、網目の目開きが0.1mm未満である場合、支持基材の開孔率の減少により、支持基材の面垂直方向への通気性が低下する場合があり好ましくない。
<炭化焼成工程>
熱可塑性樹脂が除去された上記安定化繊維を不活性ガス雰囲気下で炭素化及び/又は黒鉛化することにより、極細炭素繊維が得られる。その際に使用する容器としては、黒鉛製のルツボ状のものが好ましい。ここで、炭素化とは比較的低温(好ましくは1000℃程度)で加熱することをいい、黒鉛化とはさらに高温で加熱することにより黒鉛の結晶を成長させることをいう。
上記安定化繊維の炭素化及び/又は黒鉛化時に使用される不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。不活性ガス中の酸素濃度は、20体積ppm以下であることが好ましく、10体積ppm以下であることがより好ましい。炭素化及び/又は黒鉛化時の焼成温度は、500~3500℃が好ましく、800~3000℃がより好ましい。特に黒鉛化の際の焼成温度としては、1500~3000℃が好ましい。焼成時間は、0.1~24時間が好ましく、0.2~10時間がより好ましい。
<粉砕処理>
極細炭素繊維の製造方法は、粉砕処理工程を有していても良い。粉砕処理は、熱可塑性樹脂除去工程後、及び/又は、炭化焼成工程後において実施するのが好ましい。粉砕方法としては、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、インペラーミル、カッターミル等の微粉砕機を適用することが好ましく、粉砕後に必要に応じて分級を行ってもよい。湿式粉砕の場合、粉砕後に分散媒体を除去するが、この際に2次凝集が顕著に生じるとその後の取り扱いが非常に困難となる。このような場合は、乾燥後、ボールミルやジェットミル等を用いて解砕操作を行うことが好ましい。
<極細炭素繊維>
上記のようにして製造される極細炭素繊維は、例えば非水電解質二次電池用の電極を構成する導電助剤として有用である。
上記のようにして製造される極細炭素繊維は、実質的に分岐構造を有さない直線構造であって、かつ、10~900nm、好ましくは100~600nmの平均繊維径を有する。ここで、分岐構造を実質的に有さないとは、分岐度が0.01個/μm以下であることをいう。分岐度が0.01個/μmを超える分岐状の炭素繊維としては、昭和電工(株)製のカーボンナノファイバーVGCF(登録商標)が知られている。
極細炭素繊維の平均繊維長(L)と平均繊維径(D)との比(アスペクト比L/D)は30以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。比(L/D)を30以上とすることにより、電極内において導電パスが効率的に形成され、得られる電池のサイクル特性を高くすることができる。30未満の場合、電極内において導電パスの形成が不十分になり易く、電極の膜厚方向の抵抗値が十分に低下しない場合がある。比(L/D)の上限値は特に限定されないが、一般に10000以下であり、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましい。
なお、この極細炭素繊維は、全体として繊維状の形態を有していればよく、例えば、上記アスペクト比の好ましい範囲未満のものが接触したり結合したりして一体的に繊維形状を持っているもの(例えば、球状炭素が数珠状に連なっているもの、極めて短い少なくとも1本または複数本の繊維が融着等によりつながっているものなど)も含む。
極細炭素繊維は、X線回折法により測定した(002)面の平均面間隔d002が、0.335~0.350nmの範囲である。極細炭素繊維の結晶性が非常に高いので、電気伝導性や熱伝導性に優れている。
上記のようにして製造される極細炭素繊維は、残炭が生じ難い。具体的には、残炭率が極細炭素繊維の質量に対してまたは安定化繊維の質量に対して0.1質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以下である。
上記のようにして製造される極細炭素繊維を導電助剤として用いる場合は、単独で用いてもよく、アセチレンブラック等の公知の導電助剤とを併用して複合化したもの等であってもよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例中の各種測定や分析は、それぞれ以下の方法に従って行った。
(1)メソフェーズピッチ含有単繊維の化学構造の確認
フーリエ変換赤外分光光度計(Thermo Fisher Scientific製 Magna-750)を用いて透過率の測定を行った。
繊維を1mg秤量し、臭化カリウム200mgと混合して錠剤化したものを測定サンプルとして使用した。
(2)元素分析
各元素について以下のように測定を行った。
(2-1)N、C、H
元素分析計酸素循環燃焼・TCD検出方式にて測定を行った。(住化分析センター製、スミグラフ NCH-22F型)
(2-2)O
不活性ガス中インパルス加熱・融解-NDIR検出方式にて測定を行った。(堀場製作所製、EMGA-920)
(3)形態観察
透過電子顕微鏡(日本電子製、JEM-2100F)にて加速電圧120kVの条件下で観察を行った。また、観察像の原子のマッピングについては付帯のEDSを用いて測定を行った。
(4)安定化繊維及び極細炭素繊維の形状の確認
走査型電子顕微鏡(日本電子製製 JCM-6000)にて用いて加速電圧10kVの条件で観察を行った。
炭素繊維等の平均繊維径は、得られた電子顕微鏡写真から無作為に300箇所を選択して繊維径を測定し、それらすべての測定結果(n=300)の平均値を平均繊維径とした。平均繊維長についても同様に算出した。
(5)炭素繊維のX線回折測定
X線回折測定はリガク社製RINT-2100を用いてJIS R7651法に準拠し、格子面間隔(d002)を測定した。
(6)安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の融着箇所の確認
繊維と繊維との融着箇所は、目視でカウントした。
(7)開繊幅
繊維束を25cmに切断し、繊維束の長さ方向および幅方向の中央部をフックに吊るし、さらにフックに吊るされていない中央部に10gの重りをかけた際の繊維束の拡がり幅を測定した(図4参照)。
[参考例1](メソフェーズピッチの製造方法)
キノリン不溶分を除去した軟化点80℃のコールタールピッチを、Ni-Mo系触媒存在下、圧力13MPa、温度340℃で水添し、水素化コールタールピッチを得た。この水素化コールタールピッチを常圧下、480℃で熱処理した後、減圧して低沸点分を除き、メソフェーズピッチを得た。このメソフェーズピッチを、フィルターを用いて温度340℃でろ過を行い、ピッチ中の異物を取り除き、精製されたメソフェーズピッチを得た。
[実施例1](メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法1)
熱可塑性樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン(Evolue(登録商標)SP1510、プライムポリマー製、MFR=1g/10min)80質量部、及び参考例1で得られたメソフェーズピッチ(メソフェーズ率90.9%、軟化点303.5℃)20質量部を同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」、バレル温度300℃、窒素気流下)で溶融混練してメソフェーズピッチ組成物を調製した。ここで、メソフェーズピッチのポリエチレン中の平均分散径は1.95μmであった。平均分散径は、メソフェーズピッチ組成物を蛍光顕微鏡で観察し、蛍光顕微鏡写真から無作為に200箇所を選択して分散径を測定し、それらすべての測定結果(n=200)の平均値を平均分散径とした。
上記メソフェーズピッチ組成物を、340℃の紡糸口金より紡糸し、520本の繊維からなる繊維の束を6.5m/minの速度で引き取る際にメソフェーズピッチ繊維束近傍の温度が150℃になるように50L/minの加熱した空気を2か所から吹き付けることにより、繊維同士を熱融着させ、メソフェーズピッチ含有繊維束(メソフェーズピッチ繊維を島成分とする海島型複合繊維)を作製した。この繊維の単糸平均繊維径は110μmであり、この繊維からなる繊維束の幅は15mmであった。この繊維束を図3のように幅方向に広げて融着箇所を数えた。繊維束の長さ100mm当たり、平均152カ所の融着点を有していた。また、熱融着の強さについては、質量100gの重りを繊維束の上に載置した際に、繊維束の拡幅は6.8%であった。開繊幅は120mmであった。このメソフェーズピッチ含有繊維束を元素分析法で測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.011であり、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)が0.006であった。
[実施例2](メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法2)
直鎖状低密度ポリエチレンを60質量部、メソフェーズピッチを40質量部とし、520本の繊維からなる繊維の束を42.5m/minの速度で引き取る際にメソフェーズピッチ繊維束近傍の温度が300℃になるように、加熱した空気を50L/minで4か所から吹き付けた以外は実施例1と同様にメソフェーズピッチ含有繊維を作成した。この繊維の単糸平均繊維径は90μmであり、この繊維からなる繊維束の幅は10mmであり、100mm以内に融着することで集束されていた。繊維束の長さ100mm当たり、平均125カ所の融着点を有していた。開繊幅は50mmであった(図4参照)。このメソフェーズピッチ含有繊維を元素分析法で測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.012であり、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)が0.006であった。
[比較例1](メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法3)
紡糸口金から得られた繊維束を加熱融着させなかったこと以外は実施例2と同様に繊維束を作成した。繊維束は融着点を有していなかった。この繊維束は融着がないため幅が30mmを超える部分も多数あった。開繊幅は160mmであった(図5参照)。このメソフェーズピッチ含有繊維を元素分析法で測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.012であり、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)が0.006であった。
[実施例3] 実施例2で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束0.1kgを用い、循環方式により、温度100℃、反応性ガスにおける二酸化窒素と酸素とのモル比(NO/O)を0.61とし、100分間かけて反応させた。二酸化窒素と酸素との流通速度は0.4m/sとした。これにより、メソフェーズピッチを安定化させ、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得た。この繊維束はばらけたりせず、この安定化工程前の帯状形状を維持しており、開繊幅は50mmであった。この安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を元素分析法にて測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.087、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)は0.026であった。また、図6に赤外分光法で測定したスペクトルを示した。1525cm-1付近に安定化前には存在していなかったNO伸縮由来のピークが発現していることが確認された。NO伸縮由来のピークの強度は、1470cm-1付近に観測されるCH変角振動のピークと同等であった。即ち、ピーク強度比(NO/CH)は1.0であった。
次に、上記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を、真空ガス置換炉中で窒素置換を行った後に1kPaまで減圧し、該減圧状態下で、5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持することにより、熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得た。
ついで、この安定化繊維を窒素雰囲気下、1000℃で30分間保持して炭素化し、さらにアルゴンの雰囲気下、1750℃に加熱し30分間保持して黒鉛化した。得られた極細炭素繊維の平均繊維径は350nm、平均繊維長は12μm、結晶性の程度を示すd002は0.3433nmであった。
[実施例4] 実施例2で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束5.06kgを用いて、温度100℃、反応性ガスにおける二酸化窒素と酸素とのモル比(NO/O)を0.62とし、100分間かけて反応させた(その他の条件は実施例3と同一である)。これにより、メソフェーズピッチを安定化させ、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得た。この繊維束はばらけたりせず、この安定化工程前の帯状形状を維持しており、開繊幅は50mmであった。この安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を元素分析法にて測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.080、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)は0.024であった。また、赤外分光法で測定したところ、1525cm-1付近に安定化前には存在していなかったNO伸縮由来のピークが発現していることが確認された。NO伸縮由来のピークの強度は、1470cm-1付近に観測されるCH変角振動のピークの0.95倍であった。即ち、ピーク強度比(NO/CH)は0.95であった。
[比較例2]
比較例1で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束5.04kgを用いて、温度100℃、反応性ガスにおける二酸化窒素と酸素とのモル比(NO/O)を0.59とし、100分間かけて反応させた(その他の条件は実施例3と同一である)。この際、反応熱の制御ができずにポリエチレンが溶解してしまい繊維束として取り扱うことができなかった。また、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を元素分析法にて測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.038であり、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)は0.015であった。
[実施例5] 実施例2で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束0.1kgを用いて、温度80℃、反応性ガスにおける二酸化窒素と酸素とのモル比(NO/O)を0.36とし、100分間かけて反応させた(その他の条件は実施例3と同一である)。これにより、メソフェーズピッチを安定化させ、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得た。この繊維束はばらけたりせず、この安定化工程前の帯状形状を維持しており、開繊幅は50mmであった。この安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を元素分析法にて測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.043であり、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)は0.017であった。また、赤外分光法で測定したところ、1525cm-1付近に安定化前には存在していなかったNO伸縮由来のピークが発現していることが確認された。NO伸縮由来のピークの強度は、1470cm-1付近に観測されるCH変角振動のピークの0.99倍であった。即ち、ピーク強度比(NO/CH)は0.99であった。
[実施例6] 実施例1で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束0.1kgを用いて、実施例3と同様に反応させた。この繊維束はばらけたりせず、この安定化工程前の帯状形状を維持しており、開繊幅は120mmであった。この安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を元素分析法にて測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.043であり、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)は0.016であった。また、赤外分光法で測定したところ、1525cm-1付近に安定化前には存在していなかったNO伸縮由来のピークが発現していることが確認された。NO伸縮由来のピークの強度は、1470cm-1付近に観測されるCH変角振動のピークの0.7倍であった。即ち、ピーク強度比(NO/CH)は0.7であった。
加えて、透過電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分光装置を用いて安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の断面の元素分析を行った。図7は、窒素原子を対象にマッピングした図であり、図8は、酸素原子を対象にマッピングした図である。図中、白色部分が窒素原子又は酸素原子が存在している場所である。この測定結果によれば、メソフェーズピッチ含有繊維束中のメソフェーズピッチ中のみに窒素及び酸素原子が存在していることが示された。即ち、安定化処理は、メソフェーズピッチのみを対象として施されており、より融点が高い熱可塑性樹脂に対して安定化処理は施されなかった(即ち、安定化工程において、熱可塑性樹脂の融点を超えることがなかった)ことを裏付けている。
[実施例7]
実施例1で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束2.5kgを反応容器に仕込み、室温下、反応性ガスにおける二酸化窒素と酸素とのモル比(NO/O)を0.74とし、300分間かけて導入した。これにより、メソフェーズピッチを安定化させ、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得た。この繊維束はばらけたりせず、この安定化工程前の帯状形状を維持しており、開繊幅は120mmであった。このメソフェーズピッチ含有繊維束を元素分析法にて測定した時の酸素Oと炭素Cの元素組成比(O/C)は0.053であり、窒素Nと炭素Cの元素組成比(N/C)は0.022であった。また、赤外分光法で測定したところ、1525cm-1付近に安定化前には存在していなかったNO伸縮由来のピークが発現していることが確認された。NO伸縮由来のピークの強度は、1470cm-1付近に観測されるCH変角振動のピークの0.74倍であった。即ち、ピーク強度比(NO/CH)は0.74であった。
10・・・安定化装置
11・・・反応容器
11a・・・ガス導入口
11b・・・ガス導出口
13・・・ガス循環管
15・・・熱交換器
17・・・送風機
19・・・ガス供給口
21・・・ガス排出口
23・・・樹脂複合繊維

Claims (8)

  1. メソフェーズピッチと、
    前記メソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂と、
    を含有して成り、前記メソフェーズピッチを島成分とし、前記熱可塑性樹脂を海成分とする海島構造を有するメソフェーズピッチ含有単繊維が複数本集束して成るメソフェーズピッチ含有繊維束であって、
    前記メソフェーズピッチ含有単繊維の平均繊維径が10~200μmであり、
    前記メソフェーズピッチ含有繊維束の幅が5~50mmであり、
    前記メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する前記メソフェーズピッチ含有単繊維の一部が前記熱可塑性樹脂の溶融によって互いに熱融着しており、
    長さ25cmの前記メソフェーズピッチ含有繊維束の中央部であって、前記メソフェーズピッチ含有繊維束の前記幅方向に10gの荷重をかけた際の開繊幅が30~120mmであることを特徴とするメソフェーズピッチ含有繊維束。
  2. 前記メソフェーズピッチ含有繊維束を構成するメソフェーズピッチ含有単繊維の本数が100~3000本である請求項1に記載のメソフェーズピッチ含有繊維束。
  3. 請求項1又は2に記載のメソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法であって、
    (1)熱可塑性樹脂100質量部とメソフェーズピッチ1~150質量部とからなる組成物を溶融状態で紡糸することにより前記メソフェーズピッチを繊維化して、前記メソフェーズピッチを島成分とし、前記熱可塑性樹脂を海成分とする海島構造を有するメソフェーズピッチ含有単繊維を得る繊維化工程と、
    (2)前記メソフェーズピッチ含有単繊維を熱処理して前記メソフェーズピッチ含有単繊維の一部を互いに熱融着する熱融着工程と、
    を有することを特徴とするメソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法。
  4. 安定化メソフェーズピッチと、
    前記安定化メソフェーズピッチを被覆する熱可塑性樹脂と、
    を含有して成り、前記安定化メソフェーズピッチを島成分とし、前記熱可塑性樹脂を海成分とする海島構造を有する安定化メソフェーズピッチ含有単繊維が複数本集束して成る安定化メソフェーズピッチ含有繊維束であって、
    前記安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の平均繊維径が10~200μmであり、
    前記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の幅が5~50mmであり、
    前記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する前記安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の一部が前記熱可塑性樹脂の溶融によって互いに熱融着しており、
    長さ25cmの前記メソフェーズピッチ含有繊維束の中央部であって、前記メソフェーズピッチ含有繊維束の前記幅方向に10gの荷重をかけた際の開繊幅が30~120mmであり、
    前記安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の元素分析法で測定される酸素元素と炭素元素の元素組成比(O/C)が0.04以上であり、窒素元素と炭素元素の元素組成比(N/C)が0.016以上であることを特徴とする安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
  5. 前記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を構成する安定化メソフェーズピッチ含有単繊維の本数が100~3000本である請求項4に記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
  6. 前記安定化メソフェーズピッチ含有単繊維が、赤外分光法による測定で波数1525±50cm-1にNO伸縮振動に起因するピークが検出されるものである請求項4又は5に記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
  7. 前記安定化メソフェーズピッチの含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して1~150質量部である請求項4~6の何れか1項に記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束。
  8. 請求項4~7の何れか1項に記載の安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法であって、
    (1)熱可塑性樹脂100質量部とメソフェーズピッチ1~150質量部とからなる組成物を溶融状態で紡糸することにより前記メソフェーズピッチを繊維化して、前記メソフェーズピッチを島成分とし、前記熱可塑性樹脂を海成分とする海島構造を有するメソフェーズピッチ含有単繊維を得る繊維化工程と、
    (2)前記メソフェーズピッチ含有単繊維を熱処理して前記メソフェーズピッチ含有単繊維の一部を互いに熱融着してメソフェーズピッチ含有繊維束を得る熱融着工程と、
    (3)酸素と二酸化窒素とのモル比(NO/O)が0.2~0.9である反応性ガスと、前記メソフェーズピッチ含有繊維束と、を接触させて安定化する安定化工程と、
    を有することを特徴とする安定化メソフェーズピッチ含有繊維束の製造方法。
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